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  • 特許-打楽器駆動装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】打楽器駆動装置
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/32 20060101AFI20250617BHJP
   G10H 1/00 20060101ALI20250617BHJP
   G10D 13/02 20200101ALI20250617BHJP
   G10D 13/10 20200101ALI20250617BHJP
【FI】
G10H1/32 Z
G10H1/00 A
G10D13/02 100
G10D13/10 160
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020168986
(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公開番号】P2022061167
(43)【公開日】2022-04-18
【審査請求日】2023-08-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】柘植 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06925880(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0201259(US,A1)
【文献】特開2018-146692(JP,A)
【文献】特開2019-205105(JP,A)
【文献】特開2017-049386(JP,A)
【文献】GF1004 Datasheet,[online],2020年03月18日,[検索日 2021.11.15], インターネット:<URL: https://cuidevices.com/product/resource/gf1004.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 13/00-13/24
G10G 1/00- 7/02
G10H 1/00- 7/12
H04R 1/00- 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号に応じて振動するすり鉢状をなす前面と当該前面を囲む縁を有するスピーカであるアクチュエータと、
振動面を有する打楽器の外部において、前記前面が前記振動面との間に空間を挟んで対向し、前記縁は前記振動面から離間しており、前記前面と前記縁で空気振動領域を形成するように前記アクチュエータを固定する固定部と、
を含み、
前記すり鉢形状をなす前記前面の振動は、前記空気振動領域内の圧縮空気の弾性力を利用した空気バネにより前記振動面に伝達され、前記振動面を振動させ
前記電気信号は、前記打楽器の打撃音を収音することにより得られる電気信号である
打楽器駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気信号に応じた音を打楽器から発音させる打楽器駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電気信号に応じた音を打楽器から発音させる技術を開示している。この特許文献1に開示された技術では、シェルとヘッドとを有するドラムのシェルの内部にスピーカを設け、電気信号である入力信号をスピーカに与える。これにより電気信号に応じた音がスピーカからドラムを介して発音される。
【0003】
特許文献2は、弦楽器に関するものであるが、電気信号に応じた音を弦楽器から発音させる技術を開示している。この特許文献2に開示された技術では、共鳴胴およびサウンドホールを有する楽器において、楽器の外側の振動発生器からサウンドホールに向けて発音する。これにより振動発生器に対する入力信号に応じた音が楽器から発音される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-189911号公報
【0005】
【文献】特許第6251458号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2に開示の技術によれば、電気信号に応じた音を楽器から発音させることができるが、打楽器の振動面(例えばドラムヘッド)を打撃部材により打撃し、振動面を振動させることにより発生する打楽器本来の音を発音させることができない。
【0007】
ここで、打楽器の振動面を振動させ、発音を行わせるために、アクチュエータを振動面に接触させ、このアクチュエータにより振動面を加振する、という手段が考えられる。しかし、この手段を採用した場合、振動面に接触したアクチュエータが振動面の振動を妨げ、打楽器本来の音が発音されない問題がある。
【0008】
この発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、電気信号に応じて打楽器の振動面を振動させ、打楽器本来の音を発音させる打楽器駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、電気信号に応じて振動する前面を有するアクチュエータと、振動面を有する打楽器の外部において、前記前面が前記振動面との間に空間を挟んで対向するように前記アクチュエータを固定する固定部とを含む打楽器駆動装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の一実施形態である打楽器駆動装置および同打楽器駆動装置が装着されたスネアドラムの構成を示す側面図である。
図2】同打楽器駆動装置の構成を示す断面図である。
図3】この発明の他の実施形態である打楽器駆動装置および同打楽器駆動装置が装着されたバスドラムの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1はこの発明の一実施形態である打楽器駆動装置100および同打楽器駆動装置100が装着されたスネアドラム200の構成を示す側面図である。
【0013】
スネアドラム200は、両端が開口した円筒形状のシェル211を有する。シェル211の両端の開口は、2つのドラムヘッド212aおよび212bにより閉塞されている。
【0014】
ドラムヘッド212aおよび212bは、円状の形状を有し、その外周がシェル211の開口端に押し当てられるヘッド部と、このヘッド部の周囲を取り囲む環状の外周縁部とを有する。フープ213aおよび213bは、略円筒形状を有し、シェル211の外周縁部を取り巻くように設置される。フープ213aは、ドラムヘッド212aの外周縁部に押し当てられる部分およびチューニングボルト215aを挿入するための挿入孔を有する。同様にフープ213bは、ドラムヘッド212bの外周縁部に押し当てられる部分およびチューニングボルト215bを挿入するための挿入孔を有する。
【0015】
シェル211の外周面上において、フープ213aの近くの領域には、複数のラグ214aが、シェル211の周囲方向に間隔を空けて固定されている。これらのラグ214aは、シェル211の外周面に平行して伸びるネジ孔を有する。チューニングボルト215aは、フープ213aの挿入孔に挿入され、ラグ214aのネジ孔にねじ込まれるようになっている。同様に、シェル211の外周面上において、フープ213bの近くの領域には、複数のラグ214bが、シェル211の周囲方向に間隔を空けて固定されている。これらのラグ214bもラグ214aと同様なネジ孔を有する。チューニングボルト215bは、フープ213bの挿入孔に挿入され、ラグ214bのネジ孔にねじ込まれるようになっている。
【0016】
スネアドラム200では、チューニングボルト215aを締めることにより、チューニングボルト215aの挿入されたフープ213aがドラムヘッド212aの外周縁部をラグ214a側に押し、ドラムヘッド212aのヘッド部のテンションが高められる。同様に、ネアドラム200では、チューニングボルト215bを締めることにより、チューニングボルト215bの挿入されたフープ213bがドラムヘッド212bの外周縁部をラグ214b側に押し、ドラムヘッド212bのヘッド部のテンションが高められる。
【0017】
次に打楽器駆動装置100について説明する。打楽器駆動装置100は、電気信号に応じて振動する前面101を有するアクチュエータ110と、アクチュエータ110を固定する固定部150とを有する。ここで、固定部150は、振動面であるドラムヘッド212aを有するスネアドラム200の外部において、前面101が振動面との間に空間を挟んで対向するようにアクチュエータ110をスネアドラム200のフープ213aに固定する。
【0018】
本実施形態における固定部150は、フープ213の上端外周縁部に固定される2つの第1支持部151uおよび151vと、これらの第1支持部151uおよび151vの上面に各々固定される第2支持部152uおよび152vと、これらの第2支持部152uおよび152v間を橋絡するアーチ状の第3支持部153と、この第3支持部153の中央において下方のアクチュエータ110を支持する第4支持部154とを有する。
【0019】
第1支持部151uおよび151vの各々は、フープ213aの上端外周縁部を挟みつけることによりフープ213aに固定される板状の第1水平部1511と、この第1水平部1511の上面から起立した棒状の垂直部1512と、この垂直部1512の上端に固定された板状の第2水平部1513とにより構成されている。この第2水平部1513には雌ネジ孔(図示略)が形成されている。
【0020】
第2支持部152uおよび152vには、スネアドラム200の径方向に延びた長孔(図示略)が形成されている。第2支持部152uおよび152vは、各々の長孔を介して第1支持部151uおよび151vの第2水平部1513の雌ネジ孔に挿通されるボルト1514により第2水平部1513に固定される。この構成によれば、径の異なる各種のスネアドラム200に固定部150を装着することができる。
【0021】
第4支持部154は、第3支持部153に固定された雌ネジ部1541と、この雌ネジ部1541に挿通された雄ネジ部1542とを有する。アクチュエータ110は、雄ネジ部1542の下端に固定される。この第4支持部154では、雄ネジ部1541を回転させることによりアクチュエータ110の高さを変化させ、前面101とドラムヘッド212aとの距離を調整することができる。
【0022】
本実施形態において、アクチュエータ110は、コーン型スピーカである。図2はアクチュエータ110の断面と振動面であるドラムヘッド212aとをアクチュエータ110の振動軸を含む平面により切断した断面図である。図2に示すように、コーン型スピーカであるアクチュエータ110は、前面101を囲む縁102を有し、縁102は振動面であるドラムヘッド212aから離間している。そして、前面101と縁102とで空気振動領域120が形成されている。
【0023】
さらに詳述すると、本実施形態において、前面101は、コーン型スピーカのコーン表面111と、その中心のセンタキャップ表面112とからなる。コーン表面111は、縁102の位置において振動面までの距離が最短であり、センタキャップ表面112に近づくに従って振動面までの距離が増加するすり鉢形状をなしている。ここで、振動面であるドラムヘッド212aとコーン型スピーカの縁102との距離は、5mm以上かつ50mm以下の範囲内であることが好ましい。また、前面101の中心の位置は、ドラムヘッド212aの中心の位置と一致していることが好ましい。
【0024】
そして、本実施形態では、アクチュエータ110に与えられる電気信号に応じて、前面101が図2の上下方向に振動し、この前面101の振動が空気振動領域120に与えられる。このアクチュエータ110に与えられる電気信号は、スネアドラム200のドラムヘッド212aをドラムスティックで打撃したときに発音される打撃音をマイクロホンで収音することにより得られる電気信号である。
【0025】
次に本実施形態の動作について説明する。本実施形態において、スネアドラムの打撃音波形を示す電気信号がアクチュエータ110に与えられると、アクチュエータ110の前面101が振動する。この前面101の振動は、空気振動領域120内の圧縮空気の弾力性を利用した空気バネによりドラムヘッド212aに伝達され、ドラムヘッド212aが振動することにより、ドラムヘッド212aから発音される。ドラムヘッド212aが振動すると、シェル211内の空気に上下方向の振動が伝わり、下側のドラムヘッド212bが振動し、ドラムヘッド212bから発音される。
【0026】
このように本実施形態によれば、アクチュエータ110に電気信号を与えて前面101を振動させることにより、空気バネを介してドラムヘッド212aを振動させ、このドラムヘッド212aの振動をシェル211内の空気を介してドラムヘッド212bに伝達させることができる。すなわち、本実施形態によれば、スネアドラム200のドラムヘッド212aをドラムスティックにより打撃したときに行われるスネアドラム200の各部間の振動伝達と同じ振動伝達を再現することができる。
【0027】
また、本実施形態において、固定部150は、スネアドラム200の外部において、前面101が振動面であるドラムヘッド212aとの間に空間を挟んで対向するようにアクチュエータ110を固定する。すなわち、本実施形態では、アクチュエータ110等、打楽器駆動装置100の構成部材がシェル211内部には配置されず、シェル211外部に配置される。従って、本実施形態によれば、ドラムヘッド212aに発生した振動がシェル211内の空気を介してドラムヘッド212bに伝達されるのを妨げることがない。
【0028】
また、本実施形態において、アクチュエータ110の前面101は、振動面であるドラムヘッド212aから離間しており、アクチュエータ110による振動面の加振は空気振動領域120内の空気バネを介して行われる。従って、本実施形態によれば、アクチュエータ110の前面101によって振動面の振動が妨げられず、スネアドラム200本来の打撃音を再現することができる。
【0029】
また、本実施形態では、前面101がすり鉢形状をなしており、仮に前面101を平面とした場合に比べて、空気振動領域120に振動を与える前面101の面積が大きくなる。従って、前面101の振動が効率的にドラムヘッド212aに伝達され、迫力のある打撃音が発音される。
【0030】
また、本実施形態では、アクチュエータ110によるドラムヘッド212aの加振の際に、ドラムヘッド212aの張力の調整の影響が少ない。このため、打楽器駆動装置100によるスネアドラム200の演奏を行う際に、チューニングボルト215aおよび215bを特別に調整する必要がなく、使い勝手がよいという利点がある。
【0031】
また、本実施形態において、アクチュエータ110に与えられる電気信号は、打楽器であるスネアドラム200の打撃音を収音することにより得られる電気信号である。従って、本実施形態によれば、この電気信号をアクチュエータ110に与えることにより、スネアドラム200のドラムヘッド212aをドラムスティックで打撃したときに得られる打撃音に近い打撃音が得られる。
【0032】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態があり得る。例えば次の通りである。
【0033】
(1)上記実施形態では、打楽器駆動装置をスネアドラムに適用したが、適用対象である打楽器は、スネアドラム以外のドラムであってもよい。図3はこの発明の他の実施形態である打楽器駆動装置100′および同打楽器駆動装置100′が装着されたバスドラム200′の構成を示す斜視図である。この打楽器駆動装置100′において、固定部150′は、三脚スタンドである。上記実施形態と同様、固定部150′は、アクチュエータ110′の前面101′が振動面であるドラムヘッド212a′との間に空間を挟んで対向するようにアクチュエータ110′を固定している。この態様においても、上記実施形態と同様な効果が得られる。
【0034】
(2)この発明による打楽器駆動装置が適用される打楽器は、スネアドラム、バスドラムに限定されるものではなく、例えばタムタム、フロアタム、シンバル、ティンパニ、太鼓等であってもよい。
【0035】
(3)楽曲におけるドラム演奏音波形を示す電気信号を打楽器駆動装置100のアクチュエータ110に供給するとを並行し、アーティストによる当該楽曲の演奏シーンの映像をスクリーンに再生するようにしてもよい。このようにすることで、演奏の臨場感を増すことができる。
【符号の説明】
【0036】
100,100′……打楽器駆動装置、200……スネアドラム、200′……バスドラム、150,150′……固定部、110,110′……アクチュエータ、101,101′……前面、120……空気振動領域、211……シェル、212a,212b……ドラムヘッド、213a,213b……フープ、214a,214b……ラグ、215a,215b……チューニングボルト、151u,151v……第1支持部、152u,152v……第2支持部、153……第3支持部、154……第4支持部、1511……第1水平部、1512……垂直部、1513……第2水平部、1514……ボルト、1541……雌ネジ部、1542……雄ネジ部。
図1
図2
図3