(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20250617BHJP
A01C 11/02 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
A01B69/00 303A
A01B69/00 303M
A01C11/02 331D
(21)【出願番号】P 2023103627
(22)【出願日】2023-06-23
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 修平
(72)【発明者】
【氏名】堀田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】飛田 秀平
(72)【発明者】
【氏名】池田 一生
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳菜子
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148857(JP,A)
【文献】特開2019-062811(JP,A)
【文献】特開2017-000095(JP,A)
【文献】特開2016-042857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00-69/08
A01C 11/02
G01D 1/00- 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体と、
前記走行車体に取り付けられ、所定の作業位置、および、所定の非作業位置に昇降可能な作業機と、
前記走行車体の位置を検出する位置測位装置と、
検出された前記走行車体の位置に基づいて、直進ラインに沿って前記走行車体を自動走行させる制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記自動走行を開始するための入操作が行われた場合に、前記作業機の昇降高さにかかわらず前記自動走行を作動状態にし、
前記自動走行を作動状態にし
て前記自動走行を開始してから所定時間が経過した後、または、所定距離進んだ後に、前記作業機の高さが、前記所定の作業位置よりも高い所定高さ以上であることが検出された場合、前記自動走行を非作動状態にする、作業車両。
【請求項2】
前記走行車体の走行速度の規定を、低速、および、高速に切り替えるための走行速度切替レバー
を備え、
前記制御装置は、
前記自動走行を開始するための入操作が行われた場合に、前記走行速度切替レバーの操作位置にかかわらず前記自動走行を作動状態にし、
前記自動走行を作動状態にした後に、前記走行速度切替レバーの操作位置が、高速に対応する位置であることが検出された場合、前記自動走行を非作動状態にする、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記走行車体の走行モードを、前記自動走行を実行可能な自動走行モード、または、作業者の操作によって走行する手動走行モードに切り替えるための走行モード切替部と、
前記走行モードを表示し、かつ、前記走行車体における走行方向のずれを表示可能な表示部と
を備え、
前記制御装置は、
前記走行モードが、前記自動走行モードである場合、前記走行方向のずれを前記表示部に表示させず、
前記走行モードが、前記手動走行モードである場合、前記走行方向のずれを前記表示部に表示させる、請求項1に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記位置測位装置によって、所定のサンプリング周波数によって取得された車速データを、所定時間分保持し、保持した前記車速データに所定のローパスフィルタを適用することで、前記走行車体の第1車速を算出する、請求項1に記載の作業車両。
【請求項5】
前記走行車体の目標車速を設定する変速レバーと、
前記走行車体に設けられ、前記走行車体の舵角を調整するステアリングと
を備え、
前記制御装置は、
前記走行車体の目標車速が所定車速以下である、前記ステアリングが所定の直進範囲ではない、前記作業機が非作業状態である、前記位置測位装置の受信レベルが未受信レベルである、前記第1車速がゼロである、の少なくともいずれか1つの条件を満たす場合、前記第1車速の算出条件を満たさないと判定する、請求項4に記載の作業車両。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記位置測位装置によって取得される車速データによって前記第1車速の算出条件を満たさない場合、保持した前記車速データを破棄し、前記第1車速をゼロに設定する、請求項5に記載の作業車両。
【請求項7】
前記走行車体の車輪の回転を検出する回転センサ
を備え、
前記制御装置は、
前記回転センサによって、所定のサンプリング周波数によって取得された車速データを、所定時間保持し、保持した前記車速データに所定のローパスフィルタを適用することで、前記走行車体の第2車速を算出する、請求項4に記載の作業車両。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記第1車速、および、前記第2車速を用いて、前記走行車体のスリップ率を算出し、
算出した前記スリップ率が、上限スリップ率以上である場合、前記スリップ率を前記上限スリップ率と設定し、
算出した前記スリップ率が、下限スリップ率以下である場合、前記スリップ率を前記下限スリップ率と設定とする、請求項7に記載の作業車両。
【請求項9】
前記走行車体に設けられ、圃場に肥料を供給する施肥装置
を備え、
前記制御装置は、
前記第1車速、および、前記第2車速を用いて、前記走行車体のスリップ率を算出し、
前記スリップ率が所定範囲を下回った場合、前記スリップ率に基づいて前記施肥装置における施肥量を増加させる、請求項7に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場において、自動走行させながら植え付けを行う作業車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、自動走行を開始する場合に、苗植付部の高さについては、規制されておらず自動走行の開始時における作業性について改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、自動走行を開始する際の作業性を向上させる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、実施形態の一態様に係る作業車両(1)は、走行車体(2)と、走行車体(2)に取り付けられ、所定の作業位置、および、所定の非作業位置に昇降可能な作業機(50)と、走行車体(2)の位置を検出する位置測位装置(150)と、検出された走行車体(2)の位置に基づいて、直進ラインに沿って走行車体(2)を自動走行させる制御装置(150)とを備える。制御装置(150)は、自動走行を開始するための入操作が行われた場合に、作業機(50)の昇降高さにかかわらず自動走行を作動状態にし、自動走行を作動状態にした後に、作業機(50)の高さが、所定の作業位置よりも高い所定高さ以上であることが検出された場合、自動走行を非作動状態にする。
【発明の効果】
【0007】
実施形態の一態様によれば、作業車両は、自動走行を開始する際の作業性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る苗移植機の直進サポートの概要を示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る苗移植機の側面図である。
【
図3】
図3は、ステアリングポストを正面から見た概略図である。
【
図5】
図5は、モニタ、および、フレームを正面から見た概略図である。
【
図6】
図6は、取付部材を、前方側から見た図である。
【
図7】
図7は、フレームに取り付けられたモニタの前方斜視図である。
【
図8】
図8は、苗移植機のコントローラを中心とした機能ブロック図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る自動直進走行の開始処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係る作業車両を、乗用型の苗移植機1として図面を参照しながら詳細に説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、以下では苗移植機1全体を指して機体と呼ぶ場合がある。
【0010】
図1は、実施形態に係る苗移植機1の直進サポート(自動直進)の概要を示す説明図である。本実施形態に係る苗移植機1は、後部に苗植付部50を連結するとともに、それぞれ左右一対の前輪4および後輪5を備える走行車体2を備えている。
【0011】
本実施形態において、直進サポートとは、苗移植機1の転舵輪の舵角(切れ角)と、当該苗移植機1の位置情報とに基づき、転舵輪の動作が制御されることによって、圃場Fにおける苗移植機1の自動直進走行(自動走行)を支援する機能を指す。ここでは、舵角を、前輪4の切れ角としているが、例えば、ハンドル32(ステアリング、
図2参照)の操舵角を舵角として検出するようにしてもよい。また、苗移植機1の位置情報は、走行車体2に設けられたGNSSユニット120(位置測位装置、
図8参照)により取得される。なお、以下の説明においては、苗移植機1の前後、左右の方向基準は、作業者が着座可能な操縦座席28(
図2参照)からみて、走行車体2の走行方向を基準とする。
【0012】
図示するように、苗移植機1は、圃場F内における所定作業エリアG内を往復しながら、所定の作業幅Dで苗の植付を行う。このとき、直進サポートを実行すれば、ハンドル32を用いた作業者のマニュアル操作としては、枕地近傍で行う旋回操作だけでよく、直進走行については、苗移植機1は自動直進ラインL1(直進ライン)に沿って自動直進走行する。
図1中、符号L3は、枕地における苗移植機1のマニュアル操作による旋回ラインを示す。また、符号Eは、圃場Fへの苗移植機1の進退口を示す。
【0013】
直進サポートによる苗移植機1の自動直進ラインL1は、直進サポートを行う上で基準となる基準ラインL2に略平行であり、この基準ラインL2は、苗の植付方向に合わせて、圃場F内において予め設定される。すなわち、直進サポートの開始位置および終了位置をそれぞれ基準始点(以下、「A点」という。)および基準終点(以下、「B点」という。)として、苗移植機1が備える走行基準登録部152(
図8参照)で取得し、取得したA点およびB点を結ぶ線分を、基準ラインL2として登録するようにしている。
【0014】
自動直進ラインL1は、基準ラインL2から、苗移植機1における植え付け幅分ずれたラインとして設定される。
【0015】
以下、
図2を参照しながら、苗移植機1の具体的な構成について説明する。
図2は、実施形態に係る苗移植機1の側面図である。
【0016】
苗移植機1の走行車体2には、作業機である苗植付部50が、昇降装置である苗植付部昇降機構40を介して昇降可能に取付けられる。また、走行車体2は、左右一対の前輪4と、左右一対の後輪5とが共に駆動する四輪駆動車であり、ハンドル32が回動されることによって転舵輪となる前輪4が操舵され、圃場Fや圃場F間の道などを走行することが可能である。
【0017】
苗移植機1は、後輪5に補助車輪5Aを装着することができる。具体的には、補助車輪5Aは、後輪5の車軸220に取り付けられ、後輪5とともに回転する。苗移植機1は、後輪5の内側、後輪5の外側、または後輪5の内側および外側に補助車輪5Aを取り付けることができる。すなわち苗移植機1は、補助車輪5Aの取り付け位置を変更することができる。
【0018】
また、走行車体2は、車体の略中央に配置されたメインフレーム7と、このメインフレーム7の上に搭載された原動機であるエンジン10と、エンジン10の動力を前後輪4,5と苗植付部50とに伝える動力伝達装置15とを備える。この苗移植機1では、動力源であるエンジン10には、ディーゼル機関やガソリン機関等の内燃機関が用いられ、発生した動力は、走行車体2を前進や後進させるために用いるのみでなく、苗植付部50を駆動させるためにも使用される。
【0019】
また、動力伝達装置15は、エンジン10から伝達される駆動力を変速して出力する、油圧式無段変速装置(以下、「HST」という。)16と、HST16にエンジン10からの動力を伝える動力伝達部17とを有する。
【0020】
また、動力伝達装置15は、を有する。すなわち、エンジン10からの駆動力は、動力伝達部17をミッションケース18介してHST16に伝達され、このHST16で変速した動力がミッションケース18に伝達される。そして、ミッションケース18は、後述する高速モードと低速モードとに切り替える副変速機構(不図示)を内設しており、メインフレーム7の前部に取り付けられる。
【0021】
ミッションケース18から前輪4および後輪5に伝達される動力は、一部が左右の前輪ファイナルケース13を介して前輪4に伝達可能であり、残りが左右の後輪ギヤケース22を介して後輪5に伝達可能となっている。左右それぞれの前輪ファイナルケース13は、ミッションケース18の左右それぞれの側方に配設される。左右の前輪4は、車軸131を介して左右の前輪ファイナルケース13に連結されており、かかる前輪ファイナルケース13は、ハンドル32の操舵操作に応じて駆動し、前輪4を転舵させることができる。
【0022】
同様に、左右それぞれの後輪ギヤケース22には、車軸220を介して後輪5が連結されている。一方、ミッションケース18からは、図示しない作業機駆動軸から走行車体2の後部に設けた植付クラッチ500を介して苗植付部50へ動力が伝達される。なお、植付クラッチ500は、後に詳述するコントローラ150(
図8参照)に接続された植付クラッチモータ510(
図8参照)によって動作する。
【0023】
エンジン10は、走行車体2の左右方向における略中央で、且つ、作業者が乗車時に足を載せるフロアステップ26よりも上方に突出させた状態で配置される。フロアステップ26は、走行車体2の前部とエンジン10の後部との間に亘って設けられてメインフレーム7上に取り付けられており、その一部が格子状になることにより、靴に付いた泥を圃場Fに落とすことができる。また、フロアステップ26の後方には、後輪5のフェンダを兼ねたリアステップ27が設けられる。リアステップ27は、後方に向うに従って上方に向う方向に傾斜した傾斜面を有し、エンジン10の左右それぞれの側方に配置される。
【0024】
また、エンジン10は、これらのフロアステップ26とリアステップ27とから上方に突出しており、これらのステップ26,27から突出している部分には、エンジン10を覆うエンジンカバー11が配設される。
【0025】
そして、エンジンカバー11の上部に、作業者が着席する操縦座席28が設置され、かかる操縦座席28の前方で、且つ走行車体2の前側中央部に操縦部30が設けられる。かかる操縦部30は、フロアステップ26の床面から上方に突出した状態で配置されており、フロアステップ26の前部側を左右に分断している。
【0026】
操縦部30には、ステアリングポスト315が設けられ、このステアリングポスト315の上部には、作業者による操舵が可能なハンドル32が設けられる。ステアリングポスト315には、
図3に示すように、フィンガップレバー34が設けられる。
図3は、ステアリングポスト315を正面から見た概略図である。フィンガップレバー34は、例えば、A点、B点を取得する際などに作業者によって操作される。フィンガップレバー34は、上下方向に回動することができる。
【0027】
また、ステアリングポスト315の前方には、
図4に示すように、モニタ33が設けられる。
図4は、モニタ33の概略図である。モニタ33は、
図5に示すように、逆U字状のフレーム320に取り付けられる。
図5は、モニタ33、および、フレーム320を正面から見た概略図である。モニタ33の下方には、空間が設けられる。モニタ33は、表示面の上端が後方に向けて傾斜するように設けられる。たとえば、モニタ33は、鉛直方向に対して、表示面の上端が後方に向けて5度傾斜するように設けられる。
【0028】
モニタ33は、
図6、および、
図7に示す取付部材321によってフレーム320に取り付けられる。
図6は、取付部材321を、前方側から見た図である。
図7は、フレーム320に取り付けられたモニタ33の前方斜視図である。
図7は、モニタ33の前方側のカバーが取り外された状態を示す図である。
【0029】
モニタ33は、後方側のカバー33aと、前方側のカバーとによってフレーム320を挟むように設けられる。
【0030】
取付部材321は、モニタ33内に設けられる。取付部材321は、固定部322、および、ナット323によって、フレーム320に取り付けられる。固定部322の一部は、U字状に湾曲しており、湾曲する箇所にフレーム320が挿入される。ナット323は、取付部材321の第1孔321aに挿入される。取付部材321が固定部322と共に、フレーム302を挟持することで、モニタ33は、フレーム320に固定される。
【0031】
取付部材321には、前方側のカバーをねじによって取り付けるための第2孔321bと、後方側のカバー33aをねじ324によって取り付けるための第3孔321cとが設けられる。
【0032】
また、取付部材321には、切欠部321dが形成される。切欠部321dは、フレーム320の溶接ビート320aに対応する位置に形成される。具体的には、切欠部321dは、溶接ビート320aの後方に形成される。切欠部321dが形成されることで、溶接ビート320aと取付部材321とが当接せずに、取付部材321を左右方向に沿ってフレーム320に取り付けることができる。そのため、取付部材321は、左右方向に延びるフレーム320の軸(不図示)に平行となるように取り付けられ、フレーム320に対して、モニタ33が傾斜して取り付けられることを抑制することができる。
【0033】
図4に戻り、モニタ33には、例えば、機体が、直進サポートにより自動直進走行を行う場合に点灯する直進サポートランプ331と、A点ランプ332と、B点ランプ333と、GNSSランプ334とが配設されている。なお、モニタ33には、ランプ以外の表示灯などが配設されている。また、苗移植機1は、複数のモニタを有してもよい。モニタは、脱着可能なタブレット端末装置などであってもよい。
【0034】
モニタ33では、フィンガップレバー34の操作によりA点が取得されている場合にはA点ランプ332が点灯する。また、フィンガップレバー34の操作によりB点が取得されている場合にはB点ランプ333が点灯する。モニタ33では、機体が自動直進走行可能な状態にある場合にはA点ランプ332およびB点ランプ333が共に点灯する。
【0035】
GNSSランプ334は、3つの表示ランプを有し、GNSS受信レベルにあわせて表示ランプの点灯数を変更する。モニタ33では、かかる表示態様によって作業者にGNSS受信状態を知らせる。
【0036】
また、操縦部30の所定位置には、例えば、報知装置200の一例となるブザー215が設けられる(
図8参照)。
【0037】
図2に戻り、操縦部30には、ステアリングポスト315の近傍に主変速レバー81(変速レバー)と副変速レバー82(走行速度切替レバー)とが設けられる。主変速レバー81は、操縦部30の右側に設けられ、副変速レバー82は、ハンドル32の下方に設けられている。
【0038】
主変速レバー81は、走行車体2の前後進と走行出力を切替操作するレバーであり、作業者が操作することにより、HST16のトラニオン(不図示)の回動角度を調節して走行車体2の速度調節を行うことができる。すなわち、主変速レバー81は、走行車体2の目標車速を設定する。
【0039】
副変速レバー82は、走行車体2の走行速度を規定する走行モードを、走行する場所に応じて低速モードと高速モードとに切り替えるレバーである。モード切替えは、副変速レバー82の位置に応じて、ミッションケース18内に設けられた副変速機構により行われる。
【0040】
また、操縦部30の前部には、開閉可能なフロントカバー31が設けられる。そして、このフロントカバー31の前端中央に位置するように、走行の指標となる指標部材としてのセンターマスコット350が取り付けられている。なお、
図2では、便宜上、図示を省略しているが、走行車体2の前側左右には予備苗載台(不図示)が設けられている。
【0041】
センターマスコット350は、走行車体2の前部中央位置に取付けられており、操縦座席28に座した作業者が苗移植機1を運転する際に、進行方向の目安となるように機能するものである。また、本実施形態に係るセンターマスコット350は、前述した直進サポートの実行可否を含むサポート状況を報知する報知装置200としても機能する。
【0042】
本実施形態に係る苗移植機1は、報知装置200となるセンターマスコット350を用いて、直進サポートの状況に加え、苗植付部50が備える苗や肥料などの作業資材の残量に関する情報を報知してもよい。
【0043】
センターマスコット350は、前方を向いている作業者の視界に常に存在するため、作業者は目線を前方から逸らすことなく、常時、苗移植機1の状況を把握することができ、安全性の向上に大きく寄与することができる。
【0044】
本実施形態に係る苗移植機1は、受信アンテナ121(
図8参照)を内蔵したGNSSユニット120が走行車体2に配設されている。このGNSSユニット120は、受信アンテナ121で時間的に所定の間隔でGNSS座標を取得することにより、地球上での位置情報を所定間隔で取得することができる。
【0045】
GNSSユニット120は、前輪4の車軸131の直上方に位置するように、走行車体2の前端側に基端が連結されたアンテナフレーム124の頂部に取り付けられている。
【0046】
ここで、苗植付部50およびその他の構成について説明する。苗植付部50は、走行車体2の後部に、苗植付部昇降機構40を介して昇降可能に取付けられている。苗植付部昇降機構40は昇降リンク装置41を備えており、この昇降リンク装置41は、走行車体2の後部と苗植付部50とを連結させる平行リンク機構を備える。かかる平行リンク機構は、上リンク41aと下リンク41bとを有し、これらのリンク41a,41bが、メインフレーム7の後部端に立設した背面視門型のリンクベースフレーム43に回動自在に連結される。そして、リンク41a,41bの他端側が苗植付部50に回転自在に連結されている。こうして、苗植付部50は走行車体2に昇降可能に連結されることになる。
【0047】
また、苗植付部昇降機構40は、油圧によって伸縮する油圧昇降シリンダ44を有し、油圧昇降シリンダ44の伸縮動作によって、苗植付部50を昇降させることができる。油圧昇降シリンダ44は、前述したHST16により駆動され、苗植付部昇降機構40の昇降動作によって、苗植付部50を非作業位置まで上昇させたり、対地作業位置(植付位置)まで下降させたりすることができる。
【0048】
また、苗植付部50は、苗を植え付ける範囲を、複数の区画、あるいは複数の列で植え付けることができる。例えば、苗を6つの区画で植え付ける、いわゆる6条植の苗植付部50とすることができる。
【0049】
また、苗植付部50は、苗植付装置60と、苗載置台51及びフロート47(48,49)を備える。このうち、苗載置台51は、走行車体2の後部に複数条の苗を積載する苗載置部材として設けられており、走行車体2の左右方向において仕切られた植付条数分の苗載せ面52を有し、それぞれの苗載せ面52に土付きの苗を載置することが可能である。
【0050】
苗植付装置60は、苗を載置する苗載置台51の下部に配設され、苗を苗載置台51から取って圃場Fに植え付ける装置であり、苗載置台51の前面側に配設される植付支持フレーム55によって支持される。そして、苗植付装置60は、植付伝動ケース64と植付体61とを有し、植付体61は、苗載置台51から苗を取って圃場Fに植え付けることができるように構成されており、植付伝動ケース64は、植付体61に駆動力を供給することができる。
【0051】
また、植付伝動ケース64は、エンジン10から苗植付部50に伝達された動力を、植付体61に供給可能に構成されており、植付体61は、植付伝動ケース64に対して回転可能に連結される。また、植付体61は、苗載置台51から苗を取って圃場Fに植え付ける植込杆62と、植込杆62を回転可能に支持すると共に植付伝動ケース64に対して回転可能に連結されるロータリケース63とを有する。
【0052】
ロータリケース63は、植付伝動ケース64から伝達された駆動力によって植込杆62を回転させる際に、回転速度を変化させながら回転させることのできる不等速伝動機構(不図示)を内装している。これにより、植付体61の回転時には、植込杆62は、ロータリケース63に対する回転角度によって回転速度が変化しながら回転をすることができる。
【0053】
このように構成される苗植付装置60は、2条毎に1つずつ配設されている。すなわち、複数の苗植付装置60は、それぞれ植付条が割り当てられている。また、各植付伝動ケース64は、2条分の植付体61を回転可能に備えている。つまり、1つの植付伝動ケース64には、2つのロータリケース63が、機体左右方向の両側に連結される。
【0054】
また、フロート47は、走行車体2の移動と共に、圃場面上を滑走して整地するものであり、走行車体2の左右方向における苗植付部50の中央に位置するセンターフロート48と、左右方向における苗植付部50の両側に位置するサイドフロート49とを有する。
【0055】
本実施形態におけるセンターフロート48には、圃場Fの状況に合わせて苗植付部50を上下へ昇降させる油圧感度機構として機能するフロートポテンショメータ154(
図8参照)が設けられる。かかるフロートポテンショメータ154は、センターフロート48の上下動を検出する感度の幅を変更することができる。
【0056】
例えば、感度を敏感にすれば、センターフロート48の小さな上下動についても検出してコントローラ150へ検出信号を送信するようになる。一方、感度を鈍感にすれば、センターフロート48の小さな上下動については検出することなく、一定振幅以上の上下動のみ検出して検出信号をコントローラ150へ送信するようになる。
【0057】
また、苗植付部50の下方側の位置における前側には、圃場Fの整地を行う整地用のロータ67が設けられる。このロータ67は、後輪ギヤケース22を介して伝達されるエンジン10からの出力によって回転可能に構成されるとともに、電動モータであるロータ用モータ165(
図8参照)によって昇降可能に設けられている。
【0058】
なお、本実施形態に係る苗移植機1では、かかる整地用のロータ67が接地していることを条件として、コントローラ150が直進サポートを実行するようにしている。すなわち、苗植付作業を行っている場合にのみ直進サポートが実行されるようになっている。
【0059】
また、苗植付部50の左右両側には、次の植付条に進行方向の目安になる線を形成する線引きマーカ68が備えられる。線引きマーカ68は、苗移植機1が圃場F内における直進前進時に、圃場Fの畦際で転回した後に直進前進する際の目印を圃場F上に線引きする。
【0060】
また、走行車体2における操縦座席28の後方には、施肥装置70が搭載される。施肥装置70は、肥料を貯留する左右の貯留ホッパ71と、貯留ホッパ71から供給される肥料を設定量ずつ繰り出す繰出し装置72と、繰出し装置72により繰り出される肥料を圃場Fに供給する施肥通路である施肥ホース74と、施肥ホース74に搬送風を供給するブロア73とを備える。
【0061】
このブロア73により、施肥ホース74内の肥料が苗植付部50側に移送される。さらに、施肥装置70は、施肥ホース74によって肥料が移送される施肥ガイド75と、施肥ホース74によって移送された肥料を苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込む作溝器76とを有する。
【0062】
図8は、苗移植機1のコントローラ150を中心とした機能ブロック図である。本実施形態に係る苗移植機1は、電子制御によって各部を制御することが可能になっており、苗移植機1は、各部を制御する制御装置としてのコントローラ150を備える。このコントローラ150は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶部、さらには入出力部が設けられ、これらは互いに接続されて互いに信号の受け渡しが可能である。記憶部には、苗移植機1を制御するコンピュータプログラムが格納される。
【0063】
図示するように、コントローラ150には、各種アクチュエータ類や、各部の情報を取得するセンサ類等が接続される。
【0064】
コントローラ150には、アクチュエータ類として、例えば、エンジン10の吸気量を調節するスロットルモータ100、整地用のロータ67を昇降させるロータ用モータ165、植付クラッチ500を作動させる植付クラッチモータ510が接続される。なお、図示は省略したが、HST16のトラニオンの回動角度を変化させるトラニオン駆動モータもコントローラ150に接続されている。
【0065】
また、コントローラ150には、舵角センサ130、方位センサ160、慣性測位装置170、車速センサ180(回転センサ)、着座センサ190、さらには、主変速レバー81や副変速レバー82の操作量を傾動角度で検出するレバーセンサ(不図示)などを含むその他各種のセンサが接続されている。また、コントローラ150には、カメラなどの撮像装置などが接続されている。
【0066】
舵角センサ130は、ハンドル32の操作によって転舵輪である前輪4が操舵された際の舵角を検出するセンサである。舵角センサ130は、ハンドル32の回動苗送りベルト角度に基づいて舵角を検出してもよい。
【0067】
方位センサ160は、機体が向いた方位を検出するセンサである。コントローラ150は、方位センサ160から取得した値に基づいて、機体の実際の進行方向を導出することができる。方位センサ160は、GNSSユニット120に設けられてもよい。また、方位は、GNSSユニット120によって検出された走行車体2の位置情報に基づいて算出されてもよい。
【0068】
慣性測位装置170は、ジャイロセンサや加速度センサを含み、これらを制御する制御基板が内蔵される。なお、慣性測位装置170は、GNSSユニット120に設けられてもよい。
【0069】
慣性測位装置170は、走行車体2の姿勢が、自動直進ラインL1に対してどの程度斜め姿勢になっているかを検出する。慣性測位装置170は、走行車体2の傾きを検出する。慣性測位装置170は、走行車体2の前後方向、および左右方向の傾きを検出する。
【0070】
着座センサ190は、操縦座席28に設けられた、ロードセルや感圧フィルムセンサなどにより構成されたセンサであり、作業者が操縦座席28に着座していることを検出することができる。
【0071】
車速センサ180は、走行車体2の車速に関する情報を取得する。車速センサ180は、走行車体2の前輪4、または、後輪5の回転を検出する。たとえば、車速センサ180は、後輪5の回転を検出する。
【0072】
コントローラ150は、舵角センサ130が検出した舵角が、走行車体2を直進させる許容範囲内であることを示す値ではない場合、あるいは、方位センサ160が検出した方角や慣性測位装置170が検出した姿勢が直進方向を示す値ではない場合、直進サポートを禁止することができる。
【0073】
舵角が、走行車体2を直進させる許容範囲内である値とは、例えば、前輪4の舵角(切れ角)の絶対値が15度以下などの場合である。また、走行車体2が旋回した後に、舵角センサ130が検出した舵角が、走行車体2を直進状態ではない値を示す場合(たとえば5度)は直進サポートを禁止することもできる。
【0074】
なお、方位センサ160についても、許容範囲を設定し、許容範囲外となる方位や姿勢がコントローラ150に設定する時間以上継続すると、直進方向を向いていないと判断し、直進サポートを禁止する構成とするとよい。
【0075】
また、何らかのトラブルなどが生じて苗移植機1の直進サポートを停止した場合、安全性を向上させるため、あるいは作業ミスを未然に防止するために、直進サポートを再開する際には、苗植付部50が降下していること、予備苗載台が収納されていること、植付クラッチ500が入っていること、などの条件を満たしていなければ再開しないように制御することもできる。
【0076】
また、コントローラ150には、報知装置200として、例えば、モニタ33と、警報などを発するブザー215とが接続される。
【0077】
コントローラ150は、ブザー215やモニタ33を用いて、直進サポートの実行や停止などを含むサポート状況を報知できる。したがって、作業者は、現時点における機体の前傾姿勢の状態や、機体を旋回させた後の舵角や機体の姿勢などが、直進サポートを実行するのに相応しい状況であるかを容易に認識できる。そのため、例えば、旋回操作から直進サポートに切り替える操作性を向上させることができる。なお、報知装置200は、外部から持ち込み可能なタブレット端末装置(不図示)であってもよい。
【0078】
また、苗移植機1は、コントローラ150により制御可能な操舵装置110と、GNSSユニット120とを備えており、これらがコントローラ150に接続される。
【0079】
操舵装置110は、ハンドル32と連動連結する伝動機構(不図示)を備えるとともに、任意の回転力をハンドル32に付与する直進サポート機構310を備えており、コントローラ150による自動操舵を可能にしている。伝動機構には、ハンドル32を回動させるステアリングモータ112が含まれる。
【0080】
コントローラ150は、直進サポートを実行する場合には、GNSSユニット120が取得した位置情報に基づき、直進サポート機構310を介してハンドル32を自動操舵することにより、走行車体2を直進方向に維持する。
【0081】
GNSSユニット120は、GNSSで使用される人工衛星からの信号を受信する受信アンテナ121を有し、地球上における苗移植機1の位置情報(座標情報)を取得し、取得した位置情報をコントローラ150に伝達する。
【0082】
また、コントローラ150には、フィンガップレバー34、フロートポテンショメータ154、自動走行レバー140、高さ検出センサ141、自動走行切替スイッチ142(走行モード切替部)、などの各種スイッチが接続される。
【0083】
フィンガップレバー34は、直進サポートに関する作業者の操作を受け付ける。フィンガップレバー34は、A点およびB点を取得する際に作業者によって操作される。また、フィンガップレバー34は、基準ラインL2をキャンセルする際に操作される。
【0084】
フロートポテンショメータ154は、圃場Fの凹凸に追従して上下動するセンターフロート48に設けられており、このセンターフロート48の上下動、すなわち圃場Fの深さを感知する。コントローラ150は、感知された圃場Fの凹凸に応じて苗植付部50を昇降させる。
【0085】
高さ検出センサ141は、苗植付部50の高さを検出する。たとえば、高さ検出センサ141は、リンク41a、41bの回転角度を検出するポテンショメータである。高さ検出センサ141は、リンク41a、41bの回転角度を検出することで、苗植付部50の高さを検出する。
【0086】
自動走行切替スイッチ142は、自動走行を実行するか否かを切り替えるスイッチである。具体的には、自動走行切替スイッチ142は、走行モードを、手動走行モード、または自動走行モードに切り替えるスイッチである。手動走行モードは、作業者の手動操作によって走行するモードである。自動走行モードは、作業者の手動操作によらずに自動直進走行を実行可能なモードである。
【0087】
自動走行レバー140は、走行車体2が旋回した後に、基準ラインL2に略平行な自動直進ラインL1に沿って自動直進走行を開始するためのレバーである。
【0088】
自動走行切替スイッチ142によって、走行モードが自動走行モードとなっており、さらに、自動走行レバー140が「入」に操作された場合に、自動直進走行を開始可能となる。なお、自動走行切替スイッチ142によって、走行モードが手動走行モードとなっている場合に、自動走行レバー140が「入」に操作されても、自動直進走行を行うことはできない。また、自動走行切替スイッチ142によって、走行モードが自動走行モードとなっている場合であっても、自動走行レバー140が「切」となっている場合には、自動直進走行は実行されない。
【0089】
コントローラ150は、基準ラインL2が登録される走行基準登録部152を有する。苗移植機1に直進サポートを行わせるためには、予め、ティーチング作業が必要になる。走行基準登録部152は、ティーチング作業により、例えば、直進サポートを実行して直進制御するための基準ラインL2(
図1参照)を登録する。
【0090】
走行基準登録部152は、直進サポートの開始位置であるA点および終了位置であるB点を、それぞれ取得し、取得したA点およびB点を結ぶ線分を、基準ラインL2として登録する。
【0091】
基準ラインL2が登録されることで、直進サポートが実行される際の走行方位や、直進サポートを実行する距離が登録される。なお、基準ラインL2の長さが直進サポートを実行する距離として登録されることで、走行車体2の直進距離に基づいて、例えば、作業者に旋回操作を行う地点に近づいたこと、すなわち、圃場端(畦)が近づいたことを作業者に報知することができる。なお、走行車体2の走行距離は、例えば、ロータ67の回転数に基づいて算出することができる。
【0092】
次に、実施形態に係る自動直進走行の開始処理について、
図9を参照し説明する。
図9は、実施形態に係る自動直進走行の開始処理を説明するフローチャートである。ここでは、自動走行切替スイッチ142によって、走行モードが、自動走行モードとなっているものとする。また、走行車体2が旋回しているものとする。たとえば、圃場の畦付近において、走行車体2を旋回させる場合には、自動走行レバー140が「切」に操作されることで、作業者の手動操作によって旋回が実行される。
【0093】
コントローラ150は、自動走行レバー140が「入」に操作されたか否かを判定する(S100)。コントローラ150は、自動走行レバー140が「入」に操作されていない場合(S100:No)、すなわち、自動走行レバー140が「切」である場合、今回の処理を終了する。
【0094】
コントローラ150は、自動走行レバー140が「入」に操作された場合(S100:Yes)、自動直進走行を開始する(S101)。すなわち、コントローラ150は、自動走行を作動状態にする。
【0095】
次に、コントローラ150は、苗植付部50の高さが所定高さ以上であるか否かを判定する(S102)。所定高さは、予め設定された高さであり、対地作業位置よりも高い高さである。
【0096】
コントローラ150は、苗植付部50の高さが所定高さ以上である場合(S102:Yes)、自動直進走行を停止する(S103)。すなわち、コントローラ150は、苗植付部50の高さが所定高さ以上である場合、自動走行を非作動状態にする。コントローラ150は、たとえば、自動走行レバー140を「切」にする。
【0097】
コントローラ150は、苗植付部50の高さが所定高さ未満である場合(S102:No)、自動直進走行を継続する(S104)。
【0098】
また、コントローラ150は、ステップS101において自動直進走行を開始した後に、予め設定された所定時間(たとえば、数秒)が経過した後、または、走行車体2が予め設定された所定距離(たとえば、数十センチ)進んだ後に、ステップS102に進んでもよい。
【0099】
苗移植機1は、走行車体2と、苗植付部50と、GNSSユニット120と、コントローラ150とを備える。苗植付部50は、走行車体2に取り付けられ、対地作業位置、および、非作業位置に昇降可能である。GNSSユニット120は、走行車体2の位置を検出する。コントローラ150は、検出された走行車体2の位置に基づいて、自動直進ラインL1に沿って走行車体2を自動走行させる。コントローラ150は、自動走行を開始するための入操作が行われた場合に、苗植付部50の昇降高さにかかわらず自動走行を作動状態にし、自動走行を作動状態にした後に、苗植付部50の高さが、作業位置よりも高い所定高さ以上であることが検出された場合、自動走行を非作動状態にする。
【0100】
これにより、苗移植機1は、苗植付部50が作業位置よりも高い状態であっても、自動直進走行を開始することができる。そのため、苗移植機1は、自動走行を開始する際の作業性を向上させることができる。
【0101】
なお、コントローラ150は、副変速レバー82の位置に応じて、自動直進走行を停止させてもよい。たとえば、コントローラ150は、自動走行レバー140が「入」に操作されて、自動直進走行を開始した後に、副変速レバー82の位置を検出する。
【0102】
コントローラ150は、副変速レバー82の位置が高速モードである場合、自動直進走行を停止する。また、コントローラ150は、副変速レバー82の位置が低速モードである場合、自動直進走行を継続する。
【0103】
苗移植機1は、副変速レバー82の位置が高速モードであっても、自動直進走行を開始することができる。そのため、苗移植機1は、自動走行を開始する際の作業性を向上させることができる。なお、苗移植機1は、副変速レバー82の位置が高速モードに継続される場合には、自動直進走行を停止させる。これにより、苗移植機1は、安全性を担保でき、圃場に適切に苗を植え付けることができる。
【0104】
モニタ33は、走行モード、および、走行車体2における走行方向のずれを表示可能である。走行方向のずれは、自動直進ラインL1に対するずれである。コントローラ150は、走行モードにかかわらず、走行方向のずれを算出する。コントローラ150は、自動直進ラインL1における方位と、方位センサ160によって検出される方位とに基づいて、走行方向のずれを算出する。
【0105】
コントローラ150は、走行モードが自動走行モードである場合、走行方向のずれをモニタ33に表示させない。これは、走行モードが自動走行モードである場合、走行方向のずれは、自動走行によって修正されるためである。
【0106】
コントローラ150は、走行モードが手動走行モードである場合、走行方向のずれをモニタ33に表示させる。これにより、作業者は、手動によって走行車体2を走行させている場合に、自動直進ラインL1に対するずれを知ることができる。
【0107】
コントローラ150は、GNSSユニット120によって検出された位置情報に基づいて、走行車体2の車速(以下、「第1車速」と称することがある。)を算出する。GNSSユニット120によって取得される位置情報に基づいた車速データは、所定のサンプリング周波数(たとえば、10Hz)によって取得される。コントローラ150は、取得された車速データを所定時間分(たとえば、310ms)保持する。コントローラ150は、保持した車速データに所定のローパスフィルタ(たとえば、カットオフ周波数0.33Hz)を適用することで、第1車速を算出する。これにより、苗移植機1は、走行車体2の第1車速を正確に算出することができる。
【0108】
なお、コントローラ150は、主変速レバー81による走行車体2の目標車速が所定車速(たとえば、前進の2段)以下である場合、第1車速の算出条件を満たさないと判定する。また、コントローラ150は、ハンドル32が所定の直進範囲、具体的には、舵角センサ130が検出した舵角が、走行車体2を直進させる許容範囲ではない場合、第1車速の算出条件を満たさないと判定する。また、コントローラ150は、苗植付部50が非作業位置である場合、第1車速の算出条件を満たさないと判定する。また、コントローラ150は、GNSSユニット120による受信レベルが未受信レベルである場合、第1車速の算出条件を満たさないと判定する。また、コントローラ150は、第1車速がゼロである場合、第1車速の算出条件を満たさないと判定する。
【0109】
コントローラ150は、第1車速の算出条件を満たさない場合、保持した車速データを破棄し、第1車速をゼロに設定する。
【0110】
また、コントローラ150は、上記するように、車速センサ180によって、走行車体2の車速(以下、「第2車速」と称することがある。)を検出する。具体的には、車速センサ180によって取得される回転数に基づいた車速データは、所定のサンプリング周波数によって取得される。コントローラ150は、取得された車速データを所定時間分保持する。コントローラ150は、保持した車速データに所定のローパスフィルタ(たとえば、カットオフ周波数0.33Hz)を適用することで、第2車速を算出する。これにより、苗移植機1は、走行車体2の第2車速を正確に算出することができる。
【0111】
なお、コントローラ150は、第1車速の算出条件を、第2車速に適用してもよい。
【0112】
第2車速は、HST16の目標開度、および、エンジン回転数から算出される目標車速であってもよい。
【0113】
コントローラ150は、第1車速、および、第2車速を用いて、走行車体2のスリップ率を算出する。具体的には、コントローラ150は、第2車速から第1車速を減算した値を、第2車速によって除算することで、スリップ率を算出する。
【0114】
コントローラ150は、スリップ率が、所定の上限スリップ率以上である場合、スリップ率を所定の上限スリップ率に設定する。また、コントローラ150は、スリップ率が、所定の下限スリップ率以下である場合、スリップ率を所定の下限スリップ率に設定する。
【0115】
所定の上限スリップ率は、コントローラ150によって記憶する不揮発の値(たとえば、20%)である。所定の下限スリップ率は、コントローラ150によって記憶する不揮発の値(たとえば、0%)である。所定の上限スリップ率、および、所定の下限スリップ率は、サービスツールを用いて変更可能である。所定の上限スリップ率は、入力可能な値が規制(たとえば、10~50%)されてもよい。所定の下限スリップ率は、入力可能な値が規制(たとえば、-50~10%)されてもよい。
【0116】
コントローラ150は、スリップ率が所定スリップ率範囲(所定範囲)を下回った場合、スリップ率に基づいて、施肥装置70における施肥量を増加させる。コントローラ150は、スリップ率が所定スリップ率範囲(所定範囲)を上回った場合、スリップ率に基づいて、施肥装置70における施肥量を減少させる。なお、スリップ率が所定スリップ率範囲である場合、施肥量の補正は行われない。所定スリップ率範囲は、コントローラ150で記憶する不揮発の値(たとえば、3%)である。所定スリップ率範囲は、サービスツールを用いて変更可能である。
【0117】
これにより、苗移植機1は、スリップ率を考慮して、施肥量を補正し、均一な施肥を実現できる。なお、苗移植機1は、過剰なスリップ率が算出された場合には、スリップ率の算出が不適切である、または、圃場の状態が不規則であると判定し、スリップ率を規制する。苗移植機1は、スリップ率に上限値(所定の上限スリップ率)、および、下限値(所定の下限スリップ率)を設けることで、施肥量の補正を規制することができる。
【0118】
コントローラ150は、上記する施肥量の補正を所定の時間毎に行う。所定の時間は、コントローラ150で記憶する不揮発の値(たとえば、3秒)である。所定の時間は、サービスツールを用いて変更可能である。
【0119】
コントローラ150は、スリップ率を適切に算出できない場合、施肥量の補正を行わない。
【0120】
コントローラ150は、第1車速、または、第2車速の算出条件を満たさない場合、スリップ率をデフォルトの値(たとえば、10%)とする。
【0121】
苗移植機1は、苗植付部50に
図10に示すようなブレーキプレート520と、苗枚数カウントスイッチ521とを設けてもよい。
図10は、苗植付部50の概略を示す側面図である。ブレーキプレート520は、苗枚数カウントスイッチ521よりも上方に設けられる。ブレーキプレート520は、マット苗を一時的に支持するように設けられる。ブレーキプレート520は、マット苗の下端を支持する。ブレーキプレート520は、複数段、たとえば、2段の段差を有する。ブレーキプレート520は、苗送りベルト522が複数回作動した後に、マット苗がブレーキプレート520を乗り越えるように設けられる。
【0122】
苗送りベルト522が作動して、マット苗が送られると、マット苗は、ブレーキプレート520を乗り越えて、下方に移動する。苗枚数カウントスイッチ521は、マット苗の枚数をカウントするためのスイッチである。苗枚数カウントスイッチ521は、たとえば、苗減少スイッチと共通のスイッチである。苗枚数カウントスイッチ521は、マット苗間の継ぎ目によって、OFF、および、ONとなることで、マット苗の枚数をカウントする。ブレーキプレート520によって、マット苗が一時的に支持されることで、マット苗間に隙間ができ、苗枚数カウントスイッチ521が確実にOFF、および、ONとなり、苗移植機1は、マット苗の枚数を正確にカウントすることができる。
【0123】
苗枚数カウントスイッチ521は、苗が苗枚数カウントスイッチ521の上部ある場合には、カウントせず、苗枚数カウントスイッチ521が押されていない場合にカウントする。
【0124】
苗枚数カウントスイッチ521は、所定の苗送り回数が進んでもスイッチが押されない場合に、苗の残量が無いと判定されるように設けられる。
【0125】
苗送りベルト522は、電動モータによって駆動される。苗送りベルト522は、マット苗がブレーキプレート520を乗り越えることができない場合、一度上向きに回転されて、その後、下向きに回転される。マット苗がブレーキプレート520を乗り越えることができない場合、電動モータの動作速度が速くされてもよい。マット苗がブレーキプレート520を乗り越えることができない場合、苗送りベルト522における1回分の送り量が小刻みに分かれてもよい。
【0126】
苗植付部50は、
図11に示すように、苗タンクの各条の中央下部に、それぞれ独立したセンサを持つ苗減少スイッチ530を設けてもよい。
図11は、苗植付部50の概略を示す側面図である。苗植付部50は、苗減少スイッチ530よりも上方に、モータによって駆動されて苗をせき止める壁532を、苗タンクに展開、または、収納が可能な機構を設ける。
【0127】
壁532は、それぞれの条で独立しており、それぞれの条の壁532が、同軸上の回動支点533によって動くように設けられる。壁532は、1つのモータによってバネ534を介して動作する。回動支点533の反対側には、壁532が収納状態である場合に、苗タンクの苗載せ面52よりも上に出る箇所535を有する。苗をせき止める壁532、回動支点533、苗タンクの苗載せ面52よりも上に出る箇所535、および、苗減少スイッチ530は、上方から順に並ぶように設けられる。回動支点533は、苗をせき止める壁532に近い側に設けられる。苗タンクの苗載せ面52よりも上に出る箇所535と苗減少スイッチ530とは、上下方向において同位置、もしくは、僅かに苗減少スイッチ530が下方に設けられる。苗をせき止める壁532は、苗送りベルト522よりも上方に設けられる。
【0128】
各条の苗減少スイッチ530のいずれか1つがOFFになった場合、モータが壁532を収納する側へ動作し、一定時間の後に、モータが壁532を展開する側へ動作する。
【0129】
各条の苗減少スイッチ530のいずれか1つがOFFになり、苗をせき止める壁532が収納された後、一定時間内にONになった場合、苗カウントが1つ進められる。各条の苗減少スイッチ530のいずれか1つがOFFになり、苗をせき止める壁532が収納された後、一定時間内にONにならなかった場合、条の苗減少の警報が行われる。
【0130】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0131】
1 苗移植機(作業車両)
2 走行車体
4 前輪
5 後輪
32 ハンドル(ステアリング)
33 モニタ
50 苗植付部(作業機)
70 施肥装置
81 主変速レバー(変速レバー)
82 副変速レバー(走行速度切替レバー)
120 GNSSユニット(位置測位装置)
140 自動走行レバー
141 高さ検出センサ
142 自動走行切替スイッチ(走行モード切替部)
150 コントローラ(制御装置)
160 方位センサ
180 車速センサ(回転センサ)