(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-13
(45)【発行日】2025-06-23
(54)【発明の名称】燃料サンプリングシステム
(51)【国際特許分類】
F02M 37/08 20060101AFI20250616BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250616BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
F02M37/08 J
F02D45/00 345
E02F9/00 D
(21)【出願番号】P 2022031788
(22)【出願日】2022-03-02
【審査請求日】2024-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 大輔
【審査官】横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-075269(JP,A)
【文献】特開昭63-201359(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015213322(DE,A1)
【文献】特開2008-008234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/08
F02D 43/00-45/00
E02F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクから内燃機関に燃料を供給する供給ラインおよび前記内燃機関から前記燃料タンクへ余剰の燃料を返戻させるリターンラインを含む燃料回路と、
前記供給ラインに前記燃料タンクと前記内燃機関との間に位置して設けられ、前記内燃機関に供給される燃料をろ過する燃料フィルタと、
前記供給ラインに前記燃料フィルタと前記内燃機関との間に位置して設けられ、前記内燃機関に供給される燃料の一部を燃料サンプルとして燃料格納容器に採取する燃料サンプリング装置と、
前記供給ライン上で発生する異常を検出する異常検出装置と、
前記内燃機関への燃料供給を制御するとともに前記燃料サンプリング装置による燃料サンプルの採取を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、燃料供給時、前記異常検出装置により異常が検出されると、前記燃料サンプリング装置による燃料サンプルの採取を開始し、前記燃料格納容器に採取した燃料サンプルが所定量に達すると燃料サンプルの採取を停止する、
ことを特徴とする燃料サンプリングシステム。
【請求項2】
前記供給ラインに前記燃料タンクと前記燃料フィルタとの間に位置して設けられ、前記燃料タンクの燃料を前記内燃機関に圧送する燃料ポンプと、
前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置と、
前記燃料ポンプにより前記内燃機関に圧送される燃料の温度を検出する温度センサと、前記燃料ポンプにより前記内燃機関に圧送される燃料の圧力を検出する圧力センサとを備え、
前記異常検出装置は、前記燃料ポンプの異常、前記燃料フィルタの異常、前記燃料噴射装置の異常、前記温度センサにより検出される燃料の温度の異常及び前記圧力センサにより検出される燃料の圧力の異常の少なくともいずれか一つを検出する、
ことを特徴とする請求項1記載の燃料サンプリングシステム。
【請求項3】
前記供給ラインに前記燃料サンプリング装置と前記内燃機関との間に位置して設けられ、前記供給ラインを流れる燃料の圧力が予め設定された所定圧力以上のときに燃料の一部を蓄積する一方、前記供給ラインを流れる燃料の圧力が低下すると前記蓄積した燃料を前記供給ラインに放出するアキュムレータを備える、
ことを特徴とする請求項1記載の燃料サンプリングシステム。
【請求項4】
前記燃料格納容器は複数からなり、
前記制御装置は、前記異常検出装置により異常が検出される毎に、複数の前記燃料格納容器のうち空いた容器の一つに燃料サンプルの採取を開始し、該容器へ採取した燃料サンプルが所定量に達すると、該容器への燃料サンプルの採取を停止するとともに燃料サンプルを採取した日時を記憶し、複数の前記燃料格納容器の全てに燃料サンプルが採取されると、燃料サンプルの採取を終了する、
ことを特徴とする請求項1記載の燃料サンプリングシステム。
【請求項5】
前記燃料サンプリング装置は、施錠装置を有した保管庫を含み、
前記燃料格納容器は、前記保管庫に保管されてなる、
ことを特徴とする請求項1記載の燃料サンプリングシステム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記内燃機関への燃料の供給を停止したとき、前記燃料格納容器に採取した燃料サンプルの保管状態に関する情報を記憶しておき、次回、前記内燃機関への燃料の供給を行う際、燃料サンプルの実際の保管状態に関する情報と前記記憶した情報との照合を行い、該照合により互いの情報が一致しないとき、前記内燃機関への燃料の供給を禁止する、
ことを特徴とする請求項1記載の燃料サンプリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料サンプリングシステムに係り、内燃機関に供給する燃料の一部をサンプルとして採取し保管する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、建設機械である油圧ショベルにおいて、内燃機関であるディーゼルエンジンを備え、当該ディーゼルエンジンへ供給する燃料の供給回路に燃料の一部を採取することの可能な使用燃料サンプリング装置を設けることが知られている(特許文献1)。当該使用燃料サンプリング装置によれば、ディーゼルエンジンの作動中に燃料の一部を定期的に採取することで、使用している燃料の品質を適宜確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプ等の燃料系機器類の精密化が進んでおり、使用している燃料のサンプルを採取し、当該燃料系機器類の不具合原因となり得る燃料中の成分の有無を分析するプロセスが不可欠となっている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示される使用燃料サンプリング装置のように、燃料の一部を定期的に採取するような構成では、機器類に不具合が発生していないときであっても燃料の一部をサンプルとして採取しており、不要なサンプルが多く、サンプルとしての適性を欠くという問題がある。また、上記特許文献1に開示される使用燃料サンプリング装置の場合、フィルタの上流側で燃料の一部をサンプルとして採取しており、このような構成では、例えば燃料噴射ポンプに不具合が生じた場合に、フィルタを通った後の不具合原因となり得る燃料中の成分を正しく分析することができず、やはりサンプルとしての適性を欠くという問題がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内燃機関の燃料系機器類の不具合原因となる燃料中の成分を分析するにあたり、適正な燃料のサンプルを採取可能な燃料サンプリングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の燃料サンプリングシステムは、燃料タンクから内燃機関に燃料を供給する供給ラインおよび前記内燃機関から前記燃料タンクへ余剰の燃料を返戻させるリターンラインを含む燃料回路と、前記供給ラインに前記燃料タンクと前記内燃機関との間に位置して設けられ、前記内燃機関に供給される燃料をろ過する燃料フィルタと、前記供給ラインに前記燃料フィルタと前記内燃機関との間に位置して設けられ、前記内燃機関に供給される燃料の一部を燃料サンプルとして燃料格納容器に採取する燃料サンプリング装置と、前記供給ライン上で発生する異常を検出する異常検出装置と、前記内燃機関への燃料供給を制御するとともに前記燃料サンプリング装置による燃料サンプルの採取を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、燃料供給時、前記異常検出装置により異常が検出されると、前記燃料サンプリング装置による燃料サンプルの採取を開始し、前記燃料格納容器に採取した燃料サンプルが所定量に達すると燃料サンプルの採取を停止する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の燃料サンプリングシステムは、燃料サンプルを採取する燃料サンプリング装置が燃料フィルタと内燃機関との間に配置されるため、内燃機関へ供給される直前の燃料を採取することができる。それにより、燃料ポンプや燃料フィルタを通過した後の不具合原因となり得る燃料中の成分を正しく分析することが可能な燃料サンプルを得ることができる。また、供給ライン上で発生する異常を検出したときに燃料サンプルを採取するため、不要なタイミングで燃料サンプルを採取することがなくなる。したがって、本発明の燃料サンプリングシステムによれば、内燃機関の燃料系機器類の不具合原因となる燃料中の成分を分析するにあたり、適正な燃料のサンプルを採取可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】燃料サンプリング装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】ロータリーバルブを模式的に示す説明図である。
【
図4】燃料サンプル採取の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】エンジンへの燃料供給の許可判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】キーオフ時に実行される運転停止の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
(燃料供給装置)
図1は、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置の一例を示す概略構成図である。
図1に示す燃料供給装置1は、例えば油圧ショベル、ホイールローダ、ブルドーザー、ロードローラーといった建設機械に搭載され、建設機械の駆動源としてのエンジン(内燃機関)100に燃料を供給するための装置である。燃料供給装置1は、エンジン100に供給される燃料の一部を燃料サンプルとして採取する燃料サンプリングシステムとしても機能するものである。燃料供給装置1は、燃料回路Lと、燃料タンク2と、燃料プレフィルタ3と、燃料ポンプ4と、燃料フィルタ5と、燃料サンプリング装置6と、アキュムレータ7と、高圧燃料ポンプ8と、コモンレール9と、燃料噴射装置10と、温度センサ11と、圧力センサ12と、燃料クーラー13と、制御装置20と、報知装置30と、外部装置40とを備える。
【0012】
(燃料回路)
燃料回路Lは、燃料が流通する流通路であり、供給ラインL1と、第1リターンライン(リターンライン)L2と、第2リターンラインL3とを含む。供給ラインL1は、
図1に太い実線矢印で示すように、燃料タンク2からエンジン100に燃料を供給するラインである。本実施形態では、供給ラインL1は、エンジン100に搭載された高圧燃料ポンプ8及びコモンレール9を介して燃料噴射装置10から燃料を噴射するまでのラインとする。言い換えると、高圧燃料ポンプ8、コモンレール9及び燃料噴射装置10も供給ラインL1に配置された装置とする。第1リターンラインL2は、
図1に細い実線矢印で示すように、エンジン100のコモンレール9から燃料タンク2へ余剰の燃料を返戻させるラインである。また、第2リターンラインL3は、
図1に細い実線矢印で示すように、供給ラインL1に配置された各種装置から燃料タンク2へ余剰の燃料を返戻させるラインである。
【0013】
(燃料タンク)
燃料タンク2は、燃料を貯留することが可能な貯留装置である。本実施形態では、エンジン100は、ディーゼルエンジンであり、燃料タンク2に貯留される燃料は、軽油である。燃料タンク2には、燃料を内部に供給するための給油口2aが設けられている。また、燃料タンク2には、供給ラインL1、第1リターンラインL2及び第2リターンラインL3がそれぞれ接続されている。
【0014】
(燃料回路に配置される各種装置)
燃料回路Lに配置される各種装置について説明する。まず、供給ラインL1には、燃料タンク2とエンジン100との間に、燃料プレフィルタ3、燃料ポンプ4、燃料フィルタ5、燃料サンプリング装置6、アキュムレータ7がこの順番で配置され、さらに、高圧燃料ポンプ8、コモンレール9及び燃料噴射装置10が配置されている。上述したように、高圧燃料ポンプ8、コモンレール9及び燃料噴射装置10は、エンジン100に搭載された装置でもある。したがって、「燃料タンク2とエンジン100との間」とは、燃料タンク2から高圧燃料ポンプ8までの間を意味するものとする。
【0015】
燃料プレフィルタ3は、供給ラインL1を介して燃料タンク2と接続される。また、燃料プレフィルタ3は、第2リターンラインL3に含まれるラインL31を介して燃料タンク2に接続されており、余剰燃料を燃料タンク2に返戻することができる。燃料プレフィルタ3は、エンジン100に供給される燃料を濾過して燃料中の異物を捕捉する。
【0016】
燃料ポンプ4は、供給ラインL1に燃料タンク2と燃料フィルタ5との間に位置して設けられる。より詳細には、燃料ポンプ4は、供給ラインL1を介して燃料プレフィルタ3と燃料フィルタ5とに接続される。また、燃料ポンプ4は、第2リターンラインL3に含まれるラインL31、L32を介して燃料タンク2に接続されており、余剰燃料が燃料タンク2に返戻される。燃料ポンプ4は、建設機械に搭載された図示しない電動モータにより駆動され、供給ラインL1を介して燃料タンク2に貯留される燃料をエンジン100に圧送する。燃料ポンプ4は、制御装置20により駆動制御される。
【0017】
燃料フィルタ5は、供給ラインL1に燃料タンク2とエンジン100との間に位置して設けられる。より詳細には、燃料フィルタ5は、供給ラインL1を介して燃料ポンプ4と高圧燃料ポンプ8とに接続される。また、燃料フィルタ5は、第2リターンラインL3に含まれるラインL31、L33を介して燃料タンク2に接続されており、余剰燃料が燃料タンク2に返戻される。燃料フィルタ5は、エンジン100に供給される燃料をさらに濾過して燃料中の異物を捕捉する。また、燃料フィルタ5は、燃料に含まれる水を分離する装置及び分離した水を貯めるタンクを備えている。
【0018】
燃料サンプリング装置6は、供給ラインL1に燃料フィルタ5とエンジン100との間に位置して設けられる。より詳細には、燃料サンプリング装置6は、燃料フィルタ5と高圧燃料ポンプ8との間の供給ラインL1に接続されている。燃料サンプリング装置6は、燃料フィルタ5で濾過された後の燃料の一部を供給ラインL1から分岐させて、エンジン100に供給される燃料の一部を燃料サンプルとして燃料格納容器63(
図2及び
図3参照)に採取する。燃料サンプリング装置6の構成及び機能の詳細については、後述する。
【0019】
アキュムレータ7は、供給ラインL1に燃料サンプリング装置6とエンジン100との間に位置して設けられる。より詳細には、アキュムレータ7は、燃料サンプリング装置6よりもエンジン100側で、燃料フィルタ5と高圧燃料ポンプ8との間の供給ラインL1に接続されている。アキュムレータ7は、供給ラインL1を流れる燃料の圧力が予め設定された所定圧力以上のときに燃料の一部を蓄積する一方、供給ラインL1を流れる燃料の圧力が所定圧力よりも低下すると蓄積した燃料を供給ラインL1に放出する。すなわち、アキュムレータ7は、供給ラインL1を流れる燃料を作動液として機能する蓄圧装置である。
【0020】
高圧燃料ポンプ8は、エンジン100に搭載され、燃料フィルタ5と供給ラインL1を介して接続される。高圧燃料ポンプ8は、エンジン100の動力により駆動され、燃料フィルタ5で濾過された燃料をコモンレール9に高圧で圧送する。コモンレール9は、高圧燃料ポンプ8と供給ラインL1を介して接続され、高圧燃料ポンプ8から圧送された燃料をエンジン100の各気筒内へと分配すると共に、余剰燃料を第1リターンラインL2へと送る。燃料噴射装置10は、コモンレール9と供給ラインL1を介して接続され、エンジン100の各気筒内の燃焼室に燃料を噴射するインジェクタである。
【0021】
また、供給ラインL1には、温度センサ11及び圧力センサ12が配置されている。温度センサ11は、燃料ポンプ4によりエンジン100に圧送されて供給ラインL1を流れる燃料の温度を検出し、検出結果を制御装置20へと送る。圧力センサ12は、燃料ポンプ4によりエンジン100に圧送されて供給ラインL1を流れる燃料の圧力を検出し、検出結果を制御装置20へと送る。なお、
図1に示す例では、温度センサ11及び圧力センサ12を燃料サンプリング装置6と高圧燃料ポンプ8との間の供給ラインL1に接続されるものとしたが、供給ラインL1のいずれかに接続されればよい。
【0022】
また、燃料回路Lのうち、第1リターンラインL2には、燃料クーラー13が配置されている。燃料クーラー13は、エンジン100のコモンレール9を介して燃料タンク2へと返戻される燃料を冷却する。
【0023】
(制御装置)
制御装置20は、エンジン100を制御するエンジンコントローラ21と、燃料供給装置1及び図示しない建設機械全体を制御するマシンコントローラ22とを備えている。エンジンコントローラ21とマシンコントローラ22とは、CAN(Controller Area Network)により接続されており、互いにデータをやり取りすることができる。エンジンコントローラ21及びマシンコントローラ22は、各種の演算処理を行う中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)と、各種の制御プログラム及び各種のデータを記憶する記憶装置とを有する。記憶装置は、例えばハードディスクドライブ(HDD:hard Disk Drive)といったストレージであってもよいし、例えばRAM(Random Access Memory)といった一時的な記憶領域としてのメモリであってもよい。
【0024】
エンジンコントローラ21は、高圧燃料ポンプ8の駆動制御及び燃料噴射装置10による燃料噴射制御といったエンジン100の駆動制御に必要な制御を実行する。マシンコントローラ22は、例えば建設機械の走行制御、作業アタッチメントの駆動制御等を実行する。また、マシンコントローラ22は、燃料供給装置1の燃料ポンプ4を駆動制御して、燃料タンク2に貯留された燃料をエンジン100へと供給させる。また、マシンコントローラ22は、後述する燃料サンプリング装置6による燃料サンプルの採取のための処理を制御する。その際、マシンコントローラ22は、燃料供給装置1の供給ラインL1上で発生する異常を検出する異常検出装置としても機能する。さらに、マシンコントローラ22は、燃料サンプリング装置6内に保管された燃料サンプルに関する情報に基づいて、後述する建設機械のキーオン時の処理及びキーオフ時の処理を実行する。
【0025】
(他の装置)
報知装置30は、後述する燃料サンプリング装置6による燃料サンプルの採取を終了したことを報知するための装置であり、マシンコントローラ22により制御される。報知装置30は、例えば建設機械の運転室に設けられた表示装置、インジケーターランプ、警報音を発生させる警報装置などである。また、報知装置30は、運転室内のオペレータに限らず、オペレータ以外の外部の人間、例えば、燃料サンプルの回収、分析といった作業を担当する担当者に情報を報知するものであってもよい。
【0026】
外部装置40は、燃料サンプリング装置6内に保管された燃料サンプルに関する情報に基づいて、後述するエンジン100のキーオン時の処理を実行するときに、エンジン100の燃料供給が禁止された場合に、その情報を閲覧したり、禁止解除の指示を行ったりするための装置である。外部装置40は、建設機械とは離れた場所に設けられ、マシンコントローラ22と通信により情報をやり取りする。外部装置40は、燃料サンプルの回収、分析といった作業を担当する担当者が扱うものであり、例えば、パーソナルコンピュータである。
【0027】
(燃料サンプリング装置の構成)
以上のように構成された燃料供給装置1において、ディーゼルエンジンであるエンジン100の高圧燃料ポンプ8や燃料噴射装置10といった燃料系機器類は、その精密化が進んでいる。そのため、使用している燃料のサンプルを採取し、当該燃料系機器類の不具合原因となり得る燃料中の成分の有無を分析するプロセスが不可欠となっている。そこで、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1は、燃料をサンプリングするための燃料サンプリング装置6を備えている。以下、燃料供給装置1の要部として、燃料サンプリング装置6について詳細に説明する。
図2は、燃料サンプリング装置の一例を示す概略構成図である。
【0028】
図2に示すように、燃料サンプリング装置6は、分岐通路L4と、保管庫61と、一流路多方ロータリーバルブ62と、複数の燃料格納容器63と、開閉弁64と、施錠装置65とを備えている。以下の説明では、一流路多方ロータリーバルブ62を単に「ロータリーバルブ62」と称する。
【0029】
保管庫61は、採取した燃料サンプルを安全に保管しておくための筐体である。保管庫61内には、ロータリーバルブ62および複数の燃料格納容器63が格納されている。また、保管庫61には、供給ラインL1から分岐する分岐通路L4が挿通されると共に、複数の燃料格納容器63内に燃料サンプルを採取する際に必要となる空気抜き流路61aが挿通される。なお、
図2では記載を省略するが、空気抜き流路61aは、複数の燃料格納容器63から個別に空気を抜くことができるように設けられている。そして、保管庫61から複数の燃料格納容器63を取り出すための開口部には、施錠装置65が設けられている。施錠装置65は、電子制御式の施錠装置であり、マシンコントローラ22と接続されており、外部から対応する電子キーの情報を読み取ることで、マシンコントローラ22が施錠装置65を開錠する。
【0030】
分岐通路L4は、燃料フィルタ5とエンジン100との間で供給ラインL1から複数の燃料格納容器63に向けて分岐し、燃料が流通する流路である。分岐通路L4は、供給ラインL1とは反対側でロータリーバルブ62の流入口62a(
図3参照)に接続されている。開閉弁64は、分岐通路L4に介装され、供給ラインL1と分岐通路L4との連通を開閉する電磁弁である。開閉弁64は、マシンコントローラ22により開閉制御される。
【0031】
図3は、ロータリーバルブを模式的に示す説明図である。ロータリーバルブ62は、流入口62aと、複数の流出口62bとを有し、
図3に実線矢印で示すように、ローターを回転させることで、多方からなる複数の流出口62bのいずれか一つと流入口62aとを連通させるべく連通位置を切り替える。なお、
図3では、流出口62bが6個の例を記載しているが、流出口62bの数は、これに限られない。ロータリーバルブ62のローターの回転は、マシンコントローラ22により制御される。
【0032】
複数の燃料格納容器63は、ロータリーバルブ62の複数の流出口62bにそれぞれ対応して接続されている。すなわち、流出口62bには、燃料格納容器63が一つずつ接続されている。それにより、供給ラインL1から分岐された燃料は、分岐通路L4から流入口62aを介して複数の流出口62bのいずれか一つに流れ、各燃料格納容器63のいずれかに一つに燃料サンプルとして採取されて格納される。燃料格納容器63には、内部の燃料の重量を検出する重量センサ66が設けられており、検出結果がマシンコントローラ22に送られる。なお、
図2では、重量センサ66を一つのみ記載しているが、全ての燃料格納容器63に取り付けられている。
【0033】
(燃料サンプル採取の処理)
次に、燃料サンプリング装置6による燃料サンプル採取の処理について、
図4を参照しながら説明する。
図4は、燃料サンプル採取の処理の一例を示すフローチャートである。
図4に示す処理は、燃料供給装置1により燃料タンク2からエンジン100へと燃料が供給されている燃料供給時において、マシンコントローラ22により実行される。なお、ここでは、説明の簡略化のため、全て空の燃料格納容器63がセッティングされた状態で、本処理が開始されるものとする。
【0034】
マシンコントローラ22は、まず、キーオンと同時に燃料サンプリング装置6の開閉弁64を閉弁しておく(ステップS10)。次に、マシンコントローラ22は、供給ラインL1上で発生する異常を検出したか否かを判定する(ステップS20)。上述したように、マシンコントローラ22は、燃料供給装置1の供給ラインL1上で発生する異常を検出する異常検出装置としても機能する。本実施形態において、「供給ラインL1で異常が発生する」とは、供給ラインL1上に配置された各種装置で異常が発生することを含むものとする。
【0035】
具体的には、マシンコントローラ22は、例えば、図示しないセンサから燃料プレフィルタ3及び燃料フィルタ5の前後における燃料の圧力差を取得し、取得した圧力差に基づいて、燃料プレフィルタ3及び燃料フィルタ5の目詰まりの異常を検出する。また、マシンコントローラ22は、例えば、図示しないセンサから燃料フィルタ5のタンクの水量を取得し、水量が過多であるときに燃料タンク2内に水が混入している異常を検出する。また、マシンコントローラ22は、例えば、図示しないセンサから燃料ポンプ4の出力量を取得し、取得した出力量に基づいて燃料ポンプ4の出力異常を検出する。また、マシンコントローラ22は、温度センサ11により検出される燃料の温度が所定温度以上であるとき、燃料の温度が異常であると検出する。また、マシンコントローラ22は、圧力センサ12により検出される燃料の圧力が所定圧力以上であるとき、燃料の圧力が異常であると検出する。さらに、マシンコントローラ22は、エンジンコントローラ21から、例えば図示しないセンサからの信号に基づく高圧燃料ポンプ8の出力異常、燃料噴射装置10の出力異常といった情報を取得し、高圧燃料ポンプ8及び燃料噴射装置10の異常を検出する。
【0036】
マシンコントローラ22は、供給ラインL1上で発生する異常を検出していないと判定したとき(ステップS12でNo)、開閉弁64を閉弁している現在の状態を維持する。一方、マシンコントローラ22は、供給ラインL1上で発生する異常を検出したと判定したとき(ステップS12でYes)、開閉弁64を開弁する(ステップS14)。それにより、供給ラインL1と燃料サンプリング装置6の分岐通路L4とが連通され、
図2の白抜き矢印で示すように、供給ラインL1を流れる燃料の一部が分岐通路L4へと流入する。その結果、現在、ロータリーバルブ62の流出口62bに接続されている燃料格納容器63への燃料サンプルの採取が開始される。
【0037】
次に、マシンコントローラ22は、燃料格納容器63に採取した燃料サンプルが所定量に達したか否かを判定する(ステップS16)。より詳細には、マシンコントローラ22は、燃料格納容器63に取り付けられた重量センサ66の検出結果に基づいて、重量センサ66により検出される燃料の重量が所定重量に達したとき、燃料サンプルが所定量に達して燃料格納容器63への燃料サンプルの採取が完了したと判定する。なお、所定量は、燃料サンプルを分析するために必要となる十分なサンプル量である。
【0038】
マシンコントローラ22は、燃料格納容器63に採取した燃料サンプルが所定量に達していないと判定したとき(ステップS16でNo)、燃料サンプルの採取を継続する。一方、マシンコントローラ22は、燃料格納容器63に採取した燃料サンプルが所定量に達したと判定したとき(ステップS16でYes)、開閉弁64を閉弁する(ステップS18)。それにより、供給ラインL1と燃料サンプリング装置6の分岐通路L4との連通が解除され、燃料格納容器63への燃料サンプルの採取が停止する。
【0039】
次に、マシンコントローラ22は、燃料サンプル採取の日時を記憶装置に記憶する(ステップS20)。日時は、マシンコントローラ22が有する日付および時刻の情報に基づいて、燃料サンプルの採取の開始または完了の時刻を記憶させればよい。また、日時は、供給ラインL1上に発生する異常を検出した日付および時刻の情報であってもよい。このとき、ロータリーバルブ62の流出口62bに接続された現在の燃料格納容器63の情報は、例えば、
図3に“No.1”から“No.6”で例示した燃料格納容器63の個別の識別番号を読み取ってマシンコントローラ22が認識できるようにしておけば、採取の日時と対応する燃料格納容器63とを紐づけて記憶することができる。
【0040】
また、現在の燃料格納容器63の情報は、例えば、全ての燃料格納容器63が空の状態でセッティングされるときに、“No.1”の識別番号を有する燃料格納容器63を予めロータリーバルブ62の流出口62bに接続されるようにしておいてもよい。つまり、セッティング後に1回目の燃料サンプル採取を行ったものが、必ず“No.1”の燃料格納容器63となるようにしておいてもよい。それにより、燃料格納容器63の個別の識別番号を読み取る機能がなかったとしても、セッティング後の1回目に記憶された日時情報と、1番の燃料格納容器63とを後に対応づけることが可能となる。このように、1回目のサンプル採取に対応した燃料格納容器63が確定されれば、2回目以降の燃料サンプル採取については、ロータリーバルブ62の回転方向および1回ごとの回転角度はわかることから、記憶した日時情報の順番と“No.2”以降の燃料格納容器63とを後に対応づけることができる。
【0041】
また、セッティング時に流出口62bに接続されるようにしておく燃料格納容器63は、必ずしも“No.1”の識別番号を有するものでなくてもよい。セッティング時に流出口62bに接続されるようにしておいた燃料格納容器63の識別番号を別途記録しておけば、記憶した日時情報と後に照らし合わせて対応づけることも可能である。
【0042】
また、セッティング後に1回目の燃料サンプル採取を行う前に、ロータリーバルブ62を一つ分だけ回転させて、必ず空の燃料格納容器63が作成されるようにしておいてもよい。つまり、例えば、No.2の燃料格納容器63が空で、それ以外の燃料格納容器63には燃料が格納されているような状態をつくることである。それにより、空のNo.2の燃料格納容器63の隣にあるNo.3の燃料格納容器63が、1回目の燃料サンプル採取を行った日時のものであると、後に対応づけることが可能となる。なお、この場合、燃料サンプル採取を行うことが可能な回数は、ロータリーバルブ62に接続された全ての燃料格納容器63の数より一つ少なくなる。
【0043】
次に、マシンコントローラ22は、燃料格納容器63に採取された燃料サンプルのサンプル数が上限に達していないか否かを判定する(ステップS22)。マシンコントローラ22は、燃料格納容器63が全て空の状態でセッティングされてから、燃料サンプル採取を行った回数を記憶しておき、全ての燃料格納容器63に燃料サンプル採取を行ったときに、サンプル数が上限に達したと判定する。なお、マシンコントローラ22は、重量センサ66により検出された燃料の重量に基づいて、全ての燃料格納容器63に燃料サンプル採取を行ったか否かを判断してもよい。上述したように、必ず空の燃料格納容器63が作成されるようにしている場合は、ロータリーバルブ62に接続された全ての燃料格納容器63の数より一つ少なくなるため、マシンコントローラ22は、その数を上限として判断する。
【0044】
マシンコントローラ22は、サンプル数が上限に達していないと判定したとき(ステップS22でYes)、ロータリーバルブ62のローターを回転させて、空である次の燃料格納容器63を流出口62bに接続し(ステップS24)、ステップS10以降の処理を繰り返し実行する。これにより、サンプル数が上限に達するまで、供給ラインL1上で異常が検出される毎に、繰り返し燃料サンプルの採取が実行される。なお、ステップS10からS24の処理は、ステップS22でサンプル数が上限に達したと判定されない限り、いったん建設機械がキーオフされたとしても、次回にキーオンされたときに継続的に行われる。それにより、サンプル数が上限とならない限り、燃料サンプルの採取を行うことができる。
【0045】
一方、マシンコントローラ22は、サンプル数が上限に達したと判定したとき(ステップS22でNo)、サンプル数が上限に達した旨(燃料サンプルの採取が終了した旨)を報知装置30により報知させる(ステップS26)。上述したように、報知装置30は、運転室のオペレータに情報を報知するものであってもよいし、オペレータ以外の外部の人間に情報を報知するものであってもよい。
【0046】
さらに、マシンコントローラ22は、以降、開閉弁64の開弁を禁止させ(ステップS28)、本処理を終了し、燃料サンプルの採取を終了する。これにより、燃料格納容器63に空きがない状態で開閉弁64が開き、行き場のない燃料が燃料サンプリング装置6に流入することが防止される。ステップS28の処理は、後述するリセットスイッチ67(
図2参照)が押されない限り、開閉弁64の開弁を常に禁止しておくことが好ましい。なお、ステップS28の処理は、例えば公道走行中といったエンジン100の運転を停止することができない状態でない場合には、エンジン100の運転自体を停止させる処理であってもよい。
【0047】
以上のようにして燃料サンプルの採取が終了すると、建設機械の運転停止時に、担当者が燃料サンプリング装置6の施錠装置65を開錠し、燃料サンプリング装置6内の燃料格納容器63を回収する。それにより、燃料格納容器63に採取された燃料サンプルの分析を行うことができる。また、燃料格納容器63を回収した後には、全ての燃料格納容器63について、担当者が新たに空の燃料格納容器63をセッティングする。このとき、例えば、空の燃料格納容器63をセッティングしたことを設定するためのリセットスイッチ67を燃料サンプリング装置6に設けておき、担当者がリセットスイッチ67を押すようにしてもよい。それにより、リセットスイッチ67が押されたこと、すなわち、全ての燃料格納容器63が空の状態でセッティングされたことをマシンコントローラ22が認識し、次回のキーオン時以降、改めて
図4のステップS10以降の処理を実行することができる。なお、リセットスイッチ67は、オペレータが操作可能となるように、運転室に設けられてもよい。
【0048】
(運転開始時の処理)
次に、燃料サンプリング装置6に保管された燃料サンプルに関連した運転開始時の処理として、エンジン100への燃料供給許可の判定処理について説明する。
図5は、エンジンへの燃料供給の許可判定処理の一例を示すフローチャートである。
図5に示す処理は、燃料サンプリング装置6の施錠装置65が施錠されている状態で、建設機械がキーオンされたときに、マシンコントローラ22により実行される処理である。
【0049】
マシンコントローラ22は、まず、現在の燃料サンプリング装置6内の燃料サンプルの保管状態に関する情報を取得し、記憶する(ステップS100)。ここで、燃料サンプルの保管状態に関する情報とは、燃料サンプリング装置6内に燃料サンプルがいくつ保管されているかを示す情報である。マシンコントローラ22は、例えば、重量センサ66により検出された燃料の重量に基づいて、燃料サンプリング装置6内に燃料サンプルがいくつ保管されているかを測定し、記憶装置に記憶させる。なお、マシンコントローラ22は、燃料格納容器63が全て空の状態でセッティングされてから次にリセットスイッチ67が押されるまでの間に燃料サンプル採取を行った回数を記憶しておき、それにより、燃料サンプリング装置6内に燃料サンプルがいくつ保管されているかを測定し、記憶装置に記憶させてもよい。
【0050】
次に、マシンコントローラ22は、燃料サンプルの保管状態に関する情報が前回キーオフされたときと不一致であるか否かを判定する(ステップS102)。マシンコントローラ22は、後述する停止時の処理において、キーオフ時点での燃料サンプルの保管状態に関する情報を記憶しており、ステップS100で記憶した現在の燃料サンプルの保管状態に関する情報との照合を行う。すなわち、今回のキーオン時と前回のキーオフ時とで、燃料サンプルの保管数が変わっているか否かを判定する。なお、ステップS102の処理では、燃料格納容器63の全てに燃料サンプルの採取が行われた後、空の燃料格納容器63が新たにセッティングされたことによって燃料サンプルの保管数が変わった場合には、不一致であると判定しないようにすることが好ましい。マシンコントローラ22は、リセットスイッチ67が押されたという情報に基づいて、上記判断を行うことができる。
【0051】
マシンコントローラ22は、上記照合により、互いの燃料サンプルの保管状態に関する情報が不一致であると判定したとき(ステップS102でYes)、エンジン100への燃料供給の禁止指示を出す(ステップS104)。すなわち、今回のキーオン時と前回のキーオフ時とで、燃料サンプルの保管数が変わってしまっているため、燃料サンプルが燃料サンプリング装置6から不正に持ち出された可能性がある。あるいは、燃料サンプリング装置6に故障が発生している可能性もある。このときには、燃料供給装置1からエンジン100への燃料供給がなされず、エンジン100は始動されない。
【0052】
次に、マシンコントローラ22は、燃料供給の禁止指示がなされた旨を報知する(ステップS106)。ステップS106では、報知装置30によりオペレータに報知すると共に、外部装置40にも報知する。外部装置40は、上述したように、燃料サンプルの回収、分析といった作業を担当する担当者が扱うものである。したがって、今回のキーオン時と前回のキーオフ時とで、燃料サンプルの保管数が変わってしまっていることを、担当者が把握することが可能となる。そして、担当者は、燃料サンプルの保管数が変わってしまったことの理由を分析しつつ、いったん建設機械の稼働を行っても問題がないと判断した場合には、外部装置40を介して、マシンコントローラ22へと、燃料供給の禁止解除の指示を送る。
【0053】
次に、マシンコントローラ22は、外部装置40を介して燃料供給の禁止解除の指示があったか否かを判定する(ステップS108)。マシンコントローラ22は、燃料供給の禁止解除の指示がないとき(ステップS108でNo)、エンジン100への燃料供給の禁止指示を出した現在の状態を維持する。一方、マシンコントローラ22は、外部装置40から燃料供給の禁止解除の指示を受けたとき(ステップS108でYes)、エンジン100への燃料供給を許可して(ステップS110)、本ルーチンを終了する。これにより、エンジン100を始動させて、建設機械を稼働させることが可能となる。
【0054】
また、マシンコントローラ22は、上記照合により、互いの燃料サンプルの保管状態に関する情報が一致していると判定したとき(ステップS102でNo)、ステップS104からステップS108の処理を省略し、エンジン100への燃料供給を許可して(ステップS110)、本ルーチンを終了する。
【0055】
(運転停止時の処理)
次に、燃料サンプリング装置6に保管された燃料サンプルに関連した建設機械のキーオフ時における運転停止時の処理について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、キーオフ時に実行される運転停止の処理の一例を示すフローチャートである。
図6に示す処理は、建設機械がキーオフされたときに、運転停止に関して実行されるアフターラン制御の一つとして、マシンコントローラ22により実行される。
【0056】
マシンコントローラ22は、今回の建設機械の運転において、キーオン時に、エンジン100への燃料供給の禁止指示(
図5のステップS104)があったか否かを判定する(ステップS200)。マシンコントローラ22は、キーオン時にエンジン100への燃料供給の禁止指示があったと判定したとき(ステップS200でYes)、さらに、燃料供給の禁止解除の指示がなかったか否かを判定する(ステップS202)。
【0057】
マシンコントローラ22は、燃料供給の禁止解除の指示がなかったと判定したとき(ステップS202でYes)、現在の燃料サンプリング装置6内の燃料サンプルの保管状態に関する情報の取得および記憶を行わず(ステップS204)、本ルーチンを終了する。すなわち、キーオン時にエンジン100への燃料供給の禁止指示があり、かつ、禁止解除の指示もなかった場合、燃料サンプルが燃料サンプリング装置6から不正に持ち出された可能性や燃料サンプリング装置6に故障が発生した可能性がある。この場合には、建設機械の運転停止後に、担当者が、いったん現時点の燃料サンプルを回収して、新たに空の燃料格納容器63をセッティングし直したり燃料サンプリング装置6の整備を行ったりする。そのため、キーオフ時の燃料サンプルの保管状態に関する情報を記憶しておく必要がない。なお、上述したように、リセットスイッチ67が押されれば、新たに全て空の燃料格納容器63がセッティングされたことをマシンコントローラ22が認識することができる。
【0058】
一方、マシンコントローラ22は、キーオン時にエンジン100への燃料供給の禁止指示がなかったと判定したとき(ステップS200でNo)、現在の燃料サンプリング装置6内の燃料サンプルの保管状態に関する情報を取得して記憶し(ステップS206)、本ルーチンを終了する。ステップS206の処理は、
図5のステップS100の処理と同様であるため、詳細な説明を省略する。これにより、
図5のステップS102の処理において照合される前回キーオフ時の燃料サンプルの保管状態に関する情報が記憶装置に記憶される。
【0059】
また、マシンコントローラ22は、キーオン時にエンジン100への燃料供給の禁止指示があった後に、燃料供給の禁止解除の指示があったと判定したときも(ステップS202でNo)、現在の燃料サンプリング装置6内の燃料サンプルの保管状態に関する情報を取得して記憶し(ステップS206)、本ルーチンを終了する。なお、燃料供給の禁止解除の指示があったときにおいても、キーオフ後に、燃料サンプリング装置6内の複数の燃料格納容器63を空のものにセッティングし直したり、燃料サンプリング装置6の整備を行ったりすることはあり得る。この場合、上述したように、リセットスイッチ67が押されれば、新たに全て空の燃料格納容器63がセッティングされたことをマシンコントローラ22が認識することができる。
【0060】
(実施形態の効果)
以上説明したように、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1は、燃料タンク2からエンジン100に燃料を供給する供給ラインL1およびエンジン100から燃料タンク2へ余剰の燃料を返戻させる第1リターンラインL2(リターンライン)を含む燃料回路と、供給ラインL1に燃料タンク2とエンジン100との間に位置して設けられ、エンジン100に供給される燃料をろ過する燃料フィルタ5と、供給ラインL1に燃料フィルタ5とエンジン100との間に位置して設けられ、エンジン100に供給される燃料の一部を燃料サンプルとして燃料格納容器63に採取する燃料サンプリング装置6と、供給ラインL1上で発生する異常を検出する異常検出装置(マシンコントローラ22)と、エンジン100への燃料供給を制御するとともに燃料サンプリング装置6による燃料サンプルの採取を制御する制御装置20(エンジンコントローラ21およびマシンコントローラ22)とを備え、制御装置20(マシンコントローラ22)は、燃料供給時、異常検出装置により異常が検出されると、燃料サンプリング装置6による燃料サンプルの採取を開始し、燃料格納容器63に採取した燃料サンプルが所定量に達すると燃料サンプルの採取を停止する。
【0061】
この構成により、燃料サンプルを採取する燃料サンプリング装置6が燃料フィルタ5とエンジン100との間に配置されるため、エンジン100に供給される直前の燃料を採取することができる。採取された燃料には不具合原因となり得る成分が除去されることなく確実に含まれているため、正しく分析することができる。また、供給ラインL1上で発生する異常を検出したときに、燃料サンプルを採取するため、不要なタイミングで燃料サンプルを採取することがなくなる。したがって、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1によれば、エンジン100の燃料系機器類の不具合原因となる燃料中の成分を分析するにあたり、適正な燃料のサンプルを採取可能となる。
【0062】
また、本実施形態では、燃料供給装置1において必ず存在する供給ラインL1上に燃料サンプリング装置6を接続する。そのため、例えば、第2リターンラインL3などの燃料供給装置1の構成によっては必ずしも存在しない燃料流通ラインに燃料サンプリング装置6を接続する場合に比べて、装置適用の汎用性を高めることができる。また、不要なタイミングで燃料サンプルの採取を行わないことにより、燃料格納容器63の過度な交換を行わないようにすることができる。
【0063】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1は、供給ラインL1に燃料タンク2と燃料フィルタ5との間に位置して設けられ、燃料タンク2の燃料をエンジン100に圧送する燃料ポンプ4と、エンジン100の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置10と、燃料ポンプ4によりエンジン100に圧送される燃料の温度を検出する温度センサ11と、燃料ポンプ4によりエンジン100に圧送される燃料の圧力を検出する圧力センサ12とを備え、制御装置20は、燃料ポンプ4の異常、燃料フィルタ5の異常、燃料噴射装置10の異常、温度センサ11により検出される燃料の温度の異常及び圧力センサ12により検出される燃料の圧力の異常を検出する。
【0064】
この構成により、供給ラインL1上で発生する異常を適切に検出し、適切なタイミングで燃料サンプルを採取することが可能となる。なお、制御装置20は、燃料ポンプ4の異常、燃料フィルタ5の異常、燃料噴射装置10の異常、温度センサ11により検出される燃料の温度の異常及び圧力センサ12により検出される燃料の圧力の異常の少なくともいずれか一つを検出するものとしてもよい。
【0065】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1は、供給ラインL1に燃料サンプリング装置6とエンジン100との間に位置して設けられ、供給ラインL1を流れる燃料の圧力が予め設定された所定圧力以上のときに燃料の一部を蓄積する一方、供給ラインL1を流れる燃料の圧力が低下すると蓄積した燃料を供給ラインL1に放出するアキュムレータ7を備える。
【0066】
この構成により、供給ラインL1から一部の燃料が燃料サンプリング装置6へと流れ込み、一時的に供給ラインL1を流れる燃料の圧力が低下したとしても、アキュムレータ7から燃料を供給ラインL1に放出し、燃料の圧力を安定化させることができる。
【0067】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1において、燃料サンプリング装置6は、燃料フィルタ5とエンジン100との間で供給ラインL1から燃料格納容器63に向けて分岐する分岐通路L4と、該分岐通路L4に介装された開閉弁64とを含み、制御装置20は、燃料供給時、異常検出装置により異常が検出されると、開閉弁64を開弁することで燃料サンプルの採取を開始し、燃料格納容器63に採取した燃料サンプルが所定量に達すると、開閉弁64を閉弁することで燃料サンプルの採取を停止する。
【0068】
この構成により、開閉弁64の開閉制御によって、適切なタイミングで燃料格納容器63へと燃料サンプルを採取することができる。
【0069】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1において、燃料サンプリング装置6は、燃料格納容器63に採取された燃料サンプルの重量を検出する重量センサ66を有し、制御装置20は、重量センサ66により検出される重量が所定重量に達したとき、燃料サンプルの採取を停止する。
【0070】
この構成により、重量センサにより検出される燃料の重量に基づいて、一つの燃料格納容器63への燃料サンプルの採取が完了したか否かを容易に判定することができる。
【0071】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1において、燃料格納容器63は複数からなり、制御装置20は、異常検出装置により異常が検出される毎に、複数の燃料格納容器63のうち空いた容器の一つに燃料サンプルの採取を開始し、該容器へ採取した燃料サンプルが所定量に達すると、該容器への燃料サンプルの採取を停止するとともに燃料サンプルを採取した日時を記憶し、複数の燃料格納容器63の全てに燃料サンプルが採取されると、燃料サンプルの採取を終了する。
【0072】
この構成により、複数の燃料格納容器63に燃料サンプルを採取すると共に、燃料サンプルの採取を行った日時を記憶しておくことで、いずれの燃料サンプルがいつ採取されたものであるかを確認することが可能となる。なお、燃料格納容器63は、少なくとも1つあればよい。
【0073】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1は、報知装置30をさらに備え、制御装置20は、燃料サンプルの採取を終了したことを報知装置30により報知する。
【0074】
この構成により、燃料サンプリング装置6内の燃料格納容器63のすべてに燃料サンプルが採取され、これ以上は採取ができないことを報知装置30によってオペレータや外部の人間に知らせることができる。その結果、担当者等が燃料格納容器63の交換を行う必要があることを適切に把握することが可能となる。
【0075】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1において、燃料サンプリング装置6は、ローターを回転させることで多方からなる複数の流出口のいずれか一つと流入口とを連通させるべく連通位置を切り換え、供給ラインL1から流入口を介して流入する燃料を複数の流出口のいずれか一つに流出させるロータリーバルブ62(一流路多方ロータリーバルブ)を有し、複数の燃料格納容器63は、ロータリーバルブ62の複数の流出口にそれぞれ対応して接続され、制御装置20は、異常検出装置により異常が検出される毎に、ロータリーバルブ62を介して複数の燃料格納容器63のうちの分岐通路L4と連通する空いた容器の一つに燃料サンプルの採取を開始し、該容器へ採取した燃料サンプルが所定量に達すると、該容器への燃料サンプルの採取を停止するとともに燃料サンプルを採取した日時を記憶し、複数の燃料格納容器63のうち他の空いた容器の一つを分岐通路L4と連通させるよう、ロータリーバルブ62のローターを回転させて連通位置を切り換える。
【0076】
この構成により、ロータリーバルブ62によって、複数の燃料格納容器63と分岐通路L4との連通を容易に切り替え、各燃料格納容器63に燃料サンプルを順次採取することができる。
【0077】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1において、燃料サンプリング装置6は、施錠装置65を有した保管庫61を含み、燃料格納容器63は、保管庫61に保管されてなる。
【0078】
この構成により、担当者以外が保管庫61内の燃料サンプリング装置6に容易にアクセスできないようにすることができる。したがって、保管庫61内の燃料サンプルが不正に持ち出されることを抑制することが可能となる。
【0079】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1において、制御装置20は、エンジン100への燃料の供給を停止したとき、燃料格納容器63に採取した燃料サンプルの保管状態に関する情報を記憶しておき、次回、エンジン100への燃料の供給を行う際、燃料サンプルの実際の保管状態に関する情報と記憶した情報との照合を行い、該照合により互いの情報が一致しないとき、エンジン100への燃料の供給を禁止する。
【0080】
この構成により、仮に燃料サンプルが不正に持ち出されたときや、燃料サンプリング装置6に故障が発生したときに、エンジン100への燃料の供給を禁止して建設機械の稼働を制限することができる。その結果、いったん保管されている燃料サンプルの状態を確認して、調査を行うことが可能となる。また、燃料サンプリング装置6の整備を速やかに行うことができる。
【0081】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1において、燃料サンプリング装置6は、燃料格納容器63に採取された燃料の重量を検出する重量センサ66を有し、燃料サンプルの保管状態に関する情報は、重量センサ66により検出された燃料の重量である。
【0082】
この構成により、燃料サンプルの保管状態の情報、すなわち、燃料サンプリング装置6に現在保管されている燃料サンプルがいくつあるかの情報を、重量センサ66で検出された燃料の重量に基づいて、容易に取得することができる。
【0083】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1は、制御装置20に外部から通信可能に接続することでエンジン100への燃料の供給が禁止された状態を解除する外部装置40をさらに備え、エンジン100への燃料の供給が禁止された状態は、外部装置40によってのみ解除可能である。
【0084】
この構成により、外部装置にアクセス可能な燃料サンプルに関する担当者が自らエンジン100への燃料供給の禁止解除判断と指示を行うことができる。つまり、建設機械の稼働を制限すべきであるか否かを担当者が自ら判断することができるため、適切なタイミングで保管されている燃料サンプルの状態を確認して、調査を行うことが可能となる。
【0085】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、重量センサ66により検出される重量が所定重量に達したとき、燃料格納容器63への燃料サンプルの採取を停止するものとしたが、採取を停止する手法は、これに限られない。
【0086】
実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1において、燃料サンプリング装置6は、供給ラインL1から流入する燃料の流量を検出する流量センサを有し、制御装置20は、燃料サンプルの採取を開始した後、流量センサにより検出される流量の積算値が所定値に達したとき、燃料サンプルの採取を停止する、ものとしてもよい。すなわち、分岐通路L4に図示しない流量センサを設け、制御装置20(マシンコントローラ22)は、
図4のステップS16において、当該流量センサで検出される燃料の流量の積算値が所定値に達すると、燃料サンプルが所定量に達し、燃料格納容器63への燃料サンプルの採取が完了したと判定してもよい。この構成により、分岐通路L4を流れる燃料の流量に基づいて、一つの燃料格納容器63への燃料サンプルの採取が完了したか否かを容易に判定することができる。
【0087】
また、実施形態にかかる燃料サンプリングシステムとしての燃料供給装置1において、制御装置20は、開閉弁64を開弁した後、所定時間が経過したとき、開閉弁64を閉じて燃料サンプルの採取を停止するものとしてもよい。すなわち、制御装置20(マシンコントローラ22)は、
図4のステップS16において、開閉弁64を開弁した後、所定時間が経過すると、燃料格納容器63の燃料サンプルが所定量に達し、燃料格納容器63への燃料サンプルの採取が完了したと判定してもよい。この構成により、開閉弁64を開弁してからの経過時間に応じて、一つの燃料格納容器63への燃料サンプルの採取が完了したか否かを容易に判定することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 燃料供給装置
2 燃料タンク
2a 給油口
3 燃料プレフィルタ
4 燃料ポンプ
5 燃料フィルタ
6 燃料サンプリング装置
61 保管庫
61a 空気抜き流路
62 一流路多方ロータリーバルブ
62a 流入口
62b 流出口
63 燃料格納容器
64 開閉弁
65 施錠装置
66 重量センサ
67 リセットスイッチ
7 アキュムレータ
8 高圧燃料ポンプ
9 コモンレール
10 燃料噴射装置
11 温度センサ
12 圧力センサ
13 燃料クーラー
20 制御装置
21 エンジンコントローラ
22 マシンコントローラ
30 報知装置
40 外部装置
100 エンジン(内燃機関)
L 燃料回路
L1 供給ライン
L2 第1リターンライン
L3 第2リターンライン
L4 分岐通路