(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】アンテナ装置及び無線通信装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20250618BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20250618BHJP
H01Q 1/52 20060101ALI20250618BHJP
H01Q 19/28 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q21/06
H01Q1/52
H01Q19/28
(21)【出願番号】P 2023528925
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2021023243
(87)【国際公開番号】W WO2022264415
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2024-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】524066085
【氏名又は名称】FCNT合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼田 聡史
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/158810(WO,A1)
【文献】特開2011-166416(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102988(WO,A1)
【文献】特開2017-188779(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141698(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/027058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/08
H01Q 21/06
H01Q 1/52
H01Q 19/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯の電波を出射する整列された複数のパッチアンテナと、
前記複数のパッチアンテナの夫々について、パッチアンテナを挟むように配置される一組の無給電素子と、を備え、
前記複数のパッチアンテナのうちの第1のパッチアンテナを挟むように配置された第1組の無給電素子の夫々は、前記第1のパッチアンテナの隣に配置された第2のパッチアンテナを挟むように配置された第2組の無給電素子夫々の中心同士を結ぶ中心線の方向視において、前記第2組の無給電素子と重なる領域の外に設けら
れ、
前記第1組の無給電素子は、前記第1のパッチアンテナが出射する電波の出射方向に設けられる、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記第1組の無給電素子の中心同士を結ぶ中心線と、前記複数のパッチアンテナが整列された方向とのなす角は30度以上かつ60度以下である、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第1組の無給電素子夫々の中心と、前記第1のパッチアンテナの中心とを結ぶ線分夫々の長さは、前記電波の1/2波長であり、
前記第1のパッチアンテナの法線と前記線分夫々とのなす角は45度である、
請求項1または2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記無給電素子の夫々には、可変コンデンサまたは可変インダクタが設けられる、
請求項1から3のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1のパッチアンテナは矩形に形成され、
前記第1のパッチアンテナの頂点のうち辺を共有しない一組の頂点が、前記複数のパッチアンテナが整列された方向に並ぶ、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記複数のパッチアンテナの夫々は矩形に形成され、
矩形に形成された前記複数のパッチアンテナの一辺の長さは、前記複数のパッチアンテナ夫々が出射する電波の1/2波長である、
請求項1から5のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記複数のパッチアンテナの夫々の間隔は、前記複数のパッチアンテナの夫々が出射する電波の波長と等しい、
請求項1から6のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記複数のパッチアンテナの夫々について、前記一組の無給電素子とは別の方向からパッチアンテナを挟むように配置される一組の追加無給電素子をさらに備える、
請求項1から7のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のアンテナ装置を備える、
無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置及び無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より高速な通信環境を実現するため、第5世代移動通信システム(5G)の普及が進められている。そのため、5Gで利用されるミリ波帯で通信を行うアンテナ装置がスマートフォン等の無線通信装置に搭載される。このようなアンテナ装置では、例えば、パッチアンテナが採用される(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
従来から利用されているLong Term Evolution(LTE、4G)の電波よりもミリ波帯の電波は空間伝搬減衰量が多いことから、上記アンテナ装置では複数のパッチアンテナを整列して配置したアレーアンテナが形成されることが多い。アレーアンテナが形成されることでアンテナ装置から出射される電波(ビーム)のピーク強度は高められる一方で、アンテナ装置がカバーできるカバレッジ範囲が減少することになる。そこで、アレーアンテナでは、ビームフォーミングによってビームのピーク方向を走査することで、カバレッジ範囲の減少を補うことが行われる。また、先行文献には単独のパッチアンテナの周囲に配置された無給電素子のリアクタンスを変化させることで指向性を制御することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-246460号公報
【文献】特開2012-120150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のアレーアンテナに無給電素子を配置してビームフォーミングとは異なる方向に指向性を制御しようとすると、隣り合った無給電素子同士が容量的に結合してしまい、意図したように指向性を制御できず、所望の特性が得られないという課題があった。そのため、ミリ波帯のカバレッジ範囲の拡大には改善の余地があった。
【0006】
開示の技術の1つの側面は、ミリ波帯のカバレッジ範囲を従来よりも拡大し得るアンテナ装置及び無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術の1つの側面は、次のようなアンテナ装置によって例示される。本アンテナ装置は、ミリ波帯の電波を出射する整列された複数のパッチアンテナと、上記複数のパッチアンテナの夫々について、パッチアンテナを挟むように配置される一組の無給電素子と、を備える。上記複数のパッチアンテナのうちの第1のパッチアンテナを挟むように配置された第1組の無給電素子の夫々は、上記第1のパッチアンテナの隣に配置された第2のパッチアンテナを挟むように配置された第2組の無給電素子夫々の中心同士を結ぶ中心線の方向視において、上記第2組の無給電素子と重なる領域の外に設けられる。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、ミリ波帯のカバレッジ範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るアンテナ装置の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るアンテナ装置のアンテナを例示する図である。
【
図3】
図3は、隣り合って配置されるアンテナの位置関係を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、アンテナの整列方向と導体素子の配置方向との角度を変えたバリエーションを示す第1の図である。
【
図5】
図5は、アンテナの整列方向と導体素子の配置方向との角度を変えたバリエーションを示す第2の図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るアンテナ装置のアンテナが放射する電波の強度分布を例示する図である。
【
図7】
図7は、導体素子の位相を変えた場合におけるアンテナが放射する電波の強度分布(dBi)を例示する第1の図である。
【
図8】
図8は、導体素子の位相を変えた場合におけるアンテナが放射する電波の強度分布(dBi)を例示する第2の図である。
【
図9】
図9は、導体素子の位相を変えた場合におけるアンテナが放射する電波の強度分布(dBi)を例示する第3の図である。
【
図10】
図10は、導体素子の位相を変えた場合におけるアンテナが放射する電波の強度分布(dBi)を例示する第4の図である。
【
図11】
図11は、実施形態におけるアンテナの放射パターンを例示する図である。
【
図12】
図12は、インダクタやコンデンサによって例示される制御素子を設けた導体素子の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、制御素子を設けた導体素子を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、比較例に係るアンテナ装置の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、比較例に係るアンテナ装置のパッチアンテナが放射する電波の強度分布を例示する図である。
【
図16】
図16は、比較例におけるパッチアンテナの放射パターンを例示する図である。
【
図17】
図17は、比較例に係るアンテナ装置のパッチアンテナが放射する電波の強度分布(dBi)を例示する図である。
【
図18】
図18は、比較例に係るアンテナ装置のカバレッジ範囲と利得の関係を示す図である。
【
図19】
図19は、実施形態に係るアンテナ装置のカバレッジ範囲と利得の関係を示す図である。
【
図20】
図20は、
図18及び
図19を基に比較例に係るアンテナ装置と実施形態に係るアンテナ装置とのカバレッジ範囲及び利得を比較する表である。
【
図21】
図21は、比較例に係るアンテナ装置を実装したスマートフォンを例示する図である。
【
図22】
図22は、本実施形態に係るアンテナ装置を実装したスマートフォンを例示する図である。
【
図23】
図23は、第1変形例に係るアンテナ装置の一例を示す図である。
【
図24】
図24は、第2変形例に係るアンテナ装置の一例を示す図である。
【
図25】
図25は、第2変形例においてアンテナの整列方向と導体素子の配置方向との角度を変えたバリエーションを示す第1の図である。
【
図26】
図26は、第2変形例においてアンテナの整列方向と導体素子の配置方向との角度を変えたバリエーションを示す第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
以下に示す実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。実施形態に係るアンテナ装置は、例えば、以下の構成を備える。本実施形態に係るアンテナ装置は、ミリ波帯の電波を出射する整列された複数のパッチアンテナと、上記複数のパッチアンテナの夫々について、パッチアンテナを挟むように配置される一組の無給電素子と、を備える。上記複数のパッチアンテナのうちの第1のパッチアンテナを挟むように配置された第1組の無給電素子の夫々は、上記第1のパッチアンテナの隣に配置された第2のパッチアンテナを挟むように配置された第2組の無給電素子夫々の中心同士を結ぶ中心線の方向視において、上記第2組の無給電素子と重なる領域の外に設けられる。
【0011】
このようなアンテナ装置によれば、パッチアンテナ夫々におけるビームフォーミングの方向を一組の無給電素子の中心同士を結ぶ中心線の方向に変更することができる。また、第1組の無給電素子の夫々が第2組の無給電素子夫々の中心同士を結ぶ中心線の方向視において上記第2組の無給電素子と重なる領域の外に設けられることで、無給電素子を配置することによるパッチアンテナの利得を改善させることができる。そのため、本アンテナ装置によれば、ミリ波帯のカバレッジ範囲を拡大することができる。なお、上記アンテナ装置において、「整列」とは、一列に整列することに限定されず、二列以上に整列されてもよい。
【0012】
以下、図面を参照して上記アンテナ装置についてさらに説明する。
図1は、実施形態に係るアンテナ装置1の一例を示す図である。
図1は、アンテナ装置1を平面視した図である。アンテナ装置1は、基板20と、基板20上に配置された複数のアンテナ10を備える。アンテナ装置1は、複数のアンテナ10を一列に整列したアレーアンテナである。
【0013】
基板20は、例えば、プリント基板である。基板20のアンテナ10が整列された面には、接地されたグランド面が形成される。基板20上には、4つのアンテナ10が一列に整列される。
図1では、4つのアンテナ10が基板20上に整列されているが、基板20上に整列されるアンテナ10の数は4つに限定されず、3つ以下であってもよいし、5つ以上であってもよい。
【0014】
アンテナ10は、パッチアンテナ11、給電点12及び導体素子13を含む。パッチアンテナ11は、給電点12からの給電を受けて電波を出射する。パッチアンテナ11は、例えば、平面視において正方形に形成される。アンテナ10は、整列方向L1に沿って等間隔で整列される。アンテナ10の夫々は、アンテナ10が並べられた整列方向L1に対して45度傾けて配置される。その結果、パッチアンテナ11の4つの頂点のうち、辺を共有しない一組の頂点P1、P2は、整列方向L1上に配置される。すなわち、パッチアンテナ11の辺を共有しない一組の頂点P1、P2は、整列方向L1に並ぶ。パッチアンテナ11の整列間隔D1は、例えば、パッチアンテナ11が出射する電波の波長λと略等しい。
【0015】
導体素子13は、金属等の導体で形成された無給電素子である。導体素子13は、例えば、平面視において長方形に形成され、その長辺の長さはアンテナ10の一辺の長さと略等しい。導体素子13は、その長辺をパッチアンテナ11に向けた状態でパッチアンテナ11を挟むように配置される。そのため、アンテナ10の夫々では、導体素子13、パッチアンテナ11、導体素子13は、整列方向L1に対して45度傾いた配置方向L2に沿って、この順で配置される。配置方向L2は、例えば、アンテナ10夫々において、導体素子13、パッチアンテナ11、導体素子13の中心を結ぶ線分の方向ということができる。
【0016】
図2は、実施形態に係るアンテナ装置1のアンテナ10を例示する図である。
図2(A)はアンテナ10を平面視した図であり、
図2(B)はアンテナ10の側面図である。
図2(A)では、整列方向L1も図示している。アンテナ10の一辺の長さ辺長S1は、λ/2と略等しい。
図2(B)を参照すると理解できるように、導体素子13の夫々は、パッチアンテナ11よりもパッチアンテナ11の電波出射方向に配置される。そして、導体素子13の夫々は、パッチアンテナ11の法線N1に対して45度の方向、かつ、パッチアンテナ11からλ/4の距離に設けられる。すなわち、パッチアンテナ11の中心と導体素子13の中心を結んだ線分L3と法線N1とのなす角度θは45度であり、線分L3の長さはλ/4である。このようにパッチアンテナ11と導体素子13とが配置方向L2に沿って配置されることで、アンテナ装置1の偏波方向を配置方向L2に沿った方向とすることができる。すなわち、アンテナ装置1では、ビームフォーミングによるビームの走査方向を、整列方向L1からずらすことができる。
【0017】
図3は、隣り合って配置されるアンテナ10の位置関係を模式的に示す図である。
図3には、平面視において長方形に形成された導体素子13の短辺を延長して形成される延長領域R1も図示されている。延長領域R1は、
パッチアンテナ1
1を挟むように配置される一組の導体素子13の中心同士を結ぶ中心線の方向視において、当該一組の導体素子13と重なる領域ということができる。アンテナ10の夫々において導体素子13は、隣に配置されたアンテナ10の延長領域R1の外に配置される。
【0018】
ここで、導体素子13の配置について検討する。
図4及び
図5は、アンテナ10の整列方向L1と導体素子13の配置方向L2との角度を変えたバリエーションを示す図である。
図4(A)では整列方向L1と配置方向L2との角度は0度であり、
図4(B)では整列方向L1と配置方向L2との角度は15度である。
図5(A)では整列方向L1と配置方向L2との角度は30度であり、
図5(B)では整列方向L1と配置方向L2との角度は60度であり、
図5(C)では整列方向L1と配置方向L2との角度は75度である。なお、
図4及び
図5の夫々では図面の煩雑化を避けるため一つの導体素子13についての延長領域R1を図示しているが、
図3に例示するように延長領域R1はすべての導体素子13について形成される。
【0019】
整列方向L1と配置方向L2との角度が0度(
図4(A))及び15度(
図4(B))では、あるアンテナ10の導体素子13は隣に配置されたアンテナ10の延長領域R1内に導体素子13が配置される。この様な配置では隣り合ったアンテナの導体素子13同士が寄生容量を持ち、その影響でパッチアンテナ11の利得が低下する虞がある。一方、整列方向L1と配置方向L2との角度が30度(
図5(A))、45度(
図3)、60度(
図5(B))、75度(
図5(C))の場合には、あるアンテナ10の導体素子13は隣に配置されたアンテナ10の延長領域R1外に導体素子13が配置される。このように配置することで、隣り合ったアンテナの導体素子13同士が寄生容量を持つことは無いのでパッチアンテナ11の利得が改善される。すなわち、導体素子13を配置することによってアンテナ装置1の利得を改善させるには、整列方向L1と配置方向L2との角度が30度以上であることが好ましい。
【0020】
図6は、実施形態に係るアンテナ装置1のアンテナ10が放射する電波の強度分布を例示する図である。
図6を参照すると理解できるように、アンテナ10が放射する電波のピーク方向は、極角30度、方位角270度の方向となっている。
【0021】
図7から
図10は、整列方向L1にビームを走査する際、導体素子13の位相を変えた場合におけるアンテナ10が放射する電波の強度分布(dBi)を例示する図である。
図7から
図10において、縦軸は3次元極座標における極角を示し、横軸は方位角を示す。すなわち、
図7から
図10において、極角90度より大きい範囲(図の上側)は基板20の裏側を示し、極角90度より小さい範囲(図の下側)は基板20の表側(アンテナ10が配置された側)を示す。
図7は、アンテナ10が備える2つの導体素子13の位相を同相とした場合を例示する。
図8は、アンテナ10が備える2つの導体素子13の位相を異相とした場合を例示する。
図9は、位相の進み及び位相の遅れを
図8と逆にした場合における、アンテナ10が備える2つの導体素子13の位相を異相とした場合を例示する。そして、
図10は、
図7から
図9に例示した電波の強度分布を合成した場合を例示する。
図10を参照すると理解できるように、導体素子13の位相を制御することで、アンテナ10が出射する電波のピーク方向を制御することができる。
【0022】
図11は、実施形態におけるアンテナ10の放射パターンを例示する図である。矢印A1は、導体素子13が無い場合、すなわち、パッチアンテナ11が強く放射する方向を例示する。矢印A2及び矢印A3は、アンテナ10が強く放射する方向を例示する。矢印A2及び矢印A3は、導体素子13のインダクタンスやリアクタンスを変更することで、方向が変わっている。すなわち、アンテナ10は、導体素子13のインダクタンスやリアクタンスを変更することで導体素子13の位相を制御し、強い電波の放射方向を制御することができる。
【0023】
導体素子13の位相を制御するには、例えば、導体素子13にインダクタやコンデンサを設ければよい。
図12は、インダクタやコンデンサによって例示される制御素子131を設けた導体素子13の一例を示す図である。
図12(A)は制御素子131を設けたアンテナ10の平面図を示す。また、
図12(B)は、
図12(A)の矢印方向からの制御素子131を設けたアンテナ10の側面図を示す。導体素子13に制御素子131が設けられる場合、制御素子131を制御する制御線132を導体素子13に接続する。制御線132からの制御信号によって制御素子131のリアクタンスやインダクタンスを制御することができる。ここで、制御線132は、基板20と直交する方向に配置することで、パッチアンテナ11の利得低下が抑制される。
【0024】
図13は、制御素子131を設けた導体素子13を模式的に示す図である。
図13(A)は、制御素子131として可変インダクタ1311を設けた導体素子13を模式的に示す。また、
図13(B)は、制御素子131として可変コンデンサ1312を設けた導体素子13を模式的に示す。
図13(A)、(B)に例示するように、可変インダクタ1311や可変コンデンサ1312は、例えば、導体素子13の途中部分に設けられれば良い。そして、制御線132からの制御信号によって可変インダクタ1311のインダクタンスや可変コンデンサ1312の静電容量を制御(すなわち、リアクタンスを制御)することで、アンテナ10のビームのピーク方向を制御することができる。
【0025】
<比較例>
図14は、比較例に係るアンテナ装置500の一例を示す図である。アンテナ装置500は、パッチアンテナ11が並べられた整列方向L1に対して傾けずにパッチアンテナ11が配置されるとともに、導体素子13を備えない点で、実施形態に係るアンテナ装置1とは異なる。アンテナ装置500は、パッチアンテナ11を一列に整列したアレーアンテナである。
【0026】
図15は、比較例に係るアンテナ装置500のパッチアンテナ11が放射する電波の強度分布を例示する図である。アンテナ装置500のパッチアンテナ11は、極角0度の方向に強い電波を放射していることが理解できる。
図16は、比較例におけるパッチアンテナ11の放射パターンを例示する図である。アンテナ装置500は、ビームフォーミングによって電波のピーク方向を整列方向L1に沿う方向に走査することができる。すなわち、アンテナ装置500は、電波のピーク方向を基板20の長手方向に沿う方向に走査することができる。
【0027】
図17は、整列方向L1にビームを走査する際、比較例に係るアンテナ装置500のパッチアンテナ11が放射する電波の強度分布(dBi)を例示する図である。
図17において、縦軸は3次元極座標における極角を示し、横軸は方位角を示す。すなわち、
図17において、極角90度より大きい範囲(図の上側)は基板20の裏側を示し、極角90度より小さい範囲(図の下側)は基板20の表側(パッチアンテナ11が配置された側)を示す。
【0028】
図18は、比較例に係るアンテナ装置500のカバレッジ範囲と利得の関係を示す図である。また、
図19は、実施形態に係るアンテナ装置1のカバレッジ範囲と利得の関係を示す図である。
図18及び
図19の縦軸はカバレッジ範囲を示し、横軸は利得を示す。
図18及び
図19においてカバレッジ範囲は累積分布関数(cumulative distribution function、CDF)によって示される。そして、
図20は、
図18及び
図19を基に比較例に係るアンテナ装置500と実施形態に係るアンテナ装置1とのカバレッジ範囲及び利得を比較する表である。比較例に係るアンテナ装置500では、CDF利得20%で-16.3dBi、CDF利得50%で-7.1dBi、最大利得が14.3dBiとなっている。一方、実施形態に係るアンテナ装置1では、CDF利得20%で-11.1dBi、CDF利得50%で-3.5dBi、最大利得14.2dBiとなっている。すなわち、本実施形態に係るアンテナ装置1は、比較例に係るアンテナ装置500よりも高い利得を実現するカバレッジ範囲が広くなっていることが理解できる。
【0029】
図21は、比較例に係るアンテナ装置500を実装したスマートフォンを例示する図である。
図21では、略直方体に形成されたスマートフォンの筐体を点線で示し、筐体内に実装されたアンテナ装置500を実線で示している。
図21では、3つのアンテナ装置500がスマートフォンに実装されている。スマートフォンに実装されたアンテナ装置500のうちの2つのアンテナ装置500は、電波の出射方向を筐体の側面に向けて配置される。スマートフォンに実装されたアンテナ装置500のうちの1つのアンテナ装置500は、電波の出射方向を筐体の底面に向けて配置される。上記の通り、アンテナ装置500は、基板20の長手方向に沿う方向にビームのピーク方向を走査する。そのため、例えば、電波の出射方向を筐体の側面に向けて配置されたアンテナ装置500は、筐体の厚み方向にピーク方向を走査することはできない。
【0030】
図22は、本実施形態に係るアンテナ装置1を実装したスマートフォン300を例示する図である。実施形態に係るアンテナ装置1では、上記の通り、ビームフォーミングによるビームの走査方向を整列方向L1からずらすことができる。そのため、アンテナ装置1がスマートフォン300に実装された場合、電波の出射方向を筐体の側面に向けて配置されたアンテナ装置1であっても、筐体の厚み方向にピーク方向を走査することが可能となる。
【0031】
<実施形態の作用効果>
本実施形態によれば、導体素子13を配置することで、アンテナ装置1のビームフォーミングの方向を整列方向L1に沿った方向から配置方向L2に沿った方向に変更することができる。そのため、本実施形態に係るアンテナ装置1は、比較例に係るアンテナ装置500によるビームフォーミングではカバーできなかった範囲をカバーすることができる。
【0032】
導体素子13を備えるアンテナ装置1は、
図18及び
図19を参照して説明したように、比較例に係るアンテナ装置500よりも高利得の範囲が広くなっている。そのため、本実施形態によれば、アンテナ装置1のカバレッジ範囲を改善することができる。
【0033】
図4(A)、(B)に例示したように、延長領域R1内に導体素子13を配置してしまうと、パッチアンテナ11の利得が低下する虞がある。本実施形態では、アンテナ10の夫々において、導体素子13は隣に配置されたアンテナ10の延長領域R1の外に配置される。このように導体素子13が配置されることで、導体素子13を設けることによるパッチアンテナ11の利得の低下が抑制されるのみならず、
図20を参照して説明したようにアンテナ装置11のカバレッジ範囲が改善される。
【0034】
<第1変形例>
以上説明した実施形態では、整列方向L1に対して配置方向L2を傾けることで、隣り合ったアンテナ10の導体素子13を延長領域R1外に配置した。第1変形例では、実施形態とは異なる配置で隣り合ったアンテナ10の導体素子13を延長領域R1外に配置する例について説明する。
【0035】
図23は、第1変形例に係るアンテナ装置1aの一例を示す図である。
図23は、アンテナ装置1aを平面視した図である。アンテナ装置1aでは、整列方向L1と配置方向L2とが平行である。すなわち、整列方向L1と配置方向L2との角度は0度である。アンテナ装置1aでは、隣り合ったアンテナ10の位置を基板20の高さ方向にずらすことで、隣り合ったアンテナ10の導体素子13を延長領域R1外に配置する。このような配置によっても、導体素子13を設けることによるパッチアンテナ11のカバレッジ範囲が改善される。
【0036】
<第2変形例>
以上説明した実施形態では、偏波面がひとつの場合について説明した。第2変形例では偏波面が2つの場合について説明する。
図24は、第2変形例に係るアンテナ装置1bの一例を示す図である。
図24は、アンテナ装置1bを平面視した図である。実施形態に係るアンテナ装置1では、一組の導体素子13がパッチアンテナ11を挟むように配置された。第2変形例に係るアンテナ装置1bでは、二組の導体素子13がパッチアンテナ11を挟むように配置されたアンテナ10aを備える。そして、パッチアンテナ11を挟むように配置される一方の組の導体素子13の配置方向L2と他方の組の導体素子13の配置方向L4とは直交する。配置方向L2と配置方向L4とが直交するように2組の導体素子13を配置することで、アンテナ装置1bは2つの偏波面に対応することができる。すなわち、アンテナ装置1bは、ビームフォーミングのピーク方向を、配置方向L2の方向及び配置方向L4の方向に走査することができる。
【0037】
ここで、2組の導体素子13の配置について検討する。
図25及び
図26は、アンテナ10の整列方向L1と導体素子13の配置方向L2との角度を変えたバリエーションを示す図である。
図25(A)では整列方向L1と配置方向L2との角度は0度であり、
図25(B)では整列方向L1と配置方向L2との角度は15度である。
図26(A)では整列方向L1と配置方向L2との角度は30度であり、
図26(B)では整列方向L1と配置方向L2との角度は60度であり、
図26(C)では整列方向L1と配置方向L2との角度は75度である。なお、
図25及び
図26の夫々では図面の煩雑化を避けるため一つの導体素子13についての延長領域R1を図示しているが、
図3に例示するように延長領域R1はすべての導体素子13について形成される。
【0038】
整列方向L1と配置方向L2との角度が0度(
図25(A))、15度(
図25(B))及び75度(
図26(C))の場合では、あるアンテナ10aの導体素子13は隣に配置されたアンテナ10aの延長領域R1内に導体素子13が配置される。そのため、導体素子13の影響でパッチアンテナ11の利得が低下する虞がある。一方、整列方向L1と配置方向L2との角度が30度(
図26(A))、45度(
図24)、60度(
図26(B))の場合には、あるアンテナ10aの導体素子13は隣に配置されたアンテナ10aの延長領域R1外に導体素子13が配置される。そのため、導体素子13を配置してもパッチアンテナ11の利得が改善される。すなわち、導体素子13を配置することによるアンテナ装置1bの利得を改善するには、整列方向L1と配置方向L2との角度が30度以上かつ60度以下であることが好ましい。
【0039】
<その他の変形>
以上説明した実施形態や変形例では、矩形のパッチアンテナ11が採用されたが、パッチアンテナ11は他の形状であってもよい。パッチアンテナ11は、例えば、円形、三角形、5角形以上の多角形であってもよい。
【0040】
以上で開示した実施形態や変形例は夫々組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0041】
1、1a、1b・・アンテナ装置
10、10a・・アンテナ
11・・パッチアンテナ
12・・給電点
13・・導体素子
20・・基板
131・・制御素子
132・・制御線
300・・スマートフォン
500・・アンテナ装置
1311・・可変インダクタ
1312・・可変コンデンサ
L1・・整列方向
L2・・配置方向
L3・・線分
L4・・配置方向
D1・・整列間隔
S1・・辺長
N1・・法線
R1・・延長領域
P1、P2・・頂点
A1、A2、A3・・矢印