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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/62 20200101AFI20250618BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20250618BHJP
   A61K 6/30 20200101ALI20250618BHJP
   A61K 6/884 20200101ALI20250618BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20250618BHJP
【FI】
A61K6/62
A61K6/60
A61K6/30
A61K6/884
A61K6/887
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021166533
(22)【出願日】2021-10-08
(65)【公開番号】P2023056981
(43)【公開日】2023-04-20
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良一
(72)【発明者】
【氏名】武井 満
(72)【発明者】
【氏名】川名 麻梨子
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-510187(JP,A)
【文献】米国特許第03534122(US,A)
【文献】Polym Int,2017年,Vol.66,p.504-511
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体(A)、光重合開始剤(B)、及びリン原子を含む配位子(C)を含み、
前記リン原子を含む配位子(C)が、リン原子を少なくとも1個有し、リン31核磁気共鳴分光法により得られるスペクトルにおいて、-45.0ppm~-6.0ppmの範囲に化学シフトを有する化合物であり、
前記重合性単量体(A)が、ラジカル重合性単量体であり、
前記リン原子を含む配位子(C)が、下記一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、及び一般式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、歯科用硬化性組成物。
【化1】
(R 1 ~R 15 は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
【化2】
(R 16 ~R 35 はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、X 1 は置換基を有していてもよい二価の脂肪族基を表す。)
【化3】
(Arはそれぞれ独立して、下記一般式(3-a)で表される基を表す。)
【化4】
(Z 1 ~Z 3 はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Z 1 ~Z 3 の少なくとも1つが水素原子である。)
【請求項2】
前記リン原子を含む配位子(C)において、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、及び一般式(3)で表される化合物の各化合物において、一般式(1)のR1~R15の少なくとも1つ、一般式(2)のR16~R35の少なくとも1つ、及び一般式(3)のZ1~Z3の少なくとも1つが電子吸引性基(d)である、請求項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
前記電子吸引性基(d)が、ハロゲン原子、ハロアルキル基、置換又は無置換のアシル基、置換又は無置換のエステル基、置換又は無置換のアミド基、置換又は無置換のスルホニル基、並びにシアノ基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項4】
前記リン原子を含む配位子(C)の含有量が、重合性単量体(A)の全量100質量部に対して、0.05~5質量部の範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項5】
前記光重合開始剤(B)が、1,2-ジケトン、1,3-ジケトン、及びホスフィンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物からなる、歯科用コンポジットレジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得る歯科材料、特に歯科用充填修復材料として好適に使用できる歯科用硬化性組成物に関する。より詳しくは、臼歯部等に形成される深い窩洞を修復するための歯科用充填修復材料として好適に使用される歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕や破折等により損傷を受けた歯牙の欠損部位の修復治療のために、歯科用接着材料及び歯科用充填修復材料が広く使用されている。歯牙の修復に使用する歯科用接着材料、歯科用充填修復材料としては、ラジカル重合性単量体、重合開始剤、フィラー等からなるレジン系の歯科用硬化性組成物が汎用されている。
【0003】
レジン系の歯科用硬化性組成物のうち、歯科用充填修復材料は歯科用コンポジットレジンと呼ばれ、歯の欠損部や虫歯を修復するための材料として今日最も多用される歯科材料となっている。このような歯科用コンポジットレジンとしては、重合性単量体に、多量の無機充填材と光重合開始剤とを配合した歯科用光硬化性組成物が使用されている。例えば、修復すべき歯牙の窩洞に歯科用接着材を施した後、歯科用コンポジットレジンを充填して歯牙の形に成形した後に、専用の光照射器を用いて光を照射して重合硬化し、形成された重合硬化体によって歯が修復される。なお、上記光硬化は人体への安全性の面から可視光が使用され、そのため、光重合開始剤は通常、可視光硬化型重合開始剤が使用される。
【0004】
歯科用コンポジットレジンを用いて3~6mmの深さを有するような大きな窩洞の修復に際しては、通常、歯科用コンポジットレジンを1~2mm程度の厚さで窩洞内に充填し、光照射による重合硬化を行う操作を繰り返し行う手法(積層充填法)が採用されている。積層充填法においては、歯科用コンポジットレジン層の厚さが薄いため、各層を十分に光硬化させることができる一方で、操作ステップが多いことから、操作の簡便化が求められていた。一方で、大きな窩洞内に歯科用コンポジットレジンを一度に充填して光照射により重合する方法(一括充填法)では、歯科用コンポジットレジン層が厚くなるため、光源から離れた窩洞底部にある歯科用コンポジットレジンを十分に重合硬化できないことから、接着界面で剥離を生じ易く、予後不良等の不具合を生じることがあった。したがって、光硬化深度の大きい歯科用コンポジットレジンが必要とされていた。
【0005】
光硬化深度を高めるためには歯科用コンポジットレジン全体の重合率を高め、光源から離れた部位における硬化性を向上させることが必要である。しかしながら、歯科用コンポジットレジンの硬化様式として主に用いられているラジカル重合は、酸素の存在によって阻害されることが知られている。酸素による阻害は、ペルオキシラジカルを生成する増殖ラジカルと酸素分子との急速な反応によるものであり、炭素-炭素不飽和二重結合に向かう反応性とは異なるため、光重合反応を開始することもなく、関与することもない。また、酸素による阻害は、早すぎる連鎖停止による不完全な光硬化をもたらし、光硬化深度が減少する場合がある。
【0006】
歯科用コンポジットレジンのこのような酸素による重合阻害を改善する試みとして、トリフェニルホスフィンがペルオキシラジカルと反応しトリフェニルホスフィンオキシドになることで、高活性なラジカルが再生し酸素による重合阻害を抑制することが非特許文献1に開示されている。また、単官能及び多官能(メタ)アクリレートモノマーを含有するフリーラジカル重合性組成物において、第三級ホスフィン化合物が重合促進剤として機能することが、特許文献1に開示されている。さらに、歯科用硬化性組成物に芳香族第三級ホスフィン化合物を使用することで、重合効率又は硬化速度が向上し、貯蔵安定性が良好になることが特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】「ジャーナル オブ ポリマー サイエンス:パートA:ポリマー ケミストリー(Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry)」2010年、第48巻、p.2462~2469
【文献】米国特許第3,534,122号明細書
【文献】国際公開第2016/156363号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献1に開示されている重合性組成物について、長期保存安定性については何ら示唆されていない。本発明者らが当該重合性組成物の保存安定性を評価したところ、長期間の保管を想定した条件下において光硬化深度が低下することがわかった。他方、特許文献2に開示されている光重合開始剤系を含む組成物は確かに従来技術と比較して硬化性に優れており、室温下2か月までの保存安定性は良好であった。しかしながら、さらに長期間の保管を想定した過酷な条件下で保管された後には、当該光重合開始剤系を含む組成物の光硬化深度が低下することがわかった。特許文献2には、過酷な条件下で長期間の保管された場合の光硬化深度については示唆されていない。
【0009】
そこで本発明は、製造直後から長期保管後に亘って優れた光硬化深度を示す歯科用硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、リン31核磁気共鳴分光法(以下、「31P-NMR」と略称することがある)によるケミカルシフトが特定の範囲内にあるリン原子を有する特定のトリアリールホスフィン化合物を含有する歯科用硬化性組成物が前記目的を達成可能なことを見出し、当該知見に基づきさらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]重合性単量体(A)、光重合開始剤(B)、及びリン原子を含む配位子(C)を含み、
前記リン原子を含む配位子(C)が、リン原子を少なくとも1個有し、リン31核磁気共鳴分光法により得られるスペクトルにおいて、-45.0ppm~-6.0ppmの範囲に化学シフトを有する化合物である、歯科用硬化性組成物。
[2]前記リン原子を含む配位子(C)が、芳香環を3個以上有する化合物である、[1]に記載の歯科用硬化性組成物。
[3]前記リン原子を含む配位子(C)が、下記一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、及び一般式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、[1]に記載の歯科用硬化性組成物。
【化1】
(R1~R15は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
【化2】
(R16~R35はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、X1は置換基を有していてもよい二価の脂肪族基を表す。)
【化3】
(Arはそれぞれ独立して、下記一般式(3-a)で表される基を表す。)
【化4】
(Z1~Z3はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Z1~Z3の少なくとも1つが水素原子である。)
[4]前記リン原子を含む配位子(C)において、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、及び一般式(3)で表される化合物の各化合物において、一般式(1)のR1~R15の少なくとも1つ、一般式(2)のR16~R35の少なくとも1つ、及び一般式(3)のZ1~Z3の少なくとも1つが電子吸引性基(d)である、[3]に記載の歯科用硬化性組成物。
[5]前記電子吸引性基(d)が、ハロゲン原子、ハロアルキル基、置換又は無置換のアシル基、置換又は無置換のエステル基、置換又は無置換のアミド基、置換又は無置換のスルホニル基、並びにシアノ基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、[4]に記載の歯科用硬化性組成物。
[6]前記リン原子を含む配位子(C)の含有量が、重合性単量体(A)の全量100質量部に対して、0.05~5質量部の範囲である、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[7]前記光重合開始剤(B)が、1,2-ジケトン、1,3-ジケトン、及びホスフィンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1つである、[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物からなる、歯科用コンポジットレジン。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造直後から長期保管後に亘って優れた光硬化深度を示す歯科用硬化性組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について、以下に例を挙げて説明する。なお、以下の説明において、物質、条件、方法、数値範囲等を例示する場合があるが、本発明はそのような例示に限定されない。
【0014】
[重合性単量体(A)]
本発明で用いられる重合性単量体(A)は、公知の重合性単量体がなんら制限なく用いられる。重合性単量体(A)は、1種単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0015】
上記重合性単量体(A)の中でも、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。重合性単量体(A)におけるラジカル重合性単量体の具体例としては、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ-N-ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。なお、本発明において(メタ)アクリルとの表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。
【0016】
また、重合性単量体(A)は酸性基を有していてもよい。重合性単量体(A)が酸性基を有することで、本発明の歯科用硬化性組成物が歯質等に対して良好な接着性を発現する。酸性基を有する重合性単量体(A)は、リン酸基、ホスホン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基等の重合性基を少なくとも1個有する。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルアミド誘導体の重合性単量体の例を以下に示す。
【0018】
(I)一官能性(メタ)アクリレート及び一官能性(メタ)アクリルアミド誘導体
メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、3-(o-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(m-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(p-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、4-(o-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(m-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(p-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、5-(o-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(m-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(p-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、6-(o-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(m-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(p-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
(II)二官能性(メタ)アクリレート
2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(以下、「Bis-GMA」と略称することがある)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)エタン、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシブチルアクリルアミド、N-(1-エチル-(2-メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド、N-(2-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0020】
(III)三官能性以上の(メタ)アクリレート
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ) アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタン等が挙げられる。
【0021】
(IV)酸性基含有(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミド誘導体
リン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート等のリン酸基を有する単官能性(メタ)アクリレート化合物、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩;ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート等のリン酸基を有する二官能性(メタ)アクリレート化合物、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0022】
ホスホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホノアセテート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0023】
ピロリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0024】
チオリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0025】
カルボン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、4-[2-〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エトキシカルボニル]フタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物;5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ヘキサンジカルボン酸、8-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-オクタンジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-デカンジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0026】
スルホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0027】
本発明で用いられる重合性単量体(A)としては、上記記載の重合性単量体の中でも、重合後の屈折率及びペーストの取扱い性の観点より、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)] ジメタクリレート、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレートが好ましく用いられる。
【0028】
[光重合開始剤(B)]
本発明の光重合開始剤(B)は、公知の重合開始剤がなんら制限なく用いられる。通常、重合性単量体の重合性と重合条件を考慮して選択する。
【0029】
光重合開始剤(B)としては、1,2-ジケトン/還元剤、1,3-ジケトン/還元剤、ケタール/還元剤、チオキサントン/還元剤等の酸化-還元系開始剤、アシルホスフィンオキシド系、ビスアシルホスフィンオキシド系開始剤、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
【0030】
1,2-ジケトンの例としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3-ペンタンジオン等が挙げられる。1,3-ジケトンの例としては、ジベンゾイルメタン、ベンゾイルアセトン、アセチルプロピオニルメタン等が挙げられる。ケタールの例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。チオキサントンの例としては、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等が挙げられる。
【0031】
還元剤の例としては、4,4’‐ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン等;2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N-ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕-N-メチルアミン、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4-ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル、N-メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノベンゾフェノン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、ジメチルアミノフェナントール等の第三級アミン;シトロネラール、ラウリルアルデヒド、フタルジアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド類;2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、4-メルカプトアセトフェノン、チオサリチル酸、チオ安息香酸等のチオール基を有する化合物等が挙げられる。これらの酸化-還元系に有機過酸化物を添加した1,2-ジケトン/有機過酸化物/還元剤、1,3-ジケトン/有機過酸化物/還元剤の系も好適に用いられる。
【0032】
アシルホスフィンオキシド系としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシドが挙げられる。前記ビスアシルホスフィンオキシド系としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。さらに、これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド系は、水溶性の置換基を含有しても構わない。これら(ビス)アシルホスフィンオキシド系の光重合開始剤は、単独もしくは各種アミン類、アルデヒド類又はメルカプタン類、スルフィン酸塩等の還元剤と併用することもできる。
【0033】
光重合開始剤(B)の中でも、入手性に優れる観点から、光重合開始剤(B)が1,2-ジケトン、1,3-ジケトン、及びホスフィンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0034】
上記光重合開始剤(B)は1種を単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができ、光重合開始剤(B)の含有量は、重合性単量体(A)の全量100質量部に対して、0.05~10質量部が好ましく、0.1~5.0質量部がより好ましく、0.2~2.5質量部が特に好ましい。
【0035】
[リン原子を含む配位子(C)]
本発明のリン原子を含む配位子(C)は、リン原子を少なくとも1個有し、リン31核磁気共鳴分光法により得られるスペクトルにおいて、-45.0ppm~-6.0ppmの範囲に化学シフトを有する化合物である。リン原子の数は、1個以上であればよく、1個又は2個が好ましい。
【0036】
本発明のリン原子を含む配位子(C)中のホスフィン部位の電子密度が低いために、ホスフィン部位の酸化が抑制されることから、保管中におけるリン原子を含む配位子(C)の酸化が抑制されると考えられる。その結果、長期に亘る保管中において、歯科用硬化性組成物の保存安定性に優れる。すなわち、従来技術で生じていた長期保管後における光硬化深度の低下を抑制することが可能となる。一方で、ホスフィン部位の電子密度が過剰に減少するとペルオキシラジカルとの反応性が低下することから、酸素阻害の抑制能が低下し光硬化深度が小さくなる。このように、歯科用硬化性組成物の保存安定性は、リン原子を含む配位子(C)のホスフィン部位の電子密度に大きく影響されると考えられる。前記ホスフィン部位の電子密度は、31P-NMRによって推定することができる。歯科用硬化性組成物の保存安定性と硬化性とがともに良好である観点から、リン原子を含む配位子(C)は、31P-NMRの化学シフトが、-45.0ppm~-6.0ppmであり、-40.0ppm~-9.0ppmであることが好ましく、-35.0ppm~-12.0ppmであることがより好ましく、-30.0ppm~-15.0ppmであることがさらに好ましく、-27.5ppm~-20.0ppmであることが最も好ましい。31P-NMRの測定には、公知の測定装置及び測定方法を使用できる。31P-NMRの化学シフトは、例えば、後記する実施例に記載の測定方法で測定できる。
【0037】
ある好適な実施形態としては、リン原子を含む配位子(C)は、リン原子を少なくとも1個有し、前記化学シフトを有し、さらに芳香環を3個以上有する化合物である、歯科用硬化性組成物が挙げられる。前記実施形態において、芳香環の数は、3~8個が好ましく、3~4個がより好ましく、3個がさらに好ましい。
【0038】
他のある好適な実施形態としては、リン原子を含む配位子(C)が、下記一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、及び一般式(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、歯科用硬化性組成物が挙げられる。
【0039】
【化5】
(R1~R15は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。)
【化6】
(R16~R35はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、X1は置換基を有していてもよい二価の脂肪族基を表す。)
【化7】
(Arはそれぞれ独立して、下記一般式(3-a)で表される基を表す。)
【化8】
(Z1~Z3はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Z1~Z3の少なくとも1つが水素原子である。)
【0040】
1~R15の置換基を有していてもよい炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基、アルケニルアリール基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。
【0041】
また、一般式(1)において、R1~R15がすべて水素原子である化合物(トリフェニルホスフィン)、及びR1~R15がすべてハロゲン原子である化合物(トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン)を除く。
【0042】
1~R15の置換基を有していてもよいアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。R1~R15のアルキル基の炭素数は、特に限定されず、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。R1~R15のアルキル基としては、例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基が挙げられる。R1~R15のアルキル基は無置換であってもよい。
【0043】
1~R15の炭化水素基の置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基、いずれも炭素数1~6のアルキル基を有するジアルキルアミノ基、アミノ基、メルカプト基等が挙げられる。R1~R15が置換基を有するアルキル基である場合、具体的には、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基が挙げられる。
【0044】
1~R15の炭化水素基は、-O-、-S-、-NH-等が炭素間に挿入されていてもよい。例えば、R1~R15の炭化水素基は、アルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基等であってもよい。窒素原子、-P(=O)-等が挿入されてこれを分岐点として分岐していてもよく、複素環の形態で酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びリン原子を含んでいてもよい。
【0045】
1~R15の置換基を有していてもよい炭化水素基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びリン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を含んでいてもよい。炭化水素基は、脂肪族基であっても芳香族基であってもよい。また、炭化水素基は、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基であってよく、飽和炭化水素基が好ましい。また、炭化水素基は、分岐構造を有していてもよく、環構造を有していてもよい。
【0046】
1~R15のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0047】
1~R15の極性基としては、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、アルデヒド基、エポキシ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキル置換アミノ基、ジアルキル置換アミノ基、イミド基、オキサゾリン基、ニトロ基、カルバモイル基、アシル基などが挙げられ、硬化性、硬化物の機械的強度の点から、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、アルデヒド基、シアノ基、ニトロ基、カルバモイル基、アシル基が好ましく、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸塩基、アルデヒド基、シアノ基、ニトロ基、カルバモイル基、アシル基がより好ましく、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸塩基、シアノ基、ニトロ基、カルバモイル基、アシル基がさらに好ましい。カルボン酸塩基及びスルホン酸塩基の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等のアルカリ土類金属塩などが挙げられる。R1~R15の極性基である場合、極性基の数は1~9が好ましく、1~5がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0048】
1~R15は、同一であってもよく、異なっていてもよい。R1~R15は、例えば、一部が同じ水素原子、アルキル基又はアルコキシ基であってもよい。
【0049】
ある好適な実施形態においては、R1~R15の少なくとも1つが、後記する電子吸引性基(d)であることが好ましい。R1~R15における電子吸引性基(d)の合計数は1つ以上であれば特に限定されず、2個以上であってもよいが、9個以下であることが好ましく、8個以下であることがより好ましく、7個以下がさらに好ましい。
【0050】
16~R35の置換基を有していてもよい炭化水素基は、R1~R15の置換基を有していてもよい炭化水素基と同様である。
【0051】
また、ある好適な実施形態においては、一般式(2)において、R16~R35がすべて水素原子である化合物、及びR16~R35がすべてハロゲン原子である化合物を除く。
【0052】
1の置換基を有していてもよい二価の脂肪族基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。二価の脂肪族基の炭素数としては、1~20が好ましく、1~16がより好ましく、1~12がさらに好ましく、1~8が特に好ましい。二価の脂肪族基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられ、アルキレン基が好ましい。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチルプロピレン基、ジメチルプロピレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基などが挙げられる。X1の二価の脂肪族基の置換基としては、R1~R15のアルキル基の置換基と同様のものが挙げられる。
【0053】
1~Z3の置換基を有していてもよい炭化水素基は、R1~R15の置換基を有していてもよい炭化水素基と同様である。
【0054】
ある好適な実施形態では、リン原子を含む配位子(C)は、一般式(1)で表される化合物である、歯科用硬化性組成物が挙げられる。また、他の好適な実施形態では、リン原子を含む配位子(C)は、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、及び一般式(3)で表される化合物の各化合物において、一般式(1)のR1~R15の少なくとも1つ、一般式(2)のR16~R35の少なくとも1つ、及び一般式(3)のZ1~Z3の少なくとも1つが電子吸引性基(d)であることが好ましい。電子吸引性基(d)は、有機電子論において、誘起効果や共鳴効果により、置換した原子団から、電子を引き付ける原子団である。電子吸引性基(d)としては、ハメット則の置換基定数(σp(パラ))として、正の値をとるものが挙げられる。ハメット則の置換基定数(σp(パラ))は、化学便覧基礎編改訂5版(II-380頁)から引用することができる。
【0055】
電子吸引性基(d)の例として、例えば、-F(σp:+0.20)、-Cl(σp:+0.28)、-Br(σp:+0.30)、-I(σp:+0.30)、-CO2x(σp:Rxがエチル基の時+0.45)、-CONH2(σp:+0.38)、-CORx(σp:Rxがメチル基の時+0.49)、-CF3(σp:+0.50)、-SO2x(σp:Rxがメチル基の時+0.69)、-NO2(σp:+0.81)、-CN(σp:+0.67)等が挙げられる。Rxは、それぞれ独立に、水素原子、置換又は無置換の環形成炭素数6~30の芳香族炭化水素基、置換又は無置換の環形成原子数5~30の複素環基、置換又は無置換の炭素数1~30のアルキル基、置換又は無置換の炭素数1~30のシクロアルキル基を表す。
【0056】
電子吸引性基(d)としては、ハロゲン原子、ハロアルキル基、置換又は無置換のアシル基、置換又は無置換のエステル基、置換又は無置換のアミド基、置換又は無置換のスルホニル基又はシアノ基が化学的に安定である点から好ましく、ハロゲン原子、又はハロアルキル基がより好ましい。
【0057】
ハロアルキル基としては、例えば、クロロメチル基、フルオロメチル基、ヨウ化メチル基、トリフルオロメチル基、クロロエチル基、フルオロエチル基、ヨウ化エチル基、クロロプロピル基等が挙げられる。アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、2-メチルプロピオニル基、2,2-ジメチルプロピオニル基、2-エチルヘキサイル基等が挙げられる。
【0058】
上記一般式(1)で表される単座ホスフィンとしては、(2-フルオロフェニル)ジフェニルホスフィン、(2-クロロフェニル)ジフェニルホスフィン、(2-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィン、(3-フルオロフェニル)ジフェニルホスフィン、(3-クロロフェニル)ジフェニルホスフィン、(3-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィン、(4-フルオロフェニル)ジフェニルホスフィン、(4-クロロフェニル)ジフェニルホスフィン、(4-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィン、(2,4,6-トリフルオロフェニル)ジフェニルホスフィン、(2,4,6-トリクロロフェニル)ジフェニルホスフィン、(2,4,6-トリブロモフェニル)ジフェニルホスフィン、(ペンタフルオロフェニル)ジフェニルホスフィン、(ペンタクロロフェニル)ジフェニルホスフィン、(ペンタブロモフェニル)ジフェニルホスフィン、ビス(2-フルオロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(2-クロロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(2-ブロモフェニル)フェニルホスフィン、ビス(3-フルオロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(3-クロロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(3-ブロモフェニル)フェニルホスフィン、ビス(4-フルオロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(4-クロロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(4-ブロモフェニル)フェニルホスフィン、ビス(2,4,6-トリフルオロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(2,4,6-トリブロモフェニル)フェニルホスフィン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(ペンタクロロフェニル)フェニルホスフィン、ビス(ペンタブロモフェニル)フェニルホスフィン、トリス(2-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(2-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(2-ブロモフェニル)ホスフィン、トリス(3-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(3-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(3-ブロモフェニル)ホスフィン、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(4-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(4-ブロモフェニル)ホスフィン、トリス(4-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-トリクロロメチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-トリブロモメチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6-トリフルオロフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6-トリクロロフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6-トリブロモフェニル)ホスフィン、2-(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンスルホン酸、3-(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンスルホン酸、4-(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンスルホン酸、2-(ジフェニルホスフィノ)ベンゾニトリル、3-(ジフェニルホスフィノ)ベンゾニトリル、4-(ジフェニルホスフィノ)ベンゾニトリル、等のホスフィン化合物が挙げられる。
【0059】
上記一般式(2)で表される2座ホスフィン配位子としては、1,2-ビス[ビス(2-フルオロフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(2-クロロフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(2-ブロモフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(3-フルオロフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(3-クロロフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(3-ブロモフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(4-フルオロフェニル)-ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(4-クロロフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(4-ブロモフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(2-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(2-トリクロロメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(2-トリブロモメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(3-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(3-トリクロロメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(3-トリブロモメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(4-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(4-トリクロロメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(4-トリブロモメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(2,4,6-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(2,4,6-トリクロロメチルフェニル)ホスフィノ]エタン、1,2-ビス[ビス(2,4,6-トリブロモメチルフェニル)ホスフィノ]エタン等のホスフィン化合物が挙げられる。
【0060】
上記一般式(3)で表される2座ホスフィン配位子としては、(±)-2,2’-ビス(ジ-4-フルオロホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、(±)-2,2’-ビス(ジ-4-クロロホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、(±)-2,2’-ビス(ジ-4-ブロモホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、(±)-2,2’-ビス(ジ-4-トリフルオロメチルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、(±)-2,2’-ビス(ジ-4-トリクロロメチルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、(±)-2,2’-ビス(ジ-4-トリブロモメチルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル等が挙げられる。
【0061】
上記リン原子を含む配位子(C)の中でも、歯科用硬化性組成物の保存安定性と硬化性とがともに良好である観点から、(ペンタフルオロフェニル)ジフェニルホスフィン、(ペンタクロロフェニル)ジフェニルホスフィン、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(4-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(4-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-トリクロロメチルフェニル)ホスフィンが好ましい。リン原子を含む配位子(C)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせてもよい。また、リン原子を含む配位子(C)は、本発明の歯科用硬化性組成物の光硬化性を高めるために用いられる。
【0062】
歯科用硬化性組成物において、リン原子を含む配位子(C)の含有量は、重合性単量体(A)の全量100質量部に対して、0.05~5質量部の範囲が好ましく、0.15~3質量部の範囲がより好ましく、0.25~1.5質量部の範囲がさらに好ましい。リン原子を含む配位子(C)の含有量が前記範囲より少ない場合、リン原子を含む配位子(C)の存在量が少ないために製造直後の時点での硬化性の改善効果が小さく、過酷条件下での保管後には硬化性改善効果が得られないおそれがある。一方、リン原子を含む配位子(C)の含有量が前記範囲より多い場合、リン原子を含む配位子(C)の存在量が多いために重合性単量体(A)の重合を阻害する効果が大きくなり硬化性が低下するおそれがある。
【0063】
本発明の歯科用硬化性組成物は、組成物の十分な操作性、さらに硬化物の十分なX線不透過性及び機械的強度などを得るため、フィラーを含んでもよい。
【0064】
フィラーとしては、本発明の効果を損なわない限り、あらゆるフィラーを用いることができ、無機系フィラー、有機系フィラー、及び無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーが挙げられる。フィラーは、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。フィラーの平均粒子径は0.001~10μmが好ましく、平均粒子径が0.001~5μmがより好ましい。
【0065】
無機系フィラーとしては、不定形無機粒子、無機超微粒子が挙げられる。不定形無機粒子としては、各種ガラス類〔シリカを主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する。例えば、Eガラス、バリウムガラス(ショット社製、商品名「GM27884」、「GM8235」、ESSTECH社製、商品名「E2000」、「E3000」)、ランタンガラスセラミックス(ショット社製、商品名「GM31684」)等の歯科用ガラス粉末〕、各種セラミック類、シリカ-チタニア及びシリカ-ジルコニア等の複合酸化物、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、マイカ、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム等が挙げられる。無機超微粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物粒子、又はこれらからなる複合酸化物粒子、燐酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フッ化イットリウム、フッ化イッテルビウム、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム等の粒子が挙げられる。好ましくは、火炎熱分解法で作製されるシリカ、アルミナ、チタニア、シリカ/アルミナ複合酸化物、シリカ/ジルコニア複合酸化物の粒子であり、例えば、日本アエロジル株式会社製、商品名「アエロジル(登録商標)50」、「アエロジル(登録商標)130」、「アエロジル(登録商標)380」、「アエロジル(登録商標)OX50」、「アエロキサイド(登録商標)AluC」、「アエロキサイド(登録商標)TiO2 P25」、「VP Zirconium Oxide 3-YSZ」、「VP Zirconium Oxide3-YSZPH」が挙げられる。なお、本発明において、無機系フィラーに後記するように表面処理をした場合は、無機系フィラーの平均粒子径は、表面処理前の平均粒子径を意味する。
【0066】
無機超微粒子は、無機超微粒子が凝集して形成された凝集粒子の形態でも好適に用いることができる。通常、市販の無機超微粒子は凝集体として存在しているが、水もしくは5質量%以下のヘキサメタ燐酸ナトリウム等の界面活性剤を添加した水(分散媒)300mLに無機超微粒子粉体10mgを添加し、30分間、出力40W、周波数39kHzの超音波強度で分散処理するとメーカー表示の粒子径まで分散される程度の弱い凝集力しか有しない。しかしながら、本発明における凝集粒子は、かかる条件でもほとんど分散されない粒子同士が強固に凝集したものである。
【0067】
市販の無機超微粒子から、強固に凝集した凝集粒子を作製する方法として、凝集力をさらに高めるために、その無機超微粒子が融解する直前の温度付近まで加熱して、接触した無機超微粒子同士がわずかに融着する程度に加熱する方法が好適に用いられる。またこの場合、凝集粒子の形状をコントロールするため、加熱前に凝集した形態を作っておいてもよい。その方法として例えば、無機超微粒子を適当な容器に入れての加圧や、一度溶剤に分散させた後、噴霧乾燥等の方法で溶剤を除去する方法が挙げられる。
【0068】
またさらに、無機超微粒子の凝集体の好適な別の作製方法として、湿式法で作製されたシリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等を用い、これを凍結乾燥や噴霧乾燥等の方法で乾燥し、必要に応じて加熱処理することで容易に、粒子同士が強固に凝集した凝集粒子を得ることができる。ゾルの具体例としては、株式会社日本触媒製、商品名「シーホスター」、日揮触媒化成株式会社製、商品名「OSCAL」、「QUEEN TITANIC」、日産化学株式会社製、商品名「スノーテックス」、「アルミナゾル」、「セルナックス」、「ナノユース」等が挙げられる。該無機超微粒子の形状は特に限定されず、適宜選択して使用することができる。また、市販されている無機超微粒子の凝集体をそのまま使用することもでき、その例として、日揮触媒化成株式会社製、商品名「シリカマイクロビードP-500」、「シリカマイクロビードP-1500」が挙げられる。
【0069】
有機系フィラーとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴムが挙げられる。
【0070】
無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーとしては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーを種々の重合体にてコーティングした無機/有機複合フィラーが挙げられる。
【0071】
硬化性、機械的強度、取り扱い性を向上させるために、フィラーはシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、例えば、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、2-メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、4-メタクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、5-メタクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、6-メタクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9-メタクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10-メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルジクロロメチルシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリクロロシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルジメトキシメチルシラン、12-メタクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13-メタクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。
【0072】
平均粒子径(平均一次粒子径)はレーザー回折散乱法又は粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、平均粒子径0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、平均粒子径0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。レーザー回折散乱法は、例えば、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いて分散媒に用いて体積基準でレーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300、株式会社島津製作所製)により測定できる。電子顕微鏡観察には、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU3800、S-4000等)を使用できる。電子顕微鏡観察は、粒子の電子顕微鏡写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0073】
フィラーの含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、本発明の歯科用硬化性組成物の重合性単量体(A)の全量100質量部に対して、50~1000質量部の範囲が好ましく、100~500質量部の範囲がより好ましく、100~300質量部の範囲がさらに好ましい。これらの範囲内であれば、硬化物の十分なX線不透過性、又は十分な機械的強度が得られるとともに、十分なペーストの操作性が得られる。
【0074】
本発明の歯科用硬化性組成物は、例えば、有機過酸化物/アミン系、有機過酸化物/アミン/スルフィン酸(又はその塩)系等のレドックス系の重合開始剤を含有していてもよい。レドックス系の重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された包装形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。酸化剤としては、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシエステル類、ペルオキシカーボネート類、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、ケトンペルオキシド類、ハイドロペルオキシド類等の有機過酸化物を挙げることができる。具体的には、ジアシルペルオキシド類としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、m-トルオイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等が挙げられる。ペルオキシエステル類としては、例えば、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ビス-t-ブチルペルオキシイソフタレート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。ペルオキシカーボネート類としては、例えば、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。ジアルキルペルオキシド類としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサンが挙げられる。ペルオキシケタール類としては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。ケトンペルオキシド類としては、例えば、メチルエチルケトンペルオキシドが挙げられる。ハイドロペルオキシド類としては、例えば、t-ブチルハイドロペルオキシドが挙げられる。還元剤としては、通常第三級アミンが用いられる。第三級アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-i-プロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-i-プロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-i-プロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸n-ブトキシエチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(2-メタクリロイルオキシ)エチル、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、(2-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート等が挙げられる。上記の他、クメンヒドロペルオキシド/チオ尿素系、アスコルビン酸/Cu2+塩系、有機スルフィン酸(又はその塩)/アミン/無機過酸化物系等の酸化-還元系開始剤の他、トリブチルボラン、有機スルフィン酸等も好適に用いられる。
【0075】
本発明の歯科用硬化性組成物には、前記した成分以外にも、重合禁止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、顔料等の添加剤を配合してもよい。
【0076】
重合禁止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、ハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4-メトキシフェノール等が挙げられ、これらを1種又は2種以上配合してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられ、これらを1種又は2種以上配合してもよい。蛍光剤としては、例えば、2-(2-ヒドロキシフェニル)-4(1H)-キナゾリノン、2-(2-ヒドロキシフェニル)-4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、N-[2-(4(1H)-キナゾリノン-2-イル)フェニル]ベンゼンスルホンアミド、N-[2-(4-オキソ-1,3-ベンゾオキサジン-2-イル)フェニル]ベンゼンスルホンアミド、7-ジメチルアミノ-3-[2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]エテニル]-2H-1,4-ベンゾオキサジン-2-オン、7-ジメチルアミノ-3-[2-[2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル]エテニル]-2H-1,4-ベンゾオキサジン-2-オン、7-ジメチルアミノ-3-[2-[2,4-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エテニル]-2H-1,4-ベンゾオキサジン-2-オン等が挙げられ、これらを1種又は2種以上配合してもよい。顔料としては、無機顔料及び/又は有機顔料のいずれでもよく、無機顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、バリウム黄等のクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;銀朱、カドミウム黄、硫化亜鉛、カドミウムレッド等の硫化物;硫酸バリウム、硫酸亜鉛、硫酸ストロンチウム等の硫酸塩;アンチモン白、亜鉛華、チタン白、ベンガラ、鉄黒、酸化クロム等の酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;ケイ酸カルシウム、群青等のケイ酸塩;カーボンブラック、グラファイト等の炭素等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、ナフトールグリーンB、ナフトールグリーンY等のニトロソ化合物;ナフトールイエローS、リソールファストイエロー2G等のニトロ系顔料;パーマネントレッド4R、ブリリアントファストスカーレット、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー等の不溶性アゾ系顔料;リソールレッド、レーキレッドC、レーキレッドD等の難溶性アゾ系顔料;ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、ピグメントスカーレット3B、ボルドー10B等の可溶性アゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、スカイブルー等のフタロシアニン系顔料;ローダミンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、メチルバイオレットレーキ等の塩基性化合物;ピーコックブルーレーキ、エオシンレーキ、キノリンイエローレーキ等の酸性化合物等が挙げられる。前記顔料は1種又は2種以上配合してもよい。
【0077】
[歯科用硬化性組成物の形態]
本発明の歯科用硬化性組成物は、例えば、歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント、小窩裂溝填塞材、動揺歯固定材、矯正用接着材等に用いることができ、中でも光硬化深度に優れることから歯科用コンポジットレジンとしてより好適に用いられる。
【0078】
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体(A)と光重合開始剤(B)及びリン原子を含む配位子(C)を含有していれば特に限定はなく、当業者に公知の方法により、用途に応じた状態(1ペースト状態、2ペースト状態、粉-液状態、成型された状態)で容易に製造することができる。なお、化学重合性の機能もしくは化学重合性及び光重合性をあわせ持つ重合開始機能を使用する場合は、酸化剤を含む組成物と還元剤を含む組成物が別々に包装された包装形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。
【0079】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、前記構成を種々組み合わせた実施態様を含む。
【実施例
【0080】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例における分析及び評価は次のようにして行った。
【0081】
(1)光硬化深度
JIS T 6514:2015(歯科修復用コンポジットレジン)に従って、光硬化深度を評価した。具体的には次のように行った。製造した歯科用硬化性組成物をステンレス製の金型(厚さ12mm、直径4mm)に充填した。上下面をフィルム、スライドガラスの順で重ね圧接し、片面からガラス板を外したフィルム圧接面から歯科用可視光照射器「ペンキュアー2000」(株式会社モリタ製)で、10秒光照射して硬化させた。硬化物を金型から取り出した後、未硬化部分を拭き取り、マイクロメータ(株式会社ミツトヨ製)を用いて光照射面からの光硬化深度を測定し、実測値の半分の値を光硬化深度とし(n=5)、平均値を算出した。光硬化深度は、4.5mm以上が好ましく、5.0mm以上がより好ましく、5.5mm以上がさらに好ましい。
【0082】
(2)リン31核磁気共鳴分光法(31P-NMR)
31P―NMRを、BRUKER製の核磁気共鳴装置(製品名「Ultrashield(登録商標)400 Plus」)(測定条件:162MHz)により測定した。リン原子を含む配位子(C)又はリン原子を含む配位子(C)以外のリン原子を含む配位子を5mg/mLの濃度になるようにクロロホルム-dに溶解し、300Kにて測定した。内部標準は85%リン酸溶液を使用した。
【0083】
(3)無機粒子の平均粒子径
レーザー回折散乱法により粒度分布を求め、体積中位粒径として求めた。なお、体積中位粒径とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
測定機:SALD-2300型(株式会社島津製作所製)
解析ソフト:光透過式遠心沈降法
分散液:0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム
分散条件:前記分散液20mLに無機粒子15mgを添加し、超音波分散機にて30分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記試料分散液を測定し、体積中位粒径及び0.01~100μmの粒子径を有する粒子数の割合を求める。
【0084】
<無機粒子の製造例>
バリウムガラス「GM27884NanoFine180(平均粒子径0.18μm)」(ショット社製)100g、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン11g、及びトルエン200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。トルエンを減圧下で留去した後、40℃で16時間真空乾燥を行い、さらに90℃で3時間加熱し、表面処理層が設けられた平均粒子径0.18μmの無機粒子(e)を得た。
【0085】
実施例及び比較例で使用した化合物の詳細は以下のとおりである。
[重合性単量体(A)]
D2.6E:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6);新中村化学工業株式会社製
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート;東京化成工業株式会社製
【0086】
[光重合開始剤(B)]
CQ:カンファーキノン;富士フイルム和光純薬株式会社製
PDE:N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル;富士フイルム和光純薬株式会社製
【0087】
[リン原子を含む配位子(C)]
PFPDPP:(ペンタフルオロフェニル)ジフェニルホスフィン;東京化成工業株式会社製
TFPP:トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン;東京化成工業株式会社製
TTFMPP:トリス(4-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン;富士フイルム和光純薬株式会社製
TCPP:トリス(4-クロロフェニル)ホスフィン;富士フイルム和光純薬株式会社製
【0088】
[リン原子を含む配位子(C)以外のリン化合物]
TPP:トリフェニルホスフィン;富士フイルム和光純薬株式会社製
DPPS:4-(ジフェニルホスフィノ)スチレン;東京化成工業株式会社製
DPBA:4-(ジフェニルホスフィノ)安息香酸;東京化成工業株式会社製
BPFPP:ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィン;東京化成工業株式会社製
TPFPP:トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン;東京化成工業株式会社製
[重合禁止剤]
BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール;富士フイルム和光純薬株式会社製
【0089】
<実施例1>
D2.6E70質量部、3G30質量部、CQ0.2質量部、PDE0.3質量部、PFPDPP0.1質量部及びBHT0.05質量部を混合し、重合性単量体組成物(m-1)を得た。
【0090】
重合性単量体組成物(m-1)3.0質量部に対し、無機粒子(e)7.0質量部を混合練和して均一にしたものを真空脱泡し歯科用硬化性組成物を得た。該歯科用硬化性組成物をポリオレフィン系樹脂製のシリンジ(内径8mm×長さ63mm)とシリンジ後端側からシリンジに嵌め込まれた円筒状のプランジャーとからなる収納容器に充填し、前記の方法にて調製直後の光硬化深度を測定した。結果を表1に示す。
【0091】
前記シリンジ容器に充填した歯科用硬化性組成物を60℃に設定した送風定温恒温器に入れ、前記の方法にて4週及び8週保存後の光硬化深度を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
<実施例2~11及び比較例1~6>
PFPDPPに代えて、表1のようにリン原子を含む配位子(C)又はリン原子を含む配位子(C)以外のリン化合物の種類及び含有量、重合性単量体(A)の含有量及び光重合開始剤(B)の含有量を変更したこと以外は実施例1と同様にして各実施例及び比較例の歯科用硬化性組成物を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示されるように、本発明の歯科用硬化性組成物は、比較例の歯科用硬化性組成物と比較して、調製直後だけでなく、長期に亘る保管後においても良好な光硬化深度を維持できた。
【0095】
特許文献2では、歯科用組成物の着色を抑制する点から、光重合開始剤の発色団が重合中に効率的に破壊され、その結果、重合させた歯科用組成物中で開始剤系の着色が消失する、いわゆる「光退色」が必要であると考えられ、特定の芳香族第三級ホスフィン化合物が光退色効果に優れ、重合中の発色団の破壊は、歯科用組成物の光硬化深度を増大させると考えられていた。一方、本発明は、特許文献2には開示されていないリン化合物の31P-NMRの化学シフトに着目し、具体的に開示されていない特定のリン原子を含む配位子(C)を選択したものである。本発明の歯科用硬化性組成物は、リン原子を含む配位子(C)を含むことにより、ホスフィン部位の電子密度が低いために、ホスフィン部位の酸化が抑制され、長期に亘る保管中におけるリン原子を含む配位子(C)の酸化を抑制でき、製造直後から長期保管後に亘って優れた光硬化深度を示すものである。本発明の歯科用硬化性組成物は、特許文献2で具体的に開示された化合物を用いた比較例3及び4に比べて、過酷な条件下で長期間保管された場合においても優れた光硬化深度を維持できることが確認された。特許文献2では、光退色効果に優れると、光硬化深度も増大させ得ると考えられていたが、本発明者らの知見によって、光退色効果に優れ、一定期間貯蔵後の重合率が低下しないという性質を有する化合物であっても、これらの性質と、特に過酷な条件下で長期間保管された場合における光硬化深度とは必ずしも相関関係はなく、本発明において、さらに特定のリン原子を含む配位子(C)を選択的に含むことで、初めて製造直後から長期保管後に亘って優れた光硬化深度を示す歯科用硬化性組成物を提供できることが明らかになった。また、比較例5及び6では、ホスフィン部位の電子密度が低すぎるため、ペルオキシラジカルとの反応性が低下し、十分な光硬化深度が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の歯科用硬化性組成物は、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得るものとして好適に用いられるものであり、特に歯科用コンポジットレジンに最適である。