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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】複合金属顔料組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20250618BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
C09D17/00
C09C3/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021068932
(22)【出願日】2021-04-15
(65)【公開番号】P2022163850
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 克宏
(72)【発明者】
【氏名】杉本 篤俊
(72)【発明者】
【氏名】折笠 智昭
【審査官】郡上 祐輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-208038(JP,A)
【文献】特開2018-172617(JP,A)
【文献】特表平04-505172(JP,A)
【文献】特開2011-241259(JP,A)
【文献】特開平07-304997(JP,A)
【文献】特開2007-204692(JP,A)
【文献】特開2018-052997(JP,A)
【文献】特開2011-231212(JP,A)
【文献】国際公開第2007/043453(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00- 3/12
C09D 15/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を含んでなる複合金属顔料組成物であって、
(1)前記複合粒子の形状が鱗片状であり、
(2)レーザー回折式粒度分布計にて前記複合粒子の粒度分布を測定した場合の体積基準の平均粒子径D50が1~30μmであり、
(3)前記複合粒子の平均粒子厚みが20~300nmであり、
(4)前記複合金属顔料組成物の固形分濃度が85~95質量%であり、
(5)前記複合金属顔料組成物の非固形分の80質量%以上を、沸点が80~150℃であり、Hansenのsp値(溶解度パラメーター)が10.5以上である親水性溶剤が占め、
(6)前記複合金属顔料組成物を200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣が固形分の0.1質量%以下であり、
前記複合粒子に占める凝集の無い一次粒子の割合が個数基準で35%以上であり、
前記複合粒子に占める折れ曲がった複合粒子の割合が個数基準で10%以下であり、
前記酸化金属被覆中の少なくとも1層がケイ素化合物含有層である、上記複合金属顔料組成物。
【請求項2】
前記酸化金属被覆の平均層厚みが5~200nmである、請求項に記載の複合金属顔料組成物。
【請求項3】
前記金属粒子がアルミニウム又はアルミニウム合金を含有する、請求項1又は2に記載の複合金属顔料組成物。
【請求項4】
前記複合粒子が金属、金属酸化物、金属水和物及び樹脂から選ばれる少なくとも1種を含んでなる被覆層をさらに有する、請求項1からのいずれか一項に記載の複合金属顔料組成物。
【請求項5】
下記1)~3)の工程を有する複合金属顔料組成物の製造方法であって、
1)金属粒子を溶剤に分散させる工程
2)前記金属粒子を酸化金属で被覆する工程
3)工程2)で得られた金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を、洗浄、ろ過、及び溶剤揮発する工程
工程3)における溶剤が、互いに相溶性があり、且つ、沸点が10℃以上異なる2種類以上の溶剤の混合溶剤であり、
工程3)における溶剤揮発が、前記複合粒子と前記溶剤とを含むスラリーの状態で行われ、
請求項1から4のいずれか一項に記載の複合金属顔料組成物が製造される、上記製造方法。
【請求項6】
下記1)~3)の工程を有する複合金属顔料組成物の製造方法であって、
1)金属粒子を溶剤に分散させる工程
2)前記金属粒子を酸化金属で被覆する工程
3)工程2)で得られた金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を、洗浄、ろ過、及び溶剤揮発する工程
工程3)における溶剤揮発を3段階以上に分けて実施し、
請求項1から4のいずれか一項に記載の複合金属顔料組成物が製造される、上記製造方法。
【請求項7】
工程3)における溶剤揮発の際の、前記溶剤の水分率が10質量%以下である、請求項又はに記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を含んでなる複合金属顔料組成物及びその製造方法に関し、より具体的には、揮発性有機化合物(VOC)量を低減しながら、複合粒子の凝集、変形等を効果的に抑制し、低VOC、水性塗料等に用いた場合の貯蔵安定性、ブツの抑制、意匠性、隠蔽性等の塗膜の優れた特性等が高いレベルでバランスした複合金属顔料組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、メタリック塗料用、印刷インキ用、プラスチック練り込み用等に、メタリック感を重視する美粧効果を得る目的で金属顔料が使用されている。
近年、塗料分野においては、省資源、作業環境改善、無公害化対策として、有機溶剤使用量の少ない水性塗料への転換の必要性が高まっている。水性塗料における金属顔料の安定性を改善するため、例えば非晶質シリカ等の酸化金属で金属粒子を被覆した複合粒子を用いた顔料が提案されている。このような水性塗料においても、更なるVOC削減が求められている。VOC削減のためには、製造工程における不揮発分(固形分)含量を向上することが有効であるが、そのためにろ過工程で強い遠心分離や強い圧力でのプレス、ろ過を行うと、アルミ等の金属粒子が変形したり、凝集したりしてしまい、更にはシリカ等の酸化金属被覆に欠陥が生じて耐水性が悪化し貯蔵安定性が低下することもある。また、溶剤を加熱や減圧で揮発させることで不揮発分含量を向上することも可能であるが、この場合表面が早期に乾燥して粒子同士が固着・凝集し、溶剤や水に凝集なく分散することができなくなる。この様に、従来の方法で不揮発分含量を向上した複合金属顔料組成物は、塗料作製時の分散性が悪い、希望の色調を発現することができない、貯蔵御安定性に劣る、等の問題を伴い、その解決が強く求められていた。
【0003】
例えば特許文献1には、粉末の形態あるいは高濃縮形態で存在するPVD金属効果顔料を提供することが記載され、当該PVD顔料パウダーが実質的に凝集フリーであるべき旨、良好な再分散性能を有すべき旨等が記載されている。しかしながら、再分散後の凝集等は直接的には評価されておらず、また水系溶剤中での分散性についても報告されていない。
特許文献2には、コーティングされたアルミニウム効果顔料の作製において、ブフナーロートを通して吸引ろ過することが記載され、また当該アルミニウム効果顔料を用いて水性塗料系を形成することが記載されているが、分散性の良否については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-533982号公報
【文献】特表2013-518948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来技術の限界に鑑み、本発明の目的は、不揮発分(固形分)含量が高い複合金属顔料組成物であって、塗料、特に水性塗料における分散性に優れ、色調、輝度、隠蔽性等に優れた塗膜を形成可能であり、貯蔵御安定性にも優れた塗料、特に水性塗料を得ることができ、これらの特性が高いレベルでバランスした複合金属顔料組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、複合金属顔料組成物を構成する溶剤として特定の親水性溶剤を使用し、及び/又は複合金属顔料組成物の製造において特定の条件で溶剤揮発を行うことで、上記課題が達成され得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本願第1発明及びその諸態様は、以下の通りである。
[1]
金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を含んでなる複合金属顔料組成物であって、
(1)前記複合粒子の形状が鱗片状であり、
(2)レーザー回折式粒度分布計にて前記複合粒子の粒度分布を測定した場合の体積基準の平均粒子径D50が1~30μmであり、
(3)前記複合粒子の平均粒子厚みが20~300nmであり、
(4)前記複合金属顔料組成物の固形分濃度が70~95質量%であり、
(5)前記複合金属顔料組成物の非固形分の80質量%以上を、親水性で沸点が80~150℃の溶剤が占め、
(6)前記複合金属顔料組成物を200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣が固形分の0.1質量%以下である、上記複合金属顔料組成物。
[2]
前記複合粒子に占める凝集の無い一次粒子の割合が個数基準で35%以上である、[1]に記載の複合金属顔料組成物。
[3]
前記複合粒子に占める折れ曲がった複合粒子の割合が個数基準で10%以下である、[1]又は[2]に記載の複合金属顔料組成物。
[4]
前記酸化金属被覆中の少なくとも1層がケイ素化合物含有層である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の複合金属顔料組成物。
[5]
前記酸化金属被覆の平均層厚みが5~200nmである、[1]から[4]のいずれか一項に記載の複合金属顔料組成物。
[6]
前記金属粒子がアルミニウム又はアルミニウム合金を含有する、[1]から[5]のいずれか一項に記載の複合金属顔料組成物。
[7]
前記複合粒子が金属、金属酸化物、金属水和物及び樹脂から選ばれる少なくとも1種を含んでなる被覆層をさらに有する、[1]から[6]のいずれか一項に記載の複合金属顔料組成物。
【0008】
また、本願第2発明及び第3発明並びにその諸態様は、以下の通りである。
[8]
下記1)~3)の工程を有する複合金属顔料組成物の製造方法であって、
1)金属粒子を溶剤に分散させる工程
2)前記金属粒子を酸化金属で被覆する工程
3)工程2)で得られた金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を、洗浄、ろ過、及び溶剤揮発する工程
工程3)における溶剤が、互いに相溶性があり、且つ、沸点が10℃以上異なる2種類以上の溶剤の混合溶剤であり、
工程3)における溶剤揮発が、前記複合粒子と前記溶剤とを含むスラリーの状態で行われる、上記製造方法。
[9]
下記1)~3)の工程を有する複合金属顔料組成物の製造方法であって、
1)金属粒子を溶剤に分散させる工程
2)前記金属粒子を酸化金属で被覆する工程
3)工程2)で得られた金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を、洗浄、ろ過、及び溶剤揮発する工程
工程3)における溶剤揮発を3段階以上に分けて実施する、上記製造方法。
[10]
工程3)における溶剤揮発の際の、前記溶剤の水分率が10質量%以下である、[8]又は[9]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術にない新規な複合金属顔料組成物を得ることができる。
本願第1発明の複合金属顔料組成物は、揮発性有機化合物(VOC)量を低減しながら、複合粒子の凝集、変形等を効果的に抑制し、低VOC、水性塗料等に用いた場合の貯蔵安定性、ブツの抑制、意匠性、隠蔽性等の塗膜の優れた特性等を、従来技術の限界を超えて高いレベルでバランスさせることができる。
本願第2及び第3発明の製造方法によれば、揮発性有機化合物(VOC)量を低減しながら、複合粒子の凝集、変形等を効果的に抑制し、低VOC、水性塗料等に用いた場合の貯蔵安定性、ブツの抑制、意匠性、隠蔽性等の塗膜の優れた特性等が、従来技術の限界を超えて高いレベルでバランスした複合金属顔料組成物を効率的に製造ことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、典型的または好適な実施形態に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施形態によって限定されるわけではない。明確に示されない限り、これらの実施形態は、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲内で自由に組み合わせることができる。
【0011】
本願第1発明は、金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を含んでなる複合金属顔料組成物であって、
(1)前記複合粒子の形状が鱗片状であり、
(2)レーザー回折式粒度分布計にて前記複合粒子の粒度分布を測定した場合の体積基準の平均粒子径D50が1~30μmであり、
(3)前記複合粒子の平均粒子厚みが20~300nmであり、
(4)前記複合金属顔料組成物の固形分濃度が70~95質量%であり、
(5)前記複合金属顔料組成物の非固形分の80質量%以上を、親水性で沸点が80~150℃の溶剤が占め、
(6)前記複合金属顔料組成物を200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣が固形分の0.1質量%以下である、上記複合金属顔料組成物、である。
【0012】
複合金属顔料組成物を構成する複合粒子
本願第1発明による複合金属顔料組成物は、金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を含んでなる。
すなわち、本明細書において、用語「複合金属顔料組成物」は、金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を必須成分として含み、特定の非固形分を更に含むものである。
本願第1発明による複合金属顔料組成物は、それ以外の成分、例えば有機処理剤、水および/もしくは親水性溶剤を含む溶剤、を含有してもよい。
【0013】
金属粒子
本願第1発明による複合金属顔料組成物を構成する複合粒子は、金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を含む。すなわち、複合粒子のコアとなる金属粒子の表面に1層以上の酸化金属被覆が形成されている。酸化金属被覆は、通常層状の構造を有する。
【0014】
複合粒子を構成する金属粒子(コア粒子)の材質は、特に限定されず、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛、鉄、マグネシウム、ニッケル、銅、銀、錫、クロム、ステンレス鋼等のように、公知又は市販の金属顔料として使用されている金属のいずれであってもよい。本明細書において、複合粒子を構成する金属粒子の金属には、金属単体だけでなく、合金、金属間化合物も包含される。
金属粒子は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本願第1発明における金属粒子は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含有することが好ましく、95質量%以上がアルミニウム元素で構成されるものがより好ましい。
【0015】
金属粒子の平均粒径は、特に制限されないが、後述する複合粒子の粒度分布におけるD50をもたらすことができるような平均粒径であることが好ましい。すなわち、複合粒子においてレーザー回折式粒度分布計にて体積分布を測定した場合のD50が1~30μmとなるように、あるいはそれを容易ならしめるように、金属粒子の体積平均粒径(D50)を設定することが好ましい。
金属粒子の平均粒径は、ボールミル等を用いて原料アトマイズド金属粉(例えばアルミニウム粉)等を磨砕および篩分・ろ過する工程で、原料アトマイズド金属粉等の粒子径、ボールミルを用いる場合の磨砕ボールの1個あたりの質量、磨砕装置の回転数、篩分およびフィルタープレスの程度などを適宜調整することによって、制御することができる。
【0016】
金属粒子の厚みや形状も特に制限されないが、その平均粒子厚みが10-300nmの鱗片状(フレーク状)であることが望ましい。これにより、本願第1発明による複合金属顔料組成物を構成する複合粒子も鱗片状の形状を容易に有することができる結果、高い隠ぺい力等をより確実に得ることができる。
金属粒子の平均厚みは、後述する複合粒子の平均厚みをもたらすことができるような厚みであることが好ましく、具体的には10-300nmであることが好ましい。これにより、複合粒子の凝集や変形が効果的に抑制され、塗膜における優れた意匠性、光沢、ブツの抑制、水性塗料における安定性等を実現することが容易となる。金属粒子の平均厚みは、上記観点から、好ましくは15~250nmであり、より好ましくは20~200nmである。
【0017】
ここで、金属粒子の平均粒子厚みは当業界において公知の方法で測定することができ、例えば金属粒子及びその表面上にある酸化金属被覆を有する複合粒子を含んでなる金属顔料組成物を用いて塗膜を形成し、その断面のFE-SEM像(電界放出型走査電子顕微鏡像)を取得して画像解析することにより測定することができる。より具体的には、本願実施例に記載の方法で測定することができる。
【0018】
鱗片状の金属粒子のアスペクト比(平均粒径を平均厚みで割った形状係数)は、30~1500であることが好ましく、50~1000であることがより好ましく、80~700であることが特に好ましい。金属粒子のアスペクト比が30以上であることによって、より高い光輝感を得ることができる。また、金属粒子のアスペクト比が1500以下であることによって、フレークの機械的強度が維持され、安定した色調を得ることができる。
金属粒子の平均厚みは、体積基準D50と同様に、ボールミル等を用いて原料アトマイズド金属粉(例えばアルミニウム粉)を磨砕および篩分・ろ過する工程で、原料アトマイズド金属粉の粒子径、ボールミルを用いる場合の磨砕ボールの1個あたりの質量、磨砕装置の回転数、篩分およびフィルタープレスの程度などを適宜調整することによって、制御することができる。
【0019】
また、金属粒子は必ずしも金属のみで構成される必要はなく、本願第1発明の効果を阻害しない限り、例えば合成樹脂の粒子、マイカ、ガラス等のような無機粒子の表面が金属で被覆された粒子等も使用することができる。本願第1発明では、特に高い耐候性、小さい比重、入手のし易さ等の点で、アルミニウム又はアルミニウム合金を含有する粒子であることが望ましい。
【0020】
複合粒子を構成する金属粒子として特に好適なのは、メタリック用顔料として一般に多用されているアルミニウムフレークである。アルミニウムフレークとしては、表面光沢性、白度、光輝性等、メタリック用顔料に要求される表面性状、粒径、形状を有するものが適している。アルミニウムフレークは、通常ペースト状態で市販されている。ペースト状のアルミニウムフレークは、そのまま用いてもよいし、あるいは予め有機溶剤等で表面の脂肪酸等を除去して用いてもよい。また、体積平均粒径(D50)が3~20μm、平均厚み(t)が10~110nmのいわゆるアルミニウム蒸着箔も使用可能である。
【0021】
酸化金属被覆
本願第1発明の複合金属顔料組成物を構成する複合粒子は、金属粒子の表面上に形成された酸化金属被覆を有する。
酸化金属被覆は、酸化金属を含む層により構成される皮膜であり、金属粒子表面の全面に形成されていてもよく、表面の一部にのみ形成されていてもよい。耐水性や塗料に用いた場合の保存安定性等の観点からは、前面に形成されていることが好ましい。
酸化金属被覆は、その全てが酸化金属で構成されていてもよく、その一部のみが酸化金属で構成され、酸化金属以外の成分を含有していてもよい。
【0022】
酸化金属被覆を構成する酸化金属は、酸素と少なくとも1種の金属元素とをその構成元素に含む化合物である。
したがって、酸化金属は、酸素と少なくとも1種の金属元素のみをその構成元素とする狭義の酸化金属であってもよいが、酸素と少なくとも1種の金属元素とをその構成元素に含む限りにおいて、当該酸素及び金属元素以外の元素をその構成元素に含んでいてもよく、例えば金属の水酸化物、酸化物水和物、酸窒化物等であってもよい。また有機基を含む化合物であってもよい。
また酸化金属は、構成元素としての金属元素が1種類のみであるいわゆる単独酸化物であってもよく、また2種以上の金属元素を構成元素とする複合酸化物であってもよい。
酸化金属の構成元素はである少なくとも1種の金属元素は、典型金属であってもよく、遷移金属であってもよい。さらにはいわゆる半金属元素であってもよい。中でもケイ素を構成元素とする酸化金属は、酸化金属被覆を構成する酸化金属として特に好適である。
【0023】
酸化金属被覆を構成する酸化金属として好適なものの具体例して、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化クロム、酸化スズ、酸化モリブデン、酸化バナジウム、それらの酸化物水和物、それらの水 酸化物、およびそれらの混合物等を挙げることができる。中でも、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、およびそれらの混合物、並びにそれらの酸化物水和物および水酸化物が好ましく用いられる。特に好ましくは、酸化ケイ素、水酸化ケイ素、および/または酸化ケイ素水和物などのケイ素酸化物を使用することができる。
【0024】
酸化金属被覆にケイ素酸化物を使用することは、水性塗料中での良好な貯蔵安定性を実現し、また塗膜にしたときの耐水性を向上し、ガス発生を抑制するなどの観点から特に有利である。
酸化金属被覆にケイ素酸化物を使用することで、酸化金属被覆は通常、Si-O-結合(シロキサン結合)を含む化合物から構成される層となる。このような層としては、例えばシラン系化合物及びケイ素酸化物の少なくとも1種を含む層を挙げることができる。このような化合物としては、シラン系化合物[HSiO(HSiO)SiH](但し、nは任意の正の整数を示す。)のほか、SiO、SiO・nHO(但し、nは任意の正の整数を示す。)等で示されるケイ素酸化物が例示される。これらのシラン系化合物及びケイ素酸化物は、結晶質又は非晶質のいずれでも良いが、特に非晶質であることが好ましい。従って、ケイ素酸化物(シリカ等)を含む層として、例えば非晶質シリカを含む層も好適に採用することができる。
【0025】
また、ケイ素酸化物を使用した酸化金属被覆は、有機ケイ素化合物(シランカップリング剤を含む)を出発原料として形成される層であってよい。この場合、酸化金属被覆は、本願第1発明の効果を妨げない範囲内において、未反応の有機ケイ素化合物又はその由来成分を含んでいても良い。この場合の典型例では、酸化金属被覆は、有機ケイ素化合物を加水分解することによって形成され得る。
【0026】
ケイ素酸化物を使用した場合の酸化金属被覆層の質量は、特に限定されないが、金属粒子100質量部に対して1~20質量部であることが好ましく、特に2~15質量部であることがより好ましい。酸化金属被覆のケイ素含有量が金属粒子100質量部に対して1質量部以上であることによって、複合金属顔料組成物の耐食性、水分散性、安定性等が高く維持され得る。酸化金属被覆のケイ素の含有量が金属粒子100質量部に対して20質量部以下であることによって、複合粒子の凝集や、隠蔽性、金属光沢感等の色調の低下が防止され得る。
【0027】
本願第1発明による複合金属顔料組成物に含まれる複合粒子の酸化金属被覆は、特に親水性であることが好ましい。複合粒子は、通常、水系溶剤(水又は水及び有機溶剤を含む混合溶剤)中に分散された形態の複合金属顔料組成物を形成しているが、酸化金属被覆が親水性表面を有する場合、複合粒子がこのような水系溶剤中に高度に分散することができる。しかも、ケイ素酸化物(非晶質シリカ等)等の酸化金属は、水系溶剤中で非常に安定であるため、水系溶剤中で高度に安定した複合粒子を含む複合金属顔料を提供することができる。このような観点から、本願第1発明による複合金属顔料組成物に含まれる複合粒子では、少なくとも1層、好ましくは最外層、が酸化金属皮膜であることが望ましく、ケイ素化合物含有層(特にSi-O結合を含む化合物から構成される層)であることが特に望ましい。酸化金属は金属粒子との親和性にも優れるので、複合粒子が複数の層から構成される被覆層を有する場合、最外層の酸化金属被覆に加えて、最外層以外の層、特に好ましくは金属粒子と接する層として、酸化金属層、特に好ましくはケイ素化合物含有層(特にSi-O系被覆層)を、別途に形成しても良い。
【0028】
個々の複合粒子の酸化金属被覆の厚みは、後述するように複合粒子の平均粒子厚みが20~300nmの範囲になる限りは特に制限されない。酸化金属被覆の厚みは、通常5~200nm程度(特に10~100nm、さらには20~70nm)の範囲内とすることが望ましい。酸化金属被覆の厚みが5nm以上であることによって、十分な耐水性を有し、水性塗料中での金属粒子の腐食又は変色の発生が抑制された塗膜を得ることができる。一方、酸化金属被覆の厚みが約200nm以下であることによって、塗膜の明度、鮮映性、隠ぺい力が高いレベルに維持され得る。
【0029】
個々の複合粒子の酸化金属被覆にケイ素化合物含有層が含まれる場合の、該ケイ素化合物含有層の厚みも、後述するように複合粒子の平均厚みが2~300nmの範囲になる限りは特に制限されない。ケイ素化合物含有層の厚みは、当該層の機能発揮の観点から、通常5~200nmの範囲であってよく、特に10~100nmの範囲であることが好ましく、更には20~70nmの範囲であることが好ましい。
【0030】
本実施形態に用いられ得る有機ケイ素化合物の具体例を以下にて更に説明するが、有機ケイ素化合物はこれらの具体例に限定されるわけではない。
有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の少なくとも一種と、下記一般式(2)、(3)及び(4)のいずれかで表される、いわゆるシランカップリング剤、並びにそれらの部分縮合物から選ばれる少なくとも一種とを含有してよい。
【0031】
Si(OR ・・・ (1)
(式中、Rは水素原子、又は炭素原子数1から8の炭化水素基であり、Rが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
Si(OR4-m ・・・ (2)
(式中、Rは水素原子、又は炭素原子数1から30の、任意にハロゲン基を含んでもよい炭化水素基であり、Rは水素原子、又は炭素原子数1から8の炭化水素基である。RとRは同一でも異なっていてもよく、R、又はRが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦m≦3である。)
Si(OR4-p-q ・・・ (3)
(式中、Rは他の官能基と化学結合し得る反応基を含む基であり、Rは水素原子、又は炭素原子数1から30の、任意にハロゲン基を含んでもよい炭化水素基であり、Rは水素原子、又は炭素原子数1から8の炭化水素基である。R、R、又はRが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦p≦3であり、0≦q≦2であり、1≦p+q≦3である。)
SiCl4-r ・・・ (4)
(式中、Rは水素原子、又は炭素原子数1から30の、任意にハロゲン基を含んでもよい炭化水素基であり、Rが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。0≦r≦3である。)
【0032】
式(1)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であってもよい。これらの炭化水素基の中でも、とくにメチル、エチル、プロピル、及びブチルが好ましい。また、4つのRは、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。
このような式(1)の有機ケイ素化合物の好ましい例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。この中でも特に、テトラエトキシシランが好ましい。
【0033】
式(2)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オレイル、ステアリル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、ナフチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であっても、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基を含んでいてもよい。これらの中でも、とくに炭素数が1から18の炭化水素基が好ましい。また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。分子中のRの数は、式(2)において、m=1から3、すなわち1から3個であるが、m=1又は2であることがより好ましい。
式(2)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であってもよい。これらの炭化水素基の中でも、特にメチル、エチル、プロピル、及びブチルが好ましい。また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。
このような式(2)の有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)の好ましい例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジブチルジブトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ジヘキシルジエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ジオクチルジメトキシシラン、ジオクチルジエトキシシラン、ジオクチルエトキシブトキシシラン、デシルトリメトキ
シシラン、デシルトリエトキシシラン、ジデシルジメトキシシラン、ジデシルジエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ジオクタデシルジメトキシシラン、ジオクタデシルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリブトキシシラン等が挙げられる。
【0034】
式(3)のRにおける他の官能基と化学結合し得る反応基の例としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、ポリスルフィド基、イソシアネート基等が挙げられる。
また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。分子中のRの数は、式(3)において、p=1から3、すなわち1から3個であるが、p=1であることがより好ましい。
式(3)のRの炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オレイル、ステアリル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、ナフチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であっても、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基を含んでいてもよい。これらの中でも、とくに炭素数が1から18の炭化水素基が好ましい。また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。
式(3)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であってもよい。これらの炭化水素基の中でも、とくにメチル、エチル、プロピル、及びブチルが好ましい。また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。
【0035】
このような式(3)の有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)の好ましい例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-メチル-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピル-トリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
式(4)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オレイル、ステアリル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、ナフチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であっても、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基を含んでいてもよい。これらの中でも、とくに炭素数が1から12の炭化水素基が好ましい。また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。分子中のRの数は、式(4)において、r=0から3、すなわち0から3個であるが、r=1から3であることがより好ましい。
このような式(4)の有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)の好ましい例としては、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、オクチルジメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、テトラクロロシラン等が挙げられる。
【0037】
上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、一般式(2)、(3)及び(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤も、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上を組み合わせて使用する場合には、(2)、(3)及び(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤のみを、2種以上を組み合わせて使用してもよいし、異なる2以上の一般式で表されるシランカップリング剤を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
有機ケイ素化合物の加水分解物及び/又はその縮合反応物は、有機ケイ素化合物と、加水分解反応を行うのに必要な量の水と、加水分解触媒とともに攪拌混合することにより得られる。その際、必要に応じて親水性溶剤を使用することもできる。加水分解反応(すなわちケイ素化合物含有層形成のための反応)の諸条件については後述する。
【0039】
有機ケイ素化合物の加水分解物及び/又はその縮合反応物を得るための加水分解反応及び/又はその縮合反応の原料として、予め一部縮合したオリゴマーを用いてもよい。
有機ケイ素化合物の加水分解物の縮合反応は、有機ケイ素化合物の加水分解反応と同時に行ってもよいし、工程を分けて、かつ必要であれば触媒を替えて行ってもよい。その際、必要に応じて加温してもよい。
【0040】
複合粒子及び複合金属顔料組成物の物性
本願第1発明による複合金属顔料組成物は、これを構成する複合粒子が以下の物性要件を満たすものである。
(1)複合粒子の形状が鱗片状であること。
(2)レーザー回折式粒度分布計にて複合粒子の粒度分布を測定した場合の体積基準の平均粒子径D50が1~30μmであること。
(3)複合粒子の平均粒子厚みが20~300nmであること。
本願第1発明による複合金属顔料組成物は、更に、組成物として以下の要件を満たすものである。
(4)複合金属顔料組成物の固形分濃度が70~95質量%であること。
(5)複合金属顔料組成物の非固形分の80質量%以上を、親水性で沸点が80~150℃の溶剤が占めること。
(6)複合金属顔料組成物を200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣が固形分の0.1質量%以下であること。
以下、これらの物性要件の各々について説明する。
【0041】
(1)複合粒子の形状が鱗片状であること。
本願第1発明による複合金属顔料組成物に含まれる複合粒子は、その形状が鱗片状である。鱗片状の複合粒子を含有することで、本願第1発明の複合金属顔料組成物は、高い隠ぺい力等の優れた特性を有する塗膜を効果的に形成することができる。
鱗片状の複合粒子は、製造の際の攪拌、分離、ろ過等の工程で変形し易く、特に不揮発分(固形分)含量を高めるための強い遠心分離や、強い圧力でのろ過等より変形し易い傾向があるが、本発明においては、高不揮発分(固形分)含量を実現しながら、鱗片状の複合粒子の変形を効果的に抑制することができる。
【0042】
ここで複合粒子が鱗片状であるとは、当該粒子が好ましくは後述する数値範囲内である高アスペクト比を有する形状であることを意味する。
鱗片状の複合粒子は、複合粒子の製造にあたって鱗片状の金属粒子を原料として使用すること等により、製造することができる。その様な金属粒子として、例えば、公知又は市販のペースト状アルミニウムフレークを使用することができる。
【0043】
本願第1発明による複合金属顔料組成物に含まれる鱗片状の複合粒子は、そのアスペクト比(平均粒径を平均厚みで割った形状係数)が30~700であることが好ましい。複合粒子のアスペクト比が30以上であることによって、より高い光輝感を得やすくなる。また、複合粒子のアスペクト比が700以下であることによって、複合粒子の機械的強度が維持され、安定した色調を得ることが容易になる。アスペクト比は50~600であることが好ましく、80~500であることがより好ましい。
【0044】
(2)レーザー回折式粒度分布計にて複合粒子の粒度分布を測定した場合の体積基準の平均粒子径D50が1~30μmであること
レーザー回折式粒度分布計にて複合粒子の粒度分布を測定した場合の体積基準の平均粒子径D50は、1~30μmである。これにより、粒子の凝集や変形が効果的に抑制されるとともに、複合金属顔料組成物又はそれを含有する水性塗料等を用いて形成された塗膜が、優れた意匠性、光沢、ブツの抑制、水性塗料における安定性等を実現し得る。この体積基準のD50は、一般にメディアン径とも称される。
優れた意匠性、光沢、ブツの抑制、水性塗料における安定性等を得る観点から、レーザー回折式粒度分布計にて複合粒子の粒度分布を測定した場合の体積基準のD50は、好ましくは2~25μm、特に好ましくは3~20μmである。
この物性要件における「複合粒子」は、複数の複合粒子が凝集・固着している場合にはその凝集物(集合体)を指す。
ここで、レーザー回折式粒度分布計にて複合粒子の粒度分布を測定した場合の体積基準のD50は、体積累積粒度分布における累積度50%の粒子径を指す。レーザー回折式粒度分布計としては、特に限定されないが、「LA-300」(株式会社堀場製作所製)などを使用することができる。測定溶剤としては水、イソプロパノール、メトキシプロパノール等の親水性溶剤が使用され得る。例えば、試料の複合粒子を含む複合金属顔料組成物に対し、前処理として2分間程度の超音波分散を行った後、分散槽の中に投入し適当に分散されたことを確認後、D50を測定することができる。
複合金属顔料組成物を構成する複合粒子の体積基準のD50は、例えば、ボールミル等を用いて原料アトマイズド金属粉(例えばアルミニウム粉)を磨砕および篩分・ろ過する工程で、原料アトマイズド金属粉の粒子径および仕込み量、ミネラルスピリット等の摩砕溶剤量、摩砕助剤の種類及び量、ボールミルを用いる場合の磨砕ボールの1個あたりの質量および投入量、磨砕装置の回転数、篩分およびフィルタープレスの程度などを適宜調整すること等によって、ならびに、酸化金属被覆(および必要に応じてその他の被覆層)を被覆する工程で、有機ケイ素化合物等の原料の加水分解時のpH、濃度、攪拌温度、攪拌時間、攪拌装置の種類、攪拌の動力/程度(攪拌翼の種類および直径、回転数、外部攪拌の有無等)などを適宜調整すること等によって、制御することができる。
また酸化金属被覆処理時の凝集によって粒子径が肥大する傾向があるが、粒子肥大は色調低下、隠蔽性低下、塗膜外観の低下を招くため、特に処理に用いる原料アルミペーストの前処理により粒子肥大を防ぐことが効果的である。
【0045】
(3)複合粒子の平均粒子厚みが20~300nmであること
本願第1発明による複合金属顔料組成物に含まれる複合粒子の平均厚みは、20~300nmである。これにより、上記要件(1)及び(2)の充足と相俟って、複合粒子の凝集や変形が効果的に抑制され、塗膜における優れた意匠性、光沢、ブツの抑制、水性塗料における安定性等を実現することができる。
複合粒子の平均厚みは、上記観点から、好ましくは20~250nmであり、より好ましくは20~200nmである。
この物性要件における「複合粒子」は、複数の複合粒子が凝集・固着している場合にはその凝集物(集合体)を指す。
ここでの複合粒子の平均厚みは、金属粒子の平均粒子厚み及び酸化金属被覆の厚みをそれぞれ測定し、これらから下式に従い計算することができる。
複合粒子の平均粒子厚み = 金属粒子の平均粒子厚み+酸化金属被覆の厚み×2
金属粒子の平均粒子厚みは、上記(2)にて説明した方法で測定することができる。
酸化金属被覆の厚みは、当業界において公知の方法で測定することができ、例えばSTEM(走査型透過電子顕微鏡)により測定することができる。より具体的には本願実施例に記載の方法で測定することができる。
複合金属顔料組成物に含まれる複合粒子の平均厚みは、体積基準D50と同様に、原料金属粉を処理する工程、ケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆(および必要に応じてその他の被覆層)を被覆する工程等で、原料アルミペーストの前処理、および有機ケイ素化合物等の原料の加水分解時のpH、濃度、攪拌温度、攪拌時間、攪拌装置の種類、攪拌の動力/程度(攪拌翼の種類および直径、回転数、外部攪拌の有無等)などを適宜調整することによって、制御することができる。また酸化金属被覆処理時の凝集によって粒子径が肥大する傾向があるが、粒子肥大は色調低下、隠蔽性低下、塗膜外観の低下を招くため、特に処理に用いる原料アルミペーストの前処理により粒子肥大を防ぐことが効果的である。
【0046】
(4)複合金属顔料組成物の固形分濃度が70~95質量%であること。
本願第1発明による複合金属顔料組成物の固形分濃度は、70~95質量%である。
本願第1発明による複合金属顔料組成物は、その固形分濃度が70~95質量%であることにより、低VOC(揮発性有機化合物)化を実現しながら、良好な外観の塗膜を形成できる塗料を実現することができる。より具体的には、固形分濃度が70質量%以上であることで、溶剤等のVOCの含有量を十分に低減することができるので、これを用いて塗料を形成した場合にも、VOCの含有量が十分に低減された塗料を実現することができる。一方で、固形分濃度が95質量%以下であることで、塗料を形成する際の均一分散が容易であり、塗膜におけるブツの発生等を有効に抑制することができる。
固形分濃度は、75~95質量%であることが好ましく、80~95質量%であることがより好ましく、85~95質量%であることが特に好ましい。
【0047】
複合金属顔料組成物の固形分濃度は、複合金属顔料組成物に含まれる固形分(不揮発分)の質量割合である。固形分濃度は、所定量の複合金属顔料組成物を加熱して揮発分を揮発させたのちの質量を測定し、当該質量の加熱前の質量に対する割合として決定することができる。より具体的には、例えば本願実施例記載の方法により測定することができる。
【0048】
複合金属顔料組成物の固形分濃度は、複合金属顔料組成物の製造にあたり、金属粒子の分散や酸化金属皮膜の形成の際に用いた溶剤等の揮発分をろ過、揮発等により除去することにより、適宜調整することができる。
本願第1発明において特定される様な高い固形分濃度を実現するには、揮発により除去し易い低沸点の溶剤を使用することが好ましい。その様な低沸点の溶剤は、必ずしも金属粒子の分散や酸化金属皮膜の形成において好適ではない場合があるので、金属粒子の分散や酸化金属皮膜の形成の後に、より低沸点の溶剤への溶剤置換を行ってもよい。
また、揮発を段階的に行うことも好ましく、例えば揮発を行った後に、複合粒子を溶剤中に拡散する操作を行い、再度揮発を行ってもよい。
更に、高い固形分濃度を実現するには、ろ過と揮発とを組み合わせることも好ましく、ろ過を行って揮発分の量を減じた後に揮発を行うことが特に好ましい。
高い固形分濃度は、遠心分離や比較的強い圧力のろ過により溶剤等を除去することによっても実現することができるが、その様な操作は鱗片状の複合粒子を凝集させ及び/又は変形させ、本願第1発明の他の要件、例えば所定の体積基準の平均粒子径D50や、所定の残渣量の実現を困難にするおそれがあることに留意すべきである。
本願第1発明において特定される固形分濃度を実現するにあたっては、複合粒子の凝集、変形を有効に防止しながら揮発分を十分に除去できることから、本願第2発明、及び/又は本願第3発明の製造方法を採用することが特に好ましい。
【0049】
(5)複合金属顔料組成物の非固形分の80質量%以上を、親水性で沸点が80~150℃の溶剤が占めること
本願第1発明による複合金属顔料組成物の非固形分は、その80質量%以上を、親水性で沸点が80~150℃の溶剤(以下、「特定溶剤」ともいう。)が占める。
特定溶剤は沸点が80~150℃なので揮発し易く、揮発にあたって極端な高温や減圧を必要としないので、特定溶剤が非固形分の80質量%を占めることで、複合粒子同士を凝集、固着させることなく溶剤等の非固形分を除去して固形分含量を向上させることができる。
また、特定溶剤は親水性なので、特定溶剤が非固形分の80質量%を占めることで、本願第1発明による複合金属顔料組成物を水中に分散することが容易となり、均一な水性塗料を形成することが一層容易となる。また、親水性であることで、共沸等により組成物中の水を除去することが一層容易となり、水分によりもたらされる凝集を一層有効に抑制することができる。
親水性の溶剤の概念は、当業者間で共通の理解が存在するが、例えば水での溶解度が常温で20g/g以上である溶剤を親水性溶剤として好ましく用いることができる。また、sp値(溶解度パラメータ)が10.5以上である溶剤を、親水性溶剤として好ましく用いることができる。
【0050】
特定溶剤は、複合金属顔料組成物の非固形分の80~100質量%を占めることが好ましく、85~100質量%を占めることがより好ましく、90~100質量%を占めることが特に好ましい。
特定溶剤の量(割合)は、複合金属顔料組成物の製造に使用する溶剤の組成を調整することにより、適宜調整することが可能である。特定溶剤の量(割合は)、複合金属顔料組成物の製造において使用した各種溶剤の量、及び除去した各種溶剤の量から計算することが通常可能であるが、製造の際のろ過、揮発等の工程が複雑で計算が困難な場合には、得られた複合金属顔料組成物から、THF(テトラヒドロフラン)などの溶媒で溶剤を抽出し、LC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析計)等によって測定することができる。
【0051】
特定溶剤の好適な例として、メトキシプロパノール、イソブタノール、ノルマルブタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール等を挙げることができる。
これら特定溶剤は、1種類のみを使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
(6)複合金属顔料組成物を200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣が固形分の0.1質量%以下であること。
本願第1発明による複合金属顔料組成物を200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣は、固形分の0.1質量%以下である。
200メッシュのフィルターの目開きは約74μmなので、体積基準の平均粒子径D50が1~30μmであり、平均粒子厚みが20~300nmである複合粒子は、粒子同士の固着や凝集が無ければ、その大半が200メッシュのフィルターを通過する。したがって、複合金属顔料組成物を200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣は、粒子同士が固着、凝集した複合粒子であり、固形分に占めるその割合は低いことが好ましい。
本願第1発明による複合金属顔料組成物は、200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣が固形分の0.1質量%以下であるので、粒子同士が固着、凝集が効果的に抑制され、溶剤や水に分散して凝集が抑制された塗料を形成することが可能であり、またブツが効果的に抑制されるなど外観に優れた塗膜を形成することができる。
200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣の量は、固形分の0.05質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.005質量%以下であることが特に好ましい。
【0053】
200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣の量は、複合金属顔料組成物を溶剤中に良く分散させた後、200メッシュのフィルターでろ過し、残渣の乾燥質量を測定し、これと当初の複合金属顔料組成物中の固形分の質量とから、固形分に占める残渣の割合を決定することができる。より具体的には、例えば本願実施例に記載の方法により測定することができる。
200メッシュのフィルターでろ過した際の残渣の量は、本願明細書に記載の各種手法により複合粒子同士の固着、凝集を抑制することで、低減することができる。特に、上記特定溶剤を多く使用することが、残渣量の低減に効果的である。また、本願第2発明、及び/又は本願第3発明の製造方法を採用し、複合粒子の凝集、変形を有効に防止しながら揮発分を除去することも、残渣量の低減に効果的である。
【0054】
複合粒子の好ましい物性等
本願第1発明による複合金属顔料組成物は、これを構成する複合粒子が、上記(1)から(3)の物性要件に加えて、以下の物性、特徴等の一部または全部を具備することが好ましい。
【0055】
複合粒子に占める凝集の無い一次粒子の割合が個数基準で35%以上であること
本実施形態による複合金属顔料組成物においては、複合金属顔料組成物が含有する複合粒子全体に占める凝集の無い一次粒子の割合は、個数基準で35%以上であることが好ましい。一次粒子の割合が35%以上であることは、個々の粒子の凝集性が抑制されたことを意味し、一次粒子のみならず、凝集した粒子においてもその凝集の度合いがより小さなものとなる。これにより、複合金属顔料組成物を用いて形成された塗膜が優れた意匠性、光沢、ブツの抑制を示すとともに、水性塗料における安定性等を向上することが一層容易となる。
また、この様に個々の粒子の凝集性が抑制されることで、分散のための攪拌はマイルドなもので足るので、攪拌による粒子の変形を大幅に低減することができる。
【0056】
上記効果を促進する観点から、複合粒子の集合体に占める凝集の無い一次粒子の割合は個数基準で40%以上であることがより好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
複合粒子に占める凝集の無い一次粒子の割合は通常高いほど好ましく、特に上限は存在せず、100%となることが理想的である。
複合粒子に占める凝集の無い一次粒子の割合は、当業界において公知の方法で測定することができ、例えば金属粒子及びその表面上にある酸化金属被覆を有する複合粒子の集合体からなる金属顔料組成物を用いて塗膜を形成し、その断面のFE-SEM像(電界放出型走査電子顕微鏡像)を取得して画像解析することにより、あるいは評価者が当該FE-SEM像中の一次粒子と凝集粒子の個数を数えることにより、測定することができる。より具体的には、例えば本願実施例に記載の方法で測定することができる。
【0057】
複合粒子に占める凝集の無い一次粒子の割合は、例えば、特定溶剤の使用量を高めること、本願第2発明、及び/又は本願第3発明の製造方法を採用すること、等によって向上することができる。
また、複合粒子を構成する金属粒子の選択や処理、金属粒子上に形成される酸化金属被覆の種類や製造条件を適宜設定することで、制御することができる。既存の技術としては被覆処理時の攪拌回転数を上げ、レイノルズ数を一定値以上にすることにより機械的な分散を強化するという試みがなされているが、この方法では本願で取り扱っているような微細な粒子の分散には限界があるのと、撹拌時の強い応力により、鱗片状の薄い粒子が破断したり変形したりするという課題がある。
一方で、金属粒子上に酸化金属による被覆処理を行う前に、金属粒子に分散性向上のための前処理を行うことで、被覆処理時の粒子の凝集を抑制することが可能であり、これにより凝集の無い一次粒子の割合を大幅に増加させることができる。
例えば、原料となる金属粒子が溶剤に分散されて供給される場合には、当該溶剤を被覆処理に用いられる溶剤と同じ物に置換することにより、更に所望により一定時間の加温処理を行って溶剤を金属粒子表面に十分に馴染ませることにより、被覆処理時に発生する凝集を大幅に抑制することができる。更に、この際に少量の界面活性剤を添加することも、凝集の抑制に有効である。
【0058】
これらの処理により金属粒子自体の分散性が向上するため、被覆処理時に無理な撹拌を行う必要がなく、マイルドな撹拌でも凝集のない一次粒子の製造することができる。このため、被覆処理時の粒子の変形を大幅に低減することが可能になり、塗膜における優れた意匠性、光沢、ブツの抑制、水性塗料における安定性等を実現することが容易となる。
【0059】
上記の他に凝集の無い一次粒子の割合に影響を与える要素として、ボールミル等を用いて原料アトマイズド金属粉(例えばアルミニウム粉)等を磨砕および篩分・ろ過する工程での、原料アトマイズド金属粉等の粒子径、ボールミルを用いる場合の磨砕ボールの1個あたりの質量、磨砕装置の回転数、篩分およびフィルタープレスの程度、ならびに、ケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆(および必要に応じてその他の被覆層)を被覆する工程での、有機ケイ素化合物等の原料の加水分解時のpH、濃度、攪拌温度、攪拌時間、攪拌装置の種類、攪拌の動力/程度(攪拌翼の種類および直径、回転数、外部攪拌の有無等)などを挙げることができ、これらを適宜調整することによっても、凝集の無い一次粒子の割合を制御することができる。
【0060】
複合粒子に占める折れ曲がった複合粒子の割合が個数基準で10%以下であること。
本実施形態による複合金属顔料組成物においては、複合金属顔料組成物が含有する複合粒子全体に占める折れ曲がった複合粒子の割合が10%以下であることが好ましい。これにより、複合金属顔料組成物を用いて形成された塗膜が優れた意匠性、光沢、ブツの抑制を示すとともに、水性塗料における安定性等を向上することが一層容易となる。
【0061】
折れ曲がった複合粒子の割合は、複合粒子の変形あるいは破損の程度に関連する指標であると理解される。折れ曲がった複合粒子の割合が10%以下であれば、複合粒子の変形あるいは破損の程度が小さく、それによって、各複合粒子の未処理表面(酸化金属皮膜が形成されていない表面)の割合が小さくなることで水性塗料における安定性が向上し、またさらには個々の粒子に均一かつ十分な被覆を形成するのが容易になることで個々の粒子の凝集性がより一層小さくなるので、複合金属顔料組成物を用いて形成された塗膜表面での優れた意匠性、光沢、ブツの抑制を示す塗膜を得ることができる。
複合粒子の集合体に占める折れ曲がった複合粒子の割合は、少なければ少ないほど良い。この割合は、好ましくは6%以下であり、より好ましくは3%以下である。折れ曲がった複合粒子の割合は低いほど好ましいので、特にその下限は存在しないが、理想的には0%である。
【0062】
複合金属顔料組成物における折れ曲がった複合粒子の割合は、当業界において公知の方法で測定することができ、例えば金属粒子及びその表面上にある酸化金属被覆を有する複合粒子の集合体からなる金属顔料組成物を用いて塗膜を形成し、その断面のFE-SEM像(電界放出型走査電子顕微鏡像)を取得して画像解析することにより測定することができる。より具体的には、当該FE-SEM像中の金属粒子の断面の両先端間の直線距離の、金属粒子断面に沿った両先端間の経路長さに対する比率が0.8倍以下となる粒子を折れ曲がった粒子と判定し、その個数割合を求めることにより測定することができる。更に具体的には、例えば本願実施例に記載の方法で測定することができる。
複合粒子に占める折れ曲がった複合粒子の割合は、例えば、特定溶剤の使用量を高めること、本願第2発明、及び/又は本願第3発明の製造方法を採用すること、等によって低減することができる。
また、酸化金属被覆(および必要に応じてその他の被覆層)を被覆する工程で、原料アルミペーストの分散性向上のための前処理、攪拌時間、攪拌装置の種類、攪拌の動力/程度(攪拌翼の種類および直径、回転数、外部攪拌の有無等)などを適宜調整することによっても、制御することができる。
さらには原料アルミペーストの前処理により、反応時の粒子自体の分散性を向上させることにより、分散のための攪拌はマイルドなもので足るので、攪拌による粒子の変形を大幅に低減することができる。
【0063】
第2被覆層
本願第1発明による複合金属顔料組成物に含まれる複合粒子の被覆層については、少なくとも1層の酸化金属被覆を有すること以外は特に限定されないが、当該酸化金属被覆以外の被覆層(以下「第2被覆層」という)を必要に応じて形成することもできる。
第2被覆層は、例えば、金属(アルカリ金属;アルカリ土類金属;マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀などの金属等)、金属酸化物(酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄等)、金属水和物、及び樹脂(アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ニトロセルロース樹脂、フッ素樹脂などの合成樹脂等)の少なくとも1種を含んでなるものであることが好ましい。第2被覆層として、例えば、モリブデン含有被膜、リン酸化合物被膜等を形成することができる。第2被覆層を設けることによって、金属粒子の耐食性を向上させると共に、ケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆の形成を促進することができる。
【0064】
第2被覆層は、(形成される場合には)特に金属粒子とケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆との間に形成されることが好ましい。従って、例えば「金属粒子/第2被覆層/酸化金属被覆」という層構成を好適に採用することができる。特に限定されないが、モリブデン含有被膜の例としては、特開2003-147226号公報、国際公開第2004/096921号パンフレット、特許第5979788号、特開2019-151678号公報に開示されたものを挙げることができる。リン酸化合物被膜の例としては、特許第4633239号に開示されたものを挙げることができる。モリブデン含有被膜を構成するモリブデン含有物の好ましい例としては、特開2019-151678号公報に開示された混合配位型ヘテロポリアニオン化合物が挙げられる。
別の変形形態では、第2被覆層は、金属粒子およびケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆の外側に形成され得る。また更なる別の変形形態では、第2被覆層の構成成分(モリブデン含有化合物やリン酸化合物など)は、ケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆中にケイ素化合物等と共に包含され得る。
【0065】
本願第1発明による複合金属顔料組成物に含まれる複合粒子の酸化金属被覆以外の第2被覆層(典型例としてはモリブデン含有被膜)を形成する態様に好ましく使用される混合配位型ヘテロポリアニオン化合物は、特に限定されないが、具体的に以下の例が挙げられる。
【0066】
使用され得る混合配位型ヘテロポリアニオン化合物の混合配位型ヘテロポリアニオンは、一種類の元素から成るヘテロポリアニオンのポリ原子のうちのいくつかを、別の元素で置換した構造を持つものであり、それぞれのヘテロポリアニオンの混合物とは異なる物性を示すものである。
【0067】
化学式で表記する場合、混合配位型ヘテロポリアニオンを[Xと表すと、ヘテロポリアニオンは[Xとなり、更にイソポリアニオン[Mとも区別される。但し、ヘテロ原子であるXはB、Si、Ge、P、As等のIIIB、IVB、VB族の元素を表し、それらの中でもB、Si、Pが好ましい。ポリ原子であるM、NはTi、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W等の遷移金属を表し、Ti、Zr、V、Nb、Mo、Wが好ましい。
また、p、q、r、sは原子の数を表し、tは酸化数を表す。
ヘテロポリアニオン化合物は数多くの構造を持つため、混合配位型ヘテロポリアニオン化合物は更に数多くの構造を持ち得るが、代表的かつ好ましい混合配位型ヘテロポリアニオン化合物としては、以下の混合配位型へテロポリ酸:HPWMo12-x40・nHO(リンタングストモリブデン酸・n水和物)、H3+xPVMo12-x40・nHO(リンバナドモリブデン酸・n水和物)、HSiWMo12-x40・nHO(ケイタングストモリブデン酸・n水和物)、H4+xSiVMo12-x40・nHO(ケイバナドモリブデン酸・n水和物)等が例示される。(但し、1≦x≦11、n≧0)
【0068】
これらのヘテロポリアニオン化合物の中で好ましい具体例として、HPWMo40・nHO、HPWMo40・nHO、HPWMo40・nHO、HPVMo1140・nHO、HPVMo40・nHO、HSiWMo40・nHO、HSiWMo40・nHO、HSiWMo40・nHO、HSiVMo1140・nHO、HSiVMo40・nHO等の混合配位型へテロポリ酸が例示される。(但し、n≧0)
混合配位型ヘテロポリアニオン化合物は、酸(いわゆる、混合配位型へテロポリ酸)の形で用いてもよいし、特定のカチオンを対イオンとする(部分若しくは完全な)塩の形で用いてもよい。
【0069】
混合配位型ヘテロポリアニオン化合物を特定のカチオンを対イオンとする塩の形で用いる場合の対カチオン源としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、カドミウム、鉛、アルミニウムなどの金属;アンモニア等の無機成分;及び有機成分であるアミン化合物などから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。無機成分の中では、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニアの塩が好ましい。
更にこれらアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニアから選ばれる少なくとも一種を対カチオン源とする場合、HPWMo12-x40・nHO(リンタングストモリブデン酸・n水和物)、H3+xPVMo12-x40・nHO(リンバナドモリブデン酸・n水和物)、HSiWMo12-x40・nHO(ケイタングストモリブデン酸・n水和物)、H4+xSiVMo12-x40・nHO(ケイバナドモリブデン酸・n水和物)から選ばれる少なくとも一種との塩の形で用いるのがより好ましい。
【0070】
また、混合配位型ヘテロポリアニオン化合物の対カチオン源として、有機成分であるアミン化合物も好ましく用いられ、具体例としては、下記一般式(5)で表されるものが好ましい。
【0071】
(R-N(-R10)-)-R ・・・ (5)
(式中、R、R及びR10は同じでも異なってもよく、水素原子、又は炭素原子数1から30の、任意にエーテル結合、エステル結合、水酸基、カルボニル基、チオール基を含んでもよい1価若しくは2価の炭化水素基であり、任意にRとRは一緒になって5員若しくは6員のシクロアルキル基を形成するか、又は架橋員として付加的に窒素若しくは酸素原子を含むことができる5員若しくは6員環を形成してもよく、又は任意にR、R及びR10は一緒になって、1個以上の付加的な窒素原子及び/又は酸素原子を架橋員として含むことができる多員の多重環を形成してもよい。R、R及びR10は同時に水素原子にはならない。nは1から2の整数を表す。)
【0072】
混合配位型ヘテロポリアニオン化合物の対カチオン源である上記アミン化合物としては、直鎖又は分岐アルキルの一級、二級、又は三級アミン類、混合炭化水素基を有する三級アミン類、脂環一級アミン類、芳香環置換基を持つ一級アミン類、脂環二級アミン類、芳香環置換基を持つ二級アミン類、非対称二級アミン類、脂環三級アミン類、芳香環置換基を持つ三級アミン類、エーテル結合を有するアミン類、アルカノールアミン類、ジアミン類、環状アミン類、芳香族アミン類等、若しくはこれらの任意の混合物が例示される。
【0073】
これらのアミン化合物の中で好ましい具体例としては、炭素数4から20の直鎖又は分岐アルキルの一級、二級、又は三級のアミン類、又はアルカノールアミン類から選ばれる少なくとも一種が挙げられ、例えばブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、トリデシルアミン、ステアリルアミン、ジヘキシルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、直鎖又は分岐ジトリデシルアミン、ジステアリルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、直鎖又は分岐トリトリデシルアミン、トリステアリルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等が挙げられる。
これら一般式(5)で示されるアミン化合物から選ばれる少なくとも一種と、HPWMo12-x40・nHO(リンタングストモリブデン酸・n水和物)、H3+xPVMo12-x40・nHO(リンバナドモリブデン酸・n水和物)、HSiWMo12-x40・nHO(ケイタングストモリブデン酸・n水和物)、H4+xSiVMo12-x40・nHO(ケイバナドモリブデン酸・n水和物)から選ばれる少なくとも一種との塩の形で用いるのがより好ましい。
上記の混合配位型ヘテロポリアニオン化合物の中でも、HPWMo12-x40・nHO(リンタングストモリブデン酸・n水和物)、H3+xPVMo12-x40・nHO(リンバナドモリブデン酸・n水和物)、HSiWMo12-x40・nHO(ケイタングストモリブデン酸・n水和物)の混合配位型へテロポリ酸、若しくはこれら混合配位型へテロポリ酸の有機アミン塩が最も好ましい。
【0074】
本実施形態による複合金属顔料組成物に含まれる複合粒子の酸化金属被覆以外の第2被覆層は、コアとなる金属粒子(好ましくはアルミニウム粒子又はアルミニウム合金粒子)の耐食性をさらに改善するため、他の腐食抑制剤を含む層であってよい。添加する腐食抑制剤としては、特に限定されず、公知のいずれの腐食抑制剤も用いることができる。その使用量は、本願第1発明の所望の効果を阻害しない範囲であればよい。このような腐食抑制剤としては、例えば、酸性燐酸エステル、ダイマー酸、有機リン化合物、モリブデン酸の金属塩等を挙げることができる。
【0075】
複合金属顔料組成物に含まれる複合粒子の酸化金属被覆および/または第2被覆層中に、あるいは別途の層として、塗膜を形成した際の密着性および耐薬品性の観点から、更に有機オリゴマーまたはポリマーを含有することができる。
また、複合粒子の酸化金属被覆および/または第2被覆層中に、あるいは別途の層として、貯蔵安定性の観点から、無機リン酸類及びその塩類、並びに酸性有機(亜)リン酸エステル類及びその塩類よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有してもよい。
これらの化合物は、特に限定されないが、例えば特開2019-151678号公報に開示されているものを用いることができる。
【0076】
複合金属顔料組成物
本願第1発明の複合金属顔料組成物は、金属粒子及びその表面上にある1層以上の酸化金属被覆を含む複合粒子を含み、複合粒子が上記(1)から(3)の要件を充足し、複合金属顔料組成物が上記(4)から(6)の要件を充足するものであり、それ以外の要件を課されるものではないが、複合粒子以外に固形分(不揮発分)の残分として、未反応の有機ケイ素化合物、第2被覆層を形成する化合物、これら由来のオリゴマーまたはポリマー等を含む場合があり、また上記要件(5)に係る特定量の特定溶剤以外に、製造過程で用いられた水などの溶剤を含む場合がある。
複合金属顔料組成物には、有機ケイ素化合物(例えば、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の少なくとも一種と、上記一般式(2)、(3)及び(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤、並びにそれらの部分縮合物から選ばれる少なくとも一種)の加水分解物及び/又はその縮合物であるケイ素化合物が存在し得る。
複合金属顔料組成物には、任意選択の第2被覆層を形成する化合物(第2被覆層としてモリブデン含有被膜を形成する任意選択の態様にあってはモリブデン含有化合物、例えば混合配位型ヘテロポリアニオン化合物)が存在し得る。
複合金属顔料組成物には、任意選択の有機オリゴマーまたはポリマーが存在し得る。
複合金属顔料組成物には、任意選択の無機リン酸類及びその塩類、並びに酸性有機(亜)リン酸エステル類及びその塩類よりなる群から選ばれる少なくとも1種が存在し得る。
複合金属顔料組成物には、製造過程で用いられた水/親水性溶剤を含む溶剤が存在し得る。
【0077】
複合金属顔料組成物は、任意選択で、上記以外の任意成分を含み得る。任意成分の例としては、酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤の少なくとも1種が挙げられる。
【0078】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物に代表されるものを使用することができる。
【0079】
光安定剤としては、先述した酸化防止剤として使用されるものも使用可能であるが、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチレート系化合物、シアノアクリレート系、蓚酸誘導体、ヒンダードアミン系化合物(HALS)、ヒンダードフェノール系化合物に代表されるものを使用することができる。
【0080】
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエートなどのソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどのポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレートなどのポリアルキレングリコール脂肪酸エステル;ラウリン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライドなどのグリセリン脂肪酸エステルに代表される非イオン性界面活性剤が挙げられ、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ラウリル硫酸アンモニウムなどの硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルフォン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホン酸塩;アルキルリン
酸カリウムなどのリン酸エステル塩類に代表される陰イオン性界面活性剤が挙げられ、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドなどの四級アンモニウム塩に代表される陽イオン性界面活性剤などが挙げられ、これらから選ばれた1種若しくは2種以上が使用できる。これらの中で特に好ましい例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル又はそれらの混合物が例示される。
【0081】
複合金属顔料組成物の製造方法
本願第1発明による複合金属顔料組成物の製造方法に特に制限は無いが、本願第2発明の製造方法、及び/又は本願第3発明の製造方法で製造することが特に好ましい。本願2発明の製造方法、及び本願第3発明の製造方法は、複合粒子の凝集や抑制を効果的に防止しながら、高い不揮発分(固形分)含量を有する複合金属顔料組成物を製造することができるので、本願第1発明による複合金属顔料組成物の製造に特に適している。
なお、本願2発明の製造方法、及び本願第3発明の製造方法の適用対象は、本願第1発明による複合金属顔料組成物の製造には限定されず、各種複合金属顔料組成物の製造に好適に用いられる。
【0082】
本願第2発明の製造方法は、
下記1)~3)の工程を有する複合金属顔料組成物の製造方法であって、
1)金属粒子を溶剤に分散させる工程
2)前記金属粒子を酸化金属で被覆する工程
3)工程2)で得られた金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を、洗浄、ろ過、及び溶剤揮発する工程
前記溶剤が、互いに相溶性があり、且つ、沸点が10℃以上異なる2種類以上溶剤の混合溶剤であり、
工程3)における溶剤揮発が、前記複合粒子と前記溶剤とを含むスラリーの状態で行われる、上記製造方法、である。
本願第3発明の製造方法は、
下記1)~3)の工程を有する複合金属顔料組成物の製造方法であって、
1)金属粒子を溶剤に分散させる工程
2)前記金属粒子を酸化金属で被覆する工程
3)工程2)で得られた金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を、洗浄、ろ過、及び溶剤揮発する工程
工程3)における溶剤揮発を3段階以上に分けて実施する、上記製造方法、である。
【0083】
すなわち、本願第2発明の製造方法、及び本願第3発明の製造方法は、いずれも、
1)金属粒子を溶剤に分散させる工程、
2)前記金属粒子を酸化金属で被覆する工程、及び
3)工程2)で得られた金属粒子及びその表面上に形成された酸化金属被覆を有する複合粒子を、洗浄、ろ過、及び溶剤揮発する工程を有する。
本願第2発明においては、前記溶剤が、互いに相溶性があり、且つ、沸点が10℃以上異なる2種類以上溶剤の混合溶剤であり、工程3)における溶剤揮発が、前記複合粒子と前記溶剤とを含むスラリーの状態で行われるのに対して、本願第3発明においてはその様な限定はない点で、本願第2発明と本願第3発明とは相違し、本願第3発明においては、工程3)における溶剤揮発を3段階以上に分けて実施するのに対して、本願第2に発明においてはその様な限定はない点においても、本願第2発明と本願第3発明とは相違する。
以下、これら各工程について説明する。
【0084】
1)金属粒子を溶剤に分散させる工程
工程1)において、金属粒子を溶剤中に分散させる。金属粒子が溶剤中に分散することで、続く2)金属粒子を酸化金属で被覆する工程において、粒子の凝集を抑制することが可能であり、その結果得られる複合粒子の分散性も良好なものとなり、凝集の無い一次粒子の割合を大幅に増加させることができる。
金属粒子を溶剤中に分散させる方法は特に限定されないが、金属粒子を溶剤に添加してから攪拌を加えること、超音波を照射することなどの手法が好ましく採用される。
また、金属粒子の分散性を向上されるために前処理を行うことも好ましい。
【0085】
攪拌は、公知又は市販の攪拌装置により実施することが可能である。例えば、ニーダー、混練機、回転容器撹拌機、撹拌式反応槽、V型撹拌機、二重円錐型撹拌機、スクリューミキサー、シグマミキサー、フラッシュミキサー、気流撹拌機、ボールミル、エッジランナー等の少なくとも1つを用いることができる。
【0086】
これらの攪拌機の中でも、攪拌翼(インペラ)によって攪拌する装置を用いることが好ましい。攪拌翼によって、金属粒子及び溶剤を含む系全体を流動させる循環作用と共に、圧力剪断作用を発揮する結果、金属粒子の凝集を抑制してより効果的に分散させることができる。
【0087】
攪拌翼の形状は、特に限定されず、例えば、アンカー型、プロペラ形、タービン形、ファンタービン形、パドル形、傾斜パドル形、ゲート形を用いることができる。また、これら形状の攪拌翼を多段で組み合わせることもできる。
【0088】
攪拌速度は、攪拌によって生じる渦(ボルテックス)により攪拌翼が露出しない程度で攪拌されることが好ましい。また、攪拌により生じる渦を抑えるために、円筒型槽、角型槽又は邪魔板を設置した槽等を好適に用いることができる。
【0089】
攪拌の線速(攪拌翼の先端速度)は、0.5~30m/sであることが好ましく、1~20m/sであることがより好ましい。攪拌の線速が0.5~30m/sの範囲内であることによって、金属粒子の分散性を高めることができ、ひいては、個々の粒子の凝集性が小さく、優れた意匠性、光沢、塗膜外観を有し、ガスの発生が少ない複合金属顔料組成物を得ることがより容易になる。また、攪拌の線速が上記範囲内であることによって、金属粒子(例えば鱗片状のアルミニウム粉)の破損が防止されると共に、粒子の凝集が効果的に抑制され得る。
【0090】
超音波処理は、特に限定されないが、通常10~1000W,好ましくは50~800Wで、通常20秒~10分、好ましくは30秒~5分程度行うことができる。
【0091】
前処理としては、例えば、原料となる金属粒子が不活性溶剤に分散されて供給される場合には、当該溶剤を被覆処理に用いられる溶剤と同じ物に置換することができる。更に所望により一定時間の加温処理を行って溶剤を金属粒子表面に十分に馴染ませることにより、2)金属粒子を酸化金属で被覆する工程において発生する凝集を大幅に抑制することができる。加熱処理温度は30~60℃程度が好ましく、処理時間は3時間~7日間の間で最適化するのが好ましい。被覆処理を行う工程ではエタノール、イソプロパノール、メトキシプロパノール等の親水性溶剤が好ましく用いられるので、前処理においても反応に用いられるのと同じ親水性溶剤が好ましく用いられる。
更に、この際に少量の界面活性剤を添加することも、前処理による凝集の抑制に有効である。界面活性剤としては、特に制限されるものではないが、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤が好ましく、ノニオン系界面活性剤を用いることが特に好ましい。
【0092】
1)金属粒子を溶剤に分散させる工程は、通常は10~80℃、好ましくは15~70℃、最も好ましくは室温前後(20~60℃程度)にて行うことができる。また、1)金属粒子を溶剤に分散させる工程は、(超音波処理を行う場合はそれも含めて)5分~20時間の間、好ましくは10分~5時間の間行うことができる。
【0093】
2)金属粒子を酸化金属で被覆する工程
上記1)金属粒子を溶剤に分散させる工程に続いて2)金属粒子を酸化金属で被覆する工程を実施することで、金属粒子上に酸化金属被覆を形成することができる。
前述の様に酸化金属被覆にはケイ素酸化物を使用することが好ましいので、以下、前記酸化金属被覆中の少なくとも1層がケイ素化合物含有層である実施形態を例にとり、工程2)の具体例として、ケイ素化合物含有層を形成する工程を説明する。
【0094】
ケイ素化合物含有層の形成工程
ケイ素化合物含有層は形成工程においては、例えば、金属粒子、有機ケイ素化合物の少なくとも1種を含むケイ素含有原料、および溶剤、並びに必要に応じて他の任意成分、を含む混合液を反応させることにより、ケイ素化合物含有層が形成される。
工程1)において金属粒子を溶剤に分散されているので、通常は工程2)においてここにケイ素含有原料が添加される。
【0095】
金属粒子としては、上述した金属粒子を用いることができるが、特に、アルミニウム又はアルミニウム合金の粒子を好適に用いることができる。また、その粒子形状も、上述したとおり、鱗片状の金属粒子を用いることが好ましい。金属粒子として、公知又は市販のもの(典型的にはペースト状アルミニウムフレーク)を使用することができる。
【0096】
上記混合液中における金属粒子の含有量(固形分量)は、特に制限されず、用いる金属粒子の種類、粒度等に応じて適宜設定することができる。
【0097】
ケイ素含有原料としては有機ケイ素化合物を用いることができる。有機ケイ素化合物としては、限定的ではないが、好ましくは上述したものを用いることができる。
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物(典型例としてはテトラアルコキシシラン)および/またはその縮合物、ならびに上記式(2)~(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤の少なくとも1種を好適に用いることができる。
以降では、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物としてテトラアルコキシシランを用いる場合を例に挙げて説明する。なお、以下では、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物を単に「テトラアルコシシラン」とまとめて称する場合がある。
【0098】
上記式(1)で表されるテトラアルコシシランと上記式(2)~(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤とを併用する場合、両者を混合して用いる方法(「第1方法」と称する)を採用することができる。あるいは、金属粒子に対して一方による処理を施して第1ケイ素化合物含有層を形成し、他方による処理を施して第2ケイ素化合物含有層を形成する工程を含む方法(「第2方法」と称する)を採用することもできる。
【0099】
第1方法としては、例えば、金属粒子、上記式(1)で表されるテトラアルコキシシラン及び上記式(2)~(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤を含む混合液のpHを適宜調整することにより、テトラアルコキシシラン及びシランカップリング剤を加水分解/縮合反応させて、ケイ素化合物含有層を形成する工程を含む方法が挙げられる。
【0100】
第2方法として、例えば、金属粒子及び上記式(1)で表されるテトラアルコキシシランを含む混合液のpHを適宜調整することによりテトラアルコキシシランを加水分解/縮合反応させて、金属粒子の表面に第1ケイ素化合物含有層(例えば非晶質シリカからなるシリカ被膜)を形成する工程、ならびに、金属粒子及び上記式(2)~(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤を含む混合液のpHを調整することによりシランカップリング剤を加水分解/縮合反応させて第1ケイ素化合物含有層の表面に第2ケイ素化合物含有層を形成する工程を含む方法が挙げられる。
【0101】
上記式(1)で表されるテトラアルコキシシラン又はその縮合物の使用量は、用いるテトラアルコキシシランの種類等に応じて適宜設定することができる。その使用量は、例えば、被覆処理効果の観点から、ならびに金属粒子の凝集又は光輝感の低下を抑制する観点から、金属粒子(固形分)100質量部に対して2~200質量部であってよく、5~100質量部であることがより好ましい。
【0102】
上記式(2)~(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤の使用量は、特に限定されないが、通常は金属粒子(固形分)100質量部に対して0.1~20質量部程度であってよく、特に1~5質量部であることが好ましい。この使用量が0.1~20質量部程度であることによって、所望の被覆処理効果、望ましい塗膜物性を得ることができる。
【0103】
混合液における溶剤、すなわち、有機ケイ素化合物の加水分解反応及び/又は縮合反応のための溶剤としては、用いるケイ素含有原料の種類等に応じて適宜選択すれば良いが、通常は、水、親水性有機溶剤、またはこれらの混合溶剤を用いることができる。これらの溶剤を用いることによって、反応の均一性や、得られる加水分解物及び/又は縮合反応物の均一性を高めることができる。ケイ素化合物含有層を金属粒子上に直接形成する態様においては、金属粒子と水との反応が急速に進行するのを避けるという観点から、混合液の溶剤は親水性有機溶剤を含むことが特に好ましい。本実施形態では、水と親水性有機溶剤との混合溶剤を好適に用いることができる。
【0104】
親水性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、オクタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール類及びそのエステル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、エチレンプロピレングリコールのグリコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、アセトン、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、その他のアルコキシアルコール類などが挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0105】
ケイ素化合物含有層の形成工程における溶剤の使用量(金属粒子の事前分散を行う場合はそのための溶剤量を除く)は、限定的ではないが、通常は金属粒子(固形分)100質量部に対して100~10000質量部程度であれば良く、特に200~2000質量部であることが好ましい。溶剤の使用量が100質量部以上であることによって、混合液(スラリー)の粘度の上昇が抑制され、適当な攪拌が可能になる。また、溶剤の使用量が10000質量部以下であることによって、処理液の回収、再生コストが高くなることが防止され得る。なお、ここでの溶剤の使用量は、上記第2方法の場合、第1ケイ素化合物含有層の形成および第2ケイ素化合物含有層の形成のために用いられる溶剤量の合計を指す。
【0106】
上記混合液においては、本願第1発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて他の添加剤を配合しても良い。例えば、加水分解触媒、脱水縮合触媒等の触媒のほか、界面活性剤、金属腐食防止剤等が挙げられる。
【0107】
これらの中でも、加水分解触媒を好適に用いることができる。加水分解触媒の配合により、混合液のpHを調整するとともに、有機ケイ素化合物を効率的に加水分解及び脱水縮合させることができ、その結果、金属粒子の表面にケイ素化合物含有層を効率的良くかつ確実に形成することが可能となる。
【0108】
加水分解触媒は、公知又は市販のものを使用すれば良く、特に限定されない。加水分解触媒としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸類;安息香酸、酢酸、クロロ酢酸、サリチル酸、シュウ酸、ピクリン酸、フタル酸、マロン酸等の有機酸類;ビニルホスホン酸、2-カルボキシエタンホスホン酸、2-アミノエタンホスホン酸、オクタンホスホン酸等のホスホン酸類等を用いることができる。これらの加水分解触媒は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、加水分解触媒としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ類;炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機アルカリ塩類;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、エチレンジアミン、ピリジン、アニリン、コリン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、グアニジン等のアミン類;蟻酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、蟻酸モノメチルアミン、酢酸ジメチルアミン、乳酸ピリジン、グアニジノ酢酸、酢酸アニリン等の有機酸の塩類を用いることもできる。これらの加水分解触媒は、1種又は2種以上で用いることができる。
【0109】
加水分解触媒の添加量は、特に限定されないが、通常は金属粒子(固形分)100質量部に対して0.01~20質量部とすれば良く、特に0.02~10質量部とすることが好ましい。前記添加量が0.01質量部以上であることによって、ケイ素化合物含有層の析出量が十分となり得る。また、前記添加量が20質量部以下であることによって、金属粒子の凝集が効果的に抑制され得る。
【0110】
本願第1発明による複合金属顔料組成物の製造は、上記混合液の調製は適度な強度の攪拌下で行うことが好ましい。
混合液の温度は、常温又は加熱下のいずれでも良い。一般的には、混合液の温度は、20~90℃とすれば良く、特に30~80℃の範囲に制御することが好ましい。前記温度が20℃以上であることによって、ケイ素化合物含有層の形成速度が高められ、処理時間を短くすることができる。一方、前記温度が90℃以下であることによって、反応を制御しやすくなり、所望の複合粒子が得られる確率を高めることができる。
【0111】
混合液を撹拌するための撹拌機としては、特に限定されず、アルミニウム粒子と有機ケイ素化合物とを含む混合液を効率良く均一に撹拌することのできる公知の撹拌機を用いることができる。具体例としては、ニーダー、混練機、回転容器撹拌機、撹拌式反応槽、V型撹拌機、二重円錐型撹拌機、スクリューミキサー、シグマミキサー、フラッシュミキサー、気流撹拌機、ボールミル、エッジランナー等が挙げられる。
【0112】
金属粒子と有機ケイ素化合物とを含む混合液を撹拌する際の混合液の温度は、通常10~100℃程度とすれば良く、特に30~80℃とすることが好ましい。この温度が10℃以上であることによって、十分な処理効果を得るための反応時間を短くすることができる。また、この温度が100℃以下であることによって、所望の複合金属顔料組成物を得るための反応の制御がより容易になる。
【0113】
混合液の撹拌時間は、所望のケイ素化合物含有層が形成されるのに十分な時間である限り特に限定されない。この攪拌時間は、例えば0.5~10時間とすることが好ましく、1~5時間とすることがより好ましい。撹拌時間が0.5時間であることによって、十分な処理効果を得ることができる。また、撹拌時間が10時間以下によって、処理コストの増大を抑制することができる。
【0114】
上記混合液において、ケイ素含有原料を加水分解/縮合反応させることにより金属粒子の表面に(あるいは第2の被覆層を介して)ケイ素化合物含有層が形成される。この加水分解/縮合反応は、特に混合液のpH調整等により行うことができる。
【0115】
pH調整に際しては、特にケイ素化合物含有層が金属粒子表面に(あるいは第2の被覆層を介して)形成される段階において、混合液のpH値が変化するので、pH値が一定の範囲内を維持できるように適宜調整することが望ましい。その際、加水分解触媒を添加することによりpH値を調整することが望ましいが、本願第1発明による複合金属顔料組成物の特性を損なわない限り、他の酸性又はアルカリ性の化合物を用いてpH値を調整しても良い。
【0116】
加水分解触媒として塩基性の加水分解触媒を用いる場合は、pH値を7~13とすることが好ましい。pH値が7以上であることによって、ケイ素化合物含有層が迅速に形成され得る。一方、pH値が13以下であることによって、金属粒子の凝集や光輝性の低下が抑制され得、また、腐食による水素ガスの発生が防止され得る。
【0117】
加水分解触媒として酸性の加水分解触媒を用いる場合は、pH値を1.5~7とすることが好ましく、特に2~6とすることがより好ましい。pH値が1.5以上であることによって、反応が適当に制御され、所望の複合粒子を含む複合金属顔料組成物を得ることが容易になる。他方、pH値が7以下であることによって、ケイ素化合物含有層の析出速度を高く保持することができる。
【0118】
上記第1の方法および第2の方法のいずれを採用する場合であっても、上記の一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物及び/又はその縮合物は、金属粒子(固形分)100質量部に対し、加水分解及び縮合反応が完了した状態換算で0.01から50質量部添加することが好ましく、1から30質量部添加することが更に好ましい。また、上記の一般式(2)から(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤、及び/又はそれらの部分縮合物由来の加水分解物及び/又はその縮合物は、金属粒子(固形分)100質量部に対し、加水分解及び縮合反応が完了した状態換算で、合計で0.01から10質量部添加され、0.05から2質量部添加することが更に好ましい。
【0119】
一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物及び/又はその縮合物の添加量は、複合金属顔料組成物の製造にあたって使用した一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の質量に、当該有機ケイ素化合物が全て加水分解し、縮合反応した場合の反応前後の質量比を乗ずることにより、算出することができる。
例えば、一般式(1)で表される有機ケイ素化合物としてテトラエトキシシラン(TEOS)を使用した場合には、以下の加水分解及び縮合反応前後の質量比を用いて、有機ケイ素化合物の加水分解物及び/又はその縮合物の添加量を算出することができる。
(加水分解)
Si(OC (分子量:208) + 4H
→ Si(OH) (分子量:96) + (COH)
(縮合)
Si(OH) (分子量:96)+ Si(OH) (分子量:96)
→ (SiO (分子量:60×2) + 4H
以上の加水分解及び縮合反応前後で、質量は60/208=0.288倍となるので、例えば金属粒子(固形分)100質量部に対して、TEOSを10質量部使用した場合には、その加水分解物及び/又はその縮合物の添加量は、その0.288倍、すなわち2.88質量部になる。
【0120】
同様に、一般式(2)から(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤等の加水分解物及び/又はその縮合物の添加量も、複合金属顔料組成物の製造にあたって使用した一般式(2)から(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤、及び/又はその部分縮合物の質量に、当該シランカップリング剤及び/又はその部分縮合物が全て加水分解し、縮合反応した場合の反応前後の質量比を乗ずることにより、算出することができる。
例えば、一般式(2)で表されるシランカップリング剤としてメチルトリメトキシシシランを使用した場合には、以下の加水分解及び縮合反応前後の質量比を用いて、シランカップリング剤の加水分解物及び/又はその縮合物の添加量を算出することができる。
(加水分解)
CHSi(OCH(分子量:136) + 3H
→ CHSi(OH)(分子量:94) + (CHOH)
(縮合)
CHSi(OH)(分子量:94) + CHSi(OH)(分子量:94)
→ (SiCH1.5(分子量:67×2) + 3H
以上の加水分解/縮合反応の前後で、質量は67/136=0.49倍となるので、例えば金属粒子(固形分)100質量部に対して、メチルトリメトキシシシランを1.23質量部使用した場合には、その加水分解物及び/又はその縮合物の添加量は、その0.49倍、すなわち0.60質量部になる。
【0121】
3)複合粒子を、洗浄、ろ過、及び溶剤揮発する工程
2)金属粒子を酸化金属で被覆する工程が終了した後に、得られた複合粒子を回収して所望の複合金属顔料組成物を得るために、3)複合粒子を、洗浄、ろ過、及び溶剤揮発する工程を実施することができる。
本願第1発明の複合金属顔料組成物を製造するにあたっては、工程3)を実施することは必須ではないが、実施することが好ましい。
本願第2発明の複合金属顔料組成物の製造方法においては、工程3)が実施され、その際の溶剤は、互いに相溶性があり、且つ、沸点が10℃以上異なる2種類以上の溶剤の混合溶剤であり、また工程3)における溶剤揮発は、前記複合粒子と前記溶剤とを含むスラリーの状態で行われる。
本願第3発明の複合金属顔料組成物の製造方法においては、工程3)が実施され、工程3)における溶剤揮発が3段階以上に分けて実施される。
【0122】
工程3)における洗浄は、本技術分野において慣用された方法で行うことができ、例えば、工程2)で得られた複合粒子を含むスラリー又はケーキを有機溶剤を用いて洗浄することができる。洗浄により、複合粒子を含有するスラリー、ケーキ等から水、未反応物、最終的な複合金属顔料組成物において望ましくない溶剤等を除去することができる。
洗浄にあたっては、攪拌を行うことが好ましく、攪拌の条件には特に制限は無いが、例えば工程1)に関連して上記にて説明したものと同様の条件を採用することができる。
工程3)における洗浄の際の温度、時間等には特に制限は無いが、通常、10~70℃、好ましくは15~60℃で、5~180分、好ましくは10~120分実施することができる。
【0123】
洗浄においては、有機溶剤を使用することが好ましく、水分の除去や後に複合金属顔料組成物を水性塗料に使用する際の便宜等から、親水性の有機溶剤を使用することがより好ましい。親水性の有機溶剤はその沸点が80~150℃であるものが特に好ましく、その様な有機溶剤で洗浄することで、本願第1発明における(5)複合金属顔料組成物の非固形分の80質量%以上を、親水性で沸点が80~150℃の溶剤が占める、との要件を充足することが一層容易となる。親水性で沸点が80~150℃の溶剤の好ましい例としてメトキシプロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、ノルマルブタノール、ノルマルプロパノール等を挙げることができる。
洗浄の回数には特に制限は無く、1回のみ洗浄を行ってもよく、複数回、例えば2~5回洗浄を行ってもよい。複数回洗浄を行う場合には、洗浄とろ過とを交互に行ってもよい。また、ヌッチェタイプのろ過器を用いて、連続的、あるいは、間欠的に洗浄液を流して洗浄するのも好ましい例の一つである。
【0124】
工程3)におけるろ過は、本技術分野において慣用された方法で行うことができる。例えば、通常通気度が10~100ミリリットル/cm/分、好ましくは通気度が20~80ミリリットル/cm/分のポリプロピレン製のろ布や、同等の目開きの金属フィルター、ガラスフィルター、セラミックフィルター等を用い、ヌッチェタイプのろ過器を用いて吸引ろ過、加圧ろ過でろ過をすることや、フィルタープレス、ベルトプレス、遠心ろ過器等の手法を適宜採用することができる。ろ過を行うことで、工程2)で得られた複合粒子から水、未反応物、最終的な複合金属顔料組成物において望ましくない溶剤等を除去することができる。
工程3)におけるろ過の温度、圧力には特に制限は無いが、通常、ヌッチェタイプのろ過器を用いる場合は、温度10~70℃、好ましくは15~60℃、圧力0.11~0.9MPa、好ましくは0.15~0.5MPaで実施することができる。
ろ過後の複合粒子を含むスラリー、ケーキ等の固形分量は、75質量%以上であることが好ましく、80~98質量%であることがより好ましく、85~95質量%であることが特に好ましい。
低VOC等の観点から、ろ過後の複合粒子を含むスラリー、ケーキ等の固形分量は高いことが好ましく、そのためにろ過の際の圧力を高く設定することができるが、ろ過の際の高い圧力は複合粒子の凝集や変形を招く場合があるので、この点も考慮のうえ圧力を設定することが好ましい。
【0125】
ろ過と、遠心分離、デカンテーション等の、ろ過以外の固体-液体分離手法とを、適宜組み合わせてもよい。
ろ過の回数には特に制限は無く、1回のみろ過を行ってもよいし、洗浄とろ過とを交互に複数回行ってもよい。複数回、洗浄とろ過とを交互に行うことで、水、未反応物、最終的な複合金属顔料組成物において望ましくない溶剤等を一層効果的に除去し、本願第1発明における(5)複合金属顔料組成物の非固形分の80質量%以上を、親水性で沸点が80~150℃の溶剤が占める、との要件を充足することが一層容易となる。
ろ過の際には、併せて、スラリーやケーキの表面、及び、空隙部に気体を通過させて、溶剤を揮発させることが望ましい。この結果、低沸点の溶剤が優先的に揮発し、高沸点の溶剤分が主として残留した、固形分の高い複合金属顔料組成物が得られやすくなる。
【0126】
工程3)における溶剤揮発は、本技術分野において慣用された方法で行うことができる。例えば、加熱、減圧、通気、これらの組み合わせ等により溶剤揮発を行うことができる
溶剤揮発を行い揮発分を除去することで、固形分の割合が向上するので、本願第1発明における(4)複合金属顔料組成物の固形分濃度が70~95質量%であるとの要件を充足する複合金属顔料組成物を、効率的に製造することができる。また、溶剤揮発により、複合金属完了組成物において望ましくない溶剤等を除去することができるので、(5)複合金属顔料組成物の非固形分の80質量%以上を、親水性で沸点が80~150℃の溶剤が占めるとの要件を充足する複合金属顔料組成物を、一層容易に製造することができる。
【0127】
工程3)における溶剤揮発の温度、圧力、時間等には特に制限は無いが、通常、温度15~100℃、好ましくは20~80℃、より好ましくは30~70℃、圧力は絶対圧で0.1(常圧)~0.001MPa、好ましくは0.05~0.01MPaで、溶剤揮発度合いを確認しながら実施することができる。
溶剤揮発を通気により行う場合には、乾燥空気を使用することが好ましく、露点、通気の流量は、溶剤の揮発度合いを確認しながら適宜調整するのが良い。
溶剤揮発により直接複合金属顔料組成物を得てもよく、更なる工程を経て複合金属顔料組成物組成物を得てもよい。溶剤揮発後の複合金属顔料組成物の固形分量は、75質量%以上であることが好ましく、80~98質量%であることがより好ましく、85~95質量%であることが特に好ましい。
【0128】
本願第2発明の複合金属顔料組成物の製造方法においては、工程3)における溶剤は、互いに相溶性があり、且つ、沸点が10℃以上異なる2種類以上の溶剤の混合溶剤である。互いに相溶性があり、且つ、沸点が10℃以上異なる2種類以上の溶剤の混合溶剤、すなわち低沸点の溶剤を混合した混合溶剤で、それに先立つ各工程で使用した溶剤を置換し、低沸点溶剤を選択的に揮発することで、残したい溶剤、例えば親水性で沸点が80~150℃の溶剤を、選択的に残すことができる。また、低沸点溶剤の揮発は比較的容易であり、また高温等や極端な減圧を必要としないので、比較的容易に、かつ複合粒子の変形や凝集を抑制しながら、固形分濃度を向上することができる。
混合溶剤を構成する2種以上の溶剤の沸点の差は、10~80℃であることが好ましく、20~60℃であることが特に好ましい。
高沸点側の溶剤としては、メトキシプロパノール、イソブタノール、ノルマルブタノール等を好ましく使用することができる。
低沸点側の溶剤としては、イソプロパノール、ノルマルプロパノール、エタノール等を好ましく使用することができる。
高沸点側の溶剤としてのメトキシプロパノールと、低沸点側の溶剤としてのイソプロパノールとを組み合わせて使用することが特に好ましい。
【0129】
また本願第2発明の複合金属顔料組成物の製造方法においては、工程3)における溶剤揮発は、前記複合粒子と前記溶剤とを含むスラリーの状態で行われる。
工程3)において、互いに相溶性があり、且つ、沸点が10℃以上異なる2種類以上の溶剤の混合溶剤を、複合粒子と溶剤とを含むスラリーの状態で溶剤揮発することで、低沸点側の溶剤を揮発させ、高沸点側の溶剤を複合金属顔料組成物中に残すことが一層容易になる。
【0130】
また本願第3発明の複合金属顔料組成物の製造方法においては、工程3)における溶剤揮発は3段階以上に分けて実施される。このとき3段階以上に分かれた溶剤揮発を続けて行ってもよいが、1の段階の溶剤揮発と、それに続く段階の溶剤揮発との間に、スラリーに含まれる溶剤成分を全体に均一化させる工程、例えば攪拌やエージング等を行う工程を行うことが好ましい。この様な溶剤成分を均一化させる工程においては、新たに溶剤を添加して部分的に溶剤置換を行ってもよい。
溶剤揮発は3段階以上に分けて実施することで、また好ましくは揮発と分散とを交互に行うことで、局所的に溶剤が少ない部分ができるのを抑制し、複合粒子の凝集や変形を効果的に防止しながら、本願第1発明の複合金属顔料組成物の様な、高固形分含量で、望ましい溶剤組成を有する複合金属顔料組成物を比較的容易かつ効率的に製造することができる。
【0131】
本願第2発明及び本願第3発明の複合金属顔料組成物の製造方法においては、複合粒子の凝集を抑制する観点から、水分率の低い溶剤を使用することが好ましい。とりわけ、工程3)における溶剤揮発の際の、溶剤の水分率が低いことが好ましい。溶剤の水分率は10質量%であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
このとき得られる複合金属顔料組成物の系全体の水分量を、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下とすることができるので、残渣量を好ましくは固形分の0.1質量%以下、より好ましくは0.003質量%以下に低減することが一層容易となる。
【0132】
それ以外の工程
好ましくは本願第2発明及び/又は本願第3発明の複合金属顔料組成物の製造方法による、本願第1発明の複合金属顔料組成物の製造にあたっては、上記工程1)から3)に加えて、金属粒子を粉砕等する工程や、酸化金属被覆以外の被覆層を形成する工程等を有していてもよい。
【0133】
金属粒子の粉砕、篩分、ろ過等
上記1)金属粒子を溶剤に分散させる工程に先立って、金属粒子を粉砕、篩分、及び/又はろ過してもよい。金属粒子を粉砕、篩分、及び/又はろ過することで、金属粒子の粒径はより均一かつ微細なものとなるので、均一かつ微細な複合粒子を含む複合金属顔料組成物の製造する観点から好ましい。
ここでは、金属粒子としてアルミニウム粉末を用いる場合を例に挙げて説明する。
アルミニウム粉末は、一般的には、アトマイズドアルミニウム粉および/またはアルミニウム箔を乾式ボールミル法、湿式ボールミル法、アトライター法、スタンプミル法等の顔料業界で常用されている方法を用い、粉砕助剤や不活性溶剤の存在下で粉砕して、いわゆる鱗片状にし、さらにこの工程後、篩分(分級)、ろ過、洗浄、混合等の必要とする工程を経て得られる。
ここでの粉砕助剤の例としては、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族アルコール等が挙げられる。一般には、オレイン酸、ステアリン酸、ステアリルアミン等が好ましい。また、不活性溶剤の例としては、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、トルエン、キシレン等の疎水性を示すものが挙げられ、これらを単独または混合して使用することができる。粉砕助剤および不活性溶剤は、これらに限定されるものではない。
粉砕工程としては、粉塵爆発を防止し安全性を確保する観点から、湿式ボールミル法による粉砕が好ましい。
【0134】
金属粒子としてアルミニウム粒子を採用する場合、このような粉砕および篩分・ろ過を経て得られた市販のペースト状アルミニウムフレークを用いることができる。ペースト状アルミニウムフレークは、そのまま用いてもよいし、あるいは予め有機溶剤等で表面の脂肪酸等を除去して用いてもよい。
【0135】
第2被覆層の形成工程
本願第1発明の複合金属顔料組成物を構成する複合粒子は、酸化金属被覆に加えて、それ以外の被覆層(第2被覆層)、好ましくは金属、金属酸化物、金属水和物及び樹脂から選ばれる少なくとも1種を含んでなる被覆層、をさらに有することが好ましい。第2被覆層は、(形成される場合には)特に金属粒子とケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆との間に形成されることが好ましい。従って、「金属粒子/第2被覆層/酸化金属被覆」という層構成を好適に採用することができる。
第2被覆層は、特に限定されないが、モリブデン含有被膜、リン酸化合物被膜等であってよい。モリブデン含有被膜を構成するモリブデン含有物の好ましい例としては、特開2019-151678号公報に開示された混合配位型ヘテロポリアニオン化合物が挙げられる。混合配位型ヘテロポリアニオン化合物を含め、第2被覆層の構成成分の例については上述したとおりである。
以降では、金属粒子とケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆との間に第2被覆層としてモリブデン含有被膜を形成する態様を例に挙げて説明する。
【0136】
金属粒子とケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆との間に第2被覆層としてモリブデン含有被膜を形成する場合、ケイ素化合物含有層等の酸化金属被覆の形成に先立って、金属粒子とモリブデン化合物(典型的には混合配位型ヘテロポリアニオン化合物)とを含む混合液を撹拌することにより、金属粒子表面にモリブデン含有被膜を形成することができる。
【0137】
金属粒子表面にモリブデン含有被膜を形成する方法としては、特に限定されず、水系溶剤中に金属粒子とモリブデン化合物とを含む混合液を均一に撹拌することのできる方法であれば良い。例えば、金属粒子とモリブデン化合物を含む混合液をスラリー状態又はペースト状態で撹拌又は混練することにより、金属粒子表面にモリブデン含有被膜を形成することができる。混合液中においては、モリブデン化合物は溶解していても、あるいは分散していても良い。
【0138】
また、金属粒子とモリブデン化合物とを含む混合液を撹拌するための撹拌機としては、特に限定されず、金属粒子とモリブデン化合物とを含む混合液を効率良く均一に撹拌することのできる公知の撹拌機を用いることができる。具体例としては、ニーダー、混練機、回転容器撹拌機、撹拌式反応槽、V型撹拌機、二重円錐型撹拌機、スクリューミキサー、シグマミキサー、フラッシュミキサー、気流撹拌機、ボールミル、エッジランナー等が挙げられる。撹拌機の攪拌翼の例は、特に限定されないが、アンカー翼、パドル翼、プロペラ翼、タービン翼などを挙げることができる。
【0139】
モリブデン化合物の使用量は、用いるモリブデン化合物の種類等に応じて適宜設定できる。この使用量は、一般的には金属粒子(固形分)100質量部に対して0.02~20質量部とすれば良く、特に0.1~10質量部とすることが好ましい。前記含有量が0.02質量部以上であることによって、十分な処理効果を得ることができる。また、前記含有量が20質量部以下であることによって、得られる複合金属顔料組成物の光輝性を高く保持することができる。
【0140】
金属粒子とモリブデン化合物との混合に用いる溶剤としては、通常は、水、親水性有機溶剤、またはこれらの混合溶剤を用いることができる。
【0141】
親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、オクタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール類及びそのエステル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、エチレンプロピレングリコールのグリコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、アセトン、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、その他のアルコキシアルコール類などが挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0142】
第2被覆層の形成工程における溶剤の使用量(金属粒子の事前分散を行う場合はそのための溶剤量を除く)は、特に制限されないが、通常は金属粒子(固形分)100質量部に対して50~5000質量部であることが好ましく、100~2000質量部であることがより好ましい。溶剤の使用量が50質量部以上であることによって、モリブデン化合物の偏在および金属粒子の凝集を抑制することができる。また、溶剤の使用量が5000質量部以下であることによって、金属粒子に対してモリブデン化合物による十分な処理効果を得ることができる。
【0143】
金属粒子とモリブデン化合物とを含む混合液を撹拌する際の混合液の温度は、通常10~100℃程度とすれば良く、特に30~80℃とすることが好ましい。この温度が10℃以上であることによって、十分な処理効果を得るための反応時間を短くすることができる。また、この温度が100℃以下であることによって、所望の複合金属顔料組成物を得るための反応の制御がより容易になる。
【0144】
混合液の撹拌時間は、所望のモリブデン含有被膜が形成されるのに十分な時間である限り特に限定されない。この攪拌時間は、例えば0.5~10時間とすることが好ましく、1~5時間とすることがより好ましい。撹拌時間が0.5時間であることによって、十分な処理効果を得ることができる。また、撹拌時間が10時間以下によって、処理コストの増大を抑制することができる。
【0145】
金属粒子とモリブデン化合物とを含む混合液の撹拌が終了した後、第2被覆層が形成された粒子を回収することができる。この場合、必要に応じて公知の洗浄、固液分離等を適宜実施することができる。例えば、親水性溶有機剤を用いて混合液を洗浄した後、フィルター等を用いてろ過して、モリブデン含有被膜を有する金属粒子を含有するケーキから水と未反応物を除去することが好ましい。このようにして第2被覆層であるモリブデン含有被膜を形成することができる。他の第2被覆層を形成する場合も、上記の方法に準じて実施することができる。
【0146】
金属粒子上に第2被覆層(以下、モリブデン含有被膜を例に説明する。)に次いで酸化金属被覆(以下、ケイ素化合物含有層を例に説明する。)を形成する態様においては、金属粒子とモリブデン化合物とを含む混合液の撹拌が終了した後、第2被覆層が形成された粒子を回収することなく、その系中に、ケイ素化合物源(典型的には、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物、例えばテトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物、ならびに上記式(2)~(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤の少なくとも1種)の水および/または親水性有機溶剤の分散液を直接添加・攪拌してよい。このとき、第2被覆層が形成された粒子を含む系中に、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物、例えばテトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の分散液を添加し、次いで上記式(2)~(4)のいずれかで表されるシランカップリング剤の少なくとも1種の分散液を添加・攪拌してもよい。
【0147】
複合金属顔料組成物の用途
本願第1発明の複合金属顔料組成物、並びに本願第2発明及び/又は本願第3発明の製造方法で製造された複合金属顔料組成物は、有機溶剤系の塗料、インキ等に用いることができる。また、この複合金属顔料組成物は、水を主とする媒体中に塗膜形成成分(バインダー)である樹脂類が溶解又は分散している水性塗料若しくは水性インキに加えることにより、メタリック水性塗料若しくはメタリック水性インキとすることができる。また、複合金属顔料組成物は、樹脂等と混練して耐水性のバインダー、フィラーとして用いることもできる。酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤は、複合金属顔料組成物を水性塗料若しくは水性インキ、又は樹脂等に配合する際に添加してもよい。
【0148】
複合金属顔料組成物は、塗料やインキに用いる場合は、そのまま(水性)塗料若しくは(水性)インキに加えてもよいが、予め溶剤に分散させてから加える方が好ましい。使用する溶剤としては、水や、テキサノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。また、これらの樹脂類としては例えば、アクリル樹脂類、ポリエステル樹脂類、ポリエーテル樹脂類、エポキシ樹脂類、フッ素樹脂類、ロジン樹脂類などが挙げられる。また、塗料若しくはインキのバインダーの例として、樹脂以外に、ゴムも挙げられる。
これらの樹脂類は水に乳化、分散あるいは溶解することが好ましい。そのために、樹脂類に含まれるカルボキシル基、スルホン基などを中和することができる。
【0149】
好ましい樹脂類として、アクリル樹脂類、ポリエステル樹脂類が挙げられる。
必要に応じて、メラミン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ウレタンディスパージョンなどの樹脂を併用することができる。更には一般的に塗料に加えられる無機顔料、有機顔料、体質顔料等の着色顔料、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、分散剤、沈降防止剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤と組み合わせてもよい。塗料への分散性を良くするために、更に界面活性剤を添加してもよいし、塗料の保存安定性を良くするために、更に酸化防止剤、光安定剤、及び重合禁止剤を添加してもよい。
【0150】
着色顔料の例として、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ペリレン、アゾレーキ、酸化鉄、黄鉛、カーボンブラック、酸化チタン、パールマイカ等が挙げられる。
【0151】
上記水性塗料または水性インキ(樹脂組成物)中における本願第1発明に係る複合金属顔料組成物、又は本願第2発明若しくは本願第3発明の製造方法で製造された複合金属顔料組成物、の含有量は、限定的ではないが、通常は0.1~30質量%とすれば良く、特に1~20質量%とすることが好ましい。この含有量が0.1質量%以上であることによって、高い装飾(メタリック)効果を得ることができる。また、この含有量が30質量%以下であることによって、水性塗料または水性インキの特性、例えば、耐候性、耐食性、機械強度等が損なわれることが防止され得る。
【0152】
溶剤の含有量は、特に限定されないが、バインダー含有量に対して20~200質量%であってよい。溶剤の含有量がこの範囲内であることによって、塗料、インキの粘度が適当な範囲に調節され、取扱いおよび成膜が容易になり得る。
【0153】
水性塗料等の塗装方法又は印刷方法は特に限定されない。例えば、水性塗料等の形態、被塗装材の表面形状等を考慮して種々の塗装方法あるいは印刷方法を適宜採用することができる。塗装方法としては、例えばスプレー法、ロールコーター法、刷毛塗り法、ドクターブレード法等が挙げられる。また、印刷方法としては、例えばグラビア印刷、スクリーン印刷等が挙げられる。
【0154】
水性塗料等により形成される塗膜は、電着塗装等による下塗り層又は中塗り層の上に形成されていても良い。また、必要に応じて、水性塗料等により形成される塗膜の上にトップコート層等が形成されていても良い。
【0155】
これらの層構成の場合、各塗膜層を塗装し、硬化あるいは乾燥後に次の塗膜層を塗装しても良いし、いわゆるウェットオンウェット塗装により各塗膜層を塗装した後、硬化あるいは乾燥させずに次の塗膜層を塗装しても良い。本願第1発明に係る複合金属顔料組成物、又は本願第2発明若しくは本願第3発明の製造方法で製造された複合金属顔料組成物、を含む水性塗料等は、良好な鏡面様の光輝性をもつ塗膜が得られるという点において、下地塗膜層を塗装し硬化あるいは乾燥した後、水性塗料等による塗膜層を形成する工程を含む方法を採用することが好ましい。
各塗膜層における塗料組成物の硬化方法は、熱硬化であってもよいし、常温硬化であっても良い。また、各塗膜層の塗料組成物の乾燥方法は、例えば熱風を用いてもよいし、常温における自然乾燥であってもよい。
【0156】
水性塗料等による塗膜層の厚みは、特に限定されないが、通常0.5~100μm程度が好ましく、1~50μm程度であればより好ましい。塗膜層の厚みが0.5μm以上であることによって、インキ又は塗料による下地の隠蔽効果が十分に得られる。また、塗膜層の厚みが100μm以下であることによって、乾燥が容易になり、ワキ、タレ等の欠陥の発生が抑制され得る。
【0157】
本願第1発明の複合金属顔料組成物、本願第2又は第3発明の製造方法により得られる複合金属顔料組成物、並びにそれを用いて得られる塗膜等は、優れた意匠性、光沢、ブツの抑制、水性塗料における安定性等を高いレベルで兼ね備えるので、塗料、インキ、樹脂練り込み剤等、従来から金属顔料が用いられる各種用途、より具体的には自動車ボディー、自動車補修材料、自動車部品、家電等、プラスチック部品、PCM用塗料、高耐候性塗料、耐熱塗料、防食塗料、船底用塗料、オフセット印刷インキ、グラビア印刷インキ、スクリーン印刷インキ等において好適に使用することができる。
【実施例
【0158】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は単なる例証であって、本発明はこれらの実施例の説明によって何ら限定されるものではないことに留意されたい。
【0159】
実施例1
翼径1mのアンカー型攪拌翼を有す、直径2mの1mの反応槽に、市販のアルミニウムペースト(旭化成株式会社製、商品名「GX-3100(平均粒径11μm、揮発分74%)」)135kgに465kgのメトキシプロパノール(以下、「PM」と略す。)を加え、混合物を100rpmに攪拌翼にて攪拌し、且つ、底部から抜き出した10L/分の分散液を反応槽上部から反応槽にもどす外部循環をしながら、アルミペーストをPM中に均一に分散させた。外部循環では流路の途中にて500Wの超音波を1分間照射し、粒子の分散性を向上させた。
次いで、リンタングストモリブデン酸(HPWMo40)水和物1kgをメトキシプロパノール5kgに溶解した液を徐々に加え、スラリー温度を40℃に保ちながら1 時間攪拌した。反応中、超音波を照射しながらの外部循環は継続した。
その後、有機珪素化合物として10kgのテトラエトキシシランを添加した後、10kgの25%アンモニア水と200kgの精製水を3時間かけて添加した。その後更に、シランカップリング剤として1.3kgのメチルトリメトキシシランを添加し、2時間攪拌した。反応中、超音波を照射しながらの外部循環は継続。反応終了後、冷却してからスラリーを加圧ろ過した。
ろ過したスラリーをイソプロパノール(以下、「IPA」と略す。)/PM:3/2の混合液で十分洗浄して含有溶剤を置換した後、再度、加圧ろ過し、通気して主にIPAを揮発させ、不揮発分90%の複合アルミニウム顔料組成物を得た。ここで用いたIPA/PM混合溶剤中の水分は200ppmのものを用い、加圧ろ過や通気には露点が-40℃の乾燥空気を用いた。
【0160】
実施例2
アルミニウムペーストを(旭化成株式会社製、商品名「GX-4100(平均粒径10μm、揮発分74%)」)に変更した以外は実施例1と同様にして、不揮発分90%の複合アルミニウム顔料組成物を得た。
【0161】
実施例3
アルミニウムペーストを(旭化成株式会社製、商品名「FD-5090(平均粒径9μm、揮発分75%)」)に変更した以外は実施例1と同様にして、不揮発分85%の複合アルミニウム顔料組成物を得た。
【0162】
実施例4
反応までは実施例1と同様に行い、反応終了後、冷却してからスラリーをろ過し、等量のPMで3回、洗浄・ろ過を繰り返して不揮発分50%のペーストを得た。次いで、常温にて減圧下において溶剤を揮発させ不揮発分を10%高めた後、減圧解除してペーストが均一になるように混合し、密閉して12時間放置した。この操作を更に2回行い、不揮発分90%のペースト状の複合アルミニウム顔料組成物を得た。
【0163】
実施例5
IPA/PM混合溶剤として水分率が2000ppmのものを用いた以外は実施例1と同様にして、不揮発分90%の複合アルミニウム顔料組成物を得た。
【0164】
比較例1
市販のアルミニウムペースト(旭化成株式会社製、商品名「GX-3100(平均粒径11μm、不揮発分74%)」)135kgに465kgのPMを加えて分散したスラリーを攪拌しながら、リンタングストモリブデン酸(HPWMo40)の水和物1kgをPM5kgに溶解した液を徐々に加え、スラリー温度を40℃に保ちながら1時間攪拌した。その後、冷却してからスラリーをろ過し、不揮発分60%の複合アルミニウム顔料組成物を得た。
【0165】
比較例2
反応終了してろ過した後の工程を、アルミニウム顔料組成物を別の容器に移し、静置した状態で50℃に加熱しながら減圧にして1時間脱溶剤する工程に変更したこと以外は実施例1と同様にして、不揮発分80%の複合アルミニウム顔料組成物を得た。
【0166】
比較例3
反応終了してろ過した後の工程を、フィルタープレスにて圧搾して脱溶剤を行う工程に変更した以外は実施例1と同様にして、不揮発分80%の複合アルミニウム顔料組成物を得た。
【0167】
(複合金属顔料組成物の評価)
平均粒子径:D 50
上記各実施例/比較例において得られた複合アルミニウム顔料組成物中の複合粒子(酸化ケイ素被覆アルミニウム粒子)の平均粒子径(D50)を、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-300/株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
測定溶剤としては、イソプロパノールを使用した。
測定は機器取扱説明書に従い実施したが、留意事項として、試料となる複合金属顔料組成物に対して前処理として2分間の超音波分散を行った後、分散槽の中に投入し適正濃度に分散されたのを確認後、測定を開始した。
測定終了後、D50は機器のソフトウェアにより計算され、自動表示された。
【0168】
固形分濃度
上記各実施例/比較例において得られた複合アルミニウム顔料組成物10gを、105℃で3時間加熱して揮発分を揮発させた後に質量を測定し、これを固形分の質量としてその割合を求めた。
【0169】
残渣
上記各実施例/比較例において得られた複合アルミニウム顔料組成物50gを1000mlのミネラルスピリットにスパチュラで分散させた後、200メッシュのナイロン網(NBC社製)にてろ過し、残渣をアセトンで十分洗浄した後、105℃で10分間乾燥した後、質量を測定し、これを残渣の質量としてその割合を求めた。
【0170】
(塗料、塗膜の評価)
上記各実施例及び比較例で得られた複合アルミニウム顔料組成物を用いて、下記の組成で水性メタリック塗料を調製し、下記の方法で塗料及びそれから得られた塗膜の評価を行った。なお、それらの結果を表1に示した。
以下の成分を有する水性メタリック塗料を調製した。
・複合アルミニウム顔料組成物:不揮発分として12.0g
・メトキシプロパノール:18.0g
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル(非イオン性界面活性剤、松本油脂製薬株式会社製、商品名「マーポンL5」):6.0g
・精製水:12.0g
・水溶性アクリル樹脂(※1):110.0g
・メラミン樹脂(※2):18.0g
※1:三井化学株式会社製、アルマテックスWA911
※2:日本サイテックインダストリーズ株式会社製、サイメル350
上記成分を混合後、ジメチルエタノールアミンでpHを7.7から7.8に調整し、カルボン酸系増粘剤と精製水とで粘度を650から750mPa・s(B型粘度計、No.3ロー、60回転、25℃)に調整した。
【0171】
このように調製された水性メタリック塗料を用いて、以下の評価を行った。
・評価1(貯蔵安定性(ガス発生))
上記処方で調製された水性メタリック塗料200gをフラスコに採取し、60℃の恒温水槽で24時間まで水素ガス累積発生量を測定した。得られたガスの発生量に基づいて下記基準でのように評価し、塗料中の貯蔵安定性の指標とした。
○: 2ml未満
△: 2以上10ml未満
×: 10ml以上50ml未満
××: 50ml以上
【0172】
・評価2(塗膜評価)
上記処方で調製された水性メタリック塗料を、中塗り塗装がなされた12cm×6cmの鋼板(三木コーティング株式会社製)に乾燥膜厚6μmとなるようにエアスプレー塗装し、90℃で10分間予備乾燥した後、下記組成の有機溶剤型トップコート用塗料を、スパチェラで3分間分散後、フォードカップNo4にて20.0秒になるように塗料粘度を調整し、乾燥膜厚20μmとなるようにエアスプレー塗装し、140℃で30分間乾燥させて塗装板を作製し、以下の評価に供した。
(有機溶剤型トップコート用塗料の組成)
・アクリディック44-179(DIC社製、アクリルクリヤー樹脂)141g
・スーパーベッカミン J-820(DIC社製、メラミン樹脂)35.3g
・トルエン123.5g
【0173】
2-i(塗膜ブツ)
得られた塗装板のトップコート塗膜の表面全面のブツの数を計測し、下記の指標で評価した。
〇: ブツが視認できない
△: ブツが10個以下
×: ブツが10個より多い
【0174】
2-ii(輝度)
得られた塗装板について、関西ペイント株式会社製のレーザー式メタリック感測定装置アルコープLMR-200を用いて評価した。光学的条件は、入射角45度のレーザー光源と受光角0度と-35度に受光器をもつ。測定値としては、レーザーの反射光のうち、塗膜表面で反射する鏡面反射領域の光を除いて最大光強度が得られる受光角-35度でIV値を求めた。IV値は塗膜からの正反射光強度に比例するパラメーターであり、光輝度の大小を表す。
得られたIV値から、以下の基準に基づいて評価した。
〇:基準(比較例1)からの低下幅が20未満であった。
△:基準(比較例1)からの低下幅が20以上40未満であった
×:基準(比較例1)からの低下幅が40以上であった。
【0175】
2-iii(隠蔽性)
調製された水性メタリック塗料をポリエチレンテレフタレート製シート(PETシート)上に、乾燥膜厚15μmとなるように2ミルのアプリケーターで塗布し、140℃で30分間乾燥させた塗膜を目視で判定した。
○:基準(比較例1)と同等からやや低めであった。
△:基準(比較例1)より低めであった。
×:基準(比較例1)より大幅に低かった。
【0176】
(複合粒子の凝集と変形の評価)
粒子の凝集状態等の判定を容易にするため、評価2での塗装板の作製に使用した塗料の配合におけるアルミペーストの量を1/10にした以外は同一の条件で塗料を作製し、評価2の条件で塗装板を作製した。
上記の塗装板を、シャーリング機を用いて1cm四方に切断した。
得られた塗膜断面を、イオンミリング装置(日本電子製/IB-09010CP)を使用して、塗膜断面から20μm離れた部分までイオンビーム照射が可能なよう設定し、イオンミリング処理により、精密研磨断面試料を作製した。
得られた塗膜断面(塗装板)を、FE-SEM(HITACHI製/S-4700)で観察することで粒子どうしの重なり状態と粒子の変形状態を観察し、以下の手順で評価した。
【0177】
1次粒子の割合(凝集状態)
まず、粒子の重なり度合いが簡単に判別できるものは概ね1000から3000倍程度の倍率で観察した。この倍率で重なり度合いが判別できない場合は適宜倍率を変えることで重なり度合いを評価した。この観察方法においては最大で概ね30000倍の倍率で観察した。観察した粒子の個数が500個以上となるように同一サンプル片の断面から複数の視野を観察した。
なお、粒子が近接して凝集の判定が難しい場合、粒子同士の接触部位長さが、より小さい粒子(長径が短い方)の粒子径の1/4以下である場合は凝集なしと判定し、1/4より大きい場合は凝集ありと判定した。
【0178】
折れ曲がり粒子の割合(変形状態)
粒子の変形度合いは、簡単に判別できるものは概ね1000から3000倍程度の倍率で観察した。この倍率で変形が判別できない場合は適宜倍率を変えることで変形度合いを評価した。この観察方法においては最大で概ね30000倍の倍率で観察した。観察した粒子の個数が500個以上となるように同一サンプル片の断面から複数の視野を観察した。変形有無は、粒子両端の最短距離が粒子の長さに対して0.8倍以下の場合を変形ありと判断した。
【0179】
金属粒子の平均粒子厚み
上記の取得手順で得たFE-SEM像(1万倍)、及び画像解析ソフトWin Roof version 5.5(MITANI CORPORATION製)を用いて、アルミニウム粒子断面における粒子の厚みの計測、及び平均厚みの算出を実施した。
アルミニウム粒子の断面における粒子の厚み計測を実施するFE-SEM像を画像表示し、ROIラインを選択して画像の5μmスケールにROIラインを合わせ、登録・変更から長さ・単位を入力して設定した。
次に、アルミニウム粒子の断面の厚み計測を実施すべき画像を表示させ、長方形ROIを選択して、粒子の断面に長方形ROIを合わせて2値処理を実施した。
次に、計測の垂直弦長の測定項目を選択させた後、計測実行をさせ、画像解析ソフトによる自動計測値(垂直弦長値)を画像に表示した。
このように、前記の画像解析ソフトWin Roof version 5.5を用いて、300個の粒子を選択し、アルミニウム粒子の断面における厚みと長径の自動計測を実施した。次に300個の粒子について厚み算術平均値を算出し、粒子の平均厚みtを求めた。なお、アルミニウム粒子の厚み均一性は高く、粒子の切断部位による厚みの差異は小さい。よって粒子の切断部位の違いが、平均粒子厚み測定に与える影響は無視できる。
【0180】
複合粒子の平均粒子厚み、酸化金属被覆の厚み
上記のFE-SEM像取得に使用した塗装板について、STEM(走査型透過電子顕微鏡)を用いて、倍率20万倍で粒子被覆層の平均厚みを計測した。被覆層表面に凹凸がある場合は、画像解析ソフトWin Roof version 5.5を用いて、被覆層の面積を計測し、これを被覆されている粒子の周囲長で除することにより、被覆層の平均厚みとした。また粒子が大きい場合には必ずしも被覆層全ての面積を計測する必要はなく、粒子表面に沿って1μm程度の領域の被覆層の面積を計測し、これを粒子表面長で除することにより、十分な精度で被覆層の平均厚みが得られる。また被覆層の平均厚みは粒子に依らずほぼ均一であるので、10個の粒子について平均値を求めた。また、この粒子被覆層の厚みと上記で得られた金属粒子の平均粒子厚みとから、下記の計算式に従い複合粒子の平均厚みを求めた。
複合粒子の平均粒子厚み = 金属粒子の平均粒子厚み+被覆層の厚み×2
【0181】
【表1】

【0182】
評価結果を表1に示す。各実施例にて得られた上記項目(1)~(6)の要件の全てを満たす本発明に係る複合金属顔料組成物は、高い固形分含量を有しながら、塗料としての良好な安定性を有し、ガス発生が少なく(良好な貯蔵安定性を有し)、また輝度、及び隠蔽性にも優れ、さらには塗膜のブツも有効に抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本願第1発明の複合金属顔料組成物、本願第2及び第3発明の製造方法により得られる複合金属顔料組成物、並びにそれらを用いて得られる塗膜等は、低VOC、水性塗料等に用いた場合の貯蔵安定性、ブツの抑制、意匠性、隠蔽性等の塗膜の優れた特性等を、従来技術の限界を超えて高いレベルで兼ね備えるので、塗料、インキ、樹脂練り込み剤等、従来から金属顔料が用いられる各種用途、より具体的には自動車ボディー、自動車補修材料、自動車部品、家電等、プラスチック部品、PCM用塗料、高耐候性塗料、耐熱塗料、防食塗料、船底用塗料、オフセット印刷インキ、グラビア印刷インキ、スクリーン印刷インキ等において好適に使用することができ、自動車等の輸送機械産業、家電等の電気電子産業、塗料産業、印刷業などの産業の各分野において高い利用可能性を有する。