(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】非晶質粉末およびそれを含む粉末梱包体、非晶質粉末の製造方法、並びに固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20250618BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20250618BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250618BHJP
H01M 4/62 20060101ALN20250618BHJP
【FI】
C01B25/45 T
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021144226
(22)【出願日】2021-09-03
【審査請求日】2024-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】道幸 明久
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大介
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-098643(JP,A)
【文献】特表2015-506063(JP,A)
【文献】特開2015-229629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
H01B 13/00
H01M 10/0562
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよび酸素を含有する非晶質粉末であって、
前記非晶質粉末の水分量が0.08~4質量%であ
り、
前記非晶質粉末は、NASICON型結晶構造を有する固体電解質を形成する前駆体粉末である、非晶質粉末。
【請求項2】
電極活物質粉末との混合および該混合により得られる電極層用混合粉末の焼成に用いられる、請求項1に記載の非晶質粉末。
【請求項3】
前記非晶質粉末の水分量が3質量%以下である、
請求項1
または2に記載の非晶質粉末。
【請求項4】
前記非晶質粉末の水分量が0.3~1質量%以下である、
請求項1
から3のいずれか1項に記載の非晶質粉末。
【請求項5】
前記非晶質粉末が、
リチウムを、1質量%以上4質量%以下、
アルミニウムを、0.5質量%以上6質量%以下、
ゲルマニウムを、15質量%以上35質量%以下、
リンを、10質量%以上30質量%以下、含む、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の非晶質粉末。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか1項に記載の非晶質粉末と、
前記非晶質粉末を密閉した状態で収容する容器と、を備え、
前記非晶質粉末は、その水分量が0.08~4質量%に維持されるように、前記容器に収容される、
粉末梱包体。
【請求項7】
前記容器は、前記非晶質粉末とともに、含水させた部材を収容する、
請求項
6に記載の粉末梱包体。
【請求項8】
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよび酸素を含有する非晶質粉末の製造方法であって、
前記非晶質粉末の水分量を0.08質量%~4質量%となるように調整する水分量調整工程を有
し、
前記非晶質粉末は、NASICON型結晶構造を有する固体電解質を形成する前駆体粉末である、
非晶質粉末の製造方法。
【請求項9】
電極活物質粉末との混合および該混合により得られる電極層用混合粉末の焼成に用いられる、請求項8に記載の非晶質粉末の製造方法。
【請求項10】
前記水分量調整工程では、前記非晶質粉末の水分量を3質量%以下に調整する、
請求項
8または9に記載の非晶質粉末の製造方法。
【請求項11】
前記水分量調整工程では、前記非晶質粉末の水分量を0.3質量%~1質量%に調整する、
請求項
8~10のいずれか1項に記載の非晶質粉末の製造方法。
【請求項12】
前記水分量調整工程では、水分量が0.05質量%以下である非晶質粉末を、水分を含有する雰囲気中に曝すことにより、当該非晶質粉末に吸水させる、
請求項
8~
11のいずれか1項に記載の非晶質粉末の製造方法。
【請求項13】
前記水分量調整工程では、水分量が0.05質量%以下である非晶質粉末を、含水させた部材とともに、容器に密閉した状態で収容することにより、当該非晶質粉末に吸水させる、
請求項
8~
12のいずれか1項に記載の非晶質粉末の製造方法。
【請求項14】
前記水分量調整工程の前に、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む混合スラリーを得る混合スラリー化工程と、
混合スラリーを乾燥して、乾燥粉末を得る乾燥工程と、
前記乾燥粉末を300℃以上500℃以下で熱処理し、水分量が0.05質量%以下である非晶質粉末を得る熱処理工程と、を有する、
請求項
8~
13のいずれか1項に記載の非晶質粉末の製造方法。
【請求項15】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の非晶質粉末
と電極活物質粉末とを混合して得られる電極層用混合粉末を焼成する焼成工程を有し、
前記焼成工程においては、NASICON型結晶構造を有する固体電解質を形成する前駆体粉末である非晶質粉末を焼成し、結晶化させる、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非晶質粉末およびそれを含む粉末梱包体、非晶質粉末の製造方法、並びに固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池に用いられる固体電解質として、高いイオン伝導度を有するNASICON型結晶構造をとるイオン伝導体がある。NASICON型結晶構造をとる固体電解質の1つとして、例えばリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよび酸素を含有し、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(xの範囲は、0<x≦1、以下「LAGP」と記載する場合がある)で示される固体電解質が知られている。
【0003】
NASICON型結晶構造を有する固体電解質は、全固体電池の電極層のイオン伝導度を高めるために、電極活物質の粒子表面に被膜として設けられることがある。例えば特許文献1や2では、この被膜を形成する方法として、例えばリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよび酸素を含有する非晶質粉末を用いることが提案されている。ここでは、非晶質粉末を結晶化させて、その結晶構造を非晶質からNASICON型とするとともに、NASICON型の固体電解質を電極活物質の粒子表面に被膜として形成している。結晶構造がNASICON型となることで、固体電解質がイオン伝導性を発現し、この固体電解質が電極活物質の表面に被膜として存在することで、全固体電池の電極層において高いイオン伝導度を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-37341号公報
【文献】特開2019-50083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電極活物質粉末と非晶質粉末との混合においては、電極活物質粉末の粒子表面に固体電解質の被膜を均一に形成する観点から、各粉末を均一に混合し、混合状態のばらつきを小さくすることが重要となる。この点、非晶質粉末をそのまま電極活物質粉末と混合する場合、均一に混合できず、混合状態のばらつきが大きくなることが確認された。そのため、電極層においてイオン伝導度の偏りが生じ、最終的に製造される全固体電池において、優れた電池特性を得られないだけでなく、電池特性のばらつきが大きくなることがあった。つまり、全固体電池において優れた電池特性を安定して得られないことがあった。
【0006】
そこで、本発明は、非晶質粉末について、電極活物質粉末と混合したときの混合状態のばらつきを低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の課題を解決するために検討したところ、非晶質粉末に含まれる水分量を調整することで、非晶質粉末の電極活物質粉末と混合したときの混合状態のばらつきを小さくできることを見出した。
【0008】
本発明の第1の態様は、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよび酸素を含有する非晶質粉末であって、
前記非晶質粉末の水分量が0.08~4質量%である、非晶質粉末である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記非晶質粉末の水分量が3質量%以下である。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様において、
前記非晶質粉末の水分量が0.3~1質量%以下である。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれか態様において、
前記非晶質粉末が、
リチウムを、1質量%以上4質量%以下、
アルミニウムを、0.5質量%以上6質量%以下、
ゲルマニウムを、15質量%以上35質量%以下、
リンを、10質量%以上30質量%以下、含む。
【0012】
本発明の第5の態様は、
第1~第4の態様のいずれかに記載の非晶質粉末と、
前記非晶質粉末を密閉した状態で収容する容器と、を備え、
前記非晶質粉末は、その水分量が0.08~4質量%に維持されるように、前記容器に収容される、粉末梱包体である。
【0013】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、
前記容器は、前記非晶質粉末とともに、含水させた部材を収容する。
【0014】
本発明の第7の態様は、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよび酸素を含有する非晶質粉末の製造方法であって、
前記非晶質粉末の水分量を0.08質量%~4質量%となるように調整する水分量調整工程を有する、
非晶質粉末の製造方法である。
【0015】
本発明の第8の態様は、第7の態様において、
前記水分量調整工程では、前記非晶質粉末の水分量を3質量%以下に調整する。
【0016】
本発明の第9の態様は、第7の態様において、
前記水分量調整工程では、前記非晶質粉末の水分量を0.3質量%~1質量%に調整する。
【0017】
本発明の第10の態様は、第7~第9のいずれかの態様において、
前記水分量調整工程では、水分量が0.05質量%以下である非晶質粉末を、水分を含有する雰囲気中に曝すことにより、当該非晶質粉末に吸水させる。
【0018】
本発明の第11の態様は、第7~第10のいずれかの態様において、
前記水分量調整工程では、水分量が0.05質量%以下である非晶質粉末を、含水させた部材とともに、容器に密閉した状態で収容することにより、当該非晶質粉末に吸水させる。
【0019】
本発明の第12の態様は、第8~第11のいずれかの態様において、
前記水分量調整工程の前に、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含む混合スラリーを得る混合スラリー化工程と、
混合スラリーを乾燥して、乾燥粉末を得る乾燥工程と、
前記乾燥粉末を300℃以上500℃以下で熱処理し、水分量が0.05質量%以下である非晶質粉末を得る熱処理工程と、を有する。
【0020】
本発明の第13の態様は、
第1~第4のいずれかの態様の非晶質粉末を焼成し、結晶化させる焼成工程を有する、NASICON型結晶構造を有する固体電解質の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、非晶質粉末について、電極活物質粉末と混合したときの混合状態のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例における水分量調整工程を説明するための概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1に係る非晶質粉末のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、本明細書においては、個々の「粒子」が「粉末」を構成し、「粉末」は「粒子」の集合を指すものとする。以下の説明においては原則として、粉末を構成する個々のものに着目している場合は「粒子」という言葉を、粒子の集合という全体に着目している場合は「粉末」又は「粒子の粉末」という言葉を使用する。
【0024】
(非晶質粉末)
本実施形態にかかる非晶質粉末は、構成元素として、少なくともリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンおよび酸素を含む。この非晶質粉末は、非晶質であって、結晶化させることで、NASICON型結晶構造を有する固体電解質を形成するような前駆体粉末である。NASICON型結晶構造を有する粉末は、高いイオン伝導度を発現するため全固体電池の固体電解質として用いることができる。ここで、固体電解質とは、外部から加えられた電場によってイオン(帯電した物質)を移動させることができる固体である。そして、本実施形態の非晶質粉末は、その水分量が所定範囲に調整されることで、電極活物質粉末と均一に混合することができる。以下、非晶質粉末の組成と水分量について詳述する。
【0025】
非晶質粉末は、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、酸素、必要に応じて、その他の元素を含む。これらの含有量は、結晶化させた際に、NASICON型結晶構造を有する固体電解質になるものであれば特に限定されない。より高いイオン伝導度を発現させるNASICON型結晶構造を有する固体電解質を得られるという観点からは、非晶質粉末中の各元素の含有量は以下の範囲となることが好ましい。
【0026】
リチウムは、非晶質粉末を結晶化させたときに、NASICON型結晶構造の形成に寄与する元素である。リチウムの含有量は、下限値については、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは1.8質量%以上である。また、上限値については、好ましくは4.0質量%以下、好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3.3質量%以下である。
【0027】
アルミニウムは、非晶質粉末を結晶化させたときに、NASICON型結晶構造の形成に寄与する元素である。アルミニウムの含有量は、下限値については、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上である。また、上限値については、好ましくは6.0質量%以下、より好ましくは5.5質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
【0028】
ゲルマニウムは、非晶質粉末において非晶質の形成に寄与するとともに、非晶質粉末を結晶化させたときに、NASICON型結晶構造の形成に寄与する元素である。ゲルマニウムの含有量は、下限値については、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは22質量%以上、最も好ましくは23.5質量%以上である。また、上限値については、好ましくは35質量%以下、より好ましくは33質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0029】
リンは、非晶質粉末において非晶質の形成に寄与するとともに、非晶質粉末を結晶化させたときに、NASICON型結晶構造の形成に寄与する元素である。リンの含有量は、下限値については、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。また、上限値については、好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0030】
非晶質粉末は、結晶化した際、NASICON型結晶構造を形成するのであれば、上述したリチウム、アルミニウム、ゲルマニウムおよびリン以外のその他の元素を含んでもよい。その他の元素としては、例えば、チタン、ジルコニウムおよびケイ素の少なくとも1つを含んでもよい。その他の元素の合計の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
酸素は、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、その他の元素の残部となる。酸素の含有量は、非晶質粉末に含まれる各構成元素の合計の含有量を差し引いた(100質量%-各構成元素の質量%の合計値)ものであり、40質量%以上55質量%以下であることが好ましい。
【0032】
なお、非晶質粉末は、効果を損ねない範囲で、上述した元素以外の不純物元素を含んでもよい。
【0033】
本実施形態の非晶質粉末は、水分量が0.08質量%~4質量%となるように構成されている。非晶質粉末は乾燥や熱処理を経て作製されるため、熱処理後の状態では加熱により水分量が少なくなる傾向があり、多くとも0.05質量%程度となる。この点、本実施形態では、後述するように、水分量を0.08質量%以上となるように調整している。これにより、非晶質粉末の電極活物質粉末への分散性を高め、これらを均一に混合することができる。一方、水分量が過度に多くなると非晶質粉末が凝集したりすることで分散性が低くなるおそれがあるが、水分量を4質量%以下とすることにより、非晶質粉末の凝集を抑制し、電極活物質粉末との混合性を高く維持することができる。電極活物質との混合性をより向上させる観点からは、水分量は、0.08質量%~3質量%であることが好ましく、0.3質量%~1質量%であることがより好ましい。
【0034】
なお、非晶質粉末の水分量は、後述するように、カールフィッシャー水分測定装置で測定される値である。この測定により得られる水分量は、主に非晶質粉末の表面に付着する水分の量を示す。
【0035】
非晶質粉末が非晶質であることは、非晶質粉末を粉末X線回折(XRD)測定したときに、2θ:15°~40°の領域でハローが観察されることを示す。なお、ハローとは、X線の強度の緩やかな起伏であって、X線チャートにおいてブロードな盛り上がりとして観察されるものである。そして、ハローの半値幅は2θ:2°以上である。
【0036】
非晶質粉末の粒径は、特に制限はないが、非晶質粉末についてレーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて体積基準の粒度分布を測定し、測定によって得られた体積基準の累積50%粒子径(D50)が、0.5μm以上30μm以下であることが好ましい。このような粒径とすることにより、全固体電池の固体電解質として好適に用いることが可能となる。
【0037】
非晶質粉末のBET比表面積は、10m2/g以上100m2/g以下であることが好ましい。このようなBET比表面積とすることにより、全固体電池の固体電解質として好適に用いることが可能となる。
【0038】
(非晶質粉末の製造方法)
続いて、上述した非晶質粉末の製造方法について、(1)原料水溶液調製工程、(2)混合スラリー化工程、(3)乾燥工程、(4)熱処理工程、(5)水分量調整工程の順に説明する。なお、(1)~(4)については、下述の方法に限定されず、例えば特開2018-37341号や特開2019-50083号の製造方法を用いて得られた非晶質粉末を水分調整しても構わない。
【0039】
(1)原料水溶液調製工程
まず、非晶質粉末を構成する元素であるリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、および、必要に応じてその他の元素を含む原料をそれぞれ水に溶解させて、各構成元素を含む原料水溶液を調製する。各構成元素を含む原料は、従来公知のものを用いることができる。例えば、二酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム酸化物を溶解した水溶液と、例えば硝酸リチウムや硝酸アルミニウム9水和物、リン酸二水素アンモニウムなどを溶解した水溶液と、を調製するとよい。
【0040】
(2)混合スラリー化工程
続いて、(1)にて調製した原料水溶液を、ねらいの非晶質粉末の組成に合わせて混合し、いわゆる共沈法により、固体電解質の構成元素を含むスラリーを得る。例えば、アンモニアで溶解させたアルカリ性のゲルマニウム水溶液に、硝酸リチウム、硝酸アルミニウム9水和物、リン酸二水素アンモニウムを溶解させた酸性の水溶液を添加すると、共沈法によって、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン等を含有したスラリーを得ることができる。
【0041】
共沈法によれば、原料水溶液を混合したスラリーにおける構成元素のイオン濃度積が溶解度積よりも高くなる過飽和状態となり、生成する沈殿物の核数が多くなる結果、析出する沈殿物の粒径を小さくすることができる。これにより、例えば非晶質粉末のBET比表面積を20m2/g以上とすることができる。
【0042】
(3)乾燥工程
続いて、(2)にて得られたスラリーを乾燥させ、スラリー中の水分を蒸発させることで、乾燥粉末を得る。乾燥方法は特に限られないが、スプレードライヤー等を用いた噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥によれば、短時間でスラリー中においてイオンで存在している構成元素を急速に析出させて、構成元素間の溶解度の差から生じる、析出の不均一さを低減することができる。これにより、組成の均一な乾燥粉末を得ることができ、二酸化ゲルマニウムの生成が抑制された非晶質粉末をより確実に形成することができる。乾燥温度は、得られる乾燥粉末に水分が残らない温度に適宜設定すればよい。例えば、噴霧乾燥機であるスプレードライヤーの入口温度は150~250℃、熱風出口温度は60℃以上であることが好ましい。
【0043】
(4)熱処理工程
続いて、(3)にて得られた乾燥粉末を熱処理してガラス化することにより、非晶質粉末を得る。例えば、アルミナ製等の容器に、乾燥粉末を入れ、大気雰囲気下で室温から、300℃~500℃まで、昇温速度0.1~20℃/minにて昇温するとよい。
【0044】
熱処理により得られた非晶質粉末は、上述の(3)乾燥工程および(4)熱処理工程の際の加熱により水分量が少なくなっている。例えば、熱処理後の非晶質粉末における水分量は0.05質量%以下となる。
【0045】
(5)水分量調整工程
続いて、本実施形態では、(4)にて得られた非晶質粉末の水分量を調整する。具体的には、熱処理後であって水分量が0.05質量%以下である非晶質粉末を、水分を含む雰囲気中に所定時間、曝して、非晶質粉末に吸水させ、非晶質粉末の水分量を0.08質量%~4質量%に調整する。これにより、本実施形態の非晶質粉末を得る。
【0046】
吸水方法は特に限定されないが、非晶質粉末に水を吹きかけて直接的に水分を吸水させる方法や、水分を含有する雰囲気中に非晶質粉末を曝して間接的に吸水させる方法がある。間接的に吸水させる方法では、例えば、容器内に非晶質粉末とともに、含水させた部材(例えば、水分を含ませた紙など)を同封して密閉するとよい。非晶質粉末の水分量を調整するには、直接的に吸水させる場合であれば、吹きかける水分量を調整するとよい。間接的に吸水させる場合であれば、含水させた部材における水分量を調整するとよい。非晶質粉末の電極活物質粉末との混合性をより高くする観点からは、間接的に吸水させる方法が好ましい。間接的に吸水させる方法の場合、直接的に吸水させる場合と比較して、水分量を調整しやすく、また吸水による非晶質粉末の凝集を抑制することができるためである。
【0047】
間接的に吸水させる場合に用いる容器としては、密閉でき透湿を抑制できるようなものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0048】
なお、(4)熱処理工程と(5)水分量調整工程との間に、非晶質粉末の粒径を調整する粒径調整工程を設けてもよい。例えば固体電解質をシート状に成形する場合であれば、目的のシート厚に応じて、粒径を適宜調整するとよい。粒径調整の方法は、公知の方法が使用可能ではあるが、ビーズミル等を用いた湿式粉砕が好ましい。湿式粉砕を実施した場合は、湿式粉砕処理後に固液分離し、湿式粉砕後の非晶質粉末を乾燥する。乾燥して得られた粒径調整後の非晶質粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定により求めた体積基準の累積50%粒子径(D50)で0.5μm~5μmであることがより好ましい。
【0049】
(粉末梱包体)
上述した非晶質粉末は、大気に曝されることで水分量が減少したり増加したりすることで変動することがある。水分量が過度に変動すると、非晶質粉末の凝集を引き起こし、電極活物質粉末との混合性を損ねるおそれがある。そこで、非晶質粉末の水分量を0.08質量%~4質量%に保持し、長期保存性を担保する観点からは、非晶質粉末を容器に収容し、粉末梱包体とすることが好ましい。以下、粉末梱包体について具体的に説明する。
【0050】
本実施形態の粉末梱包体は、非晶質粉末と、非晶質粉末を密閉した状態で収容する容器と、を備え、非晶質粉末の水分量が0.08~4質量%に維持されるように構成される。容器内に非晶質粉末が密閉されることにより、非晶質粉末から水分が揮発したとしても、容器内に水分を留めることができる。これにより、非晶質粉末に含まれる水分量の低減を抑制し、水分量を0.08質量%~4質量%に維持することができる。
【0051】
粉末梱包体は、容器内に、非晶質粉末とともに、含水させた部材を収容することが好ましい。含水させた部材によれば、容器内で非晶質粉末に吸水させることができ、水分量の変動をより確実に抑制することができる。これにより、非晶質粉末を長期にわたってより確実に保存することができる。
【0052】
なお、非晶質粉末に間接的に吸水させる観点からは、含水させた部材を非晶質粉末に直接接触しないようにすることが好ましい。例えば、非晶質粉末の上にバットやトレーなどを配置し、その上に、含水させた部材を載置するとよい。また、含水させた部材における水分量は、非晶質粉末において目的とする水分量に応じて適宜変更するとよい。
【0053】
また、粉末梱包体に含水させた部材を収容する場合、例えば熱処理工程後であって水分量が0.05質量%以下の非晶質粉末と、所定量の水分を含水させた部材と、を容器に収容し、容器内で非晶質粉末に吸水させ、所定の水分量を維持するように保存するとよい。また例えば、予め所定の水分量に調整した非晶質粉末を含水させた部材とともに容器に収容し、所定の水分量を維持するように保存してもよい。
【0054】
粉末梱包体に用いる容器としては、密閉でき透湿を抑制できるようなものであれば特に限定されない。例えば、樹脂ラミネートアルミ袋など公知の容器を用いることができる。
【0055】
また、含水させる部材としては、水分を含侵させて保持できるようなものであれば特に限定されず、例えば紙など公知のものを用いるとよい。
【0056】
(電極層用混合粉末および電極層)
続いて、上述した非晶質粉末と電極活物質粉末とを混合した電極層用混合粉末について説明する。
【0057】
電極層用混合粉末は、上述した非晶質粉末と電極活物質粉末とを混合することにより得られる。上述したように、本実施形態の非晶質粉末は、電極活物質粉末との混合性(混合の均一性)に優れるので、電極層用混合粉末において、非晶質粉末や電極活物質粉末の分散の偏りを抑制することができる。具体的には、電極層用混合粉末から所定量のサンプルを複数採取し、各サンプルに含まれる非晶質粉末に由来する成分の濃度、もしくは電極活物質粉末に由来する元素の濃度を測定したときに、これらの濃度の標準偏差σを好ましくは1.0以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.3以下とすることができる。つまり、各サンプルでの所定元素の濃度のばらつきを抑制し、濃度を均一にすることができる。
【0058】
電極活物質粉末としては、正極活物質や負極活物質として用いられるものであれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。電極活物質粉末の粒径は、特に限定されず、例えば0.5μm~20μmとするとよい。
【0059】
電極層は、例えば電極層用混合粉末をシート状に成形して500℃を超える温度で焼成し、非晶質粉末を結晶化させることにより作製することができる。得られる電極層は、電極活物質粉末の表面に、NASICON型結晶構造を有する固体電解質が均一に被覆するように構成される。そのため、電極層においては、高いイオン伝導度を得ながらも、その偏りを小さくすることができる。しかも、複数の電極層を作製したときに、それぞれのイオン伝導度のばらつきを小さくすることができる。このような電極層を全固体電池に採用することで、全固体電池において優れた電池特性を安定して得ることが可能となる。
【0060】
なお、本実施形態の電極層において高いイオン伝導度を得られる理由は、固体電解質がNASICON型結晶構造を形成して高いイオン伝導度を発現するとともに、電極層用混合粉末の混合状態のばらつきが小さい、つまり各粉末が偏在せずに各濃度の偏りが少ないことで、電極層用混合粉末から形成される電極層において固体電解質と活物質との界面が、混合状態のばらつきが大きい場合よりも増え、イオン伝導がより生じやすいため、と推測される。
【0061】
なお、NASICON型結晶構造の固体電解質は、上述した結晶化前の非晶質粉末の構成元素であるリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含有している。NASICON型結晶構造の固体電解質であるかは、XRD装置を用いて測定しXRDプロファイルから判定出来る。具体的には、得られたXRDプロファイルを、XRD装置付属の電子計算機を用いて、ICDD(国際回折データセンター)のPDF(Powder Diffraction File) No.01-080-1922と照合することで同定することが出来る。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例及び比較例によってより詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0063】
<非晶質粉末の製造>
本実施例では、以下に示すように(1)原料水溶液調製工程、(2)混合スラリー化工程、(3)乾燥工程、(4)熱処理工程、(5)粒径調整工程、および(6)水分量調整工程の順に行い、実施例1~6、比較例1、2の非晶質粉末を製造した。
【0064】
<実施例1>
(1)原料水溶液調製工程
まず、原料水溶液として(I)ゲルマニウム水溶液と、(II)リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液とを調製した。以下、それぞれについて説明する。
【0065】
(I)ゲルマニウム化合物の水溶液
純水8000gへ二酸化ゲルマニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製99.999%)385gを添加して撹拌しながら40℃に加温し、さらにアルカリとして濃度28質量%のアンモニア水(ナカライテスク社製28%)195gを添加して、二酸化ゲルマニウムを溶解させゲルマニウム化合物の水溶液を調製した。調製した水溶液におけるpH値は10.7でありアルカリ性であった。
【0066】
(II)リチウム、アルミニウム、リン含有水溶液
純水1500gへ、硝酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、98.0+%)217gと硝酸アルミニウム9水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製98.0+%)394gとリン酸二水素アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製98.0+%)725gとを加え、リチウム、アルミ二ウム、リン含有水溶液を調製した。調製したリチウム、アルミニウム、リン含有水溶液におけるpH値は1.4であり、酸性であった。
【0067】
(2)混合スラリー化工程
アルカリ性であるゲルマニウム水溶液7200gを分取し攪拌しながら40℃に加温し、そこへ調製したリチウム、アルミニウム、リン含有水溶液の全量(2837g)を添加したところ、水溶液は添加直後に白濁し、リチウムと、アルミ二ウムと、ゲルマニウムと、リンと、アンモニアと、水とを混合した白色の混合スラリーを得た。得られた白色スラリーのpH値は4.3であった。
【0068】
(3)乾燥工程
混合スラリーを、噴霧乾燥機(東京理化器械株式会社製 SD-1000)を用いて噴霧乾燥して、混合スラリー中の水分を蒸発させて一気に固相析出させ、白色の粉末を得た。なお、噴霧乾燥の条件としては、入口温度180℃、出口温度90℃、混合スラリーの添加速度10g/minとした。
【0069】
(4)熱処理工程
アルミナ製の容器に、噴霧乾燥で得られた乾燥粉末を50g入れ、昇温速度5℃/minにて室温から400℃まで昇温し、400℃に達してから大気雰囲気下で120分間熱処理し、熱処理粉末を得た。
【0070】
(5)粒径調整工程
熱処理粉末400gを、φ1mmZrビーズ1600gとイソプロピルアルコール(IPA)943.2gと共にビーズミルに装填し、120分間湿式粉砕した。続いて、湿式粉砕した熱処理粉末を乾燥機に入れ、100℃で3時間乾燥し、IPAを除去して粒径調整した乾燥粉末を得た。なお、本工程で得られる粒径調整した乾燥粉末の水分量を後述の水分量分析と同様に測定したところ、0.04質量%であった。
【0071】
(6)水分量調整工程
水分量調整工程は、
図1に示すように行った。具体的には、まず、ナイロン製の内袋と外袋(幅450mm、長さ700mm)を準備し、内袋を外袋内に入れ二重にすることで容器11を形成した。続いて、上記粒径調整後の粒径調整した乾燥粉末10を200g分取し、容器11におけるナイロン製の内袋に入れた。また、紙製ウエス(商品名 JKワイパー 日本製紙クレシア社製)に純水を0.12g含ませて、含水させた部材を準備した後、含水させた部材を入れたステンレス製の深型バット13を準備し、内袋の中にある粒径調整した乾燥粉末10上に配置し、内袋と外袋の入口を密閉し12時間静置した。静置後、内袋から含水させた部材12を入れたステンレス製の深型バット13を取り出し、再度、容器11の入口を密閉し、容器11を揺すり、1時間静置し、実施例1の非晶質粉末を得た。
【0072】
〈実施例2〉
実施例2では、実施例1の(6)水分量調整において、水分量調整条件として、紙製ウエスに含浸させる純水量を0.12gから0.52gに変更した以外は実施例1と同様にし、非晶質粉末を得た。
【0073】
〈実施例3〉
実施例3では、実施例1の(6)水分量調整において、水分量調整条件として、紙製ウエスに含浸させる純水量を0.12gから0.92gに変更した以外は実施例1と同様にし、非晶質粉末を得た。
【0074】
〈実施例4〉
実施例4では、実施例1の(6)水分量調整において、水分量調整条件として、紙製ウエスに含浸させる純水量を0.12gから1.52gに変更した以外は実施例1と同様にし、非晶質粉末を得た。
【0075】
〈実施例5〉
実施例5では、実施例1の(6)水分量調整において、水分量調整条件として、紙製ウエスに含浸させる純水量を0.12gから1.92gに変更した以外は実施例1と同様にし、非晶質粉末を得た。
【0076】
〈実施例6〉
実施例6では、実施例1の(6)水分量調整において、水分量調整条件として、紙製ウエスに含浸させる純水量を0.12gから5.92gに変更した以外は実施例1と同様にし、非晶質粉末を得た。
【0077】
〈比較例1〉
比較例1では、実施例1の(6)水分量調整において、水分量調整条件として、紙製ウエスに含浸させる純水量を0.12gから9.92gに変更した以外は実施例1と同様にし、非晶質粉末を得た。
【0078】
〈比較例2〉
比較例2では、実施例1の(6)水分量調整において、水分量調整条件として、紙製ウエスに含浸させる純水量を0.12gから0.02gに変更した以外は実施例1と同様にし、非晶質粉末を得た。
【0079】
<評価方法>
続いて、得られた実施例、比較例の非晶質粉末に対して、水分量分析、非晶質粉末のXRD測定、元素分析、粒子径D50測定、BET比表面積測定を行った。また得られた実施例、比較例の非晶質粉末と電極活物質との混合を行い混合性の評価を行った。さらに、得られた実施例、比較例の非晶質粉末を結晶化させた圧粉焼成体を作製し、圧粉焼成体のXRD測定を実施しNASICON型結晶構造の固体電解質であるかの評価を行った。以下、それぞれの方法および結果について説明する。
【0080】
(水分量分析)
下記測定条件にて非晶質粉末の水分量を測定し、測定した結果を表1に記載する。
測定装置 :カールフィッシャー水分測定装置(平沼産業株式会社製 平沼微量水分測定装置AQ-2100と水分気化装置EV-2000)
測定サンプル量:0.3g
キャリアガス :窒素ガス
キャリアガス流量:0.3L/min
interval time:15sec
気化室温度:100℃
【0081】
(非晶質粉末のXRD測定)
下記測定条件にて非晶質粉末のXRD測定を実施した。
測定装置 :XRD-6100(島津製作所製)
管球 :Cu
管電圧 :40kv
管電流 :30mA
発散スリット:1.0°
散乱スリット:1.0°
受光スリット:0.3mm
ステップ幅 :0.02°/step
計測時間 :0.25sec
【0082】
(元素分析)
白金るつぼに、得られた実施例、比較例に係る非晶質粉末0.1gと炭酸NaK1gをはかりとり、約900℃で溶融し、溶融後、温水浸出し、硝酸10mLを加え溶解した溶解液を500倍希釈した溶解液試料を1つ作成した。1つの溶解液試料をICP-OESを用いて、元素分析を行い、各構成元素分析値を表1に記載する。なお、元素分析による非晶質粉末に含まれる各構成元素分析値の合計の含有量を差し引いた(100質量%-各構成元素の質量%の合計値)が、酸素の存在量であると考えられる。これは後述する、実施例2~6、比較例1~2も同様である。
【0083】
(粒子径D50測定)
得られた実施例、比較例の非晶質粉末をレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の分散モジュール)))を使用して、分散圧5barで体積基準の粒度分布を測定し、体積基準の累積50%粒子径(D50)を求めた。測定した結果を表1に記載する。
【0084】
(BET比表面積測定)
得られた実施例、比較例の非晶質粉末のBET比表面積を、BET比表面積測定器(株式会社マウンテック製 Macsorb)を用いて測定した。当該測定器内に105℃で20分間窒素ガスを流して脱気した後、窒素とヘリウムとの混合ガス(N2:30体積%、He:70体積%)を流しながら、BET1点法により測定した。測定したBET比表面積の値を表1に記載する。
【0085】
(混合性)
得られた実施例、比較例の非晶質粉末について、電極活物質と混合して、電極活物質との混合の均一性について分析した。混合の均一性は、得られた実施例1の非晶質粉末が含有しない元素であるCo元素を含有する電極活物質粉末を混合した混合粉末のサンプルを5つ準備し、5つの混合粉末のサンプルを溶解し、溶解液に含まれるCo元素含有量の標準偏差σを求めた。標準偏差σの値が小さいほど非晶質粉末と電極活物質が均一に混合されており混合均一性が高いことを示す。なお、Co元素含有量を測定した理由は、Coが非晶質粉末と電極活物質粉末とで共通しない元素であり、Coの含有量のばらつきで非晶質粉末と電極活物質粉末との混合状態のばらつきを把握できるためである。
【0086】
具体的には、まず、実施例や比較例の非晶質粉末16gと、電極活物質としてD50が6.9μmのLiNiCoMnO2粉末(MTI社製)4gとを、ミクロ形透視式V型混合機(筒井理化学器械株式会社製 型式VM-2 混合容器V-C)を用いて、回転速度70rpm、回転時間5分の条件で混合した。続いて、得られた混合粉から0.5g分取した試料を5つ準備した。続いて、5つの試料に対し、白金るつぼに試料0.1gと炭酸NaK1gをはかりとり、約900℃で溶融し、溶融後、温水浸出し、硝酸10mLを加え溶解した溶解液を500倍希釈した溶解液試料を5つ作成した。5つの溶解液試料をICP-OESを用いて、溶解液中のCo量の測定を行った。得られた5つの溶解液中のCo量の標準偏差σを求め、求めた標準偏差σを表2に記載する。なお、溶解液を希釈して溶解液試料を調製する際には、得られた溶解液を250ml全量フラスコに移液して純水で定容した後、その定容溶液を5ml分取し、硝酸5mlを添加して、100ml全量フラスコにて純水で定容した。
【0087】
(圧粉焼成体のXRD測定)
まず、得られた実施例、比較例の非晶質粉末のそれぞれについて、0.5gを採取して、直径10mmの円筒容器中に投入し、プレス機によって360MPaでプレスして圧粉体を得た。得られた非晶質粉末の圧粉体を炉内温度が800℃に達してから120分間焼成し、結晶化させた圧粉焼成体を製造した。
【0088】
得られた圧粉焼成体に対し、上述する「非晶質粉末のXRD測定」と同様の測定条件で圧粉焼成体のXRD測定を行い、NASICON型結晶構造の固体電解質であるLAGPのJCPDSカードNo.01-080-1922と照合することにより、圧粉焼成体の結晶構造がNASICON型であるかどうかを確認した。
【0089】
<評価結果>
上述の評価方法により得られた結果を以下の表1および表2にまとめる。
【0090】
【0091】
【0092】
表1に示すように、実施例1~実施例6、比較例1および比較例2における非晶質粉末はいずれも、構成元素として、Liを2.43質量%、Alを3.02質量%、Geを25.1質量%、Pを21.7質量%、含むことが確認された。また、粒子径D50が1.8μmであり、BET比表面積が27m2/gであることが確認された。また、水分量調整において、紙製ウエスに含浸させる水分量を変更することにより、非晶質粉末の水分量が、実施例1では0.1質量%、実施例2では0.3質量%、実施例3では0.5質量%、実施例4では0.08質量%、実施例5では1質量%、実施例6では3質量%、比較例1では5質量%、比較例2では0.05質量%であることが確認された。
【0093】
また、実施例1の非晶質粉末についてXRD測定を行い、
図2に示すXRDスペクトルを取得した。
図2のXRDスペクトルでは、2θ:15°~40°の領域で、半値幅が2θ:2°以上のハローが観察された。このことから、実施例1の非晶質粉末は、非晶質であることが確認された。また、その他の実施例および比較例の非晶質粉末についても、非晶質であることが確認された。
【0094】
また、実施例および比較例の非晶質粉末を用いて形成される圧粉焼成体についてXRD測定を行ったところ、いずれの圧粉焼成体でも、NASICON型結晶構造の固体電解質であるLAGPの結晶ピークが観察された。このことから、実施例および比較例の非晶質粉末は、結晶化させることで、NASICON型結晶構造を有する固体電解質を形成するような前駆体粉末であることが確認された。
【0095】
また、実施例および比較例の非晶質粉末について混合性を評価したところ、表2に示すように、非晶質粉末の水分量を0.08質量%~4質量%の範囲内とした実施例1~6では、それぞれ5つのサンプルを採取したときに、各サンプルにおけるCo含有量の標準偏差σが0.5以下であることが確認された。つまり、各サンプルにおけるCo含有量のばらつきが小さく、非晶質粉末と電極活物質との混合状態のばらつきが小さく、これらが均一に混合されていることが確認された。
これに対して、非晶質粉末の水分量を5質量%とした比較例1や0.05質量%とした比較例2では、その標準偏差σが1.43や1.49であり、非晶質粉末と電極活物質とが均一に混合していないことが確認された。これは、非晶質粉末の水分量が過度に少なかったり多かったりすることで、非晶質粉末が凝集して電極活物質粉末との混合性が低いためと推測される。
【0096】
また、実施例2~5では、標準偏差σをより小さくできていることから、非晶質粉末の水分量を0.3質量%~1質量%とすることにより、非晶質粉末と電極活物質とをより均一に混合できることが確認された。
【0097】
以上のように、水分量が0.08質量%~4質量%となる非晶質粉末によれば、電極活物質と均一に混合することができ、電極層を形成したときに、電極活物質の表面に、固体電解質から形成される被膜を均一に形成することが可能となる。これにより、電極層においてイオン伝導度の偏りを抑制して、優れた電池特性を実現することができる。