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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-13
(45)【発行日】2025-06-23
(54)【発明の名称】運搬車両
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/04 20060101AFI20250616BHJP
   F01P 3/18 20060101ALI20250616BHJP
   F01P 5/02 20060101ALI20250616BHJP
   F01P 5/04 20060101ALI20250616BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20250616BHJP
【FI】
F01P7/04 B
F01P3/18 G
F01P5/02 F
F01P5/04 C
B60K11/04 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024530852
(86)(22)【出願日】2023-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2023023711
(87)【国際公開番号】W WO2024004979
(87)【国際公開日】2024-01-04
【審査請求日】2024-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2022104154
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】秋本 泰希
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-182535(JP,A)
【文献】特開2013-44248(JP,A)
【文献】特開昭64-73109(JP,A)
【文献】特開2009-228874(JP,A)
【文献】実開平2-101022(JP,U)
【文献】特開2015-140767(JP,A)
【文献】特開2007-16659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/04
F01P 3/18
F01P 5/02
F01P 5/04
B60K 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと、前記車体フレームの上に起伏可能に設けられた荷台とを備えた運搬車両において、
冷却対象流体を貯留するタンクと、
前記冷却対象流体を冷却する熱交換器と、
前記タンク及び前記熱交換器の間で前記冷却対象流体を循環させるポンプと、
前記冷却対象流体の温度を検出する温度センサと、
前記熱交換器に送風するファンと、
前記ファンを駆動する油圧モータと、
前記温度センサにより検出した温度に応じて前記ポンプ及び前記油圧モータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
第1のポンプ回転数と、前記第1のポンプ回転数に対応する第1温度と、前記第1のポンプ回転数よりも高い第2のポンプ回転数と、前記第2のポンプ回転数に対応する第2温度と、第1のモータ回転数と、前記第1のモータ回転数に対応する第3温度と、前記第1のモータ回転数よりも高い第2のモータ回転数と、前記第2のモータ回転数に対応する第4温度と、を記憶しており、
前記検出した温度が前記第1温度と前記第2温度との間のとき、前記検出した温度の上昇に応じて前記第1のポンプ回転数から前記第2のポンプ回転数まで前記ポンプの回転数を上昇させ、
前記検出した温度が前記第3温度と前記第4温度との間のとき、前記検出した温度の上昇に応じて前記第1のモータ回転数から前記第2のモータ回転数まで前記油圧モータの回転数を上昇させ、
前記第3温度は前記第1温度よりも高く設定されており、前記検出した温度が前記第1温度よりも低い温度から前記第1温度に到達すると前記ポンプの回転数を前記第1のポンプ回転数から上昇させ始め、前記検出した温度が前記第1温度を超えて上昇すると、前記第3温度に到達するまでは前記油圧モータの回転数を上昇させることなく前記ポンプの回転数を前記第1のポンプ回転数から上昇させ、前記検出した温度が前記第3温度に到達すると前記油圧モータの回転数を前記第1のモータ回転数から上昇させ始める
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項2】
請求項1に記載の運搬車両において、
前記ポンプの最小回転数は0よりも大きい値であり、
前記油圧モータの最小回転数は0である
ことを特徴とする運搬車両。
【請求項3】
請求項1に記載の運搬車両において、
前記第3温度が、前記第2温度よりも高いことを特徴とする運搬車両。
【請求項4】
請求項1に記載の運搬車両において、
前記温度センサが、前記ポンプの吸入配管に設置されていることを特徴とする運搬車両。
【請求項5】
請求項1に記載の運搬車両において、
前記冷却対象流体は、ブレーキ冷却油であることを特徴とする運搬車両。
【請求項6】
請求項1に記載の運搬車両において、
前記冷却対象流体は、作動油であることを特徴とする運搬車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンプトラック等の運搬車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山用ダンプトラック、鉱山用ショベル、公道を走行するトラック等に搭載されるオイルクーラ等の熱交換器に送風するファンは、一般的にはエンジンに直結して駆動される。しかし、冷却システムの大型化、熱交換機及びエンジンの配置の制約等の理由から、電動駆動ファン又は油圧駆動ファンが採用される場合も多い。特に、電動駆動に不向きな大型ファンには、油圧駆動ファンが採用される傾向にある。こうした油圧駆動ファンを採用する冷却システムとして、複数のファンを有し、冷却対象流体の測定温度に応じて駆動するファンの数を変化させるものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-259728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、要求される放熱量に対して回転するファンの数を変化させる特許文献1のシステムでは、放熱量の制御は送風量のみに依存し、放熱が必要なときはファンを少なくとも1つ駆動する必要がある。
【0005】
前述した通り油圧駆動ファンは大型のものが多い。大型のファンを駆動するのに必要な動力は大きく、ファンの駆動頻度や回転数が高くなると運搬車両の燃費を悪化させてしまう。加えて、ファンの動作音がオペレータの疲労増加や近隣の騒音問題にもつながり得る。
【0006】
本発明の目的は、ファンの駆動頻度や回転数を抑えて燃費向上や騒音抑制を図ることができる運搬車両を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、車体フレームと、前記車体フレームの上に起伏可能に設けられた荷台とを備えた運搬車両において、冷却対象流体を貯留するタンクと、前記冷却対象流体を冷却する熱交換器と、前記タンク及び前記熱交換器の間で前記冷却対象流体を循環させるポンプと、前記冷却対象流体の温度を検出する温度センサと、前記熱交換器に送風するファンと、前記ファンを駆動する油圧モータと、前記温度センサにより検出した温度に応じて前記ポンプ及び前記油圧モータを制御するコントローラとを備え、前記コントローラは、第1のポンプ回転数及びと、前記第1のポンプ回転数に対応する第1温度と、前記第1のポンプ回転数よりも高い第2のポンプ回転数及びと、前記第2のポンプ回転数に対応する第2温度と、第1のモータ回転数及びと、前記第1のモータ回転数に対応する第3温度と、前記第1のモータ回転数よりも高い第2のモータ回転数及びと、前記第2のモータ回転数に対応する第4温度と、を記憶しており、前記検出した温度が前記第1温度及びと前記第2温度との間のとき、前記検出した温度の上昇に応じて前記第1のポンプ回転数から前記第2のポンプ回転数まで前記ポンプの回転数を上昇させ、前記検出した温度が前記第3温度及びと前記第4温度との間のとき、前記検出した温度の上昇に応じて前記第1のモータ回転数から前記第2のモータ回転数まで前記油圧モータの回転数を上昇させ、前記第3温度は前記第1温度よりも前記第3温度が高く設定されており、前記検出した温度のが前記第1温度よりも低い温度から前記第1温度に到達すると前記ポンプの回転数を前記第1のポンプ回転数から上昇させ始め、前記検出した温度が前記第1温度を超えて上昇時すると、前記第3温度に到達するまでは前記油圧モータの回転数がを上昇し始めるよりも先にさせることなく前記ポンプの回転数がを前記第1のポンプ回転数から上昇させ、前記検出した温度が前記第3温度に到達すると前記油圧モータの回転数を前記第1のモータ回転数から上昇させし始める運搬車両を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ファンの駆動頻度や回転数を抑えて燃費向上や騒音抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る運搬車両の一例であるダンプトラックの側面図
図2】本発明の第1実施形態に係る運搬車両の車体フレームの平面図
図3】本発明の第1実施形態に係る運搬車両の車体フレームの側面図
図4】本発明の第1実施形態に係る運搬車両の油圧回路図
図5】本発明の第1実施形態に係る運搬車両に備わったブレーキ冷却油の冷却システムの電気回路図
図6】本発明の第1実施形態に係る運搬車両に備わったコントローラによるファン回転数及びブレーキ冷却油流量の制御テーブルを示す図
図7】本発明の第2実施形態に係る運搬車両の油圧回路図
図8】比較例に係る運搬車両の油圧回路図を表す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
(第1実施形態)
-運搬車両-
図1は本発明の第1実施形態に係る運搬車両の一例であるダンプトラックの側面図である。図1における左右をダンプトラック1の前後とする。
【0012】
同図に示したダンプトラック1は、車体フレーム2と、車体フレーム2に回転可能に設けられた複数の車輪とを備えている。車輪には、左右の前輪3fと左右の後輪3rとが含まれる。前輪3fは車体フレーム2の前部の左右両端に一輪ずつ配置されている。後輪3rは、車体フレーム2の後部の左右両端に二輪ずつ配置されている。前輪3fは、ステアリングハンドル等を介して入力されるステアリング角度に応じて操舵される操舵輪であり、ダンプトラック1が走行する走行路の路面を介して後輪3rに従動する従動輪である。駆動輪である左右の後輪3rのそれぞれの回転軸には、走行用モータ(不図示)と、後輪3rの回転数を調整する減速機11(図2)とが個別に連結されている。
【0013】
また、ダンプトラック1には、デッキ4、キャブ5、コントロールキャビネット6、複数のグリッドボックス7が備わっている。デッキ4はオペレータが歩行するフロアであり、前輪3fの上方に配置されている。キャブ5はオペレータが搭乗する運転室であり、デッキ4の上面に設置されている。キャブ5には、オペレータが座る運転席の他、ダンプトラック1の走行速度を指令する操作ペダル(アクセルペダル、ブレーキペダル等)、前述したステアリングハンドルが備わっている。コントロールキャビネット6は各種の電力機器を収納する部屋であり、車体の前部に搭載されている。グリッドボックス7は、制動時に発生する回生電力による余剰エネルギーを熱として放散する装置であり、コントロールキャビネット6の右側に配置されている。
【0014】
ダンプトラック1には更に、荷台8、ホイストシリンダ9が備わっている。荷台8は土砂や鉱石等の積荷を積載する台であり、ヒンジピン8pを介して車体フレーム2に連結され、車体フレーム2に対して起伏する。ホイストシリンダ9は、ヒンジピン8pよりも前方の位置において車体フレーム2と荷台8とを連結し、伸縮して荷台8を起伏させる。図1において車体フレーム2の左右の前輪3fの間の位置には、原動機15(図2)や発電機16(図2)等が配置されており、これらの各機器の上方にコントロールキャビネット6が搭載されている。コントロールキャビネット6の内部には、電力制御装置30(図5)が格納されている。電力制御装置30は、例えばインバータである。
【0015】
図2は車体フレームの平面図、図3は側面図である。厳密には、図2図3中のB矢視による断面図、図3図2中のA矢視による断面図を表している。左右の後輪3rを個別に支持する左右の減速機11の内部には、それぞれ湿式ブレーキ12が搭載されている。湿式ブレーキ12は、制動時に発生する熱を油によって冷却するブレーキであり、ダンプトラック1には熱せられた油を冷却するための湿式ブレーキ冷却システム(図4)が搭載される。
【0016】
図示していないが、湿式ブレーキ12の内部には、車体側に固定された静止体であるプレートと、減速機11と同じ速度で回転するプレートが備わっており、これら2つのプレートを押し付けることでダンプトラック1が制動される。車体フレーム2の左側面には、ブレーキ冷却油及び作動油を貯留するタンク13が設置されている。タンク13の内部は仕切り14で仕切られており、ブレーキ冷却油と作動油は混ざらないようになっている。
【0017】
車体フレーム2の前部には、出力軸を前後に向けた姿勢で原動機15が搭載されている。本実施形態において、原動機15はエンジン(内燃機関)である。原動機15の出力軸には、発電機16、油圧ポンプ17、パイロットポンプ18が接続される。油圧ポンプ17の上側には、タンク13と熱交換器24との間でブレーキ冷却油を循環させる冷却用の油圧ポンプ19、油圧ポンプ19を駆動する電動モータ21が設置されている。油圧ポンプ19を駆動するのに必要な動力は、油圧モータ25を駆動するのに必要な動力よりも小さい。
【0018】
油圧ポンプ17の下側には、コントロールバルブ22が設置されている。ダンプトラック1の車体前面には、ラジエータ23が設置されている。このラジエータ23の前側には、冷却対象流体であるブレーキ冷却油を冷却する熱交換器(ブレーキ冷却油クーラ)24が搭載されている。ラジエータ23の後側には、油圧モータ25が設置され、油圧モータ25の出力軸にはファン26が接続される。ファン26は、油圧モータ25で駆動されてラジエータ23及び熱交換機24に送風する。
【0019】
車体フレーム2の上部には、左右方向に伸びる梁27が設置され、この梁27の上部にコントロールキャビネット6が設置されている。
【0020】
-油圧回路-
図4はダンプトラック1の油圧回路図である。電動モータ21により油圧ポンプ19が駆動されると、吸入配管31を介してタンク13から油圧ポンプ19にブレーキ冷却油が吸入され、油圧ポンプ19の吐出配管32に吐出される。油圧ポンプ19から吐出されるブレーキ冷却油は、吐出配管32を介して熱交換器24に送り込まれ、熱交換器24で冷却された後、湿式ブレーキ12を経由してタンク13に戻る。吐出配管32には、リリーフ弁34が設けられている。リリーフ弁34によって吐出配管32の最大圧力が規定される。また、吸入配管31には、温度センサ33が設置されている。吸入配管31を流れるブレーキ冷却油の温度が、温度センサ33により測定される。ブレーキ冷却油の測定温度は、温度センサ33から出力されてコントローラ50(後述)に入力される。
【0021】
一方、原動機15により油圧ポンプ17及びパイロットポンプ18が駆動される。油圧ポンプ17は、吸入配管36を介してタンク13から作動油を吸入し、吐出配管37に圧油を吐出する。パイロットポンプ18は、吸入配管38を介してタンク13から作動油を吸入し、吐出配管39に圧油を吐出する。吐出配管37,39の最大圧力も、リリーフ弁34と同様にリリーフ弁によって規定される。
【0022】
コントロールバルブ22は、油圧ポンプ17、タンク13(センターバイパス油路35)及び油圧モータ25を接続している。コントロールバルブ22のスプールは、パイロットポンプ18からの圧油を元圧としてソレノイドバルブ41で生成されるパイロット圧により駆動される。油圧ポンプ17から吐出される作動油は、センターバイパス油路35に送られ、センターバイパス油路35を介してタンク13に戻る。コントロールバルブ22のスプールが移動すると、センターバイパス油路35が絞られる一方で、油圧モータ25への接続開口(不図示)がスプールの移動量に応じて開き、油圧モータ25に圧油が供給される。油圧モータ25の回転数は、圧油の供給流量すなわちスプールの移動量に応じて制御される。油圧モータ25を駆動した圧油は、コントロールバルブ22に戻り、センターバイパス油路35を介してタンク13に戻る。
【0023】
-電気回路-
図5はブレーキ冷却油の冷却システムの電気回路図である。コントローラ50は、CPU等の処理装置やメモリ等の記憶装置を搭載した車載コンピュータであり、ブレーキ冷却油の測定温度Tに応じて油圧ポンプ19及び油圧モータ25を制御する機能を備えている。コントローラ50は、電力制御装置30及びソレノイドバルブ41に制御信号を出力し、熱交換器24におけるブレーキ冷却油の循環量流量やファン26の回転数を制御する。
【0024】
電力制御装置30は、発電機16から供給される電力を、コントローラ50からの制御信号に基づいて電動モータ21に供給する。こうして電動モータ21に対する電力供給量が制御され、湿式ブレーキ12に循環供給されるブレーキ冷却油の供給量がブレーキ冷却油の測定温度に応じて制御される。
【0025】
他方、コントローラ50からの制御信号に基づいてソレノイドバルブ41が駆動され、ソレノイドバルブ41で制御されるパイロット圧に応じてコントロールバルブ22が駆動される。これにより油圧モータ25に対する圧油の供給流量が制御され、ファン26の回転数がブレーキ冷却油の測定温度に応じて制御される。
【0026】
-制御テーブル-
図6はコントローラ50によるファン回転数及びブレーキ冷却油流量の制御テーブルを示す図である。コントローラ50のメモリには、図6に示す制御テーブルが記憶されている。制御テーブルを規定する値として、ポンプ最小回転数Pmin(第1のポンプ回転数)、ポンプ最大回転数Pmax(第2のポンプ回転数)、モータ最小回転数Mmin(第1のモータ回転数)、モータ最大回転数Mmax(第2のモータ回転数)、第1温度T1、第2温度T2、第3温度T3、及び第4温度T4が記憶されており、第1温度T1<第2温度T2<第3温度T3<第4温度T4の関係を有する。本実施形態においては、ポンプ最小回転数Pminは油圧ポンプ19の最小回転数、ポンプ最大回転数Pmaxは油圧ポンプ19の最大回転数、モータ最小回転数Mminは油圧モータ25の最小回転数、モータ最大回転数Mmaxは油圧モータ25の最大回転数である。ポンプ最小回転数Pminには第1温度T1が対応しており、ポンプ最大回転数Pmaxには第2温度T2が対応している。モータ最小回転数Mminには第3温度T3が対応しており、モータ最大回転数Mmaxには第4温度T4が対応している。コントローラ50は、温度センサ33から入力されるブレーキ冷却油の測定温度Tを図6の制御テーブルに当てはめて油圧ポンプ19及び油圧モータ25の回転数を決定し、電力制御装置30及びソレノイドバルブ41に制御信号を出力する。
【0027】
なお、油圧ポンプ19の回転数と比例関係にあるブレーキ冷却油の流量(例えば油圧ポンプ19の吐出流量)や電動モータ21の回転数等は、制御概念上、油圧ポンプ19の回転数と同義の値として扱うことができる。図6では、油圧ポンプ19の回転数の制御テーブルを、ブレーキ冷却油の測定温度Tと流量との関係で規定している。この油圧ポンプ19の回転数の制御テーブルに従い、コントローラ50は、温度センサ33による測定温度Tが第1温度T1未満(T<T1)であれば油圧ポンプ19が最小回転数Pminで駆動されるように電力制御装置30に制御信号を出力する。測定温度Tが第1温度T1及び第2温度T2の間(T1≦T<T2)のとき、コントローラ50は、Tの上昇に応じて(例えば比例して線形に)PminからPmaxまで油圧ポンプ19の回転数が上昇するように電力制御装置30に制御信号を出力する。T1≦T<T2でTが下降する際も、コントローラ50は、Tの下降に応じて図6の制御テーブルに従って油圧ポンプ19の回転数を下降させる。コントローラ50は、測定温度Tが第2温度T2以上(T≧T2)であれば油圧ポンプ19が最大回転数Pmaxで駆動されるように電力制御装置30に制御信号を出力する。
【0028】
油圧モータ25の回転数についても、ファン26の回転数等といった比例関係にある値を、制御概念上の同義の値として扱うことができる。図6では、油圧モータ25の回転数の制御テーブルを、ブレーキ冷却油の測定温度Tとファン26の回転数との関係で規定している。この油圧モータ25の回転数の制御テーブルに従い、コントローラ50は、温度センサ33による測定温度Tが第3温度T3未満(T<T3)であれば油圧モータ25が最小回転数Mminで駆動されるように電力制御装置30に制御信号を出力する。測定温度Tが第3温度T3及び第4温度T4の間(T3≦T<T4)のとき、コントローラ50は、Tの上昇に応じて(例えば比例して線形に)MminからMmaxまで油圧モータ25の回転数が上昇するように電力制御装置30に制御信号を出力する。T3≦T<T4でTが下降する際も、コントローラ50は、Tの下降に応じて図6の制御テーブルに従って油圧モータ25の回転数を下降させる。コントローラ50は、測定温度Tが第4温度T4以上(T≧T4)であれば油圧モータ25が最大回転数Mmaxで駆動されるように電力制御装置30に制御信号を出力する。
【0029】
-Pmin-
ここで、湿式ブレーキ12には、ブレーキ冷却油の漏れを防ぐフローティングシール(不図示)が内蔵されている。このフローティングシールは耐圧性が低く、湿式ブレーキ12にかかるブレーキ冷却油の圧力は、フローティングシールの耐圧力未満に抑えなければならない。ブレーキ冷却油は温度が低いと粘度が大きくなり、ブレーキ冷却油の流入により湿式ブレーキ12の内部の圧力が高まり易くなる。そのため、最小流量(油圧ポンプ19の最小回転数Pmin)は、ブレーキ冷却油に想定される最低油温でもフローティングシールが破損しないように設定する必要がある。但し、油圧ポンプ19の最小回転数Pminは0よりも大きい値に設定する。温度センサ33により温度を測定するブレーキ冷却油の流通を確保するためである。
【0030】
-Pmax/Mmax-
ポンプ最大回転数Pmax及びモータ最大回転数Mmaxについては、ブレーキ冷却油の冷却性能の最大値を規定する値である。従って、ダンプトラック1の稼働時に制動により生じ得る湿式ブレーキ12の最大発熱量を想定し、十分な冷却性能が確保されるようにポンプ最大回転数Pmax及びモータ最大回転数Mmaxを設定する必要がある。
【0031】
なお、ポンプ最小回転数Pmin、ポンプ最大回転数Pmax、モータ最小回転数Mmin、及びモータ最大回転数Mmaxは、例えば上記のような点を考慮して定められた所定の回転数又は回転数域であれば良いし、機械的、電気的な仕様で定められた下限又は上限の回転数でも良い。すなわち、例えば、ポンプ最大回転数Pmaxは、ポンプ最小回転数Pminよりも高い油圧ポンプ19の回転数として設定されていれば良い。また、例えば、モータ最大回転数Mmaxは、モータ最小回転数Mminよりも高い油圧モータ25の回転数として設定されていれば良い。
【0032】
-T1,T2,T3,T4-
第1温度T1、第2温度T2、第3温度T3、第4温度T4の設定について説明する。第1温度T1、第2温度T2、第3温度T3、第4温度T4を全体に低く設定すれば、測定温度Tがさほど上がらないうちに油圧ポンプ19及び油圧モータ25の回転数が増加し始める。この場合、ブレーキ冷却油を低温に維持する上で有利であり、制動時にブレーキ冷却油のオーバーヒートが生じ難くなる。しかしその反面、油圧ポンプ19及び油圧モータ25の動力消費が増加して燃費が悪化する。そこで、第1温度T1、第2温度T2、第3温度T3、第4温度T4は、ブレーキ冷却油のオーバーヒートが回避できる範囲において極力高く設定することが、冷却性能と燃費のバランスの観点から望ましい。
【0033】
このとき、図6の制御テーブルに示した通り、第3温度T3は第1温度T1よりも高く設定される。これにより、第1温度T1よりも低い温度から測定温度Tが上昇するとき、油圧モータ25の回転数が最小回転数Mminから上昇し始めるよりも先に油圧ポンプ19の回転数が最小回転数Pminから上昇し始める。上記の通り油圧ポンプ19の最小回転数Pminは0よりも大きく、ダンプトラック1の稼働時に油圧ポンプ19は最小回転数Pmin以上の回転数で駆動し続け、ブレーキ冷却油が循環し続ける。それに対し、油圧モータ25の最小回転数Mminは0であり、第3温度T3よりも測定温度Tが低ければ、ファン26は停止する。測定温度Tが低ければ、あえてブレーキ冷却油を空冷する必要がないためこのように設定される。
【0034】
そのため、測定温度Tが第1温度T1を超えて上昇したとして、油圧ポンプ19の回転数が上昇しブレーキ冷却油の流量が増加した結果、第3温度T3に到達することなく測定温度Tが下降に転じた場合には、ファン26は駆動されない。特に、本実施形態においては、第3温度T3が第2温度T2よりも高く設定してあるため、ブレーキ冷却油の循環流量が増減できる温度範囲では、ブレーキ冷却油の循環流量の制御のみで放熱量の制御が試行される仕様である。加えて、本実施形態では、熱交換器24がダンプトラック1の前面に設置されており、熱交換器24には走行風が当たる。従って、ファン26が停止した状態でもブレーキ冷却油の循環流量の増加に相乗して放熱量が増加し、ブレーキ冷却油が合理的に冷却される。
【0035】
-比較例-
図8は比較例に係る運搬車両の油圧回路図を表す図である。同図に示した油圧回路は、メインファン101、メイン油圧モータ102、サブファン103、サブ油圧モータ104、油圧ポンプ105、フロープライオリティバルブ106、サーモセンシングバルブ107、及び切換えバルブ108を含んでいる。
【0036】
サーモセンシングバルブ107は、冷却対象流体(例えばエンジン冷却水)の温度が設定値以上であればオン信号を出力し、設定値以下であればオフ信号を出力する。切換えバルブ108は、サーモセンシングバルブ107からの信号で駆動され、油圧ポンプ105の吐出管路を遮断及び開通する。油圧ポンプ105はエンジンで駆動される。エンジン回転数が低く油圧ポンプ105の吐出流量が所定値以下である場合、フロープライオリティバルブ106を介してメイン油圧モータ102のみに圧油が供給される。反対に、エンジン回転数が高く吐出流量が所定値より大きい場合、フロープライオリティバルブ106を介してメイン油圧モータ102及びサブ油圧モータ104に圧油が供給される。
【0037】
上記構成の比較例では、冷却対象流体の温度が設定値以上になると、サーモセンシングバルブ107からオン信号が出力され、切換えバルブ108により吐出管路が開通する。このとき、エンジン回転数が所定値以下であれば、フロープライオリティバルブ106を介してメイン油圧モータ102のみに圧油が供給され、メインファン101のみが冷却対象流体の冷却に寄与する。反対に、エンジン回転数が所定値より大きければ、フロープライオリティバルブ106を介してメイン油圧モータ102及びサブ油圧モータ104に圧油が供給され、メインファン101及びサブファン103が冷却対象流体の冷却に寄与する。これにより、冷却対象流体について要求される放熱量に応じて1つ又は2つに切り換わる。
【0038】
しかし、比較例では、冷却対象流体の放熱が必要なときはファンを少なくとも1つ駆動する必要がある。油圧駆動式の大型のファンを駆動するのに必要な動力は大きく、放熱が必要な場合には要求される放熱量によらず常時1つ以上の願を駆動する構成とすると、運搬車両の燃費が悪化する。また、ファンの動作音がオペレータの疲労増加や近隣への騒音問題にもつながり得る。
【0039】
-効果-
(1)本実施形態においては、冷却対象流体であるブレーキ冷却油を循環させる油圧ポンプ19をエンジン駆動とせずモータ駆動とすることで、原動機(エンジン)15の回転数によらず冷却対象流体の循環流量を制御することができる。ファン26を駆動する油圧モータ25も、圧油の供給流量をコントロールバルブ22で調整することでエンジン回転数によらず制御できる。
【0040】
その上で、本実施形態においては、ブレーキ冷却油の測定温度Tに応じて油圧ポンプ19及び油圧モータ25を制御するに当たり、測定温度Tの上昇時、油圧モータ25の回転数が上昇し始めるよりも先に油圧ポンプ19の回転数が上昇し始める(図6)。つまり、測定温度Tが上昇し始めても、まずはファン26を駆動することなく油圧ポンプ19によるブレーキ冷却油の循環流量の増加のみで放熱量の向上が試みられる。油圧ポンプ19の制御だけでは十分に放熱されない場合にのみ、ブレーキ冷却油の循環流量を増加させた状態で所要放熱量に応じてファン26が駆動される。例えば、測定温度Tの上昇時、油圧ポンプ19の回転数が上昇しブレーキ冷却油の流量が増加することで、第3温度T3に到達することなくブレーキ冷却油が降温に転じる場合には、そもそもファン26が駆動されない。このように、ファン26の駆動頻度や回転数を抑えることができ、ダンプトラック1の燃費を向上させることができ、騒音を抑制しオペレータの疲労等も低減できる。
【0041】
また、ファン26が起動する場合には、熱交換器24におけるブレーキ冷却油の循環流量が常に最大であるため、ファン26の送風量に対してブレーキ冷却油の冷却効率が高い状態にあり、ファン26の回転数が上昇し難い。これも油圧ポンプ19と油圧モータ25の協調制御の有利な点である。
【0042】
(2)特に、本実施形態においては、ファン26が回転し始める第3温度T3が油圧ポンプ19の回転数が最大回転数Pmaxに到達する第2温度T2よりも高く設定してある。そのため、ブレーキ冷却油の放熱量を向上させ得る油圧ポンプ19の回転数の増加代がある限りファン26は回転しない。これによりファン26の駆動頻度をより低く抑えることができる。
【0043】
(3)また、本実施形態では、熱交換器24がダンプトラック1の前面に設置されており、熱交換器24に走行風を導くことができる。制動時にブレーキ冷却油が昇温する際、ファン26が停止した状態でも、ブレーキ冷却油の循環流量増加を走行風による空冷効果に相乗させ、ブレーキ冷却油を合理的に冷却することができる。
【0044】
(4)また、油圧ポンプ19の最小回転数Pminを0よりも大きな値に設定したので、温度センサ33で温度測定されるブレーキ冷却油の流通を確保することができる。これにより、油圧ポンプ19及び油圧モータ25の制御の基礎であるブレーキ冷却油の温度を妥当に評価することができ、油圧ポンプ19及び油圧モータ25の信頼性を確保することができる。
【0045】
(5)仮にブレーキ冷却油の戻り配管(湿式ブレーキ12の出口とタンク13とを接続する配管)に温度センサ33を設ける場合、湿式ブレーキ12で上昇した直後のブレーキ冷却油の温度が測定され、測定温度Tの増減が激しくなる。その結果、タンク13の内部のブレーキ冷却油の温度はそれほど上がっていないような状況でも、油圧ポンプ19や油圧モータ25の制御が過敏に機能して動力を浪費する可能性がある。
【0046】
それに対し、本実施形態では、温度センサ33を油圧ポンプ19の吸入配管31に設置したことにより、タンク13で温度変動が落ち着いた上で湿式ブレーキ12に供給されるブレーキ冷却油の温度が測定され、上記のような過敏な制御を抑制できる。これによっても、ファン26等の無駄な駆動を回避して動力の浪費を抑制することができる。
【0047】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態に係る運搬車両の油圧回路図である。図7において第1実施形態と同一又は対応する要素には、図4と同符号を付して適宜説明を省略する。
【0048】
本実施形態が第1実施形態と相違する点は、作動油の冷却システムに発明を適用した点である。本実施形態においては、センターバイパス油路35に熱交換器(作動油クーラ)61が設けられている。熱交換器24と同じく、熱交換器61も例えばダンプトラック1の前面に設置される。ファン26は、熱交換器24及び熱交換器61に送風する。また、油圧ポンプ17は、原動機(エンジン)15ではなく電動モータ62により駆動される。油圧ポンプ17の吸入配管36には、作動油の温度を測定する温度センサ63が設置されている。
【0049】
本実施形態において、コントローラ50は、作動油の冷却システムに関し、ブレーキ冷却油の冷却システムの制御と同様に油圧ポンプ17及び油圧モータ25の回転数を制御する。油圧ポンプ17及び油圧モータ25の制御に関する制御テーブルは、図6に示した制御テーブルと同様にファン回転数と作動油循環量が作動油温度にリンクして推移するように設定すれば良い。つまり、温度センサ63からの作動油の測定温度Tが上昇するとき、油圧モータ25の回転数が最小回転数Mmin(=0)から上昇し始めるよりも先に油圧ポンプ17の回転数が最小回転数Pmin(>0)から上昇し始める。そのため、作動油温度の上昇時、油圧ポンプ17の回転数が上昇し熱交換器61の作動油循環量が増加することで作動油の測定温度Tが第3温度T3に到達することなく下降した場合には、作動油の冷却に関する限りファン26は駆動されない。その他の構成について、本実施形態は第1実施形態と同様である。
【0050】
このように本発明はブレーキ冷却油以外の作動油等の冷却システムにも適用でき、同様の効果を得ることができる。
【0051】
なお、図7はブレーキ冷却油の冷却システムと作動油の冷却システムでファン26を共用する構成であるため、ファン26の回転数は、例えばブレーキ冷却油と作動油の測定温度Tの最大値に応じて制御される。熱交換器24,61に対して個別のファンで送風する構成とすれば、作動油の測定温度に依存せずブレーキ冷却油の冷却用のファンが制御され、ブレーキ冷却油の測定温度に依存せず作動油の冷却用のファンが制御される構成とすることができる。
【0052】
(変形例)
以上の実施形態では、ブレーキ冷却油や作動油の冷却システムに本発明を適用する場合について説明したが、例えばエンジン冷却水やエンジンオイルの冷却システム等にも本発明は適用可能であり、同様の効果を得ることができる。また、油圧ポンプ19の駆動装置として電動モータ21を例示したが、油圧ポンプ19の回転数を任意に制御できれば、例えば油圧モータで油圧ポンプ19を駆動する構成とすることもできる。
【0053】
また、ダンプトラック1に本発明を適用する場合を例示したが、他の運搬車両にも本発明は適用可能である。
【0054】
また、図6において第2温度T2を第3温度T3より低く設定する例を説明したが、ファンの起動に先行して熱交換器の循環流量を増加させる上では、第1温度T1(<T2)が第3温度T3(<T4)よりも低ければ良い。従って、T1<T3であれば、第2温度T2が第3温度T3以上であっても良い。但し、大きな動力低減効果等を狙うのであれば、図6に例示したように第2温度T2が第3温度T3未満であることが望ましい。
【0055】
また、上記実施形態において、測定温度Tが第3温度T3未満のときはファン26が停止する構成を例示したが、ファン26が低速で回転するようにしても良い。つまり、油圧モータ25の最小回転数Mminを0よりも大きく設定しても良い。但し、大きな動力低減効果等を狙うのであれば、図6に例示したようにMmin=0であることが望ましい。
【0056】
また、油圧ポンプ17,19や油圧モータ25の制御について、線形の制御テーブルを例示したが、例えば測定温度Tに応じて油圧ポンプ17,19や油圧モータ25の回転数をステップ状或いは曲線状に変化させる制御テーブルを採用することもできる。ステップ状の場合、制御が簡単になる他、測定温度Tの変化に対して油圧ポンプ17,19や油圧モータ25の制御の変動が減少することが期待される。但し、制御テーブルは、線形に設定する方が、油圧ポンプ17,19や油圧モータ25の回転数が測定温度Tに応じてリアルタイムに追従するため、必要な放熱量が測定温度Tに追従して連続的に変化する点で合理的である。
【符号の説明】
【0057】
1…ダンプトラック(運搬車両)、2…車体フレーム、8…荷台、13…タンク、17…油圧ポンプ、19…油圧ポンプ、24…熱交換器、25…油圧モータ、26…ファン、31…吸入配管、33…温度センサ、36…吸入配管、50…コントローラ、61…熱交換器、63…温度センサ、Mmax…モータ最大回転数、Mmin…モータ最小回転数、Pmax…ポンプ最大回転数、Pmin…ポンプ最小回転数、T…測定温度、T1…第1温度、T2…第2温度、T3…第3温度、T4…第4温度
図1
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図6
図7
図8