(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】療法に対する患者の反応を評価するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G16B 40/00 20190101AFI20250617BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20250617BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20250617BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20250617BHJP
【FI】
G16B40/00
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
(21)【出願番号】P 2022522389
(86)(22)【出願日】2020-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2020078664
(87)【国際公開番号】W WO2021074091
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-10-12
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145654
【氏名又は名称】矢ヶ部 喜行
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル ザーハ ピーテル ヤン
(72)【発明者】
【氏名】フェルハーフ ウィルヘルムス フランシスクス ヨハネス
【審査官】塩田 徳彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/118536(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0213008(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16B 5/00-99/00
C12Q 1/6844
C12Q 1/686
C12Q 1/6869
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌療法に対する患者の反応を監視するコンピュータ実施方法であって、当該コンピュータ実施方法は、
a)患者における、時間の経過に伴う遺伝子変化の発生を示すデータを受信するステップであって、前記遺伝子変化のそれぞれは、一般的な疾患又は一般的な疾患群と関連付けられ、前記データは、患者試料におけるバイオマーカーの分析に基づいて得られる、受信するステップと、
b)各傾向群が群特異的な時間的振る舞いパターンを有するように、傾向間の類似性にしたがって前記遺伝子変化のそれぞれにおける傾向を複数の傾向群に群分けするステップであって、各傾向群が、前記遺伝子変化の対立遺伝子頻度の類似の時間的振る舞いを表す傾向を含み、同一の傾向群の傾向間の類似性を定量化する類似性尺度が所定の範囲内にある、群分けするステップと、
c)前記癌療法に対する患者の反応を監視するために、前記複数の傾向群の群特異的な時間的振る舞いパターンを分析するステップと、を有し、
ステップc)は、更に、
傾向分類ルールに基づいて、前記傾向群を複数の傾向クラスに分割するステップであって、各傾向クラスが治療に対する同一の患者の反応を表す傾向を有する傾向群を含むように、各傾向クラスが治療に対するそれぞれの患者の反応と関連付けられ、前記傾向分類ルールが、前記遺伝子変化の時間的振る舞いに関して前記傾向クラスを定義する、分割するステップと、
その関連付けられた傾向クラスに基づいて傾向スコアを前記傾向群のそれぞれに割り当てるために傾向スコア割り当てルールを適用するステップであって、前記傾向スコア割り当てルールが前記傾向クラスに関して前記傾向スコアを定義する、適用するステップと、
癌患者の反応状態を判断するために使用されるように、前記遺伝子変化の最悪の場合の傾向スコアを決定するステップと、を有する
コンピュータ実施方法。
【請求項2】
ステップb)において、前記傾向が、
クラスタ分析を実行して、前記傾向の異なる傾向群を特定する方法と、
自己組織化マップを使用して、前記傾向の異なる傾向群を特定する方法と、
各前記傾向をそれぞれの傾向群と関連付けるために、所定の傾向群分けルールを用いて前記傾向を比較する方法と
のうちの少なくとも1つを使用して群分けされる、
請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項3】
前記傾向分類ルールが、前記傾向を、
(i)0まで降下した後に上昇しない対立遺伝子頻度を、傾向クラスである完全寛解として分類するカテゴリと、
(ii)初期値の所定パーセント値未満まで降下して、ある時間経過においてその値未満を維持する対立遺伝子頻度を、傾向クラスである部分反応として分類するカテゴリと、
(iii)初期値から所定の閾値まで上昇し、時間経過の終了時点に向かって前記所定の閾値を上回った状態を維持する対立遺伝子頻度を、傾向クラスである進行性疾患として分類するカテゴリと、
(iv)対立遺伝子頻度における残りの傾向を、傾向クラスである安定疾患として分類するカテゴリと
に分類する、
請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項4】
前記傾向スコア割り当てルールが、前記傾向スコアと前記傾向クラスとの間で、
(i)第1のスコアが前記傾向クラスである完全寛解に割り当てられる、
(ii)第2のスコアが前記傾向クラスである部分反応に割り当てられる、
(iii)第3のスコアが前記傾向クラスである安定疾患に割り当てられる、
(iv)第4のスコアが前記傾向クラスである進行性疾患に割り当てられる、
という対応を定義し、
前記第1、第2、第3、及び第4のスコアが昇順又は降順で値を有する、
請求項3に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項5】
前記最悪の場合の傾向スコアが前記遺伝子変化の傾向スコアの極値によって与えられ、
前記患者の反応状態が、
(i)前記傾向スコアの極値が前記第1のスコアと等しい場合、患者の完全寛解が判断されるクラスと、
(ii)前記傾向スコアの極値が前記第2のスコアと等しい場合、患者の部分反応が判断されるクラスと、
(iii)前記傾向スコアの極値が前記第3のスコアと等しい場合、患者の安定疾患が判断されるクラスと、
(iv)前記傾向スコアの極値が前記第4のスコアと等しい場合、患者の進行性疾患が判断されるクラスと、に分類され、
前記極値が、
前記第1、第2、第3、及び第4のスコアが昇順で値を有する場合に、前記傾向スコアの最大値、又は
前記第1、第2、第3、及び第4のスコアが降順で値を有する場合に、前記傾向スコアの最小値
に対応する、
請求項4に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項6】
ステップc)が、更に、
異なる腫瘍サブクローンの数を推定するために、前記傾向群の数を数えるステップを有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項7】
発見されたサブクローンの数によって分割された腫瘍である腫瘍の比率と、
全変異体に対する全変異体対立遺伝子頻度の和に対する前記サブクローンの変異体対立伝子頻度の和の比率
という2つの限界に基づいて、各時点において、サブクローンのそれぞれに対して、被覆する腫瘍の相対的比率を推定するステップを更に有する、
請求項6に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項8】
前記バイオマーカーが、循環腫瘍DNAと、循環腫瘍細胞の遺伝子分析とのうちの少なくとも1つを含む、
請求項1から7のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項9】
異なる腫瘍サブクローンの数、
前記腫瘍サブクローンのそれぞれに対する、各時点における、被覆する腫瘍の相対的比率、及び/又は
前記最悪の場合の傾向スコア
のうちの少なくとも1つを、臨床決定支援システムに出力するステップを更に有する、
請求項1から8のいずれか一項に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項10】
癌療法に対する患者の反応を監視するための決定支援装置であって、当該決定支援装置は、
患者における、時間の経過に伴う遺伝子変化の発生を示すデータを受信するために構成される入力部であって、前記遺伝子変化のそれぞれは、一般的な疾患又は一般的な疾患群と関連付けられ、前記データは、患者試料におけるバイオマーカーの分析に基づいて得られる、入力部と、
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実行するための処理部と
を備える、決定支援装置。
【請求項11】
癌療法に対する患者の反応を監視するためのシステムであって、
請求項10に記載の決定支援装置と、
前記装置に出力される、患者における、時間の経過に伴う遺伝子変化の発生を示すデータを得るために、患者試料を分析するために構成される試料分析デバイスと
を備える、システム。
【請求項12】
イメージングによって、癌療法に対する患者の反応を監視するための医用イメージング装置を更に備える、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
処理部によって実行された時に、請求項1から9のいずれか一項の方法のステップを実行する、請求項10から12のいずれか一項に記載の装置を制御するためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌療法に対する患者の反応を監視することに関し、詳しくは癌療法に対する患者の反応を監視するための方法、装置、及びシステム、コンピュータプログラム要素、並びにコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍医は、治療をガイドし、腫瘍を治療開始前の状態と比較し、医師が治療に対する患者の反応を評価するのを助けるコンピュータ断層撮影法(CT)及び/又は磁気共鳴イメージング(MRI)スキャンによって作成された画像を通常使用する。これらのイメージング方法は、腫瘍の(例えば他の器官に関する)場所及び形状を提供するという利点を有するが、医用イメージングの解像度は一般的にミリメートルの範囲であるため、腫瘍ボリュームにおける変化を早期に評価するのが難しい。癌患者の療法反応の監視は、血液又は他の体液を含む液体生検などの患者の試料を分析して、治療中の時間に経過に伴う特異的変異の発生を追うことによっても行われる。腫瘍が様々な変異を保持するため、多くの異なる変異を網羅する幅広いパネルが検査される。その結果、それらの変異の全てが追跡及び分析される必要があるため、療法に対する患者の反応を監視することが非常に困難となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
療法に対する患者の反応の監視を容易にする必要がある。
【0004】
本発明の目的は、独立請求項の主題によって解決され、更なる実施形態は従属請求項に組み込まれる。なお、本発明の以下に説明する態様は、更に、方法、装置、システム、コンピュータプログラム要素、及びコンピュータ可読媒体にも適用可能であることに留意されたい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、癌療法に対する患者の反応を監視するコンピュータ実施方法であって、
a)患者における、時間の経過に伴う遺伝子変化の発生を示すデータを受信するステップであり、遺伝子変化のそれぞれは、一般的な疾患又は一般的な疾患群と関連付けられ、データは、患者試料におけるバイオマーカーの分析に基づいて得られる、受信するステップと、
b)各傾向群が群特異的な時間的振る舞いパターンを有するように、傾向間の類似性にしたがって遺伝子変化のそれぞれにおける傾向を複数の傾向群に群分けするステップであり、各傾向群が、遺伝子変化の対立遺伝子頻度、すなわちAFの類似の時間的振る舞いを表す傾向を含み、同一の傾向群の傾向間の類似性を定量化する類似性尺度が所定の範囲内にある、群分けするステップと、
c)癌療法に対する患者の反応を監視するために、複数の傾向群の群特異的な時間的振る舞いパターンを分析するステップと、を有する
コンピュータ実施方法に関する。
【0006】
癌は非常に異質性の疾患であるため、癌患者は自分のDNAにおいて多くの異なる変異を保持する。したがって、例えば液体生検を使用して幅広い患者群にわたる療法への反応を監視するには、多くの異なる変異を網羅するパネルが必要である。結果として、それらの変異の全てが追跡されなければならないため、療法に対する患者の反応を監視することは非常に困難になる。
【0007】
この問題を解決するため、多くの異なる変異(例えば約40の異なる変異)を有する複雑なパネルが使用された場合でも、その複雑性を低減する単純モデルが本開示で提案される。薬物療法、放射線療法、血清療法、及び/又は外科的処置などの療法に対する癌患者の療法反応を監視するために、血液又は他の体液などの患者の試料から1つ又は複数のバイオマーカーが抽出される。バイオマーカーの例は、死滅した(例えば、壊死又は自殺)腫瘍細胞から発生する循環腫瘍DNA(ct-DNA)と、一次腫瘍及び転移からの血流に流される循環腫瘍細胞(CTC)とを含む。現在、ct-DNA及びCTCは、療法反応を監視するために使用される臨床的に最適なバイオマーカーである。血液試料中の1つ又は複数のバイオマーカーの分析結果に基づいて、個々の患者における、時間の経過に伴う遺伝子変化の発生が判断され、データセットに格納される。遺伝子変化のそれぞれは、一般的な疾患又は一般的な疾患群と関連付けられる。すなわち、例えば乳癌などの疾患又は一般的な疾患群に関連した様々な遺伝子変化が追跡される。
【0008】
遺伝子変化は、変異、すなわち遺伝子配列の変化とも呼ばれる。変異は、単一のDNAビルディングブロック又はヌクレオチド塩基の他のヌクレオチド塩基との置換と同程度に小さい変化を含む。一方、より大きい変異は、染色体上の多くの遺伝子に影響し得る。置換とともに、変異は、DNA配列の挿入、欠失、又は増幅によっても引き起こされ得る。一部の変異は生殖細胞系列における変異を運ぶ親から子に伝えられるため、一部の変異は遺伝的であり、変異を運ぶ卵子又は精子によって、本開示の遺伝子変化が、体細胞変異と呼ばれる生殖細胞系列外の細胞で発生する非遺伝的な変異に関係することを意味する。例えば、いくつかの強力な体細胞変異は、単一の生物の生存に影響する癌を発生させ得る。
【0009】
個々の患者における、時間の経過に伴う遺伝子変化の発生が判断されると、遺伝子変化のクラスタ分析又は自己組織化マップなどの分類方法が使用されて、時間の経過に伴う類似の遺伝子変化を有する傾向を有する傾向群、すなわち遺伝子変化の群特異的な時間的振る舞いを特定する。各傾向群は、遺伝子変化の対立遺伝子頻度の類似時間的振る舞いを表す傾向を含む。対立遺伝子頻度は、集団における遺伝子多様体の発生を表す。対立遺伝子は、染色体上の同位置又は遺伝子座に配置された遺伝子の多様体形態である。対立遺伝子頻度は、集団において対立遺伝子が観察された回数を、その集団の特定の遺伝子座における全対立遺伝子の複製の総数で除算することによって計算される。対立遺伝子頻度は、小数値、パーセント値、又は分数値で表される。時間の経過に伴う対立遺伝子頻度の変化は、遺伝的浮動が発生している、又は新規変異が引き起こされたことを示し得る。また、集団遺伝的生殖細胞系列多様体における変化に関連して、「対立遺伝子頻度」という用語は、例えば、髪、目などの色を生じさせる多様体の多様体対立遺伝子頻度(VAF)とも呼ばれることに留意されたい。腫瘍性変異に関連して、「対立遺伝子頻度」という用語は、変異体対立遺伝子頻度(MAF)とも呼ばれる。本開示における遺伝子変化が腫瘍性変異に関係するため、本開示の対立遺伝子頻度はMAFとも呼ばれる。
【0010】
その後、癌療法に対する患者の反応を監視するために、これらの特定された傾向群の群特異的な時間的振る舞いパターンが更に分析される。すなわち、これらの特定された傾向群は、癌療法に対する患者の反応に関連した特徴と関連付けられる。例示の群特異的な時間的振る舞いパターンが、以下で、特に
図4Aから
図4Cに示される実施形態に関連して説明される。すなわち、追跡されている遺伝子変化の大データセットを分析する必要がない。むしろ、癌療法に対する患者の反応を判断するために、傾向群のみが分析される。傾向群の数が、監視されている遺伝子変化の数よりも大幅に少ないため、例えば40個の変異を上回る多くの異なる変異を有する複雑なパネルを使用する必要がある場合でも、複雑性は低減される。
【0011】
また、この分析は、技術的結果、又は、狭義には、医師が後に診断に到達する際に役立つ技術的中間結果をもたらすことに留意されたい。すなわち、分析ステップc)は、医師の専門知識を必要とせずに実際に決定を下さない。
【0012】
本発明の一実施形態によれば、ステップb)において、傾向が、
(i)クラスタ分析を実行して、傾向の異なる傾向群を特定する方法と、
(ii)自己組織化マップを使用して、傾向の異なる傾向群を特定する方法と
(iii)各傾向をそれぞれの傾向群と関連付けるために、所定の傾向群分けルールを用いて傾向を比較する方法と
のうちの少なくとも1つを使用して、群分けされる。
【0013】
これは、以下で、特に
図1に示された例示の実施形態に関して説明される。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、ステップc)は、更に、
傾向分類ルールに基づいて、傾向群を複数の傾向クラスに分割するステップであり、各傾向クラスが治療に対する同一の患者の反応を表す傾向を有する傾向群を含むように、各傾向クラスが治療に対するそれぞれの患者の反応と関連付けられ、傾向分類ルールが、遺伝子変化の時間的振る舞いに関して傾向クラスを定義する、分割するステップと、
その関連付けられた傾向クラスに基づいて傾向スコアを傾向群のそれぞれに割り当てるために傾向スコア割り当てルールを適用するステップであり、傾向スコア割り当てルールが傾向クラスに関して傾向スコアを定義する、適用するステップと、
癌患者の反応状態を判断するために使用されるように、遺伝子変化の最悪の場合の傾向スコアを決定するステップと、を有する。
【0015】
すなわち、時間の経過に伴う遺伝子変化のそれぞれにおける傾向を分類し、それらを、療法反応の単一の尺度に要約することが提案される。より具体的には、治療に対する患者の反応における類似の傾向影響、例えば正又は負を表す傾向を有する傾向群の傾向クラスを特定するために、傾向分類ルールが使用される。したがって、傾向影響を表す傾向クラスの数は、傾向群の数、及び、当然ながら疾患、例えば乳癌に関して監視されている遺伝子変化の数よりも大幅に少ない。そのため、傾向スコア割り当てルールにしたがって、それらの傾向クラスは傾向スコアに割り当てられる。個々の患者に対して、最悪の場合の傾向スコアが算出される。最悪の場合の傾向スコアは、治療に対する患者の反応における最も負の傾向影響を表す傾向スコアに相応する。最終的に、算出された最悪の場合の傾向スコアにしたがって、患者は評価又は階層化される。
【0016】
このようにして、個々の患者それぞれに対して、完全寛解、部分反応、非反応(安定疾患とも呼ばれる)、又は進行性疾患など、治療に対する異なる患者の反応間の高信頼度で容易にアクセス可能な区別が実現される。被監視バイオマーカーから、個々の患者に対する、最悪の場合の傾向スコアの算出は、人間による監督又は介入なく実行される。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、傾向分類ルールが、傾向を、
(i)0まで降下した後に上昇しないAFを、傾向クラスである完全寛解CRとして分類するカテゴリと、
(ii)初期値の所定パーセント値未満まで降下して、ある時間経過においてその値未満を維持するAFを、傾向クラスである部分反応PRとして分類するカテゴリと、
(iii)初期値から所定の閾値まで上昇し、時間経過の終了時点に向かって所定の閾値を上回った状態を維持するAFを、傾向クラスである進行性疾患PDとして分類するカテゴリと、
(iv)AFにおける残りの傾向を、傾向クラスである安定疾患SDとして分類するカテゴリと
に分類する。
【0018】
例えば、初期値の所定のパーセント値は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%など、10%と90%との間の範囲である。
【0019】
例えば、AFの所定の閾値は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%など、10%と90%との間の範囲である。
【0020】
例えば、AFの所定のパーセント値及び/又は所定の閾値は、ユーザによって定義される。
【0021】
これは、以下で、特に
図1の例示の実施形態に関連して説明される。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、傾向スコア割り当てルールが、傾向スコアと傾向クラスとの間で、
(i)第1のスコアが傾向クラスCRに割り当てられる、
(ii)第2のスコアが傾向クラスPRに割り当てられる、
(iii)第3のスコアが傾向クラスSDに割り当てられる、
(iv)第4のスコアが傾向クラスPDに割り当てられる、
という対応を定義する。
【0023】
第1、第2、第3、及び第4のスコアが昇順で値を有する。若しくは、第1、第2、第3、及び第4のスコアが降順で値を有する。
【0024】
一例では、第1、第2、第3、及び第4のスコアが、それぞれ、0、1、2、及び3であり、したがって昇順で値を有する。
【0025】
他の例では、第1、第2、第3、及び第4のスコアが、それぞれ、3、2、1、及び0であり、したがって降順で値を有する。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、最悪の場合の傾向スコアが遺伝子変化の傾向スコアの極値によって与えられ、患者の反応状態が、
(i)傾向スコアの極値が第1のスコアと等しい場合、患者のCRが判断されるクラスと、
(ii)傾向スコアの極値が第2のスコアと等しい場合、患者のPRが判断されるクラスと、
(iii)傾向スコアの極値が第3のスコアと等しい場合、患者のSDが判断されるクラスと、
(iv)傾向スコアの極値が第4のスコアと等しい場合、患者のPDが判断されるクラスと、
に分類される。
【0027】
極値が、第1、第2、第3、及び第4のスコアが昇順で値を有する場合に、傾向スコアの最大値に対応する。若しくは、極値が、第1、第2、第3、及び第4のスコアが降順で値を有する場合に、傾向スコアの最小値に対応する。
【0028】
例えば、第1、第2、第3、及び第4のスコアが、それぞれ、0、1、2、及び3であり、傾向スコアの最大値が2の場合、治療に対する患者反応は安定疾患であると判断される。
【0029】
一方、第1、第2、第3、及び第4のスコアが、それぞれ、3、2、1、及び0であり、傾向スコアの最小値が2の場合、治療に対する患者反応は部分反応であると判断される。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、ステップc)が、更に、異なる腫瘍サブクローンの数を推定するために、傾向群の数を数えるステップを有する。
【0031】
すなわち、異なる時間経過の数を判断するために傾向の異なる群を特定するために、クラスタ分析又は自己組織化マップなどの分類方法を使用することが提案される。これは、サブクローンが特定の治療に対して異なって反応する際に、腫瘍内異種性を評価するために、異なる腫瘍サブクローンの数の推定を与える。これは、治療レジメンを決定する上で有益であり、異種性における変化は、最適な療法選択とするために療法を適応するトリガである。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、ステップc)が、
発見されたサブクローンの数によって分割された腫瘍である腫瘍の比率と、
全変異体に対する全MAFの和に対するサブクローンのMAFの和の比率
という2つの限界に基づいて、各時点において、サブクローンのそれぞれに対して、被覆する腫瘍の相対的比率を推定するステップを更に有する。
【0033】
例えば、特定のサブクローンが被覆する腫瘍の比率は、
発見されたサブクローンの数によって分割された腫瘍である腫瘍の比率と、
全変異体に対するMAF(%)の和に対するサブクローンのMAF(%)の和の比率
という2つの限界に近い。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、バイオマーカーが、循環腫瘍DNA(ct-DNA)と、循環腫瘍細胞CTCの遺伝子分析とのうちの少なくとも1つを含む。
【0035】
現在のところ、ct-DNA及びCTCは、療法反応を監視するために使用される臨床的に最適なバイオマーカーである。それらのうちで、転移性の疾患を有さない限り、大部分の癌患者においてCTCの発生回数が少ないため、ct-DNAが、最も推進されているものである。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、方法は、
異なる腫瘍サブクローンの数、
腫瘍サブクローンのそれぞれに対する、各時点において、被覆する腫瘍の相対的比率、及び/又は
最悪の場合の傾向スコア
のうちの少なくとも1つを、臨床決定支援システムに出力するステップを更に有する。
【0037】
異なる腫瘍サブクローンの数及び各時点において被覆する腫瘍の相対的比率は、腫瘍異種性を評価する際に臨床医に追加情報を提供するために使用される。
【0038】
最悪の場合の傾向スコアは、療法に対する患者の反応に関する更なる情報を提供するために、MRI又はCTなどの医用イメージングを実行するトリガである。いくつかの例では、出力は、療法に対する患者の反応の監視の効率及び正確性を改善するために、医用イメージングと組み合わされる。
【0039】
本発明の第2の態様は、癌療法に対する患者の反応を監視するための決定支援装置に関する。決定支援装置は、入力部と、処理部とを備える。入力部は、患者における、時間の経過に伴う遺伝子変化の発生を示すデータを受信するために構成され、遺伝子変化のそれぞれは、一般的な疾患又は一般的な疾患群と関連付けられる。データは、患者試料におけるバイオマーカーの分析に基づいて得られる。処理部は、上記及び下記に説明されるような方法を実行するために構成される。
【0040】
本明細書で使用される場合の「部」、「ユニット」という用語は、説明された機能性を実現する1つ又は複数のソフトウェア又はファームウェアプログラム、組み合わせ論理回路、及び/又は他の適切な構成要素を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)、電子回路、プロセッサ(共有、専用、又は群)、及び/又はメモリ(共有、専用、又は群)を指し、又はその一部であり、又はそれを含む。
【0041】
いくつかの例で、処理部は、ステップb)及びc)を実行する単一のユニットである。
【0042】
いくつかの例で、処理部は、2つのサブユニットを備え、一方はステップb)を実行するためのものであり、他方はステップc)を実行するためのものである。これらのサブユニットは、単一の処理部に統合され得る。若しくは、それらのサブユニットは、分散コンピューティングを実行するために異なる場所に存在する。
【0043】
本発明の第3の態様は、癌療法に対する患者の反応を監視するためのシステムに関する。システムは、上記及び下記で説明されるような決定支援装置と、装置に出力される、患者における、時間の経過に伴う遺伝子変化の発生を示すデータを得るために、患者試料を分析するために構成される試料分析デバイスとを備える。
【0044】
いくつかの例で、決定支援装置は試料分析デバイスと統合される。例えば、試料分析デバイスのコンピューティング部は、上記及び下記で説明されるような方法のステップを実行するように更に構成される。
【0045】
いくつかの例で、決定支援装置は、試料分析デバイスから分離して提供される。例えば、決定支援装置は、データを受信するために、物理的ケーブルを介して、又は無線で、試料分析デバイスに結合される。
【0046】
試料分析デバイスの例は、IlluminaのHiSeq、又はThermoFisherのIonTorrentなどのシーケンサ、Agena Biosciences MassARRAYシステムなどの質量分析系、Bio-Rad QX200ドロップレットデジタルPCRなどのデジタルドロップレットポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システム、及び/又はBiocartis Idyllaプラットフォームなどの多重PCRシステムを含むが、これに限定されない。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、システムは、イメージングによって、癌療法に対する患者の反応を監視するための医用イメージング装置を更に備える。
【0048】
医用イメージング装置の例は、MRI、CT、及び陽子射出断層撮影法(PET)イメージング装置を含むが、これに限定されない。イメージングによる療法反応監視と、患者の試料、例えば液体生検を用いた療法反応監視との組み合わせは、療法に対する患者の反応を監視するための効率及び正確性を改善する。
【0049】
本発明の他の態様によれば、処理部によって実行された時に、上記及び下記で説明されるような方法のステップを実行するように適応される、上記及び下記で説明されるような装置を制御するためのコンピュータプログラム要素が提供される。
【0050】
本発明の更なる態様によれば、プログラム要素を格納したコンピュータ可読媒体が提供される。
【0051】
本発明の上記及び他の態様は、以下で説明される実施形態から明らかとなり、実施形態を参照して詳述される。
【0052】
本発明の上記及び他の態様は、以下の記載において、及び添付図面を参照して、例によって説明される実施形態から明らかとなり、更に実施形態を参照して詳述される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本開示の例示の実施形態による、癌療法に対する患者の反応を監視するための方法のフロー図である。
【
図2】採血から抽出されたバイオマーカーのいくつかの例を示す図である。
【
図3】本開示の他の例示の実施形態による、癌療法に対する患者の反応を監視するための方法のフロー図である。
【
図4A】ct-DNAの動態の様々な種類を表す、文献からの例を示す図である。
【
図4B】ct-DNAの動態の様々な種類を表す、文献からの例を示す図である。
【
図4C】ct-DNAの動態の様々な種類を表す、文献からの例を示す図である。
【
図5】本開示の更なる例示の実施形態による、癌療法に対する患者の反応を監視するための方法のフロー図である。
【
図6】5つの時点にわたって追跡される、遺伝子変化A~Eの5つの傾向の例を示す図である。
【
図7】本開示の例示の実施形態による、癌療法に対する患者の反応を監視するための決定支援装置を示す図である。
【
図8】本開示の例示の実施形態による、癌療法に対する患者の反応を監視するためのシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図は概略的なものに過ぎず、一定の縮尺で描かれていないことに留意されたい。図において、既に説明された要素に対応する要素は同一の参照番号を有する。非限定的と示されているか否かにかかわらず、例、実施形態、又は任意の特徴は、特許請求の範囲に記載されるように本発明を限定すると理解されるべきではない。
【0055】
癌患者の療法反応の監視は、MRI及びCTなどの医用イメージング機器を使用して行われる。それらの方法は腫瘍の場所を提供するという利点を有するが、医用イメージングの解像度は一般的にミリメートルの範囲であるため、腫瘍ボリュームにおける変化を早期に評価するのは容易とは限らない。癌患者の療法反応を監視する他の方法は、血液又は他の体液などの患者の試料における、循環腫瘍DNAなどのバイオマーカーを分析して、治療中の時間の経過に伴う特異的変異の発生を追うことによって行われる。ただし、腫瘍は様々な変異を保持するため、時間の経過に伴う異なる傾向を示す多くの異なる変異を網羅する幅広いパネルが一般的に検査される。結果的に、施された療法に対する患者の反応を監視することは非常に困難である。
【0056】
癌療法に対する患者の反応の監視を容易にするため、以下の開示は、個々の患者における遺伝子変化の発生の動態を表すデータセットと、クラスタ分析又は自己組織化マップなどの統計的分類モデルとを使用した療法反応の個別評価に関係する方法、装置、システム、コンピュータプログラム要素、及びコンピュータ可読媒体に関するいくつかの実施形態にしたがって本発明を説明する。より具体的には、本明細書に記載される技術は、時間の経過に伴う類似の遺伝子変化を有する傾向の群を特定し、それらの群を、癌療法に対する患者の反応に関連する特徴と関連付けるために、統計的分類モデルを使用してデータを処理する。傾向群の数は追跡される遺伝子変化の数よりも大幅に少ないため、患者の反応の判断が非常に容易となる。
【0057】
図1は、癌療法に対する患者の反応を監視するためのコンピュータ実施方法100のフロー図を示す。癌療法の例は、薬物療法、放射線療法、血清療法、及び/又は外科的処置を含むが、これに限定されない。この方法は、非侵襲的出生前検診又は感染性疾患監視にも適用される。
【0058】
コンピュータ実施方法100は、例えばプログラマブルロジックアレイ(PLA)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、結合プログラム可能論理回路(CPLD)などの構成可能論理、例えば特定用途向け集積回路(ASIC)、相補型MOS(CMOS)、又はトランジスタ-トランジスタ論理回路(TTL)技術などの固定機能性ハードウェア論理、又はそのいずれかの組み合わせにおける、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、プログラマブルROM(PROM)、ファームウェア、フラッシュメモリなどの非一時的な機械又はコンピュータ可読格納媒体に格納された論理命令のセットにおいて、デバイス、モジュール、又は関連コンポーネントとして実施される。例えば、方法100に示される動作を実行するコンピュータプログラムコードは、JAVA(登録商標)、SMALLTALK(登録商標)、C++、Python、TypeScript、Java(登録商標)Scriptなどの言語と、「C」プログラミング言語又は同様のプログラミング言語のいずれかの組み合わせなどの従来の手続き型プログラミング言語とを含む1つ又は複数のプログラミング言語で記述される。一例として、コンピュータ実施方法100は、
図7に示される例示の決定支援装置200によって実行される。
【0059】
ステップ110、すなわちステップa)で、患者における時間の経過に伴う遺伝子変化の発生を示すデータが、例えば
図6に図示されるような決定支援装置によって受信される。その遺伝子変化のそれぞれは、一般的な疾患又は一般的な疾患群と関連付けられる。すなわち、例えば乳癌などの疾患又は一般的な疾患群に関連する様々な遺伝子変化が追跡される。このデータは、例えば液体生検などの患者試料におけるバイオマーカーの分析に基づいて取得され、データセットに格納される。例えば、バイオマーカーは採血から抽出される。
【0060】
図2は、赤血球(RBC)、食細胞、循環腫瘍DNA(ct-DNA)、正常循環遊離DNA(cf-DNA)、循環腫瘍細胞(CTC)、正常細胞、及び腫瘍細胞を含む、血液から抽出されたバイオマーカーのいくつかの例を示すWikipediaの「Circulating tumor DNA」のページの図から転用されたものである。腫瘍は、ct-DNA、CTC、エキソソーム、及び血小板など、血流中に複数のバイオマーカーを放出する。ct-DNAは、死滅した腫瘍細胞から発生する。CTCは、一次腫瘍及び転移からの血流に流される。エキソソームは、腫瘍メッセンジャーRNA(mRNA)、ミクロRNA(miRNA)、タンパク質、及びdSDNAを含む細胞由来の小胞である。血小板は、循環している腫瘍RNAを捕捉すると報告されている。現在のところ、ct-DNA及びCTCは、療法反応を監視するために使用される、臨床的に最適なバイオマーカーである。それらのうちでも、転移性の疾患を有さない限り、大部分の癌患者においてCTCの発生回数が少ない(例えば10回未満)ため、ct-DNAが一般的に使用される。
【0061】
異なる癌患者がその腫瘍において異なる変異を保持するため、ct-DNAなどのバイオマーカーにおいてそれらの少なくともいくつかが確実に発見され得るように、考えられる遺伝子変化、すなわち、変異及び/又は後成的変化の大パネルを監視する必要がある。例えば、乳癌は、発生する可能性のある幅広い範囲の遺伝子変化を有する非常に異種の疾患であるが、それらの遺伝子変化の全ては、患者集団において例えば15%以下などの限定された頻度で発生する。例えば、乳癌に関連した様々な遺伝子変化の分析及び患者における一般的な発生が表1に示される。
【0062】
【0063】
更に、上記の遺伝子内でいくつかのホットスポットが監視される必要があり、その結果として、バイオマーカーにおける少なくとも44箇所が監視される必要がある。特定の場合では、これは不十分であり、後成的変化のために何らかの追加の12部位が監視される必要がある。更に、よく知られたHER2 CNVなどのコピー数多型(CNV)の発生も検査される必要がある。
【0064】
ステップ120、すなわちステップb)で、遺伝子変化のそれぞれ、すなわち遺伝子変化のそれぞれに対する時間の経過に伴う対立遺伝子頻度(AF)の変化における傾向は、それらの傾向間の類似性にしたがって、TGとも呼ばれる複数の傾向群に群分けされる。各傾向群は、遺伝子変化の類似した時間的振る舞いを表す傾向を含む。すなわち、このステップは、類似の時間的振る舞いパターン、すなわち、時間の経過に伴う対立遺伝子頻度における類似変化を有する傾向の群を特定する。傾向間の類似性は、類似性尺度によって定量化される。同一の傾向群において、類似性尺度は所定の範囲内にある。
【0065】
様々な方法が、群特異的な時間的振る舞いパターンを有する傾向の群を特定するために使用される。例えば、クラスタ分析は、傾向の異なる群を特定するために実行される。クラスタ分析又はクラスタリングは、傾向のセットをクラスタ、すなわち群に群分けすることを目的とした教師なし学習技術であり、それによって同一のクラスタ中の傾向とは可能な限り類似しているはずであり、あるクラスタ中の傾向は他のクラスタ中の傾向とは可能な限り異なるはずである。クラスタ分析は、類似性に基づいて、パターンの集合をクラスタに群分けすることを目的とする。一般的なクラスタリング技術は、様々なデータ項目を比較するために相似関数を使用する。特に、クラスタリングは、類似のデータオブジェクトをともに群分けするために、類似性尺度に基づいて行われる。この類似性尺度は、クラスタにおける傾向を群分けするために、ユークリッド距離、マンハッタン距離、ミンコフスキー距離、コサイン類似度などの距離関数に基づく。クラスタは、クラスタ内のいずれかの2つの傾向が最小距離値を有し、異なるクラスタをまたぐいずれかの2つの傾向が最大距離値を有するように形成される。すなわち、同一の傾向群中の傾向間の類似性尺度は、所定の範囲内にある。他の例において、傾向の異なる傾向群を特定するために、自己組織化マップが使用される。自己組織化マップ又は自己組織化特徴マップは、ユークリッド距離などの類似性尺度による、マップと呼ばれる訓練サンプルの入力空間の低次元の離散化表現を生成するために教師なし学習を使用して訓練される人工ニューラルネットワーク(ANN)の一種である。更なる例において、各傾向をそれぞれの傾向群と関連付ける所定の傾向群分けルールを用いて、傾向が比較される。例えば、所定の傾向群分けルールは、0まで降下した後上昇しないAFを有する傾向を同一群として群分けされることを規定する。
【0066】
ステップ130、すなわちステップc)で、癌療法に対する患者の反応を監視するために、複数の傾向群が分析される。すなわち、このステップは、それらの傾向群を、癌療法に対する患者の反応に関係する特徴と関連付ける。傾向を傾向群に群分けすることは、追跡対象の遺伝子変化の幅広いパネルを、群特異的な時間的振る舞いパターンを有する傾向のより単純であるが代表的な群に圧縮し、それによって癌療法に対する患者の反応を監視するための傾向の分析を容易にする。また、分析ステップc)は、医師の専門知識を必要とせずに決定を実際に下さないことに留意されたい。すなわち、この分析は、技術的結果、又は、狭義には、医師が後に診断に到達する際に役立つ技術的中間結果をもたらす。
【0067】
一例において、患者が療法に対して反応しているか否かを判断するために、複数の傾向群が分析される。上述したように、どの患者において上記のような変異が発生しているかがわからず、数人の患者において新しい変異が耐性遺伝子などの病勢進展として発生している場合があるため、非常に多くの遺伝子変化が全患者において測定される必要がある。結果として、それらの変異の全てが追跡されるべきであるため、療法に対する患者の反応を監視することが非常に難しくなる。以下で、特に
図3の例示の実施形態を参照して説明されるように、複数の傾向群を更に分析し、遺伝子変化の大きいセットの傾向を単一の反応スコアに集計することが提案される。このようにして、多くの異なる変異、例えば40個の変異を上回る変異を有する複雑なパネルを使用しなければならない場合でも複雑性を低減するために、単純モデルが提案され、患者が療法に対して反応しているか否かを判断するために単純な距離関数が推定される。
【0068】
図3は、上記の例による、癌療法に対する患者の反応を監視するための方法100のフロー図である。図示されたフロー図において、ステップ130、すなわちステップc)は、以下のステップを更に有する。
【0069】
ステップ132aで、傾向分類ルールに基づいて、傾向群が複数の傾向クラスに分割される。各傾向クラスが治療に対する同一の患者の反応を表す傾向を有する傾向群を含むように、各傾向クラスは、治療に対するそれぞれの患者の反応と関連付けられる。傾向分類ルールは、遺伝子変化の時間的振る舞いに関して傾向クラスを定義する。すなわち、このステップは、傾向分類ルールを使用して、傾向群を傾向クラスに更に群分けし、それらの傾向クラスを、治療に対する異なる患者の反応に関連する特徴と関連付ける。例えば、傾向分類ルールは、傾向を、(i)0まで降下した後に上昇しないAFを、傾向クラスである完全寛解(CR)として分類するカテゴリと、(ii)初期値の所定パーセント値未満まで降下して、ある時間経過においてその値未満を維持するAFを、傾向クラスである部分反応(PR)として分類するカテゴリと、(iii)初期値から所定の閾値まで上昇し、時間経過の終了時点に向かって所定の閾値を上回った状態を維持するAFを、傾向クラスである進行性疾患(PD)として分類するカテゴリと、(iv)AFにおける残りの傾向を、傾向クラスである安定疾患(SD)として分類するカテゴリとに分類する。
【0070】
図4A、
図4B、及び
図4Cは、患者の血液における、例えば正常な野生型細胞などの正常細胞に対する変異体の比率の形態でct-DNAの様々な種類の動態を表す、文献からの例を示す図である。データは、アイルランド、ダブリンにおいて2018年5月3~5日に開催されたInternational Symposium on Minimal Residual Cancer(ISMRC)で発表された「Non-invasive genotyping of locally advanced rectal cancer patients using circulating tumour DNA」という題名のS.Toomey等によるポスター発表から転用されたものである。用いられた技術の感度に応じて、0.001と2又は3%との間で測定され、例外として10%に達する場合もある。上述した傾向分類ルールは、傾向クラスのセットのうちのいずれに上記例が属するかを特定するために使用される。例えば、
図4Aにおいて、曲線は、AFが3週間目の治療において降下した後に上昇しないことを示す。「Bx」という語は、治療前生検において特定された変異を表す。なお、これは、液体生検を用いて通常追跡されるものと同一の変異であることに留意されたい。したがって、
図4Aの傾向は、CRとして分類される。
図4Bで、曲線は、AFが所定のパーセント値未満に降下し、ある時間経過においてその値未満を維持することを示す。例えば、その初期値の所定のパーセント値は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%など、10%と90%との間の範囲である。ユーザは、所定のパーセント値を定義する。したがって、
図4Bの傾向は、PRとして分類される。
図4Cで、上方の曲線は、AFが、その初期値から所定の閾値まで上昇し、時間経過の終了時点に向かって所定の閾値を上回った状態を維持することを示す。したがって、上方曲線によって表される傾向は、PDとして分類される。一方、下方の曲線によって表される傾向は、AFが、上記のパターンのいずれでもないため、SDとして分類されることを示す。例えば、AFの所定の閾値は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、及び90%など、10%と90%との間の範囲である。AFの所定の閾値は、ユーザによって定義される。
【0071】
ステップ134aで、傾向スコア割り当てルールは、関連付けられた傾向クラスに基づいて、TSとも呼ばれる傾向スコアを傾向群のそれぞれに割り当てるために適用される。傾向スコア割り当てルールは、傾向クラスに関して傾向スコアを定義する。このステップは、傾向クラスを傾向スコアにリンクする。すなわち、対立遺伝子頻度における傾向のそれぞれに対して、すなわち正常又は野生型の対立遺伝子に対する変異体対立遺伝子の発生に対して、対応するスコアが組み込まれる。
【0072】
図4A、
図4B、
図4Cを参照すると、傾向スコア割り当てルールは、傾向スコアと傾向クラスとの間で、(i)第1のスコアが傾向クラスCRに割り当てられる、(ii)第2のスコアが傾向クラスPRに割り当てられる、(iii)第3のスコアが傾向クラスSDに割り当てられる、(iv)第4のスコアが傾向クラスPDに割り当てられる、という対応を定義する。第1、第2、第3、及び第4のスコアは、
図4Aから
図4Cに図示するように、0、1、2、3など、昇順で値を有する。すなわち、これは、具体的に、反応に対して0、部分反応に対して1、安定疾患に対して2、及び進行性疾患に対して4のように示される。若しくは、第1、第2、第3、及び第4のスコアは、3、2、1、及び0などの降順で値を有する。すなわち、これは、具体的に、反応に対して3、部分反応に対して2、安定疾患に対して1、進行性疾患に対して0のように示される。
【0073】
ステップ136aで、癌患者の反応状態を判断するために使用されるように、遺伝子変化の最悪の場合の傾向スコアが決定される。例えば、最悪の場合の傾向スコアは、遺伝子変化の傾向スコアの極値によって与えられる。患者の反応状態は、(i)傾向スコアの極値が第1のスコアと等しい場合、患者のCRが判断されるクラスと、(ii)傾向スコアの極値が第2のスコアと等しい場合、患者のPRが判断されるクラスと、(iii)傾向スコアの極値が第3のスコアと等しい場合、患者のSDが判断されるクラスと、(iv)傾向スコアの極値が第4のスコアと等しい場合、患者のPDが判断されるクラスと、に分類される。
【0074】
一例において、第1、第2、第3、及び第4のスコアが、0、1、2、及び3など、昇順で値を有する場合、極値は、傾向スコアの最大値に対応する。すなわち、最終的なスコアは、(i)0=患者の完全寛解、(ii)1=患者の部分反応、(iii)2=患者の安定疾患、及び(iv)3=患者の進行性疾患という、特定された全4つのクラスのいずれかに患者を分類する、例えば0~3の間の値を得るように分類される。
【0075】
他の例において、3、2、1、及び0など、第1、第2、第3、及び第4のスコアが降順で値を有する場合、極値は、傾向スコアの最小値に対応する。すなわち、最終的なスコアは、(i)3=患者の完全寛解、(ii)2=患者の部分反応、(iii)1=患者の安定疾患、(iv)0=患者の進行性疾患という、特定された全4つのクラスのいずれかに患者を分類する、例えば0~3の間の値を得るように分類される。
【0076】
図4A、
図4B、及び
図4Cの例において、最終的なスコアは3である。これによって、患者のPDが判断される。
【0077】
したがって、上記のアプローチは、監視された遺伝子変化の大きいデータセットのデータ空間を単純だが代表的な反応スコアに圧縮する。このように、傾向影響を表す傾向スコアの数は、例えば乳癌などの疾患に対して監視されている遺伝子変化の数よりも大幅に少ない。そのため、本方法は、個々の患者それぞれに対して、完全寛解、部分反応、非反応(すなわち安定疾患)、又は進行性疾患の明確な区別を、高信頼度で容易に実現する。更に、被監視バイオマーカーから、個々の患者に対する、例えば極端な傾向スコアなどの最悪の場合のスコアの算出は、人間による監督又は介入なく実行される。
【0078】
他の例において、複数の傾向群は、腫瘍内異種性を評価するために分析される。腫瘍内異種性は、癌患者の腫瘍が1種類の癌細胞からなっておらず、複数のサブクローンが存在し、それぞれがそれ自体の特徴を有し、特定の治療に対して異なって反応することを示唆する。したがって、腫瘍異種性を評価することは、治療レジメンを決定するために重要であり、異種性における変化は療法を適応するためのトリガである。このためには原発腫瘍の異種性分析が十分ではなく、ある時点における、ct-DNAなどのバイオマーカーの分析も十分な洞察を与えるためには不十分である。以下で、特に
図5の例示の実施形態を参照して説明されるように、最適な療法選択に関係する、腫瘍異種性の評価を行うために傾向群を更に分析することが提案される。
【0079】
図5は、上記の例による、癌療法に対する患者の反応を監視するための方法100のフロー図である。示されたフロー図において、ステップ130、すなわちステップc)は、以下のステップを更に有する。
【0080】
ステップ132bで、異なる腫瘍サブクローンの数を推定するために、傾向群の数が数えられる。例えば、
図6は、5つの時点にわたって追跡された遺伝子変化A~Eにおける5つの傾向の例を示す図である。基本的に、3つの異なる傾向群が存在し、傾向B及び傾向Eは、スケールファクタ差のみを有し、ある傾向群に属し、傾向C及び傾向Dは他の傾向群に属し、傾向Aのみが更なる傾向群に属する。そのため、3つのサブクローンが存在し、そのうちの2つが1~3の時点に存在し、3つが4及び5の時点に存在すると結論づけられる。
【0081】
任意で、ステップ130はステップ134bを更に有し、各時点において、サブクローンのそれぞれに対して、被覆する腫瘍の相対的比率が推定される。これは、発見されたサブクローンの数によって分割された腫瘍である腫瘍の比率と、全変異体に対する全MAF(%)の和に対するそのサブクローンのMAF(%)の和の比率という2つの限界を使用して、推定される。
【0082】
図7は、本開示のいくつかの実施形態による癌療法に対する患者の反応を監視するための決定支援装置200を示す図である。システム200は、入力部210と、処理部220とを備える。
【0083】
入力部210は、患者における、時間の経過に伴う遺伝子変化の発生を示すデータを受信するために構成される。遺伝子変化のそれぞれが、一般的な疾患又は一般的な疾患群と関連付けられる。データは、患者試料におけるバイオマーカーの分析に基づいて得られる。
【0084】
処理部220は、上述した方法のステップのうちのいずれか1つを実行するために構成される。例えば、処理部220は、
図1、
図3、及び
図5に示される方法のいずれか1つを実行するように構成される。
【0085】
任意で、
図7に示されるように、決定支援装置は、結果を出力するための出力部230を更に備える。一例では、出力部230はディスプレイを備える。
【0086】
図8は、本開示のいくつかの実施形態による、癌療法に対する患者の反応を監視するためのシステム300を示す図である。システム300は、上述したような決定支援装置200と、試料分析デバイス310とを備える。
【0087】
試料分析デバイス310は、装置に出力される、患者における時間の経過に伴う遺伝子変化の発生を示すデータを得るために、患者試料を分析するために構成される。一例では、試料分析デバイス310は、IlluminaのHiSeq、又はThermoFisherのIonTorrentなどのシーケンサである。他の例では、試料分析デバイス310は、Agena Biosciences MassARRAYシステムなどの質量分析系である。更なる例では、試料分析デバイス310は、Bio-Rad QX200ドロップレットデジタルPCRなどのデジタルドロップレットポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システムである。更なる例では、試料分析デバイス310は、Biocartis Idyllaプラットフォームなどの多重PCRシステムである。
【0088】
任意で、システムは、イメージングによって癌療法に対する患者の反応を監視するための医用イメージング装置320を更に備える。すなわち、患者の試料を使用して療法反応を監視することは、イメージングによって癌患者における療法反応の監視と組み合わされる。医用イメージング装置の例は、磁気共鳴イメージング(MRI)装置、X線イメージング装置、コンピュータ断層撮影法(CT)イメージング装置、超音波(US)イメージング装置、及び陽子射出断層撮影法(PET)イメージング装置を含むが、これに限定されない。医用イメージング方法は、腫瘍の場所を提供するという利点を有するが、医用イメージングの解像度は一般的にミリメートルの範囲であるため、腫瘍ボリュームにおける変化を評価することが容易であるとは限らない。一方、ct-DNAなどのバイオマーカーは、患者のDNAにおけるいずれの変異が癌の原因であるか、したがっていずれの薬を投与すべきかに関する分子情報を提供する。更に、バイオマーカーが分子レベルで測定するため、イメージングによる検出よりも非常に早く反応が検出され得る。更に、バイオマーカーは、腫瘍の遺伝子分析、腫瘍異種性、及び療法に対する耐性などの更なる情報を提供する。したがって、癌療法に対する患者の反応を監視するための両方の方法の組み合わせは、時間経過全体にわたる進捗、反応、及び/又は腫瘍異種性を監視するためのより効率的で正確な手法を提供する。
【0089】
本発明の他の例示の実施形態において、適切なシステム上で上述の実施形態のうちの1つによる方法のステップを実行するように適応されるという特徴を有するコンピュータプログラム又はコンピュータプログラム要素が提供される。
【0090】
したがって、コンピュータプログラム要素は、本発明の実施形態の一部でもある演算部上に格納される。この演算部は、上述した方法のステップを実行する、又はその実行を引き起こすように適応される。更に、上述した装置の構成要素を動作させるように適応される。演算部は、自動的に動作する、及び/又はユーザの命令を実行するように適応され得る。コンピュータプログラムは、データプロセッサのワーキングメモリにロードされる。それによって、データプロセッサは、本発明の方法を実行するように装備される。
【0091】
本発明の例示の実施形態は、最初から本発明を使用するコンピュータプログラムと、アップデートによって、既存のプログラムを、本発明を使用するプログラムに変換するコンピュータプログラムとの両方を網羅する。
【0092】
更に、コンピュータプログラム要素は、上述したような方法の例示の実施形態の手順を満たすための全ての必要なステップを提供できる。
【0093】
本発明の更なる例示の実施形態によれば、CD-ROMなどのコンピュータ可読媒体が提示され、コンピュータ可読媒体はコンピュータプログラム要素が格納され、このコンピュータプログラム要素は前述した部分によって説明されたものである。
【0094】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアとともに、又はその一部として供給された光学格納媒体又はソリッドステート媒体などの適切な媒体に格納及び/又は分散されるが、インターネット又は他の有線又は無線通信システムを介してなど、他の形態で分散されてもよい。
【0095】
ただし、コンピュータプログラムは、ワールドワイドウェブなどのネットワークを介して提示されてもよく、そのようなネットワークからデータプロセッサのワーキングメモリにダウンロードされ得る。本発明の更なる例示の実施形態によれば、ダウンロードのためにコンピュータプログラム要素を利用可能とする媒体が提供され、そのコンピュータプログラム要素は、本発明の上述した実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成される。
【0096】
なお、本発明の実施形態は、異なる主題を参照して説明されることに留意されたい。特に、いくつかの実施形態は、方法請求項を参照して説明され、他の実施形態は装置請求項を参照して説明される。ただし、当業者は、特記しない限り、1種類の主題に属する特徴の組み合わせに加えて、異なる主題に関係する特徴間の組み合わせも本出願に関して開示されると考えられることが上記及び下記の記載から推論するであろう。ただし、全ての特徴は組み合わされて、特徴の単純な合算を上回る相乗効果を実現できる。
【0097】
本発明が図面及び上記の記載において詳細に図示及び説明されたが、そのような図示及び説明は説明的又は例示的なものであり、限定的なものではないと考えられるべきである。本発明は、開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態の他の変形は、図面、本開示及び従属請求項の熟慮により、特許請求の範囲に記載の発明を実践する上で当業者によって理解及び実現され得る。
【0098】
請求項において、「備える」、「有する」という語は、他の要素又はステップを排除せず、単数形は、複数性を排除しない。単一のプロセッサ又は他のユニットは、請求項に記載されるいくつかの要素の機能を果たす。特定の手段が互いに異なる従属項に記載されているという事実だけで、それらの手段の組み合わせが効果的に使用されることができないことを示すものではない。請求項におけるあらゆる参照符号は、範囲を限定すると解釈されるべきではない。