(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】培養システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250617BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20250617BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20250617BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20250617BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
C12N5/077
C12N5/0775
(21)【出願番号】P 2023536798
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2022028554
(87)【国際公開番号】W WO2023003046
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2021119592
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、沖縄県、先端医療産業開発拠点実用化事業(内閣府沖縄振興一括交付金)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】中山 功一
(72)【発明者】
【氏名】中村 アンナマリア
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-144430(JP,A)
【文献】特開2003-289851(JP,A)
【文献】特開2014-076026(JP,A)
【文献】国際公開第2008/123614(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/189794(WO,A1)
【文献】伊藤 学 ほか,スキャフォールドフリー小口径細胞製人工血管,腎と透析,2019年,Vol. 86(3),pp. 291-295
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M、C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞塊を培養する培養システムであって、
複数の基板に針状体を剣山状に配列させた細胞塊積層用の複数の支持体に細胞塊が積層された培養ユニットを収容するための培養槽と、
培養液容器と、
前記培養液容器から前記培養ユニットに培養液を供給する複数の培養液供給管とを備え、
前記支持体の最も外側の針状体は、その針状体から前記基板の外縁までの距離が、隣り合う針状体の間隔よりも短くなるように配列されており、
前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記針状体の間に配置される、
前記培養システム。
【請求項2】
前記支持体は、その最も外側の針状体から前記外縁までの距離が、隣り合う針状体の間隔の2分の1である、請求項1に記載の培養システム。
【請求項3】
前記基板は、矩形状の平面を備える、請求項1に記載の培養システム。
【請求項4】
前記矩形状の平面は、1辺が10mmの長さを備える、請求項3に記載の培養システム。
【請求項5】
前記培養ユニットは、前記支持体が互いに隣り合うように配置されたものである、請求項
1に記載の培養システム。
【請求項6】
前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記基板の上面に沿って配置される、請求項
1に記載の培養システム。
【請求項7】
前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記細胞塊の下方に配置される、請求項
1に記載の培養システム。
【請求項8】
前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記培養液を流出する開口を備える、請求項
1に記載の培養システム。
【請求項9】
前記開口は、前記培養液を前記細胞塊に向けて流出するように形成される、請求項
8に記載の培養システム。
【請求項10】
前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記基板の少なくとも1つの辺と平行に前記基板上を延びる、請求項
1に記載の培養システム。
【請求項11】
前記複数の培養液供給管のそれぞれは、互いに並行に配置される、請求項
1に記載の培養システム。
【請求項12】
前記培養槽は、前記培養ユニットを収容する枠体又は凹部を備える、請求項
1に記載の培養システム。
【請求項13】
複数の基板に針状体を剣山状に配列させた細胞塊積層用の複数の支持体
であって前記支持体の最も外側の針状体は、その針状体から前記基板の外縁までの距離が、隣り合う針状体の間隔よりも短くなるように配列された支持体に細胞塊が積層された培養ユニットを、請求項
1~12のいずれか1項に記載の培養システムに配置して培養することを特徴とする、任意の1方向の長さが少なくとも10mmである大型の細胞立体構造体の製造方法。
【請求項14】
前記細胞塊の積層は、製造の目的となる組織の形状データを複数のパーツに分割して設計し、当該分割設計されたデータに基づきそれぞれの支持体に積層する、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記培養ユニットは、積層された細胞塊が製造目的となる細胞立体構造体の元の形状となるように配置させたものである、請求項
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に針状体を剣山状に配列させた細胞凝集塊積層用支持体を用いる培養システム、及び大型の細胞立体構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞塊を任意の空間に配置するための支持体を使用して細胞塊を任意の3次元空間に配置し、細胞塊同士を融合させることにより、細胞のみからなる細胞構築物を作製するための方法が知られており(特許第4517125号)、その方法のための自動化装置も開発されている(非特許文献1:D.Murata,K.Arai,and K.Nakayama,“Scaffold-Free Bio-3D Printing Using Spheroids as‘Bio-Inks’for Tissue(Re-)Construction and Drug Response Tests,”Adv.Healthc.Mater.,vol.9,no.15,p.1901831,Aug.2020.;非特許文献2:K.Nakayama,Kenzan Method for Scaffold-Free Biofabrication.Cham:Springer International Publishing,2021.)
【0003】
上記装置は、バイオ3Dプリンタとして、様々な形状の細胞構造体を構築することが可能であり、上記装置では、針状体が1cm四方内に配列された支持体が使用されている(
図1)。このため、積層(プリント)が可能なサイズ(平面の面積)は最大で1cm
2となる。
従って、さらに大型の細胞構造体をプリントするためには、針状体を配列させる面積を大きくし、本数も増やす必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】D.Murata,K.Arai,and K.Nakayama,“Scaffold-Free Bio-3D Printing Using Spheroids as‘Bio-Inks’for Tissue(Re-)Construction and Drug Response Tests,”Adv.Healthc.Mater.,vol.9,no.15,p.1901831,Aug.2020.
【文献】K.Nakayama,Kenzan Method for Scaffold-Free Biofabrication.Cham:Springer International Publishing,2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大型の細胞構造体をプリントするには支持体を大型化するなどの操作が必要であるが、それにはバイオプリンタ自体の改修が必要であり、手間やコストを要する。
このため、簡易に細胞構造体を大型化させるための手段が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、剣山状支持体をモジュール化(部品化)し、目的とする細胞構造体の3Dデータを分割して分割データごとにモジュール化された支持体に細胞凝集塊を積層し、これらの支持体を培養することにより、大型の細胞構造体を構築することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)基板に針状体を剣山状に配列させた細胞塊積層用支持体であって、当該基板上の最も外側の針状体は、その針状体から前記基板の外縁までの距離が、隣り合う針状体の間隔よりも短くなるように配列されている、前記支持体。
(2)前記最も外側の針状体から前記外縁までの距離が、隣り合う針状体の間隔の2分の1である、(1)に記載の支持体。
(3)前記基板は、矩形状の平面を備える、(1)又は(2)に記載の支持体。
(4)前記矩形状の平面は、1辺が10mmの長さを備える、(3)に記載の支持体。
(5)細胞塊を培養する培養システムであって、
(1)~(4)のいずれか1項に記載の複数の支持体に細胞塊が積層された培養ユニットを収容するための培養槽と、
培養液容器と、
前記培養液容器から前記培養ユニットに培養液を供給する複数の培養液供給管とを備え、
前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記針状体の間に配置される、前記培養システム。
(6)前記培養ユニットは、前記支持体が互いに隣り合うように配置されたものである、(5)に記載の培養システム。
(7)前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記基板の上面に沿って配置される、(5)又は(6)に記載の培養システム。
(8)前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記細胞塊の下方に配置される、(5)~(7)のいずれか1項に記載の培養システム。
(9)前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記培養液を流出する開口を備える、(5)~(8)のいずれか1項に記載の培養システム。
(10)前記開口は、前記培養液を前記細胞塊に向けて流出するように形成される、(9)に記載の培養システム。
(11)前記複数の培養液供給管のそれぞれは、前記基板の少なくとも1つの辺と平行に前記基板上を延びる、(5)~(10)のいずれか1項に記載の培養システム。
(12)前記複数の培養液供給管のそれぞれは、互いに並行に配置される、(5)~(11)のいずれか1項に記載の培養システム。
(13)前記培養槽は、前記培養ユニットを収容する枠体又は凹部を備える、請求項5~12のいずれか1項に記載の培養システム。
(14)(1)~(4)のいずれか1項に記載の複数の支持体に細胞塊が積層された培養ユニットを、(5)~(13)のいずれか1項に記載の培養システムに配置して培養することを特徴とする、任意の1方向の長さが少なくとも10mmである大型の細胞立体構造体の製造方法。
(15)前記細胞塊の積層は、製造の目的となる組織の形状データを複数のパーツに分割して設計し、当該分割設計されたデータに基づきそれぞれの支持体に積層する、(14)に記載の方法。
(16)前記培養ユニットは、積層された細胞塊が製造目的となる細胞立体構造体の元の形状となるように配置させたものである、(14)又は(15)に記載の方法。
(17)(14)~(16)のいずれか1項に記載の方法により製造され、任意の1方向の長さが少なくとも10mmである大型の細胞立体構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、任意の方向の長さが10mm以上の大きさを有する立体構造体の製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来使用されているバイオ3Dプリンタ用支持体を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る培養システムの上面図である。。
【
図5】細胞塊積層用支持体に細胞塊を配置した状態を示す側面図である。
【
図6】培養ユニットを用いて組織を培養した状態を示す上面図である。
【
図7】培養ユニットから立体構造体を取り出すことを示す図である。
【
図8】培養ユニットから立体構造体を取り出すことを示す図である。
【
図10】耳の形状データを6つのパーツに分割して設計したことを示す図である。
【
図11】
図10の設計に基づいて、耳の形状の立体構造体を形成するように細胞塊を積層した結果を示す写真である。
【
図12】軟骨の形状データを2つのパーツに分割して設計したことを示す図である。
【
図13】
図12の設計に基づいて、軟骨の立体構造体を形成するように細胞塊を積層した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、基板に針状体を剣山状に配列させた細胞凝集塊(細胞塊、又はスフェロイドともいう)の積層用支持体であって、当該基板上の最も外側の針状体は、その針状体から前記基板の外縁までの距離が、隣り合う針状体の間隔よりも短くなるように配列されている、前記支持体に関する。
従来は、針状体が1cm四方内に配列された支持体が使用されているが、支持体を配置させる基板に余白があったため(
図1)、余白部分に針状体を隣接して配置させることができなかった。
本発明は、上記余白部分を削除して余分な縁を失くし(エッジレス化)、互いに隣り合わせて配置できるようにモジュール化された支持体を提供する。
また本発明は、上記支持体を用いて細胞塊を培養する培養システムに関する。
【0011】
1.細胞塊積層用支持体
本発明の細胞凝集体(細胞塊)積層用支持体の側面断面図を
図2に示す。
図2に示すように、細胞塊積層用支持体22(単に「支持体」又は「支持体22」ともいう)は、複数の貫通孔24aを有する板状の基板24と、複数の貫通孔24aを介して基板24に取付けられる複数の針状体26とから構成される。針状体26は、鋭い先端部と、貫通孔24aの直径より若干大きな直径を有する下端部とを有する。
図2に示すように、基板24の下方から針状体26の先端部を貫通孔24aに差し込み上方に移動すると、針状体26の下端部が貫通孔24aに嵌る。これにより、基板24に対して針状体26が固定される。基板24の平面は、好ましくは矩形とすることでき、より好ましくは正方形又は長方形とすることができる。なお、矩形(正方形又は長方形)の一辺の長さは、好ましくは0.5cm~3.0cm、より好ましくは0.8cm~1.2cm、さらに好ましくは約1cm(10mm)とすることができる。
【0012】
また、支持体22において、基板24に取り付けられた針状体26のうち、最も外側の針状体26から基板24の外縁までの距離dは、隣り合う針状体の間隔Dよりも短くなるように設計されている(D>d)。好ましくは、距離dは、隣り合う針状体の間隔Dの2分の1である。このようにして、基板の余白部分を削除することにより(エッジレス化)、例えば2つの支持体を隣り合わせに配置したときに、一の支持体の最も外側の針状体と、隣接面における他の支持体の最も外側の針状体との距離が間隔Dとほぼ同じとなる(
図6b)。距離dが針状体の間隔Dの2分の1のときは、一の支持体の最も外側の針状体から隣接面における他の支持体の最も外側の針状体との距離が2d=Dとなる。これにより、支持体間における隣り同士の細胞凝集塊が接着しやすくなる。
【0013】
針状体26の素材として、ステンレス製、ポリプロピレン製、ナイロン製等のものを使用できるが、これらに限定されるものではない。
また、基板24及びシート28(シート28の詳細は後述する(
図7、8))は、フッ素等により細胞非接着コーティングされたもの(例えばポリジメチルシロキサン製)であることが好ましい。但し、フッ素加工されたもののほか、ポリヒドロキシエチルメタクリレートポリマー加工されたものを使用することもでき、さらには、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン製のもの等を用いることもできる。
【0014】
2.培養システム
本実施形態に係る培養システム100を
図3に示す。培養システム100は、複数の支持体22を収容する培養槽20と、培養液を貯留する少なくとも1つの培養液容器30と、培養液容器30から培養槽20に培養液を供給する培養液供給管32とから構成される。
【0015】
培養槽20の底面には、複数の支持体22を互いに隣り合うように配置するために、複数の支持体22を収容する枠体又は凹部28が設けられている。枠体又は凹部28は、支持体22のそれぞれに対応して設けてもよい。また凹部28は支持体22の平面に合わせて矩形とするが、支持体22の底面に突起(図示せず)を設けてその突起が嵌まり込むような凹部とすることができる。
隣り合う支持体22の基板24の側面は、好ましくは互いに当接するように配置することもできる。
【0016】
図3には、5つの支持体22が、隣り合うように配置されている。破線で示す領域22’には、支持体22が配置されていないが、支持体22を追加配置して、合計6つとすることもできる。配置させる支持体22の数は、目的とする立体構造体の大きさに応じて適宜選択する。
【0017】
図4に示すように、培養液供給管32は、一定間隔で配置された開口32aを有する。培養液容器30から圧送された培養液が開口32aから流出する。開口32aの形状は、好ましくは円形又は楕円形とすることができる。但し、開口32aは1個でも複数でもよく、限定されるものではない、また、培養液供給管32として注射針を用いて、針の先端部が開口32aを形成するようにしてもよい。
【0018】
図3に示すように、複数の培養液供給管32のそれぞれは、基板24の矩形状の平面の少なくとも1つの辺と平行に基板24上を延びている。複数の培養液供給管32のそれぞれは、互いに並行に配置されている。
【0019】
図5は、複数の細胞塊Cが支持体22のそれぞれの針状体26を貫通して配置された状態を示している。この状態で、最も下に配置された細胞塊Cと、基板24の上面との間に培養液供給管32が配置されており、培養液供給管32の開口32aから上方に向けて培養液、その他栄養液が供給される。栄養液は、血清、成長因子(血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、骨形成タンパク質(BMP)等)が挙げられ、培養液中に含有させることもできる。本明細書において、「培養液」は、上記栄養液を含む培養液を包含する。複数の培養液供給管32のそれぞれは、基板24の上面に沿って(好ましくは並行に)配置される。複数の培養液供給管32のそれぞれは、細胞塊Cの下方に配置される。
【0020】
本発明において使用される細胞の種類は特に限定されるものではなく、細胞塊を形成する任意の細胞を使用することができる。細胞塊を形成する細胞としては、幹細胞(ES細胞、iPS細胞、臍帯血由来細胞、未分化間葉系幹細胞、成体間葉系幹細胞等)などの未分化細胞又はその分化型細胞が挙げられる。これらの細胞が由来する組織は、例えば、関節軟骨、骨、脂肪組織、靱帯、腱、歯、耳介、鼻、肝臓、すい臓、血管、神経、心臓などが挙げられ、中でも軟骨などが好ましい。また、細胞塊は、必ずしも単一の種類の細胞の凝集体として形成される必要はなく、細胞塊が形成される限り、複数種類の細胞種から形成されてもよい。
【0021】
また、細胞塊を形成するまでの培養期間は、一般的培養条件(例えば37℃、5%CO2雰囲気下)で概ね3日~21日である。
【0022】
3.立体構造体の製造
図6は、製造の目的となる立体構造体(組織T)の形状データを複数のパーツに分割して設計し、当該分割設計されたデータに基づきそれぞれの支持体に細胞塊を積層したことを示す図であり、組織Tの形状をヒトの耳の形状に設計したものである。
図6において、耳の形状を6つのパーツに分解することにより、それぞれのパーツごとに細胞塊を積層することができる。細胞塊が積層された支持体を「培養ユニット」とすると、
図6aは、6つの培養ユニットを、もとの耳の形状となるように隣接して並べた状態を示している。
図6の状態で培養することにより、各培養ユニット間において互いに隣接する細胞塊は一体化し、全体として一つの組織の形状を形成する。
図6bは、
図6aの側面断面図である。左側の支持体に積層された細胞塊と、右側の支持体に積層された細胞塊とが融合して、全体として1つの組織Tが形成されている。
【0023】
図6の状態で、複数の培養液供給管32は、細胞塊からなる組織Tの下方に位置する破線部分32’から、培養液を組織T(複数の細胞塊)に供給することができる。組織Tの大きさが大きくなればなるほど、組織Tの内部に培養液、その他栄養分が届きにくくなる。これを回避するために、本実施形態の培養システムは、組織Tの形状に合わせて培養ユニット22の配置を変更しつつ、培養ユニット22が互いに隣接する領域にも、培養液供給管32から十分な培養液を供給することができる。
【0024】
培養が終了した後は、形成された組織Tは、培養ユニットから抜き出して単離する。
図7において、基板24の上に予めシート28を敷いておくことにより(
図7a)、培養終了後、シートを持ち上げて組織Tを針状体26から引き抜く(
図7b、c)。
【0025】
あるいは、
図8aに示すように、基板24の底部にシート28を敷き(シート28上の基板24を配置し)、針状体26を貫通させて支持体22を形成しておけば、培養終了後、基板24からシート28を引き抜くことにより、針状体26も一緒に引き抜かれて組織Tが培養ユニットから分離される(
図8b、c)。
このようにして分離された組織Tは、任意の1方向の長さが少なくとも10mmである大型の細胞構造体となっている。
【0026】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
【0027】
図9は、
図3に示す培養システムの実施形態を示す写真である。システムの中央に2つの支持体を配列させ、両側から培養液供給管を通した。
[実施例2]
【0028】
1辺が10mmの正方形の基板に直径0.1mmの針を 0.4mm間隔で26本x26本=合計676本配置した。これを1個の支持体単位(モジュール)とした。最も外側の針から基板の縁部までの距離は0.2mmであった。
耳の3Dのデータをダウンロードした後、耳の形状データを6分割してそれぞれのパーツに細胞塊を積層するためのデータ処理を行った。
図10左は、基板が1cm四方の矩形の支持体を6個配列し(全体で2cm×3cmの培養ユニット)、その6個の支持体上に耳のデータを表示させたものである。
図10右は、6個の耳のパーツのデータを表示した図である。
【0029】
線維芽細胞を凝集させて細胞塊を形成し、上記データに基づいて、それぞれの支持体に細胞塊を積層した。積層前の支持体を6個配列させた図を
図11aに示す。積層済みの支持体を、それぞれのパーツがもとの配置となるように配列させた図を
図11bに示す。
図11bに示すように、細胞塊のみから形成される立体構造体が、耳の形状を維持したまま、横2cm、縦3cmの領域に形成された。
[実施例3]
【0030】
ブタの軟骨を3Dスキャンして、実施例2と同様にして3次元データを作成した(
図12上)。これを2つのパーツに分割し、細胞塊を積層させるデータを作成した(
図12下)。
このデータに基づいて、それぞれの支持体に細胞塊を積層した。
【0031】
細胞塊は、ヒトiPS細胞から神経堤を介して誘導した間葉系幹細胞MSC(iNCMSC)細胞を、軟骨細胞誘導培地の中、PrimeSurface(登録商標)96ウェルプレートで培養をすることにより作製した。細胞塊を積層した培養ユニットを本発明のシステムに配置させ、軟骨細胞誘導培地を用いて、37℃で培養した。
軟骨細胞誘導培地組成は以下の通りである。
基礎培地(Chondrogenic Differentiation Basal Medium(PT-392,LONZA))
血清(Chondrogenic SingleQuots(PT-4121,LONZA))
成長因子(Platelet-Derived Growth Factor-BB(PDGF-BB),Transforming Growth Factor-β3(TGF-β3),Bone Morphogenetic Protein 4(BMP-4)
【0032】
図13左は、積層初日(Day0)の細胞塊を示し、
図13中央は、培養8日目(Day8)の細胞塊を示す。Day8には、細胞塊同士が融合して、縦の長さが約2cmの軟骨組織が形成されていることがわかる。
図13右は、培養14日目(Day14)の図であり、全体として軟骨組織を形成していた。
[符号の説明]
100 培養システム
20 培養槽
22 支持体
24 基板
24a 貫通孔
26 針状体
28 枠体又は凹部
30 培養液容器
32 培養液供給管
32a 開口
C 細胞塊
T 組織