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特許7697424二次電池用負極、二次電池用負極の製造方法、及び、二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】二次電池用負極、二次電池用負極の製造方法、及び、二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1395 20100101AFI20250617BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250617BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250617BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022120688
(22)【出願日】2022-07-28
(65)【公開番号】P2024017797
(43)【公開日】2024-02-08
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】内山 貴之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 哲也
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-514056(JP,A)
【文献】特開2017-054720(JP,A)
【文献】特開2019-185897(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0041684(KR,A)
【文献】特開2022-079934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用負極の製造方法であって、
LiとSiとを含むLiSi前駆体を得ること、
前記LiSi前駆体からLiを除去して、多孔質シリコン粒子を得ること、
複数の前記多孔質シリコン粒子と有機成分とを混合して中間複合体を得ること、
前記中間複合体の前記有機成分を炭化することで、複数の前記多孔質シリコン粒子とバインダーとしての多孔質カーボンとを含む複合粒子を得ること、
硫化物固体電解質と前記複合粒子とを含む活物質合材を得ること、及び、
前記活物質合材をプレスして、15%超の空隙率を有する活物質層を得ること、
を含む、製造方法。
【請求項2】
前記活物質合材をプレスして前記複合粒子を変形させること、を含み、
プレス後の前記活物質層の断面を観察した場合に、下記抽出方法にて抽出される複数の前記複合粒子のうちの半数以上が、2.5以上のアスペクト比を有する、
請求項に記載の製造方法。
抽出方法:前記活物質層の断面を観察し、前記断面に含まれる前記複合粒子を、断面積の大きい順に抽出し、抽出された前記複合粒子の合計の面積が、前記断面に含まれるすべての前記複合粒子の合計の面積の80%を超えた時点で、抽出を終了する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、二次電池用負極、二次電池用負極の製造方法、及び、二次電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
二次電池用負極であってSi系活物質を含むものが知られている。例えば、特許文献1には、全固体電池に用いられる負極層であって、負極活物質及び硫化物固体電解質を有し、前記負極活物質がSi元素を含む複数の粒子とバインダーとを有する複合粒子であるものが開示されている。特許文献1に開示された負極層の空隙率は、15%以下である。
【0003】
特許文献2には、Li抽出溶媒を用いてLiSi前駆体からLiを抽出することで、空隙を有する活物質を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-121557号公報
【文献】特開2021-166153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の二次電池用負極は、充放電時の活物質の膨張及び収縮による負極の厚み変化を抑制し、且つ、負極の抵抗を低減することについて、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
二次電池用負極であって、活物質層を有し、
前記活物質層が、硫化物固体電解質と、活物質としての複合粒子とを含み、
前記複合粒子が、複数の多孔質シリコン粒子と、バインダーとを含み、
前記活物質層が、15%超の空隙率を有するもの
を開示する。
【0007】
上記本開示の二次電池用負極において、前記活物質層の断面を観察した場合に、下記抽出方法にて抽出された複数の前記複合粒子のうちの半数以上が、2.5以上のアスペクト比を有していてもよい。
【0008】
抽出方法:前記活物質層の断面を観察し、前記断面に含まれる前記複合粒子を、断面積の大きい順に抽出し、抽出された前記複合粒子の合計の面積が、前記断面に含まれるすべての前記複合粒子の合計の面積の80%を超えた時点で、抽出を終了する。
【0009】
上記本開示の二次電池用負極において、前記複合粒子が、前記バインダーとしての多孔質カーボンを含んでいてもよい。
【0010】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
二次電池負極の製造方法であって、
LiとSiとを含むLiSi前駆体を得ること、
前記LiSi前駆体からLiを除去して、多孔質シリコン粒子を得ること、
複数の前記多孔質シリコン粒子とバインダーとを含む複合粒子を得ること、
硫化物固体電解質と前記複合粒子とを含む活物質合材を得ること、及び、
前記活物質合材をプレスして、15%超の空隙率を有する活物質層を得ること、
を含むものを開示する。
【0011】
上記本開示の製造方法は、前記活物質合材をプレスして前記複合粒子を変形させること、を含んでいてもよく、この場合、プレス後の前記活物質層の断面を観察した場合に、下記抽出方法にて抽出される複数の前記複合粒子のうちの半数以上が、2.5以上のアスペクト比を有していてもよい。
【0012】
抽出方法:前記活物質層の断面を観察し、前記断面に含まれる前記複合粒子を、断面積の大きい順に抽出し、抽出された前記複合粒子の合計の面積が、前記断面に含まれるすべての前記複合粒子の合計の面積の80%を超えた時点で、抽出を終了する。
【0013】
上記本開示の製造方法は、
複数の前記多孔質シリコン粒子と有機成分とを混合して中間複合体を得ること、及び、
前記中間複合体の前記有機成分を炭化することで、複数の前記多孔質シリコン粒子と前記バインダーとしての多孔質カーボンとを含む前記複合粒子を得ること、
を含むものであってもよい。
【0014】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
二次電池であって、上記本開示の二次電池用負極を有するもの
を開示する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の二次電池用負極は、充放電時の活物質の膨張及び収縮に伴う負極の厚み変化が小さい。また、本開示の二次電池用負極は、小さな抵抗を有する。本開示の負極を備える二次電池は、充放電時の負極の厚み変化が小さいことで、例えば、充放電時の拘束圧の変化が小さい。また、本開示の負極を備える二次電池は、負極の抵抗が小さいことで、例えば、優れた充放電性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】負極及び二次電池の構成の一例を概略的に示している。
図2】負極における活物質層の充填率(100-空隙率)と電池の抵抗との関係を示している。
図3】負極における活物質層の充填率(100-空隙率)と電池の拘束圧増加量との関係を示している。
図4A】SEMによって観察された活物質層の断面の一例を示している。
図4B図4Aに示される断面について、複合粒子(黒)とそれ以外(白)とを二値化して示している。
図4C図4Bにて二値化された画像をもとに、複合粒子の各々のアスペクト比を楕円近似によって算出した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.二次電池用負極
本開示の二次電池用負極は、活物質層を有する。前記活物質層は、硫化物固体電解質と、活物質としての複合粒子とを含む。前記複合粒子は、複数の多孔質シリコン粒子と、バインダーとを含む。前記活物質層は、15%超の空隙率を有する。
【0018】
1.1 活物質層
活物質層は、硫化物固体電解質と、活物質としての複合粒子とを含む。活物質層の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の活物質層であってもよい。活物質層の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、100nm以上、1μm以上、又は、10μm以上であってもよく、2mm以下、又は、1mm以下であってもよい。
【0019】
1.1.1 硫化物固体電解質
活物質層は、硫化物固体電解質を含む。硫化物固体電解質は、二次電池におけるキャリアイオンを伝導可能な硫化物であればよい。リチウムイオン二次電池を構成する場合の硫化物固体電解質の具体例としては、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等が挙げられる。中でも、構成元素として、少なくとも、Liと、Sと、P、Si及びGeのうちの少なくとも1種とを含むものの性能が高く、少なくとも、Liと、Sと、Pとを含むものの性能が特に高い。硫化物固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。硫化物固体電解質は例えば粒子状であってもよい。硫化物固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0020】
1.1.2 複合粒子
活物質層は、活物質としての複合粒子を含む。複合粒子は、複数の多孔質シリコン粒子と、バインダーとを含む。より具体的には、複数の多孔質シリコン粒子同士がバインダーを介して結合することにより、複合粒子が形成される。
【0021】
1.1.2.1 多孔質シリコン粒子
複合粒子は、複数の多孔質シリコン粒子を含む。多孔質シリコン粒子は、空隙を複数有するシリコンを含むものである。多孔質シリコン粒子における空隙の形態に特に制限はない。多孔質シリコン粒子は、ナノポーラスシリコンを含む粒子であってもよい。ナノポーラスシリコンとは、ナノメートルオーダー(1000nm未満、好ましくは100nm以下)の細孔径を有する細孔が複数存在するシリコンをいう。多孔質シリコン粒子は、直径55nm以下の細孔を含むものであってもよい。直径55nm以下の細孔は、プレスによっても潰れ難い。すなわち、直径55nm以下の細孔を含む多孔質シリコン粒子は、プレス後においても多孔質が維持され易い。例えば、多孔質シリコン粒子1gあたり、直径55nm以下の細孔が0.21cc以上、0.22cc/g以上、又は、0.23cc/g以上含まれていてもよく、0.30cc/g以下、0.28cc/g以下、又は、0.26cc/g以下含まれていてもよい。多孔質シリコン粒子に含まれる直径55nm以下の細孔の量は、例えば、窒素ガス吸着法、DFT法による細孔径分布から求めることができる。
【0022】
多孔質シリコン粒子は、所定の空隙率を有していてもよい。多孔質シリコン粒子の空隙率は、例えば、1%以上、5%以上、10%以上、又は、20%以上であってもよく、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、又は、30%以下であってもよい。空隙率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察等により求めることができる。サンプル数は多いことが好ましく、例えば100以上である。空隙率は、これらサンプルから求めた平均値とすることができる。
【0023】
ただし、本開示の二次電池用負極において、多孔質シリコン粒子における空隙、複合粒子における空隙、及び、複合粒子外の空隙等が各々区別される必要はない。本開示の二次電池用負極においては、多孔質シリコン粒子における空隙、複合粒子における空隙、複合粒子外の空隙等を含む活物質層全体としての空隙率が、15%超であればよい。すなわち、多孔質シリコン粒子の空隙率の大小、複合粒子の空隙率の大小、及び、複合粒子外の空隙率の大小によらず、活物質層全体としての空隙率が15%超であれば、充電時の負極の厚み変化を抑制する効果が期待できる。
【0024】
多孔質シリコン粒子の組成は特に限定されるものではない。多孔質シリコン粒子に含まれる全ての元素に占めるSi元素の割合は、例えば、50mol%以上、70mol%以上、又は、90mol%以上であってもよい。多孔質シリコン粒子は、Si元素以外に、Li元素等のその他の元素を含んでいてもよい。その他の元素としては、Li元素のほか、Sn元素、Fe元素、Co元素、Ni元素、Ti元素、Cr元素、B元素、P元素等が挙げられる。また、多孔質シリコン粒子は、酸化物等の不純物を含んでいてもよい。多孔質シリコン粒子は、非晶質であっても結晶であってもよい。多孔質シリコン粒子に含まれる結晶相は特に限定されるものではない。
【0025】
多孔質シリコン粒子の形状やサイズは特に限定されるものではない。多孔質シリコン粒子の平均一次粒子径は、例えば、30nm以上、50nm以上、100nm以上、又は、150nm以上であってもよく、10μm以下、5μm以下、3μm以下、2μm以下、又は、1μm以下であってもよい。また、多孔質シリコン粒子の平均二次粒子径は、例えば、100nm以上、1μm以上、又は、2μm以上であってもよく、20μm以下、15μm以下、又は、10μm以下であってもよい。尚、平均一次粒子径及び平均二次粒子径は、SEM等の電子顕微鏡による観察によって求めることができ、例えば、複数の粒子の各々の最大フェレ径の平均値として求められる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。平均一次粒子径及び平均二次粒子径は、例えば、後述する多孔質シリコン粒子の製造条件を適宜変更したり、分級処理を行ったりすることで、適宜調整可能である。
【0026】
1.1.2.2 バインダー
複合粒子は、バインダーを含む。バインダーは、複数の多孔質シリコン粒子同士を結合する。バインダーの種類は、特に限定されるものではない。バインダーは、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー、カルボキシメチルセルロース(CMC)系バインダー、ポリアクリル酸塩系バインダー、ポリアクリル酸エステル系バインダー等から選ばれるものであってもよい。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0027】
複合粒子は、バインダーとしての多孔質カーボンを含むものであってもよい。バインダーとしての多孔質カーボンは、例えば、各種の有機成分を炭化することにより得ることができる。例えば、複数の多孔質シリコン粒子と有機成分とを混合して、多孔質シリコン粒子同士を有機成分で結合したうえで、加熱によって有機成分を炭化することで、多孔質カーボンを介して複数の多孔質シリコン粒子同士が結合された複合粒子が得られる。バインダー全体に占める多孔質カーボンの割合は特に限定されるものではなく、例えば、0体積%以上、0体積%超、10体積%以上、20体積%以上、30体積%以上、又は、40体積%以上であってもよく、100体積%以下、又は、90体積%以下であってもよい。複合粒子がバインダーとしての多孔質カーボンを含む場合、複合粒子における導電性が向上し、負極の抵抗が小さくなり易い。また、多孔質シリコン粒子が膨張や収縮した場合でも、多孔質カーボンの空隙によって、複合粒子全体としての体積変化が緩和され易くなり、負極の厚み変化が抑制され易くなる。複合粒子がバインダーとしての多孔質カーボンを含んでいるか否かについては、電子顕微鏡等で観察して得られた画像や元素分析によって判断することができる。
【0028】
1.1.2.3 複合粒子に含まれる多孔質シリコン粒子及びバインダーの割合
複合粒子に含まれる多孔質シリコン粒子及びバインダーの割合は、複合粒子を形成することができる程度のものであれば特に限定されない。例えば、多孔質シリコン粒子及びバインダーの合計に占めるバインダーの割合は、1質量%以上、5質量%以上、又は、8質量%以上であってもよく、30質量%以下、28質量%以下、26質量%以下、24質量%以下、又は、22質量%以下であってもよい。多孔質シリコン粒子及びバインダーの合計に占めるバインダーの割合が1質量%以上30質量%以下である場合、より大きな充放電容量が確保され易い。
【0029】
1.1.2.4 複合粒子に含まれる多孔質シリコン粒子の数
1つの複合粒子に含まれる多孔質シリコン粒子の数は、複数である。複合粒子に含まれる多孔質シリコン粒子の数は、例えば、3個以上、5個以上、10個以上、又は、50個以上であってもよく、1000個以下であってもよい。複合粒子に含まれる多孔質シリコン粒子の数は、例えば、電子顕微鏡等で観察して得られた画像や元素分析によって特定することができる。
【0030】
1.1.2.5 複合粒子の粒子径
複合粒子は、複数の多孔質シリコン粒子がバインダーを介して凝集した二次粒子とみなすことができる。複合粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではない。複合粒子の平均粒子径は、100nm以上、1μm以上、2μm以上、又は、3μm以上であってもよく、20μm以下、15μm以下、又は、10μm以下であってもよい。活物質層に含まれる複合粒子の平均粒子径は、SEM等の電子顕微鏡による観察によって求めることができ、例えば、複数の複合粒子の最大フェレ径の平均値として求められる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。或いは、活物質層から複合粒子のみを取り出し、レーザ回折式粒子分布測定装置を用いて測定される複合粒子の平均粒子径(D50、メジアン径)が、100nm以上、1μm以上、2μm以上、又は、3μm以上であってもよく、20μm以下、15μm以下、又は、10μm以下であってもよい。
【0031】
1.1.2.6 複合粒子の形状
後述するように、硫化物固体電解質及び複合粒子を含む活物質層は、硫化物固体電解質及び複合粒子を含む活物質合材をプレスすることによって形成され得る。この際、複合粒子は、プレス方向に潰れて、所定以上のアスペクト比を有するものとなり得る。複合粒子が所定以上のアスペクト比を有する程度にプレスされることで、複合粒子内の接触抵抗、複合粒子同士の接触抵抗、及び、複合粒子と他の材料との接触抵抗等が低減され、負極全体としての抵抗が一層小さくなり易い。具体的には、負極の抵抗が一層小さくなる観点から、本開示の二次電池用負極においては、活物質層の断面を観察した場合に、下記抽出方法にて抽出される複数の複合粒子のうちの半数以上(個数割合で50%以上)が、2.5以上のアスペクト比を有していてもよい。
【0032】
抽出方法:活物質層の断面を観察し、当該断面に含まれる複合粒子を、断面積の大きい順に抽出し、抽出された複合粒子の合計の面積が、当該断面に含まれるすべての複合粒子の合計の面積の80%を超えた時点で、抽出を終了する。
【0033】
尚、上記の抽出方法は、SEM等によって取得される活物質層の断面画像をもとに、画像解析によって行われるものであってよい。画像解析においては、画像に含まれる複合粒子を楕円近似したうえで、各々の複合粒子のアスペクト比が特定されてもよい。活物質層の断面の画像解析による複合粒子の抽出及びアスペクト比の特定については、後述の実施例においてより詳細に説明する。
【0034】
1.1.3 その他の成分
活物質層は、少なくとも、上述の硫化物固体電解質及び複合粒子を含む。また、活物質層は、さらに任意に、硫化物固体電解質以外の電解質、複合粒子以外の活物質、導電助剤、複合粒子以外のバインダー等を含んでいてもよい。さらに、活物質層は各種の添加剤を含んでいてもよい。活物質層における活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、活物質層全体(固形分全体)を100質量%として、上記の複合粒子の含有量が40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上又は55質量%以上であってもよく、99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下又は80質量%以下であってもよい。また、活物質層全体(固形分全体)を100質量%として、硫化物固体電解質の含有量が1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上又は20質量%以上であってもよく、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下又は45質量%以下であってもよい。
【0035】
1.1.3.1 硫化物固体電解質以外の電解質
活物質層に含まれ得る硫化物固体電解質以外の電解質は、例えば、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。固体電解質は、二次電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。硫化物固体電解質以外の無機固体電解質としては、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlGe2-X(PO、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質が挙げられる。電解液は、例えば、キャリアイオンとしてのリチウムイオンを含み得る。電解液は、例えば、非水系電解液であってよい。電解液の組成は二次電池の電解液の組成として公知のものと同様とすればよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒等の有機溶媒にリチウム塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。リチウム塩の種類に特に制限はない。活物質層に含まれる電解質の全体に占める硫化物固体電解質の割合は、例えば、80質量%以上、90質量%以上、又は、95質量%以上であってもよく、100質量%以下であってもよい。
【0036】
本開示の二次電池用負極においては、活物質層に液体成分が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。液体成分は、電解質として機能し得る電解液であってもよいし、電解質として機能しないもの(例えば、潤滑成分)であってもよい。本開示の二次電池用負極においては、バインダーを介して複数の多孔質シリコン粒子同士が結合されて複合粒子が構成され、且つ、当該複合粒子と硫化物固体電解質とが組み合わされることで、液体成分が存在せずとも、イオン伝導パス及び導電パスが確保され得る。
【0037】
1.1.3.2 複合粒子以外の活物質
活物質層に含まれ得る複合粒子以外の活物質は、例えば、SiやSi合金や酸化ケイ素等のシリコン系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質;金属リチウムやリチウム合金等が挙げられる。活物質層に含まれる複合粒子と複合粒子以外の活物質との合計に占める複合粒子の割合は、例えば、80質量%以上、90質量%以上、又は、95質量%以上であってもよく、100質量%以下であってもよい。
【0038】
1.1.3.3 導電助剤
活物質層に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0039】
1.1.3.4 複合粒子以外のバインダー
活物質層は、複合粒子とは別にバインダーを含むものであってもよい。バインダーは、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー、カルボキシメチルセルロース(CMC)系バインダー、ポリアクリル酸塩系バインダー、ポリアクリル酸エステル系バインダー等から選ばれるものであってもよい。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。複合粒子を構成するバインダーと、複合粒子以外のバインダーとは、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0040】
1.1.4 活物質層の空隙率
本開示の二次電池用負極においては、活物質層が15%超の空隙率を有する。活物質層がこのような高い空隙率を有することで、充放電時に活物質としての複合粒子が膨張及び収縮した場合でも、負極の厚み変化が大きくなり難い。活物質層の空隙率の上限は特に限定されるものではない。本開示の二次電池用負極においては、活物質層の空隙率が大きい場合でも、多孔質シリコン粒子とバインダーとを複合化したことによる効果や、硫化物固体電解質と組み合わせたことによる効果等によって、抵抗を低減可能である。活物質層の空隙率は、例えば、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下又は20%以下であってもよい。尚、活物質層の「空隙率」とは、活物質層の全体に占める活物質層内の空隙の体積の割合である。活物質層の空隙率は、以下のようにして特定する。すなわち、活物質層の空隙率をAとし、活物質層を構成する各材料の重量を各材料の真密度で割って得られる体積の合計をxとし、実際の活物質層の寸法から得られる体積をyとしたとき、A(%)=(1-x/y)×100によって空隙率Aを算出することができる。
【0041】
1.2 活物質層以外の構成
本開示の二次電池用負極は、活物質層を有し、さらに任意に、活物質層と接触する集電体を有していてもよい。図1に一実施形態に係る二次電池100の構成を概略的に示す。図1に示されるように、二次電池100の負極30は、活物質層31と、活物質層31と接触する集電体32とを有するものであってよい。
【0042】
1.2.1 集電体
集電体は、電池の集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、集電体は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。集電体は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。集電体は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。集電体を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点等から、集電体がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。集電体は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、集電体は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、集電体が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。集電体の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0043】
1.2.2 その他の構成
本開示の二次電池用負極は、上記の活物質層や集電体に加えて、二次電池の負極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。
【0044】
1.3 補足
本開示の二次電池用負極は、例えば、リチウムイオン二次電池の負極として用いられることが好ましい。リチウムイオン二次電池の充放電時、活物質としてのシリコンがリチウムイオンを吸蔵して大きく膨張し、また、リチウムイオンを放出して大きく収縮する。すなわち、従来のリチウムイオン二次電池においては、充放電時、活物質としてのシリコンの膨張及び収縮が大きく、負極の厚み変化が大きく、拘束圧が大きく変化し易い。特に、硫化物固体電解質を含むリチウムイオン二次電池においては、拘束圧が過度に大きくなり易い。これに対して、リチウムイオン二次電池において本開示の二次電池用負極を採用することで、充放電時の負極の厚み変化が小さく抑えられ、拘束圧の変化を小さくすることができる。
【0045】
1.4 効果
以上の通り、本開示の二次電池用負極においては、活物質層が多孔質シリコン粒子とバインダーとの複合粒子を含み、且つ、活物質層の空隙率が15%超と大きい。本開示の二次電池用負極は、このような空隙率の大きな活物質層を有することで、充放電時の厚み変化が小さい。また、本開示の二次電池用負極は、活物質層において多孔質シリコン粒子がバインダーによって複合化され、且つ、複合粒子と硫化物固体電解質とを組み合わせることで、導電パスやイオン伝導パスが確保され、負極の抵抗が小さくなり易い。特に、複合粒子が上述した所定のアスペクト比を有する場合や、複合粒子がバインダーとしての多孔質カーボンを含む場合、負極の抵抗が一層小さくなり易い。
【0046】
2.二次電池用負極の製造方法
本開示の二次電池用負極は、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、本開示の二次電池用負極の製造方法は、
LiとSiとを含むLiSi前駆体を得ること、
前記LiSi前駆体からLiを除去して、多孔質シリコン粒子を得ること、
複数の前記多孔質シリコン粒子とバインダーとを含む複合粒子を得ること、
硫化物固体電解質と前記複合粒子とを含む活物質合材を得ること、及び、
前記活物質合材をプレスして、15%超の空隙率を有する活物質層を得ること、
を含む。
【0047】
2.1 LiSi前駆体を得ること
LiSi前駆体は、構成元素としてLiとSiとを含む。LiSi前駆体は、例えば、LiとSiとの合金であってもよい。LiSi前駆体は、Liを除去することで空隙が形成されて多孔質となり得るものであればよい。LiSi前駆体は、Si(ダイヤモンド型)の結晶相を有するものであってもよい。Siの結晶相は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=28.4°、47.3°、56.1°、69.2°、76.4°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.5°の範囲で前後していてもよく、±0.3°の範囲で前後していてもよい。LiSi前駆体は、Si(ダイヤモンド型)の結晶相を主相として有していてもよい。「主相」とは、XRDチャートにおいて、最も強度が大きいピークが属する結晶相をいう。LiSi前駆体は、Li22Siの結晶相やLi15Siの結晶相を有していてもよい。Li22Siの結晶相は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=24.8°及び40.8°の位置に典型的なピークを有し、Li15Siの結晶相は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=20.3°、26.2°、39.4°、41.2°及び42.9°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.5°の範囲で前後していてもよく、±0.3°の範囲で前後していてもよい。
【0048】
LiSi前駆体の組成は特に限定されない。LiSi前駆体は、Li元素及びSi元素のみを含むものであってもよく、Li元素及びSi元素に加えて、他の元素を含んでいてもよい。LiSi前駆体に含まれる全ての元素に対する、Li元素及びSi元素の合計の割合は、例えば、50mol%以上、70mol%以上、又は、90mol%以上であってもよい。LiSi前駆体において、Li元素及びSi元素の合計に対するLi元素の割合は、例えば、30mol%以上、50mol%以上、又は、80mol%以上であってもよく、95mol%以下、又は、90mol%以下であってもよい。
【0049】
LiSi前駆体は、Li元素を含有する原料とSi元素を含有する原料とを混合することにより得られたものであってもよい。例えば、本開示の製造方法においては、Si粒子とLi金属とが混合されてLiSi前駆体が得られてもよい。混合方法としては、例えば、Si粒子とLi金属とをメノウ乳鉢を用いて混合する方法、Si粒子とLi金属とをメカニカルミリング法を用いて混合する方法等が挙げられる。混合時の温度や圧力は特に限定されるものではない。混合時に加熱や冷却がされてもよいし、されなくてもよく、加圧や減圧がされてもよいし、されなくてもよい。混合時の雰囲気も特に限定されず、例えば、Ar雰囲気等の不活性ガス雰囲気であってよい。混合されるSi粒子やLi金属の形状や大きさも特に限定されるものではなく、目的とする多孔質シリコン粒子の形状や大きさ等に応じて適宜選択されればよい。
【0050】
2.2 多孔質シリコン粒子を得ること
本開示の製造方法においては、上述のLiSi前駆体からLiが除去されることにより、多孔質シリコン粒子が得られる。本開示の製造方法においては、LiSi前駆体からすべてのLiを除去する必要はなく、多孔質シリコン粒子においてLi元素が部分的に残っていてもよい。LiSi前駆体からLiを除去する方法は特に限定されるものではない。例えば、LiSi前駆体からLiを抽出してもよい。Liの抽出にはLi抽出溶媒が用いられてもよい。例えば、LiSi前駆体をLi抽出溶媒に接触させることで、Li抽出溶媒とLiとが反応し、LiSi前駆体からLi抽出溶媒へとLiが抽出される。LiSi前駆体をLi抽出溶媒に接触させる形態は特に限定されるものではなく、LiSi前駆体がLi抽出溶媒に浸漬されてもよいし、LiSi前駆体に対してLi抽出溶媒が吹き付けられてもよいし、LiSi前駆体とLi抽出溶媒とが混合されてもよいし、LiSi前駆体を分散媒に分散させて分散液とし、当該分散液とLi抽出溶媒とが混合されてもよい。
【0051】
Li抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールを用いることができる。Li抽出溶媒は、アルコールとともに副溶媒を含んでいてもよい。副溶媒としては、例えば、後述の酸が挙げられる。Li抽出溶媒の種類によって、Li抽出速度が異なり、Li抽出後に形成される細孔の径が変化する。例えば、Li抽出溶媒としてメタノールを用いた場合、エタノールを用いた場合、及び、プロパノールを用いた場合を比較すると、Li抽出速度は、メタノールを用いた場合に最も速くなり、次いでエタノール、次いで1-プロパノール、次いでイソプロパノールを用いた場合である。また、Li抽出後の細孔径は、メタノールを用いた場合に最も大きくなり易く、次いでエタノール、次いで1-プロパノール、次いでイソプロパノールを用いた場合である。目的とする細孔径に応じて、Li抽出溶媒の種類や抽出時間が選択されればよい。Li抽出後の活物質に形成される空隙は様々な細孔径を有する。ここで、Li抽出後の多孔質シリコン粒子における細孔径を調整することで、多孔質シリコン粒子が加圧された場合(例えば、電池製造時に負極がプレスされた場合)等においても細孔が潰れ難くなる。例えば、上述したように、多孔質シリコン粒子において直径55nm以下の細孔の量を増加させることで、細孔が潰れ難くなり、充放電時の活物質の膨張収縮が一層抑制され易くなる。
【0052】
本開示の製造方法は、LiSi前駆体を分散媒に分散させて分散液を得ること、及び、当該分散液とLi抽出溶媒とを混合して、LiSi前駆体からLiを抽出して空隙を形成すること、を含むものであってもよい。この場合、Li抽出後の多孔質シリコン粒子における細孔径が一層適切に調整され易い。分散媒としては、例えば、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、2-エチルヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ヘキセン、ヘプテン等の不飽和炭化水素、1,3,5-トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、n-ブチルエーテル、n-ヘキシルエーテル、イソアミルエーテル、ジフェニルエーテル、メチルフェニルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、から選ばれる1種以上の溶媒が挙げられる。これらの中でも、n-ブチルエーテル、1,3,5-トリメチルベンゼン及びn-ヘプタンから選ばれる1種以上が好ましく、特に1,3,5-トリメチルベンゼンが好ましい。尚、分散媒における水分量は少ないことが好ましい。水分はLiSi前駆体と反応するためである。分散媒における水分量は、例えば、100ppm以下、50ppm以下、30ppm以下、又は、10ppm以下であってもよい。分散液におけるLiSi前駆体の割合(固形分率)は特に限定されるものではなく、分散媒にLiSi前駆体を分散可能な程度の割合であればよい。分散液は、例えば、LiSi前駆体と分散媒とを混合することにより得られる。この場合の混合手段は特に限定されるものではない。
【0053】
Li抽出溶媒を用いてLiSi前駆体からLiを抽出する際の温度や圧力は特に限定されるものではない。Li抽出時に加熱や冷却がされてもよいし、されなくてもよく、加圧や減圧がされてもよいし、されなくてもよい。Li抽出時の雰囲気やLi抽出時間についても特に限定されるものではない。また、Li抽出時のLiSi前駆体とLi抽出溶媒との比も特に限定されるものではない。LiSi前駆体から必要な量のLiが抽出できるように温度、圧力、時間、比等が調整されればよい。
【0054】
LiSi前駆体からのLiの除去は、1段階で行われてもよいし、2段階以上で行われてもよい。例えば、LiSi前駆体とLi抽出溶媒とを反応させることのみによって多孔質シリコン粒子を1段階で得てもよいし、Li抽出溶媒を用いた空隙の形成の後に、再度、Li抽出溶媒を用いてLiを抽出したり、或いは、酸を用いてLiを抽出するなどして、2段階以上の抽出処理を経て多孔質シリコン粒子を得てもよい。Li抽出溶媒を用いた後に酸を用いることで、LiSi前駆体からLiをより適切に抽出することができる。酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸及びシュウ酸のうちの1種以上が挙げられる。特に酢酸が好ましい。酸を用いたLi抽出時の温度、圧力、時間、体積比等は特に限定されるものではない。
【0055】
Li抽出後の多孔質シリコン粒子は、任意に洗浄されてもよい。これにより、多孔質シリコン粒子に含まれる不純物が低減され得る。LiSi前駆体とLi抽出溶媒との合計に占めるLiSi前駆体の濃度が高いと、製造効率は高くなる反面、不純物の生成量が多くなり易い。例えば、LiSi前駆体の濃度が、1LのLi抽出溶媒に対して、3.3g以上である場合に、Li抽出後の活物質を洗浄することで、製造効率の向上と、不純物の低減とを両立できる。洗浄は、例えば、多孔質シリコン粒子に酸を接触させる酸洗浄であってもよい。尚、上記の酸によるLi元素の抽出が、多孔質シリコン粒子の酸洗浄を兼ねていてもよい。
【0056】
2.3 複合粒子を得ること
本開示の製造方法においては、上述のようにして得られた複数の多孔質シリコン粒子とバインダーとによって複合粒子が得られる。複合粒子は、例えば、多孔質シリコン粒子とバインダーとを混合することによって得ることができる。多孔質シリコン粒子とバインダーとの混合比については特に限定されるものではなく、目的とする複合粒子の組成に応じて適宜決定されればよい。混合は乾式で行っても湿式で行ってもよい。例えば、多孔質シリコン粒子とバインダーとを分散媒に分散又は溶解させてスラリーを得て、当該スラリーを乾燥させることで、多孔質シリコン粒子とバインダーとを複合化してもよい。分散媒の種類は特に限定されるものではなく、例えば、炭酸ジメチル等が採用され得る。スラリーの乾燥は、公知の乾燥手段により行われればよい。例えば、噴霧乾燥や転動による乾燥が挙げられる。具体的には、スプレードライヤーを用いて乾燥してもよい。一方、乾式による複合粒子の生成は、例えば、多孔質シリコン粒子とバインダーとに対して圧縮や物理的な衝撃を加えることにより行うことができる。
【0057】
上述したように、本開示の二次電池用負極においては、複合粒子が、バインダーとしての多孔質カーボンを含むものであってもよい。これにより、負極の抵抗を一層小さくすることができる。この観点から、本開示の製造方法は、複数の多孔質シリコン粒子と有機成分とを混合して中間複合体を得ること、及び、中間複合体の有機成分を炭化することで、複数の多孔質シリコン粒子とバインダーとしての多孔質カーボンとを含む複合粒子を得ること、を含むものであってもよい。有機成分は、炭化によって多孔質カーボンとなり得るものであればよい。例えば、有機成分が炭化する際、有機成分から一部の元素が離脱して空隙を形成するようなものが挙げられる。また、中間複合体において、複数の多孔質シリコン粒子同士が有機成分を介して結合された状態にあるとよい。すなわち、有機成分は、炭化によって多孔質カーボンとなるもので、且つ、多孔質シリコン粒子同士を結着する機能を有するものが好ましい。このような有機成分の具体例としては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、ブチレンゴム(IIR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸エステル等が挙げられる。例えば、有機成分としてPVdFやPTFE等の結着性のフッ素系有機化合物を用いた場合、当該フッ素系有機化合物の炭化時、HやFがフッ酸等となって揮発除去されて空隙が形成され、小さな細孔を有する多孔質カーボンが得られる。
【0058】
2.4 活物質合材を得ること
本開示の製造方法においては、上述のようにして得られた複合粒子と硫化物固体電解質とによって活物質合材が得られる。例えば、複合粒子が硫化物固体電解質とともに混合されることで、活物質合材が得られる。活物質合材は、活物質層を構成する成分を含むものであればよく、上述の通り、複合粒子及び硫化物固体電解質に加えて、導電剤等の任意成分を含むものであってよい。活物質合材は、これら各成分を公知の方法で混合することにより得られる。混合は、乾式で行われてもよいし、湿式で行われてもよい。すなわち、活物質合材は、複合粒子及び硫化物固体電解質等の固体のみからなるものであってもよいし、複合粒子及び硫化物固体電解質等の固体が分散液に分散されてスラリーとされた状態にあってもよい。活物質合材の混合条件に特に制限はない。
【0059】
2.5 活物質層を得ること
活物質合材を得る際、湿式混合によって活物質合材を含むスラリーを得た場合は、例えば、当該スラリーを集電体又は後述の電解質層の表面に塗布して乾燥して、集電体又は電解質層の表面に活物質合材を積層すること、並びに、当該活物質合材に対してプレスを施すこと、を経て活物質層が形成され得る。或いは、活物質合材を乾式成形(例えば、圧粉成形)すること等によって活物質層が形成されてもよい。いずれにしても、本開示の製造方法においては、上述のようにして得られた活物質合材がプレスされることで、活物質層が得られる。
【0060】
ここで、活物質合材に加えられる圧力の大きさによって、活物質層における空隙率が変化し得る。また、活物質合材に加えられる圧力が同じであったとしても、活物質合材の組成によって、活物質層の空隙率が変化し得る。例えば、活物質合材が液体を含む場合と固体のみからなる場合とでは、活物質合材の流動性が異なる。また、活物質合材に含まれる粒子の大きさや形状によっても、活物質合材の流動性が異なる。このような流動性の違いによって、プレス後の活物質の空隙率が変化し得る。本開示の製造方法においては、活物質層の空隙率が15%超となるように、活物質合材の形態や組成に応じて、活物質合材に加えられる圧力の大きさが調整されればよい。プレス後の活物質層の空隙率は、例えば、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下又は20%以下であってもよい。活物質合材をプレスする手段は、特に限定されるものではない。例えば、CIP、HIP、ロールプレス、一軸プレス、金型プレス等の種々のプレス手段を採用可能である。
【0061】
上述したように、本開示の二次電池用負極においては、複合粒子が所定のアスペクト比を有する程度にプレスされることで、複合粒子内の接触抵抗、複合粒子同士の接触抵抗、及び、複合粒子と他の材料との接触抵抗を低減することができ、負極全体としての抵抗を小さくすることができる。この観点から、本開示の製造方法は、活物質合材をプレスすることで、複合粒子を変形させること、を含むものであってよく、プレス後の活物質層の断面を観察した場合に、下記抽出方法にて抽出される複数の複合粒子のうちの半数以上が、2.5以上のアスペクト比を有していてもよく、すなわち、複合粒子が目的とするアスペクト比となるように、活物質合材に加えられる圧力の大きさ等が調整されてもよい。
【0062】
抽出方法:前記活物質層の断面を観察し、前記断面に含まれる前記複合粒子を、断面積の大きい順に抽出し、抽出された前記複合粒子の合計の面積が、前記断面に含まれるすべての前記複合粒子の合計の面積の80%を超えた時点で、抽出を終了する。
【0063】
3.二次電池
本開示の二次電池は、上記本開示の二次電池用負極を有する。図1に一実施形態に係る二次電池100の構成を示す。図1に示されるように、二次電池100は、正極10、電解質層20及び負極30を有し、負極30が、上記本開示の二次電池用負極である。
【0064】
3.1 正極
二次電池100において、正極10は例えば以下の構成を採り得る。図1に示されるように、一実施形態に係る正極10は、正極活物質層11と正極集電体12とを備えるものであってよい。
【0065】
3.1.1 正極活物質層
正極活物質層11は、正極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。さらに、正極活物質層11はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層11における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層11全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%未満又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層11の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。正極活物質層11の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0066】
正極活物質としては二次電池の正極活物質として公知のものを用いればよい。公知の活物質のうち、所定のイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が、後述の負極活物質のそれよりも貴な電位を示す物質を正極活物質として用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池を構成する場合は、正極活物質としてコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、マンガンニッケルコバルト酸リチウム、スピネル系リチウム化合物等の各種のリチウム含有複合酸化物を用いてもよいし、或いは、単体硫黄や硫黄化合物などの硫黄系活物質を用いてもよい。正極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。正極活物質は、例えば、粒子状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。正極活物質の粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよく、空隙を有する粒子であってもよい。正極活物質の粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質の粒子の平均粒子径は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。
【0067】
正極活物質の表面は、イオン伝導性酸化物を含有する保護層によって被覆されていてもよい。すなわち、正極活物質層11には、上記の正極活物質と、その表面に設けられた保護層と、を備える複合体が含まれていてもよい。これにより、正極物活物質と硫化物(例えば、硫化物固体電解質等)との反応等が抑制され易くなる。二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、正極活物質の表面を被覆・保護するイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiBO、LiBO、LiCO、LiAlO、LiSiO、LiSiO、LiPO、LiSO、LiTiO、LiTi12、LiTi、LiZrO、LiNbO、LiMoO、LiWOが挙げられる。保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0068】
正極活物質層11に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。電解質は、上記本開示の二次電池用負極におけるものと同様であってもよいし、異なるものであってもよい。特に、正極が硫化物固体電解質を含むものである場合に、一層高い効果が期待できる。正極活物質層11に含まれ得る導電助剤やバインダーについても、上記本開示の二次電池用負極におけるものと同様であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0069】
3.1.2 正極集電体
図1に示されるように、正極10は、上記の正極活物質層11と接触する正極集電体12を備えていてもよい。正極集電体12は、電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。正極集電体は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。正極集電体は、金属箔又は金属メッシュであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。正極集電体を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、集電体がAlを含むものであってもよい。正極集電体は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0070】
正極10は、上記構成に加えて、二次電池の正極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。正極10は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む正極合材を乾式又は湿式にて成形すること等によって正極活物質層11を容易に形成可能である。正極活物質層11は、正極集電体12とともに成形されてもよいし、正極集電体12とは別に成形されてもよい。
【0071】
3.2 電解質層
電解質層20は少なくとも電解質を含む。電解質層20は、固体電解質を含んでいてもよく、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。電解質層20における固体電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。或いは、電解質層20は、電解液を含むものであってもよく、さらに、当該電解液を保持するとともに、正極活物質層11と負極活物質層31との接触を防止するためのセパレータ等を有していてもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0072】
電解質層20に含まれる電解質としては、上記本開示の二次電池用負極に含まれ得る電解質として例示されたものの中から適宜選択されればよい。特に、電解質層20は、硫化物固体電解質を含むものであることが好ましい。また、電解質層20に含まれ得るバインダーについても、上記本開示の二次電池用負極に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0073】
電解質層20が電解液等の液体成分を含むものである場合、当該液体成分は、固体電解質の隙間に保持されてもよいし、セパレータによって保持されてもよい。セパレータは、二次電池において通常用いられるセパレータであればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるもの等が挙げられる。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0074】
3.3 負極
負極30は、上述した本開示の二次電池用負極である。本開示の二次電池用負極の詳細については既に説明した通りである。
【0075】
3.4 補足
二次電池は、液体電解質を実質的に含まない全固体電池であってもよいし、硫化物固体電解質とともに液体成分を含むものであってもよい。二次電池は、少なくとも上記の各構成を有するものであればよく、これ以外にその他の部材を有していてもよい。以下に説明される部材は、二次電池が有し得るその他の部材の一例である。
【0076】
二次電池は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。より具体的には、二次電池から外部へと電力を取り出すためのタブ又は端子等を除いた部分が、外装体の内部に収容されていてもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。例えば、外装体としてラミネートフィルムを用いてもよい。また、複数の二次電池が、電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。二次電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0077】
二次電池においては、上記の各構成が樹脂によって封止されていてもよい。例えば、正極、電解質層及び負極の少なくとも側面(各層の積層方向に沿った面)が樹脂によって封止されてもよい。これにより、各層の内部への水分の混入等が抑制され易くなる。封止樹脂としては、公知の硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が採用され得る。
【0078】
二次電池は、上記の各構成を厚み方向(各層の積層方向に沿った方向)に拘束するための拘束部材を有していてもよいし、有していなくてもよい。拘束部材によって拘束圧が付与されることで、電池の内部抵抗が低減され易い。拘束部材による拘束圧は、特に限定されるものではない。
【0079】
二次電池は、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば以下のようにして製造することができる。ただし、二次電池の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。例えば、圧粉成形等の乾式成形を経て二次電池を製造してもよい。
(1)負極活物質層を構成する負極合材を準備する。負極合材は溶媒に分散されたスラリー状であってもよい。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて当該スラリーを、負極集電体或いは電解質層の表面に塗工し、その後乾燥させることで、負極活物質層を形成する。
(2)正極活物質層を構成する正極合材を準備する。正極合材は溶媒に分散されたスラリー状であってもよい。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて当該スラリーを、正極集電体或いは電解質層の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極活物質層を形成する。
(3)負極活物質層と正極活物質層とで電解質層を挟み込み、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材を取り付ける。
(4)積層体を電池ケースに収容して密封することで二次電池を得る。電解液を含む電池を得る場合は、積層体とともに電解液を密封してもよい。
【0080】
3.5 効果
以上の通り、本開示の二次電池は、充放電時の負極の厚み変化が小さいことから、例えば、負極の厚み変化による拘束圧の変化が大きくなり難い。また、負極の抵抗が小さいことから、優れた充放電性能を有するものとなり易い。特に、負極における複合粒子が上述した所定のアスペクト比を有する場合や、複合粒子がバインダーとしての多孔質カーボンを含む場合、負極の抵抗が一層小さくなり、より優れた性能を有するものとなり易い。
【0081】
以上、本開示の二次電池用負極等の一実施形態について説明したが、本開示の二次電池用負極等は、その要旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態以外に種々変更が可能である。
【実施例
【0082】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例では、本開示の二次電池用負極を用いて、液体成分を含まない全固体電池を構成した場合について例示するが、液体の存在は本開示の技術による課題解決メカニズム及び効果に実質的な影響を与えないものと考えられる。すなわち、本開示の技術は、液体成分を含む二次電池においても適用可能である。
【0083】
1.参考例1
以下の手順で、多孔質シリコン粒子を作製し、当該多孔質シリコン粒子とバインダーとを用いて複合粒子を作製し、当該複合粒子と硫化物固体電解質とを用いて負極活物質合材を作製し、当該負極活物質合材を用いて負極を作製し、当該負極を用いて全固体電池を作製した。
【0084】
1.1 ナノポーラスSiの作製
Si粒子(粒径0.5μm、高純度化学社製)0.65gと、Li金属(本城金属製)0.60gとを、Ar雰囲気下で、メノウ乳鉢で混合して、LiSi前駆体を得た。Ar雰囲気下のガラス反応器内で、LiSi前駆体1.0gと、分散媒(1,3,5-トリメチルベンゼン、ナカライテスク製)125mlとを、超音波ホモジナイザー(UH-50、SMT社製)を用いて混合した。混合後に得られたLiSi前駆体分散液を0℃に冷却し、Li抽出溶媒としてのエタノール(ナカライテスク製)125mlを滴下して、120分間反応させた。反応後、更に酢酸(ナカライテスク製)50mlを滴下して、60分間反応させた。反応後、吸引ろ過にて液体と固体反応物とを分離した。得られた固体反応物を120℃で2時間真空乾燥して、多孔質シリコン粒子として、直径55nm以下の複数の細孔を含むもの(ナノポーラスSi)を回収した。
【0085】
1.2 複合粒子の作製
上記のナノポーラスSi(一次粒子)と、PVDF-HFP系バインダー(株式会社クレハ社製)とを、一次粒子:バインダー=100:13.3の比(質量比)となるように炭酸ジメチル(ナカライテスク社製)に分散、一部溶解させ、スラリーを得た。このスラリーを、140℃の窒素ガス雰囲気のスプレードライヤー内に噴霧し、乾燥を行うことで、ナノポーラスSiとバインダーとを含む複合粒子を得た。
【0086】
1.3 硫化物固体電解質の合成
LiS(フルウチ化学製)0.550gと、P(アルドリッチ製)0.887gと、LiI(日宝化学製)0.285gと、LiBr(高純度化学製)0.277gとを、メノウ乳鉢で5分間混合した。得られた混合物に、n-ヘプタン(脱水グレード、関東化学製)を4g加え、遊星型ボールミルを用いて40時間メカニカルミリングすることで硫化物固体電解質を得た。
【0087】
1.4 負極合材の作製
上記の複合粒子1.0gと、導電助剤(VGCF、昭和電工製)0.04gと、上記固体電解質0.776gと、バインダー(PVdF、クレハ製)0.02gと、酪酸ブチル(キシダ化学製)1.7gとを、超音波ホモジナイザー(UH-50、SMT社製)を用いて混合し、負極合材を得た。
【0088】
1.5 正極合材の作製
LiNi1/3Co1/3Mn1/3(日亜化学工業製)に、LiNbOを用いて表面処理を施して正極活物質を得た。この正極活物質1.5gと、導電助剤(VGCF、昭和電工製)0.023gと、上記固体電解質0.239gと、バインダー(PVdF、クレハ製)0.011gと、酪酸ブチル(キシダ化学製)0.8gとを、超音波ホモジナイザー(UH-50、SMT社製)を用いて混合し、正極合材を得た。
【0089】
1.6 評価用電池の作製
1cmのセラミックス製の型に上記固体電解質0.065gを入れて、1ton/cmでプレスしセパレート層(固体電解質層)を作製した。その片側に上記正極合材0.018gを入れ、1ton/cmでプレスして正極活物質層を作製した。正極活物質層とは逆側に上記負極合材0.0054gを入れ4ton/cmでプレスすることで負極活物質層を作製した。正極集電体としてのアルミニウム箔を上記正極活物質層に積層し、負極集電体としての銅箔を上記負極活物質層に積層することで、評価用電池を作製した。
【0090】
1.7 負極活物質層における空隙率及び充填率の算出
負極活物質層の空隙率をAとし、負極活物質層を構成する各材料の重量を各材料の真密度で割って得られる体積の合計をxとし、負極活物質層の寸法(面積×厚み)から得られる体積をyとし、A(%)=(1-x/y)×100によって負極活物質層の空隙率Aを算出した。当該空隙率Aから負極活物質層における充填率(100-A(%))を算出した。
【0091】
1.8 拘束圧増加量の測定
評価用電池について、0.245mAで4.55VまでCC/CV充電した後、0.245mAで3.0VまでCC/CV放電を行った。初回充電において、電池の拘束圧力をモニタリングし、4.55Vでの拘束圧を測定した。
【0092】
1.9 抵抗測定
0.3mAで4.35VまでCC/CV充電した後、0.3mAで2.5VまでCC/CV放電を行った。これを5回繰り返した。その後、電圧を3.7Vに調整した後、10mAの電流を5秒間流したときの電圧降下から抵抗値を求めた。
【0093】
2.参考例2
上記のナノポーラスSi(一次粒子)と、PVDF-HFP系バインダーとを、一次粒子:バインダー=100:26.7の比(質量比)となるように炭酸ジメチル(ナカライテスク)に分散、溶解させ、スラリーを得たこと以外は、参考例1と同様にして複合粒子を作製した。作製した複合粒子を用いて、参考例1と同様にして評価用電池を作製し、負極活物質層における空隙率及び充填率の算出、拘束圧増加量の測定、並びに、抵抗測定を行った。
【0094】
3.実施例3
上記のナノポーラスSi(一次粒子)と、PVDF-HFP系バインダーとを、一次粒子:バインダー=100:40の比(質量比)となるように炭酸ジメチル(ナカライテスク)に分散、溶解させ、スラリーを得て、当該スラリーを、140℃の窒素ガス雰囲気のスプレードライヤー内に噴霧し、乾燥を行い、さらに、乾燥後の粒子に対して窒素雰囲気で550℃にて1時間熱処理を施すことで、PVDF-HFP系バインダーを炭化させて、多孔質カーボンとした。これにより、ナノポーラスSiとバインダーとしての多孔質カーボンとを含む複合粒子を得た。尚、炭化処理後のバインダーとしての多孔質カーボンの質量比は、ナノポーラスSi:多孔質カーボン=100:12となる比であった。当該複合粒子を用いて、参考例1と同様にして評価用電池を作製し、負極活物質層における空隙率及び充填率の算出、拘束圧増加量の測定、並びに、抵抗測定を行った。
【0095】
4.比較例1
複合粒子に替えて、Si粒子(粒径0.5μm、高純度化学社製)を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、評価用電池を作製し、負極活物質層における空隙率及び充填率の算出、拘束圧増加量の測定、並びに、抵抗測定を行った。
【0096】
5.比較例2
比較例1のSi粒子と、PVDF-HFP系バインダーとを、一次粒子:バインダー=100:13.3の比(質量比)となるように炭酸ジメチル(ナカライテスク)に分散、溶解させ、スラリーを得たこと以外は、参考例1と同様にして複合粒子を作製した。作製した複合粒子を用いて、参考例1と同様にして評価用電池を作製し、負極活物質層における空隙率及び充填率の算出、拘束圧増加量の測定、並びに、抵抗測定を行った。
【0097】
6.比較例3
複合粒子に替えて、上記のナノポーラスSiを用いたこと以外は、参考例1と同様にして、評価用電池を作製し、負極活物質層における空隙率及び充填率の算出、拘束圧増加量の測定、並びに、抵抗測定を行った。
【0098】
7.比較例4
上記のナノポーラスSi(一次粒子)と、PVDF-HFP系バインダーとを、一次粒子:バインダー=100:40の比(質量比)となるように炭酸ジメチル(ナカライテスク)に分散、溶解させ、スラリーを得たこと以外は、参考例1と同様にして複合粒子を作製した。作製した複合粒子を用いて、参考例1と同様にして評価用電池を作製し、負極活物質層における空隙率及び充填率の算出、拘束圧増加量の測定、並びに、抵抗測定を行った。
【0099】
8.比較例5
上記のナノポーラスSi(一次粒子)と、PVDF-HFP系バインダーとを、一次粒子:バインダー=100:100の比(質量比)となるように炭酸ジメチル(ナカライテスク)に分散、溶解させ、スラリーを得たこと以外は、参考例1と同様にして複合粒子を作製した。作製した複合粒子を用いて、参考例1と同様にして評価用電池を作製し、負極活物質層における空隙率及び充填率の算出、拘束圧増加量の測定、並びに、抵抗測定を行った。
【0100】
9.比較例6
上記のナノポーラスSi(一次粒子)と、PVDF-HFP系バインダーとを、一次粒子:バインダー=100:200の比(質量比)となるように炭酸ジメチル(ナカライテスク)に分散、溶解させ、スラリーを得たこと以外は、参考例1と同様にして複合粒子を作製した。作製した複合粒子を用いて、参考例1と同様にして評価用電池を作製し、負極活物質層における空隙率及び充填率の算出、拘束圧増加量の測定、並びに、抵抗測定を行った。
【0101】
10.比較例7
上記のナノポーラスSi(一次粒子)と、PVDF-HFP系バインダーとを、一次粒子:バインダー=100:300の比(質量比)となるように炭酸ジメチル(ナカライテスク)に分散、溶解させ、スラリーを得たこと以外は、参考例1と同様にして複合粒子を作製した。作製した複合粒子を用いて、参考例1と同様にして評価用電池を作製し、負極活物質層における空隙率及び充填率の算出、拘束圧増加量の測定、並びに、抵抗測定を行った。
【0102】
11.空隙率及び充填率、拘束圧増加量、並びに、抵抗値
下記表1に、参考例1~2、実施例3及び比較例1~7の各々の電池についての空隙率及び充填率、拘束圧増加量、並びに、抵抗値を示す。尚、下記表1においては、比較例2に係る電池における拘束圧増加量を1.00として、参考例1~2、実施例3、比較例1、3~7に係る電池における拘束圧増加量を相対評価した。また、図2に、参考例1~2、実施例3及び比較例1~7の各々の充填率と電池の抵抗との関係を示す。さらに、図3に、参考例1~2、実施例3及び比較例1~7の各々の充填率と電池の拘束圧増加量との関係を示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1、図2及び図3に示される結果から、(1)活物質層に含まれる活物質としての複合粒子が、複数のナノポーラスSi(多孔質シリコン粒子)と、バインダーとを含むこと、及び、(2)活物質層が、15%超の空隙率を有すること、の双方を満たす参考例1~2、実施例3は、拘束圧増加量を顕著に低減でき(すなわち、負極の厚み変化が小さく抑えられ)、且つ、低い抵抗を有することが分かる。活物質層の空隙率が15.0%超である場合、活物質が膨張した場合でも、空隙によって活物質の膨張による体積の増加が緩和され、負極の厚み変化が小さく抑えられたものと考えられる。また、活物質層の空隙率が15.0%超である場合でも、ナノポーラスSiがバインダーとともに複合粒子化されることで、イオン伝導パスや導電パスが確保されて、抵抗が一定程度小さくなったものと考えられる。特に、複合粒子がバインダーとしての有機成分を含む参考例1、2は拘束圧増加量を一層顕著に低減でき、また、複合粒子がバインダーとしての多孔質カーボンを含む実施例3は抵抗を一層顕著に低減できる。これに対し、上記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たさない比較例1~7は、拘束圧増加量の低減と抵抗の低減とを両立し難い。尚、比較例4~7は、複合粒子に含まれるバインダーが過剰に多くなったことで、活物質として機能するシリコンの量が相対的に過剰に少なくなっており、電池の体積エネルギー密度が小さくなる虞がある。
【0105】
12.複合粒子のアスペクト比の測定
参考例1、2について、活物質層における複合粒子のアスペクト比を測定した。具体的には、負極断面をSEMで観察して断面画像を取得した(図4A)。観察視野において、複合粒子が50個以上観察されるものとした。取得した断面画像について画像解析を行い、複合粒子の部分(黒)と、複合粒子以外の部分(白)とで2値化した(図4B)。断面画像において複合粒子の部分とそれ以外の部分とは、元素分析等によって区別した。2値化した画像において、複合粒子の部分(黒)を楕円近似した(図4C)。ここで、画像解析ソフトとしてImageJ Fijiを用い、楕円近似した。楕円近似した各々の複合粒子について、そのアスペクト比(長径/短径)を測定した。
【0106】
一方で、2値化した断面画像において、断面に含まれる複合粒子を、断面積の大きい順に抽出した。抽出された複合粒子の合計の面積が、断面画像に含まれるすべての複合粒子の合計の面積の80%を超えた時点で、抽出を終了した。抽出された複数の複合粒子のうち、アスペクト比が2.5以上であるものの割合を特定した。
【0107】
その結果、参考例1については、上記方法にて抽出された複数の複合粒子のうちの57.1%(個数割合)が、2.5以上のアスペクト比を有するものであった。また、参考例2については、上記方法にて抽出された複数の複合粒子のうちの50.4%(個数割合)が、2.5以上のアスペクト比を有するものであった。本発明者の確認したところ、活物質合材をプレスする際、複合粒子が変形して、アスペクト比が大きくなる。言い換えれば、参考例1及び2においては、複合粒子が所定のアスペクト比を有する程度にプレスされることで、複合粒子内の接触抵抗、複合粒子同士の接触抵抗、及び、複合粒子と他の材料との接触抵抗を低減することができ、負極全体としての抵抗を小さくすることができたものと考えられる。参考例1及び2の結果から、活物質層の断面を観察した場合に、下記抽出方法にて抽出される複数の複合粒子のうちの半数以上が、2.5以上のアスペクト比を有することで、拘束圧増加量を小さく抑えることができるとともに、抵抗を一層低減できるものと考えられる。

【0108】
抽出方法:活物質層の断面を観察し、断面に含まれる複合粒子を、断面積の大きい順に抽出し、抽出された複合粒子の合計の面積が、断面に含まれるすべての複合粒子の合計の面積の80%を超えた時点で、抽出を終了する。
【符号の説明】
【0109】
10 正極
11 正極活物質層
12 正極集電体
20 電解質層
30 負極
31 負極活物質層
32 負極集電体
100 二次電池
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C