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7697943導入遺伝子発現のDRG特異的低減のための組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】導入遺伝子発現のDRG特異的低減のための組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20250617BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20250617BHJP
   C12N 9/40 20060101ALI20250617BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20250617BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20250617BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20250617BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20250617BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20250617BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20250617BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20250617BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250617BHJP
   C12N 15/35 20060101ALN20250617BHJP
   C07K 14/015 20060101ALN20250617BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/01 ZNA
C12N15/57
C12N15/56
C12N15/867 Z
C12N15/861 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/113 Z
C12N9/40
A61K35/76
A61K31/7105
A61K35/761
A61K31/711
A61K9/14
A61K9/51
A61K47/36
A61P43/00 111
A61P43/00 121
C12N15/35
C07K14/015
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022524118
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 US2020056881
(87)【国際公開番号】W WO2021081217
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】PCT/US2019/067872
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/934,915
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/005,894
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/924,970
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/023,602
(32)【優先日】2020-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/972,404
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/038,514
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/043,600
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オルドー,ジュリエット
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/010335(WO,A1)
【文献】特表2016-515831(JP,A)
【文献】特表2018-515615(JP,A)
【文献】Neuroscience,2009年,Vol. 164,p. 711-723
【文献】Human Gene Therapy,2019年06月10日,Vol.30,p.957-966
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C12N 7/00-08
C12N 1/00-38
C12N 5/00-28
C12N 9/00-99
A61K 35/00-768
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00-72
A61K 47/00-69
C07K 14/00-825
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクターゲノムを中にパッケージングしたAAVカプシドを含む組換えAAV(rAAV)であって、前記ベクターゲノムが、配列番号21の少なくともアミノ酸28~653を含む機能的ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ(hIDUA)のためのコード配列と、細胞における前記hIDUAの発現を指示する調節配列と、を含み、前記コード配列が、
a)配列番号22のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、
b)配列番号23のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、
c)配列番号24のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、
d)配列番号25のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、または
e)配列番号26のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含み、
前記ベクターゲノムが、それぞれmiR-183またはmiR-182に特異的で、且つ前記コード配列の3’末端に作動可能に連結されている、少なくとも2つの後根神経節(drg)特異的miRNA標的配列を含む、
rAAV。
【請求項2】
前記カプシドが、AAV9、AAVhu68、またはAAVrh91カプシドである、請求項1に記載のrAAV。
【請求項3】
発現カセットであって、機能的ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ(hIDUA)をコードする核酸配列と、前記発現カセットを含有する細胞における前記hIDUAの発現を指示する調節配列と、を含み、前記コード配列が、
a)配列番号22のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、
b)配列番号23のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、
c)配列番号24のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、
d)配列番号25のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、または
e)配列番号26のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含み、
前記ベクターゲノムが、それぞれmiR-183またはmiR-182に特異的で、且つ前記コード配列の3’末端に作動可能に連結されている、少なくとも2つの後根神経節(drg)特異的miRNA標的配列を含む、
発現カセット。
【請求項4】
前記hIDUAが、天然hIDUAシグナルペプチドを含む、請求項1もしくは2のいずれか一項に記載のrAAVまたは請求項3に記載の発現カセット。
【請求項5】
前記hIDUAが、配列番号21のアミノ酸1~653を含む、請求項1、2もしくは4のいずれか一項に記載のrAAVまたは請求項3もしくは4に記載の発現カセット。
【請求項6】
前記コード配列が、
a)配列番号22のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、
b)配列番号23のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、
c)配列番号24のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、
d)配列番号25のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、または
e)配列番号26のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含む、請求項1、2、4もしくは5のいずれか一項に記載のrAAVまたは請求項3~のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項7】
前記hIDUAが、異種シグナルペプチドを含む、請求項1もしくは2のいずれか一項に記載のrAAVまたは請求項に記載の発現カセット。
【請求項8】
前記調節配列が、組織特異的プロモーターを含む、請求項1、2もしくは4~のいずれか一項に記載のrAAVまたは請求項3~のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項9】
前記少なくとも2つのmiRNA標的配列が、
(a)AGTGAATTCTACCAGTGCCATA(配列番号1)、および/または
(b)AGTGTGAGTTCTACCATTGCCAAA(配列番号3)を含む、
請求項1、2もしくは4~のいずれか一項に記載のrAAVまたは請求項3~のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項10】
それぞれmiR-183またはmiR-182に特異的な、少なくとも3個、または少なくとも4個のmiRNA標的配列が、存在し、且つ前記コード配列の3’末端に作動可能に連結されている、請求項1、2もしくは4~のいずれか一項に記載のrAAVまたは請求項3~のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項11】
前記発現カセットが、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターによって担持される、請求項3~10のいずれか一項に記載の発現カセット
【請求項12】
(i)非ウイルスベクターが、裸のDNA、裸のRNA、無機粒子、脂質粒子、ポリマーベースのベクター、またはキトサンベースの製剤であるか、または、
(ii)ウイルスベクターが、組換えパルボウイルス、組換えレンチウイルス、組換えレトロウイルス、または組換えアデノウイルスである、請求項11に記載の発現カセット。
【請求項13】
機能的hIDUAをコードする配列を含む組換え核酸であって、コード配列が、配列番号22、23、24、25もしくは26のヌクレオチド82~1959もしくはヌクレオチド1~1959か、または配列番号22、23、24、25もしくは26に対して少なくとも95%同一の配列と、それぞれmiR-183またはmiR-182に特異的で、且つ前記コード配列の3’末端に作動可能に連結されている、少なくとも2つのdrg特異的miRNA標的配列とを含む、組換え核酸。
【請求項14】
前記組換え核酸が、プラスミドである、請求項13に記載の組換え核酸。
【請求項15】
請求項1、2もしくは4~10のいずれか一項に記載のrAAV、請求項3~10のいずれか一項に記載の発現カセット、または請求項13もしくは14のいずれか一項に記載の組換え核酸を含む、宿主細胞。
【請求項16】
請求項1、2もしくは4~10のいずれか一項に記載のrAAV、請求項3~10のいずれか一項に記載の発現カセット、または請求項13もしくは14に記載の組換え核酸と、薬学的に許容される担体と、を含む、薬学的組成物。
【請求項17】
ムコ多糖症I型(MPS I)、Hurler症候群、Hurler-Scheie症候群、および/またはScheie症候群の治療に使用するための、請求項1、2もしくは4~10のいずれか一項に記載のrAAV、または請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
前記治療が併用療法を行うことをさらに含む、請求項17に記載の使用のための薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
インビボ遺伝子療法のために選択されるベクタープラットフォームは、霊長類由来のアデノ随伴ウイルス(AAV)に基づく。1960年代、遺伝子療法産物は、アデノウイルスの調製物から単離されたAAVに由来した(Hoggan,M.D.et al.Proc Natl Acad Sci U S A 55:1467-1474,1966)。これらのベクターは安全であったが、不十分な形質導入のために、臨床では、多くのプログラムが失敗した。21世紀への変わり目に、研究者らは、内因性AAVのファミリーを発見し、これは、ベクターとして好ましい安全プロファイルを保持しながら、はるかに高い形質導入効率を達成した(Gao,G.,et al.J Virol 78:6381-6388,2004)。
【0002】
AAVベクターに対する宿主の有害な応答は、最小限であった。激しい急性炎症応答を引き起こす非ウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターとは対照的に(Raper,S.E.,et al.Mol Genet Metab 80:148-158,2003、Zhang,Y.,et al.Mol Ther 3:697-707,2001)、AAVベクターは炎症促進性ではない。AAVベクターの投与後、細胞傷害性T細胞などのベクター形質導入細胞に対する破壊的な適応免疫応答は、最小限であった。動物およびヒトにおいて、AAVが、血清型、用量、投与経路、および免疫抑制レジメンに応じて、特定の状況下では、カプシドまたは導入遺伝子産物に対する耐容性を誘導し得るという証拠がある(Gernoux,G.,et al.Hum Gene Ther 28:338-349,2017、Mays,L.E.&Wilson,J.M.Mol
Ther 19:16-27,2011、Manno,C.S.,et al.Nat
Med 12:342-347,2006、Mingozzi,F.,et al.Blood 110:2334-2341,2007)。しかしながら、毒性がこの技術の応用を制限する可能性があることは、AAV遺伝子療法の臨床応用の現在の爆発的な増加に関連して明らかである。
【0003】
最も重度の毒性は、CNSおよび筋骨格系を標的とする高用量AAVの静脈内投与後に発生した。非ヒト霊長類(NHP)における研究では、血小板減少症および高トランスアミナーゼ血症の急性発症を示し、これは、場合によっては、出血およびショックの致死的症候群に発展した(Hordeaux,J.,et al.Mol Ther 26:664-668,2018、Hinderer,C.,et al.Hum Gene Ther.29(3):285-298,2018)。また、ほとんどの高用量AAV臨床試験において、肝臓酵素の急性上昇および/または血小板の減少も観察されている(AveXis,I.ZOLGENSMA Prescribing Information,2019、Solid Biosciences Provides SGT-001
Program Update,2019、Pfizer,Pfizer Presents Initial Clinical Data on Phase 1b Gene Therapy Study for Duchenne Muscular Dystrophy(DMD),2019、Flanigan,K.T.et al.Molecular Genetics and Metabolism 126:S54,2019)。稀ではあるが、重度の毒性は、貧血、腎不全、および補体活性化によって特徴付けられている(Solid Biosciences,2019、Pfizer,2019)。
【0004】
より最近では、脳脊髄液(CSF)中に、または高用量で血液中にのいずれかでAAVベクターを受けたNHPおよびブタでは、後根神経節(DRG)のニューロンが変性する
問題が観察されている(Hinderer,C.,et al.Hum Gene Ther.29(3):285-298,2018、Hordeaux,J.,et al.Mol Ther Methods Clin Dev 10:68-78,2018、Hordeaux,J.,et al.Mol Ther Methods Clin Dev 10:79-88,2018)。この神経毒性は、末梢神経における末梢軸索と、脊髄の後側柱を通って上行する中枢軸索との両方の変性に関連する。
【0005】
ムコ多糖症は、グリコサミノグリカン(GAG)(ムコ多糖とも呼ばれる)の分解に関与する特異的なリソソーム酵素の欠損によって引き起こされる遺伝性障害の一群である。部分的に分解されたGAGの蓄積は、細胞、組織、および臓器の機能を妨げる。時間の経過と共に、GAGは、細胞、血液、および結合組織内に蓄積し、細胞および臓器の損傷を増加させる。ムコ多糖症(MPS)障害の中で最も深刻なものの1つであるMPS Iは、酵素アルファ-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損によって引き起こされる。具体的には、IDUAは、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸と呼ばれる2つのGAGから末端イズロン酸残基を除去することが報告されている。IDUAは、異なる種類の分子を消化し、再循環する細胞内の区画であるリソソーム内に位置する。IDUA遺伝子における100を超える変異は、ムコ多糖症I型(MPS I)を引き起こすことが見出されており、一塩基多型(SNP)が最も一般的である。
【0006】
当該技術分野では、MPSIと診断された患者を安全かつ効果的に治療するための遺伝子療法組成物および方法の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hoggan,M.D.et al.Proc Natl Acad Sci U S A 55:1467-1474,1966
【文献】Gao,G.,et al.J Virol 78:6381-6388,2004
【文献】Raper,S.E.,et al.Mol Genet Metab 80:148-158,2003
【文献】Zhang,Y.,et al.Mol Ther 3:697-707,2001
【文献】Gernoux,G.,et al.Hum Gene Ther 28:338-349,2017
【文献】Mays,L.E.&Wilson,J.M.Mol Ther 19:16-27,2011
【文献】Manno,C.S.,et al.Nat Med 12:342-347,2006
【文献】Mingozzi,F.,et al.Blood 110:2334-2341,2007
【文献】Hordeaux,J.,et al.Mol Ther 26:664-668,2018
【文献】Hinderer,C.,et al.Hum Gene Ther.29(3):285-298,2018
【文献】AveXis,I.ZOLGENSMA Prescribing Information,2019、Solid Biosciences Provides SGT-001 Program Update,2019、
【文献】Pfizer,Pfizer Presents Initial Clinical Data on Phase 1b Gene Therapy Study for Duchenne Muscular Dystrophy(DMD),2019
【文献】Flanigan,K.T.et al.Molecular Genetics and Metabolism 126:S54,2019
【文献】Solid Biosciences,2019、Pfizer,2019
【文献】Hinderer,C.,et al.Hum Gene Ther.29(3):285-298,2018
【文献】Hordeaux,J.,et al.Mol Ther Methods Clin Dev 10:68-78,2018
【文献】Hordeaux,J.,et al.Mol Ther Methods Clin Dev 10:79-88,2018
【発明の概要】
【0008】
一態様では、ベクターゲノムを中にパッケージングしたAAVカプシドを含む組換えAAV(rAAV)であって、ベクターゲノムが、機能的ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ(hIDUA)のためのコード配列と、細胞におけるhIDUAの発現を指示する調節配列と、を含み、コード配列が、配列番号22のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号23のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号24のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号25のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、または配列番号26のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含む、rAAVが提供される。特定の実施形態では、rAAVは、配列番号21の少なくともアミノ酸28~653、またはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含む機能的hIDUAのためのコード配列を含む。特定の実施形態では、hIDUAは、天然シグナルペプチドを含む。なおさらなる実施形態では、hIDUAは、配列番号21の全長(アミノ酸1~653)、またはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含む。特定の実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号22のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号23のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号24のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号25のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、または配列番号26のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含む。特定の実施形態では、hIDUAは、異種シグナルペプチドを含む。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、組織特異的プロモーターを含む。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、miR-183、miR-182、またはmiR-96のうちの少なくとも1つに特異的な少なくとも1つの後根神経節(drg)特異的miRNA標的配列を含み、少なくとも1つの標的配列が、hIDUAコード配列の3’末端に作動可能に連結されている。特定の実施形態では、miRNA標的配列は、配列番号1、2、3、および4から選択される。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、2個で、少なくとも3個、または少なくとも4個のdrg特異的miRNA標的配列をさらに含む。特定の実施形態では、提供されるrAAVは、AAV9、AAVhu68、またはAAVrh91カプシドを有する。
【0009】
別の態様では、発現カセットであって、機能的ヒトアルファ-ガラクトシダーゼA(hIDUA)をコードする核酸配列と、発現カセットを含有する細胞におけるhIDUAの発現を指示する調節配列と、を含み、コード配列が、配列番号22のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号23のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号24のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配
列番号25のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、または配列番号26のヌクレオチド82~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含む、発現カセットが提供される。特定の実施形態では、hIDUAは、配列番号21の少なくともアミノ酸28~653、またはそれに対して少なくとも95%同一の配列を有する機能的hIDUAのためのコード配列を含む。特定の実施形態では、hIDUAは、天然シグナルペプチドを含む。特定の実施形態では、hIDUAは、配列番号21の全長(アミノ酸1~653)、またはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含む。さらなる実施形態では、発現カセットは、配列番号22のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号23のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号24のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、配列番号25のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列、または配列番号26のヌクレオチド1~1959、もしくはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含むhIDUAコード配列を含む。なお別の実施形態では、hIDUAは、異種シグナルペプチドを含む。特定の実施形態では、発現カセットは、組織特異的プロモーターを含む。特定の実施形態では、発現カセットは、miR-183、miR-182、またはmiR-96のうちの少なくとも1つに特異的な少なくとも1つの後根神経節(drg)特異的miRNA標的配列を含み、少なくとも1つの標的配列が、hIDUAコード配列の3’末端に作動可能に連結されている。特定の実施形態では、miRNA標的配列は、配列番号1、2、3、および4から選択される。特定の実施形態では、発現カセットは、2個で、少なくとも3個、または少なくとも4個のdrg特異的miRNA標的配列をさらに含む。特定の実施形態では、発現カセットは、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターによって担持される。特定の実施形態では、非ウイルスベクターは、裸のDNA、裸のRNA、無機粒子、脂質粒子、ポリマーベースのベクター、またはキトサンベースの製剤から選択される。特定の実施形態では、ベクターは、組換えパルボウイルス、組換えレンチウイルス、組換えレトロウイルス、組換えアデノウイルスである。
【0010】
一態様では、機能的hIDUAをコードする配列を含む組換え核酸であって、コード配列が、配列番号22、23、24、25、もしくは26のヌクレオチド82~1959、またはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含む、組換え核酸が提供される。特定の実施形態では、核酸は、機能的hIDUAをコードする配列を含み、コード配列は、配列番号22、23、24、25、もしくは26のヌクレオチド1~1959、またはそれに対して少なくとも95%同一の配列を含む。さらなる実施形態では、組換え核酸は、プラスミドである。
【0011】
別の態様では、本明細書に提供されるrAAV、発現カセット、または組換え核酸を含有する宿主細胞が提供される。
【0012】
別の態様では、本明細書に提供されるrAAV、発現カセット、または組換え核酸と、薬学的に許容される担体と、を含む、薬学的組成物が提供される。
【0013】
また、別の態様では、ムコ多糖症I型(MPS I)と診断された対象を治療する方法であって、本方法が、本明細書に提供される薬学的組成物を対象に投与することを含む、方法が提供される。特定の実施形態では、対象は、Hurler症候群、Hurler-Scheie症候群、および/またはScheie症候群と診断されている。また、MPS I、Hurler症候群、Hurler-Scheie症候群、および/またはScheie症候群と診断された対象を治療するための、本明細書に提供されるrAAV、発現カセット、組換え核酸、または薬学的組成物の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A-1C】AAVのICM投与後の、DRG毒性および二次軸索障害を示す。(図1A)DRGは、感覚偽単極ニューロンの細胞体を含有し、これらは、末梢神経に位置する末梢軸索と、脊髄の上行性背側白質路に位置する中枢軸索とを介して、感覚メッセージを末梢からCNSに中継する。(図1B)軸索障害およびDRG神経変性。軸索障害(左上)は、空であるか、またはマクロファージおよび細胞破片で満たされているかのいずれかである、明らかな液胞として現れる(矢印)。DRG病変(右上および左下):矢印は、神経細胞体変性を示し、一方、丸印は、単核細胞浸潤を示す。右下の写真は、AAVによってコードされる導入遺伝子の免疫染色を示す(この場合、緑色蛍光タンパク質(GFP))。(図1C)グレード1~グレード5のDRG病変およびグレード1~グレード4の背側脊髄軸索障害、ならびに正常範囲以内(WNL)の切片の例。重症度グレードは、以下のように定義される。1 最小(10%未満)、2 軽度(10~25%)、3 中等度(25~50%)、4 顕著(50~95%)、および5 重度(95%を超える)。グレード5は、脊髄では全く観察されなかった。矢印および丸印は、DRGへの単核細胞浸潤を伴う神経変性(左カラム)および軸索障害(右カラム)を描写する。
図2A-2F】AAVのICM投与後の、脊髄の背側白質路におけるDRG毒性および二次軸索障害の高倍率画像を示す。(図2A)初期病変の神経細胞体(丸印)は、ミクログリア細胞(神経貪食)と共に増殖する衛星細胞および浸潤する単核細胞で囲まれている。(図2C)病変が進行するにつれて、神経細胞体は、消えかけている核を有するか、または核が存在しない小さな不規則形状もしくは鋭角を有する形状の細胞、および細胞質の細胞質高酸素血症を特徴とする、変性の証拠(丸印)を示す。(図2E)衛星細胞、ミクログリア細胞および単核細胞の完全な消失(星形)を伴う、末期の神経細胞体変性(丸印)。(図2B図2D、および図2F)ミエロマクロファージを有する拡張された髄鞘(垂直の矢印)およびミエロマクロファージを有さない拡張された髄鞘(水平の矢印)、腫脹した軸索(アスタリスク)、ならびに軸索破片(矢尻)を有する、脊髄の背側白質路の軸索変性。(ヘマトキシリンおよびエオシン、40倍、スケールバー=50μm)。
図3A-3B】DRG特異的miRNA誘導サイレンシングを使用した過剰発現関連毒性モデルおよび緩和戦略を示す。(図3A)擬単極感覚ニューロンの細胞体は、DRG内に位置し、衛星細胞および有窓型毛細血管に囲まれる。偽単極感覚ニューロンの末梢軸索は、末梢神経に位置し、中枢軸索は、脊髄の背側経路に位置する。AAVベクターは、転写およびタンパク質合成機構をハイジャックし、過負荷をかけ、したがって、細胞ストレス(例えば、分泌タンパク質のための小胞体(ER)ストレス)および遠位軸索を維持する二次的な不全を引き起こす。衛星細胞は反応性増殖を経て、サイトカインを分泌することによって、リンパ球などの炎症性細胞を引き寄せる。これらの可逆的な変化は、細胞死をもたらす可能性がある。その後、グリア細胞およびマクロファージは、浸潤し、神経細胞体を貪食する。(図3B)DRG特異的サイレンシングのための例示的なAAV発現カセット設計。DRG特異的miRNA逆相補配列(miR標的)の4個の短いタンデムリピートを、終止コドンとポリAとの間に導入する。DRGニューロンにおいて、DRG特異的miRNA(例えば、miRNA183)とmRNAの3’非翻訳領域のその標的との間の正確な塩基対形成によって、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を動員し、次いでmRNA切断によるサイレンシングを引き起こす。miRNA183を発現しない他の細胞型では、3’UTR領域からの影響なしに、翻訳およびタンパク質合成が起こる。
図4A-4B】qRT-PCRによるmiR-183存在量の測定を示す。(図4A)組織は、未処理(AAVで治療されていない)であるか、またはmiR標的を含まないベクターで治療されたNHPアカゲザルに由来するものであった。前頭皮質(皮質)、心臓、脾臓、小脳、肝臓、髄質、および脊髄(SC)についてn=3。大腿四頭筋(四頭筋)およびDRG-頸部セグメントについてn=2。miR-183発現データは、皮質と比較した倍率の変化として表される。SDは、生物学的複製物から算出された。一元配置分散分析、次いで、テューキーの多重比較検定。*p<0.05、他の組織と比較して、DRGにおけるmiR183発現。(図4B)神経障害性疼痛の病歴を有しない25歳の白人男性臓器ドナーからのヒトSCおよびDRGにおけるmiR-183発現。SCと比較した倍率の変化として表されたデータ。SDは、qRT-PCRウェルの3個の複製物から算出された。
図5A-5D】インビトロおよびマウスのDRGニューロンにおける導入遺伝子発現を特異的にサイレンシングするmiR183標的を示す。(図5A)miR183またはmiR145標的、および対照またはmiR183発現プラスミドを保有するGFP発現プラスミドと共トランスフェクトした293細胞からのGFPウェスタンブロット。実験は、3個の複製物で実施された。平均値として示されるデータ。エラーバーは、標準偏差を示す。(図5B)4×1012GC(群当たりn=3~4匹のマウス)の用量で、AAV9.GFP対照ベクターまたはAAV9.GFP-miRベクターをIV注射したC57BL6/Jマウスからの切片について定量化されたIHCによるDRG GFP陽性ニューロン。miR183、miR145、およびmiR182の3つのDRG濃縮miRをスクリーニングした。データ点は、マウス当たりの総DRGニューロンに対するGFP発現ニューロンの平均パーセンテージを表す。平均値として示されるデータ。エラーバーは、標準偏差を示す。ウィルコクソン検定:*=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。(図5C)パネルBで定量化されたDRGからのGFP免疫染色の代表的な写真。(図5D)AAV-PHP.B.GFP対照ベクターまたはAAV-PHP.B.GFP-miR(miR183、miR145、miR182)をIV注射したC57BL6/Jマウスからの小脳、皮質、および肝臓の代表的な写真。
図6A-6C】マウス由来の脳および末梢臓器におけるGFP発現を示す。(図6A)1×1012GCの用量、群当たりn=4で、AAV-PHP.B.GFP対照ベクターまたはAAV-PHP.B.GFP-miRベクターをIV注射したC57BL6/Jマウスからの脳皮質におけるGFP直接蛍光(曝露時間3秒)。miR183、miR182、miR96、およびmiR145の4つのDRG濃縮miRを最初スクリーニングした。(図6B)4×1012GCの用量、群当たりn=3~4で、AAV9.GFP対照ベクターまたはAAV9.GFP-miRベクターをIV注射したC57BL6/Jマウスからの肝臓(曝露時間1秒)、心臓(曝露時間3秒)、および筋肉(曝露時間10秒)におけるGFP直接蛍光。(図6C)すべてのマウスからのGFP直接蛍光強度の定量化(群当たりn=3~4)。一元配置分散分析、次いで、テューキーの多重比較検定。*p<0.05、**p<0.01。
図7A-7C】NHPへのAAVhu68.GFPのICM投与後、DRGにおけるGFP発現を特異的にサイレンシングし、毒性を低減するmiR183標的を示す。(図7A)3.5×1013GCのAAVhu68.GFP対照ベクター(n=2)またはAAVhu68.GFP-miR183(n=4)をICM注射された成体アカゲザル由来のDRG、脊髄運動ニューロン、小脳、皮質、心臓、および肝臓のGFP免疫染色切片の代表的な写真。(図7B)NHPにおけるDRG(動物当たり2~4個の異なる腰部DRG、1群当たりn=2~4匹の動物)、脊髄(下位運動ニューロン、動物当たり2~5個の異なる切片、1群当たりn=2~4匹の動物)、小脳、および皮質におけるGFP陽性細胞の定量化(領域当たり5個の20倍の倍率視野、1群当たりn=2~4匹の動物)。平均値として示されるデータ。エラーバーは、標準偏差を示す。ウィルコクソン検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。(図7C)注射の2ヶ月後の組織病理学では、背側脊髄軸索障害、末梢神経軸索障害(正中神経、腓骨神経および橈骨神経)、ならびにDRG神経変性および単核細胞浸潤の重症度グレードを示す。1 最小(10%未満)、2 軽度(10~25%)、3 中等度(25~50%)、4 顕著(50~95%)、および5 重度(95%を超える-観察されていない)。各バーは、1匹の動物を表す。0は、病変が存在しないことを表す。
図8A-8D】NHPのhIDUAに対するT細胞および抗体応答を示す。(図8A図8C)注射の90日後に、PBMC、脾臓、肝臓、および深部頸部リンパ節から単離されたリンパ球におけるインターフェロンガンマELISPOT応答。各動物は、hIDUA配列をカバーする3つの重複するペプチドプールを表す3つの値を有する。赤色は、陽性ELISPOT応答を示し、スポット形成単位が106個のリンパ球あたり55超、および未刺激時の培地陰性対照の3倍として定義される。(図8D)抗hIDUA抗体のELISAアッセイ、血清希釈は1:1,000。
図9】CSFにおけるサイトカイン/ケモカインの濃度を示す。試料を、ベクターの投与時点(D0)、ならびにベクターの投与後24時間(24h)、21日目(D21)および35日目(D35)に回収した。sCD137、エオタキシン、sFasL、FGF-2、フラクタルカイン、グランザイムA、グランザイムB、IL-1α、IL-2、IL-4、IL-6、IL-16、IL-17A、IL-17E/IL-25、IL-21、IL-22、IL-23、IL-28A、IL-31、IL-33、IP-10、MIP-3α、パーフォリン、およびTNFβといった分析物を含有するMilliplex MAPキットからの濃度を示すヒートマップ。
図10】NHPへのAAVhu68.hIDUAのICM投与後の、DRGにおけるhIDUAの発現を特異的にサイレンシングするmiR183標的を示す。抗hIDUA抗体免疫蛍光(DRG、最初の行、図13Aに提供される定量化データ)、抗hIDUAのIHC(下位運動ニューロン、小脳、皮質)、および抗IDUAのISH(DRGの最後の行、図13Aに提供される定量化データ)による、hIDUA発現の代表的な写真。抗IDUAのISH:曝露時間は、ステロイドの有無にかかわらず、AAVhu68.hIDUAに対して200msである。感覚ニューロンは、大量の導入遺伝子mRNAの発現を示す。AAV.hIDUA-miR183に対する曝露時間は、1秒である。感覚ニューロンは、核および細胞質において、低いISHシグナル(mRNA)を有する。mRNAは、このより長い曝露時間で、ニューロンを取り囲む衛星細胞において見ることができる。
図11A-11C】miR183媒介性サイレンシングが、DRGニューロンに特異的であり、AAVhu68.hIDUAをICM投与されたNHPにおけるDRG毒性を完全に防ぐことを示す。(図11A)NHPにおけるDRG(動物当たり5個の異なるDRG、1群当たりn=3匹の動物)、脊髄(下位運動ニューロン、動物当たり2~5個の異なる切片、1群当たりn=3匹の動物)、小脳、および皮質におけるhIDUA陽性細胞の定量化(領域当たり5個の20倍の倍率視野、1群当たりn=3匹の動物)。平均値として示されるデータ。エラーバーは、標準偏差を示す。ウィルコクソン検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。(図11B)注射の3ヶ月後の組織病理スコアリング:0~5のDRG重症度グレード(動物当たり少なくとも3つの頸部、3つの胸部、および3つの腰部のすべてのDRGからのスコアを示すプロット)、0~5の背側軸索障害グレード(動物当たり少なくとも3つの頸部、3つの胸部、および3つの腰部脊髄切片のすべての異なる切片からのスコアを示すプロット)、ならびに正中神経スコア-動物当たり4つの切片(右側、左側近位および遠位の正中神経)で確立された軸索症および線維症重症度グレード(0~10)の合計。以下のように定義される重症度グレード。0 病変なし、1 最小(10%未満)、2 軽度(10~25%)、3 中等度(25~50%)、4 顕著(50~95%)、および5 重度(95%を超える-観察されていない)。平均値として示されるデータ。エラーバーは、標準偏差を示す。ウィルコクソン検定:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。(図11C)hIDUA導入遺伝子特異的プローブ、高倍率のDRG感覚ニューロンおよび衛星細胞を使用するISH、青色DAPIでの核の対比染色による1秒の曝露時間。矢印:DRG感覚ニューロン、矢尻:衛星細胞。
図12】NHPの脳、脊髄、およびDRGにおけるベクター生体分布を示す。Taqman試薬およびベクターのrBGポリアデニル化配列を標的とするプライマー/プローブを使用した、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応による、ベクターゲノムの定量化。二倍体ゲノムあたりのゲノムコピーで表現される結果。エラーバーは、標準偏差(1群当たりn=3匹の動物)を表す。
図13A-13F】脾臓を陽性対照として用いる、DRGのアポトーシスマーカー活性化カスパーゼ-3のIHCを示す。(図13Aおよび図13B)変性神経細胞体(丸印)および周囲の細胞浸潤(矢尻)は、それぞれ、AAVhu68.eGFPおよびAAVhu68.hIDUAを注射した動物において、活性化カスパーゼ-3に対して陽性である。(図13C)AAVhu68.eGFP.miR183を注射した動物は、変性神経細胞体(丸印)において、稀な陽性カスパーゼ-3免疫染色を示す。AAVhu68.eGFP.miR183を注射した動物からのDRG切片の大部分は、活性化カスパーゼ-3に対して陰性である。(図13D)AAVhu68.hIDUA.miR183を注射した動物からのニューロンも、活性化カスパーゼ-3に対して陰性である。(図13E)正常なDRGを有する未処理のAAV注射されていない対照NHPの神経細胞体は、バックグラウンド染色と一致して、拡散した薄い褐色であり、陰性であるとみなされる。(図13F)陽性対照としてのAAVhu68注射したNHPからの脾臓は、胚中心の細胞破片において活性化カスパーゼ-3に対する強力な陽性の多焦点シグナル、赤髄の白血球内で多焦点陽性シグナル(矢印)を有する。周囲の白髄および赤髄は、バックグラウンド染色と一致して、拡散した薄い褐色である。活性化カスパーゼ-3 IHC、20倍、スケールバー=100μm。
図14A-14E】DRGにおけるUPR制御されたATF6についてのIHCを示す。(図14A)AAVhu68.eGFPを注射した動物における変性神経細胞体(丸印)は、ATF6に対してわずかに陽性であり、神経細胞体の大部分の周囲の衛星細胞(垂直の矢印)、神経細胞体を欠く最も顕著なそのクラスター(水平の矢印)は、強力にATF6陽性である。(図14B)AAVhu68.hIDUAを注射した動物からの変性神経細胞体(丸印)は、変性ニューロンにおけるATF6に対して陰性であり、衛星細胞は、細胞質において強く陽性である(水平の矢印)。(図14C)AAVhu68.eGFP.miR183を注射した動物における神経細胞体を欠くクラスター中の衛星細胞(水平の矢印)は、ATF6に対して陽性であり、変性神経細胞体(丸印)は、陰性である。AAVhu68.eGFP.miR183を注射した動物からのDRG切片の大部分は、ATF6に対して陰性である(挿入図)。(図14D)AAVhu68.hIDUA.miR183を注射した動物からの神経細胞体および衛星細胞は、ATF6に対して陰性である。(図14E)正常なDRGを有する未処理のAAV注射されていない対照NHPの神経細胞体も、ATF6に対して陰性である。ATF6 IHC、20倍、スケールバー=100μm。
図15A-15E】DRGにおける外因性アポトーシスマーカー活性化カスパーゼ-8についてのIHCを示す。変性神経細胞体(丸印)は、AAVhu68.eGFP(図15A)、AAVhu68.hIDUA(図15B)、およびAAVhu68.eGFP.miR183(図15C)を注射した動物において、カスパーゼ-8陰性である。周囲の細胞浸潤は、強く陽性である(矢印)。(図15D)AAVhu68.hIDUA.miR183を注射した動物からのニューロンは、カスパーゼ8陰性であり、カスパーゼ8陽性間質細胞は稀である(矢印)。(図15E)正常なDRGを有する未処理のAAV注射されていない対照NHPの神経細胞体は、カスパーゼ8陰性であり、カスパーゼ8陽性間質細胞は稀である(矢印)。活性化カスパーゼ-8 IHC、40倍、スケールバー=50μm。
図16A-16F】DRGの内因性アポトーシスマーカー活性化カスパーゼ-9についてのIHCを示す。(図16A)AAVhu68.eGFPを注射した動物における変性神経細胞体(丸印)は、細胞浸潤における陽性の増加を伴うカスパーゼ9陽性である(水平の矢印)。(図16B)AAVhu68.hIDUAを注射した動物における変性神経細胞体は、細胞浸潤においてカスパーゼ-9陽性細胞をほとんど含まない、カスパーゼ9陰性である(水平の矢印)。(図16C)AAVhu68.eGFP.miR183を注射した動物からのニューロンは、陽性浸潤の細胞を伴い、陰性である(水平の矢印)。(図16D)AAVhu68.hIDUA.miR183を注射した動物からのニューロンは陰性であり、変性神経細胞体は観察されない。(図16E)正常なDRGを有する未処理のAAV注射されていない対照NHPの神経細胞体は、稀な陽性間質細胞を伴い、陰性である(水平の矢印)。(図16F)陽性対照であるAAVhu68注射したNHPからの脾臓は、胚中心の細胞破片および赤髄の白血球において陽性である(垂直の矢印)。活性化カスパーゼ-9 IHC、40倍、スケールバー=50μm。
図17A-17D】hIDUAをコードする操作された配列の投与後のIDUA活性の比較を示す。野生型雄マウスに、hIDUA配列(hIDUACoV1-配列番号22、hIDUACoV2-配列番号23、hIDUACoV3-配列番号24、hIDUACoV4-配列番号25、hIDUACoV5-配列番号26)、または最適化されていない未処理のコード配列(hIDUAnat)の送達のために、1x1011GCのAAVhu68をIV注射した。IDUA活性を、7日目および8日目の血清(図17A)、ならびに7日目の脳(図17B)、心臓(図17C)、および肝臓(図17D)で測定した。
図18A-18F】マウスへのmiR183標的配列(4×リピート)を含むか、または含まないAAVhu68.hIDUAcoV1を投与した後の結果を示す。(図18A)MPSIマウス(IDUA KO)に、1×1011GCをICV注射し、注射から30日後または90日後に安楽死させた。未修飾hIDUA(ベクター1)を使用した第1の研究において、若いマウス(治療時に1~2ヶ月齢)のコホートを、治療時に進行性疾患を有する老齢マウス(6~8ヶ月齢)のコホートと比較した。miR183標的修飾ベクターを使用した第2の研究は、若い1~3ヶ月齢のマウスのみを使用した。(図18B図18D)脳および脊髄におけるIDUA活性を比較した。脳および胸腰部脊髄の1つの吻側冠状部分を瞬間凍結させた。組織溶解および清澄化後、IDUA酵素活性を、人工基質4-メチルウンベリフェロン(4-MU)ベースの蛍光アッセイを使用して測定した。タンパク質1mg当たりの結果を正規化した。(図18Eおよび図18F)組織を処理して、LAMP1免疫蛍光を治療有効性のマーカーとして使用して、貯蔵低減を評価した。
図19A-19B】NHPにおけるmiR183クラスター調節遺伝子発現(AAV-IDUA対AAV-IDUA-4XmiR183)の分析を伴うスポンジ効果研究からの結果を示す。図19Aは、後根神経節(DRG)におけるmiR183クラスター調節遺伝子mRNA定量化を提供する。図19Bは、皮質における結果を提供する。miR183クラスター調節遺伝子(CACNA2D1またはCACNA2D2)の発現の増加はなく、DRG(高miR183存在量)または前頭皮質(低miR183存在量)のいずれかにおけるAAV-IDUAおよびAAV-IDUA-miR183動物からの結果を比較する。
図20】低濃度(5×10)または高濃度(2.5×10)でのmiR183標的配列の4つのコピーを伴うか、または伴わない、eGFP導入遺伝子を担持する様々なベクターのAAV9形質導入の結果を示す。miR183を伴わない低用量および高用量を、100(低用量AAV9-eGFPの場合)または10(高用量AAV9-eGFPの場合)の感染多重度(MOI)で、アデノウイルス5型(Ad5)ヘルパー共トランスフェクションを行うか、または行わずに試験した。すべてのDRGニューロンが形質導入され、毒性の目に見える兆候は観察されなかった。DRGニューロンにおいて、GFP発現は観察されなかったが、線維芽細胞様細胞において、ある程度の発現が観察された。この結果は、4×miR183標的発現カセットによるGFP転写の抑制を確認する。
図21】ラットDRG細胞におけるスポンジ効果研究からの結果を示す。このデータは、細胞がAAV9-eGFP-mir183で形質導入されると、ラットDRG細胞におけるmiR183レベルが低減することを示す。AAF9-eGFP-miR183-は、GFP-miR183 mRNAに対するターゲットエンゲージメントを示す。
図22A-22C】3つの既知のmiR183調節転写産物で評価した、ラットDRG細胞におけるmiR183スポンジ効果研究の効果を示す。図22Aは、モックベクター、AAV-GFP、またはAAV-GFP-miR183ベクターの送達後のラットDRG細胞におけるCACANA2D1相対発現の結果を示す。図22Bは、モックベクター、AAV-GFP、またはAAV-GFP-miR183ベクターの送達後のラットDRG細胞におけるCACANA2D2相対発現の結果を示す。図22Cは、モックベクター、AAV-GFP、またはAAV-GFP-miR183ベクターの送達後のラットDRG細胞におけるATF3発現の結果を示す。これらの3つのmiR183調節転写産物のmRNAレベルの相対発現に変化は観察されなかった。
図23】神経解剖学的所見および顕微鏡的所見を示す。DRGの神経細胞体(A)は、脊髄の上行性(感覚)背側白質路(C)および末梢神経系(D)の中に軸索を中心に向かって突出させる。(A1~D1)DRG病的状態に関連する顕微鏡的病変の神経解剖学的関係。DRGにおける神経細胞体変性(丸印、A1)は、神経根の中心および末梢の両方に延びる軸索周囲線維症(水平の矢印、B1)を伴うか、または伴わない軸索変性(垂直の矢印、B1)を引き起こす。DRG神経根における軸索変性は、軸索周囲線維症(水平の矢印、D1)を伴うか、または伴わない、脊髄の上行性背側白質路(垂直の矢印、C1)および末梢神経(垂直の矢印、D1)の中に中心に向かって延びる。(A2~D2)正常なDRG、DRG神経根、脊髄の背側白質および末梢神経。(ヘマトキシリンおよびエオシン、20倍、スケールバー=100μm)。(E~H)DRG病的状態の様々な段階の高倍率画像。(E)変性プロセスの初期に、神経細胞体は、ミクログリア細胞および浸潤する単核細胞(神経貪食)と共に、増殖する衛星細胞のみを含み、比較的正常であるように見える(丸印)。(F)病変が進行するにつれて、神経細胞体は、消えかけている核を有するか、または核が存在せず、細胞質高酸素血症を有する、小さな不規則形状もしくは鋭角を有する形状の細胞を特徴とする、変性の証拠(垂直の矢印)を示す。(G)神経細胞体変性(丸印)は、衛星細胞、ミクログリア細胞および単核細胞による完全な消失を引き起こす場合があり(星形)、これは、末期の変性と考えられる。(H)正常なDRG。(ヘマトキシリンおよびエオシン、40倍、スケールバー=50μm。)
図24A-24D】DRG病的状態の重症度に対する研究の特徴の効果を示す。異なる(図24A)投与経路、(図24B)ベクター用量、(図24C)組織収集のための注射後の時間、および(図24D)GLPガイドラインに準拠した研究実施による、DRG(黒色)および背側脊髄(SC)軸索(灰色)における平均病理学的スコア。平均の標準誤差を伴う平均結果、表は、各群における動物の数(n)およびスコアリングされた組織学的切片の数(カウント)を示す。群間の比較は、各DRGならびに脊髄領域(すなわち、頸部、胸部、腰部)内のウィルコクソンの順位和検定を使用して行われ、組み合わせたp値は、0.05レベルで評価された統計学的有意性を有するフィッシャー法を使用して、全体的なDRGまたは脊髄群間比較について算出された。*は、群間比較の有意性を示し、#は、ビヒクル対照群との比較のための有意性を示し(図24A)、または(図23C)180+日時点との比較のための有意性を示す。*,#p<0.05、**,##p<0.01、***,###p<0.001、****,####p<0.0001。統計記号の色コード:DRGは黒、SCは灰色。
図25A-25B】DRG病的状態の重症度に対する動物の特徴の効果を示す。(図25A)注射時の動物の年齢が異なる、および(図25B)動物の性別が異なる(アカゲザルのみ)、DRG(黒色)および背側脊髄(SC)軸索(灰色)における平均病理学的スコア。平均の標準誤差を伴う平均結果、表は、各群における動物の数(n)およびスコアリングされた組織学的切片の数(カウント)を示す。群間の比較は、各DRGならびに脊髄領域(すなわち、頸部、胸部、腰部)内のウィルコクソンの順位和検定を使用して行われ、組み合わせたp値は、0.05レベルで評価された統計学的有意性を有するフィッシャー法を使用して、全体的なDRGまたは脊髄群間比較について算出された。*は、群間比較の有意性を示し、#は、乳幼児群との比較のための有意性を示す(図25A)。*,#p<0.05、**,##p<0.01、***,###p<0.001、****,####p<0.0001。統計記号の色コード:DRGは黒、SCは灰色。
図26A-26D】DRG病的状態の重症度に対するベクターの特徴の効果を示す。異なる(図26A)カプシド、(図26B)プロモーター、および(図26C)導入遺伝子、ならびに非分泌型導入遺伝子に対する分泌型導入遺伝子(図26D)による、DRG(黒色)および背側脊髄(SC)軸索(灰色)における平均病理学的スコア。導入遺伝子は、SC病的状態の重症度に基づいて、1~20に並べられた。平均の標準誤差を伴う平均結果、表は、各群における動物の数(n)およびスコアリングされた組織学的切片の数(カウント)を示す。(図26A図26B、および図26D)群間の比較は、各DRGならびに脊髄領域(すなわち、頸部、胸部、腰部)内のウィルコクソンの順位和検定を使用して行われ、組み合わせたp値は、0.05レベルで評価された統計学的有意性を有するフィッシャー法を使用して、全体的なDRGまたは脊髄群間比較について算出された。*は、群間比較の有意性を示す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。統計記号の色コード:DRGは黒、SCは灰色。C=頸部、T=胸部、L=腰部領域。
図27】重症度グレードの分布を伴う領域的病理スコアを示す。平均の標準誤差(赤色の点および棒)ならびに領域ごとの重症度グレードの分布(積み上げ棒グラフ)を伴う、病理学的スコアの平均パーセンテージの割合。表は、各群における動物の数(n)およびスコアリングされた組織学的切片の数(カウント)を示す。平均値間の比較は、TRGとDRG、ならびにDRGとSCのそれぞれの領域(すなわち、頸部、胸部、腰部)間のウィルコクソンの順位和検定を使用して行った。統計学的有意性は、0.05レベルで評価した。*は、三叉神経の神経節(TRG)とDRGとの比較の有意性を示し、#は、DRGとSCの領域ごとの比較のための有意性を示す。**p<0.01、####p<0.0001。
図28A-28B】末梢神経の病的状態を示す。平均の標準誤差(赤色の点、および棒)ならびに末梢神経ごとの重症度グレードの分布(積み上げ棒グラフ)を伴う、病理学的スコアの平均パーセンテージの割合。表は、各群における動物の数(n)およびスコアリングされた組織学的切片の数(カウント)を示す。一部の末梢神経は大部分の研究で収集されなかったため、統計分析は実施されなかった。
図29A-29D】脊髄領域ごとに分けられた、DRG病的状態の重症度に対する研究の特徴の効果を示す。異なる(図29A)投与経路、(図29B)ベクター用量、(図29C)組織収集のための注射後の時間、および(図29D)GLPガイドラインに準拠した研究実施による、DRG(黒色)および背側脊髄(SC)軸索(灰色)領域における平均病理学的スコア。平均の標準誤差を伴う平均結果、表は、各群における動物の数(n)およびスコアリングされた組織学的切片の数(カウント)を示す。C=頸部、T=胸部、L=腰部領域。
図30A-30B】脊髄領域ごとに分けられた、DRG病的状態の重症度に対する動物の特徴の効果を示す。(図30A)注射時の動物の年齢が異なる、および(図30B)動物の性別が異なる(アカゲザルのみ)、DRG(黒色)および背側脊髄(SC)軸索(灰色)領域における平均病理学的スコア。平均の標準誤差を伴う平均結果、表は、各群における動物の数(n)およびスコアリングされた組織学的切片の数(カウント)を示す。C=頸部、T=胸部、L=腰部領域。
図31A-31C】脊髄領域ごとに分けられた、DRG病的状態の重症度に対するベクターの特徴の効果を示す。異なる(図31A)カプシド、(図31B)プロモーター、および(図31C)導入遺伝子による、DRG(黒色)および背側脊髄(SC)軸索(灰色)領域における平均病理学的スコア。導入遺伝子は、SC病的状態の重症度に基づいて、1~20に並べられた。平均の標準誤差を伴う平均結果、表は、各群における動物の数(n)およびスコアリングされた組織学的切片の数(カウント)を示す。C=頸部、T=胸部、L=腰部領域。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ヒト対象へのヒトアルファ-L-イズロニダーゼ(hIDUA)遺伝子の送達のための発現カセットおよび複製欠損アデノ随伴ウイルス(「AAV」)が本明細書に提供される。hIDUA遺伝子を送達するために使用される組換えAAV(「rAAV」)ベクター(「rAAV.hIDUA」)は、CNSに対して向性を有し(例えば、AAVhu68カプシドを有するrAAV)、hIDUA導入遺伝子は、特異的発現制御エレメント(例
えば、CB7、サイトメガロウイルスエンハンサーエレメントを有するニワトリβ-アクチンプロモーター)によって制御される。特定の実施形態では、生理学的に適合する水性緩衝液、界面活性剤、および任意選択的な賦形剤を含む製剤緩衝液中に発現カセットまたはrAAV.hIDUAベクターの懸濁液を含む、髄腔内、槽内、および全身投与に好適な薬学的組成物が提供される。
【0016】
特定の態様では、本明細書で提供される組成物および方法は、導入遺伝子発現が、ベクターゲノムまたは発現カセット中にmiRNA標的配列を含むことによってDRGニューロン中で抑制される、機能的hIDUAの送達のための療法に有用である。本明細書で使用される場合、「抑制される」および「抑制」という用語は、導入遺伝子発現の部分的な低減、または完全な消滅、またはサイレンシングを含む。導入遺伝子発現は、選択された導入遺伝子に好適なアッセイを使用して評価されてもよい。提供される組成物および方法は、神経変性、二次背側脊髄軸索変性、および/または単核細胞浸潤によって特徴付けられるDRGの毒性を減少させる。特定の実施形態では、発現カセットまたはベクターゲノムは、遺伝子産物コード配列の3’側の非翻訳領域(UTR)に、1つ以上のmiRNA標的配列を含む。好適には、2つ以上のmiRNA標的配列がタンデムで提供され、任意選択的に、スペーサー配列によって分離される。特定の実施形態では、3個以上のmiRNA標的配列がタンデムで提供され、任意選択的に、スペーサー配列によって分離される。特定の実施形態では、8個のmiRNA標的配列がタンデムで提供され、任意選択的に、スペーサー配列によって分離される。
【0017】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、MPSI、ならびに/またはHurlerおよび/もしくはHurler-Scheieおよび/もしくはScheie症候群の症状のうちの1つ以上を緩和または治療するのに十分な量の酵素を標的細胞に送達し、発現させる、組成物(例えば、rAAV.hIDUA組成物)の量を指す。「治療」は、MPSI症候群のうちの1つの症状の悪化の予防、および可能であればそれらの症状のうちの1つ以上の逆転を含み得る。治療効果(有効性)を評価する方法を、以下に詳細に記載する。ヒト患者についての「治療有効量」は、動物モデルに基づいて予測されてもよい。好適なネコモデルおよび好適なイヌモデルの例は、以前に記載されている。C.Hinderer et al,Molecular Therapy(2014);22 12,2018-2027、A.Bradbury,et al,Human Gene Therapy Clinical Development.March 2015,26(1):27-37(これらは参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。イヌモデルに関して、イヌモデルは、典型的には、イヌにおける静脈内投与が、ヒトIDUAに対する強力で持続的な抗体応答を誘発することが観察されているが、一方、ヒト患者では、投与は良好に耐容性であるため、免疫抑制された動物モデル、または耐容性化された動物である。これらのモデルでは、特定の症状の逆転が観察される場合があり、および/または特定の症状の進行の予防が観察される場合がある。例えば、角膜混濁の補正が観察される場合があり、および/または中枢神経系(CNS)における病変の補正が観察され、ならびに/または血管周囲および/もしくは髄膜のgag貯蔵の逆転が観察される。
【0018】
治療の目標は、疾患を治療するための実行可能なアプローチとして、患者のアルファ-L-イズロニダーゼ欠損をrAAVベースのCNS指向性遺伝子療法によって機能的に補充することである。本明細書に記載のrAAVベクターから発現される場合、CSF、血清、ニューロン、または他の組織もしくは流体で検出される正常レベルの少なくとも約2%の発現レベルは、治療効果を提供し得る。しかし、より高い発現レベルが成し遂げられ得る。そのような発現レベルは、正常な機能的ヒトIDUAレベルの2%~約100%であり得る。特定の実施形態では、正常な発現レベルより高いレベルが、CSF、血清、または他の組織もしくは流体で検出され得る。
【0019】
本明細書で使用される場合、「NAb力価」という用語は、その標的化エピトープ(例えば、AAV)の生理学的効果を中和する中和抗体(例えば、抗AAV Nab)がどれほど多く産生されるかの尺度である。抗-AAV NAb力価は、例えば、Calcedo,R.,et al.,Worldwide Epidemiology of Neutralizing Antibodies to Adeno-Associated Viruses.Journal of Infectious Diseases,2009.199(3):p.381-390に記載されているように測定され得、それは参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
「含む(comprising)」とは、他の構成要素または方法ステップを含むことを意味する用語である。「含む(comprising)」が使用される場合、関連する実施形態は、他の構成要素または方法ステップを除外する「からなる(consisting of)」という用語、および実施形態または発明の性質を実質的に変化させるいずれの構成要素または方法ステップを除外する「本質的にからなる(consisting
essentially of)」という用語を使用する説明が含まれることを理解されたい。本明細書の様々な実施形態は、「含む(comprising)」という言葉を用いて示されているが、様々な状況下では、関連する実施形態は、「からなる(consisting of)」または「本質的にからなる(consisting essentially of)」という言葉を使用して記載されることも理解されるべきである。
【0021】
「a」または「an」という用語は、1つ以上を指し、例えば、「ベクター(a vector)」は、1つ以上のベクターを表すことを留意されたい。したがって、「a」(または「an」)、「1つ以上(one or more)」、および「少なくとも1つ(at least one)」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0022】
本明細書で使用される場合、「約(about)」という用語は、別途指定されない限り、与えられた参照からプラスまたはマイナス10%の可変性を意味する。
【0023】
ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ(hIDUA)
本明細書で使用される場合、「ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ」または「hIDUA」という用語は、ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ酵素を指すために互換的に使用される。ギリシャ文字「アルファ」および記号「α」は、本明細書全体で互換的に使用されることが理解されるであろう。本明細書で使用される場合、hIDUAは、天然(野生型)hIDUAタンパク質、およびさらに本明細書で提供される核酸配列から発現されるバリアントhIDUAタンパク質、または組成物で送達される場合、もしくは本明細書で提供される方法によって、所望の機能を回復し、症状を緩和し、MPSI、Hurler、および/またはHurler-Scheieおよび/またはScheie症候群のうちの1つ以上と関連する症状を改善する、それらの機能的断片を指す。
【0024】
「ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ」または「hIDUA」は、例えば、本明細書に記載される全長タンパク質(シグナルペプチドおよび成熟タンパク質を含む)、成熟タンパク質、バリアントタンパク質、またはそれらの機能的断片であり得る。本明細書で使用される場合、「機能的hIDUA」という用語は、全長天然(野生型)タンパク質のアミノ酸配列(配列番号21およびUniProtKB受入番号:P35475-1に示される)を有する酵素、それらのバリアント(本明細書に記載されるものを含む)、保存的アミノ酸置き換えを有するそれらの変異体、それらの断片、バリアントと保存的アミノ酸置き換えを有する変異体との任意の組み合わせの全長または断片を指し、天然(野生型)hIDUAの生物学的活性レベルの少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも
約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または少なくともほぼ同じ、または100%より大きな生物学的活性レベルを提供する。特定の実施形態では、機能的hIDUAは、天然hIDUAの基質結合領域(アミノ酸305および306)を含む。hIDUAのいくつかの天然に存在する機能的多型(バリアント)が記載されており、本発明の範囲内に包含され得る。このようなバリアントが記載されており、例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO 2014/151341、および例えば、これも参照により本明細書に組み込まれるUniProtKB/Swiss-Prot;uniprot.org/uniprot/P35475を参照されたい。
【0025】
ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ-(配列番号21)(シグナルペプチド-アミノ酸1~27)
【表1】
【0026】
天然ヒトIDUAコード配列(配列番号20)(NCBI参照配列:NM_000203.5);(シグナルペプチド-ヌクレオチド1~81)atgcgtcccctgcg
cccccgcgccgcgctgctggcgctcctggcctcgctcctggccgcgcccccggtggccccggccgaggccccgcacctggtgcatgtggacgcggcccgcgcgctgtggcccctgcggcgcttctggaggagcacaggcttctgccccccgctgccacacagccaggctgaccagtacgtcctcagctgggaccagcagctcaacctcgcctatgtgggcgccgtccctcaccgcggcatcaagcaggtccggacccactggctgctggagcttgtcaccaccagggggtccactggacggggcctgagctacaacttcacccacctggacgggtacctggaccttctcagggagaaccagctcctcccagggtttgagctgatgggcagcgcctcgggccacttcactgactttgaggacaagcagcaggtgtttgagtggaaggacttggtctccagcctggccaggagatacatcggtaggtacggactggcgcatgtttccaagtggaacttcgagacgtggaatgagccagaccaccacgactttgacaacgtctccatgaccatgcaaggcttcctgaactactacgatgcctgctcggagggtctgcgcgccgccagccccgccctgcggctgggaggccccggcgactccttccacaccccaccgcgatccccgctgagctggggcctcctgcgccactgccacgacggtaccaacttcttcactggggaggcgggcgtgcggctggactacatctccctccacaggaagggtgcgcgcagctccatctccatcctggagcaggagaaggtcgtcgcgcagcagatccggcagctcttccccaagttcgcggacacccccatttacaacgacgaggcggacccgctggtgggctggtccctgccacagccgtggagggcggacgtgacctacgcggccatggtggtgaaggtcatcgcgcagcatcagaacctgctactggccaacaccacctccgccttcccctacgcgctcctgagcaacgacaatgccttcctgagctaccacccgcaccccttcgcgcagcgcacgctcaccgcgcgcttccaggtcaacaacacccgcccgccgcacgtgcagctgttgcgcaagccggtgctcacggccatggggctgctggcgctgctggatgaggagcagctctgggccgaagtgtcgcaggccgggaccgtcctggacagcaaccacacggtgggcgtcctggccagcgcccaccgcccccagggcccggccgacgcctggcgcgccgcggtgctgatctacgcgagcgacgacacccgcgcccaccccaaccgcagcgtcgcggtgaccctgcggctgcgcggggtgccccccggcccgggcctggtctacgtcacgcgctacctggacaacgggctctgcagccccgacggcgagtggcggcgcctgggccggcccgtcttccccacggcagagcagttccggcgcatgcgcgcggctgaggacccggtggccgcggcgccccgccccttacccgccggcggccgcctgaccctgcgccccgcgctgcggctgccgtcgcttttgctggtgcacgtgtgtgcgcgccccgagaagccgcccgggcaggtcacgcggctccgcgccctgcccctgacccaagggcagctggttctggtctggtcggatgaacacgtgggctccaagtgcctgtggacatacgagatccagttctctcaggacggtaaggcgtacaccccggtcagcaggaagccatcgaccttcaacctctttgtgttcagcccagacacaggtgctgtctctggctcctaccgagttcgagccctggactactgggcccgaccaggccccttctcggaccctgtgccgtacctggaggtccctgtgccaagagggcccccatccccgggcaatccatga
【0027】
配列番号20の全長天然hIDUAの番号付けに関して、アミノ酸1位~27位にシグナルペプチドが存在し、成熟タンパク質は、アミノ酸28~653を含む。本明細書で使用される場合、「シグナルペプチド」は、新たに合成されるタンパク質のN末端に存在する短いペプチド(通常は約16~35アミノ酸)を指す。シグナルペプチド、および場合によっては、そのようなペプチドをコードする核酸配列は、シグナル配列、標的化シグナル、局在化シグナル、局在化配列、トランジットペプチド、リーダー配列、またはリーダーペプチドと呼ばれることもある。特定の実施形態では、hIDUAは、成熟タンパク質(シグナルペプチド配列を欠く)である。
【0028】
本明細書に記載されるように、hIDUAは、天然シグナルペプチド(すなわち、配列番号21のアミノ酸1~27)、または代替的に、異種シグナルペプチドを含み得る。特定の実施形態では、hIDUAは、異種シグナルペプチドを含む。特定の実施形態では、このような異種シグナルペプチドは、好ましくはヒト由来であり、例えば、IL-2シグナルペプチドを含み得る。特定の実施形態で動作可能な特定の異種シグナルペプチドとしては、キモトリプシノーゲンB2由来のアミノ酸1~20、ヒトアルファ-1-アンチトリプシンのシグナルペプチド、イズロン酸-2-スルファターゼ由来のアミノ酸1~25、およびプロテアーゼCI阻害剤由来のアミノ酸1~23が挙げられる。例えば、WO2018/046774を参照されたい。他のシグナル/リーダーペプチドは、とりわけ、免疫グロブリン(例えば、IgG)、サイトカイン(例えば、IL-2、IL12、IL18など)、インスリン、アルブミン、β-グルクロニダーゼ、オンコスタチン、アルカリプロテアーゼ、またはフィブロネクチン分泌シグナルペプチドに天然に見出されてもよい。また、例えば、signalpeptide.de/index.php?m=listspdb_mammaliaを参照されたい。このようなキメラhIDUAは、天然シグナルペプチドの代わりに異種リーダーを有し得る。任意選択的に、hIDUA酵素のN末端トランケーションは、シグナルペプチドの一部分のみ(例えば、約2~約25個のアミノ酸、もしくはその間の値のアミノ酸の欠失)、シグナルペプチド全体、またはシグナルペプチドよりも長い断片(例えば、配列番号21の番号付けに基づいて最大70個のアミノ酸を欠いていてもよい。任意選択的に、そのような酵素は、約5、10、15、または20アミノ酸長のC末端トランケーションを含有してもよい。
【0029】
特定の実施形態では、配列番号21の全長(アミノ酸1~653)に対して少なくとも95%同一、少なくとも97%同一、または少なくとも99%同一である配列を有するhIDUAを選択してもよい。特定の実施形態では、配列番号21の成熟タンパク質(アミノ酸28~653)に対して少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%同一である配列が提供される。特定の実施形態では、全長(アミノ酸1~653)または成熟タンパク質(アミノ酸32~653)のいずれかのhIDUAに対して少なくとも95%~少なくとも99%の同一性を有する配列は、適切な動物モデルで試験される場合に、参照(すなわち、天然)hIDUAよりも改善された生物学的効果およびより良好な安全プロファイルを有することを特徴とする。特定の実施形態では、hIDUA酵素は、hIDUAアミノ酸配列の指定された位置に修飾を含有する。
【0030】
本明細書で使用される場合、「保存的アミノ酸置き換え」または「保存的アミノ酸置換」は、当業者によって知られている、類似の生化学的特性(例えば、電荷、疎水性、およびサイズ)を有する異なるアミノ酸へのアミノ酸の変更、置き換え、または置換を指す。また、例えば、FRENCH et al.What is a conservative substitution?Journal of Molecular Evolution,March 1983,Volume 19,Issue 2,pp 171-175 and YAMPOLSKY et al.The Exchangeability of Amino Acids in Proteins,Genetics.2005 Aug;170(4):1459-1472を参照されたい(その各々
は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0031】
一態様では、機能的hIDUAタンパク質をコードする、核酸配列、ならびに例えば、この核酸配列を含む発現カセットおよびベクターが本明細書で提供される。一実施形態では、核酸配列は、配列番号20で再現される野生型コード配列である。さらなる実施形態では、核酸配列は、配列番号20の野生型hIDUA配列に対して少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%同一であり、機能的hIDUAをコードする。
【0032】
本明細書で使用される場合、「核酸」は、ヌクレオチドのポリマー形態を指し、RNA、mRNA、cDNA、ゲノムDNA、ペプチド核酸(PNA)、ならびに上述の合成形態および混合ポリマーを含む。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、またはいずれかの種類のヌクレオチド(例えば、ペプチド核酸オリゴマー)の修飾形態を指す。この用語はまた、一本鎖形態および二本鎖形態のDNAも含む。当業者は、これらの核酸分子の機能的バリアントが本明細書に記載されていることを理解するであろう。機能的バリアントは、標準的な遺伝子コードを使用して直接的に翻訳され、親核酸分子から翻訳されたものと同一のアミノ酸配列を提供することができる核酸配列である。
【0033】
特定の実施形態では、本明細書に記載の機能的hIDUAをコードする核酸分子、および他の構築物は、発現カセットおよびベクターゲノムを生成するのに有用であり、酵母細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)における発現のために操作され得る。方法は既知であり、以前に記載されている(例えば、WO96/09378)。野生型配列と比較して少なくとも1つの好ましくないコドンが、より好ましいコドンによって置き換えられる場合、配列は、操作されたものとみなされる。本明細書において、好ましくないコドンは、同じアミノ酸をコードする別のコドンよりも生物において使用される頻度が低いコドンであり、より好ましいコドンは、好ましくないコドンよりも生物において使用される頻度が高いコドンである。特定の生物のコドン使用頻度は、コドン頻度表、例えば、www.kazusa.jp/codonのコドン頻度表に見出すことができる。好ましくは、1つより多い好ましくないコドン、好ましくは、大部分またはすべての好ましくないコドンは、より好ましいコドンによって置き換えられる。好ましくは、生物において最も頻繁に使用されるコドンは、操作された配列で使用される。好ましいコドンによる置き換えは、一般に、より高い発現をもたらす。また、遺伝子コードの縮重の結果として、多数の異なる核酸分子が同じポリペプチドをコードすることができることも当業者によって理解されるであろう。また、当業者は、日常的な技術を使用して、ポリペプチドが発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用を反映するために、核酸分子によってコードされるアミノ酸配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行ってもよいことも理解される。したがって、別途指定されない限り、「アミノ酸配列をコードする核酸配列」は、互いに縮重態様であり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。核酸配列は、日常的な分子生物学技術を使用してクローニングすることができ、またはDNA合成によってデノボで生成することができ、このことは、DNA合成および/または分子クローニングの分野で事業を有するサービス企業(例えば、GeneArt、GenScript、Life Technologies、Eurofins)によって日常的な手順を使用して行うことができる。
【0034】
特定の実施形態では、本明細書に記載の核酸、発現カセット、ベクターゲノムは、操作された配列であるhIDUAコード配列を含む。特定の実施形態では、操作された配列は、対象における産生、転写、発現、または安全性を改善するのに有用である。特定の実施形態では、操作された配列は、得られる治療用組成物または治療の有効性を増加させるのに有用である。さらなる実施形態では、操作された配列は、発現される機能的hIDUAタンパク質の有効性を増加させるのに有用であり、また、機能的hIDUAを送達する治
療試薬の用量を下げることを可能にし得る。特定の実施形態では、操作されたhIUDAコード配列は、野生型hIDUAコード配列と比較して、改善された翻訳を特徴とする。
【0035】
「操作された」とは、本明細書に記載の機能的hIDUA酵素をコードする核酸配列が組み立てられ、任意の好適な遺伝子エレメント、例えば、裸のDNA、ファージ、トランスポゾン、コスミド、エピソームなどに配置され、それらは、例えば、非ウイルス送達系(例えば、RNAベースの系、裸のDNAなど)を生成するために、またはパッケージング宿主細胞中でウイルスベクターを生成するために、および/または対象の宿主細胞への送達のために、その上に担持されるhIDUA配列を宿主細胞へと導入することを意味する。特定の実施形態では、遺伝子エレメントは、ベクターである。一実施形態では、遺伝子エレメントは、プラスミドである。かかる操作された構築物を作製するために使用される方法は、核酸操作の技術者に既知であり、遺伝子工学、組換え工学、および合成技術を含む。例えば、Green and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY(2012)を参照されたい。
【0036】
核酸配列の文脈における「同一性パーセント(%)」、「配列同一性」、「配列同一性パーセント」、または「同一なパーセント」という用語は、対応するようにアラインメントさせたときに同じである2つの配列中の残基を指す。配列同一性比較の長さは、構築物の全長、遺伝子コード配列の全長、または少なくとも約500~1000個のヌクレオチドの断片にわたるものであってもよい。しかしながら、例えば、少なくとも約9個のヌクレオチド、通常は少なくとも約20~24個のヌクレオチド、少なくとも約28~32個のヌクレオチド、少なくとも約36個以上のヌクレオチドを有する、より小さな断片間の同一性も望ましい場合がある。
【0037】
同一性パーセントは、タンパク質の全長、ポリペプチド、約100個のアミノ酸、約300個のアミノ酸、もしくはそのペプチド断片にわたるアミノ酸配列、または対応する核酸配列コード配列について容易に決定され得る。好適なアミノ酸断片は、長さが少なくとも約8個のアミノ酸であってもよく、最大で約50個のアミノ酸であってもよい。一般に、2つの異なる配列間の「同一性」、「相同性」、または「類似性」について言及する場合、「同一性」、「相同性」、または「類似性」は、「アラインメントされた」配列を参照して決定される。「アラインメントされた」配列または「アラインメント」とは、複数の核酸配列またはタンパク質(アミノ酸)配列を指し、参照配列と比較して、多くの場合、欠損または追加の塩基またはアミノ酸についての補正を含む。
【0038】
同一性は、配列のアラインメントを調製することによって、当該技術分野で既知のまたは市販の様々なアルゴリズムおよび/またはコンピュータプログラム(例えば、BLAST、ExPASy;Clustal Omega;FASTA;例えば、Needleman-Wunsch algorithm、Smith-Watermanアルゴリズムを使用する)によって決定され得る。アラインメントは、公共のまたは市販のいずれかの様々な多重配列アラインメントプログラムを用いて行われる。例えば、「Clustal
Omega」、「Clustal X」、「MAP」、「PIMA」、「MSA」、「BLOCKMAKER」、「MEME」、および「Match-Box」プログラムなどの配列アラインメントプログラムが、アミノ酸配列に対して利用可能である。一般に、これらのプログラムのいずれかがデフォルト設定で使用されるが、必要に応じて、当業者は、これらの設定を変更することができる。代替的に、当業者は、別のアルゴリズムまたはコンピュータプログラムを利用することができ、参照のアルゴリズムおよびプログラムによって提供されるように、少なくとも同一性のレベルまたはアラインメントが提供される。例えば、J.D.Thomson et al,Nucl.Acids.Res.,“
A comprehensive comparison of multiple sequence alignments”,27(13):2682-2690(1999)を参照されたい。
【0039】
配列に関しての同一性または類似性は、本明細書では、最大配列同一性パーセントを達成するように配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入した後の、本明細書で提供されるペプチドおよびポリペプチド領域と同一(すなわち、同じ残基)または類似(すなわち、共通の側鎖特性に基づく同じ群からのアミノ酸残基、下記を参照されたい)である候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。同一性パーセント(%)は、それらのヌクレオチドまたはアミノ酸配列をそれぞれ比較することにより決定されるような、2つのポリヌクレオチド間または2つのポリペプチド間の関係の尺度である。一般に、比較される2つの配列は、配列間に最大の相関を与えるようにアラインメントされる。2つの配列のアラインメントが調べられ、2つの配列間の正確なアミノ酸またはヌクレオチド対応を与える位置の数が決定され、アラインメントの全長によって除算され、それに100を掛けることにより、同一性%の数字を得る。この同一性%の数字は、比較されるべき配列の全長にわたって決定されてもよく、これは、同じまたは非常に類似した長さの配列に特に適切であり、かつ高度に相同であり、またはこの同一性%の数字は、より短い定義された長さにわたって決定されてもよく、これは、長さが等しくない配列により適切であり、もしくはより低いレベルの相同性を有する。多数のアルゴリズム、およびそれらに基づくコンピュータプログラムが存在し、それらは、文献で使用されるために入手可能であり、および/またはアラインメントおよび同一性パーセントを実行するために公的または商業的に入手可能である。アルゴリズムまたはプログラムの選択は、本発明を限定しない。
【0040】
適切なアラインメントプログラムの例は、例えば、Unixに基づき、次いで、BioeditプログラムにインポートされるソフトウェアCLUSTALW(Hall,T.A.1999,BioEdit:a user-friendly biological sequence alignment editor and analysis
program for Windows 95/98/NT.Nucl.Acids.Symp.Ser.41:95-98)、Wisconsin Sequence Analysis Package、バージョン9.1(Devereux J.et al.,Nucleic Acids Res.,12:387-395,1984,Genetics Computer Group,Madison,Wis.,USAから入手可能)を含む。プログラムBESTFITおよびGAPは、2つのポリヌクレオチド間の同一性%および2つのポリペプチド配列間の同一性%を決定するために使用されてもよい。
【0041】
配列間の同一性および/または類似性を決定するための他のプログラムは、例えば、National Center for Biotechnology Information(NCB)、Bethesda,Md.,USAから入手可能であり、www.ncbi.nlm.nih.gov)でNCBIのホームページによってアクセス可能である、BLASTファミリーのプログラム、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)を含む。アミノ酸配列を比較するためのALIGNプログラムを利用する場合、PAM120残基重量表、ギャップ長さペナルティ12、およびギャップペナルティ4を用いることができる、ならびにFASTA(Pearson W.R.およびLipman D.J.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:2444-2448、1988、Wisconsin配列分析パッケージの一部として入手可能)。SeqWebソフトウェア(GCG Wisconsinパッケージに対するウェブに基づくインターフェース:Gapプログラム)。
【0042】
特定の実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号20の天然hIDUA配列に対して80%未満同一であり、配列番号21のアミノ酸配列をコードする。さらなる実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号20のヌクレオチド(nt)88~1959に対して80%未満同一である配列を含み、配列番号21のアミノ酸28~635をコードする。
【0043】
特定の実施形態では、hIDUAコード配列は、天然hIDUAコード配列(配列番号20)と、約99%未満、約98%未満、約97%未満、約96%未満、約95%未満、約94%未満、約93%未満、約92%未満、約91%未満、約90%未満、約89%未満、約88%未満、約87%未満、約86%未満、約85%未満、約84%未満、約83%未満、約82%未満、約81%未満、約80%未満、約79%未満、約78%未満、約77%未満、約76%未満、約75%未満、約74%未満、約73%未満、約72%未満、約71%未満、約70%未満、約69%未満、約68%未満、約67%未満、約66%未満、約65%未満、約64%未満、約63%未満、約62%未満、約61%未満を共有するか、または天然hIDUAコード配列(配列番号20)との同一性を有する。他の実施形態では、hIDUAコード配列は、天然hIDUAコード配列(配列番号20)と、約99%、約98%、約97%、約96%、約95%、約94%、約93%、約92%、約91%、約90%、約89%、約88%、約87%、約86%、約85%、約84%、約83%、約82%、約81%、約80%、約79%、約78%、約77%、約76%、約75%、約74%、約73%、約72%、約71%、約70%、約69%、約68%、約67%、約66%、約65%、約64%、約63%、約62%、約61%、またはそれ以下の同一性を共有する。特定の実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号20に対して少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%同一であり、機能的ヒトアルファ-L-イズロニダーゼをコードする。さらなる実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号23、24、25、26、または27に対して少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%同一であり、機能的ヒトアルファ-L-イズロニダーゼをコードする。
【0044】
同一性は、全長hIDUA(例えば、配列番号20のnt1~nt1959)をコードする配列に関するものであってもよく、または成熟hIDUA(例えば、配列番号20のnt82~nt1959)をコードする配列に関するものであってもよい。特定の実施形態では、全長hIDUAは、配列番号20の約1~約81に対応する、ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ(すなわち、配列番号21の1~約27のアミノ酸をコードする)のリーダーペプチド配列を含む。別の実施形態では、hIDUA遺伝子は、機能的アルファ-L-イズロニダーゼ酵素の分泌部分(すなわち、配列番号21の約28~約653のアミノ酸)または本明細書で特定されるその機能的バリアントに融合された異種リーダー配列を含む合成ペプチドである機能的合成ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ酵素をコードする。なお別の実施形態では、hIDUA遺伝子は、配列番号21の機能的合成ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ酵素をコードし、リーダー配列は、配列番号21のアミノ酸1~27をコードする配列番号20のヌクレオチド1~81によってコードされ、アミノ酸28~653は、配列番号20のヌクレオチド82~1959に対して少なくとも85%、
95%、もしくは99%同一である配列、または配列番号22のヌクレオチド82~1959に対して少なくとも85%、95%、もしくは99%同一である配列によってコードされる。特定の実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号20のnt1~1959、または全長hIDUAをコードする、それに対して少なくとも85%、90%、95%、もしくは99%同一の配列を含む。特定の実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号20のnt82~nt1959、または機能的hIDUAをコードする、それに対して少なくとも85%、90%、95%、もしくは99%同一の配列を含む。特定の実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号23、24、25、または26のnt1~1959、または全長hIDUAをコードする、それに対して少なくとも85%、90%、95%、もしくは99%同一の配列を含む。特定の実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号23、24、25、または26のnt82~nt1959、または成熟hIDUA(例えば、配列番号21のアミノ酸27~653)をコードする、それに対して少なくとも85%、90%、95%、もしくは99%同一の配列を含む。
【0045】
さらなる実施形態では、hIDUAコード配列は、配列番号22、23、24、25、または26を含む。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0046】
本明細書で使用される場合、「所望の機能」は、健常な対照の少なくとも約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約100%のhIDUA酵素活性を指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、「症状を緩和する」および「症状を改善する」という語句
、ならびにそれらの文法的変形語は、MPSI、Hurler、および/またはHurler-Scheieおよび/またはScheie症候群に関連する症状の逆転、MPSI、Hurler、および/またはHurler-Scheieおよび/またはScheie症候群に関連する症状の進行の減速または予防を指す。特定の実施形態では、緩和または改善は、投与前または使用前と比較して、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%減少する、記載された組成物の投与または記載された方法の使用後の患者の症状の総数を指す。別の実施形態では、緩和または改善は、投与前または使用前と比較して、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%減少する、記載された組成物の投与または記載された方法の使用後の症状の重症度または進行を指す。
【0048】
本明細書に記載の機能的hIDUAまたはhIDUAコード配列における組成物が、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態、および方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【0049】
発現カセット
特定の実施形態では、機能的hIDUAをコードする核酸配列と、その発現を指示する調節配列とを有する、発現カセットが本明細書に提供される。本明細書で使用される場合、「発現カセット」は、hIDUA遺伝子をコードする配列(プロモーター)を含む核酸配列を指し、それらのための他の調節配列を含んでもよく、そのカセットは、遺伝子エレメント(例えば、プラスミド)によりパッケージング宿主細胞に送達され、ウイルスベクターのカプシド(例えば、ウイルス粒子)内にパッケージングされてもよい。典型的に、ウイルスベクターを産生するためのそのような発現カセットは、ウイルスゲノムのパッケージングシグナルに隣接する本明細書に記載のhIDUAコード配列と、本明細書に記載されるものなどの他の発現制御配列とを含有する。特定の実施形態では、標的細胞および3’および/または5’UTRのmiRNA標的配列においてその発現を指示する調節配列に作動可能に連結された機能的な遺伝子産物(例えば、hIDUA)をコードする核酸配列を含む発現カセットが提供される。本明細書に記載されるように、miRNA標的配列は、導入遺伝子発現が望ましくないおよび/または導入遺伝子の発現レベルの低下が所望される細胞に存在するmiRNAによって、特異的に認識されるように設計される。特定の実施形態では、miRNA標的配列は、後根神経節における導入遺伝子の発現を特異的に低減する。特定の実施形態では、miRNA標的配列は、3’UTR、5’UTR、および/または3’UTRと5’UTRの両方に位置する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「発現」または「遺伝子発現」という用語は、遺伝子からの情報が、機能的な遺伝子産物の合成に使用されるプロセスを指す。遺伝子産物は、タンパク質、ペプチド、または核酸ポリマー(RNA、DNA、またはPNAなど)であり得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「調節配列」または「発現制御配列」という用語は、イニシエーター配列、エンハンサー配列、およびプロモーター配列などの核酸配列を指し、それらが作動可能に連結しているタンパク質をコードする核酸配列の転写を誘導するか、抑制するか、またはその他制御する。
【0052】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結される」という用語は、遺伝子産物をコードする核酸配列に連続している発現制御配列、および/またはその転写および発現をトランスでもしくは離れて作用する発現制御配列の両方を指す。
【0053】
「5’UTR」は、遺伝子産物のコード配列の開始コドンの上流にある。5’UTRは
、一般に、3’UTRよりも短い。一般に、5’UTRは、約3ヌクレオチド長~約200ヌクレオチド長であるが、任意選択的に、より長くてもよい。
【0054】
「3’UTR」は、遺伝子産物のコード配列の下流にあり、一般に、5’UTRよりも長い。特定の実施形態では、3’UTRは、約200ヌクレオチド長~約800ヌクレオチド長であるが、任意選択的に、より長くても、またはより短くてもよい。
【0055】
核酸配列またはタンパク質を説明するために使用される「外因性」という用語は、核酸またはタンパク質が、染色体または宿主細胞に存在する位置では、天然に存在しないことを意味する。外因性核酸配列はまた、同じ宿主細胞または対象に由来し、それらに挿入されるが、非天然状態(例えば、異なるコピー数、または異なる調節エレメントの制御下)で存在する配列を指す。
【0056】
核酸配列またはタンパク質を説明するために使用される「異種」という用語は、核酸またはタンパク質が、それが発現される宿主細胞または対象とは異なる生物または同じ生物の異なる種に由来したことを意味する。プラスミド、ベクターゲノム、発現カセット、またはベクターのタンパク質または核酸を参照して使用される場合、「異種」という用語は、タンパク質または核酸が、問題のタンパク質または核酸が天然には互いに同じ関係で見出されないタンパク質または核酸とは別の配列もしくはサブ配列と共に存在することを示す。
【0057】
一実施形態では、提供される発現カセットは、脳脊髄液および脳を含む中枢神経系(CNS)における発現および分泌のために設計される。特に所望の一実施形態では、発現カセットは、CNSおよび肝臓の両方での発現のために有用であり、それにより、MPSI、Hurler、Hurler-ScheieおよびScheie症候群の全身およびCNS関連の効果の両方の治療が可能となる。例えば、本発明者らは、特定の構成的プロモーター(例えば、CMV)が、髄腔内に送達された場合に、所望のレベルで発現を駆動せず、それにより、最適以下のhIDUA発現レベルをもたらすことを観察した。しかし、ニワトリベータ-アクチンプロモーターは、髄腔内送達および全身送達の両方において良好に発現を駆動する。故に、これは、特に望ましいプロモーターである。他のプロモーターが選択されてもよいが、その他のプロモーターを含有する発現カセットが、ニワトリベータ-アクチンプロモーターを用いる場合の利点のすべてを有さなくてもよい。様々なニワトリベータ-アクチンプロモーターが単独で、または様々なエンハンサーエレメント(例えば、CB7は、サイトメガロウイルスエンハンサーエレメントを有するニワトリベータ-アクチンプロモーターであるCAGプロモーターであり、プロモーターと、ニワトリベータアクチンの第1のエキソンおよび第1のイントロンと、ウサギベータ-グロビン遺伝子のスプライスアクセプターとを含む)、CBhプロモーターと組み合わせて記載されている[SJ Gray et al,Hu Gene Ther,2011 Sep;22(9):1143-1153]。他の実施形態では、好適なプロモーターとしては、伸長因子1アルファ(EF1アルファ)プロモーター(例えば、Kim DW et al,Use of the human elongation factor 1 alpha promoter as a versatile and efficient expression system.Gene.1990 Jul 16;91(2):217-23を参照されたい)、シナプシン1プロモーター(例えば、Kugler S et al,Human synapsin 1 gene promoter confers highly neuron-specific long-term transgene expression from an adenoviral vector in the adult rat brain depending on the transduced area.Gene Ther.2003
Feb;10(4):337-47を参照されたい)、神経特異的エノラーゼ(NSE
)プロモーター(例えば、Kim J et al,Involvement of cholesterol-rich lipid rafts in interleukin-6-induced neuroendocrine differentiation of LNCaP prostate cancer cells.Endocrinology.2004 Feb;145(2):613-9.Epub 2003
Oct 16を参照されたい)、またはCB6プロモーター(例えば、Large-Scale Production of Adeno-Associated Viral Vector Serotype-9 Carrying the Human Survival Motor Neuron Gene,Mol Biotechnol.2016 Jan;58(1):30-6.doi:10.1007/s12033-015-9899-5を参照されたい)が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0058】
組織特異的であるプロモーターの例は、とりわけ、肝臓および他の組織(アルブミン、Miyatake et al.,(1997)J.Virol.,71:5124-32、B型肝炎ウイルスコアプロモーター、Sandig et al.,(1996)Gene Ther.,3:1002-9、アルファ-フェトタンパク質(AFP)、Arbuthnot et al.,(1996)Hum.Gene Ther.,7:1503-14)、骨オステオカルシン(Stein et al.,(1997)Mol.Biol.Rep.,24:185-96)、骨シアロタンパク質(Chen et al.,(1996)J.Bone Miner.Res.,11:654-64)、リンパ球(CD2,Hansal et al.,(1998)J.Immunol.,161:1063-8、免疫グロブリン重鎖、T細胞受容体鎖)、神経特異的エノラーゼ(NSE)プロモーターなどの神経プロモーター(Andersen et al.,(1993)Cell.Mol.Neurobiol.,13:503-15)、神経フィラメント軽鎖遺伝子(Piccioli et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:5611-5)、および神経特異的vgf遺伝子(Piccioli et al.,(1995)Neuron,15:373-84)についてよく知られている。代替的に、調節可能なプロモーターが選択されてもよい。例えば、WO2011/126808B2を参照されたい(参照により本明細書に援用される)。
【0059】
一実施形態では、発現カセットは、1つ以上の発現エンハンサーを含む。一実施形態では、発現カセットは、2つ以上の発現エンハンサーを含有する。これらのエンハンサーは、同じであっても、異なってもよい。例えば、エンハンサーは、アルファmic/bikエンハンサー、またはCMVエンハンサーを含んでもよい。このエンハンサーは、互いに隣接して位置する2つのコピーに存在し得る。代替的に、エンハンサーの二重コピーは、1つ以上の配列により分離されてもよい。さらに別の実施形態では、発現カセットはさらに、イントロン、例えば、ニワトリベータ-アクチンイントロン、ヒトβ-グロブリンイントロン、および/または市販のPromega(登録商標)イントロンを含有する。他の好適なイントロンには、当該技術分野で既知のものが含まれ、例えば、WO2011/126808号などに記載されている。
【0060】
さらに、提供される発現カセットは、適切なポリアデニル化シグナルを含む。一実施形態では、ポリA配列は、ウサギグロブリンポリAである。例えば、WO2014/151341を参照されたい。代替的に、別のポリA、例えば、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化配列、SV50ポリA、または合成ポリA。さらなる他の慣用的な調節エレメントは、追加的に、または任意選択的に、発現カセットまたはベクターゲノムを含んでもよい。
【0061】
一実施形態では、調節配列は、エンハンサーをさらに含む。一実施形態では、調節配列
は、1つのエンハンサーを含む。別の実施形態では、調節配列は、2つ以上の発現エンハンサーを含有する。これらのエンハンサーは、同じであっても、異なってもよい。例えば、エンハンサーは、アルファmic/bikエンハンサー、またはCMVエンハンサーを含んでもよい。このエンハンサーは、互いに隣接して位置する2つのコピーに存在し得る。代替的に、エンハンサーの二重コピーは、1つ以上の配列により分離されてもよい。
【0062】
一実施形態では、調節配列は、イントロンをさらに含む。さらなる実施形態では、イントロンは、ニワトリベータ-アクチンイントロンである。他の好適なイントロンには、当該技術分野で既知のものが含まれ、ヒトβ-グロブリンイントロン、および/または市販のPromega(登録商標)イントロン、ならびにWO2011/126808に記載のものであってもよい。
【0063】
一実施形態では、調節配列は、ポリアデニル化シグナル(ポリA)をさらに含む。さらなる実施形態では、ポリAは、ウサギグロビンポリAである。例えば、WO2014/151341を参照されたい。代替的に、別のポリA(例えば、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化配列、SV40ポリA、または合成ポリA)が、発現カセットに含まれ得る。
【0064】
特定の実施形態では、発現カセットは、導入遺伝子産物のDRG発現を低減または排除しながら、ヒト対象における発現のために設計される。一実施形態では、発現カセットは、脳脊髄液および脳を含む中枢神経系(CNS)における発現のために設計される。特定の実施形態では、発現カセットは、神経細胞(錐体細胞、プルキンエ細胞、顆粒細胞、紡錘細胞、および介在神経細胞など)ならびにグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、および上衣細胞など)を含む、CNSに存在する1つ以上の細胞型(後根神経節を除く)における導入遺伝子の発現または発現の増強のために設計される。特定の実施形態では、導入遺伝子の発現の増強は、1つ以上の細胞型で達成され、CNSの別の細胞型における導入遺伝子の発現は、ほとんどないか、または全くない。特定の実施形態では、発現カセットは、CNSの細胞以外の細胞での発現に有用である。
【0065】
本明細書で使用される場合、「miRNA」は、マイクロRNAを指し、それは、mRNAを調節し、タンパク質への翻訳を停止させる小さな非コードRNA分子である。miRNAは、ヌクレオチドの領域である「シード配列」を含有し、相補的な塩基対形成によってmRNAに特異的に結合し、mRNAの破壊またはサイレンシングをもたらす。特定の実施形態では、シード配列は、成熟miRNAに位置し(5’から3’へ)、一般に、miRNAの2~7位または2~8位(センス(+)鎖の5’末端から)に位置するが、それより長い鎖長であってもよい。特定の実施形態では、シード配列の長さは、miRNA配列の長さの約30%以上であり、少なくとも7ヌクレオチド~約28ヌクレオチド長、少なくとも8ヌクレオチド~約28ヌクレオチド長、7ヌクレオチド~28ヌクレオチド長、8ヌクレオチド~18ヌクレオチド長、12ヌクレオチド~28ヌクレオチド長、約20~約26ヌクレオチド、約22ヌクレオチド、約24ヌクレオチド、または約26ヌクレオチドであり得る。
【0066】
本明細書で使用される場合、「miRNA標的配列」は、DNAプラス鎖上に位置する配列(5’から3’へ)であり、miRNAシード配列を含むmiRNA配列に少なくとも部分的に相補的である。miRNA標的配列は、コードされた導入遺伝子産物の非翻訳領域に対して外因性であり、導入遺伝子発現の抑制が所望される細胞で、miRNAによって特異的に標的化されるように設計される。「miR183クラスター標的配列」という用語は、miR-183、-96および-182(Dambal,S.et al.Nucleic Acids Res 43:7173-7188,2015によって記載されている、参照により本明細書に組み込まれるもの)を含む、miR183クラスター
(代替的にファミリーと称される)のうちの1つ以上のメンバーに応答する標的配列を指す。理論に束縛されることを意図するものではないが、導入遺伝子(遺伝子産物をコードする)のメッセンジャーRNA(mRNA)は、miRNAを含有する発現カセットが送達される細胞型に存在し、その結果、3’UTR miRNAの標的配列に対するmiRNAの特異的結合が、mRNAのサイレンシングおよび切断を引き起こし、それによって、miRNAを発現する細胞においてのみ、導入遺伝子の発現が低減または排除される。
【0067】
典型的には、miRNA標的配列は、少なくとも7ヌクレオチド~約28ヌクレオチド長、少なくとも8ヌクレオチド~約28ヌクレオチド長、7ヌクレオチド~28ヌクレオチド、8ヌクレオチド~18ヌクレオチド長、12~28ヌクレオチド長、約20~約26ヌクレオチド、約22ヌクレオチド、約24ヌクレオチド、または約26ヌクレオチドであり、miRNAシード配列に相補的である少なくとも1つの連続領域(例えば、7または8ヌクレオチド)を含有する。特定の実施形態では、標的配列は、miRNAシード配列と正確な相補性(100%)を有する配列、またはmiRNAシード配列といくつかのミスマッチを含む部分的な相補性を有する配列を含む。特定の実施形態では、標的配列は、miRNAシード配列と100%相補的である少なくとも7~8個のヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、標的配列は、miRNAシード配列と100%相補的である配列からなる。特定の実施形態では、標的配列は、シード配列と100%相補的である配列を複数コピー(例えば、2または3コピー)含有する。特定の実施形態では、100%相補性の領域は、標的配列の長さの少なくとも30%を含む。特定の実施形態では、標的配列の残部は、miRNAに対して少なくとも約80%~約99%の相補性を有する。特定の実施形態では、DNAプラス鎖を含む発現カセットでは、miRNA標的配列は、miRNAの逆相補体である。
【0068】
特定の実施形態では、操作された発現カセットであって、DRGにおける導入遺伝子の発現を抑制するために、ならびに/またはDRG毒性および/もしくは軸索障害を低減もしくは排除するために、導入遺伝子に作動可能に連結されたmiR-183ファミリーまたはクラスターのうちの1つ以上のメンバーを対象とするmiR標的配列の少なくとも1つのコピーを含む、操作された発現カセットが本明細書で提供される。特定の実施形態では、操作された発現カセットは、複数のmiRNA標的配列を含み、その結果、miRNA標的配列の数が、DRG毒性および/または軸索障害を低減および/または排除するために、DRGにおける導入遺伝子の発現を低減または最小化するのに十分なものとなる。発現カセットは、任意の好適な担体系、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを介して、任意の経路を介して送達され得るが、髄腔内投与に特に有用である。
【0069】
意外にも、DRGにおける発現を抑制するための本明細書に記載のmiR-183標的配列を含む組成物は、これらに限定されないが、ニューロン(例えば、錐体細胞、プルキンエ細胞、顆粒細胞、紡錘細胞、および介在神経細胞を含む)、またはグリア細胞(例えば、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、および上衣細胞を含む)を含む、中枢神経系内の1つ以上の異なる細胞型(DRG以外)において増強された導入遺伝子発現を提供することが観察されている。この観察は、当初、髄腔内送達経路に従って行われたが、この発現増強効果は、CNS送達経路に限定されない。発現の増強は、静脈内送達後にも観察されており、他の経路、例えば、静脈内(例えば、特に高用量送達)、筋肉内(特に高用量送達)、または他の全身送達経路を使用して達成されてもよい。特定の実施形態では、本明細書に記載のmiR-183標的配列を含む組成物は、心臓組織における導入遺伝子発現の増強を提供する。例えば、以下に記載される研究では、対照ベクターと比較して、mir183標的含有ベクターを有する背側経路神経節で、導入遺伝子発現の統計的に有意な低減が観察される。意外にも、腰部運動ニューロンと小脳で発現が増強された。特定の実施形態では、DRGおよび/または8つの他の領域にわたる病的状態の低減が達成される場合があり、頸部、胸部、および腰部脊椎での背側脊髄軸索障害、
ならびに正中神経、腓骨神経、および橈骨神経の軸索障害の病的状態の低減が達成され得る。
【0070】
特定の実施形態では、導入遺伝子のCNS発現の増強を回避するために(DRG発現を抑制しながら)、CNSを標的としない導入遺伝子を含む発現カセット用のmiR-182標的配列および/またはmiR-96標的配列を選択したい場合がある。例えば、骨格筋または肝臓への送達のための導入遺伝子を含む発現カセットは、CNS発現のいかなる増強も避けたいが、必要とされ得る高用量と関連し得るDRG毒性および/または軸索障害を防止したい場合がある。
【0071】
特定の実施形態では、発現カセットは、miR-183標的配列である少なくとも1つのmiRNA標的配列を含有する。特定の実施形態では、発現カセットは、
を含むmiR-183標的配列を含有する(miR-183シード配列に相補的な配列には、下線が引かれている)。特定の実施形態では、発現カセットは、miR-183シード配列に100%相補的な配列を、1コピーより多く(例えば、2または3コピー)含有する。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、約7ヌクレオチド~約28ヌクレオチド長であり、miR-183シード配列に少なくとも100%相補的である少なくとも1つの領域を含む。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、配列番号1に部分的に相補的な配列を含有し、したがって、配列番号1にアラインメントさせた場合、1つ以上のミスマッチがある。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、配列番号1にアラインメントさせた場合、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のミスマッチを有する配列を含み、ミスマッチは非連続であり得る。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、100%相補的な領域を含み、また、miR-183標的配列の長さの少なくとも30%を含む。特定の実施形態では、100%相補性の領域は、miR-183シード配列と100%相補性を有する配列を含む。特定の実施形態では、miR-183標的配列の残部は、miR-183と少なくとも約80%~約99%相補性を有する。特定の実施形態では、発現カセットは、切断された配列番号1を含むmiR-183標的配列(すなわち、配列番号1の5’末端もしくは3’末端のいずれかまたは両方で、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のヌクレオチドを欠く配列)を含む。特定の実施形態では、発現カセットは、導入遺伝子と、1つのmiR-183標的配列とを含む。なお他の実施形態では、発現カセットは、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、または少なくとも7個、または少なくとも8個のmiR-183標的配列を含む。特定の実施形態では、発現カセットは、8個のmiR-183標的配列を含む。
【0072】
特定の実施形態では、発現カセットは、miRNA標的配列の組み合わせを含む。特定の実施形態では、標的配列の組み合わせは、同じmiRNA(miR-183など)と少なくとも部分的な相補性を有する異なる標的配列を含む。特定の実施形態では、発現カセットは、本明細書で提供されるmiR-183、miR-182、および/またはmiR-96の標的配列から選択されるmiRNA標的配列の組み合わせを含む。特定の実施形態では、発現カセットは、導入遺伝子と、2個、3個、または4個のmiR-96標的配列とを含む。特定の実施形態では、発現カセットは、導入遺伝子と、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個のmiR-182標的配列とを含む。特定の実施形態では、発現カセットは、8個のmiR-182標的配列を含む。特定の実施形態では、発現カセットは、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、もしくは少なくとも4個のmiR-183標的配列を含み、任意選択的に、少なくとも1個、少なくとも2個、少
なくとも3個、もしくは少なくとも4個のmiR-182標的配列との組み合わせ、および/または任意選択的に、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、もしくは少なくとも4個のmiR-96標的配列との組み合わせを含む。
【0073】
導入遺伝子およびmiR-182を含む組成物は、後根神経節毒性を最小化または排除し、および/または軸索障害を防止することが観察されている。しかしながら、miR-182標的配列を含有する発現カセットは、この目的には有効であるが、意外にもmiR-183標的配列を有した複合体化されたもので見出されたように、CNS発現を増強することが観察されていない。したがって、これらの組成物は、遺伝子がCNS以外を標的とすることが望ましい場合がある。
【0074】
特定の実施形態では、発現カセットであって、1つ以上のmiR-183ファミリーの標的配列を含み、導入遺伝子を欠く(すなわち、miR-183ファミリーの標的配列が、異種遺伝子産物をコードする配列に作動可能に連結されていない)、発現カセットが本明細書で提供される。
【0075】
特定の実施形態では、発現カセットは、miR-182の標的配列である少なくとも1つのmiRNA標的配列を含有する。特定の実施形態では、発現カセットは、miR-182標的配列を含有し、AGTGTGAGTTCTACCATTGCCAAA(配列番号3)を含む。特定の実施形態では、発現カセットは、miR-182シード配列に100%相補的である配列を、1コピーより多く(例えば、2または3コピー)含有する。特定の実施形態では、miR-182標的配列は、約7ヌクレオチド~約28ヌクレオチド長であり、miR-182シード配列に少なくとも100%相補的である少なくとも1つの領域を含む。特定の実施形態では、miR-182標的配列は、配列番号3に部分的に相補的な配列を含有し、したがって、配列番号3とアラインメントさせた場合、1つ以上のミスマッチがある。特定の実施形態では、miR-183標的配列は、配列番号3とアラインメントさせた場合、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のミスマッチを有する配列を含み、ミスマッチは非連続であり得る。特定の実施形態では、miR-182標的配列は、100%相補的な領域を含み、また、miR-182標的配列の長さの少なくとも30%を含む。特定の実施形態では、100%相補性の領域は、miR-182シード配列と100%相補性を有する配列を含む。特定の実施形態では、miR-182標的配列の残部は、miR-182と少なくとも約80%~約99%相補性を有する。特定の実施形態では、発現カセットは、miR-182標的配列を含み、切断された配列番号3(すなわち、配列番号3の5’末端もしくは3’末端のいずれかまたは両方で、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10ヌクレオチドを欠く配列)を含む。特定の実施形態では、発現カセットは、導入遺伝子と、1つのmiR-182標的配列とを含む。なお他の実施形態では、発現カセットは、少なくとも2つ、3つ、または4つのmiR-182標的配列を含む。
【0076】
特定の実施形態では、発現カセットは、2つ以上の連続するmiRNA標的配列を有し、連続的であり、スペーサーによって分離されていない。特定の実施形態では、miRNA標的配列のうちの2つ以上は、スペーサーによって分離されている。特定の実施形態では、スペーサーは、約1~約12ヌクレオチド、または約2~約10ヌクレオチド長、または約3~約10ヌクレオチド、約4~約6ヌクレオチド長、または3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは11ヌクレオチド長の非コード配列である。任意選択的に、単一の発現カセットは、3つ以上のmiRNA標的配列を含有していてもよく、任意選択的に、それらの間に異なるスペーサー配列を有する。特定の実施形態では、1つ以上のスペーサーは、独立して、(i)GGAT(配列番号5)、(ii)CACGTG(配列番号6)、または(iii)GCATGC(配列番号7)から選択される。特定の実施形態では、スペーサーは、第1のmiRNA標的配列の3’および/または最後のmiRNA標
的配列の5’に位置する。特定の実施形態では、miRNA標的配列間のスペーサーは同じである。
【0077】
特定の実施形態では、発現カセットは、導入遺伝子と、1つのmiR-183標的配列と、1つ以上の異なるmiRNA標的配列とを含む。特定の実施形態では、発現カセットは、miR-96標的配列:mRNAおよびDNAプラス鎖(5’から3’へ):AGCAAAAATGTGCTAGTGCCAAA(配列番号2)、miR-182標的配列:mRNAおよびDNAプラス鎖(5’から3’へ):および/またはAGTGTGAGTTCTACCATTGCCAAA(配列番号3)を含有する。
【0078】
miR-145は、文献では、脳に関連しているが、これまでの研究では、miR-145標的配列は、後根神経節における導入遺伝子の発現の低減には効果がないことが示されている。miR-145標的配列:mRNAおよびDNAプラス鎖(5’から3’へ):AGGGATTCCTGGGAAAACTGGAC(配列番号4)。
【0079】
本明細書に提供されるように、発現カセットは、標的細胞における導入遺伝子産物の発現を指示する調節配列に作動可能に連結されるか、またはその制御下にある、導入遺伝子を含有する。特定の実施形態では、発現カセットは、本明細書で提供される1つ以上のmiRNA標的配列に作動可能に連結される、導入遺伝子を含有する。特定の実施形態では、発現カセットまたは は、複数のmiRNA標的配列を含有するように設計される。miRNA標的配列は、導入遺伝子のUTRに組み込まれる(すなわち、遺伝子のオープンリーディングフレームの3’または下流)。
【0080】
「タンデムリピート」という用語は、2つ以上の連続するmiRNA標的配列の存在を指すように本明細書で使用される。これらのmiRNA標的配列は、連続的であってもよい。すなわち、ある配列の3’末端が、介在配列なしで、次の配列の5’末端の直ぐ上流にあるように、またはその逆になるように、次々と直に位置している。別の実施形態では、miRNA標的配列のうちの2つ以上が、短いスペーサー配列によって分離されている。
【0081】
本明細書で使用される場合、「スペーサー」としては、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10ヌクレオチド長の任意の選択された核酸配列であり、2つ以上の連続するmiRNA標的配列の間に位置する。特定の実施形態では、スペーサーは、1~8ヌクレオチド長、2~7ヌクレオチド長、3~6ヌクレオチド長、4ヌクレオチド長、4~9ヌクレオチド、3~7ヌクレオチド、またはより長い値である。好適には、スペーサーは、非コード配列である。特定の実施形態では、スペーサーは、4つの(4)ヌクレオチドであり得る。特定の実施形態では、スペーサーは、GGATである。特定の実施形態では、スペーサーは、6つの(6)ヌクレオチドである。特定の実施形態では、スペーサーは、CACGTGまたはGCATGCである。
【0082】
特定の実施形態では、タンデムリピートは、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、またはそれより多い同じmiRNA標的配列を含有する。特定の実施形態では、タンデムリピートは、異なるものについて同じであり得る最大8個のmiRNA標的配列を有する。特定の実施形態では、タンデムリピートは、少なくとも2つの異なるmiRNA標的配列、少なくとも3つの異なるmiRNA標的配列、または少なくとも4つの異なるmiRNA標的配列などを含有する。特定の実施形態では、タンデムリピートは、2つまたは3つの同じmiRNA標的配列、および異なる第4のmiRNA標的配列を含有してもよい。
【0083】
特定の実施形態では、発現カセットには、少なくとも2つの異なるセットのタンデムリ
ピートが存在し得る。例えば、3’UTRは、導入遺伝子のすぐ下流にタンデムリピート、UTR配列、およびUTRの3’末端の近くに2つ以上のタンデムリピートを含有し得る。別の例では、5’UTRは、1つ、2つ、またはそれより多いmiRNA標的配列を含有し得る。別の例では、3’は、タンデムリピートを含有してもよく、5’UTRは、少なくとも1つのmiRNA標的配列を含有してもよい。
【0084】
特定の実施形態では、発現カセットは、2つ、3つ、4つ、またはそれより多いタンデムリピートを含有し、導入遺伝子の終止コドンの約0~20ヌクレオチド以内に開始する。他の実施形態では、発現カセットは、導入遺伝子の終止コドンから少なくとも100~約4000ヌクレオチドのmiRNAタンデムリピートを含有する。
【0085】
本明細書で使用される場合、「ベクターゲノム」は、ウイルスベクターの中にパッケージングされる核酸配列を指す。一実施例では、「ベクターゲノム」は、少なくとも、5’から3’へ、ベクター特異的配列と、標的細胞でその発現を指示する調節制御配列に作動可能に連結された機能的な遺伝子産物をコードする核酸配列と、非翻訳領域のmiRNA標的配列と、ベクター特異的配列と、を含有する。例えば、AAVベクターゲノムは、逆位末端反復配列と、発現カセットとを含有し、発現カセットは、例えば、標的細胞において発現を指示する調節制御配列に作動可能に連結された機能的な遺伝子産物をコードする核酸配列と、非翻訳領域のmiRNA標的配列とを含む。本明細書に記載されるように、miRNA標的配列は、導入遺伝子の発現が望ましくない(例えば、後根神経節)および/または導入遺伝子の発現レベルの低下が所望される細胞において、miRNA配列によって特異的に認識されるように設計される。
【0086】
特定の実施形態では、本明細書に提供されるようなhIDUA配列を含有するベクターゲノムを有するrAAVが提供される。さらなる実施形態では、ベクターゲノムは、配列番号14または配列番号16を含む。各々で、ベクターゲノムは、5’および3’ITRを含む。さらに、各々は、プロモーター、エンハンサー、hIDUA遺伝子、およびポリAを含有する。
【0087】
本明細書に記載の発現カセットが、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態および方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【0088】
ベクター
一態様では、機能的hIUDAをコードする核酸配列を含むベクターが本明細書に提供される。特定の実施形態では、ベクターは、hIDUAコード配列の送達のための本明細書に記載の発現カセットを含む。
【0089】
本明細書で使用される「ベクター」は、核酸配列を含む生物学的部分または化学的部分であり、上述の核酸配列の複製または発現のために適切な標的細胞に導入され得る。ベクターの例としては、限定されないが、組換えウイルス、プラスミド、リポプレックス、ポリマーソーム、ポリプレックス、デンドリマー、細胞透過性ペプチド(CPP)コンジュゲート、磁性粒子、またはナノ粒子が挙げられる。特定の実施形態では、ベクターは、核酸分子であり、機能的hIUDAをコードする操作された核酸がその中に挿入されてもよく、次いで、適切な標的細胞に導入され得る。かかるベクターは、好ましくは、1つ以上の複製起点と、組換えDNAが挿入され得る1つ以上の部位とを有する。ベクターは、しばしば、ベクターを有する細胞が、ベクターを有しない細胞から選択され得る手段を有する(例えば、それらが薬物耐性遺伝子をコードする)。一般的なベクターは、プラスミド、ウイルスゲノム、および「人工染色体」を含む。ベクターの生成、産生、特徴付け、または定量化の従来の方法は、当業者に利用可能である。
【0090】
特定の実施形態では、ベクターは、非ウイルスプラスミドであり、本明細書に記載される発現カセット(例えば、「裸のDNA」、「裸のプラスミドDNA」、RNA、およびmRNA)を含み、様々な組成物およびナノ粒子(例えば、ミセル、リポソーム、カチオン性脂質-核酸組成物、ポリグリカン組成物、および他のポリマー、脂質および/またはコレステロール系-核酸コンジュゲート、ならびに本明細書に記載されるような他の構築物を含む)と組み合わせられてもよい。例えば、X.Su et al,Mol.Pharmaceutics,2011,8(3),pp774-787;web publication:March 21,2011、WO2013/182683、WO2010/053572、およびWO2012/170930を参照されたい(これらのすべては、参照により本明細書に組み合わされる)。
【0091】
特定の実施形態では、本明細書に記載のベクターは、「複製欠陥ウイルス」または「ウイルスベクター」は、hIDUAをコードする核酸配列を含有する発現カセットが、ウイルスカプシドもしくはエンベロープの中にパッケージングされ、ウイルスカプシドもしくはエンベロープ内にパッケージングされたいずれのウイルスゲノム配列も、複製欠損である(すなわち、標的細胞に感染する能力を保持するが、後代ビリオンを生成することはできない)、合成または人工のウイルス粒子を指す。一実施形態では、ウイルスベクターのゲノムは、複製に必要とされる酵素をコードする遺伝子を含まない(ゲノムは、人工ゲノムの増幅およびパッケージングに必要とされるシグナルに隣接するhIDUAをコードする核酸配列のみを含有する「ガットレス(gutless)」であるように操作されることができる)が、これらの遺伝子は、産生中に供給され得る。したがって、それは、後代ビリオンによる複製および感染が、複製に必要とされるウイルス酵素の存在下以外で生じることができないために、遺伝子療法における使用のために安全であると考えられる。
【0092】
本明細書で使用される場合、組換えウイルスベクターは、任意の好適なウイルスベクターである。実施例は、例示的な組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を提供する。他の好適なウイルスベクターとしては、例えば、アデノウイルス、ポックスウイルス、ボカウイルス、ハイブリッドAAV/ボカウイルス、単純ヘルペスウイルス、またはレンチウイルスが挙げられ得る。好ましい実施形態では、これらの組換えウイルスは、複製不能である。
【0093】
発現カセットは、任意の好適な非ウイルスベクター送達系を介して、または好適なウイルスベクターによって送達され得る。好適な非ウイルスベクター送達系は、当該技術分野において既知であり(例えば、Ramamoorth and Narvekar.J Clin Diagn Res.2015 Jan;9(1):GE01-GE06、参照により本明細書に組み込まれる)、当業者によって容易に選択され得、例えば、裸のDNA、裸のRNA、デンドリマー、PLGA、ポリメタクリレート、無機粒子、脂質粒子、ポリマーベースのベクター、またはキトサンベースの製剤を含み得る。
【0094】
特定の実施形態では、hIDUA配列をコードする核酸を含有する宿主細胞が提供される。特定の実施形態では、宿主細胞は、本明細書に記載のhIDUAコード配列を有するプラスミドを含有する。
【0095】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語は、ベクター(例えば、組換えAAV)が産生されるパッケージング細胞株を指し得る。宿主細胞は、任意の手段で(例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、形質転換、ウイルス感染、トランスフェクション、リポソーム送達、膜融合技術、高速DNAコーティングペレット、ウイルス感染、およびプロトプラスト融合)によって細胞に導入される外因性DNAまたは異種DNAを含有する、原核細胞または真核細胞(例えば、ヒト、昆虫、または酵母)であり得る。宿主細胞の例としては、限定されないが、単離され
た細胞、細胞培養物、Escherichia coli細胞、酵母細胞、ヒト細胞、非ヒト細胞、哺乳動物細胞、非哺乳動物細胞、昆虫細胞、HEK-293細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、中枢神経系の細胞、ニューロン、グリア細胞、または幹細胞が挙げられ得る。
【0096】
特定の実施形態では、宿主細胞は、タンパク質が単離または精製のために十分な量でインビトロで産生されるように、hIDUAの産生のための発現カセットを含有する。特定の実施形態では、宿主細胞は、hIDUAをコードする発現カセット(例えば、その機能的断片を含む)を含有する。本明細書で提供される場合、hIDUAポリペプチドは、治療剤(すなわち、酵素補充療法)として対象に投与される薬学的組成物に含まれ得る。
【0097】
本明細書で使用される場合、「標的細胞」という用語は、機能的hIDUAの発現が所望される任意の標的細胞を指す。特定の実施形態では、「標的細胞」という用語は、MPSI、Hurler、Hurler-Scheieおよび/またはScheie症候群で治療されている対象の細胞を指すことが意図されている。標的細胞の例としては、限定されないが、肝臓細胞、腎臓細胞、平滑筋細胞、およびニューロンが挙げられ得る。特定の実施形態では、ベクターは、エクスビボで標的細胞に送達される。特定の実施形態では、ベクターは、インビボで標的細胞に送達される。
【0098】
本明細書に記載のベクター中の組成物は、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態、および方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【0099】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
一態様では、AAVカプシドと、その中にパッケージングされたベクターゲノムとを含む、組換えAAV(rAAV)が本明細書で提供される。
【0100】
一実施形態では、調節配列は、上に記載の通りである。一実施形態では、ベクターゲノムは、AAVの5’逆位末端反復(ITR)、本明細書に記載の発現カセット、およびAAVの3’ITRを含む。一実施形態では、ベクターゲノムは、rAAVベクターを形成するrAAVカプシドの中にパッケージングされる核酸配列を指す。かかる核酸配列は、発現カセットに隣接するAAV逆位末端反復配列(ITR)を含有する。一実施例では、「ベクターゲノム」は、少なくとも、5’から3’へ、AAVの5’ITRと、標的細胞でその発現を指示する調節制御配列に作動可能に連結された機能的な遺伝子産物をコードする核酸配列と、非翻訳領域のmiRNA標的配列と、AAVの3’ITRと、を含有する。特定の実施形態では、ITRは、AAV2由来であり、カプシドは、異なるAAV由来である。代替的に、他のITRが使用され得る。本明細書に記載されるように、miRNA標的配列は、導入遺伝子の発現が望ましくない、および/または導入遺伝子の発現レベルの低下が所望される細胞のmiRNA配列によって、特異的に認識されるように設計される。
【0101】
ITRは、ベクター産生の際のゲノムの複製およびパッケージングに関与する遺伝子エレメントであり、rAAVを生成するために必要とされる唯一のウイルス性シスエレメントである。一実施形態では、ITRは、カプシドを供給するものとは異なるAAV由来である。好ましい実施形態では、AAV2由来のITR配列、またはその欠失バージョン(ΔITR)が、利便性のため、および規制当局の承認を加速させるために使用され得る。しかしながら、他のAAV起源からのITRが選択されてもよい。ITRの起源がAAV2からであり、AAVカプシドが別のAAV起源からのものである場合、得られたベクターは、擬似型であると称され得る。典型的には、AAVベクターゲノムは、AAVの5’ITR、NAGLUコード配列および任意の調節配列、ならびにAAVの3’ITRを含む。しかし、これらのエレメントの他の構成も好適であり得る。D配列および末端分離部
位(trs)が欠失している、ΔITRと称される5’ITRの短縮バージョンが記載されている。他の実施形態では、全長AAV5’および3’ITRが使用される。
【0102】
本明細書で使用される「AAV」という用語は、天然に存在するアデノ随伴ウイルス、当業者に利用可能なアデノ随伴ウイルス、および/または、本明細書に記載の組成物および方法に照らして、ならびに人工AAVを指す。アデノ随伴ウイルス(AAV)ウイルスベクターは、AAVタンパク質カプシドを有するAAV DNase耐性粒子であり、その中にパッケージングされる発現カセットは、標的細胞に送達するためのAAVの逆位末端反復配列(ITR)に隣接している。AAVカプシドは、60個のカプシド(cap)タンパク質サブユニットVP1、VP2、およびVP3から構成されており、選択されるAAVに応じて、およそ1:1:10~1:1:20の比で二十面体対称に配置される。上で特定されるAAVウイルスベクターのカプシドの供給源として、様々なAAVが選択されてもよい。例えば、米国特許出願公開第2007/0036760A1号、米国特許出願公開第2009/0197338A1号、EP1310571を参照されたい。また、WO2003/042397(AAV7および他のサルAAV)、米国特許第7790449号および米国特許第7282199号(AAV8)、WO2005/033321、およびUS7,906,111(AAV9)、およびWO2006/110689、ならびにWO2003/042397(rh10)も参照されたい。また、これらの文書には、他のAAVも記載されており、AAVを生成するために選択され得る(参照により組み込まれる)。ヒトまたは非ヒト霊長類(NHP)から単離され、または操作され、十分に特徴付けられたAAVのうち、ヒトAAV2が、遺伝子導入ベクターとして開発された最初のAAVであり、それは、異なる標的組織および動物モデルにおいて、効率的な遺伝子導入実験に広く使用されている。別途指定されない限り、本明細書に記載のAAVカプシド、ITR、および他の選択されるAAV成分は、限定されないが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV6.2、AAV7、AAV8、AAV9、AAV8bp、AAVrh10、AAVhu37、AAV7M8、およびAAVAnc80、AAVrh90(2020年4月28日に出願されたPCT/US20/30273)、AAVrh91(2020年4月28日に出願されたPCT/US20/30266)、ならびにAAVrh92、rh93、およびrh91.93(2020年4月28日に出願されたPCT/US20/30281)として一般に特定されているAAV、既知のもしくは言及されたAAVのうちのいずれかのバリアント、またはまだ発見されていないAAVもしくはそのバリアント、あるいはそれらの混合物を含む、任意のAAVの中から容易に選択され得る。例えば、WO2005/033321を参照されたい(参照により本明細書に組み込まれる)。一実施形態では、AAVカプシドは、AAV9カプシドまたはそのバリアントである。特定の実施形態では、カプシドタンパク質は、rAAVベクターの名前で「AAV」という用語の後の数値または数値および文字の組み合わせによって指定される。
【0103】
本明細書で使用される場合、AAVに関して「バリアント」という用語は、既知のAAV配列に由来する任意のAAV配列を意味し、保存的アミノ酸置き換えを有するAAV配列、およびアミノ酸配列または核酸配列にわたって、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、またはそれより大きい配列同一性を共有するAAV配列を含む。別の実施形態では、AAVカプシドは、任意の記載または既知のAAVカプシド配列から最大約10%のバリエーションを含み得るバリアントを含む。すなわち、AAVカプシドは、本明細書に提供され、かつ/または当該技術分野で既知のAAVカプシドと、約90%の同一性~約99.9%の同一性、約95%~約99%の同一性、または約97%~約98%の同一性を共有する。一実施形態では、AAVカプシドは、AAVカプシドと少なくとも95%の同一性を共有する。AAVカプシドの同一性パーセントを決定する場合、比較は、可変タンパク質(例えば、vp1、vp2、またはvp3)のうちの
いずれかにわたって行われ得る。
【0104】
ITRまたは他のAAV成分は、当業者に利用可能な技術を使用して、AAVから容易に単離または操作され得る。かかるAAVは、学術的、商業的、または公的資源(例えば、American Type Culture Collection,Manassas,VA)から単離、操作、または入手され得る。代替的に、AAV配列は、文献またはデータベース(例えば、GenBank、PubMedなど)で利用可能であるような公開された配列を参照することによって、合成または他の好適な手段を通して操作され得る。AAVウイルスは、従来の分子生物学的な技術によって操作することができ、これらの粒子を、核酸配列の細胞特異的送達のため、免疫原性を最小限に抑えるため、安定性および粒子寿命を調整するため、効率的な分解のため、核への正確な送達のためなどに最適化することが可能になる。
【0105】
本明細書で使用される場合、「rAAV」および「人工AAV」という用語は、互換的に使用され、限定されないが、カプシドタンパク質と、その中にパッケージングされるベクターゲノムとを含むAAVを意味し、ベクターゲノムは、AAVとは異種の核酸を含む。一実施形態では、カプシドタンパク質は、天然に存在しないカプシドである。かかる人工カプシドは、選択されたAAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質の断片)を使用して、異種配列(異なる選択されたAAV、同じAAVの非連続部分、非AAVウイルス源、または非ウイルス源から得ることができる)と組み合わせて、任意の好適な技術によって生成され得る。人工AAVは、擬似型AAVカプシド、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、または「ヒト化」AAVカプシドであり得るが、これらに限定されない。1つのAAVのカプシドが異種カプシドタンパク質に置き換えられている擬似型ベクターは、本発明に有用である。一実施形態では、AAV2/5およびAAV2/8は、例示的な擬似型ベクターである。選択される遺伝子エレメントは、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポソーム送達、膜融合技術、高速DNAコーティングペレット、ウイルス感染、およびプロトプラスト融合を含む任意の好適な方法によって送達され得る。かかる構築物を作製するために使用される方法は、核酸操作における技術者に既知であり、遺伝子工学、組換え工学、および合成技術を含む。例えば、Green and Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY(2012)を参照されたい。
【0106】
本明細書で使用される場合、「AAV9カプシド」は、(a)GenBank受入番号:AAS99264(参照により本明細書に組み込まれる)(AAV vp1カプシドタンパク質は、配列番号19に再現される)のアミノ酸配列、および/または(b)GenBank受入番号:AY530579.1:(nt1...2211)(配列番号18に再現される)のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有するAAV9を指す。このコード配列からのいくつかのバリエーションは、本発明に包含され、GenBank受入番号:AAS99264およびUS7906111(同様に、WO2005/033321)における参照アミノ酸配列と約99%同一性を有する配列を含み得る(すなわち、参照配列からの約1%未満のバリエーション)。かかるAAVは、例えば、天然単離物(例えば、hu68、hu31もしくはhu32)、またはアミノ酸置換、欠失、もしくは付加を有するAAV9のバリアントを含み得る(例えば、AAV9カプシドとアラインメントされる任意の他のAAVカプシド、例えば、US9,102,949、US8,927,514、US2015/349911、WO2016/049230A1l、US9,623,120、US9,585,971に記載されているものなどの、対応する位置から「動員される(recruited)」代替的な残基から選択されたアミノ酸置換を含むが、これらに限定されない)。しかしながら、他の実施形態では、AAV9の他のバリアント、または上記の参照配列と少なくとも約95%の同一性を有するAAV
9カプシドが選択されてもよい。例えば、米国特許出願公開第2015/0079038号を参照されたい。カプシド、それ故にコード配列を生成する方法、ならびにrAAVウイルスベクターを産生する方法が記載されている。例えば、Gao,et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10),6081-6086(2003)およびUS2013/0045186A1を参照されたい。
【0107】
AAVhu68は、vp1(配列番号9)の67位および157位の2つのコードされたアミノ酸により、別の系統群FのウイルスであるAAV9とは異なる。対照的に、他の系統群FのAAV(AAV9、hu31、hu31)は、67位にAlaおよび157位にAlaを有する。配列番号9の番号付けに基づいて、157位にバリン(ValまたはV)を有し、任意選択的に、67位にグルタミン酸(GluまたはE)を有する、新規のAAVhu68カプシドおよび/または操作されたAAVカプシドが提供される。また、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、WO2018/160582も参照されたい(配列表を含む)。
【0108】
本明細書で使用される場合、AAVの群に関連する「系統群(clade)」という用語は、互いに系統的に関連するAAVの群を指し、AAV vp1アミノ酸配列のアラインメントに基づいて、少なくとも75%のブートストラップ値(少なくとも1000反復のうち)および0.05以下のポアソン補正距離測定値による隣接結合アルゴリズム(Neighbor-Joining algorithm)を使用して決定される。隣接結合アルゴリズムは、文献に記載されている。例えば、M.Nei and S.Kumar,Molecular Evolution and Phylogenetics(Oxford University Press,New York(2000)を参照されたい。コンピュータプログラムが利用可能であり、それを使用して、このアルゴリズムを実装することができる。例えば、MEGA v2.1プログラムは、修正Nei-Gojobori法を実装する。これらの技術およびコンピュータプログラム、ならびにAAV vp1カプシドタンパク質の配列を使用して、当業者は、選択されたAAVが、本明細書で特定される1つの系統群(clade)に含まれるか、別の系統群に含まれるか、またはこれらの系統群の外にあるかを容易に決定することができる。例えば、系統群A、B、C、D、E、およびFを特定し、新規AAVの核酸配列(GenBank受入番号AY530553~AY530629)を提供する、G Gao,et al,J Virol 2004 Jun;78(10:6381-6388)を参照されたい。また、WO2005/033321も参照されたい。
【0109】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、さらに、以下のうちの1つ以上を特徴とする。AAVhu68カプシドタンパクが、配列番号9の1~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp1タンパク質、配列番号9から産生されるvp1タンパク質、または配列番号9の1~736の予測アミノ酸配列をコードする配列番号8に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp1タンパク質、配列番号9の少なくとも約138~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp2タンパク質、配列番号8の少なくともヌクレオチド412~2211を含む配列から産生されるvp2タンパク質、または配列番号9の少なくとも約138~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする配列番号8の少なくともヌクレオチド412~2211に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp2タンパク質、ならびに/あるいは配列番号9の少なくとも約203~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp3タンパク質、配列番号8の少なくともヌクレオチド607~2211を含む配列から産生されるvp3タンパク質、または配列番号9の少なくとも約203~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする配列番号8の少なくともヌクレオチド607~2211に対して少なくとも
70%同一の核酸配列から産生されるvp3タンパク質を含む。
【0110】
AAVhu68のvp1、vp2、およびvp3タンパク質は、典型的には、配列番号9の全長vp1アミノ酸配列(アミノ酸1~736)をコードする同じ核酸配列によってコードされる選択的スプライシングバリアントとして発現される。任意選択的に、vp1コード配列は、vp1、vp2、およびvp3タンパク質を発現するために単独で使用される。代替的に、この配列は、vp1固有領域(約aa1~約aa137)および/またはvp2固有領域(約aa1~約aa202)を有しない配列番号9のAAVhu68 vp3アミノ酸配列(約aa203~736)をコードする核酸配列、またはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号8の約nt607~約nt2211)、または配列番号9のaa203~736をコードする配列番号8に対して少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%)同一の配列のうちの1つ以上と共発現され得る。追加的に、または代替的に、vp1コード配列および/またはvp2コード配列は、vp1固有領域(約aa1~約137)を有しない配列番号9のAAVhu68 vp2アミノ酸配列(約aa138~736)をコードする核酸配列、またはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号8のnt412~22121)、または配列番号9の約aa138~736をコードする配列番号8に対して少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%)同一の配列と共発現され得る。
【0111】
本明細書に記載されるように、rAAVhu68は、配列番号9のvp1アミノ酸配列をコードするAAVhu68核酸配列、および任意選択的に、追加の核酸配列(例えば、vp1および/またはvp2固有領域を含まないvp3タンパク質をコードする配列)由来のカプシドを発現する産生システムで産生されたrAAVhu68カプシドを有する。単一の核酸配列vp1を使用した産生から得られたrAAVhu68は、vp1タンパク質、vp2タンパク質、およびvp3タンパク質の異種集合体を産生する。より具体的には、AAVhu68カプシドは、vp1タンパク質内、vp2タンパク質内、およびvp3タンパク質内に部分集合体を含有し、配列番号9の予測アミノ酸残基からの修飾を有する。これらの部分集合体は、少なくとも脱アミド化アスパラギン(NまたはAsn)残基を含む。例えば、アスパラギン-グリシン対中のアスパラギンは、高度に脱アミド化されている。
【0112】
一実施形態では、AAVhu68 vp1核酸配列は、配列番号8の配列、またはそれに相補的な鎖、例えば、対応するmRNAもしくはtRNAを有する。特定の実施形態では、vp2および/またはvp3タンパク質は、追加的または代替的に、例えば、選択された発現系においてvpタンパク質の比を変化させるために、vp1とは異なる核酸配列から発現され得る。特定の実施形態では、vp1固有領域(約aa1~約aa137)および/またはvp2固有領域(約aa1~約aa202)を有しない配列番号9のAAVhu68 vp3アミノ酸配列(約aa203~736)もしくはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号8の約nt607~約nt2211)をコードする核酸配列も提供される。特定の実施形態では、vp1固有領域(約aa1~約aa137)を有しない配列番号9のAAVhu68 vp2アミノ酸配列(約aa138~736)、またはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号8のnt412~2211)をコードする核酸配列も提供される。
【0113】
しかしながら、配列番号9のアミノ酸配列をコードする他の核酸配列は、rAAVhu68カプシドの産生に使用するために選択され得る。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号8の核酸配列、または配列番号8に対して少なくとも70%~99%同一、少な
くとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号9をコードする。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号8の核酸配列、または配列番号8の約nt412~約nt2211に対して少なくとも70%~99%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号9のvp2カプシドタンパク質(約aa138~736)をコードする。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号8の約nt607~約nt2211の核酸配列、または配列番号8のntに対して少なくとも70%~99%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号9のvp3カプシドタンパク質(約aa203~736)をコードする。
【0114】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、配列番号8の核酸配列、または本明細書に記載の修飾(例えば、脱アミド化アミノ酸)を含む配列番号9のvp1アミノ酸配列をコードする少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%の配列を使用して産生される。特定の実施形態では、vp1アミノ酸配列は、配列番号9に再現される。
【0115】
本明細書で使用される場合、vpカプシドタンパク質を参照するために使用される場合、「異種」という用語またはその任意の文法的変形は、例えば、異なる修飾アミノ酸配列を有するvp1、vp2、またはvp3モノマー(タンパク質)を有する、同じではないエレメントからなる集合体を指す。配列番号9は、AAVhu68 vp1タンパク質のコードされたアミノ酸配列を提供する。vp1、vp2、およびvp3タンパク質(代替的にアイソフォームと称される)に関連して使用される「異種」という用語は、カプシド内のvp1、vp2、およびvp3タンパク質のアミノ酸配列の違いを指す。AAVカプシドは、vp1タンパク質内、vp2タンパク質内、およびvp3タンパク質内に部分集合体を含み、予測アミノ酸残基からの修飾を有する。これらの部分集合体は、少なくとも特定の脱アミド化アスパラギン(NまたはAsn)残基を含む。例えば、特定の部分集合体は、アスパラギン-グリシン対中の少なくとも1つ、2つ、3つ、または4つの高度脱アミド化アスパラギン(N)位置を含み、任意選択的に他の脱アミド化アミノ酸をさらに含み、脱アミド化は、アミノ酸変化および他の任意選択的な修飾をもたらす。
【0116】
本明細書で使用される場合、vpタンパク質の「部分集合体」は、別途指定されない限り、少なくとも1つの定義された共通の特徴を有し、少なくとも1つの群メンバーから参照群のすべてのメンバーよりも少ないメンバーからなるvpタンパク質の群を指す。
【0117】
例えば、vp1タンパク質の「部分集合体」は、別途指定されない限り、組み立てられたAAVカプシド中の少なくとも1つの(1)vp1タンパク質であり、すべてのvp1タンパク質未満である。vp3タンパク質の「部分集合体」は、別途指定されない限り、1つの(1)vp3タンパク質から、組み立てられたAAVカプシド中のすべてのvp3タンパク質よりも少ないものまでであり得る。例えば、vp1タンパク質は、vpタンパク質の部分集合体であってもよく、vp2タンパク質は、vpタンパク質の別個の部分集合体であってもよく、vp3はさらに、組み立てられたAAVカプシド中のvpタンパク質のさらなる部分集合体であってもよい。別の例では、vp1、vp2、およびvp3タンパク質は、例えば、少なくとも1つ、2つ、3つ、または4つの高度脱アミド化アスパラギン、例えば、アスパラギン-グリシン対で異なる修飾を有する部分集合体を含有し得る。
【0118】
別途指定されない限り、高度脱アミド化は、参照アミノ酸位置での予測アミノ酸配列と
比較して、参照アミノ酸位置での少なくとも45%の脱アミド化、少なくとも50%の脱アミド化、少なくとも60%の脱アミド化、少なくとも65%の脱アミド化、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、または最大約100%の脱アミド化を指す(例えば、配列番号9[AAVhu68]の番号付けに基づくアミノ酸57のアスパラギンの少なくとも80%が、vp1タンパク質の合計に基づいて脱アミド化され得るか、または合計vp1、vp2、およびvp3タンパク質の合計に基づいて脱アミド化され得る)。かかるパーセンテージは、2Dゲル、質量分析技術、または他の好適な技術を使用して決定され得る。
【0119】
AAVhu68カプシドタンパク質において、4個の残基(N57、N329、N452、N512)は、様々なロットにわたって70%を超える脱アミド化レベルを日常的に示し、ほとんどの場合、90%を超える。
【0120】
さらなるアスパラギン残基(N94、N253、N270、N304、N409、N477、およびQ599)も、様々なロットにわたって最大約20%の脱アミド化レベルを示す。脱アミド化レベルは、最初にトリプシン消化を使用して特定され、キモトリプシン消化で検証された。
【0121】
AAVhu68カプシドは、vp1タンパク質内、vp2タンパク質内、およびvp3タンパク質内に部分集合体を含有し、配列番号9の予測アミノ酸残基からの修飾を有する。これらの部分集合体は、少なくとも特定の脱アミド化アスパラギン(NまたはAsn)残基を含む。例えば、特定の部分集合体は、配列番号9のアスパラギン-グリシン対中に少なくとも1つ、2つ、3つ、または4つの高度脱アミド化アスパラギン(N)位置を含み、任意選択的に、他の脱アミド化アミノ酸をさらに含み、脱アミド化は、アミノ酸の変化および他の任意選択的な修飾をもたらす。
【0122】
特定の実施形態では、AAVrh91カプシドを有するrAAVが提供される。AAVrh91カプシドをコードする核酸配列は、配列番号27に提供され、コードされたアミノ酸配列は、配列番号28に提供される。AAVrh91(配列番号28)のvp1、vp2、およびvp3のうちの少なくとも1つを含むrAAVが本明細書で提供される。また、AAVrh91(配列番号27)のvp1、vp2、およびvp3のうちの少なくとも1つによってコードされるAAVカプシドを含むrAAVも本明細書で提供される。なお別の実施形態では、AAVrh91アミノ酸配列をコードする核酸配列は、配列番号29に提供され、コードされたアミノ酸配列は、配列番号28に提供される。また、AAVrh91eng(配列番号29)のvp1、vp2、およびvp3のうちの少なくとも1つによってコードされるAAVカプシドを含むrAAVも本明細書で提供される。特定の実施形態では、vp1、vp2、および/またはvp3は、AAVrh91(配列番号28)の全長カプシドタンパク質である。他の実施形態では、vp1、vp2、および/またはvp3は、N末端および/またはC末端トランケーション(例えば、約1~約10個のアミノ酸の切断)を有する。
【0123】
特定の実施形態では、rAAVであって、(A)AAVrh91カプシドであって、(1)配列番号28の1~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるvp1タンパク質、配列番号27から産生されるvp1タンパク質、または配列番号28の1~736の予測アミノ酸配列をコードする配列番号27に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp1タンパク質から選択されるAAVrh91 vp1タンパク質の異種集合体、配列番号28の少なくとも約138~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるvp2タンパク質、配列番号27の少なくともヌクレオチド412~2208を含む配列から産生
されるvp2タンパク質、または配列番号28の少なくとも約138~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする配列番号27の少なくともヌクレオチド412~2208に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp2タンパク質から選択されるAAVrh91 vp2タンパク質の異種集合体、配列番号28の少なくとも約203~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現から産生されるvp3タンパク質、配列番号27の少なくともヌクレオチド607~2208を含む配列から産生されるvp3タンパク質、または配列番号28の少なくとも約203~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする配列番号27の少なくともヌクレオチド607~2208に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp3タンパク質から選択されるAAVrh91 vp3タンパク質の異種集合体を含むAAVrh91カプシドタンパク質、ならびに/あるいは(2)配列番号28のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp1タンパク質の異種集合体、配列番号28の少なくとも約138~736のアミノ酸のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp2タンパク質の異種集合体、および配列番号28の少なくとも約203~736のアミノ酸をコードする核酸配列の産物であるvp3タンパク質の異種集合体であって、vp1、vp2およびvp3タンパク質が、配列番号28のアスパラギン-グリシン対中の少なくとも2つの高度脱アミド化アスパラギン(N)を含むアミノ酸修飾を有する部分集合体を含有し、任意選択的に、他の脱アミド化アミノ酸を含む部分集合体をさらに含み、脱アミド化が、アミノ酸の変化をもたらすもののうちの1つ以上を含むAAVrh91カプシドと、(B)AAVrh91カプシド中のベクターゲノムであって、ベクターゲノムが、AAV逆位末端反復配列を含む核酸分子、および宿主細胞中で産物の発現を指示する配列と作動可能に連結される産物をコードする非AAV核酸配列を含む、ベクターゲノムと、を含む、rAAVが提供される。
【0124】
なお別の実施形態では、組換えアデノ随伴ウイルスrAAVであって、(A)AAVrh91カプシドであって、(1)配列番号28の1~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるvp1タンパク質、配列番号29から産生されるvp1タンパク質、または配列番号28の1~736の予測アミノ酸配列をコードする配列番号28に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp1タンパク質から選択されるAAVrh91 vp1タンパク質の異種集合体、配列番号28の少なくとも約138~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるvp2タンパク質、配列番号29の少なくともヌクレオチド412~2208を含む配列から産生されるvp2タンパク質、または配列番号28の少なくとも約138~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする配列番号29の少なくともヌクレオチド412~2208に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp2タンパク質から選択されるAAVrh91 vp2タンパク質の異種集合体、配列番号28の少なくとも約203~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現から産生されるvp3タンパク質、配列番号29の少なくともヌクレオチド607~2208を含む配列から産生されるvp3タンパク質、または配列番号28の少なくとも約203~736のアミノ酸の予測アミノ酸配列をコードする配列番号28の少なくともヌクレオチド607~2208に対して少なくとも70%同一の核酸配列から産生されるvp3タンパク質から選択されるAAVrh91 vp3タンパク質の異種集合体を含むAAVrh91カプシドタンパク質、ならびに/あるいは(2)配列番号28のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp1タンパク質の異種集合体、配列番号28の少なくとも約138~736のアミノ酸のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp2タンパク質の異種集合体、および配列番号28の少なくとも約203~736のアミノ酸をコードする核酸配列の産物であるvp3タンパク質の異種集合体であって、vp1、vp2およびvp3タンパク質が、配列番号28のアスパラギン-グリシン対中の少なくとも2つの高度脱アミド化アスパラギン(N)を含むアミノ酸修飾を有する部分集合体を含有し、任意選択的に、他の脱アミド化アミノ酸を含む部分集合体をさ
らに含み、脱アミド化が、アミノ酸の変化をもたらすもののうちの1つ以上を含むAAVrh91カプシドと、(B)AAVrh91カプシド中のベクターゲノムであって、ベクターゲノムが、AAV逆位末端反復配列を含む核酸分子、および宿主細胞中で産物の発現を指示する配列と作動可能に連結される産物をコードする非AAV核酸配列を含む、ベクターゲノムと、を含む、組換えアデノ随伴ウイルスrAAVが提供される。
【0125】
特定の実施形態では、提供されるrAAVは、配列番号28のアスパラギン-グリシン対中の少なくとも2つの高度脱アミド化アスパラギン(N)を含むアミノ酸修飾を有するAAVrh91のvp1、vp2およびvp3部分集合体を有し、任意選択的に、他の脱アミド化アミノ酸を含む部分集合体をさらに含み、脱アミド化が、アミノ酸の変化をもたらす。配列番号28の数と比較して、N-G対N57、N383、および/またはN512で高レベルの脱アミド化が観察される。特定の実施形態では、AAVrh91は、例えば、典型的には10%未満で脱アミド化された他の残基を有していてもよく、および/またはリン酸化(例えば、存在する場合、約2~約30%、もしくは約2~約20%、もしくは約2~約10%の範囲)(例えば、S149で)、または酸化(例えば、ほぼW22、ほぼM211、W247、M403、M435、M471、W478、W503、ほぼM537、ほぼM541、ほぼM559、ほぼM599、M635、および/またはW695のうちの1つ以上で)を含む他の修飾を有していてもよい。任意選択的に、Wは、キヌレニンに酸化され得る。
【表3】
【0126】
特定の実施形態では、AAVrh91カプシドは、トリプシン酵素を用いた質量分析を使用して決定される場合、上記の表で特定された位置のうちの1つ以上で、以下に提供する範囲で修飾される。特定の実施形態では、以下の位置、またはNに続くグリシンのうちの1つ以上は、本明細書に記載されるように修飾される。残基番号は、本明細書に提供されるAAVrh91配列に基づく。配列番号28を参照されたい。
【0127】
特定の実施形態では、AAVrh91カプシドは、配列番号28のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp1タンパク質の異種集合体と、配列番号28の少なくとも約138~736のアミノ酸のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp2タンパク質の異種集合体と、配列番号28の少なくともアミノ酸203~736をコード
する核酸配列の産物であるvp3タンパク質の異種集合体とを含む。
【0128】
特定の実施形態では、AAVrh91 vp1カプシドタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号27に提供される。他の実施形態では、配列番号27に対して70%~99.9%の同一性を有する核酸配列を選択して、AAVrh91カプシドタンパク質を発現させ得る。特定の他の実施形態では、核酸配列は、配列番号27に対して少なくとも約75%同一、少なくとも80%同一、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%同一、または少なくとも99%~99.9%同一である。しかしながら、配列番号28のアミノ酸配列をコードする他の核酸配列は、rAAVカプシドの産生に使用するために選択され得る。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号27の核酸配列、または配列番号27に対して少なくとも70%~99.9%同一、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号28をコードする。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号27の核酸配列、または配列番号27の約nt412~約nt2208に対して少なくとも70%~99.9%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号28のvp2カプシドタンパク質(約aa138~736)をコードする。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号27の約nt607~約nt2208の核酸配列、または配列番号27の約nt607~約nt2208に対して少なくとも70%~99.9%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号28のvp3カプシドタンパク質(約aa203~736)をコードする。
【0129】
特定の実施形態では、AAVrh91 vp1カプシドタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号29に提供される。他の実施形態では、配列番号29に対して70%~99.9%の同一性を有する核酸配列を選択して、AAVrh91カプシドタンパク質を発現させ得る。特定の他の実施形態では、核酸配列は、配列番号29に対して少なくとも約75%同一、少なくとも80%同一、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%同一、または少なくとも99%~99.9%同一である。しかしながら、配列番号28のアミノ酸配列をコードする他の核酸配列は、rAAVカプシドの産生に使用するために選択され得る。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号29の核酸配列、または配列番号29に対して少なくとも70%~99.9%同一、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号28をコードする。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号29の核酸配列、または配列番号29の約nt412~約nt2208に対して少なくとも70%~99.9%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号28のvp2カプシドタンパク質(約aa138~736)をコードする。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号29の約nt607~約nt2208の核酸配列、または配列番号29のnt607~約nt2208に対して少なくとも70%~99.9%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一の配列を有し、配列番号28のvp3カプシドタンパク質(約aa203~736)をコードする。
【0130】
本発明はまた、本明細書で特定される脱アミド化または他の修飾を低減させるために1つ以上の残基が改変されている、AAVrh91カプシド配列(配列番号28)または変異体AAVrh91をコードする核酸配列も包含する。かかる核酸配列は、変異体AAVrh91カプシドの産生において使用することができる。
【0131】
特定の実施形態では、本明細書に記載されるrAAVは、自己相補性AAVである。略称「sc」は、自己相補性(self-complementary)を指す。「自己相補性AAV」は、組換えAAV核酸配列によって担持されるコード領域が、分子内二本鎖DNA鋳型を形成するように設計されている構築物を指す。感染の際、第2の鎖の細胞介在性の合成を待つのではなく、scAAVの2つの相補性の半分が会合して、即時の複製および転写が可能な1つの二本鎖DNA(dsDNA)ユニットを形成する。例えば、D
M McCarty et al,“Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV)vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis”,Gene Therapy,(August 2001),Vol 8,Number 16,Pages1248-1254を参照されたい。自己相補性AAVは、例えば、米国特許第6,596,535号、同第7,125,717号、および同第7,456,683号に記載されており、その各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0132】
特定の実施形態では、本明細書に記載されるrAAVは、ヌクレアーゼ耐性である。かかるヌクレアーゼは、単一のヌクレアーゼ、またはヌクレアーゼの混合物であり得、エンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼであり得る。ヌクレアーゼ耐性rAAVは、AAVカプシドが完全に組み立てられたことを示し、産生プロセスから存在し得る汚染核酸を除去するために設計されたヌクレアーゼインキュベーションステップ中の分解(消化)から、これらのパッケージングされたゲノム配列を保護する。多くの場合、本明細書に記載のrAAVは、DNase耐性である。
【0133】
本明細書に記載のrAAVにおける組成物が、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態、および方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【0134】
rAAV.hIDUAウイルス粒子の産生
本発明は、本明細書に記載のrAAV.hIDUA薬学的組成物および製剤の製造を提供する。本明細書に記載される遺伝子療法ベクターを製造するための方法は、当該分野においてよく知られている方法、例えば、遺伝子療法ベクターの産生のために使用されるプラスミドDNAの生成、ベクターの生成、およびベクターの精製を含む。
【0135】
本明細書に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)は、既知の技術を使用して生成されてもよい。例えば、WO2003/042397、WO2005/033321、WO2006/110689、US7588772(B2)を参照されたい。かかる方法は、宿主細胞を培養することを含み、宿主細胞は、AAVカプシドをコードする核酸配列、機能的なrep遺伝子、AAV逆位末端反復(ITR)に隣接する本明細書に記載される発現カセット、および発現カセットをAAVカプシドタンパク質にパッケージングするのを可能にする十分なヘルパー機能を含む。また、AAVカプシドをコードする核酸配列、機能的なrep遺伝子、記載されるベクターゲノム、およびベクターゲノムをAAVカプシドタンパク質にパッケージングすることを可能にする十分なヘルパー機能を含有する、宿主細胞も本明細書に提供される。一実施形態では、宿主細胞は、HEK293細胞である。これらの方法は、WO2017/160360(A2)にさらに詳細に記載されている(参照により本明細書に組み込まれる)。
【0136】
一部の実施形態では、遺伝子療法ベクターは、AAVベクターであり、生成されたプラスミドは、AAVゲノムおよび目的の遺伝子をコードするAAVシス-プラスミド、AAVのrepおよびcap遺伝子を含むAAVトランス-プラスミド、およびアデノウイル
スヘルパープラスミドである。ベクター生成プロセスは、細胞培養の開始、細胞の継代、細胞の播種、プラスミドDNAによる細胞のトランスフェクション、トランスフェクション後の無血清培地への培地交換、ベクター含有細胞および培養培地の回収などの方法ステップを含み得る。回収されたベクター含有細胞および培養培地は、本明細書では粗細胞回収物と称される。
【0137】
粗細胞回収物は、その後、ベクター回収物の濃縮、ベクター回収物の透析濾過、ベクター回収物の顕微溶液化、ベクター回収物のヌクレアーゼ消化、顕微溶液化された中間体の濾過、クロマトグラフィーによる粗精製、超遠心分離による粗精製、接線流濾過による緩衝液交換、および/またはバルクベクターを調製するための製剤化および濾過などの、方法ステップに供される。
【0138】
2ステップの高塩濃度でのアフィニティクロマトグラフィー精製、続いて、アニオン交換樹脂クロマトグラフィーを使用して、ベクター薬物製品を精製し、空のカプシドを除去する。これらの方法は、「Scalable Purification Method
for AAV9」と題するWO2017/160360にさらに詳細に記載されている(参照により本明細書に組み込まれる)。簡潔には、パッケージングされたゲノム配列を有するrAAV9粒子を、ゲノム欠損AAV9中間体から分離するための方法は、組換えAAV9ウイルス粒子およびAAV9カプシド中間体を含む懸濁液を、高性能液体クロマトグラフィーに供することを伴い、AAV9ウイルス粒子およびAAV9中間体を、10.2のpHで平衡化された強アニオン交換樹脂に結合させ、約260および約280での紫外吸光度について溶出液をモニタリングしながら、塩勾配に供する。rAAV9には最適とはいえないが、pHは約10.0~10.4の範囲であり得る。この方法では、AAV9完全カプシドは、A260/A280の比が変曲点に到達した場合に溶出するフラクションから回収される。一実施例では、アフィニティクロマトグラフィーステップのために、ダイアフィルトレーションされた産物を、AAV2/9血清型を効率的に捕捉するCapture Select(商標)Poros-AAV2/9アフィニティ樹脂(Life Technologies)に適用してもよい。これらのイオン条件下、かなりのパーセンテージの残留細胞DNAおよびタンパク質が、カラムの中を流れ、AAV粒子が、効率的に捕捉される。
【0139】
当業者に利用可能なrAAVの他の産生方法も利用することができる。好適な方法は、バキュロウイルス発現系または酵母を介した産生を含み得るが、これらに限定されない。例えば、Robert M.Kotin,Large-scale recombinant adeno-associated virus production.Hum
Mol Genet.2011 Apr 15;20(R1):R2-R6.Published online 2011 Apr 29.doi:10.1093/hmg/ddr141、Aucoin MG et al.,Production of adeno-associated viral vectors in insect cells using triple infection:optimization of baculovirus concentration ratios.Biotechnol Bioeng.2006 Dec 20;95(6):1081-92、SAMI S.THAKUR,Production of Recombinant Adeno-associated viral vectors in yeast.Thesis presented to the Graduate School of the University of Florida,2012、Kondratov O et al.Direct Head-to-Head Evaluation of Recombinant Adeno-associated Viral Vectors Manufactured in Human versus Insect Cells,Mol Ther.2017 Aug 10.pii:S1
525-0016(17)30362-3.doi:10.1016/j.ymthe.2017.08.003.[Epub ahead of print]、Mietzsch M et al,OneBac 2.0:Sf9 Cell Lines for
Production of AAV1,AAV2,and AAV8 Vectors with Minimal Encapsidation of Foreign DNA.Hum Gene Ther Methods.2017 Feb;28(1):15-22.doi:10.1089/hgtb.2016.164.、Li L et al.Production and characterization of novel recombinant adeno-associated virus
replicative-form genomes:a eukaryotic source of DNA for gene transfer.PLoS One.2013 Aug 1;8(8):e69879.doi:10.1371/journal.pone.0069879.Print 2013、Galibert L et
al,Latest developments in the large-scale production of adeno-associated virus vectors in insect cells toward the treatment of neuromuscular diseases.J Invertebr Pathol.2011 Jul;107 Suppl:S80-93.doi:10.1016/j.jip.2011.05.008、およびKotin RM,Large-scale recombinant adeno-associated virus production.Hum Mol Genet.2011 Apr 15;20(R1):R2-6.doi:10.1093/hmg/ddr141.Epub 2011 Apr 29を参照されたい。
【0140】
rAAVの特徴付けまたは定量化のための従来の方法は、当業者に利用可能である。空および充填粒子の含有量を算出するために、選択された試料(例えば、本明細書の実施例では、イオジキサノール勾配で精製された調製物、ここで、GCの数=粒子の数)についてのVP3バンド容量が、ロードされたGC粒子に対してプロットされる。得られた線形方程式(y=mx+c)を用いて、試験物ピークのバンド容量中の粒子の数を算出する。次いで、ロードした20μLあたりの粒子の数(pt)に50を掛けて、粒子(pt)/mLを得る。Pt/mLをGC/mLで割って、ゲノムコピーに対する粒子の比(pt/GC)を得る。Pt/mL-GC/mLは、空pt/mLを与える。空pt/mLをpt/mLで割って、次いで100を掛けることよって、空粒子のパーセンテージを得る。一般に、空のカプシドおよびパッケージングされたゲノムを含むAAVベクター粒子をアッセイするための方法は、当該分野において既知である。例えば、Grimm et al.,Gene Therapy(1999)6:1322-1330、Sommer et al.,Molec.Ther.(2003)7:122-128を参照されたい。変性したカプシドについて試験するために、本方法は、3つのカプシドタンパク質を分離することができる任意のゲル(例えば、緩衝液中に3~8%のTris-アセテートを含む勾配ゲル)からなるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に処理済みAAVストックを供し、次いで、試料材料が分離するまでゲルを泳動し、ナイロンまたはニトロセルロースの膜(好ましくは、ナイロン)にゲルをブロットすることを含む。抗-AAVカプシド抗体は、次いで、変性したカプシドタンパク質、好ましくは、抗-AAVカプシドモノクローナル抗体、最も好ましくは、B1抗-AAV-2モノクローナル抗体に結合する一次抗体として使用される(Wobus et al.,J.Viral.(2000)74:9281-9293)。次いで、一次抗体に結合し、一次抗体、より好ましくは、抗体に共有結合した検出分子を含有する抗-IgG抗体、最も好ましくは、西洋ワサビペルオキシダーゼに共有結合したヒツジ抗-マウスIgG抗体との結合を検出するための手段を含む、二次抗体が使用される。一次抗体と二次抗体との間の結合を半定量的に決定するために、結合を検出するための方法が使用され、好ましくは、放射性アイソトープ放射、
電磁放射、または比色変化を検出することができる検出方法、最も好ましくは、化学発光検出キットが使用される。例えば、SDS-PAGEでは、カラムフラクションからの試料を取って、還元剤(例えば、DTT)を含有するSDS-PAGE充填緩衝液中で加熱することができ、カプシドタンパク質は、プレキャスト勾配ポリアクリルアミドゲル(例えば、Novex)中で分解された。SilverXpress(Invitrogen、CA)を製造元の指示に従って用いて、銀染色を実施してもよく、または他の適切な染色方法、すなわち、SYPROルビーもしくはクーマシー染色を実施してもよい。一実施形態では、カラムフラクション中のAAVベクターゲノム(vg)の濃度は、定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)により測定されることができる。試料は希釈され、DNase I(または別の適切なヌクレアーゼ)で消化されて、外因性DNAが除去される。ヌクレアーゼの不活化後、試料はさらに希釈され、プライマーおよびプライマー間のDNA配列に特異的なTaqMan(商標)蛍光発生プローブを用いて増幅される。規定レベルの蛍光(閾値サイクル、Ct)に到達するのに必要とされるサイクル数は、Applied Biosystems Prism 7700配列検出システム上で各試料について測定される。AAVベクター中に含有されるものと同一の配列を含有するプラスミドDNAを利用して、Q-PCR反応における標準曲線を作成する。試料から得られたサイクル閾値(Ct)値を用いて、プラスミド標準曲線のCt値に対してそれを正規化することにより、ベクターゲノム力価を決定する。デジタルPCRに基づくエンドポイントアッセイも使用されることができる。
【0141】
一態様では、広域スペクトルのセリンプロテアーゼ、例えば、プロテイナーゼK(例えば、Qiagenから商業的に入手可能なもの)を利用する最適化されたq-PCR方法が使用される。より具体的には、最適化されたqPCRゲノム力価アッセイは、DNase I消化の後に、試料をプロテアーゼK緩衝液で希釈し、プロテアーゼKで処理し、続いて、熱失活させることを除き、標準的なアッセイと同様である。適切には、試料は、試料サイズと等しい量のプロテアーゼK緩衝液で希釈される。プロテアーゼK緩衝液は、2倍以上に濃縮されてもよい。典型的には、プロテアーゼK処理は、約0.2mg/mLであるが、0.1mg/mL~約1mg/mLで変動し得る。処理ステップは、一般に、約55℃で約15分間実施されるが、より低い温度で(例えば、約37℃~約50℃)より長い時間にわたって(例えば、約20分間~約30分間)、またはより高い温度で(例えば、最高約60℃)より短い時間にわたって(例えば、約5~10分間)実施されてもよい。同様に、熱失活は、一般に、約95℃で約15分間であるが、温度を下げてもよく(例えば、約70~約90℃)、時間を延ばしてもよい(例えば、約20分間~約30分間)。次いで、試料は希釈され(例えば、1000倍)、標準アッセイで記載されるように、TaqMan分析に供される。
【0142】
追加的に、または代替的に、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)が使用されてもよい。例えば、ddPCRによる一本鎖および自己相補的なAAVベクターゲノム力価を測定するための方法が記載されている。例えば、M.Lock et al,Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14を参照されたい。
【0143】
また、カプシドタンパク質のvp1、vp2、およびvp3の比を決定する方法も利用可能である。例えば、Vamseedhar Rayaprolu et al,Comparative Analysis of Adeno-Associated Virus Capsid Stability and Dynamics,J Virol.2013 Dec;87(24):13150-13160、Buller RM,Rose JA.1978.Characterization of adenovirus-associated virus-induced polypeptide
s in KB cells.J.Virol.25:331-338、およびRose
JA,Maizel JV,Inman JK,Shatkin AJ.1971.Structural proteins of adenovirus-associated viruses.J.Virol.8:766-770を参照されたい。
【0144】
本明細書に記載のrAAVの産生のための方法が、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態、および方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【0145】
薬学的組成物および製剤
特定の実施形態では、製剤緩衝液中に本明細書に記載されるベクター(例えばrAAV)を含む薬学的組成物が本明細書で提供される。特定の実施形態では、薬学的組成物は、機能的hIDUAタンパク質(ERT)(例えば、Aldurazyme(登録商標)(ラロニダーゼ)、Sanofi Genzyme)との共投与に好適である。一実施形態では、製剤緩衝液中に本明細書に記載されるrAAVを含む薬学的組成物が提供される。特定の実施形態では、rAAVは、約1×109ゲノムコピー(GC)/mL~約1×1014GC/mLで製剤化される。さらなる実施形態では、rAAVは、約3×109GC/mL~約3×1013GC/mLで製剤化される。なおさらなる実施形態では、rAAVは、約1×109GC/mL~約1×1013GC/mLで製剤化される。一実施形態では、rAAVは、少なくとも約1×1011GC/mLで製剤化される。
【0146】
特定の実施形態では、薬学的組成物は、非ウイルスベクター系におけるhIDUAコード配列を有する発現カセットを含む。これには、例えば、裸のDNA、裸のRNA、無機粒子、脂質または脂質様粒子、キトサンベースの製剤、ならびに当該技術分野で既知のその他のものが含まれ得る。かかる非ウイルスベクター系は、例えば、プラスミドもしくは非ウイルス遺伝子エレメント、またはタンパク質ベースのベクターを含み得る。
【0147】
特定の実施形態では、薬学的組成物は、非複製ウイルスベクターを含む。好適なウイルスベクターは、任意の好適な送達ベクター、例えば、組換えアデノウイルス、組換えレンチウイルス、組換えボカウイルス、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)、または別の組換えパルボウイルスなど、を含み得る。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、それを必要とする患者にhIDUAを送達するための組換えAAVである。
【0148】
一実施形態では、薬学的組成物は、hIDUAコード配列を含む発現カセットを含むベクターと、脳室内(ICV)、髄腔内(IT)、大槽内、または静脈内(IV)注射を介した送達に好適な製剤緩衝液とを含む。一実施形態では、hIDUAコード配列を含む発現カセットは、パッケージングされた組換えAAV中にある。
【0149】
一実施形態では、薬学的組成物は、酵素補充療法(ERT)として対象に送達するための機能的hIDUAポリペプチドまたはその機能的断片を含む。このような薬学的組成物は通常、静脈内投与されるがいくつかの状況において、皮内、筋肉内、または経口投与も可能である。本組成物は、MPSI、Hurler、Hurler-Scheieおよび/またはScheie症候群に罹患しているか、またはその危険性がある個体の予防的治療のために投与され得る。治療用途では、薬学的組成物は、確立された疾患に罹患している患者に、蓄積された代謝産物の濃度を低下させる、および/または代謝産物のさらなる蓄積を防止または阻止するのに十分な量で投与される。リソソーム酵素欠乏症の危険性がある個体については、薬学的組成物は、代謝産物の蓄積を防止または阻害するのに十分な量で予防的に投与される。本明細書に記載のhIDUAタンパク質を含む薬学的組成物は、治療有効量で投与される。一般に、治療有効量は、対象における医学的状態の重症度、および対象の年齢、一般的状態、および性別に応じて変化し得る。投薬量は、医師によっ
て決定され得、観察された治療の効果に適合するように、必要に応じて調整され得る。一態様では、本明細書では、hIDUAタンパク質、またはその機能的断片の単位投薬量を含有するように製剤化されたERTのための薬学的組成物が提供される。
【0150】
特定の実施形態では、製剤は、水性懸濁液中に溶解した界面活性剤、防腐剤、賦形剤、および/または緩衝液をさらに含む。一実施形態では、緩衝液は、PBSである。別の実施形態では、緩衝液は、人工脳脊髄液(aCSF)、例えば、エリオット製剤緩衝液、またはハーバード装置灌流液(最終イオン濃度(mM単位で):Na 150、K 3.0、Ca 1.4、Mg 0.8、P 1.0、Cl 155の人工CSF)である。様々な好適な溶液が既知であり、緩衝食塩水、界面活性剤、および生理学的に適合する塩、もしくは塩の混合物(イオン強度が約100mMの塩化ナトリウム(NaCl)~約250mMの塩化ナトリウム相当に調整されたもの)、または同等のイオン濃度に調整された生理学的に適合する塩のうちの1つ以上を含む溶液を含む。
【0151】
好適には、製剤は、生理学的に許容されるpH、例えば、pH6~8、またはpH6.5~7.5、pH7.0~7.7、またはpH7.2~7.8の範囲に調整される。脳脊髄液のpHは約7.28~約7.32であるので、髄腔内送達のためには、この範囲内のpHが望ましい可能性があるが、静脈内送達のためには、6.8~約7.2のpHが望ましい可能性がある。しかし、最も広い範囲内の他のpH、およびこれらの部分範囲が、他の送達経路のために選択されてもよい。
【0152】
好適な界面活性剤または界面活性剤の組み合わせが、非毒性である非イオン界面活性剤の中から選択されてもよい。一実施形態では、例えば、中性pHを有し、平均分子量8400を有するPoloxamer 188としても知られているPluronic(登録商標)F68[BASF]などの、一級ヒドロキシル基末端の二官能ブロックコポリマー界面活性剤が選択される。他の界面活性剤および他のポロキサマー、すなわち、ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖に隣接するポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中心疎水性鎖から構成される非イオン性トリブロックコポリマー、SOLUTOL HS 15(マクロゴール-15ヒドロキシステアラート)、LABRASOL(ポリオキシカプリン酸グリセリド)、ポリオキシ10オレイルエーテル、TWEEN(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール、およびポリエチレングリコールが選択され得る。
【0153】
一実施形態では、製剤は、ポロキサマーを含有する。これらのコポリマーは、一般に、文字「P」(ポロキサマーの)に続いて、3桁の数字を用いて命名され、初めの2桁の数字×100は、ポリオキシプロピレンコアのおよその分子質量を与えるものであり、最後の数字×10は、ポリオキシエチレン含有量のパーセンテージを与えるものである。一実施形態では、ポロキサマー188が選択される。界面活性剤は、懸濁液の最高約0.0005%~約0.001%の量で存在してもよい。
【0154】
一実施例では、製剤は、例えば、水中に塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、デキストロース、硫酸マグネシウム(例えば、硫酸マグネシウム・7H2O)、塩化カリウム、塩化カルシウム(例えば、塩化カルシウム・2H2O)、二塩基性リン酸ナトリウム、およびそれらの混合物のうちの1つ以上を含む、緩衝化食塩水溶液を含有することができる。好適には、髄腔内送達のためには、モル浸透圧濃度は、脳脊髄液と適合する範囲内(例えば、約275~約290)である、例えば、emedicine.medscape.com/article/2093316-overviewを参照されたい。任意選択的に、髄腔内送達のために、商業的に入手可能な希釈剤は、懸濁化剤として使用され得るか、または別の懸濁化剤および他の任意の賦形剤と組み合わせて使用され得る。例えば、Elliotts B(登録商標)溶液[Lukare Medical]を参照されたい
【0155】
特定の実施形態では、製剤は、1つ以上の透過促進剤を含有してもよい。好適な透過促進剤の例には、例えば、マンニトール、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、またはEDTAが挙げられ得る。
【0156】
一実施形態では、本明細書に記載の緩衝溶液中にrAAVを含有する凍結された組成物が凍結された形態で提供される。任意選択的に、1つ以上の界面活性剤(例えば、Pluronic F68)、安定化剤、または防腐剤が、この組成物中に存在する。適切には、使用のために、組成物は解凍され、適切な希釈剤、例えば、滅菌食塩水または緩衝化食塩水を用いて所望の用量に滴定される。
【0157】
特定の実施形態では、製剤(任意選択的に、凍結された)中に懸濁された濃縮されたベクターを含むキットが提供され、任意選択的な希釈緩衝液、ならびに髄腔内投与のために必要とされるデバイス、および他の構成要素が提供される。別の実施形態では、キットは、追加的にまたは代替的に、静脈内送達のための構成要素を含み得る。一実施形態では、キットは、注射を可能にするために、十分な緩衝液を提供する。そのような緩衝液は、濃縮されたベクターの約1:1~1:5希釈、またはそれより多くの希釈を可能にし得る。他の実施形態では、より多量もしくはより少量の緩衝液または滅菌水が含まれ、治療を行う医師により、用量滴定および他の調整が可能になる。さらに他の実施形態では、キットには、デバイスの1つ以上の構成要素が含まれる。
【0158】
特定の実施形態では、本明細書に記載されるベクター(例えばrAAV)と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物が本明細書に提供される。本明細書で使用される場合、「担体」は、任意のおよびすべての溶媒、分散媒体、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝液、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含む。薬学的活性物質に対するかかる媒体および薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。補足有効成分を組成物中に組み込むこともできる。リポソーム、ナノカプセル、微粒子、ミクロスフェア、脂質粒子、小胞などの送達ビヒクルが、本発明の組成物を好適な宿主細胞に導入するために使用され得る。
【0159】
特に、rAAVベクターは、脂質粒子、リポソーム、小胞、ナノスフェア、またはナノ粒子などに封入化された送達のいずれかのために製剤化され得る。一実施形態では、治療有効量の上述のベクターが、薬学的組成物に含まれる。担体の選択は、本発明を限定しない。防腐剤または化学安定化剤などの他の従来の薬学的に許容される担体。好適な例示的な防腐剤としては、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン、エチルバニリン、グリセリン、フェノール、およびパラクロロフェノールが含まれる。好適な化学安定化剤としては、ゼラチンおよびアルブミンが含まれる。
【0160】
「薬学的に許容される」という語句は、宿主に投与されるときにアレルギーまたは類似の有害反応を生じない分子実体および組成物を指す。
【0161】
本明細書で使用される場合、「投薬量」または「量」という用語は、治療の過程で対象に送達される総投薬量または量、または単一の単位(または複数の単位または分割投薬)投与で送達される投薬量または量を指すことができる。
【0162】
一態様では、製剤緩衝液中に本明細書に記載されるウイルスベクター(例えば、rAV
V)を含む薬学的組成物が本明細書に提供される。特定の実施形態では、組成物は、ヒト患者にとって、その範囲内のすべての整数または分数量、好ましくは1.0×1012GC~1.0×1014GCを含め、約1.0×10GC~約1.0×1016GCの範囲にある量の複製欠陥ウイルス(体重70kgの平均対象を治療するため)を含有するように投薬量単位で製剤化することができる。一実施形態では、組成物は、その範囲内のすべての整数または分数量を含め、用量当たり少なくとも1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、または9×10GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、その範囲内のすべての整数または分数量を含め、用量当たり少なくとも1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、または9×1010GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、その範囲内のすべての整数または分数量を含め、用量当たり少なくとも1×1011、2×1011、3×1011、4×1011、5×1011、6×1011、7×1011、8×1011、または9×1011GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、その範囲内のすべての整数または分数量を含め、用量当たり少なくとも1×1012、2×1012、3×1012、4×1012、5×1012、6×1012、7×1012、8×1012、または9×1012GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、その範囲内のすべての整数または分数量を含め、用量当たり少なくとも1×1013、2×1013、3×1013、4×1013、5×1013、6×1013、7×1013、8×1013、または9×1013GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、その範囲内のすべての整数または分数量を含め、用量当たり少なくとも1×1014、2×1014、3×1014、4×1014、5×1014、6×1014、7×1014、8×1014、または9×1014GCを含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、その範囲内のすべての整数または分数量を含め、用量当たり少なくとも1×1015、2×1015、3×1015、4×1015、5×1015、6×1015、7×1015、8×1015、または9×1015GCを含むように製剤化される。一実施形態では、ヒト適用のために、用量は、その範囲内のすべての整数または分数量を含め、用量当たり1×1010~約1×1012GCの範囲であり得る。
【0163】
一実施形態では、製剤緩衝液中に本明細書に記載されるrAAVを含む薬学的組成物が提供される。一実施形態では、rAAVは、約1×10ゲノムコピー(GC)/mL~約1×1014GC/mLで製剤化される。さらなる実施形態では、rAAVは、約3×10GC/mL~約3×1013GC/mLで製剤化される。なおさらなる実施形態では、rAAVは、約1×10GC/mL~約1×1013GC/mLで製剤化される。一実施形態では、rAAVは、少なくとも約1×1011GC/mLで製剤化される。一実施形態では、本明細書に記載のrAAVを含む薬学的組成物は、脳質量1グラム当たり約1×10GC~脳質量1グラムあたり約1×1014GCの用量で投与される。
【0164】
特定の実施形態では、組成物は、任意の好適な経路による送達のために、好適な水性懸濁媒体(例えば、緩衝生理食塩水)中に製剤化され得る。本明細書で提供される組成物は、高用量のウイルスベクターの全身送達に有用である。rAAVの場合、高用量は、少なくとも1×1013GC、または少なくとも1×1014GCであり得る。しかしながら、改善された安全性のために、本明細書に提供されるmiRNA配列は、他のより低い用量で送達される発現カセットおよび/またはベクターゲノムに含まれ得る。本明細書に記載の水性懸濁液または薬学的組成物は、任意の好適な経路または異なる経路の組み合わせによって、それを必要とする対象に送達されるように設計される。一実施形態では、薬学的組成物は、脳室内(ICV)、髄腔内(IT)、または大槽内注射を介した送達用に製剤化される。一実施形態では、本明細書に記載の組成物は、静脈内(IV)注射によって、それを必要とする対象に送達するために設計される。代替的に、他の投与経路(例えば
、経口、吸入、鼻腔内、気管内、動脈内、眼内、筋肉内、および他の非経口経路)を選択してもよい。特定の実施形態では、組成物は、本質的に同時に2つの異なる経路によって送達される。
【0165】
本明細書で使用される場合、「髄腔内送達」または「髄腔内投与」という用語は、脊柱管への注射を介する、より具体的には、脳脊髄液(CSF)へ到達するようにクモ膜下腔空間への注射による、薬物の投与経路を指す。髄腔内送達は、腰部穿刺、脳室内、後頭下/大槽内、および/またはC1-2穿刺を含み得る。例えば、材料は、腰部穿刺により、クモ膜下腔空間にわたって拡散させるために導入され得る。別の実施例では、注射は、大槽内(cisterna magna)であり得る。大槽内送達は、ベクター拡散を増加させ、および/または投与によって引き起こされる毒性および炎症を低減し得る。例えば、Christian Hinderer et al,Widespread gene transfer in the central nervous system
of cynomolgus macaques following delivery of AAV9 into the cisterna magna,Mol Ther Methods Clin Dev.2014;1:14051.Published online 2014 Dec 10.doi:10.1038/mtm.2014.51を参照されたい。
【0166】
本明細書で使用される場合、「大槽内送達(intracisternal delivery)」または「大槽内投与(intracisternal administration)」という用語は、小脳延髄槽内の脳脊髄液への直接的な薬物の投与経路、より詳細には、後頭下穿刺による、または大槽内への直接注射による、または永続的に配置されたチューブによる、薬物の投与経路を指す。
【0167】
本明細書に記載の薬学的組成物および製剤中の組成物が、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態、および方法に適用されるよう意図されることを理解されたい。
【0168】
治療方法
治療有効量の記載のhIDUAを送達することを含む、MPSI、Hurler、Hurler-Scheieおよび/またはScheie症候群のための方法が本明細書で提供される。特に、本明細書では、本明細書に記載の治療有効量のrAAV.hIDUAを、それを必要とする患者へ送達することを含む、MPSI、Hurler、Hurler-Scheieおよび/またはScheie症候群と診断された患者において神経認知低下を予防、治療、および/または緩和するための方法が提供される。本明細書に記載のrAAV.hIDUAベクターの治療有効量は、以下の段落のうちのいずれか1つにおいて特定される症状のうち1つ以上を補正し得る。
【0169】
タンパク質、ペプチド、またはポリペプチド(例えば、免疫グロブリンとして)の配列決定方法は、当業者に既知である。タンパク質の配列が分ると、ウェブベースおよび市販のコンピュータプログラム、ならびにアミノ酸配列を核酸コード配列に逆翻訳するサービスベースの企業が存在する。例えば、EMBOSS(www.ebi.ac.uk/Tools/st/で利用可能)、Gene Infinity(geneinfinity.org/sms/sms_backtranslation.htmlで利用可能)、ExPasy(expasy.org/tools/で利用可能)による逆翻訳配列を参照されたい。一実施形態では、RNAおよび/またはcDNAコード配列は、ヒト細胞における最適な発現のために設計される。
【0170】
特定の実施形態では、本明細書に提供される組成物は、所望の導入遺伝子産物を、患者
に送達するのに有用であり、一方で、後根神経節ニューロンにおける導入遺伝子発現を抑制するのに有用である。特定の実施形態では、本明細書で提供される組成物は、髄腔内または全身的遺伝子療法投与後の神経変性を調節する、および/または二次背側脊髄軸索変性を低減するための方法に有用である。したがって、本明細書で提供される組成物は、CNSへの遺伝子療法の送達に特に有用であるが、それらは、例えば、高用量の遺伝子療法がDRG形質導入および毒性をもたらし得る全身IV送達を含む、他の送達経路にも有用であり得る。本方法は、導入遺伝子およびmiRNA標的を含む発現カセットまたはベクターゲノムを含む組成物を患者に送達することを伴う。
【0171】
特定の実施形態では、本方法は、DRGにおける導入遺伝子の発現レベルを抑制するために、miR-183標的配列を含む発現カセットまたはベクターゲノムを送達することを含む。特定の実施形態では、本方法は、DRGにおける導入遺伝子発現を抑制するのに有用な発現カセットまたはベクターゲノムを送達することを含み、発現カセットまたはベクターゲノムは、少なくとも2個のmiR183標的配列、少なくとも3個のmiR183標的配列、少なくとも4個のmiR183標的配列、少なくとも5個のmiR183標的配列、少なくとも6個のmiR183標的配列、少なくとも7個のmiR183標的配列、または少なくとも8個のmiR183標的配列を含む。特定の実施形態では、本方法は、DRGにおける導入遺伝子発現を抑制するのに有用な発現カセットまたはベクターゲノムを送達することを含み、発現カセットまたはベクターゲノムは、8個のmiR183標的配列を含む。特定の実施形態では、本方法は、錐体ニューロン、プルキンエニューロン、顆粒細胞、紡錘ニューロン、介在神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、および/または上衣細胞のうちの1つ以上から選択される、CNSに存在する1つ以上の細胞における発現を増強する。
【0172】
特定の実施形態では、網膜、内耳、および嗅覚受容器の下位運動ニューロンにおける導入遺伝子の発現を送達および/または増強するのに有用な方法であって、1つ以上のmiR-183標的配列および/または複数のmiR-183標的配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含む発現カセットまたはベクターゲノムを送達することを含む、方法が提供される。特定の実施形態では、細胞または組織は、肝臓または心臓のうちの1つ以上であり得る。
【0173】
なお別の実施形態では、CNSに存在する細胞に発現カセットまたはベクターゲノムを送達することを含む方法であって、発現カセットまたはベクターゲノムが、1つ以上のmiR-183標的配列を含み、導入遺伝子(すなわち、異種遺伝子産物をコードする配列)を欠く、方法が提供される。かかる実施形態では、CNSの細胞へのmiR-183の送達が達成される。特定の実施形態では、miR-183配列を含む発現カセットまたはベクターゲノムの送達は、DRG発現の抑制およびCNSに存在する特定の他の細胞における遺伝子発現の増強をもたらす。
【0174】
特定の実施形態では、本明細書に提供される組成物は、CNS以外の細胞における導入遺伝子の発現を増強するための方法に有用である。特定の実施形態では、CNS以外の細胞における発現を増強するための方法は、miR-182標的配列を含む発現カセットまたはベクターゲノムを患者に送達することを含む。
【0175】
一実施形態では、懸濁液は、約6.8~約7.32のpHを有する。
【0176】
これらの用量の送達に適切な容量および濃度は、当業者によって決定され得る。例えば、約1μL~150mLの容量が選択されてもよいが、より高容量が、成人用に選択されてもよい。典型的に、乳幼児用に好適な容量は、約0.5mL~約10mL、より年長の乳幼児用に、約0.5mL~約15mLが選択されてもよい。幼児のためには、約0.5
mL~約20mLの容量が選択されてもよい。子供用に、最大約30mLの容量が選択されてもよい。プレティーンおよびティーンには、最大約50mLの容量が選択されてもよい。さらに他の実施形態では、患者は、選択された約5mL~約15mL、または約7.5mL~約10mLの容量で髄腔内投与を受けることができる。他の好適な容量および投薬量が決定されてもよい。任意の副作用に対する治療的利益のバランスをとるために、投薬量を調整してもよく、そのような投薬量は、組換えベクターが利用されるための治療用途に応じて変化し得る。
【0177】
一実施形態では、本明細書に記載のrAAVを含む組成物は、脳質量1グラム当たり約1×10GC~脳質量1グラム当たり約1×1014GCの用量で投与される。特定の実施形態では、rAAVは、体重1kg当たり約1×10GC~体重1kg当たり約1×1013GCの用量で全身に同時投与される。
【0178】
特定の実施形態では、対象に、治療有効量の、hIDUA遺伝子産物およびmiRNA標的配列をコードする核酸配列を含み、標的細胞にhIDUAを送達し、発現させ、かつDRG発現を特異的に非標的化する組成物を投与する。
【0179】
特定の実施形態では、AAV.アルファ-L-イズロニダーゼ(AAV.IDUA)遺伝子療法ベクターは、IDUA遺伝子のコード配列(例えば、配列番号14のnt1943~3901を参照されたい)に作動可能に連結されたmiRNA183クラスター(miR-183、miR-182、およびmiR183標的配列、またはそれらの組み合わせを含む)のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、もしくは少なくとも4つのmiR標的配列を含むベクターゲノムを含む。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、複数コピーの同じmiR標的配列を含み、各々は、スペーサー(同じであってもよく、または互いに異なってもよい)によって分離されている。別の実施形態では、ベクターゲノムは、3~6コピーのmiR183クラスター標的配列を含み、任意選択的に、標的配列のうちの1つ以上は、miR-183クラスターメンバーに少なくとも約80%~約99%相補的である。別の実施形態では、ベクターは、miR183標的配列を、1、2、3、または4コピー含む。かかるベクターゲノムは、任意選択的に、miR183クラスターのメンバーに対応する追加の標的配列を含有し得る。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、miR183クラスターメンバーの単一のmiR標的配列を含有する。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、miR183クラスターメンバーの2つのmiR標的配列、および任意選択的に、少なくとも1つのスペーサーを含有する。特定の実施形態では、ベクターは、miR183クラスターメンバーの3つのmiR標的配列、および任意選択的に、少なくとも2つのスペーサーを含有する。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、互いに配列が異なるmiR183クラスターの2つ以上のmiR標的配列を含有する。特定の実施形態では、本明細書に記載のベクターゲノムは、非AAVベクターによって担持される。
【0180】
一実施形態では、発現カセットは、ベクターゲノム中、その範囲およびエンドポイント内のすべての整数または分数量を含め、脳質量1グラム当たり約1×10GC~脳質量1グラム当たり約1×1013ゲノムコピー(GC)の量で送達される。別の実施形態では、投薬量は、脳質量1グラム当たり1×1010GC~脳質量1グラム当たり約1×1013GCである。特定の実施形態では、患者に投与されるベクターの用量は、少なくとも約1.0×10GC/g、約1.5×10GC/g、約2.0×10GC/g、約2.5×10GC/g、約3.0×10GC/g、約3.5×10GC/g、約4.0×10GC/g、約4.5×10GC/g、約5.0×10GC/g、約5.5×10GC/g、約6.0×10GC/g、約6.5×10GC/g、約7.0×10GC/g、約7.5×10GC/g、約8.0×10GC/g、約8.5×10GC/g、約9.0×10GC/g、約9.5×10GC/g、約1.0×
1010GC/g、約1.5×1010GC/g、約2.0×1010GC/g、約2.5×1010GC/g、約3.0×1010GC/g、約3.5×1010GC/g、約4.0×1010GC/g、約4.5×1010GC/g、約5.0×1010GC/g、約5.5×1010GC/g、約6.0×1010GC/g、約6.5×1010GC/g、約7.0×1010GC/g、約7.5×1010GC/g、約8.0×1010GC/g、約8.5×1010GC/g、約9.0×1010GC/g、約9.5×1010GC/g、約1.0×1011GC/g、約1.5×1011GC/g、約2.0×1011GC/g、約2.5×1011GC/g、約3.0×1011GC/g、約3.5×1011GC/g、約4.0×1011GC/g、約4.5×1011GC/g、約5.0×1011GC/g、約5.5×1011GC/g、約6.0×1011GC/g、約6.5×1011GC/g、約7.0×1011GC/g、約7.5×1011GC/g、約8.0×1011GC/g、約8.5×1011GC/g、約9.0×1011GC/g、約9.5×1011GC/g、約1.0×1012GC/g、約1.5×1012GC/g、約2.0×1012GC/g、約2.5×1012GC/g、約3.0×1012GC/g、約3.5×1012GC/g、約4.0×1012GC/g、約4.5×1012GC/g、約5.0×1012GC/g、約5.5×1012GC/g、約6.0×1012GC/g、約6.5×1012GC/g、約7.0×1012GC/g、約7.5×1012GC/g、約8.0×1012GC/g、約8.5×1012GC/g、約9.0×1012GC/g、約9.5×1012GC/g、約1.0×1013GC/g、約1.5×1013GC/g、約2.0×1013GC/g、約2.5×1013GC/g、約3.0×1013GC/g、約3.5×1013GC/g、約4.0×1013GC/g、約4.5×1013GC/g、約5.0×1013GC/g、約5.5×1013GC/g、約6.0×1013GC/g、約6.5×1013GC/g、約7.0×1013GC/g、約7.5×1013GC/g、約8.0×1013GC/g、約8.5×1013GC/g、約9.0×1013GC/g、約9.5×1013GC/g、または約1.0×1014GC/g脳質量である。
【0181】
特定の実施形態では、本明細書に提供されるmiR標的配列含有組成物は、患者が必要とする免疫抑制性併用療法の用量、持続時間、および/または量を最小限に抑える。現在、そのような併用療法のための免疫抑制剤としては、グルココルチコイド、ステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド(例えば、ラパマイシンもしくはラパログ)、および細胞分裂阻害剤(アルキル化剤を含む)、代謝拮抗剤、細胞傷害性抗生物質、抗体、イムノフィリンに対して活性のある物質が挙げられるが、これらに限定されない。免疫抑制剤には、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)指向性抗体またはCD3指向性抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-α)結合剤を含み得る。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、遺伝子療法投与の0、1、2、7日以上前に開始されてもよい。かかる療法は、同じ日に2つ以上の薬物(例えば、プレドニゾン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)および/またはシロリムス(すなわち、ラパマイシン))の同時投与を伴い得る。これらの薬物のうちの1つ以上が、同じ用量または調整された用量で、遺伝子療法投与後に継続されてもよい。特定の実施形態では、本明細書に提供されるmiR標的配列含有組成物は、遺伝子療法(例えば、rAAV)ベクターの送達前、送達中、または送達後の免疫抑制療法の必要性を排除する。
【0182】
一実施形態では、本明細書に記載される発現カセットを含む組成物は、必要な対象に1回投与される。特定の実施形態では、発現カセットは、rAAVを介して送達される。
【0183】
治療のための候補となる患者は、MPSI、および/またはHurler、Hurler-ScheieおよびScheieと関連する症状を有する小児患者および成人患者である。MPSI障害は、早期重症型(Hurler)から後期発症型(Scheie)の形態までの疾患のスペクトルである。Hurler症候群は、典型的には、IDUA酵素活性がないこと(0%)を特徴とし、早期に診断され、生後10年間における発達遅滞、肝脾腫大、骨格病変、角膜混濁、関節病変、難聴、心臓病変、および死亡を特徴とする。Hurler-Scheie患者は、ある程度のIDUA酵素活性(0%より大きいが、典型的には2%未満)を有し、変動する知力への影響、呼吸器疾患、閉塞性気道疾患、心血管疾患、関節硬直/収縮、骨格異常、視力低下、および10代~20代での死亡を有することが観察されている。Scheie症候群を有する患者は、典型的には、「正常な」IDUA酵素活性の少なくとも2%を有し、後に診断される。そのような患者は、典型的には、正常な知能を有するが、肝脾腫大、関節病変、神経絞扼、難聴、心臓病変、および正常な寿命を有する。また、Newborn Screening for Mucopolysaccharidosis Type 1(MPS I):A Systematic Review of Evidence Report of Final Findings,Final Version 1.1,Prepared for:MATERNAL AND CHILD HEALTH BUREAUも参照されたい。
【0184】
本明細書で提供される組成物は、組換え酵素に対する免疫応答に関連する長期間の酵素補充療法(ERT)の合併症(軽症から最悪のアナフィキラシーまでにわたる)、ならびに局所および全身感染などの生涯にわたって続く接触部周辺の合併症を回避する。ERTと対照的に、本発明の組成物は、生涯にわたって継続される毎週の注射を必要としない。理論に束縛されることを意図するものではないが、本明細書に記載の治療的方法は、CNS区画の外側で治療効力を提供する連続的で高い循環IDUAレベルを提供する高い形質導入効率を伴うベクターにより与えられる効率的な長期間の遺伝子移入を提供することにより、MPSI障害に関連する中枢神経系表現型を少なくとも補正するために有用であると考えられている。加えて、本明細書では、CNSへのAAV媒介性送達の前に、タンパク質形態またはrAAV.hIDUAの形態で酵素を直接全身送達することを含む様々な経路により、活性のある耐容性を提供し、酵素に対する抗体形成を予防するための方法が提供される。
【0185】
いくつかの実施形態では、Hurler症候群と診断された患者は、本明細書に記載の方法に従って治療される。いくつかの実施形態では、Hurler-Scheie症候群と診断された患者は、本明細書に記載の方法に従って治療される。いくつかの実施形態では、Scheie症候群と診断された患者は、本明細書に記載の方法に従って治療される。いくつかの実施形態では、神経認知欠損を有するMPSIを有する小児対象は、本明細書に記載の方法に従って治療される。
【0186】
特定の実施形態では、新生児(3ヶ月齢またはそれより若い)は、本明細書に記載の方法に従って治療される。特定の実施形態では、3ヶ月齢~9ヶ月齢である乳児は、本明細書に記載の方法に従って治療される。特定の実施形態では、9ヶ月齢~36ヶ月齢の子供は、本明細書に記載の方法に従って治療される。特定の実施形態では、3歳~12歳の子供は、本明細書に記載の方法に従って治療される。特定の実施形態では、12歳~18歳の子供は、本明細書に記載の方法に従って治療される。特定の実施形態では、18歳以上の成人が、本明細書に記載の方法に従って治療される。
【0187】
一実施形態では、患者は、Hurler症候群を有していてもよく、少なくとも約3ヶ月齢~12ヶ月齢未満の男児または女児である。別の実施形態では、患者は、男性または女性のHurler-Scheie患者であってもよく、少なくとも約6歳~最大18歳であってもよい。他の実施形態では、対象は、より高齢またはより若くてもよく、男性で
あっても女性であってもよい。
【0188】
適切には、治療のために選択された患者は、以下の特徴のうちの1つ以上を有する患者を含み得る。血漿、線維芽細胞、または白血球中で測定されるような、欠失または減少したIDUA酵素活性により確認されるMPSIの診断文書、任意の他の神経学的因子または精神医学的因子により説明できない場合、以下のいずれかで規定される、MPSIに起因する初期神経認知欠損の証拠文書。-IQテストで平均より低い1標準偏差のスコア、または神経心理学的機能(言語、記憶、注意力、または非言語的能力)の1領域、または-連続的なテストで1より大きな標準偏差の低下という病歴証拠文書。代替的に、尿または遺伝子検査におけるGAGの増加が使用されてもよい。治療の前に、対象、例えば、乳幼児は、好ましくは、MPSI患者、すなわち、hIDUAをコードする遺伝子に変異を有する患者を特定するために遺伝子型決定を受ける。治療前に、MPSI患者を、hIDUA遺伝子を送達するために使用されるAAV血清型に対する中和抗体(Nab)について評価することができる。特定の実施形態では、5以下のAAVに対する中和抗体力価を有するMPSI患者は、本明細書に記載の方法のうちのいずれか1つ以上に従って治療される。
【0189】
治療前に、MPSI患者を、hIDUA遺伝子を送達するために使用されるAAVベクターのカプシドに対する中和抗体(Nab)について評価することができる。そのようなNabは、形質導入効率を妨害し、治療有効性を低下させることができる。ベースライン血清Nab力価≦1:5を有するMPSI患者は、rAAV.hIDUA遺伝子療法プロトコルを用いる治療のための良好な候補である。血清Nab>1:5の力価を有するMPSI患者の治療は、rAAV.hIDUAベクター送達による治療の前および/または治療中に、組み合わせ療法、例えば、免疫抑制剤での一時的な組み合わせ療法を必要としてもよい。任意選択的に、免疫抑制併用療法は、AAVベクターカプシドおよび/または製剤の他の構成要素に対する中和抗体の事前アセスメントを伴うことなく、予防的手段として使用されてもよい。事前の免疫抑制療法は、特に、実質的にIDUA活性レベルを有さない患者において、hIDUA導入遺伝子産物に対する潜在的な有害免疫反応を予防するために望ましいものであってもよく、導入遺伝子産物は、「外来」とみなされてもよい。以下に記載される、マウス、イヌ、およびNHPにおける非臨床的試験の結果は、hIDUAに対する免疫応答および神経炎症の発症に一致する。同様の反応は、ヒト対象において生じない可能性もあるが、予防的措置として、免疫抑制療法が、rAAV.hIDUAのすべてのレシピエントについて推奨される。
【0190】
そのような併用療法のための免疫抑制剤としては、グルココルチコイド、ステロイド、代謝拮抗剤、T細胞阻害剤、マクロライド(例えば、ラパマイシンもしくはラパログ)、および細胞分裂阻害剤(アルキル化剤を含む)、代謝拮抗剤、細胞傷害性抗生物質、抗体、イムノフィリンに対して活性のある物質が挙げられるが、これらに限定されない。免疫抑制剤には、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)指向性抗体またはCD3指向性抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-α)結合剤を含み得る。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、遺伝子療法投与の0、1、2、7日以上前に開始されてもよい。かかる療法は、同じ日に2つ以上の薬物(例えば、プレドニゾン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)および/またはシロリムス(すなわち、ラパマイシン))の同時投与を伴い得る。これらの薬物のうちの1つ以上が、同じ用量または調整された用量で、遺伝子療法投与後に継続されてもよい。かかる療法は、必要に応じて、約1週間(7日間)、約60日間、またはそれ以上であり得る。特定の実施形態では、タクロリムスを含まないレジメンが選択される。
【0191】
それにもかかわらず、一実施形態では、以下の特徴のうちの1つ以上を有する患者は、患者の担当医の裁量によって治療から排除されてもよい。
○ベースラインMRI試験のレビューにより、IC注射についての禁忌が示される。
○IC注射に対する禁忌をもたらす、以前の頭部/頸部手術歴。
○CT(またはコントラスト)または全身麻酔に対していずれかの禁忌を有する。
○MRI(またはガドリニウム)に対するいずれかの禁忌を有する。
○推定糸球体濾過速度(eGFR)<30mL/分/1.73m2を有する。
○MPSIに起因しない任意の神経認知欠損、または神経精神医学的状態の診断を有する。
○シロリムス、MMF、またはプレドニゾンに対するなんらかの過敏反応歴を有する。
○免疫抑制療法に適切でない任意の状態(例えば、絶対的好中球数<1.3×10/μL、血小板数<100×10/μL、およびヘモグロビン<12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])を有する。
○腰部穿刺に対していずれかの禁忌を有する。
○HSCTを受けている。
○治療前の6ヶ月以内にIT投与によりラロニダーゼを受けた。
○いずかの時点でITラロニダーゼを受けており、患者を危険な状況に置く可能性のあるIT投与に関連すると考えられる有意な有害事象を経験した。
○治療の前の少なくとも3ヶ月間で完全に寛解していない、リンパ腫の任意の病歴、または皮膚の扁平上皮細胞もしくは基底細胞がん腫以外の別のがんの病歴。
○患者が、ギルバート症候群の以前に知られた病歴を有さず、総ビリルビンの35%未満の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有さない限り、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)>3×正常値上限(ULN)、または総ビリルビン>1.5×ULN。
○ヒト免疫不全ウイルス(HIV)陽性試験の履歴、活動性もしくは再発性のB型肝炎もしくはC型肝炎の病歴、またはB型肝炎、C型肝炎もしくはHIVのスクリーニング試験の陽性。
○妊娠中、出産後6週未満、授乳中、または妊娠を計画している(自身またはパートナー)
○治療前1年以内のアルコールまたは薬物乱用歴。
○患者の安全性を損なう可能性のある、重大な、または不安定な医学的状態または心理学的状態を有する。
○コントロールされていない発作。
【0192】
他の実施形態では、治療にあたる医師は、これらの身体的特徴(病歴)のうちの1つ以上の存在が本明細書に提供されるような治療を妨害するべきものでないことを決定し得る。
【0193】
本明細書に記載の方法における組成物が、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態、および方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【0194】
投薬量および投与経路
患者への投与に適切な薬学的組成物は、生理学的に適合する水性緩衝液、界面活性剤、および任意選択的な賦形剤を含む製剤緩衝液中のrAAV.hIDUAベクターの懸濁液を含む。特定の実施形態では、本明細書に記載の薬学的組成物は、髄腔内に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載の薬学的組成物は、大槽内に投与される。他の実施形態では、本明細書に記載の薬学的組成物は、静脈内に投与される。特定の実施形態では、
薬学的組成物は、20分間(±5分間)にわたって注入により末梢静脈を介して送達される。しかしながら、この時間は、必要に応じて、または所望により、調整されてもよい。しかし、さらに他の投与経路が選択されてもよい。代替的または追加的に、投与経路は、所望される場合、組み合わされてもよい。
【0195】
rAAVの単回投与は効果的であると期待されているが、投与は、繰り返されてもよい(特に、新生児の治療では、例えば、1年に4回、半年に1回、1年に1回、または必要に応じて他の回数)。任意選択的に、注入/注射に耐えることのできる対象の年齢および能力を考慮して、治療有効量の初期用量が、分割された注入/注射セッションで送達されてもよい。しかし、安心感および治療的結果の両方の観点で患者に利点を与える、治療用量全量の注射を毎週繰り返す必要はない。
【0196】
いくつかの実施形態では、rAAV懸濁液は、少なくとも1x10GC/mLであるrAAVゲノムコピー(GC)力価を有する。特定の実施形態では、rAAV懸濁液中のrAAVの空/充填粒子比は、0.01~0.05(95%~99%が空のカプシドを含まない)である。いくつかの実施形態では、それらを必要とするMPSI患者は、少なくとも約4x10GC/g脳質量~約4x1011GC/g脳質量の用量のrAAV懸濁液を投与される。
【0197】
以下の治療的に有効な一定用量のrAAV.hIDUAを、示された年齢群のMPSI患者に投与することができる。
○新生児:約3.8×1012~約1.9×1014GC、
○3~9ヶ月:約6×1012~約3×1014GC、
○9~36ヶ月:約1013~約5×1014GC、
○3~12歳:約1.2×1013~約6×1014GC、
○12歳以上:約1.4×1013~約7.0×1014GC、
○18歳以上(成人):約1.4×1013~約7.0×1014GC。
【0198】
いくつかの実施形態では、12歳以上のMPSI患者(18歳以上を含む)に投与される用量は、1.4×1013ゲノムコピー(GC)(1.1×1010GC/g脳質量)である。いくつかの実施形態では、12歳以上のMPSI患者(18歳以上を含む)に投与される用量は、7×1013GC(5.6×1010GC/g脳質量)である。なおさらなる一実施形態では、MPSI患者に投与される用量は、少なくとも約4x10GC/g脳質量~約4x1011GC/g脳質量である。特定の実施形態では、MPSI新生児に投与される用量は、約1.4x1011~約1.4x1014GCの範囲であり、3~9ヶ月の乳幼児に投与される用量は、約2.4x1011~約2.4x1014GCの範囲であり、9~36ヶ月のMPSI子供に投与される用量は、約4x1011~約4x1014GCの範囲であり、3~12歳のMPSI子供に投与される用量は、約4.8x1011~約4.8x1014GCの範囲であり、12歳以上の子供および成人に投与される用量は、約5.6x1011~約5.6x1014GCの範囲である。
【0199】
これらの用量の送達に適切な容量および濃度は、当業者によって決定され得る。例えば、約1μL~150mLの容量が選択されてもよいが、より高容量が、成人用に選択されてもよい。典型的に、新生児用に好適な容量は、約0.5mL~約10mL、より年長の乳児用に、約0.5mL~約15mLが選択される。幼児のためには、約0.5mL~約20mLの容量が選択されてもよい。小児用に、最大約30mLの容量が選択されてもよい。プレティーンおよびティーンには、最大約50mLの容量が選択されてもよい。さらに他の実施形態では、患者は、選択された約5mL~約15mL、または約7.5mL~約10mLの容量で髄腔内投与を受けることができる。他の好適な容量および投薬量が決定されてもよい。任意の副作用に対する治療的利益のバランスをとるために、投薬量を調
整してもよく、そのような投薬量は、組換えベクターが利用されるための治療用途に応じて変化し得る。
【0200】
髄腔内送達のための一実施形態では、患者は成人対象であり、用量は、約1×10GC~5×1014GCを含む。別の実施形態では、用量は、約3.8×1012~約1.9×1014GCを含む。さらなる実施形態では、患者は、Hurler症候群を有する少なくとも約3ヶ月齢~最大12ヶ月齢の乳幼児対象であり、用量は、少なくとも4×10GC rAAV.hIDUA/g脳質量~3×1012GC rAAV.hIDUA/g脳質量に相当する量を含む。別の実施例では、患者は、少なくとも約6歳~最大18歳のHurler-Scheie症候群を有する子供であり、用量は、少なくとも4×10GC rAAV.hIDUA/g脳質量~3×1012GC rAAV.hIDUA/g脳質量に相当する量を含む。
【0201】
有効性モニタリング
療法の有効性は、(a)MPSIを有する患者における神経認知低下の予防、および(b)疾患のバイオマーカーにおける減少、例えば、CSF、血清および/または尿、および/または肝臓および脾臓容積におけるGAGレベルおよび/または酵素活性を評価することにより、測定することができる。神経認知は、例えば、Hurler対象のためのBayley’s Infantile Development Scaleにより測定されるような、またはHurler-Scheie対象のためのWechsler Abbreviated Scale of Intelligence(WASI)により測定されるような、知能指数(IQ)を測定することにより決定することができる。例えば、Bayley Scales of Infant Development(BSID-III)を使用して発達指数(DQ)を評価すること、Hopkins Verbal Learning Testを使用して、および/またはTests of Variables of Attention(TOVA)を使用して記憶を評価することなど、神経認知発達および機能の他の適切な測定が利用されてもよい。適応行動スケール、視覚処理力、細かい運動、コミュニケーション、社会性、日常生活力、ならびに感情的および行動学的健康度などの他の神経心理学的機能がモニターされる。容量測定を獲得するための脳の磁気共鳴画像法(MRI)、拡散テンソル撮像法(DTI)、および休息状態データ、エコー写真による正中神経断面領域、脊髄圧縮における改善、安全性、肝臓の大きさおよび脾臓の大きさも実施される。
【0202】
任意選択的に、有効性の他の測定は、バイオマーカー(例えば、本明細書に記載のポリアミン)および臨床的結果の評価を含み得る。尿は、総GAG含有量、クレアチニンに対するGAGの濃度、およびMPSI特異的pGAGについて評価される。血清および/または血漿は、IDUA活性、抗IDUA抗体、pGAG、およびヘパリン共同因子II-トロンビン複合体の濃度、および炎症マーカーについて評価される。CSFは、IDUA活性、抗IDUA抗体、ヘキソサミニダーゼ(hex)活性、ならびにpGAG(例えば、へパラン硫酸およびデルマタン硫酸)について評価される。ベクターに対する中和抗体および抗IDUA抗体に対する結合抗体の存在が、CSFおよび血清中で評価されてもよい。ベクターカプシドまたはhIDUA導入遺伝子産物に対するT細胞応答が、ELISPOTアッセイにより評価されてもよい。CSF、血清、および尿中のIDUA発現の薬物動態学ならびにベクター濃度もモニタリングされてもよい。
【0203】
hIDUAの全身送達を伴うCNSへのrAAV.hIDUAの遺伝子療法送達の組み合わせは、本発明の方法に包含される。全身送達は、ERT(例えば、Aldurazyme(登録商標)を用いて)を用いて、または肝臓に対する向性を有するrAAV.hIDUA(例えば、AAV68カプシドを有するrAAV.hIDUA)を用いるさらなる遺伝子療法を用いて、成し遂げることができる。
【0204】
全身送達に関連する臨床有効性のさらなる測定は、例えば、整形外科的測定、例えば、骨塩密度、骨塩含有量、骨幾何形状および骨強度、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)により測定される骨密度、身長(立位身長/年齢に対する横たわった状態での長さについてのZスコア)、骨代謝のマーカー:血清オステオカルシン(OCN)および骨特異的アルカリホスファターゼ(BSAP)、I型コラーゲンのカルボキシ末端テロペプチド(ICTP)およびI型コラーゲンのカルボキシ末端テロペプチドα1鎖(CTX)の測定、柔軟性および筋力:6分間歩行試験を含む、BiodexおよびPhysical Therapy評価(Biodex III等速強度試験系を使用して、各参加者についての膝および肘の力を評価する)、Active Joint Range of Motion(ROM)、Child Health Assessment Questionnaire/Health Assessment Questionnaire(CHAQ/HAQ)Disability Index Score、個人の心肺運動をモニタリングするためのElectromyographic(EMG)および/またはOxygen Utilization、運動検査中のピーク酸素取り込み(VO2ピーク)、Apnea/Hypopnea Index(AHI)、Forced Vital Capacity(FVC)、Left Ventricular Mass(LVM)を含んでもよい。
【0205】
特定の実施形態では、患者においてMPSIを診断および/または治療する方法、または治療をモニタリングする方法が提供される。本方法は、本明細書で提供されるように、MPSIを有する疑いのあるヒト患者から脳脊髄液または血漿試料を採取することと、試料中のスペルミン濃度レベルを検出することと、1ng/mLを超えるスペルミン濃度を有する患者においてMPSIから選択されるムコ多糖症を有する患者を診断することと、有効量のヒトアルファ-L-イズロニダーゼ(hIDUA)を、例えば、本明細書に記載のデバイスを使用して、本明細書に提供されるように、診断された患者に送達すること、を伴う。
【0206】
別の態様では、本方法は、MPSI療法をモニタリングし、調整することを伴う。このような方法は、MPSIのための療法を受けているヒト患者から脳脊髄液または血漿試料を採取することと、質量分析を実施することにより試料中のスペルミン濃度レベルを検出することと、MPSI治療剤の投与レベルを調整することと、を伴う。例えば、「正常な」ヒトスペルミン濃度は、脳脊髄液中、約1ng/mL以下である。しかし、未治療のMPSIを有する患者は、2ng/mL~最大約100ng/mLのスペルミン濃度レベルを有し得る。患者が、正常なレベルに近づくレベルを有する場合、任意の併用ERTの投与量を低減させ得る。逆に、患者が、所望のスペルミンレベルより高いレベルを有する場合、より高い用量、またはさらなる療法(例えば、ERT)を患者に提供し得る。
【0207】
スペルミン濃度は、適切なアッセイを用いて測定することができる。例えば、J Sanchez-Lopez,et al,“Underivatives polyamine analysis is plant samples by ion pair
liquid chromatography coupled with electrospray tandem mass spectrometry,”Plant
Physiology and Biochemistry,47(2009):592-598,avail online 28 Feb 2009、MR Hakkinen et al,“Analysis of underivatized polyamines by reversed phase liquid chromatography with electrospray tandem mass spectrometry”,J Pharm Biomec Analysis,44(2007):625-634に記載されるアッセイ、定量的同位体希釈液体クロマトグラフィ
ー(LC)/質量分析(MS)アッセイ。他の適切なアッセイが用いられてもよい。
【0208】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、初期神経認知欠損を有するMPSIを有する小児対象において投与後52週目で神経認知を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPSI患者における神経認知に対するCSFグリコサミノグリカン(GAG)の関係を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、磁気共鳴画像法(MRI)、例えば、灰白質および白質ならびにCSF心室の容量分析により測定されるような、MPSI患者におけるCNSに対する身体変化に対する治療剤の効果を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPSI患者の脳脊髄液(CSF)、血清、および尿中のバイオマーカー(例えば、GAG、HS)に対する治療剤の薬力学的効果を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPSI患者の生活の質(QOL)に対する治療剤の影響を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPSI患者の運動機能に対する治療剤の影響を評価することにより、測定される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤の有効性は、MPSI患者の成長および発達マイルストーンに対する治療剤の効果を評価することにより、測定される。
【0209】
本明細書に記載のrAAVベクターから発現されるとき、CSF、血清、または他の組織中で検出される少なくとも約2%の発現レベルは、治療効果を提供し得る。しかし、より高い発現レベルが成し遂げられ得る。そのような発現レベルは、正常な機能的ヒトIDUAレベルの2%~約100%であり得る。特定の実施形態では、正常な発現レベルより高いレベルが、CSF、血清、または他の組織中で検出され得る。
【0210】
特定の実施形態では、本明細書に記載のMPSIおよび/またはそれらの症状を治療、予防、および/または緩和する方法は、Hurler対象のためのBayley’s Infantile Development Scaleにより評価される場合、治療された患者において知能指数(IQ)の有意な増加をもたらす。特定の実施形態では、本明細書に記載のMPSIおよび/またはそれらの症状を治療、予防、および/または緩和する方法は、Hurler-Scheie対象のためのWechsler Abbreviated Scale of Intelligence(WASI)により測定される場合、治療された患者において神経認識IQの有意な増加をもたらす。特定の実施形態では、本明細書に記載のMPSIおよび/またはそれらの症状を治療、予防、および/または緩和する方法は、Bayley Scales of Infant Developmentを使用して評価される場合、治療された患者において神経認識DQの有意な増加をもたらす。
【0211】
特定の実施形態では、本明細書に記載のMPSIおよび/またはそれらの症状を治療、予防、および/または緩和する方法は、機能的ヒトIDUAレベルの有意な増加をもたらす。特定の実施形態では、本明細書に記載のMPSIおよび/またはそれらの症状を治療、予防、および/または緩和する方法は、患者の血清、尿および/または脳脊髄液(CSF)の試料において測定される場合、GAGレベルの有意な減少をもたらす。
【0212】
組み合わせ療法
hIDUAの全身送達を伴うCNSへのrAAV.hIDUAの遺伝子療法送達の組み合わせは、本発明の方法に包含される。全身送達は、ERTを用いて(例えば、Aldurazyme(登録商標)を用いて)、またはrAAV.hIDUAを用いるさらなる遺伝子療法を用いて、成し遂げることができる。
【0213】
特定の実施形態では、rAAV.hIDUAの髄腔内投与は、例えば、肝臓へ指向された第2のAAV.hIDUA注射と共投与される。そのような場合では、ベクターは、同じであり得る。例えば、ベクターは、同じカプシドおよび/または同じベクターゲノム配列を有し得る。代替的に、ベクターは異なっていてもよい。例えば、ベクターストックの各々は、異なる調節配列(例えば、各々、異なる組織特異的プロモーターを有する)、例えば、肝臓特異的プロモーター、およびCNS特異的プロモーターを有するように設計されることができる。追加的に、または代替的に、ベクターストックの各々は、異なるカプシドを有してもよい。例えば、肝臓に指向されたベクターストックは、とりわけ、AAV8、AAVhu68、AAV9、AAVrh91、AAVrh64R1、AAVrh64R2、AAVrh8、AAVrh10、AAV3B、またはAAVdjから選択されるカプシドを有してもよい。そのようなレジメンでは、各ベクターストックの用量は、髄腔内に送達されるベクター全量が、約1×10GC~×1×1014GCの範囲内であるように、調整されてもよく、他の実施形態では、両方の経路により送達される合わせたベクターは、1×1011~1×1016の範囲である。代替的に、各ベクターは、約10GC~約1012GC/ベクターの量で送達されてもよい。そのような用量は、実質的に同時に、または異なる時点で、例えば、約1日~約12週間の間隔をあけて、または約3日~約30日の間隔をあけて、または他の適切な時点で、投与されてもよい。
【0214】
いくつかの実施形態では、患者は、肝臓指向性および髄腔内注射を介してrAAV.hIDUAを共投与される。いくつかの実施形態では、治療のための方法は、(a)MPSIおよび/またはHurler、Hurler-ScheieおよびScheie症候群と関連する症状を有する患者に、導入遺伝子特異的耐容性を誘導するために十分な量のhIDUA酵素または肝臓指向性rAAV-hIDUAを投与することと、(b)rAAV.hIDUAを患者のCNSへ投与することと、を含み、rAAV-hIDUAは、患者において治療レベルのhIDUAの発現を導く。
【0215】
さらなる実施形態では、MPSIおよび/またはHurler、Hurler-ScheieおよびScheie症候群と関連する症状を有する患者を、導入遺伝子特異的耐容性を誘導するために十分な量のhIDUA酵素または肝臓指向性rAAV-hIDUAを用いて耐容性化し、その後、患者にhIDUAのCNS媒介性のrAAV媒介性送達を行うことを伴う、MPSIおよび/またはHurler、Hurler-ScheieおよびScheie症候群と関連する症状を有するヒト患者を治療する方法が提供される。特定の実施形態では、患者は、例えば、患者が4週齢未満(新生児期)または乳幼児である場合、hIDUAに対して患者を耐容性化するために、肝臓指向性注射によってrAAV.hIDUAを投与され、患者が乳幼児、子供、および/または成人である場合、CNSにおいてhIDUAの治療濃度を発現させるために、患者は引き続き、髄腔内注射によりrAAV.hIDUAを投与される。
【0216】
一実施例では、MPSI患者は、生後約2週間以内、例えば、約0~約14日以内、または約1日~12日以内、または約3日目~約10日目、または約5日目~約8日目に、すなわち、患者は、新生児である時期に、患者にhIDUAを送達することにより、耐容性化される。他の実施形態では、より年齢の高い乳幼児が選択されてもよい。耐容性化用量のhIDUAは、rAAVにより送達され得る。しかし、別の実施形態では、用量は、酵素(酵素補充療法)の直接送達により送達される。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において組換えhIDUAおよびタバコ細胞[LH Fu,et al,Plant Science(Impact Factor:3.61).12/2009;177(6):668-675]または植物の種子[X He et al,Plant Biotechnol J.2013 Dec; 11(9):1034-1043]において可溶性rhIDUAを産生する方法は、文献に記載されている。
【0217】
追加的に、組換えhIDUAは、Aldurazyme(登録商標)(ラロニダーゼ)として商業的に生産されており、抗ヒトインスリン受容体モノクローナル抗体とアルファ-L-イズロニダーゼ[AGT-181、ArmaGen,Inc]の融合タンパク質が有用であり得る。現在では好ましいものではないが、酵素は、「裸の」DNA、RNA、または別の適切なベクターにより送達されてもよい。一実施形態では、酵素は、患者の静脈内および/または髄腔内に送達される。別の実施形態では、別の投与経路が使用される(例えば、筋内、皮下など)。一実施形態では、耐容性化のために選択されたMPSI患者は、耐容性化用量を開始する前にいずれの検出可能な量のhIDUAを発現することができない。組換えヒトIDUA酵素が送達される場合、髄腔内rhIDUA注射は、注射当たり約0.58mg/kg体重または約0.25mg~約2mg総rhIDUA(例えば、静脈内または髄腔内)からなり得る。例えば、3ccの酵素(例えば、およそ1.74mgのAldurazyme(登録商標)(ラロニダーゼ))を、9ccの合計注射のために6ccのElliotts B(登録商標)溶液で希釈した。代替的に、より高いまたはより低い用量が選択される。同様に、ベクターから発現される場合、より低い発現タンパク質レベルが送達され得る。一実施形態では、耐容性化のために送達されるhIDUAの量は、治療有効量よりも少ない。しかしながら、他の用量が選択されてもよい。
【0218】
典型的に、耐容性化用量の投与後に、例えば、耐容性化投与後約3日~約6ヶ月以内、より好ましくは、耐容性化投与後の約7日~約1ヶ月以内に、治療用量が、対象に送達される。しかし、これらの範囲内の他の時点が選択されてもよく、より長いまたはより短い待機期間であってもよい。
【0219】
代替として、免疫抑制療法は、ベクター投与の前、その間、および/またはその後に、ベクターに加えて実施され得る。免疫抑制療法は、上記したように、プレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、およびタクロリムス、またはシロリムスを含むことができる。下記のタクロリムスを含まないレジメンが好ましいことがある。
【0220】
キット
特定の実施形態では、キットが提供され、製剤(任意選択的に、凍結される)中に懸濁された濃縮された発現カセット(例えば、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターで)を含み、任意選択的な希釈緩衝液、ならびに髄腔内、脳室内、または大槽内投与に必要とされるデバイスおよび構成要素が提供される。別の実施形態では、キットは、追加的にまたは代替的に、静脈内送達のための構成要素を含み得る。一実施形態では、キットは、注射を可能にするために、十分な緩衝液を提供する。そのような緩衝液は、濃縮されたベクターの約1:1~1:5希釈、またはそれ超の希釈を可能にし得る。他の実施形態では、より多量もしくはより少量の緩衝液または滅菌水が含まれ、治療を行う医師により、用量滴定および他の調整が可能になる。さらに他の実施形態では、キットには、デバイスの1つ以上の構成要素が含まれる。好適な希釈緩衝液、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはグリセロール/PBSが利用可能である。
【0221】
本明細書に記載のキットにおける組成物が、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態、および方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【0222】
デバイス
一態様では、本明細書に提供される組成物は、例えば、WO2017/136500(その全体が参照により本明細書に援用される)に記載されている方法および/またはデバイスを介して髄腔内投与され得る。まとめると、本方法は、脊椎針を患者の大槽内に前進するステップと、1本の可撓性チューブを脊椎針の近位ハブに連結し、バルブの出口ポートを可撓性チューブの近位端に連結するステップと、当該前進ステップおよび連結ステッ
プ後、チューブを患者の脳脊髄液で自吸させた後で、一定量の等張溶液を含む第1の容器をバルブのフラッシュ入口ポートに連結するステップと、その後、一定量の薬学的組成物を含む第2の容器をバルブのベクター入口ポートに連結するステップと、を含む。第1および第2容器をバルブに連結した後、流体流れのための通路は、ベクター入口ポートとバルブの出口ポートとの間に開かれ、薬学的組成物は脊椎針を通して患者に注入され、薬学的組成物の注入後、流体流れのための通路は、フラッシュ入口ポートとバルブの出口ポートを通って開かれ、等張溶液は、薬学的組成物を患者にフラッシュするために脊椎針中に注入される。この方法およびこのデバイスは、各々任意選択的に、本明細書で提供される組成物の髄腔内送達のために使用され得る。代替的に、他の方法およびデバイスが、かかる髄腔内送達のために使用され得る。
【0223】
本明細書に記載のデバイスにおける組成物が、本明細書にわたって記載される他の組成物、レジメン、態様、実施形態、および方法に適用されるように意図されることを理解されたい。
【実施例
【0224】
ここで、以下の実施例を参照しながら、本発明を説明する。これらの実施例は例示のみを目的として提供され、本発明がこれらの実施例に限定されるものとして決して解釈されるべきではなく、本明細書に提供される教示の結果として明らかになるありとあらゆる変形例を包含すると解釈されるべきである。
【0225】
実施例1:材料および方法:
動物
動物手順はすべて、ペンシルベニア大学の施設内動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。アカゲザル(Rhesus macaques/Macaca Mulatta)は、Covance Research Products,IncおよびPrimgen/Prelabs Primatesから調達した。動物は、Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)のInternational-accredited Nonhuman Primate Research
Program facility at the University of Pennsylvaniaのステンレス鋼製スクイーズバックケージ内に収容された。動物は、給餌、視覚および聴覚刺激、操作、および社会的相互作用などの様々な豊かさ(enrichments)を享受した。C56BL/6Jマウス(ストック#000664)は、Jackson Laboratoryから購入した。動物を、豊かさを伴う1ケージあたり2~5匹の標準的なケージで、ペンシルベニア大学の遺伝子療法プログラムでAAALAC国際認定のマウス用バリアビバリウムに収容した(Nestlets巣材)。バリア施設のケージ、給水瓶、および床敷は、オートクレーブ処理し、ケージは、週に1回交換された。自動制御の12時間の明暗サイクルが維持された。各暗期は、19:00時(±30分)に開始した。放射線照射された実験用げっ歯類の餌は、自由摂食で提供された。
【0226】
可能な介入を必要とする任意の状態について、動物飼育および/または獣医スタッフによって動物を毎日視覚的にモニタリングした。これには、毒性、苦痛、および/または行動の変化の徴候について、動物の一般的な外観をモニタリングすることが含まれていた。選択された試験時点で、動物は、限定されないが、バイタルサインを含む追加のパラメータについてもモニタリングされ、臨床病理学のために採血された。記載の試験に登録したすべての動物は、最大で1ヶ月に1回の神経学的評価を有していた。神経学的検査には、精神状態、姿勢、固有受容、および歩行のケージ側評価、ならびに脳神経、運動強度、お
よび反射の拘束された評価が含まれた。動物は、行動の変化または食欲の著しい変化など、痛みまたは不快感の徴候がないか、飼育スタッフによって毎日観察された。いずれの臨床的異常も試験獣医師および試験責任者に報告したが、いずれも試験物質の投与に関連することが疑われるものではなかった。
【0227】
ベクター
AAV9.PHP.Bトランスプラスミド(pAAV2/PHP.B)を、製造元の指示に従ってpAAV2/9を鋳型として使用して、QuikChange Lightning Site-Directed Mutagenesis Kit(Agilent Technologies、カタログ番号210515)を用いて生成した。以前に記載されているように(37)、AAVベクターを作製し、滴定した。簡潔には、HEK293細胞を三重でトランスフェクトし、培養上清を回収し、濃縮し、イオジキサノール勾配で精製した。精製したベクターを、以前に記載されているように(38)、ウサギベータ-グロビンポリA配列を標的とするプライマーを使用して、ドロップレットデジタルPCRで滴定した。ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ(hIDUA)をコードする操作された配列を、CB7プロモーターの下でクローニングした。マイクロRNA配列は、公開データベースmirbase.org(Hsa-mir-183 MI0000273、Hsa-mir-182 MI0000272、Hsa-mir-96 MI0000098、Hsa-mir-145 MI0000461)で得られた。DRG濃縮miRの標的の4つのタンデムリピートを、緑色蛍光タンパク質(GFP)またはhIDUAシスプラスミドの3’非翻訳領域(UTR)にクローニングした。
【0228】
インビボ試験および組織学
マウス
マウスは、DRG-miR標的の有無にかかわらず、0.1mLのPBS(ビヒクル)中、1×1012ゲノムコピー(GC、5×1013GC/kg)のAAV-PHP.B、または4×1012GC(2×1014GC/kg)の強化GFPをコードするAAV9ベクターを、外側尾静脈を介して受け、注射の21日後、COの吸入によって安楽死させた。脳を始めとする組織を速やかに回収し、10%の中性緩衝ホルマリンに約24時間浸漬固定し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で短時間洗浄し、PBS中の15%および30%のスクロースを、4℃で順次平衡化した。次いで、組織を、最適な切断温度の包埋培地中で凍結し、直接GFP可視化用に凍結切片を作製した(脳は、30μmで切片化し、他の組織は、8μm厚で切片化した)。画像は、Nikon Eclipse Ti-E蛍光顕微鏡を用いて取得した。DRGにおけるGFP発現を、免疫組織化学(IHC)によって分析した。DRGを含む脊柱をホルマリン中で24時間固定し、軟質になるまで10%のエチレンジアミン四酢酸(pH7.5)中で脱灰し、標準プロトコルに従ってパラフィン包埋した。切片を、エタノールおよびキシレンシリーズを通して脱パラフィン化し、10mMのクエン酸緩衝液(pH6.0)中で6分間沸騰し、抗原賦活化を行い、2%のH(15分間)、アビジン/ビオチンブロッキング試薬(各15分間、Vector Laboratories)、およびブロッキング緩衝液(PBS中に1%のロバ血清+0.2%のTriton、10分間)で順次ブロッキングした後、ブロッキング緩衝液に希釈された一次抗体(37℃で1時間)およびビオチン化二次抗体(1:500希釈、45分間;Jackson ImmunoResearch)でインキュベーションした。GFPに対するウサギ抗体を一次抗体として使用した(NB600-308、Novus Biologicals、1:500希釈)。DABを基質として用いるVectastain Elite ABCキット(Vector Laboratories)は、結合した抗体を、褐色沈殿物として可視化することを可能にした。
【0229】
非ヒト霊長類(NHP)
NHPは、3.5×1013GCのAAVhu68.GFPベクター、または1×10
13GCのAAVhu68.hIDUAベクターを、大槽内に注射された1mLの滅菌人工CSF(ビヒクル)の総体積で、以前に記載されているように(40)、透視ガイダンス下で受けた。安全性の読み取りのために、定期的な採血および脳脊髄液(CSF)タップを行った。血清化学、血液学、凝固、およびCSFの分析は、契約施設のAntech
Diagnosticsによって行われた。動物を、静脈内ペントバルビタール過剰投与で安楽死させ、剖検した。次いで、網羅的な組織病理学的検査用に、組織を採取した。回収した組織を直ちにホルマリンに固定し、パラフィン包埋した。組織病理学的検査の場合、組織切片を、標準プロトコルに従って、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。GFP発現のためのIHCは、マウスの研究で記載されているように行ったが、GFPに対して異なる抗体を使用した(ヤギ抗体、NB100-1770、Novus Biologicals、1:500希釈、4℃で一晩のインキュベーション)。hIDUAに対する免疫染色は、IHCに関する上記のプロトコルに従って、hIDUAに対するヒツジ抗体(AF4119,R&D Systems、1:200希釈)を使用して行った。加えて、切片を、同じ一次抗体を使用して、免疫蛍光(IF)によってhIDUAに対して染色した。IFの場合、切片を、上に記載のように脱パラフィン化し、抗原賦活化用に処理し、次いで、PBS中1%のロバ血清+0.2%のTritonで25分間ブロッキングした後、ブロッキング緩衝液に希釈された一次抗体(室温で2時間、1:50希釈)およびFITC標識二次抗体(45分間、Jackson ImmunoResearch、1:100希釈)を用いて、順次インキュベーションした。DAPIを核の対比染色に用い、切片を、Fluoromount G中でマウントした。
【0230】
インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)は、内因性サルIDUAのRNAに結合しないベクターゲノムから転写されたRNAに特異的なプローブを使用して行った。Life TechnologiesによってZ字型プローブ対を合成し、製造元のプロトコルに従って、Life Technologies ViewRNA ISH Tissue Assayキットを使用して、パラフィン切片上でISHを行った。陽性シグナルを示すFast Red沈殿物の析出を、ローダミンフィルターセットを使用した蛍光顕微鏡によって画像化した。IDUAのIHCを用いた組織切片を、Aperio Versaスライドスキャナー(Leica Biosystems)を使用して定量化の目的でスキャンした。
【0231】
組織病理学および形態測定
病理学的スコアリング
ベクター群に対して盲検化された委員会認定の獣医病理学者が、重症度グレードを確立し、以下の定義がなされた:0.病変の不在、1.最小(10%未満)、2.軽度(10~25%)、3.中等度(25~50%)、4.顕著(50~95%)、および5.重度(95%超)。背側軸索障害スコアは、各動物において、少なくとも3つの頸部切片、3つの胸部切片、および3つの腰部切片から確立された。DRG重症度グレードは、少なくとも3つの頸部切片、3つの胸部切片、および3つの腰部切片から確立された。正中神経スコアは、軸索障害および線維症の重症度グレードの合計であり、最大可能スコアが10で、左および右の神経の遠位部および近位部で確立された。導入遺伝子発現の定量化のために、委員会認定の獣医病理学者は、未治療の動物から得られた対照スライドからのシグナルと比較することによって、抗GFP抗体または抗hIDUA抗体で免疫染色された細胞をカウントした。20倍の倍率視野当たりの陽性細胞の総数を、ImageJまたはAperio Image Scope細胞計数ツールを使用して、構造当たりおよび動物当たりで、少なくとも5つの視野上で、手動でカウントした。
【0232】
ISH定量化
所与の切片内で核シグナル(ベクターゲノムを含有する)を示したDRGニューロンの細胞質ISHシグナルを定量化した。染色したスライドをスキャンし、分析されるDRG
の全領域をカバーするように、スクリーンショットを撮影した。FijiバージョンのImageJを使用して、ISHチャンネルのみを示す画像を同一の設定で閾値化し、(Window Synchronizationツールを使用して)ISHおよびDAPIチャンネルを示す対応する画像と同期させた。次いで、閾値化された画像に示される細胞質領域におけるISHシグナルによって占有される領域のパーセンテージを、「測定」ツールで決定した。
【0233】
ベクター生体分布
QIAamp DNA Miniキット(Qiagen カタログ番号51306)でNHP組織DNAを抽出し、ベクターゲノムを、Taqman試薬(Applied Biosystems、Life Technologies)およびベクターのrBGポリアデニル化配列を標的とするプライマー/プローブを使用して、qRT-PCRによって定量化した。
【0234】
免疫学
hIDUAに対する末梢血T細胞応答を、hIDUA導入遺伝子に特異的なペプチドライブラリを使用して、以前に公開された方法に従ってインターフェロンガンマ酵素結合免疫吸着スポットアッセイによって測定した。陽性応答の基準は、10リンパ球あたり>55スポット形成単位、かつ未刺激時の培地陰性対照の3倍であった。加えて、T細胞応答を、試験90日目に、剖検後、脾臓、肝臓、および深部頸部リンパ節から抽出したリンパ球においてアッセイした。hIDUAに対する抗体を血清中で測定した(1:1,000試料希釈)。
【0235】
サイトカイン/ケモカイン分析:CSF試料を回収し、分析時まで-80℃で貯蔵した。CSF試料を、以下の分析物を含むMilliplex MAPキットを使用して分析した:sCD137、エオタキシン、sFasL、FGF-2、フラクタルカイン、グランザイムA、グランザイムB、IL-1α、IL-2、IL-4、IL-6、IL-16、IL-17A、IL-17E/IL-25、IL-21、IL-22、IL-23、IL-28A、IL-31、IL-33、IP-10、MIP-3α、パーフォリン、TNFβ。CSF試料は、二重で評価し、Luminex xPONENT 4.2、Bio-Plex Managerソフトウェア6.1を使用して、FLEXMAP 3D機器で分析した。分析には、20%未満の%CVを有する試料のみが含まれた。
【0236】
インビトロ研究
miR183発現
MIR183ヒトマイクロRNA発現プラスミドは、OrigeneのMI0000273ベクターから、GFPと部分的な内部リボソーム進入部位をコードするKpnI-PstI断片を欠失させることによって修飾された。我々は、一過性トランスフェクションおよび抗GFP免疫ブロットによって、修飾ベクターからのGFP発現が欠如していることを確認した。GFP発現カセットの3’-UTRに位置するマイクロRNA結合部位を有するGFPシスプラスミドを用いて、HEK293細胞でポリエチレンイミン媒介性の一過性トランスフェクションを行った。トランスフェクションの72時間後、細胞を、プロテアーゼ阻害剤を含む50mMのTris-HCl(pH8.0)、150mMのNaCl、および0.5%のTritonX-100中で溶解した。合計13μgの細胞溶解物を、抗GFP免疫ブロット、続いて電気化学発光に基づくシグナル検出および定量化に使用した。実験は、統計分析のために3個の複製物で実施された。
【0237】
miR183定量化(RT-PCR)
ヒトDRGおよび脊髄組織は、Anabios,Inc.から供給された。腰部DRGおよび脊髄は、もともと、25歳の白人男性(神経障害性疼痛の病歴を有しない同意した
臓器ドナー)から得られ、すぐにRNALater(Ambion)に保存された。3匹の動物由来のNHPアカゲザル組織を以前の研究から入手し、-80℃の冷凍庫に保管した。MiRNeasy Mini Kitを全RNA単離(Qiagen)に使用し、抽出されたRNAを、プロトコル指示書に従って、TaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)で逆転写した。製造元の指示書に従って、hsa-miR-183-5p(Assay ID 002269)およびRNU6B(Assay ID 00193)(Applied Biosystems Inc.)に特異的なプライマーを有するTaqMan MicroRNA Assayキットを使用して、異なる組織中のmiR183の存在量を決定するためにqRT-PCRを実施した。各qRT-PCRアッセイは、100ngの総RNAに由来するcDNAを用いて3個の複製物で実施され、比較閾値サイクル(Ct)法により分析した。2-ΔΔCt法を用いて、平均発現miR183を、内因性対照遺伝子としてのRNU6Bで正規化した。
【0238】
統計分析
対照群(miR標的ベクターなし)と試験群(miR標的ベクター)との間の統計的差は、ノンパラメトリック両側ウィルコクソンの順位和検定、0.05のアルファレベル(Rバージョン4.0.0)を使用して評価したが、ただし、各サイトカインについてノンパラメトリッククラスカル-ウォリス検定を使用して実施したサイトカイン分析と、群間の差について試験するための時点(アルファ=0.05、Rバージョン4.0.0)を除く。マウスにおけるGFP発現について、群間の統計的差は、パラメトリック一元配置分散分析、続いて、テューキーの多重比較検定、0.05のアルファレベルを用いて評価した。データセットは、シャピロ-ウィルク正規性検定(GraphPad Prismバージョン7.05)に合格した。
【0239】
実施例2:導入遺伝子発現のマイクロRNA媒介性阻害は、AAVベクターによる背側根神経節毒性を低減する
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを血液または脳脊髄液を介して非ヒト霊長類(NHP)の中枢神経系(CNS)に送達することは、後根神経節(DRG)の毒性と関連する。従来の免疫抑制レジメンは、おそらく、毒性が高い形質導入速度によって引き起こされる可能性があるため、この毒性を防ぐことはできず、これは、次いで、標的細胞における導入遺伝子産物の過剰な存在量に起因する細胞ストレスを引き起こす可能性がある。本願発明者らは、対応する導入遺伝子mRNAの3’非翻訳領域内のベクターゲノムにmiR183の配列標的を導入することによって、DRG毒性を排除するためのアプローチを開発した。
【0240】
AAVベクターは、NHPでDRG変性を引き起こす
NHPでのDRG毒性における経験に基づいて、毒性の重症度を定量化するシステムを開発した。本願発明者らは、DRGの脊髄に沿って位置する細胞体、末梢神経内の軸索、および背側白質路を上行する軸索を評価する(図1A)。原発性病変は、DRGに位置する感覚ニューロン細胞体の変性であると考えられる。顕微鏡での評価は、DRG病変の範囲を強調する。初期の神経変性は、増殖する衛星細胞、およびミクログリア細胞、および浸潤された単核細胞によって囲まれた、それ以外は正常な神経細胞体からなる(図2A)。それより後期の神経変性および神経貪食の段階は、びまん性細胞質高酸素血症および核の消失を伴う小さな、不規則な、または鋭角を有する神経細胞体を含む(図1B図2Cおよび図2E)。導入遺伝子タンパク質を高度に発現する細胞は、緑色蛍光タンパク質(GFP、図1B)を発現するAAVベクターのICM投与を受けた動物における導入遺伝子産物を免疫染色によって実証されるように、変性を受ける可能性が高い。細胞体の死の二次的なものとして、軸索障害(遠位軸索および近位軸索の変性)がある。脊髄の背側白質路は、腫脹した軸索と共に、軸索変性と一致するミエロマクロファージおよび軸索破片
を伴うか、または伴わない、拡張された髄鞘を示す(図1B図2B図2D、および図2F)。図1Cは、様々なDRG毒性および脊髄軸索障害の重症度の例を示す。グレードは、高倍率視野組織病理検査における罹患組織の割合に基づく。1 最小(10%未満)、2 軽度(10~25%)、3 中等度(25~50%)、4 顕著(50~95%)、および5 重度(95%を超える)。
【0241】
青年/成人のNHPの総実績は、ICMまたは腰部穿刺(LP)経路を介してCSFにAAVベクターを投与し、合計で、これまでに発表された毒性学的研究および以下に記載される2つのNHP実験、ならびにいくつかの未発表の研究を含む27の研究にわたる219匹のサルであった。この実績には、5つのカプシド、20個の導入遺伝子、5つのプロモーター(CAG、CB7、UBC、hSyn、およびMeP426)、1×1012GC~3×1014GCの用量、勾配またはカラムによって精製されたベクター、3つの製剤(リン酸緩衝食塩水および2つの異なる人工CSF)、ならびに様々な発達段階のカニクイザルおよびマカクザルが含まれる。すべての実験群において、DRG毒性および軸索障害が観察された。病的状態は、注射後約1ヶ月でピークに達し、最長6ヶ月間(成熟マカクで評価された最長期間である)進行しない。ほとんどの場合、病的状態は軽度から中等度であり、NHPは、神経障害性疼痛を示唆する臨床的徴候を提示しない。しかしながら、GFPを発現するベクターを高用量でICM注入すると、失調症に関連する重篤な病的状態を引き起こし得る。
【0242】
DRGニューロンで特異的に発現されたmiRNAは、AAV導入遺伝子の発現を除去することができる。
DRG毒性を軽減する方法を検討する際、いくつかのメカニズムを評価した。以前の研究では、ヒトアルファ-L-イズロニダーゼ(hIDUA)またはヒトイズロン酸-2-スルファターゼを発現するAAV9ベクターをICM投与されたNHPを免疫抑制することによって、形質導入されたDRGに対する破壊的な適応免疫応答の役割を分析した。ミコフェノール酸モフェチル(MMF)およびラパマイシンによる治療は、ベクターおよび導入遺伝子産物に対する適応免疫応答を鈍化させたが、DRG毒性または軸索障害には影響がなかった。
【0243】
本願発明者らの操作モデルは、高度に形質導入されたDRGにおける導入遺伝子産物の過剰発現が、神経傷害および細胞体および関連する軸索の変性、続いて反応性炎症反応につながることを主張する(図3A)。この仮説を調べるために、導入遺伝子発現を特異的に除去するための戦略を設計した。造血由来細胞におけるレンチウイルスベクター発現を制限するため、またはAAV媒介性遺伝子移入後に肝臓、心臓、または筋肉を非標的化するために以前に展開されたアプローチを使用した。このアプローチは、DRGニューロンでのみ発現されるmiRNA標的を、導入遺伝子の3’非翻訳領域にクローニングすることを伴っていた(図3B)。ベクターから発現される任意のmRNAは、内因的に発現されるmiRNAによって破壊されるであろう。
【0244】
既存のmiRNAデータベースのスクリーニングおよび文献から、miRNA183クラスターは、この戦略(miR183のためのmiRBaseトラッカー:MI0000273)の良好な候補であることがわかった。このクラスターは、3つのmiRNA(96、182、および183)を含有し、これらはすべて多シストロン性pri-miRNAから発現される。通常の条件下では、この複合体の発現は、大部分が、ゼブラフィッシュ、マウス、ラット、およびヒト組織で実証されるように、嗅上皮、耳、網膜、およびDRGのニューロンに制限される。本願発明者らは、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によって、3つのNHPおよび1つのヒトドナーからのこの感覚ニューロン特異的発現パターンを検証した。本願発明者らは、miR183が、脊髄に比べてNHPおよびヒトDRGにおいて少なくとも10倍多く存在すること、ならびにNHPでは、最も低
い存在量は大脳皮質であり(DRGよりも1000分の1低い)、次に心臓、脾臓、骨格筋、小脳、肝臓、および髄質であることを示した(図4Aおよび図4B)。感覚ニューロンの外側では、クラスターは、がんおよび自己免疫疾患を含むいくつかの病理学的状態で上方制御され得る。本願発明者らの初期スクリーニングには、ラットDRGで発現された、あまり十分には特徴付けられていないmiRNA145が含まれていた。これらの複合体のすべての中のmiRNAの標的配列は、マウス、サル、およびヒトの間で保存される(miR183については、以下MI0000273、MI0003084、MI0000225、miR182についてはMI0000272、MI0000224、MI0002815、miR96についてはMI0000098、MI0000583、MI0003085、およびmiR145についてはMI0000461、MI0000169、MI0002558のmiRBaseトラッカーを参照されたい)。
【0245】
miRNA戦略の活性および特異性を評価するために、インビトロアッセイを使用した。発現カセットの3’非翻訳領域に標的miRNA配列の4つのリピートコンカテマーを含むようにAAVシスプラスミドを構築した。AAVシスプラスミドを、miR183を発現するプラスミドと共に共トランスフェクションした。導入遺伝子であるGFPの発現は、それが同種の認識配列を含む場合にのみ、miR183の存在下で低減された(図5A、p=0.0027)。
【0246】
AAVベクター内の潜在的なmiRNA標的のインビボ活性および特異性を、C57Bl/6Jマウスにおいてスクリーニングした。本発明者らは、miRNA183複合体(miR182およびmiR183)ならびにmiR145のうちの2つのメンバー由来のmiRNA標的の有無で、GFP発現ベクターを評価した。最初に、183複合体の別のメンバーであるmiR96を試験したが、miR183(p=0.03)およびmiR145(p=0.03)と比較して、マウス皮質におけるGFP-miR96導入遺伝子の発現が低下したため、これを排除した(図6Aおよび図6C)。動物は、標的DRGへのAAV9の高用量静脈内(IV)注射、およびCNSを標的とする高用量のAAV-PHP.B注射を受けた。動物を21日目に剖検し、免疫組織化学(IHC)、ならびに脳および肝臓(AAV-PHP.B)、または肝臓、心臓および筋肉(AAV9)における直接蛍光顕微鏡法によって、DRGにおけるGFPの発現について分析した。DRGニューロンにおけるGFPの発現は、miR183標的(p=0.00007)およびmiR182標的(p=0.00003)を含有するが、miR145標的ではないベクターで実質的に低減された(図5Bおよび図5C)。MiR183標的を含有するベクターによる肝臓、心臓、筋肉、または脳皮質における発現の低減はなく、脳皮質(p=0.03)、および心臓(p=0.04)において対照GFPベクターと比較したとき、発現は増強された(図5D図6A図6C)。このマウス実験では、ベクター誘発性のDRG毒性がNHPでのみ観察されたため、病的状態に対するmiR183標的媒介性導入遺伝子の抑制の影響を評価することができなかった。この種の違いの理由は不明である。
【0247】
ITR.CB7.CI.eGFP.miR145(4つのコピー).rBG.ITRのベクターゲノムを配列番号10に提供し、ITR.CB7.CI.GFP.miR182(4つのコピー).rBG.ITRのベクターゲノムを配列番号11に提供し、ITR.CB7.CI.GFP.miRNA96(4つのコピー).rBG.ITRのベクターゲノムを配列番号12に提供し、ITR.CB7.CI.GFP.miR183(4つのコピー).rBG.ITRのベクターゲノムを配列番号13に提供する。
【0248】
miR183による限定された導入遺伝子の発現は、NHPにおけるDRG毒性を低減する。
プロモーターの有望なデータに基づいて、NHPにおいて、GFP miR183標的発現カセットを評価した。アカゲザルにおけるCB7プロモーターからのGFPを発現す
るAAVhu68ベクター(n=2、1匹の雄、1匹の雌、それぞれ5歳および8歳)またはGFPmiR183(n=4匹雌、5~6歳の年齢範囲)をICM注射した(3.5×1013GC)。GFP発現のために、半数の動物を14日目に剖検した。残りの動物を60日目に剖検して、発現およびDRG毒性を評価した。動物は、臨床的後遺症を伴わずにICM投与されたベクターに耐容性であり、ベクター投与後にこの研究に登録されたいずれの動物についても、神経障害性疼痛の証拠は存在しなかった。対照ベクター(p=0.0054)と比較して、miR183標的含有ベクターを用いたDRGにおけるGFP発現の統計的に有意な低減を観察したが、一方で、発現は、腰部運動ニューロン(p=0.0273)および小脳(p=0.0044)において増強され、皮質、心臓、および肝臓において不変なままであった(図7Aおよび図7B)。このことは、9つの領域にわたる病的状態の低減と関連していた(頸髄、胸髄、および腰髄におけるDRGならびに背側脊髄軸索障害、ならびに正中神経、腓骨神経および橈骨神経の軸索障害)。ベクターがmiR183標的を含有しなかった場合、すべての領域で病的状態が存在し、グレード4、グレード2、およびグレード1の間で均等に分布した。miR183ベクターを用いた病的状態の最大の程度は、グレード2であり、わずか11%の領域に存在していた。残りの領域は、グレード1の病的状態(72%)または病的状態なし(17%、図7C)のいずれかを含んでいた。
【0249】
ムコ多糖症I型患者において欠損した酵素であるhIDUAを発現するベクターを使用して、NHPにおけるmiR183標的配列をさらに評価した。このヒト導入遺伝子を用いた研究は、NHPにおけるDRG毒性を強調する最初の公開された報告であった。実験には、以下の3つの群が含まれていた。群1-miR183標的(AAVhu68.CB7.CI.hIDUAcoV1.rBG)を含まない対照ベクター単独(n=3、2匹の雌、1匹の雄、年齢2.5歳)、群2-ステロイドで治療した動物におけるmiR183標的を含まない対照ベクター(プレドニゾロン1mg/kg/日を-7日目から30日目まで、その後、漸進的に徐々に減らす、n=3、3匹の雄、年齢2.5~3.5歳)、および群3-miR183標的(AAVhu68.CB7.CI.hIDUAcoV1.4×miR183.rBG)を含むベクター(n=3、2匹の雄、1匹の雌、年齢2.25~2.5歳)。すべてのベクターゲノムには、ニワトリβアクチンプロモーターおよびCMVエンハンサーエレメント(CB7プロモーターと称する)の制御下のhIDUAコード配列、ニワトリβアクチンスプライスドナーからなるキメライトロン(CI)(973bp、GenBank:X00182.1)、およびウサギβ-グロビンスプライスアクセプターエレメント、ならびにウサギβグロビンポリアデニル化シグナル(rBG、127bp、GenBank:V00882.1)。ITR.CB7.CI.hIDUAcoV1.rBG.ITRのベクターゲノムは、配列番号14で提供されている。ITR.CB7.CI.hIDUAcoV1.4xmiRNA183.rBG.ITRのベクターゲノムは、配列番号16で提供されている。すべての動物に、AAVhu68ベクター(1×1013GC)のICM注射を受けさせ、90日目に剖検を行い、導入遺伝子発現およびDRG関連毒性を評価した。
【0250】
すべての群由来の動物が、ベクター関連の臨床所見または臨床病理学的な異常を有さず、ICMベクターに耐容性を示した(表1および表2)。CSF中の髄液細胞増多は非常に低く、第2群で1匹、第3群で1匹に限定された(表3)。T細胞応答(ELISPOTによる測定)およびhIDUAに対する抗体の両方が、3つの群すべてにおいて検出された(図8A図8D)。ベクター投与の24時間後にスパイクしたフラクタルカインおよびMIP-3aのCSF量は、群1からの2匹の動物および群3からの3匹の動物で未検出から100pg/mLを超える値まで上昇し、一方、これらの分析物は、24時間では検出することができなかったが、第2群からのCSFでは21日目および35日目に増加した(予防的ステロイド)。検出することができない量または微量(15pg/mL未満)のサイトカインおよびケモカインを、注射から21日後および35日後(過剰発現誘
発性ストレスが予想される場合)に群3(hIDUA.miR183)の動物のCSFにおいて測定したが、一方、群1からのすべての動物において、いくつかの分析物(フラクタルカイン、MIP-3a、IL16、パーフォリン、およびIL17)は、100pg/mLを超えていた(図9)。
【0251】
免疫蛍光およびインサイツハイブリダイゼーション(ISH)を使用して、対照ベクター(miR183標的を含まない)を使用した群1および群2において、DRGにおいて高発現のhIDUAが観察された(図10および図11A)。他のCNS区画では(脊髄の下位運動ニューロンならびに小脳および皮質のニューロンを含む)、低度から中程度のhIDUA発現が検出された(図10および図11A)。miR183標的をベクターに組み込むと(AAVhu68.hIDUA-miR183/群3)は、免疫蛍光(図10上の行、図11A)および免疫組織化学(図10図11A)によって強調されるように、CNS(脊髄、小脳、および皮質)における発現を低減させることなく、DRGニューロンにおけるhIDUAタンパク質発現が除去された(p=0.000003)。mRNAレベル(図10、下の行)では、形質導入DRGニューロンにおける細胞質ISHシグナルは、AAVu68.hIDUAを投与された動物の面積の42%から、AAVhu68.hIDUA-miR183を投与された動物の7%まで低減し(図11A)、これは83%の低減を表している。CNSおよびDRG全体にわたるベクターの生体分布が、すべての群にわたって本質的に同じであったことから、DRGにおけるhIDUA発現の低減は、遺伝子導入が低減したためではなかった(図12)。ステロイドは、対照ベクターと比較して、DRGにおける発現を中程度に低減させ(p=0.0001)、下位運動ニューロンにおける発現を増加させた(p=0.0024)(図10および図11A)。予想通り、対照ベクター(群1)との投与は、GFP発現ベクターと比較して比較的穏やかなDRG、後側柱、および末梢神経の病的状態を引き起こした。しかしながら、病的状態は、miR183標的含有ベクター(群3、図11B)で形質導入された動物のDRG(p=0.0583)、後側柱(p<0.0001)、および末梢(正中)神経(p=0.0137)において、まったく存在しなかった。ステロイド(群2)との併用治療は、親ベクター(miR183標的を含有しない)の毒性を低下させなかった(図11B)が、代わりに、末梢神経(p=0.0256)および背側柱(p=0.066)において毒性を悪化させる傾向と関連があった。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9-1】
【表9-2】
【表10】
【表11】
【表12】
【0252】
NHPにおけるAAV誘発性DRG毒性は、神経細胞アポトーシスを介して生じる。
DRGにおけるニューロン変性の機序を検討するために、miR183を伴うベクター
および伴わないベクターを注射した動物からいくつかの組織学的切片を選択し、細胞アポトーシスおよび折り畳み不全タンパク質応答(UPR)のマーカーについてIHCを行った。初期の研究は、アポトーシスの下流マーカーであるカスパーゼ-3の活性化に焦点を当てた。ヘモトキシリンおよびエオシン評価に基づいて神経変性を示した動物のDRGは、細胞浸潤と共に活性化カスパーゼ-3について陽性のIHC染色を示した(図13A図13C)。AAV注射されていない動物由来のDRGおよび脾臓由来のDRGは、それぞれ、陰性対照および陽性対照として機能した(図13Eおよび図13F)。DRGにおけるカスパーゼ-3陽性ニューロンは、AAV.hIDUAを注射した3匹の動物(11、0、および1の陽性DRGニューロン)と比較して、AAVhu68.GFPを注射した動物からの切片でより多く存在した(20のカスパーゼ-3陽性DRGニューロン)。各々の場合では、miRNA183標的配列を含むことで、活性化カスパーゼ-3を有する細胞の数が低減した(GFP.miR183を有する3および0の陽性ニューロン、n=2匹の動物、およびhIDUA.miR183を有する場合は0、n=3匹の動物、図13C図13D)。IHCによるカスパーゼ-8の上方制御を評価することによって、外因性経路と称されるものにおいて、適応免疫または先天性免疫によって誘導されるアポトーシスを調査した。カスパーゼ-3陽性ニューロンを有する切片のみが処理された。すべてのベクター群にわたる変性神経細胞体は、活性化カスパーゼ-8に対して陰性であったが、浸潤細胞は、内部陽性対照として機能するカスパーゼ-8に対して強く陽性であった(図15A図15E)。同じ切片を、アポトーシスの内因性経路の共通マーカーである活性化カスパーゼ9についても評価した。このアポトーシスの機序は、ミトコンドリアの膜透過性の増加およびカスパーゼ9の活性化に起因するシトクロムCの放出を介して媒介される。IHCは、AAVhu68.eGFPを受けた動物において、DRGの1つの変性神経細胞体においてカスパーゼ-9を示した(図16A)。しかしながら、AAVhu68.eGFP.miRNAを受け、神経変性を示した動物において、カスパーゼ-9は観察されなかった(図16C)。miR183の有無にかかわらず、AAVhu68.hIDUAベクターを受けた動物からの陽性カスパーゼ9ニューロンは存在しなかったが、このことは、AAVhu68.eGFPと比較して、これらのベクターで観察された病変の発生率の低下の関数であった可能性があり、これにより、組織学的切片上の変性の適切な段階でニューロンを見つける可能性を低下させる(図16Bおよび図16D)。
【0253】
導入遺伝子のタンパク質過剰発現に起因する毒性の提唱された機序を裏付けるために、1群当たり1匹の動物において活性化転写因子6(ATF6)についてのIHCを実施した。UPRは、ゴルジ体においてATF6活性化の引き金となり、細胞質断片を生成し、核に移行して、ER関連結合エレメントの転写を活性化する。UPRを介したアポトーシスは、内因性経路を介して生じる。ATF6についてのIHCは、AAVhu68.eGFP(40個を超える陽性細胞)、AAVhu.68.hIDUA(40個を超える陽性細胞)、およびAAVhu68.eGFP.miR183(18個の陽性細胞)を受けた動物のDRGにおけるニューロンおよび神経衛星細胞の細胞質において多焦点陽性であり、このことは、病変の重症度に対応していた(図14A図14C)。対照的に、AAVhu68.hIDUA.miR183、および未処理のAAV注射されていない対照NHPを受けた動物は、ATF6に対して拡散した陰性であった(図14Dおよび図14E)。全体的な研究所見と一致して、miR183を有するベクターを受けた動物は、陽性ATF6シグナルの低減を示し、このことは、細胞ストレスの低減を示している。
【0254】
DRGの毒性は、高全身用量のベクターまたはCSFへのベクターの直接送達に依存する任意の遺伝子療法において生じる可能性が高い。この安全上の懸念は、霊長類に限定され、通常は無症候性である。しかしながら、DRG毒性は、固有受容欠損に起因する運動失調などの実質的な罹患を引き起こす可能性を有する。食品医薬品局は、近年、遅発性SMAの髄腔内AAV9治験を、NHPのDRG毒性に起因して部分的に実施保留し、したがって、この危険性が、AAV療法の開発をどのように制限し得るかを強調している。
【0255】
もともと、この毒性は、外来カプシドまたは導入遺伝子のエピトープを対象として、DRG形質導入ニューロンに対する破壊的なT細胞免疫によって引き起こされると仮定された。しかしながら、MMFおよびラパマイシンなどの強力な免疫抑制レジメンは、毒性学的研究において毒性を防止せず、本研究においてステロイドを防止しなかった。遅発性であるが、進行性ではないDRG変性の時間経過は、適応免疫が役割を果たすという考えを裏付けるものではなかった。細胞傷害性T細胞が関与している場合、本願発明者らは、DRGおよび導入遺伝子を発現する他の細胞型の変性、ならびに早期に開始し、経時的に進行する単核細胞浸潤を観察したであろう。
【0256】
高レベルのDRG形質導入で、細胞ストレスが生み出され、これが高度に形質導入されたDRGニューロンにおける変性をもたらす可能性がある。組織学的分析では、変性が、最も多くの導入遺伝子タンパク質を発現するDRGニューロンに限定されることが示された。ニューロン変性は、カスパーゼ-3およびカスパーゼ-9の活性化にも関連しており、したがって、このことは、アポトーシスが、T細胞によって媒介されるのとは対照的に、細胞内のストレス源によって引き起こされることを示唆している。miRNA183を介した導入遺伝子発現の細胞特異的除去によるDRG変性の低減は、カプシドまたはベクターDNAではなく、導入遺伝子由来のmRNAまたはタンパク質の過剰発現が、このプロセスを駆動することを示唆している。miR標的または未処理の動物を用いた対照と比較して、miR標的を含まないベクターを受けた動物のニューロンおよび衛星細胞におけるATF6染色の増加は、UPRを暗示するが、誘発する機序は、非分泌型(GFP)導入遺伝子と分泌型(IDUA)導入遺伝子とで異なる場合がある。
【0257】
自己限定的ではないが、遅延したDRG神経変性の時間経過は、非免疫毒性が、高度に形質導入されたサブセットの細胞に限定されるという考えと一致する。DRG毒性および軸索障害が可逆的であるかどうかは不明である。成体動物を6ヶ月追跡した後に、病的状態の解消は観察されていない。ICM注射後、NHPでDRG毒性がみられなかった唯一の実験は、ベクターが1ヶ月齢のマカクザルに投与され、4年後に剖検された場合であった。乳児霊長類がDRG毒性に耐性を有するか、またはそのDRGニューロンが再生能を有するか、または病変がこの長期間にわたって退縮する可能性がある。本願発明者らの知見は、DRG毒性が、テイ・サックス病において欠損するリソソーム酵素であるヘキソサミニダーゼを発現するAAVの直接的な脳内投与の後、NHPのCNSにおいて以前に報告されている神経毒性の一種である導入遺伝子の過剰発現によって引き起こされることを裏付けている。したがって、DRG毒性の重症度は、用量、プロモーター強度、および導入遺伝子の性質に影響されるはずである。しかしながら、本願発明者らは、DRG毒性がない状態で、成熟霊長類におけるベクターの有効用量を達成することができるCNS指向性AAVをまだ発見していない。
【0258】
霊長類において、感覚ニューロンが最も効率的に形質導入される細胞の1つである理由は、理解されていない。DRGは、CNSの外側に存在し、多孔質で有窓の毛細血管を有するため、全身投与ベクターによって容易にアクセスされる。全身ベクターは、末梢軸索からの取り込まれた後、逆行性輸送を介してDRGニューロンにアクセスすることもできる。髄腔内(クモ膜下腔内)空間に存在する感覚神経区画の解剖学的構造により、CSFに送達されるベクターの高い形質導入が促進され得る。後根のDRGニューロンの軸索は、CSFに曝され、ICM/LP投与後に、ベクターへの容易なアクセスが提供される。DRGの細胞外液へのクモ膜下腔空間の開放的なアクセスにより、DRGのニューロンおよび他の細胞へのICM/LPベクターの直接的な接触が可能になるはずである。miR183標的配列を含むことによるDRGニューロン内の導入遺伝子発現の選択的抑制は、このmiRNAの影響を受けないはずの他のDRG関連細胞における導入遺伝子発現の分析を促進した。ISHで、周囲のグリア衛星細胞における導入遺伝子のmRNAが明らか
になり、このことは、直接的な形質導入を示唆し得る。グリア細胞における導入遺伝子のmRNAの存在の機能的意義は未知である。
【0259】
ベクター導入遺伝子の発現を選択的に阻害すると、DRG毒性が低減され、潜在的に排除されるはずである。これを達成するための鍵は、他の場所における発現に影響を与えることなく、DRGニューロンにおける発現を特異的に消滅させるための戦略を設計することを伴う。現在、カプシド修飾または組織特異的プロモーターを介して、この特異性を達成することはできない。miR183の標的をベクターに含めることで、ベクターの製造、効力、または生体分布に影響を与えることなく、DRG毒性を低減/排除する所望の結果が達成された。しかしながら、miR183およびRISCは、高いGC数によって飽和する可能性が高いため、用量ウィンドウは、狭くてもよい。本願発明者らの研究におけるISHの定量化は、形質導入されたDRGニューロンのmRNAレベルでの80%の低減が、毒性を抑制するのに十分であることを示唆している。任意の所与の導入遺伝子に対する本願発明者らのアプローチの実行可能性を確立するためには、動物モデルにおける最小有効性用量研究と組み合わせた慎重な用量範囲研究が不可欠である。hIDUAのNHP研究には、併用ステロイドと共に非miR183標的化ベクターを受けた群が含まれていた(AAV試験における免疫媒介性の毒性を緩和するための標準的なアプローチである)。DRG毒性は、ステロイド治療群では低減しなかった。この実験は、AAV遺伝子療法における予防的ステロイドの限界を示している。
【0260】
DRG毒性を減少させるためのこのアプローチのモジュラリティは、CNS指向性遺伝子療法のために考慮される任意のAAVベクターにおいて使用され得ることを示唆する。ベクター内のmiR183標的が、miR183分子をその通常の標的から逸らす可能性があり、細胞の生理学を乱す可能性がある。これに対する証拠は、miR183(DRG)を発現する重度に形質導入された細胞に限定される毒性であろう。本願発明者らは、AAV miR183標的含有ベクターで治療されたNHPにおける毒性を観察していない。miR183、182、および96に関して共通の標的を有するmiR183クラスターの冗長性は、単一のmiRNAノックアウトモデルに対し、完全なクラスターにおいて示唆されるように、この理論的な危険性を低減し得る。さらに、miR183を発現することが知られている他の細胞型(嗅上皮、網膜、内耳、活性化免疫細胞)は、ICMまたは全身AAV送達時に効率的に形質導入されないであろう。DRG毒性に対して規制当局によって挙げられている懸念を考慮すると、miRNA183脱標的化戦略をCNS遺伝子療法プログラムに組み込むことは慎重であると考えられる。この戦略の主な制限は、DRG形質導入が治療効果を達成するために必要である、シャルコー・マリー・トゥースの神経形態のような疾患においてDRG毒性を緩和することである。
【0261】
まとめると、本願発明者らは、NHPにおいてAAV誘発性DRG毒性を軽減するアプローチを開発した。このアプローチは、種々の治療用途において、幅広いAAVベクターにわたって試験することができた。
【0262】
実施例3:HIDUAをコードする操作された配列と、IDUA活性および発現に対するmiR183標的配列の効果との比較。
野生型雄マウスに、最適化されていない天然cDNAと比較して、ヒトIDUAをコードする操作された配列(配列番号22~26)の送達のために、1x1011GCのAAVhu68をIV注射した。hIDUAcoV1(配列番号22)は、血清において最も速く、最も高い酵素レベルを示し、21日目にはレベルが安定しており(図17A)、このことは、有意なレベルの抗薬物抗体がないことを示唆している。hIDUAcoV1は、一部には迅速な発現(血清の日)および脳内での高レベルの活性に起因して、さらなる研究で評価された(図17B)。
【0263】
MPSI(IDUA欠損)マウスに、miR183標的(4×リピート)を含むか、または含まないhIDUACov1をコードする1×1011GCのAAVhu68をICV注射した。マウスを、注射から30日後または90日後に安楽死させた(図18Aおよび図18B)。IDUA活性は、hIDUAcov1またはhIDUAcov1-miR183をコードするAAVhu68によるICV治療の後、野生型を上回っていた(図18C図18C)。4×miR183標的ベクターを用いると、平均レベルが増加し、このことは、miR183標的が構築物中に含まれる場合、有効性がmiR183以上であることを示している。組織を処理して、LAMP1免疫蛍光を治療有効性のマーカーとして使用して、貯蔵低減を評価した。LAMP1蛍光は、ビヒクル対照で治療したKOマウスにおいて増加し、miR183標的の有無にかかわらず、両方の態様のhIDUAをコードするベクターでのAAV治療の後に皮質において低減した(図18Eおよび図18F)。治療有効性は、若いマウスにおいて、それより高齢のマウスと比較して高かった。
【0264】
実施例4:miR183クラスター標的配列を有する発現構築物のインビトロ評価
インビトロアッセイを使用して、miRNA標的配列を有する構築物の活性および特異性を評価する。上の実施例2に記載されるように、HEK293細胞(または別の好適な細胞株)を、GFP導入遺伝子を有するシスプラスミド、ならびにmiR-182およびmiR-183などの1つ以上のmiRNAを発現するプラスミドで共トランスフェクトする。シスプラスミドは、発現カセットの3’UTR中の様々な数の対応する標的miRNA配列で設計され、代替的なスペーサー配列が導入される。トランスフェクションの72時間後、GFPの発現を定量化して、相対的な発現レベルを決定する。
【0265】
例えば、標的miR183配列の1、2、3、または4個、または最大で8個のコピーを保有する構築物を試験する。個々の標的配列は、配列番号5~7に提供されるものなど、直接連結されているか、またはスペーサー配列によって分離されている。インビトロ研究の結果に基づいて、GFPの発現を低減または排除する配列(いくつかのリピートを含む)およびスペーサーの好適な組み合わせが特定される。次いで、この研究からの候補を、標的miRNA配列およびスペーサー配列が同じ配置または類似の配置である発現構築物を有するAAVベクター(例えば、AAV9またはAAV-PHP.B)を送達することによって、インビボでスクリーニングする。例えば、DRGの脱標的化(すなわち、GFP発現の低減)を含む、CNSでの発現レベルを評価するための例示的なインビボマウス研究が、実施例2に提供されている。
【0266】
また、様々なスペーサー配列を含むかまたは含まない、miR182についての標的配列の1、2、3、または4個、または最大で8個のコピーの組み合わせを有する構築物を使用して、同様の研究が行われる。加えて、miR182およびmiR183の認識配列の組み合わせおよび異なる配置を有する構築物が生成される。次いで、インビトロで好ましい低減した発現レベルを示すmiR182標的配列のみ、ならびにmiR182およびmiR183標的配列の組み合わせを有する構築物を、例えば、AAVベクターの投与後にインビボで評価して、CNSおよびDRGの細胞における毒性および導入遺伝子発現のレベル(脱標的化の程度)を決定する。
【0267】
代替的に、miR182標的配列および/または他のmir183クラスター標的配列(すなわち、miR-183、miR-96、またはmiR-182に対応する標的配列)の組み合わせの1、2、3、または4個、または最大で8個のコピーの組み合わせを有する構築物を生成する。上記の実施例2に記載されるようなGFP発現アッセイを使用して、組み合わせのmiR182-miR183クラスター標的配列を保有する構築物をインビトロで試験する。上述のように、試験した発現カセットは、スペーサー配列によって分離されているか、または分離されていない様々な数のmiRNA標的配列を有する。次いで、miR182標的配列および他のmir183クラスター標的配列の組み合わせを
有する特定の構築物の活性を、次いで高用量でIV投与されるAVVベクターを生成することによってインビボで評価する。上記のように、AAVベクター導入遺伝子の発現は、DRGを含む様々な細胞および組織、特に肝臓組織において評価される。
【0268】
さらに、導入遺伝子発現のmiR182標的配列の1、2、3、4個、または最大で8個のコピーの効果を評価する。上述のように、インビトロ試験のための実験的構築物を生成し、miR182標的配列を発現カセットの3’UTRに導入する。複数のmiR182配列が導入される場合、配列は連続的であってもよく、または代替的に、様々な介在スペーサー配列のうちのいずれかによって分離されてもよい。任意の組み合わせのmiR182標的配列、およびスペーサー配列(適用可能な場合)を含む発現カセットを有するAAVベクターを生成し、インビボで試験する。特に、miR182標的配列を有する発現カセットの場合、導入遺伝子発現は、AAVベクターの高用量IV投与後の筋肉組織において評価される。
【0269】
実施例5:導入遺伝子に作動可能に連結されたmiR標的配列を有するrAAVの送達は、miR183クラスター調節遺伝子の発現を増加させない。
ヒトCACNA2D1およびCACNA2D2遺伝子(メンバーは、電位依存性カルシウムチャネルをコードする)は、miR183クラスター(miR183/96/182)の予測標的であり、ヒトドナー由来のDRGにおける、3つすべてのmiRNAと、CACNA2D1およびCACNA2D2発現との間に有意な逆相関が観察されている。例えば、Peng at al,“mirR-183 cluster scales mechanical pain sensitivity by regulating
basal and neuropathic pain genes”.Science.2017 Jun 16;356(6343):1168-1171.doi:10.1126/science.aam7671.Epub 2017 Jun 1を参照されたい。miR183がCACNA2D発現を下方制御することが報告されている。しかしながら、「スポンジ効果」が存在する場合、CACNA2Dの発現の増加が予想され、これは、動物の疼痛および圧力に対する感受性の増加に寄与する。
【0270】
4×miR183標的配列を有するか、もしくは有さず、eGFPを含むベクターゲノムを含有するか、4×miR183標的配列を有するか、もしくは有さず、hIDUAを含むベクターゲノムを含有する、ストックrAAVを、ラット-DRG培地で2.5×1012/mLに希釈し、古い培地を除去した後、0.25mlを24ウェルプレートの各DRG含有ウェルに添加した。24時間後、培地を除去し、新鮮な培地と交換した。形質導入は、3個の複製物で行われた(すなわち、AAV-GFPについて3個のウェル、AAV-GFP-miR183については3個のウェル(モック対照について2個のウェル))。形質導入を増強するために、AAVベクターと共に、MOI 10で、アデノウイルスAD5(SignaGen Laboratories、Rockville、MD)も添加した。RNAを各ウェルについて別々に単離し、q-RT-PCRに(1つの反応/ウェル、2個の複製物で)使用した。形質導入の72時間後に、DRG培養物から総RNAを抽出した。
【0271】
標的遺伝子CACNA2D1およびCACNA2D2に対するmiR183の発現レベルおよび潜在的なスポンジ効果を、ラットCACNA2D1(アッセイID Rn01442580)およびCACNA2D2(アッセイID:Rn00457825)に特異的なプライマーを使用して決定した。図20は、低濃度(5×10)または高濃度(2.5×10)でのmiR183脱標的化配列の4つのコピーを伴うか、または伴わない、eGFP導入遺伝子を担持する様々なベクターのAAV形質導入(AAV9)の結果を示す。miR183を伴わない低用量および高用量を、100(低用量AAV9-eGFPの場合)または10(高用量AAV9-eGFPの場合)の感染多重度(MOI)で、ア
デノウイルス5型(Ad5)ヘルパー共トランスフェクションを行うか、または行わずに試験した。すべてのDRGニューロンが形質導入され、毒性の目に見える兆候は観察されない。DRGニューロンにおいて、GFP発現はみられないが、線維芽細胞様細胞において、ある程度の発現が観察される。このことは、(4×)miR183標的発現カセットによるGFP転写の抑制を確認する。
【0272】
NHPにおけるmiR183スポンジ効果研究
動物をAAV-IDUAまたはAAV.hIDUA.4Xmir183ベクター(n=3/群)で治療した非ヒト霊長類(NHP)アカゲザル研究(19-04)から、DRG(腰部)および脳(前頭皮質)組織を得た。miRNeasy Mini Kitを全RNA単離に使用し(Qiagen、Germantown、MD)、次いで、抽出されたRNAを、プロトコルの指示に従って、TaqMan(商標)MicroRNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)で逆転写させた。定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を実施し、製造元の指示に従って、hsa-miR-183-5p(アッセイID002269)およびRNU6B(アッセイID00193)(Applied Biosystems Inc.、Foster City、CA、USA)に特異的なプライマーを有するTaqMan MicroRNA Assayキットを使用して、異なる組織におけるmiR183の存在量を決定した。同様に、miR183の直接標的のうちの2つ、すなわち、CACNA2D1およびCACNA2D2の存在量を、それぞれ、CACNA2D1(アッセイID Hs00984840)およびCACNA2D2(アッセイID:Hs01021049)に特異的なプライマーを有するTaqMan Gene Expression Assayキットを使用して測定した。各qPCRアッセイは、生物学的複製物からの100ngの総RNAに由来するcDNAを用いて3個の複製物で実施され、比較閾値サイクル(Ct)法により分析した。miR183の平均発現レベルを、内因性対照遺伝子としてRNU6Bで正規化し、2-ΔΔCt法(Schmittgen TD、Livak KJ.Analyzing real-time PCR data by the comparative C(T)method.Nat Protoc.2008;3(6):1101-8)を使用して、CACNA2D1およびCACNA2D2の平均レベルを、GAPDHで正規化した。図19A(drg)および図19B(皮質)を参照されたい。DRG(高miR183存在量)または前頭皮質(低miR183存在量)のいずれかにおけるAAV-IDUAあるいはAAV-IDUA-miR183動物を比較するとき、miR183クラスター調節遺伝子(CACNA2D1またはCACNA2D2)の発現の増加はなかった。
【0273】
ラット新生児後根神経節(DRG)ニューロン細胞培養
ラットDRGニューロン(Lonza Walkersville,Inc.)を解凍し、7mLの推奨培地(PNGM BulletKit:2mMのL-グルタミン、50μg/mlのゲンタマイシン/37ng/mlのアムホテリシン、および2%のNSF-1を含有するPrimary Neuron Basal Medium)に加えた。次いで、約5.0×10個のDRGニューロンを含有する8mLの培地を、細胞を添加する直前に、ポリD-リジン(30μg/ml、Sigma)でコーティングした24ウェル組織培養プレートの8ウェル間で分割した。細胞を37℃、5%COインキュベーター中で4時間インキュベートした後、培地を除去し、新鮮な予熱した培地と交換した。シュワン細胞増殖を阻害するために、最初の4時間のインキュベーションの後に、有糸分裂細胞阻害剤(17.5ug/mLのウリジンを5μlと7.5ug/mLの5-フルオロ-2-デオキシウリジン/培地mL数を5μl)を添加した。細胞を37℃、5%COでインキュベートし、5日目に培地を完全に変化させ、その後3日ごとに50%培地を変化させた。初期の培養の6日後、上述のようにAAVベクターを用いてラットDRGニューロンを形質導入した。
【0274】
図21は、ラットDRG細胞におけるmiR183スポンジ効果研究の効果を示す。ラットDRG細胞におけるmiR183レベルは、細胞をAAV9-eGFP-mir183で形質導入したときに低減した。AAV9-eGFPmiR183-は、GFP-miR183 mRNAに対するターゲットエンゲージメントを示す。
【0275】
図22A図22Cは、既知のmiR183調節転写産物に対するラットDRG細胞における効果を示す。図22Aは、モックベクター、AAV-GFP、またはAAV-GFP-miR183ベクターの送達後のラットDRG細胞におけるCACANA2D1相対発現を示す。図22Bは、モックベクター、AAV-GFP、またはAAV-GFP-miR183ベクターの送達後のラットDRG細胞におけるCACANA2D2相対発現を示す。図22Cは、モックベクター、AAV-GFP、またはAAV-GFP-miR183ベクターの送達後のラットDRG細胞におけるATF3発現を示す。これらの3つの既知のmiR183調節転写産物のmRNAレベルの相対発現に変化はなかった。形質導入されていないモックウェルおよびGFP-miR183形質導入されたウェルと比較して、差は観察されなかった。これらのデータは、これらの細胞におけるスポンジ効果の不存在を示す。miR183の残りのレベルのいずれかが十分であるか、またはクラスターの他のメンバー(miR96および/またはmiR182)が、miR183の利用可能性の減少を補うことができる可能性がある。
【0276】
実施例6:DRG病的状態のメタアナリシス
血液または脳脊髄液(CSF)を介して非ヒト霊長類(NHP)にアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを投与することで、後根神経節(DRG)病的状態を引き起こす可能性がある。この病的状態は、ほとんどの場合、最小限から中程度であり、罹患した動物において臨床的に無症状であり、単核細胞浸潤、神経変性、および中心軸索および末梢軸索の二次軸索病変による組織病理学的分析によって特性決定される。256NHPにおける33の非臨床研究からデータを集計し、異なる投与経路、用量、時間経過、研究実施、動物の年齢、性別、カプシド、プロモーター、カプシド精製方法、および導入遺伝子の間のDRG病的状態の重症度のメタアナリシスを行った。DRG病的状態は、CSFにAAVを投与したNHPの83%、および静脈内(IV)経路を介したNHPの32%で観察された。本願発明者らは、注射時の用量および年齢が、重症度に有意に影響を及ぼす一方で、性別は影響を及ぼさないことを示した。DRG病的状態は、急性時点(すなわち、14日以下)では存在せず、注射後1~5ヶ月までは類似しており、6ヶ月後にはそれほど重症ではなかった。ベクター精製方法は、影響を及ぼさず、本願発明者らが試験したすべてのカプシドおよびプロモーターは、いくつかのDRG病的状態を引き起こした。5つの異なるカプシド、5つの異なるプロモーター、および20の異なる導入遺伝子からのここに提示されるデータは、NHPを使用した非臨床研究において、DRG病的状態が、AAV遺伝子療法後にほぼ普遍的であることを示唆する。治療用導入遺伝子を受けた動物のいずれも、なんら臨床的徴候を示さなかった。神経伝導速度などの感受性技術の組み込みは、少数の動物において、末梢神経軸索症の重症度と相関する修飾を示すことができる。ヒトCNS試験および高用量IV研究における感覚神経障害のモニタリングは、臨床的に有意なDRG病的状態が生じるかどうかを決定することは慎重であるように思われる。
【0277】
材料および方法:
データ入手可能性に関する声明
集計されたデータは、研究に資金を提供したスポンサーが権利を有する特定の導入遺伝子を除き、提供された実験の詳細と共に提示る。
【0278】
動物
このメタアナリシスには、33件の研究から237匹のアカゲザルと19匹のカニクイ
ザルが含まれていた。動物手順はすべて、ペンシルベニア大学の施設内動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。アカゲザル(Macaca mulatta)またはカニクイザル(Macaca fascicularis)は、Covance Research Products,Inc.(Alice、TX)、Primgen/Prelabs Primates(Hines、IL)、MD Anderson(Bastrop、TX)から調達したか、または寄贈された。動物は、University of
PennsylvaniaまたはChildren’s Hospital of Philadelphiaで、Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)のInternational-accredited Nonhuman Primate Research Program facility at the University of Pennsylvaniaのステンレス鋼製スクイーズバックケージ内に収容された。動物は、給餌、視覚および聴覚刺激、操作、および社会的相互作用などの様々な豊かさ(enrichments)を享受した。
【0279】
試験物または対象物の投与
CSF投与のために、NHPは、以前に記載されているように(N.Katz,et la.Hum Gene Ther Methods 29,212-219,2018)、透視ガイダンス下で、大槽内に注射された滅菌人工CSF(ビヒクル)中で希釈されたベクターを受けた。麻酔した動物において、透視ガイダンス下で腰部穿刺を行った。脊椎針をL4-5またはL5-6空間に挿入した後、CSFの戻りによって、および/または最大1mLの造影剤(イオヘキソール180)を注射することによって、配置を確認した。静脈内投与のために、カテーテルを伏在静脈内に配置し、ベクターを滅菌1倍ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水で希釈した。
【0280】
神経伝導速度検査
動物を、ケタミン/デクスメデトミジンの組み合わせで鎮静し、横臥位または仰臥位で手術台に配置し、ヒートパックで体温を維持した。カソードが記録部位に最も近くになるように、刺激装置のプローブを正中神経上に配置し、2つの針電極を、第II指の末節骨のレベル(参照電極)および基節骨のレベル(記録電極)で皮下に刺入し、一方、接地電極を刺激プローブ(カソード)の近位に配置した。小児刺激装置は、ピーク振幅応答に達するまで段階的に増加した刺激を伝えた。最大10個の最大刺激を平均化し、正中神経について報告した。記録部位から刺激カソードまでの距離(cm)を測定し、伝導速度を算出するために使用した。伝導速度と感覚神経活動電位(SNAP)振幅の平均値の両方が報告された。
【0281】
ベクター
研究のために、AAVベクターを作製し、既に記載されているように滴定した(M.Lock et al.Hum Gene Ther 21,1259-1271,2010、M.Lock,et al.Hum Gene Ther Methods 25,115-125,2014)。簡潔には、HEK293細胞を三重でトランスフェクトし、培養上清を回収し、濃縮し、イオジキサノール勾配で精製した。Good Laboratory Practice(GLP)準拠の毒性研究のために、ベクターもまた、HEK293細胞のトリプルトランスフェクションによって産生され、既に記載されているように(J.Hordeaux,et al.Mol Ther Methods Clin Dev 10,79-88,2018)、POROS(商標)CaptureSelect(商標)AAV9樹脂(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)を使用してアフィニティクロマトグラフィーによって精製された。
【0282】
組織病理学
大部分の研究では、委員会認定の獣医病理学者は、最初に試験物/治療群を盲検化し、確立された重症度スコアを、病変の不在について0、最小(10%未満)について1、軽度(10~25%)について2、中等度(25~50%)について3、顕著(50~95%)について4、および重度(95%を超える)について5と定義した。これらのスコアは、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色した組織の顕微鏡での評価に基づいており、%は、平均高倍率視野における病変によって影響を受けた組織の割合を表す。すべてのGLPおよび一部の非GLP臨床研究では、査読は、外部の委員会認定の獣医病理学者によって完了した。DRG変性および脊髄の背側軸索障害からの重症度スコアは、頸部、胸部、および腰部のセグメントから確立された。しかしながら、評価された切片数は、研究によって異なっていた。いくつかの研究において、所与のセグメントについて複数の組織切片がスライド上に存在する場合、スコアは、DRGおよび脊髄の個々の切片に割り当てられた。これらを、単一の代表的なスコアについて平均化した。本願発明者らは、脊髄軸障害を、すべてのDRGから来る軸索の照合を表すため、DRG病的状態のより良い指標と考えている。本願発明者らは、この書類全体で、DRG病的状態を、DRG細胞体および脊髄、または脊髄単独の組織病理学的所見と定義する。末梢神経軸索症のグレードは、正中(近位および/または遠位)、橈骨、尺骨、坐骨(近位および/または遠位)、腓骨、脛骨、および/または胸骨神経の評価に基づいて確立された。近位および遠位の正中神経について評価が実施されたとき、近位セグメントは、腕神経叢から肘までの神経の部分に対応し、遠位セグメントは、肘から手のひらまでの神経の部分に対応していた。存在する場合、末梢神経における軸索周囲(すなわち、神経内膜)線維症について、重症度スコアを与えた。末梢神経が両側とも評価された場合の研究では、軸索障害および軸索周囲スコアを、各神経について平均化した。
【0283】
データ抽出
病理学的スコアおよびすべての関連する研究情報を含む生データを研究ファイルから抽出し、単一のExcelスプレッドシートに集計した。2名が独立して、事前に決定された検索条件に基づいてスコアを抽出し、ソートしてグラフを生成し、統計を実行した。抽出された出力の間に矛盾が生じた場合、平等に責任を有する品質管理について合意に達した。
【0284】
統計
各々のパラメータ(すなわち、注射時の年齢、カプシド、投与経路、時間経過、プロモーター、性別、ベクター精製方法、および用量)について、Rプログラム(バージョン3.5.0、https://cran.r-project.org)内の関数「wilcox.test」を有するウィルコクソンの順位和検定を使用して、各々のDRGまたはSCセグメント(すなわち、頸部、胸部、腰部)についての各々の群の対間の病理学的スコアの比較を行った。次いで、Rの「metap」パッケージ中の関数「sumlog」を有するフィッシャー法を使用して、全体的なDRGまたはSCの群間比較のための3つの比較から、組み合わせたp値を算出した。統計学的有意性は、0.05レベルの組み合わせたp値で評価した。
【0285】
結果
DRG病的状態評価
本願発明者らは、ニューロンおよびその対応する軸索の神経解剖学的評価および全身評価に基づき、DRGニューロンに対する病変を正確に評価し、スコアリングする方法を開発した。一次感覚ニューロンの神経細胞体は、DRG内に位置するクモ膜下腔空間内の各々の脊髄後根の基部にある卵形腫脹である。DRGニューロンは、偽単極性であり、1つの末梢分枝が末梢神経内に延び、1つの中央分枝は、脊髄白質路内で背側に上行する(図
23)。神経変性がDRGに均一に影響を及ぼさないことは、代表的な試料を提供するために、頸部、胸部、および腰部領域から複数のDRGが収集される必要があることを意味するというのが、本願発明者らの経験である。DRGにおける病的状態は、単核炎症性細胞および増殖する常在衛星細胞を伴う単核細胞浸潤として現れ、神経変性は、その後の段階で見られるようになる(図23、A1の丸印)。神経細胞体損傷に続いて起こるのは、神経根(図23、B1)、脊髄の上行性背側経路(図23、C1)、および末梢神経(図23、D1)におけるDRG軸索突起に沿った軸索変性(すなわち、軸索障害)である。正常な対応物を伴う典型的な組織病理学的所見は、図23のA1~D2に示されており、DRG病的状態の様々な段階の高倍率画像も示されている。変性プロセスの初期に、神経細胞体は、ミクログリア細胞および浸潤する単核細胞(神経貪食)と共に、増殖する衛星細胞のみを含み、比較的正常であるように見える(図23のパネルE)。病変が進行するにつれて、神経細胞体は、消えかけている核を有するか、または核が存在せず、細胞質高酸素血症を有する、小さな不規則形状もしくは鋭角を有する形状の細胞を特徴とする、変性の証拠(図23のパネルF、垂直の矢印)を示す。末期神経細胞体変性(図23のパネルG、丸印)は、衛星細胞、ミクログリア細胞、および単核細胞によるそれらの完全な消失(図23のパネルG、星形)を伴う。DRGおよび対応する軸索における組織学的所見の重症度は、平均高倍率視野に対して影響を受けるニューロンまたは軸索のパーセンテージに基づいてグレード分けされる。病変の不在について0、最小(10%未満)について1、2 軽度(10~25%)、3 中等度(25~50%)、4 顕著(50~95%)、および5 重度(95%を超える)。DRGは、ニューロンの存在量が正常であり、少数のニューロンのみが所与の切片上で変性を示す、モザイクを表す。本願発明者らは、脊髄軸索障害を、すべてのDRGから来る軸索の照合を表すため、DRG病的状態のより良い指標と考えている。本願発明者らは、この書類全体で、DRG病的状態を、DRG細胞体および脊髄、または脊髄単独の組織病理学的所見と定義する。
【0286】
研究と集団の特徴
本願発明者らは、2013~2020年のGene Therapy Program
at Pennにおいて、AAVベクターまたはビヒクル対照を注射した256匹の動物を含む33の研究からのデータを集計した。これらの研究のまとめを以下の表に示す。
【表13】
【0287】
DRG病的状態の重症度に対する研究の特徴の効果
DRG病的状態は、AAV ICMまたはLPを受けたNHPの83%(170/205匹)、IV経路のNHPの32%(8/25匹)、併用ICM+IVの100%(4/4匹)、および筋肉内の0%(IM、0/4匹)で観察された。病理学者は、DRGにおける重症度スコア、ならびに脊髄および末梢神経における対応する軸索に基づいてDRG病変をグレード分けした。DRGならびに脊髄領域(頸部、胸部、および腰部)ごとにスコアを得た。DRGにおける重症度は、各脊髄領域がDRGに由来する軸索の全体をグループ分けするために、脊髄における重症度よりも低かったため、いくつかのDRGからの病理学的スコアを照合した(図23)。病的状態の重症度に著しく影響した試験設計パラメータは、投与経路(ROA)、用量、および剖検時点であった(図24A図24C)。非臨床実験室試験のためのGLP実践の遵守(連邦規則集第58条のタイトル21に設定されている通り)は、病的状態の重症度に影響を与えなかった(図24D)。IMを除くすべてのROAは、ビヒクル対照と比較した場合、DRGおよび脊髄の両方において有意な病的状態を引き起こした(p=0.04DRGおよび脊髄、IV対ビヒクル、p<0.001 DRGおよびp<0.0001 脊髄、他のすべての経路対ビヒクル)。IC
M、LP、およびICM/IVはいずれも、IVよりも類似しており、かつ有意に悪かった(IV対ICM p<0.0001、IV対LP p=0.02、IV対ICM/IV
p=0.0006-図24A)。IM(図示せず)は、病的状態を引き起こさず(すべてのスコアが0)、ビヒクル対照と同様であった。以下のすべての分析について、CSF内投与(すなわち、ICMまたはLP)を行った動物のみを検討した。2つの低い方の用量範囲(<3E+12GCおよび3E+12~1E+13GC)は、類似していたが、一方、最大用量範囲(>1E+13GC)は、最低用量範囲(p=0.009、脊髄)および中間用量範囲(p=0.001DRG、p=0.05 脊髄、図24B)の両方よりも有意に悪い病理学的スコアが得られた。注射後の時点(すなわち、剖検を実施し、組織を分析したとき)は、21~60日、90日、および120~169日の間に同様の病的状態の重症度を示した。病的状態は、早期(すなわち、14日目)の時点では見られず、180日以上の長期フォローアップは、他のすべての時点と比較して重症度の有意な低減を示した(p<0.0001 脊髄、p<0.0001 DRG D90、p<0.001
DRG 他の時点)。
【0288】
DRG病的状態の重症度に対する動物の特徴の効果
ベクター投与時の年齢は、病的状態の重症度に有意な影響を及ぼした。幼若期動物は、成体と比較した場合、重症度の低いDRG変性を有していた(p=0.003)が、同様の脊髄軸索障害を有していた(図25A)。乳幼児として治療された4匹の動物は、既に報告されているように(J.Hordeaux et al.Hum Gene Ther 30,957-966,2019)、DRGまたは脊髄病的状態の兆候を有さなかった。この結果は、小さなnおよび研究エンドポイント(注射から4年後)の考えられる影響に起因して、慎重に解釈する必要がある。図24A図24Dに示されるように、研究期間は、病的状態の重症度に影響を有しており、注射時の年齢および/または研究期間が、病的状態が存在しないことを裏付けているかどうかは不明である。追加的に、重要なことに、性別は、SCまたはDRG病的状態に影響を及ぼさなかった(図24B)。
【0289】
DRG病的状態の重症度に対するベクターの特徴の効果
DRG神経変性は、すべてのカプシドで存在したが、血清型間で重症度に若干の差があった(図26A)。このようなバリエーションは、DRGに限定され、脊髄スコアでは見られない場合、DRGが、脊髄断面よりもサンプリングアーチファクトに影響されやすいモザイクを表すため、意味がない場合がある。AAVhu68(p=0.01 脊髄、p=0.0004 DRG)よりもAAV1で、かつよりもAAV1でAAV9(p=0.007 脊髄およびDRG-図26A)、軸索障害およびDRGスコアは共に有意に悪かった。ユビキタスプロモーターCAG、CB7、およびUbCは、いずれも互いに類似していたが、一方、CAGは、hSyn(p=0.028)よりも悪い軸索障害を引き起こし、CB7(p=0.001)、UbC(p=0.002)およびhSyn(p=0.0003、図26B)より悪いMeP426を引き起こした。20個の異なる導入遺伝子を試験し、1つを除くすべてがDRG病的状態を引き起こした(図26C)。病的状態の重症度は、導入遺伝子間で大きく変動した(0.5~2.7の平均脊髄軸索障害スコア)。病的状態の重症度は、分泌型導入遺伝子と比較して非分泌型導入遺伝子で20~25%低かった(図26D、DRGについては、分泌型平均=0.61、非分泌型平均=0.47、p=0.05、SCについては、分泌型平均=1.17、非分泌型平均=0.94、p=0.02)。さらに、精製方法(すなわち、非GLP研究におけるイオジキサノールおよびGLP研究におけるカラムクロマトグラフィー)は、DRG病的状態の存在または重症度に影響を与えなかった(図26D)。
【0290】
DRG病的状態の領域的重症度および臨床的症状
頸部、胸部、および腰部脊椎に関する病的状態の領域的な差を評価した。また、三叉神経の神経節(TRG)も、クモ膜下腔空間の内側の頭蓋底部に位置するDRGと同様の特
徴を有する感覚神経節を表すため、分析した。図27は、各領域における実際の病理学的スコアの分布および平均を示す。TRG病的状態は、頸部および腰部DRGと類似していた(有意ではない)が、胸部DRGは、重症度のスコアが低かった(p=0.007)。SC領域スコアはいずれも、それらの対応するDRGスコアよりも有意に悪く(p<0.0001)、このことは、いくつかのDRGからの一致したSC照合軸索であり、それは、より多くの病変を含むことを意味している。切片の大部分は、正常または低い(グレード1)重症度スコアを有し、グレード4のスコアはほとんど報告されておらず、グレード5のスコアは非常に稀にしか報告されていない(グレード5は、平均高倍率視野における病変によって影響を受ける組織表面の95%以上に相当する)(図27)。精神状態、姿勢、および歩行のケージ側評価、ならびに脳神経、固有受容、運動強度、感覚機能、および反射の拘束された評価を伴う神経学的検査を実施した。AAV ICMまたはLPを投与された204匹の動物のうち、運動失調および/または振戦の臨床的徴候を有する明らかな病的状態が発現したのは3匹のみであった。すべての3つの受けたベクターは、1E+13GCを超える用量でGFPをコードし、病的状態は、注射の21日後に現れた。正中神経の神経伝導速度は、56匹の動物で記録された。2つは、注射から28日後で、顕著な両側感覚振幅低減を発現し、剖検まで持続した。これは、顕著な(グレード4の重症度の)軸索障害および正中神経の神経内膜線維症と相関関係にあったが、明らかな臨床の後遺症はなかった。ほとんどの動物は、末梢神経における軸索障害および線維症の重症度グレードが低かった(図28Aおよび図28B)。
【0291】
考察
DRG病的状態および二次軸索障害は、本願発明者らのNHP研究の大部分では最小限であり、訓練されていない眼で発見することは困難な可能性がある。ICM AAV投与を評価する本願発明者らの最初のGLP毒性研究(J.Hordeaux,et al.Mol Ther Methods Clin Dev 10,79-88,2018)では、初期病理評価を行ったCROは、神経病理で経験を積んだ査読病理学者によってのみ捕捉された病変を見逃した。神経変性はまばらであり、DRGは、ほとんど正常なニューロンと所与の切片上の数少ない変性事象とのモザイクであるため、堅牢な組織学的分析のために複数のDRGを収集する必要があることを発見した(脊髄領域当たり少なくとも3つを推奨する)。DRGニューロン損傷を検出し、定量化する、より簡単な方法は、脊髄における軸索変性を評価することによって、細胞体内の病的状態の二次的な結果を評価することを伴う。このことは、検出が容易であり、複数のDRGから来る上行線維の照合を表す。
【0292】
正しい組織を収集し、慎重に分析したところ、本願発明者らは、AAV ICMを受けたNHPの83%、およびAAV IVを受けたNHPの32%において、DRG病的状態の証拠をいくつか発見した。病的状態を示すIV用量は、1E+13GC/kgと低く、この用量は、いくつかの血友病試験のために診療所で現在評価されている(B.S.Doshi and V.R.Ther Adv Hematol 9,273-293,2018)。製造精製方法は、病的状態に影響を及ぼさなかった。本願発明者らが試験したすべてのカプシドおよびすべてのプロモーターは、あるレベルのDRG病的状態を示し、このことは、カプシドまたはプロモーターを変更することが実行可能な解決策ではないことを示唆する。非臨床研究の設計と臨床翻訳に関連して、注射時の用量および年齢が重症度に有意に影響を及ぼす一方で、性別は影響を及ぼさないことが分かった。病的状態の重症度に最も大きな影響を及ぼす本願発明者らの研究の態様は、導入遺伝子であり、これは、導入遺伝子の過剰発現が変性につながる初期の事象を駆動するという本願発明者らの仮説と一致する。ほとんどの導入遺伝子について、最小有効用量(MED)を上回る無有害作用量(NOAEL)を特定することはできなかった。
【0293】
時間経過は、急性時点(すなわち、14日以下)は組織病理を示さない一方で、より長
い研究(すなわち、180日を超える)は、より重症度の低い病的状態を示す傾向があり、このことが、経時的な進行の欠如および可能な部分寛解を示唆するため、研究設計のために考慮することが重要である。本願発明者らの保健当局での経験には、2つの剖検時点を組み込むことを含んでおり、1つは、病的状態の発症後(すなわち、約1ヶ月)であり、もう1つは、病的状態が悪化していないことを示すためのものである(すなわち、4~6ヶ月)。本願発明者らのメタアナリシスに含まれる1ヶ月齢で投与された4匹のNHP乳幼児は、動物が注射のほぼ4年後に剖検されたときに良好な導入遺伝子発現レベルがあったにもかかわらず、DRGおよびSC軸索病的状態が存在しないことが顕著であった(J.Hordeaux et al.Hum Gene Ther 30,957-966,2019)。この観察結果は、乳幼児への投与時のより良好な安全プロファイル、または急性病的状態が進行せず、実際に解消することを示唆している可能性がある。この研究では、早期の時点での剖検はなかった。
【0294】
治療用導入遺伝子(すなわち、GFPなどのレポーター遺伝子ではない)を受けた動物のいずれも、臨床所見を示さなかった。後の研究で、本願発明者らは、神経伝導速度測定を用いた感覚ニューロン病的状態の日常的なモニタリングを組み込んだ。本願発明者らは、臨床的後遺症の証拠はなく、より重度の末梢神経軸索障害および線維症(すなわち、グレード4の重症度)に関連する2匹の動物においてNCV異常を発見した。
【0295】
まとめると、本願発明者らは、DRGにおける病的状態が、AAVベクターがクモ膜下腔空間に送達されるとき、および多くの研究において、より高い用量が全身投与されるとき、ほぼすべてのNHP研究において一貫した所見であることを示した。本願発明者らのメタアナリシスは、顕著な臨床的後遺症が存在しないことが驚くべきことである。他の種における他の非臨床研究の慎重な分析は、新生児ブタを除いてDRG病的状態の証拠を示すことができず、このことは、NHPがこの潜在的な病的状態を評価するための最良のモデルであることを示唆している。ヒトCNS試験および高用量IV研究における感覚神経障害のモニタリングは、臨床的に有意なDRG病的状態が生じるかどうかを決定することは慎重であるように思われる。
【0296】
実施例7:AAVrh91媒介性MPSI遺伝子療法の開発
非臨床研究を実施して、MPSI導入遺伝子送達に対するDRG脱標的化miRNA標的部位の安全性および有効性に対する効果を評価する。実施例2に記載されるように、発現カセットの3’UTR領域における、miR183、DRG濃縮miRの標的の4つのタンデムリピートをクローニングすることによって、DRGにおける導入遺伝子発現を抑制する戦略は、他の場所(脳、肝臓、心臓)における導入遺伝子発現のいくつかの増強を付与しつつ、DRGにおけるGFP発現を除去するのに有効であった。NHPで試験した場合、4つのタンデムリピートは、DRGにおける発現が低減し、同じ用量でAAVhu68.hIDUAを注射した動物と比較した場合、AAVhu68.hIDUA-4×miR183を有する1×1013GC ICM注射したNHPからの形質導入されたDRGにおいて、mRNA ISHシグナルの80%低減が観察された。この低減は、DRG病理状態および二次軸索障害を完全に防ぐのに十分なものであった。以下に記載される研究は、臨床薬物投与およびサンプリングにとって一般的であるように、CNS、AAVrh91(AAV1バリアント)および/またはCNS標的化投与のためのOmmayaリザーバを使用した送達における向上した向性および生体分布を有するカプシドを利用する。
【0297】
非臨床研究の研究
NHPパイロット研究-NextGen DRGおよびカプシドの比較
本研究は、アカゲザルへの大槽内(ICM)投与後の安全性、薬理学、およびベクター生体分布に関する予備データを取得するように設計されている。
研究設計:
●ベクター:
1.AAVhu68.hIDUA coV1
2.AAVrh91.hIDUA coV1
3.AAVrh91.hIDUA coV1.4xmiR183
4.AAVrh91.hIDUA coV1.4xmiR182
●動物の数:15(n=3/群)
●投与経路:ICM
●用量:3x1013 GC
●生存期間:90日間
【0298】
生存(In-life)分析には、毎日のケージぎわの観察、標準化された神経学的評価、血清化学パネルの定期的出血、全血球数、凝固パネル、補体活性化、肝機能試験、CSF化学の定期的CSFタップ、および細胞数が含まれる。血清およびPBMCは、カプシドおよび導入遺伝子に対する体液および細胞の免疫応答を調査するために収集される。
【0299】
ベクター投与から90日後に本研究の生存期が完了した後、包括的な組織病理学的検査のために回収された組織(査読付きの委員会認定の獣医病理学者)による完全な剖検が行われ、定量的PCRによるベクター生体内分布の分析、およびhIDUA発現の定量化が行われる。リンパ球を、血液、脾臓、肝臓、および深部頸部リンパ節から回収し、剖検時にこれらの臓器におけるCTLが調べられる。miR標的配列を有するベクターは、主要な組織における最適な生体分布を示しつつ、DRG変性および関連する軸索障害を最も良く低減および/または除去することが期待される。
【0300】
NHPパイロット研究-ICVリザーバを備えたAAVrh91ベクター
アカゲザルに移植された脳室内リザーバ/カテーテル系を介するAAV.GFPの投与後の安全性、薬理学、およびベクター生体分布を評価するために研究を実施する。この研究の後、この投与経路により評価されるベクターが選択される。
研究設計:
●動物の数:3
●投与経路:ICV
●用量:3x1013 GC
●生存期間:90日間
【0301】
生存分析には、毎日のケージぎわの観察、標準化された神経学的評価、血清化学パネルの定期的出血、全血球数、凝固パネル、補体活性化、肝機能試験、CSF化学の定期的CSFタップ、および細胞数が含まれる。血清およびPBMCは、カプシドおよび導入遺伝子に対する体液および細胞の免疫応答を調査するために収集される。
【0302】
ベクター投与から90日後に本研究の生存期が完了した後、包括的な組織病理学的検査のために回収された組織(査読付きの委員会認定の獣医病理学者)による完全な剖検が行われ、定量的PCRによるベクター生体内分布の分析、およびhIDUA発現の定量化が行われる。リンパ球は、血液、脾臓、肝臓、および深部頸部リンパ節から採取されて、剖検時にこれらの臓器におけるCTLの存在が調べられる。
【0303】
MPSIマウスにおける有効性および用量範囲研究
パイロット用量範囲研究において、MPSIマウスにICVを投与したときに、AAVrh91ベクターを評価して、以前のMPSI候補と比較して、hIDUA発現および有効性を決定する。読み出しには、血清および肝臓IDUA活性の読み出し、ならびにCNSにおける貯蔵低減が含まれる。
研究設計:
●動物の数:約50(n=10/群、WT/KO対照を含む)
●投与経路:ICV
●用量:
●1.3×1011GC
●4.5×1010GC
●1.3×1010GC
●生存期間:90日間
【0304】
(配列表フリーテキスト)
以下の情報は、数値識別子<223>の下でフリーテキストを含む配列を提供する。
【表14】
【表15-1】
【表15-2】
【表16-1】
【表16-2】
【表17-1】
【表17-2】
【表18-1】
【表18-2】
【表19-1】
【表19-2】
【表20-1】
【表20-2】
【表21】
【0305】
本明細書に引用されるすべての刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。2020年6月24日に出願された米国仮特許出願第63/043,600号、2020年6月12日に出願された米国仮特許出願第63/038,514号、2020年5月12日に出願された米国仮特許出願第63/023,602号、2020年4月6日に出願された米国仮特許出願第63/005,894号、2020年2月10日に出願された米国仮特許出願第62/972,404号、2019年12月20日に出願された国際特許出願第PCT/US19/67872号、2019年11月13日に出願された米国仮特許出願第62/934,915号、2019年10月23日に出願された米国仮特許出願第62/924,970号、2020年5月12日に出願された米国仮特許出願第63/023,593号、2020年6月12日に出願された米国仮特許出願第63/038,488号、2020年6月24日に出願された米国仮特許出願第63/043,
562号、および2020年9月16日に出願された米国仮特許出願第63/079,299号は、それらのすべてが参照により本明細書に組み込まれる。同様に、本明細書に参照され、「20-9316PCT.txt」とラベル付けされた添付の配列表に表示される配列番号は、参照により組み込まれる。本発明は、特定の実施形態を参照して記載されているが、本発明の趣旨から逸脱することなく修正を行うことができることが理解されよう。かかる修正は、添付の特許請求の範囲内であることが意図される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図16A
図16B
図16C
図16D
図16E
図16F
図17A
図17B
図17C
図17D
図18A
図18B
図18C
図18D
図18E
図18F
図19A
図19B
図20
図21
図22A
図22B
図22C
図23
図24A-24D】
図25A-25B】
図26A-26B】
図26C
図26D
図27
図28A
図28B
図29A
図29B
図29C
図29D
図30A
図30B
図31A
図31B
図31C
【配列表】
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