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  • 特許-インホイールモータ車両 図1
  • 特許-インホイールモータ車両 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】インホイールモータ車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20250617BHJP
   B60G 17/016 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60G17/016
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021066159
(22)【出願日】2021-04-08
(65)【公開番号】P2022161380
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】松原 清隆
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-078665(JP,A)
【文献】特開2002-166739(JP,A)
【文献】特開2002-335726(JP,A)
【文献】米国特許第05033573(US,A)
【文献】特開2018-047760(JP,A)
【文献】特開平08-034338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00-99/00
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60T 7/12-8/1769
8/32-8/96
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右駆動輪の各々に駆動トルクを発生するインホイールモータと前記左右駆動輪の各々を懸架するアクティブサスペンションとを備えたインホイールモータ車両であって、
前記左右駆動輪で駆動トルクが発生しているときに、前記左右駆動輪のうちの一方がロック状態にあり、前記左右駆動輪のうちの他方がスリップ状態にあることを判定する駆動輪状態判定手段と、
前記左右駆動輪の各々のアクティブサスペンションを別々に制御するサスペンション制御手段と
を含み、
前記駆動輪状態判定手段が、前記左右駆動輪のうちの一方がロック状態にあり、前記左右駆動輪のうちの他方がスリップ状態にあると判定しているとき、前記スリップ状態にある前記左右駆動輪のうちの他方の駆動トルクを低減した後に、前記サスペンション制御手段が前記スリップ状態にある前記左右駆動輪の前記他方の位置を降下するように、対応する前記アクティブサスペンションを制御するよう構成されている車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インホイールモータを搭載した自動車等の車両(インホイールモータ車両)に係り、より詳細には、インホイールモータ車両に於いて、左右の駆動輪の一方が空転し、他方がロックしている状況で、車両に駆動力を増大するための構成に係る。
【背景技術】
【0002】
各駆動輪を個別に駆動するインホイールモータが搭載された車両は、各駆動輪の状況に応じて、種々の態様にて各駆動輪に於ける駆動制御を個別に実行可能である点で有利である。例えば、特許文献1では、モータにより各車輪がそれぞれ駆動回転される電気自動車に於いて、路面に対してスリップしている車輪の存在を検出したときにこの車輪を駆動回転するモータへの電源の供給を遮断し、これにより、無駄な電力消費を抑え、その後、車輪の舵角が所定角度以上変化したときに車体の荷重を車輪に伝達するサスペンションの縮み量が所定量以上縮んだときには、車輪が接地していると判定して電源供給の遮断を解除し、また、路面に対してスリップしている車輪の存在を検出したときに、サスペンションの縮み量変化が所定値以上のときには、車輪が脱輪していると判定して、電源の供給を遮断して、無駄な電力消費を抑え、縮み量変化が所定値より小さければ、車輪がスタック状態にあると判定して、車輪を左右に操舵して、スタック状態から脱出できるようにする構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-228722
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如きインホイールモータ車両に於いては、両輪がつながっていないので、左右の駆動輪は、互いに異なる回転状態となり得るところ、左右の駆動輪のうち一方が路面から浮くなどして空転状態となると、車両から路面へ伝達されるトルクが半分になるので、車両の駆動性能或いは登坂性能が低下してしまうこととなる。その場合、左右の駆動輪のうちの他方が回転していれば、車両が動くので、前記一方の駆動輪の空転状態が解消されることが期待されるが、駆動トルクが足らずに前記他方の駆動輪がロック状態となると、車両が停止してしまい、その状況が解消できないこととなる。従って、インホイールモータ車両に於いて、左右の駆動輪のうち一方が空転状態となり、他方がロック状態となった場合、その状況から速やかに脱出できるようにする制御構成があると有利である。この点に関し、単に駆動輪がスリップしている場合には、一方の駆動輪がスリップしているだけの場合(例えば、通常路面と低μ路との組み合わせなど)、両輪がスリップしている場合(例えば、雪路や泥濘路)があり、そのような場合には、左右駆動輪のうち一方が空転状態となり他方がロック状態となっている状況と異なり、車両はそのまま走行させられてよいこともあるので、左右の駆動輪のうち一方が空転状態となり他方がロック状態となっている状況から脱出するための上記の制御構成に於いては、左右駆動輪の一方がスリップしていることだけでなく、他方がロックしていることを判別できるようになっていることが好ましい。
【0005】
かくして、本発明の一つの課題は、インホイールモータ車両に於いて、左右の駆動輪のうち一方が空転状態となり、他方がロック状態となったときに、その状況を適切に見極め、その状況から脱出できるようにする制御構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の課題は、左右駆動輪の各々に駆動トルクを発生するインホイールモータと前記左右駆動輪の各々を懸架するアクティブサスペンションとを備えたインホイールモータ車両であって、
前記左右駆動輪のうちの一方がロック状態にあり、前記左右駆動輪のうちの他方がスリップ状態にあることを判定する駆動輪状態判定手段と、
前記左右駆動輪の各々のアクティブサスペンションを別々に制御するサスペンション制御手段と
を含み、
前記駆動輪状態判定手段が、前記左右駆動輪のうちの一方がロック状態にあり、前記左右駆動輪のうちの他方がスリップ状態にあると判定しているとき、前記サスペンション制御手段が前記スリップ状態にある前記左右駆動輪の前記他方の位置を降下するように、対応する前記アクティブサスペンションを制御するよう構成されている車両
によって達成される。
【0007】
上記の車両の構成に於いて、インホイールモータとアクティブサスペンションとは、任意の形式のものであってよく、インホイールモータを搭載した自動車等の車両に通常用いられるタイプのものであってよい。なお、車両が四輪駆動の場合には、全輪にそれぞれインホイールモータが装備され、前輪駆動又は後輪駆動の場合には、左右前輪又は左右後輪のそれぞれにインホイールモータが装備される。駆動輪状態判定手段に於いて、左右駆動輪のロック状態とスリップ状態との判定は、種々の態様にて実行されてよいところ、典型的には、例えば、各輪のモータに於いて出力しているトルクの大きさと車輪又はモータの回転数とに基づいて為されてよい。具体的には、左右駆動輪のうちの一方に於いて、モータからトルクが出力されているにもかかわらず、車輪又はモータの回転数が0又は略0である場合には、その駆動輪は、ロック状態にあると判定され、その状態で、左右駆動輪のうちの方に於いて、モータからトルクが出力され且つ車輪又はモータが所定の回転数を上回る回転数にて回転している場合に、左右駆動輪のうちの一方がロック状態にあり、他方がスリップ状態にあると判定されてよい。なお、一方の駆動輪がロック状態にあることは、一方の駆動輪のモータからトルクが出力されているにもかかわらず、車速が0又は略0であることを従動輪の車輪速が0又は略0であること或いはGPS情報から検出することによって判定されてもよい。サスペンション制御手段がスリップ状態にある駆動輪の位置を降下する場合には、アクティブサスペンションが伸長するよう制御されてよい。
【0008】
上記の構成によれば、インホイールモータ車両に於いて、左右駆動輪のうちの一方がロックし、他方がスリップしている状況となると、スリップしている車輪の位置が降下され、これにより、車輪が浮いている場合には接地し、或いは、スリップしていた車輪の接地荷重が増大することが期待される。これにより、路面反力が回復し、車両に作用する駆動力が回復して、駆動性能或いは登坂性能が向上されることとなる。そして、この構成によって、左右の駆動輪のうち一方が路面から浮いたりすることで、車両から路面へ伝達されるトルクが本来付与できる大きさの半分となった状況に入ったとしても、その状況から速やかに脱出できることとなる。なお、スリップ状態となっている車輪の位置が降下されて路面に接地したこと或いは接地荷重が増大して路面反力が発生するようになったことは、その車輪又はモータの回転数が低下したことを検出することによって判定されてよい(空転又はスリップしている車輪に於いて路面反力が発生し又は増大すると、その回転数が低下することとなる。)。
【0009】
上記の構成に於いて、左右駆動輪のうちの一方がロックし、他方がスリップしている状況となったときには、アクティブサスペンションを動作する前に、スリップしている車輪のトルクの大きさが低減されて、無駄な電力消費が抑制されるようになっていてよい。また、アクティブサスペンションによるスリップしている車輪の位置の降下は、任意の程度にて、例えば、徐々に所定量ずつ実行されてよく、アクティブサスペンションの作動後に、その位置の下げられた車輪の回転数が所定値を下回り、その車輪の路面反力が復活したと判定されたときに、車輪のトルクの大きさが増大されてよい(低減前の大きさに戻されて良い)。
【発明の効果】
【0010】
上記の本発明の構成によれば、インホイール車両において、片輪が浮いているなどして空転してしまい、その車輪から路面に駆動トルクが伝えられず、駆動性能又は登坂性能が低下すると、空転している車輪を、アクティブサスペンションを動かして、接地させ、或いは、接地荷重を増大して、これにより、路面反力を回復し、路面に駆動トルクが伝えられるようにして、駆動性能又は登坂性能の速やかな回復が図られる。かかる構成に於いては、例えば、空転している車輪の舵角を変化させるなどの制御を実行しなくても、駆動性能又は登坂性能の回復が達成される。また、上記の構成に於いて、一方の駆動輪がロックしていることを確認してから、他方がスリップしていることを確認する態様を採用する場合には、左右の駆動輪のうち一方が空転状態となり、他方がロック状態となった状況を、一方の駆動輪がスリップしているだけの場合や両輪がスリップしている場合と区別して、判定できることとなるので、無用にアクティブサスペンションを作動させることが回避できることとなる。本発明の構成は、種々のインホイール車両に適用されることが期待される。
【0011】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(A)は、本発明によるインホイールモータ車両の好ましい実施形態の模式図である。図1(B)は、本発明によるインホイールモータ車両に於ける本発明の特徴的な構成に関わる制御システムの構成をブロック図の形式にて表した図である。
図2図2は、本実施形態のインホイールモータ車両に於いて、左右駆動輪の一方がロックし、他方がスリップしている状況の検出とかかる状況から脱出するための駆動輪のインホイールモータとアクティブサスペンションの制御処理の一つの態様をフローチャートの形式に表した図である。
【符号の説明】
【0013】
10…車両
12FL,FR,RL,RR…車輪
14RL,RR…インホイールモータ
16FL,FR,RL,RR…アクティブサスペンション
50…コンピュータ装置
62…GPS装置(任意)
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
車両の構成
図1(A)を参照して、本実施形態の好ましい態様の一つのインホイールモータ車両10に於いては、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRとが、それぞれ、サスペンション16FL、FR、RL、RR(通常の構成のアクティブサスペンションであってよい。従動輪については、本実施形態に於いてアクティブサスペンションでなくてもよい。)により車体に対して懸架され、駆動輪となる左右後輪12RL、12RRに於いて、それぞれを回転駆動するインホイールモータ14RL、RRが設けられる。従って、車両10は、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダル(図示せず)の踏込みに応答して、或いは、運転支援装置や自動運転装置などの任意の制御装置(図示せず)の加減速要求に応答して、インホイールモータ14RL、RRにより左右後輪12RL、12RRが回転され路面に対して駆動トルクを作用することで前進又は後進することとなる。なお、インホイールモータは、更に、左右前輪に、或いは、左右前輪にのみ搭載されていてもよい。また、車両10には、通常の態様にて、車輪の舵角を制御するための操舵装置(図示せず)と、各輪に制動力を発生する制動装置(図示せず)とが搭載される。操舵装置には、運転者によって作動されるハンドル(図示せず)の回転を、その回転トルクを倍力しながら、タイロッド(図示せず)へ伝達し前輪12FL、12FRを転舵するパワーステアリング装置が採用されてよい。制動装置は、運転者によりブレーキペダル(図示せず)の踏込みに応答して各輪に制動力を与える任意の形式のものであってよい。
【0015】
上記の本実施形態によるインホイールモータ14RL、RR及びサスペンション16FL、FR、RL、RRの作動制御は、コンピュータ装置50により実行される。コンピュータ装置50は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。後に説明される本実施形態の装置の各部の構成及び作動は、それぞれ、プログラムに従ったコンピュータ装置50の作動により実現されてよい。コンピュータ装置50には、アクセルペダルの操作量又は踏込量、各輪の車輪速センサからの車輪速Vwi(i=FL、FR、RL、RR)などの車輪の状態や車両の運動状態等を検出するための種々のセンサからの検出値が入力される。なお、車速を検出するためにGPS装置62からのGPS情報が用いられてもよい。また、図示していないが、コンピュータ装置50へは、本実施形態の車両に於いて実行されるべき各種制御に必要な種々のパラメータ、例えば、ブレーキペダルの踏込量、操舵角、ヨーレート、横加速度などの各種検出信号が入力され、各種の制御指令が対応する装置へ出力されるようになっていてもよい。そして、コンピュータ装置50から、上記の種々の入力に基づいて、インホイールモータ14RL、RRの出力トルク(駆動トルク)を調節する制御指令Crl、Crr、サスペンション16FL、FR、RL、RRの作動量を調節する制御指令csが対応する各部へ送信される。
【0016】
車両の制御システムの構成
図1(B)を参照して、コンピュータ装置50に於ける本実施形態に於ける特徴的な構成に関わる制御システムの構成に於いては、概して述べれば、駆動トルク決定部、左駆動輪制御部、右駆動輪制御部及びサスペンション制御部が設けられる。
【0017】
より詳細には、駆動トルク決定部は、基本的には、アクセルペダルの踏込量又は運転支援装置や自動運転装置などの任意の制御装置の加減速要求(図示せず)を受信して、車両に於いて発生させるべき駆動トルク(又は駆動力)を決定し、左駆動輪制御部と右駆動輪制御部とに対し、左輪モータ14RL、右輪モータ14RRにて発生させるべき駆動トルク目標値Twrl、Twrrを伝達し、左駆動輪制御部と右駆動輪制御部は、それぞれ、左輪モータ14RL、右輪モータ14RRへ駆動トルク目標値を発生するための制御指令Crl、Crrを与えるよう構成される。なお、駆動トルク決定部は、特に、本実施形態に於いては、後に説明される如く、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となり、他方がスリップ状態となった場合を検出するために、各輪の車輪速(本実施形態の目的に於いては、駆動輪のものだけでよい。)又は左輪モータ14RL、右輪モータ14RRの回転数を参照するよう構成される。また、或る態様に於いては、GPS装置62にて得られる車両の位置情報の時間変化から車速が決定され、かかる車速を参照して、車両が停止しているか否かを判定するようになっていてよい。サスペンション制御部は、基本的には、通常の態様にて、サスペンションの減衰力やストローク或いは車高等を制御するようサスペンションの作動量を制御するよう構成されていてよい。特に、後に説明される如く、本実施形態に於ける特徴的な作動に於いて、サスペンション制御部は、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となり、他方がスリップ状態となった場合には、スリップ状態となった車輪の位置を降下するように(車体から下方へ離れるように)、スリップ状態となった車輪を懸架するサスペンションを作動するよう構成される。
【0018】
車両の制御システムの作動
(1)制御の概要
「発明の概要」の欄に於いて述べた如く、インホイールモータ車両に於いては、左右の駆動輪の回転は完全に独立しているので、左右の駆動輪のうち一方が路面から浮くなどして空転状態又はスリップ状態となったとき、車両から路面へ伝達されるトルクは他方の駆動輪からしか与えられず、車両から路面へ伝達されるトルクが半分になり、その結果、駆動力又は登坂力が足りない場合には、他方の駆動輪がロック状態となり、車両が停止してしまい、そのままでは、かかる状況から脱出することが困難となり得る。そこで、本実施形態に於いては、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となり、他方がスリップ状態(空転状態-路面に駆動力が実質的に伝達されていない状態)となった場合には、サスペンションを作動して、スリップ状態となった車輪の位置を降下する制御が実行される。かかる制御構成によれば、スリップ状態となっていた車輪に於いて、その車輪が路面か浮いていた場合には、車輪の位置が下がることで接地され、また、スリップしている場合には、接地荷重が増大し、これにより、スリップ状態となっていた車輪に於ける路面反力が復帰又は増大して、車両から路面へ伝達されるトルクが復帰又は増大して、車両の駆動性能或いは登坂性能が回復することが期待される。なお、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となり、他方がスリップ状態となった状況の検出に際して、以下に説明される如く、典型的には、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となったことを検出してから、他方がスリップ状態となっていることを検出するようになっていてよく、その場合、左右で路面摩擦係数が異なるまたぎ路上などで、左右駆動輪のうちの一方がスリップしていても、他方により推進力が得られている状況や、雪道や泥濘路上などで両輪がスリップしていても推進力が得られている状況と区別して、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となり、他方がスリップ状態となった状況を検出することが可能となる。
【0019】
(2)装置の処理過程
図2を参照して、本実施形態によるインホイールモータ車両の制御に於いては、まず、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となっていることが判定される(ステップ1)。ここに於いては、例えば、左右駆動輪のうちのいずれか一方に於いて、モータの出力トルクTwi(iは、RLかRRのいずれか一方)が適宜設定されてよい所定値Twoを上回っており、且つ、その車輪の車輪速Vwi又はモータの回転数の大きさが実質的に0、例えば、所定の小さい正数εを下回っているときに、その車輪がロック状態にあると判定されてよい。ここで、出力トルクTwiに対する所定値Twoは、その所定値よりも出力トルクTwiが大きければ、車輪が十分な程度にて回転するはずの値に設定されてよい。また、車輪の車輪速Vwi又はモータの回転数の大きさに対する所定の小さい正数は、車輪の車輪速Vwi又はモータの回転数の大きさがその所定の小さい正数εを下回っていれば、車輪とモータが回転していない判定できる適当な値に設定されてよい。かかる判定に於いて、モータの出力トルクTwiが所定値Twoを上回り、且つ、その車輪の車輪速Vwi又はモータの回転数の大きさが実質的に0であるときには、モータが駆動トルクを発生し、車輪が路面に駆動トルクを作用しているにもかかわらず、車輪とモータとが止っていることになるので、車両を進行させるための駆動トルクが足らず、車両が停止していると判断できることとなる。
【0020】
上記のステップ1で、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となっていることと判定されると、次に、左右駆動輪のうちの他方がスリップ状態となっていることが判定される。ここに於いては、例えば、左右駆動輪のうちの他方に於いて、モータの出力トルクTwj(jは、RLかRRのうちのiでない方)が適宜設定されてよい所定値Twoを上回っており、且つ、その車輪の車輪速Vwj又はモータの回転数の大きさが有意に回転している状態、例えば、所定値Vwoを上回っているときに、その車輪がスリップ状態にあると判定されてよい。ここで、車輪の車輪速Vwi又はモータの回転数の大きさに対する所定値Vwoは、車輪の車輪速Vwi又はモータの回転数の大きさがその所定値Vwoを上回っていれば、車輪とモータが回転していると判定できる適当な値に設定されてよい。かかる判定に於いて、モータの出力トルクTwjが所定値Twoを上回り、且つ、その車輪の車輪速Vwj又はモータの回転数の大きさが有意に回転しているときには、車両が停止しているにもかかわらず、車輪とモータとが回転していることになるので、車輪が路面から浮いているか、路面摩擦係数が低いために、車輪が空転又はスリップしていると判断できることとなる。
【0021】
上記のステップ1、2により、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となり、他方がスリップ状態となった状況が検出されると、まず、その状況となっていることを示すフラグFsが1に設定され(ステップ3)、次いで、スリップ状態となっている車輪jの出力トルクが低減されてよい(ステップ4)。ここで、車輪jの出力トルクを低減するのは、無駄な電力を節約することと、この後に、車輪jの位置を下げて、その車輪の接地荷重が上がったときに、路面反力が急激に増大することを回避するためである。その後、車輪jのサスペンションが作動され、車輪jの位置が下げられることとなる(ステップ5)。ここで、車輪jの位置の降下幅は、一度に降ろし過ぎないように適宜設定されてよい。
【0022】
上記の処理により、車輪jの位置が下げられた後、再度、ステップ1の判定が実行され、車輪iが依然としてロック状態にあると判定されるときには(ステップ1)、ステップ2に於いて車輪jの回転状態が評価される。ここで、既に、前回のサイクルで、駆動トルクが低減されているので、ステップ2はノーとなり得るが、車輪の車輪速Vwj又はモータの回転数の大きさが依然として所定値Vwoを上回っているときには(ステップ6)、ステップ4、5が繰返され、車輪jの駆動トルクの更なる低減と位置の降下が実行されてよい。この処理は、ステップ1で、車輪iのロック状態が解消されるか、ステップ6で、車輪の車輪速Vwj又はモータの回転数の大きさが所定値Vwoを下回るまで反復実行されてよい。
【0023】
ステップ6で、車輪jの車輪速Vwj又はモータの回転数の大きさが所定値Vwoを下回ったときには、浮いていた車輪jが接地し、或いは、スリップしていた車輪jの接地荷重が増大して、車輪jに於いて路面反力が発生又は増大し、即ち、駆動トルクが伝達可能な状態に復帰したと判断できる。そうなると、車輪jの低減されていた駆動トルクの増大又は復帰が実行されてよい(ステップ7)。これにより、車両に作用される駆動トルクが増大し、車両が動き出し、車輪iのロック状態も解消されることが期待される。
【0024】
初めから車輪iがロックしていない場合(ステップ1)、フラグFsが1に設定されておらず(ステップ8)、特別な処理は実行されない。一方、それまでの処理サイクルで、フラグFsが1に設定され、その後、ロック状態が解消された場合、車輪jのトルクが低減されているので、駆動トルクの増大又は復帰が実行され(ステップ9)、フラグFsが0に設定され(ステップ10)、一連の処理が終了する。
【0025】
かくして、上記の制御処理によれば、インホイールモータ車両に於いて、左右の駆動輪のうち一方が路面から浮くなどして空転状態又はスリップ状態となり、他方がロック状態となったときには、空転又はスリップしている方の車輪の位置を降下する作動が実行され、これにより、その車輪の路面反力を復帰させて、車両の、左右駆動輪のうちの一方がロック状態となり、他方がスリップ状態となった状況からの速やかな脱出が図られ、インホイール車両に於ける駆動性能又は登坂性能の向上が達成されることとなる。
【0026】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1
図2