(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】血液浄化器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/18 20060101AFI20250618BHJP
B01D 61/28 20060101ALI20250618BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
A61M1/18 500
A61M1/18 511
B01D61/28
B01D63/02
(21)【出願番号】P 2021148928
(22)【出願日】2021-09-13
【審査請求日】2024-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】堀 禎憲
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-057476(JP,A)
【文献】特開平06-125985(JP,A)
【文献】国際公開第96/014890(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の物質を透過可能な複数の中空糸膜がケースに収容された血液浄化器において、
互いに異なる透過性能を有する中空糸膜が所定の混合比率で前記ケースに収容され、透過対象の物質の透過性能が前記混合比率により任意に調整された
ものとされ、
前記中空糸膜は、透過対象の物質の分子量と透過性との関係を示す分画曲線により透過性能が予め特定されたものから成り、当該特定された互いに異なる透過性能の中空糸膜が前記ケース内に所定の混合比率で収容され、且つ、
前記ケースは、互いに異なる透過性能であって一方の分画曲線を左右にシフトさせることにより他方の分画曲線と重なる関係とされ、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状が同一又は類似とされた傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜が所定の混合比率で収容されたことを特徴とする血液浄化器。
【請求項2】
所望の物質を透過可能な複数の中空糸膜がケースに収容された血液浄化器において、
互いに異なる透過性能を有する中空糸膜が所定の混合比率で前記ケースに収容され、透過対象の物質の透過性能が前記混合比率により任意に調整されたものとされ、
前記中空糸膜は、透過対象の物質の分子量と透過性との関係を示す分画曲線により透過性能が予め特定されたものから成り、当該特定された互いに異なる透過性能の中空糸膜が前記ケース内に所定の混合比率で収容され、且つ、
前記ケースは、互いに異なる透過性能であって一方の分画曲線を左右にシフトさせても他方の分画曲線と重ならない関係とされ、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状が異なる傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜が所定の混合比率で収容されたことを特徴とする血液浄化器。
【請求項3】
前記中空糸膜内を患者の血液が流通可能とされるとともに、前記ケース内を透析液が流通可能とされた血液浄化器から成ることを特徴とする請求項1
又は請求項2記載の血液浄化器。
【請求項4】
透過対象の物質が血液中に含まれるアルブミンから成り、当該アルブミンの透過性能を調整可能とされたことを特徴とする請求項
3記載の血液浄化器。
【請求項5】
アルブミンの透過性能を調整し、かつ、アルブミンより大きな分子量の血中物質の透過性能をも調整可能とされたことを特徴とする請求項
4記載の血液浄化器。
【請求項6】
互いの分画曲線が大きく異なり、一方がふるい係数1、他方がふるい係数0となる分子量領域がある組み合わせである請求項1
又は請求項2記載の血液浄化器。
【請求項7】
所望の物質を透過可能な複数の中空糸膜がケースに収容された血液浄化器の製造方法において、
互いに異なる透過性能を有する中空糸膜を所定の混合比率で前記ケースに収容し、透過対象の物質の透過性能を前記混合比率により任意に調整する
ものとされ、前記中空糸膜は、透過対象の物質の分子量と透過性との関係を示す分画曲線により透過性能が予め特定されるとともに、当該特定された透過性能毎に選別して前記ケース内に所定の混合比率で収容することを特徴とする血液浄化器の製造方法。
【請求項8】
互いに異なる透過性能であって一方の分画曲線を左右にシフトさせることにより他方の分画曲線と重なる関係とされ、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状が同一又は類似とされた傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜を所定の混合比率で前記ケースに収容することを特徴とする請求項
7記載の血液浄化器の製造方法。
【請求項9】
互いに異なる透過性能であって一方の分画曲線を左右にシフトさせても他方の分画曲線と重ならない関係とされ、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状が異なる傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜を所定の混合比率で前記ケースに収容することを特徴とする請求項
7記載の血液浄化器の製造方法。
【請求項10】
前記中空糸膜内を患者の血液が流通可能とされるとともに、前記ケース内を透析液が流通可能とされた血液浄化器から成ることを特徴とする請求項
7~9の何れか1つに記載の血液浄化器の製造方法。
【請求項11】
透過対象の物質が血液中に含まれるアルブミンから成り、当該アルブミンの透過性能を調整可能とされたことを特徴とする請求項
10記載の血液浄化器の製造方法。
【請求項12】
透過対象として血液中に含まれるアルブミンの透過性能を調整し、かつ、アルブミンより大きな血中物質の透過性能を調整可能とされたことを特徴とする請求項
11記載の血液浄化器の製造方法。
【請求項13】
互いの分画曲線が大きく異なり、一方がふるい係数1、他方がふるい係数0となる分子量領域がある組み合わせである請求項
8又は請求項9記載の血液浄化器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の物質を透過可能な複数の中空糸膜がケースに収容された血液浄化器及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液浄化器は、例えば血液透析に使用されるダイアライザに適用されるもので、筒状のケースに多数本の中空糸膜が充填されて構成されている。中空糸膜は、ポアと称される多数の穴が形成された糸状部材から成り、内部に患者の血液を流通させ得るとともに、その血液に含まれる特定の物質(特定のタンパク質等)を外部に透過させて浄化可能とされている。
【0003】
従来の血液浄化器としては、例えば特許文献1に開示されているように、血液導入ポート、血液導出ポート、透析液導入ポート及び透析液導出ポートが形成されたケース内に多数本の中空糸膜を充填したものが挙げられる。そして、血液導入ポート及び血液導出ポートに患者の血液を体外循環させる血液回路がそれぞれ接続されるとともに、透析液導入ポート及び透析液導出ポートに透析装置本体から延設された透析液導入ライン及び透析液排出ラインがそれぞれ接続可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の血液浄化器においては、所望の物質(血液中に含まれるアルブミン等)を透過する透過性能が製品毎にばらついてしまい、透過性能を一定に保持するのが困難であるという問題があった。すなわち、中空糸膜は、通常、原材料である高分子の合成段階のばらつき(分子量など)や中空糸膜の製造条件のゆらぎ(調製した高分子溶液の濃度、温度、若しくは凝固液の濃度、温度など)によって、その透過性能を一定にするのが難しい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、所望の物質を透過する透過性能を容易且つ安定して一定にすることができる血液浄化器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、所望の物質を透過可能な複数の中空糸膜がケースに収容された血液浄化器において、互いに異なる透過性能を有する中空糸膜が所定の混合比率で前記ケースに収容され、透過対象の物質の透過性能が前記混合比率により任意に調整されたものとされ、前記中空糸膜は、透過対象の物質の分子量と透過性との関係を示す分画曲線により透過性能が予め特定されたものから成り、当該特定された互いに異なる透過性能の中空糸膜が前記ケース内に所定の混合比率で収容され、且つ、前記ケースは、互いに異なる透過性能であって一方の分画曲線を左右にシフトさせることにより他方の分画曲線と重なる関係とされ、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状が同一又は類似とされた傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜が所定の混合比率で収容されたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、所望の物質を透過可能な複数の中空糸膜がケースに収容された血液浄化器において、互いに異なる透過性能を有する中空糸膜が所定の混合比率で前記ケースに収容され、透過対象の物質の透過性能が前記混合比率により任意に調整されたものとされ、前記中空糸膜は、透過対象の物質の分子量と透過性との関係を示す分画曲線により透過性能が予め特定されたものから成り、当該特定された互いに異なる透過性能の中空糸膜が前記ケース内に所定の混合比率で収容され、且つ、前記ケースは、互いに異なる透過性能であって一方の分画曲線を左右にシフトさせても他方の分画曲線と重ならない関係とされ、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状が異なる傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜が所定の混合比率で収容されたことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の血液浄化器において、前記中空糸膜内を患者の血液が流通可能とされるとともに、前記ケース内を透析液が流通可能とされた血液浄化器から成ることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の血液浄化器において、透過対象の物質が血液中に含まれるアルブミンから成り、当該アルブミンの透過性能を調整可能とされたことを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の血液浄化器において、アルブミンの透過性能を調整し、かつ、アルブミンより大きな分子量の血中物質の透過性能をも調整可能とされたことを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の血液浄化器において、互いの分画曲線が大きく異なり、一方がふるい係数1、他方がふるい係数0となる分子量領域がある組み合わせである。
【0015】
請求項7記載の発明は、所望の物質を透過可能な複数の中空糸膜がケースに収容された血液浄化器の製造方法において、互いに異なる透過性能を有する中空糸膜を所定の混合比率で前記ケースに収容し、透過対象の物質の透過性能を前記混合比率により任意に調整するものとされ、前記中空糸膜は、透過対象の物質の分子量と透過性との関係を示す分画曲線により透過性能が予め特定されるとともに、当該特定された透過性能毎に選別して前記ケース内に所定の混合比率で収容することを特徴とする。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の血液浄化器の製造方法において、互いに異なる透過性能であって一方の分画曲線を左右にシフトさせることにより他方の分画曲線と重なる関係とされ、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状が同一又は類似とされた傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜を所定の混合比率で前記ケースに収容することを特徴とする。
【0018】
請求項9記載の発明は、請求項7記載の血液浄化器の製造方法において、互いに異なる透過性能であって一方の分画曲線を左右にシフトさせても他方の分画曲線と重ならない関係とされ、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状が異なる傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜を所定の混合比率で前記ケースに収容することを特徴とする。
【0019】
請求項10記載の発明は、請求項7~9の何れか1つに記載の血液浄化器の製造方法において、前記中空糸膜内を患者の血液が流通可能とされるとともに、前記ケース内を透析液が流通可能とされた血液浄化器から成ることを特徴とする。
【0020】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の血液浄化器の製造方法において、透過対象の物質が血液中に含まれるアルブミンから成り、当該アルブミンの透過性能を調整可能とされたことを特徴とする。
【0021】
請求項12記載の発明は、請求項11記載の血液浄化器の製造方法において、透過対象として血液中に含まれるアルブミンの透過性能を調整し、かつ、アルブミンより大きな血中物質の透過性能を調整可能とされたことを特徴とする。
【0022】
請求項13記載の発明は、請求項8又は請求項9記載の血液浄化器の製造方法において、互いの分画曲線が大きく異なり、一方がふるい係数1、他方がふるい係数0となる分子量領域がある組み合わせである。
【発明の効果】
【0023】
請求項1、7の発明によれば、互いに異なる透過性能を有する中空糸膜が所定の混合比率でケースに収容され、透過対象の物質の透過性能が混合比率により任意に調整されたので、所望の物質を透過する透過性能を容易且つ安定して一定に保持することができる。
【0024】
請求項1、7の発明によれば、中空糸膜は、透過対象の物質の分子量と透過性(例えば、ふるい係数)との関係を示す分画曲線により透過性能が予め特定されるとともに、当該特定された透過性能毎に選別されてケース内に所定の混合比率で収容されたので、分画曲線に基づいて透過性能を簡易且つ容易に選別することができ、ケース内に所定比率で混合させることができる。
【0025】
請求項1、8の発明によれば、ケースは、互いに異なる透過性能であって同一傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜が所定の混合比率で収容されたので、同一傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜の混合比率を設定することにより、透過対象の物質の透過性能を容易に調整することができる。
【0026】
請求項2、9の発明によれば、ケースは、互いに異なる透過性能であって異なる傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜が所定の混合比率で収容されたので、異なる傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜の混合比率を設定することにより、透過対象の物質の透過性能を容易に調整することができる。
【0027】
請求項3、10の発明によれば、中空糸膜内を患者の血液が流通可能とされるとともに、ケース内を透析液が流通可能とされた血液浄化器から成るので、血液浄化器の透過性能を容易且つ安定して一定に保持することができる。
【0028】
請求項4、11の発明によれば、透過対象の物質が血液中に含まれるアルブミンから成り、当該アルブミンの透過性能を調整可能とされたので、血液透析治療を良好に行わせることができる。
【0029】
請求項5、12の発明によれば、透過対象の物質が血液中に含まれるアルブミンの透過性能を調整可能とされ、かつ、アルブミン以上の血中物質の透過性能を調整可能とされたので、既存の血液浄化器ではなしえなかったアルブミン以上の分子量を有する血中物質の除去性能が設計可能となり、血液透析治療を良好に行わせることができる。生体の腎臓は、アルブミンに加えて、βグロブリン(分子量15~19万)など、より大きな分子量領域の血中物質もろ過している。アルブミンの過剰な漏出を抑制しつつ、アルブミンより大きな分子量の血中物質を効率よく除去できる透析器は、既存の技術では製造できなかった。
【0030】
請求項6、13の発明によれば、互いの分画曲線が大きく異なり、一方がふるい係数1、他方がふるい係数0となる分子量領域がある組み合わせであるので、製造条件の工夫ではなし得なかった階段状の分画曲線を有する血液浄化器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る血液浄化器が適用される血液透析装置を示す模式図
【
図2】同血液浄化器(左側が外観及び右側が内部)を示す模式図
【
図3】同血液浄化器における中空糸膜の内部構造を示す模式図
【
図4】同血液浄化器における中空糸膜の分画曲線を示すグラフ
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る血液浄化器における中空糸膜の分画曲線を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
実施形態に係る血液浄化器は、所望の物質を透過可能な複数の中空糸膜がケースに収容されたもので、
図1、2に示すように、血液透析治療で使用される血液浄化器1(ダイアライザ)に適用されたものである。かかる血液浄化器1は、
図2に示すように、ケース2と、ケース2に充填された多数の中空糸膜3とを有して構成されている。なお、
図2は、左側半分が外観(側面)を示すとともに、右側半分が内部を示すための断面図とされている。
【0033】
ケース2は、内部に収容空間が形成された樹脂製部材から成り、血液導入ポート2a、血液導出ポート2b、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dがそれぞれ突出形成されている。かかるケース2の両端部には、蓋部材Hがそれぞれ取り付けられており、ケース2内を液密状態とし得るとともに、各蓋部材Hには、血液導入ポート2a及び血液導出ポート2bがそれぞれ形成されている。
【0034】
中空糸膜3は、所望の物質を透過可能な糸状又は紐状の可撓性部材から成り、
図3に示すように、複数の開口から成るポア3aと、患者の血液等の液体を流通させ得る流通路3bとを有して構成されている。かかる中空糸膜3は、多数束ねられてケース2内に収容されるとともに、封止材Fにて固定及び封止されることにより、血液導入ポート2aから導入された患者の血液等の液体が流通路3bを流通し、血液導出ポート2bから導出されるようになっている。
【0035】
本実施形態に係る血液浄化器1は、透析治療時、
図1に示すように、血液導入ポート2a及び血液導出ポート2bが動脈側血液回路4及び静脈側血液回路5にそれぞれ接続されるとともに、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dが透析装置本体(不図示)から延設された透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2にそれぞれ接続される。したがって、ケース2内における中空糸膜3の外周面とケース2の内周面との間の空間には、透析液が流通可能とされている。
【0036】
動脈側血液回路4は、可撓性チューブから成り、一端が血液浄化器1の血液導入ポート2aに接続されて患者から採取した血液を血液浄化器1の中空糸膜3内の流通路3bに流入させるものである。かかる動脈側血液回路4の他端には、コネクタ等を介して動脈側穿刺針aが取り付け可能とされるとともに、途中に血液ポンプ6が取り付けられている。かかる血液ポンプ6は、しごき型のポンプ(ロータを駆動させると可撓性チューブの外周面をローラが長手方向にしごいて血液を送液させる構成のもの)から成る。
【0037】
静脈側血液回路5は、動脈側血液回路4と同様に可撓性チューブから成り、一端が血液浄化器1の血液導出ポート2bに接続されて中空糸膜3内の流通路3bから流出した血液を流通させるものである。かかる静脈側血液回路5の他端には、コネクタ等を介して静脈側穿刺針bが取り付け可能とされるとともに、途中にエアトラップチャンバ7が接続されている。
【0038】
そして、血液透析治療時、血液ポンプ6を駆動することにより、動脈側穿刺針aから採取された血液を動脈側血液回路4、血液浄化器1における中空糸膜3内の流通路3b、及び静脈側血液回路5にて順次流動させ、静脈側穿刺針bを介して患者の体内に戻すことにより体外循環させ得るようになっている。
【0039】
また、血液ポンプ6を駆動させた状態において、血液浄化器1に対して透析液導入ラインL1から透析液を導入することにより、中空糸膜3内の流通路3bを患者の血液が流通するとともに、ケース2内における中空糸膜3の外周面とケース2の内周面との間の空間を透析液が流通することとなる。これにより、血液透析治療時、患者の血液を体外循環させる過程において、血液中に含まれる特定の物質を中空糸膜3のポア3aを介して透析液側に透過させて排出することができる。
【0040】
ここで、本実施形態に係る血液浄化器1は、互いに異なる透過性能を有する中空糸膜3が所定の混合比率でケース2に収容され、透過対象の物質の透過性能が混合比率により任意に調整されている。具体的には、中空糸膜3は、透過対象の物質の分子量とふるい係数との関係を示す分画曲線により透過性能が予め特定されるとともに、当該特定された透過性能毎に選別されてケース2内に所定の混合比率で収容されている。
【0041】
分画曲線とは、
図4、5に示すように、一方の軸(同図においては横軸)を透過対象の物質の分子量(透過対象の物質のサイズ(kDa))、他方の軸(同図においては縦軸)をふるい係数としたグラフにより表される曲線から成り、かかる分画曲線により中空糸膜3の透過性能を特定することができる。ふるい係数は、濾過前における透過対象の物質の濃度をCpre、濾過後における透過対象の物質の濃度をCpostとした場合、以下の演算式にて求めることができる。
ふるい係数=Cpost/Cpre
【0042】
また、血液浄化器1のような血液浄化器においては、全濾過(全ての液体を濾過)するものではなく、部分濾過(全ての液体を濾過するものではなく、一定の割合の液体は濾過しないでケースから排出する)するよう構成されているので、Cpreは、以下の演算式にて求めることができる。
Cpre=(ケース1の入口濃度+ケース1の出口濃度)/2
【0043】
なお、透過対象の物質の分子量が小さい場合は、中空糸膜3を全て透過するため、濾過前後において濃度変化はなく、ふるい係数は1となり、透過対象の物質の分子量が大きい場合は、中空糸膜3を透過できないので、濾過後の濃度がゼロとなり、ふるい係数は0となる。また、その中間領域(ふるい係数が0と1の間の領域)においては、透過対象の物質の分子量(サイズ)が大きくなると透過性能が次第に低下するので、分画曲線も分子量が大きくなるほど下降したグラフとなる。
【0044】
第1の実施形態における血液浄化器1は、
図4に示すように、互いに異なる透過性能であって同一傾向の分画曲線A、Bとされた複数種類(本実施形態においては2つの種類)の中空糸膜(分画曲線Aの透過性能を有する第1種類の中空糸膜及び分画曲線Bの透過性能を有する第2種類の中空糸膜)が所定の混合比率でケース2に収容されており、ケース2内の全体の中空糸膜が分画曲線Cの透過性能となるよう調整されている。
【0045】
分画曲線が同一傾向とは、同図に示すように、分画曲線Aを右側にシフトさせることにより分画曲線Bと重なる関係、若しくは分画曲線Bを左側にシフトさせることにより分画曲線Aと重なる関係のものを指し、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状(グラフの傾向)が同一(又は類似)とされたものをいう。例えば、中空糸膜3の製造ロット毎の透過性能の変動は、分画曲線が同一傾向(分画曲線が左右にシフト)になることが多い。
【0046】
さらに、本実施形態に係る血液浄化器1においては、透過対象の物質が血液中に含まれるアルブミン(分子量66kDaのタンパク質)から成り、当該アルブミンの透過性能を調整可能とされている。すなわち、血液透析治療においては、アルブミンをほどよく透過(1治療当り数グラム程度の透過)させる必要があるが、製造ロット毎に透過性能が変動する中空糸膜3を用いる場合、ふるい係数を一定に保持することが困難となってしまう。
【0047】
なお、血液透析治療においては、多量のアルブミンが中空糸膜3を透過して失われると、低アルブミン血症になる虞があるため、過度な量の透過を抑制する必要がある一方、高分子量領域における体内に蓄積されたタンパク質(例えば分子量18000のβ2-マイクログロブリン等)を透過して除去する必要がある。例えば、血液中に含まれる代表的な物質について、
図6に示すようなものがある。
【0048】
そこで、本実施形態においては、製造ロット毎の中空糸膜3におけるアルブミンのふるい係数を測定し、それぞれの分画曲線を把握することにより透過性能を予め特定するとともに、その特定された透過性能毎に選別されてケース1内に所定の混合比率で収容することにより、目標とするアルブミンのふるい係数が得られるように全体の透過特性(分画曲線)が調整されるよう構成されている。
【0049】
例えば
図4に示すように、アルブミンのふるい係数の目標を0.1とした場合(同図中符号P参照)、分画曲線Aの第1種類の中空糸膜3と、分画曲線Bの第2種類の中空糸膜3とを所定の混合比率(同図においては、第1種類の中空糸膜3が55%、第2種類の中空糸膜3が45%の混合比率)でケース2内に収容させることにより、ケース2内における全体の中空糸膜3を分画曲線Cに調整することができる。これにより、所定の分子量の物質(本実施形態においてはアルブミン)に対するふるい係数を一定の値で管理することができ、安定した透過性能の血液浄化器1(血液浄化器)を得ることができる。
【0050】
第2の実施形態における血液浄化器1は、
図5に示すように、互いに異なる透過性能であって異なる傾向の分画曲線A、Bとされた複数種類(本実施形態においては2つの種類)の中空糸膜(分画曲線Aの透過性能を有する第1種類の中空糸膜及び分画曲線Bの透過性能を有する第2種類の中空糸膜)が所定の混合比率でケース2に収容されており、ケース2内の全体の中空糸膜が分画曲線Cの透過性能となるよう調整されている。
【0051】
分画曲線が異なる傾向とは、同図に示すように、分画曲線Aを右側にシフトさせても分画曲線Bと重ならない関係、若しくは分画曲線Bを左側にシフトさせても分画曲線Aと重ならない関係のものを指し、ふるい係数が0と1の間の中間領域における曲線の形状(グラフの傾向)が異なるものをいう。この場合、分画曲線Aの中空糸膜3と分画曲線Bの中空糸膜3とを予め製造しておくこととなる。
【0052】
例えば
図5に示すように、アルブミンのふるい係数の目標を0.1とした場合(同図中符号P参照)、分画曲線Aの第1種類の中空糸膜3と、分画曲線Bの第2種類の中空糸膜3とを所定の混合比率でケース2内に収容させることにより、ケース2内における全体の中空糸膜3を分画曲線Cに調整することができる。また、アルブミンよりも分子量の大きな物質(分子量70kDa~80kDa)のふるい係数を約0.1で維持することができる。
【0053】
紡糸条件の調整で分画曲線を右側にシフトさせる手法で、アルブミンより大きな分子量の物質の透過性を高める場合、アルブミンのふるい係数がある程度高くなることを許容しなければならない。しかし、アルブミンの透過性が高まると、透析療法におけるアルブミンの損失が多くなりすぎ、患者に悪影響を与える可能性がある。そのため、従来法では、アルブミン以上の分子量の物質を除去できる血液浄化器は製造することができなかった。
【0054】
図5に示す手法では、アルブミンの透過性を抑えながら、アルブミン以上の分子量の物質をある程度透過させる血液浄化器を製造することができる。分画曲線Cの中間領域のフラットな部分は、混合する中空糸膜の分画曲線の調整と、混合比率により、自由に設計できる。この手法で製造された血液浄化器で、臨床経験を積み重ねることで、従来型の血液浄化器では到達できなかった治療効果を期待することができる。すなわち、互いの分画曲線A、Bが大きく異なり、一方がふるい係数1、他方がふるい係数0となる分子量領域がある組み合わせによれば、製造条件の工夫ではなし得なかった階段状の分画曲線を有する血液浄化器を得ることができる。
なお、分画曲線Aの第1種類の中空糸膜3及び分画曲線Bの第2種類の中空糸膜3を所定の混合比率で混合したときの分画特性Cは、理論的に算出することができる。
【0055】
これにより、所定の分子量の物質(本実施形態においてはアルブミン)に対するふるい係数を一定の値で管理することができ、安定した透過性能の血液浄化器1(血液浄化器)を得ることができるとともに、複数の分画特性を有する中空糸膜を任意の混合比率で混合させることにより、分画曲線を任意に設定することができる。例えば、分画特性Bの中空糸膜として血漿分離膜を用いると、血漿成分中のアルブミン以上の分子量を持つタンパク質を分離することができる。血漿分離膜は、血球成分と血漿成分を分離することができるからである。
【0056】
上記した第1の実施形態及び第2の実施形態によれば、互いに異なる透過性能を有する中空糸膜が所定の混合比率でケースに収容され、透過対象の物質の透過性能が混合比率により任意に調整されたので、所望の物質を透過する透過性能を容易且つ安定して一定に保持することができる。特に、中空糸膜3は、透過対象の物質の分子量とふるい係数との関係を示す分画曲線により透過性能が予め特定されるとともに、当該特定された透過性能毎に選別されてケース2内に所定の混合比率で収容されたので、分画曲線に基づいて透過性能を簡易且つ容易に選別することができ、ケース2内に所定比率で混合させることができる。
【0057】
また、第1の実施形態に係るケース2は、互いに異なる透過性能であって同一傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜3が所定の混合比率で収容されたので、同一傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜3の混合比率を設定することにより、透過対象の物質の透過性能を容易に調整することができる。さらに、第2の実施形態に係るケース2は、互いに異なる透過性能であって異なる傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜3が所定の混合比率で収容されたので、異なる傾向の分画曲線とされた複数種類の中空糸膜3の混合比率を設定することにより、透過対象の物質の透過性能を容易に調整することができる。また、従来は製造できなかった、アルブミンの透過性を抑制させたまま、アルブミン以上の分子量の物質をある程度透過させる血液浄化器の製造が可能となった。
【0058】
またさらに、中空糸膜3内を患者の血液が流通可能とされるとともに、ケース2内を透析液が流通可能とされた血液浄化器1から成るので、血液浄化器1の透過性能を容易且つ安定して一定に保持することができる。また、透過対象の物質が血液中に含まれるアルブミンから成り、当該アルブミンの透過性能を調整可能とされたので、血液透析治療を良好に行わせることができる。
【0059】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば分画曲線とは異なる指標であって物質の透過性能を示す指標を任意に調整し得るものとしてもよく、適用される血液浄化器1は、ケース1内に予め液体が充填されたもの(ウェット型血液浄化器)或いは液体が充填されないもの(ドライ型血液浄化器)の何れであってもよい。また、本実施形態においては、2つの異なる透過特性を有する中空糸膜が所定の混合比率でケースに収容されているが、3つ以上の互いに異なる透過特性を有する中空糸膜が所定の混合比率でケースに収容されたものであってもよい。なお、本実施形態においては、血液浄化器1に適用されているが、血液浄化器1とは異なる形態の血液浄化器に適用してもよい。
【0060】
しかるに、アルブミンの透過性をある一定値に抑制したまま、アルブミン以上の分子量の物質をある程度透過させる血液浄化器では、
図5の中空糸膜Aと中空糸膜Bについて、中空糸膜Aの本数の方が中空糸膜Bの本数より多く混合することになる。血液浄化器の特性を支配するのは、本数の少ない中空糸膜Bである。一般に、このような中空糸膜の束を製造する場合、中空糸膜Aの束と中空糸膜Bの束とを合体させることが多い。血液浄化器で体外循環すると、血液浄化器のヘッダ内(ウレタン切断面)で血液が凝固することがある。その場合、凝固した部分の中空糸膜には血液が流れなくなってしまう。中空糸膜Aと中空糸膜Bを合体させた中空糸膜束で、前記のような血液凝固が発生し、かつ、この凝固物が、中空糸膜Bのみを覆ってしまうと、本血液浄化器の特性が失われてしまう。よって、異なる中空糸膜を合体させるときは、お互いの中空糸膜が均等に分散されるようにしたほうがよい。比率の小さな中空糸膜を局所的に配置すると、血液浄化器の中の血液凝固により、血液浄化器の性能が大きく変化する可能性がある。また、血液凝固が発生するのは、中空糸膜束の外側の方が多いので、比率の多い中空糸膜は外側に、比率の少ない中空糸膜は内側に配置されたほうがよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
互いに異なる透過性能を有する中空糸膜が所定の混合比率で前記ケースに収容され、透過対象の物質の透過性能が混合比率により任意に調整された血液浄化器及びその製造方法であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 血液浄化器(ダイアライザ)
2 ケース
2a 血液導入ポート
2b 血液導出ポート
2c 透析液導入ポート
2d 透析液導出ポート
3 中空糸膜
3a ポア
3b 内側流路
4 動脈側血液回路
5 静脈側血液回路
6 血液ポンプ
7 エアトラップチャンバ
A 第1種類の中空糸膜の分画曲線
B 第2種類の中空糸膜の分画曲線
C 調整後の中空糸膜の分画曲線
H 蓋部材
F 封止材
L1 透析液導入ライン
L2 透析液排出ライン
a 動脈側穿刺針
b 静脈側穿刺針