(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】光ファイバ及び光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20250617BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20250617BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20250617BHJP
C03B 37/023 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
G02B6/02 411
G02B6/036
G02B6/44 321
C03B37/023
(21)【出願番号】P 2022530084
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2021018826
(87)【国際公開番号】W WO2021251074
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2024-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2020101719
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100190470
【氏名又は名称】谷澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健美
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄揮
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-209081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0057396(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0178762(US,A1)
【文献】国際公開第02/032820(WO,A2)
【文献】特表平11-510619(JP,A)
【文献】特開2015-199622(JP,A)
【文献】特開2015-001741(JP,A)
【文献】特開平04-367539(JP,A)
【文献】特開2008-273769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036
6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を有する光ファイバであって、
シリカガラスからなり、前記中心軸に沿って延びるコアと、
シリカガラスからなり、前記コアを包囲すると共に、前記中心軸に沿って延びるクラッドと、
樹脂からなり、前記クラッドを包囲すると共に、前記中心軸に沿って延びる被覆層と、
を備え、
前記クラッドの外径は、前記中心軸に沿って変化し、
前記中心軸に対して垂直な一つの断面内で前記コア及び前記クラッドにわたって平均された、前記中心軸に沿う方向の残留応力は、前記中心軸に沿って変化し、
前記外径の平均値からの偏差と、前記残留応力の平均値からの偏差とは、互いに逆符号であり、
前記コアの直径は、7μm以上14μm以下であ
り、
前記外径の偏差の変動周期及び前記残留応力の偏差の変動周期は、それぞれ0.01m以上かつ100m以下である、
光ファイバ。
【請求項2】
中心軸を有する光ファイバであって、
シリカガラスからなり、前記中心軸に沿って延びるコアと、
シリカガラスからなり、前記コアを包囲すると共に、前記中心軸に沿って延びるクラッドと、
樹脂からなり、前記クラッドを包囲すると共に、前記中心軸に沿って延びる被覆層と、
を備え、
前記クラッドの外径は、前記中心軸に沿って変化し、
前記中心軸に対して垂直な一つの断面内で前記コア及び前記クラッドにわたって平均された、前記中心軸に沿う方向の残留応力は、前記中心軸に沿って変化し、
前記外径の平均値からの偏差と、前記残留応力の平均値からの偏差とは、互いに逆符号であり、
前記コアの直径は、7μm以上14μm以下であ
り、
前記クラッドは、前記コアを包囲する内側クラッドと、前記内側クラッドを包囲する外側クラッドと、を含み、
前記内側クラッドの屈折率は、前記外側クラッドの屈折率よりも低い、
光ファイバ。
【請求項3】
中心軸を有する光ファイバであって、
シリカガラスからなり、前記中心軸に沿って延びるコアと、
シリカガラスからなり、前記コアを包囲すると共に、前記中心軸に沿って延びるクラッドと、
樹脂からなり、前記クラッドを包囲すると共に、前記中心軸に沿って延びる被覆層と、
を備え、
前記クラッドの外径は、前記中心軸に沿って変化し、
前記中心軸に対して垂直な一つの断面内で前記コア及び前記クラッドにわたって平均された、前記中心軸に沿う方向の残留応力は、前記中心軸に沿って変化し、
前記外径の平均値からの偏差と、前記残留応力の平均値からの偏差とは、互いに逆符号であり、
前記コアの直径は、7μm以上14μm以下であ
り、
前記クラッドの非円率は、0.1%以上かつ1.5%以下である、
光ファイバ。
【請求項4】
前記外径及び前記残留応力は、前記中心軸に沿って互いに逆位相となるように変化している、
請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記コアに単色光を伝搬させたときに、前記光ファイバ中に熱的に励振されている音響波によって前方に散乱されて前記コアを伝搬する散乱光の周波数スペクトルのピークの線幅は、1.5MHzよりも大きい、
請求項1
から請求項4のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記外径の偏差をδf、前記残留応力の偏差をδσとするとき、
【数1】
が実質的に全長で成立する、
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記外径の偏差の標準偏差の3倍は、1.0μm以下である、
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記残留応力の偏差の標準偏差の3倍は、150MPa以下である、
請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項9】
伝送損失は、0.17dB/km以下である、
請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項10】
ガラスからなる光ファイバプリフォームの先端部を加熱することと、
加熱により軟化された前記先端部からガラス繊維を引き出すことと、
前記ガラス繊維に樹脂からなる被覆層を形成して光ファイバとすることと、を含み、
前記引き出すことは、前記ガラス繊維に付与される張力を周期的に変化させることにより、前記ガラス繊維の直径、及び前記ガラス繊維の軸方向の残留応力を、前記軸方向に沿って互いに逆位相となるように変化させることを含み、
前記光ファイバのコアの直径は、7μm以上14μm以下であ
り、
前記ガラス繊維の直径の変動周期、及び、前記ガラス繊維の軸方向の残留応力の変動周期は、それぞれ0.01m以上かつ100m以下である、
光ファイバの製造方法。
【請求項11】
ガラスからなる光ファイバプリフォームの先端部を加熱することと、
加熱により軟化された前記先端部からガラス繊維を引き出すことと、
前記ガラス繊維に樹脂からなる被覆層を形成して光ファイバとすることと、を含み、
前記引き出すことは、前記ガラス繊維に付与される張力を周期的に変化させることにより、前記ガラス繊維の直径、及び前記ガラス繊維の軸方向の残留応力を、前記軸方向に沿って互いに逆位相となるように変化させることを含み、
前記光ファイバのコアの直径は、7μm以上14μm以下であ
り、
前記光ファイバのクラッドは、前記コアを包囲する内側クラッドと、前記内側クラッドを包囲する外側クラッドと、を含み、
前記内側クラッドの屈折率は、前記外側クラッドの屈折率よりも低い、
光ファイバの製造方法。
【請求項12】
ガラスからなる光ファイバプリフォームの先端部を加熱することと、
加熱により軟化された前記先端部からガラス繊維を引き出すことと、
前記ガラス繊維に樹脂からなる被覆層を形成して光ファイバとすることと、を含み、
前記引き出すことは、前記ガラス繊維に付与される張力を周期的に変化させることにより、前記ガラス繊維の直径、及び前記ガラス繊維の軸方向の残留応力を、前記軸方向に沿って互いに逆位相となるように変化させることを含み、
前記光ファイバのコアの直径は、7μm以上14μm以下であ
り、
前記光ファイバのクラッドの非円率は、0.1%以上かつ1.5%以下である、
光ファイバの製造方法。
【請求項13】
前記ガラス繊維と連続する前記光ファイバを巻き取り機に導くことを更に含み、
前記導くことは、前記光ファイバの走行経路の長さを周期的に変化させることにより、前記引き出すことにおいて付与される前記張力を周期的に変化させることを含む、
請求項
10から請求項12のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項14】
前記導くことは、前記光ファイバの走行方向を転換させるローラを周期的に移動させることにより、前記走行経路の長さを周期的に変化させることを含む、
請求項
13に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項15】
前記ガラス繊維の直径及び張力の少なくとも一方を測定することを更に含む、
請求項
10から請求項
14のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項16】
前記光ファイバプリフォームを把持し、前記光ファイバプリフォームを一定速度で加熱炉に挿入することを更に含み、
前記加熱することは、前記先端部を前記加熱炉により加熱する、
請求項
10から請求項
15のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ及び光ファイバの製造方法に関する。本出願は、2020年6月11日出願の日本出願第2020-101719号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1~3には、海底光ケーブル伝送などの長距離伝送に用いられる光ファイバが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】R. M. Shelby et al., "Guided acoustic-wave Brillouin scattering", Physical Review B, vol. 31, nol. 8, p5244 (1985)
【文献】M. A. Bolshtyansky et al., "Impact of Spontaneous Guided Acoustic-Wave Brillouin Scattering on Long-haul Transmission", OFC2018, M4B.3 (2018)
【文献】M. Paskov et al., "Observation and Compensation of Guided Acoustic-Wave Brillouin Scattering in Modulated Channels", OFC2019, Tu3J.3 (2019)
【文献】T. Horiguchi et al. "Tensile strain dependence of Brillouin frequency shift in silica optical fibers", IEEE Photonics Technology Letters vol. 1, no. 5, p. 107 (1989)
【文献】Andrew D. Yablon, "Advanced Fiber Characterization Technologies for Fiber Lasers and Amplifiers", Advanced Solid State Lasers (ASSL), ATh2A.45 (2014)
【発明の概要】
【0004】
本開示の一実施形態に係る光ファイバは、中心軸を有する。光ファイバは、シリカガラスからなり、中心軸に沿って延びるコアと、シリカガラスからなり、コアを包囲すると共に、中心軸に沿って延びるクラッドと、樹脂からなり、クラッドを包囲すると共に、中心軸に沿って延びる被覆層と、を備える。クラッドの外径は、中心軸に沿って変化する。中心軸に対して垂直な一つの断面内でコア及びクラッドにわたって平均された、中心軸に沿う方向の残留応力は、中心軸に沿って変化する。外径の平均値からの偏差と、残留応力の平均値からの偏差とは、互いに逆符号である。
【0005】
本開示の一実施形態に係る光ファイバの製造方法は、ガラスからなる光ファイバプリフォームの先端部を加熱することと、加熱により軟化された先端部からガラス繊維を引き出すことと、ガラス繊維に樹脂からなる被覆層を形成して光ファイバとすることと、を含む。引き出すことは、ガラス繊維に付与される張力を周期的に変化させることにより、ガラス繊維の直径、及びガラス繊維の軸方向の残留応力を、軸方向に沿って互いに逆位相となるように変化させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】
図1Aは、実施形態に係る光ファイバの構造を示す斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、実施形態に係る光ファイバにおけるクラッド外径及び残留応力を示す図である。
【
図1C】
図1Cは、実施形態に係る光ファイバの軸方向の位置とクラッド外径との関係を示すグラフである。
【
図1D】
図1Dは、実施形態に係る光ファイバの軸方向の位置と残留応力との関係を示すグラフである。
【
図2A】
図2Aは、変形例に係る光ファイバの構造を示す斜視図である。
【
図2B】
図2Bは、変形例に係る光ファイバにおけるクラッド外径及び残留応力を示す図である。
【
図3】
図3は、実効的な線幅が半値全幅の1/2以上に拡大され、かつ、クラッド外径の偏差及び残留応力の偏差が過大であることによる弊害が抑えられる範囲を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施形態に係る光ファイバの製造装置の構成図である。
【
図5】
図5は、ローラの動作を説明するための図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る光ファイバの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
長距離伝送で用いられる光ファイバでは、光増幅器の自然放出光雑音及び光ファイバ中の非線形光学効果による非線形雑音に加えて、導波音響波によるブリルアン散乱(GAW
BS: Guided Acoustic Wave Brillouin Scatter)による雑音が伝送性能の低下原因となる。
【0008】
非引用文献1には、GAWBSについて以下のように開示されている。すなわち、ガラスで形成された光ファイバでは、ガラス外周面における反射によって、内部で音響波の導波モードが生じる。GAWBSは、熱的に励起された導波モードが、光ファイバのコアを伝搬する光をランダムに散乱する現象である。GAWBSによる散乱光の周波数スペクトルは、元の光の周波数を中心として複数の離散的なピークを有する。各ピークの中心周波数は、音響波の導波モードに対応する。元の光の周波数からの周波数シフトは、20MHzから800MHzである。ピークの線幅は、165kHzから1000kHzである。
【0009】
非特許文献2には、光ファイバにより信号光を長距離伝送する場合、GAWBSにより散乱された信号光が雑音として蓄積するため、GAWBSが信号対雑音比に対して無視できない影響を及ぼすことが開示されている。
【0010】
そこで、本開示は、GAWBSを抑制することにより、長距離伝送における伝送性能を向上することができる光ファイバ及び光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
[本開示の効果]
本開示によれば、GAWBSを抑制し、長距離伝送における伝送性能を向上することができる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。一実施形態に係る光ファイバは、中心軸を有する。光ファイバは、シリカガラスからなり、中心軸に沿って延びるコアと、シリカガラスからなり、コアを包囲すると共に、中心軸に沿って延びるクラッドと、樹脂からなり、クラッドを包囲すると共に、中心軸に沿って延びる被覆層と、を備える。クラッドの外径は、中心軸に沿って変化する。中心軸に対して垂直な一つの断面内でコア及びクラッドにわたって平均された、中心軸に沿う方向の残留応力は、中心軸に沿って変化する。外径の平均値からの偏差と、残留応力の平均値からの偏差とは、互いに逆符号である。
【0013】
上記実施態様に係る光ファイバでは、GAWBSによる散乱光の周波数スペクトルのピークの線幅を実効的に拡大することができる。これにより、GAWBSを抑制することができる。その結果、長距離伝送における伝送性能を向上することができる。
【0014】
外径及び残留応力は、中心軸に沿って互いに逆位相となるように変化していてもよい。この場合、クラッドの外径の平均値からの偏差と、残留応力の平均値からの偏差とを、互いに逆符号とすることができる。
【0015】
コアに単色光を伝搬させたときに、光ファイバ中に熱的に励振されている音響波によって前方に散乱されてコアを伝搬する散乱光の周波数スペクトルのピークの実効的な線幅は、1.5MHzよりも大きくてもよい。この場合、非特許文献3で開示されているSNR(signal to noise ratio)低下と線幅の関係により、GAWBSによるSNR低下を実効的に抑制することができる。
【0016】
外径の偏差をδf、残留応力の偏差をδσとするとき、
【数1】
が実質的に全長で成立してもよい。光ファイバの全長からランダムに抽出した点の99%以上において上記式が成立することで、実質的に全長で上記式が成立することと等価となる。更に全長からランダムに抽出した点の99.9%以上において上記式が成立することがより好ましい。この場合、クラッド外径の偏差及び残留応力の偏差が過大であることによる弊害を抑制することができる。
【0017】
一実施形態に係る光ファイバの製造方法は、ガラスからなる光ファイバプリフォームの先端部を加熱することと、加熱により軟化された先端部からガラス繊維を引き出すことと、ガラス繊維に樹脂からなる被覆層を形成して光ファイバとすることと、を含む。引き出すことは、ガラス繊維に付与される張力を周期的に変化させることにより、ガラス繊維の直径、及びガラス繊維の軸方向の残留応力を、軸方向に沿って互いに逆位相となるように変化させることを含む。
【0018】
上記実施態様に係る光ファイバの製造方法では、クラッドの外径及び残留応力が軸方向に沿って互いに逆位相となるように変化している光ファイバが得られる。したがって、GAWBSによる散乱光の周波数スペクトルのピークの線幅を実効的に拡大することができる。よって、GAWBSを抑制することができる。その結果、長距離伝送における伝送性能を向上することができる。
【0019】
上記光ファイバの製造方法は、ガラス繊維と連続する光ファイバを巻き取り機に導くことを更に含み、導くことは、光ファイバの走行経路の長さを周期的に変化させることにより、引き出すことにおいて付与される張力を周期的に変化させることを含んでもよい。この場合、光ファイバの走行経路の長さを変化させることにより、結果的にガラス繊維に付与される張力を変化させることができる。
【0020】
導くことは、前記光ファイバの走行方向を転換させるローラを周期的に移動させることにより、走行経路の長さを周期的に変化させることを含んでもよい。この場合、光ファイバは被覆層により保護されているので、ローラの外周面を走行することによって損傷され難い。
【0021】
上記光ファイバの製造方法は、ガラス繊維の直径及び張力の少なくとも一方を測定することを更に含んでもよい。この場合、測定結果に基づき、ガラス繊維に付与される張力を調整することができる。
【0022】
上記光ファイバの製造方法は、光ファイバプリフォームを把持し、光ファイバプリフォームを一定速度で加熱炉に挿入することを更に含んでもよい。加熱することは、先端部を加熱炉により加熱してもよい。この場合、光ファイバプリフォームから安定してガラス繊維を引き出すことができる。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の光ファイバ及び光ファイバの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
本明細書では、ある媒質の屈折率をn、純粋シリカガラスの屈折率をn0とするとき、その媒質の比屈折率差Δを、
【数2】
とする。特に記載がない限り、光ファイバは1つの中心軸を有し、中心軸の回りに略回転対称であり、中心軸に沿って並進対称な構造であると仮定する。コア、クラッド、及び、被覆などの光ファイバの構成要素に関しても、特に記載がない限り、中心軸の回りに略回転対称であり、中心軸に沿って並進対称な構造であると仮定する。この仮定が適用できる場合は、光ファイバの構成要素の物性値は、中心軸に対して垂直な任意の断面における値で規定できる。物性値の平均値、最大値、及び、パーセンタイル値などの統計値について規定する際は、上記断面における物性値を、所定の空間分解能で空間的に一様な頻度で測定して得られる測定値の集合に対する統計値で代替する。特に記載がない限り、上記空間分解能は、光ファイバの動作波長の近似値である半径1μmの円を仮定する。
【0025】
光ファイバの半径座標をrとし、内半径r0及び外半径r1の領域における比屈折率差が、
【数3】
で表されるとき、当該領域の比屈折率はα01乗の形状を有するという。ここで、Δ0は、半径r=r0、すなわち領域の一端における比屈折率差であり、Δ1は、半径r=r1、すなわち領域の他端における比屈折率差である。
【0026】
(光ファイバ)
図1Aに示されるように、光ファイバ1は、中心軸10と、コア11と、クラッド12と、第1被覆層13と、第2被覆層14と、を備える。コア11は、ガラスからなり、中心軸10に沿って延びている。クラッド12は、ガラスからなり、コア11を包囲すると共に、中心軸10に沿って延びている。第1被覆層13は、樹脂からなり、クラッド12を包囲すると共に、中心軸10に沿って延びている。第1被覆層13は、例えば、アクリレート系の紫外線硬化性樹脂からなる。第2被覆層14は、樹脂からなり、第1被覆層13を包囲すると共に、中心軸10に沿って延びている。第2被覆層14は、例えば、第1被覆層13よりも高い弾性率を有するアクリレート系の紫外線硬化性樹脂からなる。
【0027】
コア11の比屈折率差は、クラッド12の比屈折率差に比べて高く、その差は0.2%以上2.0%以下である。コア11は、添加物としてGeO2を含まず、Cl、F、P、Br、Na、K、及びRbのうちの1つ、または複数の添加物を含む。クラッド12は、添加物としてF及びClのうちの1つ、または複数を含む。それにより、光ファイバ1は、低い伝送損失を実現することができ、長距離光通信に適する。伝送損失は、好ましくは0.17dB/km以下であり、より好ましくは0.16dB/km以下であり、より好ましくは0.15dB/km以下である。一方で、伝送損失が0.10dB/km以上であることにより、生産性を高めることができる。
【0028】
コア11の直径は、7μm以上14μm以下である。クラッド12の平均外径は、123μm以上127μm以下、より好ましくは124μm以上126μm以下である。既に広く用いられている光ファイバの平均直径は、125μmである。したがって、光ファイバ1のクラッド12の平均外径が125μmであることにより、広く用いられている光ファイバとの接続に要するコストを下げることができる。第2被覆層14の外径は、170μm以上270μm以下である。これにより、光ファイバ1は、十分な機械的強度と、高い密度でのケーブル収容とを両立することができる。
【0029】
光ファイバ1は、光ファイバプリフォーム201の先端部201b(
図4参照)を加熱して線引することによって製造される。光ファイバプリフォーム201は、シリカガラスからなり、軸方向に垂直な断面において光ファイバ1と相似形状を有する。光ファイバ1を線引する際に、光ファイバ1には張力が付与される。この張力と、線引過程での光ファイバ1の冷却に伴う熱収縮とにより、線引後の光ファイバ1のガラス(つまり、コア11及びクラッド12)中には応力が残留する。
【0030】
図1B及び
図1Cに示されるように、クラッド12の外径f(z)は、光ファイバ1の軸方向の位置zの関数として変化している。すなわち、クラッド12の外径f(z)は、中心軸10に沿って変化している。以下では、クラッド12の外径をクラッド外径とも言う。
【0031】
クラッド外径f(z)の平均値<f>は、光ファイバ1の長さをLとして、
【数4】
と定義される。クラッド外径f(z)の平均値<f>からの偏差δfと標準偏差σfは、
【数5】
と定義される。
【0032】
図1B及び
図1Dに示されるように、光ファイバ1では、シリカガラス内の残留応力s(z)もzの関数として変化している。すなわち、残留応力s(z)は、中心軸10に沿って変化している。本開示では、シリカガラス内の残留応力s(z)は、中心軸10に対して垂直な一つの断面内でコア11及びクラッド12にわたって平均された、中心軸10に沿う方向の成分の値として定義される。すなわち、シリカガラス内の残留応力s(z)は、
【数6】
と定義される。応力の符号について、引張応力を正、圧縮応力を負とする。残留応力を測定する方法としては、例えば非特許文献5に記載されている干渉測定に基づく方法を用いることが可能である。すなわち、制御された偏光を有する測定光を光ファイバの側面から照射し、光ファイバを透過した測定光を基準光と干渉させることで光ファイバを透過する際の位相変化の空間分布を測定し、これに基づいて光ファイバ断面内の屈折率及び複屈折率の分布を得る。この分布に基づき、光ファイバの内部の残留応力を測定することができる。非特許文献5は、この言及により取り込まれる。
【0033】
シリカガラス内の残留応力s(z)の平均値<s>は、
【数7】
と定義される。シリカガラス内の残留応力s(z)の平均値<s>からの偏差δsと標準偏差σsは、
【数8】
と定義される。
【0034】
図1C及び
図1Dに示されるように、クラッド外径f(z)の平均値<f>からの偏差δfと、残留応力s(z)の平均値<s>からの偏差δsとは、互いに逆符号である。クラッド外径f(z)及び残留応力s(z)は、中心軸10に沿って互いに逆位相(クラッド外径f(z)及び残留応力s(z)のそれぞれを三角関数で近似したときの位相差が180度)となるように変化している。
【0035】
偏差δfの変動周期は、偏差δfを位置zに関してフーリエ変換して振幅を二乗して得られるパワースペクトルの重心の逆数で定義される。偏差δsの変動周期は、偏差δsを位置zに関してフーリエ変換して振幅を二乗して得られるパワースペクトルの重心の逆数で定義される。偏差δfの変動周期及び偏差δsの変動周期は、互いに同等である。各変動周期は、0.01m以上かつ100m以下、より好ましくは0.02m以上かつ50m以下であることが好ましい。各変動周期が長い場合、伝送路の区間ごとの伝送性能のバラツキが増大する。各変動周期が短い場合、高次モードへのモード結合による伝送損失増が生じる。よって、上記の範囲とすることが好適である。
【0036】
上記の変動周期の範囲に加えて、
図2A及び
図2Bに示される変形例に係る光ファイバ1Aのように、クラッド12がコア11を包囲する内側クラッド120と、内側クラッド120を包囲する外側クラッド121との少なくとも2層を含み、内側クラッド120が外側クラッド121よりも低い屈折率を有することが更に好ましい。それにより、基底導波モードと高次モードとの間の屈折率差を拡大することができる。したがって、短い変動周期成分によって生じる高次モードへのモード結合を抑制することができる。その結果、例えば光ファイバにマイクロベンドが加わった場合でもモード結合による伝送損失増を抑制することができる。
【0037】
中心軸10に対して垂直な一つの断面内でコア11及びクラッド12にわたって平均したヤング率をE、残留歪みをεとすると、ε=s/Eであるので、残留歪みの平均値<ε>及び平均からの偏差δεは、近似的に
【数9】
【数10】
と表わされる。
【0038】
非特許文献4に開示されているように、光ファイバ中の縦波の音速Vdは、密度をρ、ポアソン比をκとして、
【数11】
と表わされる。したがって、歪みによる微分d/dεを添字「'」で表すと、
【数12】
と近似されることが知られている。
【0039】
したがって、残留応力の偏差δsによって生じる音速の偏差δVdは、
【数13】
と表わされる。
【0040】
非特許文献1に開示されているように、GAWBSによる散乱光のスペクトルにおけるm番目のピークの周波数Ωmは、以下のように与えられる。すなわち、対応する音響波のモードの縦波の速度をVd、横波の速度をVs、音速比をα=Vs/Vd、
【数14】
のm番目の零点をy=ymとして、m番目のピークの周波数Ωmは、
【数15】
と表わされる。
【0041】
したがって、クラッド外径f及び残留応力sを中心軸10に沿って変化させた際に、m番目のピーク周波数に生じる偏差δΩmは、
【数16】
と表わされる。
【0042】
m番目のピークの周波数Ωmを、その線幅の半値全幅ΔΩmの1/2程度以上に長手に変化させることで、長手変化を含むファイバ長を均一なファイバと見なした場合の実効的な線幅を拡大することができる。言い換えると、ピーク周波数Ωmを中心軸10に沿って変化させると共に、その変化量を、半値全幅ΔΩmの1/2程度以上とすることで、実効的に光ファイバ1の線幅を拡大することができる。
【0043】
非特許文献3には、GAWBSによる散乱光のスペクトルにおけるピークの線幅が小さいほど、GAWBSによる信号対雑音比が低下することが開示されている。つまり、実効的に線幅を拡大することにより、GAWBSによる信号対雑音比の低下を抑制することができる。式(A)が示すように、残留応力の平均値からの偏差と、クラッド外径の平均値からの偏差とを、互いに逆符号となるように長手に変化させることで、GAWBSの実効的な線幅をより効果的に拡大することができる。
【0044】
一方で光ファイバ1のクラッド外径の変化が過大である場合、調心手段としてフェルール及びV溝を用いる接続における接続損失が大きくなる。加えて、ガラス中の気泡などの異常部をクラッド外径の測定値に基づいて検出することが難しくなる。そのためクラッド外径の偏差の標準偏差の3倍(3σ)は、1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下であってもよい。残留応力が過大であると破断強度の低下、及び、光ファイバ1をへき開した際の端面の平坦性の低下による接続損失の増大が生じる。このため、残留応力の偏差の標準偏差の3倍(3σ)は、150MPa以下、より好ましくは100MPaであってもよい。
【0045】
図3は、実効的な線幅が半値全幅の1/2以上に拡大され、かつ、クラッド外径の偏差及び残留応力の偏差が過大であることによる弊害が抑えられる範囲を示すグラフである。
図3の横軸は、残留応力偏差[MPa]を示し、
図3の縦軸は、クラッド外径偏差[μm]を示す。
図3では、非特許文献1に基づき、光ファイバの長手方向のクラッド外径及び残留応力の変化がない場合のGAWBSの特性を、非特許文献1に基づき、ピーク周波数を500MHz、線幅の半値全幅を1MHzとした場合が示されている。
【0046】
具体的には、下記条件(1)を満たす範囲が好ましく、条件(2)を満たす範囲がより好ましい。
条件(1)
【数17】
条件(2)
【数18】
【0047】
GAWBSによる散乱光の周波数スペクトルのピークの線幅を拡大するためには、上述したようなクラッド外径及び残留応力の逆位相の変化に加えて、光ファイバ1のクラッド12の外径に非円性を与えて回転対称性をなくすことで、音響モードの縮退を解消することが更に好ましい。具体的には、クラッド非円率は、0.1%以上、より好ましくは0.2%以上であってもよい。一方で、過大なクラッド非円率は接続損失を増大させるので、クラッド非円率は1.5%以下、より好ましくは1%以下であってもよい。ここで、クラッド12の外径が非円性を有するとは、クラッド12の外周部が完全な円ではないことを意味する。クラッド非円率とは、クラッド12の外周部を楕円近似した際に長軸と短軸との長さの差を長軸の長さで割った値である。
【0048】
コア11がクラッド12の重心から偏心している場合、音響波のモード振幅と光電界のモード振幅との重なりが低減される。これにより、GAWBSによる散乱光の周波数スペクトルのピークの線幅を拡大することができる。具体的には、コア偏心は、0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上であってもよい。一方で、過大なコア偏心は接続損失を増大させる。よって、コア偏心は1.0μm以下、より好ましくは0.8μm以下であってもよい。
【0049】
光ファイバ1では、コア11に単色光を伝搬させたときに、光ファイバ1中に熱的に励振されている音響波によって前方に散乱されてコア11を伝搬する散乱光の周波数スペクトルの500MHz以上におけるピークの線幅は、1.5MHzよりも大きい。
【0050】
(光ファイバの製造方法)
以下では、実施形態に係る光ファイバ1の製造方法について説明する。
図4は、実施形態に係る光ファイバの製造装置の構成図である。
図5は、ローラの動作を説明するための図である。
図4に示される製造装置2は、光ファイバプリフォーム201からガラス繊維204を経て光ファイバ1を製造するための装置である。製造装置2は、把持部202と、加熱炉203と、保温炉205と、測定器206と、冷却器207と、ダイス208と、紫外線照射機209と、ローラ211と、キャプスタン212と、巻き取り機213とを備える。
【0051】
把持部202は、光ファイバプリフォーム201を把持して、加熱炉203に一定の速度で送り込む。光ファイバプリフォーム201は、把持部202により把持される基端部201aと、加熱炉203の内部に挿入される先端部201bと、を有する。把持部202は、光ファイバプリフォーム201を加熱炉203に供給する供給部として機能する。
【0052】
加熱炉203は、光ファイバプリフォーム201が挿入される開口203aと、開口203aと対向し、ガラス繊維204が引き出される開口203bと、を有している。加熱炉203は、加熱炉203の内部に供給された光ファイバプリフォーム201の先端部201bを加熱して軟化させる。加熱により軟化された先端部201bから、ガラス繊維204が引き出される。ガラス繊維204は、開口203bを通じて加熱炉203の外部に引き出される。
【0053】
保温炉205は、ガラス繊維204を保温し、ガラスの構造を緩和する。測定器206は、ガラスの構造が緩和された状態のガラス繊維204の直径及び張力の少なくとも一方を測定する。測定器206としては、例えば、レーザをガラス繊維204に照射して直径を測定する測定器、及び、超音波をガラス繊維204に照射して張力を測定する測定器が挙げられる。
【0054】
冷却器207は、測定器206の後段に配置され、ガラス繊維204を冷却する。ダイス208は、入線されたガラス繊維204の外周面に樹脂を塗布し、被覆樹脂を形成する。樹脂は、アクリレート系の紫外線硬化性樹脂を含む。紫外線照射機209は、ガラス繊維204に形成された被覆樹脂に紫外線を照射し、被覆樹脂を硬化させる。それにより、ガラス繊維が樹脂で被覆される。その結果、光ファイバ210が製造される。
【0055】
図4では、1組のダイス208及び紫外線照射機209が示されているが、製造装置2は、ガラス繊維204の軸方向に沿って配置された2組のダイス208及び紫外線照射機209を備えていてもよい。その場合、前段に配置されたダイス208及び紫外線照射機209は、第1被覆層13を形成する第1被覆層形成部として機能する。後段に配置されたダイス208及び紫外線照射機209は、第2被覆層14を形成する第2被覆層形成部として機能する。これにより、第1被覆層13及び第2被覆層14が形成され、光ファイバ1が得られる。
【0056】
ローラ211は、光ファイバ1の走行方向を転換させる。ローラ211は、ローラ211の角度または位置を変化させるように移動する。これにより、先端部201bから巻き取り機213に至るまでの光ファイバ1及びガラス繊維204の走行経路(パスライン)の長さが周期的に変化する。
【0057】
図5に示されるように、ローラ211は、例えば、ローラ211の軸方向に沿って往復移動する。この場合、ローラ211の外周面における光ファイバ1の走行位置は、ローラ211の軸方向の一端側と他端側との間で往復移動する。これにより、光ファイバプリフォーム201の先端部201bからのガラス繊維204の引き出し方向及び引き出し角度も周期的に変化する。引き出し角度は、ガラス繊維204の引き出し方向と、光ファイバプリフォーム201の軸方向とがなす角度である。
【0058】
光ファイバ1及びガラス繊維204の走行経路の長さは、光ファイバ1がローラ211の軸方向の中央を走行するときに短くなり、一端側及び他端側を走行するときに長くなる。走行経路が長くなる過程では、ガラス繊維204に付与される張力が増加する。よって、ガラス繊維204の直径が低減されると共に、ガラス繊維204の残留応力が増大する。これにより、クラッド外径が低減されると共に、中心軸10に沿う方向の光ファイバ1の残留応力が増大する。
【0059】
これに対し、走行経路が短くなる過程では、ガラス繊維204に付与される張力が減少する。ガラス繊維204の直径が増大すると共に、ガラス繊維204の残留応力が減少する。これにより、クラッド外径が増大すると共に、中心軸10に沿う方向の光ファイバ1の残留応力が減少する。この結果、クラッド外径及び残留応力の長手変動を有する光ファイバ1が得られる。すなわち、クラッド外径及び残留応力が、中心軸10に沿って互いに逆位相となるように変化する光ファイバ1が得られる。
【0060】
ローラ211は、このようにガラス繊維204及び光ファイバ1の走行経路の長さを周期的に変化させながら、光ファイバ1をキャプスタン212に導く。これにより、ローラ211は、光ファイバ1のクラッド外径と残留応力との間に逆位相の長手変化を付与する。ローラ211は、例えば、光ファイバ1の中心軸10に沿って移動し、ガラス繊維204の走行経路の長さを維持したまま、光ファイバ1の走行経路の長さだけを周期的に変化させてもよい。この場合、ガラス繊維204の引き出し方向及び引き出し角度も維持される。この場合であっても、光ファイバ1の走行経路の長さが変化することにより、ガラス繊維204に付与される張力が結果的に変化する。よって、ガラス繊維204に付与される張力を周期的に変化させることができる。
【0061】
走行経路の長さを変動させる周期は、光ファイバ1の長さに換算して0.01m以上かつ100m以下、より好ましくは0.02m以上かつ50m以下である。これにより、GAWBSの抑制効果を高めることができる。そのためには、例えば光ファイバ1を50m/sで線引する間にローラ211の位置または角度を0.5Hz以上、より好ましくは1Hz以上で変化させる。
【0062】
キャプスタン212は、光ファイバ1を所定の速度及び張力で牽引する。巻き取り機213は、キャプスタン212で牽引された光ファイバ1を巻き取る。
【0063】
図6は、実施形態に係る光ファイバの製造方法を示すフローチャートである。光ファイバ1の製造方法は、光ファイバプリフォーム201を加熱炉203に挿入する工程S1と、光ファイバプリフォーム201の先端部201bを加熱する工程S2と、先端部201bからガラス繊維204を引き出す工程S3と、ガラス繊維204を保温する工程S4と、ガラス繊維204の直径及び張力の少なくとも一方を測定する工程S5と、ガラス繊維204を冷却する工程S6と、ガラス繊維204に被覆樹脂を形成して光ファイバ1とする工程S7と、光ファイバ1を導く工程S8と、光ファイバ1を巻き取る工程S9と、を含む。
【0064】
工程S1では、光ファイバプリフォーム201が把持部202により一定速度で加熱炉203の内部に挿入される。光ファイバプリフォーム201は、基端部201aが把持された状態で、先端部201bが加熱炉203の開口203aを通じて加熱炉203の内部に送り込まれる。工程S2では、先端部201bは、加熱炉203により加熱されて軟化される。
【0065】
工程S3では、加熱により軟化された先端部201bから開口203bを通じてガラス繊維204が引き出される。工程S3では、ガラス繊維204に付与される張力を周期的に変化させることにより、ガラス繊維204の直径、及びガラス繊維204の軸方向の残留応力を、軸方向に沿って互いに逆位相となるように変化させる。工程S3におけるガラス繊維204の引き出し速度に応じて、工程S1における光ファイバプリフォーム201の挿入速度を設定することができる。
【0066】
工程S4では、引き出されたガラス繊維204が保温炉205により保温される。これにより、ガラスの構造が緩和される。工程S5では、ガラス繊維204の直径及び張力の少なくとも一方が、測定器206により測定される。工程S6では、ガラス繊維204が冷却される。
【0067】
工程S7では、まず、ダイス208によりガラス繊維204の外周面に樹脂が塗布され、被覆樹脂が形成される。続いて、被覆樹脂が紫外線照射機209から照射された紫外線により硬化される。工程S7が繰り返されることにより、第1被覆層13及び第2被覆層14が形成され、その結果、光ファイバ1が得られる。
【0068】
工程S8では、ガラス繊維204と連続する光ファイバ1が、キャプスタン212により所定の速度及び張力で牽引されて、ローラ211の外周面を走行した後、巻き取り機213に導かれる。光ファイバ1は、ローラ211により走行方向が転換される。工程S8では、少なくとも光ファイバ1の走行経路の長さを周期的に変化させることにより、工程S3においてガラス繊維204に付与される張力を周期的に変化させる。工程S8では、ローラ211を周期的に移動させることにより、光ファイバ1の走行経路の長さを周期的に変化させる。工程S8では、ガラス繊維204及び光ファイバ1の走行経路の長さの総和を周期的に変化させる。
【0069】
クラッド外径及び残留応力の変化は、ローラ211の移動(運動)及びキャプスタン212による牽引速度の変化によって発生する。したがって、測定器206において測定されたクラッド外径又は張力に基づき、その変動幅が目標の範囲に入るように、ローラ211の移動及びキャプスタン212の回転を制御することができる。
【0070】
ガラス繊維204及び光ファイバ1の走行経路の長さを変動させる周期は、光ファイバ1の長さに換算して0.01m以上かつ100m以下、より好ましくは0.02m以上かつ50m以下である。これにより、GAWBSの抑制効果が向上する。このような周期でガラス繊維204及び光ファイバ1の走行経路の長さを変動させるためには、例えば、光ファイバ1を50m/sで線引する間にローラ211の位置または角度を0.5Hz以上かつ5kHz以下、より好ましくは1Hz以上かつ2.5kHz以下で変化させればよい。
【0071】
工程S9では、光ファイバ1が巻き取り機213により巻き取られる。
【0072】
以上説明したように、光ファイバ1では、クラッド外径及び残留応力が光ファイバ1の中心軸10に沿って変化し、クラッド外径f(z)の平均値<f>からの偏差δfと、残留応力s(z)の平均値<s>からの偏差δsとは、互いに逆符号となっている。このため、GAWBSによる散乱光の周波数スペクトルのピークの線幅を実効的に拡大することができる。これにより、GAWBSを抑制することができる。その結果、長距離伝送における伝送性能を向上することができる。
【0073】
クラッド外径f(z)及び残留応力s(z)は、中心軸10に沿って互いに逆位相となるように変化している。このため、クラッド外径f(z)の平均値<f>からの偏差δfと、残留応力s(z)の平均値<s>からの偏差δsとを、互いに逆符号とすることができる。
【0074】
コア11に単色光を伝搬させたときに、光ファイバ1中に熱的に励振されている音響波によって前方に散乱されてコア11を伝搬する散乱光の周波数スペクトルのピークの線幅は、1.5MHzよりも大きい。このため、GAWBSを確実に抑制することができる。
【0075】
光ファイバ1では、上記条件(1)が成立する。このため、クラッド外径の偏差及び残留応力の偏差が過大であることによる弊害を抑制することができる。
【0076】
光ファイバ1の製造方法では、工程S3において、ガラス繊維204に付与される張力を周期的に変化させることにより、ガラス繊維204の直径、及びガラス繊維204の軸方向の残留応力を、軸方向に沿って互いに逆位相となるように変化させる。これにより、クラッド外径及び残留応力が軸方向に沿って互いに逆位相となるように変化している光ファイバ1が得られる。したがって、GAWBSによる散乱光の周波数スペクトルのピークの線幅を実効的に拡大することができる。よって、GAWBSを抑制することができる。その結果、長距離伝送における伝送性能を向上することができる。
【0077】
工程S8では、光ファイバ1の走行経路の長さを周期的に変化させることにより、工程S3において付与される張力を周期的に変化させる。このため、光ファイバ1の走行経路の長さを変化させることにより、間接的にガラス繊維に付与される張力を変化させることができる。
【0078】
工程S8では、光ファイバ1の走行方向を転換させるローラ211を周期的に移動させることにより、光ファイバ1の走行経路の長さを周期的に変化させる。仮に、ガラス繊維204の走行方向を転換させるローラを設け、このローラの移動によりガラス繊維204に付与される張力を変化させた場合、ガラス繊維204がローラとの接触により損傷されるおそれがある。光ファイバ1は第1被覆層13及び第2被覆層14により保護されているので、ローラ211によって損傷され難い。
【0079】
光ファイバ1の製造方法は、工程S5を含むので、ガラス繊維204の直径及び張力の少なくとも一方の測定結果に基づき、ガラス繊維204に付与される張力を調整することができる。
【0080】
光ファイバ1の製造方法は、工程S1を含むので、光ファイバプリフォーム201から安定してガラス繊維204を引き出すことができる。
【符号の説明】
【0081】
1,1A…光ファイバ
2…製造装置
10…中心軸
11…コア
12…クラッド
13…第1被覆層
14…第2被覆層
201…光ファイバプリフォーム
201a…基端部
201b…先端部
202…把持部
203…加熱炉
203a…開口
203b…開口
204…ガラス繊維
205…保温炉
206…測定器
207…冷却器
208…ダイス
209…紫外線照射機
211…ローラ
212…キャプスタン
213…巻き取り機