(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】エコー画像取得用の探索装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20250618BHJP
【FI】
A61B8/00
(21)【出願番号】P 2021182897
(22)【出願日】2021-11-09
【審査請求日】2024-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390001421
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114524
【氏名又は名称】榎本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】岩田 浩康
(72)【発明者】
【氏名】志田 優樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 麻里
【審査官】清水 裕勝
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502729(JP,A)
【文献】特開2011-104194(JP,A)
【文献】特開2009-056125(JP,A)
【文献】一般社団法人日本超音波検査学会 走査法の標準化 循環器,2019年03月,https://www.jss.org/committee/standard/doc/standardization_junkanki.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の体表面にプローブを接触させることで体内のエコー画像を取得する超音波画像撮像装置により、所望とする前記エコー画像を得るために適切となる前記プローブの配置状態を探索する装置であって、
相互に異なる前記配置状態で撮像された前記エコー画像に前記プローブの配置情報をそれぞれ対応させた複数の画像データを解析し、適切となる前記配置状態における前記配置情報を所望情報として決定する画像処理部を備え、
前記画像処理部では、複数の前記エコー画像における所定部位の描出状況に基づいて、所定の前記画像データが特定され、当該画像データを取得した際の前記配置情報から前記所望情報が決定され
、
前記画像処理部は、前記配置情報として前記プローブの姿勢情報を用い、前記所望情報として、心臓の前記エコー画像の対象断面を取得するのに適切となる前記プローブの所望姿勢情報を探索する姿勢探索部を含み、
前記姿勢探索部は、左室の先端の心尖と僧帽弁とを結ぶ直線である左室長軸に沿う前記エコー画像を取得可能となる前記プローブのヨー方向におけるヨー角度を前記所望姿勢情報として探索するヨー角度探索部を備え、
前記ヨー角度探索部では、前記プローブをヨー方向に回転させながら都度取得された前記各画像データを取得順に対比したときの左室領域の形状変化から、左室壁の開放状態と閉塞状態の2箇所の境界地点の間の前記ヨー角度である臨界角度を推定し、当該臨界角度の中央値となる前記ヨー角度を、前記左室長軸に沿う前記対象断面が得られる前記所望姿勢情報とすることを特徴とするエコー画像取得用の探索装置。
【請求項2】
前記画像処理部は、前記配置情報として前記プローブの位置情報を用い、基点となる心臓弁の描出状況に応じ、前記所望情報として、心臓の前記エコー画像の対象断面を取得するのに適切となる前記プローブの所望位置情報を探索する位置探索部を含み、
前記位置探索部では、学習済みの前記画像データに基づき、前記各エコー画像内の前記心臓弁を認識する物体検出システムにより、前記各エコー画像内での前記心臓弁の存在の可能性を表す推定値が算出され、当該推定値が高いと判定された前記エコー画像に対応する前記位置情報が、前記所望位置情報とされることを特徴とする請求項1記載のエコー画像取得用の探索装置。
【請求項3】
前記姿勢探索部は、腱索と乳頭筋が連ならない僧帽弁を認識するための前記プローブのピッチ方向におけるピッチ角度を前記所望姿勢情報として探索するピッチ角度探索部を備え、
前記ピッチ角度探索部では、学習済みの前記画像データに基づき、前記エコー画像内において前記腱索と前記乳頭筋が連ならない前記僧帽弁を認識する物体検出システムにより、当該僧帽弁の前記各エコー画像内での存在の可能性を表す推定値が算出され、当該推定値の最も高い前記エコー画像に対応するピッチ角度が前記所望姿勢情報とされることを特徴とする請求項1
又は2記載のエコー画像取得用の探索装置。
【請求項4】
被検体の体表面にプローブを接触させることで体内のエコー画像を取得する超音波画像撮像装置により、所望とするエコー画像を得るために適切となる前記プローブの配置状態を探索する装置のプログラムであって、
相互に異なる前記配置状態で撮像された前記エコー画像に前記プローブの配置情報をそれぞれ対応させた複数の画像データを解析し、適切となる前記配置状態における前記配置情報を所望情報として決定する画像処理部としてコンピュータを機能させ、
前記画像処理部では、複数の前記エコー画像における所定部位の描出状況に基づいて、所定の前記画像データが特定され、当該画像データを取得した際の前記配置情報から前記所望情報が決定され
、
前記画像処理部は、前記配置情報として前記プローブの姿勢情報を用い、前記所望情報として、心臓の前記エコー画像の対象断面を取得するのに適切となる前記プローブの所望姿勢情報を探索する姿勢探索部を含み、
前記姿勢探索部は、左室の先端の心尖と僧帽弁とを結ぶ直線である左室長軸に沿う前記エコー画像を取得可能となる前記プローブのヨー方向におけるヨー角度を前記所望姿勢情報として探索するヨー角度探索部を備え、
前記ヨー角度探索部では、前記プローブをヨー方向に回転させながら都度取得された前記各画像データを取得順に対比したときの左室領域の形状変化から、左室壁の開放状態と閉塞状態の2箇所の境界地点の間の前記ヨー角度である臨界角度を推定し、当該臨界角度の中央値となる前記ヨー角度を、前記左室長軸に沿う前記対象断面が得られる前記所望姿勢情報とすることを特徴とするエコー画像取得用の探索装置のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望とするエコー画像を取得する際に、被検者の体表面に当てるプローブの適切な位置や姿勢を探索するためのエコー画像取得用の探索装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本では死亡率上位を占める心疾患に対して、非侵襲的で高精度な診断が可能な経胸壁心エコー検査(以下、「心エコー検査」と称する)が注目されている。心エコー検査においては、心エコー画像の鮮明性を担保するために、音響窓と呼ばれる適切な超音波入射部位からプローブを当てることが推奨される。それ以外の部位から心エコー画像を取得すると、アーチファクトと呼ばれる虚像や画像の歪みにより鮮明な心エコー画像を取得することが困難となる。ここで、病状の診断に使われる基本断面は、音響窓の位置にて、プローブの角度を微調整することで描出可能であるが、基本断面の描出を行うためのプローブの操作技術に熟練を要する。
【0003】
すなわち、心エコー画像の鮮明性に影響を与える肺や、心エコー画像を欠落させる胸骨、肋骨が、心臓の周囲に存在するため、前記基本断面を得るには、適切となる数少ないプローブの位置及び姿勢を探索する必要がある。ところが、被検者への呼吸指示や体位指示を行っても、心臓の位置や向きには個人差があるため、被検者に対する適切なプローブの位置情報及び姿勢情報を事前に特定できない。また、心エコー検査では、心臓の3次元的構造の把握や細部まで鮮明に描出することを必要とされることから、高い技術や経験則を要するとともに、検査が長時間になり易く被検者への負担が増大する。
【0004】
この心エコー検査による心疾患の早期発見は、医師不足や前述の検査手技の困難性のために十分に行われていないことから、本発明者らは、心エコー検査による心疾患の早期発見を促すべく、遠隔操作や自律動作による支援を目的としたロボットの開発を進めてきた。ロボットによって、基本断面と呼ばれる診断用画像を自動的に取得できれば、効率的な支援が可能になる。
【0005】
ところで、オペレータの遠隔操作により、ロボットアームの先端に取り付けられた超音波診断装置のプローブを患者の患部に当てて患部の超音波画像を取得するロボットが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1等の従来のロボットを心エコー検査に利用した場合でも、基本断面を適切に取得できるプローブの位置や姿勢は、依然、医師等が超音波画像を目視しながら決定するため、医師等の経験や技術に依存することは変わらず、ロボットによる心エコー検査の自動化や効率化を十分に発揮することができない。
【0008】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、エコー検査において所望とするエコー画像を取得可能なプローブの位置情報や姿勢情報を自動的に探索することができるエコー画像取得用の探索装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、主として、被検体の体表面にプローブを接触させることで体内のエコー画像を取得する超音波画像撮像装置により、所望とする前記エコー画像を得るために適切となる前記プローブの配置状態を探索する装置であって、相互に異なる前記配置状態で撮像された前記エコー画像に前記プローブの配置情報をそれぞれ対応させた複数の画像データを解析し、適切となる前記配置状態における前記配置情報を所望情報として決定する画像処理部を備え、前記画像処理部では、複数の前記エコー画像における所定部位の描出状況に基づいて、所定の前記画像データが特定され、当該画像データを取得した際の前記配置情報から前記所望情報が決定される、という構成を採っている。
【0010】
なお、本特許請求の範囲及び本明細書においては、プローブPの位置及び姿勢の各方向については、特に明示しない限り、
図1に示される方向とされる。すなわち、プローブPの位置を表す直交3軸の座標における「x軸方向」は、被検者の頭尾方向とされ、同「y軸方向」は、被検者の横(左右)方向とされ、同「z軸方向」は、被検者の体表面の法線方向とされる。また、同図に示される向きのプローブPの下端中央部分を回転中心としたときに、「ロール方向」は、ビーム走査面Fに直交する軸(前記x軸)回りの回転方向とされ、「ピッチ方向」は、ビーム走査面Fを前後に揺動させる方向(前記y軸回り)の回転方向とされ、「ヨー方向」は、前記z軸回りの回転方向とされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所望とするエコー画像を取得可能なプローブの位置情報や姿勢情報を自動的に特定することができる。このため、ロボットの遠隔操作による心エコー検査における診断時に、プローブの所定範囲の移動や回転を行うことで、所望とする心エコー画像を自動的に取得することができ、ロボットによる自動化や効率化により、心エコー検査の一層の普及が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る心エコー検査システムの概略構成を表した図である。
【
図2】傍胸骨左縁左室長軸断面の心エコー画像の模式図である。
【
図3】所望位置情報の探索と決定の手順を表すフローチャートである。
【
図4】変形例における所望位置情報の探索と決定の手順を表すフローチャートである。
【
図5】
図4の一部手順を変更したフローチャートである。
【
図6】左室長軸を算出する概念を説明するための図である。
【
図7】所望ヨー角度の探索と決定の手順を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1には、本実施形態に係るエコー画像取得用の探索装置を含む心エコー検査システムの概略構成を表した図が示されている。この図において、前記心エコー検査システム10は、医師と離れた場所にいる被検者の心エコー検査を可能にするシステムである。具体的に、この心エコー検査システム10は、被検体の胸部の体表面にプローブPを接触させることで、心臓のエコー画像(以下、「心エコー画像」と称する)を撮像する超音波画像撮像装置11と、プローブPを移動させるプローブ移動装置12と、取得したエコー画像を処理、解析することにより、プローブPの位置情報、姿勢情報からなる配置情報について、所望とする心エコー画像が得られる際の適切なプローブPの配置状態を探索する探索装置13とを備えている。
【0015】
前記超音波画像撮像装置11としては、2次元若しくは3次元の心エコー検査を行うための超音波画像(エコー画像)を取得できる公知の超音波診断装置が適用される。つまり、この超音波画像撮像装置11では、プローブPによるビーム走査によって、ビーム走査面Fと同一断面における2次元の断層画像である心エコー画像が取得される。
【0016】
前記プローブ移動装置12は、医師等の遠隔操作により、プローブPを保持する保持部(図示省略)を動作させることで、プローブPに対し、直交3軸方向の並進運動と直交3軸回りの回転運動とからなる6自由度の動作を可能にするロボットからなる。当該ロボットは、本発明の本質的な要素でないため、詳細な構成等の説明を省略する。
【0017】
また、前記プローブPには、その位置情報及び姿勢情報を検出可能な公知のセンサ(図示省略)が設けられている。このセンサでは、所定地点を原点とする直交3軸の各座標における位置情報と、当該3軸回りの回転角度である姿勢情報とからなる3次元の配置情報を取得可能になっている。なお、ここでのセンサとしては、加速度センサ、磁気センサ、光学センサ等、前記配置情報を取得可能な限りにおいて、種々の機器を採用することができる。また、前記配置情報における座標系は、所定の位置を原点として事前に設定される。
【0018】
前記探索装置13は、CPU等の演算処理装置及びメモリやハードディスク等の記憶装置等からなるコンピュータによって構成されている。
【0019】
この探索装置13は、超音波画像撮像装置11で取得した心エコー画像を含む画像データ等を保存する記憶部15と、記憶部15から抽出された画像データを解析し、心エコー検査に適切となるプローブPの配置状態における前記配置情報を所望情報として決定する画像処理部16とを備えている。
【0020】
前記画像データは、プローブPに取り付けられた前記センサの検出結果から、心エコー画像を取得した際のプローブPの位置情報及び姿勢情報を当該心エコー画像に対応させたデータである。前記記憶部13には、プローブPの移動時や回転時における所定のタイミング毎に画像データが逐次保存される。
【0021】
前記画像処理部16では、心エコー検査において病状の診断に用いられる基本断面のうち、最も所見の多い傍胸骨左縁左室長軸断面と呼ばれる対象断面の心エコー画像を取得可能となるプローブPの位置情報及び姿勢情報が、所望位置情報及び所望姿勢情報(所望情報)として決定されるようになっている。
【0022】
傍胸骨左縁左室長軸断面のエコー画像としては、
図2に模式的に示されるように、扇型の外形の上側頂部に右室51が描出され、同下側に左室壁52、左室53、僧帽弁54及び左房55等が描出される。
【0023】
ここで、プローブPの位置情報としては、心エコー画像を取得可能に体表面に対して一義的に定まる体表面への押圧方向であるz軸方向を除くx軸方向及びy軸方向の2自由度の位置情報が対象となる。また、プローブPの姿勢情報としては、心エコー画像を中心軸上に移動させるために一義的に定まるロール方向を除くヨー方向及びピッチ方向の2自由度の角度情報が対象となる。
【0024】
前記画像処理部16では、プローブ移動装置12によるプローブPの移動や回転による走査により、相互に異なるプローブPの配置状態で得られた複数の心エコー画像の中から、所定部位となる左室壁52や僧帽弁54の描出状況に基づいて、所定の前記画像データを特定し、当該画像データを取得した際のプローブPの配置情報から、所望位置情報及び所望姿勢情報が決定される。
【0025】
具体的に、画像処理部16は、基点となる僧帽弁54の描出状況に応じ、心エコー画像の対象断面を取得するのに適切となるプローブPの所望位置情報を探索する位置探索部18と、心エコー画像の対象断面を取得するのに適切となるプローブPの所望姿勢情報を探索する姿勢探索部19とにより構成される。
【0026】
前記位置探索部18では、僧帽弁54が心エコー画像に表れるプローブPのx軸及びy軸方向の座標からなる所望位置情報を探索する。
【0027】
すなわち、ここでは、学習済みの画像データに基づき、所定の物体を認識する深層学習モデル等を利用したYOLO等の公知の物体検出システムが適用されており、プローブPの各位置で取得した心エコー画像の中から、予め学習した僧帽弁54の存在とその確率を表す推定値が算出される。そして、当該推定値の最も高い心エコー画像を取得したプローブPの位置を表すx軸及びy軸方向の座標が所望位置情報とされる。なお、物体検出システムとしては、心エコー画像の中から僧帽弁54の存在等を推定可能な限りにおいて、様々な手法の他のシステムや装置類を採用することができる。
【0028】
所望位置情報の探索及び決定の手順について、
図3のフローチャートを用いながら以下に説明する。
【0029】
先ず、プローブPのヨー方向及びピッチ方向の角度を所定値に固定した所定の姿勢で、プローブ移動装置12の動作により、プローブPが、被検者の胸部表面の所定範囲に沿って走査される(ステップS101)。この際、n箇所の各位置で都度取得した画像データが記憶部15に保存される(ステップS102)。そして、前記所定範囲でのプローブPの走査が終了したら、位置探索部18により、記憶部15に保存された取得位置毎の全ての画像データについて、それぞれ次の画像処理が行われる。つまり、座標(xi,yi)となる所定位置(i=1、2・・・n)の画像データが記憶部15から抽出され(ステップS103)、当該1フレームの心エコー画像について僧帽弁54の検出が行われる(ステップS104)。そして、僧帽弁54が検出された心エコー画像について、公知の画像処理により、僧帽弁54が、予め設定された心エコー画像の所定の端部領域に位置するか否かが判定される(ステップS105)。そこで、僧帽弁54が、前記端部領域に位置しない場合に、その心エコー画像内での僧帽弁54の推定値が、その画像データに対応して記録された状態で、画像データに保存される(ステップS106)。なお、以上の手順で僧帽弁54が検出されない場合、また、僧帽弁54が前記端部領域に位置する場合には、他の位置で取得された画像データについて、同一の画像処理が行われる。
【0030】
以上の画像処理が、プローブPの走査によって取得された全ての画像データについて行われた後(ステップS107)、前記推定値の有無が判定される(ステップS108)。ここで、前記推定値が記録された画像データが存在する場合には、その中で最大の前記推定値を有する画像データが推定値が高いと判定され、その取得時の位置情報がプローブPの所望位置情報として決定される(ステップS109)。一方、全ての画像データについて、僧帽弁54が検出されない場合、或いは、心エコー画像の前記端部領域でのみ僧帽弁54が検出された場合には、前記推定値が記録された画像データが存在しないため、プローブPのヨー方向及びピッチ方向の角度を別の値に変更して姿勢を変えた上で(ステップS110)、再度、胸部表面の前記所定範囲に沿ってプローブPを走査させ、前述の処理が繰り返し行われる。
【0031】
なお、プローブPの所望位置情報の探索、決定の手順としては、前述に限定されるものではなく、次の変形例の手順により行うこともできる。
【0032】
前述の手順では、プローブPが移動した領域内の各位置で画像データを全て取得した後で、前述の画像処理を行っているが、当該変形例では、プローブPが移動する経路上の各位置にて、前述の画像処理を都度行い、所定の前記推定値の画像データが得られた時点で、その位置情報がプローブの所望位置情報として決定される。
【0033】
すなわち、
図4に示されるように、先ず、プローブPのヨー方向及びピッチ方向の角度を所定値に固定した所定の姿勢で、プローブ移動装置12の動作により、所定の経路に沿ってプローブが走査され(ステップS201)、最初の位置で画像データが取得される(ステップS202)。次に、当該位置での画像データについて、位置探索部18により僧帽弁54の検出が行われる(ステップS203)。そして、僧帽弁54が検出された心エコー画像について、前述と同様に、僧帽弁54が、予め設定された心エコー画像の端部領域に位置するか否かが判定される(ステップS204)。その後、僧帽弁54が、前記端部領域に位置しない場合に、その画像データにおける僧帽弁54の推定値が、予め設定した閾値以上か否かについて判定される(ステップS205)。当該推定値が閾値以上の場合には、推定値が高いと判定され、プローブ移動装置12による経路移動が停止され(ステップS206)、その際のプローブPの位置情報が所望位置情報として決定される(ステップS207)。一方、位置探索部18により僧帽弁54が検出されない場合、僧帽弁54が前記端部領域に位置する場合、或いは、前記推定値が閾値未満の場合には、プローブPが、次の位置に移動して同様の画像処理が行われる。そして、予め設定された経路の全域をプローブPが移動しても、前述の処理により所望位置情報が得られない場合には、プローブPのヨー方向及びピッチ方向の角度を別の値に変更して姿勢を変えた上で(ステップS208)、再度、プローブPが前記経路上を移動し、前述の手順で画像処理が行われる。
【0034】
なお、前記変形例では、当該推定値の閾値を使って所望位置情報を決定しているが、当該変形例に対する変更点として、
図5に示されるように、経路上のプローブPの移動に伴って取得される心エコー画像の推定値が連続的に上昇し続けるまでプローブPの移動を継続し(ステップS205A)、高い推定値と判定される最大の推定値を有する最後のプローブの位置を所望位置情報とする(ステップS207A)態様も採用可能である。
【0035】
前記姿勢探索部19は、
図6に示されるように、左室の先端の心尖56と僧帽弁54とを結ぶ直線である左室長軸Lに沿う断面を描出可能となるように、プローブPのヨー方向における所望姿勢情報となる所望ヨー角度を探索するヨー角度探索部21と、腱索と乳頭筋が連ならない位置での僧帽弁54を認識するためのプローブPのピッチ方向における所望姿勢情報となる所望ピッチ角度を探索するピッチ角度探索部22とを備えている。
【0036】
前記ヨー角度探索部21では、以下の概念に基づいて、左室長軸Lに沿う心エコー画像を描出可能なプローブPのヨー方向の回転角度が、所望ヨー角度として決定される。
【0037】
左室長軸Lの角度を推定するために、心臓の左室形状に着目する。
図6に示されるように、左室53は、回転楕円体に近似することが可能で、その中心軸は左室長軸Lに一致する。また回転楕円体の対称性より、左室長軸L上の任意の点Oを通る断面には、左室長軸Lに対して対称な断面が存在すると考えられる。つまり、これら断面が得られるプローブPの回転角度の中央値は、左室長軸Lに一致することになる。ここで、左室長軸Lが心尖56から僧帽弁54を結ぶ直線であることを考慮すると、僧帽弁54を通る左室の断面Aには左室長軸に対して対称な断面A´が存在する。次に、左室長軸Lを含む断面が得られるプローブPの回転角度から、ヨー方向時計回りにプローブPを回転させた際の断面に着目する。この際、プローブPにより描出される断面の左室壁52の形状は、画像左端の外周部分の一部が開放したチューブ状の形状(開放状態)から、同外周部分が連続して閉塞する楕円形状若しくは円形状(閉塞状態)に変化する。また、逆方向にプローブを回転した際も同様に左室壁52の形状が変化する。ここで、左室壁52の形状が、開放状態と閉塞状態との間で変化する2か所の境界地点Fの間のヨー角度である臨界角度θに着目をすると、臨界角度θの中央値が左室長軸Lに沿う断面を取得可能なプローブPの所望ヨー角度であると考えられる。
【0038】
そこで、前記ヨー角度探索部21では、次の処理が行われる。すなわち、僧帽弁54の位置を中心とし、プローブPをヨー方向に回転させた際に取得された心エコー画像に、当該取得時のヨー方向の角度(ヨー角度)に対応して記憶部15に保存された画像データから、公知の画像処理によって、左室壁53の形状が閉塞状態と開放状態との間で変化する際の心エコー画像が特定される。そして、当該心エコー画像に紐付いているプローブPのヨー角度から臨界角度を求め、その中央値が、左室長軸Lに沿って描出される断面の得られるプローブPの所望ヨー角度として決定される。
【0039】
所望ヨー角度の探索及び決定の手順について、
図7のフローチャートを用いながら以下に説明する。
【0040】
先ず、前述した所望位置情報に対応する位置にプローブPを移動し、当該位置と、ピッチ方向の角度を所定値に固定した所定の姿勢を維持した状態で、プローブ移動装置12により、プローブPを360度の範囲で全周回転させながら走査する(ステップS301)。この際、n箇所の各ヨー角度で都度取得した画像データが記憶部15に保存される(ステップS302)。そして、プローブPの全周回転が終了したら、ヨー角度探索部21により、記憶部15に保存されたヨー角度毎の全ての画像データについて、それぞれ次の画像処理が行われる。つまり、角度(εi)となる所定のヨー角度(i=1、2・・・n)における対象の画像データと、その前後所定数の各フレームの画像データとが記憶部15から抽出される(ステップS303)。そして、公知の画像処理により、当該対象の画像データについて、その前後の所定数のフレーム(例えば、5フレーム)連続で、左室壁52の一部が開放しない状態となる閉塞左室壁が検出されたか否かが判定される(ステップS304)。そして、閉塞左室壁が前記所定数連続して検出された対象の画像データは、検出画像データとして記録される(ステップS305)。なお、閉塞左室壁が前記所定数連続して検出されない場合には、別のヨー角度で取得された次の対象の心エコー画像について、同一の画像処理が行われる。
【0041】
以上の画像処理が、ヨー方向における全周のプローブPの走査によって取得された全ての画像データについて行われた後(ステップS306)、前記検出画像データの存否が判定される(ステップS307)。そして、検出画像データが存在する場合には、前後フレームでの対比により、当該検出画像データを検出し始めた時のプローブPの2箇所のヨー角度から、臨界角度が算出される(ステップS308)。その上で、臨界角度の中央値が算出され、当該中央値に対応するプローブPのヨー角度が、所望ヨー角度として決定される(ステップS309)。一方、全ての画像データについて、閉塞左室壁が検出されない場合には、プローブPのピッチ方向の角度を別の値に変更して姿勢を変えた上で(ステップS310)、再度、前述の処理が行われる。
【0042】
前記ピッチ角度探索部22では、左室長軸Lを含む傍胸骨左縁左室長軸断面において、左室の乳頭筋や腱索が描出されないようにする必要があることから、左室53の乳頭筋や腱索が描出されない僧帽弁54の中央位置におけるプローブPの所望ピッチ角度が探索される。
【0043】
このピッチ角度探索部22では、僧帽弁54を撮像可能な所望位置情報に対応する位置にプローブPを移動した上で、所望ヨー角度でのプローブPの姿勢とした状態で、プローブPのピッチ方向の角度(ピッチ角度)を変化させながら、乳頭筋や腱索が連ならない僧帽弁54が心エコー画像に描出されるピッチ角度で得られた画像データを特定することで、プローブPの所望ピッチ角度が決定される。
【0044】
すなわち、ここでは、前記位置探索部18と同様の物体検出システムが適用されており、プローブPの各ピッチ角度で取得した画像データの中から、予め学習した乳頭筋や腱索が連ならない僧帽弁54の存在とその確率を表す推定値が算出される。そして、前述した実施形態や変形例における位置探索部18と同様の手順により、推定値が高いと判定された画像データを取得した際のプローブPのピッチ角度が所望ピッチ角度とされる。
【0045】
以上の画像処理部16での画像処理により、適切な傍胸骨左縁左室長軸断面が得られるプローブPの位置情報及び姿勢情報が特定され、これら配置情報に対応するプローブPの位置及び姿勢で取得された心エコー画像が、診断に有用となる傍胸骨左縁左室長軸断面として用いられることになる。
【0046】
なお、本発明における探索装置13は、心エコー画像に限らず所望とするエコー画像を得るために適切となるプローブPの配置状態を探索するために、複数のエコー画像における所定部位の描出状況に基づいて、適切となる画像データを特定し、当該画像データを取得した際のプローブPの配置情報を所望情報として決定することも可能である。
【0047】
また、前記画像処理部16としては、所望情報の把握状況に応じて、前記位置探索部18及び姿勢探索部19の何れか一方のみを設ける態様を採用することもできる。また、画像処理部16では、同様の手法により、他の心臓弁等の部位の描出状況に基づいて、所望とする他の基本断面を得るためのプローブPの所望位置情報及び所望姿勢情報を決定することも可能である。
【0048】
更に、前記実施形態では、プローブ移動装置12による動作により、プローブPの移動及び回転を行っているが、本発明はこれに限らず、プローブPの移動及び回転を操作者の手動で行い、探索装置13により、適切なプローブPの位置及び姿勢を自動的に特定することもできる。
【0049】
その他、本発明における装置各部の構成や処理手順は、前述の説明に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
11 超音波画像撮像装置
13 探索装置
16 画像処理部
18 位置探索部
19 姿勢探索部
21 ヨー角度探索部
22 ピッチ角度探索部
P プローブ
L 左室長軸