(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】縫合装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/04 20060101AFI20250617BHJP
【FI】
A61B17/04
(21)【出願番号】P 2021016121
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】大澤 直勝
(72)【発明者】
【氏名】飯島 竜太
(72)【発明者】
【氏名】市橋 昌志
(72)【発明者】
【氏名】大西 純慈
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂樹
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-193716(JP,A)
【文献】特開昭60-085736(JP,A)
【文献】特開2011-147770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に沿って所定間隔で並置され、第1糸を掛止させることが可能な糸掛止部が先端部に形成された複数本の縫合針と、
前記複数本の縫合針に係止させる前記第1糸を保持する第1糸保持機構と、
前記縫合針を、前記第1方向と交差する前記縫合針の先端方向である第2方向へ移動させる針移動機構と、
前記縫合針を前記第2方向へ移動させた状態において、前記第1方向に展張される前記第1糸のうち前記縫合針の糸掛止部に掛け止められた一部を、前記第1方向および前記第2方向と交差する第3方向に沿った向きへ前記縫合針の中心線まわりに局所的に回転させる糸回転構造と、を含み、
前記縫合針の側面には、前記縫合針が前記第2方向へ移動させられた状態において前記第1方向に貫通する糸通し用凹溝がそれぞれ形成されており、
前記糸回転構造は、前記縫合針の先端部に形成され、前記縫合針の中心線に対して点対称に形成された
、前記第1糸を相互間に通過させることが可能な2つの頂点と、前記2つの頂点間に連通して前記第3方向に形成された第3方向案内溝と、
前記2つの頂点と前記第3方向の案内溝とを接続する2つの案内面を有する
ことを特徴とする縫合装置。
【請求項2】
前記
2つの案内面は、前記2つの頂点から前記第3方向案内溝に向かって傾斜する2つの傾斜案内面
である
ことを特徴とする請求項1の縫合装置。
【請求項3】
前記糸通し用凹溝は、前記縫合針の先端に向うほど前記糸通し用凹溝の溝底が浅くなる傾斜面を備えている
ことを特徴とする請求項1または2の縫合装置。
【請求項4】
前記針移動機構は、
前記複数本の縫合針を保持する筐体内に備えられ、前記縫合針の基端側に設けられて前記縫合針を支持する針台と、
前記筐体の前記第1方向および前記第1方向とは反対向きの第4方向に沿って移動可能な移動部材とを備え、
前記針台は、前記筐体の内壁面に形成された案内部に係合する第1係合部と、前記移動部材に形成された縫合針を前記第2方向に駆動する針駆動カム溝に係合する第2係合部とを備え、
前記移動部材が移動することにより前記針台が前記案内部に沿って摺動させられ、前記縫合針が前記第2方向に向って移動させられる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1の縫合装置。
【請求項5】
前記第1方向に沿って並置された前記複数本の縫合針に連なる前記第1方向の端位置に、糸切針が設けられ、
前記糸切針の側面には、前記糸切針の先端側位置に前記糸切針の基端側に向いた切れ刃を有し、前記第1方向に貫通する糸切り用凹溝が、形成されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1の縫合装置。
【請求項6】
前記糸切り用凹溝の切れ刃は、前記切れ刃の先端に向うほど前記糸切針の基端側へ向って傾斜している
ことを特徴とする請求項5の縫合装置。
【請求項7】
開閉可能な第1筐体および第2筐体を備え、
前記第1筐体は、前記縫合針と前記第1糸と前記第1糸保持機構とを備え、
前記第2筐体は、前記第1方向に長手状であって、前記第1筐体および前記第2筐体が閉じられた状態において前記縫合針の側面に形成された前記糸通し用凹溝内を前記第1方向および前記第1方向と反対向きの第4方向へ移動させられる第1糸フックを、備える
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1の縫合装置。
【請求項8】
前記第1糸フックは、前記第1方向の先端部が、前記第1方向および前記第3方向を含む面内において前記第1方向に向うほど前記第3方向の幅が小さくなるように斜めに切断されて前記第1方向および前記第3方向に開く斜めの端面を有する管状部材と、前記第1方向の先端部がU字状に曲成されたフック部を有し、前記フック部が前記管状部材の前記斜めの端面に当接するまで前記管状部材内に前記第1方向および前記第4方向の相対移動可能に挿入されたフック部材とを有している
ことを特徴とする請求項7の縫合装置。
【請求項9】
前記第1糸フックは、前記針移動機構によって前記縫合針が前記第2方向へ移動させられた状態において、前記複数本の縫合針のうちの前記第1方向の端に位置する縫合針において縫合針により形成された糸ループを構成する前記第1糸を前記フック部で引っかけて前記フック部材を前記管状部材の前記斜めの端面に当接するまで前記管状部材内を相対移動させることで前記フック部と前記斜めの端面との間で把持した後、前記斜めの端面が前記第2方向とは反対向きの第5方向に向いた位置まで回転させられて前記糸通し用凹溝内を前記第4方向へ移動させられる
ことを特徴とする請求項8の縫合装置。
【請求項10】
前記第2筐体は、前記第1筐体および前記第2筐体が閉じられた状態において、前記複数本の縫合針のうちの前記第1方向の端に位置する縫合針よりも前記第1方向側に第2糸を保持する第2糸保持機構を備え、
前記第1糸フックは、前記針移動機構によって前記縫合針が前記第2方向へ移動させられた状態において、前記第2糸を把持した後に、前記フック部で引っかけて前記フック部材を前記管状部材に引っ込めることで前記フック部と前記斜めの端面との間で把持した後、前記斜めの端面が前記第2方向とは反対向きの第5方向に向いた位置まで回転させられて前記糸通し用凹溝内を前記第4方向へ移動させられる
ことを特徴とする請求項8の縫合装置。
【請求項11】
前記第1筐体には、前記第1糸保持機構から供給された前記第1糸を案内する第1糸案内溝と、前記第1方向および前記第4方向へ移動させられ、前記第1糸案内溝から前記縫合針の先端部を経由した前記第1糸が掛けられる第2糸フックと、前記第2糸フックに掛けられた前記第1糸の先端部を掛け止める第1糸掛止溝と、が備えられる
ことを特徴とする請求項10の縫合装置。
【請求項12】
前記第1筐体と前記第2筐体との間に被縫合物を挟んだ閉状態、又は前記第1筐体と前記第2筐体とが離隔した開状態を維持する開閉機構と、
前記開閉機構による前記第1筐体と前記第2筐体との間の閉状態を維持するロック機構と、を備える
ことを特徴とする請求項7から10のいずれか1の縫合装置。
【請求項13】
前記開閉機構は、前記第2筐体の端部において前記第2筐体を前記第1筐体に固定し、且つ開状態又は閉状態の間で前記第2筐体を回動可能な回動軸心を備え、
前記ロック機構は、前記第1方向に沿った長手状の部材であって、前記第2筐体に前記回動軸心に対して交差する方向に抜き挿し可能であり、前記回動軸心まわりの回動を防止する回動防止部材と、前記第1筐体に設けられ、前記回動防止部材を抜き挿し可能に嵌め入れる係合穴と、を備える
ことを特徴とする請求項12の縫合装置。
【請求項14】
第1方向に沿って所定間隔で並置され、第1糸を掛止させることが可能な糸掛止部が先端部に形成された複数本の縫合針と、
前記複数本の縫合針に係止させる前記第1糸を保持する第1糸保持機構と、
前記縫合針を、前記第1方向と交差する前記縫合針の先端方向である第2方向へ移動させる針移動機構と、
前記縫合針を前記第2方向へ移動させた状態において、前記第1方向に展張される前記第1糸のうち前記縫合針の糸掛止部に掛け止められた一部を、前記第1方向および前記第2方向と交差する第3方向に沿った向きへ前記縫合針の中心線まわりに局所的に回転させる糸回転構造と、を含み、
前記縫合針の側面には、前記縫合針が前記第2方向へ移動させられた状態において前記第1方向に貫通する糸通し用凹溝がそれぞれ形成されており、
前記縫合針の先端部には、前記第1糸を相互間に通過させることが可能な2つの頂点と、前記2つの頂点間に形成された前記第1方向の掛止凹溝とが形成され、
前記糸回転構造は、前記2つの頂点間に形成された前記第1方向の掛止凹溝を前記第3方向に回転させるように前記縫合針を前記縫合針の中心線まわりに回転させる縫合針回転機構を、備える
ことを特徴とする縫合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製のステープルを用いることなく縫合糸を用いて被縫合物を一挙に縫合することができる縫合装置に関し、特に縫合前の縫合糸の設定作業を容易として縫合時間を短縮できるようにする縫合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の外科等の分野において被縫合物を縫合するに際して、金属製のステープルを用いることなく、被縫合物の縫合部位全体を縫合糸を用いて一挙に縫合することができる縫合装置が提案されている。例えば、特許文献1にて提案された縫合装置がそれである。
【0003】
この特許文献1にて提案された縫合装置は、被縫合物を挟むため互いに接近離隔可能に設けられた第1筐体および第2筐体と、前記第1筐体において前記第2筐体に先端部を向けて並んで配置され、縫合糸を前記先端部に保持可能な複数本の針と、前記複数本の針を前記第2筐体に向かって移動させる針移動機構と、前記第2筐体に設けられ、前記針移動機構により移動させられた前記複数本の針により前記被縫合物を通して前記第2筐体に到達した縫合糸を掛けるために前記複数本の針の配置方向に沿って移動可能に設けられた糸フックとを備える。
【0004】
この縫合装置によれば、第1筐体及び第2筐体が互いに接近させられて被縫合物が挟まれた状態で、針移動機構によって、前記第1筐体に配置され、且つ縫合糸を先端部に保持する複数本の針が前記第2筐体に向かって移動させられると、複数本の針の先端が被縫合物を通して第2筐体へ到達させられる。この状態で、糸フックが前記複数本の針の配列方向に沿って移動操作されることで、前記複数本の針により前記被縫合物を通して前記第2筐体に到達した縫合糸がそれぞれ形成する糸ループを糸フックが通され、糸フックの先端部に通された縫合糸により糸ループが掛けられるので、単純な操作に基づく機械的な動作により、簡単かつ確実に被縫合物に縫合糸による縫い目が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において提案された縫合装置では、縫合部位の縫合に先立って、縫合針の配列方向に対して局所的に直角方向となるように、縫合針の配列方向に沿って配置された縫合糸の一部を縫合針毎の先端部にそれぞれ掛け止める細かな設定作業が必要とされる。このため、縫合時間を短縮することの障害となっていた。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、縫合作業に先立つ縫合糸の設定作業が簡単であり、縫合作業時間を短縮できる縫合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の要旨とするところは、(a)第1方向に沿って所定間隔で並置され、第1糸を掛止させることが可能な糸掛止部が先端部に形成された複数本の縫合針と、(b)前記複数本の縫合針に係止させる前記第1糸を保持する第1糸保持機構と、(c)前記縫合針を、前記第1方向と交差する前記縫合針の先端方向である第2方向へ移動させる針移動機構と、(d)前記縫合針を前記第2方向へ移動させた状態において、前記第1方向に展張される前記第1糸のうち前記縫合針の糸掛止部に掛け止められた一部を、前記第1方向および前記第2方向と交差する第3方向に沿った向きへ前記縫合針の中心線まわりに局所的に回転させる糸回転構造と、を含み、(e)前記縫合針の側面には、前記縫合針が前記第2方向へ移動させられた状態において前記第1方向に貫通する糸通し用凹溝がそれぞれ形成されていることにある。
【発明の効果】
【0009】
第1発明の縫合装置によれば、前記縫合針を前記第2方向へ移動させた状態において、前記第1方向に展張される前記第1糸のうち前記縫合針の糸掛止部に掛け止められた一部を、前記第1方向および前記第2方向と交差する第3方向に沿った向きへ前記縫合針の中心線まわりに局所的に回転させる糸回転構造と、を含み、前記縫合針の側面には、前記縫合針が前記第2方向へ移動させられた状態において前記第1方向に貫通する糸通し用凹溝がそれぞれ形成されている。縫合作業に先立って、第1糸を直線状に張った状態で縫合針の糸掛止部に係止させた状態で、縫合針が第2方向へ移動させられると、糸回転構造によって、第1方向に展張される第1糸のうち縫合針の糸掛止部に掛け止められた一部が、第1方向および第2方向と交差する第3方向に沿った向きへ縫合針の中心線まわりに局所的に回転させられる。この状態において、第1方向に貫通する糸通し用凹溝の開口には糸ループが形成されるので、その糸ループを第1糸或いは第2糸が引き通されることにより、縫合が一挙に行なわれる。このように、縫合作業に先立って、第1糸を直線状に張った状態で縫合針の糸掛止部に係止させることにより、第1糸の縫合針への配置作業が完了するので、縫合作業に先立つ縫合糸の設定作業が簡単となる。
【0010】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記糸通し用凹溝は、前記縫合針の先端に向うほど前記糸通し用凹溝の溝底が浅くなる傾斜面を備えていることにある。これにより、縫合針を被縫合物から引き抜くに際して糸通し用凹溝の被縫合物に対する引っ掛かりが抑制され、引き抜きが容易となる。
【0011】
第3発明の要旨とするところは、第1発明または第2発明において、前記糸回転構造は、前記縫合針の先端部に形成された、前記第1糸を相互間に通過させることが可能な2つの頂点と、前記2つの頂点間に連通して前記第3方向に形成された第3方向案内溝と、前記2つの頂点から前記第3方向案内溝に向かって傾斜する2つの傾斜案内面と、を有することにある。これにより、縫合針が前記被縫合物に穿刺されるに関連して、複数本の縫合針の先端部に形成された2つの頂点間に係止された第1糸のうち、2つの頂点を通過した第1方向の一部が、第3方向案内溝によって第3方向へ自動的に案内される。
【0012】
第4発明の要旨とするところは、第3発明において、前記2つの頂点および前記2つの傾斜案内面は、前記縫合針の中心線に対して点対称に形成されていることにある。これにより、2つの頂点間に係止された第1方向の第1糸の一部は、第3方向案内溝内に落ち込むに従って第3方向に局所的に回転させられる。
【0013】
第5発明の要旨とするところは、第1発明または第2発明において、前記縫合針の先端部には、前記第1糸を相互間に通過させることが可能な2つの頂点と、前記2つの頂点間に形成された前記第1方向の掛止凹溝とが形成され、前記糸回転構造は、前記2つの頂点間に形成された前記第1方向の掛止凹溝を前記第3方向に回転させるように前記縫合針を前記縫合針の中心線まわりに回転させる縫合針回転機構を、備えることにある。これにより、2つの頂点間に形成された第1方向の掛止凹溝に掛け止められた第1方向の第1糸の一部は、縫合針回転機構によって縫合針が回転させられるに従って第3方向に局所的に回転させられる。
【0014】
第6発明の要旨とするところは、第1発明から第5発明のいずれか1の発明において、前記針移動機構は、前記複数の縫合針を保持する筐体内に備えられ、前記縫合針の基端側に設けられて前記縫合針を支持する針台と、前記筐体の前記第1方向および前記第1方向とは反対向きの第4方向に沿って移動可能な移動部材とを備え、前記移動部材が移動することにより前記針台が前記案内部に沿って摺動させられ、前記縫合針が前記第2方向に向って移動させられることにある。これにより、縫合針は、その基端部に設けられた針台が、筐体の内壁面に形成された突出し案内可能状態で係合させられる第1係合部と、移動部材に形成された縫合針を突出し方向に駆動する針駆動カム溝に係合する第2係合部とを備えているため、移動部材の移動に伴って縫合針がその先端側である第2方向へ一挙に移動させられる。
【0015】
第7発明の要旨とするところは、第1発明から第6発明のいずれか1の発明において、前記第1方向に沿って並置された前記複数本の縫合針に連なる前記第1方向の端位置に、糸切針が設けられ、前記糸切針の側面には、前記糸切針の先端側位置に前記糸切針の基端側に向いた切れ刃を有し、前記第1方向に貫通する糸切り用凹溝が、形成されていることにある。これにより、糸切針が筐体内に引き込まれることにより、糸ループを通された第1糸が切断される。
【0016】
第8発明の要旨とするところは、第7発明において、前記糸切り用凹溝の切れ刃は、前記切れ刃の先端に向うほど前記糸切針の基端側へ向って傾斜していることにある。これにより、糸切針の基端部側へ筐体内に引き込まれるとき、糸切り用凹溝内の第1糸が逃げることが抑制され、確実に第1糸が切断される。
【0017】
第9発明の要旨とするところは、第1発明から第8発明のいずれか1の発明において、開閉可能な第1筐体および第2筐体を備え、前記第1筐体は、前記縫合針と前記第1糸と前記第1糸保持機構とを備え、前記第2筐体は、前記第1方向に長手状であって、前記第1筐体および前記第2筐体が閉じられた状態において前記縫合針の側面に形成された前記糸通し用凹溝内を前記第1方向および前記第1方向と反対向きの第4方向へ移動させられる第1糸フックを、備えることにある。これにより、第1糸又は第2筐体に備えられた第2糸を引っかけた第1糸フックが、縫合針の第3方向側に形成された糸ループ内を通過させられることで、縫合が一挙に行なわれる。
【0018】
第10発明の要旨とするところは、第9発明において、前記第1糸フックは、前記第1方向の先端部が、前記第1方向および前記第3方向を含む面内において前記第1方向に向うほど前記第3方向の幅が小さくなるように斜めに切断されて前記第1方向および前記第3方向に開く斜めの端面を有する管状部材と、前記第1方向の先端部がU字状に曲成されたフック部を有し、前記フック部が前記管状部材の前記斜めの端面に当接するまで前記管状部材内に前記第1方向および前記第4方向の相対移動可能に挿入されたフック部材とを有している。これにより、フックワイヤと鉤部とフックパイプの斜めの端面との間に第1糸又は第2糸が把持されて糸ループ内を引き通される。
【0019】
第11発明の要旨とするところは、第10発明において、前記第1糸フックは、前記針移動機構によって前記縫合針が前記第2方向へ移動させられた状態において、前記複数本の縫合針のうちの前記第1方向の端に位置する縫合針において縫合針により形成された糸ループを構成する前記第1糸を前記フック部で引っかけて前記フック部材を前記管状部材の前記斜めの端面に当接するまで前記管状部材内を相対移動させることで前記フック部と前記斜めの端面との間で把持した後、前記斜めの端面が前記第2方向とは反対向きの第5方向に向いた位置まで回転させられて前記糸通し用凹溝内を前記第4方向へ移動させられる。これにより、第1糸による縫合が一挙に行なわれる。
【0020】
第12発明の要旨とするところは、第9発明又は第10発明において、前記第2筐体は、前記第1筐体および前記第2筐体が閉じられた状態において、前記複数本の縫合針のうちの前記第1方向の端に位置する縫合針よりも前記第1方向側に第2糸を保持する第2糸保持機構を備え、前記第1糸フックは、前記針移動機構によって前記縫合針が前記第2方向へ移動させられた状態において、前記第2糸を把持した後に、前記フック部で引っかけて前記フック部材を前記管状部材に引っ込めることで前記フック部と前記斜めの端面との間で把持した後、前記斜めの端面が前記第2方向とは反対向きの第5方向に向いた位置まで回転させられて前記糸通し用凹溝内を前記第4方向へ移動させられることにある。これにより、第1糸と第2糸とにより被縫合物が縫合される。
【0021】
第13発明の要旨とするところは、第12発明において、前記第1筐体には、前記第1糸保持機構から供給された前記第1糸を案内する第1糸案内溝と、前記第1方向および前記第4方向へ移動させられ、前記第1糸案内溝から前記縫合針の先端部を経由した第1糸が掛けられる第2糸フックと、前記第2糸フックに掛けられた前記第1糸の先端部を掛け止める第1糸掛止溝と、が備えられることにある。これにより、第2糸フックにより第1糸が引き締められるので、ゆるみのない縫合が得られる。
【0022】
第14発明の要旨とするところは、第9発明から第13発明のいずれか1の発明において、前記第1筐体と前記第2筐体との間に被縫合物を挟んだ閉状態、又は前記第1筐体と前記第2筐体とが離隔した開状態を維持する開閉機構と、前記開閉機構による前記第1筐体と前記第2筐体との間の閉状態を維持するロック機構と、を備えることにある。これにより、複数本の縫合針の被縫合物への穿刺に際して、第1筐体内の縫合針が移動機構によって第2方向側へ移動させられたとき、第1筐体と第2筐体とが開くことが制限される。
【0023】
第15発明の要旨とするところは、第14発明において、前記開閉機構は、前記第2筐体の端部において前記第2筐体を前記第1筐体に固定し、且つ開状態又は閉状態の間で前記第2筐体を回動可能な回動軸心を備え、前記ロック機構は、前記第1方向に沿った長手状の部材であって、前記第2筐体に前記回動軸心に対して交差する方向に抜き挿し可能であり、前記回動軸心まわりの回動を防止する回動防止部材と、前記第1筐体に設けられ、前記回動防止部材を抜き挿し可能に嵌め入れる係合穴と、を備えることにある。これにより、複数本の縫合針の被縫合物への穿刺に際して、回動防止部材が第2筐体に対して挿し込まれることにより、第1筐体と第2筐体とが開くことが制限される。
【0024】
第16発明の要旨とするところは、(a)第1方向に沿って所定間隔で並置され、前記第1方向に貫通する糸通し用凹溝がそれぞれ形成され、第1糸を先端部に掛止させることが可能な複数本の縫合針を用いて被縫合物を縫合する縫合方法であって、(b)前記複数本の縫合針の前記被縫合物への穿刺前に、前記複数本の縫合針の先端部上に前記第1糸を前記第1方向に沿って直線状に掛け止める第1糸掛止載置工程と、(c)前記複数本の縫合針を前記被縫合物へ穿刺し、前記第1糸のうち前記縫合針に掛け止められた部分の方向を前記第1方向と直交する第3方向に局所的に回転させて前記糸通し用凹溝の開口上に位置させる穿刺工程と、(d)前記第1方向に移動し、前記糸通し用凹溝を通した糸フックの先端部に第1糸を掛け止めた状態で前記糸フックを前記第1方向とは反対向きの第4方向へ移動することで、前記縫合針毎に前記第1糸で形成された糸ループ内に前記第1糸を通す第1糸縫合工程と、(e)前記縫合針を前記被縫合物から引き抜く針抜工程と、を含むことにある。これにより、縫合作業に先立って、第1糸を直線状に張った状態で縫合針の糸掛止部に係止させた状態で、縫合針が第2方向へ移動させられると、糸回転構造によって、第1方向に展張される第1糸のうち縫合針の糸掛止部に掛け止められた一部が、第1方向および第2方向と交差する第3方向に沿った向きへ縫合針の中心線まわりに局所的に回転させられる。この状態において、第1方向に貫通する糸通し用凹溝の開口には糸ループが形成されるので、糸フックが糸通し用凹溝内を通されて糸ループを第1糸或いは第2糸を通されることにより、縫合が一挙に行なわれる。このように、縫合作業に先立って、第1糸を直線状に張った状態で縫合針の糸掛止部に係止させることにより、第1糸の縫合針への配置作業が完了するので、縫合作業に先立つ縫合糸の設定作業が簡単となる。
【0025】
第17発明の要旨とするところは、(a)第1方向に沿って所定間隔で並置され、前記第1方向に貫通する糸通し用凹溝がそれぞれ形成され、第1糸を先端部に掛止させることが可能な複数本の縫合針を用いて被縫合物を縫合する縫合方法であって、(b)前記複数本の縫合針の前記被縫合物への穿刺前に、前記複数本の縫合針の先端部上に前記第1糸を前記第1方向に沿って直線状に掛け止める第1糸掛止載置工程と、(c)前記複数本の縫合針を前記被縫合物へ穿刺し、前記第1糸のうち前記縫合針に掛け止められた部分の方向を前記第1方向と直交する第3方向に局所的に回転させて前記糸通し用凹溝の開口上に位置させる穿刺工程と、(d)前記第1方向に移動し、前記糸通し用凹溝を通した糸フックの先端部に第2糸を掛け止めた状態で前記糸フックを前記第1方向とは反対向きの第4方向へ移動することで、前記縫合針毎に前記第1糸で形成された糸ループ内に前記第2糸を通す第2糸縫合工程と、(e)前記縫合針を前記被縫合物から引き抜く針抜工程と、を含むことにある。これにより、縫合作業に先立って、第1糸を直線状に張った状態で縫合針の糸掛止部に係止させた状態で、縫合針が第2方向へ移動させられると、糸回転構造によって、第1方向に展張される第1糸のうち縫合針の糸掛止部に掛け止められた一部が、第1方向および第2方向と交差する第3方向に沿った向きへ縫合針の中心線まわりに局所的に回転させられる。この状態において、第1方向に貫通する糸通し用凹溝の開口には糸ループが形成されるので、糸フックが糸通し用凹溝内を通されて糸ループを第1糸或いは第2糸を通されることにより、縫合が一挙に行なわれる。このように、縫合作業に先立って、第1糸を直線状に張った状態で縫合針の糸掛止部に係止させることにより、第1糸の縫合針への配置作業が完了するので、縫合作業に先立つ縫合糸の設定作業が簡単となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施例の縫合装置の全体を説明する斜視図である。
【
図3】
図1及び
図2の縫合装置において、第1筐体から離した第2筐体を第1筐体に対して立てた状態で示す斜視図である。
【
図4】
図3の縫合装置を第1筐体の先端側から示す図である。
【
図6】
図2の縫合装置の断面図であって、縫合針の針中心線を通る断面を示す図である。
【
図7】
図2の縫合装置の断面図であって、カッターの中心を通る断面を示す図である。
【
図8】
図2の縫合装置の断面図であって、ロックパイプの中心を通る断面を示す図である。
【
図9】
図1の縫合装置を構成する第1筐体の本体を拡大して説明する平面図である。
【
図10】
図1の縫合装置を構成する第1筐体の本体を拡大して説明する図であって、
図9のX-X視断面図である。
【
図11】
図1の縫合装置に用いられている縫合針の構成を説明する斜視図である。
【
図12】
図1の縫合装置に用いられている糸切針の構成を説明する斜視図である。
【
図13】
図1の縫合装置に用いられている上糸フックの先端部を拡大して示す正面図である。
【
図15】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、下糸を設定する縫合予備工程を説明する図である。
【
図16】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、穿刺工程或いは下糸回転工程を説明する図である。
【
図17】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、一対の上糸フックが前進させられた状態を示す図である。
【
図18】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、前進させられた上糸フックが、鉤部が平行な水平な姿勢となるように回転させられた後、フックパイプの斜めの斜面からフックワイヤの鉤部が突き出された状態を示す図である。
【
図19】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、上糸フック操作部の後退操作で、上糸フックが所定距離後退させられた状態を示す図である。
【
図20】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、上糸フック操作部のうちのワイヤ連結部材が後退操作されることで、フックワイヤの鉤部がフックパイプの斜めの斜面内に引き込まれた状態を示す図である。
【
図21】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、操作歯車の操作により上糸フックが先端に向って左まわりに90°回転させられた状態を示す図である。
【
図22】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、上糸フック操作部が後退操作されることで、上糸フックが元の位置へ向って第4方向へ後退させられ、また、縫合針が第1筐体内に引っ込められるが糸切針は第1筐体に立設されたままとなるように針操作部材が操作され、下糸フック操作部のパイプ連結部材を前進させて下糸を把持したままで下糸フックが後退させられて下糸が引き締められた状態を示す図である。
【
図23】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、被縫合物を切断するために、カッタープッシャーによりカッターが前進端まで移動させられている状態を示す図である。
【
図24】
図1の縫合装置の作動を説明する図であって、上糸及び下糸を切断するために、糸切針が第1筐体内に引き込まれるように針操作部材がさらに後退操作された状態を示す図である。
【
図25】
図1の縫合装置に用いられる縫合針の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は発明に関連する要部を説明するものであり、寸法及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の一実施例である縫合装置10の要部を示す斜視図である。
図2は、その縫合装置10を
図1の上方から見た平面図である。
図3は、第2筐体14が第1筐体12から開いた状態を示す斜視図である。
図4は、第2筐体14が第1筐体12から開いた状態において、第2筐体14の合わせ面を示す図である。
図5は、第2筐体14を取り外した第1筐体12を示す平面図である。
図6は、
図2の縫合針34の中心を通る断面図である。
図7は、
図2のカッター76を通る断面図である。
図8は、
図2のロックパイプ110を通る断面図である。
【0029】
図1から
図8に示すように、縫合装置10は、開閉可能に連結された長手状の第1筐体12及び第2筐体14を備え、全体として角柱状を成している。第1筐体12の長手方向の中間部には、C字状の軸受16が一体的に突設されている。第2筐体14の基端には軸受16に着脱可能に受け入れられる回動軸18が一体的に突設されている。回動軸18が軸受16に支持されている状態では、第1筐体12及び第2筐体14が回動軸18の中心線である回動軸心Cまわりに相対回動可能に連結されている。軸受16及び回動軸18は、第1筐体12及び第2筐体14の開閉機構として機能している。
【0030】
本実施例では、
図1に示すように、縫合装置10の長手方向のうちの縫合装置10の先端側に向う方向を第1方向とするとともに縫合装置10の基端側に向う第1方向とは反対向きの方向を第4方向とし、縫合装置10の高さ方向のうちの第1筐体12から第2筐体14へ向う方向すなわち
図1の上方へ向う方向を第2方向とするとともに第2筐体14から第1筐体12へ向う第2方向とは反対向きの方向を第5方向とし、第1方向及び第2方向と直交する縫合装置10の幅方向のうちの
図1の手前側に向う方向を第3方向とするとともに
図1の奥側へ向う第3方向とは反対向きの方向を第6方向とする。上記回動軸18の回動軸心Cは、第3方向或いは第6方向と平行である。
【0031】
図5及び
図6に示すように、第1筐体12は、複数本(本実施例では5本)の縫合針34及び1本の糸切針36を保持する本体20と、本体20にボルト21により固定されたカバー部材80と、カバー部材80に固定された操作部材支持台100とを備えている。複数本の縫合針34の配列方向の中心間隔は一定であるが、糸切針36はその中心間隔よりも大きい中心間隔で複数本の縫合針34の基端側に一列に配置されている。
【0032】
本体20は、
図9及び
図10に示されているように、長手状の底壁22と、底壁22の幅方向の両端縁から立設された長手状の一対の側壁24及び26と、底壁22の幅方向の中央から一対の側壁24及び26と平行に立設された長手状の中央壁28とを、一体的に備えている。長手状の側壁24、26、及び中央壁28のうちの基端側端部は、側壁24と中央壁28との間及び側壁26と中央壁28との間にそれぞれ
図1に示すスペーサ部材30を介在させた状態で相互に固定されている。また、長手状の側壁24、26、及び中央壁28のうちの第1筐体12の基端側の一部には、第1方向に伸びる所定長さの長穴32が第1筐体12の幅方向に貫通してそれぞれ形成されている。
【0033】
側壁24及び中央壁28の対向面、及び側壁26及び中央壁28の対向面のうちの第1筐体12の先端側のそれぞれには、例えば
図11に示す縫合針34、及び例えば
図12に示す糸切針36を縫合装置10の高さ方向に案内するための複数対の案内溝38が高さ方向に平行に所定間隔で形成されている。
【0034】
縫合針34は、縫合針34を縫合装置10の高さ方向に向いた姿勢を維持しつつ縫合装置10の高さ方向へ移動可能に支持する基端部40と、第1糸に対応する下糸42を掛け止める糸掛止部として機能するとともに下糸42のうち縫合針34の先端に掛け止められた一部を、第1方向から第3方向の向きへ縫合針34の針中心線CNまわりに局所的に回転させる糸回転構造として機能する先端部44と、基端部40と先端部44との間の側面において第1方向に貫通するように形成された糸通し用凹溝46とを、備えている。
【0035】
縫合針34の基端部40は、縫合針34の基端に設けられた直方体状の針台40aと、針台40aから第1筐体12の幅方向にそれぞれ突き出す一対の突起40bとを備えている。突起40bには、案内溝38内に摺動可能に嵌め入れられる断面矩形の第1係合突部40cと、
図10に示す後述の針駆動カム溝68内に摺動可能に嵌め入れられる断面円形の第2係合突部40dとが先端から順に形成されている。
【0036】
縫合針34の先端部44には、第1方向の下糸42を相互間に通過させることが可能な、縫合針34の径よりも小さい間隔を隔てて位置する2つの頂点44a及び44bと、2つの頂点44a及び44bの間に連通して形成され、第1方向の下糸42のうち2つの頂点44a及び44b間を通過した一部を第3方向へ案内するように第3方向に形成された第3方向案内溝44cと、頂点44a及び44bから第3方向案内溝44cに沿ってそれぞれ傾斜する1対の傾斜案内面44d、44eとが形成されている。2つの頂点44a及び44bと、1対の傾斜案内面44d、44eとは、第3方向案内溝44cとの両側に位置するとともに、縫合針34の針中心線CNに対して点対称となるように位置させられており、頂点44a及び44bと第3方向案内溝44cとの間は傾斜面により連続させられている。第3方向案内溝44cは、縫合針34の針中心線CNを通過する位置に凸状に形成されている。
【0037】
糸通し用凹溝46は、縫合針34の先端部44に向かうほど溝底が浅くなる傾斜面46aと、縫合針34の基端部40へ向かうほど溝底が浅くなる傾斜面46bと、傾斜面46aと傾斜面46bとの間に針中心線CNに平行に設けられた平坦な溝底46cと、を備えている。
【0038】
糸切針36は、縫合針34の基端部40と同様に構成された基端部50と、半球状に丸められた形状とされた先端部52と、糸切針36の側面に第1方向に貫通して形成された糸切り用凹溝54とを、備えている。基端部50は、糸切針36の基端に設けられた直方体状の針台50aと、針台50aから第1筐体12の幅方向にそれぞれ突き出す一対の突起50bとを備えている。突起50bには、案内溝38内に摺動可能に嵌め入れられる断面矩形の第1係合突部50cと、
図10に示す針駆動カム溝68内に摺動可能に嵌め入れられる断面円形の第2係合突部50dとが先端から順に形成されている。
【0039】
糸切り用凹溝54において、糸切針36の先端部側側壁54a及び基端部側側壁54bは、溝底54cへ向うほど糸切針36の先端部52側へ向う傾斜面となるように形成されている。先端部側側壁54aの周縁には、糸切針36の基端部50側に向うほど糸切り用凹溝54の開口に向うように傾斜した切れ刃56が形成されている。
【0040】
図9及び
図10に詳しく示すように、側壁24及び中央壁28の間、及び側壁26及び中央壁28の間には、複数本の縫合針34及び1本の糸切針36が第1方向に沿って所定間隔でそれぞれ並置されている。また、側壁24及び中央壁28の間には、複数本の縫合針34及び1本の糸切針36を挟んで1対の針駆動板60、62が縫合装置10の長手方向に移動可能に挿入されており、側壁26及び中央壁28の間には、複数本の縫合針34及び1本の糸切針36を挟んで1対の針駆動板64、66が縫合装置10の長手方向に移動可能に挿入されている。針駆動板60、62及び針駆動板64、66には、縫合針34の基端部40及び1本の糸切針36の基端部50にそれぞれ形成された第2係合突部40d、50dが係合させられて縫合針34及び1本の糸切針36を縫合装置10の高さ方向に駆動する針駆動カム溝68がそれぞれ形成されている。1対の針駆動板60、62と1対の針駆動板64、66とは、第1筐体12の基端側面側において長穴32から一部が突き出す針操作部材70によって相互に連結されている。
【0041】
針駆動板60、62、64及び66の針駆動カム溝68は、先端側から基端側へ向うに伴って、縫合針34の1つの配置ピッチに対応する区間は第2方向へ向うように傾斜し、以後は、第4方向へ向うように直線的に平坦に形成されている。これにより、針操作部材70が第1方向へ操作されると、糸切針36から縫合針34へ順に第2方向へ駆動される。
【0042】
針操作部材70によって第1筐体12の長手方向に操作される針駆動板60、62及び針駆動板64、66と、縫合針34の基端部40に形成され、針駆動板60、62、64、66に形成された針駆動カム溝68にそれぞれ係合する第2係合突部40dと、縫合針34の基端部40に形成され、側壁24、26、及び中央壁28の対向面に形成された案内溝38にそれぞれ係合する第1係合突部40cとが、縫合針34を縫合装置10の高さ方向(第2方向)へ移動させる針移動機構として機能している。
【0043】
図7~
図9に示すように、中央壁28の第2方向側の面には、カッター案内溝72が形成されており、カッタープッシャー74の先端に装着されたカッター76がカッター案内溝72に沿って移動させられるようになっている。カッタープッシャー74は、本体20にボルト21により固定されたカバー部材80の蓋板部82により、長手方向の移動可能に保持されている。カッター76は、薄い鋼板製であって、例えば、第1筐体12と第2筐体14との間に挟まれた被縫合物Tのうちの一対の縫合部位の間を切断するために用いられる。
【0044】
図1に示すように、カバー部材80は、第1筐体12の第2方向側を閉じる蓋板部82と、下糸42が巻回された下糸ボビン84を収容し、第1筐体12の本体20の先端側を閉じる箱部86とを一体的に備えている。下糸ボビン84は、縫合のために供給される下糸42を保持する糸保持機構として機能している。
【0045】
図3、
図5等に示すように、蓋板部82には、縫合針34及び糸切針36を通すための2列の複数の針穴88と、カッター76の移動を可能とするための長穴90とが形成されている。複数の針穴88のうちの糸切針36を通す針穴88は、糸切針36に形成された切れ刃56との間で上糸138及び下糸42を切断する切れ刃として機能する。また、箱部86には、
図1、
図3、
図4に示すように、下糸42が巻回された下糸ボビン84が収容されるとともに、下糸ボビン84から引き出された下糸42を取り出すための糸穴92が形成されている。また、箱部86及び蓋板部82には、
図5及び後述の
図15、
図16に示すように、糸穴92、針穴88、及び下糸フック102のU字状の鉤部102aを収容する切欠き94を通過する直線状の糸溝96が形成されている。糸溝96は、初期設定作業に際して、下糸42を嵌め入れて一時的に位置決めするためのものである。蓋板部82の基端部側の側縁には、下糸42の端を仮止めする糸止溝98が形成されている。
【0046】
図1~3、
図5~8に示すように、カバー部材80の蓋板部82のうち、C字状の軸受16が突設された長手方向の中間部よりも第1筐体12の基端部側には、厚板状の操作部材支持台100が固定されている。操作部材支持台100は、それが固定されたカバー部材80の蓋板部82との間で、一対の下糸フック102を長手方向の移動可能に保持している。また、
図4に示すように、操作部材支持台100には、第1筐体12の長手方向に貫通する一対の上糸フック貫通穴104と、第1筐体12の長手方向に貫通するロックパイプ係合穴106とが形成されている。操作部材支持台100は、長手状の一対の上糸フック108を上糸フック貫通穴104を通した状態で長手方向の摺動可能に保持している。また、操作部材支持台100は、ロックパイプ110の径よりも小さい厚みを有するロックパイプ操作部110aが先端部に設けられた長手状の一本のロックパイプ110をロックパイプ係合穴106を通した状態で長手方向の摺動可能に保持している。
【0047】
図8に示すように、ロックパイプ110は、第2筐体14に形成されたロックパイプ案内溝160に挿し入れられることで、第1筐体12と第2筐体14との間に挟まれた被縫合物Tに複数本の縫合針34を穿刺に際して、第1筐体12と第2筐体14とが開くことが制限されようになっている。ロックパイプ110は回動防止部材として機能し、ロックパイプ110及びロックパイプ案内溝160等は、第2筐体14の第1筐体12に対する回動を防止するロック機構として機能している。
【0048】
上糸フック108は、初期状態において、
図13及び
図14に詳しく示す、先端がU字状に回曲されることで上糸138を掛け止めるための鉤部108aが形成されたフックワイヤ108b、及びフックワイヤ108bが挿通されたフックパイプ108cと、
図1に示す後述の上糸フック操作部112とから構成されている。
【0049】
フックパイプ108cの第1方向の先端は、第1方向及び第3方向を含む面内において第1方向に向うほど第3方向の幅が小さくなるように斜めに切断されていて、第1方向及び第3方向に開く斜めの端面108dを有する管材である。端面108dのうちの第5方向側には、鉤部108aを構成するフックワイヤ108bのうちの斜めの端面108dに当接する部分を受け入れて斜めの端面108dを面一とする切欠き108eが形成されている。
【0050】
上糸フック操作部112は、
図1~
図3、
図5~
図8等に示すように、一対のフックワイヤ108bの基端側端部を回転可能且つ長手方向に移動不能に連結するワイヤ連結部材114と、一対のフックパイプ108cの基端側端部を回転可能且つ長手方向に移動不能に連結するパイプ連結部材116と、ワイヤ連結部材114とパイプ連結部材116との間に介挿されて相互に離隔する方向、すなわち、フックワイヤ108bの鉤部108aをフックパイプ108cの端面108dに押しつける方向に付勢するスプリング118と、ワイヤ連結部材114とパイプ連結部材116とを掛け止めてそれらの離間を止める掛止操作具120と、一対のフックパイプ108cの基端部に固定された一対の歯車122、及び一対の歯車122と噛み合う操作歯車124と、から構成されている。
【0051】
下糸フック102は、
図6に示されるように、先端がU字状に回曲されることで下糸42を掛け止めるための鉤部102aが形成されたフックワイヤ102bと、フックワイヤ102bが挿通され、直角に切断された端面を有するフックパイプ102cと、
図1~
図5等に詳しく示す下糸フック操作部128とから構成されている。
【0052】
図3及び
図6に示すように、下糸フック操作部128は、一対のフックワイヤ102bの基端側端部を回転不能且つ長手方向に移動不能に連結するワイヤ連結部材130と、一対のフックパイプ102cの基端側端部を回転不能且つ長手方向に移動不能に連結するパイプ連結部材132と、ワイヤ連結部材130とパイプ連結部材132との間に介挿されて相互に離隔する方向、すなわち、フックワイヤ102bの鉤部102aをフックパイプ102cの端面102dに押しつける方向に付勢するスプリング134と、ワイヤ連結部材130とパイプ連結部材132を掛け止めてそれらの離間を止める掛止操作具136と、を備えている。
【0053】
第2筐体14は、
図4に示すように、互いに平行な長手状の一対の側壁140及び142と、側壁140及び142の間にそれらと平行に配置された中央壁144と、側壁140、142及び中央壁144の先端部を連結する底壁146と、側壁140、142及び中央壁144の先端面を連結する前壁148と、一対の回動軸18が第2筐体14の幅方向に形成され、側壁140、142及び中央壁144の基端側底部を連結する基端部連結部材150とを、一体的に備えている。
【0054】
図1から
図4に示すように、第2筐体14の先端部には、側壁140と中央壁144との間、側壁142と中央壁144との間にそれぞれ着脱可能な一対の隔壁152が設けられている。側壁140または側壁142と、中央壁144と、底壁146と、前壁148と、隔壁152とにより、上糸138が巻回された一対の上糸ボビン156をそれぞれ収容する一対の箱が形成されている。一対の隔壁152には、上糸ボビン156から引き出された上糸138を、前進操作された上糸フック108の鉤部108aが掛けることができる位置に予め位置決めする上糸案内溝152aが形成されている。
【0055】
図1に示すように、中央壁144には、ロックパイプ110及びその先端部に固定されたロックパイプ操作部110aを通すためのロックパイプ案内溝160が形成されている。ロックパイプ案内溝160は、ロックパイプ110よりもやや大きい円形断面とロックパイプ操作部110aよりもやや大きい厚みの矩形断面とが連結した断面形状を有している。
【0056】
図4に示すように、第2筐体14の側壁140の内壁面、及び中央壁144の側壁140側の壁面には、縫合針34の間において上糸フック108を安定的に移動させるために第3方向から上糸フック108を支持する複数の上糸フック支持部162が突設されている。中央壁144の側壁140側の壁面、及び側壁142の内壁面には、糸切針36第2筐体14の長手方向において糸切針36の両側へ突出し、上糸フック108によって引かれた上糸138を糸切針36側へ寄せる傾斜面が形成された一対の糸寄突起166が、それぞれ設けられている。一対の糸寄突起166の傾斜面は、第4方向(突出し方向)に向うほど第5方向に向うように傾斜させられており、糸切針36が第5方向へ下降させられる過程で、上糸138が糸切針36の糸切り用凹溝54内へ確実に入れられる。
【0057】
次に、以上のように構成された縫合装置10による、縫合糸Lで被縫合物Tを縫合する操作を、
図15~
図24を用いて以下に説明する。
図3、
図4、
図5に示す、第1筐体12から第2筐体14が開かれた状態は、縫合装置10の初期状態を、第2筐体14の回動軸18を第1筐体12の軸受16から僅かに離して、示している。なお、
図17~
図24は、第2筐体14を第1筐体12から取り外して示している。
【0058】
この初期状態において、
図15に示すように、第1筐体12上に下糸42がセットされる。箱部86内の下糸ボビン84に巻回された下糸42が糸穴92から直線的に引き出され、下糸フック102の鉤部102aに引っかけられた後、蓋板部82の基端部側の側縁に形成された糸止溝98に押し止められる。このような簡単な下糸42の位置決め操作により、
図11に示すように、第1方向の下糸42が縫合針34の一対の頂点44a及び頂点44bの間に掛け止められる。
図15は縫合予備工程である第1糸掛止載置工程を示している。
【0059】
次いで、この状態における第1筐体12と第2筐体14との間に被縫合物Tが差し入れられた後、第1筐体12と第2筐体14とが閉じられる。次に、
図8に示すロックパイプ操作部110aが第1方向に操作されることによって、ロックパイプ110が第2筐体14のロックパイプ案内溝160内へ挿入され、第2筐体14の回動がロックされる。そして、
図1に示す針操作部材70が第1方向に操作されることによって、複数本の縫合針34及び糸切針36が第2方向へ移動させられて第1筐体12の蓋板部82から突き出される。
図16は、この状態を被縫合物Tを省略して示している。
【0060】
図16の状態では、
図11に示すように、被縫合物Tによって縫合針34の基端部50側へ押し下げられることで、一対の頂点44a及び頂点44bの間に掛止されていた第1方向の下糸42が、縫合針34の針中心線CNまわりに90°回転させられて、局所的に第1筐体12の幅方向すなわち第3方向とされ、糸通し用凹溝46を第2方向に跨ぐ糸ループRを形成する。
図16は、第1方向の下糸42のうちの縫合針34の先端部44に掛止している部分を局所的に第3方向へ回転させる穿刺工程或いは下糸回転工程に対応している。
【0061】
次いで、
図1に示す上糸ボビン156から予め引き出され、隔壁152に形成された上糸案内溝152aにより予め位置決めされた上糸138を上糸フック108が把持する上糸把持工程が実行される。先ず、
図17に示すように、上糸フック操作部112が第1方向へ操作されることで、一対の上糸フック108が前進させられる。この状態では、上糸フック108の先端部が、糸切針36に形成された糸切り用凹溝54内、及び縫合針34に形成された糸通し用凹溝46内を通過させられる。縫合針34では、糸通し用凹溝46を第2方向に跨ぐ糸ループRが形成されているので、上糸フック108の先端部は糸ループR内も通過させられる。
【0062】
次に、操作歯車124が操作されることで、上糸フック108が先端に向って右まわりに90°回転させられることで鉤部108aが第3方向に平行な水平な姿勢とした状態で、上糸フック操作部112のうちのワイヤ連結部材114がさらに前進操作されることで、
図18に示すように、フックワイヤ108bの鉤部108aがフックパイプ108cの斜めの端面108dから突き出される。この状態では、鉤部108aが
図2に示す上糸案内溝152aにより位置決めされた上糸138の位置を超えているので、鉤部108aの内側に上糸138が入り込む。次いで、上糸フック操作部112が後退操作されることで、上糸フック108が所定距離後退させられるので、上糸138が鉤部108a内の奥へ位置させられる。
図19はこの状態を示している。
【0063】
次に、上糸フック操作部112のうちのワイヤ連結部材114が後退操作されることで、
図20に示すように、フックワイヤ108bの鉤部108aがフックパイプ108cの斜めの端面108d内に引き込まれる。これにより、上糸138が鉤部108aと斜めの端面108dとの間で把持される。次に、操作歯車124が操作されることで、上糸フック108が先端に向って左まわりに90°回転させられることで、
図21に示すように、鉤部108aが
図13に示す姿勢とされる。
【0064】
次いで、上糸フック操作部112が後退操作されることで、上糸フック108が元の位置へ向って第4方向へ後退させられる。また、縫合針34が第1筐体12内に引っ込められるが糸切針36は第1筐体12に立設されるように針操作部材70が操作される。さらに、下糸フック操作部128のパイプ連結部材132を前進させてワイヤ連結部材130に当接させて、下糸42を把持した状態で、下糸フック操作部128が後退操作されることで、下糸フック102が後退させられて下糸42が引き締められる。また、針操作部材70が後退操作されて、縫合針34が引き込まれ、被縫合物Tから縫合針34が引き抜かれる。
図22は、第2糸縫合工程及び針抜工程を示している。
【0065】
次に、カッタープッシャー74が操作されることで、カッター76が前進端まで移動させられて、被縫合物Tが切断される。
図23はこの状態を示している。次いで、糸切針36が第1筐体12内に引き込まれるように針操作部材70がさらに後退操作されることで、糸切針36の切れ刃56により上糸138及び下糸42が切断される。
図24はこの状態を示している。
【0066】
上述のように、本実施例の縫合装置10によれば、第1方向に沿って所定間隔で並置され、下糸(第1糸)42を掛止させることが可能な糸掛止部が先端部44に形成された複数本の縫合針34と、複数本の縫合針34に係止させる下糸42を保持する第1糸保持機構84と、縫合針34を、第1方向と交差する縫合針34の先端方向である第2方向へ移動させる針移動機構(針駆動板60、62、64、66)と、縫合針34を第2方向へ移動させた状態において、第1方向に展張される下糸42のうち縫合針34の先端部44に掛け止められた一部を、第1方向及び第2方向と交差する第3方向に沿った向きへ縫合針34の針中心線CNまわりに局所的に回転させる糸回転構造(頂点44a、44b、第3方向案内溝44c)とを、含み、縫合針34の側面には、縫合針34が第2方向へ移動させられた状態において第1方向に貫通する糸通し用凹溝46がそれぞれ形成されている。縫合作業に先立って、下糸(第1糸)42を直線状に張った状態で縫合針34の先端部(糸掛止部)44に係止させた状態で、縫合針34が第2方向へ移動させられると、糸回転構造(頂点44a、44b、第3方向案内溝44c)によって、第1方向に展張される下糸42のうち縫合針34の先端部に掛け止められた一部が、第3方向に沿った向きへ縫合針34の針中心線CNまわりに局所的に回転させられる。この状態において、第1方向に貫通する糸通し用凹溝46の開口には糸ループRが形成されるので、その糸ループRを下糸(第1糸)42或いは上糸(第2糸)138が引き通されることにより、縫合が一挙に行なわれる。このような縫合作業に先立って、下糸42を直線状に張った状態で縫合針34の先端部に係止させることにより、下糸42の縫合針への配置作業が完了するので、縫合作業に先立つ縫合糸の設定作業が簡単となる。
【0067】
本実施例の縫合装置10によれば、糸通し用凹溝46は、縫合針34の先端部に向うほど糸通し用凹溝46の溝底が浅くなる傾斜面46aを備えている。これにより、縫合針34を被縫合物Tからの引き抜きに際して糸通し用凹溝46の被縫合物Tに対する引っ掛かりが抑制され、引き抜きが容易となる。
【0068】
本実施例の縫合装置10によれば、糸回転構造(頂点44a、44b、第3方向案内溝44c)は、縫合針34の先端部44に形成された、下糸42を相互間に通過させることが可能な2つの頂点44a、44bと、2つの頂点44a、44b間に連通して第3方向に形成された第3方向案内溝44cと、2つの頂点44a、44bから第3方向案内溝44cに向かって傾斜する2つの傾斜案内面44d、44eと、を有する。これにより、縫合針34が被縫合物Tに穿刺されるに関連して、複数本の縫合針34の先端部44に形成された2つの頂点44a、44b間に係止された下糸42のうち、2つの頂点44a、44bを通過した第1方向の一部が、第3方向案内溝44cによって第3方向へ自動的に案内される。
【0069】
本実施例の縫合装置10によれば、第3方向案内溝44cは、縫合針34の針中心線CNを通過し且つ第3方向に貫通して形成されており、2つの頂点44a、44bは、第3方向案内溝44cの両側位置であって、2つの頂点44a、44b及び2つの傾斜案内面44d、44eは、縫合針34の針中心線CNに対して点対称に形成されている。これにより、2つの頂点44a、44b間に係止された第1方向の下糸42の一部は、第3方向案内溝44c内に落ち込むに従って第3方向に局所的に回転させられる。
【0070】
本実施例の縫合装置10によれば、複数の縫合針34を保持する筐体(第1筐体12、第2筐体14)内に備えられ、縫合針34の基端部40に設けられて縫合針34を支持する針台40aと、筐体の第1方向及び第1方向とは反対向きの第4方向に沿って移動可能な移動部材(針駆動板60、62、64、66)とを備え、針台40aは、筐体の内壁面に形成された突出し案内溝(案内部)38に係合する第1係合突部(第1係合部)40cと、移動部材に形成されて縫合針34を突出し方向に駆動する針駆動カム溝68に係合する第2係合突部(第2係合部)40dとを備え、移動部材が移動することにより針台40aが突出し案内溝38に沿って摺動させられ、縫合針34が先端部44に向って移動させられる。これにより、移動部材が移動することにより針台40aが突出し案内溝38に沿って摺動させられ、縫合針34が先端部44に向って移動させられる。したがって、針駆動板60、62、64、66の移動に伴って複数本の縫合針34がその先端側である第2方向へ一挙に移動させられる。
【0071】
本実施例の縫合装置10によれば、第1方向に沿って並置された複数本の縫合針34の第1方向の端位置に連ねて、糸切針36が設けられ、糸切針36の側面には、糸切針36の先端側位置に糸切針36の基端部50側に向いた切れ刃56を有し、第1方向に貫通する糸切り用凹溝54が、形成されている。これにより、糸切針36が第1筐体12内に引き込まれることにより、糸ループを通された下糸42及び上糸138が切断される。
【0072】
本実施例の縫合装置10によれば、糸切り用凹溝54の切れ刃56は、切れ刃56の先端に向うほど糸切針36の基端部50側へ向って傾斜している。これにより、糸切針36がその基端部50側へ第1筐体12内に引き込まれるとき、糸切り用凹溝54内の下糸42が逃げることが抑制され、確実に下糸42が切断される。
【0073】
本実施例の縫合装置10によれば、開閉可能な第1筐体12及び第2筐体14を備え、第1筐体12は、縫合針34と下糸42と下糸ボビン(第1糸保持機構)84とを備え、第2筐体14は、第1方向に長手状であって、第1筐体12には、第1筐体12及び第2筐体14が閉じられた状態において縫合針34の側面に形成された糸通し用凹溝46内を第1方向及び第4方向へ移動させられる上糸フック(第1糸フック)108が、備えられている。これにより、上糸138又は下糸42を引っかけた上糸フック(第1糸フック)108が、縫合針34の第3方向側に形成された糸ループR内を通過させられることで、縫合が一挙に行なわれる。
【0074】
本実施例の縫合装置10によれば、上糸フック(第1糸フック)108は、第1方向の先端部が、第1方向及び第3方向を含む面内において第1方向に向うほど第3方向の幅が小さくなるように斜めに切断されて第1方向及び第3方向に開く斜めの端面108dを有する管状のフックパイプ(管状部材)108cと、第1方向の先端部がU字状に曲成された鉤部(フック部)108aを有し、鉤部108aがフックパイプ108cの斜めの端面108dに当接するまでフックパイプ108c内に第1方向及び第4方向の相対移動可能に挿入されたフックワイヤ(フック部材)108bと、を有している。これにより、フックワイヤ108bの鉤部108aとフックパイプ108cの斜めの端面108dとの間に上糸138又は下糸42が把持されて糸ループR内を引き通される。
【0075】
本実施例の縫合装置10によれば、第2筐体14は、第1方向の先端部に上糸138(第2糸)を保持する前記第1筐体及び前記第2筐体が閉じられた状態において、複数本の縫合針34のうちの第1方向の端に位置する縫合針34よりも第1方向側に上糸138を保持する上糸ボビン156(第2糸保持機構)を備え、第1筐体12は、縫合針34と下糸42と下糸ボビン(第1糸保持機構)84とを備え、第2筐体14は、第1方向に長手状であって、第1筐体12及び第2筐体14が閉じられた状態において縫合針34の側面に形成された糸通し用凹溝46内を第1方向及び第4方向へ移動させられる上糸フック(第1糸フック)108を、備える。このため、針駆動板(移動部材)60、62、64、66等の針移動機構によって縫合針34が第2方向へ移動させられた状態において、上糸フック(第1糸フック)108は、上糸138を把持した後に、糸通し用凹溝46内を第4方向へ移動させられる。これにより、下糸42と上糸138とにより被縫合物Tが縫合される。
【0076】
本実施例の縫合装置10によれば、前記第1筐体には、下糸ボビン(第1糸保持機構)84から供給された下糸(第1糸)42を案内する糸穴(第1糸案内溝)92と、第1方向及び第4方向へ移動させられ、糸止溝98から縫合針34の先端部44を経由した下糸42が掛けられる下糸フック(第2糸フック)102と、下糸フック102に掛けられた下糸42の先端部を掛け止める糸止溝(第1糸掛止溝)98とが備えられる。これにより、下糸フック102により下糸42が引き締められるので、ゆるみのない縫合が得られる。
【0077】
本実施例の縫合装置10によれば、第1筐体12と第2筐体14との間に被縫合物Tを挟んだ閉状態、又は第1筐体12と第2筐体14とが離隔した開状態を維持する開閉機構(軸受16、回動軸18)と、その開閉機構による第1筐体12と第2筐体14との間の閉状態を維持するロック機構(ロックパイプ係合穴106、ロックパイプ110)とを、備える。これにより、複数本の縫合針34の被縫合物Tへの穿刺に際して、第1筐体12内の縫合針34が針駆動板(移動部材)60、62、64、66等の針移動機構によって第2方向側へ移動させられたとき、第1筐体12と第2筐体14とが開くことが制限される。
【0078】
本実施例の縫合装置10によれば、開閉機構(軸受16、回動軸18)は、第2筐体14の端部において第2筐体14を第1筐体12に固定し、且つ開状態又は閉状態の間で第2筐体14を回動可能な回動軸心Cを有する回動軸18を備え、ロック機構(ロックパイプ係合穴106、ロックパイプ110)は、第1方向に沿った長手状の部材であって、第2筐体14に回動軸心Cに対して交差する方向に抜き挿し可能であり、回動軸心Cまわりの回動を防止するロックパイプ(回動防止部材)110と、第1筐体12に設けられ、ロックパイプ110を抜き挿し可能に嵌め入れるロックパイプ係合穴(係合穴)106とを備える。これにより、複数本の縫合針34の被縫合物Tへの穿刺に際して、回動防止部材が第2筐体14に対して挿し込まれることにより、第1筐体12と第2筐体14とが開くことが制限される。
【0079】
本実施例の縫合装置10による縫合方法によれば、複数本の縫合針34の被縫合物Tへの穿刺前に、複数本の縫合針34の先端部44上に下糸(第1糸)42を第1方向に沿って直線状に掛け止める第1糸掛止工程と、複数本の縫合針34を被縫合物Tへ穿刺し、下糸42のうち縫合針34に掛け止められた部分の方向を第1方向と直交する第3方向に局所的に回転させて糸通し用凹溝46の開口上に位置させる穿刺工程と、第1方向に移動し、糸通し用凹溝46を通した糸フック108の先端部に下糸(第1糸)42を掛け止めた状態で糸フック108を第1方向とは反対向きの第4方向へ移動することで、縫合針34毎に下糸42で形成された糸ループR内に下糸42を通す第1糸縫合工程と、縫合針34を被縫合物Tから引き抜く針抜工程とを、含む。これにより、縫合作業に先立って、下糸42を直線状に張った状態で縫合針34の先端部(糸掛止部)44に掛止させた状態で、縫合針34が第2方向へ移動させられると、糸回転構造(頂点44a、44b、第3方向案内溝44c)によって、第1方向に展張される下糸42のうち縫合針34の先端部(糸掛止部)44に掛け止められた一部が、第3方向に沿った向きへ縫合針34の針中心線CNまわりに局所的に回転させられる。この状態において、第1方向に貫通する糸通し用凹溝46の開口には糸ループRが形成されるので、糸フック108が糸通し用凹溝46内を通されて糸ループR内に下糸42及び上糸138が通されることにより、縫合が一挙に行なわれる。このように、縫合作業に先立って、下糸42を直線状に張った状態で縫合針34の先端部(糸掛止部)44に掛止させることで、下糸42の縫合針34への配置作業が完了するので、縫合作業に先立つ縫合糸の設定作業が簡単となる。
【0080】
本実施例の縫合装置10による縫合方法によれば、複数本の縫合針34の被縫合物Tへの穿刺前に、複数本の縫合針34の先端部44上に下糸(第1糸)42を第1方向に沿って直線状に掛け止める第1糸掛止工程と、複数本の縫合針34を被縫合物Tへ穿刺し、下糸42のうち縫合針34に掛け止められた部分の方向を第1方向と直交する第3方向に局所的に回転させて糸通し用凹溝46の開口上に位置させる穿刺工程と、第1方向に移動し、糸通し用凹溝46を通した糸フック108の先端部に上糸(第2糸)138を掛け止めた状態で糸フック108を第1方向とは反対向きの第4方向へ移動することで、縫合針34毎に下糸42で形成された糸ループR内に上糸138を通す第2糸縫合工程と、縫合針34を被縫合物Tから引き抜く針抜工程と、を含む。これにより、縫合作業に先立って、下糸42を直線状に張った状態で縫合針34の先端部(糸掛止部)44に掛止させた状態で、縫合針34が第2方向へ移動させられると、糸回転構造(頂点44a、44b、第3方向案内溝44c)によって、第1方向に展張される下糸42のうち縫合針34の先端部(糸掛止部)44に掛け止められた一部が、第3方向に沿った向きへ縫合針34の針中心線CNまわりに局所的に回転させられる。この状態において、第1方向に貫通する糸通し用凹溝46の開口には糸ループRが形成されるので、糸フック108が糸通し用凹溝46内を通されて糸ループR内に下糸42及び上糸138が通されることにより、縫合が一挙に行なわれる。このように、縫合作業に先立って、下糸42を直線状に張った状態で縫合針34の先端部(糸掛止部)44に掛止させることで、下糸42の縫合針34への配置作業が完了するので、縫合作業に先立つ縫合糸の設定作業が簡単となる。
【実施例2】
【0081】
図25は、縫合針34に替えて用いられる他の縫合針234を示す斜視図である。本実施例の縫合針234は、第3方向に離隔した2つの頂点244a及び244bと、2つの頂点244a及び244bの間に第3方向案内溝244cと、第1方向に貫通する糸通し用凹溝246とを有する点で共通する。しかし、2つの頂点244a及び244bの高さが異なる点、第3方向案内溝244cの溝底面が凸面ではなく平面である点で相違する。
【0082】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0083】
例えば、前述の実施例の上糸138、下糸42は、好適には、植物性或いは動物性の天然繊維から撚られた天然糸、合成繊維の単線或いは撚り線から成る合成樹脂糸、金属製の単線或いは撚り線から成る金属糸、天然繊維及び合成繊維から成る複合糸などが用いられる。
【0084】
また、前述の実施例では、縫合針34の先端の一対の頂点44a及び44b間に掛止された第1方向の下糸42のうちの一部を第3方向へ局所的に回転させる糸回転構造として、縫合針34の先端部44に形成された、一対の頂点44a及び44bの間に開く第3方向案内溝44cが用いられていた。しかし、縫合針34をその針中心線CNまわりに90°回転させることで、縫合針34の先端の一対の頂点44a及び44b間に掛止された第1方向の下糸42のうちの一部を第3方向へ局所的に回転させる糸回転構造が、採用されてもよい。すなわち、本実施例の縫合装置10によれば、縫合針34の先端部44には、下糸42を相互間に通過させることが可能な2つの頂点44a、44bと、2つの頂点44a、44b間に形成された第1方向の掛止凹溝44cが形成され、縫合針34の先端部44の2つの頂点44a、44b間に形成された第1方向の掛止凹溝44cを第3方向に回転させるように縫合針34を縫合針34の針中心線CNまわりに回転させる縫合針回転機構を、備えてもよい。これによっても、2つの頂点44a及び44b間に形成された第1方向の掛止凹溝44cに掛け止められた第1方向の下糸42の一部は、上記縫合針回転機構によって縫合針34が回転させられるに従って第3方向に局所的に回転させられる。
【0085】
また、前述の実施例では、縫合のために下糸42及び上糸138が用いられていたが、前述の第2糸縫合工程に替えて第1糸縫合工程を実行することで、下糸42のみによる縫合を行なうことができる。例えば、上糸フック(第1糸フック)108は、針駆動板(移動部材)60、62、64、66等の針移動機構によって縫合針34が第2方向へ移動させられた状態において、複数本の縫合針34のうちの第1方向の端に位置する縫合針34において縫合針34により形成された糸ループRを構成する下糸42をフックワイヤ108bの鉤部108aで引っかけてフックワイヤ108bをフックパイプ108c内に引っ込めることでフックワイヤ108bの鉤部108aとフックパイプ108cの斜めの端面108dとの間で把持した後、糸通し用凹溝46内を第4方向へ移動させられる。これにより、第1糸縫合工程が実行されて下糸42のみによる縫合が一挙に行なわれる。
【0086】
また、前述の実施例では、第1筐体12及び第2筐体14として、断面矩形の第1筐体12及び第2筐体14が用いられていたが、断面が円形、楕円形、多角形の管状部材であってもよい。
【0087】
また、前述の実施例において、70、110a、112、128等の操作部材は、例えば遠隔操作のための形状等に変更されてもよい。また、電気的に駆動制御するためのアクチュエータを連結できる形状に変更されてもよい。
【0088】
また、前述の実施例の縫合装置10では、縫合針34を2列に配置されていたがば。1列、或いは3列以上に配置されていてもよい。
【0089】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0090】
10:縫合装置
12:第1筐体
14:第2筐体
16:軸受(開閉機構)
18:回動軸(開閉機構)
34:縫合針
36:糸切針
38:案内溝(案内部)
40:基端部
40a:針台
40c:第1係合突部(第1係合部,針移動機構)
40d:第2係合突部(第2係合部,針移動機構)
42:下糸(第1糸)
44:先端部(糸掛止部)
44a:頂点(糸回転構造)
44b:頂点(糸回転構造)
44c:第3方向案内溝(糸回転構造)
44c:掛止凹溝
44d:傾斜案内面
44e:傾斜案内面
46:糸通し用凹溝
46a:傾斜面
50:基端部
50a:針台
52:先端部
54:糸切り用凹溝
60:針駆動板(移動部材)
62:針駆動板(移動部材)
64:針駆動板(移動部材)
66:針駆動板(移動部材)
68:針駆動カム溝
84:下糸ボビン(第1糸保持機構)
102:下糸フック(第2糸フック)
102a:鉤部(フック部)
106:ロックパイプ係合穴(係合穴)
108:上糸フック(第1糸フック)
108a:鉤部(フック部)
108b:フックワイヤ(フック部材)
108c:フックパイプ(管状部材)
108d:斜めの端面
110:ロックパイプ(回動防止部材,ロック機構)
110a:ロックパイプ操作部
138:上糸(第2糸)
156:上糸ボビン(第2糸保持機構)
160:ロックパイプ案内溝(ロック機構)
234:縫合針
244a:頂点(糸回転構造)
244b:頂点(糸回転構造)
244c:第3方向案内溝(糸回転構造)
C:回動軸心
CN:針中心線(中心線)
L:縫合糸
R:糸ループ
T:被縫合物