(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】ガーネット型無機材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20250617BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20250617BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20250617BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250617BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250617BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20250617BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20250617BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20250617BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20250617BHJP
【FI】
C01G25/00
C01G33/00 A
C01G49/00 D
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M50/434
H01M50/414
H01M50/489
H01M50/446
(21)【出願番号】P 2022506361
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 EP2020071436
(87)【国際公開番号】W WO2021023599
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-06-29
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】523287012
【氏名又は名称】スペシャルティ オペレーションズ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】トス, レカ
(72)【発明者】
【氏名】バートリー, ローラ
(72)【発明者】
【氏名】ビュイセット, ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】ル メルシェ, ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ブライダ, マルク-ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】アミス, ロバン
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-008871(JP,A)
【文献】特開2018-065704(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163152(WO,A1)
【文献】特開2012-224520(JP,A)
【文献】特開2017-033926(JP,A)
【文献】特開2019-055898(JP,A)
【文献】特表2013-525255(JP,A)
【文献】特開2015-147689(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0179521(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
49/10-99/00
C01G 49/00
H01M 4/00- 4/62
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として、元素Li、La、Zrと、Al、Ga、Nb、Fe、W、Ta、又はそれらの混合物からなる群の中で選択される少なくとも1つの元素Aとを含むガーネット酸化物又はガーネット型酸化物を含む、又はこれから本質的になる、無機材料Mであって、ガーネット酸化物又はガーネット型酸化物は、式(I):
[Li
x1La
3Zr
zA
wO
12] (I)
(式中、
・x1、z、及びwは正の実数であり;
・1.20<z≦2.10であり;
・0<w≦0.80であり;
・x1は前記酸化物の電気的中性から導かれる);
で表され、
・下記式:
R50(%)=(D50-D
US50)/D50×100
によって定義されるR50が、70%超であり、D50及びD
US50は、レーザー回折計で得られた、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の前記無機材料Mの粒子の分散液の直径の体積分布のメジアン径であり、D
US50は、160mLのNMP中の100mgの無機材料Mの分散液に超音波プローブを挿入し、分散液を140±10Wの出力で22分間超音波処理することからなる超音波処理を行った後に測定される、
及び/又は
・下記式:
R90(%)=(D90-D
US90)/D90×100
によって定義されるR90が、70%超であり、D90及びD
US90は、90%の粒子がD90未満の直径を有する粒子の直径に対応し、これはレーザー回折計で得られるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の前記無機材料Mの粒子の分散液の直径の体積分布から決定され、D
US90は、160mLのNMP中の100mgの無機材料Mの分散液に超音波プローブを挿入し、分散液を140±10Wの出力で22分間超音波処理することからなる超音波処理を行った後に測定される、
無機材料M。
【請求項2】
構成元素として、元素Li、La、Zrと、Al、Ga、Nb、Fe、W、Ta、又はそれらの混合物からなる群の中で選択される少なくとも1つの元素Aとを含むガーネット酸化物又はガーネット型酸化物を含む、又はこれから本質的になる、無機材料Mであって、ガーネット酸化物又はガーネット型酸化物は、式(I):
[Li
x1La
3Zr
zA
wO
12] (I)
(式中、
・x1、z、及びwは正の実数であり;
・1.20<z≦2.10であり;
・0<w≦0.80であり;
・x1は前記酸化物の電気的中性から導かれる);
で表され、
・下記式:
R50(%)=(D50-D
US50)/D50×100
によって定義されるR50が、70%超であり、D50及びD
US50は、レーザー回折計で得られた、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の前記無機材料Mの粒子の分散液の直径の体積分布のメジアン径であり、D
US50は、160mLのNMP中の100mgの無機材料Mの分散液に超音波プローブを挿入し、分散液を140±10Wの出力で22分間超音波処理することからなる超音波処理を行った後に測定される、無機材料M。
【請求項3】
前記無機材料M中のカチオンの相対組成が下記式:
Li
xLa
3Zr
zA
w (II)
(式中、
・w、x、及びzは正の実数であり;
・1.20<z≦2.10であり;
・0<w≦0.80であり;
・4.00≦x≦10.5である)に対応する、請求項1
又は2に記載の無機材料M。
【請求項4】
前記無機材料M中のカチオンの相対組成が下記式:
Li
xLa
3Zr
zA1
w1A2
w2 (IIa)
(式中、
・A1は、Al、Ga、Fe、又はこれらの組み合わせからなる群の中で選択され;
・A2は、Nb、Ta、又はこれらの組み合わせからなる群の中で選択され;
・w1、w2、x、及びzは正の実数であり;
・1.20<z≦2.10であり;
・0.10<w2≦0.80であり;
・w1及びw2は、w=w1+w2且つw≦0.80であるようなものであり;
・5.60≦x≦10.35である)に対応する、請求項1
又は2に記載の無機材料M。
【請求項5】
前記無機材料M中のカチオンの相対組成が下記式:
Li
xLa
3Zr
zA1
w1A2
w2 (IIb)
(式中、
・A1は、Al、Ga、Fe、又はこれらの組み合わせからなる群の中で選択され:
・A2はWであり;
・w1、w2、x、及びzは正の実数であり;
・1.20<z≦2.10であり;
・0<w1≦0.20であり;
・0.10<w2≦0.80であり;
・w1及びw2は、w=w1+w2且つw≦0.80になるようなものであり;
・4.80≦x≦10.20である)に対応する、請求項1
又は2に記載の無機材料M。
【請求項6】
1.90≦z≦2.10である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項7】
w≧0.05である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項8】
前記無機材料M及び/又は前記酸化物が立方晶構造を示す、請求項1~
7のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項9】
前記立方晶構造がIa-3d空間群又はI-43d空間群によって表される、請求項
8に記載の無機材料M。
【請求項10】
前記酸化物の結晶構造が、8配位したLaO
8十二面体と6配位したZrO
6八面体のフレームワークから構成される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項11】
前記酸化物の結晶構造が、LiO
4四面体とLiO
6八面体を含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項12】
前記結晶構造の外側にリチウムカチオンを含む、請求項
10又は
11に記載の無機材料M。
【請求項13】
前記酸化物中のZrが部分的にHfに置き換えられている、請求項1~
12のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項14】
モル比Hf/Zrが1/100~5/100である、請求項
13に記載の無機材料M。
【請求項15】
前記無機材料Mが、0.5μm~7.0μmのd50を示す一次粒子から凝集した粒子で形成されている、請求項1~
14のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項16】
前記無機材料Mの前記粒子が、10.0~50.0μmのD50を示す、請求項1~
15のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項17】
前記無機材料Mの前記粒子が150.0μm未満のD90を示す、請求項1~
16のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項18】
前記無機材料Mの前記粒子が20.0~150.0μmのD90を示す、請求項1~
17のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項19】
前記無機材料Mの前記粒子が0.5μm以上のD10を示し、D10が、10%の粒子がD10未満の直径を有する粒子の直径に対応し、これはレーザー回折計で得られるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の前記無機材料Mの前記粒子の分散液の前記直径の体積分布から決定される、請求項1~
18のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項20】
前記無機材料Mの前記粒子が0.5~15.0μmのD10を示し、D10が、10%の粒子がD10未満の直径を有する粒子の直径に対応し、これはレーザー回折計で得られるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の前記無機材料Mの前記粒子の分散液の前記直径の体積分布から決定される、請求項1~
19のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項21】
0.05未満の強度比(b/a)を示し、a及びbは、それぞれ16.0°~17.0°の2θと28.5°~28.7°の2θでXRDダイアグラムに表れるピークの強度である、請求項1~
20のいずれか一項に記載の無機材料M。
【請求項22】
(1)(i)ジルコニウムの塩、(ii)ランタンの塩、及び(iii)元素Aの塩又は元素Aの酸化物の前駆体、を含む水溶液Sを、塩基性化合物の水溶液と接触させて、その結果、反応媒体中に懸濁された析出物を得る工程;
(2)工程(1)の終わりに得られた反応媒体を少なくとも30分間撹拌する工程;
(3)工程(2)の終わりに得られた析出物を、アニオン性界面活性剤;非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール;カルボン酸及びそれらの塩;並びにカルボキシメチル化脂肪アルコールエトキシレートタイプの界面活性剤からなる群において選択された添加剤と接触させる工程;
(4)前の工程の終わりに回収された前記析出物を少なくとも400℃の温度で空気中でか焼し、か焼生成物を得る工程;
(5)工程(4)の終わりに得られた前記か焼生成物をリチウムの塩と接触させ、リチウムを含む生成物を得る工程;
(6)工程(5)の最後に得られた前記生成物を700℃~1100℃の温度で空気中でか焼する工程;
を含む無機材料Mの製造方法であって、
前記無機材料Mが、構成元素として、元素Li、La、Zrと、Al、Ga、Nb、Fe、W、Ta、又はそれらの混合物からなる群の中で選択される少なくとも1つの元素Aとを含むガーネット酸化物又はガーネット型酸化物を含むか又はこれから本質的にな
り、
前記無機材料Mが、70%超であるR50を示し、ここで、R50が、下記式:
R50(%)=(D50-D
US
50)/D50×100
によって定義され、D50及びD
US
50は、レーザー回折計で得られた、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の前記無機材料Mの粒子の分散液の直径の体積分布のメジアン径であり、D
US
50は、160mLのNMP中の100mgの無機材料Mの分散液に超音波プローブを挿入し、分散液を140±10Wの出力で22分間超音波処理することからなる超音波処理を行った後に測定され;且つ/又は
前記無機材料Mが、70%超であるR90を示し、ここで、R90が、下記式:
R90(%)=(D90-D
US
90)/D90×100
によって定義され、D90及びD
US
90は、90%の粒子がD90未満の直径を有する粒子の直径に対応し、これはレーザー回折計で得られるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の前記無機材料Mの粒子の分散液の直径の体積分布から決定され、D
US
90は、160mLのNMP中の100mgの無機材料Mの分散液に超音波プローブを挿入し、分散液を140±10Wの出力で22分間超音波処理することからなる超音波処理を行った後に測定される、
方法。
【請求項23】
前記ジルコニウムの塩が、硝酸ジルコニウム及び塩化ジルコニウムの群において選択される、請求項
22に記載の方法。
【請求項24】
工程(2)において、前記反応媒体が少なくとも30分間撹拌され、前記反応媒体の温度が50℃~200℃である、請求項
22又は
23に記載の方法。
【請求項25】
前記添加剤が、カルボン酸又はその塩である、請求項
22~
24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記工程(4)におけるか焼の温度が400℃~800℃である、請求項
22~
25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
工程(5)の前記接触させることが、工程(4)の終わりに得られた前記か焼生成物にリチウム塩の水溶液を含浸させること、又は共に粉末形態で工程(4)の終わりに得られた前記か焼生成物と前記リチウム塩とを一緒に混合することからなる、請求項
22~
26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
工程(6)において、工程(5)の終わりに得られた前記生成物が、最初に700℃~900℃の温度で空気中でか焼され、その後900℃~1100℃の温度で空気中でか焼される、請求項
22~
27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
(i)請求項1~
21に記載の無機材料Mと、
(ii)少なくとも1種の電気活性化合物(EAC)と、
(iii)任意選択的な、前記無機材料M以外の少なくとも1種のリチウムイオン伝導材料(LiCM)と、
(iv)任意選択的な少なくとも1種の導電性材料(ECM)と、
(v)任意選択的なリチウム塩(LIS)と、
(vi)任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P)と、
を含む組成物(C)。
【請求項30】
・金属基材と;
・前記金属基材上に直接接着され、請求項
29に記載の組成物(C)から製造される少なくとも1つの層Lと;
を含む電極(E)。
【請求項31】
・請求項1~
21に記載の無機材料Mと;
・任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P)と;
・任意選択的な少なくとも1種の金属塩と;
・任意選択的な少なくとも1種の可塑剤と;
を含むセパレータ(SP)。
【請求項32】
リチウムイオン電池の製造のための、請求項1~
21のいずれか一項に記載の無機材料Mの使用。
【請求項33】
請求項1~
21のいずれか一項に記載の無機材料Mを含むリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年8月6日出願の欧州特許出願第19315084.4号の優先権を主張するものであり、その内容は、あらゆる目的のため参照により本明細書に全て援用される。本出願とこの欧州出願との間に用語又は表現の明確さに影響を与える何らかの矛盾がある場合には、本出願のみが参照されるべきである。
【0002】
本発明は、ガーネット型無機材料の製造方法に関する。これは、ガーネット型無機材料自体にも関する。
【0003】
近年、全固体リチウム電池の開発に貢献し得る有力な材料として、ガーネット型無機材料に注目が集まってきている。実際、J.Am.Ceram. Soc.2003,volume86,pages437 to 440には、式Li5La3M2O12(MはNb又はTaである)のガーネット型の材料が、優れたリチウムイオン伝導性を有する固体電解質材料であることが報告されている。
【0004】
Angew.Chem.Int.Ed.2007,volume46,pages7778 to 7781には、Li5La3M2O12からNb又はTaをZrに置き換えることにより得られる、式Li7La3Zr2O12(以降「LLZ」と省略)の、Li、Al、及びZrに基づく別のガーネット型材料も、優れたリチウムイオン伝導性を有する固体電解質材料であることが報告されている。
【0005】
ガーネットは以前から知られており、元々は式A3B2(SiO4)3でありAとBがそれぞれ8配位と6配位のカチオン部位を表すオルトケイ酸塩に対応する。リチウム含有ガーネットは、一般組成A3B2(LiO4)3を得るためにケイ素をリチウムに置き換えることによって得られる。ガーネット構造は様々なサイズ及び電荷の多様な原子を受け入れる能力を有しているため、追加の部位でLiを用いて多数の様々なLi酸化物ガーネットが製造されてきた。実際、A及び/又はBをより高い又はより低い酸化状態のカチオンに置き換えることによってリチウム含有量を増やすことが可能であり、その結果式Li7La3Zr2O12(LLZ)の有望な固体電解質材料などのリチウム含有ガーネットが得られる。
【0006】
これら2つの材料Li5La3M2O12及びLi7La3Zr2O12には、「理想的な」ガーネット型構造と比較して過剰なLiが含まれている。この特定の結晶構造を有することは、これらの化合物が固体状態で高いリチウムイオン伝導性を示す理由の1つであると考えられている。特に、ドーパントとしてAlを含むLLZは、室温で10-4S/cmという高いリチウムイオン伝導度を示すことが発見された。
【0007】
技術上の課題
全固体リチウム二次電池の製造のためには、微粒子形態のLLZガーネット型材料を製造する方法が望まれる。実際、粒子は、電極層又はセパレータ層の製造に使用される。電極層又はセパレータの他の構成要素との接触を強化するために、微粒子が求められている。加えて、微粒子は、より高いエネルギー密度に通常有利である薄い電極層及び薄いセパレータの製造も可能にする。
【0008】
固相反応プロセスを使用してLLZガーネット型の材料を製造する従来の方法は、1,000~1,200℃の高温でのか焼工程を含む(例えば1000℃を超える温度でのか焼工程を開示しているAngew.Chem.Int.Ed.2007,volume 46,pages 7778 to 7781を参照のこと)。か焼をそのような高温で行うと、結晶粒の成長が促進されやすくなり、微粒子を直接得ることが困難になる。更に、1,000℃以上の温度におけるか焼は、通常は大量のリチウムの揮発を伴い、これはプロセスの経済性及び環境にとって問題である。
【0009】
電極及びセパレータの製造に使用される溶媒中に容易に分散できる粒子を得ることも必要とされている。
【0010】
そのため、微細且つ容易に分散可能な粒子の形態でLLZガーネット型の材料を製造する方法が必要とされている。
【背景技術】
【0011】
特開2012-224520号公報には、リチウムを含む全ての元素を含む溶液の使用を伴う、共沈によるLLZガーネット型材料の製造方法が開示されている。
【0012】
米国特許出願公開第2018/0248223号明細書及び米国特許出願公開第2019/0051934号明細書には、アンモニアを用いた共沈を含むLLZガーネット型材料の製造方法が開示されている。
【0013】
特開2012/224520号公報、特開2013/256435号公報、特開2018/065704号公報、米国特許出願公開第2018/175446号明細書、及び米国特許出願公開第2019/0036159号明細書では、特許請求されている発明として本発明の方法も無機材料Mも開示されていない。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、請求項1~22のいずれか一項又は請求項30に開示される無機材料Mに関する。それはまた、請求項23~29のいずれか一項に開示される無機材料Mの製造方法にも関する。それはまた、請求項31、32、及び33にそれぞれ開示されている組成物(C)、電極(E)、又はセパレータ(SP)にも関する。それはまた、請求項34において開示される無機材料Mの使用、及び請求項35に開示される前記無機材料Mを含む電池の使用にも関する。
【0015】
これらの目的は以降で更に説明される。
【0016】
本発明
本発明は、
(1)(i)ジルコニウムの塩、(ii)ランタンの塩、及び(iii)元素Aの塩又は元素Aの酸化物の前駆体、を含む水溶液Sを、塩基性化合物の水溶液と接触させて、その結果、反応媒体中に懸濁された析出物を得る工程;
(2)工程(1)の終わりに得られた反応媒体を少なくとも30分間撹拌する工程;
(3)工程(2)の終わりに得られた析出物を、アニオン性界面活性剤;非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール;カルボン酸及びそれらの塩;並びにカルボキシメチル化脂肪アルコールエトキシレートタイプの界面活性剤からなる群において選択された添加剤と接触させる工程;
(4)前の工程の終わりに回収された析出物を少なくとも400℃の温度で空気中でか焼する工程;
(5)工程(4)の終わりに得られた生成物をリチウムの塩と接触させる工程;
(6)工程(5)の最後に得られた生成物を700℃~1100℃の温度で空気中でか焼する工程;
を含む無機材料Mの製造方法であって、無機化合物Mが、構成元素として、元素Li、La、Zrと、Al、Ga、Nb、Fe、W、Ta、又はそれらの混合物からなる群の中で選択される少なくとも1つの元素Aとを含む酸化物である、方法に関する。
【0017】
無機材料Mは、ガーネットの構造を示すものとして説明することができる。したがって、本発明との関係においては、酸化物は、ガーネット又はガーネット型酸化物と呼ばれることがある。
【0018】
工程(1)において、(i)ジルコニウムの塩、(ii)ランタンの塩、及び(iii)元素Aの塩又は元素Aの酸化物の前駆体を含む水溶液Sは、塩基性化合物の溶液と接触させられる。
【0019】
ジルコニウムの塩は、簡便には硝酸ジルコニウム及び塩化ジルコニウムの群の中で選択される。ジルコニウムの塩は、例えば硝酸ジルコニウム又はオキシ硝酸ジルコニウムであってよい。ジルコニウムの塩は、結晶性の硝酸ジルコニルであってよい。これは、炭酸ジルコニウム又は水酸化ジルコニウムを硝酸を用いて溶解することによって得られる硝酸ジルコニウムの溶液であってもよい。この酸による攻撃は、好ましくは1.7~2.3のNO3
-/Zrモル比で行うことができる。炭酸ジルコニウムの場合には、この比は1.7~2.0であってもよい。
【0020】
ランタンの塩は硝酸ランタンであってよい。
【0021】
元素Aの酸化物の供給源は、元素Aの塩又は元素Aの酸化物の前駆体とすることができる。元素Aの供給源は、硝酸鉄、例えばFe(NO3)3、硝酸アルミニウムAl(NO3)3、又は硝酸ガリウムGa(NO3)3などの元素Aの塩であってよい。元素Aの供給源は、シュウ酸ニオブのような元素Aの配位錯体などの、元素Aの酸化物の前駆体とすることができる。元素Aの酸化物の前駆体は、元素Aのシュウ酸塩とすることができる。例えば、ニオブ酸化物の前駆体は、シュウ酸ニオブアンモニウムであってよい。
【0022】
塩基性化合物としては、水酸化物タイプ又は炭酸塩タイプの化合物を挙げることができる。塩基性化合物は、アルカリ金属又はアルカリ土類の水酸化物であってよい。塩基性化合物は、アンモニア、二級、三級、又は四級アミンであってもよい。アンモニアは、強力な塩基性水溶液を提供し、放出されたアンモニウム塩を効率的に洗い流すことができるため、好ましい。
【0023】
塩基性化合物の水溶液に水溶液Sを導入することにより、工程(1)を実施することができる。実験室スケールでは、水溶液Sは、例えば塩基性化合物の水溶液に一滴ずつ導入することができる。導入の継続時間は、30分~120分、より具体的には30分~100分であってよい。
【0024】
工程(1)は、簡便には5℃~40℃の温度、より具体的には10℃~30℃の温度、特には15℃~25℃の温度で行うことができる。
【0025】
工程(1)の析出に使用される塩基性化合物の量は、工程(1)の終わりに得られる混合物のpHが少なくとも7.0、より具体的には少なくとも9.0であるような量である。使用される塩基性化合物の量は、モル比rが1.0より高く、より具体的には1.2以上(≧1.2)、より具体的には1.4以上(≧1.4)であるような量であり、ここで、r=塩基性化合物の量/溶液S中の元素Zr、La、Aの合計量である。
【0026】
工程(1)の終わりに、反応媒体は、水性媒体に分散された析出物を含む。
【0027】
工程(2)において、工程(1)の終わりに得られた反応媒体は少なくとも30分間撹拌される。一実施形態によれば、反応媒体は少なくとも30分間撹拌され、反応媒体の温度は50℃~200℃、より具体的には80℃~150℃である。工程(2)の継続時間は、30分~10時間、より具体的には30分~5時間、更に具体的には1時間~5時間とすることができる。反応媒体は、水性媒体中に分散された析出物を含む。工程(2)は、簡便には撹拌槽型反応器などの密閉容器内で行われる。
【0028】
工程(3)において、工程(2)の終わりに得られた析出物は、アニオン性界面活性剤;非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール;カルボン酸及びそれらの塩;並びにカルボキシメチル化脂肪アルコールエトキシレート型の界面活性剤からなる群の中で選択される添加剤と接触させられる。工程(3)は、工程(2)の終わりに得られた水性媒体中の析出物の分散液に添加剤を添加することによって行うことができる。添加剤は、純粋な立方晶相を有する無機材料Mを得るのに役立つことが発見された(比較例2を参照)。
【0029】
アニオン型の界面活性剤としては、エトキシカルボキシレート、エトキシル化脂肪酸、サルコシネート、ホスフェートエステル、アルコールサルフェートなどのサルフェート、アルコールエーテルサルフェート及びサルフェート化アルカノールアミドエトキシレート、並びにスルホスクシネート、及びアルキルベンゼン又はアルキルナフタレンスルホネートなどのスルホネートを挙げることができる。非イオン性界面活性剤として、アセチレン系界面活性剤、アルコールエトキシレート、アルカノールアミド、アミンオキシド、エトキシル化アルカノールアミド、長鎖エトキシル化アミン、エチレンオキシド/プロピレンオキシドのコポリマー、ソルビタン誘導体、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ポリグリセリルエステル及びそれらのエトキシル化誘導体、アルキルアミン、アルキルイミダゾリン、エトキシル化オイル及びアルキルフェノールエトキシレートを挙げることができる。銘柄Igepal(登録商標)、Dowanol(登録商標)、Rhodamox(登録商標)及びAlkamide(登録商標)の下で販売される製品を特に挙げることができる。
【0030】
カルボン酸に関しては、特に、脂肪族モノカルボン酸又はジカルボン酸及び、これらの中でも、より特に飽和酸を使用することが可能である。脂肪酸、より特に飽和脂肪酸がまた使用されてもよい。したがって、特に、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸を挙げることができる。ジカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸を挙げることができる。カルボン酸の塩、特にアンモニウム塩も使用することができる。添加は、より具体的には、ラウリン酸又はラウリン酸アンモニウムであってもよい。
【0031】
最後に、カルボキシメチル化脂肪アルコールエトキシレート型のものから選択される界面活性剤を使用することが可能である。表現「カルボキシメチル化脂肪アルコールエトキシレート型の生成物」は、鎖の末端に-CH2-COOH基を含むエトキシル化又はプロポキシル化脂肪アルコールからなる生成物を意味することが意図される。これらの生成物は、式:
R1-O-(CR2R3-CR4R5-O)n-CH2-COOH
(式中、R1は、その長さが通常最大でも22個の炭素原子、好ましくは少なくとも12個の炭素原子である飽和又は不飽和の炭素ベースの鎖を意味し;R2、R3、R4及びR5は、同一であってもよく、水素を表してもよく、或いはR2は、アルキル基、例えば、CH3基を表してもよく、R3、R4及びR5は水素を表し;nは、最大でも50、より具体的には5~15であってもよいゼロではない整数であり、これらの値は含まれる)に相当し得る。界面活性剤は、R1が、それぞれ、飽和若しくは不飽和であってもよい上式の生成物の混合物、又は代わりに-CH2-CH2-O-基及び-C(CH3)=CH2-O-基の両方を含む生成物の混合物からなってもよいことが留意される。
【0032】
添加剤は、そのまま、又は懸濁液又は液体媒体中の溶液として添加することができる。
【0033】
添加される添加剤の量は、無機材料Mの重量に対する添加剤の重量の比(添加剤の重量/無機材料Mの重量×100)として表され、通常5%~100%、より具体的には15%~60%、好ましくは30%~50%である。この量は実施例1の通りであってもよい(添加剤/無機材料M=40%)。
【0034】
このプロセスは、工程(3)の後に工程(3a)を含むこともでき、ここで工程(3)の終わりに得られた固体が水で洗浄される。工程(3a)では、簡便には塩基性水溶液(例えばアンモニア性)を使用することができる。塩基性水溶液のpHは少なくとも8.0であってよい。
【0035】
工程(4)において、前の工程(すなわち工程(3)又は工程(3a)のいずれか)の終わりに得られた析出物は、少なくとも400℃の温度で空気中でか焼される。温度は、添加剤の分解と硝酸塩の放出を少なくとも部分的に引き起こすのに十分な高さである必要がある。工程(4)の終わりに得られる生成物は、好ましくは2.0重量%未満の量の残留炭素を含む。実際には、か焼の温度は、400℃~800℃、より具体的には、400℃~600℃であってよい。高い温度ほど、得られる生成物の比表面積を減少させる傾向がある多少の焼結を誘発する可能性がある。か焼の時間は、か焼の温度に依存する。これは一般的に30分~10時間、より具体的には1時間~5時間である。
【0036】
工程(5)において、焼成工程(4)の終わりに得られた生成物は、リチウムの塩と接触させられる。工程(5)を実行する簡便な方法は、か焼工程(4)の終わりに得られた生成物にリチウム塩の水溶液を含浸させることである。より具体的には、リチウム塩の水溶液を、撹拌しながら固体上に一滴ずつ添加することができる。リチウムの塩は、例えば、塩化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、硝酸リチウム、又は硫酸リチウムであってよい。リチウムの塩は、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、又はシュウ酸リチウムなどのリチウムのカルボン酸塩の群において選択することもできる。工程(5)を実行する別の簡便な方法は、共に粉末形態で、焼成工程(4)の終わりに得られた生成物と、リチウムの塩とを一緒に混合することである。
【0037】
添加されるリチウムの量は、焼成工程(6)中のリチウムの多少の損失を考慮に入れるために、好ましくは化学量論量よりもわずかに多くすべきである。したがって、添加されるリチウムのモル比量/リチウムの化学量論量は、1.00~1.20、より具体的には、1.05~1.15であってよい。
【0038】
工程(6)において、工程(5)の終わりに得られた生成物は、700℃~1100℃の温度で空気中でか焼される。か焼される生成物は、無機材料Mの全ての元素を含む。か焼の継続時間は、2時間~15時間、より具体的には4~10時間であってよい。
【0039】
工程(6)の特定の実施形態では、工程(5)の終わりに得られた生成物は、最初に700℃~900℃の温度で空気中でか焼され、次に900℃~1100℃の温度で空気中でか焼される。この2段階のか焼では、各か焼の継続時間は4時間~8時間であってよい。工程(6)の別の特定の実施形態では、工程(5)の終わりに得られた生成物は、空気中で750℃~850℃の温度で4~8時間のか焼時間、か焼される。
【0040】
か焼工程(6)は、簡便にはるつぼ内で行われる。るつぼがアルミナ製の場合、一部のアルミニウム原子が無機材料Mに移行する可能性がある。これにより、Alと、Ga、Nb、Fe、W、Taからなる群の中で選択される少なくとも別の元素Aとの組み合わせを含む無機材料Mを調製することができる。
【0041】
工程(6)の最後に得られた無機材料は回収される。
【0042】
無機材料Mについて
無機材料Mは、上で開示した酸化物を含むか、又は本質的にそれらからなる。無機材料Mは、立方晶構造を示し、構成元素として元素Li、La、Zrと、Al、Ga、Nb、Fe、W、Ta、又はそれらの混合物からなる群の中で選択される少なくとも1つの元素Aとを含むガーネット酸化物又はガーネット型酸化物を含むか、又は本質的にそれからなる。
【0043】
ガーネット酸化物又はガーネット型酸化物は、式(I)で示すことができる:
[Lix1La3ZrzAwO12] (I)
(式中、
・x1、z、及びwは正の実数であり;
・1.20<z≦2.10;好ましくは1.20<z≦2.05;好ましくは1.50≦z≦2.00であり;
・0<w≦0.80;好ましくは0<w≦0.60;より好ましくは0<w≦0.30;更に好ましくは、0<w≦0.25であり;
・x1は酸化物の電気的中性から導かれる)。
【0044】
Aは、Al、Ga、Nb、Fe、W、Ta、又はそれらの混合物からなる群、より具体的には、Al、Ga、Nb、又はそれらの混合物からなる群において選択される少なくとも1つの元素を表す。Aは、W、Ta、Ga、Nb、又はそれらの混合物からなる群において選択することもできる。特定の実施形態として、無機材料Mは、Alと、Ga、Nb、Fe、W、及びTaからなる群において選択される別の元素Aとの組み合わせを含む。
【0045】
zは、以下の範囲のうちの1つとすることができる:1.20<z≦2.10;好ましくは1.20<z≦2.05;好ましくは1.50≦z≦2.00である。より具体的には1.90≦z≦2.10である。更に具体的にはz≦2.00である。
【0046】
wは、以下の範囲のうちの1つとすることができる:0<w≦0.80;好ましくは0<w≦0.60;より好ましくは0<w≦0.30;更に好ましくは0<w≦0.25。より具体的には、w≧0.05である。
【0047】
x1は、酸化物の電気的中性から導かれる。そのために、リチウム以外の酸化物の構成元素の比率及び前記元素の酸化の程度が考慮に入れられる。更に、次の酸化度が使用される:Li+I;Zr+IV;Hf+IV;La+III;Al+III;Ga+III;Nb+V;Fe+III;W+VI;Ta+V。例として、実施例1の酸化物の場合、z=1.99;w=0.22であるため、x1=6.38(x1=24-3x3-4x1.99-3x0.22)である。
【0048】
無機材料Mと酸化物は立方晶構造を示す。立方晶構造はXRDによって決定することができる。立方晶構造は、特にA=Ga、Fe、又はAl+Gaの場合、通常Ia-3d空間群、場合によってはI-43d空間群によって表される。
【0049】
酸化物の結晶構造は、通常、8配位したLaO8十二面体と6配位したZrO6八面体のフレームワークから構成される。より具体的には、これは、8配位のLaO8十二面体(24c)及び6配位のZrO6八面体(16a)のフレームワークから構成されていてもよい。
【0050】
無機材料Mにおけるカチオンの相対組成は下記式に対応する:
LixLa3ZrzAw (II)
(式中、
・Aは上で開示した通りであり;
・w、x、zは正の実数であり;
・Z及びwは上で開示した通りであり;
・4.00≦x≦10.5;好ましくは5.10≦x≦9.1;より好ましくは6.20≦x≦7.7である)。
【0051】
より具体的には、カチオンの相対組成は以下の通りであってよい:
・Aは、Nb、Ta、又はこれらの組み合わせからなる群の中で選択され;
・1.20<z≦2.10;好ましくは1.20<z≦2.05;好ましくは1.50≦z≦2.00であり;
・0.10<w≦0.80;好ましくは0.20<w≦0.80;より好ましくは、0.20<w≦0.50であり;
・6.20≦x≦10.35;好ましくは6.20≦x≦8.84;より好ましくは6.50≦x≦7.48である。
【0052】
より具体的には、カチオンの相対組成は以下の通りであってよい:
・AはWであり;
・1.20<z≦2.10;好ましくは1.20<z≦2.05;好ましくは1.50≦z≦2.00であり;
・0.10<w≦0.80;好ましくは0.20<w≦0.80;より好ましくは、0.20<w≦0.50であり;
・5.40≦x≦10.20;好ましくは5.40≦x≦8.58;より好ましくは6≦x≦7.26である。
【0053】
より具体的には、カチオンの相対組成は以下の通りであってもよい:
・Aは、Al、Ga、Fe、又はそれらの組み合わせからなる群の中で選択され;
・1.90<z≦2.10;好ましくは1.95≦z≦2.05;好ましくは1.95≦z≦2.00であり;
・0.10<w≦0.80;好ましくは0.20<w≦0.60;より好ましくは、0.10<w≦0.25であり;
・4.60≦x≦10.05;好ましくは5.20≦x≦8.32;より好ましくは6.25≦x≦7.37である。
【0054】
一実施形態によれば、無機材料Mにおけるカチオンの相対組成は下記式にも対応し得る:
LixLa3ZrzA1w1A2w2 (IIa)
(式中、
・A1は、Al、Ga、Fe、又はこれらの組み合わせからなる群の中で選択され;
・A2は、Nb、Ta、又はこれらの組み合わせからなる群の中で選択され;
・w1、w2、x、及びzは正の実数であり;
・1.20<z≦2.10;好ましくは1.20<z≦2.05;好ましくは1.50≦z≦2.00であり;
・0<w1≦0.20であり;
・0.10<w2≦0.80;好ましくは0.20<w2≦0.80;より好ましくは、0.20<w2≦0.50であり;
・w1及びw2は、w=w1+w2且つw≦0.80であるようなものであり;
・5.60≦x≦10.35;好ましくは5.60≦x≦8.84;より好ましくは5.90≦x≦7.48である)。
【0055】
より具体的には、式(IIa)によればA1=Alである。より具体的には、式(IIa)によればA2=Nbである。
【0056】
一実施形態によれば、無機材料Mにおけるカチオンの相対組成は下記式にも対応し得る:
LixLa3ZrzA1w1A2w2 (IIb)
(式中、
・A1は、Al、Ga、Fe、又はこれらの組み合わせからなる群の中で選択され:
・A2はWであり;
・w1、w2、x、及びzは正の実数であり;
・1.20<z≦2.10;好ましくは1.20<z≦2.05;好ましくは1.50≦z≦2.00であり;
・0<w1≦0.20であり;
・0.10<w2≦0.80;好ましくは0.20<w2≦0.80;より好ましくは、0.20<w2≦0.50であり;
・w1及びw2は、w=w1+w2且つw≦0.80になるようなものであり;
・4.80≦x≦10.20;好ましくは4.80≦x≦8.58;より好ましくは5.40≦x≦7.26である)。
【0057】
より具体的には、式(IIb)によればA1=Alである。
【0058】
無機材料Mの組成、及びその結果としてのx、z、w、w1、及びw2は、当業者に周知の分析技術を使用する化学分析によって決定することができる。無機材料Mの組成、及びその結果としてのx、z、w、w1、及びw2を決定する簡便な方法は、無機材料Mの化学的攻撃により得られる水溶液を調製し、水溶液中の元素の含有量を前記分析技術によって決定することからなる。簡便な分析方法は、ICP、より具体的にはICP-MS(誘導結合プラズマ-質量分析)又はICP-AES(誘導結合プラズマ-原子発光分析)である。
【0059】
本発明との関係において、x≧x1であることに留意しなければならない。これは、元素リチウムが通常、工程(6)の焼成の高温における多少の潜在的な損失を考慮に入れるために、プロセスの工程(5)で過剰に添加されるという事実によって説明される。この違いの例として、ICPによって分析された実施例1の無機材料Mのカチオンの相対組成は、Li6.44La3Zr1.99Al0.22(x=6.44)に対応する一方で、酸化物はLi6.38La3Zr1.99Al0.22O12(x1=6.38)の組成である。
【0060】
リチウムカチオンは結晶構造内に位置しているが、結晶構造の外側に位置している可能性もある。酸化物の結晶には、LiO4四面体及びLiO6八面体が含まれる。より具体的には、Chem.Lett.2011,40,60-62に概説されているように、結晶内のLi+は、格子間サイトに位置しており、四面体(24d)、八面体(48g)、及び歪んだ4配位(96h)を示すと一般的に説明されている。
【0061】
したがって、無機材料Mは、結晶構造の外側のリチウムカチオンも含み得る。したがって無機材料Mは、無機材料Mの電気的中性を確保するためにO2
-以外のアニオンも含み得る。O2
-以外のアニオンは、例えば、ヒドロキシド又はカーボネートであってよい。
【0062】
Zrは、通常、Zrが抽出される鉱石中のHfと関連していることに注意しなければならない。そのため、本発明は、無機材料M、及びZrが部分的にHfで置き換えられている酸化物にも適用される。モル比Hf/Zrは、通常1/100~5/100、より具体的には1/100~2/100である。
【0063】
無機材料Mの粒子は、従来の固相化学によって調製されたものよりも微細な粒子からできている。より微細な粒子ほど、電極又はセパレータの作製に使用される従来の溶媒(例えばNMP)中により容易に分散される。これらはまた、粒子と電極又はセパレータの他の構成要素との間を確実により密接に接触させる。
【0064】
無機材料Mの粒子は、通常10.0~50.0μm、より具体的には10.0~40.0μm、更に具体的には10.0~35.0μmのD50を示す。
【0065】
無機材料Mの粒子は、通常150.0μm未満であるD90も示し得る。D90は20.0~150.0μm、より具体的には20.0~100.0μmであってもよい。
【0066】
無機材料Mの粒子は、通常0.5μm以上であるD10も示し得る。D10は、0.5~15.0μm、より具体的には0.5~10.0μmであってよい。
【0067】
このプロセスにより、容易に解凝集される無機材料Mを得ることができる。超音波下での処理後、無機材料Mの粒子は、通常、15.0μm以下、より具体的には10.0μm以下、更に具体的には5.0μm以下のDUS50を示す。このDUS50は、0.5μm~15.0μm、より具体的には0.5μm~10.0μm、更に具体的には1.0μm~10.0μmであってよい。超音波下での処理は、160mLのNMP中の100mgの無機材料Mの分散液に超音波プローブを挿入し、分散液を140±10Wの出力で22分間超音波処理することからなる。分散液の温度は、45℃未満、より具体的には30℃未満にとどめることが好ましい。
【0068】
超音波下での処理後、無機材料Mの粒子は、通常30.0μm以下、より具体的には20.0μm以下、更に具体的には15.0μm以下のDUS90を示す。
【0069】
したがって、無機材料Mの粒子は、超音波下での処理後にD50及びD90の大きな変動を示す。D50及びD90は、超音波処理中に時間と共に減少する。しかし、これらの2つのパラメータは、超音波処理が終了する前に安定する傾向があることが観察された。したがって、D90>DUS50且つD90>DUS90である。D50及びD90の変動は、次の2つの比率で確認することができる:
R50(%)=(D50-DUS50)/D50×100
R90(%)=(D90-DUS90)/D90×100
【0070】
R50は、50%超、より具体的には60%超、更に具体的には70%超又は80%超であってよい。R90は、50%超、より具体的には60%超、更に具体的には70%超又は80%超であってよい。
【0071】
実施例で示されているように、本発明の方法により、70%を超えるR50及び/又は70%を超えるR90を示す無機材料Mを得ることが可能になる。80%を超えるR50及び/又は80%を超えるR90を得ることも可能である。
【0072】
D10、D50、D90は、粒度分布の分野で使用される通常の意味を有する。例えば、https://www.horiba.com/fileadmin/uploads/Scientific/Documents/PSA/PSA_Guidebook.pdfを参照されたい。したがって、Dnは、粒子のn%がDnよりも小さい直径を有する粒子の直径に対応する。したがって、D50はメジアン径である。これらのパラメータは、レーザー回折計で得られた、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の無機材料Mの粒子の分散液の直径の体積分布から決定される。NMP中の粒子の分散液の超音波下での処理後にD50が測定される場合、それはDUS50と表される。同様に、NMP中の粒子の分散液の超音波下での処理後にD90が測定される場合、それはDUS90と表される。
【0073】
レーザー回折計は、レーザー回折の技術を使用して、レーザー光線が分散した粒子サンプルを通過するときに散乱される光の強度を測定することにより、粒子のサイズを測定する。レーザー回折計は、Malvern製のMastersizer 3000とすることができる(https://www.malvernpanalytical.com/en/products/product-range/mastersizer-range/mastersizer-3000を参照)。
【0074】
無機材料Mの粒子(「二次粒子」)は、後に「一次粒子」と呼ばれる他のより微細な粒子から凝集した凝集体である。一次粒子は、0.5μm~7.0μm、より具体的には0.5μm~5.0μm、更に具体的には0.5μm~3.0μmのd50を示す。
【0075】
d50は、一次粒子の直径dの分布(数)に対して行われる統計分析で得られ、これらの直径は、SEM(走査型電子顕微鏡)によって得られた少なくとも1枚の写真から決定される。D50の場合、d50は分布のメジアン径に対応する。意味があるようにするために、統計分析は、好ましくは多数の粒子に対して行われる。これは、通常無機材料Mの粒子の同じサンプルの複数の写真で行われる。統計分析のために考慮される粒子の数は、好ましくは70より多く、より具体的には100より多く、更に好ましくは200より多い。
【0076】
d50は、一次粒子及び二次粒子をよく観察するのに適した倍率で行われた観察で測定される。倍率は×1000から×10000であってよい。当然、倍率はサンプルによって異なり、ケースバイケースで選択する必要がある。観察は、(i)画像分析又は(ii)作業者のいずれかによって行うことができる。粒子同士が一体に結合している場合は、作業者による観察が推奨される。
【0077】
保持される一次粒子の直径dは、写真上で見える一次粒子の画像に外接するための円の直径である。周囲の少なくとも半分が定義されている一次粒子のみが保持される。好ましくは、円は、一次粒子の輪郭がその円周の少なくとも3分の1に接しなければならない。
【0078】
本発明の方法により、純粋な立方晶構造を示す無機材料Mを得ることができる。「純粋な立方晶構造」という表現は、無機材料Mが5.0%未満の割合の正方晶相を含むことを意味すると理解する必要がある。これは、95.0%を超える割合の立方晶相も含む。これらの比率は、XRD(X線回折)、より具体的にはリートベルト解析を使用して簡便に得ることができる。正方晶相は、I 41/acd空間群に属することが知られている。
【0079】
本発明の方法は、式La2Zr2O7の望ましくない化合物の量が少ない無機材料Mを得ることも可能にする。実際、無機材料Mは、好ましくは0.05未満の強度比(b/a)を示す。a及びbは、それぞれ16.0°~17.0°の2θと28.5°~28.7°の2θでXRDダイアグラムに表れるピークの強度である。強度比(b/a)が高いほど、不純物相として存在するLa2Zr2O7が多くなる。か焼温度が高い不純物としてより多くのLa2Zr2O7が存在すると考えられる。比率(b/a)は、更には0.02未満、又は0.01未満とすることができる。これは、0.001~0.05、より具体的には0.001~0.02に含まれ得る。
【0080】
無機材料Mの使用について
上で開示された無機材料Mは、リチウムイオン電池の製造に使用することができる。したがって、本発明は、無機材料Mを含むリチウムイオン電池にも関する。
【0081】
上で開示した無機材料Mは、電極Eの製造に使用することができる。電極Eは、正極(Epと表される)であっても又は負極(Enと表される)であってもよい。
【0082】
本発明の電極Eは、典型的には、
・金属基材;
・前記金属基材上に直接接着された少なくとも1つの層Lであって、
(i)本明細書に開示の無機材料Mと、
(ii)少なくとも1種の電気活性化合物(EAC)と、
(iii)任意選択的な、無機材料M以外の少なくとも1種のリチウムイオン伝導材料(LiCM)と、
(iv)任意選択的な少なくとも1種の導電性材料(ECM)と、
(v)任意選択的なリチウム塩(LIS)と、
(vi)任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P)と、
を含む組成物(C)から製造された層L;
を含む。
【0083】
「電気活性化合物」(EAC)という用語は、電気化学デバイスの充電段階及び放電段階中にリチウムイオンをその構造中に組み入れる又は挿入する及び放出することができる化合物を意味することが意図されている。したがって、EACは、リチウムイオンをその構造に挿入及び脱離することができる化合物である。EACの性質は、電極が正極であるか又は負極であるかに依存する。
【0084】
1)正極Ep
EACは、式LiMeQ2の複合金属カルコゲニドであってよく、式中、
- Meは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、Al、及びVからなる群の中で選択される少なくとも1つの金属であり;
- QはOやSなどのカルコゲンである。
【0085】
EACは、より具体的には式LiMeO2のものであってよい。EACの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、LiNixCoyMnzO2(0<x、y、z<1且つx+y+z=1)、Li(NixCoyAlz)O2(x+y+z=1)、並びにスピネル構造のLiMn2O4及びLi(Ni0.5Mn1.5)O4が挙げられる。
【0086】
EACは、式M1M2(JO4)fE1-fのリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオンに基づく電気活性材料であってもよく、式中、
- M1はリチウムであり、これはM1の20%未満を占める別のアルカリ金属によって部分的に置換されていてもよく;
- M2は、Fe、Mn、Ni又はそれらの混合物から選択される+2の酸化レベルの遷移金属であり、これは+1~+5の間の酸化レベルで且つ0を含めて、M2金属の35%未満を占める1つ以上の追加の金属によって部分的に置換されていてもよく;
- JO4は、任意のオキシアニオンであり、JはP、S、V、Si、Nb、Mo、又はそれらの組み合わせのいずれかであり;
- Eは、フッ化物、水酸化物、又は塩化物アニオンであり;
- fは、概して0.75~1の間に含まれるJO4オキシアニオンのモル分率である。
【0087】
上で定義したM1M2(JO4)fE1-f電気活性材料は、好ましくはホスフェート系である。これは、秩序構造を有するか又は変性されたカンラン石構造を示し得る。
【0088】
EACは、硫黄又はLi2Sであってもよい。
【0089】
2)負極En
その場合、EACは、リチウムを挿入できるグラファイトカーボンからなる群の中で選択され得る。このタイプのEACの詳細な事項については、Carbon 2000,38,1031-1041の中で見ることができる。このタイプのEACは、典型的には、粉末、フレーク、繊維、又は球体(例えばメソカーボンマイクロビーズ)の形態で存在する。
【0090】
EACは、リチウム金属;リチウム合金組成物(例えば米国特許第6,203,944号明細書及び国際公開第00/03444号パンフレットに記載されているもの);一般に式Li4Ti5O12;で表されるチタン酸リチウム(これらの化合物は、一般に、可動イオン、すなわちLi+を取り込むと低レベルで物理的に膨張する、「ゼロ歪み」挿入材料とみなされる);高いLi/Si比のケイ化リチウムとして一般に知られる、リチウム-ケイ素合金、特に式Li4.4Siのケイ化リチウム;式Li4.4Geの結晶相を含むリチウム-ゲルマニウム合金;であってもよい。
【0091】
ECMは、典型的には、導電性炭素質材料と金属粉末又は繊維からなる群の中で選択される。導電性炭素質材料は、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、及びグラファイト繊維、並びにこれらの組み合わせからなる群の中で選択することができる。カーボンブラックの例としては、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックが挙げられる。金属粉末又は繊維としては、ニッケル及びアルミニウムの粉末又は繊維が挙げられる。
【0092】
リチウム塩(LIS)は、LiPF6、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、LiB(C2O4)2、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、LiAlO4、LiNO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO3CF3)2、LiC4F9SO3、LiCF3SO3、LiAlCl4、LiSbF6、LiF、LiBr、LiCl、LiOH、及びリチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾールからなる群の中で選択することができる。
【0093】
ポリマー系結合材料の機能は、組成物(C)の成分を一体に保持することである。ポリマー系結合材料は通常は不活性である。これは、好ましくは、化学的に安定であり、且つ電子的及びイオン的輸送を促進することも必要である。ポリマー系結合材料は当該技術分野で周知である。ポリマー系結合材料の非限定的な例としては、特に、フッ化ビニリデン(VDF)ベースの(コ)ポリマー、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、及びポリ(アクリロニトリル)(PAN)(コ)ポリマーが挙げられる。これは、好ましくはフルオロポリマーであり、より具体的には、VDFに由来する繰り返し単位を含むVDFベースの(コ)ポリマーである。VDFベースの(コ)ポリマーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン、又はVDFと、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのVDFとは異なる少なくとも1種のフッ素化モノマーとのコポリマーであってよい。
【0094】
組成物(C)中の無機材料Mの割合は、組成物の総重量を基準として0.1重量%~80.0重量%であってよい。特に、この割合は、1.0重量%~60.0重量%、より具体的には10.0重量%~50.0重量%であってもよい。電極(E)の厚さは特に制限されず、用途で必要なエネルギー及び出力に応じて調整する必要がある。例えば、電極(E)の厚さは0.01mm~1,000mmであってよい。
【0095】
無機材料Mは、セパレータ(SP)の作製に使用することもできる。セパレータは、バッテリーのアノードとカソードとの間に配置される透過膜である。その機能は、電子を遮断し、電極間の物理的分離を確保する一方で、リチウムイオンを透過することである。本発明のセパレータ(SP)は、典型的には、
・無機材料M;
・任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P);
・任意選択的な少なくとも1種の金属塩、特にリチウム塩;
・任意選択的な少なくとも1種の可塑剤;
を含む。
【0096】
電極(E)及びセパレータ(SP)は、当業者に周知の方法を使用して製造することができる。これは、通常適切な溶媒中で成分を混合してから溶媒を除去する。例えば、電極(E)は、以下の工程を含むプロセスによって調製することができる:
- 組成物(C)の成分と少なくとも1種の溶媒とを含むスラリーを金属基材に塗布する工程;
- 溶媒を除去する工程。
【0097】
当業者に公知の通常の技術は以下のものである:コーティング及びカレンダー加工、乾式及び湿式押出、3D印刷、多孔質フォームの焼結及びそれに続く含浸。電極(E)及びセパレータ(SP)の作製の通常の技術は、Energy Environ.Sci.,2019,12,1818で示されている。
【実施例】
【0098】
X線回折
粉末のXRD回折図は、CuX線管(波長1.5406ÅのCu Kalpha)を用いて、Bragg BrentanoジオメトリのXRDゴニオメーターで取得した。セットアップは、様々な光学構成で、すなわち可変又は固定の発散スリット、又はソーラースリットを用いて、使用することができる。Panalyticalのモノクロメータ又はBragg Brentano HD光学系など、一次側のフィルタリングデバイスを使用することもできる。可変発散スリットが使用される場合、典型的な照射面積は10mm×10mmである。サンプルホルダーはスピナーにロードされ、取得中の回転速度は典型的には60rpmである。チューブ設定は、可変スリット取得については40kV/30mAで、入射Bragg Brentano HD光学系を用いる固定スリット取得については45kV/40mAで動作させた。取得ステップは、ステップあたり0.017°であった。角度範囲は、典型的には2シータ以上で5°~90°である。総取得時間は典型的には30分以上であった。
【0099】
リートベルト解析は、Thompsonらの疑似フォークトプロファイル関数を使用して行った(P.Thompson,D.E.Cox,J.B.Hastings,J.Appl.Cryst.,20(1987),pp.79-83)。立方晶LLZO相は、Ia-3d空間群で指数付けし、原子の位置と占有率を報告した。サンプルのゼロシフト、単位格子パラメータ、スケール因子、アイソトロピックサイズ、マイクロ拘束の広がりをモデルで精密化した。機器分解能関数(IRF)は、十分に結晶化されたLaB6サンプルから得た。
【0100】
b/aの決定については、強度は、5.0°~90.0°の2θ角度範囲で取得されたベースラインを基準とした回折図で決定される。ベースラインは、回折図のデータを分析するためのソフトウェアを使用して自動的に決定される。
【0101】
d50の決定
上で概説した通り、d50は、一次粒子の直径dの分布(数)に対して行われる統計分析で得られ、これらの直径は、SEM(走査型電子顕微鏡)によって得られた少なくとも1枚の写真から決定される。走査型電子顕微鏡は、製造元が提供するガイドラインに従って適切に位置合わせ及び調整しなければならない。更に、測定された直径が実際と一致していることを確認するために、認定された参照材料を使用することができる。直径dの累積粒度分布から、d50が決定される。
【0102】
D10、D50、D90の決定
これらのパラメータは、Malvern Mastersizer 3000を使用したレーザー回折によって得た。サンプルはNMP中に分散される。生データの分析のためにミー理論が使用される。以下のパラメータを使用した:
- 無機材料Mについて:2.15の屈折率及び0.01の吸収率;
- NMPについて:1.46の屈折率。
【0103】
DUS50及びDUS90の決定
これらのパラメータは、超音波下での処理後、上で開示したものと同じ条件下でのレーザー回折によって得た。超音波下での処理は、160mLのNMP中の100mgの無機材料Mの分散液に超音波プローブを挿入し、分散液を140±10Wの出力で22分間超音波処理することからなる。140±10Wを供給するように調整された外部超音波プローブ(750W発電機 Synetude Lab 750)を使用した。測定中に懸濁液が45℃を超えて加熱されないように、氷浴を使用した。
【0104】
D50及びD90を経時的に測定できるように、外部超音波プローブをレーザー回折計に直接接続した(13秒ごとに1回の測定、粒子のデフラグメンテーションの分析全体で100回の測定)。本発明の無機材料Mについて、D50及びD90が経時的に減少し、プラトーに到達することが観察された。
【0105】
本発明の方法により、様々な組成の他の無機材料Mを得ることができる。実施例1及び6を参照のこと。
【0106】
実施例1:本発明による無機材料Mの調製
前駆体は、本発明のプロセスを用いて調製する。溶液Sは、387.2gの蒸留水と、95gのLa(NO3)3の溶液(C=472.5g/L、密度d=1.7111)と、69.8gのZrO(NO3)2の溶液(C=268.1g/L、d=1.415)と、8gの蒸留水にあらかじめ溶解させた4.03gのAl(NO3)3とを混合することによって調製する。溶液Sは、400rpmで撹拌され、429.5gの蒸留水及び63.4gの濃アンモニア(28.0重量%)が入っているタンク型反応器(容積1L)の中に1時間で一滴ずつ供給する。使用するアンモニアの量は、40%過剰に相当する(モル比r=1.40)。白色の析出物が形成される。
【0107】
添加後、混合物を反応器から取り出し、密閉された加圧タンク(オートクレーブ)に移し、そこで撹拌しながら2.5℃/分の加熱速度(150ツアー/分)で150℃で4時間加熱する。その後、混合物を撹拌しながら室温まで放冷し、オートクレーブから取り出す。
【0108】
有機添加剤(ラウリン酸、無機材料の最終予想重量を基準として40重量%)を、撹拌しながら析出物に添加する(400ツアー/分)。滴下の終了時に、撹拌を30分間維持する。次いで、混合物を濾過し、塩基性水で洗浄する(塩基性水の量:1L;pH約9)。
【0109】
その後、ケーキを500℃で空気中で4時間か焼する。500℃のか焼温度は、4℃/分の加熱速度で到達させる。その後、Alがドープされた前駆体を乳鉢で粉砕して、均質な生成物を得る。
【0110】
5gの無機材料Mを得るために、Alがドープされた前駆体5.54gを秤量する(90.3%の酸化物に相当)。硝酸リチウムの溶液を調製する(2.0gの水に3.26gのLiNO3を溶解する)。これは10.0%のLi過剰に相当する。撹拌されている前駆体にスパチュラで溶液を滴下することにより、Alがドープされた前駆体にLiNO3の水溶液を含浸させる。この工程の最後に湿ったケーキが得られる。予熱した釜の中でケーキを120℃で2時間乾燥させた後、乳鉢で粉砕する。次いで、粉末を、アルミナ製の蓋付きるつぼ内で、空気中900℃で6時間か焼し、5℃/分の加熱速度でか焼温度に到達させる。その後、か焼後に得られた粉末を乳鉢で粉砕する。その後、アルミナ製の蓋付きるつぼ内で、5℃/分の加熱速度及び2℃/分の冷却速度を使用して、1000℃で空気中で6時間、粉末に対して2回目のか焼を行う。粉末を乳鉢で粉砕する。
【0111】
含浸及びか焼後に得られた無機材料M中のカチオンの相対組成は、Li6.44Al0.22La3Zr1.99(ICPによって決定)に対応する。
【0112】
実施例2:本発明による無機材料Mの調製
工程(6)において、800℃で6時間の1回のか焼工程のみ適用したことを除いて、実施例1に記載のものと全く同じプロセスを行った。5℃/分の加熱速度の後、800℃の温度に到達する。
【0113】
実施例3:本発明による無機材料Mの調製
溶液Sにおいて、Al(NO3)3の代わりにGa(NO3)3を使用したことを除いて、実施例1に記載のものと同じプロセスを行った。含浸及びか焼後に得られた無機材料M中のカチオンの相対組成は、Li6.80Al0.05Ga0.19La3Zr1.94(ICPによって決定)に対応する。
【0114】
実施例4:本発明による無機材料Mの調製
溶液SにおいてAl(NO3)3とGa(NO3)3との混合物を使用したことを除いて、実施例1に記載のものと同じプロセスを行った。含浸及びか焼後に得られた無機材料M中のカチオンの相対組成は、Li6.65Al0.13Ga0.10La3Zr1.94(ICPによって決定)に対応する。
【0115】
実施例5:本発明による無機材料Mの調製
前駆体は、本発明のプロセスを用いて調製する。溶液Sは、393.4gの蒸留水と、95.66gのLa(NO3)3(C=472.5g/L、密度d=1.7111)と、52.78gのZrO(NO3)2(C=268.1g/L、d=1.415)と、18.73gの式C6H4NNbO12で表されるシュウ酸ニオブアンモニウムとを混合することによって調製する。溶液Sは、400rpmで撹拌され、428.4gの蒸留水及び64.4gの濃アンモニア(28.0重量%)が入っているタンク型反応器(容積1L)の中に1時間で一滴ずつ供給する。使用するアンモニアの量は、40%過剰に相当する(モル比r=1.40)。白色の析出物が形成される。
【0116】
添加後、混合物を撹拌しながら反応器内で98℃で4時間加熱する(400ツアー/分)。その後、混合物を撹拌しながら室温まで一晩放冷する。
【0117】
有機添加剤(ラウリン酸、見込まれる最終酸化物重量の40重量%)を、撹拌しながら析出物に添加する(400ツアー/分)。滴下の終了時に、撹拌を30分間継続する。次いで、混合物を濾過し、塩基性水で洗浄する(塩基性水の量:1L;pH約9)。
【0118】
その後、ケーキを500℃で空気中で4時間か焼する。500℃のか焼温度は、4℃/分の加熱速度で到達させる。その後、Nbがドープされた前駆体を乳鉢で粉砕して、均質な生成物を得る。
【0119】
5gの無機材料Mを得るために、Nbがドープされた前駆体5.58gを秤量する(89.7%の酸化物に相当)。硝酸リチウムの溶液を調製する(2.9gの水の中に3.06gのLiNO3を溶解)。これは10.0%のLi過剰に相当する。撹拌されている前駆体にスパチュラで溶液を滴下することにより、Nbがドープされた前駆体にLiNO3の水溶液を含浸させる。この工程の最後に湿ったケーキが得られる。予熱したストーブ中でケーキを110℃で2時間乾燥させた後、乳鉢で粉砕する。次いで、粉末を、アルミナ製の蓋付きるつぼ内で、空気中900℃で6時間か焼し、5℃/分の加熱速度でか焼温度に到達させる。その後、粉末を乳鉢で粉砕する。その後、アルミナ製の蓋付きるつぼ内で、5℃/分の加熱速度及び2℃/分の冷却速度を使用して、1000℃で空気中で6時間、粉末に対して2回目のか焼を行う。粉末を乳鉢で粉砕する。含浸及びか焼後に得られた無機材料M中のカチオンの相対組成は、Li7.00Al0.03Nb0.57La3Zr1.45(ICPによって決定)に対応する。
【0120】
実施例6:本発明による無機材料Mの調製
前駆体を本発明のプロセスを用いて調製した。溶液Sは、395gの蒸留水と、94.24gのLa(NO3)3(C=472.5g/L、密度d=1.7111)と、69.26gのZrO(NO3)2(C=268.1g/L、d=1.415)と、4.39gのFe(NO3)3とを混合することによって調製する。溶液Sは、400rpmで撹拌されており且つ433.8gの蒸留水及び66.2gの濃アンモニア(28.0重量%)が入っているタンク型反応器(容積1L)の中に1時間で一滴ずつ供給する。使用するアンモニアの量は、40%過剰に相当する(モル比r=1.40)。白色の析出物が形成される。
【0121】
添加後、混合物を反応器から抜き出し、密閉された加圧タンク(オートクレーブ)の中に移し、そこで撹拌しながら2.5℃/分の加熱速度(150ツアー/分)で150℃で4時間加熱する。次に、混合物を撹拌しながら室温まで放冷し、オートクレーブから抜き出す。
【0122】
有機添加剤(ラウリン酸、見込まれる最終酸化物重量の40重量%)を、撹拌しながら析出物に添加する(400ツアー/分)。滴下の終了時に、撹拌を30分間継続する。次いで、混合物を濾過し、塩基性水で洗浄する(塩基性水の量:1L;pH約9)。
【0123】
その後、ケーキを500℃で空気中で4時間か焼する。500℃のか焼温度は、4℃/分の加熱速度で到達させる。その後、Feがドープされた前駆体を乳鉢で粉砕して、均質な生成物を得る。
【0124】
5gの無機材料Mを得るために、Feがドープされた前駆体5.62gを秤量する(89.0%の酸化物に相当)。硝酸リチウムの溶液を調製する(4.4gの水中に溶解した2.96gのLiN)。これは10.0%のLi過剰に相当する。撹拌されている前駆体にスパチュラで溶液を滴下することにより、Feがドープされた前駆体にLiNの水溶液を含浸させる。この工程の最後に湿ったケーキが得られる。予熱したストーブ中で120℃で2時間ケーキを乾燥させた後、乳鉢で粉砕する。次いで、粉末を、アルミナ製の蓋付きるつぼ内で、空気中900℃で6時間か焼し、5℃/分の加熱速度でか焼温度に到達させる。その後、粉末を乳鉢で粉砕する。その後、アルミナ製の蓋付きるつぼ内で、5℃/分の加熱速度及び2℃/分の冷却速度を使用して、1000℃で空気中で6時間、粉末に対して2回目のか焼を行う。粉末を乳鉢で粉砕する。
【0125】
含浸及びか焼後に得られた無機材料M中のカチオンの相対組成は、Li6.91Al0.05Fe0.21La3Zr1.97(ICPによって決定)に対応する。
【0126】
比較例C1:従来の固相技術による無機材料の調製
無機材料は、従来の固相技術によって調製した。この目的のために、10.44gのLi2CO3、9.80gのZrO2、19.40gのLa2O3、及び0.41gのAl2O3を、ZrO2-Y2O3(直径=1cm)製のボールを備えた3Dシェーカーを使用して2時間一緒に混合する。粉末/ボール/空気比は、体積比で1/3、1/3、1/3である。得られた混合物19.5gを、アルミナ製の蓋を備えたアルミナるつぼに入れ、5℃/分の加熱速度及び2℃/分の冷却速度で、900℃で12時間空気中でか焼する。か焼された粉末を、すでに開示されているものと同じ比率で同じボールを使用して、3Dシェーカー内で2時間混合する。次いで、混合物を空気中で1000℃で12時間、5℃/分の加熱速度及び2℃/分の冷却速度でか焼した後、同じボールを備えた3Dシェーカーの中で2時間再度混合する。最後に、最終製品を得るために粉砕する前に、5℃/分の加熱速度及び2℃/分の冷却速度で1100℃で12時間の最後のか焼工程を行う。
【0127】
比較例C2:ラウリン酸を含まない無機材料の調製
使用したレシピは、実施例1で説明したレシピに対応しているが、ラウリン酸は含まれない。
【0128】