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特許7697906加工剤、処理剤、加工物品ならびに加工物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】加工剤、処理剤、加工物品ならびに加工物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/20 20060101AFI20250617BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20250617BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20250617BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20250617BHJP
   A01N 33/12 20060101ALI20250617BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20250617BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20250617BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20250617BHJP
   D06M 11/56 20060101ALI20250617BHJP
   D06M 101/10 20060101ALN20250617BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01N59/16 Z
A01P1/00
A01P3/00
A01N33/12 101
A01N25/10
D06M13/463
D06M11/83
D06M11/56
D06M101:10
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022059902
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2022159227
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2021060309
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】野口 晃
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】丹藤 彰宏
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-184906(JP,A)
【文献】特開2017-088583(JP,A)
【文献】特開平11-286405(JP,A)
【文献】国際公開第2009/001438(WO,A1)
【文献】特開2006-188468(JP,A)
【文献】特開平09-077610(JP,A)
【文献】特開2000-038302(JP,A)
【文献】改訂 医薬品添加物ハンドブック Handbook of PHARMACEUTICAL EXCIPIENTS Fifth Edition ,株式会社薬事日報社,pp.164-167
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
D06M
B23B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維、再生繊維、半合成繊維および合成繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を含む被処理品に付着させる加工剤であって、
金属塩と、2種以上の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記金属塩は、
鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1であり、
前記2種以上の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウム塩と、前記第1の第4級アンモニウム塩とは異なる第2の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記第1の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウムイオンと塩化物イオンとから形成される塩化アンモニウムであり、
前記第2の第4級アンモニウム塩は、第2の第4級アンモニウムイオンと、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1つの第2のカウンターイオンとから形成される、加工剤。
【請求項2】
前記金属のイオンは、銅イオンを含む、請求項1に記載の加工剤。
【請求項3】
前記第2の第4級アンモニウム塩は、前記第2のカウンターイオンとしてリン酸イオンを含むリン酸アンモニウムを含む、請求項1または2に記載の加工剤。
【請求項4】
前記第1の第4級アンモニウムイオンおよび前記第2の第4級アンモニウムイオンは、下記式(I):
【化1】
(式(I)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基または炭素数1~4のアルキレンオキサイド基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、炭素数6~20の炭化水素基である。)
で表される、請求項1~3いずれか一項に記載の加工剤。
【請求項5】
前記式(I)において、
前記R1および前記R3は、いずれもメチル基であり、
前記R2は、ベンジル基であり、
前記R4は、炭素数8~18のアルキル基である、請求項に記載の加工剤。
【請求項6】
前記塩化アンモニウムの含有質量A1と前記リン酸アンモニウムの含有質量A2との比率:A1/A2は、1/20~20/1である、請求項に記載の加工剤。
【請求項7】
抗ウイルス性を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の加工剤。
【請求項8】
天然繊維、再生繊維、半合成繊維および合成繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を含む被処理品に付着させる処理剤であって、
請求項1~のいずれか一項に記載の加工剤と、
バインダー樹脂と、を含む、処理剤。
【請求項9】
天然繊維、再生繊維、半合成繊維および合成繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を含む被処理品と、
前記被処理品に付着する、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1であり、
前記2種以上の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウム塩と、前記第1の第4級アンモニウム塩とは異なる第2の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記第1の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウムイオンと塩化物イオンとから形成される塩化アンモニウムであり、
前記第2の第4級アンモニウム塩は、第2の第4級アンモニウムイオンと、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1つの第2のカウンターイオンとから形成される、加工物品。
【請求項10】
天然繊維、再生繊維、半合成繊維および合成繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を含む被処理品と、
前記被処理品に付着する、金属塩、2種以上の第4級アンモニウム塩およびバインダー樹脂と、を含み、
前記金属塩および前記2種以上の第4級アンモニウム塩は、前記バインダー樹脂を介して、前記被処理品に付着しており、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1であり、
前記2種以上の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウム塩と、前記第1の第4級アンモニウム塩とは異なる第2の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記第1の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウムイオンと塩化物イオンとから形成される塩化アンモニウムであり、
前記第2の第4級アンモニウム塩は、第2の第4級アンモニウムイオンと、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1つの第2のカウンターイオンとから形成される、加工物品。
【請求項11】
前記金属塩および前記2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の付着量は、前記被処理品の質量の0.01%以上8%以下である、請求項または10に記載の加工物品。
【請求項12】
前記被処理品は、羊毛を10質量%以上含む、請求項11のいずれか一項に記載の加工物品。
【請求項13】
加工剤と、天然繊維、再生繊維、半合成繊維および合成繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を含む被処理品とを、接触させて、前記加工剤を前記被処理品に付着させる工程を備え、
前記加工剤は、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩を含み、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1であり、
前記2種以上の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウム塩と、前記第1の第4級アンモニウム塩とは異なる第2の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記第1の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウムイオンと塩化物イオンとから形成される塩化アンモニウムであり、
前記第2の第4級アンモニウム塩は、第2の第4級アンモニウムイオンと、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1つの第2のカウンターイオンとから形成される、加工物品の製造方法。
【請求項14】
前記接触させる工程において、前記被処理品を前記加工剤に浸漬する、請求項13に記載の加工物品の製造方法。
【請求項15】
処理剤と、天然繊維、再生繊維、半合成繊維および合成繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を含む被処理品とを、接触させて、前記処理剤を前記被処理品に付着させる工程を備え、
前記処理剤は、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩を含む加工剤と、バインダー樹脂と、を含み、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1であり、
前記2種以上の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウム塩と、前記第1の第4級アンモニウム塩とは異なる第2の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記第1の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウムイオンと塩化物イオンとから形成される塩化アンモニウムであり、
前記第2の第4級アンモニウム塩は、第2の第4級アンモニウムイオンと、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1つの第2のカウンターイオンとから形成される、加工物品の製造方法。
【請求項16】
前記接触させる工程において、前記処理剤を前記被処理品にコーティングする、請求項15に記載の加工物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工剤、処理剤、加工物品ならびに加工物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の衛生に関する意識の高まりにより、身の回りにある種々の物品に抗菌あるいは抗ウイルス加工が施されている。これに伴い、様々な抗菌および抗ウイルス加工剤が提案されている。例えば、特許文献1には、第4級アンモニウム塩と酸化チタンとを含有する加工剤が教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-002597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、新型のウイルスが出現し、抗菌剤ならびに抗ウイルス加工剤に寄せる期待は益々高まっている。一方で、新型ウイルスの変異株も登場しており、ウイルスの種類は多岐にわたる。
【0005】
本発明の目的は、種々の細菌およびウイルスに対応し得る、加工剤および処理剤を提供することである。本発明の目的は、また、上記加工剤または処理剤が付着した加工物品およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
金属塩と、2種以上の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記金属塩は、
鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工剤に関する。
【0007】
本発明は、また、
上記の加工剤と、
バインダー樹脂と、を含む、処理剤に関する。
【0008】
本発明は、さらに、
被処理品と、
前記被処理品に付着する、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工物品に関する。
【0009】
本発明は、さらに、
被処理品と、
前記被処理品に付着する、金属塩、2種以上の第4級アンモニウム塩およびバインダー樹脂と、を含み、
前記金属塩および前記2種以上の第4級アンモニウム塩は、前記バインダー樹脂を介して、前記被処理品に付着しており、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工物品に関する。
【0010】
本発明は、さらに、
加工剤と、被処理品とを、接触させる工程を備え、
前記加工剤は、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩を含み
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工物品の製造方法に関する。
【0011】
本発明は、さらに、
処理剤と、被処理品とを、接触させる工程を備え、
前記処理剤は、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩を含む加工剤と、バインダー樹脂と、を含み、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工物品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、種々の細菌およびウイルスに対応し得る、加工剤および処理剤が提供される。本発明によれば、さらに、上記加工剤または処理剤が付着した加工物品およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
第4級アンモニウムイオンは、窒素原子に4個の炭素結合が直結する1価の陽イオンであり、抗菌性および抗ウイルス性を有することが知られている。抗菌性および抗ウイルス性の強度、および、抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルは、窒素原子に結合する基によって変化すると言われている。加えて、第4級アンモニウムイオンのカウンターイオンの種類によっても、抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルは異なることが判明した。上記カウンターイオンの種類に応じて、第4級アンモニウム塩のイオン解離度が変化するとともに、細菌およびウイルスの膜に対する活性が異なるためと考えられる。
【0014】
本実施形態では、少なくとも2種類の第4級アンモニウム塩を使用する。これにより、抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルを広くすることができる。さらに、少なくとも2種類の第4級アンモニウム塩とともに、金属塩を併用する。金属イオンは強いカチオン性を示すことに加え、イオン半径が小さいため、細菌およびウイルスの膜に強く作用する。これにより、膜表面の電位が変化して、カチオン性が高くなり、電気的な反発が生じる。そのため、膜を構成しているタンパク質の間隔が広がって、核が曝されて、細菌およびウイルスが破壊され易くなると考えられる。
【0015】
加えて、少なくとも2種類の第4級アンモニウム塩とともに金属塩を併用する本実施形態では、金属塩は、その含有量が、第4級アンモニウム塩の総含有量より過剰になるように使用される。一般的に、第4級アンモニウム塩は、エンベロープウイルスに対して作用する一方、エンベロープがないウイルスに対する抗ウイルス性をほとんど有しないと言われている。金属塩を過剰に加えることにより、エンベロープがないウイルスに対しても抗ウイルス性が発揮される。これにより、抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルはさらに広がるものと考えられる。
【0016】
[加工剤]
本実施形態に係る加工剤は、特定の金属塩と少なくとも2種の第4級アンモニウム塩とを含む。この加工剤は、広い抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルと、高い抗菌性および抗ウイルス性と、を備える。そのため、本実施形態に係る加工剤は、「抗菌加工剤」として機能し、「抗ウイルス加工剤」として機能し、「抗菌および抗ウイルス加工剤」として機能し得る。特に、本実施形態に係る加工剤は、「抗ウイルス加工剤」として有用である。
【0017】
加工剤は、水性であることが好ましく、水溶液であることがより好ましい。水性であるとは、水性媒体中に各成分が存在していることを意味している。このとき、各成分は、水性媒体に溶解していてもよいし、水性媒体中に分散していてもよい。水性媒体としては、例えば、純水、蒸留水、イオン交換水および上水が挙げられる。加工剤には、必要に応じて、有機溶剤が含まれていてもよい。
【0018】
金属塩は、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Pt(白金)、Ag(銀)およびAu(金)よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成される。第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウム塩と、第1の第4級アンモニウム塩とは異なる、第2の第4級アンモニウム塩と、を含む。
【0019】
金属塩の含有質量Mと第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である。金属塩の含有質量Mが、第4級アンモニウム塩の総含有質量Aより過剰であることにより、抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルがさらに広がる。比率:M/Aは、17.5/1~1.6/1が好ましく、15/1~2/1が特に好ましい。
【0020】
(第4級アンモニウム塩)
第4級アンモニウム塩は、第4級アンモニウムイオンとそのカウンターイオン(陰イオン)との塩である。第4級アンモニウム塩は、少なくとも、第1の第4級アンモニウム塩と、第2の第4級アンモニウム塩と、を含む。第1の第4級アンモニウム塩は、第1の第4級アンモニウムイオンと第1のカウンターイオンとの塩である。第2の第4級アンモニウム塩は、第2の第4級アンモニウムイオンと第2のカウンターイオンとの塩である。
【0021】
第1の第4級アンモニウム塩と第2の第4級アンモニウム塩とは、異なる化合物である。第1と第2の第4級アンモニウム塩とは、第1および第2の第4級アンモニウムイオンの窒素原子に結合する基が異なっている、および/または、第1および第2のカウンターイオンが異なっている。なかでも、高い抗菌性および抗ウイルス性を維持しつつ、広い抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルが得られ易い点で、少なくとも第1および第2のカウンターイオンが異なっていることが好ましい。
【0022】
第1および第2のカウンターイオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、硝酸イオンおよび硫酸イオン、その他の分子イオン(多原子イオン)が挙げられる。
【0023】
なかでも、抗菌性の観点から、第1のカウンターイオンが塩化物イオンであり、かつ、第2のカウンターイオンがリン酸イオンであることが好ましい。すなわち、第1の第4級アンモニウム塩が、塩化アンモニウムであり、第2の第4級アンモニウム塩が、リン酸アンモニウムであることが好ましい。塩化アンモニウムは、第4級アンモニウム塩の中で最も高い殺菌活性を有することが知られている。一方、過剰な塩化アンモニウムは、金属を腐食させる場合がある。塩化アンモニウムとともにリン酸アンモニウムを用いることで、高い抗菌性を維持しながら、金属に対する影響が抑制され易くなる。
【0024】
抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルがより広くなり易い点で、塩化アンモニウムの含有質量A1とリン酸アンモニウムの含有質量A2との比率:A1/A2は、1/20~20/1が好ましい。比率:A1/A2は、1/15~15/1がより好ましく、1/10~10/1がさらに好ましく、1/10~1/1が特に好ましい。さらに加工剤の安定性を考慮すると、比率:A1/A2は、1/20~1/1.2が好ましく、1/15~1/1.6がより好ましく、1/10~1/2が特に好ましい。比率:A1/A2が上記範囲であると、リン酸イオンの緩衝作用により加工剤のpHが変動し難くなって、加工剤の安定性が向上する。加工剤の安定性が高いと、アンモニウムカチオンは、細菌およびウイルスのタンパク質に、より吸着し易くなる。その結果、加工剤の効果がより発揮され易くなる。
【0025】
第1および第2の第4級アンモニウムイオンの構造は特に限定されない。抗菌性および抗ウイルス性の観点から、第1の第4級アンモニウムイオンおよび第2の第4級アンモニウムイオンの少なくとも一方は、下記式(I):
【0026】
【化1】
(式(I)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基または炭素数1~4のアルキレンオキサイド基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、炭素数6~20の炭化水素基である。)
で表されることが好ましい。なかでも、第1の第4級アンモニウムイオンおよび第2の第4級アンモニウムイオンの双方が、上記式(I)で表されることが好ましい。第1および第2の第4級アンモニウムイオンの窒素原子に結合する基は、すべて同じでもよいし、一部が同じでもよいし、すべて異なっていてもよい。
【0027】
炭素数1~6のアルキル基であるR1およびR3としては、具体的には、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、3-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~4のヒドロキシアルキル基であるR1およびR3としては、具体的には、それぞれ独立して、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシn-プロピル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシn-ブチル基等が挙げられる。炭素数1~4のアルキレンオキサイド基であるR1およびR3としては、具体的には、それぞれ独立して、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基、ブチレンオキサイド基等が挙げられる。なかでも、抗菌性および抗ウイルス性の観点から、R1およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、双方ともにメチル基であることが特に好ましい。
【0028】
R2およびR4は、それぞれ独立して、炭素数6~20の炭化水素基であって、芳香環および/または置換基を有していてよい。R2およびR4としては、具体的には、それぞれ独立して、炭素数6~20の直鎖状のアルキル基、炭素数6~20の分岐しているアルキル基、炭素数6~20の炭素原子間二重結合を1以上有する炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。R2およびR4が有する置換基としては、ヒドロキシ基、カルボニル基等が挙げられる。なかでも、抗菌性および抗ウイルス性の観点から、R2は、1以上の芳香環を有する炭素数6~20の炭化水素基が好ましく、ベンジル基であってよい。同様の観点から、R4は、炭素数8~18のアルキル基が好ましく、炭素数8~18の直鎖状のアルキル基であってよく、炭素数12~16の直鎖状のアルキル基であってよい。
【0029】
特に、第1の第4級アンモニウムイオンにおいて、R1およびR3がともにメチル基であり、R2がベンジル基であり、R4が炭素数12~16の直鎖状のアルキル基であることが好ましい。第2の第4級アンモニウムイオンにおいて、R1およびR3がともにメチル基であり、R2がベンジル基であり、R4が炭素数8~18の直鎖状のアルキル基またはであることが好ましい。場合、第4級アンモニウムイオンは、ベンザルコニウム骨格および適度な長鎖アルキル基を有する。そのため、抗菌性および抗ウイルス性はさらに向上する。このような第4級アンモニウムイオンは、製造コスト等の点でも好ましい。
【0030】
加工剤は、上記式(I)で表される以外の第4級アンモニウムイオンから形成される第4級アンモニウム塩や、塩化物イオンおよびリン酸イオン以外のカウンターイオンから形成される第4級アンモニウム塩(以下、他の第4級アンモニウム塩と総称する。)を含んでいてもよい。他の第4級アンモニウム塩としては、例えば、アルキルピリジニウム塩(セチルピリジニウム塩)、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ベンゼトニウムが挙げられる。
【0031】
抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルの観点から、加工剤に含まれるすべての第4級アンモニウム塩のうち、80質量%以上、さらには90質量%以上、特には100質量%が、塩化アンモニウムおよびリン酸アンモニウムであることが好ましい。なかでも、上記式(I)で表される第4級アンモニウムイオンと塩化物イオンとから形成される塩化アンモニウム、および、上記式(I)で表される第4級アンモニウムイオンとリン酸イオンとからから形成されるリン酸アンモニウムの合計の含有量が、第4級アンモニウム塩の総量の80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0032】
第4級アンモニウム塩の総濃度は特に限定されず、加工剤の粘度、加工剤の被処理品への付着方法、加工物品の用途等を考慮して、適宜設定すればよい。調製し易く、安定性および取り扱い性に優れる点で、加工剤における第4級アンモニウム塩の総濃度は、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましく、0.075質量%以上が特に好ましく、0.1質量%以上がなかでも好ましい。同様の観点から、上記総濃度は、10質量%以下が好ましく、5.5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.75質量%以下が特に好ましい。上記総濃度は、具体的には、0.005質量%以上10質量%以下であってよい。
【0033】
加工剤を被処理品にコーティング法により付着させる場合、例えば、第4級アンモニウム塩を上記の濃度で含む加工剤が使用される。加工剤を被処理品に含浸法により付着させる場合、例えば、加工剤を水性媒体で希釈した後、使用される。希釈倍率は特に限定されず、被処理品の形態や材質等に応じて適宜設定される。希釈倍率は、1000倍以下であることが好ましい。
【0034】
第4級アンモニウム塩の供給源は特に限定されない。第4級アンモニウム塩の供給源は、例えば、他の用途(例えば、染料固着)のために市販されている加工剤あるいは処理剤に含まれていてもよい。
【0035】
(金属塩)
金属塩(以下、第1金属塩と称す場合がある。)は、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Pt(白金)、Ag(銀)およびAu(金)よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成される。第1金属塩は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。第1金属塩は、水和物として加工剤に添加されてもよい。なかでも、抗菌性および抗ウイルス性の観点から、銅、亜鉛および銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0036】
金属イオンのカウンターイオン(陰イオン)は、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種である。なかでも、製造コスト等の点で、多原子イオンである硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、硫酸イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0037】
第1金属塩としては、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸鉄および硝酸銀よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく例示される。なかでも、抗菌性および抗ウイルス性の観点から、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛および硝酸銀よりなる群から選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0038】
加工剤は、第1金属塩以外の金属塩(以下、他の金属塩と称する。)を含んでいてもよい。他の金属塩としては、例えば、クエン酸亜鉛、リンゴ酸亜鉛、フマル酸亜鉛、グリコール酸亜鉛、乳酸亜鉛、グルコン酸亜鉛等の亜鉛塩;クエン酸第一鉄、リンゴ酸第一鉄、アスコルビン酸第一鉄、乳酸第一鉄等の鉄塩等がある。他の金属塩は、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、アルミニウム、マンガン、チタン、クロム、バナジウム等を含む、水溶性の金属塩であってよい。
【0039】
ただし、抗菌性および抗ウイルス性の観点から、加工剤に含まれるすべての金属塩のうち、80質量%以上、さらには90質量%以上、特には100質量%が、第1金属塩であることが好ましい。
【0040】
第1金属塩の濃度は特に限定されず、加工剤の粘度、加工剤の被処理品への付着方法、加工物品の用途等を考慮して、適宜設定すればよい。調製し易く、安定性および取り扱い性に優れる点で、加工剤における第1金属塩の濃度は、0.06質量%以上が好ましく、0.09質量%以上がより好ましく、0.12質量%以上がさらに好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。同様の観点から、上記濃度は、50質量%以下が好ましく、32.5質量%以下が好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。上記濃度は、具体的には、0.06質量%以上50質量%以下であってよい。
【0041】
加工剤を被処理品にコーティング法により付着させる場合、例えば、第1金属塩を上記の濃度で含む加工剤が使用される。加工剤を被処理品に含浸法により付着させる場合、上記のように、加工剤を水性媒体で希釈した後、使用される。
【0042】
加工剤は、必要に応じて、他の成分を含む。他の成分としては、例えば、被処理品の風合いを改良する柔軟剤、染料固着剤、帯電防止剤、撥水剤が挙げられる。他の成分は、第1金属塩の解離により生じる金属イオンを不安定化し難いものや、当該金属イオンとキレートを形成し難いものが好ましく、当該金属イオンとキレートを形成しないものがより好ましい。
【0043】
[処理剤]
本実施形態に係る処理剤は、上記の加工剤と、バインダー樹脂と、を含む。これにより、第1金属塩および2種の第4級アンモニウム塩が、バインダー樹脂を介して被処理品に固着されるため、長期にわたって抗菌性および抗ウイルス性が発揮され易くなる。「固着」とは、「付着」よりも強固に着いていることをいう。本実施形態に係る処理剤は、「抗菌処理剤」として機能し、「抗ウイルス処理剤」として機能し、「抗菌および抗ウイルス処理剤」として機能し得る。特に、本実施形態に係る処理剤は、「抗ウイルス処理剤」として有用である。
【0044】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂が挙げられる。
【0045】
バインダー樹脂の配合量も特に限定されず、例えば、処理剤の1質量%以上50質量%以下であってよい。バインダー樹脂は、どのような形態で含まれてもよい。例えば、バインダー樹脂を含む市販の薬剤を、第1金属塩、2種の第4級アンモニウム塩および水性媒体等を含む加工剤と混合してもよい。
【0046】
[加工物品]
本実施形態に係る加工物品は、被処理品と、被処理品に付着する金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩と、を含む。金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩は、上記の加工剤に由来する。本実施形態に係る加工物品はまた、被処理品と、被処理品に付着する、金属塩、2種以上の第4級アンモニウム塩およびバインダー樹脂と、を含む。金属塩、2種以上の第4級アンモニウム塩およびバインダー樹脂は、上記の処理剤に由来する。これら加工物品もまた、広い抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルと、高い抗菌性および抗ウイルス性と、を備える。
【0047】
上記の処理剤を用いる場合、金属塩(第1金属塩)および2種以上の第4級アンモニウム塩は、バインダー樹脂を介して、被処理品に付着(固着)している。
【0048】
第1金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩の付着量は特に限定されず、加工物品の使用形態等に応じて適宜設定すればよい。抗菌性および抗ウイルス性が発揮され易い点で、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の付着量(質量)は、被処理品の質量の0.01%以上が好ましく、0.025%以上がより好ましく、0.04%以上が特に好ましい。コスト等の観点から、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の付着量は、被処理品の質量の8%以下であってよく、5%以下であってよく、2%以下であってよい。金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の好ましい付着量は、被処理品の質量の0.01%以上8%以下である。
【0049】
(被処理品)
被処理品は特に限定されない。被処理品は、例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維および合成繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。天然繊維は、植物繊維および動物繊維に大別される。植物繊維としては、コットン(木綿)、麻、パルプ等が挙げられる。動物繊維としては、羽毛、シルク(絹)、獣毛(ウール(羊毛)、アンゴラ、カシミヤ、モヘヤ、らくだ毛、兎毛、馬毛、ラマ毛)等が挙げられる。再生繊維としては、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、溶剤紡糸セルロース繊維等が挙げられる。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート等が挙げられる。合成繊維としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、アクリル等が挙げられる。
【0050】
被処理品は、動物繊維を含んでよく、特に獣毛、さらには羊毛を含んでよい。被処理品が動物繊維を含む場合、加工物品の抗菌性および抗ウイルス性が低下し難い。すなわち、優れた耐久性を示す。動物繊維を含む加工物品は、例えば、高い洗濯耐久性を有する。動物繊維を含む加工物品は、例えば、バインダー樹脂を用いない場合であっても、高い洗濯耐久性を示す。この理由は定かではないが、動物繊維に含まれる蛋白質を構成するアミノ酸の側鎖と、加工剤または処理剤に含まれる金属イオンもしくは第4級アンモニウムイオンとが、イオン結合しているためと考えられる。
【0051】
獣毛(特に、羊毛)は動物繊維の中でも糸にし易く、布帛(織物、編物、不織布)に形成され易い。加工剤または処理剤は、容易に布帛の表面に固定することができるため、抗菌性および抗ウイルス性が発揮され易く、また耐久性を向上させ易い。
【0052】
動物繊維の被処理品に占める質量割合は、10質量%以上であってよく、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよい。一態様において、動物繊維の被処理品に占める質量割合は、10質量%以上100質量%以下である。
【0053】
羊毛の被処理品に占める質量割合は、10質量%以上であってよく、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよい。一態様において、羊毛の被処理品に占める質量割合は、10質量%以上100質量%以下である。
【0054】
被処理品は、上記繊維そのものであってよく、上記繊維の少なくとも1種を撚って得られる糸であってよく、上記繊維または糸により形成される繊維構造体であってよい。
【0055】
糸は、モノフィラメント糸であってよく、マルチフィラメント糸であってよく、紡績糸であってよい。繊維またはその糸は、例えば、枕、布団、ジャケットおよびコート等の詰め物として使用され得る。繊維または糸の繊度や長さは特に限定されず、用途等に応じて適宜設定される。
【0056】
繊維構造体としては、例えば、織物、編物、不織布、および繊維または糸を粒状に集合させた粒綿(玉状綿または粒状綿等ともいう)が挙げられる。上記の通り、抗菌性および抗ウイルス性を発現させ易く、耐久性も向上し易い点で、繊維構造体は、織物、編物、不織布などの布帛であってよい。繊維構造体は、例えば、布団カバー、ベッドシーツおよび枕カバー等の寝装用品、寝装用詰め物、寝間着(パジャマ)、外衣、肌着、セーター、カッターシャツ、スーツ、学生服等の一般衣料、衣料用詰め物、カーテン、カーペット、壁紙およびテーブルクロス等の室内装飾用品、ハンドタオル、バスタオルおよび足ふきマット等の浴室用品、感染防止用マスク、ガーゼおよび包帯等の衛生材料として用いられる。
【0057】
加工物品の具体的な例を説明する。被処理品として、使い捨て用途においては不織布が好適である。不織布の形態は特に限定されず、例えば、短繊維不織布、長繊維不織布、およびその積層体が挙げられる。特に、処理剤の裏抜け防止および加工トラブル防止の観点から、不織布の目付(単位面積当たりの質量)は10g/m以上が好ましく、15g/m以上が特に好ましい。使い捨て用途である場合、コストや取り扱い性等の観点から、不織布の目付は150g/m以下が好ましく、100g/m以下が特に好ましい。不織布の種類も特に限定されない。不織布の種類としては、例えば、サーマルボンド不織布(エアスルー不織布、エンボス不織布など)、ニードルパンチ不織布、水流交絡不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布等が挙げられる。特に、後述するコーティング法により加工剤または処理剤を付与する場合、生産工程、付着性の観点から、サーマルボンド不織布およびスパンボンド不織布が好ましい。
【0058】
[加工物品の製造方法]
本実施形態に係る加工物品は、例えば、上記の加工剤または処理剤と上記の被処理品とを接触させる工程を備える方法により製造される。
【0059】
被処理品が繊維、糸、スライバーまたはトップである場合、接触工程の後、この繊維、糸、スライバーまたはトップを用いて繊維構造体が形成されてもよい。被処理品は、裁断前の繊維構造体であってよく、裁断および縫製後の繊維構造体であってよい。
【0060】
(接触工程)
上記の加工剤または処理剤と上記の被処理品とを接触させる方法は特に限定されない。接触方法としては、例えば、浸漬法、噴霧法が挙げられる。浸漬法は、繊維、糸および繊維構造体(縫製前であっても縫製後であってもよい)のいずれに対しても好ましく用いられる。噴霧法は、縫製後の繊維構造体に対して特に好ましく用いられる。
【0061】
接触方法としては、また、コーティング法が挙げられる。コーティング法は、縫製前(さらには裁断前)の繊維構造体に対して特に好ましく用いられる。コーティング法は特に限定されず、例えば、ダイコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法(例えば、グラビアコーティング法、フレキソコーティング法)が挙げられる。コーティング法を用いる場合、バインダー樹脂を含む処理剤を用いることが好ましい。
【0062】
加工剤または処理剤は、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の付着量が上記の範囲になるように、被処理品に接触される。接触工程の条件(温度、湿度、荷重の有無、被処理品の搬送速度等)は特に限定されず、被処理品の形状および種類、加工剤の粘度等に応じて、適宜設定される。
【0063】
接触工程は浸漬法で行われてよい。特に、被処理品が羊毛を含む場合、生産性の観点から、浸漬法を用いてよい。浸漬法において、加工剤または処理剤は、例えば、濃度が1%o.w.f以上20%o.w.f以下となるように調製される。浸漬法に使用される加工剤または処理剤の濃度は、4%o.w.f以上であってよく、7%o.w.f以上であってよい。浸漬法に使用される加工剤または処理剤の濃度は、17.5%o.w.f以下であってよく、15%o.w.f以下であってよい。
【0064】
浸漬後、乾燥処理が行われる。乾燥温度は、例えば、60℃以上180℃以下である。乾燥温度は、90℃以上であってよく、120℃以上であってよい。乾燥温度は、160℃以下であってよく、140℃以下であってよい。乾燥時間は、例えば、0.5分以上10分以下である。乾燥時間は、1分以上であってよく、1.5分以上であってよい。乾燥時間は、9分以下であってよく、8分以下であってよい。
【0065】
乾燥後、さらに、キュアリングが行われてよい。キュアリング温度は、例えば、100℃以上195℃以下である。キュアリング温度は、125℃以上であってよく、150℃以上であってよい。キュアリング温度は、185℃以下であってよく、175℃以下であってよい。キュアリング時間は、例えば、0.1分以上5分以下である。キュアリング時間は、0.3分以上であってよく、0.5分以上であってよい。キュアリング時間は、4分以下であってよく、3分以下であってよい。最後に蒸絨加工されてよい。
【実施例
【0066】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0067】
[実施例1]
(1)処理剤の調製
表1に示す成分を所定の濃度になるように混合して、処理剤x1を調製した。
【0068】
【表1】
【0069】
(2)加工物品の作製
被処理品として、スパンボンド不織布(ポリエチレンテレフタレート製、単位面積当たりの質量20g/m)を準備した。このスパンボンド不織布の片面に、グラビアコーターを用いて、処理剤x1を塗布量24g/mでコーティングした。次いで、80℃から100℃で4分間、乾燥して、薄青色の加工物品X1を得た。被処理品の質量に対する、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の付着量は1.39%(金属塩の総付着量(M)は1.03%、第4級アンモニウム塩の総付着量(A)は0.36%、比率:M/A=2.86/1)であった。また、塩化アンモニウムの含有質量A1とリン酸アンモニウムの含有質量A2との比率:A1/A2は、1/5であった。
【0070】
(3)評価
(a)抗ウイルス性評価1(SARS-CoV-2を用いた抗ウイルス試験)
JIS L 1922「繊維製品の抗ウイルス性試験方法」を準用して、以下の条件および手順により抗ウイルス試験を行った。検体として、加工物品X1を用いた。
【0071】
(試験条件1)
・試験ウイルス:SARS-CoV-2
・宿主細胞:VeroE6/TMPRSS2(アフリカミドリザル腎臓由来細胞)
・細胞培養液:EMEM
・洗い出し液:SCDLPを、2%FBS(ウシ胎児血清)含有DMEMで10倍に希釈した溶液
・作用条件:25℃、2時間
・感染価測定法:プラーク測定法
【0072】
(試験手順1)
まず、宿主細胞に試験ウイルスを感染させて、EMEMを加えて37℃で所定時間培養した。その後、4℃、1000×gで15分間遠心分離して、上清液(ウイルス懸濁液)を得た。得られたウイルス懸濁液を、滅菌蒸留水を用いて10倍に希釈して、1×10~5×10PFU/mLに調製し、試験ウイルス懸濁液Aを得た。
次いで、検体0.4gに、試験ウイルス懸濁液Aを0.2mL接種した。25℃、2時間作用させた後、洗い出し液20mLを加え、ボルテックスミキサーで攪拌し、検体からウイルスを洗い出した。洗い出した液を段階希釈して、プラーク測定法にてウイルス感染価を測定した。最後に、次式により抗ウイルス活性値を算出した。
Mv=lg(Va)-lg(Vb)
Mv:抗ウイルス活性値
lg(Va):接種直後の標準布のウイルス感染価(PFU/標準布)の常用対数
lg(Vb):2時間静置後の検体のウイルス感染価(PFU/検体)の常用対数
【0073】
抗ウイルス活性値は、以下のように評価される。
抗ウイルス活性値≧3.0:十分な効果あり
3.0>抗ウイルス活性値≧2.0:効果あり
【0074】
算出された抗ウイルス活性値は3.7であり、この処理剤x1および加工物品X1は、SARS-CoV-2に対して十分な抗ウイルス活性があることが示された。
【0075】
(b)抗ウイルス性評価2(SARS-CoV-2を用いた抗ウイルス試験)
以下の条件および手順により抗ウイルス試験を行った。検体として、加工物品X1を用いた。
【0076】
(試験条件2)
・試験ウイルス:SARS-CoV-2
・宿主細胞:VeroE6/TMPRSS2(アフリカミドリザル腎臓由来細胞)
・細胞培養液:DMEM、EMEM
・薬剤不活化剤:SCDLPを、2%FBS(ウシ胎児血清)含有DMEMで10倍に希釈した溶液
・作用条件:25℃、10分
・感染価測定法:プラーク測定法
【0077】
(試験手順2)
まず、宿主細胞に試験ウイルスを感染させて、EMEMを加えて37℃で所定時間培養した。その後、4℃、1000×gで15分間遠心分離して、上清液(ウイルス懸濁液)を得た。得られたウイルス懸濁液を、滅菌蒸留水を用いて10倍に希釈して、1×10~5×10PFU/mLに調製し、試験ウイルス懸濁液Bを得た。
次いで、検体0.2gに、滅菌蒸留水で10倍希釈したEMEM0.6mLを接種した。検体から絞り出して、上澄みを回収した。この上澄み0.1mLと、薬剤不活化剤0.9mLとを十分に攪拌した。続いて、この混合液を、2%FBS含DMEMを用いて段階希釈して、プラーク測定法にて細胞毒性の有無を確認した。
【0078】
別途、検体0.2gに、試験ウイルス懸濁液B0.6mLを接種した。25℃、10分間作用させた後、検体から絞り出して、上澄みを回収した。この上澄みを、細胞毒性試験で不活化が確認されたのと同じ条件で不活化し、反応停止液を得た。得られた反応停止液を、2%FBS含DMEMを用いて段階希釈して、プラーク測定法にてウイルス感染価を測定した。最後に、上記と同様にして、抗ウイルス活性値を算出した。
【0079】
検体の細胞毒性は認められなかった。また、算出された抗ウイルス活性値は4.4であった。これらの試験から、処理剤x1および加工物品X1は、抗ウイルス試験2においても、SARS-CoV-2に対して十分な抗ウイルス活性があることが示された。
【0080】
(c)抗ウイルス性評価3(ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)を用いた抗ウイルス試験)
ISO18184(Textiles - Determination of antiviral activity of textile products)に基づき、以下の条件および手順により抗ウイルス試験を行った。検体として、加工物品X1を用いた。
【0081】
(試験条件3)
・試験ウイルス:ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)
・宿主細胞:MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)
・洗い出し液:SCDLP培地
・作用条件:25℃、2時間
・感染価測定法:プラーク測定法
【0082】
(試験手順3)
まず、宿主細胞に試験ウイルスを感染させて、37℃で所定時間培養した。その後、4℃、1000×gで15分間遠心分離して、上清液(ウイルス懸濁液)を得た。得られたウイルス懸濁液を、滅菌蒸留水を用いて10倍に希釈して、1×10~5×10PFU/mLに調製し、試験ウイルス懸濁液Cを得た。
次いで、検体0.4gに、試験ウイルス懸濁液Cを0.2mL接種した。25℃、2時間作用させた後、洗い出し液20mLを加え、ボルテックスミキサーで攪拌し、検体からウイルスを洗い出した。洗い出した液を段階希釈して、プラーク測定法にてウイルス感染価を測定した。最後に、抗ウイルス試験1と同様にして、抗ウイルス活性値を算出した。
【0083】
抗ウイルス活性値は、以下のように評価される。
抗ウイルス活性値≧3.0:十分な効果あり
3.0>抗ウイルス活性値≧2.0:効果あり
【0084】
算出された抗ウイルス活性値は4.2であり、この処理剤x1および加工物品X1は、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)に対して十分な抗ウイルス活性があることが示された。
【0085】
[実施例2]
(1)加工剤の調製
表2に示す成分を所定の濃度になるように混合して、加工剤x2を調製した。
【0086】
【表2】
【0087】
(2)加工物品の作製
被処理品として、洗浄済みの羽毛(ダウン90%、フェザー10%)を準備した。この羽毛10gを、500mLビーカーに入れた。別のビーカーに、水を200mL、加工剤x2を1g(10%o.w.f)および数滴の浸透剤(クリーンN15、ライオン株式会社製、非イオン系界面活性剤)を入れて混合した。この混合液を、羽毛が入っているビーカーに加え、浴比が1:30に調整して、60℃で15分間なじませた。その後、脱水し、80℃で3時間乾燥して、加工物品X2を得た。被処理品の質量に対する、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の付着量は0.56%(金属塩の付着量(M)は0.51%、第4級アンモニウム塩の総付着量(A)は0.05%、比率:M/A=10.2/1)であった。また、塩化アンモニウムの含有質量A1とリン酸アンモニウムの含有質量A2との比率:A1/A2は、1/5.25であった。
【0088】
(3)評価
(a)抗菌性評価(黄色ブドウ球菌を用いた抗菌試験)
JIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」を準用して、菌液吸収法により抗菌試験を行った。検体として、加工物品X2を用いた。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)を用いて、以下の式で示される静菌活性値を算出して、抗菌性を評価した。
【0089】
静菌活性値[S]=(Mb-Ma)-(Mc-Mo)
Ma:未加工羽毛の試験菌液接種直後の常用対数値の平均値
Mb:未加工羽毛の18時間培養後の常用対数値の平均値
Mo:検体の試験菌液接種直後の常用対数値の平均値
Mc:検体の18時間培養後の常用対数値の平均値
【0090】
抗菌活性値は、以下のように評価される。
抗菌活性値≧3.0:十分な効果あり
3.0>抗菌活性値≧2.0:効果あり
【0091】
算出された抗菌活性値は5.3であり、この加工剤x2および加工物品X2は、黄色ブドウ球菌に対して十分な抗菌活性があることが示された。
【0092】
(b)耐久性評価(洗濯3回相当品)
3回洗濯相当品である加工物品X2の抗菌性を評価した。
【0093】
(洗濯手順)
加工物品X2を、JIS L 0217で規定する家庭洗濯103法を参考にした方法にて3回洗濯した。洗濯法は、具体的には以下の通りである。
加工物品X2約10gを洗濯用ネットに入れ、家庭用洗濯機に投入し、水17リットル、JAFET洗剤を22.7mL使用して、15分間洗濯した。洗濯後、すすぎ処理を12分間行って、80℃で3時間乾燥させた。このようにして、洗濯3回相当品である加工物品X2を得た。
【0094】
(抗菌性評価)
得られた加工物品X2を検体として、上記の抗菌性評価と同様にして、黄色ブドウ球菌を用いた抗菌試験を行った。
算出された抗菌活性値は6.0であり、加工物品X2は、依然として黄色ブドウ球菌に対して十分な抗菌活性があることが示された。
【0095】
[実施例3]
(1)加工剤の調製
表3に示す成分を所定の濃度になるように混合して、加工剤x3を調製した。
【0096】
【表3】
【0097】
(2)加工物品の作製
被処理品として、羊毛を含む織物(ウール30質量%、ポリエステル70質量%、紺色、単位面積当たりの質量270g/m、経糸緯糸ともに44番手双糸、経糸密度67本/インチ、緯糸密度64本/インチ、東亜紡織株式会社製)を、縦30cm×横23cmに裁断したものを準備した。
【0098】
被処理品を加工剤x3に十分に浸漬させた後、取り出した。次いで、マングルにて、加工剤x3を被処理品の内部に浸透させつつ、余分な加工剤x3を除去した。再度、被処理品を加工剤x3に浸漬して、マングルにて余分な加工剤x3を除去した。最終のピックアップ率は66%であり、被処理品に対する加工剤x3の付着量は10%o.w.fであった。
【0099】
続いて、被処理品に、130℃で5分間の乾燥、165℃で1分間のキュアリングおよび120℃で1分間の蒸絨を行って、加工物品X3を得た。被処理品の質量に対する、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の付着量は0.57%(金属塩の付着量(M)は0.52%、第4級アンモニウム塩の総付着量(A)は0.05%、比率:M/A=10.4/1)であった。また、塩化アンモニウムの含有質量A1とリン酸アンモニウムの含有質量A2との比率:A1/A2は、1/5.42であった。
【0100】
(3)評価
(a)抗ウイルス性評価3
得られた加工物品X3を検体として、実施例1で行われた抗ウイルス性評価3と同様にして、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)を用いた抗ウイルス試験を行った。
算出された抗ウイルス活性値は4.3であり、この加工剤x2および加工物品X3は、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)に対して十分な抗ウイルス活性があることが示された。
【0101】
(b)抗菌性評価
得られた加工物品X3を検体として、実施例2で行われた抗菌性評価と同様にして、黄色ブドウ球菌を用いた抗菌試験を行った。
算出された抗菌活性値は6.0であり、この加工剤x2および加工物品X3は、黄色ブドウ球菌に対して十分な抗菌活性があることが示された。
【0102】
(c)耐久性評価(洗濯10回相当品)
10回洗濯相当品である加工物品X310の抗菌性および抗ウイルス性を評価した。
【0103】
(洗濯手順)
加工物品X3を、JIS L 0217で規定する家庭洗濯103法に準ずる方法にて洗濯し、10回洗濯相当品を得た。洗濯法は、具体的には以下の通りである。
加工物品X3約70gと、加工物品X3の質量との和が1kgになる量の負荷布(木綿100%の織布)とを用意した。加工物品X3および負荷布を洗濯用ネットに入れ、家庭用洗濯機に投入し、水30リットル、市販の洗剤(アタック粉末用洗剤、花王株式会社製、弱アルカリ性)を20g使用して、50分間洗濯した。洗濯後、すすぎ処理を40分間行って、室内で吊り干し乾燥させて、洗濯10回相当品X310を得た。
【0104】
(抗ウイルス性評価3)
得られた加工物品X310を検体として、実施例1で行われた抗ウイルス性評価3と同様にして、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)を用いた抗ウイルス試験を行った。
算出された抗ウイルス活性値は3.0であり、加工物品X310は、依然としてヒトインフルエンザウイルス(H3N2)に対して十分な抗ウイルス活性があることが示された。
【0105】
(抗菌性評価)
得られた加工物品X310を検体として、実施例2で行われた抗菌性評価と同様にして、黄色ブドウ球菌を用いた抗菌試験を行った。
算出された抗菌活性値は4.6であり、加工物品X310は、依然として黄色ブドウ球菌に対して十分な抗菌活性があることが示された。
【0106】
[比較例1]
(1)加工剤の調製
表3に示す成分を所定の濃度になるように混合して、加工剤y1を調製した。
【0107】
【表4】
【0108】
(2)加工物品の作製
被処理品として、パルプスパンレース不織布(単位面積当たりの質量50g/m、厚さ0.45mm)を準備した。このパルプスパンレース不織布を、加工剤y1に含侵した。次いで、80℃で30分間、乾燥して、薄青色の加工物品Y1を得た。被処理品の質量に対する金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の付着量は0.48%(金属塩の付着量は0.4%、第4級アンモニウム塩の総付着量は0.08%)であった。
【0109】
(3)評価
(a)抗ウイルス性評価3
検体として加工物品Y1を検体として、実施例1で行われた抗ウイルス性評価3と同様にして、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)を用いた抗ウイルス試験を行った。
【0110】
算出された抗ウイルス活性値は0.6であり、この加工剤y1および加工物品Y1は、ヒトインフルエンザウイルス(H3N2)に対して抗ウイルス活性を有しないことが示された。これは、金属塩であるEDTA-Cuがキレートを形成しているため、この状態で安定化し、銅イオンによる抗ウイルス性が発揮されなかったためであると考えられる。
【0111】
本開示は以下の態様を含む。
(態様1)
金属塩と、2種以上の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記金属塩は、
鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工剤。
(態様2)
前記金属のイオンは、銅イオンを含む、態様1の加工剤。
(態様3)
前記2種以上の第4級アンモニウム塩は、
第1の第4級アンモニウムイオンと塩化物イオンとから形成される塩化アンモニウムと、
第2の第4級アンモニウムイオンとリン酸イオンとから形成されるリン酸アンモニウムと、を含む、態様1または2の加工剤。
(態様4)
前記第1の第4級アンモニウムイオンおよび前記第2の第4級アンモニウムイオンは、下記式(I):
【化2】
(式(I)中、R1およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基または炭素数1~4のアルキレンオキサイド基であり、R2およびR4は、それぞれ独立して、炭素数6~20の炭化水素基である。)
で表される、態様3の加工剤。
(態様5)
前記式(I)において、
前記R1および前記R3は、いずれもメチル基であり、
前記R2は、ベンジル基であり、
前記R4は、炭素数8~18のアルキル基である、態様4の加工剤。
(態様6)
前記塩化アンモニウムの含有質量A1と前記リン酸アンモニウムの含有質量A2との比率:A1/A2は、1/20~20/1である、態様3~5の加工剤。
(態様7)
態様1~6の加工剤と、
バインダー樹脂と、を含む、処理剤。
(態様8)
被処理品と、
前記被処理品に付着する、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩と、を含み、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工物品。
(態様9)
被処理品と、
前記被処理品に付着する、金属塩、2種以上の第4級アンモニウム塩およびバインダー樹脂と、を含み、
前記金属塩および前記2種以上の第4級アンモニウム塩は、前記バインダー樹脂を介して、前記被処理品に付着しており、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工物品。
(態様10)
前記金属塩および前記2種以上の第4級アンモニウム塩の合計の付着量は、前記被処理品の質量の0.01%以上8%以下である、態様8または9の加工物品。
(態様11)
前記被処理品は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、および、合成繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、態様8~10の加工物品。
(態様12)
前記被処理品は、羊毛を10質量%以上含む、態様8~11の加工物品。
(態様13)
加工剤と、被処理品とを、接触させる工程を備え、
前記加工剤は、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩を含み、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工物品の製造方法。
(態様14)
前記接触させる工程において、前記被処理品を前記加工剤に浸漬する、態様13の加工物品の製造方法。
(態様15)
処理剤と、被処理品とを、接触させる工程を備え、
前記処理剤は、金属塩および2種以上の第4級アンモニウム塩を含む加工剤と、バインダー樹脂と、を含み、
前記金属塩は、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、白金、銀および金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属のイオンと、
塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン、硝酸イオンおよび酢酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種の陰イオンと、から形成され、
前記金属塩の含有質量Mと前記第4級アンモニウム塩の総含有質量Aとの比率:M/Aは、20/1~1.2/1である、加工物品の製造方法。
(態様16)
前記接触させる工程において、前記処理剤を前記被処理品にコーティングする、態様15の加工物品の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の加工剤および処理剤は、抗菌スペクトルおよび抗ウイルススペクトルが広いため、種々の菌およびウイルスの除去に好適に用いられる。