(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-13
(45)【発行日】2025-06-23
(54)【発明の名称】高速回転の回転子およびそれを含むターボ圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04D 29/053 20060101AFI20250616BHJP
【FI】
F04D29/053 Z
(21)【出願番号】P 2024507067
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 IB2021053199
(87)【国際公開番号】W WO2022224009
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】523394516
【氏名又は名称】クリマ ジェスチオン エスアー
【氏名又は名称原語表記】CLIMAT GESTION SA
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】シフマン,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】オルメド,ルイ エリック
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第00962277(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を画定する中空軸(11)およびインペラ(30)を有する高速回転子(10)において、
中空軸が固有直径(D1)およびその固有直径よりも大きい予負荷直径(D2)を有する高速回転子であって、外的拘束が不在である状態でその予負荷直径を維持する少なくとも1つの予負荷用要素(60)を含
み、前記予負荷用要素は、その内部空間から外部に向かう機械的力を軸の壁に対して提供する挿入可能な要素であることを特徴とする高速回転子。
【請求項2】
予負荷直径(D2)は、前記軸(11)がその長手方向軸(A)を中心とした高速回転速度下でまたは高温下で自然にとる直径に相当している、請求項1に記載の高速回転子。
【請求項3】
前記高速回転速度が
、300万以上のDN値を有する、請求項2に記載の高速回転子。
【請求項4】
前記軸(11)が、内部空間(14)を画定するように中空であり、前記少なくとも1つの予負荷用要素(60)が、前記内部空間内に挿入される、請求項1から3のいずれか一つに記載の高速回転子。
【請求項5】
前記予負荷用要素が、軸(11)の固有内部直径よりも大きい直径(D2’)を有するリングまたはシリンダである、請求項4に記載の高速回転子。
【請求項6】
前記予負荷用要素(60)が、専らその軸(11)の壁との直接的接触を用いて、軸(11)内に維持されている、請求項4または5に記載の高速回転子。
【請求項7】
単数または複数の軸(11)および予負荷用要素(60)が、0.01~0.5GPa/kg/m
3の比弾性率および0.01~0.9MPa/kg/m
3の比強度を有し、比弾性率がヤング率と材料密度の間の比率を表わしており、比強度が、降伏強度と材料密度の間の比率を表わしていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の高速回転子。
【請求項8】
中空軸の直径は、軸の回転速度が、休止条件から機能的高速回転の速度条件まで増加する場合に、0.5%未満変動する、請求項1から7のいずれか一つに記載の高速回転子。
【請求項9】
予負荷用要素(60)の縁部が、丸み付けされている、請求項1から8のいずれか一つに記載の高速回転子。
【請求項10】
回転子(10)と少なくとも1つの予負荷用要素(60)を組合わせるための方法において、前記回転子(10)が、
内径を有する
内部空間を画定する中空軸(11)を有し、前記予負荷用要素(60)が、前記
内径よりも大きい直径(D2’)を有し、
その固有直径を増加させるために軸を予負荷するステップ、および前記少なくとも1つの予負荷用要素(60)を予負荷条件下で内部空間(14)内に挿入するステップを含む方法。
【請求項11】
予負荷条件が、軸の固有直径(D2)を一時的に増加させることができる熱条件または流体圧力条件のいずれかを含むかまたは定義する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
予負荷条件が、軸(11)の内部空間(14)内に予負荷用要素(60)をプレス嵌めするためにこの予負荷用要素上に印加される機械的圧力を含むかまたは定義する、請求項10または11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一つに記載の少なくとも1つの高速回転子を含むデバイスにおいて、前記少なくとも1つの高速回転子は、圧縮機インペラ(30)が入口(50)に対面するような入口(50)を含むハウジング(40)の内部に一体化されており、かつ気体作動流体(L)の流れの下で軸受(20)と接触すること無く自由に回転するような形で前記軸受上に位置付けされている、デバイス。
【請求項14】
前記少なくとも1つの回転子(10)の軸(11)と周囲の軸受(20)との間の間隙が
、30マイクロメートルより小さい、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
ターボ圧縮機、タービン、燃料電池再循環デバイス、光学スキャナおよび慣性ジャイロスコープの中から選択されている、請求項13または14に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、詳細には、冷凍設備、例えば工業プロセスにおいて使用される冷却装置またはヒートポンプ、有機ランキンサイクル内のタービン、燃料電池再循環デバイス、光学スキャナ、慣性ジャイロスコープおよび高速回転の回転子を必要とする他の任意の利用に好適である高速回転の回転子に関する。当該回転子は、気体作動流体によって潤滑されるラジアルターボ圧縮機中で使用される。
【背景技術】
【0002】
冷却装置は、多くの工業および農業プロセスにおいて、冷却および冷凍作業に使用されている。このような圧縮機は、ヒートポンプとしても使用可能である。アンモニア冷却装置は現在、嵩高く、重くかつ定期的メンテナンスを必要とする大型の油潤滑式ピストン圧縮機によって駆動されている。潤滑のために使用される油はさらに、アンモニアを汚染し、さらに交換され廃棄前に処理されるべき汚染材料である。効率の観点から見ると、潤滑剤を再循環し冷却する必要性のために追加の電力が消費され、このことは低エネルギー消費という現在の傾向に弊害をもたらす。さらに、サイクル内部を移動する油は、熱交換器内の熱伝導を低下させる。
【0003】
潤滑剤が気体冷媒自体であり、こうして潤滑剤としての油の使用が回避されている、いくつかのターボ圧縮機が開示されてきた。そこでは、ターボ圧縮機の回転子は、気体冷媒によって支持されている。このような配設に関連する重要な側面は、圧縮機を小型化できるということにある。しかしながら、遠心効果は、回転シャフトの外向き変形を誘発し、これが公称軸受間隙を減少させ、シャフトを支持するための軸受の能力を制限し得る。この変形は、気体潤滑式軸受にとって重要な意味をもつ。いくつかの利用において、シャフト-軸受間間隙は、シャフトの遠心変形と同程度になり、焼付きにつながる可能性がある。
【0004】
さらに、容積型機械とは異なり、動圧縮機は、回転子速度が、サージおよびチョークによって制限されて、質量流量および達成可能な圧力比の両方に影響を及ぼすことから、その制御はより複雑である。ターボ圧縮機がサージへと進むことは、機械に損傷を加えるリスクが高く、ひとたびサージに入った場合に冷凍サイクルを安定化させることはほぼ不可能であるため、回避すべきである。多くの場合、唯一の方法は、機械を停止させ再始動させることである。したがって、ターボ圧縮機で駆動される冷却装置は、危険な状態を回避するために制御の増強を必要とする。
【0005】
したがって、この技術分野には、詳細にはよりコンパクトでより費用効果の高い圧縮機を提供する上で、改善の余地が存在する。重要な要素は、上述の物理的制限にも関わらず、回転子のより高い回転速度を可能にすることにある。冷凍サイクルのより良い制御に対する必要性も存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、潤滑油が不要であるかまたは実質的に不要で、したがってサイクル効率を改善しながらより環境に優しいコンパクトなターボ圧縮機を提供することにある。
【0007】
本発明のさらなる目的は、公知のターボ圧縮機に比べて効率が改善されたターボ圧縮機を提供することにある。これには、より少ない電力消費量および/またはより高い圧縮出力が含まれる。
【0008】
本発明のさらなる目的は、回転下において最小限の直径の増加を有し、高い回転速度に適応された回転子を提供することにある。さらなる目的は、休止位置から機能的回転まで、そしてその逆において、最小限の直径変動を有する回転子を提供することにある。
【0009】
本発明のさらなる目的は、多段サイクルの運転を容易にし、熱交換器の損失を削減する、オイルフリー運転である、コンパクトなターボ圧縮機を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、ラジアルターボ圧縮機を用いて気体作動流体、詳細には冷凍用気体流体を圧縮するための改良された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、これらの目的は、独立する特許請求の範囲の対象によって達成され、それに従属する特許請求の範囲を通してさらに詳述される。
【0012】
当該技術分野において公知のものに比べて、本発明は、環境に優しく効率が改善された改良型ターボ圧縮機を提供する。
【0013】
本発明の例示的実施形態が、本明細書中で開示され、以下の図面によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示に係るターボ圧縮機の概略的横断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る回転子の詳細図である。
【
図3c】本発明の一実施形態に係る1つの予負荷用要素の一例と回転子の概略図である。
【
図3d】本発明の一実施形態に係る1つの予負荷用要素の一例と組合わされた回転子の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に記載のターボ圧縮機1は、アンモニアなどの気体作動流体、あるいは一例として水またはプロパンなどの低い分子量を有する他の流体に特に適している。回転子の回転速度は著しく高いもの、典型的には、約20mm~約60mmの直径を有する回転子については毎分100,000回転または毎分170,000回転さらには毎分300,000回転より高いか、あるいは、回転子出力とその直径とに応じてさらに高いものである必要がある。このような高い回転速度では、空気力学的な圧縮機設計および熱管理が、依然として難易度の高いパラメータのままである。回転子の半径方向変形も、間隙の薄さを考慮すると大きな制限的拘束である。
【0016】
回転子の回転速度は、毎分回転数によって定義され得、したがってその角速度を表示するが、回転速度はその接線速度に関係するそのDN数によってより良く定義される。接線速度は、回転子の角速度および外径の両方を考慮に入れ、以下の式によって表現され得る:
DNは、角速度×回転子の半径に等しいかまたはこれに正比例する。
【0017】
したがって、本明細書中、「高速」または「高速回転の速度」なる用語は、その典型的なrpm×mm単位で表わされて約300万超さらには400万超のDN数を意味する。角速度値を考慮すると「高速」または「高速回転の速度」なる用語は、約20mmより大きいかまたは約50mmより大きい直径を有する回転子に適用される場合、毎分100,000回転超、好ましくは毎分140,000回転超、より好ましくは毎分約300,000回転の角速度をより適切に示す。当業者であれば、接線速度が上述の値の範囲内にとどまっていることを条件として、たとえより低い角速度下でも、大きな直径も関係しているということを理解するものである。したがって、高速回転の速度は明らかに、回転子がその直径の有意な増加をもたらすことになる力を受ける回転速度を表わしている。本明細書の枠組においては、回転子の周りの間隙を考慮して、0.01%以上の回転子直径の増加がすでに、有意であるとみなされ得る。高速回転の速度は、回転子が機能的である速度にも関係し、これは、この回転速度が気体流体を圧縮できることを意味している。
【0018】
図1を参照すると、本開示に係るターボ圧縮機1は、回転子10が内部において回転可動であるように配設されているハウジング40を含む。ハウジング40の内側には、単数または複数の軸受20が具備されていて、回転子10を所定の位置に維持している。詳細には、単数または複数の軸受20が、軸11の外部表面との関係において間隙を保ちながら、回転子10の軸11を取り囲んでいる。軸受20は好ましくは、気体流体Lに適応されている。したがって、回転子10は、軸受と接触することなく、その長手方向軸Aを中心にして回転することができる。回転子10は、モーター(図示せず)により回転駆動される。モーターは、毎分100,000回転超、または、毎分150,000または170,000回転超、さらには、毎分300,000回転超の回転速度といった、高速回転に適したあらゆる電動モーターであり得る。
【0019】
モーターの設計に関しては、巻線は、考えられる機械的不安定さを導き得る回転子上のアンバランスな引力を回避するように選択されている。その上、高速は、約2800Hzの周波数に起因する高い鉄損を必然的にもたらす。選択されたモーターは、鉄損と銅損の間の最良の妥協を示し得る。
【0020】
回転子10の一端部は、気体作動流体Lを半径方向に偏向させる圧縮機インペラ30を含む。したがってこの理由から、圧縮機は、ラジアル圧縮機である。偏向させられた気体作動流体Lは、回転子10の軸11に沿って誘導される。結果としてもたらされる、軸11を中心とした気体作動流体Lの層は、回転子10が浮動し、回転中に軸受内部のその長手方向軸Aに中心を合わされた状態にとどまることを可能にする。
【0021】
図2を参照すると、回転子10をより詳細に見ることができる。例えば、軸11の外部表面は、特定の処理を有する単数または複数の表面部域13を含み得る。例えば、このような表面部域13には、溝、例えば、回転下で軸11の周りに気体フィルムが形成されるのを促すV字形の溝が具備され得る。このような表面部域13には、代替的にまたは付加的にコーティングまたは保護層が具備され得る。これらの表面部域以外では、軸11の外部表面には模様やコーティングが無い。
【0022】
回転子10は、例えばハウジング40内部で回転子を安定化することを可能にする単数または複数の突出部12を含み得る。この回転子はさらに、その端部の1つに、気体作動流体Lを偏向させることのできる圧縮羽根31または等価の形状を有する圧縮機インペラ30を含む。ハウジング40には、気体作動流体Lを収集する入口50が具備されている。入口50は、圧縮機インペラ30の近くに配設されている。入口50はさらに、気体作動流体Lの流れを圧縮機インペラ30に向けて集中させるために、円錐形状を有し得る。
【0023】
ここで、回転子10は、以上で言及されているような非常に高い回転速度の場合も含めて、長手方向軸Aを中心とした完全な回転運動を得ることができるように、非常に良好にバランスが取られていなければならない、ということが明記される。回転子10はさらに、慣性を回避するために軽量であることが好ましい。このような高い回転速度において、重量は、潜在的な欠陥を増大させるマイナス要因であり得、速度制限、振動および回転力学的な不安定性を結果としてもたらす可能性がある。
【0024】
一実施形態において、回転子10または少なくとも軸11の材料は、軽量であると同時に耐久性を有するように選択される。
【0025】
一実施形態において、回転子10または少なくともその軸11の材料は、負荷時に最小限の変形を示すように選択される。詳細には、材料は、高速回転の速度において遠心力下でその直径が最小限の増加しか示さないように選択される。詳細には、その直径の増加は、その固有直径の0.1%未満かまたは、約20~30マイクロメートル未満である。
【0026】
一実施形態において、回転子10または少なくともその軸11は、400GPa超、好ましくは500~800GPaのヤング率を有する。それは、2000超、好ましくは約2600以上のビッカース数を有し得る。好ましくは、回転子10、または少なくともその軸11の材料は、比弾性率が0.01~0.5GPa/kg/m3であり、比強度が0.01~0.9MPa/kg/m3であるような形で選択され、ここで比弾性率は、ヤング率と材料密度の間の比率を意味し、比強度は、降伏強度と材料密度の間の比率を意味している。
【0027】
したがって、鋼または金属合金または炭化物材料などのセラミック材料を含め、上述の値に相当するのに好適な密度と好適なヤング率を有するあらゆる材料を使用することができる。
【0028】
回転子の軸11は、内部空間14を画定するように中空または少なくとも部分的に中空であり得る(
図3a、3b)。好ましくは、内部空間は、軸11の全長にわたり延在する。回転子の軸11は、いかなる外部拘束も無い状態でのその外径に相当する固有直径D1を有する。固有直径D1は、詳細には、約20℃の温度において、回転不在下での軸11の外径に相当する。固有直径D1は、例えば30mmであり得る。しかしながら、軸11の直径は、当業者によって評価されるように、必要に応じて変動し得る。固有直径D1は、典型的には、20mm~100mmであり得る。
【0029】
適用される拘束に応じて、軸11の外径は増加し、軸11の固有直径D1よりも大きい負荷直径D3に相当し得る。負荷直径D3は、高速回転の速度下の遠心力に起因し得る。代替的に、負荷直径D3は、温度上昇に起因し得る。負荷直径D3は、高速回転の速度および温度上昇などのパラメータの組合せにも起因し得る。軸11に加わる負荷または応力の強度および性質に応じて、その固有直径D1からの直径の増加は、約0.01%~0.2%、典型的には約0.05%~0.1%であり得る。このことは、回転子の作動運転時と比べた休止時の直径の有意な変動を結果としてもたらす。このような変動は、軸11と軸受20などの周囲の固定された部品との間の間隙よりも大きくなる可能性がある。
【0030】
典型的には、軸11の外部表面と軸受20などの最も近い周囲部品との間の間隙は、ターボ圧縮機の包括的寸法に応じて、30マイクロメートル未満または約20マイクロメートル未満、さらには約10マイクロメートル未満である。固有直径D1がこのような間隙を許容する場合、応力下での直径の増加は、間隙を埋め、さらに進んで周囲要素とその直接的接触に起因して、回転子10の回転が阻止されるものと考えられる。代替的に、応力下でのこのような増加を予測するのに十分なほどに固有直径D1が小さい場合、初期間隙が大き過ぎて、気体作動流体Lによる回転子10の支持を不可能にする。
【0031】
軸11の直径の変動を制限するために、少なくとも1つの予負荷用要素60(
図3c、3d)が、予負荷直径D2に相当する負荷直径D3に近いかまたは等しい値で、軸11の固有直径D1を人為的に増加させることを可能にする。したがって、予負荷用要素60は、いかなる外部応力の不在下でさえ、軸11の外径を予負荷値D2に恒久的に維持することを可能にする。換言すると、少なくとも1つの予負荷用要素60は、軸11が休止状態でその固有直径D1をとることを妨げる。つまり、軸11の直径の変動が、少なくとも1つの予負荷用要素60によってその休止位置とその作動運転との間で制限されている、と言うことができる。
【0032】
一態様によると、少なくとも1つの予負荷用要素60を含む軸11の直径は、軸の回転速度が、休止条件から高速回転の速度条件まで増加する場合に、0.5%未満、好ましくは0.2%未満、または約0.05%未満変動する。
【0033】
別の態様によると、少なくとも1つの予負荷用要素60を含む軸11の直径は、軸11の回転速度が休止条件から高速回転の速度条件まで増加する場合に、非線形的に変動する。詳細には、軸11の直径は、休止条件から既定の高速度値まで、その予負荷値D2にとどまるかまたは実質的にとどまり、このような既定の高速度値を超えると直径は増加する。代替的に、軸11の直径は、単数または複数の予負荷用要素60の不在下で考えられたはずのものよりも低い率で、回転速度の増加に伴って連続的に増加し得る。したがって、予負荷直径D2は、軸11が機能的高速回転速度下で自然にとると考えられる直径に相当し得る。
【0034】
予負荷直径D2は、終端部または終端部近くなどの軸11の特定の場所において局所的に具備され得る。代替的には、予負荷直径D2は、軸11の全長に沿って具備され、均質な円筒形の予負荷軸を結果としてもたらし得る。代替的には、予負荷直径D2は、軸11のいくつかの部分に沿って具備され得る。
【0035】
本開示に係る予負荷用要素60は、軸11の壁を機械的に拡張するように促すために、その内部空間14から外部に向かう機械的力を軸11の壁に対して提供する任意の挿入可能な要素であり得る。予負荷用要素60は、軸11の内径よりも大きい直径D2’を有するリングの形をとり得る(
図3c、3d)。代替的には、予負荷用要素60は、軸11の内部空間14内に挿入されかつ軸11の内径よりも大きい直径D2’を有するシリンダであってよい。予負荷用要素60は、軸11の内部へのその挿入を容易にする、円錐形の外部形状または切頂形状またはそれらと等価の形状を有し得る。所与の予負荷用要素60は、その強度を保ちながらそれを軽量に保つことができるようにするいくつかの補強用要素61を含み得る。予負荷用要素60は、中空であってもなくてもよい。予負荷用要素60が軸11との機械的干渉を提供することを条件として、他の任意の配設を使用することができる。予負荷用要素60は、作動運転下でのあらゆる振動または故障を回避または制限するために、非常に良くバランスがとられていなければならない。高い回転速度を考慮すると、予負荷用要素60の形状は好ましくは、機械的脆弱性を回避するべく、あらゆる平角または鋭角を排除する。詳細には、予負荷用要素60の縁部は、予負荷界面の境界における応力の集中を低減または回避するべく、入念に丸み付けされている。
【0036】
一態様によると、予負荷用要素60の直径D2’は、軸11の内径よりも約0.05%~0.1%、例えば約0.10%または0.20%大きい。別の態様によると、予負荷用要素60の直径D2’は、軸11の内径よりも約10マイクロメートル~約90マイクロメートル、例えば約40または50マイクロメートル大きい。当業者であれば、機械的干渉は、特定の必要に応じて適切に設計され得るということを理解するものである。
【0037】
予負荷用要素60は、好ましくは、作動運転下でのその膨張が限定されたものにとどまるように、高速下で遠心力に対する感度を低くするように選択される。しかしながら、予負荷用要素60と軸11の間の機械的干渉に起因して、予負荷用要素60はそれ自体が拘束され、したがって変形条件に対する感度が低くなるということは、注目に値する。
【0038】
好ましい予負荷用要素60は、熱膨張性が低い。これらの予負荷用要素は、セラミック材料または低い熱膨張係数を有する他の等価の材料を含むかまたはそれでできていてよい。予負荷用要素60は、少なくとも予負荷用要素60が軸11と接触状態にとどまるかぎり、軸11単独の場合と比べて軸と予負荷用要素60のアセンブリの熱膨張を削減するように、軸11の熱膨張率より低いかそれに等しい熱膨張率を有し得る。
【0039】
同様に、回転速度下での直径の機械的膨張に関しては、予負荷用要素60は好ましくは、高い機能的回転速度の全範囲の下で、軸11の壁と直接接触した状態にとどまるものとして定義される。このことは少なくとも、予負荷用要素60が、軸11の壁との直接的接触以外には他の固定点を有さない状態にとどまりながら、軸の内部で強制されていた場合に好適である。しかしながら、軸11の直径が予負荷用要素60よりも大きくなる場合でさえも維持されるように、予負荷用要素60を軸11と一体化した固定要素と組合せることが可能である。このような固定要素は、予負荷用要素を上に固定できる軸の内部の中央路であり得る。代替的には、固定要素は、軸11の内部の壁の1つ以上の陥凹または突出部であり得る。
【0040】
好ましい配設によると、予負荷用要素60は、例えば窒化ケイ素SiNまたはSi3N4または等価の材料を含むかまたはそれでできていてよい。別の配設においては、予負荷用要素は、熱膨張差が無くなるように軸と同じ材料でできていてよい。
【0041】
一例として、炭化タングステンで作られ、30mmの固有直径および25mmの内径を有する本開示の回転子は、毎分140,000回転で25マイクロメートルの固有直径の増加を有する。回転子10を安定的に支持するためには、11マイクロメートルの間隙が必要とされる。窒化ケイ素製の予負荷用要素60を含み、約50マイクロメートルの機械的干渉を提供することによって、軸11の直径の増加を約3マイクロメートルに制限することが可能となる。
【0042】
気体作動流体Lは、理論的には、あらゆる気体流体、詳細にはハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、CO2、アンモニアなど、または可能な場合にはそれらの組合せといった、工業用冷却装置内で使用される冷媒ガスであり得る。アンモニアは、潜熱が大きいという利点を提供する。したがって、従来の冷媒流体に比べて、同じ冷却能力を提供するために必要とされる質量流量が少ない。質量流量が減少し音速が速くなると、所与の負荷について効率を最大化するために、理想的回転子速度を高い値に向かわせる傾向をもつ。ここで説明されている回転子およびターボ圧縮機は、気体作動流体Lとしてアンモニアを使用するのに特に適している。
【0043】
本開示の一態様によると、6.5という包括的な圧力比を達成するために、2つのラジアル圧縮機段が提供される。この配設により、およそ500ms-1~600ms-1であり得る機械的に制限されるインペラ先端速度を超えないことが可能となる。250kWの冷却能力の冷却装置の場合、約50mmのインペラ先端径で、各段について130krpmの理想的回転子速度が提供され得る。回転力学的拘束に起因して、2つの圧縮機段は好ましくは同じ回転子に組付けされず、したがって、冷却装置は2つの個別に駆動される圧縮機によって駆動されなければならなくなる。この追加コストが、より高い柔軟性と設計外の性能の改善を提供する。本開示に係る圧縮機は当然のことながら、1段だけまたは3つ以上の段を含むことができる。各回転子は個別に駆動され得ることから、全ての回転子は同一であるか異なるものであってよい。
【0044】
本開示は、単数または複数の予負荷用要素60と組合わされた回転子10を製造する方法も網羅する。詳細には、予負荷用要素60は、この予負荷用要素60を軸11内部に嵌合するように促すために高い機械的圧力を印加することによって軸11の内部空間14の内部に強制され得る。このようなプレス嵌めプロセスは、約20℃といった室温で行なわれ得る。代替的には、予負荷用要素60は、軸11の直径の増加を熱的に提供するために、約100℃超または約200℃超といったより高い温度でプレス嵌めされ得る。代替的には、軸11の内部空間14内に液体圧を提供して、その直径を機械的に増加させることができ、予負荷用要素60を、加圧下または周囲圧力条件下のいずれかで、内部空間14内に挿入することができる。予負荷用要素60の外部幾何形状は、軸11内部へのその挿入を容易にするように適応され得る。この目的で、円錐形または切頂形状を具備することができる。本開示の一態様によると、該方法は、その固有直径D1を増加させるために熱的条件または機械的条件のいずれかを用いて、軸11を予負荷するステップを含む。該方法はさらに、内部空間14の内部に単数または複数の予負荷用要素60を、圧力と共にまたは圧力無しで挿入するステップを含む。好ましくは、挿入ステップは、予負荷条件が軸11に適用されている間に行なわれる。単数または複数の予負荷用要素60が挿入された後に予負荷を除去するステップも、該方法の一部である。このステップの後、軸11の直径は、挿入された予負荷用要素60を通してその予負荷値D2に維持される。
【0045】
本開示は、ここで記述される回転子などの高速回転の回転子を用いた、工業用ルームの冷却または冷凍といった冷却作業のための方法も網羅している。
【0046】
本開示は、毎分170,000回転超の回転速度下での回転子の安定性を管理し制御する方法をも網羅している。実際、遠心荷重および熱負荷に起因する間隙歪みの減少は、この着想により有意に削減され、こうして機械ははるかに堅牢なものになる。間隙歪みを最小限にすることによって、回転力学的に不安定になりがちな気体軸受支持型回転子がより安定したものになる。
【0047】
本開示中、「負荷」なる用語は、「応力」と同じ意味を有し、回転子10の軸の直径の増加を結果としてもたらすあらゆる外部拘束を意味する。このような拘束には、遠心力、温度上昇およびその両方の組合せが含まれる。
【0048】
本開示中、「作動運転」なる表現は、好ましくは回転子が要求された圧縮出力を提供する速度であるその作動速度または機能的速度における、回転子10の回転運動を少なくとも意味している。この表現には、回転中、軸11に中心を合わされた状態に維持するための、軸11の周りの気体作動流体Lの流れも関与する。
【0049】
本明細書中、「予負荷用要素」なる表現は、単数または複数で使用され得る。当該ターボ圧縮機は、このような予負荷用要素を1個かまたは2個以上、例えば2個、3個、4個または5個以上含むことができるということが理解される。同様に、ターボ圧縮機内に複数の予負荷用要素60が存在する場合、それらは全て同一であっても、または反対に互いに異なっていてもよい。2つの予負荷用要素間の差異は、それらの寸法を含めた形状、および軸11との機械的干渉、それらの組成または、相当するヤング率、または密度、降伏応力、熱膨張のいずれかによって定義される特性に関係し得る。
【符号の説明】
【0050】
1 ターボ圧縮機
10 回転子
11 軸
12 突出部
13 表面部域
14 内部空間
20 軸受
30 圧縮機インペラ
31 圧縮羽根
40 ハウジング
50 入口
60 予負荷用要素
A 長手方向軸
D1 固有直径
D2 予負荷直径
L 気体作動流体