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特許7697961対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、または有する危険性があるかどうかを決定する方法。
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  • 特許-対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、または有する危険性があるかどうかを決定する方法。 図1A
  • 特許-対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、または有する危険性があるかどうかを決定する方法。 図1B
  • 特許-対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、または有する危険性があるかどうかを決定する方法。 図2
  • 特許-対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、または有する危険性があるかどうかを決定する方法。 図3
  • 特許-対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、または有する危険性があるかどうかを決定する方法。 図4
  • 特許-対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、または有する危険性があるかどうかを決定する方法。 図5
  • 特許-対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、または有する危険性があるかどうかを決定する方法。 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、または有する危険性があるかどうかを決定する方法。
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20250617BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20250617BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250617BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250617BHJP
   A61K 31/585 20060101ALI20250617BHJP
【FI】
G01N33/68
A61P27/02
A61K45/00
A61P43/00 111
A61K31/585
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022554401
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-28
(86)【国際出願番号】 EP2021056109
(87)【国際公開番号】W WO2021180818
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2024-01-04
(31)【優先権主張番号】20305253.5
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(73)【特許権者】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(73)【特許権者】
【識別番号】518126247
【氏名又は名称】フォンダシオン・アジル・デ・アヴューグル
【氏名又は名称原語表記】FONDATION ASILE DES AVEUGLES
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ベアール-コーエン,フランシーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,ミン
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/043179(WO,A1)
【文献】WANG, S. K. et al.,Mineralocorticoid Receptor Antagonists inCentral Serous Chorioretinopathy,Ophthalmology Retina,2019年,Vol.3, No.2,p.154-160,doi: 10.1016/j.oret.2018.09.003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
A61P 27/02
A61K 45/00
A61P 43/00
A61K 31/585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象が、中心性漿液性脈絡網膜症(CSCR)を有するか又は有する危険性があるかどうかを決定するための指標を提供する方法であって、対象から得られた試料中のNGALのレベルを決定することを含み、前記レベルが、対象が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか又は有する危険性があるかどうかを示す指標として提供される、前記方法。
【請求項2】
試料が、血液試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
NGALのレベルが、所定の基準値と比較される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
所定の基準値が、健常者の集団において決定されたNGALのレベルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
NGALのレベルが、健常者の集団で決定されたレベルより低い場合、患者がCSCRを患っているか又は再発の危険性があると結論付けられる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
対象におけるCSCR及びAMD間の鑑別診断のための指標を提供する方法であって、対象から得られた試料中のNGALのレベルを決定することを含み、ここで高レベルのNGALは、対象がAMDを有する指標として提供され、低レベルのNGALは、対象がCSCRを有する指標として提供される、前記方法。
【請求項7】
CSCRを有する対象における再発のリスクを予測するための指標を提供する方法であって、対象から得られた試料中のNGALのレベルを決定することを含み、前記レベルが再発のリスクのための指標として提供される、方法。
【請求項8】
CSCRを有する対象が治療で応答を達成するかどうかを決定するための指標を提供する方法であって、i)治療前に対象から得られた試料中のNGALのレベルを決定すること、ii)治療後に対象から得られた試料中のNGALのレベルを決定すること、iii)工程i)で決定されたレベルと工程ii)で決定されたレベルとを比較すること、及びiv)工程ii)で決定されたレベルが工程i)で決定されたレベルより高い場合に、そのことを対象が応答を達成したと結論付けるための指標として提供することを含む、方法。
【請求項9】
i)対象がCSCRを有するかまたは有する危険性があるかどうかを決定するための指標を提供すること、及びii)その指標が、対象がCSCRを有するかまたは有する危険性を示す場合に、そのことを治療または薬剤を投与するための指標として提供することを含む、CSCRを処置するための指標を提供する方法。
【請求項10】
薬物または治療が、抗VEGF剤、炭酸脱水酵素インヒビター、ミネラルコルチコイド(MR)アンタゴニスト、レーザー光凝固、ダイオードマイクロパルスレーザー、ベルテポルフィン光力学療法(PDT)及び/又は経瞳孔熱療法からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
MRアンタゴニストが、スピロノラクトンまたはエプレレノンである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野、特に眼科の分野である。
【0002】
発明の背景
中心性漿液性脈絡網膜症は、脈絡膜と網膜色素上皮(RPE)を侵す、主に眼科領域の疾患である。本疾患には様々な病型が存在するが、統一された命名法はまだない。患者の多くは、RPEの局所的な漏出を認め、自然に治癒し、時には漿液性剥離を再発するが、少数の患者では、広範囲な色素上皮障害、持続的な漿液性剥離、機能的・解剖学的合併症の可能性を認める。本疾患の正確なメカニズムや原因因子は、依然として不明である。CSCRの危険因子として広く認識されているのは、外因性または内因性コルチコイドへの曝露、精神薬物療法の使用、A型行動、冠動脈疾患や高血圧などの心血管危険因子、睡眠障害や交代勤務、ヘリコバクター・ピロリ感染などである。遺伝的素因としては、補体因子系をコードする遺伝子の多型、補体因子系をコードする遺伝子のハプロタイプ。ミネラルコルチコイド受容体をコードする遺伝子のハプロタイプ、プラスミノーゲンアクチベーターシステムをコードする遺伝子の多型、およびVIP受容体をコードする遺伝子の多型などが同定されている。典型的な症例では、臨床症状とSD-OCTやフルオレセイン・ICG血管造影などの画像技術に基づいて容易に診断することができるが、より複雑な症例、特に女性で脈絡膜が薄い場合、あるいは有利な因子がない場合には、診断は困難となる場合がある。我々の知る限り、CSCRの全身的なバイオマーカーは同定されていない。
【0003】
リポカリン-2(LCN2)は、Neutrophil Gelatinase-Associated Lipocalin,NGAL、別名siderocalin,uterocalinまたは24p3と呼ばれ、リポカリスーパーファミリーに属する21KDの分子である。リポカリンは、レチノイド、ステロイド、脂肪酸などの小さな疎水性物質を輸送する。また、LCN2は、鉄を細胞内に輸送し、鉄調節作用もあって、自然免疫の重要な調節因子として働いている8,9。LCN2は、自然免疫細胞、上皮細胞、脳アストロサイトなど、多くの細胞や組織で発現しており、網膜色素上皮細胞10および網膜グリア・ミュラー細胞で発現している11。LCN2は、急性傷害、感染症、代謝障害に応答して、NF-κBの活性化により誘導される12,13。しかし、病気の経過(急性か慢性か)や臓器によって、LCN2は炎症促進作用や抗炎症作用を発揮する。LCN2は、2型糖尿病や非アルコール性疾患などの代謝性炎症において、好中球や炎症性サイトカインの動員を介して炎症を促進する14。RPE細胞のリソソームを介したクリアランスが欠損しているトランスジェニックマウスでは、マウスの網膜に初期AMDの表現形質をもたらし、好中球が産生するLCN2が網膜浸潤を促進し、加齢変化に寄与することが示されている15。一方、LCN2は腸の炎症において抗炎症作用を示し、LPSによって誘発された脳や目の炎症においても、LCN2を介した抗炎症作用を示した16。NF-κBを不活性化することにより、抗炎症作用を示した11。LCN2のもう一つの機能は、粥腫の重要なメディエーターであるプロテアーゼ(MMP-9/NGAL)と複合体を形成することによってMMP-9の活性を促進することである17。との複合体を形成し、MMP-9の活性を促進することである。実験的動脈硬化モデルにおいて、LCN2は、初期のプラーク形成は防ぐが、進行した動脈硬化ではMMP-9の活性とネクロティックコアのサイズを増大させるという二重の役割を担っている18
【0004】
網膜では、LCN2の役割は不完全にしか解明されていない。AMDのモデルであるAbca4-/-Rdh8-/-マウスに光を当てた後、RPEと神経網膜で最も早く発現するストレス遺伝子である。Lcn2-/-Abca4-/-Rdh8-/-マウスの3匹で光照射を行うとグリオシスとミクログリア活性化が促進されることから、LCN2はこのモデルで保護されている10,19。さらに、LCN2はhiPS-RPE細胞の抗酸化酵素HMOX1およびSOD2の発現を増加させることによって、酸化ストレスから保護することができた19。一方、別の研究では、LCN2は活性酸素の発生とBimの発現を増加させることにより、光誘導性視細胞のアポトーシスを促進させた20
【0005】
LCN2は、炎症性疾患や代謝性疾患のバイオマーカーとして同定され、急性腎不全の診断・予後判定に最適なマーカーとして認識されている21。急性腎不全の診断・予後判定に最適なマーカーとして認識されている22,23,24,25。腎臓疾患においては、LCN2は疾患のバイオマーカーであるだけでなく、発症機序にも寄与している26。LCN2は、動脈硬化、心筋梗塞(MI)、心不全のバイオマーカーでもある27。心筋梗塞後、好中球が産生するLCN2は、アポトーシス細胞の除去を可能にする表現型へのマクロファージの偏光を誘導し、心筋線維化を抑制する。このように、LCN2は心臓のリモデリングに有益である28
【0006】
眼疾患では、網膜中心静脈閉塞症患者の血清中ではなく、房水中でLCN2濃度の上昇が測定された29。糖尿病性網膜症患者では、血漿中LCN2濃度が上昇し、網膜症の重症度と相関していた30。AMDでは、血漿LCN2値が上昇し、湿性AMD患者の房水中にLCN2が増加した31
【0007】
発明の概要
本発明は、特許請求の範囲によって定義される。特に、本発明は、対象(被験者、subject)が中心性漿液性脈絡網膜症を有するか、またはその危険性があるかどうかを決定する方法に関するものである。
【0008】
発明の詳細な説明
中心性漿液性脈絡網膜症(CSCR)は、臨床的に検出される上皮障害の有無により、慢性型と慢性型の2種類に大別される。慢性型CSCRは、急性型CSCRの進化に起因するのか、それとも独立した存在なのかは、まだ不明である。現在までのところ、慢性型と慢性型に関連する全身的なバイオマーカーは発見されておらず、診断が困難な症例において診断の一助となる可能性がある。
【0009】
Lipocalin2(Lcn2,Neutrophilgelatinaseassociatedlipocalin,NGAL)は、25kDの分泌タンパク質で、複数の自然免疫機能を有している。また、NGALはMMP9とジスルフィド結合したヘテロダイマーとして存在し、MMP9の活性を安定化させている。LCN2は、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、網膜色素変性症で増加する。
【0010】
上皮腫を有する(n=90)または有さない(n=78)CSCR患者(n=168)および眼病歴のない対照被験者(153)の欧州コホートにおいて、NGALおよびNGAL/MMP9複合体の血清レベルを測定すること。CRP>5mg/L、クレアチニン>100μmol/L、尿素>7.5mmol/Lの被験者は除外された。
【0011】
対照群の平均年齢はCSCR群より有意に若く、対照群ではCSCR群より有意に女性が多かったが、NGALおよびNGAL/MMP9と年齢や性別との間に有意な相関は認められなかった。血清NGAL(ng/ml)は、CSCRコホート(80.4±46.4、p<0.0001)よりも対照群(108.8±46.8)で有意に高値であった。血清NGAL(ng/ml)は、急性期/再発コホート(n=78、71.3±32.1)では対照群、慢性期コホート(n=90、88.3±55、p=0.03)よりも有意に低値であった。同様に、血清NGAL/MMP9(ng/ml)レベルは、CSCR全コホートで44.5±39.6と対照群(77.6±47.8、p<0.0001)より低値であった。血清NGAL/MMP9(ng/ml)は,急性期/再発コホートで対照群より有意に低く(37.6±37.9),慢性期コホートでは50.5±40.3,p=0.002であった.ROC曲線は、NGALのカットオフ値80ng/mLで急性/再発CSCRと対照群を感度79.5%、特異度74.8%で識別でき、NGAL/MMP9複合体のカットオフ値40ng/mLで急性/再発CSCRと対照群を感度72.7%、特異度76.0%で識別できることを示している。
【0012】
したがって、CSCRの両病型において、血清NGALおよびNGAL/MMP9は対照群より低く、両病型の生物学的関連性と酸化ストレスおよび自然免疫調節障害への感受性の可能性を提供するものである。全身性のLCN2は他の網膜疾患でも上昇しており、CSCRの特異的なバイオマーカーであると考えられる。
【0013】
したがって、本発明の第1の目的は、被験者が中心性漿液性脈絡網膜症を有するかまたは有する危険性があるかを決定する方法であって、被験者から得られたサンプル中のNGALのレベルを決定することを含み、前記レベルが、被験者が中心性漿液性脈絡網膜症を有するかまたは有する危険性があるかを示す方法に関するものである。
【0014】
本明細書で使用する場合、「中心性漿液性脈絡網膜症」または「CSCR」という用語は、当該技術分野における一般的な意味を持ち、漿液性網膜剥離および/または網膜色素上皮(RPE)剥離、最も頻繁に黄斑に限定される変化、およびRPEから網膜下空間への液体の漏出を特徴とする障害を意味する。CSCRは、ほとんどの網膜診療所において、全身疾患を伴わない若い男性患者によく見られる。
【0015】
本明細書で使用する場合、本発明の文脈における「リスク」という用語は、特定の期間にわたって事象が発生する確率に関するものであり、被験者の「絶対」リスク又は「相対」リスクを意味することができる。絶対リスクは、関連する時間コホートに対する実際の観察後の測定値を参照するか、又は関連する時間期間にわたって追跡された統計的に有効な過去のコホートから開発された指標値を参照して測定することができる。相対リスクとは、低リスクコホートの絶対リスク又は平均的な集団リスクと比較した被験者の絶対リスクの比率をいい、臨床リスク因子の評価方法によって異なる場合がある。オッズ比(ある検査結果に対する陽性事象と陰性事象の割合)も一般的に使用される(オッズは式p/(l-p)に従っており、pは事象の確率、(1-p)は事象なしの確率)、無変換に使用される。本発明の文脈における「リスク評価」または「リスクの評価」は、事象または疾患状態が発生し得る確率、オッズ、または可能性、事象の発生率、またはある疾患状態から別の疾患状態への変換を予測することを包含する。リスク評価はまた、以前に測定された集団を基準とした絶対的または相対的な観点から、将来の臨床パラメータ、従来の実験室の危険因子値、または再発の他の指標を予測することを包含することができる。本発明の方法は、転換リスクの連続的又はカテゴリー的な測定を行うために使用することができ、従って、転換のリスクがあると定義された被験者のカテゴリーのリスクスペクトルを診断し定義することができる。カテゴリー的シナリオでは、本発明は、正常な被験者コホートとリスクが高い他の被験者コホートとを識別するために使用することができる。いくつかの実施形態では、本発明は、リスクのあるものを正常なものと識別するように使用され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、CSCRの可能性のある全ての原因を除外するためのルーチンスクリーニングを受けることなく、CSCRの症状を呈する対象に適用される。本明細書に記載の方法は、ぼやけた視覚、歪み、盲点、淡い色、実際よりも小さく見える物体、明るい光に対するトラブル及び/又は類似色の背景に対して物体を見る能力の低下(コントラスト感度)などのCSCRの症状を呈する対象に対して行われるルーチン検査の一部であり得る。本発明の方法は、青色眼底自発蛍光イメージング、スペクトル領域光コヒーレンス・トモグラフィー及び/又はフルオレセイン血管造影を含む他の診断ツールに追加して実施することが可能である。
【0017】
いくつかの実施形態では、試料は血液試料である。本明細書で使用される場合、用語「血液試料」は、対象から得られる任意の血液試料を意味する。血液サンプルの収集は、当業者によく知られている方法によって行うことができる。いくつかの実施形態では、血液試料は、血清試料又は血漿試料である。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「リポカリン2」、「Lcn2」又は「NGAL」は、当該技術分野におけるそれらの一般的意味を有し、Schmidt-Ott KM.et al.(2007)に記載されているように、Neutrophil Gelatinase-Associated Lipocalinを意味する。NGALは、任意の供給源から得ることができるが、典型的には、哺乳類(例えば、ヒト及び非ヒト霊長類)NGAL、特にヒトNGALである。例示的なヒトネイティブNGALアミノ酸配列は、GenPeptデータベースにおいてアクセッション番号NP_005555で提供されている。NGALは糖タンパク質であり、もともと好中球特異的顆粒成分として、またリポカリンファミリーのタンパク質のメンバーとして同定された。このタンパク質は25kDaの単量体と45kDaのジスルフィド結合したホモダイマーとして存在し、さらに好中球ゼラチナーゼ(別名マトリックスメタロプロテアーゼ9、MMP-9)と分子間ジスルフィド橋を介して共有結合し、135kDaのヘテロダイマーの形態で存在している可能性が示された。
【0019】
NGALの発現レベルを決定する方法は、当技術分野でよく知られている。例えば、サンプル中のタンパク質のレベルを決定するための任意の従来の方法を使用することができる。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、試料を、試料中に存在しやすいタンパク質と選択的に相互作用することができる結合パートナーと接触させることを含んでいる。結合パートナーは、ポリクローナル又はモノクローナル、好ましくはモノクローナルであってもよい抗体であってもよい。いくつかの実施形態では、結合パートナーはアプタマーであってよい。抗体又はアプタマーなどの本発明の結合パートナーは、蛍光分子、放射性分子又は当該技術分野で公知の他の標識などの検出可能な分子又は物質で標識されてもよい。標識は、一般に(直接的又は間接的に)シグナルを提供する当技術分野で既知である。本明細書で使用されるように、抗体に関して、「標識された」という用語は、抗体又はアプタマーをカップリング(すなわち。放射性物質や蛍光体(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)、インドシアニン(Cy5))等の検出可能な物質を抗体またはアプタマーにカップリング(すなわち、物理的に連結)することによる抗体またはアプタマーの直接標識、ならびに検出可能な物質との反応性によるプローブまたは抗体の間接標識も含むことを意図している。本発明の抗体またはアプタマーは、当該技術分野において既知の任意の方法によって放射性分子で標識することができる。前述のアッセイは、一般に、結合パートナー(すなわち、抗体またはアプタマー)の固体支持体への結合を伴う。本発明の実施に使用できる固体支持体には、ニトロセルロース(例えば、膜またはマイクロタイターウェル形態);ポリ塩化ビニル(例えば、シートまたはマイクロタイターウェル);ポリスチレンラテックス(例えば、ビーズまたはマイクロタイタープレート);ポリビニリジンフロライド;ジアゾ化紙;ナイロン膜;活性化ビーズ、磁気応答性ビーズ等の基材がある。バイオマーカータンパク質のレベルは、競合型、直接反応型、またはサンドイッチ型アッセイなどのイムノアッセイを含む標準的な免疫診断技術を用いることによって測定され得る。そのようなアッセイには、凝集試験;ELISAなどの酵素標識および媒介免疫アッセイ;ビオチン/アビジン型アッセイ;ラジオイムノアッセイ;免疫電気泳動;免疫沈降が含まれるが、これらに限定されるものではない。より詳細には、ELISA法を用いることができ、例えば、マイクロタイタープレートのウェルは、前記バイオマーカータンパク質を認識する一組の抗体でコーティングされる。次いで、前記バイオマーカータンパク質を含む又は含むと疑われる試料を、コーティングされたウェルに添加する。抗体-抗原複合体の形成に十分な期間インキュベートした後、プレートを洗浄して未結合部分を除去し、検出可能に標識された二次結合分子を添加することができる。二次結合分子は、捕捉されたサンプルマーカータンパク質と反応させ、プレートを洗浄し、当技術分野でよく知られている方法を用いて二次結合分子の存在を検出することができる。ある実施形態では、イムノアッセイは、タンパク質に対して特異性を有する2つの抗体を使用することができる。典型的には、第1の抗体は、タンパク質を「検出」するように使用され、第2の抗体は、タンパク質を「捕捉」するように使用される。いくつかの実施形態では、この方法は、i)タンパク質に特異的な量の第1の抗体で固体支持体コーティングを提供し、ii)サンプルを固体支持体と接触させ、iii)ラベルに結合した量の第2の抗体を添加することによって達成される。標識に特異的な結合パートナーの量を測定することで、サンプル中に存在するタンパク質の量が明らかになる。通常、第一抗体は、第二抗体との相互作用を妨げないエピトープに向いている。通常、ステップii)およびiii)の後に、洗浄ステップ(非イオン性洗剤を含むまたは含まないPBSなどの任意の適切なバッファーを用いる)が行われる。通常、タンパク質の非特異的結合をブロックするために、BSAまたは牛乳および/または血清(ヤギまたはウシ)を含むバッファーを用いてブロッキングステップを実施する。バイオマーカータンパク質のレベルの測定(イムノアッセイに基づく方法の有無にかかわらず)は、化合物の分離も含み得る:化合物の分子量に基づく遠心分離;質量及び電荷に基づく電気泳動;疎水性に基づくHPLC;大きさに基づくサイズ排除クロマトグラフィー;及び使用する特定の固相に対する化合物の親和性に基づく固相親和性。一旦分離されると、前記バイオマーカータンパク質は、その化合物の既知の「分離プロファイル」例えば保持時間に基づいて同定され、標準的な技術を用いて測定され得る。あるいは、NGALは、例えば、質量分析計によって検出及び測定されてもよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、NGALのレベルは、所定の基準値と比較される。所定の基準値は、典型的には、閾値又はカットオフ値である。典型的には、「閾値」又は「カットオフ値」は、実験的、経験的、又は理論的に決定することができる。また、閾値は、当業者であれば認識できるように、既存の実験及び/又は臨床条件に基づいて任意に選択することができる。例えば、所定の基準値を設定する際に、適切にバンクされた過去の被験者の試料におけるレトロスペクティブな測定を用いてもよい。閾値は、検査の機能及び利益/リスクバランス(偽陽性及び偽陰性の臨床的影響)に従って、最適な感度及び特異性を得るために決定されなければならない。一般的に、最適な感度及び特異度(及び閾値)は、実験データに基づくROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を用いて決定することができる。例えば、NGALの濃度を決定した後、被検体で決定した濃度をアルゴリズム解析で統計処理し、被検体の分類に有意な分類基準を得ることができる。ROC曲線の正式名称は受信者動作特性曲線であり、受信者動作特性曲線とも呼ばれる。主に臨床生化学診断検査に用いられる。ROC曲線は、真陽性率(感度)と偽陽性率(1-特異度)の連続変数を反映した包括的な指標であり、感度と偽陽性率の関係を明らかにする。画像構成法による感度と特異度の関係を明らかにするものである。一連の異なるカットオフ値(閾値または臨界値、診断検査の正常と異常の境界値)を連続変数として設定し、一連の感度および特異度値を算出する。そして、感度を縦座標、特異度を横座標として、曲線を描く。曲線下面積(AUC)が大きいほど、診断の精度が高いことを意味する。ROC曲線において、座標軸の左上端に最も近い点が、高感度、高特異度の両方の値を持つ臨界点である。ROC曲線のAUC値は1.0から0.5の間である。AUC>0.5の場合、AUCが1に近づくにつれて診断結果が良くなっていく。AUCが0.5~0.7の場合、精度は低い。AUCが0.7から0.9の場合、精度は中程度である。AUCが0.9より高い場合、精度は高い。このアルゴリズム法は、好ましくはコンピュータで行われる。ROC曲線の描画には、当該技術分野における既存のソフトウェアまたはシステムを使用することができ、例えば、以下のようなものがある。MedCalc9.2.0.1医療統計ソフト、SPSS9.0、ROCPOWER.SAS、DESIGNROC.FOR MULTIREADERPOWER.SAS、CREATE-ROC.SAS、GBSTATVI0.0(DynamicMicrosystems,Inc.SilverSpring,Md.,USA)等がある。
【0021】
いくつかの実施形態では、所定の基準値は、健康な個体の集団において決定されたNGALのレベルである。典型的には、NGALのレベルが、健常者の集団において決定されたレベルよりも低い(少なくとも0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、100倍低い)場合、患者はCSCRに苦しんでいるか又は再発の危険があると判断される。
【0022】
本発明の方法は、CSCRと、NGALのレベルが典型的には所定の基準値よりも高い加齢黄斑変性症(AMD)などの他の眼疾患との間の鑑別診断に特に好適である。したがって、本発明のさらなる目的は、対象から得られた試料中のNGALのレベルを決定することを含む、対象におけるCSCRとAMDとの間の鑑別診断のための方法に関し、NGALの高レベルは、対象がAMDに苦しんでいることを示し、NGALの低レベルは、対象がCSCRに苦しんでいることを示している。
【0023】
本明細書で使用する場合、「高い」という用語は、正常よりも大きい、所定の基準値又はサブグループの測定値などの基準よりも大きい、又は別のサブグループの測定値よりも相対的に大きい測定値を意味する。例えば、高い発現レベルは、患者のサンプルの特定のセットにおけるNGALの正常レベルより大きいNGALのレベルを指す。NGALの正常レベルは、当業者に利用可能な任意の方法に従って決定されてもよい。高レベルのNGALはまた、所定のカットオフなどの所定の基準値に等しいか又はそれよりも大きいレベルを指すこともある。高レベルのNGALはまた、高レベルのサブグループが別のサブグループよりも相対的に大きなレベルのNGALを有する、NGALのレベルを指してもよい。例えば、限定されないが、本明細書によれば、限定されないが中央値などの数学的に決定された点の周りでサンプルを分割することによって、2つの異なる患者サブグループを作成することができ、したがって、測定値が高い(すなわち、中央値より高い)サブグループ及び測定値が低い別のサブグループを作成することができる。場合によっては、「高い」レベルは、非常に高いレベルの範囲と、「中程度に高い」レベルの範囲とからなる場合があり、中程度に高いとは、通常よりも大きいが「非常に高い」よりも小さいレベルである。
【0024】
本明細書で使用する場合、「低い」という用語は、正常より低い、所定の基準値などの基準より低い、又は別のサブグループのレベルより相対的に低いサブグループの測定値であるNGALのレベルを意味する。例えば、低レベルのNGALは、患者のサンプルの特定のセットにおけるNGALの正常レベルより低いNGALのレベルを意味する。NGALの正常レベルは、当業者に利用可能な任意の方法に従って決定されてもよい。低レベルのNGALはまた、所定のカットオフのような所定の基準値よりも小さいレベルを意味してもよい。NGALの低レベルはまた、低レベルのサブグループが別のサブグループよりも相対的に低いレベルを意味してもよい。例えば、限定するものではないが、本明細書によれば、限定するものではないが、中央値のような数学的に決定された点の周りでサンプルを分割することによって、2つの異なる患者サブグループを作成することができ、したがって、測定値が高い(すなわち、中央値よりも大きい)別のグループに関して、測定値が低い(すなわち、中央値よりも小さい)グループを作成することができる。場合によっては、「低い」レベルは、非常に低いレベルの範囲と、「中程度の低さ」のレベルの範囲とからなる場合があり、中程度の低さは、通常よりも低いが、「非常に低い」よりも高いレベルである。
【0025】
本発明のさらなる目的は、CSCRに罹患している対象における再発のリスクを予測する方法であって、対象から得られたサンプル中のNGALのレベルを決定することを含み、前記レベルが再発のリスクを示す方法に関するものである。
【0026】
本明細書で使用する場合、「再発」という用語は、被験者が治療後に寛解を享受した後に、疾患の徴候及び症状が再発することを指す。したがって、当初、対象疾患が緩和もしくは治癒され、または疾患の進行が停止もしくは減速され、その後、疾患または疾患の1つ以上の特性が再開された場合、対象は「再発」していると称される。
【0027】
本発明のさらなる目的は、i)治療前に対象から得られたサンプル中のNGALのレベルを決定することii)ステップi)で決定されたレベルをステップii)で決定されたレベルと比較することiii)ステップii)で決定されたレベルがステップi)で決定されたレベルより高い場合に、対象が応答を達成したと結論付けることを含む、CSCRを患う対象が治療によって応答を達成するかどうかを決定する方法に関するものである。
【0028】
したがって、本方法は、レスポンダーと非レスポンダーとを識別するのに特に適している。本明細書で使用される場合、本開示の文脈における「レスポンダー」という用語は、応答を達成する対象、すなわち寛解状態にある対象、より詳細にはもはやCSCRに苦しまない対象を指す。非レスポンダー対象は、治療後に疾患が減少又は改善を示さない対象を含む。
【0029】
本発明によれば、治療は、CSCRの治療に適し得る任意の方法または薬物もしくは治療からなる。例えば、薬物又は治療法は、抗VEGF剤、炭酸脱水酵素阻害剤、ミネラルコルチコイド拮抗剤、レーザー光凝固、ダイオードマイクロパルスレーザー、Verteporfin光力学療法(PDT)及び/又は経瞳孔温熱療法から構成されている。
【0030】
本明細書で使用される「抗VEGF剤」は、VEGF-仲介血管新生を阻害する分子を意味する。例えば、抗VEGF治療薬は、VEGFに対する抗体又は他のアンタゴニストであり得る。抗VEGF抗体」は、本発明の方法において有用であるために十分な親和性及び特異性でVEGFに結合する抗体である。抗VEGF抗体は、通常、VEGF-B又はVEGF-Cなどの他のVEGF同族体、又はP1GF、PDGF又はbFGFなどの他の成長因子に結合しない。好ましい抗VEGF抗体は、ハイブリドーマATCCRHB10709が産生するモノクローナル抗VEGF抗体A4.6.1と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体であり、高親和性の抗VEGF抗体である。高親和性抗VEGF抗体」は、モノクローナル抗VEGF抗体A4.6.1に比べてVEGFに対する親和性が少なくとも10倍以上良好である。好ましくは、抗VEGF抗体は、WO98/45331に従って生成された組み換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体断片であり、Y0317のCDRまたは可変領域からなる抗体を含む。より好ましくは、抗VEGF抗体は、ラニビズマブ(LUCENTISR)として知られている抗体フラグメントである。抗VEGF抗体ラニビズマブは、ヒト化された親和性成熟抗ヒトVEGFFabフラグメントである。ラニビズマブは、大腸菌発現ベクターおよび細菌発酵による標準的な組換え技術手法により製造されている。ラニビズマブはグリコシル化されておらず、分子量は-48,000ダルトンである。W098/45331および米国2003/0190317を参照。抗VEGF剤には、ベバシズマブ(rhuMabVEGF、アバスチンR、Genentech、South San Francisco Calif.)、ラニビズマブ(rhuFAbV2、ルーセンティスR、Genentech)、ペガプタニブ(MacugenR、Eytech Pharmaceuticals、New YorkN.Y.)、サニチニブマレエート(SutentR、Pfizer、Groton Conn.)などがあるが、それだけにとどまらない。いくつかの実施形態では、抗VEGF剤は、ヒトVEGFR1又はVEGFR2受容体の細胞外ドメインの、主要リガンド結合部分とヒトIgGIのFc部分とを融合させた2つの受容体-Fc融合タンパク質からなる高親和度でVEGFと結合できる二量体融合タンパク質(「VEGFトラップ」と呼ばれる)である。具体的には、VEGFトラップは、VEGFR1由来のIgドメイン2とVEGFR2由来のIgドメイン3が融合し、さらにこれがIgGIのFcドメインと融合して構成されている。
【0031】
本明細書で使用されるように、用語「MRアンタゴニスト」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有する。化合物のMRアンタゴニストは、J、SouqueA、Wurtz JM、Moras D、Rafestin-Oblin MEに記載されるような様々な方法を用いて決定することができる。Mol Endocrinol.2000 Aug;14(8):1210-21;Fagart J、Seguin C、PinonGM、Rafestin-Oblin ME.Mol Pharmacol.2005 May;67(5):1714-22又はHellal-LevyC、Fagart J、Souque A、Wurtz JM、Moras D、Rafestin-Oblin ME.Mol Endocrinol.2000Aug;14(8):1210-21。例えば、本発明によるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、一般にスピロラクトン型ステロイド化合物である。スピロノラクトン型」という用語は、スピロ結合配置を介して、典型的にはステロイド「D」環で、ステロイド核に結合したラクトン部分を含む構造を特徴付けることを意図している。スピロノラクトン型ミネラルコルチコイド受容体拮抗化合物のサブクラスは、エプレレノンなどのエポキシステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗化合物で構成される。スピロノラクトンタイプのアンタゴニスト化合物の別のサブクラスは、スピロノラクトンのような非エポキシステロイド系ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト化合物から構成されている。本発明によるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬はまた、非ステロイド性であってもよい。例えば、非ステロイド性MR拮抗薬のクラスは、過去数年間に出現し始めたばかりである(Meyers,Marvin J1;Hu,Xiao Expert Opinionon Therapeutic Patents,Volume17,Number1,January 2007,pp.17-23(7)及びPiotrowski DW.高血圧および糖尿病性腎症の治療のための鉱質コルチコイド受容体拮抗薬 J.Med.Chem.2012,55,7957-7966)。例えば、ジヒドロピルミジンはMR拮抗作用を示すことが示されている(Activation of Mineralocorticoid Receptors by Exogenous Glucocorticoids and the Development of Cardiovascular Inflammatory Responses in Adrenalectomized Rats.Young MJ,Morgan J,Brolin K,Fuller PJ,Funder JW.Endocrinology.2010Apr21)。さらに、Arhancet el al.は、他のクラスの非ステロイド性MR拮抗薬を開示している(Arhancet GB,Woodard SS,Dietz JD,Garland DJ,Wagner GM,Iyanar K,Collins JT,Blinn JR,Numann RE,Hu X,Huang HC.J.Vol.ジヒドロピリジンのミネラルコルチコイド受容体拮抗作用に必要な立体化学的要件。J Med Chem.2010年4月21日)。他の例示的な非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬には、US20090163472、WO2004052847、WO2008053300、WO2008104306、WO2007025604、WO201264631、WO2008126831に記載されているがそれだけに限られない。WO2012008435、WO2010104721、WO200985584、WO200978934、WO2008118319、WO200917190、WO200789034、WO2012022121、WO2012022120、WO2011141848及びWO200777961は参照により本開示に組み込まれるものである。
【0032】
本発明のさらなる目的は、i)本発明の方法に従って、対象がCSCRを有するかまたは有する危険性があるかを決定し、ii)対象がCSCRを有するかまたは有する危険性があると考えられる場合に、上記のような療法または薬剤に投与することを含む、それを必要とする対象におけるCSCRを治療する方法に関する。
【0033】
本発明は、以下の図および実施例によってさらに説明される。ただし、これらの実施例および図は、本発明の範囲を限定するものとして、何ら解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A図1A:急性/再発CSCR患者および慢性CSCR患者のNGAL血清レベル(ng/ml)を対照群と比較したもの。
図1B図1B:急性/再発CSCR患者および慢性CSCR患者におけるNGAL/MMP9血清レベル(ng/ml)をコントロールと比較したもの。
図2図2:急性/再発CSCRと対照群におけるROC曲線NGAL血清レベル
図3図3:急性/再発CSCRと対照群におけるNGAL/MMP9血清レベルのROC曲線。
図4図4:ウェット型AMD患者におけるNGAL血清レベル(ng/ml)を対照群と比較したもの。
図5図5:WetAMD患者におけるNGAL血清レベル(ng/ml)をCSCR患者と比較したもの。
図6図6:マウスの視神経からの距離(μm)に対する網膜外側の厚さ(μm)の関係。
【0035】
実施例
方法
患者
Jules Gonin Eye Hospital(スイス・ローザンヌ)、Ophthalmopole Cochin病院(フランス・パリ)、Rotterdam Eye Hospital(オランダ・ロッテルダム)で募集した3コホートの患者さんが対象となった。血清分析は、各施設で検体が採取される前にパリで計画されていた。症例選択は、マルチモーダル網膜画像で表現型が明確に定義された患者からのサンプルが利用可能かどうかに基づいて行われた。
【0036】
CSCRの診断基準は、青色眼底自発蛍光画像、スペクトル領域光干渉断層計(SD-OCT、Spectralis、HeidelbergEngineering、Heidelberg、ドイツ)、フルオレセイン血管造影などのマルチモーダル画像で定義された。患者は,青色自発蛍光とフルオレセイン血管造影で特徴付けられる基礎的な多巣性上皮症の存在に基づき,2群に分けられた。上皮腫のある患者を慢性例とし、上皮腫のない患者を急性・再発例に分類した。
【0037】
加齢黄斑変性症(ドルーゼンの存在が特徴)、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、6D以上の強度近視、緑内障など、その他の眼疾患を持つ患者は、この研究から除外した。
【0038】
対照被験者の血清は、BFSとInsermの協定に基づき、Banque Francaisedu Sang(BFS)から入手した。血液は、眼科疾患の既往のないドナーから採取した。
【0039】
倫理に関する声明
本研究は、ヘルシンキ宣言の教義を遵守し、フランス(CPP Ile de France 1,C16-09N°DC-2016-2620)、スイス(CER-VDEyeomics340/15)、オランダではIRBの認可を受けた各国の機関審査委員会の承認を得て実施されました。各患者および健康な参加者について、書面によるインフォームドコンセントを取得した。
【0040】
LCN2およびNGAL/MMP9の血清レベル測定
Human Lipocalin-2/NGALQuantikine ELISA KitおよびHuman MMP-9/NGALComplex Quantikine ELISA Kit(R&DSystems(登録商標),catalog number DLCN20 and DM9L20 respectively,Minneapolis,MN)を用いて、メーカーのプロトコルに従いNGALおよびNGAL/MMP9複合体を測定した。すべてのサンプルは二重に試験され、20倍希釈が必要であった。LCN2レベルは、腎機能および炎症状態によって影響を受けるため26および炎症状態によって影響を受けるため21CRP>5mg/L、クレアチニン>100μmol/L、尿素>7.5mmol/Lの患者は除外した(CSCR群と対照群ではそれぞれ53名と24名が除外された)。ELISA分析は、2019年にパリでJCとTJが診断を盲検化して実施した。
【0041】
統計
記述統計、比較統計、相関統計はGraphPad Prism(version5.0f,GraphPad Software)で計算された。定量的な値は、平均値±標準偏差で表した。Kolmogorov-Smirnov検定は、定量値の正規分布または非正規分布を評価するために採用した。定量値の比較にはMann-Whitney検定を用い、相関の評価にはSpearman相関係数を用いた。サブグループ間の割合の比較には、必要に応じてフィッシャーの正確検定またはカイ二乗検定を採用した。血清マーカー値の感度、特異度、カットオフ値を評価するために、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線をプロットし、分析した。0.05以下のP値を有意とした。
【0042】
結果
コホートの人口統計学的特性
CSCR患者168名と対照群153名の人口統計学的特徴を表1に示す。対照群の平均年齢は、CSCR群(50.1±10.7、p=0.0002)よりも有意に若かった(43±12.8歳)。また、慢性期CSCR患者(n=90、55.2±9.9)の平均年齢は、急性期/再発例(n=7844.1±8.2、p<0.0001)より高かった。しかし、急性/再発CSCR患者の年齢には対照群と比較して有意差はなかった(p=0.83)。対照群ではCSCRコホートよりも女性が有意に多かったが、慢性型CSCRでは急性型よりも女性の罹患者が多いため、対照群と比べて有意な差はなかった。
【0043】
CSCRでは、血清中のNGAL/LCN2およびNGAL(LCN2)/MMP9レベルが対照群より低くなっている。
【0044】
CSCR患者168人と対照群153人の血清中のNGAL(LCN2)およびLCN2/MMP9(NGAL/MMP9)複合体濃度を表2および図1Aに示す。血清NGAL(ng/ml)は、CSCRコホート(80.4±46.4、p<0.0001)よりも対照群(108.8±46.8)で有意に高値であった。血清NGAL(ng/ml)は、急性期/再発コホート(n=78、71.3±32.1)で対照群より、また、慢性期コホート(n=90、88.3±55、p=0.03)より有意に低値であった。同様に、血清NGAL/MMP9(ng/ml)レベルは、CSCR全コホートで44.5±39.6と対照群(77.6±47.8、p<0.0001)より低値であった。血清NGAL/MMP9(ng/ml)は、急性/再発コホート(n=78,37.6±37.9)が対照群、および慢性コホート(n=90,50.5±40.3,p=0.002)よりも有意に低値だった(表2および図1B)。
【0045】
男性CSCRでは、血清中のNGAL/LCN2およびNGAL(LCN2)/MMP9レベルが男性対照群より低い。
【0046】
対照コホートとCSCRコホートの性比に有意差があったため、性による交絡因子の可能性を排除するために、CSCRの男性患者141例と対照男性112例のリポカリン(NGAL)およびリポカリン/MMP9複合体の血清レベルも評価した(Table3)。男性集団では、コホート全体と同様に、LCN2(NGAL、ng/ml)のレベルは、対照群よりもCSCR患者で低く(80.7±47.7vs101.5±41.7,p<0.001)、レベルは慢性型と比較して急性/再発型で低かった(71.9±33.1vs89.1±57.5,p=0.004)。NGAL/MMP9レベル(ng/ml)も、CSCRコホートでは対照男性コホートより低く43.1±37.7vs72.2±42.7,p<0.0001)、急性/再発型で慢性型より低かった(36.8±38.5vs49.1±36.4,p=0.001)。
【0047】
CSCRおよび対照群では、血清中のNGAL/LCN2およびNGAL/MMP9の濃度は年齢と相関しない
対照群の平均年齢はCSCR群の年齢より低く、慢性CSCR群の年齢は急性/再発群より高いので、対照群とCSCR群の両方で血清LCN2(NGAL)およびNGAL/MMP9レベルが年齢と相関しているかどうかを分析した。表4と5に示すように、NGALのレベルはNGAL/MMP9のレベルと有意に相関しているが、対照群とCSCR群の両方で年齢とNGALまたはNGAL/MMP9のいずれにも相関は見られなかった。表6と表7は、急性/再発CSCR群と慢性CSCR群において、年齢とNGALおよびNGAL/MMP9の血清レベルとの間に相関がないことを示しており、年齢が交絡因子であることを除外した結果である。
【0048】
CSCRおよびコントロール被験者において、性別はLCN2(NGAL)およびNGAL/MMP9の血清レベルに影響を及ぼさない
対照群とCSCR群の性比が我々の結果に影響を与えないようにするため、LCN2(NGAL)とNGAL/MMP9のレベルが、CSCRと対照群の男性集団と女性集団で異なるかどうかを評価した。表8は、NGALとNGAL/MMP9のレベルが、どちらの集団でも性別と相関がないことを示している。
【0049】
ROCカーブ解析
図2に示すように、ROC曲線は、NGALの血清レベルについて、80ng/mLのカットオフ値は、感度79.5%、特異度74.8%で急性/再発CSCR(<80ng/mL)とコントロール(≧80ng/mL)を識別することができることを示している。NGAL/MMP9複合体の血清レベルについては、カットオフ値40ng/mLで急性/再発CSCR(<40ng/mL)とコントロール(≧40ng/mL)を感度72.7%、特異度76.0%で識別することができる(図3)。
【0050】
再発のリスク
我々は、NGALをKOしたトランスジェニックラットを用いて、光照射による視細胞の損失が有意に大きいことを示し、NGAL欠損が光誘導性酸化ストレスへの感受性を高めることを示した(図6)。これらの結果は、NGALの低レベルがCSCRの重症度の危険因子であり、CSCRに罹患した被験者の再発の危険性と関連することを示すものである。
【0051】
考察
本研究の結果、CSCR患者は対照群と比較してLCN2およびLCN2/MM9レベルが低いことが示された。患者が3つの異なるコホートに由来するという事実が、この予期せぬ発見を補強している。対照被験者で測定された血清レベルは、他の対照集団の範囲内である(30歳女性、115±86ng/ml)32。142名、男性72名、女性70名、56.8±11.57歳、122.53±26.15ng/ml)33。我々の観察と同様に、他のコホートでは、LCN2レベルと年齢や性別との間に有意な相関は認められなかった34,35。したがって、この研究の弱点は、対照群とCSCR群の年齢および性別の比率の違いにあるが、これらの要因は我々の結果に影響を及ぼさなかったかもしれない。
【0052】
代謝21および心臓36疾患や急性腎不全23,24において、LCN2値の上昇は、疾患バイオマーカーとして考えられている。血漿中LCN2は糖尿病性網膜症の初期マーカーとして同定されており、LCN2レベルの上昇は網膜症の重症度と相関している30。また、スターガート病、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症の患者の血漿中では、健常対照者と比較してLCN2レベルの上昇が確認されている10。しかし、驚くべきことに、CSCRでは、血清中のLCN2濃度は健常対照者と比較して低下している。さらに、NGAL/MMP9複合体も減少しており、CSCR患者ではLCN2の内因性産生が減少していることが示唆される。さらに、上皮障害の兆候のない患者は、上皮障害のある患者よりもLCN2およびNGAL/MMP9のレベルが低いが、いずれの形態も対照群と比較してレベルが低下している。この所見は、本疾患の急性型と慢性型の間の生物学的なつながりを示しており、これが基礎的なメカニズムである可能性がある。LCN2がむしろ炎症促進作用を示す他の臓器と比較して、網膜では、LCN2は抗炎症および抗酸化作用を示し、特にAbca4-/-Rdh8-/-マウスで光照射したような既存のRPE病変がある場合、その効果が顕著である19。従って、LCN2の減少はRPEにとって有害であり、CSCRの慢性型に見られる上皮障害につながる病態に寄与している可能性がある。一方、NGAL/MMP9の減少は、MMP9活性の低下により、白血球の浸潤から網膜を保護する可能性があることを意味する。実際、脳では、免疫細胞由来のMMP-9が、実験的自己免疫性脳脊髄炎における血液脳関門を介した白血球の最初の浸潤に必要であり37また、網膜における白血球の浸潤は、AKT2-NFkB-LCN2軸の結果として、AMD患者の網膜で観察されている15
【0053】
もう一つの興味深いメカニズムは、LCN2が、NF-κBによって誘導される稀な分子の一つであることである12。グルココルチコイドによって発現が上昇し38。NF-kBの活性化に対して負のフィードバックが働き、エンドトキシン誘発ぶどう膜炎において抗炎症効果を発揮することである11。同様に、LCN2は脳を炎症から守り16虚血ストレスで破壊された血液脳関門を修復し、ZO-1とVE-Cadherinの適切な膜分布を直接促進する39。CSCR患者におけるグルココルチコイドの逆説的作用は、網膜浮腫とRPEバリア破壊を軽減する代わりに、悪化させる要因となっており、グルココルチコイドによるリポカリン2の不適切な制御から生じる可能性がある。
【0054】
最近、Parmarらは、LCN2が抗酸化酵素であるヘムオキシゲナーゼ1(HMOX1)とスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD2)の発現を上昇させ、H2O2誘導性の細胞死に対して強い用量依存性の保護作用を示すことを明らかにした。さらに、LCN2は炎症誘発性アポトーシスからhiPS-RPE細胞を保護し、光ストレスはLCN2受容体SLC22A17の発現を促進した。このことから、RPE細胞または免疫細胞が産生するLCN2が炎症や酸化ストレスによる変性から網膜を保護する役割を果たすことが示唆された10.CSCR患者における血清LCN2の減少は、RPEバリアの変化と酸化ストレスに対する過度の感受性に関与している可能性があり、これはジスルフィド/チオール比が健常対照群に比べCSCR患者で著しく大きいという最近の観察からも裏付けられている40。一方、NGAL/MMP9複合体の減少は、MMP9活性を低下させ、その結果、血液網膜バリアを保護すると考えられ、CSCRでは網膜外バリアのみが破壊されていることを説明することができる。
【0055】
CSCR患者におけるLCN2およびNGAL/MMP9の血清レベルが眼球レベルを反映しているかどうか、また、これらのレベルが健常対照者と比較してコルチコイドシミュレーションによってどのように変化するかは、今後明らかにされる予定である。
【0056】
結論として、上皮障害を伴うCSCRと伴わないCSCRでLCN2が減少していることは、本疾患の2つの型の間の生物学的な関連性を示し、疾患発症の機序との関連性を示唆するものである。また、CSCRは眼に限定された疾患ではなく、より一般的なLCN2の調節異常である可能性が示唆された。我々の知る限り、CSCRはLCN2レベルの低下を伴う唯一の眼疾患であり、特にAMDとの鑑別診断が困難な場合、本疾患のバイオマーカーとして利用できる可能性がある。
【0057】
リポカリン2(NGAL)は、年齢をマッチさせた対照群と比較して、AMD患者の血漿中に有意な増加が認められる(Plasma level of lipocalin2 is increased in neovascularage-related macular degeneration patients,particularly those with macularfibrosis.Chen M,et al.ImmunAgeing.Nov.2020.pmid:33292361)。ドライ型AMD患者では、リポカリン2の血漿レベルがコントロールと比較して増加することが示されている(Lipocalin2 Plays an Important Role in Regulating Inflammation in Retinal Degeneration.Parmar T,Parmar VM,Peruse kL,Georges A,Takahashi M,Crabb JW,MaedaA.J Immunol.2018May1;200(9):3128-3141.doi:10.4049/jimmunol.1701573)。新生血管性AMD患者の房水は、AMDを伴わない白内障の手術を受けた患者と比較してリポカリン2レベルが上昇している(The Intraocular Cytokine Profileand Therapeutic Response in Persistent Neovascular Age-Related Macular Degeneration.Rezar-Dreind lS,Sacu S,Eibenberger K,Pollreisz A,Buhl W,Georgopoulos M,Kral lC,Weigert G,Schmidt-Erfurth U.Invest Ophthalmol Vis Sci.2016 Aug1;57(10):4144-50)。ウェットAMDの患者の血清中のNGAL濃度をコントロールと比較して測定したところ、NGAL血清濃度の有意な上昇が認められた(コントロール:n=88、AMD:n=46)(図4)。また、CSCRの患者と比較して、wetAMDの患者の血清中では、NGALのレベルが有意に高くなった(図5)。この相関関係から、CSCRとAMDの鑑別診断にNGAL値を使用できる可能性がある。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】
【0066】
参考文献
本出願を通じて、様々な参考文献が、本発明が属する技術の状態を記述している。これらの文献の開示内容は、参照することにより本開示に組み込まれる。
【0067】
【表9】
【0068】
【表10】
【0069】
【表11】
【0070】
【表12】
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6