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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/20 20160101AFI20250617BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20250617BHJP
   B60K 6/30 20071001ALI20250617BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250617BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20250617BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20250617BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20250617BHJP
【FI】
B60W20/20
B60K6/445 ZHV
B60K6/30
B60W10/08 900
B60K6/40
B60W10/02 900
B60W20/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022103285
(22)【出願日】2022-06-28
(65)【公開番号】P2024003921
(43)【公開日】2024-01-16
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悟
(72)【発明者】
【氏名】宮里 佳明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽介
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0305907(US,A1)
【文献】特開2017-35991(JP,A)
【文献】特表2002-500978(JP,A)
【文献】特開2018-39433(JP,A)
【文献】特開2014-211213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20,
B60W 10/00,20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの出力軸に連結されたフライホイールと、モータと、前記フライホイールの出力軸に連結された第1回転要素、前記モータに連結された第2回転要素、および駆動輪に連結された第3回転要素の少なくとも三つの回転要素が差動回転する動力分割機構とを備えたハイブリッド車両であって、
前記フライホイールは外歯を有し、
前記外歯に噛み合うロック位置と、前記外歯との噛み合いが解消された解放位置とに移動可能に設けられるとともに、前記外歯に噛み合うことにより前記外歯のトルクに対抗した制動トルクを前記外歯に作用させるロック用ギヤと、
前記ロック用ギヤを前記ロック位置と前記解放位置とに切り替えるアクチュエータとを更に備え、
前記ロック用ギヤを前記ロック位置に移動させて前記外歯に噛み合わせ、前記モータから駆動トルクを出力して走行する第1走行モードと、前記ロック用ギヤを解放位置に移動させて前記外歯との噛み合いを解消した状態で走行する第2走行モードとの少なくとも二つの走行モードを設定可能に構成され、更に、
前記モータを制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記ロック用ギヤを前記解放位置から前記ロック位置に移動させ始めてから予め定められた期間内に前記ロック用ギヤが前記ロック位置まで移動しない場合には、前記フライホイールを回転させるように前記モータからトルクを出力する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両であって、
前記ロック用ギヤは、前記フライホイールの回転中心軸線に平行な軸線に沿って前記ロック位置と前記解放位置とに移動するように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項1に記載のハイブリッド車両であって、
前記ロック用ギヤに作用するトルクが予め定められた上限トルク未満の場合に、前記ロック用ギヤの回転を禁止し、前記ロック用ギヤに作用するトルクが前記上限トルク以上の場合に、前記ロック用ギヤの回転を許可するトルクリミッタを更に備えている
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項1に記載のハイブリッド車両であって、
前記駆動輪または他の駆動輪にトルク伝達可能に連結された他のモータを更に備え、
前記第1走行モードは、前記モータと前記他のモータとからトルクを出力して走行するモードを含む
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、モータとを駆動力源として備えたハイブリッド車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンのトルクを第1モータと駆動輪とに分割して伝達する動力分割機構を備え、その駆動輪に第2モータが連結されたハイブリッド車両が記載されている。このハイブリッド車両は、第1モータのトルクを駆動輪に伝達して走行するために、動力分割機構の入力要素を選択的に固定する係合装置を備えている。その係合装置は、エンジンの出力軸に連結されたフライホイールおよび動力分割機構の入力要素に連結されたダンパ機構のそれぞれに形成された外歯に噛み合う二つの歯車と、それらの歯車を選択的に係合および解放する噛み合いクラッチと、ダンパ機構の外歯に噛み合う歯車が一方側のみに回転することを許容するワンウェイクラッチとを備えている。そして、噛み合いクラッチを解放した状態で第1モータから駆動トルクを出力することにより、ワンウェイクラッチが係合し、第1モータのトルクを駆動輪に伝達するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-035506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたハイブリッド車両は、エンジンから駆動輪にトルクを伝達して走行する場合には、噛み合いクラッチを係合してフライホイールとダンパ機構とを連結する。その場合、エンジンの出力軸からフライホイール、フライホイールの外歯に噛み合う歯車、噛み合いクラッチ、ダンパ機構の外歯に噛み合う歯車、およびダンパ機構の順にトルクが伝達される。それらの噛み合い面には、歯車の滑りなどに応じた機械的な損失が少なからず生じるため、エンジンを駆動した走行時における燃費が悪化する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、エンジンのトルクを駆動輪に伝達した走行時における動力損失を低減することができるハイブリッド車両を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するために、エンジンと、前記エンジンの出力軸に連結されたフライホイールと、モータと、前記フライホイールの出力軸に連結された第1回転要素、前記モータに連結された第2回転要素、および駆動輪に連結された第3回転要素の少なくとも三つの回転要素が差動回転する動力分割機構とを備えたハイブリッド車両であって、前記フライホイールは外歯を有し、前記外歯に噛み合うロック位置と、前記外歯との噛み合いが解消された解放位置とに移動可能に設けられるとともに、前記外歯に噛み合うことにより前記外歯のトルクに対抗した制動トルクを前記外歯に作用させるロック用ギヤと、前記ロック用ギヤを前記ロック位置と前記解放位置とに切り替えるアクチュエータとを更に備え、前記ロック用ギヤを前記ロック位置に移動させて前記外歯に噛み合わせ、前記モータから駆動トルクを出力して走行する第1走行モードと、前記ロック用ギヤを解放位置に移動させて前記外歯との噛み合いを解消した状態で走行する第2走行モードとの少なくとも二つの走行モードを設定可能に構成され、更に、前記モータを制御するコントローラを備え、前記コントローラは、前記ロック用ギヤを前記解放位置から前記ロック位置に移動させ始めてから予め定められた期間内に前記ロック用ギヤが前記ロック位置まで移動しない場合には、前記フライホイールを回転させるように前記モータからトルクを出力することを特徴としている。
【0007】
本発明においては、前記ロック用ギヤは、前記フライホイールの回転中心軸線に平行な軸線に沿って前記ロック位置と前記解放位置とに移動するように構成されていてよい。
【0009】
本発明においては、前記ロック用ギヤに作用するトルクが予め定められた上限トルク未満の場合に、前記ロック用ギヤの回転を禁止し、前記ロック用ギヤに作用するトルクが前記上限トルク以上の場合に、前記ロック用ギヤの回転を許可するトルクリミッタを更に備えていてよい。
【0010】
本発明においては、前記駆動輪または他の駆動輪にトルク伝達可能に連結された他のモータを更に備え、前記第1走行モードは、前記モータと前記他のモータとからトルクを出力して走行するモードを含んでよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動力分割機構の第1回転要素に連結されたフライホイールに外歯が形成され、その外歯に噛み合うロック位置と、外歯との噛み合いが解消された解放位置とに移動可能にロック用ギヤが設けられている。また、そのロック用ギヤは、外歯に噛み合うことにより外歯のトルクに対抗した制動トルクを外歯に作用させることができるように構成されている。そして、ロック用ギヤとフライホイールの外歯とを噛み合わせることにより、モータから動力分割機構にトルクが入力された場合に、そのトルクを駆動輪に伝達して走行することができる。また、ロック用ギヤとフライホイールの外歯との噛み合いを解消することにより、エンジンから動力分割機構を介して駆動輪にトルクを伝達して走行することができる。そのようにエンジンから動力分割機構を介して駆動輪にトルクを伝達して走行するモードを設定した場合には、ロック用ギヤを連れ回すなどの動力損失が生じることを抑制できる。また、比較的外径の大きいフライホイールに外歯を形成し、その外歯にロック用ギヤを噛み合わせてフライホイールの回転を制限するため、ロック用ギヤに作用する荷重を低減することができ、ロック用ギヤを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の一例を説明するためのスケルトン図である。
図2】ブレーキ機構の一例を説明するための斜視図である。
図3図2におけるIII-III線に沿う断面図である。
図4】フライホイールギヤとロック用ギヤとの位置関係を示す模式図であって、(a)はフライホイールギヤとロック用ギヤとが噛み合った状態、(b)はフライホイールギヤとロック用ギヤとの噛み合いが解消した状態、(c)はフライホイールギヤとロック用ギヤとが軸線方向で接触した状態を示す図である。
図5】ECUの構成を機能ブロックで示す図である。
図6】ロック用モータおよび第1モータの制御の一例を説明するためのフローチャートである。
図7】デュアルEV走行モードへの切り替え時に図6に示すフローチャートを実行した場合におけるロック用モータのトルク、ロック用ギヤの位置、第1モータのトルクなどの変化を説明するためのタイムチャートである。
図8】デュアルEV走行モードから他の走行モードへの切り替え時に図6に示すフローチャートを実行した場合におけるロック用モータのトルク、ロック用ギヤの位置などの変化を説明するためのタイムチャートである。
図9】ブレーキ機構の他の構成の一例を説明するための模式図であり、(a)は解放状態を示し、(b)は係合状態を示した図である。
図10】ロック用ギヤの構造を説明するための断面図であり、(a)は第1モータからフライホイールにトルクが伝達された場合にロック用ギヤに作用する荷重の向きを示し、(b)はエンジンからフライホイールにトルクが伝達された場合にロック用ギヤに作用する荷重の向きを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態におけるハイブリッド車両(以下、車両と記す。)の一例を示しており、この車両Veは、エンジン(ENG)1と、第1モータ(MG1)2と、第2モータ(MG2)3とを駆動力源として備えている。
【0015】
エンジン1は、従来のガソリンエンジンやディーゼルエンジンと同様に構成することができ、供給される空気と燃料との混合気を燃焼することによってトルクを発生するように構成されている。
【0016】
また、各モータ2,3は、従来の電気自動車やハイブリッド車両に設けられた駆動力源としてのモータと同様に、電力が通電されることによって駆動トルクを出力するモータとしての機能に加えて、トルクが入力されて連れ回されることにより電力を発生する発電機としての機能を備えている。具体的には、永久磁石式の同期モータや誘導モータなどによって構成されている。
【0017】
エンジン1の出力軸4には、フライホイール5が連結され、そのフライホイール5にバネダンパ6を介して、後述する動力分割機構7の入力軸8が連結されている。なお、フライホイール5とバネダンパ6との間には、予め定められた制限トルク以上のトルクが作用した場合に、フライホイール5とバネダンパ6とを相対回転させることにより、伝達するトルクを制限トルク未満とするためのトルクリミッタ9が設けられている。
【0018】
入力軸8は、エンジン1の出力軸4と同一直線上に配置され、その先端に機械式のオイルポンプ10が連結されている。また、入力軸8の軸線方向における中間部分には、動力分割機構7が連結されている。すなわち、入力軸8は、動力分割機構7を貫通している。
【0019】
動力分割機構7は、入力軸8のトルクを第1モータ2と駆動輪11とに分割するように構成された差動機構であって、図1に示す例では、シングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、サンギヤ12と、サンギヤ12と同心円上に配置されたリングギヤ13と、サンギヤ12およびリングギヤ13に噛み合い、かつ入力軸8の円周方向に並んで配置された複数のピニオンギヤ14と、各ピニオンギヤ14を入力軸8の回転中心軸線を中心に公転可能に保持するとともに、各ピニオンギヤ14を自転可能に保持するキャリヤ15とによって構成されている。つまり、サンギヤ12とリングギヤ13とキャリヤ15とが差動回転するように構成されている。そして、キャリヤ15に入力軸8が連結され、サンギヤ12に第1モータ2が連結されている。なお、第1モータ2が、本発明の実施形態における「モータ」に相当し、キャリヤ15が、本発明の実施形態における「第1回転要素」に相当し、サンギヤ12が、本発明の実施形態における「第2回転要素」に相当し、リングギヤ13が、本発明の実施形態における「第3回転要素」に相当する。
【0020】
リングギヤ13の外周面には出力ギヤ16が形成されていて、その出力ギヤ16にドリブンギヤ17が噛み合っている。このドリブンギヤ17は、入力軸8と平行に配置されたカウンタシャフト18の一方の端部に取り付けられ、カウンタシャフト18の他方の端部には、カウンタドライブギヤ19が取り付けられている。そのカウンタドライブギヤ19には、デファレンシャルギヤユニット20のリングギヤ21が噛み合い、デファレンシャルギヤユニット20に左右の駆動輪11が連結されている。なお、便宜上、図1には、一方の駆動輪11のみを示してある。
【0021】
上記のドリブンギヤ17には、そのドリブンギヤ17よりも小径のドライブギヤ22が更に噛み合っていて、そのドライブギヤ22に第2モータ3が連結されている。すなわち、第2モータ3の出力軸23の先端にドライブギヤ22が取り付けられている。つまり、第2モータ3と駆動輪11とがトルク伝達可能に連結されている。ている。この第2モータ3が、本発明の実施形態における「他のモータ」に相当する。
【0022】
上述したように構成された車両Veは、エンジン1から動力分割機構7に入力されるトルク(以下、エンジントルクと記す。)に応じた反力トルクを第1モータ2から出力することによって、エンジントルクの一部を駆動輪11に伝達して走行することができる。すなわち、エンジン1の動力によって車両Veが走行する場合には、キャリヤ15が入力要素となり、サンギヤ12が反力要素となり、リングギヤ13が出力要素となるように構成されている。その場合、第2モータ3のトルクをドリブンギヤ17の部分で加えて走行するなどしてもよい。このエンジントルクを駆動輪11に伝達して走行するモードを、以下の説明では、HV走行モードと記す。
【0023】
また、図1に示す車両Veは、エンジン1による混合気の燃焼を停止するとともに、第1モータ2への通電を停止し、第2モータ3から駆動トルクを出力して走行するシングルEV走行モードを設定することもできる。なお、エンジン1のイナーシャが第1モータ2のイナーシャよりも大きいことにより、シングルEV走行モードでは、エンジン1の回転が停止し、車速と動力分割機構7のギヤ比とに応じた回転数で第1モータ2が空転する。
【0024】
さらに、図1に示す車両Veは、エンジン1による混合気の燃焼を停止するとともに、第1モータ2から駆動トルクを出力して走行するデュアルEV走行モードを設定することができるように構成されている。すなわち、HV走行モードでは入力要素として機能するキャリヤ15を、デュアルEV走行モードでは反力要素として機能させ、HV走行モードでは反力要素として機能するサンギヤ12を、デュアルEV走行モードでは入力要素として機能させることができるように、フライホイール5の回転を選択的に禁止するブレーキ機構24が設けられている。なお、デュアルEV走行モードが、本発明の実施形態における「第1走行モード」に相当し、HV走行モードやシングルEV走行モードが、本発明の実施形態における「第2走行モード」に相当する。
【0025】
具体的には、フライホイール5の外周面に外歯25が形成され、出力軸4や入力軸8と平行な軸線に沿って移動可能に設けられたロック用ギヤ26が、外歯25に噛み合い可能に設けられている。このロック用ギヤ26は、モータなどのアクチュエータ27によって軸線方向に移動可能に支持されるとともに、ケースなどの固定部材に保持され、フライホイール5の外歯25と噛み合うことにより、その外歯25のトルクに対抗した制動トルクを作用させるように構成されている。なお、以下の説明では、外歯25をフライホイールギヤ25と記す。
【0026】
したがって、ロック用ギヤ26をフライホイールギヤ25に噛み合わせることによってキャリヤ15の回転が禁止され、第1モータ2から駆動トルクを出力することにより、第1モータ2の駆動トルクと動力分割機構7のギヤ比とに応じたトルクを駆動輪11に伝達することができる。なお、第1モータ2から駆動トルクを出力する場合には、通常、第2モータ3の駆動トルクをドリブンギヤ17の部分で加える。そのため、この走行モードをデュアルEV走行モードと称している。
【0027】
上記のロック用ギヤ26を軸線方向に移動させるアクチュエータ27を備えたブレーキ機構24の一例を説明するための斜視図を図2に示し、図2におけるIII-III線に沿う断面図を図3に示してある。図2および図3に示すブレーキ機構24は、アクチュエータ27としてのロック用モータ27aと、ロック用モータ27aの回転運動を軸線方向の直線運動に変換するためのカム部28と、ロック用ギヤ26に作用するトルクの反力を受けてロック用ギヤ26の回転を禁止するとともに、予め定められた上限トルク以上のトルクがロック用ギヤ26に作用した場合に、ロック用ギヤ26の回転を許可するように構成されたトルクリミッタ部29と、ロック用ギヤ26を収容する収容部30とによって構成されている。
【0028】
ロック用モータ27aは、図示しないバッテリから直流電流が通電されることによりトルクを発生する直流モータによって構成することができ、カム部28を収容するカムハウジング31の側面31aに取り付けられている。ロック用モータ27aの出力軸32は、カムハウジング31の内側まで延出しており、その先端には、ウォームギヤ33が一体回転可能に取り付けられている。このウォームギヤ33の先端は、カムハウジング31の内側に設けられた隔壁部34によって回転自在に保持されている。
【0029】
カムハウジング31の下方側には、ウォームギヤ33の回転中心軸に交差する軸線を中心として回転自在にホイールギヤ35が設けられ、そのホイールギヤ35とウォームギヤ33とが噛み合っている。すなわち、ロック用モータ27aから出力されたトルクを増幅してホイールギヤ35に伝達するとともに、ロック用モータ27aの回転数(または回転角)に対して、ホイールギヤ35の回転数(または回転角)を低回転数とする減速機構を構成している。なお、このブレーキ機構24は、図2および図3におけるカムハウジング31の上方部分が、図示しないエンジンボディに当接されて封止されるように構成されているため、図2および図3に示す例では、カムハウジング31の上方部分が解放している。
【0030】
カムハウジング31のうちのロック用モータ27aが取り付けられた側面31aに対向した側面31bには、貫通孔が形成されている。その側面31bには、円筒状のリミッタハウジング36が、その中空部と貫通孔とが連通するように取り付けられている。
【0031】
リミッタハウジング36の内部には、摩擦係合部37が設けられている。この摩擦係合部37は、ロック用ギヤ26を支持する支持シャフト38に摩擦力を作用させることにより、支持シャフト38に作用するトルクが上限トルクを超えた場合に、支持シャフト38が相対回転するように構成されている。言い換えると、支持シャフト38に作用するトルクが上限トルク未満の場合には、支持シャフト38と一体化され、支持シャフト38の回転を禁止するように構成されている。
【0032】
この摩擦係合部37は、例えば、支持シャフト38の軸線方向に並んで所定の間隔を空けた環状プレートを支持シャフト38に一体に形成し、その環状プレートと交互に配置された支持プレートをリミッタハウジング36の内面に一体に形成し、それらのプレートを摩擦接触させることによって支持シャフト38の回転を禁止するように構成することができる。
【0033】
また、摩擦係合部37は、支持シャフト38と一体となって支持シャフト38の軸線方向に移動可能に構成され、摩擦係合部37とホイールギヤ35とがリンクバー39によって連結されている。具体的には、リンクバー39の一方の端部が、ホイールギヤ35の回転中心軸とは半径方向にズレた位置(偏心した位置)に回転自在に連結され、他方の端部が、摩擦係合部37に取り付けられている。したがって、図2に示す例では、ホイールギヤ35が反時計回りに回動することによって、摩擦係合部37が図2における左側に移動するように構成されている。なお、摩擦係合部37が、上記のようにプレート部材を接触させる構成の場合には、互いに対向するプレート部材の間隔を、支持シャフト38の予め定められた移動量と同等に形成し、支持シャフト38と一体化された環状プレートを押圧することにより、環状プレートと支持プレートとの摩擦力が所定の摩擦力となるように構成されている。
【0034】
リミッタハウジング36におけるカムハウジング31とは反対側の端部には、収容部30が連結されている。この収容部30は、エンジンボディにボルト固定される固定部40と、ロック用ギヤ26の一部が外部に露出するように形成された先端部41とによって構成されている。
【0035】
固定部40は、略菱形に形成されていて、図2および図3における上下両側に、図示しないボルトが挿入される貫通孔42が形成されている。また、固定部40には、リミッタハウジング36に連通した中空部43が形成され、その中空部43にロック用ギヤ26が収容されている。すなわち、中空部43の内径は、ロック用ギヤ26の外径よりも大きく形成され、かつ摩擦係合部37の先端の一部を収容可能に形成されている。
【0036】
先端部41は、ロック用ギヤ26が軸線方向に移動した場合に、ロック用ギヤ26の一部が外部に露出するように構成されている。具体的には、先端部41は、円錐状に形成され、その一部に切り欠き部44が形成されている。そして、切り欠き部44にフライホイールギヤ25の一部が挿入されている。すなわち、ロック用ギヤ26が軸線方向に移動することにより、切り欠き部44に挿入されたフライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが噛み合うように構成されている。
【0037】
上述したブレーキ機構24は、フライホイール5の回転を禁止することが要求された場合には、図2における反時計回りにホイールギヤ35を回動させる。そのようにホイールギヤ35を回動させることによって、リンクバー39を介して摩擦係合部37が図2における左側に押圧され、摩擦係合部37と一体に支持シャフト38が軸線方向に移動する。その結果、ロック用ギヤ26が切り欠き部44まで移動することにより、ロック用ギヤ26とフライホイールギヤ25とが噛み合う。また、上述したようにトルクリミッタ部29が互いに対向するプレート部材を接触させて支持シャフト38の回転を禁止する構成の場合には、ロック用ギヤ26が切り欠き部44まで移動することにより、プレート部材同士が接触して支持シャフト38に作用するトルクに対抗した制動トルクを発生させることができる。
【0038】
図4は、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26との位置関係を示す図であって、(a)はフライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが噛み合った状態、(b)はフライホイールギヤ25とロック用ギヤ26との噛み合いが解消されている状態、(c)はフライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが軸線方向で接触した状態を示している。
【0039】
上述したようにロック用モータ27aを作動させることによって、ロック用ギヤ26が軸線方向に移動することにより、図4(a)や図4(b)に示すようにフライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが噛み合い、またその噛み合いが解消される。一方、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが噛み合っていない状態から、ロック用ギヤ26をフライホイールギヤ25に噛み合わせるために移動させた場合に、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26との位相が一致していると、図4(c)に示すようにフライホイールギヤ25の側面にロック用ギヤ26が接触する。そのような場合には、図4(c)に矢印で示すようにフライホイール5にトルクを作用させて、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とを相対回転させることにより、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とを噛み合わせる。
【0040】
具体的には、第1モータ2からトルクを出力することにより、動力分割機構7を介してフライホイール5にトルクを作用させる。その結果、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが相対回転することにより、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とを噛み合わせることができる。なお、上記のように第1モータ2からトルクを出力した場合には、そのトルクの一部は、駆動輪11に作用することになるため、車両Veを駆動させる方向、すなわち、ドライブレンジの場合には、車両Veを前進走行させる方向であり、リバースレンジの場合には、車両Veを後進走行させる方向に、トルクを出力することが好ましい。そのように走行レンジに併せて第1モータ2から出力するトルクの向きを定めることによって、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが噛み合うと同時に、車両Veを意図した方向に駆動させることができ、またその制御を簡素化することができる。
【0041】
本発明の実施形態におけるハイブリッド車両は、上記のようにロック用モータ27aおよび第1モータ2を制御するための電子制御装置(以下、ECUと記す。)45を備えている。このECU45は、従来のECUと同様に、マイクロコンピュータを主体に構成されている。すなわち、ECU45は、車両Veに設けられた種々のセンサから信号が入力され、その信号と予め記憶されている演算式やマップなどとに基づいて、ロック用モータ27aや第1モータ2に信号を出力するように構成されている。なお、ECU45が、本発明の実施形態における「コントローラ」に相当する。
【0042】
図5は、ECU45の構成を機能的に示すブロック図である。図5に示す例では、ECU45には、車速、要求駆動力、図示しない蓄電装置の充電残量(SOC)、蓄電装置の温度、ロック用ギヤ26の位置などの信号が入力されるように構成されている。なお、従来の車両と同様に車速センサによって車速を検出することができ、アクセル開度センサなどによって要求駆動力を検出することができる。また、蓄電装置は、第1モータ2や第2モータ3に電気的に接続された、いわゆるハイブリッドバッテリであって、充電残量は、蓄電装置の出力電圧に基づいて検出することができる。さらに、蓄電装置の温度は、サーミスタなどによって検出することができる。またさらに、ロック用ギヤ26の位置は、ロック用モータ27aの回転角や、ホイールギヤ35の回転角に基づいて検出してもよく、直接ロック用ギヤ26の移動量を検出してもよい。
【0043】
このECU45は、走行モード設定部46、ギヤ位置判定部47、ロック用モータ制御部48、MG1トルク制御部49によって構成されている。走行モード設定部46は、車速、要求駆動力、SOC、蓄電装置の温度などに基づいて走行モードを設定するように構成されている。具体的に例を挙げるとすれば、SOCが所定値以上であり、かつ蓄電装置の温度が所定温度未満の場合には、シングルEV走行モードとデュアルEV走行モードとのいずれかの走行モードを設定するように構成され、さらに、そのような場合には、低車速でかつ要求駆動力が低い走行時にシングルEV走行モードを設定し、高車速または要求駆動力が高い走行時にデュアルEV走行モードを設定するように構成されている。
【0044】
ギヤ位置判定部47は、ロック用ギヤ26の位置を判定するものであって、ECU45に入力されるロック用ギヤ26の位置に相当するデータを検出するセンサ、例えば、ロック用モータ27aあるいはホイールギヤ35の回転角や、ロック用ギヤ26の移動量を検出する信号に基づいて、ロック用ギヤ26の位置を判定するように構成されている。すなわち、ロック用ギヤ26の位置が、フライホイールギヤ25と噛み合うロック位置であるか、フライホイールギヤ25との噛み合いが解消された解放位置であるかを判定するように構成されている。
【0045】
ロック用モータ制御部48は、走行モード設定部46によって設定された走行モードに対応する位置にロック用ギヤ26を移動させるように構成されている。すなわち、走行モード設定部46によってデュアルEV走行モードが設定され、かつギヤ位置判定部47によってロック用ギヤ26の位置が解放位置であることが判定された場合には、ロック用ギヤ26をロック位置に移動させる方向の電力をロック用モータ27aに通電するように構成されている。同様に、走行モード設定部46によってデュアルEV走行モード以外の走行モードが設定され、かつギヤ位置判定部47によってロック用ギヤ26の位置がロック位置であることが判定された場合には、ロック用ギヤ26を解放位置に移動させる方向の電力をロック用モータ27aに通電するように構成されている。
【0046】
MG1トルク制御部49は、上述したようにフライホイールギヤ25にロック用ギヤ26が接触することにより、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが噛み合うことができない場合に、第1モータ2に通電する信号を出力するように構成されている。
【0047】
図6は、上記ECU45によって実行される制御の一例を説明するためのフローチャートであり、まず、デュアルEV走行モードへの切り替えが判定されたか否かを判断する(ステップS1)。このステップS1は、上記の走行モード設定部46によって設定される走行モードが、デュアルEV走行モード以外の走行モードからデュアルEV走行モードに切り替わったか否かに基づいて判断することができる。
【0048】
デュアルEV走行モードへの切り替えが判定されたことによりステップS1で肯定的に判断された場合は、ロック用ギヤ26の位置がロック位置であるか否かを判断する(ステップS2)。このステップS2は、上記のギヤ位置判定部47によって判定されたロック用ギヤ26の位置に基づいて判断することができる。
【0049】
ロック用ギヤ26の位置がロック位置であることによりステップS2で肯定的に判断された場合は、ロック用モータ27aを停止する要求と、ロック用ギヤ26とフライホイールギヤ25とを噛み合わせるための第1モータ2の駆動を停止する要求とを出力して(ステップS3)、このルーチンを一旦終了する。すなわち、直前に実行されたルーチンによってロック用モータ27aに通電し、またはロック用ギヤ26とフライホイールギヤ25とを噛み合わせるためのトルクを第1モータ2から出力していた場合には、ロック用モータ27aへの通電を停止し、または第1モータ2への通電を停止する。
【0050】
それとは反対に、ロック用ギヤ26の位置がロック位置でないことによりステップS2で否定的に判断された場合は、ロック用モータ27aを駆動する要求(ロック側)を出力する(ステップS4)。すなわち、図2および図3に示す例であれば、ホイールギヤ35を反時計回りに回動させる方向のトルクをロック用モータ27aから出力するように通電を開始する。
【0051】
ついで、ロック用ギヤ26の位置がロック位置でない期間が所定期間以上継続しているか否かを判断する(ステップS5)。このステップS5は、フライホイールギヤ25の側面と、ロック用ギヤ26とが接触することにより、ロック用ギヤ26がロック位置まで移動できないか否かを判断するためのステップである。したがって、ステップS5では、ロック用モータ27aに通電し始めてから、ロック用ギヤ26がロック位置に到達するために要する時間を、ブレーキ機構24の摺動抵抗などを考慮して予め定めておき、ステップS4を実行し始めてからのカウントされた時間が、上記の時間を超過したか否かを判断する。
【0052】
ロック用ギヤ26の位置がロック位置でない期間が所定期間以上継続していることによりステップS5で肯定的に判断された場合は、フライホイールギヤ25の側面にロック用ギヤ26が接触していることが想定される。そのため、上述したようにMG1トルク制御部49によって、第1モータ2を駆動する要求を出力して(ステップS6)、このルーチンを一旦終了する。それとは反対に、ロック用ギヤ26の位置がロック位置でない期間が所定期間未満であることによりステップS5で否定的に判断された場合は、そのままこのルーチンを一旦終了する。
【0053】
一方、デュアルEV走行モードから他の走行モードへの切り替え判定時などであって、デュアルEV走行モードへの切り替えが判定されていないことによりステップS1で否定的に判断された場合は、ロック用ギヤ26の位置がロック位置であるか否かを判断する(ステップS7)。このステップS7は、ステップS2と同様に判断することができる。
【0054】
ロック用ギヤ26の位置がロック位置であることによりステップS7で肯定的に判断された場合は、ロック用モータ27aを駆動する要求(解放側)を出力して(ステップS8)、このルーチンを一旦終了する。すなわち、図2および図3に示す例であれば、ホイールギヤ35を時計回りに回動させる方向のトルクをロック用モータ27aから出力するように通電を開始する。
【0055】
それとは反対に、ロック用ギヤ26の位置がロック位置でないことによりステップS7で否定的に判断された場合は、ロック用モータ27aを停止する要求を出力して(ステップS9)、このルーチンを一旦終了する。
【0056】
デュアルEV走行モードへの切り替える時に図6に示すフローチャートを実行した場合におけるロック用モータ27aのトルク、ロック用ギヤ26の位置、第1モータ2のトルクなどの変化を説明するためのタイムチャートを図7に示してある。
【0057】
図7に示す例では、t0時点でデュアルEV走行モード以外の走行モードが設定されていることにより、ロック用ギヤ26の位置が解放位置にある。t1時点でデュアルEV走行モードへの切り替えが判定されている。t1時点では、ロック用ギヤ26の位置が解放位置であるため、図6におけるステップS2で否定的に判断される。したがって、ロック用モータ27aの駆動要求が出力される。すなわち、ロック用モータ27aの駆動要求フラグがオンに切り替わり、その結果、ロック用モータ27aのトルクが次第に増加している。
【0058】
ロック用モータ27aが駆動することによってロック用ギヤ26がロック位置側に向けて移動を開始するとともに、ロック位置でない期間のカウントが開始される。なお、t1時点では、そのカウントが閾値(所定期間)未満であるため、図6におけるステップS5で否定的に判断される。したがって、t1時点では、ロック用ギヤ26とフライホイールギヤ25とを噛み合わせるための第1モータ2の駆動要求を示すフラグ(MG1駆動要求フラグ)がオフとなっており、ここでは、第1モータ2が停止している。なお、他の制御などにより第1モータ2を駆動する要求がある場合には、その要求に応じたトルクを第1モータ2から出力してもよい。
【0059】
図7では、フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが接触することにより、ロック用ギヤ26をロック位置に移動させることができない例を示してある。したがって、図7では、t2時点でフライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが接触することにより、t2時点以降では、ロック用ギヤ26の位置が所定位置に維持されている。
【0060】
フライホイールギヤ25とロック用ギヤ26とが接触した状態が解消することなく、ロック用ギヤ26がロック位置に移動できない期間が所定期間経過すると(t3時点)、図6におけるステップS5で肯定的に判断される。したがって、t3時点でMG1駆動要求フラグがオンに切り替わり、第1モータ2からトルクを出力している。その結果、t4時点で、フライホイール5が回転することによりフライホイールギヤ25とロック用ギヤ26との位相がズレてロック用ギヤ26が更にロック側に移動し始めている。なお、図7に示す例では、第1モータ2をエンジン1とは反対方向に回転させる方向のトルク(すなわち、車両Veを前進させる方向の駆動トルク)が出力されている。
【0061】
そして、ロック用ギヤ26がロック位置まで移動したことによって(t5時点)、ロック用モータ27aの駆動要求フラグがオフに切り替わる。そのため、ロック用モータ27aの通電が停止されて、ロック用モータ27aのトルクが0トルクまで低下している。同様に、MG1駆動要求フラグがオフに切り替わることにより、第1モータ2のトルクが0トルクに制御されている。
【0062】
デュアルEV走行モードから他の走行モードへの切り替え時に図6に示すフローチャートを実行した場合におけるロック用モータ27aのトルク、ロック用ギヤ26の位置などの変化を説明するためのタイムチャートを図8に示してある。
【0063】
図8に示す例では、t10時点でデュアルEV走行モードが設定されていることにより、ロック用ギヤ26の位置がロック位置にある。t11時点でデュアルEV走行モード以外の走行モードが選択されることにより、図6におけるステップS8が実行される。したがって、ロック用モータ27aの駆動要求が出力される。すなわち、ロック用モータ27aの駆動要求フラグがオンに切り替わり、その結果、ロック用モータ27aのトルクが次第に増加している。
【0064】
ロック用モータ27aが駆動することによってロック用ギヤ26が解放位置側に向けて移動を開始し、t12時点で、ロック用ギヤ26が解放位置に到達している。そのため、t12時点で、ロック用モータ27aの通電が停止されて、ロック用モータ27aのトルクが0トルクまで低下している。
【0065】
上述したようにロック用ギヤ26をロック位置と解放位置とに切り替えるように構成することにより、ロック用ギヤ26を解放位置に切り替えた状態での走行モード、具体的には、HV走行モードやシングルEV走行モードでの走行時に、ロック用ギヤ26を連れ回すなどの動力損失が生じることを抑制できる。
【0066】
また、比較的外径の大きいフライホイール5に外歯25を形成し、その外歯25にロック用ギヤ26を噛み合わせてフライホイール5の回転を制限するため、ロック用ギヤ26に作用する荷重を低減することができる。そのため、ロック用ギヤ26を小型化することができる。
【0067】
さらに、フライホイール5の回転中心軸線に平行な軸線方向にロック用ギヤ26を移動可能に構成することによって、そのロック用ギヤ26を移動させるためのアクチュエータ27をエンジン1の外面に取り付けることができ、アクチュエータ27の搭載性を向上させることができる。
【0068】
なお、本発明の実施形態におけるアクチュエータは、上記のロック用モータ27aに限らず、例えば、ソレノイドを使用したアクチュエータであってもよい。ソレノイドを使用したブレーキ機構24の一例を図9に模式的に示してある。図9に示すブレーキ機構24は、図2に示すブレーキ機構24と同様に、フライホイールギヤ25に噛み合うロック位置と、その噛み合いが解消された解放位置とに移動可能にロック用ギヤ50が設けられている。
【0069】
このロック用ギヤ50は、円筒状に形成されていて、その内面にスプライン歯が形成されている。そのロック用ギヤ50には、支持シャフト51が挿入されている。この支持シャフト51は、ケースなどの固定部材52に連結されており、その先端にスプライン歯が形成されている。すなわち、ロック用ギヤ50と支持シャフト51とは、スプライン係合している。
【0070】
このロック用ギヤ50を軸線方向に押圧するようにフォーク53が連結されている。すなわち、ロック用ギヤ50の外周面に環状の溝を形成し、その溝にフォーク53の一方の端部が係合するように構成されている。
【0071】
このフォーク53は、支持シャフト51の中心軸線に交差する方向に延出し、その中央部分が固定部材52に回転可能に保持されている。フォーク53の他方の端部には、磁性体によって構成されたプランジャ54が取り付けられている。すなわち、プランジャ54が前後動することによって、フォーク53が回動し、それに伴ってロック用ギヤ50が前後動するように構成されている。
【0072】
このプランジャ54は、アクチュエータ27として機能するソレノイド27bに貫通して配置され、かつ軸線方向に移動可能に設けられている。すなわち、ソレノイド27bに通電することにより、プランジャ54がフォーク53の他方の端部を一方側に押圧するように構成されている。さらに、ソレノイド27bに通電することによってプランジャ54に作用する電磁力とは反対方向の荷重をプランジャ54に作用させるようにリターンスプリングなどの図示しない反力機構が設けられている。
【0073】
上記のように構成されたブレーキ機構24は、ソレノイド27bに通電していない場合には、反力機構からプランジャ54が荷重を受けることにより、図9(a)に示すようにプランジャ54が左側に移動し、それに伴って、ロック用ギヤ50がフライホイールギヤ25から離隔する方向(すなわち、解放位置側)に移動する。一方、ソレノイド27bに通電している場合には、その電力に応じた電磁力がプランジャ54に作用する。したがって、反力機構からプランジャ54が受ける荷重以上の電磁力がプランジャ54に作用することによって、プランジャ54が図9(b)に示すように右側に移動し、それに伴って、ロック用ギヤ50がフライホイールギヤ25に噛み合う。すなわち、ロック用ギヤ50がロック位置に移動する。
【0074】
そのようにロック用ギヤ50とフライホイールギヤ25とが噛み合った状態で、第1モータ2から駆動トルクを出力することによって車両Veを走行させることができる。一方、ロック用ギヤ50とフライホイールギヤ25とが噛み合った状態を維持するためにソレノイド27bに通電し続けると、車両Veの電力消費量が増加する。そのため、車両Veを前進走行させる方向に第1モータ2から駆動トルクを出力し、そのトルクがフライホイール5に作用した場合に、ソレノイド27bに通電することなく、ロック用ギヤ50とフライホイールギヤ25との噛み合い状態を維持できるように構成されている。
【0075】
具体的には、ロック用ギヤ50と支持シャフト51とのそれぞれのスプライン歯が、支持シャフト51の軸線方向に対して所定角度捩れて形成されている。すなわち、図10(a)に示すようにフライホイール5にトルクが作用し、ロック用ギヤ50と支持シャフト51とのスプライン歯が接触した場合に、ロック用ギヤ50に形成されたスプライン歯が、支持シャフト51に形成されたスプライン歯から受ける反力荷重のうちのロック用ギヤ50の軸線方向の成分が、ロック用ギヤ50とフライホイールギヤ25との噛み合い状態を維持する方向(図10における左側)となるように構成されている。したがって、ソレノイド27bに通電することなく、ロック用ギヤ50をロック位置に維持することができる。
【0076】
また、エンジン1からトルクを出力した場合には、図10(b)に示すようにフライホイール5には、デュアルEV走行モード時にフライホイール5に作用するトルクの向きとは反対方向のトルクが作用する。したがって、デュアルEV走行モードからHV走行モードに切り替える場合には、ロック用ギヤ50とフライホイールギヤ25との噛み合いが解消することを待つことなく、エンジン1を駆動させることができる。すなわち、デュアル走行モードからHV走行モードへの切り替えを迅速に行うことができる。
【0077】
なお、図10に示す例では、ロック用ギヤ50に作用するトルクによって、ロック用ギヤ50とフライホイールギヤ25との噛み合い状態を維持するように構成しているものの、他の保持機構などを設けてロック用ギヤ50とフライホイールギヤ25との噛み合いを維持するように構成してもよい。
【0078】
本発明の実施形態における動力分割機構は、図1に示すシングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されたものに限らず、ダブルピニオン型の遊星歯車機構などの他の差動機構であってもよく、また複数の遊星歯車機構を連結した複合遊星歯車機構によって構成されたもの、すなわち、差動回転する回転要素が四つ以上の差動機構であってもよい。また、第2モータ3は、エンジン1や第1モータ2からトルクが伝達される駆動輪11に連結されたものに限らず、他の駆動輪に連結されていてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 エンジン
2,3 モータ
4,23,32 出力軸
5 フライホイール
7 動力分割機構
8 入力軸
11 駆動輪
12 サンギヤ
13,21 リングギヤ
14 ピニオンギヤ
15 キャリヤ
24 ブレーキ機構
25 フライホイールギヤ(外歯)
26,50 ロック用ギヤ
27 アクチュエータ
27a ロック用モータ
27b ソレノイド
29 トルクリミッタ部
45 電子制御装置(ECU)
Ve 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10