(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-13
(45)【発行日】2025-06-23
(54)【発明の名称】耐キンク性管状グラフトインプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/06 20130101AFI20250616BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20250616BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20250616BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20250616BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
A61F2/06
A61L27/14
A61L27/50 300
A61L27/56
A61L27/58
(21)【出願番号】P 2023557790
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2022057599
(87)【国際公開番号】W WO2022200409
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2024-01-09
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520228337
【氏名又は名称】ゼルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレイ、ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】コックス、マーティン・アントニウス・ヨハネス
【審査官】丸山 裕樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-515322(JP,A)
【文献】実開昭54-120898(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0112419(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/06-2/07
A61L 27/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニングされた管状グラフトインプラントであって、
(a)長手方向軸及び外面を有するエレクトロスピニングされた、連続的な内腔を提供する管状層と、
(b)前記エレクトロスピニングされた管状層の前記外面上と、前記長手方向軸の周りにロール状に巻き付けられたエレクトロスピニングされたシートの1以上の
ロール状ポリマー層と、
(c)
前記1以上の
ロール状ポリマー層を覆うエレクトロスピニングされた
外側ポリマー層と、を含
み、
前記管状層と、前記1以上のロール状ポリマー層と、前記外側ポリマー層とが互いの上で摺動可能である、グラフトインプラント。
【請求項2】
10~20の層を備える、請求項1に記載のグラフトインプラント。
【請求項3】
前記1以上の層の各々が、30μm~50μmの厚さ、または20μm~100μmの厚さを有する、請求項1に記載のグラフトインプラント。
【請求項4】
2以上の層を備え、前記層が互いに異なる繊維方向を有する、請求項1に記載のグラフトインプラント。
【請求項5】
前記1以上の
ロール状ポリマー層は、前記長手方向軸の周りにロール状に巻き付けられてらせん状に巻かれた形態をなす、請求項1に記載のグラフトインプラント。
【請求項6】
管状グラフトインプラントであって、
前記管状グラフトインプラントの内径を画定する長手方向軸の周りにロール状に巻き付けられたエレクトロスピニングされたポリマーシートの2以上の層を含み、前記管状グラフトインプラントが曲げられるとき、前記エレクトロスピニングされたポリマーシートの前記2以上の層が互いに独立して動くように構成されている、グラフトインプラント。
【請求項7】
10~20の層を備える、請求項6に記載のグラフトインプラント。
【請求項8】
前記2以上の層の各々が、30μm~50μmの厚さ、または20μm~100μmの厚さを有する、請求項6に記載のグラフトインプラント。
【請求項9】
前記層が、互いに異なる繊維方向を有する、請求項6に記載のグラフトインプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐キンク性管状グラフトインプラント及び該グラフトインプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のグラフトは、さまざまな生体適合性プラスチックやポリマーから作製されている。このようなデバイスは、周囲の組織や管腔内部に炎症や望ましくない生物学的反応を引き起こすことで知られている。生体吸収性及び生分解性材料は、医療デバイスの材料として最近登場した。管状血管グラフトでは、十分な機械的特性を持たせることが重要である。同時に、生分解性材料を用いることが好ましい。したがって、完全な生体吸収性の構成となるものが望ましい。
【0003】
米国特許第8057535号には、繊維状のポリマー本体を含む移植可能な医療デバイスが記載されており、このデバイスは、本体に巻き付けられた支持フィラメントと、フィラメントを本体に接合するためのフィラメントを覆う外層とを備えている。巻き付けられたフィラメントは、デバイスにある程度の耐キンク性を提供するように構成されている。支持フィラメントは、移植後に炎症やその他の合併症を引き起こす可能性があり、このグラフト材料と同様に生分解性ではない。米国特許第8057535号は、支持フィラメントが被覆組成物によってグラフトのエレクトロスピニングされた材料に固定すること、すなわち、実質的にすべての繊維が互いに結合することを示している。
【0004】
改善された人工血管には良好な性能を発揮するために全長にわたって均一な厚み分布が必要であり、均一な劣化挙動を得るために付加的な支持構造は避けるべきである。ただし、チューブを曲げたときにキンクが生じないことを必要とする。直径の小さなマンドレル上でエレクトロスピニングによって製造された標準的なチューブでは、十分な耐キンク性を得ることができない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
長手方向軸及び外面を有するエレクトロスピニングされた管状層を画定するエレクトロスピニングされた管状グラフトインプラントが提供される。エレクトロスピニングされたシートの1以上のポリマー層が、エレクトロスピニングされた管状層の外面、かつエレクトロスピニングされた管状層の長手方向軸の周りに巻き付けられている。エレクトロスピニングされたポリマー層は、エレクトロスピニングされたシートが巻き付けられた1以上のポリマー層においてさらに区別される。
【0006】
また、管状グラフトインプラントの内径を画定する長手方向軸の周りに巻き付けられたエレクトロスピニングされたポリマーシートの2以上の層を備える管状グラフトインプラントも提供される。エレクトロスピニングされたポリマーシートのこれらの2以上の層は、管状グラフトインプラントを曲げたときに互いに独立して動くように構成される。
【0007】
ある実施形態では、層の数は10~20である。正確な数は、均一な結果が得られる厚さによって異なる。
【0008】
さらに他の実施形態では、該インプラントは10~20の層を有する。
【0009】
さらに他の実施形態では、2以上の層の各々は、好ましくは30μm~50μmの厚さを有し、より一般的には20μm~100μmの厚さを有する。さらに他の実施形態では、各層は互いに異なる繊維方向を有する。
【0010】
本発明の実施形態は、少なくとも以下の利点を有する。
該グラフトは、通常の紡糸されたグラフトと比較すると、非常に高い破裂圧力を有する。
該グラフトは複数の層の間に破砕領域を有し、それにより曲げ剛性が低下し、優れた耐キンク性を有することにより曲げが容易となる。
壁体の厚さがより均一になるため、パフォーマンスが向上する。
追加の支持要素(例えば、金属ステント、ポリマーステント、ポリマーフィラメント等)を必要とせず、得られるデバイスは完全な生体吸収性を有する。
多層であることにより、大きなシートを製造して所定のサイズに切断し、次いで、ロール状の多層グラフトにすることができるため、製造のスケールアップが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の例示的な実施形態に従って、ロッド110上に配置されたシリコンチューブ120を示す図である。ロッド110は、エレクトロスピニングマンドレル/コレクタとして用いられる。明確にするために、ロッド110及びシリコンチューブ120の配置の順序を示す断面図(縮尺は正確でない)を付加した。
【
図2】本発明の例示的な実施形態に従って、シリコンチューブ120上にエレクトロスピニングされたポリエチレンオキシド(PEO)層130を示す図である。明確にするために、シリコンチューブ120及びPEO層130の配置の順序を示す断面図(縮尺は正確でない)を付加した。
【
図3】本発明の例示的な実施形態に従って、エレクトロスピニングされたPEO層130上にエレクトロスピニングされる、エレクトロスピニングされたポリマー層140を示す図である。明確にするために、PEO層130及びポリマー層140の配置の順序を示す断面図(縮尺は正確でないもの)を付加した。
【
図4】本発明の例示的な実施形態に従って、内因性組織再生(ETR)にとって重要である移植片インプラントの滑らかな内面/管腔表面を示す図である。
【
図5】本発明の例示的な実施形態に従って、構造体500がロッド110から取り外された様子を示す図である。明確にするために、シリコンチューブ120、PEO層130、及びポリマー層の構造の配置の順序を示す断面図(縮尺は正確でないもの)を付加した。
【
図6】本発明の例示的な実施形態に従って、
図5の構造体500をリング状構造体620(
図6)においてコレクタ610の周囲に形成された状態で示す図である。リング状構造体620の長さは、コレクタ610の周囲に適合する。明確にするために、コレクタ610、剛性ピン630によってリング状に保持されたリング状構造体620の順序を示す断面図(縮尺は正確でないもの)を付加した。
【
図7】本発明の例示的な実施形態に従って、コレクタ610上にエレクトロスピニングされたポリマー層710を示す図である。明確にするために、コレクタ610とポリマー層710の順序を示す断面図(縮尺は正確でないもの)を付加した。
【
図8】本発明の例示的な実施形態に従って
図7に関して示す図であり、リング状構造体620は、左から右に巻かれるにつれてポリマー710によって厚くなり、その結果、より厚いリング状構造体810が得られる。
【
図9】本発明の例示的な実施形態に従って、リング状構造体810を切断し、次いで、コレクタ610から取り外し、次いで、可撓性ワイヤーを取り除いた結果における、切断されたリング状構造体900を示す図である。
【
図10】本発明の例示的な実施形態に従って、構造体900の外面上にエレクトロスピニングされたポリマー1010を示す図であり、その結果として構造体1000が得られる。
【
図11】本発明の例示的な実施形態に従って、ポリエチレンオキシド(PEO)層130を溶解することによって構造体1000から除去される構造シリコンチューブ120を示す図であり、その結果として構造体1100が得られる。
【
図12】本発明の例示的な実施形態に従って、本明細書に記載の方法によって製造された実際の管状グラフトインプラントを示す図である。
【
図13】本発明の例示的な実施形態に従って、固定されたシリコーンマンドレルによって規定された4.0mmの直径を有するプロトタイプを示す図である。壁体の厚さは500μm以下である。このプロトタイプは1.75cmでキンクが発生したが、これはすでに3cmに至る前にキンクを引き起こしていた標準的な電子スピン(e-spin)グラフト(金属支持体なし)と比較すれば、依然としてかなりの改善であった。
【
図14】本発明の例示的な実施形態に従って、好ましい繊維配向に対してある角度で切断されたシートを用いて巻き付けが行われる任意の実施形態を示す図である。
【
図15】本発明による方法に従って、好ましくは円周方向の繊維方向をもたらす、好ましくは軸方向である繊維方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、既存のグラフトインプラントよりも耐キンク性が非常に高いエレクトロスピニング繊維から作製された管状グラフトインプラントに関する。具体的には、これらの管状グラフトインプラントの製造方法は、以下の例示的なステップを有することを特徴とする。
【0013】
1.ある一つの実施例では、シリコンチューブ(SI)120がロッド110(例えば、ステンレス鋼ロッド)を取り巻くように配置される(
図1)。広くは、符号120は任意の可撓性の非金属のチューブであってよく、例示的なシリコンチューブに限定されない。ロッド110は、エレクトロスピニングマンドレル/コレクタとして用いられる。シリコンチューブ120は、グラフトインプラントの内径と同等の外径を有する。シリコンチューブはグラフトインプラントの長さと同等の長さを有する。例えば、長さ40cmのグラフトインプラントは、長さ40cmのシリコンチューブ120を有することになる。さらに、シリコンチューブ120の直径にPEO層の厚さを加えたもの(次を参照)もグラフトインプラントの内径を決定する。
【0014】
2.ある実施例では、ポリエチレンオキシド(PEO)層130がシリコンチューブ120を取り巻くようにエレクトロスピニングされる(
図2)。PEO層は減摩水溶性層であり、後に溶解されて管状グラフトからシリコンチューブ120が除去される。エレクトロスピニングされたPEO層の厚さは約50μmである。PEOが好ましいが、当業者であれば容易に理解できるように、(エレクトロスピニングまたは別の方法で塗布された)水溶性である他の材料を用いてもよい。より広くは、このステップは、プロセスの後のステップにおいて管状グラフトからシリコンチューブ120を除去することを容易にするためのものである。
【0015】
3.ポリマー層140がエレクトロスピニングされたPEO層130を取り巻くようにエレクトロスピニングされる(
図3)。ポリマー層140は、グラフトインプラントの内面/管腔表面を形成する。内因性組織修復(ETR)にとって重要である内面の一例を
図4に示す。ポリマー層140は、層同士が剥離する危険性を排除した連続的な内腔を達成することを目的としている。連続的な内腔は、グラフトを通る血流の安定した層流を実現するために重要である。
【0016】
4.構造体500をロッド110から取り外された状態で示している(
図4及び
図5を比較されたい)。
【0017】
5.ここで、剛性ピン630が、構造体500からすでに除去されたロッド110が設けられていた管腔に挿入される(
図6)。剛性ピン630の直径は、120ILとして示すシリコンチューブ120の管腔に一致する。剛性ピン630の目的は、チューブの端部を互いに接続することにより、リング状の構造体を形成することである。
【0018】
6.剛性ピン630の目的は、リング状構造体620を形成するリング状(
図6)のコレクタ610を取り巻くように構造体を成形し、取り付け、固定することである。この目的を達成する他の方法としては、これらに限定されないが、縫合や接着などが考えられる。コレクタ610の直径は、例えば9cmである。リング状構造体620の長さは、コレクタ610の円周に一致する。言い換えれば、リング状構造体620の長さとコレクタ610の円周とは互いに一致し、これは得られるグラフトインプラントの長さに等しくなるであろう。
【0019】
ステップ1~6について、他の実施形態では、意図したグラフト設計の内径及び最終長さを有するチューブを作成するステップとすることもできる。このチューブはリング状に成形され、第2のターゲットに取り付けられ、そこで薄いエレクトロスピニングされた層を巻き上げ、そのチューブの周囲にロール状の層状グラフトを形成する。
【0020】
7.ポリマー710の層は、(リング状構造体620ではなく)コレクタ610を取り巻くようにエレクトロスピニングされる。
【0021】
8.
図7に示すように、リング状構造体620がコレクタ610上で左から右に向かって転がされる。リング状構造体620は転がりながら、リング状構造体620の外面にポリマー710を巻き上げるにつれて厚みを増していく。換言すれば、リング状構造体620は、左から右に回転するにつれてポリマー710によって厚みを増し、その結果、より厚いリング状構造体810が得られる(
図8)。言うまでもないが、ポリマー710を転がして付加することにより、リング状構造体810の直径はリング状構造体620の直径よりも大きくなる。ロール状のリング状構造体は、ここではリング状構造体810を指す。一実施形態では、エレクトロスピニングを行う工程の直後、すなわち、繊維がまだ少し湿っている状態で巻き付けを行ってもよい。これにより、ロール状の層同士の接着が強化され、構造的な完全性が向上することが期待される。
【0022】
9.ここで、リング状構造体810が切断され、コレクタ610及びコレクタ610の周囲においてリング状構造体を成形するために用いられた剛性ピン630から除去され、切断されたリング状構造体が得られる。
【0023】
10.ロッド(例えば、ステンレス鋼ロッド)が、切断されたリング状構造体の内腔に配置され、構造体を直線状にする(不図示)。
【0024】
11.ここで、直線的な構成で、ポリマー1010が構造の外面上にエレクトロスピニングされ、構造体1000が得られる(
図10)。
【0025】
12.次のステップは、構造体1000からシリコンチューブ(SI)120を除去するものであり、これは構造体1000からポリエチレンオキシド(PEO)層130を溶解することによって達成される。構造体1000を水中に沈めることにより、構造体1000からシリコンチューブ(SI)120を除去することが可能となり、その結果として構造体1100が得られる。3つのポリマー層が重なり合った構造になっていることにより、これらの層が互いの上で摺動することを可能にし、管状グラフトインプラントのキンクを防止する。中間ポリマー層はらせん状に巻かれるように構成されているのに対して、内側と外側の層は連続した円筒形となるように構成されていることに注意されたい。
【0026】
13.構造体1100を、摂氏約37度の真空オーブン内で直線状にアニールする。ここでの目標は、最終的に真っ直ぐな円筒形の管状グラフトインプラントを完成させることである。
【0027】
本発明のポイントは、エレクトロスピニングされたポリマーシートの薄層の上を転がしてリングの周囲にシートを巻き取って収集し、それにより、より耐キンク性に優れた層状グラフトを作成するステップである。リング構造体を作成するステップは、これを達成するための一例であるが、ターゲットを確実に除去するためのアプローチは他にもあり、本発明は本明細書で提供される特定の例に限定されるものではない。
【0028】
リングの必須要件は以下の通りである。
最終的なグラフトデバイスの内径及び最終的な長さを画定する。
リングを形成できる程度の柔軟性を必要とする。
エレクトロスピニングされたポリマー層上を転がるときにポリマーを収集できるように、エレクトロスピニングされたポリマー層の十分な粘着性を必要とする。
巻き上げたチューブの内側から容易に除去できることを必要とする。
【0029】
さらに他の実施形態では、ロールの巻き戻りを防止する連続的な内側チューブ(ステップ3で作成したもの)及び連続的な外側チューブ(ステップ11で作成したもの)を有しても良いと考える。
【0030】
この方法及びその最終的な構造は次のような利点を有する。
【0031】
破壊圧力
【0032】
ステップ1~13に従ってロール状のチューブを製造し、従来のエレクトロスピニング、すなわち回転する円筒形のターゲット上に直接ポリマー繊維を堆積することにより製造した、同じ材料及び同じ厚さの他のチューブと比較した。破壊圧力試験では、それぞれ2000mmHg及び800mmHgの破壊圧力を示した。換言すれば、管状グラフトインプラントは、通常の紡糸されたグラフト(約800mmHg)と比較して、著しく高い破壊圧力耐性(約2000mmHg)を有する。
【0033】
記載の方法でチューブを製造することにより、円周方向を考慮すると、足場内の繊維配向が90°回転する(
図15)。そのため、繊維の配列は、長手方向に強固な配列(すなわち、ポリマーは周方向よりも軸方向の方が強い)から、周方向に強固な配列へと反転する。円筒形のターゲット上でポリマーを紡糸する従来の方法では、通常、(例えば、軸方向と周方向の張力モジュール比が約2:1の)穏やかな軸方向の配向が得られる。記載された方法で繊維の主な方向を巻き取った後、強固な整列比を円周方向に向ける。これにより、チューブの耐キンク特性と破裂圧力耐性、及び足場の半径方向の力が改善される。
【0034】
複数の層
【0035】
管状グラフトインプラントは複数の層を有する。一枚の厚い足場層ではなく、異なる層で構成されたレイアウトにより、管状グラフトは複数の層の間に破砕領域を有する。これらの破砕領域により、材料を押しつぶす(squeezing)ことが可能となる。管状グラフトが曲げられると、異なる層が互いに相対的に摺動または移動するため、足場の曲げ剛性が低下し、人工血管をエレクトロスピニングする標準的な方法と比較して、耐キンク性に優れた曲げが容易になる。
【0036】
破砕領域に関して重要な点は、層が互いに動くことができるため、半独立した薄い構造の束として動作する点である。これにより、複合構造の曲げ剛性が向上し、曲げ性が大幅に向上する。これらのいわゆる破砕領域を取得する主な目的は、層を互いに接続しないことにある。
【0037】
ある実施形態では、本発明の方法は、各層が異なる繊維配向を有するグラフトに関する。これは、2枚の異なるシートを紡糸し、(繊維方向が互いに異なるように)それらを互いに重ね合わせ、次いで、2枚のシートを一緒に巻くことによりグラフト/チューブを形成しなければならない場合に得られる。1枚のシートのみを用いても多層グラフトは得られるが、すべての層は同一の配向を有する。したがって、ある実施形態では、この方法は、層をロール状にすることによって異なる繊維配向を達成するステップを含む。
【0038】
多孔性
【0039】
管状グラフトインプラントは、ETRに対して許容可能な/望ましい多孔性を有する。これは、例えばePTFE管状グラフトが細胞浸潤及びETRを可能にするには不十分な孔径を有するのとは対照的である。
【0040】
均一な厚さプロファイル
【0041】
本明細書に記載の方法による管状グラフトインプラントの壁厚プロファイルは、紡糸された足場の先端における潜在的な厚さの変動が排除されるため、標準的なエレクトロスピニングによって達成されるプロファイルよりも均一になる。これにより、小さな直径の血管(つまり、冠状動脈バイパスグラフト)の場合、比較的長いグラフト長が達成可能となる。
【0042】
従来のエレクトロスピニングプロセスでは、エレクトロスピニングされたデバイスは通常、外縁に比べて中央がやや厚くなることがある。紡糸されたチューブの円周に沿って厚さが対称になっているため、この影響は材料をロール状にするときに排除される。デバイス全体の厚さの範囲は0.1mm~2mm、特に0.4mm~1mmであるとよい。直径の範囲は2~8mmで、小さな直径は通常6mm以下でもよいが、用途によっては最大8mmであってもよい。デバイスの長さは5cm~100cmであるとよい。
【0043】
デバイスの個々の層については、ある実施形態では、30μm~50μmの厚さが好ましい。他の実施形態では、厚さは20μm~100μmであってもよい。耐キンク性点から厚さは薄い方が好ましいが、均一な再現が難しくなるため、薄すぎない方がよい。
【0044】
メタルフリーソリューション
【0045】
本明細書に記載された方法による管状グラフトインプラントは、キンクを防止するために当技術分野で一般的な(金属のような)支持要素を含まない。耐キンク性及び半径方向の支持を目的とした支持要素の組み込みは、大量生産するのに非常にコストがかかり、品質及び規制に対する負担が大きく、臨床現場で長期的に破損/故障するリスクも伴う。
【0046】
本明細書に記載の方法による管状グラフトインプラントは、許容可能な耐キンク性を達成するために、周方向の強度を著しく増大させ、曲げ剛性を低減させることに重点を置いている。したがって、そのような管状グラフトインプラント用の支持要素は余分となる。他の重要な設計目標は、完全な生体吸収性である管状グラフトインプラントを得ることであり、これは最終的な構造体1100によって達成される。
【0047】
キンク
【0048】
本明細書に記載の方法による管状グラフトインプラントの耐キンク性を試験したところ、支持されていないグラフトと比較して実質的に改善された耐キンク性を示した。
図12に示すように、壁厚が約600μm以下、直径が約3.2mm以下のプロトタイプを用いた。ロール状のPEO層を内径用マンドレルとして用いたため、望ましい4.0mmの内径は達成されなかった。このプロトタイプは半径1.25cmでキンクを引き起こすが、支持されていないグラフトはすでに半径3cmに達する前にキンクを引き起こす。
図13は、固定されたシリコンチューブによって画定された直径4.0mmのプロトタイプを示す図である。壁の厚さは500μm以下であった。このプロトタイプは1.75cmでキンクを引き起こしたが、これは、既に3cmに達する前にキンクを引き起こしていた(金属支持体を含まない)標準的なエレクトロスピニングされたグラフトと比較すると、依然として大幅な改善である。
図13に示すように、このプロトタイプの曲げ半径は1.75cmであった。同等の単層デバイスのキンクの半径は3cmであった。この差異は重要であり、本発明の実施形態を対象とするアプリケーションにとって非常に意味のある差異である。この大きな差異を物理的に説明すると、厚さが増加すると材料の曲げ剛性が三次的に増加するということである。複数の層が相互に移動できる場合、それらはある程度、1本の太い梁(beam)ではなく、いくつかの細い梁のように動作する。これにより、曲げ力が大幅に低下してデバイス曲げることがより容易になり、耐キンク性が向上する。
【0049】
アップスケーリング
【0050】
本発明の実施形態はまた、より容易なアップスケーリングを可能にするという利点を提供してもよい。例えば、他の実施形態では、巻き上げるためのエレクトロスピニングされたシート(ステップ7)を、非常に大きなターゲットを用いることにより別個に製造し、ロール状にする(ステップ8)直前に所定のサイズに切断してターゲット上に装着すると考えることができる。
【0051】
さらに他の実施形態として、回転が直線的なターゲット上で行われることを想定される。例えば、
ステップ1:所望の内径を有する直線的な円筒形のターゲット上で紡糸することにより内層を製造する。
ステップ2:ロール状の内側スパイラル層を形成する薄いエレクトロスピニングされたシートを別途製造する。
ステップ3:ステップ2で製造したシートを、ステップ1で製造した内層と共にターゲットの周りに巻き付ける。
ステップ4:ステップ3で作成したロール状構造体の周囲に薄い外層を紡糸する。
【0052】
さらに、巻き付けを2回に分けて行う任意の実施形態を想定することもできる。最初の巻き付けステップの後、ロール状構造体の周囲に補強構造を施してもよく、その後、その周囲に第2のシートを巻き付け、次いで、外層を紡糸する。これにより、プロセスの拡張や自動化が容易になる。
【0053】
さらに、好ましい繊維配向に対してある角度で切断されたシートを用いて巻き付けを行うような任意の実施形態を想定してもよい(
図14)。切断後、シートをマンドレルに巻き付けることにより、主軸に対して任意の角度で好ましい繊維配向を有するチューブが得られる。さらに他の実施形態では、複数のシートをマンドレルに巻き付ける前に、異なる好ましい角度で複数のシートを積層することが考えられる。このようにして、例えば、天然の血管のコラーゲン繊維配向のように、長手方向軸に対して2つの対称的な好ましい繊維配向を有するような複数の好ましい繊維配向を有するグラフトを作製することが可能となる。
【0054】
図14に関して、
ステップ1:(線でマーキングしたように)好ましい繊維配向を有するエレクトロスピニングされたシートを製造する。
ステップ2:好ましい繊維配向が異なる長方形のシートに切断する。
ステップ3:回転軸に合わせてシートを回転させる。
ステップ4:円筒状のマンドレルにシートを巻き付け、グラフトの主軸に対して傾斜した繊維配向を有する多層グラフトを製造する。
ステップ5:インナーマンドレルを除去する。
【0055】
本発明の目的上、グラフトという語は、2つの血管を互いに接続するために用いられるグラフトを指し、バイパスグラフト、シャント、間置グラフト、端端(end-to-end)、側端(side-to-end)、端側(end-to-side)、側側(side-to-side)であってもよく、(1つのグラフトで複数のバイパスが作製される)スネーク(snake)やジャンプグラフトであってもよい。ステントやエンドグラフトなど、既存の血管内で使用されるデバイスを意味するものではない。ここで提供するグラフトデバイスの小さなものの直径範囲は、4mm以下(CABGの場合)、6mm前後(アクセス・グラフトの場合)、及び8mmまで(末梢グラフトの場合)とする。
【0056】
ある実施形態では、管状グラフトインプラントはプレベンド(pre-bend)グラフトである。実施例では、柔軟な細いチューブを大径のマンドレルの上で回転させることにより、大きなマンドレルの半径と同様の半径を持つ曲線状のグラフトが得られる。したがって、グラフトは事前に曲げられているか、事前に湾曲していることになり、一部の用途においては利点になることがある。
【0057】
本願で言及するエレクトロピニングされる材料は、ウレイド-ピリミジノン(UPy)四重水素結合モチーフ(先駆者としてSijbesma(1997),Science278,1601-1604が挙げられる)や、生分解性ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(オルトエステル)、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンフマレートを含む群から選択される、ポリマー主鎖を含んでいてもよい。ポリエステルの例としては、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(DL-ラクチド)、ポリ(バレロラクトン)、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、及びそれらのコポリエステルが挙げられる。ポリカーボネートの例としては、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ジメチルトリメチレンカーボネート)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)などが挙げられる。
【0058】
超分子以外のポリマーでも、注意深く特性を選択し、必要な表面特性を確保するために材料を加工すれば、同様の結果を得ることができる。これらのポリマーは、生分解性または非生分解性のポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(オルトエステル)、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンフマレートを含んでいてもよい。ポリエステルの例としては、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(DL-ラクチド)、ポリ(バレロラクトン)、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、及びそれらのコポリエステルが挙げられる。ポリカーボネートの例としては、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ジメチルトリメチレンカーボネート)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)などが挙げられる。