(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-16
(45)【発行日】2025-06-24
(54)【発明の名称】毛状体を有する樹脂シート及びその成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 48/18 20190101AFI20250617BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20250617BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20250617BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20250617BHJP
【FI】
B29C48/18
B29C59/02 Z
B32B27/40
B29C48/88
(21)【出願番号】P 2023545524
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2022032193
(87)【国際公開番号】W WO2023032841
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2021140051
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前田 圭史
(72)【発明者】
【氏名】中野 俊介
(72)【発明者】
【氏名】野々下 奬
(72)【発明者】
【氏名】石原 瑛果
(72)【発明者】
【氏名】安達 栞菜
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-189420(JP,A)
【文献】国際公開第2021/145295(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/196638(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049897(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
53/00-53/84
57/00-59/18
B29K 75/00
B32B 1/00-43/00
C08G 18/00-18/87
71/00-71/04
C08J 5/00-5/02
5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項7】
自動車内装材、電子機器外装材、又は化粧品容器の表面に設けられている、請求項5に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛状体を有する樹脂シート及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の内装材や付属部品の筐体、電子機器や家電の筐体、壁紙などの建材用、玩具やゲーム機の筐体、生活用品の部材用として、紙材、高分子素材のシートが用いられている。また、シート表面に良い触感性を付与する方法として、例えば、特許文献1には、表面に規則的に配列された毛状体を有する樹脂シートが提案されている。
一方、そのような樹脂シートを例えば自動車のダッシュボードやシート等の内装品として用いる場合、例えばインサート成形により対象物の表面に貼り付ける必要がある。
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、インサート成形等の二次成形では、対象物の表面に成形する際、溶融した対象物の原料樹脂と接触することとなり、上記のような樹脂シートは、毛状体が大きく変形したり消失し、良触感性を維持できない虞があることが分かった。
本発明が解決しようとする課題は、良い触感性を維持した状態で二次成形が可能な樹脂シート及びその成形品を提供することである。
【0005】
すなわち、本発明者は、様々な手段を検討した結果、下地層の少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有し、下地層と毛状体との間には構造的な境界がなく連続相を形成している熱可塑性樹脂シートにおいて、5分間の加熱により毛状体の平均高さが加熱前の平均高さより5%減少する時の温度が130℃以上200℃以下となるよう調整することにより、良い触感性を維持した状態で二次成形が可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
上記課題を解決する本発明は、下記より構成される。
(1)下地層の少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有し、下地層と毛状体との間には構造的な境界がなく連続相を形成している熱可塑性樹脂シートであって、5分間の加熱により毛状体の平均高さが加熱前の平均高さより5%減少する時の温度が130℃以上200℃以下である、樹脂シート。
(2)前記毛状体の平均高さが30μm以上500μm以下、毛状体の平均径が1μm以上50μm以下、毛状体の平均間隔が20μm以上200μm以下である、(1)に記載の樹脂シート。
(3)熱可塑性樹脂がウレタン系エラストマーを含む、(1)又は(2)に記載の樹脂シート。
(4)下地層の毛状体とは反対側の面に基材層を有する、(1)から(3)のいずれかに記載の樹脂シート。
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の樹脂シートの成形品。
(6)インサート成形品又は真空成形品である、(5)に記載の成形品。
(7)自動車内装材、電子機器外装材、又は化粧品容器の表面に設けられている、(5)又は(6)に記載の成形品。
【0007】
本発明によれば、良い触感性を維持した状態で二次成形が可能な樹脂シート及びその成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る樹脂シートを示す概略縦側断面図である。
【
図3】本発明の第二実施形態に係る樹脂シートの積層構造を示す概略縦側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、樹脂シートの種々の実施形態を説明し、ついで樹脂シートの製造方法について説明するが、一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している。
【0010】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る樹脂シートは、下地層の少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を有し、下地層と毛状体との間には構造的な境界がなく連続相を形成している熱可塑性樹脂シートであって、5分間の加熱により毛状体の平均高さが加熱前の平均高さより5%減少する時の温度が130℃以上200℃以下である、樹脂シートである。
【0011】
<下地層>
下地層(1a)は、毛状体の下地になる層であり、符号1のうち、表面の毛状体1b以外の部分をいう。下地層の厚みは、毛状体の根元から下地層の反対側の表面までの厚みをいう。下地層の平均厚みは15μm~500μmであることが好ましく、30μm~300μmであることがより好ましく、50μm~150μmであることがより好ましい。15μm以上とすることで、毛状体の高さを十分に発現することができる。また、500μm以下とすることで、毛状体を効率よく形成することができる。下地層と毛状体との間には構造的な境界がなく、連続相を形成していてもよい。構造的に境界がないとは、下地層と毛状体とが一体型に形成され、これらの間に構造的に明確な境界部がないことを意味している。また、連続相を形成しているとは、下地層と毛状体との間に継ぎ目がなく、不連続でない(連続相となっている)状態をいう。この点で、下地層に毛状体を植毛している構造とは異なっている。下地層及び毛状体は同組成であってもよく、下地層と毛状体との結合には共有結合が含まれてもよい。共有結合とは、電子対が2つの原子に共有されることによって形成される化学結合をいうが、モノマーが連なった鎖状分子である熱可塑性樹脂において、個々のポリマーは共有結合により結合しており、ポリマー分子間で働くファンデルワールス結合や水素結合よりも強く結合している。
また、下地層及び毛状体は、別個ではない同一固体の熱可塑性樹脂シートに由来してもよい。同一固体の熱可塑性樹脂シートに由来するとは、例えば、毛状体及び下地層が同一の樹脂シートに基づいて直接的又は間接的に得られることを意味する。
また、下地層及び毛状体は、同一固体の熱可塑性樹脂シートから形成されたものであってもよい。同一固体の熱可塑性樹脂シートから形成されるとは、毛状体及び下地層が一の樹脂シートを加工することにより直接的に形成されることを意味する。
下地層と毛状体との間には構造的な境界がなく、連続相を形成していることにより、外的刺激によって毛状体が下地層から分離することが抑制され、触感性が良いシートとなる。また、毛状体を植毛する場合よりも少ない工程で製造することができる。
【0012】
下地層及び毛状体は、熱可塑性樹脂を主成分とする同一の熱可塑性樹脂組成物からなる。ここで、主成分とするとは、50質量%以上含有することを意味する。好ましくは、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上含有する。本発明の一実施形態においては、ウレタン系エラストマー(TPU)、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、熱可塑性エラストマー、フッ素系樹脂の少なくとも1種類以上を含む樹脂を用いることができる。
【0013】
ウレタン系エラストマーは、ジイソシアネートとポリオールとを反応原料とする樹脂であり、その組み合わせとして、ジイソシアネートがジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)系、H12MDI系、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系、ポリオールがポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のいずれの組み合わせを選択しても良く、また複数を組み合わせても良い。本発明の一実施形態においては、MDI系又はHDI系のジイソシアネートと、カーボネート系のポリオールとの組み合わせを好適に用いることができる。
【0014】
スチレン系樹脂としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独又は共重合体、それらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばスチレン-アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、又は前記スチレン系モノマーと更に他のポリマー、例えばポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレン-アクリルニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等のポリスチレンを用いることができる。また、スチレン系の熱可塑性エラストマーも用いることができる。
【0015】
ポリオレフィン系樹脂は、α-オレフィンを単量体として含む重合体からなる樹脂を意味し、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂を含む。ポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン等を用いることができ、また単体のみならず、それらの構造を有する共重合物やグラフト物やブレンド物も用いることができる。後者の樹脂としては、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体やさらに酸無水物との3元共重合体等とブレンドしたもののようにポリエチレン鎖に極性基を有する樹脂を共重合およびブレンドしたものが挙げられる。
【0016】
また、ポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等を用いることができる。ホモポリプロピレンを用いる場合、該ホモポリプロピレンの構造は、アイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックのいずれであってもよい。ランダムポリプロピレンを用いる場合、プロピレンと共重合させるα-オレフィンとしては、好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数4~12のもの、例えばエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンを用いることができる。ブロックポリプロピレンを用いる場合、ブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)、ゴム成分を含むブロック共重合体あるいはグラフト共重合体等を用いることができる。これらオレフィン樹脂を単独で使用する以外に、他のオレフィン系樹脂を併用することもできる。
【0017】
ポリ塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単独重合体または塩化ビニルと他の共単量体との共重合体を用いることができる。ポリ塩化ビニルが共重合体である場合は、ランダム共重合体であってもよく、またグラフト共重合体であってもよい。グラフト共重合体の一例として、たとえばエチレン-酢酸ビニル共重合体や熱可塑性ウレタン重合体を幹ポリマーとし、これに塩化ビニルがグラフト重合されたものを挙げることができる。本実施形態のポリ塩化ビニルは、押出成形可能な軟質ポリ塩化ビニルを示し、高分子可塑剤などの添加物を含有している組成物である。高分子可塑剤としては、公知の高分子可塑剤を用いることができるが、たとえばエチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体、酢酸ビニル含有量の多いエチレン-酢酸ビニル共重合体などのエチレン共重合体高分子可塑剤を好ましい例として挙げることができる。
【0018】
熱可塑性エラストマーとしては、軟質高分子物質と硬質高分子物質を組み合わせた構造を有するものが含まれる。具体的には、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーが挙げられる。これらエラストマーは一般的に市販されているものの中から選択して用いることができる。
【0019】
フッ素系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、及びフッ化ビニリデンを主成分とするフッ化ビニリデン共重合体を用いることができる。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂は、α型、β型、γ型、αp型などの様々な結晶構造を示す結晶性樹脂であるが、フッ化ビニリデン共重合体としては、例えば、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0020】
熱可塑性樹脂組成物の190℃から300℃におけるメルトマスフローレートは4g/10分以上であることが好ましい。4g/10分以上とすることで、毛状体の形状の転写性を向上することができる。なお、メルトマスフローレートは、JIS K 7210に従って、試験温度190℃から300℃の温度範囲で、荷重(2.16Kgから10.0Kg)の条件下で測定した値である。
【0021】
熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記の各熱可塑性樹脂を任意の割合でアロイしたものであってもよい。さらに、他の添加物を含有してもよい。他の添加物としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、撥水・撥油剤、顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の滑剤・離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、充填剤として、タルク、クレイ、シリカなどの粒状微粒子やマイカなどの鱗片状の微粒子、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物等の低分子型帯電防止剤やポリエーテルエステルアミド等の高分子型帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、熱安定剤のような添加剤などを添加することができる。また、樹脂シート製造工程で発生したスクラップ樹脂を混合して用いることもできる。
【0022】
撥水・撥油剤としては、シリコン系撥水剤、カルナバワックス、フッ素系撥水撥油剤が挙げられる。シリコンとしては、オルガノポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられ、なかでも、ジメチルポリシロキサンが好適に用いられる。市販品としては、例えばシリコンを樹脂にアロイした「クリンベルCB50―PP」、「クリンベルCB-30PE」、「クリンベルCB-1」、「クリンベルCB-50AB」(富士ケミカル社製)などが挙げられる。カルナバワックスは、市販品としては、「カルナバ1号」(日興リカ社製)などが挙げられ、フッ素系撥水撥油剤はパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤が挙げられ、市販品としては、「サーフロンKT-PA」(AGCセイミケミカル社製)が挙げられる。撥水・撥油剤の添加量は0.5質量%から25質量%が好ましい。0.5質量%未満では、十分な撥水・撥油性効果が得られない虞があり、25質量%を超えると成形性が悪くなる虞がある。
【0023】
帯電防止剤としては、ポリエーテルエステルアミド系高分子型帯電防止剤、アイオノマー系高分子型帯電防止剤などが挙げられる。ポリエーテルエステルアミド系高分子型帯電防止剤は、市販品としては、「ペレスタット230」、「ペレスタット6500」、「ぺレクトロンAS」、「ぺレクトロンHS」(三洋化成社製)などが挙げられる。アイオノマー系高分子型帯電防止剤は、市販品としては、「エンティラSD100」、「エンティラMK400」(三井・デュポンポリケミカル社製)などが挙げられる。帯電防止剤の添加量は5質量%から30質量%が好ましい。5質量%未満では十分な帯電防止性が得られない虞があり、30質量%を超えると生産コストが上がる。
【0024】
抗菌剤としては、無機系、有機系のうち、どちらを添加してもよい。分散性を考慮すると無機系が好ましい。具体的には金属イオン(Ag、Zn、Cu)の無機系抗菌剤、貝殻焼成カルシウム系抗菌剤などが挙げられる。金属イオンの無機系抗菌剤の市販品としては、「バクテキラーBM102VT」(富士ケミカル社製)、「ノバロンVZF200」、「ノバロン(AG300)」(東亜合成社製)、「KM-10D-G」、「IM-10D-L」(シナネンゼオミック社製)などが挙げられる。貝殻焼成カルシウム系抗菌剤としては、「スカロー」(FID社製)などが挙げられる。抗菌剤の添加量は0.5質量%から5質量%が好ましい。0.5質量%未満では、十分な抗菌性が得られない虞があり、5質量%を超えると生産コストが上がる。
【0025】
滑剤・離型剤として、脂肪族炭化水素系化合物、高級脂肪酸系化合物、高級脂肪族アルコール系化合物、脂肪酸アマイド系化合物などのアルキル系滑剤・離型剤、シリコン系滑剤・離型剤、フッ素系滑剤・離型剤などを使用することができる。滑剤・離型剤を使用する場合、その添加量は樹脂組成物との合計100質量部のうち、0.01~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がより好ましく、0.1~2質量部がさらに好ましい。添加量を0.01質量部以上とすることで離型効果が低くなる虞が低減され、5質量部以下とすることでシート表面にブリードアウトする虞が低減される。
【0026】
また、滑剤・離型剤を予め、熱可塑性樹脂にアロイしたマスターバッチなども用いることもできる。例えば、ウレタン系熱可塑性エラストマーをベースとしたマスターバッチの市販品として、「ワックスマスターV」(BASF社製)が挙げられ、生産効率を考慮すると、マスターバッチを用いた方が好ましい。マスターバッチの添加量は樹脂組成物との合計100質量部のうち、1~8質量部であることが好ましく、2~7質量部がより好ましく、3~6質量部がさらに好ましい。
【0027】
<毛状体>
毛状体(1b)とは、
図1に示すように下地層(1a)の表面から毛状に伸びている部分をいう。毛状体は、下地層の表面に規則的に配列されている。ここで、規則的に配列されているとは、毛状体がランダムではない配列状態、即ち、一方向又は二方向に整然と(例えば一定の間隔で)配列されている状態を意味するものである。毛状体の根元の配列状態をもって毛状体の配列が規則的であるか否かを判断する。ある実施形態では、毛状体は所定の間隔で下地層上に位置し、毛状体の底面の位置が下地層の長手方向及び短手方向に整然と配列している。また、毛状体の配置形態は特に限定はされず、縦横に配置した碁盤目配置や千鳥配置などを選択することができる。毛状体が下地層の表面に規則的に配列されていることにより、均一でムラがなく、良触感性が発現しやすくなる。毛状体は、例えば指でなぞるなど荷重がかかることによって毛倒れが起こり、周囲の部分とは光沢、色調が異なって見えるフィンガーマークを形成し得る。また、毛状体により、スエード調の起毛シートのような触感となり得る。
【0028】
毛状体の平均高さ(h)は、30μm~500μmであることが好ましく、60μm~250μmであることがより好ましく、80μm~200μmであることがさらに好ましく、90μm~180μmであることがさらに好ましい。平均高さを30μm以上とすることで良触感性が十分に確保でき、平均高さを500μm以下とすることでしっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られる。
毛状体が下地層に対してほぼ直立している場合は、毛状体の根元から先端までの長さが毛状体の高さを表すことになる。一方、毛状体が下地層に対して傾斜している場合や、毛状体が巻回する部分を有する場合は、毛状体が下地層の表面から最も離間している箇所における、下地層の表面からの距離を毛状体の高さhとする。また、毛状体の先端から根元の中央部までを多点間計測により細分化した間隔の合計値を毛状体の長さLとする。
毛状体の平均高さ、および毛状体の平均長さは、電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて、樹脂シートの任意の数箇所において毛状体の高さ、および毛状体の長さを測定し、その測定値の算術平均値を用いることができる。
【0029】
毛状体の平均径(d)は1μm~50μmであることが好ましく、5μm~50μmであることがより好ましく、5μm~40μmであることがさらに好ましい。毛状体の平均径を1μm以上とすることで良触感性を確保することができ、毛状体の平均径を50μm以下とすることでしっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られる。毛状体の平均径は、電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて、樹脂シートの数箇所から、毛状体の中間高さ(h/2)の径を測定し、その測定値の算術平均値を用いた値とする。
また、毛状体のアスペクト比は、(毛状体の平均高さ/毛状体の平均径)として表すことができる。毛状体のアスペクト比は、2~20であることが好ましく、2~10であることがより好ましく、2~5であることがさらに好ましい。アスペクト比を2以上とすることで、良触感性が確保でき、アスペクト比を20以下とすることで、しっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られるだけでなく、毛状体の長さに対する高さの比が一定以下となる虞を低減することができる。
一方、アスペクト比は、毛状体の平均底面径を基準とすることもできる。毛状体の平均底面径は10μm~150μmであることが好ましく、20μm~120μmであることがより好ましく、30μm~100μmであることがさらに好ましい。毛状体の平均底面径は、樹脂シートの数箇所において、隣接する毛状体の間隔を測定し、その測定値の算術平均値を用いた値とする。毛状体の底面径を基準とした場合のアスペクト比は、1.0~10であることが好ましく、1.0~5であることがより好ましく、1.0~2.5であることがさらに好ましい。アスペクト比を1.0以上とすることで、良触感性が確保でき、アスペクト比を10以下にすることで、しっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られるだけでなく、毛状体の長さに対する高さの比が一定以下となる虞を低減することができる。
【0030】
毛状体の平均間隔(t)は、20μm~200μmであることが好ましく、40μm~150μmであることがより好ましく、40μm~100μmであることがさらに好ましい。毛状体の間隔とは、例えば
図2に示されるように、毛状体の根元の中心と隣接する毛状体の根元の中心との距離を意味する。平均間隔を20μm以上とすることで、良触感性が確保され、200μm以下とすることで、しっとり感、やわらか感、ふんわり感などの良触感性が得られる。毛状体の平均間隔は、樹脂シートの数箇所において、隣接する毛状体の間隔を測定し、その測定値の算術平均値を用いた値とする。
【0031】
毛状体の形状は特に限定されないが、下地層から離間する方向に毛状に伸び、先端に近づくにつれ、漸次細くなる形状や、その先端にふくらみが形成された構成となっていてもよい。つまり、下地層から離れるにつれ、断面積が漸次小さくなった後に一旦大きくなってから終端する形状であってもよい。また、毛状体の先端部の形状が、つぼみ状又はきのこ形状であってもよい。また、毛状体は、下地層から離れる方向に延び出る基端に位置する部分と、この基端に位置する部分から延び出て一定の曲率をもって、又は漸次曲率を変化させて曲がった部分、さらには螺旋状又は渦巻状に巻かれた部分とを有していてもよい。この場合、毛状体の先端部が内側に折りたたまれている形状であってもよい。このような形状であることにより良好な触感が発現する。また、つぼみ状又はきのこ形状の部分が中空であることにより、より良好な触感が発現する。つぼみ状又は、きのこ形状を毛状先端に形成する場合、毛状体の平均径に対するつぼみ状又は、きのこ形状の幅の平均径の比が1.1倍以上であることが好ましい。つぼみ状又は、きのこ形状の高さは7μm以上であることが好ましい。毛状体の平均径、つぼみ状又は、きのこ形状の幅の平均径、高さは電子走査型顕微鏡写真より測定し、算術平均値を用いた値とする。毛状体は、熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂としては、上記下地層で用いることができる樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
【0032】
下地層および毛状体に含有される熱可塑性樹脂が少なくとも部分的に三次元的な架橋構造(例えば三次元網状構造)を形成していてもよい。例えば、ある実施形態において、毛状体の少なくとも一部が架橋体となっており、別の実施形態においては毛状体の表面全体が架橋体となっており、さらに別の実施形態においては毛状体の全体(下地層との境界から先端部)が架橋体となっていてもよい。架橋体を形成する方法としては、例えば、樹脂シートを成形した後、毛状体を有する面に電子線を照射する方法や、有機過酸化物を添加し、樹脂シートの成形時または成形後に、加熱及び加湿により形成する方法が挙げられる。有機過酸化物が添加された樹脂として、市販品では、三菱ケミカル社製「リンクロン」などが挙げられる。本実施形態においては、電子線の照射により架橋体(電子線架橋体)を形成することが好ましい。
【0033】
<樹脂シート>
本実施形態において、「触感性」とは、樹脂シートの表面の風合い、肌触りを意味する。樹脂シート表面を触った際に心地よさを感じるかを判断し、感じる場合、しっとり、やわらか、ふんわりなどの具体的な肌触り感が良いものを良触感とする。
【0034】
本発明の一実施形態において、樹脂シートの厚みとは、毛状体の平均高さと下地層の平均厚みを合わせたシート厚みをいう。シート厚みは、好ましくは65μm~1600μm、より好ましくは115μm~1050μm、さらに好ましくは165μm~550μmである。厚みを65μm以上とすることで良触感性が十分に確保でき、1600μm以下とすることで製造コストを抑えることができる。
【0035】
本実施形態の樹脂シートは、5分間の加熱により毛状体の平均高さが加熱前の平均高さより5%減少する時の温度が130℃以上200℃以下となっている。
加熱前の平均高さに対する、加熱前の平均高さと加熱後の平均高さとの差を、その温度の毛状体の減少率として定義した。また、毛状体の減少率が5%となる温度を、その樹脂シートの毛状体高さ5%減少温度と定義した。毛状体高さ5%減少温度は、各樹脂シートについて、ギアオーブンの温度を1℃ずつ変えながら、各温度での毛状体の減少率を都度測定していき、毛状体の減少率が5%となる時の温度を調べることで計測することができる。
毛状体高さ5%減少温度を135℃以上190℃以下とすることがより好ましく、138℃以上185℃以下とすることがさらに好ましい。毛状体高さ5%減少温度を130℃以上とすることでインサート成形後も良触感性を維持することが可能となり、200℃以下とすることで毛状体が硬すぎず、良触感性とすることができる。また、130℃以上155℃以下とすることでしっとりした触感となり、155℃を超え、200℃とすることでさらさらした触感とすることができる。
熱可塑性樹脂組成物を合成する際の原料の配合比や分子量を調整することで、毛状体高さ5%減少温度130℃以上200℃以下を達成することができる。
【0036】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態に係る樹脂シートの例としては、
図3に示すように、下地層の毛状体とは反対側の面に、基材層が形成された樹脂シートである。すなわち、第二実施形態に係る樹脂シートの層構成は、上から下に向かって、毛状体及び下地層(1)、基材層(2)である。
ここで、毛状体は、第一実施形態において説明したものと同じであるので、説明を省略する。但し、毛状体の平均高さ及び下地層の平均厚みの合計で表される毛状体及び下地層の厚みは、150μm~1500μmが好ましく、150μm~1050μmであることがより好ましく、150μm~500μmであることがさらに好ましい。150μm以上とすることで良触感性を確保でき、1500μm以下とすることで生産コストを抑えることができる。
基材層の平均厚みは50μm~1500μmが好ましく、100μm~1000μmであることがより好ましく、150μm~500μmであることがさらに好ましい。50μm以上とすることで、製膜工程が容易になり、1500μm以下とすることで、生産コストを抑えることができる。
第二実施形態に係る樹脂シートにおける基材層としては、下地層との接着性に優れる熱可塑性樹脂を使用することが好ましく、ポリカーボネート系樹脂やポリエステル系樹脂、またこれらのポリマーアロイ樹脂を好適に用いることができる。ポリカーボネート系樹脂とポリエステル系樹脂との質量比は、50:50~90:10が好ましく、60:40~80:20がより好ましく、65:35~75:25がさらに好ましい。
ここで、ポリマーアロイ樹脂とは、高分子多成分系のことであり、混合などにより一定の相溶性を有するポリマーブレンドであってもよいし、共重合によるブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよく、相溶性のない樹脂同士の混合物であってもよい。
【0037】
ポリカーボネート系樹脂としては、脂肪族ジヒドロキシ化合物から誘導されたものや芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導されたものが挙げられる。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導されたものを好適に用いることができ、特に二つの芳香族ジヒドロキシ化合物がある種の結合基を介して結合した芳香族ジヒドロキシ化合物(ビスフェノール)から誘導されたものが好ましい。これらはジヒドロキシ化合物とホスゲン又は炭酸エステルとの重縮合による公知の製法により製造されたものを使用でき、その製法に限定されるものではなく、市販の樹脂を使用することもできる。
【0038】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリメチレンテレフタレート、および共重合成分として、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分や、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分などを共重合したポリエステル樹脂などを用いることができる。
【0039】
基材層には、必要に応じて、他の添加物を含有してあってもよい。他の添加物としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、撥水剤、撥油剤、顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の滑材・離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、充填剤として、タルク、クレイ、シリカなどの粒状微粒子やマイカなどの鱗片状の微粒子、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物等の低分子型帯電防止剤やポリエーテルエステルアミド等の高分子型帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、熱安定剤のような添加剤などを添加することができる。また、樹脂シート製造工程で発生したスクラップ樹脂を混合して用いることもできる。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、基材層が部分的に架橋構造を有していてもよい。
【0040】
[樹脂シートの製造]
本発明に係る樹脂シートの製造方法は、限定されず、如何なる方法によってもよいが、典型的には、原料樹脂を溶融押出し、得られた押出し樹脂シートの少なくとも一方の面に規則的に配列された毛状体を付与する工程を含んでなる。
【0041】
多層樹脂シートの作製に際しては、任意の樹脂シート成形方法を使用できる。例えば、フィードブロックやマルチマニホールドダイを使用することができる。尚、本発明の樹脂シートの各実施形態の層構成は、基本的に前述した通りであるが、他に、例えば、本発明の樹脂シートや成形容器の製造工程で発生したスクラップ原料を、物性等の劣化が見られない限り、基材層へ添加してもよいし、更なる層として積層してもよい。
【0042】
毛状体を付与する方法は、特に制限はなく、当業者に知られている任意の方法を使用することができる。例えば、押出成形方式を用いて製造する方法、ロール・ツー・ロール方式を用いて製造する方法、フォトリソグラフィー方式を用いて製造する方法、熱プレス方式を用いて製造する方法、パターンロールとUV硬化樹脂とを用いて製造する方法、3Dプリンターを用いて製造する方法、毛状体を樹脂層に埋め込んだ後に重合反応により共有結合させる方法等である。
【0043】
例えば、押出成形方式を用いる場合、Tダイ法により、樹脂シートを押し出し、この樹脂シートの表面に毛状体形状を付与するように、凹凸加工が成された転写ロールと、タッチロールでキャスティングすることにより、本発明に係る樹脂シートを製造することができる。
凹凸加工が成された転写ロールとして、レーザー彫刻法や電鋳法、エッチング法、ミル彫刻法などによりロールの表面に数μm~数百μmサイズの微細な凹凸が規則的に施されたものを用いることができる。ここで、規則的とは、凹凸がランダムではない配列状態、即ち、一方向又は二方向に整然と配列した状態を意味するものである。ある実施形態における凹凸の配置として、縦横に配置した碁盤目配置や千鳥配置などを選択することができる。凹凸部の形状としては、例えば、凹部の形状であれば、錐形(円錐、四角錐、三角錐、六角錐など)、半円形、矩形(四角柱)などが挙げられる。サイズとしては、凹部の開口径、凹部深さ、凹部形状の間隔が数μmから数百μmである。転写ロールの材質として、例えば金属、セラミック等を用いることができる。転写ロールの凹部の間隔を調節することで毛状体の間隔を調節することができ、転写ロールの凹部深さを調節することで毛状体高さを調節することができ、それにより触感を調節することもできる。
また、転写ロール表面に高アスペクト比の凹凸加工することが好ましい。例えば、転写ロール表面に凹部形状を加工する場合のアスペクト比(凹部深さ/凹部開口径)は1.0~9.0又は1.0~2.0であることが好ましい。転写ロール表面に高アスペクト比の凹凸加工をするには、レーザー彫刻法または、電鋳法が、エッチング法やブラスト法、ミル彫刻法等に比べて、深さ方向に精密な加工をする場合に適するため、特に好適に用いられる。
転写ロールの材質としては、例えば金属、セラミック等を用いることができる。一方、タッチロールとしては、様々な材質のものを用いることができるが、例えばシリコン系ゴム、NBR系ゴム、EPT系ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム製のロールを用いることができる。ある実施形態において、ゴム硬度(JIS K 6253)40~100のタッチロールを用いることができる。また、タッチロールの表面に、テフロン(登録商標)層が形成されていてもよい。
タッチロールとしては、様々な材質のものを用いることができるが、例えばシリコン系ゴム、NBR系ゴム、EPT系ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム製のロールを用いることができる。ある実施形態において、ゴム硬度(JIS K 6253)40~100のタッチロールを用いることができる。また、タッチロールの表面に、テフロン(登録商標)層が形成されていてもよい。
上記の転写ロール及びタッチロールのロールセットを用いることで、本実施形態の樹脂シートを製造することができる。
ある実施形態において、転写ロールの温度を熱可塑性樹脂の結晶融解温度、ガラス転移点または融点の付近の温度(例えば、ランダムポリプロピレンを用いる場合は100~150℃)に調節し、転写ロールとタッチロールとのピンチ圧を30~120Kg/cm2としてキャスティングすることで、本実施形態の樹脂シートを製造することができる。キャスティングした樹脂シートは、ピンチロール等を用いて0.5~30m/分のライン速度で引き取られる。
また、上記実施形態を具体的に示しているが、これらに限定されるものではない。
【0044】
[成形品]
本発明の成形品は、本発明の樹脂シートを用いた成形品である。本発明の樹脂シートは、一般的な成形への対応が可能であり、成形方法としては、インサート成形、インモールド成形の他にも、一般的な真空成形、圧空成形やこれらの応用として、樹脂シートを真空状態化で加熱軟化させ、大気圧下に開放することで既存の成形品表面へオーバーレイ(成形)する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、成形前にシートを加熱軟化させる方法として非接触加熱である赤外線ヒーター等による輻射加熱等、公知のシート加熱方法を適応することができる。ある実施形態の真空圧空成形において、例えば樹脂シートは表面温度が60℃~220℃で、20秒~480秒間加熱してから既存の成形品表面へと成形され、表面の形状により1.05~2.50倍に延伸され得る。
【0045】
[物品]
本発明にかかる毛状体を表面に付与した樹脂シートは、前記に示した良触感性が必要とされる用途に適用できる。例えば、本発明の樹脂シートは、自動車内装材、電子機器外装材、又は化粧品容器の表面材として適用できる。
【0046】
自動車内装材としては、自動車社内で手の触れる部分として、ハンドル、ダッシュボード、レバー、スイッチなどが挙げられる。例えば、公知のインストルメントパネル、ピラー(例えば、特開2009-184421号公報)の表面に、上記した樹脂シートを成形して貼り合わせた内装材を挙げることができる。樹脂シートを貼り合わせることで、良触感性を付与した内装材とすることができる。貼り合せる樹脂シートの材質としては、耐光性、耐薬品性を考慮し、オレフィン系樹脂、塩ビ系樹脂、ウレタン系エラストマーが好ましい。樹脂シートと内装材とを貼り合せる方法は、特に限定されない。
【0047】
電子機器外装材としては、キーレスエントリーシステムの送信機筐体、スマートフォン筐体、スマートフォンケース、ミュージックプレーヤーケース、ゲーム機筐体、デジタルカメラ筐体、電子手帳筐体、電卓筐体、タブレット筐体、モバイルパソコン筐体、キーボード、マウス、などが挙げられる。例えば、公知のキーレスエントリーシステムの携帯用送信機筐体(例えば、特開2005-228911号公報)の表面に、本発明樹脂シートを成形して貼り合せた携帯用送信機を挙げることができる。樹脂シートを貼り合せることで、良触感性を付与した携帯用送信機とすることができる。貼り合せる樹脂シートの材質としては、オレフィン系樹脂、ウレタン系エラストマーが好ましい。樹脂シートと筐体とを貼り合わせる方法は、特に限定されない。
【0048】
化粧品容器としては、フェイスクリーム、パッククリーム、ファンデーション、アイシャドウの容器が挙げられ、例えば公知のファンデーション用容器(特開2017-29608号公報)の蓋部材の表面に、本発明樹脂シートを成形して貼り合せた化粧品容器を挙げることができる。樹脂シートを貼り合せることで、良触感性を付与した化粧品容器とすることができる。貼り合せる樹脂シートの材質としては、オレフィン系樹脂、ウレタン系エラストマーが好ましい。樹脂シートと貼り合せる方法は、特に限定されない。
【0049】
さらには、毛状体の表面に、一般的な印刷方法(オフセット印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、箔押しなど)で、文字、絵柄を印刷した毛状体シートを作製し、上記の用途に適用することができる。印刷する樹脂シートの材質としては、特に限定されないが、印刷に使用するインキ剤との印刷性を考慮することが好ましい。
【0050】
また、本発明樹脂シートは、文字、絵柄などが印刷された印刷物(紙、金属薄膜など)、不織布などとラミネート成形(ドライラミネート成形、押出ラミネート成形)した積層体を作製し、例えば、名刺の印刷面にラミネート成形し、触感性のある名刺を作製することができる。ラミネートする樹脂シートの材質は特に限定はされない。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。なお、本実施例における「部」は重量基準である。
【0052】
実施例等で用いた各種原料及びその製造方法は以下の通りである。
・(ポリオールA-1)
攪拌機、温度計、加熱装置、蒸留塔を組んだ反応装置に、1,6-ヘキサンジオール(以下、1,6HD)とジエチルカーボネート(以下、DEC)のモル比が1.38:1になるように、1,6-HDを926g、DECを671g仕込むとともに、さらに反応触媒としてテトラブチルチタネート(以下、TBT)を0.05g仕込み、窒素気流下にて徐々に190℃まで温度を上昇させた。エタノールの留出が緩慢となり蒸留塔の塔頂温度が50℃以下となった時点で、反応温度は190℃のまま、1.3kPaまで徐々に減圧を行ない、1.3kPaの圧力でさらに7時間反応させた。さらに190℃の反応温度で1.3kPa以下の減圧下、反応物の水酸基価が222~226(mgKOH/g)になるまで反応を続行し、ポリオールA-1を得た。ポリオールA-1の水酸基価は224.4(mgKOH/g)であり、数平均分子量は500と算出された。
・(ポリオールA-2)
1,6-HDとDECのモル比が1.33:1になるように、1,6-HDを913g、DECを686g仕込む以外はポリオールB-1の製造と同様の方法で合成し、ポリオールA-2を得た。ポリオールA-2の水酸基価は172.6(mgKOH/g)であり、数平均分子量は650と算出された。
・(ポリオールA-3)
1,6-HDとDECのモル比が1.28:1になるように、1,6-HDを898g、DECを700g仕込む以外はポリオールB-1の製造と同様の方法で合成し、ポリオールA-3を得た。ポリオールA-3の水酸基価は149.6(mgKOH/g)であり、数平均分子量は750と算出された。
・(ポリオールA-4)
1,6-HDとDECのモル比が1.22:1になるように、1,6-HDを878g、DECを720g仕込む以外はポリオールB-1の製造と同様の方法で合成し、ポリオールA-4を得た。ポリオールA-4の水酸基価は132.0(mgKOH/g)であり、数平均分子量は850と算出された。
・(ポリオールA-5)
1,6-HDとDECのモル比が1.42:1になるように、1,6-HDを938g、DECを660g仕込む以外はポリオールB-1の製造と同様の方法で合成し、ポリオールA-5を得た。ポリオールA-5の水酸基価は280.5(mgKOH/g)であり、数平均分子量は400と算出された。
・(ポリオールA-6)
1,6-HDとDECのモル比が1.20:1になるように、1,6-HDを872g、DECを726g仕込む以外はポリオールB-1の製造と同様の方法で合成し、ポリオールA-6を得た。ポリオールA-6の水酸基価は118.1(mgKOH/g)であり、数平均分子量は950と算出された。
なお、数平均分子量の算出は下記式に基づいて行った。
数平均分子量=(56100×2)/水酸基価
(ポリカーボネートジオールの水酸基価は、JIS K 1557に従って、滴定で求めた。ここで、水酸基価の単位は、mgKOH/gである。
ポリカーボネートジオールの酸価は、JIS K 1557に従って、滴定で求めた。ここで、酸価の単位は、mgKOH/gである。)
・(B)脂肪族ジオール:1,4-ブタンジオール
・(C-1)ジイソシアネート:ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)
・(C-2)ジイソシアネート:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)
・(D)離型剤マスターバッチ「ワックスマスターV」(BASF社製)
・(E)PC/ポリエステル樹脂「PCX-6694」(住化ポリカーボネート社製)
【0053】
(毛状体及び下地層となるTPUの製造)
表1に記載される組成となるように、撹拌機と温度計の付いた反応容器に、ポリオール(A)、脂肪族ジオール(B)を投入し均一に混合し、得られた混合液を100℃に加熱した後、ジイソシアネート(C)を加え、ハンドミキサーで強制撹拌し、反応温度が130℃に達した時点で離型紙上に流し込み固化させた。得られた固形物を120℃の電気炉で1時間熟成させ、室温まで冷却した後、固形物を粉砕しフレーク状のTPUを得た。
得られたフレーク状のTPUは、二軸押出機で(D)離型剤マスターバッチと重量比で95:5になるようにコンパウンドし、得られたストランドを造粒することで毛状体及び下地層の原料となるTPUペレット(G)を得た。
【0054】
(毛状体を有する樹脂シートの製造)
[実施例1~6、比較例1~3]
1台の40mm単軸押出機から、毛状体及び下地層となる上記TPU(G)を流し、1台の65mm単軸押出機から、基材層となる(E)PC/ポリエステル樹脂を流し、Tダイ法により押出された樹脂シートを、酸化クロム溶射かつレーザー彫刻法で凹凸加工がなされ、60℃~150℃に調節された凹凸加工が成された転写ロールと、10℃~90℃に調節されたゴム硬度70のシリコン系ゴム製のタッチロールとを用い、キャスティングすることで、ピンチロールを用いてライン速度1m/分~15m/分で引き取った。これにより表1に示す組成、厚み及び表面形状の樹脂シートを得た。
【0055】
実施例および比較例で作製した樹脂シートとその樹脂シートを真空圧空成形した成形品についての各種特性の評価方法は以下の通りである。
【0056】
(1)毛状体の平均高さ、毛状体の平均長さ、毛状体の平均径、毛状体の平均間隔、下地層の平均厚み
樹脂シートの毛状体の高さ(h)、毛状体の径(d)、毛状体の間隔(t)、下地層の厚み、基材層の厚みを、レーザー顕微鏡(VK-X100、キーエンス社製)を用いて測定した。なお、測定した試料は、ミクロトームを用いて樹脂シートの任意の3箇所より断面切片を切り出し用いた。毛状体の平均高さは、それぞれの試料について毛状体10個の高さを測定し、その30測定値の算術平均値を用いた。毛状体の平均径については、それぞれの試料について10個の毛状体の中間高さ(h/2)における径を測定し、その30測定値の算術平均値を用いた。毛状体の平均間隔については、それぞれの試料について毛状体の根元の中心と隣接する毛状体の根元の中心との距離を10箇所測定し、その30測定値の算術平均値を用いた。下地層の平均厚みについては、それぞれの試料について毛状体の根元から他方の層界面までの厚みを10箇所測定し、その30測定値の算術平均値を用いた。基材層の平均厚みについては、それぞれの試料について下地層との境界から毛状体を有する面と反対の界面までの厚みを10箇所測定し、その30測定値の算術平均値を用いた。
【0057】
(3)毛状体の減少率の測定
得られた樹脂シートについて、100mm×100mmの大きさに任意の3箇所より切り出し試験片を得た。試験片を所定温度のギアオーブンに5分間投入し、取出し後の毛状体の平均高さを上記と同様にレーザー顕微鏡を用いて測定した。加熱前の平均高さに対する、加熱前の平均高さと加熱後の平均高さとの差を、その温度の毛状体の減少率として定義し、毛状体の減少率が5%となる温度を、その樹脂シートの毛状体高さ5%減少温度と定義し、ギアオーブンの温度を1℃ずつ変えながら、各温度での毛状体の減少率を都度測定していき、毛状体高さ5%減少温度を計測した。
【0058】
(2)インサート成形後の触感性評価
得られた樹脂シートについて、インサート成形を実施した。幅250mm、長さ140mm、厚み3mmの樹脂プレートが得られる射出インサート成形機の金型を用意し、幅250mmと長さ140mmから形成される面に樹脂シートが隙間なく収まるよう、樹脂シートをトリミングした。トリミングした樹脂シートは、毛状体を有する面が金型表面に接触し、基材層がキャビティの樹種流動側を向くように配置した。なお、金型は幅250mmと厚み3mmから形成される面に1点ゲートを有し、樹脂シートと並行に射出樹脂が流れ込む構造とした。このような樹脂シートを配置した金型に対し、射出成形機を用いて280℃に加熱されて溶融したPC樹脂を射出し、毛状体を有する樹脂シートのインサート成形品を得た。
良触感性は、男性5人、女性5人の計10人の外部パネラーに樹脂シートを触ってもらう官能評価を実施した。樹脂シート表面を触った際の具体的な触感(滑らか、さらさら、しっとり、かさかさ、ざらざら等)のそれぞれについて10点満点で評価し、最も点数が高かった触感をその樹脂シート表面の触感とした。表1において、「〇」は、滑らか、さらさら、又はしっとりの点数が高く、二次成形後もスエード調の起毛シートのような良触感性が得られたことを示している。「×」は、かさかさ、又はざらざらの点数が高く、二次成形後の良触感性が得られなかったことを示している。
【0059】
各実施例、比較例で得られた樹脂シートを用いて、各種特性について評価試験を実施した結果を表1に示した。
【0060】
【0061】
表1に示した結果から以下のことが明らかになった。
実施例1~6の全ての樹脂シートは、良触感性を有すると共に、毛状体高さ5%減少温度が、一般的にインサート成形において溶融した樹脂により加熱される温度である130℃よりも高く、インサート成形後も良触感性が維持されることが解った。
一方、比較例1の樹脂シートは、毛状体高さ5%減少温度が125℃の樹脂シートであるが、インサート成形によって毛状体が大きく変形し、その触感性はかさかさとなり、良触感性を維持した状態でインサート成形することが可能ではなかった。
比較例2の樹脂シートは、毛状体高さ5%減少温度が118℃の樹脂シートであるが、インサート成形によって毛状体が大きく変形し、その触感性はかさかさとなり、良触感性を維持した状態でインサート成形することが可能ではなかった。
比較例3の樹脂シートは、毛状体高さ5%減少温度が207℃の樹脂シートであるが、インサート成形前の触感性を維持した状態でインサート成形することが可能であったものの、下地層と毛状体を構成する熱可塑性樹脂組成物の硬度が高く、インサート成形の前後いずれも触感性はざらざらであり、良触感性を有していなかった。
【0062】
以上、様々な実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本実施形態の樹脂シートは、二次成形しても良い触感性を維持可能であるため、二次成形が可能な樹脂シート及びその成形品として、産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0064】
1 毛状体及び下地層
1a 下地層
1b 毛状体
d 毛状体径
h 毛状体の高さ
t 毛状体の間隔
2 基材層