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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】可逆圧延機の板幅制御装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/22 20060101AFI20250617BHJP
   B21B 38/04 20060101ALI20250617BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20250617BHJP
   B21B 37/00 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
B21B37/22 A
B21B38/04 A
B21C51/00 J
B21B37/00 241
B21B37/00 221A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024540126
(86)(22)【出願日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2022030474
(87)【国際公開番号】W WO2024034020
(87)【国際公開日】2024-02-15
【審査請求日】2024-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 翼
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-148002(JP,A)
【文献】実開昭62-34308(JP,U)
【文献】特開2012-101246(JP,A)
【文献】特開昭59-229216(JP,A)
【文献】特開平2-75408(JP,A)
【文献】特開昭63-180317(JP,A)
【文献】特開昭60-231515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/22
B21B 38/04
B21C 51/00
B21B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材に対し幅圧延を行う一対のエッジャロールを有するエッジャと、前記エッジャの下流に配置され前記被圧延材に対し水平圧延を行う一対の水平ロールを有する水平圧延機とを備える可逆圧延機の板幅制御装置において、
前記エッジャによる前記幅圧延は行わず前記水平圧延機による前記水平圧延のみ行う逆パス圧延中に前記一対のエッジャロールが前記被圧延材に接触するように前記エッジャを動作させるように構成された圧下制御装置と、
前記逆パス圧延中に前記一対のエッジャロールが前記被圧延材に接触しているときの前記エッジャの圧下位置を検出するように構成された圧下位置検出器と、
前記逆パス圧延中に前記被圧延材の長手方向の位置を追跡するように構成されたトラッキング装置と、
前記圧下位置検出器の出力と前記トラッキング装置の出力とに基づいて前記被圧延材の長手方向の複数位置の板幅実績値を計算するように構成された板幅実績値計算装置と、を備え、
前記圧下制御装置は、前記逆パス圧延中に、
前記一対のエッジャロールが前記被圧延材に接触していない状態から、前記一対のエッジャロール間の距離を縮めるように前記エッジャを動作させることと、
前記エッジャの荷重測定値を監視し、前記荷重測定値が荷重目標値に達したことを前記一対のエッジャロールの前記被圧延材への接触として検知することと、
前記一対のエッジャロールの前記被圧延材への接触が検知されたら、前記一対のエッジャロール間の距離を広げるように前記エッジャを動作させることと、を繰り返し実行するように構成されている
ことを特徴とする可逆圧延機の板幅制御装置。
【請求項2】
被圧延材に対し幅圧延を行う一対のエッジャロールを有するエッジャと、前記エッジャの下流に配置され前記被圧延材に対し水平圧延を行う一対の水平ロールを有する水平圧延機とを備える可逆圧延機の板幅制御装置において、
前記エッジャによる前記幅圧延は行わず前記水平圧延機による前記水平圧延のみ行う逆パス圧延中に前記一対のエッジャロールが前記被圧延材に接触するように前記エッジャを動作させるように構成された圧下制御装置と、
前記逆パス圧延中に前記一対のエッジャロールが前記被圧延材に接触しているときの前記エッジャの圧下位置を検出するように構成された圧下位置検出器と、
前記逆パス圧延中に前記被圧延材の長手方向の位置を追跡するように構成されたトラッキング装置と、
前記圧下位置検出器の出力と前記トラッキング装置の出力とに基づいて前記被圧延材の長手方向の複数位置の板幅実績値を計算するように構成された板幅実績値計算装置と、
前記エッジャの下流に配置され前記逆パス圧延の前の正パス圧延中に前記被圧延材の板幅を計測するように構成された板幅計と、を備え、
前記板幅実績値計算装置は、前記板幅計の測定値と前記水平圧延による幅広がり量とから予測される板幅を用いて前記板幅実績値を修正するように構成された
ことを特徴とする可逆圧延機の板幅制御装置。
【請求項3】
被圧延材に対し幅圧延を行う一対のエッジャロールを有するエッジャと、前記エッジャの下流に配置され前記被圧延材に対し水平圧延を行う一対の水平ロールを有する水平圧延機とを備える可逆圧延機の板幅制御装置において、
前記エッジャによる前記幅圧延は行わず前記水平圧延機による前記水平圧延のみ行う逆パス圧延中に前記一対のエッジャロールが前記被圧延材に接触するように前記エッジャを動作させるように構成された圧下制御装置と、
前記逆パス圧延中に前記一対のエッジャロールが前記被圧延材に接触しているときの前記エッジャの圧下位置を検出するように構成された圧下位置検出器と、
前記逆パス圧延中に前記被圧延材の長手方向の位置を追跡するように構成されたトラッキング装置と、
前記圧下位置検出器の出力と前記トラッキング装置の出力とに基づいて前記被圧延材の長手方向の複数位置の板幅実績値を計算するように構成された板幅実績値計算装置と、
前記エッジャの上流に配置され前記逆パス圧延中に前記被圧延材の板幅を計測するように構成された板幅計と、を備え、
前記板幅実績値計算装置は、前記板幅計の測定値を用いて前記板幅実績値を修正するように構成された
ことを特徴とする可逆圧延機の板幅制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可逆圧延機の板幅制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延ラインでは、粗圧延工程及び仕上圧延工程によって被圧延材が製品寸法に加工される。粗圧延工程は水平圧延機とエッジャとを備える可逆圧延機によって行われる。エッジャは水平圧延機の上流側に設置される。エッジャは被圧延材に対し幅圧延を行う一対のエッジャロールを有する。水平圧延機は被圧延材に対し水平圧延を行う一対の水平ロールを有する。粗圧延工程では、被圧延材を正方向に流す正パスと被圧延材を逆方向に流す逆パスとが交互に繰り返される。粗圧延工程では、正パスと逆パスとを繰り返しながらエッジャロールによる幅圧延と水平ロールによる水平圧延とが繰り返され、被圧延材は仕上圧延の開始に適した板幅に加工される。可逆圧延機に関する従来技術としては、例えば、特許文献1及び特許文献2が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-070910号公報
【文献】国際公開第2016/185583号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
仕上圧延工程は板幅変更能力が小さいため、粗圧延工程において板幅を作り込むことが求められる。そのためには粗圧延中の被圧延材の板幅を全長にわたって取得する必要がある。特に、最後の正パス圧延において板幅を仕上げるためには、逆パス圧延から最後の正パス圧延の前までに板幅を取得する必要がある。
【0005】
しかし、被圧延材の板幅を計測できる幅計は、熱間圧延ラインにおいて可逆圧延機の入側から離れた位置に設置されている場合が多い。その幅計を用いて被圧延材の板幅を全長にわたって計測するためには、被圧延材がエッジャから抜けた後に被圧延材を幅計の設置位置まで搬送せねばならず、時間的ロスが生じてしまう。入側の幅計の位置次第では、逆パス圧延中に被圧延材が幅計に到達する場合がある。しかし、生産性向上のため、被圧延材がエッジャから抜けた後には速やかに逆転操作が行われて正パスの圧延が開始される。このため、板幅を計測できるのは被圧延材の後端側の一部に限られ、全長にわたって板幅を計測することはできない。
【0006】
本開示の1つの目的は、時間的ロスによる生産性低下を回避しながら被圧延材の板幅を全長にわたって取得することができる可逆圧延機の板幅制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の板幅制御装置は、被圧延材に対し幅圧延を行う一対のエッジャロールを有するエッジャと、エッジャの下流に配置され被圧延材に対し水平圧延を行う一対の水平ロールを有する水平圧延機とを備える可逆圧延機に適用される。本開示の板幅制御装置は、圧下制御装置、圧下位置検出器、トラッキング装置、及び板幅実績値計算装置を備える。圧下制御装置は、逆パス圧延中に一対のエッジャロールが被圧延材に接触するようにエッジャを動作させるように構成されている。圧下位置検出器は、逆パス圧延中に一対のエッジャロールが被圧延材に接触しているときのエッジャの圧下位置を検出するように構成されている。トラッキング装置は、逆パス圧延中に被圧延材の長手方向の位置を追跡するように構成されている。そして、板幅実績値計算装置は、圧下位置検出器の出力とトラッキング装置の出力とに基づいて被圧延材の長手方向の複数位置の板幅実績値を計算するように構成されている。
【0008】
本開示の板幅制御装置において、圧下制御装置は、逆パス圧延中、一対のエッジャロールが被圧延材に接触した状態が維持されるようにエッジャに対して荷重一定制御を適用するように構成されてもよい。或いは、圧下制御装置は、逆パス圧延中、以下の処理を繰り返し実行するように構成されてもよい。第1の処理は、一対のエッジャロールが被圧延材に接触していない状態から、一対のエッジャロール間の距離を縮めるようにエッジャを動作させることである。第2の処理は、エッジャの荷重測定値から一対のエッジャロールの被圧延材への接触を検知することである。そして、第3の処理は、一対のエッジャロールの被圧延材への接触が検知されたら、一対のエッジャロール間の距離を広げるようにエッジャを動作させることである。
【0009】
本開示の板幅制御装置は、エッジャの下流に配置され被圧延材の板幅を計測するように構成された板幅計をさらに備えてもよい。この場合、板幅実績値計算装置は、板幅計の測定値と水平圧延による幅広がり量とから予測される板幅を用いて板幅実績値を修正するように構成されてもよい。或いは、本開示の板幅制御装置は、エッジャの上流に配置され被圧延材の板幅を計測するように構成された板幅計をさらに備えてもよい。この場合、板幅実績値計算装置は、板幅計の測定値を用いて板幅実績値を修正するように構成されてもよい。
【0010】
本開示の板幅制御装置は、圧下位置修正計算装置をさらに備えてもよい。圧下位置修正計算装置は、板幅実績値に基づいて逆パス圧延の次の正パス圧延におけるエッジャの圧下位置の修正量を計算するように構成されてもよい。より詳しくは、長手方向の板幅実績値の分布に合わせて長手方向の位置ごとに圧下位置の修正量を計算してもよいし、長手方向の板幅実績値の平均値に基づいて長手方向全体としての圧下位置の修正量を計算してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の板幅制御装置によれば、逆パス圧延中にエッジャロールが被圧延材に接触しているときのエッジャの圧下位置と、逆パス圧延中に追跡される被圧延材の長手方向の位置とに基づいて、被圧延材の長手方向の複数位置の板幅実績値が計算される。これによれば被圧延材を逆パス圧延に必要な距離以上に搬送する必要がないため、時間的ロスによる生産性低下を回避しながら被圧延材の板幅を全長にわたって取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の第1実施形態にかかる板幅制御装置とそれが適用された可逆圧延機の構成と、板幅制御装置による逆パス圧延時の処理について説明する図である。
図2】本開示の第1実施形態にかかる逆パス圧延中のエッジャロールの動作を示す図である。
図3】本開示の第1実施形態にかかる板幅制御装置とそれが適用された可逆圧延機の構成と、板幅制御装置による正パス圧延時の処理について説明する図である。
図4】本開示の第1実施形態にかかる板幅制御装置の第1の変形例の構成と、板幅制御装置による逆パス圧延時の処理について説明する図である。
図5】本開示の第1実施形態にかかる板幅制御装置の第2の変形例の構成と、板幅制御装置による逆パス圧延時の処理について説明する図である。
図6】本開示の第2実施形態にかかる逆パス圧延中のエッジャロールの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.第1実施形態
1-1.可逆圧延機の構成
以下、図1を参照して本開示の第1実施形態に係る可逆圧延機10の構成について説明する。
【0014】
可逆圧延機10は、被圧延材(スラブ)90を搬送するローラテーブル80を備える。ローラテーブル80は正方向への駆動と逆方向への駆動が可能な複数本のローラを有する。ローラテーブル80にはその搬送速度を検出する速度検出器81が取り付けられている。可逆圧延機10は、ローラテーブル80による被圧延材90の搬送ライン上に、幅圧延のためのエッジャ20と、水平圧延のための水平圧延機30とを備える。水平圧延機30は、エッジャ20に対して搬送ラインの下流に配置されている。
【0015】
エッジャ20は、被圧延材90を左右から挟むように配置された一対のエッジャロール25を備える。エッジャロール25はロールチョック26、すなわち、ベアリングを備えた軸箱によって支持されている。エッジャ20は、ロールチョック26に支持されたエッジャロール25を被圧延材90の幅方向に移動させる圧下装置22を備える。圧下装置22は油圧シリンダを備え、油圧シリンダによる高速な圧下動作が可能である。
【0016】
エッジャ20は、圧下装置22による圧延荷重を検出する荷重計測器24を備える。荷重計測器24は、具体的には、ロールチョック26に設けられたロードセルである。ただし、圧下装置22の油圧シリンダに設けられた油圧検出器を荷重計測器24として用いることもできる。また、エッジャ20は、圧下装置22による圧下位置を検出する圧下位置検出器23を備える。圧下位置検出器23は、油圧シリンダの油柱長さを圧下位置の検出値として出力する。ここで、圧下位置とは無負荷時(非圧延時)における一対のエッジャロール25のギャップを示す値である。圧下位置検出器23は、両側の油圧シリンダの油柱長さの実測値に基づき圧下位置を演算して出力する。例えば、事前にある基準油柱長さにおいて実際のエッジャロール25のギャップを計測し(この処理をゼロ調という)、その計測値(ゼロ調時ロールギャップ)から、油柱長さのゼロ調時からの変化量を差し引いた値を圧下位置の検出値として出力する。
【0017】
水平圧延機30は、被圧延材90を上下から挟むように配置された一対の水平ロール31を備える。水平ロール31には水平ロール31の回転速度を検出する速度検出器32が取り付けられている。また、水平圧延機30の出側には熱片検出器(HMD)100が配置されている。ただし、可逆圧延機10に配置された熱片検出器100はそれ一つではなく、被圧延材90の搬送ライン上の複数個所に熱片検出器100が配置されている。
【0018】
1-2.板幅制御装置の構成
次に、上記のように構成された可逆圧延機10に適用される板幅制御装置200の構成について引き続き図1を参照して説明する。
【0019】
板幅制御装置200は、圧下制御装置21、板幅実績計算装置40、設定計算装置50、圧下位置修正計算装置60、及びトラッキング装置70から構成される。板幅制御装置200を構成するこれらの装置21,40,50,60,70は、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、中央処理装置(CPU)、又は別の処理装置であってもよい。装置21,40,50,60,70のうちの1又は複数は、2以上のASIC、FPGA、CPU、又は別の処理装置の組合せであってもよい。板幅制御装置200を構成するASIC、FPGA、CPU、及び別の処理装置は一連の実行可能な命令を含む。それらの命令が実行されると、対応するASIC、FPGA、CPU、及び別の処理装置は後述する各装置21,40,50,60,70の機能を実行するようにトリガされる。
【0020】
設定計算装置50は、圧下制御装置21に対して各種の設定計算値51を与えるように構成されている。設定計算値51には、被圧延材90に対する板幅目標値51aが含まれる。荷重目標値51aは、最小荷重から最大荷重の範囲において予め定められた値である。最小荷重は安定に荷重を計測できる下限値であり、最大荷重はエッジャ20の機械的な許容上限値である。
【0021】
圧下制御装置21は、設定計算装置50から与えられる各種の設定計算値51に従って動作する。また、圧下制御装置21には、荷重計測器24で検出された圧延荷重と、圧下位置検出器23で検出された圧下位置とが入力される。圧下制御装置21は、逆パス圧延中に圧下位置検出器23から入力された圧下位置の検出値を、圧下位置実績値21aとして板幅実績計算装置40に送信するように構成されている。
【0022】
トラッキング装置70は、速度検出器32で検出された水平ロール31の回転速度と、速度検出器81で検出されたローラテーブル80の搬送速度と、熱片検出器100の出力とを取得する。トラッキング装置70は、逆パス圧延中に取得されたそれらの情報を用いて長手方向における被圧延材90の位置を示すトラッキング情報71を生成するように構成されている。生成されたトラッキング情報71は板幅実績計算装置40に送信される。
【0023】
板幅実績計算装置40は、記憶装置41と全長板幅実績計算部42とを含む。圧下制御装置21から送信された圧下位置実績値21aは記憶装置41に格納される。また、トラッキング装置70で生成されたトラッキング情報71も記憶装置41に格納される。圧下位置実績値21a及びトラッキング情報71の何れもが被圧延材90の逆パス圧延中に取得された情報であり、取得されたタイミングによって相互に紐づけられている。これらの情報の取得タイミングは、一定または可変のサンプリング時間間隔や、被圧延材90の長手方向の位置によって予め定められている。
【0024】
全長板幅実績計算部42は、記憶装置41に格納された情報に基づいて長手方向の複数位置における被圧延材90の板幅の実績値を計算するように構成される。板幅の実績値の計算方法の詳細については後述する。全長板幅実績計算部42で計算された板幅の実績値は圧下位置修正計算装置に入力される。
【0025】
圧下位置修正計算装置60は、全長板幅実績計算部42で計算された板幅の実績値に基づいて、圧下装置22による圧下位置の修正量を計算するように構成されている。圧下位置修正計算装置60により計算される圧下位置の修正量は、板幅の実績値が計算された逆パス圧延の次の正パス圧延において、圧下制御装置21によるエッジャ20の制御に用いられる。圧下位置の修正量の計算方法の詳細については後述する。
【0026】
1-3.板幅制御装置の逆パス圧延時の処理
逆パス圧延では、被圧延材90はローラテーブル80によって矢印の方向に搬送され、その間、一対のエッジャロール25によって被圧延材90は左右から挟まれる。逆パス圧延中は、圧下制御装置21によってエッジャ20に対して荷重一定制御が適用される。荷重一定制御では、荷重計測器24で検出される圧延荷重が荷重目標値51aと一致するように圧下装置22が操作される。
【0027】
図2は逆パス圧延中のエッジャロール25の動作を示す図である。荷重一定制御が行われることにより、左右のエッジャロール25と被圧延材90とが接触した状態が被圧延材90の全長にわたって維持されるように、エッジャロール25間のギャップ28が制御される。そして、エッジャロール25が被圧延材90の側面に沿って相対移動している間に、エッジャロール25の幅方向位置に対応する圧下位置実績値21aが圧下位置検出器23によって取得される。
【0028】
逆パス圧延の終了後、板幅実績計算装置40による被圧延材90の板幅実績値の計算が行われる。板幅実績値の計算は全長板幅実績計算部42で行われる。全長板幅実績計算部42は、記憶装置41に記憶された圧下位置実績値21aを用いて、以下の式によって全長の板幅実績値を計算する。
【数1】
上記式における各パラメータの意味は以下の通りである。
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0029】
エッジャミル伸び量は、二次式などで表わされるミルカーブを用いて圧延荷重から計算される。エッジャロールの摩耗量及び熱膨張量は、ゼロ調時のエッジャロール直径からの変化量として考慮される。摩耗量は、予測または計測された圧延荷重や圧延長などから数秒周期で周期的に算出され積算される。熱膨張量は、予測または計測されたロール温度から数秒周期で周期的に算出され積算される。熱膨張量は予測または計測されたロール温度から数秒周期で周期的に算出され積算される。エッジャロールが摩耗しているとき摩耗量は正の値となり、熱膨張しているとき熱膨張量は正の値となる。
【0030】
本実施形態では、逆パス圧延中は荷重一定制御によりエッジャロール25と被圧延材90とが接触した状態が維持される。このため、長手方向の任意の位置において圧下位置実績値21aを取得することができる。全長の板幅実績値を高精度に取得する上では、圧下位置実績値21aとトラッキング情報71とを取得する計測点の数は多いほど好ましい。
【0031】
また、本実施形態では、荷重一定制御の荷重目標値51aは安定に荷重を計測できる範囲で十分小さい値とされる。そうすることで、逆パス圧延での幅圧下量を小さく保つことができ、被圧延材90のドッグボーンの発生と、その幅戻りによる幅変動(塑性変形)を無視できる程度に小さくすることができる。その結果、全長の板幅実績値、特に先尾端部における板幅実績値を高精度に取得することができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態では、逆パス圧延中の荷重一定制御により取得されるエッジャ20の圧下位置と、逆パス圧延中に追跡される被圧延材90の長手方向の位置とに基づいて、被圧延材90の全長の板幅実績値が計算される。これによれば被圧延材90を逆パス圧延に必要な距離以上に搬送する必要がない。このため、本実施形態に係る板幅制御装置200によれば、時間的ロスによる生産性低下を回避しながら、被圧延材90の板幅を全長にわたって取得することができる。
【0033】
1-4.板幅制御装置の正パス圧延時の処理
逆パス圧延の次は正パス圧延が実行される。図3には板幅制御装置200による正パス圧延時の処理が示されている。正パス圧延では、被圧延材90はローラテーブル80によって矢印の方向に搬送され、その間、被圧延材90はエッジャ20によって左右から圧延される。エッジャ20による被圧延材90の圧延は、正パス圧延の終了時の板幅が全長にわたって一定となるように行われる。
【0034】
正パス圧延の開始前には、圧下位置修正計算装置60によってエッジャ20の圧下位置の修正量が計算される。圧下位置の修正量は、逆パス圧延時に計算された全長の板幅実績値を用いて計算される。長手方向の板幅実績値の分布に合わせて長手方向の位置ごとに圧下位置の修正量を計算してもよいし、長手方向の板幅実績値の平均値に基づいて長手方向全体としての圧下位置の修正量を計算してもよい。以下の式は、圧下位置の修正量を計算する式の一例である。
【数7】
【数8】
【数9】
上記式における各パラメータの意味は以下の通りである。
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【0035】
エッジャ圧下効率は板厚/板幅比の関数で表され、通常0.2~0.8程度の値をとる。逆パス(i-1パス)の板幅基準値には、板幅実績値の所定区間の平均値が用いられる。ただし、平均値に代えて板幅設定計算値を用いてもよい。
【0036】
圧下位置修正計算装置60は、上記の式によって算出されたエッジャ圧下位置修正量61を圧下制御装置21に入力する。エッジャ圧下位置修正量61は、長手方向の板幅実績値の分布に合わせて長手方向の位置ごとに計算されている。また、設定計算装置50は、荷重目標値51aを圧下制御装置21に入力する。圧下制御装置21は、それら入力情報とトラッキング装置70から入力されるトラッキング情報71との間でタイミングを合わせて、エッジャロール25間のギャップを制御する。これにより、下流の仕上圧延工程に送られる被圧延材90の幅精度が向上し、製品の歩留まりが改善される。
【0037】
1-5.板幅制御装置の第1の変形例の構成と板幅実績値の修正処理
図4は板幅制御装置200の第1の変形例を示す。第1の変形例では、板幅制御装置200は可逆圧延機10よりも下流に板幅計110を備える。また、板幅制御装置200の板幅実績計算装置40は、記憶装置41と全長板幅実績計算部42と板幅実績修正部43とで構成される。
【0038】
第1の変形例では、逆パス圧延の前の正パス圧延時、水平圧延機30を通過した被圧延材90は板幅計110に到達し、その板幅を計測される。ただし、被圧延材90の後端(圧延ラインの進行方向における後端)が水平圧延機30を通過したことが確認された後、ローラテーブル80の搬送方向は速やかに正パスから逆パスに切り替えられる。ゆえに、被圧延材90の全長にわたって板幅が計測されるのではなく、被圧延材90の後端が水平圧延機30を通過するまでに板幅計110に到達した先端側の一部分91の板幅のみが計測される。板幅計110で得られた板幅測定値111は板幅実績計算装置40に送信され、記憶装置41に格納される。
【0039】
第1の変形例では、全長板幅実績計算部42で得られた全長の板幅実績値に対して板幅実績修正部43による修正が行われる。板幅実績値の修正量は、正パス圧延時に板幅計110で得られた板幅測定値を用いて、以下の式によって計算される。
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【数22】
上記式における各パラメータの意味は以下の通りである。
【数23】
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
【数30】
ただし、jは以下の条件を満たす。
【数31】
【数32】
【数33】
【数34】
【数35】
【数36】
【0040】
一般的に、可逆圧延機10の下流の板幅計110は、ロール冷却水などによる計測外乱を避けるために可逆圧延機10から5m程度以上離れた位置に設置される場合が多い。正パス圧延後に逆パス圧延が行われる場合、正パス圧延の終了後に速やかに逆パス圧延に切り替えられる。このため、可逆圧延機10の下流の板幅計110では計測できない区間(水平圧延機30から板幅計110までの距離に相当)が生じる。板幅実績値補正量は、板幅測定値を測定できた区間内の任意の区間において算出できる。
【0041】
1-6.板幅制御装置の第2の変形例の構成と板幅実績値の修正処理
図5は板幅制御装置200の第2の変形例を示す。第2の変形例では、板幅制御装置200は可逆圧延機10よりも上流に板幅計110を備える。また、板幅制御装置200の板幅実績計算装置40は、記憶装置41と全長板幅実績計算部42と板幅実績修正部43とで構成される。
【0042】
第2の変形例では、逆パス圧延時、エッジャ20を通過した被圧延材90は板幅計110に到達し、その板幅を計測される。ただし、被圧延材90の先端(圧延ラインの進行方向における先端)が水平圧延機30を通過したことが確認された後、ローラテーブル80の搬送方向は速やかに逆パスから正パスに切り替えられる。ゆえに、被圧延材90の全長にわたって板幅が計測されるのではなく、被圧延材90の先端がエッジャ20を通過するまでに板幅計110に到達した後端側の一部分92の板幅のみが計測される。板幅計110で得られた板幅測定値111は板幅実績計算装置40に送信され、記憶装置41に格納される。
【0043】
第2の変形例では、全長板幅実績計算部42で得られた全長の板幅実績値に対して板幅実績修正部43による修正が行われる。板幅実績値の修正量は、逆パス圧延時に板幅計110で得られた板幅測定値を用いて、以下の式によって計算される。
【数37】
【数38】
上記式における各パラメータの意味は以下の通りである。ただし、第1の変形例に係る式のパラメータと共通のパラメータについては説明を省略する。
【数39】
【0044】
一般的に、可逆圧延機10の上流の板幅計110は、上流の圧延機の出側付近に設置される。逆パス圧延後は速やかに正パス圧延に切り替えられるため、可逆圧延機10の上流の板幅計110では計測できない区間(板幅計110からエッジャ20までの距離に相当)が生じる。板幅実績値補正量は、板幅測定値を測定できた区間内の任意の区間において算出できる。
【0045】
圧延設備では、経時的に変化する機械的な損耗やロール径の変化を校正して寸法精度を向上させるため、ロール交換や設備停止のたびにゼロ調が行われている。水平圧延機30は、ロール同士を接触させる方法(キスロール)により測定が可能であるため、実際の圧延に近い条件(荷重)でゼロ調が可能である。一方で、一対のエッジャロール25は離れた距離にあるため、ロール同士を接触させたゼロ調を行うことはできない。そのため、従来は、間接的にエッジャロールギャップを計測する方法、例えば、停止させた状態のエッジャロールギャップを計測する方法や、既知の寸法の試験材を挟むことにより計測する方法が実施されていた。しかし、間接的な方法では、計測誤差が生じるために、エッジャロールギャップのゼロ調は正しく行われていない場合があった。
【0046】
この点に関し、上述の板幅制御装置によれば、不正確なゼロ調やロール摩耗の予測誤差によるエッジャロールギャップの誤差を校正し、高精度な板幅実績値を取得するとともに、幅圧延精度を向上させることができる。
【0047】
2.第2実施形態
次に、本開示の第2実施形態に係る板幅制御装置について説明する。本実施形態に係る板幅制御装置は、第1実施形態に係る板幅制御装置とは基本的な構成を共通にする。つまり、本実施形態に係る板幅制御装置は、第1実施形態と同様に図1に示される構成を有する。本実施形態に係る板幅制御装置と第1実施形態に係る板幅制御装置との相違点は、逆パス圧延時に行わる圧下制御装置21によるエッジャ20の制御にある。詳しくは、圧下制御装置21により制御されるエッジャロール25の動作に違いがある。
【0048】
図6は本実施形態にかかる逆パス圧延中のエッジャロール25の動作を示す図である。図6において破線で示される動線は、被圧延材90に対する相対的なエッジャロール25の動作、つまり、エッジャ20の圧下位置の動作を示す動線である。第2実施形態では、被圧延材90の長手方向に複数の計測点が予め定められ、各計測点について板幅実績値が取得される。図6に示される例では、動線が被圧延材90に接触している点が板幅実績値が取得される計測点である。計測点は一定または可変のサンプリング時間間隔や長さ間隔によって定められている。
【0049】
逆パス圧延の開始前のエッジャ20の圧下位置は、エッジャロール25が被圧延材90に接触しない位置とされる。そして、トラッキング情報71から、予め定めた被圧延材90の計測点がエッジャロール25の位置に到達したことが検知される(時点t0)。
【0050】
次に、エッジャロール25間のギャップ28を狭くする方向にエッジャ20が操作される(動作1)。このときのエッジャ20の圧下速度は、逆パス圧延の開始前に、圧下装置22及び荷重計測器24の応答特性や圧下制御装置21の制御周期を考慮して予め定められる。具体的には、一定速度、又は圧下位置によって定まる速度とされる。
【0051】
圧下速度の制御中は、圧延荷重及び単位時間あたりの圧延荷重の変化量が監視される。そして、エッジャロール25が被圧延材90に接触して圧延荷重が荷重目標値に達したとき(時点t1)、その時点でのエッジャ20の圧下位置と被圧延材90の長手方向位置とが記憶装置41に記憶される。なお、荷重目標値は、安定に荷重を計測でき、且つ、幅圧下量またはドッグボーン盛り上がり量が許容上限を超えない範囲において予め定められた値である。
【0052】
その後、予め定められた距離だけエッジャロール25間のギャップ28を広げるようにエッジャ20が操作される(動作2)。そして、予め定めた被圧延材90の次の計測点がエッジャロール25の位置に到達するまで、ギャップ28を維持したままエッジャロール25は待機させられる(動作3)。
【0053】
第1実施形態では、荷重一定制御が行われることによって圧下装置22の油圧シリンダは開かれたり閉められたりし、その度に油圧シリンダの摺動摩擦の方向が変化する。油圧検出器を荷重計測器24として使用する場合は、摺動摩擦の方向の変化は荷重一定制御における外乱となり、荷重一定制御の制御性を悪化させる。このため、第1実施形態では、被圧延材90とエッジャロール25との接触状態を被圧延材90の全長にわたって等しく保持できない可能性がある。
【0054】
これに対して、第2実施形態では、圧下位置の測定時における油圧シリンダの動作の方向は、常にエッジャロール25間のギャップ28を閉める方向となる。このため、油圧シリンダの摺動摩擦の方向に変化は生じず、圧下位置を測定する際の測定条件は一定に揃えられる。ゆえに、第2実施形態によれば、被圧延材90の板幅の測定精度をより向上させることができる。
【0055】
なお、第1実施形態の第1の変形例及び第2の変形例において説明した板幅測定値を用いた板幅実績値の修正方法は、第2実施形態に係る板幅制御装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 可逆圧延機
20 エッジャ
22 圧下装置
21 圧下制御装置
23 圧下位置検出器
24 荷重計測器
25 エッジャロール
30 水平圧延機
40 板幅実績計算装置
50 設定計算装置
60 圧下位置修正計算装置
70 トラッキング装置
31 水平ロール
90 被圧延材
110 板幅計
200 板幅制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6