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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20250617BHJP
   B60W 30/045 20120101ALI20250617BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W30/045
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021073946
(22)【出願日】2021-04-26
(65)【公開番号】P2022053473
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2020159716
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹林 洋亮
(72)【発明者】
【氏名】米田 毅
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/208786(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/037662(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
B62D 6/00- 6/10
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ又は複数のプロセッサと、前記一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を備え、
前記一つ又は複数のプロセッサは、
両が目標軌跡の曲率の変曲点を通過する前には、前記目標軌跡上の前記変曲点よりも手前に第1基準点を設定し、前記車両の現在位置と前記第1基準点とを通過するように設定される円弧の曲率に基づいて目標操舵角を設定し、
前記車両が前記目標軌跡の曲率の変曲点を通過した後には、車速、加減速度又は操舵角のうちの少なくとも一つが同一の走行条件で比較した場合に、前記車両の現在位置から前記目標軌跡上に設定される第2基準点までの距離である第2の距離が、前記車両が前記変曲点を通過する前の前記車両の現在位置から前記第1基準点までの距離である第1の距離よりも大きくなるように前記第2基準点を設定し、前記車両の現在位置と前記第2基準点とを通過するように設定される円弧の曲率に基づいて目標操舵角を設定し、
前記目標操舵角に基づいて操舵角を制御する、ことを含む処理を実行する、車両の制御装置。
【請求項2】
前記一つ又は複数のプロセッサは、
所定の単位時間後に到達すると想定される前記目標軌跡上の前記車両の位置に前記第1基準点及び前記第2基準点を設定し、
前記車両が前記変曲点を通過した後に用いる第2の単位時間の値を、前記変曲点を通過する前に用いる第1の単位時間の値よりも大きくする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記車両が前記変曲点を通過する前又は通過した後の少なくとも一方において、前記同一の走行条件で比較した場合に前記第2の距離が前記第1の距離よりも大きくなるように設定された係数を用いて、前記第1基準点又は前記第2基準点を設定する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記車両が前記変曲点を通過する前又は通過した後の少なくとも一方において、前記同一の走行条件で比較した場合に前記第2の距離が前記第1の距離よりも大きくなるように設定された所定距離を加減算して、前記第1基準点又は前記第2基準点を設定する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記一つ又は複数のプロセッサは、
所定の単位時間後に到達すると想定される前記目標軌跡上の前記車両の位置に基づいて、前記第1基準点又は前記第2基準点を設定する、請求項2又は3に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドライバによる運転操作によらずに車両を自動で走行させる自動運転に関する技術の実用化が進められている。自動運転では、車両を目標軌跡に沿って走行させる制御が行われる。このような自動運転に関する技術として、例えば、特許文献1には、車両の目標軌跡上に車両の現在位置に対する基準点を設定し、車両の進行方向に沿った接線を有しかつ基準点と現在位置とを通る円弧に基づいて車両の操舵を制御する技術が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載された制御装置では、自車両の現在位置が目標軌跡から乖離している場合、自車両に近い目標軌跡上の位置から自車両が所定時間だけ目標軌跡上を走行したと仮定した基準点が設定される。また、特許文献1に記載された制御装置では、自車両の現在位置が目標軌跡から乖離していない場合、基準点は、目標軌跡上に設定されたある3点を通過する円弧の曲率が大きくなるほど近くに設定され、円弧の曲率がゼロに近いほど遠くに設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/208786号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、車両の進行方向に沿った接線を有し、かつ、基準点と現在位置とを通る円弧に基づいて車両の操舵を制御する場合、基準点の設定位置により実際の車両の走行軌跡が変化する。例えばカーブに進入する際に基準点が遠すぎると、カーブを通過中の走行軌跡が、目標軌跡からカーブの内側方向へ乖離するおそれがある。また、カーブから離れて直進走行へ移行する際に基準点が近すぎると、目標軌跡に対して円弧の曲率が大きくなって操舵の振動を生じるおそれがある。しかしながら、特許文献1に記載された制御装置は、カーブに進入する期間とカーブから離れる期間とで生じ得る問題が異なることを考慮していないため、上記の問題を解消できないおそれがある。
【0006】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、カーブを走行する際に、目標軌道と実際の走行軌道との偏差を低減させ、かつ、操舵の振動を低減することが可能な車両の制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、一つ又は複数のプロセッサと、一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を備え、プロセッサは、車両が目標軌跡の曲率の変曲点を通過する前には、目標軌跡上の変曲点よりも手前に第1基準点を設定し、車両の現在位置と第1基準点とを通過するように設定される円弧の曲率に基づいて目標操舵角を設定し、車両が目標軌跡の曲率の変曲点を通過した後には、車速、加減速度又は操舵角のうちの少なくとも一つが同一の走行条件で比較した場合に、車両の現在位置から目標軌跡上に設定される第2基準点までの距離である第2の距離が、車両が変曲点を通過する前の車両の現在位置から第1基準点までの距離である第1の距離よりも大きくなるように第2基準点を設定し、車両の現在位置と第2基準点とを通過するように設定される円弧の曲率に基づいて目標操舵角を設定し、目標操舵角に基づいて操舵角を制御する、ことを含む処理を実行する車両の制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本開示によれば、カーブを走行する際に、目標軌道と実際の走行軌道との偏差を低減させ、かつ、操舵の振動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る車両の制御装置が搭載される車両の構成例を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る車両の制御装置の構成例を示すブロック図である。
図3】目標操舵角の設定方法の概略を示す説明図である。
図4】目標軌跡の曲率の変曲点の特定方法を示す説明図である。
図5】目標軌跡の曲率の変化を示す説明図である。
図6】目標軌跡の曲率の変曲点の通過前における基準点の設定位置を示す説明図である。
図7】目標軌跡の曲率の変曲点の通過後における基準点の設定位置を示す説明図である。
図8】目標軌跡の変曲点の手前において基準点を設定するための第1の単位時間と変曲点の曲率との関係を示す説明図である。
図9】同実施形態に係る車両の制御装置による操舵制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
<1.車両の構成例>
まず、本開示の実施の形態に係る車両の制御装置が搭載される車両の構成の一例を説明する。
【0012】
図1は、車両1の構成例を示す模式図である。車両1は、車輪11L,11R、動力伝達系17、駆動用モータ35、インバータ33、バッテリ31、ブレーキシステム15、電動ステアリングシステム21、車両操作/挙動センサ41、車両位置センサ43、ナビゲーション装置45及び制御装置50を備える。インバータ33、ブレーキシステム15、電動ステアリングシステム21、車両操作/挙動センサ41、車両位置センサ43及びナビゲーション装置45は、それぞれ直接的に、又は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Inter Net)等の通信手段を介して制御装置50に接続されている。
【0013】
図1に示した車両1は、駆動用モータ35のみを駆動源として備え、駆動用モータ35から出力される動力を用いて走行する電気自動車である。車両1の運転モードは、手動運転モードと自動運転モードとの間で切替可能となっている。手動運転モードは、ドライバの運転操作に応じて車両1の加減速度及び操舵角が制御される運転モードである。自動運転モードは、ドライバの運転操作によらずに車両1の加減速度及び操舵角が自動で制御される運転モードである。
【0014】
なお、運転モードは、ドライバによって切替可能になっていてもよく、手動運転モード中に制御装置50が介入することにより自動運転モードに切り替えられてもよい。また、自動運転モード中にドライバによりブレーキ操作等の特定の操作が行われた場合に、自動運転モードから手動運転モードへ切り替えられるようになっていてもよい。
【0015】
駆動用モータ35は、車両1の車輪11L,11Rに伝達される動力を出力するモータである。駆動用モータ35としては、例えば三相交流式のモータが用いられる。駆動用モータ35は、インバータ33を介してバッテリ31と接続され、バッテリ23から供給される電力を用いて駆動され、動力を出力する。
【0016】
なお、駆動用モータ35は、車両1の減速時に回生駆動されて車輪11L,11Rの運動エネルギを用いて発電可能なモータであってもよい。この場合、駆動用モータ35により発電される電力は、インバータ33を介してバッテリ31へ充電される。
【0017】
駆動用モータ35の出力軸は、動力伝達系17を介して、車輪11L,11Rが接続された駆動軸19と接続されている。したがって、駆動用モータ35から出力される動力は、動力伝達系17及び駆動軸19を介して車輪11L,11Rに伝達される。
【0018】
なお、図1に示された車輪11L,11Rは、電動ステアリングシステム21により操舵角が制御される前輪であり、駆動用モータ35から出力される動力は少なくとも前輪に伝達される。ただし、駆動用モータ35から出力される動力が伝達される車輪11L,11Rは後輪であってもよい。また、駆動用モータ35から出力される動力は、図示しないプロペラシャフトを介して前輪及び後輪の双方へ伝達されてもよい。
【0019】
インバータ33は、双方向の電力変換を行う電力変換装置である。例えば、インバータ33は、三相ブリッジ回路を含む。インバータ33は、バッテリ31から供給される直流電力を交流電力に変換して駆動用モータ35へ供給する。また、インバータ33は、駆動用モータ35により発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ31へ供給する。インバータ33の駆動は、制御装置50により制御される。
【0020】
バッテリ31は、電力を充放電可能な電池である。バッテリ31としては、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池又は鉛蓄電池が用いられるが、これら以外の電池が用いられてもよい。バッテリ31は、駆動用モータ35に供給される電力を蓄電する。
【0021】
ブレーキシステム15は、例えば各車輪11L,11Rに設けられたブレーキ装置13L,13Rへ供給する油圧を制御することで各車輪11L,11Rに対して付与する制動力を制御する。ブレーキシステム15は、例えば、図示しないマスタシリンダ、倍力装置及び液圧制御ユニットを含む。マスタシリンダは、倍力装置を介してブレーキペダルに接続されており、倍力装置は、ドライバによるブレーキペダルの踏力を倍力してマスタシリンダに伝達する。
【0022】
マスタシリンダとブレーキ装置13L,13Rとは、液圧制御ユニットに設けられた油圧回路を介して接続されている。マスタシリンダは、ブレーキペダルの操作量に応じて作動油を油圧回路へ供給する。液圧制御ユニットは、電磁制御弁及び電動ポンプを備え、各ブレーキ装置31L,31Rへ供給する作動油の流量を制御する。
【0023】
各車輪11L,11Rに設けられたブレーキ装置13L,13Rは、例えば、ブレーキパッド及びホイールシリンダを含むキャリパを含む。ブレーキパッドは、車輪11L,11Rと一体となって回転するブレーキディスクの両面にそれぞれ対向して一対設けられる。ホイールシリンダは、ブレーキキャリパ内に形成された油圧室であり、ホイールシリンダ内の圧力の上昇に伴ってそれぞれのブレーキパッドがブレーキディスクの両面に向けて移動する。これにより、ブレーキディスクが一対のブレーキパッドにより挟まれ、摩擦力によって車輪11L,11Rに制動力が付与される。
【0024】
液圧制御ユニットが各ブレーキ装置31L,31Rへ供給する作動油の流量を制御することにより、各ブレーキ装置31L,31Rのホイールシリンダ内の圧力が調節され、各車輪11L,11Rに付与される制動力が制御される。ブレーキシステム15の駆動は、制御装置50により制御される。
【0025】
電動ステアリングシステム21は、ドライバのステアリングホイールを用いた操舵操作を補助する。例えば、電動ステアリングシステム21は、図示しないステアリングホイールの回転角を検出する回転センサと、回転センサにより検出されるステアリングホイールの回転角に応じて車輪11L,11Rの操舵角を制御する電動モータとを含む。電動ステアリングシステム21は、さらにステアリングホイールを回動させる動力を出力可能な電動モータを含んでいてもよい。電動ステアリングシステム21の駆動は、制御装置50により制御される。
【0026】
なお、自動運転モードにおいては、電動ステアリングシステム21を利用して車輪11L,11Rの操舵角の制御が行われる。
【0027】
車両操作/挙動センサ41は、車両の操作状態及び挙動を検出する少なくとも一つのセンサからなる。車両操作/挙動センサ41は、例えば、車速センサ、加速度センサ、角速度センサのうちの少なくとも一つを含み、車速、前後加速度、横加速度、ヨーレート等の車両の挙動の情報を検出する。また、車両操作/挙動センサ41は、例えばアクセルポジションセンサ、ブレーキストロークセンサ、ブレーキ圧センサ、舵角センサ、エンジン回転数センサのうちの少なくとも一つを含み、ステアリングホイール又は操舵輪の操舵角、アクセル開度、ブレーキ操作量等の車両の操作状態の情報を検出する。車両操作/挙動センサ41は、検出した情報を含むセンサ信号を制御装置50へ送信する。
【0028】
車両位置センサ43は、車両1の位置を検出し、検出結果を制御装置50へ出力する。例えば、車両位置センサ43は、GPS(Global Positioning System)衛星からの衛星信号を受信するGPSセンサであってもよい。GPSセンサは、受信した衛星信号に含まれる車両の地図データ上の位置情報をナビゲーション装置45及び制御装置50へ送信する。なお、GPSアンテナの代わりに、車両の位置を特定する他の衛星システムからの衛星信号を受信するアンテナが備えられていてもよい。
【0029】
また、車両位置センサ43は、さらに車外撮影カメラやLiDAR(Light Detection and Ranging又はLaser Imaging Detection and Ranging)、レーダセンサ等の道路内における自車両の位置を検出可能な測定機器を含んでもよい。
【0030】
ナビゲーション装置45は、車両1の現在位置から設定された目的地までの走行ルートを案内する装置である。ナビゲーション装置45には、あらかじめ地図データが格納されている。地図データは、自動運転モード中の車両1がそれぞれの道路を走行する際の基準となる走行軌跡である目標軌跡のデータを含む。目標軌跡のデータは、目標点群のデータとして構成され得る。ナビゲーション装置45は、車両位置センサ43から出力される車両1の現在位置の情報を取得するとともに、現在位置から設定された目的地までの走行ルートを設定する。ナビゲーション装置45は、走行ルート及び目標軌跡を示す情報を制御装置50へ出力する。
【0031】
また、ナビゲーション装置45は、情報を視覚的に表示する機能を有し、車両1の現在位置や走行ルート、目的地の位置、目的地までの距離や予測到達時間等のルート案内に関する各種情報を地図データ上に表示する。
【0032】
制御装置50は、車両1の自動運転モード中に、インバータ33、ブレーキシステム15及び電動ステアリングシステム21を制御して、ナビゲーション装置45により設定された走行ルートに沿って車両1を自動で走行させる自動運転制御を実行する。制御装置50は、少なくとも車輪11L,11Rの目標操舵角を設定し、当該目標操舵角に基づいて車輪11L,11Rの操舵角を制御する。
【0033】
<2.制御装置>
続いて、本実施形態に係る車両の制御装置50について具体的に説明する。
【0034】
(2-1.構成例)
制御装置50は、少なくともCPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等の一つ又は複数のプロセッサと、当該プロセッサと通信可能に接続されて各種データを記憶する一つ又は複数のメモリとを備えて構成される。なお、制御装置50の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0035】
図2は、制御装置50の機能構成の一例を示すブロック図である。制御装置50は、設定部51、制御部53及び記憶部61を備える。なお、本実施形態に係る制御装置50が有する機能は、一つの制御装置により実現されてもよく、CAN等の通信手段を介して互いに通信可能な複数の制御装置により実現されてもよい。
【0036】
(2-1-1.記憶部)
記憶部61は、プロセッサにより実行されるプログラムや演算処理に用いられる各種演算パラメータを記憶するROM(Read Only Memory)や、プロセッサが取得した各種検出データ及び演算結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)等のメモリを含む。記憶部61は、HDD(Hard Disk Drive)やCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、SSD(Solid State Drive)、USB(Universal Serial Bus)フラッシュ、ストレージ装置等の記憶媒体を含んでいてもよい。
【0037】
(2-1-2.設定部)
設定部51は、車両1の自動運転モード中に、ナビゲーション装置45から取得した走行ルート上の目標軌跡Ttgtに沿って車両1を走行させるために、車輪11L,11Rの目標操舵角θtを設定する。本実施形態において、設定部51は、車両位置センサ43から出力される車両1の現在位置(現在位置Pa1及び現在位置Pa2:特に区別を要しない場合には現在位置Paと総称する)と、ナビゲーション装置45から取得した目標軌跡Ttgt上に設定される基準点(第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2:特に区別を要しない場合には基準点Ptと総称する)とに基づいて所定の円弧Atを設定し、当該円弧Atの曲率cに基づいて目標操舵角θtを設定する。設定部51は、例えばプロセッサの処理速度に応じてあらかじめ設定された所定の演算周期ごとに目標操舵角θtを設定する。
【0038】
(2-1-3.制御部)
制御部53は、一つ又は複数のプロセッサを含み、記憶部61に記憶されたプログラムを実行することにより種々の演算処理を実行し、車両1の各装置の動作を制御する。本実施形態において、制御部53は、モータ制御部55、ブレーキ制御部57及び操舵制御部59を含む。
【0039】
モータ制御部55は、駆動用モータ35の動作を制御する。具体的に、モータ制御部55は、インバータ33のスイッチング素子の動作を制御することによって、バッテリ31から駆動用モータ35への電力の供給及び駆動用モータ35による発電電力のバッテリ31への充電を制御する。これにより、モータ制御部55は、駆動用モータ35による動力の出力及びバッテリ31の充電を制御することができる。
【0040】
ブレーキ制御部57は、ブレーキシステム15の動作を制御する。具体的に、ブレーキ制御部57は、液圧制御ユニットの動作を制御することによって、各車輪11L,11Rに設けられている各ブレーキ装置13L,13Rのホイールシリンダ内の圧力を制御する。これにより、ブレーキ制御部57は、車両1に付与される制動力を制御することができる。
【0041】
操舵制御部59は、電動ステアリングシステム21の動作を制御する。具体的に、操舵制御部59は、電動ステアリングシステム21の電動モータの出力を制御することによって、車輪11L,11Rの操舵角θを制御することができる。操舵制御部59は、少なくとも車輪11L,11Rの操舵角θを制御可能に構成されていればよいが、併せて、車輪11L,11Rの操舵角θに対応させてステアリングホイールの回転角を制御してもよい。
【0042】
上述したように、車両1の運転モードは、手動運転モードと自動運転モードとの間で切り替え可能となっている。制御部53は、運転モードに応じて、車両1の加減速度および操舵角を制御する。
【0043】
例えば、手動運転モードでは、制御部53は、車両1の加減速度がドライバによるアクセル操作及びブレーキ操作に応じた加減速度となるように、各装置を制御する。具体的に、制御部53は、車両1に付与される駆動力がアクセル開度に応じた駆動力となるように、駆動用モータ35の動作を制御する。これにより、車両1の加速度をドライバによるアクセル操作に応じて制御することができる。また、制御部53は、車両1に付与される制動力がブレーキ操作量に応じた制動力となるように、ブレーキシステム15の動作を制御する。これにより、車両1の減速度をドライバによるブレーキ操作に応じて制御することができる。また、制御部53は、ドライバによるステアリング操作が行われている時に、車輪11L,11Rの操舵角θがステアリングホイールの回転角に応じた切れ角となるように電動モータの動作を制御する。これにより、ドライバのステアリング操作に応じて車輪11L,11Rの操舵角θを制御することができる。
【0044】
自動運転モードでは、制御部53は、ナビゲーション装置45により設定された走行ルートに沿って車両1が自動で走行するように、各装置を制御する。具体的に、制御部53は、ナビゲーション装置45から取得された走行ルート上の目標軌跡Ttgtに沿って車両1が自動で走行するように、各装置を制御する。制御部53は、車輪11L,11Rの操舵角θが設定部51により設定される目標操舵角θtになるように、電動ステアリングシステム21の動作を制御する。また、制御部53は、例えば、車両1の車速Vが設定速度に維持されるように、車両1の加減速度を制御する。制御部53は、例えば設定部51と同じ演算周期ごとに、各装置の制御目標を設定する。
【0045】
なお、車両1の前方に先行車が存在したり、車両1の周囲に歩行者や障害物等が存在したりする場合、制御部55は、先行車及び歩行者等と車両1との衝突を回避するように車両1の走行軌跡又は車速を調整する。ただし、以下では、本開示の技術の理解を容易にするために、先行車及び歩行者等が存在しないものとして説明する。
【0046】
(2-2.制御装置の動作例)
次に、本実施形態に係る車両の制御装置50の動作例として、制御装置50による車輪11L,11Rの操舵角θを制御する処理の一例を説明する。
【0047】
(2-2-1.目標操舵角の設定方法の概要)
まず、図3を参照して、設定部51が目標操舵角θtを設定する際の基本となる目標操舵角θtの設定方法の概要を説明する。図3は、目標操舵角θtの設定処理の基本的な考え方を示す説明図である。
【0048】
設定部51は、車両位置センサ43から送信される車両1の現在位置Paの情報を取得するとともに、ナビゲーション装置45から出力される走行ルート上の目標軌跡Ttgtの情報を取得する。設定部51は、所定の基準にしたがって前方の目標軌跡Ttgt上に基準点Ptを設定するとともに、現在の車両1の進行方向を接線とし、かつ、車両1の現在位置Pa及び基準点Ptをともに通過する円弧Atを算出する。そして、設定部51は、求めた円弧Atの曲率cの走行軌跡となるように、車輪11L,11Rの目標操舵角θtを設定する。
【0049】
ここで、本実施形態に係る制御装置50では、設定部51は、目標軌跡Ttgtの曲率cの変曲点Pcを求め、車両1が変曲点Pcを通過する前と通過した後とで異なる基準にしたがって基準点Ptを設定する。具体的に、設定部51は、車両1が目標軌跡Ttgt上の変曲点Pcを通過する前には、第1基準点Pt1を変曲点Pcよりも手前に設定する。また、設定部51は、同一の走行条件で比較した場合に、車両1が変曲点Pcを通過した後の車両1の現在位置Paから第2基準点Pt2までの距離である第2の距離L2が、車両1が変曲点Pcを通過する前の車両1の現在位置Paから第1基準点Pt1までの距離である第1の距離L1よりも大きくなるように、第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2をそれぞれ設定する。同一の走行条件とは、車速や加減速度、操舵角の少なくとも一つ又は全部が同一の条件であることを指す。
【0050】
図4及び図5は、目標軌跡Ttgtの曲率cの変曲点Pcの特定方法の例を示す説明図である。設定部51は、ナビゲーション装置45から取得した目標軌跡Ttgtを構成する目標点群の中から、任意の複数の目標点を選択する。図4及び図5の例では、5つの目標点P1~P5が選択されている。設定部51は、選択した5つの目標点P1~P5について、それぞれ二次元空間上の座標(xi,yi)と目標軌跡Ttgtの曲率ciとを求める。
【0051】
このとき用いる二次元空間は、例えば、車両1の現在位置Paを原点とし、車両1の進行方向をy軸とする二次元空間であってもよい。また、それぞれの目標点P1~P5における目標軌跡Ttgtの曲率ciは、ナビゲーション装置45から取得する目標軌跡Ttgtのデータに含まれていてもよく、取得した目標軌跡Ttgtを構成する各目標点の二次元空間上の座標のデータに基づいて設定部51により算出されてもよい。ただし、曲率ciの算出方法は特に限定されるものではない。
【0052】
設定部51は、目標点P1~P5のうち、求められた曲率c1~c5の値が最も大きい目標点を変曲点Pcに設定する。図4及び図5の例では、目標点P1~P3にかけて曲率c1~c3が増加し(つまり、曲率半径r1~r3が減少し)、目標点P3以降は、曲率c3~c5が減少している。このため、設定部51は、目標点P3を変曲点Pcに設定する。
【0053】
このとき、設定部51は、曲率cの値が最も大きい目標点の曲率cが、あらかじめ設定した所定値を超える場合に、当該目標点を変曲点Pcに設定するようにしてもよい。緩やかなカーブを走行する場合には、設定される円弧Atの曲率は小さい状態であり、目標軌跡Ttgtのカーブの内側方向への乖離度が大きくなる可能性が低く、また、操舵の振動が大きくなる可能性が低い。このため、基準点Ptの設定位置の基準を異ならせる処理を実行する機会が限定され、制御装置50の負荷を低減することができる。
【0054】
選択する目標点の数は5つに限られない。選択する目標点の数が多いほど、より正確に曲率cの変曲点Pcを特定することができる。ただし、選択する目標点の数が多すぎると演算処理に要する時間が長くなるため、これらを踏まえて目標点の数を設定することが好ましい。
【0055】
また、それぞれの目標点P1~P5の位置は任意に選択されてもよいが、目標点P1~P5の位置は、等間隔で選択されることが好ましい。複数の目標点P1~P5が等間隔で選択されることにより、求められる変曲点Pcの位置が、実際の変曲点から大きくずれるおそれを低減することができる。例えば、設定部51は、車両1の現在位置Paから所定距離の位置に、最も手前の目標点(第1目標点)P1を選択するとともに以降の目標点P2~P5を等間隔で選択する。車両1の現在位置Paが目標軌跡Ttgt上にない場合、設定部51は、車両1の現在位置Paから最も近い目標軌跡Ttgt上の点を起点(起点Pb1及び起点Pb2:特に区別を要しない場合には起点Pbと総称する)とし、現在位置Paの代わりに起点Pbからの所定距離の位置に目標点(第1目標点)P1を選択するとともに以降の目標点P2~P5を等間隔で選択する。
【0056】
この場合、起点Pbから第1目標点P1までの距離は任意に選択されてよいが、車両1の現在の車速Vに応じて設定されてもよい。同様に、目標点P1~P5の間隔を等間隔で選択する場合、それぞれの目標点P1~P5の間隔は、車両1の現在の車速Vに応じて設定されてもよい。具体的に、起点Pbから第1目標点P1までの距離、及び、目標点P1~P5の間隔は、車両1の現在の車速Vが速いほど大きくなるように設定されることが好ましい。起点Pbから第1目標点P1までの距離、及び、目標点P1~P5の間隔を、車両1の車速Vに比例して設定することにより、車両1の到達可能距離に応じて変曲点Pcの位置を求める目標軌跡Ttgtの範囲が設定され、変曲点Pcの通過前後で基準点Ptを設定する基準を異ならせる処理を確実に実行することができる。
【0057】
図6及び図7は、変曲点Pcを通過する前における第1基準点Pt1の設定範囲、及び、変曲点Pcを通過した後における第2基準点Pt2の設定範囲をそれぞれ示す説明図である。図6及び図7において、車両1の現在位置Pa1,Pa2に対して、第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2は、任意に設定される範囲α内のいずれかの目標軌跡Ttgt上に設定される。範囲αは、例えば所定の数の目標点を含む範囲として設定されてもよく、所定の距離の範囲として設定されてもよいが、これらの例に限定されない。図6及び図7に示した例では、範囲αは、三つの目標点を含む範囲とされている。
【0058】
図6に示すように、車両1が変曲点Pcを通過する前には、円弧Atを求めるための第1基準点Pt1を設定する範囲αが変曲点Pcの手前に設定される。これにより、車両1が変曲点Pcに近づくまでは、車両1の前方において目標軌跡Ttgtの曲率cが最大となる位置を挟んで第1基準点Pt1が設定される可能性が低くなり、車両1の実際の走行軌跡が、目標軌跡Ttgtの内側方向へ乖離する度合いを低減することができる。
【0059】
また、図6及び図7に示すように、車両1が変曲点Pcを通過した後の現在位置Pa2(又は起点Pb2)から第2基準点Pt2の設定範囲αまでの距離は、変曲点Pcを通過する前の現在位置Pa1(又は起点Pb1)から第1基準点Pt1の設定範囲αまでの距離よりも大きくされる。本実施形態では、車両1の車速Vにかかわらず、同一の走行条件で比較した場合であっても、車両1が変曲点Pcを通過した後の現在位置Pa2(又は起点Pb2)から第2基準点Pt2までの距離(第2の距離)D2が、変曲点Pcを通過する前の現在位置Pa1(又は起点Pb1)から第1基準点Pt1までの距離(第1の距離)D1よりも大きくなるように、第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2がそれぞれ設定される。これにより、車両1が変曲点Pcを通過し、目標軌跡Ttgtの曲率cが小さくなる状態においては、第2基準点Pt2がより遠くに設定されることとなり、求められる円弧Atの曲率が小さくなる。このため、演算周期ごとに設定される目標操舵角θtに基づいて車輪11L,11Rの操舵角θを制御した場合に、操舵の振動を低減することができる。
【0060】
(2-2-2.基準点の設定方法の具体例)
続いて、同一の走行条件で比較した場合に、第2の距離D2が第1の距離D1よりも大きくなるように第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2をそれぞれ設定する方法の具体例を説明する。
【0061】
(第1の例)
第1の例では、設定部51は、所定の単位時間後に到達すると想定される目標軌跡Ttgt上の車両1の位置に基準点Ptを設定する。その際に、設定部51は、車両1が変曲点Pcを通過した後に用いる第2の単位時間T2の値を、変曲点Pcを通過する前に用いる第1の単位時間T1の値よりも大きくする。これにより、同一の走行条件で比較した場合に、第2の距離D2が第1の距離D1よりも大きくなるように第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2がそれぞれ設定される。
【0062】
所定の単位時間後に到達すると想定される目標軌跡Ttgt上の車両1の位置に基準点Ptを設定する場合、現在位置Pa(又は起点Pb)から基準点Ptまでの距離は、車速Vが速いほど大きく、車速Vが遅いほど小さくされる。このとき、車両1が変曲点Pcを通過する前に用いられる第1の単位時間T1は、車両1が現在の車速Vの状態で第1の単位時間T1後に到達すると想定される目標軌跡Ttgt上の位置が変曲点Pcよりも手前になるように設定される。ただし、第1の単位時間T1は、設定部51の演算周期の間隔よりも長い時間に設定される。例えば、設定部51の演算周期の間隔が0.1秒である場合、第1の単位時間T1は0.2~1.0秒に設定される。
【0063】
車両1が変曲点Pcを通過する前において、設定部51は、変曲点Pcの曲率cに基づいて第1基準点Pt1の位置を調整してもよい。具体的に、設定部51は、同一の走行条件で比較した場合に、変曲点Pcの曲率cが大きいほど第1の距離D1が小さく、変曲点Pcの曲率cが小さいほど第1の距離D1が大きくなるように、第1基準点Pt1の位置を調整する。例えば、図8に示すように、変曲点Pcの曲率cが大きくなるほど第1の単位時間T1が短くなるように、第1の単位時間T1を調整してもよい。あるいは、変曲点の曲率cが大きくなるほど小さくなるように係数を設定し、上述のように車速Vに応じて求められた第1基準点Pt1までの第1の距離D1に当該係数を掛けるようにしてもよい。これにより、変曲点Pcの曲率が大きい場合、つまり、カーブが急である場合に、第1基準点Pt1がより近くに設定され、目標軌跡Ttgtのカーブの内側への走行軌跡の乖離度を低減することができる。
【0064】
また、第1の例において、車両1が変曲点Pcを通過した後に用いられる第2の単位時間T2は、第1の単位時間T1よりも大きい値に設定される。これにより、変曲点Pcの通過後、目標軌跡Ttgtの曲率cが大きくなる状態においては、第2基準点Pt2がより遠くに設定され、目標操舵角θtの算出に用いる円弧Atの曲率を大きくすることができる。したがって、操舵の振動を低減することができる。
【0065】
なお、設定部51は、ある変曲点の先に、次の変曲点の存在を検知している場合、二つの変曲点の間の適宜の位置を境界として、基準点Ptの設定に用いる単位時間を第2の単位時間T2から第1の単位時間T1に切り替える。例えば、設定部51は、二つの変曲点の間の中間地点に到達する前においては、手前の変曲点の通過後の状態として第2の単位時間T2を用い、当該中間地点に到達した後においては、次の変曲点の通過前の状態として第1の単位時間T1を用いてもよい。
【0066】
あるいは、設定部51は、目標軌跡Ttgtの曲率cの変曲点Pcが特定された場合に、変曲点Pcを通過する前、及び、変曲点Pcを通過した後の特定の区間に対して、基準点Ptの設定位置の基準を異ならせる処理を実行するようにしてもよい。これにより、目標軌跡Ttgtのカーブの内側への走行軌跡の乖離を低減したり、操舵の振動を低減したりする効果が得られやすい場面においてのみ基準点Ptの設定位置の基準を異ならせる処理が実行されるようになり、制御装置50の負荷を低減することができる。
【0067】
(第2の例)
第2の例では、設定部51は、車両1が変曲点Pcを通過する前又は通過した後の少なくとも一方において、同一の走行条件で比較した場合に第2の距離D2が第1の距離D1よりも大きくなるように設定された係数を用いて、第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2をそれぞれ設定する。例えば、設定部51は、変曲点Pcの通過前及び通過後にかかわらず、同一の単位時間を用いて、当該単位時間経過後の車両1の到達予定距離を算出する。そして、設定部51は、同一の走行条件で比較した場合に第2の距離D2が第1の距離D1よりも大きくなるように設定された係数を当該到達予定距離に掛けて、算出された到達予定距離に対応する位置に第1基準点Pt1又は第2基準点Pt2を設定する。
【0068】
例えば、変曲点Pcの通過前の到達予定距離に対してのみ係数を掛ける場合、当該係数は、1未満の適宜の値に設定される。また、変曲点Pcの通過後の到達予定距離に対してのみ係数を掛ける場合、当該係数は、1を超える適宜の値に設定される。あるいは、変曲点Pcの通過前の到達予定距離及び変曲点Pcの通過後の到達予定距離に対してそれぞれ係数を掛ける場合、変曲点Pcの通過後に用いる第2の係数が、変曲点Pcの通過前に用いる第1の係数よりも大きい値に設定される。これにより、同一の走行条件で比較した場合に、第2の距離D2が第1の距離D1よりも大きくなるように第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2がそれぞれ設定され、変曲点Pcの通過後、目標軌跡Ttgtの曲率cが大きくなる状態においては、第2基準点Pt2がより遠くに設定される。したがって、目標操舵角θtの算出に用いる円弧Atの曲率を大きくすることができ、操舵の振動を低減することができる。
【0069】
なお、第2の例において、設定部51は、所定の係数を用いる代わりに、所定距離を加減算してもよい。例えば、設定部51は、変曲点Pcの通過前の到達予定距離から所定距離を減算してもよく、変曲点Pcの通過前の到達予定距離に所定距離を加算してもよい。あるいは、変曲点Pcの通過前及び通過後の到達予定距離にそれぞれ所定距離を加減算してもよい。この場合、変曲点Pcの通過後の到達予定距離に加減算される所定距離(正又は負の値)は、変曲点Pcの通過前の到達予定距離に加減算される所定距離(正又は負の値)よりも大きい値に設定される。所定距離を加減算する方法によっても、同一の走行条件で比較した場合に、第2の距離が第1の距離よりも大きくなるように基準点Ptを設定することができる。
【0070】
また、第2の例において、係数を掛ける前の距離、あるいは、所定距離を加減算する前の距離として、単位時間後の到達予定距離の代わりに、車速Vに依存しない一定の距離が用いられてもよい。この場合においても、同一の走行条件で比較した場合に、第2の距離D2が第1の距離D1よりも大きくなるように第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2をそれぞれ設定することができる。
【0071】
また、第2の例においても、設定部51は、車両1が変曲点Pcを通過する前において、変曲点Pcの曲率cに基づいて第1基準点Pt1の位置を調整してもよい。また、設定部51は、ある変曲点の先に、次の変曲点の存在を検知している場合、二つの変曲点の間の適宜の位置を境界として、基準点Ptの設定に用いる単位時間を第2の単位時間T2から第1の単位時間T1に切り替えてもよい。さらに、設定部51は、目標軌跡Ttgtの曲率cの変曲点Pcが特定された場合に、変曲点Pcを通過する前、及び、変曲点Pcを通過した後の特定の区間に対して、基準点Ptの設定位置の基準を異ならせる処理を実行するようにしてもよい。
【0072】
(第3の例)
第3の例では、設定部51は、車両1の現在位置Pa(又は起点Pb)から、車速に依存しない定数である所定距離先の目標軌跡Ttgt上の位置に基準点Ptを設定する。その際に、設定部51は、車両1が変曲点Pcを通過した後に用いる第2の距離D2の値を、変曲点Pcを通過する前に用いる第1の距離D1の値よりも大きくする。これにより、係数を掛けたり、距離を加減算したりすることなく、第2の距離D2が第1の距離D1よりも大きくなるように第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2をそれぞれ設定することができる。
【0073】
ただし、第3の例においても、設定部51は、車両1が変曲点Pcを通過する前において、変曲点Pcの曲率cに基づいて第1基準点Pt1の位置を調整してもよい。また、設定部51は、ある変曲点の先に、次の変曲点の存在を検知している場合、二つの変曲点の間の適宜の位置を境界として、基準点Ptの設定に用いる距離を第2の距離D2から第1の距離D1に切り替えてもよい。さらに、設定部51は、目標軌跡Ttgtの曲率cの変曲点Pcが特定された場合に、変曲点Pcを通過する前、及び、変曲点Pcを通過した後の特定の区間に対して、基準点Ptの設定位置の基準を異ならせる処理を実行するようにしてもよい。
【0074】
(2-3.操舵制御処理)
続いて、図9のフローチャートに沿って、車両1の制御装置50による操舵制御処理の一例を説明する。
【0075】
まず、設定部51は、車両位置センサ43及びナビゲーション装置45から、車両1の現在位置Paのデータ及び目標軌跡Ttgtのデータを取得する(ステップS11)。次いで、設定部51は、車両1の進行方向に目標軌跡Ttgtを構成する目標点群が存在するか否かを判別する(ステップS13)。ここでは、車両1が自動運転モードに設定され、かつ、車両1が目的地に到達する前の状態で、走行ルートに沿って自動で運転されているか否かが判定される。目標点群が存在しない場合(S13/No)、設定部51は、本ルーチンを終了させる。
【0076】
一方、目標点群が存在する場合(S13/Yes)、設定部51は、目標軌跡Ttgtを構成する目標点群の中から複数の目標点P1~P5を選択し、それぞれの目標点P1~P5の二次元空間上の座標(xi,yi)及び曲率cを求める(ステップS15)。上述のとおり、選択する目標点の数が多いほど、より正確に曲率cの変曲点Pcを特定することができる。ただし、選択する目標点の数が多すぎると演算処理に要する時間が長くなるため、これらを踏まえて目標点の数を設定することが好ましい。また、それぞれの目標点P1~P5の曲率cは、目標軌跡Ttgtのデータに含まれていてもよく、目標軌跡Ttgtを構成する各目標点の二次元空間上の座標に基づいて算出されてもよい。
【0077】
次いで、設定部51は、選択した目標点P1~P5の中から、曲率cが最も大きい目標点を変曲点Pcに設定する(ステップS17)。このとき、上述のとおり、設定部51は、曲率cが最も大きい目標点の曲率cが、あらかじめ設定した所定値を超える場合に、当該目標点を変曲点Pcに設定するようにしてもよい。これにより、基準点Ptの設定位置の基準を異ならせる処理を実行する機会が限定され、制御装置50の負荷を低減することができる。図示されていないものの、該当する変曲点Pcが存在しない場合には、設定部51は、変曲点Pcの通過前後にかかわらずあらかじめ設定した基準にしたがって基準点Ptを設定し、ステップS25に進む。
【0078】
ステップS17において変曲点Pcが特定されると、設定部51は、車両1の現在位置Paは変曲点Pcよりも手前であるか否かを判別する(ステップS19)。現在位置Paが変曲点Pcよりも手前である場合(S19/Yes)、設定部51は、変曲点Pcよりも手前に第1基準点Pt1を設定する(ステップS21)。一方、現在位置Paが変曲点Pcを超えている場合(S19/No)、設定部51は、同一の走行条件で比較した場合に、現在位置Paから基準点Pt(第2基準点Pt2)までの第2の距離D2が、変曲点Pcの通過前に設定される第1基準点Pt1までの第1の距離D1よりも大きくなるように第2基準点Pt2を設定する(ステップS23)。
【0079】
例えば、上述の第1の例では、設定部51は、変曲点Pcの通過前においては、車両1が現在の車速Vの状態で、演算周期の間隔よりも長い第1の単位時間T1後に到達すると想定される目標軌跡Ttgt上の位置であって、変曲点Pcの手前の位置に第1基準点Pt1を設定する(ステップS21)。また、設定部51は、変曲点Pcの通過後においては、車両1が現在の車速Vの状態で、第1の単位時間T1よりも長い第2の単位時間T2後に到達すると想定される目標軌跡Ttgt上の位置に第2基準点Pt2を設定する(ステップS23)。
【0080】
また、上述の第2の例では、設定部51は、変曲点Pcの通過前においては、車両1が現在の車速Vの状態で、演算周期の間隔よりも長い単位時間後に到達すると想定される目標軌跡Ttgt上の位置であって、変曲点Pcの手前の位置に第1基準点Pt1を設定する(ステップS21)。また、設定部51は、変曲点Pcの通過後においては、車両1が現在の車速Vの状態で、同一の単位時間後に到達すると想定される到達予定距離を算出し、当該到達予定距離に、1を超える値に設定された係数を掛けて算出した到達予定距離に対応する位置に第2基準点Pt2を設定する(ステップS23)。変曲点Pcの通過後に、同一の単位時間後に到達すると想定される到達予定距離を基準とし、ステップS21において、変曲点Pcの通過前に、同一の単位時間後に到達すると想定される到達予定距離を算出し、当該到達予定距離に、1未満の値に設定された係数を掛けてもよい。あるいは、ステップS21及びステップS23のそれぞれにおいて係数を掛けて到達予定距離を求めて第1基準点Pt1及び第2基準点Pt2をそれぞれ設定してもよい。この場合、ステップS23で用いられる係数は、ステップS21で用いられる係数よりも大きい値に設定される。あるいは、ステップS21及びステップS23において、係数を掛ける代わりに、所定距離を加減算してもよい。
【0081】
また、上述の第3の例では、設定部51は、変曲点Pcの通過前においては、車両1の現在位置Pa1(又は起点Pb1)から、車速に依存しない定数である第1の距離D1に位置する目標軌跡Ttgt上の位置であって、変曲点Pcの手前の位置に第1基準点Pt1を設定する(ステップS21)。また、設定部51は、変曲点Pcの通過後においては、車両1の現在位置Pa2(又は起点Pb2)から、第1の距離D1よりも大きく、車速に依存しない定数である第2の距離D2に位置する目標軌跡Ttgt上の位置に第2基準点Pt2を設定する(ステップS23)。
【0082】
第1の例~第3の例のいずれの場合であっても、ステップS21において、設定部51は、車両1が変曲点Pcを通過する前において、変曲点Pcの曲率cに基づいて第1基準点Pt1の位置を調整してもよい。
【0083】
ステップS21及びステップS23において第1基準点Pt1又は第2基準点Pt2が設定された後、設定部51は、現在の車両1の進行方向を接線とし、車両1の現在位置Pa1及び第1基準点Pt1を通過する円弧Atあるいは車両1の現在位置Pa2及び第2基準点Pt2を通過する円弧Atを算出する(ステップS25)。
【0084】
次いで、設定部51は、算出した円弧Atの曲率の走行軌道が実現されるように、車輪11L,11Rの目標操舵角θtを設定する(ステップS27)。具体的に、設定部51は、車両1を算出した円弧At上を走行させる場合の操舵角を算出し、当該操舵角を目標操舵角θtとして設定する。例えば、設定部52は、円弧Atの曲率半径r及び車速Vに応じて設定される目標操舵角θtを定めた操舵角マップを参照し、求めた円弧Atの曲率半径rと車両1の現在の車速Vとに基づいて目標操舵角θtを設定する。車速Vが大きいほど遠心力が大きくなることから、車両1を同一の円弧At上を走行させる場合、車速Vが大きいほど目標操舵角θtは大きい値に設定される。
【0085】
次いで、制御部53の操舵制御部59は、車輪11L,11Rの操舵角が目標操舵角θtとなるように電動ステアリングシステム21を制御する(ステップS29)。以降、ステップS11に戻って、ここまでに説明した各ステップの処理を繰り返し実行する。
【0086】
<3.本実施形態に係る制御装置の効果>
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置50によれば、設定部51は、車両1の進行方向に沿う接線を有し、かつ、車両1の現在位置Paと目標軌跡Ttgt上に設定された基準点Ptとを通過する円弧Atを算出する。また、設定部51は、車両1を円弧At上を走行させる場合の操舵角に基づいて、目標操舵角θtを設定する。その際に、設定部51は、目標軌跡Ttgtの曲率cの変曲点Pcを特定し、車両1が目標軌跡Ttgtの曲率cの変曲点Pcを通過する前には、変曲点Pcよりも手前に第1基準点Pt1を設定する。これにより、目標軌跡Ttgtの曲率cの変曲点Pcを挟んで第1基準点Pt1が設定される可能性が低くなり、車両1がカーブを通過する際に、目標軌跡Ttgtのカーブの内側への走行軌跡の乖離度を低減することができる。
【0087】
また、設定部51は、同一の走行条件で比較した場合に、車両1が変曲点Pcを通過した後の車両1の現在位置Pa2から基準点Pt(第2基準点Pt2)までの第2の距離D2が、車両1が変曲点Pcを通過する前の車両1の現在位置Pa1から第1基準点Pt1までの第1の距離D1よりも大きくなるように、第2基準点Pt2を設定する。このため、車両1が変曲点Pcを通過し、目標軌跡Ttgtの曲率cが小さくなる状態においては、第2基準点Pt2がより遠くに設定されることとなり、求められる円弧Atの曲率が小さくなる。このため、演算周期ごとに設定される目標操舵角θtに基づいて車輪11L,11Rの操舵角θを制御した場合に、操舵の振動を低減することができる。
【0088】
また、設定部51は、車両1が変曲点Pcを通過する前においては、変曲点Pcにおける曲率cに基づいて第1基準点Pt1の位置を調整することが好ましい。これにより、変曲点Pcの曲率が大きい場合、つまり、カーブが急である場合に、第1基準点Pt1がより近くに設定され、目標軌跡Ttgtのカーブの内側への走行軌跡の乖離度を低減することができる。
【0089】
また、設定部51は、所定の単位時間後に到達すると想定される目標軌跡Ttgt上の車両1の位置に基準点Ptを設定することが好ましい。これにより、車速Vが速いほど基準点Ptが遠くに設定され、円弧Atの曲率が大きくなることによる操舵の振動を低減することができる。
【0090】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0091】
例えば、上記実施形態では、一つの基準点Ptを設定するとともに一つの円弧Atを求めて目標操舵角θtを設定していたが、本開示の技術はかかる例に限定されない。例えば、二つの基準点(基準点A及び基準点B)を設定するとともに、それぞれの基準点に対して円弧を形成し、それぞれ求められる目標操舵角に基づいて、目標操舵角の指示値を設定するようにしてもよい。この場合においても、変曲点Pcの通過前及び通過後にそれぞれ設定される基準点Aについて同一の走行条件で比較した場合に、変曲点Pcの通過後の第2の距離D2が、変曲点Pcの通過前の第1の距離D1よりも大きくなるように設定される。同様に、変曲点Pcの通過前及び通過後にそれぞれ設定される基準点Bについて同一の走行条件で比較した場合に、変曲点Pcの通過後の第2の距離D2が、変曲点Pcの通過前の第1の距離D1よりも大きくなるように設定される。
【0092】
これにより、目標軌跡Ttgtの曲率cの変曲点Pcを挟んで基準点A及び基準点Bが設定される可能性が低くなり、車両1がカーブを通過する際に、目標軌跡Ttgtのカーブの内側への走行軌跡の乖離度を低減することができる。また、車両1が変曲点Pcを通過し、目標軌跡Ttgtの曲率cが小さくなる状態においては、基準点A及び基準点Bがより遠くに設定されることとなり、それぞれ求められる円弧Atの曲率が小さくなる。このため、演算周期ごとに設定される目標操舵角θtに基づいて車輪11L,11Rの操舵角θを制御した場合に、操舵の振動を低減することができる。
【符号の説明】
【0093】
1…車両、11L,11R…車輪、19…駆動軸、21…電動ステアリングシステム、41…車両操作/挙動センサ、43…車両位置センサ、45…ナビゲーション装置、50…制御装置、51…設定部、53…制御部、55…モータ制御部、57…ブレーキ制御部、59…操舵制御部、61…記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9