(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 9/53 20060101AFI20250618BHJP
C07F 5/00 20060101ALI20250618BHJP
C07F 5/02 20060101ALI20250618BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
C07F9/53 CSP
C07F5/00 D
C07F5/02 D
C07F19/00
(21)【出願番号】P 2021134202
(22)【出願日】2021-08-19
【審査請求日】2024-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】宮川 泰典
(72)【発明者】
【氏名】亀田 博之
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-298720(JP,A)
【文献】特表2014-518859(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02042545(GB,A)
【文献】特開2023-028483(JP,A)
【文献】特開2005-015564(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218297(WO,A1)
【文献】Chemical Communications,2012年,Vol.48,pp.10386-10388
【文献】Inorganic Chemistry,2013年,Vol.52,pp.5484-5492
【文献】Organic Letters,2013年,Vol.15, No.15,pp.3844-3847
【文献】Chemical Communications,2014年,Vol.50,pp.7531-7534
【文献】Angewandte Chemie, International Edition,2015年,Vol.54,pp.4758-4763,(Supporting Informationのp.22-24を含む。)
【文献】PNAS,2015年,pp.E3987-E3996
【文献】Analytical Chemistry,2016年,Vol.88,pp.9259-9263
【文献】ACS Medicinal Chemistry Letters,2018年,Vol.9,pp.345-350
【文献】ACS Catalysis,2020年,Vol.10,pp.435-440
【文献】Bioorganic Chemistry ,2021年04月20日,Vol.112,104914(pp.1-12)
【文献】ChemistrySelect,2021年05月20日,Vol.6, Issue 19,pp.4677-4683
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(III)で表される、化合物。
【化1】
[式中、
X
11及びX
12は、それぞれ独立に、芳香族基、ヘテロ芳香族基、C
1~12アルキル基、C
3~12アルケニル基、C
3~12シクロアルキル基、C
3~12シクロアルケニル基、C
3~12のアルキニル基、芳香族オキシ基、ヘテロ芳香族オキシ基、C
1~12アルキルオキシ基、C
3~12アルケニルオキシ基、C
3~12シクロアルキルオキシ基、C
3~12シクロアルケニルオキシ基、又はC
3~12のアルキニルオキシ基を示し、
Z
1は、下記式(I
b)又は(II
b)で表される基を示す。
【化2】
【化3】
【請求項2】
金属イオンと、該金属イオンに配位している請求項
1に記載の化合物とを含む、金属錯体。
【請求項3】
下記式(3)で表される、化合物。
【化4】
[式(3)中、
X
31及びX
32は、それぞれ独立に、芳香族基、ヘテロ芳香族基、C
1~12アルキル基、C
3~12アルケニル基、C
3~12シクロアルキル基、C
3~12シクロアルケニル基、
又はC
3~12のアルキニル
基を示し、
R
35は、C
1-12アルキル基を示し、
L
4は、アルキレン基又はアリーレン基を示す。]
【請求項4】
R
35がメチル基であり、
L
4
がn-プロピレン基である、請求項
3に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類錯体等の金属錯体化合物は、発光性材料等の種々の用途への利用が検討されている(例えば、特許文献1~3)。金属錯体化合物は、通常、配位子とともに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-15564号公報
【文献】特開2008-115225号公報
【文献】WO2014/065190号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、金属錯体化合物の配位子として利用可能な新たな化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、下記式(III)で表される、化合物に関する。
【化1】
[式中、
X
11及びX
12は、それぞれ独立に、芳香族基、ヘテロ芳香族基、C
1~12アルキル基、C
3~12アルケニル基、C
3~12シクロアルキル基、C
3~12シクロアルケニル基、C
3~12のアルキニル基、芳香族オキシ基、ヘテロ芳香族オキシ基、C
1~12アルキルオキシ基、C
3~12アルケニルオキシ基、C
3~12シクロアルキルオキシ基、C
3~12シクロアルケニルオキシ基、又はC
3~12のアルキニルオキシ基を示し、
Z
1は、下記式(I)又は(II)で表される基を示す。
【化2】
(式(I)中、n及びmは0~4の整数を示し、
L
1は、第1の結合基を含む2価の有機基、アルキレン基、又はフェニレン基を示し、第1の結合基が、カルボニル基(-C(=O)-)、エステル基(-COO-)、アミド基(-NH-C(=O)-)、エーテル基(-O-)及びチオエーテル基(-S-)からなる群より少なくとも1種であり、
R
11及びR
12は、それぞれ独立に、第2の結合基を含む1価の有機基、アルキル基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、スルホ基、アミノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基、又はハロゲン原子を示し、第2の結合基が、カルボニル基(-C(=O)-)、エステル基(-COO-)、アミド基(-NH-C(=O)-)、エーテル基(-O-)及びチオエーテル基(-S-)からなる群より選択される少なくとも1種であり、
mが2以上である場合、複数存在するR
11は同一でも異なっていてもよく、nが2以上である場合、複数存在するR
12は同一でも異なっていてもよい。)
【化3】
(式(II)中、
pは0~4の整数を示し、
R
21は、第3の結合基を含む1価の有機基、アルキル基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、スルホ基、アミノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基、又はハロゲン原子を示し、第3の結合基は、カルボニル基、エステル基、アミド基、エーテル基及びチオエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種であり、
R
22~R
25は、それぞれ独立に、C
1-12アルキル基を示し、
L
3は、アルキレン基又はアリーレン基を示し、
pが2以上である場合、複数存在するR
21は同一でも異なっていてもよい。)]
【0006】
上記化合物において、Z
1は、下記式(Ib)又は(IIb)で表される基であってよい。
【化4】
【化5】
[式(Ib)及び(IIb)中、*は結合手を示す。]
【0007】
本発明の他の一側面は、金属イオンと、該金属イオンに配位している上記化合物とを含む、金属錯体に関する。
【0008】
本発明の他の一側面は、下記式(3)で表される、化合物に関する。
【化6】
[式(3)中、
X
31及びX
32は、それぞれ独立に、芳香族基、ヘテロ芳香族基、C
1~12アルキル基、C
3~12アルケニル基、C
3~12シクロアルキル基、C
3~12シクロアルケニル基、C
3~12のアルキニル基、芳香族オキシ基、ヘテロ芳香族オキシ基、C
1~12アルキルオキシ基、C
3~12アルケニルオキシ基、C
3~12シクロアルキルオキシ基、C
3~12シクロアルケニルオキシ基、又はC
3~12のアルキニルオキシ基を示し、
R
35は、C
1-12アルキル基を示し、
L
4は、アルキレン基又はアリーレン基を示す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、金属錯体化合物の配位子として利用可能な新たな化合物を提供することができる。本発明の一側面に係る化合物は、蛍光発光性を示し、かつ、固体中又は溶液中において可視光で有色である錯体化合物を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(Z)-5-(2-((E)-3,3-ジメチルインドリン-2-イリデン)エチリデン)-1-(3-(ジフェニルホスホリル)プロピル)-4-メチル-2,6-ジオキソ-1,2,5,6-テトラヒドロピリジン-3-カルボニトリルのX線結晶構造解析結果を示す図である。
【
図2】実施例におけるEu錯体の吸収波長の測定結果を示す図である。
【
図3】実施例におけるEu錯体の励起波長の測定結果を示す図である。
【
図4】実施例におけるEu錯体の蛍光波長の測定結果を示す図である。
【
図5】比較例におけるEu錯体の吸収波長の測定結果を示す図である。
【
図6】比較例におけるEu錯体の励起波長の測定結果を示す図である。
【
図7】比較例におけるEu錯体の蛍光波長の測定結果を示す図である。
【
図8】実施例におけるEu錯体を含む樹脂組成物の吸収波長の測定結果を示す図である。
【
図9】実施例におけるEu錯体を含む樹脂組成物の蛍光波長の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の一実施形態は、下記式(III)で表される、化合物である。
【化7】
【0013】
式中、X11及びX12は、それぞれ独立に、芳香族基、ヘテロ芳香族基、C1~12アルキル基、C3~12アルケニル基、C3~12シクロアルキル基、C3~12シクロアルケニル基、C3~12のアルキニル基、芳香族オキシ基、ヘテロ芳香族オキシ基、C1~12アルキルオキシ基、C3~12アルケニルオキシ基、C3~12シクロアルキルオキシ基、C3~12シクロアルケニルオキシ基、又はC3~12のアルキニルオキシ基を示す。
【0014】
芳香族基は、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等であってよい。ヘテロ芳香族基は、ピロリル基、フラリル基、インドリル基、チエニル基等であってよい。これらに結合した水素原子の少なくとも一部が、他の基に置換されていてもよく、例えばヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてよい。
【0015】
C1~12アルキル基は、炭素数が1~12であるアルキル基である。C1~12アルキル基(CnH2n+1:n=1~12)は、直鎖又は分枝を有していてもよい。C1~12アルキル基の少なくとも一つの水素原子は他の基に置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換基を有するC1~12アルキル基は、例えば、パーフルオロアルキル基(CnF2n+1:n=1~12)及びパークロロアルキル基(CnCl2n+1:n=1~12)等の直鎖又は分枝を有するC1~12のパーハロゲン化アルキル基であってよい。置換基を有するアルキル基は、例えば、ベンジル基及びフェネチル基等のアラルキル基、及び、パーフルオロベンジル基等のパーハロゲン化アラルキル基等が挙げられる。
【0016】
C3~12アルケニル基は、炭素数が3~12であるアルケニル基である。C3~12アルケニル基は、直鎖又は分枝を有していてよい。C3~12アルケニル基としては、例えば、アリル基及びブテニル基等が挙げられる。C3~12アルケニル基の少なくとも一つの水素原子は他の基に置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換基を有するC3~12アルケニル基は、例えば、パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基及びパーフルオロブテニル基等のパーフルオロアルケニル基及びパークロロアルケニル基等の、直鎖又は分枝を有するC3~12パーハロゲン化アルケニル基が挙げられる。
【0017】
C3~12シクロアルキル基は、炭素数が3~12であるシクロアルキル基である。C3~12アルケニル基は、直鎖又は分枝を有していてよい。C3~12シクロアルキル基の少なくとも一つの水素原子は他の基に置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換基を有するC3~12シクロアルキル基は、例えば、パーフルオロシクロアルキル基(CnF2n-1:n=3~12)及びパークロロシクロアルキル基(CnCl2n-1:n=3~12)等のC3~12パーハロゲン化シクロアルキル基が挙げられる。
【0018】
C3~12シクロアルケニル基は、炭素数が3~50であるシクロアルケニル基である。C3~12シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基等が挙げられる。C3~12シクロアルケニル基の少なくとも一つの水素原子は他の基に置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換基を有するC3~12シクロアルケニル基は、例えば、パーフルオロシクロアルケニル基及びパークロロシクロアルケニル基等のC3~12パーハロゲン化シクロアルケニル基であってよい。
【0019】
C3~12アルキニル基は、炭素数が3~12であるアルキニル基である。C3~12アルキニル基の少なくとも一つの水素原子は他の基に置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。
【0020】
芳香族オキシ基は、上記の芳香族基とオキシ基(-O-)とが結合した基である。ヘテロ芳香族オキシ基は、上記のヘテロ芳香族基とオキシ基とが結合した基である。C1~12アルキルオキシ基は、上記のC1~12アルキル基とオキシ基とが結合した基である。C3~12アルケニルオキシ基は、上記のC3~12アルケニル基とオキシ基とが結合した基である。C3~12シクロアルキルオキシ基は、上記のC3~12シクロアルキル基とオキシ基とが結合した基である。C3~12シクロアルケニルオキシ基は、上記のC3~12シクロアルケニル基とオキシ基とが結合した基である。C3~12のアルキニルオキシ基は、上記のC3~12のアルキニル基とオキシ基とが結合した基である。
【0021】
X11及びX12で表される上記の基は、その任意の位置のC-C単結合の間に、-COO-及び-CO-を一又は複数個挿入されていてよい。
【0022】
X11及びX12は、それぞれ独立に、芳香族基であってよく、フェニル基であってよい。
【0023】
Z
1は、下記式(I)で表される基であってよい。
【化8】
【0024】
式(I)中、*は結合手を示す。n及びmは、それぞれ独立に、0~3の整数を示す。n及びmは、それぞれ独立に、0~2、0~1、又は0であってよい。
【0025】
R11及びR12は、それぞれ独立に、第2の結合基を含む1価の有機基、アルキル基、シアノ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を示す。第2の結合基は、カルボニル基(-C(=O)-)、エステル基(-COO-)、アミド基(-NH-C(=O)-)、エーテル基(-O-)及びチオエーテル基(-S-)からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。R11及びR12で表されるアルキル基の炭素数は、例えば、1~20、1~15、1~10、又は1~6であってよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってよい。mが2以上である場合、複数存在するR11は同一でも異なっていてもよく、nが2以上である場合、複数存在するR12は同一でも異なっていてもよい。
【0026】
L1は、第1の結合基を含む2価の有機基、アルキレン基、又はフェニレン基を示す。第1の結合基は、カルボニル基(-C(=O)-)、エステル基(-COO-)、アミド基(-NH-C(=O)-)、エーテル基(-O-)及びチオエーテル基(-S-)からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。L1は、例えば、第1の結合基を含むアルキレン基であってよく、第1の結合基を含むアリーレン基(例えば、フェニレン基)であってよく、第1の結合基、アルキレン基及びアリーレン基からなる基であってもよい。式(I)で表される基は、エーテル基(-O-)又はチオエーテル基(-S-)を介して配位基と結合していてよい。
【0027】
式(I)で表される基は、例えば、下記式(Ia)で表される基であってよい。この場合、より優れた蛍光発光性を示し、かつ、固体中又は溶液中において可視光で有色である錯体化合物を形成することができる。
【化9】
【0028】
式(Ia)中、m、n、R11、R12及び*は上記と同意義を示す。oは0~4の整数を示す。oは、0~3、0~2、0~1又は0であってよい。R13は、第4の結合基を含む1価の有機基、アルキル基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、スルホ基、アミノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基、又はハロゲン原子を示す。第4の結合基は、カルボニル基、エステル基、アミド基、エーテル基及びチオエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。R13の具体例は、上記のR11及びR12と同様であってよい。
【0029】
L2は、アルキレン基又はアリーレン基を示す。L2で表されるアルキレン基の炭素数は、例えば、1~20、1~15、1~10、又は1~6であってよい。L2で表されるアルキレン基は、例えば、メチレン基(-CH2-)、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基であってよい。L2で表されるアリーレン基は、例えばフェニレン基(-C6H4-)、ナフチレン基(-C10H6-)であってよい。
【0030】
式(I)で表される基は、m、n及びoが0であり、L
2がメチレン基である、下記式(Ib)で表される基であってよい。
【化10】
【0031】
Z
1は下記式(II)で表される基であってよい。
【化11】
【0032】
式(II)中、pは0~4の整数を示す。pは、0~3、0~2、0~1又は0であってよい。*は結合手を示す。
【0033】
R21は、第3の結合基を含む1価の有機基、アルキル基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基、又はハロゲン原子を示す。第3の結合基は、カルボニル基、エステル基、アミド基、エーテル基及びチオエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種である。pが2以上である場合、複数存在するR21は同一でも異なっていてもよい。R21で表される置換基の詳細は、R11及びR12で表される置換基と同様であってよい。
【0034】
R22~R25は、それぞれ独立に、C1-12アルキル基を示す。R22~R25で表されるC1-12アルキル基は、炭素数が1~12であるアルキル基である。R22~R25は、例えば、炭素数が1~12であるC1-12アルキル基、炭素数が1~10であるC1-6アルキル基、又は炭素数が1~6であるC1-6アルキル基であってよい。C1-12アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基であってよい。
【0035】
L3は、アルキレン基又はアリーレン基を示す。L3で表されるアルキレン基及びアリーレン基の詳細は上述したとおりであってよい。
【0036】
式(II)で表される基は、pが0であり、R
22~R
25がメチル基であり、L
3がn-プロピレン基(-CH
2-CH
2-CH
2-)である、下記式(IIa)で表される基であってよい。この場合、より優れた蛍光発光性を示し、かつ、固体中又は溶液中において可視光で有色である錯体化合物を形成することができる。
【化12】
【0037】
本実施形態に係る化合物は、具体的には、下記式(A-1)又は(A-2)で表される化合物であってよい。
【化13】
【化14】
【0038】
本発明の他の実施形態は、金属イオンと、該金属イオンに配位している上記化合物とを含む、金属錯体である。
【0039】
金属イオンは希土類イオンであってよい。以下、金属イオンが希土類イオンである場合の金属錯体である希土類錯体について詳述する。
【0040】
希土類イオンは、2~4価の希土類イオンであり、2価又は3価の希土類イオンであってよい。希土類イオンは、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLu等のランタン系列元素のイオンであってよい。希土類イオンは、Euイオン、又はTbイオンであってよい。
【0041】
従来の希土類錯体では、紫外光領域の光により励起され、可視光領域に蛍光を示すものがある。しかし通常これらの錯体は、紫外光領域の光を含まない可視光領域においては吸収を示さないため無色またはわずかに黄色を呈する程度である。一方で本実施形態に係る希土類錯体は、可視光領域においても400~600nmの波長域に吸収を持つため、希土類錯体そのものが可視光領域で明瞭な色を呈する。つまり紫外光領域から可視光領域の幅広い波長領域(波長域)において着色した希土類錯体を提供することができる。
この特性は、例えば対象物質を着色する染料としての用途で有用であると考えられる。ここで対象物質とは、液体であっても固体であってもよい。もし紫外光領域でのみ励起される希土類錯体と、可視光領域に吸収をもつ有機色素、少なくとも2種の化合物を併用する場合、溶解度等の違いから、対象物質への染色性が担保されにくいという問題がある。本実施形態に係る希土類錯体によれば、希土類錯体単独で、対象物質の着色と蛍光発光性の付与が可能であるため染色性を保ちやすく、機能付与がより簡便になる。
【0042】
本実施形態に係る希土類錯体は、例えば、下記式(IV)で表される錯体であってよい。
【化15】
【0043】
式中、Lnは希土類元素を示し、n1は、2~4の整数を示し、n2は、2~4の整数を示し、n3は1~2の整数を示す。Z2は、式(III)におけるZ1と同意義を示す。すなわち、Z2は、上記の式(I)又は(II)で表される基を示す。
【0044】
X21及びX22は、それぞれ独立に、芳香族基、ヘテロ芳香族基、C1~12アルキル基、C3~12アルケニル基、C3~12シクロアルキル基、C3~12シクロアルケニル基、C3~12のアルキニル基、芳香族オキシ基、ヘテロ芳香族オキシ基、C1~12アルキルオキシ基、C3~12アルケニルオキシ基、C3~12シクロアルキルオキシ基、C3~12シクロアルケニルオキシ基、又はC3~12のアルキニルオキシ基を示す。
【0045】
Y1及びY2は、それぞれ独立に、芳香族基、ヘテロ芳香族基、C1~12アルキル基、C3~12アルケニル基、C3~12シクロアルキル基、C3~12シクロアルケニル基又はC3~12のアルキニル基を示す。ヘテロ芳香族基としては、チオフェニル基等が挙げられる。
【0046】
X21、X22、Y1及びY2で表される、C1~12アルキル基、C3~12アルケニル基、C3~12シクロアルキル基、及びC3~12シクロアルケニル基は、水素原子の一部又は全部がハロゲン原子、例えば、フッ素原子や塩素原子で置換されていてよい。
【0047】
X21、X22、Y1及びY2で表される置換基の具体例は上述したとおりであってよい。
【0048】
Y3は水素原子又は重水素原子を示す。
【0049】
〔希土類錯体の製造方法〕
希土類錯体は、希土類イオンを含む錯体前駆体と、上述した式(III)で表される化合物とを反応させて、希土類イオンに式(III)で表される化合物を配位させる工程を含む方法によって製造することができる。反応は加熱しながら行われてよい。具体的な反応条件の例は、後述する実施例に記載のとおりであってよい。
【0050】
上述した式(III)で表される化合物は、通常の合成方法に従って製造することができる。合成方法の例は、後述の実施例において示される。
【0051】
例えば、下記式(B)で表される化合物(化合物B)は、以下の反応スキームに従って合成可能である。
【化16】
【0052】
化合物Bは、例えば、式(1)で表される化合物(化合物1)と、エチルシアノアセテートと、式(2)で表される化合物(化合物2)と、塩基とを反応させて、式(3)で表される化合物(化合物3)を得る工程と、化合物3と、式(4)で表される化合物(化合物4)と、無水酢酸とを反応させて、化合物Bを得る工程を含む方法によって得ることができる。
【0053】
式中、X31及びX32は、式(IV)におけるX21及びX22と同意義を示す。qは、式(II)におけるpと同意義を示す。R31~R35は、式(II)におけるR21~R25と同意義を示す。R36は、アルキル基等の炭化水素基を示す。R31は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、又はヘキシル基であってよい。
【0054】
化合物1は通常の合成方法に従って製造することができる。化合物1の合成方法の例は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0055】
化合物3を得るための反応は、通常、塩基存在下で行われる。塩基は、例えば、ピペリジン、ピリジン、トリエチルアミン、及び/又はヘキサメチレンイミンであってよい。化合物3を得るための反応は、溶媒存在下で行われてよい。溶媒としては、例えば、エタノール、ジクロロメタン、テトラクロロエタン、四塩化炭素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。化合物3を得るための反応は、加熱しながら行われてもよい。反応終了後、通常の方法で後処理が実施されてよい。反応条件の具体例は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0056】
化合物3は、化合物Bの前駆体化合物として有用である。本発明の他の実施形態は、式(3)で表される化合物である。式(3)で表される化合物において、R
35は、C
1-10アルキル基であってよく、C
1-6アルキル基であってよく、メチル基であってよい。L
4は、アルキレン基であってよく、例えば、n-プロピレン基であってよい。式(3)で表される化合物は、具体的には、下記式(3-1)で表される化合物であってよい。
【化17】
【0057】
〔樹脂組成物〕
本発明の他の一実施形態は、上記の希土類錯体と、樹脂と、を含有する樹脂組成物である。
【0058】
樹脂としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、シリコーン、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。樹脂は各種モノマーを組み合わせた共重合体や、複数の樹脂混合物であってもよい。
【0059】
樹脂の形状は、フィルム状、シート状、繊維状、織物、紙、粒子状、ペレット状、あるいは液状であってよい。
【0060】
希土類錯体は、次のような方法によって樹脂組成物に含有させることができる。例えば、フィルムや繊維状、粒子状の対象物を希土類錯体を含む溶液に含侵、乾燥させる方法、あるいは希土類錯体と樹脂を有機溶媒に溶解させ、各種コーティング手法を用いて基材上に塗布乾燥させる方法、あるいは樹脂微粒子分散液へ色素溶液を添加し染色する方法、あるいは樹脂ペレットの溶融混錬時に希土類錯体を直接添加する等、複数の方法を選択することができる。
【0061】
樹脂組成物中の希土類錯体の含有量は、樹脂組成物の目的に応じて適宜選択される。例えば、樹脂組成物中の希土類錯体の含有量は、樹脂1質量部に対して、0.001質量部以上、又は0.01質量部以上であってよく、0.5質量部以下、又は0.4質量部以下であってよい。
【0062】
樹脂の含有量は、樹脂組成物の用途、要求特性等に応じて適宜調整してよい。樹脂組成物中の樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量を基準として、50質量%以上又は60質量%以上であってよく、99.9質量%以下、又は99質量%以下であってよい。
【0063】
樹脂組成物は、樹脂の内部及び/又は内部に無機物を含んでいてよい。無機物の候補としては、例えば、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックスフィラー、あるいは鉄、ニッケル、コバルト等の金属粒子等が挙げられる。
【0064】
樹脂組成物は、その他の成分を更に含有してもよい。その他の成分としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、チキソ剤、界面活性剤、増粘剤、無機フィラー、顔料等の添加剤等が挙げられる。
【0065】
樹脂組成物は、樹脂と、希土類錯体とを混合する工程を含む方法によって、製造することができる。
【0066】
樹脂組成物は、例えば、プラスチック原料の染色、塗料や印刷インキ、ペイント材料等の塗布成膜材料、絵の具やペン等の筆記具、玩具、3Dプリンター用樹脂、農業用フィルム、安全・防災・防犯用品等の表示版、タンパクや核酸等の生体分子の蛍光標識剤、イムノアッセイ法の標識剤等に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の記載において「TTA」はテノイルトリフルオロアセトンの略称であり、「TOPO」はトリオクチルホスフィンオキシドの略称である。
【0068】
<配位子の合成1>
合成例1-1:(3-アミノプロピル)ジフェニルホスフィンオキシドの合成
【化18】
【0069】
3.8molの3-クロロプロピルアミン塩酸塩に乾燥したベンゼン、クロロホルムをそれぞれ10mL、5mL加えた。その後、8.3mmolのトリエチルアミン溶液(乾燥したベンゼン3.3mL、クロロホルム1.7mLに溶解させたもの)を加えた。20分攪拌後、2~4℃に冷却し、3.8mmolのジフェニルクロロホスフィン溶液(乾燥したベンゼン6.6mL、クロロホルム3.4mLに溶解させたもの)を添加した。1時間攪拌後、昇温して還流し、さらに1時間攪拌した。室温まで降温し、溶媒を留去した。残渣をクロロホルム50mLに溶解させ、蒸留水100mLで抽出した。有機層を除去し、水酸化ナトリウム水溶液をpH=10になるまで加え、クロロホルム100mLで抽出した。クロロホルムを留去し、目的物として、上記式(1-1)で表される化合物を得た。収率は75%であった。
【0070】
合成例1-2:1-(3-ジフェニルホスホリル)プロピル)-6-ヒドロキシ-4-メチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボニトリルの合成
【化19】
【0071】
上記式(1-1)で表される化合物1mmolにエチルシアノアセテート1mmol、エタノール5mLを加え、室温で6時間攪拌した。その後、エチルアセトアセテート1.1mmmol、ピぺリジンを0.1mL加え、110℃で攪拌した。室温まで降温した後、溶媒を留去し、10%塩酸を10mL加えた。生じた沈殿をろ取し、蒸留水、ヘキサンで洗浄後、乾燥させることで目的物として、上記式(1-2)で表される化合物を得た。収率は65%であった。
【0072】
合成例1-3:(Z)-5-(2-((E)-3,3-ジメチルインドリン-2-イリデン)エチリデン)-1-(3-(ジフェニルホスホリル)プロピル)-4-メチル-2,6-ジオキソ-1,2,5,6-テトラヒドロピリジン-3-カルボニトリルの合成
【化20】
【0073】
上記式(1-2)で表される化合物1mmolに2-(1,3,3-トリメチルインドリン-2-イリデン)アセトアルデヒド1.05mmol、無水酢酸3mLを加え、15分還流した。生じた沈殿をろ取した後、ヘキサンで洗浄し、乾燥させることで、上記式(1-3)で表される化合物を得た。収率は82%であった。
31P-NMR:32.4ppm(溶媒:クロロホルム)
【0074】
上記式(1-3)で表される化合物が得られたことは、X線結晶構造解析によって確認した。X線結晶構造解析の結果を
図1に示す。測定は、D8 VENTUREを用いて行い、解析はVESTAを用いて行った。
【0075】
<実施例の希土類錯体の合成>
合成例1-4:実施例のEu錯体の合成
【化21】
【0076】
上記式(1-3)で表される化合物1mmolにEu(TTA)3・2H2O1mmol、イソプロパノール10mLを加え、80℃で4時間還流した。溶媒を留去し、目的物である実施例のEu錯体を得た。収率は87%であった。
31P-NMR:-93.1ppm(溶媒:クロロホルム)、nanoESI―MS:1414.1064(C59H46O9N3F9PS3Eu+Na+、理論値:1414.1095)
【0077】
<配位子の合成2>
合成例2-1:4-(5,5-ジフルオロ-5H-4l4,5l4-ジピロロ[1,2-c:2’,1’-f][1,3,2]ジアザボリニン-10-イル)ベンジルジフェニルホスフィナートの合成
【化22】
(4-(5,5-ジフルオロ-5H-4l4,5l4-ジピロロ[1,2-c:2’,1’-f][1,3,2]ジアザボリニン-10-イル)フェニル)メタノール1.5mmolをジクロロメタン30mLに溶かし、クロロジフェニルホスフィンオキシド1.0mmol、ピリジン3.0mmolを加え、40℃で8時間攪拌した。溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィーによって精製し、目的物を得た。収率は63%であった。
【0078】
<比較例の希土類錯体の合成>
比較合成例:Eu(TTA)
3・(TOPO)
2の合成
【化23】
【0079】
Eu(TTA)3・2H2O1mmol、TOPO(トリオクチルホスフィンオキシド)2mmolをエタノール10mLに加え、室温で攪拌した。溶媒を留去し、目的物を得た。エタノール、蒸留水を用いて再結晶を行い、精製を行った。これにより、比較例のEu錯体(Eu(TTA)3・(TOPO)2)を得た。収率は78%であった。
31P-NMR:-49.8ppm(溶媒:クロロホルム)、nanoESI―MS:1611.6082(C72H114O8F9P2S3Eu+Na+、理論値:1611.6117)
【0080】
評価
Eu錯体0.35mmolをクロロホルム10mLに溶解させ、それを1000倍に希釈し、測定試料とした。
【0081】
吸収波長測定は、Jasco製 V-650 spectrophotometerを使用し、吸光度を測定した。励起波長測定及び蛍光波長測定は、日立ハイテク製 F-7000、ロングパスフィルター:LPF-39を使用し、フォトルミネセンス強度(PL Intensity)を測定した。それぞれの測定には角セル(□10mm、石英製)を用いた。励起波長測定には、モニター波長として615nmを設定した。蛍光波長測定には、励起波長として350nmを設定した。
【0082】
実施例のEu錯体(上記式(1-4)で表されるEu錯体)における吸収波長、励起波長及び蛍光波長それぞれの測定結果を
図2~4に示す。比較例のEu錯体における吸収波長、励起波長及び蛍光波長それぞれの測定結果を
図5~7に示す。
【0083】
<着色樹脂組成物の調製及び評価>
クロロホルム8.0gに、汎用ポリスチレン樹脂2.0g、式(1-4)で表される化合物0.050gを溶解させ、樹脂溶液を調製した。樹脂溶液をバーコーターでガラス板上に塗布し、溶媒を風乾させることで、膜厚10μmの着色樹脂膜を作成した。この膜について、吸収波長と蛍光波長測定を実施した。吸収波長測定には、Jasco製 V-650 spectrophotometerを使用した。蛍光波長測定には、大塚電子製 MCPD9800を使用し、励起波長は365nmとした。吸収波長測定及び蛍光波長測定の結果をそれぞれ
図8~9に示す。