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特許7697784新規治療学的酵素融合タンパク質及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】新規治療学的酵素融合タンパク質及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20250617BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20250617BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20250617BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20250617BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20250617BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250617BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
A61K38/43
A61K47/68
A61P3/00
C07K16/00
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/00
C12N15/13
C12N15/52 Z
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020500616
(86)(22)【出願日】2018-07-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 KR2018007754
(87)【国際公開番号】W WO2019009684
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-07-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】10-2017-0086594
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ホ ヨン ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ イン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ソン ヨプ
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】柴原 直司
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/009052(WO,A1)
【文献】特表2004-525621号公報(JP,A)
【文献】特表2004-525630号公報(JP,A)
【文献】特表2016-521690号公報(JP,A)
【文献】特表2016-526909号公報(JP,A)
【文献】Eur.J.Immunol.,(1999),29,[9],p.2819-2825
【文献】Protein Sci.,(2013),22,[12],p.1739-1753
【文献】Synthetic construct Homo sapiens galactosidase, alpha mRNA, partial cds, [online]. 2016-JUL-25 uploaded. NCBI GenBank, ACCESSION No. BT007835 [Retrieved on 2024-DEC-18]. Retrieved from the internet:<URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/BT007835.1/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-90
C07K
C12Q
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPLUS/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療学的酵素のC末端に免疫グロブリンFc領域が融合され、免疫グロブリンFc領域が融合されていない治療学的酵素に比べて、生体内持続性が向上した、酵素融合タンパク質であって、
前記免疫グロブリンFc領域は、鎖交換が起こらないものであり
前記免疫グロブリンFc領域は、IgG4 Fc領域に由来し、
配列番号8のアミノ酸配列を有する免疫グロブリンFc領域の2番目のアミノ酸がプロリンに置換されたものであり、
治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域がペプチドリンカーで融合されたものであり、
免疫グロブリンFc領域が融合されていない治療学的酵素に比べて、安定性が向上し組織分布性が高い、酵素融合タンパク質。
【請求項2】
前記治療学的酵素は、β-グルコシダーゼ(beta-glucosidase)、α-ガラクトシダーゼ(alpha-galactosidase)、β-ガラクトシダーゼ(beta-galactosidase)、イズロニダーゼ(iduronidase)、イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)、ガラクトース-6-スルファターゼ(Galactose-6-sulfatase)、酸性α-グルコシダーゼ(acid alpha-glucosidase)、酸性セラミダーゼ(acid ceramidase)、酸性スフィンゴミエリナーゼ(acid sphingomyelinase)、ガラクトセレブロシダーゼ(galactocerebrosidase)、アリールスルファターゼ(arylsulfatase)A、アリールスルファターゼ(arylsulfatase)B、β-ヘキソサミニダーゼ(beta-hexosaminidase)A、β-ヘキソサミニダーゼ(beta-hexosaminidase)B、ヘパリン-N-スルファターゼ(heparin N-sulfatase)、α-D-マンノシダーゼ(alpha-D-mannosidase)、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ(N-acetylgalactosamine-6 sulfatase)、リソソーム酸性リパーゼ(lysosomal acid lipase)、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(alpha-N-acetyl-glucosaminidase)、ブチリルコリンエステラーゼ(butyrylcholinesterase)、キチナーゼ(Chitinase)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamate decarboxylase)、イミグルセラーゼ(imiglucerase)、リパーゼ(lipase)、ウリカーゼ(Uricase)、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(Platelet-Activating Factor Acetylhydrolase)、中性エンドペプチダーゼ(neutral endopeptidase)及びミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)からなる群から選択される、請求項1に記載の酵素融合タンパク質。
【請求項3】
前記酵素融合タンパク質は、1分子の免疫グロブリンFc領域と二量体の治療学的酵素が融合されたものである、請求項1に記載の酵素融合タンパク質。
【請求項4】
前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号8のアミノ酸配列を有する免疫グロブリンFc領域の番目のアミノ酸がプロリンに置換されると共に71番目のアミノ酸がグルタミンに置換されたものである、請求項に記載の酵素融合タンパク質。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の酵素融合タンパク質を含む、リソソーム蓄積症(lysosomal storage disorder, LSD)の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記リソソーム蓄積症は、ムコ多糖症(mucopolysaccharidosis, MPS)、グリコーゲン蓄積症(Glycogen storage disease)、スフィンゴ脂質症(sphingolipidosis)、ニーマン・ピック病(Niemann-Pick disease)、ファブリー病(Fabry’s disease)、ハンター症候群(Hunter syndrome)及びマロトー・ラミー症候群(Maroteaux-Lamy syndrome)からなる群から選択される、請求項に記載のリソソーム蓄積症の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記酵素は、イズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate-2-sulfatase, IDS)又はアリールスルファターゼB(Arylsulfatase B, ARSB)である、請求項に記載のリソソーム蓄積症の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の酵素融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項10】
請求項に記載の発現ベクターが導入された形質転換体。
【請求項11】
(a)請求項10に記載の形質転換体を培養して培養物を得るステップと、
(b)培養物から酵素融合タンパク質を回収するステップとを含む、酵素融合タンパク質を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体治療学的酵素類の生体内半減期の延長を目的として酵素類に免疫グロブリンFc領域が融合された治療学的酵素融合タンパク質、その製造方法、及びそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リソソームは、タンパク質、ポリヌクレオチド、多糖類、脂質などの巨大分子を分解する機能を有する細胞質小器官である。リソソームの内部は酸性雰囲気であり、生物学的巨大分子の加水分解を促進する加水分解酵素(hydrolase enzymes)を含有する。また、リソソームは、エンドサイトーシス(endocytosis)による分子の吸収において何らかの役割を果たすことが知られている。
【0003】
リソソーム蓄積症(Lysosomal Storage Disorders, LSDs)は、遺伝的代謝疾患の一種であり、リソソームの機能が喪失することにより現れる。リソソーム蓄積症は、脂質、タンパク質、多糖類などの物質を分解する酵素の欠乏により、通常100,000人に1人の割合で現れ、劣性疾患として遺伝する。リソソーム蓄積症は、このように分解作用を行う特定酵素が欠乏するか、その量が非常に少ない場合に現れ、このように分解酵素が欠乏すると、過剰量の物質が分解されずに蓄積され、結局は細胞の機能にも問題を引き起こす。他の様々な遺伝疾患と同様に、リソソーム蓄積症は親から遺伝する。また、各疾患は、各種酵素を翻訳する各種遺伝子の変異により発生する。このような疾患の原因となる酵素は総じて類似した生化学的特性を有し、全てのリソソーム蓄積症はリソソーム内における異常な物質蓄積により発生する。現在知られている代表的なリソソーム蓄積症としては、ニーマン・ピック病(Niemann-Pick disease)、ファブリー病(Fabry’s disease)、ゴーシェ病(Gaucher disease)、ハンター症候群(Hunter syndrome)、マロトー・ラミー症候群(Maroteaux-Lamy syndrome)などの約50余種の疾患が挙げられ、これらのリソソーム蓄積症を治療する方法の代表的なものとしては、酵素補充療法(ERT: enzyme-replacement therapy)が挙げられ、それに関する多くの研究が行われている(非特許文献1)。
【0004】
代表的なリソソーム蓄積症であるハンター症候群は、イズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate-2-sulfatase, IDS)の欠乏によりグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan, GAG)が分解されずにリソソーム内に蓄積されて現れる疾患であり、特異的な顔貌、大きな頭、肝臓や脾臓の肥大による腹部膨満などが認められ、聴力喪失、心臓弁膜疾患、閉塞性呼吸器疾患、睡眠時無呼吸なども伴う。ハンター症候群は、162,000人に1人の割合で発生することが知られており、X染色体連鎖劣性(X-linked recessive)様式で遺伝する。現在、ハンター症候群治療のための酵素補充療法の薬物としては、Elaprase(recombinant IDS, Shire)が用いられている。
【0005】
このような治療学的酵素類などのタンパク質は、一般に安定性が低いので変性しやすく、血液中のプロテアーゼにより分解され、血中濃度及び活性を維持するために患者に頻繁に投与する必要がある。しかし、主に注射剤の形態で患者に投与されるタンパク質医薬品において、活性ポリペプチドの血中濃度を維持するために頻繁に注射することは患者に多大な苦痛をもたらす。このような問題を解決するために、治療学的酵素類の血中安定性を向上させ、血中薬物濃度を高い濃度に長期間持続して薬効を最大化するための多くの努力がなされてきた。このような治療学的酵素類の持続性製剤は、治療学的酵素類の安定性を向上させると共に、薬物自体の活性が十分に高く維持されなければならず、患者に免疫反応を誘発しないものでなければならない。
【0006】
特に、リソソーム蓄積症は、特定酵素の遺伝的欠陥により生じ、死亡に至る致命的な疾患であり、欠陥のある酵素の補充治療が必須である。酵素補充治療はリソソーム蓄積症において標準となる治療であり、不足した酵素を補充することにより既存の症状を緩和したり、疾患の進行を遅らせる効果を発揮する。しかし、継続して1~2週間ごとに2~6時間かけて薬物を静脈に投与しなければならず、患者及びその家族の日常生活が制限される。
【0007】
リソソーム蓄積症の治療に用いられる組換え酵素のヒトにおける半減期は、短い場合は10分、長くとも3時間未満であり、その持続時間が非常に短いので、生涯酵素を投与しなければならない患者に不便をかけており、その半減期の延長が強く求められている。
【0008】
タンパク質を安定化して腎臓から除去されることを防止するために、最近は免疫グロブリンFc領域を用いる融合タンパク質の研究が盛んに行われている。免疫グロブリンは、血液の主要構成成分であり、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5つの種類があるが、融合タンパク質の研究に主に用いられる種類はIgGであり、これはIgG1~4の4種類のsubtypeに分類される。免疫グロブリンFc領域を用いる融合タンパク質は、タンパク質のサイズを大きくして腎臓から除去されることを防止し、FcRn受容体と結合して細胞内へのエンドサイトーシス及びrecyclingにより血中半減期を延長させる役割を果たす。
【0009】
しかし、免疫グロブリンFc領域には、非意図的な免疫反応を引き起こすという欠点がある。抗体依存性細胞傷害(ADCC, antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)や補体依存性細胞傷害(CDC, complement-dependent cytotoxicity)などのエフェクター機能(effector function)を有する。このような機能は、免疫グロブリンFc領域のFc受容体との結合、補体結合、又はFc領域のグリコシル化(glycosylation)により生じる。また、Fc自体の生体内不安定性が発生しやすい。
【0010】
よって、目的とする融合タンパク質が生体内で安定せず、持続性が向上せず、融合タンパク質の活性が維持されないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第97/034631号
【文献】国際公開第96/032478号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Frances M. Platt et al., J Cell Biol. 2012 Nov 26;199(5):723-34
【文献】van der Neut Kolfschoten, et at., Science, 317: 1554-1557.2007
【文献】H.Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979
【文献】Urlaub et al., Somat. Cell. Mol. Genet., 12, 555-566, 1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、治療学的酵素に免疫グロブリンFc領域が融合され、Fc領域が融合されていない治療学的酵素に比べて、生体内持続性が向上した酵素融合タンパク質を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、前記治療学的酵素融合タンパク質を含む薬学的組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記治療学的酵素融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及び前記発現ベクターが導入された形質転換体を提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記形質転換体を培養するステップを含む、酵素融合タンパク質を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域が融合された酵素融合タンパク質である。
【0016】
一具体例において、本発明は、治療学的酵素に免疫グロブリンFc領域が融合され、Fc領域が融合されていない治療学的酵素に比べて、生体内持続性が向上した酵素融合タンパク質に関する。
【0017】
以下、本発明のさらなる具体例について説明する。
【0018】
具体的には、前記具体例による酵素融合タンパク質であって、前記酵素は、β-グルコシダーゼ(beta-glucosidase)、α-ガラクトシダーゼ(alpha-galactosidase)、β-ガラクトシダーゼ(beta-galactosidase)、イズロニダーゼ(iduronidase)、イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)、ガラクトース-6-スルファターゼ(Galactose-6-sulfatase)、酸性α-グルコシダーゼ(acid alpha-glucosidase)、酸性セラミダーゼ(acid ceramidase)、酸性スフィンゴミエリナーゼ(acid sphingomyelinsase)、ガラクトセレブロシダーゼ(galactocerebrosidsase)、アリールスルファターゼ(arylsulfatase)A、アリールスルファターゼ(arylsulfatase)B、β-ヘキソサミニダーゼ(beta-hexosaminidase)A、β-ヘキソサミニダーゼ(beta-hexosaminidase)B、ヘパリン-N-スルファターゼ(heparin N-sulfatase)、α-D-マンノシダーゼ(alpha-D-mannosidase)、β-グルクロニダーゼ(beta-glucuronidase)、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ(N-acetylgalactosamine-6 sulfatase)、リソソーム酸性リパーゼ(lysosomal acid lipase)、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(alpha-N-acetyl-glucosaminidase)、グルコセレブロシダーゼ(glucocerebrosidase)、ブチリルコリンエステラーゼ(butyrylcholinesterase)、キチナーゼ(Chitinase)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamate decarboxylase)、イミグルセラーゼ(imiglucerase)、リパーゼ(lipase)、ウリカーゼ(Uricase)、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(Platelet-Activating Factor Acetylhydrolase)、中性エンドペプチダーゼ(neutral endopeptidase)及びミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)からなる群から選択されることを特徴とする。
【0019】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記酵素融合タンパク質は、治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域がペプチドリンカーで融合されたことを特徴とする。
【0020】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記酵素融合タンパク質は、1つの免疫グロブリンFc領域分子と二量体の治療学的酵素が融合されたことを特徴とする。
【0021】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンFc領域は、天然免疫グロブリンFc領域において少なくとも1つのアミノ酸に置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)、修飾(modification)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される改変が行われたことを特徴とする。
【0022】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号8の免疫グロブリンFc領域の2番目のアミノ酸がプロリンに置換されるか、71番目のアミノ酸がグルタミンに置換されるか、又は2番目のアミノ酸がプロリンに置換されると共に71番目のアミノ酸がグルタミンに置換されたことを特徴とする。
【0023】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンFc領域は、鎖交換反応が起こらないことを特徴とする。
【0024】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記酵素融合タンパク質は、Fc領域が融合されていない治療学的酵素に比べて、安定性が向上し、リソソーム受容体に対する結合力が低下し、組織分布性が向上したことを特徴とする。
【0025】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンFc領域は、(a)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、(b)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、(c)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、(d)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、(e)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域又はヒンジ領域の一部との組み合わせ、並びに(f)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体からなる群から選択されることを特徴とする。
【0026】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンFc領域は、(a)ジスルフィド結合を形成する部位が除去されること、(b)天然FcからN末端の一部のアミノ酸が欠失されること、(c)天然FcのN末端にメチオニン残基が付加されること、(d)補体結合部位が除去されること、(e)ADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されることから選択される少なくとも1つの特徴を有することを特徴とする。
【0027】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンFc領域が非グリコシル化されたことを特徴とする。
【0028】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgE又はIgMに由来することを特徴とする。
【0029】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgE、IgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドであることを特徴とする。
【0030】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であることを特徴とする。
【0031】
前記具体例のいずれかによる酵素融合タンパク質であって、前記免疫グロブリンIgG4 Fc領域のヒンジ領域が、IgG1ヒンジ領域に置換されたことを特徴とする。
【0032】
本発明の他の態様は、リソソーム蓄積症(lysosomal storage disorder, LSD)の予防又は治療用薬学的組成物である。
【0033】
一具体例において、本発明は、前記酵素融合タンパク質を含む、リソソーム蓄積症(lysosomal storage disorder, LSD)の予防又は治療用薬学的組成物に関する。
【0034】
前記具体例による組成物であって、前記リソソーム蓄積症は、ムコ多糖症(mucopolysaccharidosis, MPS)、グリコーゲン蓄積症(Glycogen storage disease)、スフィンゴ脂質症(sphingolipidosis)、ニーマン・ピック病(Niemann-Pick disease)、ファブリー病(Fabry’s disease)、ゴーシェ病(Gaucher disease)、ハンター症候群(Hunter syndrome)及びマロトー・ラミー症候群(Maroteaux-Lamy syndrome)からなる群から選択されることを特徴とする。
【0035】
前記具体例のいずれかによる組成物であって、前記酵素は、イズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate-2-sulfatase, IDS)又はアリールスルファターゼB(Arylsulfatase B, ARSB)であることを特徴とする。
【0036】
前記具体例のいずれかによる組成物であって、前記組成物は、治療学的酵素のリソソーム受容体に対する結合力を低下させることを特徴とする。
【0037】
本発明のさらに他の態様は、酵素融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。
【0038】
本発明のさらに他の態様は、ポリヌクレオチドを含む発現ベクターである。
【0039】
本発明のさらに他の態様は、発現ベクターが導入された形質転換体である。
【0040】
本発明のさらに他の態様は、酵素融合タンパク質を製造する方法である。
【0041】
一具体例において、本発明は、前記形質転換体を培養して培養物を得るステップと、前記培養物から酵素融合タンパク質を回収するステップとを含む、酵素融合タンパク質を製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0042】
本発明は、持続型治療学的酵素融合タンパク質に関し、特に免疫グロブリンFc領域が融合されることにより、治療学的酵素の安定性が向上し、腎臓による酵素除去メカニズムが低下した酵素融合タンパク質に関する。本発明の酵素融合タンパク質は、持続時間が長いので患者に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】IDS-Fc融合タンパク質の発現を確認した図である。
図2】ARSB-Fc融合タンパク質の発現を確認した図である。
図3】本発明のIDS-Fc融合タンパク質の薬物動態学的実験の結果を示す図である。
図4】本発明のARSB-Fc融合タンパク質の薬物動態学的実験の結果を示す図である。
図5】本発明のIDS-Fc融合タンパク質のin vitro酵素活性を確認した図である。
図6】本発明のARSB-Fc融合タンパク質のin vitro酵素活性を確認した図である。
図7】本発明のIDS-Fc融合タンパク質をIDSノックアウトマウスに静脈又は皮下投与して尿中のグリコサミノグリカン(GAG)含有量を測定した結果である。
図8】本発明のIDS-Fc融合タンパク質をIDSノックアウトマウスに静脈又は皮下投与して組織中のグリコサミノグリカン(GAG)含有量を測定した結果である。
図9】本発明のARSB-Fc融合タンパク質の組織分布性を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0045】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、このような等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0046】
本明細書全体を通して、天然に存在するアミノ酸に対する通常の1文字及び3文字コードが用いられるだけでなく、Aib(α-アミノイソブチル酸)、Sar(N-methylglycine)などの他のアミノ酸に対して一般的に許容される3文字コードが用いられる。また、本明細書において略語で言及したアミノ酸は、IUPAC-IUB命名法に従って記載したものである。
アラニン A
アルギニン R
アスパラギン N
アスパラギン酸 D
システイン C
グルタミン酸 E
グルタミン Q
グリシン G
ヒスチジン H
イソロイシン I
ロイシン L
リシン K
メチオニン M
フェニルアラニン F
プロリン P
セリン S
トレオニン T
トリプトファン W
チロシン Y
バリン V
【0047】
本発明の一態様は、治療学的酵素に免疫グロブリンFc領域が融合され、Fc領域が融合されていない治療学的酵素に比べて、生体内持続性が向上した酵素融合タンパク質を提供する。
【0048】
本発明において、酵素融合タンパク質は、治療学的酵素に免疫グロブリンFc領域が融合されたものであり、免疫グロブリンFc領域の融合により、免疫グロブリンFc領域に融合されていない治療学的酵素に比べて、治療学的酵素の活性が維持され、リソソーム受容体に対する結合力が低下し、血中半減期が延長されたものであってもよい。
【0049】
本発明者らは、治療学的酵素類の血中半減期を延長させるために、免疫グロブリンFc領域との融合タンパク質を製造した。ここで、Fc領域は、グリコシル化を抑制するために潜在的なグリコシル化配列を置換し、さらにIgG4 Fcのhinge配列を置換することにより、鎖交換(chain exchange)が抑制されたIgG4 Fc誘導体(analog)を用いたところ、免疫グロブリンFc領域に融合された治療学的酵素融合タンパク質が血中半減期を画期的に延長させ、公知の酵素と比較して同等の活性を維持することが確認され、新しい形態の治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域が融合された融合タンパク質構造を提供するに至った。
【0050】
本発明の酵素融合タンパク質に含まれる治療学的酵素は、特に限定されるものではなく、融合されていない形態の治療学的酵素より生体内持続時間が延長されるという利点が得られる治療学的酵素であれば、いかなるものが本発明の酵素融合タンパク質に含まれてもよい。本発明の一実施形態における前記酵素融合タンパク質は、治療学的酵素の融合タンパク質である。
【0051】
また、本発明の酵素融合タンパク質は、酵素補充療法(enzymatic replacement therapy, ERT)の薬物として用いられてもよい。前記酵素補充療法は、疾患の原因となる欠乏又は不足酵素を補充することにより、低下した酵素機能を回復させて疾患を予防又は治療することができる。
【0052】
具体的な一態様として、前記治療学的酵素は、β-グルコシダーゼ(beta-glucosidase)、α-ガラクトシダーゼ(alpha-galactosidase)、β-ガラクトシダーゼ(beta-galactosidase)、イズロニダーゼ(iduronidase)、イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)、ガラクトース-6-スルファターゼ(Galactose-6-sulfatase)、酸性α-グルコシダーゼ(acid alpha-glucosidase)、酸性セラミダーゼ(acid ceramidase)、酸性スフィンゴミエリナーゼ(acid sphingomyelinsase)、ガラクトセレブロシダーゼ(galactocerebrosidsase)、アリールスルファターゼ(arylsulfatase)A、アリールスルファターゼ(arylsulfatase)B、β-ヘキソサミニダーゼ(beta-hexosaminidase)A、β-ヘキソサミニダーゼ(beta-hexosaminidase)B、ヘパリン-N-スルファターゼ(heparin N-sulfatase)、α-D-マンノシダーゼ(alpha-D-mannosidase)、β-グルクロニダーゼ(beta-glucuronidase)、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ(N-acetylgalactosamine-6 sulfatase)、リソソーム酸性リパーゼ(lysosomal acid lipase)、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(alpha-N-acetyl-glucosaminidase)、グルコセレブロシダーゼ(glucocerebrosidase)、ブチリルコリンエステラーゼ(butyrylcholinesterase)、キチナーゼ(Chitinase)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamate decarboxylase)、イミグルセラーゼ(imiglucerase)、リパーゼ(lipase)、ウリカーゼ(Uricase)、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(Platelet-Activating Factor Acetylhydrolase)、中性エンドペプチダーゼ(neutral endopeptidase)、ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)からなる群から選択される治療学的酵素であってもよいが、疾患に対する治療効果を有する治療学的酵素であれば、酵素の由来や種類がいかなるものであっても本発明に含まれる。
【0053】
本発明における「酵素融合タンパク質」は、「酵素持続型融合タンパク質」と混用されてもよい。
【0054】
本発明における「治療学的酵素」とは、酵素の不足、欠乏、機能異常などにより発生する疾患を治療するための酵素であり、酵素補充療法(enzyme replacement therapy)、投与などにより前記疾患を有する個体を治療できる酵素を意味する。具体的には、リソソーム酵素の不足、欠乏などにより発症するリソソーム蓄積症の治療のための酵素であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0055】
具体的には、本発明の治療学的酵素は、アリールスルファターゼB(arylsulfatase B, ARSB)又はイズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)であってもよいが、目的とする疾患に対する治療効果を発揮する酵素であれば、これらに限定されるものではない。
【0056】
本発明における「アリールスルファターゼB(arylsulfatase B, ARSB)」とは、肝臓、膵臓、腎臓のリソソームに存在するアリールスルファターゼ酵素であり、グリコサミノグリカンを分解することにより、サルフェートを加水分解する役割を果たす。前記アリールスルファターゼBは、ムコ多糖症VI型(mucopolysaccharidosis VI, Maroteaux-Lamy syndrome)に関係することが知られている。アリールスルファターゼBは、ガルスルファーゼ(galsulfase)と混用されてもよい。具体的には、前記アリールスルファターゼBは、配列番号4のアミノ酸配列を含み、これは配列番号3のポリヌクレオチド配列によりコードされるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明における「イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)」とは、ハンター症候群(Hunter syndrome, MPS-II)に関するスルファターゼ酵素であり、ヘパラン硫酸(heparin sulfate)及びデルマタン硫酸(dermatan sulfate)のリソソーム分解に必要な酵素である。本発明における前記「イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)」は、「イデュルスルファーゼ(idursulfase)」と混用されてもよい。前記イデュルスルファーゼは、イデュルスルファーゼアルファ又はイデュルスルファーゼベータであってもよいが、これらに限定されるものではない。具体的には、前記イズロン酸-2-スルファターゼは、配列番号2のアミノ酸配列を含み、これは配列番号1のポリヌクレオチド配列によりコードされるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0058】
前記治療学的酵素は、当該技術分野で周知の方法で準備又は作製することができ、具体的には動物細胞発現ベクターを挿入した動物細胞を培養し、培養物から精製することもでき、市販されている酵素を購入して用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本発明の酵素融合タンパク質は、2つの鎖からなる二量体形態の1分子のFc領域に1つ又は2つの酵素が結合した形態であってもよいが、これらに限定されるものではない。具体的には、単量体のFc領域と酵素が融合されて発現し、その後2つの単量体Fc領域がジスルフィド結合により1分子の二量体Fc領域を形成し、2つの酵素は2つのFc領域にそれぞれ連結された形態であってもよいが、これに限定されるものではない。前記酵素は、共有又は非共有結合により連結されたものであってもよく、互いに独立したものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0060】
具体的には、本発明の一実施例において、イズロン酸-2-スルファターゼ又はアリールスルファターゼBの二量体と1つのFc領域が融合された持続型酵素融合タンパク質は、Fc領域が融合されていない酵素に比べて、in vitro酵素活性が高いことが確認された。これは、治療学的酵素の二量体を含む酵素融合タンパク質の構造的特徴によるものであることが確認された(実施例5)。
【0061】
また、具体的な他の態様として、本発明の酵素融合タンパク質は、免疫グロブリンFc領域がペプチドリンカーを介して治療学的酵素に融合されたものであってもよい。
【0062】
前記ペプチドリンカーは、1つ以上のアミノ酸を含んでもよく、例えば1個~1000個のアミノ酸を含んでもよいが、特にこれらに限定されるものではない。当該技術分野で公知の任意のペプチドリンカー、例えば[GS]xリンカー、[GGGS]xリンカー、[GGGGS]xリンカーなどが挙げられ、ここで、xは1以上の自然数(例えば、1、2、3、4、5又はそれ以上)であってもよい。より具体的には、配列番号6のアミノ酸配列であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0063】
本発明の目的上、治療学的酵素の活性を維持しつつ治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域を連結できるものであれば、ペプチドリンカーが治療学的酵素及び免疫グロブリンFcに融合される位置は、いかなる位置であってもよい。具体的には、治療学的酵素及び免疫グロブリンFc領域の両末端であってもよく、より具体的には、治療学的酵素のC末端、免疫グロブリンFc領域のN末端であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明における「N末端」又は「C末端」とは、それぞれタンパク質のアミノ末端又はカルボキシル末端を意味し、例えば、これらに限定されるものではないが、N末端又はC末端の最末端のアミノ酸残基だけでなく、N末端又はC末端周辺のアミノ酸残基が全て含まれてもよく、具体的には最末端から1~20番目のアミノ酸残基が含まれてもよい。
【0065】
本発明の一実施例においては、治療学的酵素とリンカー(配列番号6)-IgG4を、オーバーラップ(overlapping)PCRにより、治療学的酵素のC末端にIgG4のN末端が融合された融合タンパク質(配列番号23又は25)を作製し、形質転換体で発現することを確認した(実施例1~3)。
【0066】
本発明の酵素融合タンパク質に含まれる治療学的酵素は、天然のものであってもよく、一部で構成されたフラグメント、又は一部のアミノ酸の置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)、修飾(modification)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される改変が行われた治療学的酵素の誘導体(analog)も、天然治療学的酵素と同等の活性を有するものであれば本発明に全て含まれる。
【0067】
また、前記治療学的酵素の誘導体には、天然治療学的酵素のN及び/又はC末端に少なくとも1つのアミノ酸が付加されたものが全て含まれる。
【0068】
前記置換されるか、付加されるアミノ酸としては、ヒトタンパク質において通常観察される20種のアミノ酸だけでなく、異常又は非天然アミノ酸を用いることができる。異常アミノ酸の市販元には、Sigma-Aldrich、ChemPep、Genzyme pharmaceuticalsが含まれる。これらのアミノ酸が含まれるペプチドと定型的なペプチド配列は、民間のペプチド合成会社、例えば米国のAmerican peptide companyやBachem、又は韓国のAnygenにおいて合成及び購入することができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0069】
本発明における「フラグメント」とは、天然治療学的酵素又は天然治療学的酵素の誘導体のN末端又はC末端の少なくとも1つのアミノ酸が欠失した形態を意味する。治療学的酵素の活性を有するものであれば、フラグメントのサイズや欠失するアミノ酸の種類に関係なく本発明に含まれる。
【0070】
前記治療学的酵素誘導体には当該治療学的酵素のバイオシミラーやバイオベターの形態が含まれるが、バイオシミラーの例として、公知治療学的酵素と発現宿主の差異、グリコシル化の様相と程度の差異、特定位置の残基が当該酵素の基準配列に対して100%の置換でない場合はその置換の程度の差異も、本発明の酵素融合タンパク質に用いることができるバイオシミラー酵素に該当する。前記治療学的酵素は、当該技術分野で周知の方法で準備又は作製することができ、具体的には遺伝子組換えにより動物細胞、大腸菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、生きている動物などから生産することができ、生産方法はこれらに限定されるものではなく、市販されている治療学的酵素を購入して用いてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0071】
また、前記治療学的酵素又はその誘導体と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、前記治療学的酵素は組換え技術により微生物から得たものであってもよく、市販されているものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0072】
本発明における「相同性」とは、野生型(wild type)アミノ酸配列や野生型核酸配列と類似する程度を示すものであり、相同性の比較は肉眼で行うか、購入が容易な比較プログラムを用いて行う。市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列間の相同性を百分率(%)で計算することができる。相同性(%)は、隣接する配列について計算してもよい。
【0073】
前記治療学的酵素又はその誘導体の配列及びそれをコードする塩基配列の情報は、NCBIなどの公知のデータベースから得られる。
【0074】
本発明における「免疫グロブリンFc領域」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除いたものであり、重鎖定常領域2(CH2)及び/又は重鎖定常領域3(CH3)部分を含む部位を意味する。本発明の目的上、このようなFc領域は、変異したヒンジ領域を含んでもよいが、これに限定されるものではない。
【0075】
このような免疫グロブリンFc領域は、重鎖定常領域にヒンジ(hinge)領域を含んでもよいが、これに限定されるものではない。また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然のものと実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFc領域であってもよい。さらに、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が欠失した領域であってもよい。
【0076】
具体的なさらに他の態様として、本発明の免疫グロブリンFc領域は、1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、5)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組み合わせ、6)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体であってもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0077】
本発明における「鎖交換(chain exchange)」とは、IgG4 Fcをタンパク質融合体のキャリアとして使用すると、生体内に存在するIgG4とハイブリッドを形成したり、単量体で存在するので、元の構造を変えて治療学的に活性が低い構造にするという問題を意味し、タンパク質が融合された融合タンパク質であるタンパク質融合体を治療用目的で使用することは非常に困難であると報告されている(非特許文献2)。
【0078】
本発明において、免疫グロブリンFc領域内のヒンジ領域の配列を置換することにより、前記問題を解決しようとした。具体的には、本発明の免疫グロブリンFc領域は、グリコシル化を調節するために潜在的なグリコシル化配列が置換されたものであってもよく、鎖交換に関与する配列が置換されたものであってもよく、それら両方に該当するものであってもよい。
【0079】
具体的な一態様として、本発明の免疫グロブリンFc領域は、鎖交換及びN-グリコシル化を防止するために、配列番号8の免疫グロブリンFc領域の2番目のアミノ酸及び/又は71番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであってもよい。より具体的には、配列番号8の免疫グロブリンFc領域の1)2番目のアミノ酸(セリン)がプロリンに置換されるか、2)71番目のアミノ酸(アスパラギン)がグルタミンに置換されるか、又は3)2番目のアミノ酸がプロリンに置換されると共に71番目のアミノ酸がグルタミンに置換されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。前述した変異以外にも、治療学的酵素の安定性を向上させる、薬物のキャリアとして適した変異が含まれてもよい。
【0080】
具体的には、前記免疫グロブリンFc領域は、免疫グロブリンIgG4 Fcのヒンジ領域がIgG1ヒンジ領域に置換されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0081】
本発明の一実施例においては、配列番号8で表される免疫グロブリンFcの2番目のアミノ酸をプロリンに置換すると共に71番目のアミノ酸をグルタミンに置換することにより、鎖交換及びN-グリコシル化が低下するようにした。作製された免疫グロブリンFcの配列は、配列番号9のアミノ酸配列を有する(実施例1)。
【0082】
一例として、前記ヒンジ領域は、次のアミノ酸配列を有するヒンジ配列の一部が欠失又は変異したものであってもよい。
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号26)
【0083】
具体的には、前記ヒンジ領域の一部が欠失し、1つのシステイン(Cys)残基のみ含むように変異したものであってもよく、鎖交換(chain exchange)に関与するセリン(Ser)残基がプロリン(Pro)残基に置換されたものであってもよい。より具体的には、前記ヒンジ配列の2番目のセリン残基がプロリン残基に置換されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0084】
本発明においては、免疫グロブリンFc領域が天然ヒンジ領域又は変異したヒンジ領域を含むので、Fc領域における鎖交換及び単量体形成が起こらないだけでなく、融合された治療学的酵素の安定性を向上させることができる。
【0085】
また、具体的な他の態様として、本発明の免疫グロブリンFc領域には、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体も含まれる。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸残基に置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)、修飾(modification)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される変異が起こったものを意味する。
【0086】
例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であることが知られている214~238、297~299、318~322又は327~331番目のアミノ酸残基が修飾に適した部位として用いられる。
【0087】
また、ジスルフィド結合を形成する部位が除去された誘導体、天然FcからN末端のいくつかのアミノ酸が欠失した誘導体、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加された誘導体など、様々な種類の誘導体が用いられる。さらに、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が除去されてもよく、ADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されてもよい。このような免疫グロブリンFc領域の配列誘導体を作製する技術は、特許文献1、2などに開示されている。
【0088】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は当該分野において公知である(非特許文献3)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾(modification)されてもよい。
【0089】
また、前述したFc誘導体は、本発明のFc領域と同等の生物学的活性を示し、Fc領域の熱、pHなどに対する構造的安定性を向上させたものであってもよい。
【0090】
また、このようなFc領域は、ヒト、及びウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物の生体内から分離した天然のものから得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得られた組換えたもの又はその誘導体であってもよい。ここで、天然のものから得る方法は、全免疫グロブリンをヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素で処理することにより得る方法であってもよい。パパインで処理するとFab及びFcに切断され、ペプシンで処理するとpF’c及びF(ab)2に切断される。これらは、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF’cを分離することができる。より具体的な実施形態において、ヒト由来のFc領域は、微生物から得られた組換え免疫グロブリンFc領域である。
【0091】
また、免疫グロブリンFc領域は、天然糖鎖、天然のものに比べて増加した糖鎖、天然のものに比べて減少した糖鎖、又は糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法、微生物を用いた遺伝工学的方法などの通常の方法が用いられてもよい。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)との結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞傷害又は補体依存性細胞傷害が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFc領域は、薬物のキャリアとしての本来の目的に適する。
【0092】
本発明における「糖鎖の除去(Deglycosylation)」とは、酵素で糖を除去したFc領域を意味し、非グリコシル化(Aglycosylation)とは、原核動物、より具体的な実施形態においては大腸菌で産生されてグリコシル化されていないFc領域を意味する。
【0093】
一方、免疫グロブリンFc領域は、ヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であってもよく、より具体的な実施形態においてはヒト起源である。
【0094】
また、免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来であるか、又はそれらの組み合わせ(combination)もしくはそれらのハイブリッド(hybrid)によるFc領域であってもよい。より具体的な実施形態においては、ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来であり、さらに具体的な実施形態においては、リガンド結合タンパク質の半減期を延長させることが知られているIgG由来である。一層具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であり、より一層具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域はヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であり、最も具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域は配列番号8のアミノ酸配列を有する免疫グロブリンFc領域の2番目のアミノ酸がプロリンに置換される変異、及び/もしくは71番目のアミノ酸がグルタミンに置換される変異を含むか、又は前記免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列が配列番号9であり、それをコードするポリヌクレオチド配列は配列番号7であるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
一方、本発明における「組み合わせ(combination)」とは、二量体又は多量体を形成する際に、同一起源の単鎖免疫グロブリンFc領域をコードするポリペプチドが異なる起源の単鎖ポリペプチドに結合することを意味する。すなわち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgE Fcフラグメントからなる群から選択される少なくとも2つのフラグメントから二量体又は多量体を作製することができる。
【0096】
また、本発明のタンパク質は、N末端及び/又はC末端が改変されていないものであってもよいが、生体内のタンパク質切断治療学的酵素から保護して安定性を向上させるために、そのN末端及び/又はC末端などが化学的に修飾された形態、有機団により保護された形態、又はペプチド末端などにアミノ酸が付加されて改変された形態も本発明によるタンパク質に含まれる。C末端が改変されていない場合、本発明によるタンパク質の末端はカルボキシル基を有するが、特にこれに限定されるものではない。
【0097】
特に、化学的に合成したタンパク質の場合、N及びC末端が電荷を帯びているので、このような電荷を除去するために、N末端のアセチル化(acetylation)及び/又はC末端のアミド化(amidation)を行ってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0098】
本明細書において、特に断らない限り、本発明による「酵素」又は「融合タンパク質」についての明細書の詳細な説明や請求の範囲の記述は、当該酵素又は融合タンパク質は言うまでもなく、当該酵素又は融合タンパク質の塩(例えば、前記融合タンパク質の薬学的に許容される塩)、又はその溶媒和物の形態が全て含まれるカテゴリーにも適用される。よって、明細書に「酵素」又は「融合タンパク質」とのみ記載されていたとしても、当該記載内容はその特定の塩、その特定の溶媒和物、その特定の塩の特定の溶媒和物にも同様に適用される。これらの塩の形態は、例えば薬学的に許容される任意の塩を用いた形態であってもよい。前記塩の種類は、特に限定されるものではない。もっとも、個体、例えば哺乳類に安全かつ効果的な形態であることが好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0099】
前記「薬学的に許容される」とは、医薬学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応などを誘発することなく所望の用途に効果的に使用できる物質を意味する。
【0100】
本発明における「薬学的に許容される塩」には、薬学的に許容される無機酸、有機酸又は塩基から誘導された塩が含まれる。好適な酸の例としては、塩酸、臭素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸,ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などが挙げられる。好適な塩基から誘導された塩には、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニウムなどが含まれる。
【0101】
また、本発明における「溶媒和物」とは、本発明による酵素、融合タンパク質又はその塩が溶媒分子と複合体を形成したものを意味する。
【0102】
本発明の酵素融合タンパク質は、当該技術分野で公知の方法で製造することができる。
【0103】
本発明の一実施例においては、治療学的酵素であるイズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate-2-sulfatase, IDS)及びアリールスルファターゼB(Arylsulfatase B, ARSB)をそれぞれペプチドリンカー-免疫グロブリンFcに融合された形態で発現する組換えベクターを作製し、それをCHO細胞株において発現させて製造した(実施例1~3)。
【0104】
しかし、本発明の酵素融合タンパク質は、前記実施例に記載されている方法以外に、公知の他の方法により製造することもできる。本発明の酵素融合タンパク質は、配列番号23又は25のアミノ酸配列を含んでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0105】
本発明による酵素融合タンパク質は、リソソーム蓄積症に対する治療効果を発揮する治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域を融合させることにより、治療学的酵素の活性を維持しつつ治療学的酵素の半減期を延長させることができる。特に、変異した免疫グロブリンFc領域に融合された治療学的酵素は、鎖交換及びグリコシル化が低下し、Fc領域に融合されていない治療学的酵素に比べて、リソソーム受容体に対する結合力が低下し、持続性が向上するので、リソソーム蓄積症の治療に有用な効果を発揮する。
【0106】
本発明の一実施例において、本発明による酵素融合タンパク質は、Fc領域に融合されていない天然酵素に比べて、半減期(T1/2)、最高血中薬物濃度(Cmax)、バイオアベイラビリティ(AUC)が著しく優れており(実施例4)、in vitro酵素活性を維持することが確認され(実施例5)、それにより従来の薬物と比較して少ない投与頻度でも治療効果を発揮することが確認された(実施例6)。
【0107】
本発明の他の態様は、前記酵素融合タンパク質又は前記酵素融合タンパク質の製造方法により製造された酵素融合タンパク質を有効成分として含む、リソソーム蓄積症(lysosomal storage disorder, LSD)の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0108】
本発明による組成物は、治療学的酵素の生体内持続性及び安定性が向上することを特徴とする。
【0109】
具体的な一態様において、本発明の薬学的組成物の酵素融合タンパク質は、イズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate-2-sulfatase, IDS)又はアリールスルファターゼB(Arylsulfatase B, ARSB)が免疫グロブリンFc領域に融合されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0110】
本発明における「リソソーム(lysosome)」とは、細胞質に存在する小器官の一つであり、加水分解酵素を多く含んでおり、体内で巨大分子、細菌などの異物を分解し、前記分解した産物が細胞の他の部分でリサイクルされるように助ける小器官である。前記リソソームの機能は複数の酵素により行われるが、変異や不足などにより特定酵素が機能を喪失すると、リソソームの分解機能が喪失することとなり、結局は分解されなければならない巨大分子などが細胞内に蓄積されて細胞の損傷などが誘発され、それによる疾患が発生する。
【0111】
本発明における「リソソーム蓄積症(lysosomal storage disease, LSD)」とは、このようなリソソーム機能の喪失による希少遺伝性疾患を意味し、欠陥のある酵素を補充する酵素補充療法(enzymatic replacement therapy)が必須である。前記リソソーム蓄積症は欠乏した酵素によって、ムコ多糖症(mucopolysaccharidosis, MPS)、グリコーゲン蓄積症(glycogen storage disease)、スフィンゴ脂質症(sphingolipidosis)、ニーマン・ピック病(Niemann-Pick disease)、ファブリー病(Fabry’s disease)、ゴーシェ病(Gaucher disease)、ハンター症候群(Hunter syndrome)、マロトー・ラミー症候群(Maroteaux-Lamy syndrome)などに分類される。
【0112】
以下、リソソーム蓄積症をその分類に従って詳細に説明する。
【0113】
本発明における「マロトー・ラミー症候群(Maroteaux-Lamy syndrome)」とは、MPS(mucopolysaccharidosis)VI型疾患であり、グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)の分解に必要なアリールスルファターゼB(Arylsulfatase B, N-acetylgalactosamine-4-sulfatase)の不足により発生する常染色体劣性遺伝疾患である。骨、心臓弁膜、脾臓、肝臓、角膜などに前記酵素の不足により分解されていないデルマタン硫酸(dermatan sulfate)が沈着して現れる疾患である。
【0114】
本発明における「アリールスルファターゼB(arylsulfatase B, ARSB)」とは、肝臓、膵臓、腎臓のリソソームに存在するアリールスルファターゼ酵素であり、グリコサミノグリカンを分解することにより、サルフェートを加水分解する役割を果たす。前記アリールスルファターゼBは、ムコ多糖症VI型(mucopolysaccharidosis VI, Maroteaux-Lamy syndrome)に関係することが知られている。アリールスルファターゼBは、ガルスルファーゼ(galsulfase)と混用されてもよい。
【0115】
本発明における「ハンター症候群(Hunter syndrome, Hunter disease)」とは、性染色体劣性遺伝疾患であり、イズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate 2-sulfatase, IDS)の欠乏により発症し、前記酵素の欠乏によりヘパラン硫酸(heparan sulfate)及びデルマタン硫酸(dermatan sulfate)が蓄積されることが知られている。機能低下、進行性難聴、色素性網膜変性、うっ血乳頭(papilledema)、水頭症などの症状を示す。本発明において、「ムコ多糖症II型」と「ハンター症候群」は混用されてもよい。
【0116】
本発明における「イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)」とは、ハンター症候群(Hunter syndrome, MPS-II)に関するスルファターゼ酵素であり、ヘパラン硫酸(heparin sulfate)及びデルマタン硫酸(dermatan sulfate)のリソソーム分解に必要な酵素である。本発明における前記「イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)」は、「イデュルスルファーゼ(idursulfase)」と混用されてもよい。前記イデュルスルファーゼは、イデュルスルファーゼアルファ又はイデュルスルファーゼベータであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0117】
前記治療学的酵素は、当該技術分野で周知の方法で準備又は作製することができ、具体的には動物細胞発現ベクターを挿入した動物細胞を培養し、培養物から精製することもでき、市販されている治療学的酵素を購入して用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0118】
本発明の組成物に含まれる酵素融合タンパク質は、リソソーム蓄積症に対する治療効果を発揮する治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域を融合させることにより、治療学的酵素の活性を維持しつつ治療学的酵素の半減期を延長させることができる。特に、変異した免疫グロブリンFc領域に融合された治療学的酵素は、鎖交換及びグリコシル化が低下し、Fc領域に融合されていない治療学的酵素に比べて、リソソーム受容体に対する結合力が低下し、持続性が向上するので、リソソーム蓄積症の治療に有用な効果を発揮する。
【0119】
本発明の一実施例において、本発明の酵素融合タンパク質は、Fc領域に融合されていない酵素に比べて、少ない投与頻度にもかかわらず、IDSノックアウトマウスにおいてグリコサミノグリカン(GAG)の数値を減少させることが確認され(実施例6)、また、本発明の他の実施例において、本発明の酵素融合タンパク質は、Fc領域に融合されていない天然酵素に比べて、骨髄及び脾臓において分布性が高いだけでなく、肺、腎臓、心臓などにおいて天然酵素の分布が確認されないのに対して、酵素融合タンパク質は当該組織に分布することが確認された(実施例7)。
【0120】
これは、本発明の酵素融合タンパク質が、高い安定性に基づいて、薬物投与時の投与頻度を低くして患者の利便性を向上させるだけでなく、組織分布性が高いため皮下投与も可能であることを示唆するものである。
【0121】
本発明における「予防」とは、前記酵素融合タンパク質又はそれを含む組成物の投与により目的とする疾患であるリソソーム蓄積症を抑制又は遅延させるあらゆる行為を意味し、「治療」とは、前記酵素融合タンパク質又はそれを含む組成物の投与により目的とする疾患、例えばリソソーム蓄積症の症状を好転又は有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0122】
本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記組成物の投与経路は、特にこれらに限定されるものではないが、前記組成物を生体内標的に到達できるものであれば、一般的なあらゆる経路で投与することができ、例えば腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などが挙げられる。しかし、経口投与の場合はペプチドが消化されるので、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から保護されるように剤形化することが好ましい。具体的には、注射剤の形態で投与することが好ましい。また、薬学的組成物は、有効成分を標的細胞に送達することのできる任意の装置により投与することができる。
【0123】
本発明の組成物の総有効量は、単回投与量(single dose)で患者に投与してもよく、複数回投与量(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与してもよい。本発明の薬学的組成物は、疾患の程度に応じて有効成分の含有量を変えてもよい。具体的には、本発明の融合タンパク質の総用量は、1日体重1kg当たり約0.0001mg~500mgであることが好ましい。しかし、前記結合体の用量は、薬学的組成物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌、排泄率などの様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されるので、これらを考慮すると、当該分野における通常の知識を有する者であれば、前記本発明の組成物の特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定することができるであろう。本発明による薬学的組成物は、本発明の効果を奏するものであれば、その剤形、投与経路及び投与方法が特に限定されるものではない。
【0124】
本発明の酵素融合タンパク質の実際の投与量は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度などの様々な関連因子と共に、活性成分である治療学的酵素の種類により決定される。本発明の酵素融合タンパク質は、血中持続性と生体内活性が非常に優れるので、本発明の酵素融合タンパク質を含む薬学的組成物の投与量、投与回数及び頻度を大幅に減少させることができる。
【0125】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含んでもよい。このような担体は、非自然発生のものであってもよい。
【0126】
本発明における「薬学的に許容される」とは、治療効果を発揮する程度の十分な量と副作用を起こさないことを意味し、疾患の種類、患者の年齢、体重、健康状態、性別、薬物に対する感受性、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合、同時に用いられる薬物などの医学分野における公知の要素により当業者が容易に決定することができる。
【0127】
薬学的に許容される担体は、経口投与の場合は、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを用いることができ、注射剤の場合は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤などを混合して用いることができ、局所投与用の場合は、基剤、賦形剤、滑沢剤、保存剤などを用いることができる。
【0128】
本発明の薬学的組成物の剤形は、前述したような薬学的に許容される担体と混合して様々な形態に製造することができる。例えば、経口投与の場合は、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー剤などの形態に製造することができ、注射剤の場合は、使い捨てアンプル又は複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、徐放性製剤などに剤形化することができる。
【0129】
なお、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシア、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油などが挙げられる。また、充填剤、抗凝集剤、滑沢剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0130】
また、前記酵素融合タンパク質は、生理食塩水や有機溶媒のように薬剤に許容された様々な担体(carrier)と混合して用いることができ、安定性や吸収性を向上させるために、グルコース、スクロース、デキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(ascorbic acid)、グルタチオンなどの抗酸化剤(antioxidants)、キレート剤、低分子タンパク質、他の安定化剤(stabilizers)などを薬剤として用いることができる。
【0131】
これらに限定されるものではないが、本発明の前記薬学的組成物は、前記成分(有効成分)を0.01~99%(w/v)含有してもよい。
【0132】
本発明のさらに他の態様は、本発明による酵素融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0133】
本発明の酵素融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、これに限定されるものではないが、治療学的酵素をコードする部分とペプチドリンカー-免疫グロブリンFc領域をコードする部分が連結された形態のポリヌクレオチドであってもよく、具体的には、これに限定されるものではないが、治療学的酵素のC末端に免疫グロブリンFc領域のN末端がGGGGSリンカーを介して連結された融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドであってもよい。より具体的には、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号1又は3の配列を含むものであってもよいが、治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域の融合タンパク質をコードできるものであればいかなるものでもよい。
【0134】
本発明のさらに他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを提供する。
【0135】
本発明における「組換えベクター」とは、好適な宿主内で標的ペプチド、例えば酵素融合タンパク質を発現させることができるように、標的ペプチド、例えば酵素融合タンパク質が好適な調節配列に作動可能に連結されたDNA産物を意味する。本発明による組換えベクターは、典型的にクローニングのためのベクター又は発現のためのベクターとして構築されてもよく、原核細胞又は真核細胞を宿主細胞として構築されてもよい。
【0136】
前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。組換えベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。
【0137】
本発明に用いられる組換えベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターを用いて作製することができる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。本発明に使用可能なベクターは、特に限定されるものではなく、公知の発現ベクターを用いることができる。
【0138】
前記組換えベクターは、本発明の酵素融合タンパク質を生産するために、宿主細胞の形質転換に用いられる。また、本発明に含まれるこのような形質転換細胞は、本発明の核酸フラグメント及びベクターの増殖に用いられたか、本発明の酵素融合タンパク質の組換え生産に用いられた培養された細胞又は細胞株であってもよい。
【0139】
本発明における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを宿主細胞内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、それらが全て含まれるものである。
【0140】
また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0141】
さらに、前記「作動可能に連結」されたものとは、本発明の標的ペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0142】
本発明に適した宿主は、本発明のポリヌクレオチドを発現させるものであれば特に限定されるものではない。本発明に用いられる宿主の特定例としては、大腸菌(E. coli)などのエシェリキア(Escherichia)属細菌、枯草菌(Bacillus subtilis)などのバチルス(Bacillus)属細菌、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などのシュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などの酵母、スポドプテラ・フルギペルダ(Sf9)などの昆虫細胞、及びCHO、COS、BSCなどの動物細胞が挙げられる。
【0143】
本発明のさらに他の態様は、前記発現ベクターが導入された形質転換体を提供する。
【0144】
本発明の発現ベクターが導入された形質転換体は、本発明の目的上、酵素融合タンパク質を発現及び生産するものであれば限定されるものではなく、大腸菌(E. coli)などのエシェリキア(Escherichia)属細菌、枯草菌(Bacillus subtilis)などのバチルス(Bacillus)属細菌、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などのシュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などの酵母、スポドプテラ・フルギペルダ(Sf9)などの昆虫細胞、及びCHO、COS、BSCなどの動物細胞であってもよい。
【0145】
本発明のさらに他の態様は、本発明による酵素融合タンパク質を製造する方法を提供する。
【0146】
具体的には、前記製造方法は、(a)形質転換体を培養して培養物を得るステップと、(b)培養物から酵素融合タンパク質を回収するステップとを含むが、これに限定されるものではない。
【0147】
本発明において、形質転換体の培養に用いられる培地は、好適な方法で宿主細胞培養の要件を満たさなければならない。宿主細胞の生長のために培地中に含まれる炭素源は、作製される形質転換体の種類に応じて当業者の判断により適宜選択されてもよく、培養の時期及び量を調節するために好適な培養条件が採用されてもよい。
【0148】
用いることのできる糖源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースなどの糖及び炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセリン、エタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの物質は、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできる。
【0149】
用いることのできる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、黄粉及び尿素、又は無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが挙げられる。窒素源も、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできる。
【0150】
用いることのできるリン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、又はそれらに相当するナトリウム含有塩が挙げられる。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウム、硫酸鉄などの金属塩を含有してもよい。
【0151】
最後に、前記物質以外に、アミノ酸、ビタミンなどの必須成長物質が用いられてもよい。また、培養培地に好適な前駆体が用いられてもよい。前述した原料は、培養過程において培養物に好適な方法でバッチ毎に又は連続して添加されてもよい。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの塩基性化合物、又はリン酸、硫酸などの酸性化合物を好適な方法で用いて培養物のpHを調節することができる。また、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。好気状態を維持するために、培養物中に酸素又は酸素含有気体(例えば、空気)を注入する。
【0152】
本発明による形質転換体の培養は、通常20℃~45℃、具体的には25℃~40℃の温度で行われる。また、培養は、所望のインスリンアナログの最大の生成量が得られるまで続けるが、これらの目的上、通常10~160時間続ける。
【0153】
前述したように、宿主細胞に応じて適切な培養条件を整えると、本発明による形質転換体によりインスリンアナログが生産され、ベクターの構成及び宿主細胞の特徴に応じて、生産されるインスリンアナログは宿主細胞の細胞質内、細胞周辺腔(periplasmic space)又は細胞外に分泌される。
【0154】
宿主細胞の内外で発現したタンパク質は通常の方法で精製することができる。精製方法の例としては、塩析(例えば、硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿など)、溶媒沈殿(例えば、アセトン、エタノールなどを用いたタンパク質分画沈殿など)、透析、ゲル濾過、イオン交換、逆相カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、限外濾過などの方法を単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0155】
本発明のさらに他の態様は、前記酵素融合タンパク質又はそれを含む組成物を個体に投与するステップを含む、リソソーム蓄積症の予防又は治療方法を提供する。
【0156】
本発明の酵素融合タンパク質は、リソソーム蓄積症を予防又は治療することのできる治療学的酵素を含むので、それを含む酵素融合タンパク質又は前記酵素融合タンパク質を含有する薬学的組成物の投与により、リソソーム蓄積症の疑いのある個体を予防又は治療することができる。
【0157】
本発明における「個体」とは、リソソーム蓄積症(lysosomal storage disorder, LSD)の疑いのある個体であり、前記リソソーム蓄積症の疑いのある個体とは、当該疾患が発症したか、発症するリスクのある、ヒトをはじめとしてマウス、家畜などが含まれる哺乳動物を意味するが、本発明の酵素融合タンパク質又はそれを含む前記組成物で治療可能な個体であればいかなるものでもよい。
【0158】
本発明の方法は、酵素融合タンパク質を含む薬学的組成物を薬学的有効量で投与することを含んでもよい。好適な総1日使用量は正しい医学的判断の範囲内で担当医により決定されてもよく、1回又は数回に分けて投与することができる。しかし、本発明の目的上、特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によっては他の製剤が用いられるか否か、具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食餌、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と共に又は同時に投与される薬物をはじめとする様々な因子や、医薬分野で周知の類似の因子に応じて異なる量であることが好ましい。
【0159】
一方、これらに限定されるものではないが、前記リソソーム蓄積症の予防又は治療方法は、少なくとも1つのリソソーム蓄積症に対する治療的活性を有する化合物又は物質を投与することをさらに含む併用療法であってもよい。
【0160】
本発明における「併用」とは、同時、順次又は個別投与を意味するものと理解されるべきである。前記投与が順次又は個別の場合、2次成分投与の間隔は、前記併用の有利な効果を失わないものでなければならない。
【0161】
前記リソソーム蓄積症に対する治療的活性を有する酵素融合タンパク質の投与用量は、患者の体重1kg当たり約0.0001μg~500mgであってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0162】
本発明のさらに他の態様は、前記酵素融合タンパク質又はそれを含む組成物をリソソーム蓄積症に対する予防又は治療用薬剤(又は薬学的組成物)の製造に用いる用途を提供する。
【0163】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例はあくまで本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0164】
融合タンパク質発現ベクターの作製
酵素融合タンパク質を生産するために、天然イズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate-2-sulfatase, IDS, 配列番号1)及びアリールスルファターゼB(Arylsulfatase B, ARSB, 配列番号3)がそれぞれ挿入された発現ベクター(IDS cDNA, Cat No. EX-C0003-M02, Gencopoeia; ARSB cDNA, Cat No. EX-C0073-M02, Genecopoeia)と、合成されたリンカー(linker, 配列番号5)と、IgG4 Fc領域(配列番号7)から、オーバーラップ(overlap)PCRにより、融合タンパク質発現ベクターを作製した。オーバーラップPCR法は、各酵素とリンカー-FcをそれぞれPCR増幅する際に、プライマーに互いにオーバーラップする配列を含むので、生産されるPCR産物がオーバーラップする配列を含む。前記融合タンパク質の増幅のためのPCR条件は、1次では95℃で1分間、57℃で30秒間、68℃で3分間の過程を25回繰り返し、2次では95℃で1分間、57℃で30秒間、68℃で4分間の過程を25回繰り返して増幅した。
【0165】
具体的には、IDSは配列番号10、11のプライマーを用いてPCRを行い、Linker-Fcは配列番号12、13のプライマーを用いてPCRを行うことにより、IDS PCR産物は3’側にlinker-Fc配列を含み、Linker-FcPCR産物は5’側にIDS配列を含むようにした。
【0166】
前記1次PCRで得られた2つのPCR産物を鋳型とし、配列番号10、13のプライマーを用いて2次PCRを行い、IDS-Fc配列を有するPCR産物が得られると、KpnI、XhoI制限酵素でオーバーラップ配列を切断し、前述したように得られたPCR産物をX0GC vectorに挿入してIDS-Fc融合タンパク質発現ベクターを構築した(pX0GC-Enzyme-Fc)。
【0167】
同様の方法で配列番号14、15、16、17のプライマーを用いてARSB-Fc配列を有するPCR産物が得られると、KpnI、XhoI制限酵素で切断し、同じ制限酵素で切断されたX0GC vectorに挿入して融合タンパク質発現ベクターを構築した。
【0168】
【表1】
【0169】
構築された融合タンパク質配列のFc領域から鎖交換(chain exchange)とN-グリコシル化部位(N-glycosylation site)を除去するために、部位特異的変異(site-directed mutagenesis)PCR法を用いた。
【0170】
具体的には、配列番号18、19のプライマーを用いて、鎖交換に関与するFc領域(配列番号8)の2番目のアミノ酸であるセリン(Serine)をプロリン(Proline)に置換し、配列番号20、21のプライマーを用いて、N-グリコシル化が起こるFc領域の71番目のアミノ酸であるアスパラギン(Asparagine)をグルタミン(Glutamine)に置換した。表3のタンパク質配列において、太字はアミノ酸が置換された部分を示し、イタリック体はリンカーを示す。
【0171】
【表2】
【0172】
前記実施例で作製した酵素融合タンパク質発現ベクターをIDS-Fcベクター、ARSB-Fcベクターと命名した。あるいは、前記ベクターは、pX0GC-Enzyme-Fcと混用されてもよい。
【0173】
【表3】





【実施例2】
【0174】
融合タンパク質発現ベクターを用いたCHO細胞株の形質転換
実施例1で作製した組換え発現ベクターpX0GC-Enzyme-FcをDHFR遺伝子が破壊されて核酸生合成過程が不完全なDG44/CHO細胞株(CHO/dhfr-)(非特許文献4)に導入して形質転換体を得て、前記形質転換体から酵素融合タンパク質(Enzyme-Fc)を発現させた。
【0175】
具体的には、前記DG44/CHO細胞株を培養容器の底が約80~90%覆われる程度に培養し、次いで前記細胞をOpti-MEM(Gibco社, cat. No. 51985034)で3回洗浄した。
【0176】
一方、3mlのOpti-MEMと5μgの発現ベクターpX0GC-Enzyme-Fcの混合物と、3mlのOpti-MEMと20μlのリポフェクタミン2000(Gibco社, cat no. 11668-019)の混合物をそれぞれ常温で30分間静置した。次に、前記各混合物を混合して前記培養したDG44/CHO細胞株に加え、37℃及び5%CO2の条件で約18時間培養することにより、前記発現ベクターpX0GC-Enzyme-FcをDG44/CHO細胞株に導入した。
【0177】
次に、前記培養した細胞を10%FBSを含むDMEM-F12(Gibco社, cat no. 11330)培地で3回洗浄し、次いで前記培地を加えてさらに48時間培養した。培養した細胞にトリプシンを加えて培養した細胞をそれぞれ分離し、それらを選択培地(HT補充剤(Hypoxanthine-Thymidine)を含まず、10%FBS及び1mg/mlのG418(Cellgro社, cat no. 61-234-RG)を含むα-MEM培地(WELGENE社, cat no. LM008-02))に接種した。形質転換された細胞のみ生存してコロニーを形成するまで、前記選択培地を2日又は3日置きに交換して培養することにより、前記分離した細胞から形質転換された細胞を選択した。ここで、前記選択した形質転換された細胞において酵素融合タンパク質の発現レベルを向上させるために、10nM MTX(Sigma社, cat no. M8407)を選択培地に加え、次第にその濃度を増加し、1~2週間後には20nMまでMTXの含有量を増加した。
【実施例3】
【0178】
酵素免疫測定法(ELISA)を用いたIDS-Fc、ARSB-Fc融合タンパク質の発現確認
実施例2で形質導入された細胞の一部を175-T細胞培養フラスコに1×107細胞数の濃度で移して培養容器の底がほとんど覆われる程度に培養し、その後1mMの酪酸ナトリウム(Sigma社, cat no. B5887)が添加された無血清培地Ex-cell media(Sigma社注文製作, cat no. 14360C)を15mLずつ加え、5%CO2培養器にて33℃で48時間培養した。細胞の培養液を50mLチューブに移し、その後遠心分離により上清のみ再び回収してIDS-Fc及びARSB-Fc融合タンパク質の発現量を測定した。
【0179】
まず、IDS-Fc発現量の測定は、indirect ELISA法を用いて行った。96 well ELISAプレート(Nunk社, cat no. 44-2404-21)に、1μg/mLでPBSに希釈したヒトα-IDS抗体(R&D systems社, cat no. AF2449)を1well当たり100μlずつ加え、4℃の冷蔵庫で一晩反応させた。翌日、PBS-Tバッファーで5回洗浄し、その後培養液試料と様々な濃度に希釈したIDS標準品(Shire社, Elaprase(登録商標), lot no. TEPE09A17)を1well当たり100μlずつそれぞれ分注し、常温で1時間反応させた。1時間後に、プレートを洗浄してbiotinが付着したヒトα-IDS抗体(R&D systems社, cat no. BAF 2449)を加え、その後常温で1時間反応させた。最後に、ストレプトアビジン(streptavidin)-HRP(GE healthcare社, cat no. RPN440IV)を1:30,000に希釈して1well当たり100μlずつ加え、その後1時間反応させ、洗浄後に基質液を加えて約10分間反応させ、反応停止液で反応を停止させ、その後450nmの吸光度で測定した。ヒトIDS標準品の濃度と得られた吸光度値を用いて標準曲線及び関数を求め、それによりヒトIDS-Fc融合タンパク質の量を定量化した。その結果、形質導入されて選択された細胞が所定量のヒトIDS-Fc融合タンパク質を発現することが確認された(図1)。
【0180】
また、ARSB-Fc融合タンパク質の発現量測定は、ヒトIgGを定量化する酵素免疫測定法(Bethyl社, cat no. E80-104)を用いて行った。96 well ELISAプレート(Nunk社, cat no. 44-2404-21)に、10μg/mLで炭酸(carbonate)バッファー(0.05 M carbonate-bicarbonate, pH 9.6)に希釈したヒトIgG-Fc抗体(Bethyl社, cat no. A80-104A-9)を1well当たり100μlずつ加え、常温で1時間反応させた。1時間後に、洗浄液でELISAプレートを5回繰り返し洗浄し、培養液試料とヒトIgG定量キットに含まれるヒトIgG標準品(Bethyl社, cat no. RS10-110-4)を様々な濃度に希釈して1well当たり100μlずつそれぞれ分注し、常温で1時間反応させた。1時間後に、プレートを洗浄してHRPが付着したヒトIgG-Fc抗体(Bethyl社, cat no. A80-104P-87)を1:150,000に希釈して加え、その後常温で1時間反応させた。最後に、ストレプトアビジン(streptavidin)-HRP(GE healthcare社, cat no. RPN440IV)を1:30,000に希釈して1well当たり100μlずつ加え、その後1時間反応させ、洗浄後に基質液を加えて約15分間反応させ、反応停止液で反応を停止させ、その後450nmの吸光度で測定した。
【0181】
ヒトIgG標準品の濃度と得られた吸光度値を用いて標準曲線及び関数を求め、それによりヒトARSB-Fc融合タンパク質の量を定量化した。その結果、形質導入されて選択された細胞が所定量のヒトARSB-Fc融合タンパク質を発現することが確認された(図2)。
【実施例4】
【0182】
酵素持続型融合タンパク質の薬物動態確認
前述したように製造した酵素持続型融合タンパク質及びFc領域に融合されていない酵素の薬物動態を調査し、融合タンパク質の製造による効果を比較した。
【0183】
実施例4-1:イズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質の薬物動態学的実験
本発明者らは、前記実施例で製造したイズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質の薬物動態を調査し、本発明の融合タンパク質の薬効持続性効果を確認した。
【0184】
そのために、3匹のICRマウスにイズロン酸-2-スルファターゼ(Idursulfase, 対照群)とイズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質(IDS-Fc融合タンパク質,実験群)をそれぞれ投与し、各群の各採血時点における血液中安定性及び薬物動態学的パラメーターを比較した。
【0185】
具体的には、対照群と実験群にイズロン酸-2-スルファターゼに換算してそれぞれ0.5mg/kg、1.0mg/kgずつ静脈内及び皮下注射を行い、その後静脈内注射投与群は注射して0、0.25、0.5、1、2、4、8、24、48、72、96、120、144及び168時間後に採血し、皮下注射投与群は注射して0、1、4、8、24、48、72、96、120、144、168、192及び216時間後に採血した。血清中のタンパク質量は、ヒト特異的抗イズロン酸-2-スルファターゼ抗体を用いてELISA法で測定した。その分析結果を図3及び表4に示す。
【0186】
【表4】
【0187】
これらの結果から分かるように、本発明によるイズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質は、対照群に比べて有意に優れた薬物動態学的特性を示す。これらの結果は、実際の薬物投与において、本発明のイズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質が、融合タンパク質でない酵素に比べて、持続的な効能を示す効果により、薬物投与間隔を短くするという利点を示唆するものである。
【0188】
図3及び表4の薬物動態学的結果から分かるように、イズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質において、融合タンパク質でない対照群に比べて、半減期(T1/2)、最高血中薬物濃度(Cmax)、バイオアベイラビリティ(AUC)が全て増加した。特に、イズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質のバイオアベイラビリティは64.9%であり、融合タンパク質でない酵素に比べて優れたバイオアベイラビリティを示すことが確認された。
【0189】
実施例4-2:アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質の薬物動態学的実験
本発明者らは、前記実施例で製造したアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質(ARSB-Fc融合タンパク質)の薬物動態を調査するために、アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質の薬物動態を測定し、アリールスルファターゼBと比較した。
【0190】
具体的には、天然アリールスルファターゼB(ナグラザイム,バイオマリン社)を投与する対照群と、アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質を投与する実験群において、ICRマウスにアリールスルファターゼBに換算して5.0mg/kgずつ静脈内及び皮下注射し、その後対照群は、投与方法に関係なく、注射して0、0.25、0.5、0.75、1、1.5、4、8及び24時間後に採血した。実験群のうち静脈内注射投与群は、注射して0、0.25、0.5、1、1.5、2、4、8、24、48、96及び168時間後に採血し、実験群のうち皮下注射群は、注射して0、0.5、1、2、4、8、24、48、96及び168時間後に採血した。
【0191】
採血した各群の血液は、遠心分離して血清に分離し、酵素活性測定方法で血中のアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質及び天然アリールスルファターゼBの量を定量化した。その分析結果を図4及び表5に示す。
【0192】
【表5】
【0193】
これらの結果から分かるように、本発明によるアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質は、天然アリールスルファターゼBであるナグラザイムに比べて有意に優れた薬物動態学的特性を示す。これらの結果は、実際の薬物投与において、前記アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質が天然アリールスルファターゼBに比べて持続的な効能を示す効果により、薬物投与間隔を短くするという利点を示唆するものである。
【0194】
図4及び表5の薬物動態学的結果から分かるように、アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質において、融合タンパク質でない対照群に比べて、半減期(T1/2)、最高血中薬物濃度(Cmax)、バイオアベイラビリティ(AUC)が全て増加した。特に、アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質のバイオアベイラビリティは65.8%であり、融合タンパク質でない酵素に比べて優れたバイオアベイラビリティを示すことが確認された。
【0195】
実施例4-1及び4-2において酵素融合タンパク質の薬物動態を調査した結果、本発明の酵素融合タンパク質は、Fc領域に融合されていない酵素に比べて、半減期、バイオアベイラビリティなどが大幅に増加するので、持続的な薬物の効能を期待できることが確認された。
【実施例5】
【0196】
酵素持続型融合タンパク質の酵素活性確認
前述したように製造した酵素融合タンパク質に含まれる酵素の活性をFc領域に融合されていない酵素と比較した。
【0197】
実施例5-1:イズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質のin vitro酵素活性
本発明者らは、前記実施例で製造したイズロン酸-2-スルファターゼの持続型融合タンパク質の製造による酵素活性の変化を測定するために、in vitro酵素活性測定を行った。
【0198】
具体的には、酵素基質として知られる4MU-α-IdopyraA-2(4-Methylumbelliferyl a-L-Idopyranosiduronic Acid-2-sulfate Sodium Salt)をイズロン酸-2-スルファターゼ及びイズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質と37℃で4時間反応させ、その後二次反応酵素であるα-イズロニダーゼ(Iduronidase)と37℃でさらに24時間反応させた。その後、最終的に生成された4MU(4-Methylumbelliferone)の蛍光を測定することにより、当該物質の酵素活性を確認した。
【0199】
その結果、イズロン酸-2-スルファターゼとイズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質の酵素活性(specific activity)がそれぞれ32.0±1.58nmol/min/mM、87.3±6.49nmol/min/mMであることが確認された。イズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質は、2つのFc鎖の二量体形態である1つのFc分子と、2つのイズロン酸-2-スルファターゼとから構成されている構造であるので、融合タンパク質でないイズロン酸-2-スルファターゼに比べて、約2.7倍の高いin vitro酵素活性が測定された。これは、2つのイズロン酸-2-スルファターゼを有するイズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質の構造的な特徴が、酵素活性の面で融合タンパク質でないイズロン酸-2-スルファターゼより利点があることを示唆するものである(図5)。
【0200】
実施例5-2:アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質のin vitro酵素活性
本発明者らは、前記実施例で製造したアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質の酵素活性を天然酵素であるアリールスルファターゼB(ナグラザイム,バイオマリン社)と比較測定した。
【0201】
具体的には、前記アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質及びアリールスルファターゼBを4-methylumbelliferyl sulfateと37℃で20分間反応させ、その後硫酸基が切断されて生成した4-methylumbelliferylの蛍光を測定する方法により、アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質のin vitro酵素活性を測定した。
【0202】
その結果、アリールスルファターゼBとアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質の酵素活性(specific activity)がそれぞれ438.5±29.4nmol/min/μM、823.8±37.0nmol/min/μMであることが確認された。2つのFc鎖の二量体形態である1つのFc分子と、2つのアリールスルファターゼBとから構成されているアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質は、天然アリールスルファターゼBに比べて約1.9倍の高いin vitro酵素活性を有することが確認された。これらの結果から分かるように、分子単位で天然アリールスルファターゼBと差別化されたアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質の構造的な特徴により優れた酵素活性を示す(図6)。
【0203】
実施例5-1及び5-2において酵素融合タンパク質の酵素活性を確認した結果、本発明の酵素融合タンパク質は、Fc領域に融合されていない酵素に比べて、高いin vitro酵素活性を有することが確認された。
【実施例6】
【0204】
イズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質の投与効能確認
イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate 2-sulfatase, IDS)ノックアウト(knock-out)マウスに薬物を投与し、組織及び尿中のグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan, GAG)の含有量の変化を調査することにより、本発明の酵素融合タンパク質の投与効能を確認した。
【0205】
具体的には、陰性対照群の正常マウス群以外に、7~14週齢のIDSノックアウトマウスを尿中のGAG含有量に基づいて1群当たり4匹となるように計4つの群に分けた。イズロン酸-2-スルファターゼ(エラプレース, genzyme)0.5mg/kgを尾静脈に計4回(0日,7日,14日,21日)投与し(対照群)、イズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質は、2.0mg/kgを尾静脈に1回(0日)投与する群と、4.0mg/kgを1回(0日)皮下投与する群に分けた。
【0206】
各群のマウスから薬物投与前と投与7日、14日、21日及び28日後にそれぞれ尿を回収し、肝臓、脾臓、心臓、骨髄を薬物投与28日後に全て回収し、組織重量の5倍(骨髄は9倍)のボリュームの組織破砕バッファー(1ug/mLのアプロチニン(aprotinin)、1mM PMSF、及び2mM EDTAを含むPBS)を加えて超音波破砕機で破砕し、次いで遠心分離を行って得た上清を用いてGAG含有量を分析した。
【0207】
その後、前記回収した尿及び各組織の破砕後に得られた上清50μlを96ウェルプレートに加え、ジメチルメチレンブルー(dimethylmethylene blue)溶液250μlを添加して攪拌し、525nmの波長でGAG含有量を定量化した。尿中のGAG含有量は、尿中のクレアチン含有量で補正して値を算出した。算出した値により一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて対照群と試験群間の統計分析を行った。測定された尿及び各組織におけるGAG含有量をそれぞれ図7及び図8に示す。
【0208】
図7及び図8から分かるように、イズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質は、月1回の静脈及び皮下投与だけでも、Fc領域に融合されていない酵素(エラプレース)の週1回の静脈投与と同程度に、IDSノックアウトマウスに比べて尿及び各組織中のGAG数値を有意に減少させた。
【0209】
本実施例により、本発明のイズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質は、延長された血中半減期の特徴に基づいて、月1回投与だけでも週1回投与の従来の薬物用法と同程度の効力を示すことが確認された。また、月1回皮下投与した群においてもGAG数値を減少させる効能を示す結果から、本発明の融合タンパク質の投与経路として皮下注射の可能性が示された。よって、本発明によるイズロン酸-2-スルファターゼ持続型融合タンパク質は、ハンター症候群患者への月1回投薬及び皮下投薬の可能性を示唆する。
【実施例7】
【0210】
アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質の組織分布確認
本発明者らは、前記実施例で製造した本発明の酵素融合タンパク質の組織分布性を確認した。
【0211】
そのために、3匹のICRマウス(mouse)にアリールスルファターゼB(対照群)とアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質(実験群)をそれぞれ投与し、各群の各採血時点における組織及び臓器内の分布を比較した。
【0212】
具体的には、対照群と実験群にアリールスルファターゼBに換算してそれぞれ5.0mg/kgずつ静脈経路で注射した。対照群の天然アリールスルファターゼB(ナグラザイム)と実験群のアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質は、薬物投与して1、4、8、24時間後にマウスの臓器を摘出し、その後酵素活性測定法により組織(骨髄、肝臓、脾臓、肺、腎臓及び心臓)における各物質の濃度を測定及び比較した。
【0213】
その結果、対照群として用いたFc領域に融合されていない天然アリールスルファターゼBと比較して、同一時間帯においてアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質は全ての組織で高い組織分布結果、又はより長時間の組織分布結果が認められた。
【0214】
特に、アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質は、天然アリールスルファターゼBと比較して、骨髄と脾臓において分布性が非常に高いことが確認され、肺、腎臓、心臓においてアリールスルファターゼBが測定されないのに対して、アリールスルファターゼB持続型融合タンパク質は当該組織に分布することが確認された(図9)。
【0215】
これらの実験結果から、本発明によるアリールスルファターゼB持続型融合タンパク質は、天然アリールスルファターゼBであるナグラザイムに比べて優れた薬物動態学的特性を示す。特に、従来の薬物において用いられていた週1回静脈投与を月1回投与、さらには皮下投与に変更できる可能性により、患者の生活の質の向上に寄与できることを示唆する。
【0216】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
次に、本発明のまた別の好ましい態様を示す。
1. 治療学的酵素に免疫グロブリンFc領域が融合され、Fc領域が融合されていない治療学的酵素に比べて、生体内持続性が向上した、酵素融合タンパク質。
2. 前記酵素は、β-グルコシダーゼ(beta-glucosidase)、α-ガラクトシダーゼ(alpha-galactosidase)、β-ガラクトシダーゼ(beta-galactosidase)、イズロニダーゼ(iduronidase)、イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)、ガラクトース-6-スルファターゼ(Galactose-6-sulfatase)、酸性α-グルコシダーゼ(acid alpha-glucosidase)、酸性セラミダーゼ(acid ceramidase)、酸性スフィンゴミエリナーゼ(acid sphingomyelinsase)、ガラクトセレブロシダーゼ(galactocerebrosidsase)、アリールスルファターゼ(arylsulfatase)A、アリールスルファターゼ(arylsulfatase)B、β-ヘキソサミニダーゼ(beta-hexosaminidase)A、β-ヘキソサミニダーゼ(beta-hexosaminidase)B、ヘパリン-N-スルファターゼ(heparin N-sulfatase)、α-D-マンノシダーゼ(alpha-D-mannosidase)、β-グルクロニダーゼ(beta-glucuronidase)、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ(N-acetylgalactosamine-6 sulfatase)、リソソーム酸性リパーゼ(lysosomal acid lipase)、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(alpha-N-acetyl-glucosaminidase)、グルコセレブロシダーゼ(glucocerebrosidase)、ブチリルコリンエステラーゼ(butyrylcholinesterase)、キチナーゼ(Chitinase)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamate decarboxylase)、イミグルセラーゼ(imiglucerase)、リパーゼ(lipase)、ウリカーゼ(Uricase)、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(Platelet-Activating Factor Acetylhydrolase)、中性エンドペプチダーゼ(neutral endopeptidase)及びミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase)からなる群から選択される、上記1に記載の酵素融合タンパク質。
3. 前記酵素融合タンパク質は、治療学的酵素と免疫グロブリンFc領域がペプチドリンカーで融合されたものである、上記1に記載の酵素融合タンパク質。
4. 前記酵素融合タンパク質は、1分子の免疫グロブリンFc領域と二量体の治療学的酵素が融合されたものである、上記1に記載の酵素融合タンパク質。
5. 前記免疫グロブリンFc領域は、天然免疫グロブリンFc領域において少なくとも1つのアミノ酸に置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)、修飾(modification)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される改変が行われたものである、上記1に記載の酵素融合タンパク質。
6. 前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号8のアミノ酸配列を有する免疫グロブリンFc領域の2番目のアミノ酸がプロリンに置換されるか、71番目のアミノ酸がグルタミンに置換されるか、又は2番目のアミノ酸がプロリンに置換されると共に71番目のアミノ酸がグルタミンに置換されたものである、上記5に記載の酵素融合タンパク質。
7. 前記免疫グロブリンFc領域は、鎖交換が起こらないものである、上記6に記載の酵素融合タンパク質。
8. 前記酵素融合タンパク質は、Fc領域が融合されていない治療学的酵素に比べて、安定性が向上し、リソソーム受容体に対する結合力が低下し、組織分布性が向上したものである、上記1に記載の酵素融合タンパク質。
9. 前記免疫グロブリンFc領域は、(a)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、(b)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、(c)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、(d)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、(e)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域又はヒンジ領域の一部との組み合わせ、並びに(f)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体からなる群から選択される、上記1に記載の酵素融合タンパク質。
10. 前記免疫グロブリンFc領域は、(a)ジスルフィド結合を形成する部位が除去されること、(b)天然FcからN末端の一部のアミノ酸が欠失されること、(c)天然FcのN末端にメチオニン残基が付加されること、(d)補体結合部位が除去されること、(e)ADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されることから選択される少なくとも1つの特徴を有する、上記1に記載の酵素融合タンパク質。
11. 前記免疫グロブリンFc領域が非グリコシル化されたことを特徴とする、上記1~10のいずれか一項に記載の酵素融合タンパク質。
12. 前記免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgE又はIgMに由来する免疫グロブリンFcフラグメントである、上記1~10のいずれか一項に記載の酵素融合タンパク質。
13. 前記免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgE、IgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドである、上記12に記載の酵素融合タンパク質。
14. 前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域である、上記13に記載の酵素融合タンパク質。
15. 前記免疫グロブリンIgG4 Fc領域のヒンジ領域が、IgG1ヒンジ領域に置換されたものである、上記14に記載の酵素融合タンパク質。
16. 上記1~10のいずれか一項に記載の酵素融合タンパク質を含む、リソソーム蓄積症(lysosomal storage disorder, LSD)の予防又は治療用薬学的組成物。
17. 前記リソソーム蓄積症は、ムコ多糖症(mucopolysaccharidosis, MPS)、グリコーゲン蓄積症(Glycogen storage disease)、スフィンゴ脂質症(sphingolipidosis)、ニーマン・ピック病(Niemann-Pick disease)、ファブリー病(Fabry’s disease)、ゴーシェ病(Gaucher disease)、ハンター症候群(Hunter syndrome)及びマロトー・ラミー症候群(Maroteaux-Lamy syndrome)からなる群から選択される、上記16に記載のリソソーム蓄積症の予防又は治療用薬学的組成物。
18. 前記酵素は、イズロン酸-2-スルファターゼ(Iduronate-2-sulfatase, IDS)又はアリールスルファターゼB(Arylsulfatase B, ARSB)である、上記16に記載のリソソーム蓄積症の予防又は治療用薬学的組成物。
19. 前記組成物は、酵素のリソソーム受容体に対する結合力を低下させるものである、上記16に記載のリソソーム蓄積症の予防又は治療用薬学的組成物。
20. 上記1~10のいずれか一項に記載の酵素融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
21. 上記20に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
22. 上記21に記載の発現ベクターが導入された形質転換体。
23. (a)上記22に記載の形質転換体を培養して培養物を得るステップと、
(b)培養物から酵素融合タンパク質を回収するステップとを含む、酵素融合タンパク質を製造する方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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