(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】離型油及びそのエアゾール製剤
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20250617BHJP
C11C 3/00 20060101ALI20250617BHJP
A21D 2/02 20060101ALN20250617BHJP
A21D 2/16 20060101ALN20250617BHJP
A21D 13/80 20170101ALN20250617BHJP
【FI】
A23D9/00 508
C11C3/00
A21D2/02
A21D2/16
A21D13/80
(21)【出願番号】P 2019121253
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-04-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】592007612
【氏名又は名称】横浜油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮平 響子
(72)【発明者】
【氏名】井口 敦博
【合議体】
【審判長】柴田 昌弘
【審判官】植前 充司
【審判官】松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-534763号公報(JP,A)
【文献】特開平07-147902号公報(JP,A)
【文献】特開平10-248488号公報(JP,A)
【文献】特開2000-184849号公報(JP,A)
【文献】特開2001-275566号公報(JP,A)
【文献】特開2001-299197号公報(JP,A)
【文献】特開平03-011012(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種油と、
二酸化ケイ素と、及び
構成する脂肪酸が炭素数20~24の脂肪酸であり、かつ、モノエステル比率が
16%
以下であるショ糖脂肪酸エステルと、
レシチンと、を含む離型油であって、
前記構成する脂肪酸が、エルカ酸、アラキジン酸、又はネルボン酸であり、
前記二酸化ケイ素の配合量は前記離型油の総質量に対して0.1~4質量%であり、
前記ショ糖脂肪酸エステルの配合量が、前記離型油の総質量に対して0.5~10質量%である離型油。
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ワックス類及び澱粉類のいずれも含まない請求項1に記載の離型油。
【請求項3】
菓子類の離型剤として用いられる請求項1
又は2に記載の離型油。
【請求項4】
エアゾール容器に噴射剤とともに封入されている請求項1~
3のいずれか1項に記載の離型油のエアゾール製剤。
【請求項5】
噴霧速度が0.6g/秒以下である請求項
4に記載のエアゾール製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食型に対する食品の付着を効果的に抑制して、外観に優れた食品を提供し、洗浄工程の省力化が可能となる、食型からの離型性及びかす残り低減性に優れた離型油及びそのエアゾール製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品を製造する際に使用される離型油は、製造中に食品が調理器具、天板、焼き型、抜き型(これらを「食型」と総称する。)に付着しないことを目的としている。中でも、製造中に食型から食品の自重で食品を剥離する工程では、付着防止作用のある離型油が、製造コスト削減に大幅に貢献している。例えば、焼き菓子生地は焼成された際に、食型に焦げ付きやすく、焼き上がった焼き菓子が食型にくっついた状態になるが、離型油を刷毛やモップ、グリーサー等で食型に塗布しておくことによって、焼き上がった焼き菓子類の型離れが簡単で容易になる。そのため、焼成食品の製造において、焼成後に食型と生地との焼き付きを防止して、製品をスムーズに取り出し、きれいに仕上げるために、離型油は欠くことのできない食品製造用剤となっている。
【0003】
離型油には、植物油脂にレシチンを配合させることが一般的である。ただし、レシチンは動植物から抽出されるリン脂質製品であり、特有の臭気を持つ。さらに、加熱による褐変が起こりやすく、調理加工品の外観や風味を損なう欠点がある。これらの理由から、離型油に配合するレシチンを削減する傾向にある。
【0004】
また、離型油の組成物に微粒二酸化ケイ素を配合させると優れた離型効果が得られることが知られている。従来技術においては、二酸化ケイ素を離型油に配合させたとき、沈降のない均一な状態を保つためには、湿式法ではなく気相法で製造された粒子径の小さな微粒二酸化ケイ素を用い、さらにレシチンを併用させる必要があった(特許文献1参照)。
【0005】
一方、レシチンを使用しない技術も開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、本技術ではバターケーキ生地を焼成した食品の焼き型への付着等が観察され、十分な技術とは言えなかった。食品の焼き型への付着が発生すると、繰り返しの使用に伴い型が汚れるとともに、調理した食品の外観を損なうことがあるため、焼き型の洗浄工程が必要となる。
【0006】
また、離型油の成分として、澱粉を配合した場合、良い離型効果が得られることが知られている。しかし、澱粉も食型へ付着し、汚れの原因となるとともに、粉体の分離や粘度の上昇により作業性が悪化するなどの欠点がある。澱粉とともにレシチンとショ糖脂肪酸エステルを配合させる技術も開示されているが(特許文献3参照)、本技術を、澱粉を含まない食品に用いた場合、当該の離型油によって食品表面のツヤがなくなるなど、食品の外観を損なうといった欠点が生じる。また、本技術では乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを用いているが、実際に効果が検討されている乳化剤の脂肪酸鎖長は炭素数16から18のみであり、しかも本脂肪酸鎖長では実際には十分な離型性を得ることはできなかった。
【0007】
さらに離型油の使用形態としては、食型もしくは食品表面への刷毛を用いた塗布や噴霧器による噴霧等が挙げられるが、噴射剤とともにエアゾール容器に封入されたエアゾール製剤が使用の簡便性や使用場面の多様性の面で優れており、実際に様々な食品工場で使用されている。例えば中鎖脂肪酸トリグリセリドとレシチンからなる調理用油脂組成物をスプレー剤の形状で使用する技術が開示されているが(特許文献4参照)、レシチンと油脂の組み合わせのみでは調理加工品の外観や風味を損なうという欠点がある。
【0008】
また、離形油は食型に対して適量塗布する必要があり、少なすぎると十分な離形性能を発揮できず、逆に多すぎると経済性も損ねる上に、食品の外観を損ねたり、食型の汚れにつながったりするといった不具合が発生し、エアゾール製剤ではその噴霧特性、中でも特に噴霧速度の制御が重要である。これまでエアゾール製剤の噴霧特性に関して調べられた技術も存在するが(特許文献5参照)、噴霧速度の制御に関しては言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-248488号公報
【文献】特開2003-265105号公報
【文献】特開平5-30905号公報
【文献】特開昭63-91039号公報
【文献】特開2000-316471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、調理器具、食型に対する食品の付着を効果的に抑制することができる、離型性及びかす残り低減性に優れた離型油及びそのエアゾール製剤を提供することである。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、構成する脂肪酸が炭素数20~24の脂肪酸であり、かつ、モノエステルの比率が20%未満であるショ糖脂肪酸エステルと二酸化ケイ素と食用油脂を組み合わせることで、調理器具、食型に対する食品の付着を効果的に抑制することができ、離型性及びかす残り低減性に優れた離型油が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]食用油脂、二酸化ケイ素、及び構成する脂肪酸が炭素数20~24の脂肪酸であり、かつ、モノエステル比率が20%未満であるショ糖脂肪酸エステルを含む離型油。
[2]前記構成する脂肪酸が、エルカ酸、アラキジン酸、又はネルボン酸である前記[1]に記載の離型油。
[3]前記ショ糖脂肪酸エステルの配合量が、前記離型油の総質量に対して0.1~20質量%である前記[1]又は[2]に記載の離型油。
[4]前記二酸化ケイ素の配合量が、前記離型油の総質量に対して10質量%以下である前記[1]~[3]のいずれかに記載の離型油。
[5]さらにレシチンを含む前記[1]~[4]のいずれかに記載の離型油。
[6]ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、食用ワックス及び澱粉類のいずれも含まない前記[1]~[5]のいずれかに記載の離型油。
[7]エアゾール容器に噴射剤とともに封入されている前記[1]~[6]のいずれかに記載の離型油のエアゾール製剤。
[8]噴霧速度が0.6g/秒以下である前記[7]に記載のエアゾール製剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の離型油は、従来の自重で剥離する離型技術と比較して、自重で剥離したうえで離型後の食品のかす残りを抑制し、調理加工品の外観や風味を損なわないという面で優れており、最終製品の損失と製造工程の省力化に効果がある。また、本発明の離型油は、エアゾール製剤とすることで様々な形状の食型に対して簡便に使用することができ、更にエアゾール製剤の噴霧速度を制御することで過剰塗布による、あるいは僅かな塗布による、食品の外観上の不具合発生や食型の汚れ発生を抑え、なおかつ経済的に有効な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】剥離後の型に残る生地カス量を評価するためのバターケーキの型と評価点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
前述したように、本発明は、食用油脂、二酸化ケイ素、及びショ糖脂肪酸エステルを含む離型油であり、離型性(焼き上がりの型離れが容易であること)及びかす残り低減性(型離れ後に食型に残る生地のかす残りが少ないこと)の面で優れている。特に二酸化ケイ素と所定のショ糖脂肪酸エステルを組み合わせた点に特徴があり、この点において従来の液状あるいは固形状の離型油製品とは全く異なっている。そして、そのことが従来の離型油に比べて、高い離型性及びかす残り低減性をもたらす大きな要因となっていると考えられる。
二酸化ケイ素と前記ショ糖脂肪酸エステルを組み合わせることにより、離型性及びかす残り低減性が従来品よりも向上する理由は必ずしも明確ではないが、二酸化ケイ素の表面に存在するシラノール基がショ糖脂肪酸エステルの水酸基と相互作用し吸着して二次粒子を形成することによるものと推測される。実際、食型に本発明品を塗布し、撥水性を評価(接触角測定)したところ、高い撥水性を示し(接触角70°前後)、この事実から本発明品が優れた離型性及びかす残り低減性の効果を発揮するであろうことが予想される。
【0015】
本発明に使用する食用油脂は、常温で液状の食用油脂であれば特に限定されるものではない。例えば、常温で液状の食用油脂として、大豆油、菜種油、ごま油、コーン油、綿実油、米油、サフラワー油、ひまわり油、オリーブ油等が例示される。前述の油脂を2種類以上混合した調合油でもよい。
【0016】
本発明に用いるショ糖脂肪酸エステルは、親水基のショ糖と、親油基の脂肪酸をエステル結合させて構成された非イオン性界面活性剤であって、それを構成する脂肪酸を炭素数20~24の脂肪酸とするものであり、これには飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれもが含まれる。具体的には、エルカ酸、アラキジン酸、ネルボン酸等が好ましい例として挙げられ、特にエルカ酸が離型性能や安定供給性の面からより好ましい。炭素数が20未満であれば離型性能が低下し、炭素数が24を超えると、溶解性が極端に低下し、製造上に支障が生じる。
【0017】
本発明に用いるショ糖脂肪酸エステルは、そのモノエステル比率が20%未満であり、好ましくは10%未満、さらには5%未満のものがより好ましい。モノエステル比率が20%以上であると、十分な離型性を発揮することが困難となる。 なお、モノエステル比率は、ショ糖脂肪酸エステル全体に占めるモノエステル化されたショ糖脂肪酸エステルの割合を表す。
【0018】
本発明に用いるショ糖脂肪酸エステルの配合量に関しては、離型油の性状に影響がない限りは特に限定されるものではないが、好ましくは前記離型油の総質量に対して0.1~20質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%である。0.1質量%未満であれば配合の効果が十分でなく、20質量%を超えると離型油の外観や性状に影響を及ぼし好ましくない。
【0019】
上記ショ糖脂肪酸エステルの市販品の例としては、リョートーシュガーエステルER-290、ER-190(商品名、三菱ケミカルフーズ社製)が挙げられる。
【0020】
本発明に用いる二酸化ケイ素は、食品に用いられるグレードのものであればいかようなものでも使用できる。例えば、ケイ酸ソーダを硫酸で分解する湿式法で得られる微粒二酸化ケイ素や、四塩化ケイ素の高温加水分解による気相法で得られる微粒二酸化ケイ素がある。離型性能の点からは、気相法により製造された微粒二酸化ケイ素が好ましい。二酸化ケイ素の平均粒子径は、10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。粒子径が10μmを超えると、油脂に対する分散性が劣る。なお、前記平均粒子径は、体積平均粒子径であり、粒度分布測定装置を用いて測定することができる。さらに各種グレードの二酸化ケイ素の含有量は99.0質量%以上のものが好ましい。
【0021】
二酸化ケイ素の配合量に関しては、離型油の性状に影響がない限りは特に限定されるものではないが、好ましくは前記離型油の総質量に対して10質量%以下、さらに好ましくは0.1~4質量%である。0.1質量%未満であれば配合の効果が十分でなく、10質量%を超えると離型油の粘度が上昇し、作業上不具合が生じ、好ましくない。
【0022】
本発明の離型油ではレシチンを添加すると、さらによい結果が得られる。本技術で使用できるレシチンは、食品に品に用いられるグレードのものであれば、いかようなものでも使用できる。例えば、由来は大豆、ヒマワリ、菜種、卵黄と動植物のどちらでもよく、クルードレシチン、分画レシチン、水添レシチン、酵素分解レシチン等が使用できる。
【0023】
レシチンの配合量に関しては、離型油の性状に影響がない限りは特に限定されるものではないが、好ましくは前記離型油の総質量に対して0.01~30質量%以下、さらに好ましくは0.01~15質量%である。0.01質量%未満であれば、配合の効果が十分でなく、30質量%を超えると、離型油の外観や性状に影響を及ぼし好ましくない。
【0024】
さらに、本発明の離型油には、前記成分に加えて、製剤の性状に影響がない限りは、食品用に用いられるものであれば、いかようなものでも配合することが可能である。例えば、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル以外の食品用乳化剤、ワックス類、加工澱粉、水、香料などが挙げられる。しかし、本発明の離型油は、従来の離型油において頻用されている成分、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、食品用のワックス類(例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、ホホバ油、蜜蝋、鯨蝋、木蝋)及び澱粉類(例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉等の澱粉、化工澱粉)のいずれも含まない態様においても、本発明の優れた効果を発揮することができる。
【0025】
本発明の離型油は、対象食品に影響を及ぼさない限り、いかような形態でも使用することができる。例えば刷毛による金型への塗布、噴霧器による噴霧、もしくは食品表面へ塗布することもできるが、使用の簡便性及び適正量の均一塗布の容易性の面から、噴射剤とともにエアゾール容器に封入されたエアゾール製剤の形態が好ましい。
【0026】
本発明のエアゾール製剤については、対象食品に影響を及ぼさない限り、いかような形態をとることができる。例えばそのエアゾール容器の素材については、ブリキ、アルミ、プラスチック又はその複合構造をとることができる。噴射剤については、食品用途に使用できるものであれば、液化ガス剤、圧縮ガス剤のいずれでも使用することが可能である。前記噴射剤の配合量は、噴射性、焼型への付着効率等を考慮すると、前記離型油の総質量に対して10~80質量%であり、好ましくは25~65質量%である。
【0027】
本発明の離型油の使用量に関しては、対象食品に影響を及ぼさない限り、特に限定されるものではないが、対象となる食品の種類や食型の大きさや形状によって使用量を変えることが望ましい。使用量が少なすぎると十分な離型効果が得られないことがあり、逆に使用量が多すぎると経済性も損ねる上に、食品の外観を損ねたり、食型の汚れにつながったりするといった不具合が発生する場合がある。
【0028】
特にエアゾール製剤の場合、その噴霧速度を調節することによって離型油の使用量の制御が容易となる。エアゾール製剤の噴射口から0.1~0.6g/秒の噴霧速度が好ましく、0.15~0.55g/秒の噴霧速度が更に好ましい。0.1g/秒未満であれば、十分な噴霧範囲が得られず、食型への噴霧に時間がかかり、作業性を損ねてしまい、0.6g/秒を超えると、短時間で多量の離型油が噴霧されることになり、最適な使用量の制御が難しく、過剰使用につながる。
【0029】
本発明のエアゾール製剤を実際に使用する場合は、離型油を簡単かつ適切に塗布するため、その噴射口を食型に向け、食型から30~40cm離して、噴射口から直接離型油を食型に向けて噴霧し、離型油の量が食型の単位面積あたり0.0001~0.1g/cm2とすることが例示される。
【0030】
本発明の離型油を製造するには、例えば、食用油脂、二酸化ケイ素、前記ショ糖脂肪酸エステル及び必要に応じてその他の成分、例えばレシチンを前述した配合割合で適宜混合し、40℃~100℃で加温して溶解、撹拌し、室温まで冷却することにより製造される。また、室温まで冷却した該離型を、噴射剤とともにエアゾール容器に加圧封入することでエアゾール製剤が製造される。
【0031】
本発明品は食品用の離型剤として使用され、該食品としてはパン類、ケーキ、バターケーキ、ペイストリー、クッキー、ビスケット、どら焼き、シフォンケーキ等の菓子類が例示されるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
[調製例1、2:ショ糖脂肪酸エステルSE1、SE2の調製]
反応器にショ糖30gとジメチルスルホキシド(DMSO)321gを仕込み、2.67KPaの圧力下でDMSOを加熱還流し、次いで反応器に20gの脂肪酸鎖長20のアラキジン酸メチル、又は脂肪酸鎖長24のネルボン酸と約0.31gの無水炭酸カリウムを加え、2.67KPaの圧力下、約90℃でDMSOを沸騰させながら20時間反応させた。反応終了後、乳酸の50%水溶液約0.68gを添加して触媒を中和し、等量のイソブタノール及び水(乳酸カリウム1200ppmを含有)を加えてイソブタノール相への抽出を行い、本抽出操作を5回行った。本抽出物をゲルパーミテーションクロマトグラフィーにて分画し、ショ糖脂肪酸エステルとして、2gのアラキジン酸由来の調製SE1と1.8gのネルボン酸由来の調製SE2を得た。以上により、本調製SE1の脂肪酸鎖長は炭素数20でモノエステル比率は13%であり、調製SE2の脂肪酸鎖長は炭素数24でモノエステル比率18%であった。
【0034】
[実施例1~5、比較例1~5:離型油の調製]
表1に示した配合処方(数値の単位は質量%)にしたがって各成分を混合し、70℃にて溶解、撹拌し、水冷して得た離型油をサンプル瓶に充填して、離型油を調製した(実施例1~5、比較例1~5)。ここで、二酸化ケイ素として、気相法で製造された平均粒子径0.01μmの商品名:アエロジル200(日本アエロジル社製)を使用した。レシチンには、商品名:SLPペーストSF(辻製油社製)を使用した。また、実施例1~5として、ショ糖脂肪酸エステルについては、三菱ケミカルフーズ社製 商品名:リョートーシュガーエステルER290(構成脂肪酸はエルカ酸、モノエステル比率は2%)、ER190(構成脂肪酸はエルカ酸、モノエステル比率は0%)、並びに前記調製例1、2で調製した調製SE1(構成脂肪酸はアラキジン酸、モノエステル比率は13%)、調製SE2(構成脂肪酸はネルボン酸、モノエステル比率は16%)を使用した。
また比較例1~5として、ショ糖脂肪酸エステルについては、三菱ケミカルフーズ社製 商品名:リョートーシュガーエステルB-370(構成脂肪酸はベヘニン酸、モノエステル比率は20%)、S-370(構成脂肪酸はステアリン酸、モノエステル比率は20%)、S-570(構成脂肪酸はステアリン酸、モノエステル比率は30%)、O-170(構成脂肪酸はオレイン酸、モノエステル比率は1%)、第一工業製薬社製 商品名:DKエステルF-10(構成脂肪酸はステアリン酸及びオレイン酸、モノエステル比率は1%未満)を使用した。
【0035】
[離型油の評価]
実施例1~5及び比較例1~5の離型油をそれぞれ塗布したブリキのマドレーヌ型を用いて焼成して、バターケーキを作製し、その際、各離型油の離型性(焼成後の剥がれやすさ)、かす残りについて、以下の方法に従って評価した。なお、いずれの評価においても、各実施例及び比較例に対し、12個のバターケーキを作製して評価を行った。
【0036】
(離型性評価試験)
離型性評価を以下の手順で行った。
1)実施例1~5、比較例1~5の離型油をそれぞれ、ブリキのマドレーヌ型に一穴あたり0.3g塗布する。
2)小麦粉;24%、ベーキングパウダー:1%、全卵:25%、砂糖:25%、マーガリン:25%の組成で調製したバターケーキ生地を、マドレーヌ型に充填する。
3)上下180℃のオーブンに2)のマドレーヌ型を入れ、14分加熱する。
4)焼き上がりのマドレーヌ型をひっくり返し、10秒の間に自重で落下した場合=3点、ひっくり返した状態で上下に軽く振り、3回以内の上下の振りで落下した場合=1点、3回振っても落下しなかった場合=0点で、離型性の評価を実施した。各実施例及び比較例に対し、バターケーキ12個分の平均値を算出し、3点=◎、2.5点以上3点未満=○、2点以上2.5点未満=△、2点未満=×とした。評価結果を表1に示す。
【0037】
(かす残り評価試験)
離型性評価試験と同時に、以下の評価方法で、かす残りの評価を実施した。すなわち、型を静かにひっくり返してバターケーキが落下した場合は落下した後のマドレーヌ型に、落下しなかった場合には手動で剥離させた後のマドレーヌ型に残ったケーキ生地のかすの状態を、
図1を基準に1~8点(1点:非常にかす残りが多い、8点:非常にかす残り量が少ない)で評価し、各実施例及び比較例に対し、バターケーキ12個分の平均値を算出することにより、かす残りの評価を行った。この平均値が高いほど、かす残り低減性が良好であることを示す。評価結果を表1に示す。
【0038】
[総合評価]
前述した離型性評価とかす残り評価の結果の双方を勘案することにより、総合的な評価を以下の基準で行った。評価結果を表1に示す。
非常に良い:◎、良い:〇、やや悪い:△、悪い:×
【0039】
【0040】
表1から明らかなように、構成する脂肪酸が炭素数20~24の脂肪酸であり、かつ、エステル比率20%未満のショ糖脂肪酸エステルを配合した実施例1~5は良好な離形性能、かす残りが明確に示され、特に実施例1~3では、型へのかす残りがなく、焼き上がりのバターケーキの外観が非常に良好であり、優れた特性が確認された。
【0041】
[調製例2、3:エアゾール製剤の調製]
内容量500mLのブリキ製エアゾール缶に実施例2の離型油250gと液化石油ガスを内圧が5kg/cm2となるように封入し、バルブとノズル内径が0.3mmのアクチュエーターを装着して調製例2のエアゾール製剤を調製した。また同じく内圧を8kg/cm2となるように封入し、バルブとノズル内径が0.4mmのアクチュエーターを装着して調製例3のエアゾール製剤を調製した。
【0042】
[実施例6、7、比較例6~10:エアゾール製剤噴射量、エアゾール製剤使用性、離型性、かす残り評価試験]
調製例2、3のエアゾール製剤を実施例6、7として使用し、比較例6~10として市販品のエアゾール製剤、すなわち順に、市販品A(Newランナー、協和醗酵フーズ社製、商品名)、市販品B(はがれ名人スーパー、月島食品工業社製、商品名)、市販品C(Cleancook、ミヨシ油脂社製、商品名)、市販品D(Carlex Spray、パシフィック洋行社製、商品名)、市販品E(ZERO、昭和化工社製、商品名)を使用した。ステンレス板にそれぞれの製剤をステンレス板から20cm離して、5秒間噴射し、ステンレス板に付着した各製剤の重量を計測して各製剤の噴射速度を測定した。
また、この噴射速度を基にして、ブリキのマドレーヌ型(面積約45cm2)に対して0.4gの塗布量となるように、それぞれの製剤をステンレス板から20cm離して噴射し、その際の使用性に関して以下の基準で評価した。評価結果を表2に示す。
0.4gとなるように噴射しやすい:○、0.4gとなるような噴射がやや難しい△、0.4gとなるような噴射が難しい:×
【0043】
さらに実施例1~5と同様にバターケーキの焼成を行い、その際の離型性、かす残りに関して、実施例1~5と同様の基準で評価を行い、さらに使用性を含めた総合評価を以下の基準で判断した。評価結果を表2に示す。
非常に良い:◎、良い:〇、やや悪い:△、悪い:×
【0044】
【0045】
表2から明らかなように、実施例6、7は離型性、かす残りにおいて優れた性能を示し、さらに実施例2の離型油を噴霧速度が0.512g/秒となるように封入した実施例6のエアゾール製剤は、使用性、離形性、かす残りともに優れた性能を示すことが確認された。