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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】プレキャスト部材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/00 20060101AFI20250618BHJP
   E04C 2/26 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
E04B1/00 501A
E04C2/26 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024200729
(22)【出願日】2024-11-18
【審査請求日】2024-11-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(74)【復代理人】
【識別番号】100193390
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 祐作
(73)【特許権者】
【識別番号】000219598
【氏名又は名称】東海コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅之
(72)【発明者】
【氏名】越前 晴行
(72)【発明者】
【氏名】新田 純士
(72)【発明者】
【氏名】竹内 莉乃
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博喜
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏辰
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-083104(JP,A)
【文献】特開2017-218816(JP,A)
【文献】特開2000-142571(JP,A)
【文献】実開昭57-044803(JP,U)
【文献】特開2020-176479(JP,A)
【文献】特開2024-105992(JP,A)
【文献】特開平05-163780(JP,A)
【文献】実開昭60-051211(JP,U)
【文献】特表2013-527347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04B 2/00-2/54
E04B 2/84-2/86
E04B 5/00-5/48
E04C 2/00-2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の本体と、
前記本体の表面に配置される木板と、
前記本体に一端が埋設され、前記木板に他端が埋設される、前記本体と前記木板とを接合する接合部材と、
前記本体と前記木板との間に設けられる、弾性を有する層と、
を建物の外装を構成する部材の一部として設置される前の状態において有することを特徴とするプレキャスト部材。
【請求項2】
前記プレキャスト部材は、建物のバルコニーを構成するものであり、前記木板が前記本体の軒下側の表面に配置されることを特徴とする請求項1記載のプレキャスト部材。
【請求項3】
前記本体の軒先側の端部に、軒下側に突出する突出部が設けられ、前記木板は、前記突出部との間に隙間を空けて配置されることを特徴とする請求項2記載のプレキャスト部材。
【請求項4】
前記接合部材は、前記木板を貫通せず、前記木板の表面からプレキャスト部材の外側に露出しないことを特徴とする請求項1記載のプレキャスト部材。
【請求項5】
前記接合部材は、一対の脚部を有し、
前記一対の脚部が、前記木板の繊維方向に並ぶように前記木板に埋設されることを特徴とする請求項1記載のプレキャスト部材。
【請求項6】
前記一対の脚部の前記木板への埋設部分が、互いの脚部に向かって折れ曲がっていることを特徴とする請求項5記載のプレキャスト部材。
【請求項7】
帯状の前記木板が、前記木板の幅方向に並べて配置され、
隣り合う前記木板同士を嵌合する凸部と凹部とが、隣り合う前記木板の対向面のそれぞれに設けられたことを特徴とする請求項1記載のプレキャスト部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト部材に関する。
【背景技術】
【0002】
施工性の向上や工期短縮を目的として、建物を構築する際に、予め工場等で製作したプレキャスト部材を建物の一部として使用することがある。特許文献1、2には、プレキャスト部材を躯体に接合してバルコニーや庇を構築することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-176479号公報
【文献】特開2024-105992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、SDGs(持続可能な開発目標)に寄与するCO固定化等の観点から、建物に木質材を用いるケースが増加している。プレキャスト部材を用いて建物を構築する場合も同様であり、一例として、躯体に接合したプレキャスト部材の表面に外装仕上げ材として木板が後施工される。しかしながら、木板の後施工は高所作業となることが多く、確実な安全対策が求められ、手間やコストがかかる。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、プレキャスト部材の表面の木板を安全且つ容易に施工できるプレキャスト部材等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するための本発明は、コンクリート製の本体と、前記本体の表面に配置される木板と、前記本体に一端が埋設され、前記木板に他端が埋設される、前記本体と前記木板とを接合する接合部材と、前記本体と前記木板との間に設けられる、弾性を有する層と、を建物の外装を構成する部材の一部として設置される前の状態において有することを特徴とするプレキャスト部材である。
【0007】
本発明のプレキャスト部材は、コンクリート製の本体と本体表面の木板とが接合部材で予め機械的に接合された構成を有し、これを建物の一部として設置することで、高所作業などによる木板の後施工が不要になる。そのため、木板を安全且つ容易に施工できる。また本体と木板との間には弾性層が設けられるので、コンクリートの長期クリープひずみ、気温変動や湿度変動等による本体と木板の挙動のずれを吸収でき、木板に不要な応力が発生するのを防止できる。
【0008】
前記プレキャスト部材は、例えば、建物のバルコニーを構成するものであり、前記木板が前記本体の軒下側の表面に配置される。この場合、前記本体の軒先側の端部に、軒下側に突出する突出部が設けられ、前記木板は、前記突出部との間に隙間を空けて配置されることが望ましい。
本発明のプレキャスト部材でバルコニーを形成すれば、バルコニーの軒天の外装仕上げ材として木板を簡単に施工できる。また上記の突出部を本体に設けることで、木板を雨水から防護して劣化を抑制できるとともに、木板の端面が突出部により隠れるため意匠性が向上する。木板は突出部との間に隙間を空けて配置することで、前記した本体と木板の挙動のずれにより木板が突出部に当接するのを防ぐことができ、木板に不要な応力が発生するのを防止できる。
【0009】
前記接合部材は、前記木板を貫通せず、前記木板の表面からプレキャスト部材の外側に露出しないことが望ましい。
これにより、接合材料の腐食等を防ぎ、接合部材の劣化による脱落を防止できる。また接合部材の露出による意匠性の低下も防ぐことができる。
【0010】
前記接合部材は、例えば、一対の脚部を有し、前記一対の脚部が、前記木板の繊維方向に並ぶように前記木板に埋設される。この場合、前記一対の脚部の前記木板への埋設部分が、互いの脚部に向かって折れ曲がっていることが望ましい。
上記の接合部材を用いることで、簡易な構成の接合部材により本体と木板とを接合できる。また一対の脚部が木板の繊維方向に並ぶように配置することで、接合部材を原因とする木板のひび割れを抑制できる。さらに、接合部材の木板への埋設部分を上記のように折れ曲がった形とすることで、接合部材を木板に強固に固定できる。
【0011】
帯状の前記木板が、前記木板の幅方向に並べて配置され、隣り合う前記木板同士を嵌合する凸部と凹部とが、隣り合う前記木板の対向面のそれぞれに設けられることが望ましい。
隣り合う木板同士を凸部と凹部により噛み合わせることで、木板の境界部からの水分等の浸入を防止し、境界部からのプレキャスト部材の劣化を防止できる。また木板施工時の面精度も向上する。さらに、複数の木板を幅方向に並べて配置することで、個々の木板を細幅化し、一枚の大きな木板を配置する場合と比較して木板の変形を小さくできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、プレキャスト部材の表面の木板を安全且つ容易に施工できるプレキャスト部材等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】プレキャスト部材1を示す図。
図2】プレキャスト部材1を用いて構築したバルコニー100を示す図。
図3】木板3を示す図。
図4】接合部材4を示す図。
図5】プレキャスト部材1の製作方法について説明する図。
図6】プレキャスト部材1aを示す図。
図7】プレキャスト部材1bを示す図。
図8】プレキャスト部材10を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(1.プレキャスト部材1)
図1は本発明の実施形態に係るプレキャスト部材1を示す図である。プレキャスト部材1は、建物の構築時に建物の一部として設置されるものであり、図1では建物の一部として設置される前の状態を示している。
【0016】
本実施形態のプレキャスト部材1は、高層集合住宅等の建物のバルコニーを構成するものである。図2はプレキャスト部材1を用いて構築したバルコニー100を示す図である。
【0017】
図1、2は、プレキャスト部材1(バルコニー100)の厚さ方向の断面を前後方向に沿って示したものである。「前後方向」はバルコニー100の建物からの張出方向に対応し、軒先側を「前」、その反対側すなわち建物内部側を「後」とする。「前」は図1、2の左側に対応し、「後」は図1、2の右側に対応する。
【0018】
図1、2に示すように、プレキャスト部材1は、本体2、木板3、接合部材4、弾性層5等を有する。
【0019】
本体2はコンクリート製の部材であり、その内部に補強筋が埋設される。図1、2では、補強筋として一部の鉄筋21のみ図示している。当該鉄筋21の一端は、筒状の継手部材22の前側の端部に挿入される。継手部材22は本体2の後側の端面に埋設される。図2に示すように、継手部材22の後側の端部には、建物のスラブ200の主筋201が挿入される。なお、運搬等の問題が無ければ、継手部材22を省略し、鉄筋21の一端を本体2の後側の端面から突出させ、スラブ200との接合に用いることもできる。
【0020】
本体2のコンクリートの内部には、プレキャスト部材1の軽量化を目的として、発泡スチロールなど、本体2のコンクリートより密度の小さい軽量体23も設けられる。軽量体23は必要に応じて設けられ、省略することも可能である。
【0021】
バルコニー100の床面となる本体2の上面には、排水用の溝24が設けられる。溝24は、本体2の前側の端部において、バルコニー100の幅方向に延伸するように設けられる。バルコニー100の幅方向は、バルコニー100の張出方向と平面において直交する方向であり、図1、2の紙面法線方向に対応する。本体2の上面は、溝24に向かって低くなる緩やかな傾斜を有する。溝24の更に前方には、手摺や腰壁等を取り付けるためのスリーブやインサート等の取付部25も設けられる。なお、溝24は本体2の後側の端部に設ける場合もある。この場合も、本体2の上面には、(本体2の後側の端部の)溝24に向かって低くなる緩やかな傾斜が設けられる。
【0022】
またバルコニー100の軒天(軒下側の表面)となる本体2の下面では、本体2の前側すなわち軒先側の端部に、軒下側に突出する突出部26が設けられる。
【0023】
木板3は、スギ、ヒノキ、オーク等の木質材による帯状の板材であり、その繊維方向を長手方向としたものである。木板3は、長手方向を前後方向として本体2の下面に配置され、プレキャスト部材1の外装仕上げ材として用いられる。木板3は、耐久性や耐候性を確保するため、加熱処理(炭素化)または防腐処理が施されることが望ましい。加熱処理は、木板3の吸水性を低下させる点で防腐処理より優れている。木板3の外気への露出面には、風雨による汚れ対策のため、油性塗料等による保護層を設けてもよい。また必要であれば、木板3を難燃剤等を浸透させた不燃処理材とすることも可能である。
【0024】
前記の突出部26は、木板3の前方に配置され、木板3を雨水から防護する。また突出部26を設けることにより、建物の外側から見た時に木板3の端面が隠れるので意匠性が向上する。木板3は、突出部26との間に例えば20mm程度の隙間27を開けて配置される。
【0025】
図3は、プレキャスト部材1の木板3付近の厚さ方向の断面をバルコニー100の幅方向に沿って見た図である。図3に示すように、木板3は、その幅方向に複数枚並べて用いられる。木板3の幅方向は、木板3の長手方向と平面において直交する方向であり、図3の左右方向に対応する。
【0026】
隣り合う木板3の対向面には、凸部32と凹部33とがそれぞれ設けられ、隣り合う木板3の対向面の凸部32と凹部33とが嵌合する。凸部32と凹部33とが噛み合うように木板3同士を連結することで、木板3同士の境界部から水分等が浸入するのを防ぎ、境界部からのプレキャスト部材1の劣化を防止できる。また木板施工時の面精度も向上する。
【0027】
接合部材4は、本体2と木板3とを機械的に接合する部材であり、本体2に一端が埋設され、木板3に他端が埋設される。図1、2に示すように、接合部材4は木板3の長手方向に間隔を空けて複数設けられる。この間隔は、事前の試験により耐風圧性等を考慮して設定される。
【0028】
図4は接合部材4を示す図であり、プレキャスト部材1の接合部材4付近の厚さ方向の断面を前後方向に沿って見た図である。接合部材4は、鋼棒を折り曲げる等して形成された山型の接合金物であり、一対の脚部41を有する。これらの脚部41の下端部(接合部材4の他端)は、木板3に形成された挿入孔31に挿入され、木板3に埋設される。
【0029】
一対の脚部41の木板3への埋設部分411は、互いの脚部41に向かって折れ曲がり、傾斜している。挿入孔31も、埋設部分411と対応する傾斜を有する。挿入孔31は木板3の上面から形成されるが、下面まで貫通はせず、接合部材4が木板3の表面からプレキャスト部材1の外側に露出することはない。
【0030】
前記したように、木板3は帯状の板材であり、強度が大きく変形しにくい繊維方向が長手方向とされる。木板3の繊維方向は、図4の左右方向に対応する。接合部材4は、一対の脚部41が木板3の繊維方向に並ぶように配置され、その下端部(埋設部分411)が木板3に挿入される。これは、木板3の繊維方向の変形が、繊維方向と直交する方向の変形と比較して小さく、接合部材4を原因とするひび割れ等が生じにくいためである。
【0031】
弾性層5は弾性を有する層であり、本体2と木板3との間に設けられる。弾性層5は、例えば弾性を有するシリコン系の接着剤を、木板3に2mm程度厚塗りして形成される。当該接着剤は防水性を有し、弾性層5は止水機能も有する。
【0032】
本体2は、コンクリートの長期クリープひずみ、気温変動による膨張、収縮などによって変形し、木板3は、気温変動や湿度変動による膨張、収縮などによって変形する。これらの挙動は、本体2と木板3とで異なる。しかしながら、本実施形態では、本体2と木板3との間に弾性層5を設けることで、本体2と木板3の挙動のずれを吸収し、木板3に不要な応力が発生するのを防止できる。
【0033】
また本実施形態では、本体2の突出部26と木板3との間に隙間27を設けることにより、本体2と木板3との間の挙動のずれにより木板3が突出部26に当接するのを防ぐことができ、木板3に不要な応力が発生するのを防止できる。
【0034】
バルコニー100を構築するには、まず、予め工場等で製作したプレキャスト部材1を施工現場まで運搬し、クレーン等で揚重してバルコニー100の位置に設置する。プレキャスト部材1は、柱等の構築済みの躯体から吊り支持する。この際、プレキャスト部材1の取付部25に仮設の吊り治具300(図2参照)を取り付け、ワイヤ等の吊材301によるプレキャスト部材1の支持に用いることができる。プレキャスト部材1を上方から吊り支持することにより、木板3側の支保工が不要となるので支保工による木板3の損傷を防止できる。
【0035】
その後、前記の主筋201を含む、建物のスラブ200の配筋を行い、スラブ200のコンクリートを打設することで、プレキャスト部材1が建物の躯体(スラブ200)に接合される。
【0036】
(2.プレキャスト部材1の製作方法)
プレキャスト部材1を製作する際は、図5(a)に示すように、型枠6内に木板3を配置する。型枠6は、側部61と底部62とを有する。木板3は、その幅方向(図5(a)の紙面法線方向に対応する)に複数並べて底部62上に載置される。この例では底部62がスチロール製であるが、鋼製型枠を用いてもよい。鋼製型枠を用いる場合、底部62の上にクッション材を配置して木板3が損傷するのを防止することもできる。
【0037】
その後、図5(b)に示すように、木板3に接合部材4を取り付ける。この際、図4等で説明したように、木板3の挿入孔31に接合部材4の脚部41の下端部の埋設部分411を挿入する。木板3に予め接合部材4を取り付ける場合、接合部材4付きの木板3の保管等にスペースを要するが、本実施形態のように、接合部材4をプレキャスト部材1の製作時に後付けすることで、木板3の保管等に要するスペースを削減できる。
【0038】
接合部材4を取り付けたら、図5(c)に示すように、木板3の上面に前記の接着剤を塗布し、弾性層5を形成する。接着剤は、隣り合う木板3同士の境界部にも繰り返し塗り込むことが望ましい。さらに、複数の木板3を敷き並べた領域の外周に沿ってガンタイプのシーリング材7を塗布し、当該領域の外周から木板3の下面側へのノロ漏れを防止する。
【0039】
その後、鉄筋21等の補強筋や継手部材22、軽量体23などを型枠6内に配置して木板3上にコンクリートを打設することで、プレキャスト部材1が製作される。前記したように弾性層5は止水機能を有することから、プレキャスト部材1の製作時に、木板3同士の境界部からのコンクリートのノロ漏れや、コンクリート中の水分による木板3の性能低下を防止できる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態のプレキャスト部材1は、コンクリート製の本体2と本体表面の木板3とが接合部材4で予め機械的に接合された構成を有し、これを建物の一部として設置することで、高所作業などによる木板3の後施工が不要になる。そのため、木板3を安全且つ容易に施工できる。また本体2と木板3との間には弾性層5が設けられるので、コンクリートの長期クリープひずみ、気温変動や湿度変動等による本体2と木板3の挙動のずれを吸収でき、木板3に不要な応力が発生するのを防止できる。
【0041】
本実施形態ではプレキャスト部材1を用いてバルコニー100を形成しており、バルコニー100の軒天の外装仕上げ材として木板3を簡単に施工できる。木板3を軒天に後施工する場合、不安定な足場上で上向き作業を行う必要があるが、本実施形態ではそのような作業も省略できる。
【0042】
また、本体2の軒先側の端部に、軒下側に突出する突出部26を設けることで、木板3を雨水から防護して劣化を抑制できるともに、木板3の端面が突出部26により隠れるため意匠性が向上する。木板3は突出部26との間に隙間27を空けて配置することで、前記した本体2と木板3の挙動のずれにより木板3が突出部26に当接するのを防ぐことができ、木板3に不要な応力が発生するのを防止できる。
【0043】
接合部材4は、一対の脚部41による簡易な構成で本体2と木板3とを接合でき、耐久性や耐風圧性に優れる。これらの脚部41は木板3の繊維方向に並ぶように配置されており、接合部材4を原因とする木板3のひび割れを抑制できる。さらに、接合部材4の木板3への埋設部分411を前記のように折れ曲がった形とすることで、接合部材4を木板に強固に固定できる。
【0044】
また、接合部材4は木板3の表面からプレキャスト部材1の外側に露出しないので、接合部材4の腐食等を防ぎ、接合部材4の劣化による脱落を防止できる。さらに、接合部材4の露出による意匠性の低下も防ぐことができる。
【0045】
本実施形態では、隣り合う木板3同士を凸部32と凹部33により噛み合わせることで、木板3の境界部からの水分等の浸入を防止し、境界部からのプレキャスト部材1の劣化を防止できる。また木板施工時の面精度も向上する。さらに、複数の木板3を幅方向に並べて配置することで、個々の木板3を細幅化し、一枚の大きな木板3を配置する場合と比較して木板3の変形を小さくできる。
【0046】
しかしながら、本発明の実施形態は上記したものに限らない。例えば、プレキャスト部材1の構成や形状は図1等で説明したものに限定されない。一例として、木板3上のコンクリートの一部を現場で打設する場合もあり、その場合は、図6に示すように、木板3が本体2から延出するように配置される。この例では、建物の梁からコンクリートを連続打設する等の理由で後側(建物内部側)の一部のコンクリート400が現場打設とされており、プレキャスト部材1aとしては、前記のプレキャスト部材1に対し、当該一部のコンクリート400を省略したものが用いられる。
【0047】
木板3は、本体2の残りの部分から後側へと延出するが、そのままでは木板3の延出部分が外力等により変形しやすいことから、図6の例では、本体2とコンクリート400との境界部を跨ぐように、木板3と本体2との間に当て板8を設け、木板3の延出部分の変形を抑制する。
【0048】
また、木板3の延出部分がプレキャスト部材の運搬時や揚重時に損傷するのを防止するため、図7に示すように、木板3の延出部分から一定の高さ範囲のコンクリートをプレキャスト化して本体2の一部とし、現場において、当該コンクリートの上にコンクリート400を打設してもよい。これにより、木板3の延出部分から一定の高さ範囲のコンクリートをハーフプレキャスト部材のように構成し、一定の強度を持たせることができる。
【0049】
その他、バルコニー100の床に非常用脱出口を設ける場合、プレキャスト部材1に非常用脱出口として用いる開口部を設けてもよい。木板3の割付は、開口部を考慮して検討し、開口部を避けるように設定する。
【0050】
また本実施形態では、帯状の木板3の長手方向(繊維方向)をバルコニー100の張出方向に合わせ、複数枚の木板3を幅方向に並べて配置しているが、バルコニー100の張出方向に複数枚の木板3を配置してもよく、木板3の長手方向をバルコニー100の幅方向に合わせて配置してもよい。個々の木板3の形状も特に限定されず、隣り合う木板3の対向面の凸部32と凹部33を省略することも可能である。
【0051】
また、本実施形態では一対の脚部41が木板3の繊維方向に並ぶように接合部材4を配置しているが、接合部材4の配置も特に限定されない。ただし、接合部材4は、一対の脚部41が複数の木板3を跨ぐように配置しないことが望ましい。木板3が劣化した場合は1枚ずつ交換する可能性があるため、一対の脚部41が複数の木板3を跨いでいると、これらの木板3を1枚ずつ交換するのが難しいためである。
【0052】
接合部材4の形状も、図4のように一対の脚部41を有するものに限定されず、本体2と木板3とを機械的に接合するもの、すなわち一端が本体2に埋設され、他端が木板3に埋設されるものであればよい。また耐久性や耐候性に問題がなければ、接合部材4の他端が木板3からプレキャスト部材1の外側に露出しても構わない。
【0053】
また本実施形態では、弾性層5として弾性を有するシリコン系の接着剤を用いたが、他の接着剤でもよい。また接着剤ではなく、弾性を有するシート状の部材を弾性層5として用いることも可能である。タイル等の外装仕上げ材であれば接着剤による接着が必要であるが、本実施形態では本体2と木板3とが接合部材4によって接合されるため、弾性層5に接着剤を用いることは必須ではない。
【0054】
また、前記の各プレキャスト部材1、1a、1bは建物のバルコニー100を構成するものであるが、プレキャスト部材の用途はこれに限らない。例えばプレキャスト部材は建物の庇として用いてもよい。この場合も、プレキャスト部材1、1a、1bとほぼ同様の形状、構成を有するプレキャスト部材を用いることができ、プレキャスト部材の上面を居住者等の歩行に利用しない点のみ異なる。
【0055】
また、本体2、木板3、接合部材4、弾性層5を有する本発明のプレキャスト部材は、袖壁等の壁体を構築する際に用いることもできる。図8は壁体を構成するプレキャスト部材10の一例を概略的に示した図であり、本体2の鉛直面に木板3が設けられ、本体2と木板3とが前記の接合部材4と同様の接合部材(不図示)によって接合される。本体2と木板3の間には弾性層5も設けられる。その他、本発明のプレキャスト部材は柱体を構築する際にも適用可能であり、この場合も本体2の鉛直面に木板3が接合される。
【0056】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0057】
1、1a、1b、10:プレキャスト部材
2:本体
3:木板
4:接合部材
5:弾性層
6:型枠
21:鉄筋
22:継手部材
23:軽量体
24:溝
25:取付部
26:突出部
31:挿入孔
32:凸部
33:凹部
41:脚部
100:バルコニー
411:埋設部分
【要約】
【課題】プレキャスト部材の表面の木板を安全且つ容易に施工できるプレキャスト部材等を提供する。
【解決手段】プレキャスト部材1は、コンクリート製の本体2と、本体2の表面に配置される木板3と、本体2に一端が埋設され、木板3に他端が埋設される、本体2と木板3とを接合する接合部材4と、本体2と木板3との間に設けられる弾性層5と、を建物の一部として設置される前の状態において有する。プレキャスト部材1は、例えば、建物のバルコニーを構成するものである。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8