(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法、再架橋ゴム、タイヤ及びゴム工業用品
(51)【国際特許分類】
C08J 11/22 20060101AFI20250617BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20250617BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20250617BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20250617BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20250617BHJP
C08C 19/00 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
C08J11/22 ZAB
C08J3/24 CEQ
B60C1/00 Z
C08L21/00
C08L15/00
C08C19/00
(21)【出願番号】P 2021005661
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020173853
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正幸
(72)【発明者】
【氏名】戸田 匠
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/115528(WO,A1)
【文献】特表2003-534956(JP,A)
【文献】特開昭53-134081(JP,A)
【文献】特開2007-277310(JP,A)
【文献】特開2015-91991(JP,A)
【文献】特表2010-512446(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0132841(US,A1)
【文献】国際公開第2019/160088(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00
C08J11/22
C08C19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ゴムを、沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを含む反応溶媒下において、300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得るゴム組成物の製造方法であって、
前記炭化水素基の炭素数が、6~10であるゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記炭化水素基が直鎖状の飽和脂肪族基である請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アルデヒドが、ノナナールを含む請求項1又は2に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記架橋ゴムを、150~250℃で加熱する請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記架橋ゴムが、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物である請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
前記架橋ゴムが、加硫ゴムを含む請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法
によりゴム組成物を得る工程と、
得られたゴム組成物を再架橋し
、再架橋ゴムを得る工程と、
を有する再架橋ゴムの製造方法であって、
前記ゴム組成物に含まれる液状炭化水素をゴム成分として含み、前記ゴム成分中の前記液状炭化水素の含有量が1~100質量%である再架橋ゴム
の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の
再架橋ゴムの製造方法により得られた再架橋ゴムにより、タイヤを製造する工程を有する、タイヤ
の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の
再架橋ゴムの製造方法により得られた再架橋ゴムにより、ゴム工業用品を製造する工程を有する、ゴム工業用品
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法、再架橋ゴム、タイヤ及びゴム工業用品に関する。
【背景技術】
【0002】
環境及び省資源化の視点から、架橋ゴムを再生し、新たな架橋ゴムとして再利用することが検討されている。
例えば、特許文献1には、架橋ゴムを、炭素数2以上の第一級アルコールを含む反応溶媒下において300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では、温和な条件下であっても、液状炭化水素を高い収率で回収できるが、高い分子量の液状炭化水素を得るには更なる検討が必要である。
【0005】
本発明は、穏和な条件下においても、より分子量の高い液状炭化水素を高分解率で製造することができるゴム組成物の製造方法、並びに、該製造方法により製造されたゴム組成物から得られる再架橋ゴム、タイヤ及びゴム工業用品を提供することを目的とし、該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> 架橋ゴムを、沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを含む反応溶媒下において、300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得るゴム組成物の製造方法。
【0007】
<2> 前記炭化水素基の炭素数が、3~16である<1>に記載のゴム組成物の製造方法。
<3> 前記炭化水素基の炭素数が、6~10である<1>又は<2>に記載のゴム組成物の製造方法。
<4> 前記炭化水素基が直鎖状の飽和脂肪族基である<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
<5> 前記アルデヒドが、ノナナールを含む<1>~<4>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
【0008】
<6> 前記架橋ゴムを、150~250℃で加熱する<1>~<5>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
<7> 前記架橋ゴムが、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物である<1>~<6>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
<8> 前記架橋ゴムが、加硫ゴムを含む<1>~<7>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
【0009】
<9> <1>~<8>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物を再架橋してなる再架橋ゴムであって、前記ゴム組成物が、<1>~<7>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法で製造された液状炭化水素をゴム成分として含み、前記ゴム成分中の前記液状炭化水素の含有量が1~100質量%である再架橋ゴム。
【0010】
<10> <9>に記載の再架橋ゴムからなるタイヤ。
<11> <9>に記載の再架橋ゴムからなるゴム工業用品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、穏和な条件下においても、より分子量の高い液状炭化水素を高分解率で製造することができるゴム組成物の製造方法、並びに、該製造方法により製造されたゴム組成物から得られる再架橋ゴム、タイヤ及びゴム工業用品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ゴム組成物の製造方法>
本発明のゴム組成物の製造方法は、架橋ゴムを、沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを含む反応溶媒下において300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得る工程(以下、「分解工程」と称することがある)を有する。
本発明のゴム組成物の製造方法は、分解工程に加え、分解工程で得られた反応物を乾燥する乾燥工程を有していてもよい。
また、本発明の製造方法により製造されるゴム組成物に含まれる液状炭化水素は、架橋ゴムを構成するゴム分子であり、架橋ゴムの構成により異なるが、廃タイヤ由来の架橋ゴムを用いた場合、通常、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム等を含む。なお、液状とは、室温(25℃)かつ大気圧(0.1MPa)の下で液体状態あるいは石油成分(アルコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)に容易に可溶化し液体状態になることをいう。
【0013】
本発明のゴム組成物の製造方法により、架橋ゴムを構成するゴム分子由来の炭素原子同士の結合(炭素-炭素結合)、当該炭素原子と架橋剤由来のヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子等)との結合(例えば、炭素-硫黄結合)等において、熱及び溶媒効果により結合が切断され、ラジカル及び/又は新たな結合が生成すると考えられる。これらの切断を受けて生成する高反応性のラジカル種に対して、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドから放出された水素原子が引き寄せられて、ラジカルの反応を停止すると考えられる。炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドは、水素供与が、アルコールよりも起こり易く、ラジカル反応の停止を起こりやすく、ラジカル反応の停止を起こしやすいと考えられる。また、ゴム分子の主鎖の切断に必要となる酸素に対して、第一級アルデヒドが酸化されて第一級カルボン酸に変化することにより、オートクレーブ内の酸素を消費することができる。その結果、主鎖の切断が抑制されるため、従来よりも高い分子量の液状炭化水素を高分解率で得ることができると考えられる。
以下、本発明のゴム組成物の製造方法の詳細について説明する。
【0014】
〔架橋ゴム〕
架橋ゴムは、ゴム成分の架橋物である。
架橋ゴムの原料であるゴム成分としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムのいずれでもよい。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
合成ジエン系ゴムは、例えば、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
非ジエン系ゴムは、例えば、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
これらゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0015】
以上の中でも、タイヤ等のゴム製品は、一般に、ジエン系ゴムが用いられていることから、ゴム成分は、ジエン系ゴムを50質量%以上含むことが好ましい。すなわち、架橋ゴムは、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物であることが好ましい。ゴム成分は、ジエン系ゴムを70質量%以上含むことがより好ましく、ジエン系ゴムを90質量%以上含むことが更に好ましい。また、ジエン系ゴムは、天然ゴム、ポリイソプレンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0016】
ゴム成分の架橋剤は、特に制限されず、例えば、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、酸架橋剤、ポリアミン架橋剤、樹脂架橋剤、硫黄化合物系架橋剤、オキシム-ニトロソアミン系架橋剤等が挙げられる。
タイヤ等のゴム成分は、通常、硫黄系架橋剤(加硫剤)が用いられることから、架橋ゴムは、加硫剤で加硫された加硫物、すなわち、加硫ゴムを含むことが好ましい。
加硫ゴムを、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを含む反応溶媒下において、300℃以下で加熱することで、加硫ゴムの分子構造を主として構成する炭素-硫黄結合が、熱による結合切断、溶媒効果等による交換反応が進行し、切断によって生成する高反応性のラジカル種に炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドから放出された水素原子が引き寄せられて、ラジカルの反応が停止すると考えられる。
架橋ゴム中の加硫ゴムの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、架橋ゴムが加硫ゴムである(含有量が100質量%である)ことが特に好ましい。
【0017】
(充填剤)
架橋ゴムは、充填剤を含んでいてもよい。
タイヤは、一般に、タイヤの耐久性、耐摩耗性等の諸機能を上げるために、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤を含む。
充填剤は、シリカ及びカーボンブラックのいずれか一方を単独で用いてもよいし、シリカ及びカーボンブラックの両方を用いてもよい。
【0018】
シリカは特に限定されず、一般グレードのシリカ、シランカップリング剤などで表面処理を施した特殊シリカなど、用途に応じて使用することができる。シリカは、例えば、湿式シリカを用いることが好ましい。
カーボンブラックは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのものが好ましい。
架橋ゴム中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、20~100質量部であることが好ましく、30~90質量部であることがより好ましい。
【0019】
架橋ゴムは、ゴム成分及び上記充填剤のほか、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛、加硫促進剤等を含むゴム組成物を架橋した架橋物であってもよい。タイヤは、一般に、これらの配合剤を含むゴム組成物を加硫した加硫ゴムを含む。
【0020】
〔反応溶媒〕
反応溶媒は、沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを含む。
反応溶媒として沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを選択することで、架橋ゴムの架橋点は分解されるが、ゴム分子の主鎖の切断が抑えられ、回収される液状炭化水素の分子量を高く維持することができる。これは、アルコールを反応溶媒としたときは酸化劣化が起こるが、アルデヒドでは酸化劣化が起こりにくいことが理由として考えられる。
アルデヒドが有する炭化水素基の炭素数が2未満では、回収される液状炭化水素の分子量を高く維持することができない。
炭化水素基は、回収される液状炭化水素の分子量をより高く維持する観点から、炭素数が3~16であることが好ましく、4~14がより好ましく、4~12であることが好ましく、6~10であることが更に好ましい。
【0021】
反応溶媒の沸点は、室温(25℃)かつ大気圧(0.1MPa)の下で、230℃以下である。
反応溶媒の沸点が230℃を超えると、精製がしにくくなる。沸点の下限は特に制限されず、通常、80℃より高く、25℃で液状であることが好ましい。
反応溶媒の沸点は、85℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、95℃以上であることが更に好ましく、100℃以上であることがより更に好ましく、105℃以上であることがより更に好ましい。また、反応溶媒の沸点は、225℃以下であることが好ましく、220℃以下であることがより好ましい。
【0022】
アルデヒドが有する炭化水素基は、沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上であれば特に制限されず、例えば、脂肪族基、芳香族基等が挙げられる。
脂肪族基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、また、飽和脂肪族基であっても、不飽和脂肪族基であってもよい。脂肪族基は、例えば、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、1-ペンチル基、2-メチル-1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、1-ドデシル基;ビニル基、プロペニル基等が挙げられる。
芳香族基は、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記炭化水素基を有すること以外は特に制限されず、例えば、更にハロゲン原子、アルコキシ、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、ヒドロキシ基等の置換基を有してもよい。アルコキシ(RO-)におけるアルキル基(R)の炭素数は1~8が好ましい。
【0023】
沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドは、具体的には、例えば、プロピル基を有するアルデヒド(プロパナール)、ブチル基を有するアルデヒド(ブタナール)、ペンチル基を有するアルデヒド(ペンタナール)、ヘキシル基を有するアルデヒド(ヘキサナール)、ヘプチル基を有するアルデヒド(ヘプタナール)、オクチル基を有するアルデヒド(オクタナール)、ノニル基を有するアルデヒド(ノナナール)、デシル基を有するアルデヒド(デカナール)、フェニル基を有するアルデヒド(ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等)等が挙げられる。側鎖にアルキル基を有していてもよく、フェニル基を有するアルデヒドの場合、例えばアルキルシンナムアルデヒドが挙げられ、特にアミルシンナムアルデヒドが好ましい。異性体がある場合は異性体を含む。
沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドは、東京化成工業社製、富士フイルム和光純薬社製等の各社試薬メーカーの溶媒を用いてもよい。
【0024】
反応溶媒の沸点は、各社試薬メーカーのカタログにより確認することができ、また、各種書籍、例えば、東京化学同人社の「化学辞典」、丸善社の「化学便覧」等により確認することができる。
例えば、東京化成工業社のカタログによれば、1-ヘキサナールの沸点は131℃、1-ヘプタナールの沸点は155℃、1-オクタナールの沸点は170℃、1-ノナナールの沸点は192℃、1-デカナールの沸点は208℃、ベンズアルデヒドの沸点は179℃である。
【0025】
炭化水素基は、以上の中でも、回収される液状炭化水素の分子量をより高く維持する観点から、脂肪族基が好ましく、飽和脂肪族基がより好ましく、直鎖状の飽和脂肪族基が更に好ましい。
具体的には、沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドは、ヘキシル基を有するアルデヒド(ヘキサナール)、ヘプチル基を有するアルデヒド(ヘプタナール)、オクチル基を有するアルデヒド(オクタナール)、及びノニル基を有するアルデヒド(ノナナール)から選択される群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、ノニル基を有するアルデヒド(ノナナール)がより好ましい。
【0026】
反応溶媒は、沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドからなってもよいし、該アルデヒドに加え、他の溶媒を含んでいてもよいが、液状炭化水素の分解率を高める観点から、沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドが反応溶媒の主成分であることが好ましい。
ここで、主成分とは、反応溶媒中の沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドの含有量が50体積%を越えることをいい、反応溶媒中の沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドの含有量は、70体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、100体積%以上であってもよい。
【0027】
分解工程では、反応溶媒を、反応溶媒の体積[mL](Vs)と架橋ゴムの質量[mg](Wg)との比(Vs/Wg)が、好ましくは0.001/1~1/1、より好ましくは0.005/1~0.1/1となる範囲で用いることが好ましい。
反応溶媒を上記範囲で用いることで、加溶媒分解反応がより促進されたり、架橋ゴムに十分な水素原子が供給され、熱分解で生成したラジカルの再結合を抑制し、架橋ゴムを効率よく分解することができる。
【0028】
〔分解工程の反応条件〕
(温度)
分解工程において、架橋ゴムと反応溶媒は300℃以下で加熱される。
加熱温度を300℃以下とすることで、省エネルギー化に優れ、また、副反応等による分解率低下を抑制することができる。なお、分解工程における加熱温度を分解温度と称することもある。架橋ゴムをより低温で加熱することで、溶媒が関与する反応を優先させて架橋ゴムを分解することができる。加熱温度は、150℃以上であることが好ましく、155℃以上がより好ましく、160℃以上がより好ましく、180℃を超えることが更に好ましく、また、250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、230℃以下が更に好ましく、220℃以下がより更に好ましく、210℃以下がより更に好ましい。
【0029】
(分解時間)
分解工程において、架橋ゴムを加熱する時間(分解時間)は、架橋ゴムの分解反応を十分に進める観点から、30分~20時間であることが好ましく、60分~18時間であることがより好ましい。また、架橋ゴムが充填剤を含まない場合は、分解時間を240分以下、好ましくは180分以下とすることができる。
【0030】
(圧力)
分解工程において、架橋ゴムと反応溶媒に与えられる圧力は特に制限されない。
架橋ゴムの分解反応の反応速度と、省資源及び省エネルギー化の観点から、0.1~2.0MPa(G)とすることが好ましく、0.1~1.5MPa(G)とすることがより好ましい。単位「MPa(G)」は圧力がゲージ圧であることを意味する。
圧力は、2.0MPa(G)以下であることで、液状炭化水素の分子量を低下させにくく、0.1MPa(G)以上であることで、架橋ゴムに反応溶媒が浸透し易く、反応速度を上げやすい。
【0031】
(雰囲気)
300℃以下の分解工程における反応雰囲気は、特に制限されず、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスからなる気体の雰囲気(以下、単に不活性ガス雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気からなる気体の雰囲気(以下、単に空気雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気と不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で反応を進めてもよい。不活性ガスを用いる場合、2種以上の不活性ガスを混合して用いてもよい。
架橋ゴムの分解をより軽微な設備で行い、また、低エネルギー化を進める観点から、架橋ゴムは、好気環境下、即ち、酸素含有雰囲気下で加熱することが好ましく、空気を含む気体の雰囲気下で加熱することがより好ましく、空気雰囲気下で加熱することが更に好ましい。
【0032】
〔乾燥工程〕
本発明のゴム組成物の製造方法は、分解工程で得られた反応物(液状炭化水素を含むゴム組成物)を乾燥する乾燥工程を有することが好ましい。
反応物は、例えば100~150℃の温風を吹き付ければよい。温風は空気であってもよいし、窒素ガスのような不活性ガスであってもよい。
【0033】
以上のように、架橋ゴムを、沸点が230℃以下であり、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを含む反応溶媒下において、300℃以下で加熱することで、液状炭化水素を含むゴム組成物が得られる。このようにして得られるゴム組成物を「分解生成有機物」と称することがある。ゴム組成物(分解生成有機物)は、一般に、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含む液体生成物の他に、分解せずに残存する固形分を含む。更に、架橋ゴムとして、廃タイヤを用いた場合、タイヤには、通常、充填剤が含まれることから、固形分には、充填剤も含まれる。
加硫前の生ゴムは、イソプレンゴム(IR)の場合、一般に、重量平均分子量(Mw)が120万程度、数平均分子量(Mn)が40万程度であり、また、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)の場合、一般に、重量平均分子量(Mw)が40万程度、数平均分子量(Mn)が10万程度である。得られた液状炭化水素のMw及びMnがこれらの値に近いほど、原料ゴムに近い分子鎖のゴムが得られたことを意味する。
液状炭化水素のMw及びMnは、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0034】
以上の方法によって製造された液状炭化水素は、架橋ゴムの再生に用いることができる。
また、架橋ゴムの再生には、液状炭化水素単独を原料とするのみならず、液状炭化水素と、分解工程で得られる固形分とを混合した状態で、すなわち、分解工程で得られるゴム組成物から液状炭化水素を分離することなく、ゴム組成物のまま再生ゴムの原料として用いてもよい。
このように、本発明のゴム組成物の製造方法により得られるゴム組成物は、架橋ゴム(再架橋ゴム)を再生可能なリサイクルゴムであり、本発明のゴム組成物の製造方法は、リサイクルゴムの製造方法である。ただし、本発明におけるゴム組成物(リサイクルゴム)には、加硫ゴムを粉砕して粉状にした粉ゴムは含まれない。
【0035】
<再架橋ゴム>
本発明の再架橋ゴムは、本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物を再架橋してなる再架橋ゴムであって、ゴム組成物に含まれる液状炭化水素をゴム成分として含み、ゴム成分中の液状炭化水素の含有量が1~100質量%である。
つまり、本発明の再架橋ゴムは、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素をゴム成分として含むゴム組成物の再架橋物であって、ゴム成分は液状炭化水素を少なくとも1質量%含み、100質量%であってもよい。ゴム成分中の液状炭化水素の含有量は、5質量%以上であってもよいし、10質量%以上であってもよいし、15質量%以上であってもよいし、20質量%以上であってもよい。また、ゴム成分中の液状炭化水素の含有量は、70質量%以下であってもよいし、60質量%以下であってもよいし、50質量%以下であってもよい。
【0036】
ゴム成分中の液状炭化水素の含有量が100質量%未満の場合、液状炭化水素と共に用いられる他のゴム成分は特に制限されない。なお、液状炭化水素と共に用いられる他のゴム成分を純ゴム成分と称することがある。
純ゴム成分としては、架橋ゴムの原料であるゴム成分として挙げた既述のゴム成分である。中でも、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0037】
本発明の再架橋ゴムの原料となるゴム組成物は、液状炭化水素を含むゴム成分の他に、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華等を含んでいてもよい。
既述のように、本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物は、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含む液体生成物の他に、分解せずに残存する固形分を含み、固形分には、充填剤も含まれる場合もある。
再架橋ゴムの原料となるゴム組成物は、分解せずに残存する固形分を含んでいてもよい。架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素と共に、分解せずに残存する固形分を用いて再架橋ゴムを製造することにより、環境負担をより低減することができる。
本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物の再架橋の条件は特に制限されない。
本発明の再架橋ゴムは、液状炭化水素を含むゴム成分が加硫剤によって加硫された再加硫ゴムであってもよい。
【0038】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、本発明の再架橋ゴムからなる。
タイヤを、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含むゴム組成物を再架橋して得られる再架橋ゴムを用いて構成することで、環境負荷の小さいタイヤとすることができる。
タイヤは、適用するタイヤの種類や部材に応じ、未架橋のゴム組成物を用いて成形後に架橋して得てもよく、または予備架橋工程等を経て、一旦未架橋のゴム組成物から半架橋ゴムを得た後、これを用いて成形後、さらに本架橋して得てもよい。タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0039】
<ゴム工業用品>
本発明のゴム工業用品は、本発明の再架橋ゴムからなる。
ゴム工業用品は、例えば、上記タイヤを除く自動車部品、ホースチューブ類、防振ゴム類、コンベアベルト、クローラー、ケーブル類、シール材等、船舶部品、建材等が挙げられる。ゴム工業用品を、本発明の再架橋ゴムを用いて構成することで、環境負荷の小さい工業用品とすることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0041】
<加硫ゴムの用意>
加硫ゴムとして、下記加硫ゴムを用意した。
加硫ゴム(IR):ポリイソプレンゴムを加硫して得られた加硫ゴム
加硫ゴム(SBR):スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを加硫して得られた加硫ゴム
加硫ゴム(NR):天然ゴムとカーボンブラックとを少なくとも含むゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴム
【0042】
<液状炭化水素の製造A>
〔実施例1a〕
(分解工程)
オートクレーブ(EYELA社製、耐圧容器、商品名「HIP-30L」)に、1mm程度の小片状にした加硫ゴム(IR)0.4gと、5mLの1-ノナナールとを投入した。オートクレーブ内を密閉し、オートクレーブを加熱容器(EYELA社製、パーソナル有機合成装置ケミステーション、商品名「PPV-CTRL1」)に入れ、投入物を空気雰囲気下において200℃で2時間加熱した。加熱終了後、加熱容器を冷却水によって常温(25℃)まで戻し、反応物を常温にした。
【0043】
(乾燥工程)
分解工程で得られた反応物を、吹付式試験管濃縮装置(EYELA社製、商品名「MGS-3100」)を用い、130℃における窒素フローの条件で乾燥し、実施例1aの分解生成有機物を得た。
【0044】
〔実施例2a~6a、比較例1a~5a〕
反応溶媒を表1に示す溶媒に代えた他は、実施例1aと同様にして、分解工程と乾燥工程を進め、実施例2a~6a及び比較例1a~5aの分解生成有機物を得た。
【0045】
<液状炭化水素の製造B>
〔実施例1b~3b〕
実施例1aの分解工程における投入物の加熱温度及び加熱時間を200℃、2時間から、表2に示す反応条件に変更した他は、同様にして、分解工程と乾燥工程を進め、実施例1b~2bの分解生成有機物を得た。
また、表2には、比較用に、実施例3bとして、実施例1aと同じ条件の結果を示した。
【0046】
<液状炭化水素の製造C>
〔実施例1c~5c〕
加硫ゴムとして、加硫ゴム(IR)に代えて加硫ゴム(SBR)を用い、反応溶媒として、表3に示す反応溶媒を用いた他は、実施例1aと同様にして、分解工程と乾燥工程を進め、実施例1c~5cの分解生成有機物を得た。
【0047】
〔比較例1c〕
加硫ゴムとして、加硫ゴム(IR)に代えて加硫ゴム(SBR)を用いた他は、比較例1aと同様にして、分解工程と分離工程を進め、比較例1cの分解生成有機物を得た。
【0048】
〔比較例2c〕
加硫ゴムとして、加硫ゴム(IR)に代えて加硫ゴム(SBR)を用いた他は、比較例2aと同様にして、比較例2cの分解生成有機物を得た。
【0049】
〔比較例3c〕
加硫ゴムとして、加硫ゴム(IR)に代えて加硫ゴム(SBR)を用いた他は、比較例3aと同様にして、比較例3cの分解生成有機物を得た。
【0050】
<分解生成有機物の分析>
実施例及び比較例で得られた分解生成有機物を、テトラヒドロフランで溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析した。分析結果から、分解生成有機物の可溶化率、重量平均分子量(Mw)を測定した。また、濃度の異なる純ゴム成分のテトラヒドロフラン溶液を用いて検量線を作成した。検量線を利用してテトラヒドロフラン中の液状炭化水素を定量し、分解率を算出した。
【0051】
GPC測定の条件は次のとおりである。
・カラム:東ソー(株)製造:TSKgel GMHXL
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1mL/min
・温度:40℃
・検出器:RI
【0052】
表1においては、比較例1aで得られた重量平均分子量(Mw)を100.0として、実施例1a~6a及び比較例2a~5aの重量平均分子量(Mw)を指数化した。また、比較例1aで得られた分解率を100.0として、実施例1a~6a及び比較例2a~5aの分解率を指数化した。
【0053】
表2においては、比較例1aで得られた重量平均分子量(Mw)を100.0として、実施例1b~3bの重量平均分子量(Mw)を指数化した。また、比較例1aで得られた分解率を100.0として、実施例1b~3bの分解率を指数化した。
【0054】
表3においては、比較例1cで得られた重量平均分子量(Mw)を100.0として、実施例1c~5c及び比較例2c~3cの重量平均分子量(Mw)を指数化した。また、比較例1cで得られた分解率を100.0として、実施例1c~5c及び比較例2c~3cの分解率を指数化した。
結果を表1~3に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
<液状炭化水素の製造D>
〔実施例1d〕
実施例1aにおいて、加硫ゴム(IR)を加硫ゴム(NR)に;投入物の加熱時間(分解時間)を2時間から表4に示す時間に、それぞれ変更した他は同様にして、分解工程を行った。その後、溶媒除去のための精製を行い、乾燥工程を進め、実施例1dの分解生成有機物を得た。
【0059】
〔比較例1d〕
比較例1aにおいて、加硫ゴム(IR)を加硫ゴム(NR)に;反応溶媒を1-ヘプタノールから1-オクタノールに;投入物の加熱時間(分解時間)を6時間から表4に示す時間に、それぞれ変更した他は同様にして分解工程と分離工程を進め、比較例1dの分解生成有機物を得た。
【0060】
〔比較例2d〕
比較例1aにおいて、加硫ゴム(IR)を加硫ゴム(NR)に;反応溶媒を1-ヘプタノールから1-オクタノールに;投入物の加熱時間(分解時間)を6時間から表4に示す時間に、それぞれ変更した他は同様にして分解工程と分離工程を進め、比較例2dの分解生成有機物を得た。
【0061】
<再加硫ゴムの製造>
表5に示す内容で、ゴム組成物を調製し、加硫して加硫ゴムを得た。
【0062】
なお、表5に示す成分の詳細は下記のとおりである。
NR:天然ゴム
カーボンブラック:SAFグレード
6C:老化防止剤、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック 6C」
DM:加硫促進剤、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、三新化学工業社製、商品名「サンセラー DM」
NS:加硫促進剤、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラー NS」
DPG:加硫促進剤、1,3-ジフェニルグアニジン、三新化学工業社製、商品名「サンセラー D」
【0063】
<分解生成有機物の分析>
製造した分解生成有機物について、実施例1aの分解生成有機物と同様の方法で分析して、重量平均分子量(Mw)及び分解率を測定し、有効数字3桁として表4に示した。
表4に示す分子量は、例えば、実施例1dの場合、271×103、すなわち、271,000であることを意味する。
【0064】
<加硫ゴムの特性評価>
比較例1e~比較例5e、実施例1e、及び実施例2eについて、各加硫ゴムの引張強度と損失正接(tanδ)を評価し、表5に示した。
【0065】
1.引張強度
各加硫ゴムの引張強度は、破断強度(TB;Tensile strength at Break)の観点から評価した。破断強度は、JIS K 6251(2017年)に基づいて、加硫ゴムを室温(23℃)℃で100%伸長し、破断させるのに要した最大の引張り力として測定した。
得られた破断強度の値は、比較例1eの破断強度の値を100として指数表示した。指数値が大きい程、加硫ゴムは、破断強度が大きいことを意味する。
【0066】
2.損失正接(tanδ)
各加硫ゴムの損失正接(tanδ)を、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を用い、温度50℃、歪み10%、周波数15Hzの条件で測定した。得られたtanδの値は、比較例1eのtanδの逆数の値を100として指数表示した。指数値が大きい程、加硫ゴムは、低発熱性が良好であることを意味する。
【0067】
【0068】
【0069】
表1~3からわかるように、実施例では、比較例に比べ、より高い分子量の液状炭化水素を含むゴム組成物を、より高い分解率で製造することができる。
また、表4からわかるように、実施例の液状炭化水素を含むゴム組成物から製造された加硫ゴムは、比較例の液状炭化水素を含むゴム組成物から製造された加硫ゴムに比べ、70質量部加えた場合(実施例2e)でも引張強度が大きいまま維持されており、また、tanδも維持できていることがわかる。