(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】ロボット制御装置及びスポット溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20250617BHJP
【FI】
B23K11/30 350
(21)【出願番号】P 2023515892
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015874
(87)【国際公開番号】W WO2022224307
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】天方 康裕
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0304928(US,A1)
【文献】米国特許第06861609(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置される一対の電極を有するスポット溶接ガンを備えるロボットの動作を制御するロボット制御装置であって、
前記スポット溶接ガンの前記一対の電極を、電極研磨装置の回転する刃部によって前記一対の電極の表面を研磨するように、前記刃部による研磨位置に移動させるロボット動作制御部を有し、
前記ロボット動作制御部は、前記刃部による研磨後の前記一対の電極の表面に
、研磨時と同じ前記刃部を使用して傷を付け
て粗面化するように、前記刃部に接する前記一対の電極の位置を前記研磨位置から
粗面化位置に変更する、ロボット制御装置。
【請求項2】
前記ロボット動作制御部は、前記刃部に接する前記一対の電極の位置を変えながら前記一対の電極の表面に傷を付けるように、
前記粗面化位置に配置された前記一対の電極を移動させる、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記ロボット動作制御部は、
前記粗面化位置に配置された前記一対の電極の表面に傷を付ける際に、前記一対の電極の軸方向の移動と、前記軸方向に直交する方向の移動とを行う、請求項1又は2に記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記ロボット動作制御部は、
前記粗面化位置に配置された前記一対の電極の表面に傷を付ける際に、前記一対の電極の表面が前記刃部の角部に接触するように、前記一対の電極を移動させる、請求項1~3のいずれか1項に記載のロボット制御装置。
【請求項5】
対向して配置される一対の電極を有するスポット溶接ガンと、
前記スポット溶接ガンを移動させるロボットと、
前記一対の電極の表面を回転する刃部によって研磨する電極研磨装置と、
前記ロボット及び前記電極研磨装置の動作を制御するロボット制御装置と、を備え、
前記ロボット制御装置は、
前記スポット溶接ガンの前記一対の電極を、前記電極研磨装置の回転する刃部によって前記一対の電極の表面を研磨するように、前記刃部による研磨位置に移動させるロボット動作制御部を有し、
前記ロボット動作制御部は、前記刃部による研磨後の前記一対の電極の表面に
、研磨時と同じ前記刃部を使用して傷を付け
て粗面化するように、前記刃部に接する前記一対の電極の位置を前記研磨位置から
粗面化位置に変更する、スポット溶接システム。
【請求項6】
対向して配置される一対の電極を有するスポット溶接ガンを備えるロボットの動作を制御するロボット制御装置であって、
前記スポット溶接ガンの前記一対の電極を、電極研磨装置の回転する刃部によって前記一対の電極の表面を研磨するように、前記刃部による研磨位置に移動させるロボット動作制御部を有し、
前記ロボット動作制御部は、
前記刃部に接する前記一対の電極の位置を変えながら、前記刃部による研磨後の前記一対の電極の表面に傷を付けるように
前記一対の電極を移動させて、前記刃部に接する前記一対の電極の位置を前記研磨位置から変更する、ロボット制御装置。
【請求項7】
対向して配置される一対の電極を有するスポット溶接ガンを備えるロボットの動作を制御するロボット制御装置であって、
前記スポット溶接ガンの前記一対の電極を、電極研磨装置の回転する刃部によって前記一対の電極の表面を研磨するように、前記刃部による研磨位置に移動させるロボット動作制御部を有し、
前記ロボット動作制御部は、前記刃部による研磨後の前記一対の電極の表面に傷を付けるように、前記刃部に接する前記一対の電極の位置を前記研磨位置から変更し、前記一対の電極の表面が前記刃部の角部に接触するように、前記一対の電極を移動させる、ロボット制御装置。
【請求項8】
対向して配置される一対の電極を有するスポット溶接ガンと、
前記スポット溶接ガンを移動させるロボットと、
前記一対の電極の表面を回転する刃部によって研磨する電極研磨装置と、
前記ロボット及び前記電極研磨装置の動作を制御するロボット制御装置と、を備え、
前記ロボット制御装置は、
前記スポット溶接ガンの前記一対の電極を、前記電極研磨装置の回転する刃部によって前記一対の電極の表面を研磨するように、前記刃部による研磨位置に移動させるロボット動作制御部を有し、
前記ロボット動作制御部は、
前記刃部に接する前記一対の電極の位置を変えながら、前記刃部による研磨後の前記一対の電極の表面に傷を付けるように
前記一対の電極を移動させて、前記刃部に接する前記一対の電極の位置を前記研磨位置から変更する、スポット溶接システム。
【請求項9】
対向して配置される一対の電極を有するスポット溶接ガンと、
前記スポット溶接ガンを移動させるロボットと、
前記一対の電極の表面を回転する刃部によって研磨する電極研磨装置と、
前記ロボット及び前記電極研磨装置の動作を制御するロボット制御装置と、を備え、
前記ロボット制御装置は、
前記スポット溶接ガンの前記一対の電極を、前記電極研磨装置の回転する刃部によって前記一対の電極の表面を研磨するように、前記刃部による研磨位置に移動させるロボット動作制御部を有し、
前記ロボット動作制御部は、前記刃部による研磨後の前記一対の電極の表面に傷を付けるように、前記刃部に接する前記一対の電極の位置を前記研磨位置から変更し、前記一対の電極の表面が前記刃部の角部に接触するように、前記一対の電極を移動させる、スポット溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット制御装置及びスポット溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スポット溶接ガンをアームの先端に備えるロボットによってスポット溶接(抵抗溶接)を行うことが知られている。スポット溶接ガンは、一対の電極によって金属板等からなる溶接対象物であるワークを挟み込み、電極に電流を流すことによって、予め定められた打点にスポット溶接を行う。
【0003】
近年、自動車の軽量化のために、材料としてアルミ合金が使用されている。アルミ合金の表面は被膜で覆われているため、鋼板に比べて、スポット溶接時に大電流を必要とすることが知られている。電極に大電流を流してアルミ合金をスポット溶接すると、溶けたアルミ合金が電極表面に付着して電極寿命を低下させる。電極寿命を延ばすためには、電極表面を頻繁に研磨する必要がある。しかし、電極の研磨を行う場合は、電極を電極研磨装置の位置まで移動させる時間及び研磨を行う時間が掛かるため、頻繁な電極の研磨は、溶接作業の短縮化を図る上で問題がある。
【0004】
従来、電極寿命を延ばす方法として、電極の表面を粗くする方法(例えば、特許文献1、2参照)、及び、電極の表面に同心円状の隆起部を形成する方法(例えば、特許文献3参照)等が知られている。これらの方法によれば、溶けたアルミ合金が電極表面に付着しにくくなり、電極表面を頻繁に研磨することを回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第4972047号公報
【文献】米国特許第6861609号公報
【文献】米国特許第8436269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法は、専用のカッターを使用したり、やすりをかけたりして電極の表面を粗くするため、特別な装置や手間を必要とする。したがって、特別な装置や手間を追加する必要がなく、電極の表面を粗くすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のロボット制御装置の一態様は、対向して配置される一対の電極を有するスポット溶接ガンを備えるロボットの動作を制御するロボット制御装置であって、前記スポット溶接ガンの前記一対の電極を、電極研磨装置の回転する刃部によって前記一対の電極の表面を研磨するように、前記刃部による研磨位置に移動させるロボット動作制御部を有し、前記ロボット動作制御部は、前記刃部による研磨後の前記一対の電極の表面に傷を付けるように、前記刃部に接する前記一対の電極の位置を前記研磨位置から変更する。
【0008】
本開示のスポット溶接システムの一態様は、対向して配置される一対の電極を有するスポット溶接ガンと、前記スポット溶接ガンを移動させるロボットと、前記一対の電極の表面を回転する刃部によって研磨する電極研磨装置と、前記ロボット及び前記電極研磨装置の動作を制御するロボット制御装置と、を備え、前記ロボット制御装置は、前記スポット溶接ガンの前記一対の電極を、前記電極研磨装置の回転する刃部によって前記一対の電極の表面を研磨するように、前記刃部による研磨位置に移動させるロボット動作制御部を有し、前記ロボット動作制御部は、前記刃部による研磨後の前記一対の電極の表面に傷を付けるように、前記刃部に接する前記一対の電極の位置を前記研磨位置から変更する。
【発明の効果】
【0009】
一態様によれば、特別な装置や手間を追加する必要がなく、電極の表面を粗くすることが可能なロボット制御装置及びスポット溶接システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るスポット溶接システムの概略構成図である。
【
図2】一実施形態に係るスポット溶接システムのブロック図である。
【
図3】電極研磨装置における刃部を示す側面図である。
【
図4】電極研磨装置における刃部を示す平面図である。
【
図5】電極研磨装置の刃部によって電極を研磨する様子を示す側面図である。
【
図6】スポット溶接システムにおける電極の研磨動作を説明するフローチャートである。
【
図7】電極研磨装置の刃部によって電極の表面を粗くする動作の一形態を説明する側面図である。
【
図8】電極研磨装置の刃部によって電極の表面を粗くする動作の一形態を説明する側面図である。
【
図10】電極研磨装置の刃部によって電極の表面を粗くする動作の他の形態を説明する側面図である。
【
図11】電極研磨装置の刃部によって電極の表面を粗くする動作の他の形態を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態に係るロボット制御装置及びスポット溶接システムについて、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、一実施形態に係るスポット溶接システムの概略構成図を示す。
図2は、一実施形態に係るスポット溶接システムのブロック図を示す。
【0012】
スポット溶接システム1は、スポット溶接ガン3を備えるロボット2と、電極研磨装置4と、ロボット制御装置5と、教示操作盤6と、を備える。
【0013】
ロボット2は、複数の関節部を有する垂直多関節型ロボットである。ロボット2は、床面に設置される基台21と、鉛直方向に延びる軸線の周りに回転可能な旋回台22と、を有する。ロボット2は、旋回台22に支持されて回動可能な下部アーム23と、下部アーム23の先端に支持されて回動可能な上部アーム24と、上部アーム24の先端に回動可能に支持された手首部25と、を有する。ロボット2は、旋回台22、下部アーム23、上部アーム24及び手首部25をそれぞれ個別に駆動する複数のロボット駆動モータ26を有する。ロボット駆動モータ26がそれぞれ駆動することによって、ロボット2の位置及び姿勢が変化する。
【0014】
なお、ロボットとしては、上記の形態に限定されない。ロボットは、スポット溶接ガン3の位置及び姿勢を変更可能な任意のロボットであってよい。
【0015】
スポット溶接ガン3は、ロボット2の手首部25に取り付けられる。スポット溶接ガン3の位置及び姿勢は、ロボット2の位置及び姿勢が変化することによって変更される。スポット溶接ガン3は、可動電極31と、可動電極31に対向して配置される対向電極32と、からなる一対の電極と、可動電極31を駆動する電極駆動モータ33と、を有する。
【0016】
本実施形態の可動電極31及び対向電極32は略円柱形である。可動電極31及び対向電極32の先端は、
図5に示すように、外周角部を丸め加工したR部31a,32aと、平坦面からなる先端面31b,32bと、を有する。可動電極31及び対向電極32の中心軸Yは一致している。可動電極31は、電極駆動モータ33の駆動によって、対向電極32に対して接近する方向及び離れる方向に移動する。スポット溶接ガン3は、可動電極31と対向電極32との間に溶接対象物であるワーク(図示せず)を挟み付けた状態で、可動電極31と対向電極32との間に電圧を印加してスポット溶接を行う。ワークとしては、アルミ合金又はアルミ合金を含む金属を好適に使用することができる。
【0017】
電極研磨装置4は、一般にチップドレッサーと呼ばれる。電極研磨装置4において「研磨」は、広く解釈され、例えば、電極研磨装置4において「研磨」と扱われる範囲において、カッター(刃部42)による研削(除去加工)を含む。電極研磨装置4は、ロボット2が設置される床面上に、ロボット2の可動範囲内に設置される。電極研磨装置4は、スポット溶接ガン3の可動電極31及び対向電極32を研磨する刃部42が設けられた本体部41と、鉛直方向に立設される支持部材43と、を有する。支持部材43は、本体部41を所定の位置に支持する。支持部材43には、ブラケット44が固定される。本体部41の上側及び下側には、ばね45がそれぞれ配置される。ばね45は、鉛直方向に伸長及び収縮するように設けられる。本体部41は、ばね45を介してブラケット44に支持される。本体部41は、ばね45の弾性力によって、鉛直方向に自由に移動可能である。
【0018】
電極研磨装置4の本体部41は、ブラケット44から支持部材43の側方に突出するように設けられる。刃部42は、ブラケット44から遠い本体部41の端部に配置される。刃部42は、スポット溶接ガン3の可動電極31及び対向電極32の表面を研削するカッターである。刃部42は、
図3~
図5に示すように、カッターホルダ420に支持される。刃部42を有するカッターホルダ420は、本体部41を鉛直方向に貫通する貫通穴の内部に配置されている。
【0019】
本実施形態の刃部42は、カッターホルダ420の上側肩部421及び下側肩部422から回転軸Xにかけて配置される。刃部42は、カッターホルダ420に、可動電極31及び対向電極32に対応して1つずつ設けられる。刃部42は、可動電極31及び対向電極32の先端形状に倣う湾曲形状を有する。刃部42は、
図5に示すように、研磨のために可動電極31及び対向電極32の表面に接触した際に、可動電極31及び対向電極32の中心軸Yから、先端面31b,32b及びR部31aに沿って半径方向に延びている。カッターホルダ420は、本体部41に設けられる刃部駆動モータ46の駆動によって、鉛直方向に延びる回転軸Xを中心に回転する。研磨時の可動電極31及び対向電極32の中心軸Yは、回転軸Xに一致している。刃部42は、
図5に示すように、カッターホルダ420の回転によって、対向して配置される可動電極31及び対向電極32のそれぞれの表面を同時に研磨する。
【0020】
ロボット制御装置5は、ロボット2の動作、ロボット2に設けられるスポット溶接ガン3の動作及び電極研磨装置4の動作をそれぞれ制御する。ロボット制御装置5は、バスを介して互いに接続されるCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)等を有する演算処理装置により構成される。ロボット2、スポット溶接ガン3及び電極研磨装置4は、通信装置を介してロボット制御装置5に電気的に接続される。
【0021】
図2に示すように、ロボット制御装置5は、ロボット2、スポット溶接ガン3及び電極研磨装置4のそれぞれの制御に関する情報を記憶する記憶部51を有する。ロボット2、スポット溶接ガン3及び電極研磨装置4のそれぞれの動作に関する動作プログラムは、記憶部51に記憶される。ロボット2、スポット溶接ガン3及び電極研磨装置4の動作は、後述する電極研磨の動作及び電極粗面化の動作を含む。
【0022】
ロボット制御装置5は、ロボット2を制御するロボット制御部52を有する。ロボット制御部52は、ロボット2の複数のロボット駆動モータ26をそれぞれ制御するロボット動作制御部521を有する。ロボット動作制御部521は、動作プログラムに基づく動作指令をロボット駆動回路53に送出する。ロボット駆動回路53は、動作指令に基づく駆動電流をロボット駆動モータ26にそれぞれ供給する。
【0023】
ロボット2は、ロボット2の位置及び姿勢を検出するためのロボット位置検出器27を有する。本実施形態のロボット位置検出器27は、それぞれのロボット駆動モータ26に取り付けられた回転位置検出器(図示せず)を有する。ロボット制御部52は、ロボット位置検出器27から出力される回転位置に関する信号を受信する。これによって、ロボット制御部52は、ロボット2の位置及び姿勢に基づいて、スポット溶接ガン3の位置及び姿勢を検出することができる。
【0024】
ロボット制御装置5は、スポット溶接ガン3を制御する溶接ガン制御部54を有する。溶接ガン制御部54は、スポット溶接ガン3の電極駆動モータ33の制御及び電極(可動電極31、対向電極32)に印加する電圧の制御を行う溶接ガン動作制御部541を有する。溶接ガン動作制御部541は、動作プログラムに基づく動作指令を電極駆動回路55及び電圧供給回路56に送出する。電極駆動回路55は、可動電極31を移動させる動作指令に基づく駆動電流を、電極駆動モータ33に供給する。電圧供給回路56は、スポット溶接のための動作指令に基づく電圧を、可動電極31及び対向電極32に供給する。
【0025】
溶接ガン制御部54は、対向電極32に対する可動電極31の位置を検出する位置検出部542を有する。スポット溶接ガン3は、可動電極31の位置を検出するための電極位置検出器34を有する。本実施形態の電極位置検出器34は、電極駆動モータ33に取り付けられた回転位置検出器(図示せず)を有する。位置検出部542は、電極位置検出器34の出力に基づいて、対向電極32に対する可動電極31の位置を検出する。
【0026】
溶接ガン制御部54は、電極駆動モータ33が出力するトルクを検出するトルク検出部543を有する。トルク検出部543は、例えば電極駆動モータ33を制御する動作指令に基づいて、電極駆動モータ33が出力するトルクを検出することができる。または、電極駆動モータ33に供給する電流値を検出する電流検出器をスポット溶接ガン3に配置することができる。トルク検出部543は、電流検出器が検出する電流値に基づいて、トルクを検出してもよい。これによって、トルク検出部543は、対向電極32に向けた可動電極31の押し付け力を検出することができる。
【0027】
ロボット制御装置5は、電極研磨装置4を制御する研磨制御部57を有する。研磨制御部57は、電極研磨装置4の刃部駆動モータ46を制御するための研磨動作制御部571を有する。研磨動作制御部571は、研磨動作のための動作プログラムに基づく動作指令を刃部駆動回路572に送出する。刃部駆動回路572は、動作指令に基づく駆動電流を刃部駆動モータ46に供給する。
【0028】
図1及び
図2に示すように、ロボット制御装置5は、通信装置を介して接続される教示操作盤6を有する。教示操作盤6は、ロボット2、スポット溶接ガン3及び電極研磨装置4に関する情報を入力する入力部61を有する。作業者は、教示したロボット2の位置及び姿勢に基づくスポット溶接ガン3の位置及び姿勢に関する動作プログラム、電極研磨装置4の動作に関する動作プログラム等を、入力部61によってロボット制御装置5に入力することができる。入力部61は、キーボードやダイヤル等によって構成される。教示操作盤6は、ロボット2、スポット溶接ガン3及び電極研磨装置4に関する情報を表示する表示部62を有する。
【0029】
次に、このスポット溶接システム1におけるスポット溶接ガン3の可動電極31及び対向電極32の研磨作業について、
図6に示すフローチャートを用いて説明する。本実施形態のスポット溶接システム1は、スポット溶接ガン3の可動電極31及び対向電極32の表面を、刃部42を使用して研磨した後、可動電極31及び対向電極32の表面を粗面化する。スポット溶接システム1は、可動電極31及び対向電極32の研磨時と同じ刃部42を使用して、可動電極31及び対向電極32の表面の粗面化加工を実行する。
【0030】
ロボット制御装置5は、スポット溶接ガン3による所定の溶接作業中の適宜のタイミングで、ロボット動作制御部521の制御によって、ロボット2の位置及び姿勢を溶接位置から変更し、スポット溶接ガン3を、動作プログラムによって予め決められた電極研磨装置4の位置まで移動させる(ステップS1)。
【0031】
スポット溶接ガン3が電極研磨装置4の所定の位置まで移動した後、ロボット制御装置5は、溶接ガン動作制御部541の制御によって、電極駆動モータ33を駆動させ、可動電極31及び対向電極32を、
図5に示すように、刃部42を挟み付ける所定の研磨位置に移動させる。その後、ロボット制御装置5は、研磨動作制御部571の制御によって、刃部駆動モータ46を駆動してカッターホルダ420を回転させ、回転軸Xの周りに回転する刃部42によって可動電極31及び対向電極32の表面の研磨を開始する(ステップS2)。回転する刃部42によって、可動電極31及び対向電極32の表面に付着する溶解金属は研削され、除去される。
【0032】
電極の研磨は、可動電極31と対向電極32との間で、回転する刃部42を所定の押し付け力で挟み付けることによって行われる。ロボット制御装置5は、溶接ガン制御部54のトルク検出部543によって検出される対向電極32に向けた可動電極31の押し付け力が、動作プログラムに基づく研磨に必要な所定の押し付け力となるように、溶接ガン制御部54によって、電極駆動モータ33の駆動を制御する。
【0033】
回転する刃部42による可動電極31及び対向電極32の研磨は、動作プログラムに基づいて所定の時間継続して実行される。ロボット制御装置5は、動作プログラムに基づいて、研磨が終了したかどうかを監視し(ステップS3)、研磨が終了していないと判断した場合(ステップS3においてNOの場合)、研磨を継続させる。
【0034】
ロボット制御装置5は、研磨が終了したと判断した場合(ステップS3においてYESの場合)に、ロボット動作制御部521の制御によって、ロボット2の位置及び姿勢を変更し、スポット溶接ガン3の可動電極31及び対向電極32を、動作プログラムによって予め決められた粗面化位置まで移動させて粗面化加工を開始する(ステップS4)。
【0035】
粗面化加工が開始されると、ロボット制御装置5は、溶接ガン動作制御部541及びロボット動作制御部521の制御によって、
図7に示すように、可動電極31を対向電極32から離れる方向に移動させるとともに、可動電極31及び対向電極32をそれぞれ刃部42から離隔させ、刃部42の挟み付けを解除する。さらに、ロボット制御装置5は、ロボット動作制御部521の制御によってロボット2の位置及び姿勢を変更し、可動電極31及び対向電極32の先端面31b,32bが刃部42の角部42aに接触するように、スポット溶接ガン3の位置及び姿勢を変更する。刃部42の角部42aは、回転軸Xに沿う刃部42の最端部(上端部及び下端部)にそれぞれ配置される角部である。角部42aは、カッターホルダ420の上側肩部421及び下側肩部422にそれぞれ隣接する刃部42の端部に配置される。なお、粗面化加工の開始後も、刃部42は継続して回転している。
【0036】
本実施形態では、粗面化加工が行われる可動電極31及び対向電極32は、
図7に示すように、回転軸Xに沿うカッターホルダ420の高さ(上側肩部421と下側肩部422との離隔距離)に相当する距離だけ互いに離れた位置に配置される。互いに離れた可動電極31及び対向電極32は、中心軸Yが回転軸Xからずれるように平行に移動し、先端面31b,32bを刃部42の角部42aに接触させる。このときの可動電極31及び対向電極32は、刃部42に対して、研磨時の押し付け力よりも小さな押し付け力しか付与しない。または、可動電極31及び対向電極32は、刃部42に対して、実質的に押し付け力を付与しない。可動電極31及び対向電極32の先端面31b,32bは、刃部42の角部42aに軽く接触するだけである。
【0037】
刃部42の角部42aに接触した可動電極31及び対向電極32の先端面31b,32bは、刃部42の回転によって線状に傷付けられる。これによって、先端面31b,32bには微細な線状の溝が形成される。ロボット制御装置5は、ロボット動作制御部521の制御によって、
図8に示すように、刃部42の角部42aに対する可動電極31及び対向電極32の位置を、先端面31b,32bに平行な面内で様々な方向に変更させる。これによって、可動電極31及び対向電極32の先端面31b,32bには、
図9に示すように、刃部42の角部42aによって複数方向に延びる微細な線状の溝Gが複数形成され、可動電極31及び対向電極32の表面が粗面化される。
【0038】
隣り合う溝Gのピッチは、刃部42の回転速度と、可動電極31及び対向電極32の移動速度と、を適宜調整することによって調整される。互いに交差する溝Gの交差角度は、可動電極31及び対向電極32の複数の移動方向を適宜調整することによって調整される。刃部42の角部42aによって複数の溝Gを形成する際の可動電極31及び対向電極32の移動は、直線移動に限らず、曲線移動でもよい。
【0039】
可動電極31及び対向電極32の先端面31b,32bに線状の傷を付ける加工を行う際には、ロボット制御装置5は、ロボット動作制御部521によって、可動電極31及び対向電極32の軸方向(
図7及び
図8における上下方向)の移動と、軸方向に直交する方向(
図7及び
図8における左右方向)の移動とを行ってもよい。これによれば、可動電極31及び対向電極32のR部31a,32aのような曲面にも、回転する刃部42の角部42aによって複数の線状の溝Gを形成することができる。
【0040】
粗面化加工の際、ロボット制御装置5は、ロボット動作制御部521によって、
図10及び
図11に示すように、可動電極31及び対向電極32の中心軸Yが回転軸Xに対して傾斜するように、スポット溶接ガン3の位置及び姿勢を変更するように制御してもよい。この場合、刃部42の角部42aは、可動電極31及び対向電極32のいずれかの先端面31b又は32bに接触する。ロボット制御装置5は、ロボット動作制御部521の制御によって、
図11に示すように、刃部42の角部42aに対する可動電極31又は対向電極32の位置を、先端面31b,32bに平行な面内で様々な方向に変更させ、先端面31b又は32bを粗面化する。
【0041】
この方法では、可動電極31及び対向電極32に対して個別に粗面化加工を行う必要があるが、先端面31b,32bに対して刃部42の角部42aを鋭く接触させることができるため、先端面31b,32bに明確な溝Gを形成することができる。
【0042】
ロボット制御装置5は、動作プログラムに基づいて、粗面化加工が終了したかどうかを監視し(ステップS5)、粗面化加工が終了していないと判断した場合(ステップS5においてNOの場合)は、粗面化加工を継続させる。
【0043】
ロボット制御装置5は、粗面化加工が終了したと判断した場合(ステップS5においてYESの場合)に、ロボット動作制御部521によって、ロボット2の位置及び姿勢を変更し、スポット溶接ガン3を、動作プログラムによって予め決められた溶接作業位置まで移動させ、次の溶接作業を開始する(ステップS6)。これによって、可動電極31及び対向電極32の研磨作業が終了する。
【0044】
本実施形態のロボット制御装置5によれば、以下の効果を奏する。ロボット制御装置5は、対向して配置される一対の可動電極31及び対向電極32を有するスポット溶接ガン3を備えるロボット2の動作を制御する。ロボット制御装置5は、スポット溶接ガン3の可動電極31及び対向電極32を、電極研磨装置4の回転する刃部42によって可動電極31及び対向電極32の表面を研磨するように、刃部42による研磨位置に移動させるロボット動作制御部521を有する。ロボット動作制御部521は、刃部42による研磨後の可動電極31及び対向電極32の先端面31b,32bに傷を付けるように、刃部42に接する可動電極31及び対向電極32の位置を研磨位置から変更する。これによって、回転する刃部42によって研磨が終了した可動電極31及び対向電極32の表面を、同じ刃部42を使用して粗面化することができる。可動電極31及び対向電極32の表面を粗面化するための特別な装置や手間を追加する必要がなく、可動電極31及び対向電極32の表面を粗くすることが可能である。
【0045】
本実施形態において、ロボット動作制御部521は、刃部42に接する可動電極31及び対向電極32の位置を変えながら可動電極31及び対向電極32の表面に傷を付けるように、可動電極31及び対向電極32を移動させる。これによって、可動電極31及び対向電極32に、複数方向に延びる微細な線状の溝が複数形成される。そのため、可動電極31及び対向電極32の表面を容易に粗面化することができる。
【0046】
本実施形態において、ロボット動作制御部521は、可動電極31及び対向電極32の表面に傷を付ける際に、可動電極31及び対向電極32の軸方向の移動と、軸方向に直交する方向の移動とを行うことができる。これによって、可動電極31及び対向電極32のR部31a,32aのような曲面にも線状の溝Gを形成して粗面化することができる。
【0047】
本実施形態において、ロボット動作制御部521は、可動電極31及び対向電極32の表面に傷を付ける際に、可動電極31及び対向電極32の表面が刃部42の角部42aに接触するように、可動電極31及び対向電極32を移動させている。これによれば、研磨を行う刃部42に変更を加えることなく、刃部42を使用して可動電極31及び対向電極32の表面を容易に粗面化することができる。
【0048】
本実施形態において、可動電極31及び対向電極32の表面に傷を付ける加工は、粗面化加工である。これによれば、研磨を行う刃部42を使用して、可動電極31及び対向電極32の表面に傷を付けることによって、可動電極31及び対向電極32の表面に対して容易に粗面化することができる。
【0049】
本実施形態のスポット溶接システム1は、対向して配置される一対の可動電極31及び対向電極32を有するスポット溶接ガン3と、スポット溶接ガン3を移動させるロボット2と、一対の可動電極31及び対向電極32の表面を回転する刃部42によって研磨する電極研磨装置4と、ロボット2及び電極研磨装置4の動作を制御するロボット制御装置5と、を備える。ロボット制御装置5は、スポット溶接ガン3の一対の可動電極31及び対向電極32を、電極研磨装置4の回転する刃部42によって可動電極31及び対向電極32の表面を研磨するように、刃部42による研磨位置に移動させるロボット動作制御部521を有する。ロボット動作制御部521は、刃部42による研磨後の可動電極31及び対向電極32の表面に傷を付けるように、刃部42に接する可動電極31及び対向電極32の位置を研磨位置から変更する。これによって、回転する刃部42によって研磨が終了した可動電極31及び対向電極32の表面を、同じ刃部42を使用して粗面化することができる。可動電極31及び対向電極32の表面を粗面化するための特別な装置や手間を追加する必要がなく、可動電極31及び対向電極32の表面を粗くすることが可能である。
【0050】
本実施形態の可動電極31及び対向電極32は、外周角部を丸め加工したR部31a,32aを有するが、このような形態に限定されない。可動電極31及び対向電極32は、例えば、
図12に示すように、外周角部を斜めに形成した面取り部31c,32cを有してもよい。
【0051】
本実施形態のスポット溶接ガン3では、可動電極31が対向電極32に対して接近する方向及び離れる方向に移動可能に設けられるが、このような形態に限定されない。スポット溶接ガンの一対の電極の両方が移動可能に設けられてもよい。
【0052】
本実施形態の電極研磨装置4は、可動電極31及び対向電極32の両方を同時に研磨及び粗面化可能に構成されるが、このような形態に限定されない。電極研磨装置は、一対の電極に対して一つずつ研磨及び粗面化するように構成されてもよい。
【0053】
本実施形態のスポット溶接システム1は、ロボット2、スポット溶接ガン3及び電極研磨装置4を1つのロボット制御装置5によって制御するように構成されるが、このような形態に限定されない。電極研磨装置4は、ロボット制御装置5とは別の専用の制御装置によって制御される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 スポット溶接システム
2 ロボット
3 スポット溶接ガン
31 可動電極
32 対向電極
4 電極研磨装置
42 刃部
42a 角部
5 ロボット制御装置
521 ロボット動作制御部