(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】ワークをレーザ溶接する方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20250617BHJP
B23K 26/322 20140101ALI20250617BHJP
B23K 26/28 20140101ALI20250617BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20250617BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/322
B23K26/28
B23K26/082
B23K26/21 W
(21)【出願番号】P 2022559135
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2021039364
(87)【国際公開番号】W WO2022092042
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020183152
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】和泉 貴士
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-094701(JP,A)
【文献】特開昭62-296982(JP,A)
【文献】国際公開第2015/104781(WO,A1)
【文献】特開2003-025082(JP,A)
【文献】特開平03-234387(JP,A)
【文献】特開2015-74012(JP,A)
【文献】特開2009-50894(JP,A)
【文献】特開平4-138888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに面接触するように重ね合わされた第1のワーク及び第2のワークをレーザ溶接する方法であって、
前記第1のワーク及び前記第2のワークの各々は、母材を有するとともに、該第1のワーク及び該第2のワークの少なくとも一方は、該第1のワーク及び該第2のワークの前記母材の間に介挿された被覆材を有し、
レーザ発振器によってレーザ光を生成して前記第1のワークに照射し、
前記レーザ溶接を実行すべき溶接箇所を包含するように前記第1のワークに定められた加熱領域内で前記レーザ光の照射点を、該加熱領域に定められた往路及び復路を繰り返し往復動するように揺動させることによって、該加熱領域に対応する、前記第1のワーク及び前記第2のワークの合わせ面領域を、前記被覆材の沸点以上、且つ、前記第1のワークの前記母材の融点よりも低い温度まで加熱し、
前記合わせ面領域において前記被覆材を前記加熱により気化することによって前記第1のワーク及び前記第2のワークの間に隙間を形成し、該隙間を通して該被覆材を該合わせ面領域の外側へ排出し、
前記被覆材を前記合わせ面領域の外側へ排出した後に、前記溶接箇所に前記レーザ光を照射して、前記第1のワーク及び前記第2のワークの前記母材を前記溶接箇所で溶融させて互いに溶接
し、
前記往路は、矩形の前記加熱領域の第1の頂点、第2の頂点、及び第3の頂点を通過するように定められる一方、前記復路は、該加熱領域の前記第3の頂点、第4の頂点、及び前記第1の頂点を通過するように定められる、方法。
【請求項2】
前記レーザ発振器が生成した前記レーザ光の光路上に配置されたミラーによって該レーザ光を反射することで、該レーザ光を前記第1のワークに照射し、
前記ミラーの向きを変化させることによって、前記加熱領域内で前記照射点を揺動させる、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミラーは、
前記光路上に配置され、前記照射点を前記加熱領域内の第1軸に沿って変位可能な第1のミラーと、
前記第1のミラーが反射した前記レーザ光の光路上に配置され、前記照射点を前記加熱領域内の、前記第1軸と直交する第2軸に沿って変位可能な第2のミラーを有する、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記合わせ面領域を加熱するときに、前記加熱領域内で前
記照射点を第1の速度で揺動させ
、
前記第1のワーク及び前記第2のワークの前記母材を溶融させるときに、前記溶接箇所に
照射される前記レーザ光の照射点を、該溶接箇所に沿って前記第1の速度よりも低い第2の速度で前進させる
、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記合わせ面領域を加熱するときに前記加熱領域に照射される前記レーザ光の前記照射点の面積は、前記第1のワーク及び前記第2のワークの前記母材を溶融させるときに前記溶接箇所に照射される前記レーザ光の照射点の面積よりも大きい、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記合わせ面領域を加熱するときに前記加熱領域に照射される前記レーザ光のレーザパワーは、前記第1のワーク及び前記第2のワークの前記母材を溶融させるときに前記溶接箇所に照射される前記レーザ光のレーザパワーよりも大きい、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記合わせ面領域を加熱するときに前記加熱領域に照射される前記レーザ光の集光密度は、前記第1のワーク及び前記第2のワークの前記母材を溶融させるときに前記溶接箇所に照射される前記レーザ光の集光密度よりも小さい、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記合わせ面領域を加熱するときに、前記加熱領域内で前記照射点を揺動させる速度とともに、前記加熱領域に照射される前記レーザ光のレーザパワーを変化させる、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のワーク及び前記第2のワークの前記母材を溶融させるときに、前記溶接箇所に照射される前記レーザ光の照射点を揺動させつつ該溶接箇所に沿って前進させる、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記合わせ面領域を加熱するときに、第1のタイプの前記レーザ光を前記加熱領域に照射し、
前記第1のワーク及び前記第2のワークの前記母材を溶融させるときに、前記第1のタイプとは異なる第2のタイプの前記レーザ光を前記溶接箇所に照射する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のタイプのレーザ光は、パルス発振レーザ光である一方、前記第2のタイプのレーザ光は、連続発振レーザ光である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記合わせ面領域を加熱するときに、前記加熱領域の中央部の温度が最も高くなるように前記照射点を該加熱領域内で揺動させる、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記被覆材を前記合わせ面領域の外側へ排出した後、前記第1のワークの前記母材を、予め定められた閾値以下の温度まで冷却したときに、前記溶接箇所に前記レーザ光を照射して前記第1のワーク及び前記第2のワークの前記母材を溶融させる、請求項1~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記閾値は、前記被覆材の融点である、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記合わせ面領域を加熱している間に、温度センサによって前記加熱領域の温度を測定し、
前記温度センサが測定した前記温度に基づいて、前記合わせ面領域の温度を推定し、
推定した前記合わせ面領域の温度に応じて、前記合わせ面領域を加熱するための作業条件を変更する、請求項1~
14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワークをレーザ溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆材(亜鉛めっき)を間に介挿するように重ね合わされた一対のワーク(亜鉛めっき鋼板)をレーザ溶接する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、母材の間に介挿された被覆材がレーザ光の加熱によって気化することにより、溶融した母材に混入し、母材の内部に気泡が生じてしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様において、互いに面接触するように重ね合わされた第1のワーク及び第2のワークをレーザ溶接する方法は、第1のワーク及び第2のワークの各々は、母材を有するとともに、該第1のワーク及び該第2のワークの少なくとも一方は、該第1のワーク及び該第2のワークの母材の間に介挿された被覆材を有し、レーザ発振器によってレーザ光を生成して第1のワークに照射し、レーザ溶接を実行すべき溶接箇所を包含するように第1のワークに定められた加熱領域内でレーザ光の照射点を揺動させることによって、該加熱領域に対応する、第1のワーク及び第2のワークの合わせ面領域を、被覆材の沸点以上、且つ、第1のワークの母材の融点よりも低い温度まで加熱し、合わせ面領域において被覆材を加熱により気化することによって第1のワーク及び第2のワークの間に隙間を形成し、該隙間を通して該被覆材を該合わせ面領域の外側へ排出し、被覆材を合わせ面領域の外側へ排出した後に、溶接箇所にレーザ光を照射して、第1のワーク及び第2のワークの母材を溶接箇所で溶融させて互いに溶接する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、合わせ面領域から隙間を通して被覆材を排出できるので、母材が溶融される領域から被覆材を確実に除去できる。したがって、母材を溶接箇所で溶融したときに、該母材の内部に被覆材の蒸気による気泡が混入することを防止することができる。また、被覆材の蒸気を外部へ逃がすための貫通孔を母材に形成する必要がないので、溶接フローのプロセスを簡単化できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係るレーザ溶接システムの概略図である。
【
図2】
図1に示すレーザ溶接システムのブロック図である。
【
図3】
図1に示すレーザ照射装置及び照射点移動機構の一例である。
【
図4】
図1に示す一対のワークの拡大断面図である。
【
図7】加熱領域に設定された照射点移動経路の往路の一例を示す。
【
図8】加熱領域に設定された照射点移動経路の復路の一例を示す。
【
図9】加熱領域に設定された照射点移動経路の一例を示す。
【
図10】レーザ溶接システムによる溶接フローの一例を示すフローチャートである。
【
図11】合わせ面領域を説明するための図であって、
図4に対応する。
【
図12】合わせ面領域の温度分布のグラフの例を示す。
【
図13】
図10中のステップS2によって、一対のワークの間に隙間が形成された状態を模式的に示す。
【
図14】他の実施形態に係るレーザ溶接システムの概略図である。
【
図15】
図14に示すレーザ溶接システムのブロック図である。
【
図16】
図14に示すレーザ溶接システムによる溶接フローの一例を示すフローチャートである。
【
図18】加熱領域に設定された照射点移動経路の他の例を示す。
【
図19】加熱領域に設定された照射点移動経路のさらに他の例を示す。
【
図20】加熱プロセスにおける照射点の速度及びレーザパワーの制御例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する種々の実施形態において、同様の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の説明においては、図中の直交座標系C1を方向の基準とし、便宜上、座標系C1のx軸プラス方向を右方、y軸プラス方向を前方、z軸プラス方向を上方として言及する。
【0009】
図1及び
図2を参照して、一実施形態に係るレーザ溶接システム10について説明する。レーザ溶接システム10は、一対のワークW1及びW2をレーザ光によって溶接するためのシステムである。レーザ溶接システム10は、レーザ発振器12、導光部材14、レーザ照射装置16、照射装置移動機構18、照射点移動機構20、及び制御装置22を備える。
【0010】
レーザ発振器12は、固体レーザ発振器(例えば、YAGレーザ発振器、又はファイバレーザ発振器)、又は、ガスレーザ発振器(例えば、炭酸ガスレーザ発振器)等であって、制御装置22からの指令に応じて、光共振によって内部でレーザ光LBを生成し、導光部材14へ出射する。
【0011】
導光部材14は、光ファイバ、中空又は透光材からなる導光路、反射鏡、又は光学レンズ等の光学要素を有し、レーザ発振器12が生成したレーザ光LBをレーザ照射装置16へ導光する。レーザ照射装置16は、レーザスキャナ、又はレーザ加工ヘッド等であって、導光部材14から入射したレーザ光LBを集光し、ワークW1に照射する。
【0012】
照射装置移動機構18は、レーザ照射装置16をワークW1及びW2に対して相対的に移動させる。例えば、照射装置移動機構18は、レーザ照射装置16を座標系C1における任意の位置へ移動可能な垂直多関節ロボットである。代替的には、照射装置移動機構18は、レーザ照射装置16を座標系C1のx-y平面に沿って移動させるとともに、座標系C1のz軸方向に移動させる複数のボールねじ機構を有してもよい。
【0013】
座標系C1は、例えば、作業セルの3次元空間を規定するワールド座標系、照射装置移動機構18の動作を制御するための移動機構座標系(例えば、ロボット座標系)、又は、ワークW1及びW2の座標を規定するワーク座標系等であって、レーザ溶接システム10の各可動コンポーネント(すなわち、照射装置移動機構18、及び照射点移動機構20)の動作を自動制御するための制御座標系である。
【0014】
照射点移動機構20は、レーザ照射装置16がレーザ光LBをワークW1に照射したときの該ワークW1上の照射点Pを、該ワークW1に対して相対的に移動させる。具体的には、照射点移動機構20は、ミラー若しくは光学レンズ等の光学要素、該光学要素を駆動する駆動装置、又は、ワークW1及びW2を移動させるワークテーブル等を有し、これらコンポーネントを動作させることにより、照射点PをワークW1に対して相対的に移動させる。
【0015】
制御装置22は、レーザ発振器12、レーザ照射装置16、照射装置移動機構18、及び照射点移動機構20の動作を制御する。具体的には、制御装置22は、プロセッサ50、メモリ52、及びI/Oインターフェース54を有するコンピュータである。プロセッサ50は、CPU又はGPU等を有し、バス56を介してメモリ52及びI/Oインターフェース54に通信可能に接続されている。プロセッサ50は、メモリ52及びI/Oインターフェース54と通信しつつ、後述する各種機能を実現するための演算処理を行う。
【0016】
メモリ52は、RAM又はROM等を有し、各種データを一時的又は恒久的に記憶する。I/Oインターフェース54は、例えば、イーサネット(登録商標)ポート、USBポート、光ファイバコネクタ、又はHDMI(登録商標)端子を有し、プロセッサ50からの指令の下、外部機器との間でデータを有線又は無線で通信する。
【0017】
制御装置22には、入力装置58及び表示装置60が設けられている。入力装置58は、キーボード、マウス、又はタッチパネル等を有し、オペレータからデータ入力を受け付ける。表示装置60は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等を有し、各種データを表示する。レーザ発振器12、レーザ照射装置16、照射装置移動機構18、照射点移動機構20、入力装置58、及び表示装置60は、I/Oインターフェース54に有線又は無線で通信可能に接続されている。
【0018】
次に、
図3を参照して、一実施形態に係るレーザ照射装置16及び照射点移動機構20について説明する。
図3に示すレーザ照射装置16は、レーザスキャナであって、本体部24、受光部26、光学レンズ28、レンズ駆動装置30、及び出射部32を有する。本体部24は中空であって、その内部にレーザ光LBの伝搬路を画定する。受光部26は、本体部24に設けられ、導光部材14を伝搬したレーザ光LBを受光する。
【0019】
光学レンズ28は、フォーカスレンズ等を有し、レーザ光LBを集光する。本実施形態においては、光学レンズ28は、該光学レンズ28に入射するレーザ光LBの光軸Oの方向に移動可能となるように、本体部24の内部に支持されている。レンズ駆動装置30は、圧電素子、超音波振動子、又は超音波モータ等を有し、制御装置22からの指令に応じて、光学レンズ28を光軸Oの方向へ変位させ、これにより、ワークW1に照射されるレーザ光LBの焦点を、光軸Oの方向へ変位させる。出射部32は、光学レンズ28によって集光されたレーザ光LBを、本体部24の外部へ出射する。
【0020】
本体部24の内部には、さらに、ミラー34及び36、ミラー駆動装置38及び40が収容されている。ミラー34(第1のミラー)は、軸線A1の周りに回動可能となるように、本体部24の内部に支持されている。ミラー34は、受光部26を通して本体部24の内部に入射したレーザ光LBの光路O上に配置され、該レーザ光LBをミラー36へ向かって反射する。
【0021】
ミラー駆動装置38は、例えばサーボモータであって、制御装置22からの指令に応じて、ミラー34を軸線A1の周りに回動させる。こうして、ミラー駆動装置38は、ミラー34を回動させることで該ミラー34の向きを変化させ、これにより、ミラー34によるレーザ光LBの反射方向を変化させることができる。
【0022】
一方、ミラー36(第2のミラー)は、軸線A2の周りに回動可能となるように、本体部24の内部に支持されている。軸線A2は、軸線A1と略直交する。ミラー36は、ミラー34が反射したレーザ光LBの光路O上に配置され、該レーザ光LBを光学レンズ28へ向かって反射する。
【0023】
ミラー駆動装置40は、例えばサーボモータであって、制御装置22からの指令に応じて、ミラー36を軸線A2の周りに回動させる。こうして、ミラー駆動装置40は、ミラー36を回動させることで該ミラー36の向きを変化させ、これにより、ミラー36によるレーザ光LBの反射方向を変化させることができる。一般的に、ミラー34及び36は、ガルバノミラーと称されるものであり、ミラー駆動装置38及び40は、ガルバノモータと称されるものである。
【0024】
以上のように、受光部26から本体部24の内部に入射したレーザ光LBは、ミラー34及び36によって反射された後、光学レンズ28によって集光され、出射部32を通して外部へ出射されて、ワークW1に照射される。制御装置22は、ミラー駆動装置38及び40を動作させることにより、ミラー34及び36の向きをそれぞれ変化させ、これにより、ワークW1に照射されたレーザ光LBの照射点Pを、該ワークW1に対して移動させる。すなわち、本実施形態においては、ミラー34及び36と、ミラー駆動装置38及び40とは、照射点移動機構20を構成する。
【0025】
次に、レーザ溶接システム10を用いてワークW1及びW2をレーザ溶接する方法について、説明する。
図1及び
図4に示すように、ワークW1及びW2は、平板状の部材であって、互いに面接触するように重ね合わされて、治具(図示せず)等によって固定される。本実施形態においては、ワークW1及びW2の各々は、座標系C1のx-y平面に略平行となるように、座標系C1における既知の位置に位置決めされる。
【0026】
ワークW1は、母材100と、該母材100の表面に積層された被覆材102とを有する。母材100は、金属(例えば、鉄)からなる平板部材であって、上面104と、該上面104とは反対側の下面106とを有する。本実施形態においては、被覆材102は、母材100の全ての表面を覆うように該表面上に積層されており、母材100の上面104を覆う第1の層102aと、母材100の下面106を覆う第2の層102bとを有する。被覆材102は、母材100とは異なる種類の金属(例えば、亜鉛)である。
【0027】
同様に、ワークW2は、母材110と、該母材110の表面に積層された被覆材112とを有する。母材110は、金属(例えば、鉄)からなる平板部材であって、上面114と、該上面114とは反対側の下面116とを有する。本実施形態においては、被覆材112は、母材110の全ての表面を覆うように該表面上に積層されており、母材110の上面114を覆う第1の層112aと、母材110の下面116を覆う第2の層112bとを有する。被覆材112は、母材110とは異なる種類の金属(例えば、亜鉛)である。
【0028】
なお、本実施形態においては、母材100及び110は、互いに同じ種類の金属(鉄)であり、また、被覆材102及び112は、互いに同じ種類の金属(亜鉛)であるとする(例えば、ワークW1及びW2は、ともに亜鉛めっき鋼板である)。被覆材102及び112の沸点T1(亜鉛の場合、約900℃)は、母材100及び110の融点T2(鉄の場合、約1500℃)よりも低い。
【0029】
ワークW1及びW2は、被覆材102の第2の層102bと、被覆材112の第1の層112aとが互いに面接触するように重ね合わされて、固定される。ワークW1及びW2が固定されたとき、
図4に示すように、被覆材102の第2の層102bと、被覆材112の第1の層112aとは、母材100及び110の間に介挿される。
【0030】
ワークW1及びW2を溶接するための準備プロセスPPとして、オペレータは、ワークW1及びW2を溶接する作業を実行するための作業条件CDを設定する。この作業条件CDは、後述する本溶接プロセスWPでレーザ溶接を実行すべき溶接箇所WLのデータ、及び、後述する加熱プロセスHPにおいてワークW1を加熱すべき加熱領域HAのデータを含む。以下、
図5~
図9を参照して、溶接箇所WL及び加熱領域HAの設定方法について、説明する。
【0031】
まず、オペレータは、座標系C1において、ワークW1に対し溶接箇所WLを設定する。
図5に示す例では、溶接箇所WLは、ワークW1の被覆材102の第1の層102aに設定された2つの教示点TP1及びTP2と、該教示点TP1及びTP2を結ぶ溶接線LNとによって画定されている。教示点TP1及びTP2は、後述する本溶接プロセスWPでレーザ光LBの照射点Pを位置決めすべき目標位置であり、溶接線LNは、教示点TP1から教示点TP2へ照射点Pを移動させるべき目標経路を規定する。
【0032】
例えば、オペレータは、表示装置60に表示されたワークW1及びW2の図面データ(CADデータ)を視認しつつ、入力装置58を操作して、ワークW1の第1の層102aに、教示点TP1及びTP2を指定する。プロセッサ50は、オペレータからの入力データに応じて、座標系C1において教示点TP1及びTP2と溶接線LNとを設定する。
【0033】
次いで、オペレータは、入力装置58を操作して、溶接箇所WLを包含するように加熱領域HAを第1の層102aに設定する。
図5に示す例では、加熱領域HAは、その内側に溶接箇所WLの全域を収め、その長手方向が座標系C1のx軸と平行であり、その短手方向が座標系C1のy軸と平行である矩形領域として、設定されている。
【0034】
より具体的には、加熱領域HAは、その長手方向の長さx1と、その短手方向の幅y1とを有している。一例として、加熱領域HAの長さx1は、加熱領域HAの左辺SD1が教示点TP1よりも距離x2(例えば、1[mm]~2[mm])だけ左方へ離隔した位置に配置される一方、加熱領域HAの右辺SD2が教示点TP2よりも距離x3(例えば、1[mm]~2[mm])だけ右方へ離隔した位置に配置されるように、設定され得る。よって、この場合、加熱領域HAの長さx1は、座標系C1のx軸方向における溶接線LNの長さよりも長くなる。
【0035】
また、加熱領域HAの幅y1は、後述する本溶接プロセスWPで母材100及び110を溶接線LNに沿って溶接したときに該溶接線LNに形成されるビードの、座標系C1のy軸方向の幅(又は、本溶接プロセスWP又は加熱プロセスHP時のレーザ光LBの照射点Pの幅)の3倍以上の幅として、設定され得る。加熱領域HAの各頂点及び各辺は、座標系C1の座標として表すことができる。こうして、溶接箇所WLを包含するように加熱領域HAが第1の層102aに設定される。
【0036】
次いで、オペレータは、加熱領域HAに、加熱プロセスHP用の教示点TPnと照射点移動経路MPとを設定する。加熱プロセスHP用の教示点TPnは、後述する加熱プロセスHPでレーザ光LBの照射点Pを位置決めすべき目標位置であり、照射点移動経路MPは、教示点TPnから教示点TPn+1へ照射点Pを移動させるべき目標経路を規定する。教示点TPnの設定例を、
図6に示す。
【0037】
オペレータは、入力装置58を操作して、加熱領域HAに教示点TP11、TP12、TP13、TP14、TP15及びTP16を設定する。なお、
図6では、理解の容易のために、溶接箇所WLを省略している。
図6に示す例では、教示点TP11、TP12、TP15及びTP16は、それぞれ、加熱領域HAの頂点に配置され、教示点TP14及びTP13は、それぞれ、加熱領域HAの辺SD1及びSD2の中点に配置されている。
【0038】
次いで、オペレータは、入力装置58を操作して、
図7に示すように、教示点TPnを基に、照射点移動経路MPの往路を設定する。
図7に示す例では、照射点移動経路MPの往路は、教示点TP11→TP12→TP13→TP14→TP15という経路として、設定されている。
【0039】
次いで、オペレータは、入力装置58を操作して、
図8に示すように、照射点移動経路MPの復路を設定する。
図8に示す例では、照射点移動経路MPの復路は、教示点TP15→TP16→TP13→TP14→TP11という経路として、設定されている。こうして、
図9に示すように、照射点移動経路MPが、教示点TP11→TP12→TP13→TP14→TP15→TP16→TP13→TP14→TP11という経路として、加熱領域HAに設定される。
【0040】
教示点TP11~TP16と照射点移動経路MPとは、座標系C1の座標として表される。座標系C1における加熱領域HAの位置は、教示点TP11~TP16及び照射点移動経路MPの座標として表すことができる。したがって、加熱領域HAは、教示点TP11~TP16及び照射点移動経路MPによって画定される領域であると見做すことができる。
【0041】
以上のように、オペレータは、ワークW1に対して溶接箇所WL(教示点TP1及びTP2、溶接線LN)と、加熱領域HA(教示点TP11~TP16、照射点移動経路MP)とを、設定する。なお、オペレータは、ワークW1上の別々の位置に、複数の溶接箇所WL及び加熱領域HAをそれぞれ設定してもよい。
【0042】
このように設定された溶接箇所WLの位置データ(具体的には、座標系C1における教示点TP1及びTP2、並びに溶接線LNの座標)、及び、加熱領域HAの位置データ(具体的には、座標系C1における教示点TP11~TP16、及び照射点移動経路MPの座標)は、作業条件CDとして、メモリ52に記憶される。
【0043】
また、作業条件CDは、加熱プロセスHPにおける照射点Pの揺動速度V1(第1の速度)及びレーザ光LBのレーザパワーLP1、加熱プロセスHPを実行する時間tHP、本溶接プロセスWPにおける照射点Pの前進速度V2(第2の速度)及びレーザ光LBのレーザパワーLP2、加熱プロセスHP及び本溶接プロセスWPにおけるレーザ光LBの焦点位置FP、並びに、加熱プロセスHP及び本溶接プロセスWPにおけるレーザ発振器12の運転モードOM等のデータをさらに含む。
【0044】
レーザ発振器12の運転モードOMは、例えば、第1のタイプのレーザ光LB1をレーザ発振器12に生成させるための第1の運転モードOM1と、第1のタイプとは異なる第2のタイプのレーザ光LB2をレーザ発振器12に生成させるための第2の運転モードOM2とを含む。例えば、第1のタイプのレーザ光LB1は、パルス発振レーザ光である一方、第2のタイプのレーザ光LB2は、連続発振レーザ光である。
【0045】
準備プロセスPPにおいて、オペレータは、入力装置58を操作して、速度V1及びV2、レーザパワーLP1及びLP2、時間tHP、座標系C1における焦点位置FPの座標、並びに運転モードOMを、作業条件CDとして設定する。そして、オペレータは、設定した作業条件CD(溶接箇所WL、加熱領域HA、速度V1及びV2、レーザパワーLP1及びLP2、時間tHP、焦点位置FP、運転モードOM)を基に、溶接プログラムPGを作成する。
【0046】
この溶接プログラムPGは、プロセッサ50に後述する溶接フロー(
図10)を実行させるコンピュータプログラムであって、該溶接プログラムPGには、作業条件CDの各パラメータが規定される。作成された溶接プログラムPGは、制御装置22のメモリ52に格納される。このように、準備プロセスPPにおいて、作業条件CDの設定と、溶接プログラムPGの作成とが行われる。
【0047】
次に、
図10を参照して、レーザ溶接システム10の溶接フローについて説明する。
図10に示す溶接フローは、プロセッサ50が、オペレータ、上位コントローラ、又はコンピュータプログラム(例えば、溶接プログラムPG)から溶接開始指令を受け付けたときに、開始される。プロセッサ50は、メモリ52に予め格納された溶接プログラムPGに従って、
図10に示す溶接フローを実行する。
【0048】
ステップS1において、プロセッサ50は、照射装置移動機構18を動作させて、レーザ照射装置16をワークW1及びW2に対し、所定の溶接位置PWに配置させる。この溶接位置PWにレーザ照射装置16が配置されたとき、溶接対象とする1つの溶接箇所WLに対して設定された加熱領域HAの全域が、照射点移動機構20によるワークW1上の照射点Pの移動範囲内に収まる。
【0049】
ステップS2において、プロセッサ50は、加熱プロセスHPを実行する。具体的には、プロセッサ50は、まず、レーザ発振器12の運転モードOMを第1の運転モードOM1に切り換えて、レーザパワーLP1を有する第1のタイプのレーザ光LB1を生成させるための指令をレーザ発振器12に発信する。該指令に応じて、レーザ発振器12は、レーザパワーLP1のレーザ光LB1をパルス発振により生成し、導光部材14を通してレーザ照射装置16へ出射する。
【0050】
これとともに、プロセッサ50は、レーザ照射装置16のレンズ駆動装置30(
図3)を動作させて光学レンズ28の位置を調整し、これにより、レーザ照射装置16から出射されるレーザ光LB1の焦点を、焦点位置FP1に制御する。本実施形態においては、この焦点位置FP1は、ワークW1の上面(つまり、被覆材102の第1の層102aの上面)よりも僅かに上方(又は、下方)にずれた位置に、設定される。
【0051】
こうして、レーザパワーLP1のレーザ光LB1がワークW1上に照射される。このときのレーザ光LB1の照射点P1は、面積E1を有する。この面積E1は、ワークW1の上面からの焦点位置FP1のずれ量に比例する。なお、この時点で照射点P1は、加熱領域HAの教示点TP11に配置されてもよい。
【0052】
次いで、プロセッサ50は、照射点移動機構20を動作させて、加熱領域HA内でレーザ光LB1の照射点P1を速度V1で揺動させる。具体的には、プロセッサ50は、ミラー駆動装置38及び40を動作させることでミラー34及び36の向きをそれぞれ変化させ、これにより照射点P1をワークW1に対し速度V1で移動させる。
【0053】
例えば、レーザ照射装置16が溶接位置PWに配置されたときに、ミラー34及び36の一方は、その向きを変えることで照射点P1を加熱領域HA内で座標系C1のx軸に沿って変位可能であり、ミラー34及び36の他方は、その向きを変えることで照射点P1を加熱領域HA内で座標系C1のy軸に沿って変位可能である。
【0054】
プロセッサ50は、ミラー34及び36の向きをそれぞれ変化させることで、照射点P1を、上述した照射点移動経路MP(教示点TP11→TP12→TP13→TP14→TP15→TP16→TP13→TP14→TP11という経路)に沿って速度V1で繰り返し往復動させ、これにより、照射点P1を加熱領域HA内で揺動させる。このときの速度V1は、例えば、200[m/min]に設定される。
【0055】
このように加熱領域HA内で照射点P1を高速で揺動させると、該加熱領域HAの全域がレーザ光LB1によって加熱され、加熱領域HAに生じた熱が母材100を通してワークW1及びW2の合わせ面領域SEへ伝搬し、該合わせ面領域SEも加熱されることになる。
【0056】
なお、合わせ面領域SEとは、互いに面接触する被覆材102の第2の層102bの下面と、被覆材112の第1の層112aの上面とを含む領域であって、例えば、母材100の下面106と母材110の上面114との間の領域(又は、第2の層102b及び第1の層112aの占有領域)として定義され得る。
【0057】
ここで、本実施形態においては、合わせ面領域SEのうち、加熱領域HAに対応する合わせ面領域SE’を、被覆材102(つまり、被覆材112)の沸点T1以上、且つ、母材100(つまり、母材110)の融点T2よりも低い温度T(T1≦T<T2)まで加熱するように、プロセッサ50は、加熱領域HA内で照射点P1を、時間tHPに亘って継続して揺動させる。
【0058】
合わせ面領域SE’は、例えば、加熱領域HAを合わせ面領域SEへ座標系C1のz軸方向に投影させた領域(換言すれば、合わせ面領域SEのうち、加熱領域HAと座標系C1のx-y平面内の位置及び面積が略同じである領域)として定義され得る。
図11に、合わせ面領域SE’の一例を、灰色領域として模式的に示している。
【0059】
図12に、このステップS2で加熱される合わせ面領域SE’の、座標系C1のy軸方向の温度分布のグラフの例を示す。
図12のy座標:y
αは、座標系C1における教示点TP15及びT16(
図9)のy軸方向の位置に相当し、y座標:y
βは、座標系C1における教示点TP13及びT14のy軸方向の位置に相当し、y座標:y
γは、座標系C1における教示点TP11及びT
P12のy軸方向の位置に相当する。
【0060】
ステップS2により、合わせ面領域SE’の温度Tは、
図12に示すように、被覆材102の沸点T1以上、且つ母材100の融点T2よりも低い温度範囲内(T1≦T<T2)に収まるように、制御される。本実施形態においては、照射点P1を照射点移動経路MPの往路(
図7)及び復路(
図8)を一往復させる間に、該照射点P1は、照射点移動経路MPのうち、教示点TP13及びT14の間の経路を2回通過する一方、それ以外の経路を1回だけ通過することになる。
【0061】
換言すれば、照射点移動経路MPによれば、ステップS2において照射点P1が、加熱領域HAの、座標系C1のy軸方向の中央部を、より多く通過することになる。これにより、加熱領域HAの中央部の温度が最も高くなり、その結果、
図12に示すように、合わせ面領域SE’においても、その中央部(y=y
βの部分)の温度が最も高くなる。
【0062】
合わせ面領域SE’を、沸点T1以上且つ融点T2よりも低い温度Tまで加熱すると、該合わせ面領域SE’に存在する被覆材102の第2の層102bと被覆材112の第1の層112aとが気化する。このときの被覆材102及び112の気化によって発生する気体の膨張圧力は、非常に高くなる。
【0063】
よって、合わせ面領域SE’に生じた被覆材102及び112の膨張圧力により、母材110の上面114が下方へ押されるとともに、母材100の下面106が上方へ押されて、その結果、高温となっている母材100及び110が、僅かに弾性変形する。このときの母材100及び110の弾性変形は、可逆的であって、母材100及び110が冷却されると元の形状に戻る。
【0064】
このような被覆材102及び112の気化と、該気化によって引き起こされる母材100及び110の弾性変形と、加熱による母材100及び110の熱膨張等によって、
図13に示すように、一対のワークW1及びW2の間に、隙間Gが形成される。なお、
図13では、理解の容易のために隙間Gを強調して示しているが、実際上は、隙間Gはミクロンオーダーの寸法であることを理解されたい。
【0065】
合わせ面領域SE’に生じた被覆材102及び112の蒸気は、この隙間Gを通して、該合わせ面領域SE’の外側へ放射状に吹き飛ばされる。その結果、合わせ面領域SE’に存在していた被覆材102の第2の層102bと被覆材112の第1の層112aとが、該合わせ面領域SE’の外側へ排出される。
【0066】
このように、このステップS2において、合わせ面領域SE’を沸点T1以上且つ融点T2よりも低い温度Tまで加熱することで、母材100及び110を固体状態に保ちつつ、被覆材102及び112を合わせ面領域SE’から排出することができる。換言すれば、ステップS2で用いられる作業条件CD(速度V1、レーザパワーLP1、時間tHP、焦点位置FP1、及び運転モードOM1)は、合わせ面領域SE’の温度Tを、沸点T1以上且つ融点T2よりも低い温度範囲内に制御できるように、設定される。
【0067】
本発明者は、各々の厚さが0.7[mm]の亜鉛めっき鋼板であるワークW1及びW2に対し、以下の作業条件CDでステップS2を実行する実験を行った。
[作業条件CD]
加熱領域HA 長さx1=50[mm]×幅y1=2[mm]
速度V1 200[m/min]
レーザパワーLP1 5[kW]
時間tHP 400[msec]
焦点位置FP1 ワークW1の上面から上方へ10[mm]の位置
運転モードOM1 パルス発振モード
【0068】
この実験の結果、合わせ面領域SE’の全域を内側に包含する、長さx≒55[mm]×幅y≒3[mm]の矩形領域から、被覆材102及び112が排出されたことを確認した。すなわち、この実験結果は、作業条件CDを適切に設定することにより、合わせ面領域SE’のみならず、該合わせ面領域SE’の周囲の領域からも、被覆材102及び112を排出できることを示している。
【0069】
プロセッサ50は、ステップS2で照射点P1の揺動を開始した時点から、作業条件CDとして設定された時間tHPが経過したときに、レーザ発振器12に指令を送り、レーザ光LB1の出射を停止し、以って、ステップS2の加熱プロセスHPを終了する。例えば、プロセッサ50は、レーザ発振器12によるレーザ光生成動作を停止させることで、レーザ光LB1の出射を停止してもよい。代替的には、レーザ発振器12は、出射したレーザ光LB1の光路を開閉するシャッタをさらに有し、プロセッサ50は、該シャッタを閉じることで、レーザ光LB1の出射を停止してもよい。
【0070】
再度、
図10を参照して、ステップS3において、プロセッサ50は、母材100及び110が、予め定めた閾値T3以下の温度まで冷却されたか否かを判定する。この閾値T3は、例えば、被覆材102及び112の融点に設定されてもよいし、又は、大気の常温に設定されてもよい。
【0071】
一例として、プロセッサ50は、ステップS2の加熱プロセスHPを終了した時点からの経過時間t1を計時し、該経過時間t1が予め定めた時間tthに達したときに、母材100及び110が閾値T3以下の温度まで冷却された(すなわち、YES)と判定してもよい。
【0072】
この時間tthは、ステップS2で加熱された母材100及び110が、閾値T3以下の温度まで冷却されるのに十分な時間として、オペレータによって予め定められ(例えば、tth=20[msec])、メモリ52に記憶される。プロセッサ50は、YESと判定した場合はステップS4へ進む一方、NOと判定した場合は、ステップS3をループする。
【0073】
ステップS4において、プロセッサ50は、本溶接プロセスWPを実行する。具体的には、プロセッサ50は、まず、レーザ発振器12の運転モードOMを第2の運転モードOM2に切り換えて、レーザパワーLP2を有する第2のタイプのレーザ光LB2を生成させるための指令をレーザ発振器12に発信する。
【0074】
該指令に応じて、レーザ発振器12は、レーザパワーLP2のレーザ光LB2を連続発振により生成し、導光部材14を通してレーザ照射装置16へ出射する。本実施形態においては、レーザパワーLP2は、ステップS2のレーザパワーLP1よりも小さい値(LP2<LP1)に設定される。
【0075】
これとともに、プロセッサ50は、レーザ照射装置16のレンズ駆動装置30を動作させて光学レンズ28の位置を調整し、これにより、レーザ照射装置16から出射されるレーザ光LB2の焦点を、焦点位置FP2に制御する。本実施形態においては、この焦点位置FP2は、上述の焦点位置FP1よりもワークW1の上面(つまり、被覆材102の第1の層102aの上面)に近い位置(例えば、第1の層102aの上面の位置)に、設定される。
【0076】
こうして、レーザパワーLP2のレーザ光LB2がワークW1上に照射される。このときのレーザ光LB2の照射点P2は、焦点位置FP2に応じた面積E2(<E1)を有することになる。なお、この時点で照射点P2は、溶接箇所WLの教示点TP1に配置されてもよい。
【0077】
次いで、プロセッサ50は、照射点移動機構20を動作させて、溶接箇所WLに照射したレーザ光LB2の照射点P2を移動させる。具体的には、プロセッサ50は、ミラー駆動装置38及び40を動作させることでミラー34及び36の向きをそれぞれ変化させ、これにより照射点P2を、教示点TP1から教示点TP2へ、溶接線LNに沿って速度V2で右方へ前進させる。この速度V2は、例えば、3[m/min]に設定され得る(すなわち、V2≪V1)。
【0078】
なお、プロセッサ50は、このステップS4において、照射点P2を揺動させつつ溶接線LNに沿って右方へ前進させてもよい。具体的には、プロセッサ50は、ミラー34及び36の向きを変化させることで、照射点P2を、座標系C1のy軸方向へ揺動させつつ、右方へ前進させる。この構成によれば、レーザ光LB2によって母材100及び110を溶融させたときに、スパッタが発生するのを抑制できる。
【0079】
照射点P2が教示点TP2に到達したとき、プロセッサ50は、レーザ発振器12に指令を送り、レーザ光LB2の出射を停止し、以って、ステップS4の本溶接プロセスWPを終了する。ステップS4の本溶接プロセスWPにより、母材100及び110は、レーザ光LB2によって溶接線LNに沿って溶融され、溶接箇所WLで互いに溶接される。
【0080】
ステップS5において、プロセッサ50は、全ての溶接箇所WLに対する溶接が完了したか否かを判定する。例えば、プロセッサ50は、溶接プログラムPGを解析することで、全ての溶接箇所WLに対する溶接が完了したか否かを判定できる。プロセッサ50は、YESと判定した場合は、
図10に示すフローを終了する。一方、プロセッサ50は、NOと判定した場合はステップS1へ戻り、次の溶接箇所WLに対してステップS1~S5を実行する。
【0081】
以上のように、本実施形態においては、プロセッサ50は、ステップS2において、加熱領域HA内でレーザ光LB1の照射点P1を揺動させることによって、合わせ面領域SE’を、被覆材102、112の沸点T1以上、且つ母材100、110の融点T2よりも低い温度Tまで加熱し、ワークW1及びW2の間に形成された隙間Gを通して被覆材102及び112を合わせ面領域SE’の外側へ排出している。
【0082】
そして、プロセッサ50は、ステップS4において、溶接箇所WLにレーザ光LB2を照射して母材100及び110を溶接箇所WLで溶融させて互いに溶接している。本実施形態によれば、ステップS4で母材100及び110が溶融される領域から、ステップS2により、被覆材102の第2の層102b及び被覆材112の第1の層112aを除去できる。したがって、ステップS4で母材100及び110を溶接箇所WLで溶融したときに、該母材100及び110の内部に被覆材102及び112の蒸気による気泡が混入することを防止することができる。
【0083】
また、本実施形態においては、合わせ面領域SE’において被覆材102及び112の気化によって隙間Gを形成し、該隙間Gを通して被覆材102及び112の蒸気を合わせ面領域SE’の外側へ排出するので、従来のように、ステップS4で生じる第2の層102b及び第1の層112aの蒸気を外部へ逃がすための貫通孔を母材100又は110に形成する必要がない。よって、溶接フローのプロセスを簡単化できる。
【0084】
また、本実施形態においては、ミラー34及び36の向きを変化させることによって、加熱領域HA内で照射点P1を揺動させている。この構成によれば、照射点P1をワークW1に対して高速(速度V1)で揺動させることができる(つまり、速度V1を大きな値に設定することができる)。この構成によれば、ステップS2で合わせ面領域SE’の全域を、比較的均一に加熱できる。
【0085】
また、本実施形態においては、ステップS4の作業条件CDとしての速度V2は、ステップS2の作業条件CDとしての速度V1よりも遥かに低く設定されている(V2≪V1)。この構成によれば、ステップS2で合わせ面領域SE’の全域を比較的均一に加熱できる一方、ステップS4で母材100及び110を確実に溶融させることができる。
【0086】
また、本実施形態においては、ステップS2での照射点P1の面積E1は、ステップS4での照射点P2の面積E2よりも大きい(E1>E2)。この構成によれば、ステップS2でのレーザ光LB1による加熱面積が大きくなるため、合わせ面領域SE’で生じる被覆材102、112の膨張圧力を高めて、該被覆材102、112を排出する効果を高めることができる。その一方で、ステップS4において、照射点P2での単位面積当たりのレーザパワーを高めることができるので、母材100及び110を確実に溶融させることができる。
【0087】
また、本実施形態においては、ステップS2の作業条件CDとしてのレーザパワーLP1は、ステップS4の作業条件CDとしてのレーザパワーLP2よりも大きい(LP1>LP2)。この構成によれば、ステップS2で合わせ面領域SE’を、被覆材102、112の沸点T1以上、且つ母材100、110の融点T2よりも低い温度Tまで迅速に加熱できる。
【0088】
また、本実施形態においては、ステップS2においては、第1のタイプのレーザ光LB1(パルス発振レーザ光)を加熱領域HAに照射する一方、ステップS4においては、第2のタイプのレーザ光LB2(連続発振レーザ光)を溶接箇所WLに照射している。この構成によれば、ステップS2において、ワークW1の上面の温度が過度に上昇するのを防止しつつ、合わせ面領域SE’を効率的に加熱できるとともに、ステップS4で母材100及び110を効率的に溶融させることができる。
【0089】
また、本実施形態においては、ステップS2において、加熱領域HAの中央部の温度T’が最も高くなるように、照射点P1を加熱領域HA内で揺動させている。このように加熱領域HAの温度分布に温度勾配を形成することで、合わせ面領域SE’の温度分布にも
図12に示すような温度勾配が形成され、以って、ステップS2で被覆材102及び112の蒸気を合わせ面領域SE’の外側へ放射状に吹き飛ばす効果を高めることができる。
【0090】
なお、
図12に示すような温度勾配を形成するために、ステップS2において、プロセッサ50は、照射点P1を、照射点移動経路MPのうち、教示点TP13及びT14の間の経路を通過させる間は、レーザパワーLP1をレーザパワーLP1
_1に制御する一方、それ以外の経路を通過させる間は、レーザパワーLP1をレーザパワーLP1
_2(<LP1
_1)に制御してもよい。このように、照射点P1が教示点TP13及びT14の間の経路を通過している間にレーザパワーLP1を上げることで、加熱領域HA(すなわち、合わせ面領域SE’)の中央部の温度が高くなるような温度勾配を、効果的に形成できる。
【0091】
また、本実施形態においては、ステップS2の後、ワークW1の母材100を閾値T3以下の温度まで冷却した(すなわち、ステップS3でYESと判定した)ときに、ステップS4を実行している。このように母材100及び110を加熱した後に冷却することで、該母材100及び110の材料組織が微細化し、以って、母材100及び110の強度を高めることができる。しかしながら、プロセッサ50は、上述のステップS3を省略し、ステップS2の終了直後にステップS4を実行してもよい。
【0092】
なお、上述の実施形態において、メモリ52は、ワークW1及びW2の材質MT(又は熱伝導率)と、該ワークW1及びW2の厚みfと、作業条件CDのパラメータ(溶接箇所WL、加熱領域HA、速度V1及びV2、レーザパワーLP1及びLP2、時間tHP、焦点位置FP、運転モードOM)とが互いに関連付けて格納されたデータテーブルDT1を予め記憶してもよい。
【0093】
一例として、データテーブルDT1は、母材100及び110の材質MTA(又は熱伝導率)、被覆材102及び112の材質MTB(又は熱伝導率)、並びに、ワークW1及びW2の厚みf(又は、母材の厚み及び被覆材の厚み)と、ステップS2(加熱プロセスHP)で用いられる作業条件CDのパラメータ(例えば、溶接線LNの長さ、加熱領域HAの長さx1及び幅y1、速度V1、レーザパワーLP1、時間tHP、焦点位置FP1、及び運転モードOM1)とを互いに関連付けて格納するように、作成されてもよい。
【0094】
そして、プロセッサ50は、データテーブルDT1を表示装置60に表示してもよい。この場合、オペレータは、データテーブルDT1を参照し、作業対象とするワークW1及びW2の母材100及び110の材質MTA、被覆材102及び112の材質MTB、並びに、ワークW1及びW2の厚みfから、ステップS2で用いる最適な作業条件CDを、データテーブルDT1から検索できる。
【0095】
代替的には、プロセッサ50は、材質MTA、材質MTB、及び厚みfを入力可能な入力画面を生成し、表示装置60に表示してもよい。そして、オペレータは、表示装置60に表示された入力画面を視認しつつ、入力装置58を操作して、該入力画面に材質MTA、材質MTB、及び厚みfの情報を入力してもよい。
【0096】
そして、プロセッサ50は、入力された材質MTA及びMTB、並びに厚みfに対応する作業条件CDをデータテーブルDT1から検索し、ステップS2で用いる作業条件CDとして自動で設定してもよい。この構成によれば、作業条件CDの設定作業を自動化できるので、準備プロセスPPを容易化できる。
【0097】
なお、データテーブルDT1は、材質MTA及びMTB、並びに厚みfと、ステップS4(本溶接プロセスWP)で用いられる作業条件CDのパラメータ(例えば、溶接線LNの長さ、加熱領域HAの長さx1及び幅y1、速度V2、レーザパワーLP2、焦点位置FP2、及び運転モードOM2)とを互いに関連付けて格納するように、作成されてもよい。データテーブルDT1は、実験的手法又はシミュレーションによってデータを収集することで、作成できる。
【0098】
次に、
図14及び
図15を参照して、他の実施形態に係るレーザ溶接システム70について説明する。レーザ溶接システム70は、上述のレーザ溶接システム10と、温度センサ72をさらに備える点で、相違する。温度センサ72は、例えば、熱電対、白金測温抵抗体、又は赤外線検知型の測温装置(サーモグラフィーカメラ等)を有し、ワークW1上の加熱領域HAの温度T’を、接触又は非接触で測定する。
【0099】
次に、
図16を参照して、レーザ
溶接システム70の溶接フローについて説明する。本実施形態における溶接フローは、
図10に示すフローと、ステップS2’(加熱プロセスHP)において、相違する。以下、
図17を参照して、ステップS2’について説明する。
【0100】
ステップS2’の開始後、ステップS11において、プロセッサ50は、レーザ光LB1の生成を開始する。具体的には、プロセッサ50は、上述のステップS2と同様に、レーザ発振器12の運転モードOMを第1の運転モードOM1に切り換えて、レーザパワーLP1を有する第1のタイプのレーザ光LB1(パルス発振レーザ光)を、レーザ発振器12に生成させる。これとともに、プロセッサ50は、レンズ駆動装置30を動作させて光学レンズ28の位置を調整し、レーザ光LB1の焦点を、焦点位置FP1に制御する。
【0101】
ステップS12において、プロセッサ50は、レーザ光LB1の照射点P1を加熱領域HA内で揺動する動作を開始する。具体的には、プロセッサ50は、上述のステップS2と同様に、照射点移動機構20を動作させて、加熱領域HA内でレーザ光LB1の照射点P1を、照射点移動経路MPに沿って速度V1で揺動させる動作を開始する。
【0102】
ステップS13において、プロセッサ50は、合わせ面領域SE’の温度Tを推定する。具体的には、プロセッサ50は、この時点で温度センサ72が測定した加熱領域HAの温度T’を取得し、該温度T’に基づいて、合わせ面領域SE’の温度Tを推定する。一例として、メモリ52は、加熱領域HAの温度T’と、合わせ面領域SE’の温度Tとが互いに関連付けて格納されたデータテーブルDT2を予め記憶する。
【0103】
このデータテーブルDT2は、実験的手法、又は熱力学のシミュレーション等を通して、作成することができる。プロセッサ50は、取得した温度T’に対応する温度TをデータテーブルDT2から検索する。こうして、プロセッサ50は、温度センサ72が測定した加熱領域HAの温度T’から、このときの合わせ面領域SE’の温度Tを推定できる。他の例として、温度センサ72が測定した加熱領域HAの温度T’を、既知の熱力学方程式に適用することで、合わせ面領域SE’の温度Tを推定してもよい。
【0104】
なお、温度センサ72は、加熱領域HAの中央部の温度T’を測定するように配置されてもよい。この場合、温度センサ72は、加熱領域HAの最高温度T’を測定することになり、プロセッサ50は、このステップS13で、該最高温度T’から、合わせ面領域SE’の中央部の温度T(最高温度)を推定する。代替的には、温度センサ72は、加熱領域HA内の如何なる位置(例えば、教示点TP11~TP16のいずれかの位置)の温度T’を測定するように配置されてもよい。
【0105】
ステップS14において、プロセッサ50は、直近のステップS13で推定した温度Tが、予め定めた閾値Tth1よりも低い(T<Tth1)か否かを判定する。この閾値Tth1は、オペレータによって予め定められ、メモリ52に記憶される。例えば、閾値Tth1は、被覆材102、112の沸点T1(又はそれ以下の温度)に設定されてもよいし、沸点T1よりも高く、且つ、母材100、110の融点T2よりも低い温度(T1<Tth1<T2)として設定されてもよい。プロセッサ50は、T<Tth1の場合はYESと判定し、ステップS17へ進む一方、T≧Tth1の場合はNOと判定し、ステップS15へ進む。
【0106】
ステップS15において、プロセッサ50は、直近のステップS13で推定した温度Tが、予め定めた閾値Tth2よりも高い(T>Tth2)か否かを判定する。この閾値Tth2は、上述の閾値Tth1よりも高い値としてオペレータによって予め定められ、メモリ52に記憶される。
【0107】
例えば、閾値Tth2は、母材100、110の融点T2(又はそれ以上の温度)に設定されてもよいし、被覆材102、112の沸点T1よりも高く、且つ融点T2よりも低い温度(例えば、T1<Tth1<Tth2<T2)として設定されてもよい。プロセッサ50は、T>Tth2の場合はYESと判定し、ステップS17へ進む一方、T≦Tth2の場合はNOと判定し、ステップS16へ進む。
【0108】
ステップS16において、プロセッサ50は、ステップS12の開始時点から、
作業条件CDに定められた時間t
HPが経過したか否かを判定する。具体的には、プロセッサ50は、ステップS12の開始時点からの経過時間t
2を計時し、該経過時間t
2が時間t
HPに達したか否かを判定する。プロセッサ50は、経過時間t
2が時間t
HPに達した場合はYESと判定し、ステップS2’を終了して、
図16中のステップS3へ進む一方、経過時間t
2が時間t
HPに達していない場合はNOと判定し、ステップS13へ戻る。
【0109】
一方、ステップS14又はS15でYESと判定した場合、ステップS17において、プロセッサ50は、作業条件CDを変更する。具体的には、ステップS14でYESと判定した後のステップS17において、プロセッサ50は、例えば、速度V1を低減し、レーザパワーLP1を増加し、時間tHPを増加し、又は、焦点位置FP1をワークW1の上面に接近させるように、作業条件CDを変更する。
【0110】
ここで、速度V1の低減、レーザパワーLP1の増加、時間tHPの増加、及び、焦点位置FP1のワークW1の上面への接近は、いずれも、加熱領域HA(すなわち、合わせ面領域SE’)の温度を増加させることに繋がる。よって、このように作業条件CDを変更することで、合わせ面領域SE’の温度Tを、閾値Tth1以上となるように増加させることができる。
【0111】
一方、ステップS15でYESと判定した後のステップS17において、プロセッサ50は、例えば、速度V1を増大し、レーザパワーLP1を減少し、時間tHPを低減し、又は、焦点位置FP1をワークW1の上面から離反させるように、作業条件CDを変更する。
【0112】
ここで、速度V1の増大、レーザパワーLP1の減少、時間tHPの低減、及び、焦点位置FP1のワークW1の上面からの離反は、いずれも、加熱領域HA(すなわち、合わせ面領域SE’)の温度を低下させることに繋がる。よって、このように作業条件CDを変更することで、合わせ面領域SE’の温度Tを、閾値Tth2以下となるように低下させることができる。ステップS17を実行した後、プロセッサ50は、変更後の作業条件CDに従ってステップS2’を継続し、ステップS16へ進む。
【0113】
以上のように、本実施形態においては、プロセッサ50は、温度センサ72が測定した加熱領域HAの温度T’から合わせ面領域SE’の温度Tを推定し、該温度Tに応じて作業条件CDを変化させている。この構成によれば、ステップS2’の実行中に、合わせ面領域SE’の温度Tを精細に制御することができ、以って、合わせ面領域SE’に存在する被覆材102及び112を外側へ排出する効果を高めることができる。また、作業条件CD(例えば、加熱プロセスHPを実行する時間tHP)を、最適化できる。
【0114】
なお、レーザ照射装置16及び照射点移動機構20は、
図3に示す形態に限定されない。例えば、
図3に示す照射点移動機構20から、ミラー34及び36の一方を省略してもよい。この場合において、照射点移動機構20は、ミラー34及び36の他方によって、ワークW1上の照射点Pを、ワークW
1に対し、座標系C1のx軸方向に長さx
1で往復動させるように構成されてもよい。
【0115】
その一方で、照射点移動機構20は、ワークW1及びW2が固定されるワークテーブルと、該ワークテーブルを、座標系C1のy軸方向に幅y1で往復動させるテーブル駆動装置(例えば、圧電素子、超音波振動子、又は超音波モータ)とをさらに有してもよい(ともに図示せず)。
【0116】
この場合、照射点移動機構20は、テーブル駆動装置によってワークW1及びW2を座標系C1のy軸方向に揺動させるとともに、ミラー34及び36の他方によって照射点PをワークW1に対して座標系C1のx軸方向に揺動させることで、加熱領域HAの全域を加熱できる。このときの加熱領域HAは、長さx1×幅y1の略矩形の領域となり、ワークW1に対する照射点Pの相対的な移動経路から画定されることになる。
【0117】
また、レーザ照射装置16は、
図3に示すようなレーザスキャナに限らず、例えば、受光したレーザ光を反射するミラーと、該ミラーが反射したレーザ光を集光する光学レンズとを有するレーザ加工ヘッドであってもよい。この場合において、照射点移動機構20は、レーザ加工ヘッドの内部に回転可能に配置された回転レンズを有してもよい。
【0118】
この回転レンズは、レーザ加工ヘッドのミラーが反射したレーザ光の光路上に、該光路と平行な軸線周りに回転可能となるように支持されており、該光路に対して傾斜するレーザ光入射面を有する。照射点移動機構20は、この回転レンズを回転させることで、ワークW1上の照射点Pを変位させることができる。
【0119】
なお、上述の実施形態においては、準備プロセスPPにおいて、オペレータが、ワークW1に対して加熱領域HAを設定した後に、教示点TP11~TP16及び照射点移動経路MPを設定する場合について述べた(
図5~
図9)。しかしながら、準備プロセスPPから、加熱領域HAを設定するプロセスを省略できる。
【0120】
例えば、オペレータは、ワークW1に対して溶接箇所WLを設定した後に、溶接箇所WLを取り囲むように教示点TP11~TP16を設定し、次いで、教示点TP11~TP16を基に、照射点移動経路MPを設定してもよい。この場合、加熱領域HAは、設定した教示点TP11~TP16と照射点移動経路MPとによって、例えば
図9に示すように一義的に確定される。
【0121】
また、準備プロセスPPにおいて、プロセッサ50は、オペレータが溶接箇所WLを設定した後に、該溶接箇所WLの位置データに基づいて、加熱領域HAを、該溶接箇所WLを包含するように自動で設定してもよい。この場合において、オペレータは、
図5に示す長さx
1、幅y
1、距離x
2、距離x
3等の情報を、入力装置58を通して予め入力し、プロセッサ50は、オペレータからの入力データに応じて加熱領域HAを自動で設定してもよい。
【0122】
なお、
図5に示す距離x
2及び距離x
3の少なくとも一方は、ゼロでもよい。この場合、教示点TP1が加熱領域HAの左辺SD1上に配置されるか、又は、教示点TP2が加熱領域HAの右辺SD2上に配置されることになる。また、教示点TP1は、加熱領域HAの左辺SD1よりも左側に配置されてもよい。
【0123】
代替的には、教示点TP2は、加熱領域HAの右辺SD2よりも右側に配置されてもよい。この場合、溶接箇所WLの大部分が加熱領域HA内に包含される一方、溶接箇所WLの両端部分が、加熱領域HA外に配置されることになる。ここで、上述したように、本発明者による実験の結果、加熱プロセスHPにより、合わせ面領域SE’のみならず、該合わせ面領域SE’の周囲の領域からも被覆材102及び112を排出できるとの知見を得た。よって、溶接箇所WLの一部が加熱領域HA外に配置されたとしても、溶接箇所WLが存在する領域から被覆材102及び112を排出でき得る。
【0124】
なお、
図9に示す照射点移動経路MPは、一例であって、その他の種々の照射点移動経路が考えられる。
図18に、照射点移動経路MPの他の例を示す。
図18に示す例では、加熱領域HAの各頂点に、4つの教示点TP11、TP12、TP15及びTP16が設定され、照射点移動経路MPは、例えば、教示点TP11→TP12→TP15→TP16→TP11という経路として、設定される。また、照射点移動経路MPは、加熱プロセスHPを実行したときに
図12に示すような温度勾配を形成せずに、合わせ面領域SE’の温度Tを均一に上昇させるような経路として、設定することもできる。
【0125】
図19に、照射点移動経路MPのさらに他の例を示す。
図19に示す例では、加熱領域HAに、2つの教示点TP21及びTP22が設定され、照射点移動経路MPは、教示点TP21及びTP22の間を往復動する経路として設定されている。教示点TP21及びTP22は、教示点TP1及びTP2と同じ、座標系C1のy軸方向の位置に設定され得る。このような照射点移動経路MPにおいても、作業条件CDを適切に設定することにより、加熱領域HA及び合わせ面領域SE’の全域を加熱することができる。
【0126】
なお、上述のステップS2において、照射点P1を、1つの教示点TP
αから、該教示点TP
αの次の教示点TP
γまで照射点移動経路MPに沿って移動させるにつれて、速度V1とともにレーザパワーLP1を変化させてもよい。以下、このような制御について
図20を参照して説明する。
【0127】
図20において、横軸は、照射点移動経路MPにおいて連続する2つの教示点TP
α及びTP
γと、該教示点TP
α及びTP
γの間の点(例えば、中点)TP
βとを示し、縦軸は、速度V1及びレーザパワーLP1を示す。また、
図20のグラフ中の実線は、レーザパワーLP1を示す一方、破線は、速度V1を示す。
【0128】
図20に示す例では、ステップS2で照射点P1を教示点TP
αから教示点TP
γまで移動させるとき、教示点TP
αから点TP
βまでは照射点P1が徐々に加速されて速度V1が増大する一方、点TP
βを通過して教示点TP
γに達するまでは照射点P1が徐々に減速されて速度V1が減少している。
【0129】
このように照射点P1を教示点TPαから教示点TPγまで移動させる間に速度V1が変化する場合においてレーザパワーLP1を一定に制御したとすると、加熱領域HAにおいて、速度V1が低くなる教示点TPα及びTPγの近傍領域の温度が、点TPβの近傍領域の温度よりも過度に高くなり得る。この場合、加熱領域HAの端縁(例えば、辺SD1及びSD2)の温度Tが中央部よりも過度に大きくなってしまう可能性がある。
【0130】
そこで、
図20に示すように、プロセッサ50は、ステップS2において、照射点P1を教示点TP
αから点TP
βへ移動させるにつれて、レーザパワーLP1を、速度V1とともに増大させる一方、照射点P1を点TP
βから教示点TP
γに移動させるにつれて、レーザパワーLP1を、速度V1とともに減少させる。このように速度V1とともにレーザパワーLP1を変化させることにより、加熱領域HA(つまり、合わせ面領域SE)の全域を、比較的均一に加熱することができる。
【0131】
なお、
図9に示す形態において、
図20に示す教示点TP
αから教示点TP
γまでの照射点移動経路MPは、例えば、TP11→TP12の経路、TP13→TP14までの経路、及び、TP15→TP16の経路であり得る。この場合において、プロセッサ50は、TP13→TP14の経路におけるレーザパワーLP1の値(最大値、最小値又は平均値)をLP1
_1に制御する一方、それ以外の経路を通過させる間はレーザパワーLP1の値をLP1
_2(<LP1
_1)に制御してもよい。
【0132】
一方、プロセッサ50は、照射点P1を、TP12→TP13の経路、TP14→TP15の経路、TP16→TP13の経路、TP14→TP11の経路を通過させる間は、レーザパワーLP1を一定に制御してもよい。すなわち、この場合、プロセッサ50は、2つの教示点TPα及びTPγの間の照射点移動経路MPが比較的長い場合はレーザパワーLP1を変化させる一方で、教示点TPα及びTPγの間の照射点移動経路MPが比較的短い場合はレーザパワーLP1を一定に制御する。
【0133】
また、
図18に示す形態においては、
図20に示す教示点TP
αから教示点TP
γまでの照射点移動経路MPは、TP11→TP12の経路、TP12→TP15までの経路、TP15→TP16の経路、及び、TP16→TP11の経路であり得る。また、
図19に示す形態においては、
図20に示す教示点TP
αから教示点TP
γまでの照射点移動経路MPは、TP11→TP12の経路、及び、TP12→TP11までの経路であり得る。
【0134】
なお、上述の作業条件CDにおいて、レーザパワーLP1及び焦点位置FP1の代わりに(又は、加えて)、ステップS2で加熱領域HAに照射されるレーザ光LB1の集光密度ρ1を定めてもよい。集光密度ρ1は、例えば、ワークW1上の照射点P1の単位面積当たりのレーザパワーLP1(すなわち、ρ1=LP1/E1)として、定義され得る。
【0135】
また、上述の作業条件CDにおいて、レーザパワーLP2及び焦点位置FP2の代わりに(又は、加えて)、ステップS4で溶接箇所WLに照射されるレーザ光LB2の集光密度ρ2を定めてもよい。集光密度ρ2は、例えば、ワークW1上の照射点P2の単位面積当たりのレーザパワーLP2(すなわち、ρ2=LP2/E2)として、定義され得る。ここで、ワークW1上の照射点Pの面積Eは、上述したように、レーザ光LBの焦点位置FPに依存する。よって、集光密度ρは、レーザ光LBのレーザパワーLPと、該レーザ光LBの焦点位置FPとを適宜選択することによって、制御可能である。
【0136】
ここで、作業条件CDにおいて、ステップS2におけるレーザ光LB1の集光密度ρ1は、ステップS4におけるレーザ光LB2の集光密度ρ2よりも小さい値に設定されてもよい(ρ1<ρ2)。例えば、プロセッサ50は、ステップS2において、レーザパワーLP1を5[kW]に制御し、焦点位置FP1を、ワークW1の上面から上方へ10[mm]の位置に制御する。この場合、照射点P1の直径が約0.9[mm]となり、面積E1は、約0.64[mm2]となる。したがって、この場合、集光密度ρ1を、ρ1≒8[kW/mm2]に制御できる。
【0137】
一方、プロセッサ50は、ステップS4において、レーザパワーLP2を2[kW]に制御し、焦点位置FP2を、ワークW1の上面の位置に制御する。この場合、照射点P2の直径が約0.4[mm]となり、故に、面積E2は約0.13[mm2]となる。したがって、この場合、集光密度ρ2を、ρ2≒15.4[kW/mm2]>ρ1に制御できる。
【0138】
なお、メモリ52は、集光密度ρを、レーザパワーLP及び焦点位置FPと関連付けて格納したデータテーブルDT3を予め記憶してもよい。そして、プロセッサ50は、ステップS2又はS4を実行するときに、作業条件CDに設定された集光密度ρに対応するレーザパワーLP及び焦点位置FPをデータテーブルDT3から検索し、レーザ光LBを、検索したレーザパワーLP及び焦点位置FPでワークW1に照射することで、集光密度ρを制御してもよい。
【0139】
また、上述の作業条件CDにおいて、速度V1の代わりに(又は、加えて)、加熱プロセスHPで照射点移動機構20が照射点P1を揺動させたときに該照射点P1が照射点移動経路MPを一往復するのに要する時間tMPを定めてもよい。また、加熱プロセスHP(ステップS2又はS2’)と本溶接プロセスWP(S4)とで、同じ運転モードOM(OM1又はOM2)を採用してもよい。この場合、加熱プロセスHP及び本溶接プロセスWPで、同じタイプのレーザ光LB(LB1又はLB2)がワークW1に照射されることになる。
【0140】
また、加熱プロセスHPと本溶接プロセスWPとで、焦点位置FPは同じであってもよい。この場合、加熱プロセスHPでの照射点P1の面積E1と、本溶接プロセスWPでの照射点P2の面積E2とは、略同じとなる。また、加熱プロセスHPと本溶接プロセスWPとで、レーザパワーLPは同じであってもよい(LP1=LP2)。
【0141】
また、レーザ溶接システム10は、レーザ発振器12、レーザ照射装置16、照射装置移動機構18、及び照射点移動機構20を個別に制御する複数の制御装置22を備えてもよい。また、加熱領域HA(教示点TPn、照射点移動経路MP)は、被覆材102の第1の層102aに限らず、母材100に対して設定されてもよい。
【0142】
また、加熱領域HAをワークW1(被覆材102の第1の層102a)に設定する一方、溶接箇所WLをワークW2(被覆材112の第2の層112b)に設定してもよい。この場合において、プロセッサ50は、加熱プロセスHPにおいて、レーザ光LB1をワークW1に対し上側から照射する一方、本溶接プロセスWPにおいて、レーザ光LB2をワークW2に対し下側から照射してもよい。
【0143】
この場合、レーザ溶接システム10、70は、レーザ光LB2をワークW2の下側から照射可能な第2のレーザ照射装置18Bと、ワークW2上の照射点P2を移動させる第2の照射点移動機構20Bとをさらに備えてもよい。加熱領域HAをワークW1に設定する一方、溶接箇所WLをワークW2に設定した場合、加熱領域HAと溶接箇所WLとは座標系C1のz軸方向に離隔するが、
図5に示すようにz軸方向から見た場合、溶接箇所WLが加熱領域HA内に包含されていると見做すことができる。
【0144】
また、ワークW1及びW2の一方は、被覆材102又は112を有さなくてもよい。例えば、ワークW1が被覆材102を有していない場合、ワークW1は母材100からなり、該母材100の下面106が、ワークW2の上面(被覆材112の第1の層112aの上面)と面接触するように、ワークW1及びW2が重ね合わされる。この場合、被覆材112の第1の層112aが、母材100及び110の間に介挿される。
【0145】
なお、母材100及び110は、互いに異なる種類の金属であってもよい。また、被覆材102及び112は、互いに異なる種類の金属であってもよい。この場合において、加熱プロセスHPにおいて、合わせ面領域SE’を、被覆材102及び112の沸点以上、且つ、母材100(及び母材110)の融点よりも低い温度まで加熱してもよい。また、被覆材102及び112は、金属以外の材料(例えば、樹脂)であってもよい。
【0146】
以上、実施形態を通じて本開示を説明したが、上述の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0147】
10,70 レーザ溶接システム
12 レーザ発振器
14 導光部材
16 レーザ照射装置
18 照射装置移動機構
20 照射点移動機構
22 制御装置
50 プロセッサ
72 温度センサ