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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】チップ型電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 13/00 20130101AFI20250618BHJP
   H01G 2/02 20060101ALI20250618BHJP
   H01G 2/06 20060101ALI20250618BHJP
   H01G 4/228 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
H01G13/00 391Z
H01G2/02 101C
H01G2/02 101Z
H01G2/06 500
H01G4/228 A
H01G4/228 Z
H01G13/00 391
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022055714
(22)【出願日】2022-03-30
(65)【公開番号】P2023147927
(43)【公開日】2023-10-13
【審査請求日】2023-10-13
【審判番号】
【審判請求日】2024-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓
(72)【発明者】
【氏名】佐々田 学
【合議体】
【審判長】篠原 功一
【審判官】畑中 博幸
【審判官】井上 信一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/101405(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/172871(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 13/00
H01G 4/228
H01G 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部に対して外側に突出した複数の外部電極を有する電子部品本体の前記外部電極の表面にスペーサが設けられたチップ型電子部品の製造方法であって、
前記電子部品本体を用意する工程と、
複数の前記外部電極が前記本体部の同一面側に露出するように前記電子部品本体を保持する工程と、
複数の凹部を有する凹版上に金属ペーストを供給後、スキージによって前記凹版上の前記金属ペーストを掻き取ることにより、複数の前記凹部内に前記金属ペーストを供給する工程と、
保持した前記電子部品本体を前記凹版に近づけ、前記本体部の同一面側に露出しかつ前記本体部に対して外側に突出した複数の前記外部電極のそれぞれを、前記凹版の複数の前記凹部内の前記金属ペーストに接触させることによって、前記金属ペーストを複数の前記外部電極に転写する工程と、
を備えることを特徴とするチップ型電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記金属ペーストを複数の前記外部電極に転写する工程を複数回行うことを特徴とする請求項1に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記金属ペーストを複数の前記外部電極に転写する工程には、複数の前記外部電極のそれぞれを前記金属ペーストに接触させた後、前記電子部品本体を揺動させる処理が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記凹部は、溝状の形状および箱状の形状のうちの一方の形状を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記凹版は、少なくとも表面が硬質の材料からなることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記硬質の材料は、ステンレス、アルミニウム、鉄、および、鋼のうちの少なくとも1つである請求項5に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記外部電極に転写された前記金属ペーストに対して、乾燥および硬化のうちの少なくとも一方の処理を行う工程をさらに備えることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ型電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのチップ型電子部品を、スペーサを介して実装基板に実装する技術が知られている。スペーサは、例えば、チップ型電子部品への電圧印加時に、チップ型電子部品が基板を変形させることによって生じる「鳴き」と呼ばれる音を抑制するために設けられる。
【0003】
特許文献1には、CuおよびNiから選ばれる少なくとも1種の高融点金属と低融点金属としてのSnとを含む金属間化合物を主成分とするスペーサを備えたチップ型電子部品が開示されている。このチップ型電子部品のスペーサは、はんだ付け時の温度でも溶融しない十分な耐熱性を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/101405号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、金属ペーストをスクリーン印刷またはディスペンス法などで付与することによって、スペーサを形成することが記載されている。ディスペンス法は、精度良くスペーサを形成することが可能であるが、生産性が低い。
【0006】
一方、スクリーン印刷でスペーサを形成する場合、ディスペンス法より生産性は高いが、形成するスペーサの位置ずれが生じる可能性がある。すなわち、図10に示すように、複数の孔201を有するマスク200の上に金属ペースト202を付与し、スキージ203で金属ペースト202を基板204に転写することによって、複数のスペーサを一度に形成することが可能であるが、高精度な位置合わせが要求される。このため、所望の位置とは異なる位置にスペーサが形成される可能性がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、所望の位置に精度良くスペーサを形成することが可能なチップ型電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のチップ型電子部品の製造方法は、
本体部に対して外側に突出した複数の外部電極を有する電子部品本体の前記外部電極の表面にスペーサが設けられたチップ型電子部品の製造方法であって、
前記電子部品本体を用意する工程と、
複数の前記外部電極が前記本体部の同一面側に露出するように前記電子部品本体を保持する工程と、
複数の凹部を有する凹版の前記凹部内に金属ペーストを供給する工程と、
保持した前記電子部品本体を前記凹版に近づけ、前記本体部の同一面側に露出している複数の前記外部電極のそれぞれを、前記凹版の複数の前記凹部内の前記金属ペーストに接触させることによって、前記金属ペーストを複数の前記外部電極に転写する工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のチップ型電子部品の製造方法によれば、複数の外部電極が本体部の同一面側に露出するように保持した電子部品本体を、凹部内に金属ペーストが供給された凹版に近づけ、露出している複数の外部電極のそれぞれを、複数の凹部内の金属ペーストに接触させることによって転写するので、複数の外部電極の表面に精度良くスペーサを形成することができる。すなわち、外側に突出している複数の外部電極を、凹版の凹部内の金属ペーストに接触させた際、複数の外部電極に対して表面が内側に位置する本体部には、金属ペーストは接触しないので、本体部に金属ペーストが付着することを抑制することができる。また、金属ペーストの転写によって、複数の外部電極の表面にスペーサを形成するので、マスクを用いたスクリーン印刷のような高精度な位置合わせが不要である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電子部品本体の一例である積層セラミックコンデンサの構成を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示す積層セラミックコンデンサをII-II線に沿って切断したときの構成を模式的に示す断面図である。
図3図1に示す積層セラミックコンデンサをIII-III線に沿って切断したときの構成を模式的に示す断面図である。
図4】一実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図5】(a)は、電子部品本体を保持する工程を説明するための図、(b)は、凹版の凹部内に金属ペーストを供給する工程を説明するための図、(c)は、電子部品本体を凹版に近づけて、複数の外部電極のそれぞれを、凹版の複数の凹部内の金属ペーストに接触させた状態を示す図、(d)は、電子部品本体を、凹版の表面から少しだけ離して保持した状態を示す図、(e)は、電子部品本体を引き上げる様子を示す図である。
図6】(a)は、溝状の凹部を有する凹版を模式的に示す平面図、(b)は、平面視で円形の箱状の凹部を有する凹版を模式的に示す平面図、(c)は、平面視で長円形の箱状の凹部を有する凹版を模式的に示す平面図である。
図7】金属ペーストを複数の外部電極に転写する工程を複数回行った場合に、複数の外部電極に転写された金属ペーストを模式的に示す図である。
図8】一実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法によって製造されるチップ型電子部品の一例を模式的に示す斜視図である。
図9】スペーサによって、チップ型電子部品の本体部を基板から離れた高い位置に配置するとともに、本体部の下方に別の電子部品を実装した状態を模式的に示す側面図である。
図10】複数の孔を有するマスクを使ったスクリーン印刷によって、スペーサを形成する従来の方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0012】
本発明のチップ型電子部品の製造方法は、本体部に対して外側に突出した複数の外部電極を有する電子部品本体の外部電極の表面にスペーサが設けられたチップ型電子部品の製造方法である。はじめに、スペーサを設ける対象である電子部品本体の構成について簡単に説明した後、チップ型電子部品の製造方法について詳しく説明する。
【0013】
ここでは、電子部品本体の一例として、積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサの構造について説明する。その場合、本発明のチップ型電子部品の製造方法によって製造されるチップ型電子部品も積層セラミックコンデンサである。ただし、電子部品本体が積層セラミックコンデンサに限定されることはなく、サーミスタ、インダクタ等、本体部に対して外側に突出した複数の外部電極を有するチップ型の電子部品であれば、その種類に特に制約はない。
【0014】
(電子部品本体)
図1は、電子部品本体10の一例である積層セラミックコンデンサ10Xの構成を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示す積層セラミックコンデンサ10XをII-II線に沿って切断したときの構成を模式的に示す断面図である。図3は、図1に示す積層セラミックコンデンサ10XをIII-III線に沿って切断したときの構成を模式的に示す断面図である。
【0015】
積層セラミックコンデンサ10Xは、全体として直方体状の形状を有しており、本体部11と、本体部11に対して外側に突出した複数の外部電極とを備える。本実施形態において、複数の外部電極には、第1の外部電極14aと第2の外部電極14bが含まれる。
【0016】
ここでは、後述する誘電体層12と内部電極13a、13bとが積層されている方向を積層セラミックコンデンサ10Xの積層方向Tと定義し、一対の外部電極14a、14bが対向する方向を長さ方向Lと定義し、長さ方向Lおよび積層方向Tのいずれの方向にも直交する方向を幅方向Wと定義する。長さ方向L、積層方向T、および、幅方向Wのうちの任意の2つの方向は、互いに直交する方向である。なお、積層方向Tを厚さ方向と呼ぶこともある。
【0017】
積層セラミックコンデンサ10Xのサイズは任意であるが、小さいサイズとして、例えば、長さ方向L、幅方向W、積層方向Tの寸法がそれぞれ、1.0mm、0.5mm、0.5mmであり、大きいサイズとして、例えば、3.2mm、2.5mm、2.5mmである。
【0018】
本体部11は、直方体状の形状を有しており、長さ方向Lに相対する第1の端面15aおよび第2の端面15bと、積層方向Tに相対する第1の主面16aおよび第2の主面16bと、幅方向Wに相対する第1の側面17aおよび第2の側面17bとを有する。なお、「直方体状の形状」には、直方体だけでなく、直方体の角部や稜線部が丸みを帯びた形状も含まれる。
【0019】
図2および図3に示すように、本体部11は、積層された複数の誘電体層12と複数の内部電極13a、13bとを含む。内部電極13a、13bには、第1の内部電極13aと第2の内部電極13bとが含まれている。より詳細には、本体部11は、第1の内部電極13aと第2の内部電極13bとが積層方向Tにおいて、誘電体層12を介して交互に複数積層された構造を有する。
【0020】
第1の内部電極13aおよび第2の内部電極13bは、例えば、Ni、Ag、Pd、Au、Cu、Ti、または、Cr等の金属、または、上述した金属を主成分とする合金等を含有している。第1の内部電極13aおよび第2の内部電極13bは、共材として、誘電体層12に含まれる誘電体セラミックと同じセラミック材料を含むことが好ましい。
【0021】
第1の内部電極13aは、本体部11の第1の端面15aに引き出されている。また、第2の内部電極13bは、本体部11の第2の端面15bに引き出されている。
【0022】
本実施形態において、第1の外部電極14aは、本体部11の第1の端面15aの全体に設けられているとともに、第1の端面15aから、第1の主面16a、第2の主面16b、第1の側面17a、および、第2の側面17bに回り込むように設けられている。第1の外部電極14aは、第1の端面15aに露出した第1の内部電極13aと電気的に接続されている。
【0023】
本実施形態において、第2の外部電極14bは、本体部11の第2の端面15bの全体に設けられているとともに、第2の端面15bから、第1の主面16a、第2の主面16b、第1の側面17a、および、第2の側面17bに回り込むように設けられている。第2の外部電極14bは、第2の端面15bに露出した第2の内部電極13bと電気的に接続されている。
【0024】
上述したように、第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bはそれぞれ、本体部11の表面に設けられているため、本体部11に対して外側に突出している。換言すると、第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bの表面は、本体部11の表面よりも外側に位置する。
【0025】
第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bの構造は任意である。本実施形態において、第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bはそれぞれ、下地電極層とめっき層とを備える。
【0026】
下地電極層は、例えば、Ni、Cu、Ag、Pd、Au、Ti、および、Cr等の金属、またはそれらの金属を含む合金等を含む。下地電極層は、誘電体層12に含まれる材料と同じまたは類似する材料からなる共材、または、ガラスを含有していてもよい。下地電極層が共材またはガラスを含有する場合、その含有割合は、外部電極全体の30体積%以上70体積%以下であることが好ましい。下地電極層は、本体部11の表面に導電性ペーストを塗工して焼き付けることによって形成することが可能である。導電性ペーストの塗工は、任意の方法で行うことが可能であり、例えば、貯留されている導電性ペーストへの本体部11の浸漬によって行うことができる。
【0027】
めっき層は、例えば、Cu、Ni、Ag、Pd、Ti、Cr、または、Au等の金属、または、それらの金属を主成分とする合金を含む。めっき層は、1層であってもよいし、複数層であってもよい。めっき層を複数層とする場合、例えば、Niめっき層とSnめっき層の2層構造とする。
【0028】
なお、第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bの構成が上述した構成、すなわち、下地電極層とめっき層からなる構成に限定されることはない。例えば、第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bは、めっきからなるめっき電極でもよいし、スパッタリング法によって形成されるスパッタ電極でもよい。スパッタ電極の材料としては、例えば、NiCr、NiCu、CuAgNiなどを用いることができる。スパッタ電極の上にめっき層を形成するようにしてもよい。
【0029】
第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bの厚みは、例えば、3μm以上30μm以下である。第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bの表面のうち、実装基板と対向する表面の平坦部分のサイズは、例えば、0.5mm×0.3mm以上である。
【0030】
(チップ型電子部品の製造方法)
図4は、一実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0031】
ステップS1では、スペーサを設ける対象である電子部品本体10を用意する。電子部品本体10は、既知の方法によって作製することができる。
【0032】
ステップS1に続くステップS2では、複数の外部電極14a,14bが本体部11の同一面側に露出するように電子部品本体10を保持する(図5(a))。電子部品本体10の保持は、任意の方法で行うことが可能である。一例として、図5(a)に示すように、保持面20aが粘着性を有する粘着性基板20によって、電子部品本体10を粘着して保持する。上述したように、第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bは、本体部11に対して外側に突出しているため、粘着性基板20の保持面20aは、第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bに粘着する。
【0033】
ここで、「本体部11の同一面側」とは、本体部11の表面のうちの1つの面側であって、特に、複数の外部電極14a,14bの表面にスペーサを設ける側を意味する。図5(a)では、複数の外部電極14a,14bが本体部11の第1の主面16a側に露出した状態で、本体部11の第2の主面16b側が粘着性基板20によって保持された状態を示している。
【0034】
なお、電子部品本体10の保持は、上述した粘着以外に、吸引や磁力などを利用した方法で行うことが可能である。電子部品本体10を保持する保持治具の保持面は、平面でもよいし、回転可能なロール面でもよい。ロール面を有する保持治具は、保持した複数の電子部品本体10を、後述する凹版上に連続的に供給することが可能である。
【0035】
保持治具は、複数の電子部品本体10を保持することが好ましい。その場合、保持治具によって保持される全ての電子部品本体10について、保持治具から、複数の外部電極14a,14bのスペーサが設けられる面までの距離を略同一にする必要がある。保持治具が複数の電子部品本体10を保持することにより、複数の電子部品本体10に対して一度にスペーサを設けることが可能となるので、生産性が向上する。
【0036】
保持治具が複数の電子部品本体10を保持する場合、保持される複数の電子部品本体10は、マトリクス状などのように整列された状態でもよいし、ランダムに配置された状態でもよい。複数の電子部品本体10を保持治具によって保持する際、保持治具によって複数の電子部品本体10を一度に保持するようにしてもよいし、1つずつピックアップして保持するようにしてもよい。
【0037】
ステップS2に続くステップS3では、複数の凹部31を有する凹版30の複数の凹部31内に金属ペースト40を供給する(図5(b))。
【0038】
凹版30は、例えば、平面を有する平板、または、ロール面を有するロール版である。凹版30が矩形の平板である場合のサイズは、例えば、10mm×10mm以上1000mm×1000mm以下である。また、凹版30がロール版である場合のロール面の幅は、例えば、10mm以上1000mm以下である。ただし、凹版30は、平板またはロール版以外のものでもよいし、サイズが上記サイズに限定されることはない。
【0039】
凹版30は、少なくとも表面が硬質の材料からなる。凹版30の全体が硬質の材料で構成されていてもよい。硬質の材料は、例えば引っ張り弾性率30GPa以上の金属材料を意味し、例えば、ステンレス、アルミニウム、鉄、および鋼のうちの少なくとも1つである。凹版30は、例えば、平面視で矩形の形状を有する。ただし、平面視の凹版30の形状が矩形に限定されることはない。
【0040】
凹部31は、溝状の形状および箱状の形状のうちの一方の形状を有する。溝状の形状とは、対向する一対の側面を有し、一方向に延びる溝の形状のことである。溝は、直線状の形状でもよいし、直線以外の形状、例えば、蛇行しながら一方向延びる形状でもよい。溝が延びる方向も特に制約はなく、任意の方向とすることができる。溝の幅は、例えば、50μm以上100μm以下である。
【0041】
箱状の形状とは、底面と側面とによって囲まれた箱の形状のことである。箱の底面と直交する方向に見たときの箱の形状は、矩形、円形、長円形、三角形、六角形など、任意の形状とすることができる。また、凹版30は、形状の異なる複数の凹部31を有していてもよい。凹部31を構成する箱の底面と直交する方向に見たときの箱の形状が矩形である場合、矩形を構成する一辺のサイズは、例えば、50μm以上300μm以下である。
【0042】
図6(a)は、溝状の凹部31を複数有する凹版30を模式的に示す平面図である。図6(a)に示す例では、凹版30に、所定の間隔で複数の溝状の凹部31がストライプ状に設けられている。溝状の凹部31の深さは、任意の深さとすることが可能であるが、一例として10μm以上300μm以下である。
【0043】
図6(b)は、平面視で円形の箱状の凹部31を複数有する凹版30を模式的に示す平面図である。凹部31の深さは、任意の深さとすることが可能であるが、一例として10μm以上300μm以下である。
【0044】
図6(c)は、平面視で長円形の箱状の凹部31を複数有する凹版30を模式的に示す平面図である。凹部31の深さは、任意の深さとすることが可能であるが、一例として10μm以上300μm以下である。
【0045】
図6(a)~(c)では、凹版30の凹部31と電子部品本体10との相対的な大きさの関係が分かるように、凹版30に電子部品本体10を重ねて示している。後述するように、凹版30の凹部31内に金属ペースト40を供給した後、本体部11の同一面側に露出している複数の外部電極14a,14bのそれぞれを、凹版30の複数の凹部31内の金属ペースト40に接触させることによって、金属ペースト40を複数の外部電極14a,14bに転写する。すなわち、凹版30上に電子部品本体10を載置したときに、複数の外部電極14a,14bのそれぞれが、複数の凹部31と重なるように、複数の凹部31が凹版30に設けられている(図6(a)~(c)参照)。
【0046】
金属ペースト40は、スペーサを形成するためのものであって、例えば、CuおよびNiから選ばれる少なくとも一種の高融点金属と、低融点金属としてのSnとを含む金属間化合物を主成分とする。一例として、D50が5μmのCu-10wt%Ni粉末を31.5wt%、D50が5μmのSn-3wt%Ag-0.5wt%Cuの組成のはんだ粉末を58.5wt%、およびフラックスを10wt%含むものを金属ペースト40として用いる。金属ペースト40の粘度は、せん断速度0.1s-1で、100000mPa・s以上1000000mPa・s以下であり、せん断速度1s-1で、10000mPa・s以上100000mPa・s以下である。ただし、金属ペースト40の材料や特性が上述したものに限定されることはない。
【0047】
凹版30上への金属ペースト40の供給は、任意の方法で行うことが可能である。凹版30上に金属ペースト40を供給後、例えば、図5(b)に示すように、スキージ32によって、凹版30上の金属ペースト40を掻き取る。スキージ32の掻き取り部分は、例えば、硬度50以上70以下のゴムからなる。ただし、スキージ32の掻き取り部分の材質がゴムに限定されることはなく、金属でもよい。これにより、凹版30の複数の凹部31内にのみ金属ペースト40が供給される。すなわち、凹版30の複数の凹部31内には、凹版30の表面の高さの位置まで金属ペースト40が供給された状態となり、凹版30の表面のうち、凹部31が設けられていない位置には、金属ペースト40が除去されて存在しない状態となる。
【0048】
なお、ステップS3の工程は、ステップS2の工程よりも先に行ってもよい。
【0049】
ステップS3に続くステップS4では、保持した電子部品本体10を凹版30に近づけ、本体部11の同一面側に露出している複数の外部電極14a,14bのそれぞれを、凹版30の複数の凹部31内の金属ペースト40に接触させることによって、金属ペースト40を複数の外部電極14a,14bに転写する。
【0050】
図5を参照しながら説明すると、まず、図5(c)に示すように、粘着性基板20によって保持された電子部品本体10を凹版30に近づけ、本体部11の同一面側に露出している複数の外部電極14a,14bのそれぞれを、凹版30の複数の凹部31内に供給されている金属ペースト40に接触させる。本体部11を凹版30に近づけるときの速度は、例えば、0.1mm/s以上100mm/s以下である。ここでは、本体部11の同一面側に露出している複数の外部電極14a,14bの表面を凹版30の表面と接触させ、さらに所定の距離だけ押し込むようにする。所定の距離は、例えば、0.3mmである。これにより、本体部11の同一面側に露出している複数の外部電極14a,14bの表面に、凹版30の複数の凹部31内の金属ペースト40が接触する。
【0051】
このとき、図5(c)に示すように、複数の外部電極14a,14bの表面よりも内側に位置する本体部11の表面は、凹版30と接触しないので、本体部11の表面に金属ペーストは付着しない。特に、本実施形態において、凹版30は、少なくとも表面が硬質の材料からなるので、電子部品本体10が凹版30の表面と接触し、さらに、少しだけ押し込まれた場合でも、凹版30の表面は弾性変形または塑性変形しない。したがって、本体部11の表面に金属ペースト40が付着することをより抑制することができる。
【0052】
続いて、図5(d)に示すように、粘着性基板20によって保持された本体部11を、凹版30の表面から少しだけ、例えば、0.3mmだけ離して保持する。保持時間は、例えば、3秒以上30秒以下である。これにより、図5(d)に示すように、複数の外部電極14a,14bの表面に付着した金属ペースト40が広がり、複数の外部電極14a,14bの表面のうち、凹部31と対向しない位置にも金属ペースト40が付着する。
【0053】
なお、粘着性基板20によって保持された電子部品本体10が凹版30の表面と接触した状態、または、凹版30の表面から少しだけ離れた状態で、凹版30の表面と平行な方向に電子部品本体10を揺動させるようにしてもよい。電子部品本体10を揺動させることによって、複数の外部電極14a,14bの表面に付着した金属ペースト40の広がりを促進させることができ、より効果的に、複数の外部電極14a,14bの表面のうち、凹部31と対向しない位置に金属ペースト40を付着させることができる。
【0054】
最後に、図5(e)に示すように、粘着性基板20によって保持された電子部品本体10を引き上げる。電子部品本体10を引き上げるときの速度は、例えば、0.1mm/s以上100mm/s以下である。これにより、複数の外部電極14a,14bに金属ペースト40が転写される。
【0055】
ここで、金属ペースト40を複数の外部電極14a,14bに転写する工程を複数回行うようにしてもよい。金属ペースト40を複数の外部電極14a,14bに転写する工程を複数回行うことにより、図7に示すように、複数の外部電極14a,14bに付着させる金属ペースト40の厚みを厚くすることができる。これにより、複数の外部電極14a,14bの表面に設けられるスペーサの高さを高くすることができる。すなわち、金属ペースト40を複数の外部電極14a,14bに転写する工程を複数回行うことにより、複数の外部電極14a,14bの表面に設けられるスペーサの高さを任意の高さに調整することが可能となる。金属ペースト40を複数の外部電極14a,14bに転写する工程を複数回行う場合、転写を1回行うごとに、転写した金属ペースト40に対して、乾燥および硬化のうちの少なくとも一方の処理を行うようにしてもよい。
【0056】
なお、スクリーン印刷などの方法によって、基板またはチップ型電子部品の外部電極にスペーサを設ける場合、金属ペーストのレオロジーや、自身の重みによって形状が崩れることがある。しかしながら、本実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法では、金属ペースト40を複数の外部電極14a,14bに転写する工程を複数回行う場合、新たに付着させた金属ペースト40の重量は、スペーサが高くなる方向に作用するため、金属ペースト40の形状崩れを抑制することができる。
【0057】
ステップS4に続くステップS5では、複数の外部電極14a,14bに転写された金属ペースト40に対して、乾燥および硬化のうちの少なくとも一方の処理を行う。乾燥は、例えば、熱風を当てる方法、加熱する方法などの方法で行うことができる。熱風を当てる際の熱風の温度、および、加熱する際の加熱温度は、例えば、100℃以上300℃以下である。金属ペースト40の硬化は、例えば、赤外線の照射、紫外線の照射、ガンマ線の照射、流水にさらすなどの方法で行うことができる。乾燥および硬化のうちの少なくとも一方の処理が行われた金属ペースト40は、スペーサとなる。なお、スペーサは、複数の外部電極14a,14bに対して、さらに外側に突出した形状を有するため、突起電極と呼ぶことも可能である。
【0058】
上述した工程により、本体部11に対して外側に突出した複数の外部電極14a,14bを有する電子部品本体10の複数の外部電極14a,14bの表面にスペーサが設けられたチップ型電子部品が製造される。
【0059】
本実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法によれば、複数の外部電極14a,14bが本体部11の同一面側に露出するように保持した電子部品本体10を、凹部31内に金属ペースト40が供給された凹版30に近づけて、露出している複数の外部電極14a,14bのそれぞれを、複数の凹部31内の金属ペースト40に接触させることによって転写するので、複数の外部電極14a,14bの表面に精度良くスペーサを形成することができる。すなわち、外側に突出している複数の外部電極14a,14bを、凹版30の凹部31内の金属ペースト40に接触させた際、複数の外部電極14a,14bに対して表面が内側に位置する本体部11には、金属ペースト40は接触しないので、本体部11に金属ペースト40が付着することを抑制することができる。
【0060】
また、複数の外部電極14a,14bのそれぞれを、複数の凹部31内の金属ペースト40に接触させることによって転写するので、1つの凹部31内の金属ペーストに接触させて転写する場合と比べて、転写する金属ペースト40の量を安定化させることができる。これにより、形成されるスペーサの品質バラツキを抑制することができ、高品質のチップ型電子部品を製造することができる。
【0061】
また、金属ペースト40の転写によって、複数の外部電極14a,14bの表面にスペーサを形成するので、ディスペンス法と比べて生産性が高く、また、マスクを用いたスクリーン印刷のような高精度な位置合わせが不要となる。したがって、本実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法は、従来のディスペンス法およびスクリーン印刷法と比べて、生産性が高い。
【0062】
ここで、実装基板に複数のスペーサを設けて、スペーサの上にチップ型電子部品を配置する従来の実装方法では、実装するチップ型電子部品の数が少ない場合に、実装基板に予め設けたのに使用されないスペーサが存在することになる。
【0063】
これに対して、本実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法では、実装するチップ型電子部品の複数の外部電極14a,14bに直接スペーサを設けるので、不要なスペーサが発生することはない。
【0064】
また、従来のスクリーン印刷法でチップ型電子部品の外部電極の上にスペーサを設ける場合、位置ずれによって、本体部11にも金属ペーストが付着する可能性があるが、本実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法では、上述したように、本体部11に金属ペースト40が付着することを抑制することができる。
【0065】
また、従来のスクリーン印刷法でスペーサを設ける場合、スペーサの高さは、マスクの厚さによって一義的に決まってしまう。このため、薄化限界のマスクの厚さよりも高さが低いスペーサを設けることはできないし、厚化限界のマスクの厚さよりも高さが高いスペーサを設けることができない。また、ディスペンス法では、金属ペーストの粘度を調整することによって、スペーサの高さを調整することが可能であるが、金属ペーストの粘度を所望の粘度に調整することは難しい。
【0066】
これに対して、本実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法では、凹部31の形状、大きさ、深さや、隣接する凹部31同士の間隔、複数の外部電極14a,14bを凹部31内の金属ペースト40に接触させる回数などを調整することによって、スペーサの高さを任意の高さに容易に調整することが可能である。
【0067】
また、本実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法では、上述したように、複数の外部電極14a,14bのそれぞれを、凹版30の複数の凹部31内の金属ペースト40に接触させて、金属ペースト40の伸張現象で転写するので、面状ではなく、突起状のスペーサを形成することが可能である。突起状のスペーサは、金属ペースト40の転写時の引き上げ速度、転写回数、金属ペースト40の粘度などのペーストレオロジーなどを調整することによって、形成することが可能である。突起状のスペーサの高さは、例えば、30μm以上120μm以下である。また、スペーサが角柱や角錐などの形状を有する場合、スペーサが複数の外部電極14a,14と接している部分の一辺の長さは、例えば、0.3mm以上である。
【0068】
図8は、本実施形態におけるチップ型電子部品の製造方法によって製造されるチップ型電子部品100の一例を模式的に示す図である。図8に示すチップ型電子部品100において、第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bの表面に設けられたスペーサ50は、円柱状の形状を有する。ただし、スペーサ50は、角柱、円錐、角錐など、上述した製造方法で形成できる範囲で任意の形状とすることができる。例えば、スペーサ50は、本体部11の第1の主面16aと平行な平面で切断したときの断面の面積が本体部11から遠ざかるにつれて少しずつ小さくなるような形状であってもよい。
【0069】
スペーサ50は、任意の目的で設けることが可能である。例えば、基板に実装されたチップ型電子部品100に電圧を印加したときに生じる「鳴き」と呼ばれる音を抑制するためであってもよいし、基板と直交する高さ方向の空間を有効利用するためであってもよい。
【0070】
図9は、スペーサ50によって、本体部11を基板60から離れた高い位置に配置するとともに、本体部11の下方に、別の電子部品70を実装した状態を模式的に示す側面図である。チップ型電子部品100および別の電子部品70はそれぞれ、基板60上のランド電極61にはんだ62を介して実装されている。このような配置とすることにより、基板60上により多くの電子部品を実装することが可能となる。
【0071】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。例えば、電子部品本体10の第1の外部電極14aは、本体部11の第1の端面15aの全体に設けられているとともに、第1の端面15aから、第1の主面16a、第2の主面16b、第1の側面17a、および、第2の側面17bに回り込むように設けられているものとして説明したが、第1の端面15aの全体と、第1の主面16aおよび第2の主面16bのうちの少なくとも一方の主面の一部とに設けられている構成でもよい。第2の外部電極14bも同様である。
【0072】
また、第1の外部電極14aは、第1の主面16aおよび第2の主面16bのうちの少なくとも一方の主面の一部にのみ設けられていてもよい。その場合、本体部11に、複数の第1の内部電極13aと電気的に接続されたビア導体を設け、ビア導体と第1の外部電極14aとを電気的に接続するようにすればよい。第2の外部電極14bも同様である。
【0073】
また、本体部11の表面のうち、スペーサを設ける側の面と相対する面だけに、第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bを設けない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 電子部品本体
10X 積層セラミックコンデンサ
11 本体部
12 誘電体層
13a 第1の内部電極
13b 第2の内部電極
14a 第1の外部電極
14b 第2の外部電極
20 粘着性基板
30 凹版
31 凹部
32 スキージ
40 金属ペースト
50 スペーサ
60 基板
61 ランド電極
62 はんだ
100 チップ型電子部品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10