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  • 特許-成形品、及び成形品の製造方法 図1
  • 特許-成形品、及び成形品の製造方法 図2
  • 特許-成形品、及び成形品の製造方法 図3A
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  • 特許-成形品、及び成形品の製造方法 図3C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】成形品、及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/92 20060101AFI20250617BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250617BHJP
   C08L 97/02 20060101ALI20250617BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20250617BHJP
【FI】
B29B7/92
C08L101/00
C08L97/02 ZBP
C08L101/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024023767
(22)【出願日】2024-02-20
【審査請求日】2025-02-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】393024935
【氏名又は名称】菱華産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】都地 盛幸
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-099115(JP,A)
【文献】特開平08-169015(JP,A)
【文献】特開2008-143014(JP,A)
【文献】特開2000-141322(JP,A)
【文献】特開平08-155925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00-11/14
13/00-15/06
B29C 31/00-31/10
37/00-37/04
71/00-71/02
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木粉と、樹脂と、を含む成形品であって、
平均肉厚が5.0mm以上であり、
前記木粉の含有量が、前記成形品の総量に対して、10質量%以上であり、
前記成形品の表面及び内部における欠陥部が合計で2個以下であり、
前記欠陥部の前記表面及び任意の断面におけるそれぞれの面積が、0.15mm 2 0.50mm2以下である、
成形品。
【請求項2】
相溶化剤をさらに含む、
請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記木粉の含有量が、前記成形品の総量に対して、50質量%超である、
請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項4】
前記樹脂が、生分解性樹脂を含む、
請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の成形品の製造方法であって、
木粉と樹脂とを混合して木粉樹脂複合材を得る混合工程と、
前記木粉樹脂複合材を成形する成形工程と、を含む、
前記成形品の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程が、前記木粉樹脂複合材を冷却する冷却工程を有し、前記冷却工程における冷却時間が120秒以下である、
請求項5に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品、及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木粉と樹脂の複合化技術は、約30年以上の歴史があり、環境意識の高まりによって、木粉と樹脂の複合化技術を応用して所望の外観や物性を備えた、木粉樹脂複合材の成形品の開発が近年一層注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、強度、耐湿性に優れた木質樹脂成形品を製造する方法を提供することを目的として、(1)熱可塑性樹脂と木粉とを含む溶融状態の木粉含有樹脂組成物を押出成形して加温状態の成形体を作製する工程と、(2)前記成形体を、改質剤を含む溶液に浸漬して冷却する工程と、を含むことを特徴とする木質樹脂成形品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-113364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、そのような木質樹脂成形品に関し、厚みのある成形品の開発は十分にされているとは言い難い。本発明者らが鋭意研究したところ、木粉と樹脂とを用いた従来の成形品は、厚くなると成形品内部に気泡が残りやすく、それによって、とりわけその外観を損ないやすくなることがわかった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、十分な厚さを有しつつ外観に優れる木粉樹脂複合材の成形品及びその成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、以下の構成により、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
木粉と、樹脂と、を含む成形品であって、
平均肉厚が5.0mm以上であり、
前記木粉の含有量が、前記成形品の総量に対して、10質量%以上であり、
前記成形品の表面及び内部における欠陥部が合計で2個以下であり、
前記欠陥部の前記表面及び任意の断面におけるそれぞれの面積が、0.50mm2以下である、
成形品。
[2]
相溶化剤をさらに含む、
[1]に記載の成形品。
[3]
前記木粉の含有量が、前記成形品の総量に対して、50質量%超である、
[1]又は[2]に記載の成形品。
[4]
前記樹脂が、生分解性樹脂を含む、
[1]~[3]のいずれかに記載の成形品。
[5]
木粉と樹脂とを混合して木粉樹脂複合材を得る混合工程と、
前記木粉樹脂複合材を成形する成形工程と、を含む、
成形品の製造方法。
[6]
前記成形工程が、前記木粉樹脂複合材を冷却する冷却工程を有し、前記冷却工程における冷却時間が120秒以下である、
[5]に記載の成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な厚さを有しつつ外観に優れる木粉樹脂複合材の成形品及びその成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】欠陥部を有する成形品の一態様を示す模式図である。
図2】欠陥部を有する成形品の断面図の一態様を示す模式図である。
図3A】本実施形態の成形品の製造方法の成形工程の一態様を示す模式図である。
図3B】本実施形態の成形品の製造方法の成形工程の一態様を示す模式図である。
図3C】本実施形態の成形品の一態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
1.成形品
本実施形態の成形品は、木粉と、樹脂と、を含む成形品であって、平均肉厚が5.0mm以上であり、前記木粉の含有量が、前記成形品の総量に対して、10質量%以上であり、前記成形品の表面及び内部における欠陥部が合計で2個以下であり、前記欠陥部の前記表面及び任意の断面におけるそれぞれの面積が、0.50mm2以下である。
【0013】
一般的に、樹脂を成形加工する際、樹脂が流動化する温度まで昇温する必要がある。そのため、木粉と樹脂を複合化した木粉樹脂複合材を成形加工する場合でも、所定の温度まで昇温する必要があるが、これにより、気泡が発生し、成形品の内部に気泡が残りやすくなる。気泡は、水分の蒸発、樹脂の熱分解ガス及び木粉からの木ガスに由来し、特に木ガスは樹脂の熱分解ガスよりも多く発生する傾向にある。そして、成形品の肉厚が厚くなるほど、特に成形品の表面付近に存在する樹脂の内側に気泡がたまりやすくなる。これは、成形加工の際に成形品の表面付近が速やかに固化するためにその内側に気泡が生じやすくなるが、成形品の肉厚が厚いと金型内部で圧力をかけられた樹脂がその気泡を金型外部に押し出すのが困難になるためである。その結果、成形品の表面及び/又は内部に欠陥部が生じやすい。とりわけ、成形後に削り加工や漆塗り等を行った場合、成形品の外観を損ないやすくなる。
【0014】
一方、本実施形態の成形品は、上記構成を有することにより、十分な厚さを有しつつ外観に優れる。
【0015】
1.1.木粉
本実施形態の木粉は、木材を粉砕して粉状化したものであって、蒸煮処理が行われた木粉を意味する。本実施形態の木粉の粒径範囲の上限値は、特に限定されないが、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは900μm以下であり、さらに好ましくは700μm以下であり、よりさらに好ましくは500μm以下である。粒径範囲の下限値は、特に限定されないが、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。木粉の粒径範囲の上限値が1000μm以下であることにより、樹脂との相溶性が向上し、木粉樹脂複合材の成形品の強度及び靭性が向上する傾向にある。また、木粉の粒径範囲の下限値が10μm以上であることにより、木粉樹脂複合材の成形性が向上する傾向にある。上記の粒径範囲は、特に限定されないが、例えば、ふるい分け法によって調整することができる。具体的には、例えば、粒径範囲が1000μm以下の木粉は、目開きが1000μmのフィルターを用いたふるい分けによって得ることができる。また、粒径範囲が40μm以上60μm以下の木粉は、目開きが60μmのフィルターを通過させた木粉を、目開きが40μmのフィルターにより捕捉することにより得ることができる。
【0016】
また、粒径範囲が10μm以上1000μm以下の木粉の含有量は、木粉全体に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、極めて好ましくは98質量%以上である。上限値は、特に限定されないが、例えば、100質量%であってもよい。
【0017】
木材の粉砕方法については、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、刃物方式による粉砕や衝撃式粉砕方式による粉砕が挙げられる。
【0018】
木材とは、植物由来のリグノセルロース系材料全般、すなわち、リグニンと、ヘミセルロースと、セルロースと、を含有するリグノセルロース系材料を意味する。木材としては、特に限定されないが、例えば、ケヤキ、カカオ、メープル、ホワイトアッシュ、スギ、キリ、クロマツ、ヒノキ、及びブナが挙げられる。この中でも、比重が大きく、樹脂との複合化に優れる観点からは、メープル及びホワイトアッシュのいずれか1種以上であることが好ましく、成形品の外観に優れる観点からは、カカオを含むことが好ましい。また、カカオは油分が多い木材であるため、木材としてカカオのみを用いて製造された成形品は、熱湯等に接触すると油分が稀出しやすい。それを抑制する観点から、木材がカカオとそれ以外の木材、例えばケヤキ、とを含むことが好ましい。木材は、1種単独でも用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
蒸煮とは、木粉に対して水蒸気を接触させる処理を意味する。蒸煮の詳細については後述のとおりである。
【0020】
木粉の含有量は、成形品の総量に対して、10質量%以上であり、10質量%以上80質量%以下であってもよく、20質量%以上75質量%以下であってもよく、30質量%以上70質量%以下であってもよく、40質量%以上65質量%以下であってもよく、50質量%以上60質量%以下であってもよい。
【0021】
木粉の含有量は、環境対応性の観点から、成形品の総量に対して、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上であり、よりさらに好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは55質量%以上である。
【0022】
また、木粉の含有量の上限は、成形の容易性、及び成形品の強度及び靭性の観点から、好ましくは80質量%であり、75質量%、70質量%、65質量%、又は60質量%であってもよい。
【0023】
1.2.樹脂
本実施形態の樹脂としては特に限定されないが、好ましくは熱可塑性樹脂であり、従来公知のものを用いることができる。樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、ポリ乳酸、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及び熱可塑性エストラマーが挙げられる。
【0024】
その中でも、本実施形態の樹脂は、環境対応性に優れる観点から、少なくとも生分解性樹脂及びバイオマス樹脂のいずれかを含むことが好ましく、生分解性樹脂を含むことがより好ましい。ここで、バイオマス樹脂とは、植物由来の原料を用いて製造される樹脂を意味する。バイオマス樹脂としては、特に限定されないが、植物由来の原料を用いた樹脂として、例えば、バイオポリエチレン、バイオポリプロピレン、バイオポリエステル、バイオポリウレタン、及びバイオフェノール樹脂が挙げられる。また、生分解性樹脂とは、自然界に存在する微生物等により分解される性質を有する樹脂を意味する。生分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸、及びポリブチレンサクシネートが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0025】
樹脂の溶融温度は、好ましくは140℃以上180℃以下であり、より好ましくは150℃以上170℃以下である。樹脂の溶融温度が180℃以下であることで、木粉と複合化した後に、木粉に熱分解(ヤケ)を発生させることなく、成形することができ、木粉樹脂複合体の成形品の強度及び靭性に優れる傾向にある。
【0026】
本実施形態の樹脂は、以下の測定条件Aにおいて測定した引張強さが、好ましくは25MPa以上であり、より好ましくは30MPa以上であり、さらに好ましくは35MPa以上である。樹脂の上記引張強さが25MPa以上であることにより、成形品の強度に一層優れる傾向にある。上記引張強さの上限は特に限定されないが、例えば、引張強さは100MPa以下であってもよく、80MPa以下であってもよい。
【0027】
<測定条件A>
サンプル:ダンベル片(全長:170mm、タブ部間距離:105mm、平行部の長さ:85mm、端部の幅:20mm、中央の平行部の幅:10mm、厚さ:4.0mm
試験室温:23±2℃
試験湿度:50±5%RH
状態調節:試験室で88時間以上
試験機:オートグラフAG-100kNXPlus(株式会社島津製作所製)
ロードセル容量:5kN
伸び計:TRViewX500D(株式会社島津製作所製)
標線間距離:75mm
つかみ具間距離:115mm
試験速度:50mm/min
【0028】
本実施形態の樹脂は、以下の測定条件Bにおいて測定した曲げ強さが、好ましくは30MPa以上であり、より好ましくは35MPa以上であり、さらに好ましくは40MPa以上である。樹脂の曲げ強さが30MPa以上であることにより、成形品の強度に一層優れる傾向にある。上記曲げ強さの上限は特に限定されないが、例えば、曲げ強さは100MPa以下であってもよく、80MPa以下であってもよい。
【0029】
<測定条件B>
サンプル:ダンベル片(全長:170mm、タブ部間距離:105mm、平行部の長さ:85mm、端部の幅:20mm、中央の平行部の幅:10mm、厚さ:4.0mm
試験室温:23±2℃
試験湿度:50±5%RH
状態調節:試験室で88時間以上
試験機:オートグラフAG-10TD(株式会社島津製作所製)
ロードセル容量:5kN
支点間距離:64mm
支持台半径:5mm
圧子半径:5mm
試験速度:2mm/min
【0030】
樹脂の含有量は、成形品の総量に対して、好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以上60質量%以下である。樹脂の含有量が20質量%以上であることにより成形品の強度及び靭性に一層優れる傾向にあり、樹脂の含有量が80質量%以下であることにより、環境対応性に一層優れる傾向にある。
【0031】
1.3.相溶化剤
本実施形態の成形品は、さらに相溶化剤を含むことが好ましい。相溶化剤は、木粉と樹脂との相溶性を向上させるものであれば特に限定されないが、例えば、アクリル系ポリマー、及び無水マレイン酸系ポリマーが挙げられる。また、相溶化剤は、反応型であってもよく、非反応型であってもよく、ランダムポリマー型であってもよく、ブロックポリマー型であってもよい。なお、環境対応性を一層向上させる観点からは、相溶化剤は植物由来の原料を用いて製造されることが好ましい。
【0032】
相溶化剤の重量平均分子量は、好ましくは1.0×107以上であり、より好ましくは1.0×108以上である。相溶化剤の重量平均分子量が1.0×107以上であることにより相溶効果を一層奏することができる傾向にある。重量平均分子量の測定方法としては、特に限定されないが、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0033】
相溶化剤の含有量は、成形品の総量に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上5.0質量%以下である。相溶化剤の含有量が上記範囲であることにより成形品の強度及び靭性に一層優れる傾向にある。
【0034】
1.4.その他の成分
本実施形態の成形品は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、耐候性改良剤、可塑剤、難燃剤、充填剤、帯電防止剤、及び滑剤が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
1.5.欠陥部
欠陥部とは、気泡により生じる木粉樹脂複合材が存在しない空間を意味する。ただし、本実施形態では、表面及び任意の断面におけるそれぞれの面積が0.15mm2以下の場合は、欠陥部ではないものとする。
【0036】
欠陥部の表面における面積とは、欠陥部が成形品表面に存在し、成形品の外部に向けて開いている(大気などと接触している)場合における、欠陥部の開口部分の面積を意味する。欠陥部の表面における面積の例として、特に限定されないが、例えば、図1を参照することができ、図1のd1、d2、d3のそれぞれの表面積は、欠陥部の表面における面積に該当する。
【0037】
欠陥部の任意の断面における面積とは、欠陥部が成形品内部に存在し、成形品の外部に向けて開いていない(大気などと接触していない)場合における、欠陥部の任意の断面積を意味する。欠陥部の任意の断面積として、特に限定されないが、例えば、図2を参照することができ、図2は欠陥部を有する成形品の断面図を示しており、d4、d5のそれぞれの断面積は、欠陥部の任意の断面における面積に該当する。
【0038】
本実施形態の成形品は、成形品の表面及び内部における欠陥部が合計で2個以下であり、好ましくは1個以下であり、より好ましくは0個である。成形品の表面及び内部における欠陥部が合計で2個以下であることにより、成形品の外観に優れる。成形品の表面及び内部における欠陥部の個数を調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、成形品をその平均肉厚が5.0mm以上の範囲で薄くすることにより調整すること、成形品中の木粉の含有量を調整すること、又は成形工程においてガス抜き機構を設けること、により調整する方法が挙げられる。
【0039】
本実施形態の成形品は、欠陥部の表面及び任意の断面におけるそれぞれの面積が、0.50mm2以下であり、好ましくは0.4mm2以下であり、より好ましくは0.3mm2以下である。欠陥部の表面及び任意の断面におけるそれぞれの面積が、0.50mm2以下であることにより、成形品の外観に優れる。なお、「欠陥部の表面及び任意の断面における面積」は欠陥部一個当たりの面積を指す。成形品の欠陥部の表面及び任意の断面における面積を調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、成形品を5.0mm以上の平均肉厚の範囲で薄くすることにより調整すること、成形品中の木粉の含有量を調整すること、又は成形工程においてガス抜き機構を設けること、により調整する方法が挙げられる。
【0040】
本実施形態の成形品の製造方法によって得られる成形品の種類としては、特に限定されないが、例えば、椀、皿、コップ、弁当箱、箸立て、ボトル、タンブラー、パンケースお椀、及び重箱のような容器、ざる、並びに折敷が挙げられる。
【0041】
1.6.平均肉厚
本実施形態の成形品の平均肉厚は、5.0mm以上であり、それ以上であれば用途によって好適な範囲を用いることができる。平均肉厚は、5.5mm以上であってもよく、6.0mm以上であってもよく、7.0mm以上であってもよく、8.0mm以上であってもよい。また、平均肉厚は、15mm以下であってもよく、13mm以下であってもよく、11mm以下であってもよく、10mm以下であってもよい。ここで成形品の平均肉厚は、最薄部の肉厚と最厚部の肉厚との相加平均を意味する。ただし、断面における縁端部がテーパー形状になっている場合においては、該テーパー形状部分は除く。
【0042】
3.成形品の製造方法
本実施形態の成形品の製造方法は、木粉と樹脂とを混合して木粉樹脂複合材を得る混合工程と、前記木粉樹脂複合材を成形する成形工程と、を含み、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の工程を含んでいてもよい。本実施形態の成形品の製造方法は、その他の工程として、木粉を蒸煮処理する蒸煮工程と、蒸煮後に木粉を洗浄する洗浄工程と、を含むことが好ましい。
【0043】
3.1.蒸煮工程
蒸煮工程は、蒸煮前の状態の木粉(以下、処理前木粉とも称する。)を蒸煮処理して木粉を得る工程である。蒸煮方法としては従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、水蒸気を通過させることができる容器中に処理前木粉を収容し、そこにボイラーなどの供給源から水蒸気を供給することが挙げられる。
【0044】
水蒸気としては、特に限定されないが、例えば、飽和蒸気及び過熱蒸気が挙げられるが、この中でも過熱蒸気を用いることが好ましい。
【0045】
蒸気温度は、好ましくは160℃以上240℃以下であり、より好ましくは170℃以上220℃以下であり、さらに好ましくは190℃以上210℃以下である。蒸気温度が160℃以上であることにより、処理前木粉中に含まれるヘミセルロース、リグニンなどを一定程度分解することができ、成形性に一層優れる傾向にある。また、蒸気温度が240℃以下であることにより、熱分解(ヤケ)が過度に発生することを防ぐことができ、それにより耐臭気性に一層優れる傾向にある。
【0046】
また、蒸煮処理を行う時間は、特に限定されないが、例えば、30秒以上1時間以下であってもよく、1分以上30分以下であってもよく、5分以上20分以下であってもよい。また、処理前木粉と水蒸気の接触性を高め反応を促進するために水蒸気の圧力を常圧よりも高めてもよい。
【0047】
3.2.洗浄工程
洗浄工程は、蒸煮工程後に、木粉を水により洗浄する工程である。洗浄方法としては、特に限定されないが、例えば、容器中に水を満たし、その容器中に木粉を投入し攪拌することが挙げられる。洗浄に用いる水としては、特に限定されないが、例えば、純水、脱イオン水、及び蒸留水が挙げられる。また、洗浄工程に用いる水は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分を含んでいてもよい。
【0048】
洗浄工程において、洗浄に用いる水の温度は、好ましくは0℃以上60℃以下であり、より好ましくは5℃以上40℃以下であり、さらに好ましくは10℃以上20℃以下である。上記温度が0℃以上であることにより、臭気成分の除去を促進することができ、耐臭気性に優れる傾向にある。また、蒸気温度が60℃以下であることにより、木粉中の成分が必要以上に流出することを防止することができ、それにより成形品の強度及び靭性、並びに成形性に優れる傾向にある。
【0049】
洗浄時間は、特に限定されないが、10分以上6時間以内であってもよく、20分以上4時間以内であってもよく、30分以上2時間以内であってもよい。
【0050】
3.3.混合工程
混合工程は、木粉と樹脂とを混合して木粉樹脂複合材を得る工程である。その方法としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、樹脂を溶融させた後に木粉と混合させ、従来公知の造粒押出機を用いて、ダイスの穴から押し出した糸状の混合物を水槽で冷却し、ペレタイザーでカットすることが挙げられる。
【0051】
3.4.成形工程
本実施形態の成形品の成形工程は、上記木粉樹脂複合材を成形する工程である。成形工程としては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、押出成形、射出成形、及びブロー成形が挙げられる。本実施形態の木粉樹脂複合材は、木粉を含みつつも成形性に優れるため、射出成形が特に好適である。射出成形としては、特に限定されないが、例えば、木粉樹脂複合材を溶融させた後に、従来公知の射出成形機を用いて、溶融した木粉樹脂複合材をスクリューを経由して金型に流し込み、冷却することが挙げられる。
【0052】
成形工程における成形温度は、好ましくは160℃以上180℃以下であり、より好ましくは165℃以上175℃以下である。成形温度が160℃以上であることにより、成形性に一層優れる傾向にある。また、成形温度が180℃以下であることにより、熱分解を抑えることができ、耐臭気性、並びに成形品の強度及び靭性に一層優れる傾向にある。なお、本実施形態における成形温度とは、成形の際に木粉樹脂複合材を加熱して流動状態にする際の温度を意味する。
【0053】
また、金型温度は、好ましくは60℃以上85℃以下であり、より好ましくは65℃以上80℃以下である。金型温度が60℃以上であることにより、成形性に一層優れる傾向にあり、また、金型温度が85℃以下であることにより、生産効率に一層優れる傾向にある。なお、金型温度とは、流動状態の木粉樹脂複合材が流し込まれる金型の温度を意味する。
【0054】
成形工程では、成形品内部の気泡を除去する観点から、ガス抜き機構を用いることが好ましい。ガス抜き機構として、特に限定されないが、好ましくは、少なくとも1以上のガス抜きピンを設けることが挙げられ、より好ましくは、少なくとも1以上のガス抜きピンと、少なくとも1以上の突き出し部と、を設けることが挙げられる。また、突き出し部を設けて成形を行い、成形後に該突き出し部を除去する機構を設けることも好ましい。それにより、成形品内部の気泡を一層除去することができ、成形品の外観に優れる傾向にある。ここで、ガス抜きピンとは、金型からガス抜き溝を通じてガスを金型外へ排出するための部材を意味する。また、突き出し部とは、金型により形どられた木粉樹脂複合材の表面に設ける突起のうち、成形後に除去される部分を意味する。
【0055】
さらに、パーティングラインが駄肉と成形品を構成する部分との接続部に形成されるよう、金型が構成されると好ましい。これにより、成形時に生成した気泡がパーティングラインから抜ける、あるいは駄肉内に溜まるため、成形品に気泡が残存することを抑制できる。ここで、パーティングラインとは、複数の金型の組み合わせ部分で樹脂が固まる際に生じる凸状の線を意味する。また、駄肉とは、成形後に成形品から除去される部分のうち、上記突き出し部を除く部分を意味する。
【0056】
本実施形態の成形品の製造方法は、上記木粉樹脂複合材を冷却する冷却工程を有し、該冷却工程における冷却時間は、成形品の形状や肉厚によって調整すればよく特に限定されない。例えば、冷却時間は、10秒以上であってもよく、20秒以上であってもよく、30秒以上であってもよい。冷却時間は、例えば、120秒以下であってもよく、100秒以下であってもよく、80秒以下であってもよい。従来、成形品内部に気泡が多く存在するため、冷却時間が短く、成形品が十分に固化しない状態で金型から成形品を取り出した際に、内部の気泡が膨張することを抑制できない結果、成形品の表面が膨らむ現象が生じる傾向にある。一方、本実施形態では、成形品内部の気泡を十分に少なくすることができ、上記のような気泡に起因する成形品の膨らみを抑制可能になるので、冷却時間を従来よりも短くすることができる。その結果、成形品の外観を一層優れたものにすることが可能となる。また、冷却時間を上述のように短くできるので、成形品の生産効率に優れる傾向にある。なお、冷却時間とは、金型に充填された木粉樹脂複合材に対する加熱を止めた時点から、金型を外して成形品を取り出すまでの時間を意味する。
【実施例
【0057】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0058】
1.成形品の作製
(実施例)
まず、木材(ケヤキ:カカオの質量比が26:25)を衝撃式粉砕方式により粉砕した後、フィルターを通して粒径が均一になるように揃えた。
得られた木粉に対して、蒸煮温度200℃で15分間の蒸煮処理を行った後に、蒸煮した木粉を容器中に浸した水温15℃の水中に60分間浸漬させることにより、洗浄した。
【0059】
図3Aは、成形工程において用いた、木粉樹脂複合体を成形するための金型を示す模式図である。金型Aは、雌型A1、雄型A2、及びゲート部A7から構成されるものである。木粉樹脂複合体はゲート部A7を介して金型Aによって形成される空隙部A0に流し込まれた。その際、最終的に成形品を象る空隙部A0を介してゲート部A7の下方に位置するガス抜きピンA5から、初期的に多くのガスが金型Aの外部に抜き出された。木粉樹脂複合体が固化した後に金型Aを取り外すことで図3Bに示す成形品の前駆体が得られた。この前駆体は、最終的に成形品となるお椀状の本体部A9と共に、突き出し部A4及び駄肉A6を有していた。また、本体部A9と駄肉A6との接続部には、パーティングラインA8が形成されていた。成形の際に発生したガス(気泡)は、パーティングラインA8から抜き出され、また、突き出し部A4及び駄肉A6の内部に溜まっていた。その後、突き出し部A4及び駄肉A6を除去することで、図3Cに示すお椀状の成形品A10が得られた。
【0060】
具体的な操作及び条件としては、まず、洗浄後の木粉と後述の樹脂と相溶化剤とを、各質量比が、木粉:樹脂:相溶化剤=51:45:4、となるように混合して木粉樹脂複合体を得た。その後、図3Aに示すガス抜きピンA5を組み込んだ金型Aを金型温度70℃に調整した後、成形温度170℃で溶融させた木粉樹脂複合体をゲート部A7から空隙部A0に流し込んだ上、120秒間冷却して木粉樹脂複合体を固化した。冷却後、金型Aを取り外し、さらに突き出し部A4及び駄肉A6を除去することにより、成形品を得た。得られた成形品の厚さは平均肉厚で8.5mm、最薄部で7mm、最厚部で10mmであり、成形品の表面及び内部における欠陥部は合計で0個であった。このようにして成形品を製造することにより、突き出し部A4や駄肉A6に集まりやすい気泡を効率的に除去することができ、また、パーティングラインA8からも気泡を除去することができる。
【0061】
ここで、実施例及び比較例に用いた樹脂及び相溶化剤は、以下のとおりである。
・バイオPBS:bio-PBS、三菱ケミカル社製
・相溶化剤:メタクリル酸アルキレート、重量平均分子量1.0×107、三菱ケミカル社製
【0062】
(比較例)
冷却時間を100秒にしたこと、並びにガス抜きピンA5及び駄肉A6を設けなかったこと以外は実施例と同様の操作により比較例の成形品を得た。得られた成形品の厚さは実施例と同様であり、成形品の表面及び内部における欠陥部が合計で2個を超え、前記欠陥部の前記表面及び任意の断面におけるそれぞれの面積が、0.50mm2を遙かに超えるものであった。
【0063】
2.評価
得られた成形品をお椀状になるように削り加工を行い、漆塗りをした後、熟練した当業者の目視により外観に関する官能評価を行った。その評価基準は以下の通りである。
[評価基準]
〇:市販の木材加工製品と比較して外観上の問題がない。
×:市販の木材加工製品と比較して外観上の問題がある。
【0064】
評価結果として、実施例は〇であり、比較例は×であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、筐体等に幅広く用いることができることから、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0066】
d1、d2、d3、d4、d5…欠陥部、A…金型、A0…空隙部、A1…雌型、A2…雄型、A4…突き出し部、A5…ガス抜きピン、A6…駄肉、A7…ゲート部、A8…パーティングライン、A9…本体部、A10…成形品。
【要約】
【課題】十分な厚さを有しつつ外観に優れる、木粉樹脂複合材の成形品及びその成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】木粉と、樹脂と、を含む成形品であって、平均肉厚が5.0mm以上であり、前記木粉の含有量が、前記成形品の総量に対して、10質量%以上であり、前記成形品の表面及び内部における欠陥部が合計で2個以下であり、前記欠陥部の前記表面及び任意の断面におけるそれぞれの面積が、0.50mm2以下である、成形品。
【選択図】図3C
図1
図2
図3A
図3B
図3C