(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】高靭性再生セルロース系繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 2/06 20060101AFI20250618BHJP
C08B 1/00 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
D01F2/06 Z
C08B1/00
(21)【出願番号】P 2023542009
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 IB2022050173
(87)【国際公開番号】W WO2022153170
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】202111001298
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】512082772
【氏名又は名称】グラシム インダストリーズ リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】520197413
【氏名又は名称】ナノロース リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ディーピカー・グプタ
(72)【発明者】
【氏名】マンズールアハマド・シャイフ
(72)【発明者】
【氏名】ニティーン・デシュムク
(72)【発明者】
【氏名】パラグ・パティル
(72)【発明者】
【氏名】ウェイン・モーリス・ベスト
(72)【発明者】
【氏名】カレン・ジョイ・ブリース
(72)【発明者】
【氏名】マディアン・モハマド・ジンザーリ
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0369786(US,A1)
【文献】特開昭59-228012(JP,A)
【文献】特開昭54-116421(JP,A)
【文献】特開昭62-036467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B1/00-37/18
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系原料から調製された高靱性再生セルロース系繊維であって、前記セルロース系原料は、
- 450~2000の範囲の重合度を有する前処理バクテリアセルロース
であって、酸化剤、酸、アルカリおよびそれらの混合物からなる群から選択される前処理剤で処理されたバクテリアセルロースを含む前処理バクテリアセルロース5~100重量%;および
- 溶解グレードパルプ、竹パルプ、麻、リサイクル綿パルプ、再生利用セルロース系材料およびそれらの混合物からなる群から選択される追加のセルロース系材料0~95重量%;
を含み、
前記繊維は、ASTM D 3822に従って測定して、少なくとも4.5グラム/デニールの靱性および少なくとも10%の伸びを有する、高靱性再生セルロース系繊維。
【請求項2】
前記前処理バクテリアセルロースの重合度が500~1500の範囲である、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
前記高靭性再生セルロース系繊維が0.6~2.0デニールの範囲の平均線密度を有する、請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
ASTM D 3822に従って測定して、少なくとも4.5グラム/デニールの靱性および少なくとも10%の伸びを有する高靱性再生セルロース系繊維を調製する方法であって、
(a)バクテリアセルロースを前処理工程に供して、450~2000の範囲の重合度を有する前処理バクテリアセルロースを得る工程であって、前記前処理工程は、バクテリアセルロースを、酸化剤、酸、アルカリおよびそれらの混合物からなる群から選択される前処理剤で処理することを含む、工程;
(b)セルロース系原料の総重量に基づいて、5~100重量%の前記前処理バクテリアセルロースと、溶解グレードパルプ、リサイクル綿パルプ、再生利用セルロース系材料およびそれらの混合物からなる群から選択される0~95重量%の追加のセルロース系材料と、を含むセルロース系原料を溶媒と混合することによって予備混合を調製し、続いて溶解装置で前記セルロースを溶解してドープ溶液を得る、工程;
(c)前記ドープ溶液を微細なオリフィスを通して押し出し、続いてエアギャップ紡糸し、紡糸浴内で再生して、前記再生セルロース系繊維を得る、工程
を含む、方法。
【請求項5】
工程(a)で得られる前記前処理バクテリアセルロースの重合度が500~1500の範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理工程が、前記バクテリアセルロース中の金属不純物の量を低減するための追加の処理を含み、前記処理が前記バクテリアセルロースをキレート剤で処理することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記前処理剤が、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、過酸化水素、オゾンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される酸化剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記前処理剤が、硫酸(H
2SO
4)、塩酸(HCl)、硝酸(HNO
3)およびリン酸(H
3PO
4)、シュウ酸、ギ酸、酢酸並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記前処理剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるアルカリである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびジエチレントリアミンペンタ(DTMPA)からなる群から選択される、請求項
6に記載の方法。
【請求項11】
前記前処理工程が、30~100℃の範囲の温度で、1~20時間の範囲の時間行われる、請求項4または6に記載の方法。
【請求項12】
前記前処理工程の後、前記前処理バクテリアセルロースを洗浄工程に供する、請求項4または6に記載の方法。
【請求項13】
前記前処理バクテリアセルロースをサイズ縮小工程に供する、請求項4、6または12に記載の方法。
【請求項14】
前記予備混合が、工程(b)において、0~6時間の間、25℃~90℃の間の温度でせん断を加えてまたは加えずに、前記セルロース系原料と前記溶媒とを混合することによって調製される、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記溶媒が、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)、イオン液体、ジメチルスルホキシド/塩化カルシウムおよびジメチルアセトアミド/塩化リチウムからなる群から選択される、請求項4または14に記載の方法。
【請求項16】
前記予備混合が、TiO
2、界面活性剤、顔料およびカーボンブラックからなる群から選択される添加剤をさらに含む、請求項4または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バクテリアセルロースから得られる高靭性再生セルロース系繊維および前記繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材パルプや他の植物由来のセルロースから繊維を製造することが知られている。セルロースの原料にはさまざまな可能性があるが、最も使用されているのはすべて植物由来であり、植物材料を時間とエネルギーを消費する抽出プロセスに供してセルロースパルプを製造している。例えば、木材からセルロースパルプを生成するには、樹皮を剥いでチップ化した後、高温の水酸化ナトリウム/硫化ナトリウムで木材チップを処理する必要がある。集中的な林業とそれに関連するインフラストラクチャは資源を大量に消費するため、産業界におけるセルロース原料の需要増に対応するための課題となっている。
【0003】
バクテリアセルロース(微生物セルロースとしても知られている)は、従来の植物由来のセルロース源に代わる、より持続可能な可能性のあるセルロース源を提供する。さらに、バクテリアセルロースは、通常リグニンやヘミセルロースが混入している植物由来のセルロースよりもはるかに高い純度で容易に入手できる。
【0004】
バクテリアセルロースは、さまざまなバクテリア、特にアセトバクター属、グルコノバクター属、グルコンアセトバクター属、コマガタエイバクター属のバクテリアによる発酵プロセスを使用して調製され、炭水化物やアルコールなどのさまざまな炭素源に作用する。バクテリアセルロースは、高度に一軸配向したセルロースナノファイバー(3~8nm)の超微細ネットワークで構成されている。このタイプの3D構造により、バクテリアセルロースは約60~80%という高い結晶化度と優れた物理化学的および機械的特性を実現している。
【0005】
バクテリアセルロースの生成は、例えば「Hestrin and Schramm,Biochemical Journal 1954,58(2),345~352」、「Iguchi et al.,Journal of Materials Science 2000,35,261~270」、「Wu and Li,Journal of Bioscience and Bioengineering 2015,120(4),444~449」、「Basu et al.,Carbohydrate Polymers 2019,207,684~693」などの文献に詳しく記載されている。
【0006】
バクテリアセルロースは、生物医学、食品産業、製紙、化粧品、製薬などのさまざまな分野で応用されている。現在、ファッション業界はますます「エコ主導」になり、「持続可能な衣料品」を推進している。天然および再生可能資源に基づく紡織繊維は、従来の石油由来の代替品と比較して環境に優しいものの、より高価であり、環境への影響がないわけではない。規制と市場の力は、環境に優しく、コスト効率の高いソリューションを常に求めている。バクテリアセルロースは、植物由来のセルロース系繊維に代わる、環境に優しく持続可能な有望な代替品である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、バクテリアセルロースが繊維の製造に使用されているという報告は非常に限られている。バクテリアセルロースを使用したリヨセル繊維の効率的な製造プロセスはまだ開発されていない。
【0008】
「Makarov et al,Fiber Chemistry,Vol.51,No.3,September,2019」には、固相溶解法によるセルロース系フィルムの製造が開示されている。NMMOへのバクテリアセルロースの溶解を促進し、8%溶液を達成するには、固相活性化が必要であった。N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)一水和物における固相溶解法を使用した後でも、バクテリアセルロースの完全な溶解は達成できなかった。溶液の調製時間も約12時間と長くかかった。重合度が高いため、得られたバクテリアセルロース-NMMO溶液の粘度は約105Pa・sと非常に高く、繊維の紡糸が困難であった。粘度が高いため、NMMO中のバクテリアセルロース濃度は6%に制限され、このようにして形成されたセルロース繊維の靱性はわずか3.8g/d、伸びは6.6%で、標準的なリヨセル繊維よりも大幅に低かった。
【0009】
「Shanshan et al.,Carbohydrate Polymers Vol.87(2012)pages1020~1025」には、転相技術によるNMMO中のバクテリアセルロースからフィルムを作製して形成されたままのバクテリアセルロースペリクルの溶解を達成することが開示されている。バクテリアセルロース溶液は、バクテリアセルロース含量が3%という低さで調製された。
【0010】
「Gao et al.,Carbohydrate Polymers2011,83(3),1253~1256」では、重合度2,700のバクテリアセルロースの使用について報告している。セルロース濃度7%のドープを調製するために高速エネルギー集中撹拌を行いながら80℃で12時間の長時間溶解を行ったため、NMMOへの溶解性は困難であるようであった。さらに、このドープから紡糸して得られた繊維は、典型的なリヨセル繊維の靱性約4.0~4.4g/dと比較して、わずか0.5~1.69g/dの低い靱性を有していた。
【0011】
中国特許第101492837号明細書には、1500~16000の高重合度を有するバクテリアセルロースを使用し、イオン液体などの適当な溶媒に溶解して1~30%の範囲の溶液を調製し、次に濾過してから紡糸することによって、再生バクテリアセルロース繊維を調製する方法が記載されている。
【0012】
国際公報第00/23516号には、溶解または非溶解形態で0.01~5%の範囲の組成で植物由来のセルロースとともにバクテリアセルロースを使用することが記載されている。
【0013】
中国特許出願公開第101230494号明細書には、「天然」セルロース、バクテリアセルロース、ケナフ、麻、ジュート、亜麻などを含むさまざまな高重合度および低重合度のセルロースの複雑な混合物をポリアクリロニトリルと組み合わせて使用することが記載されている。セルロース混合物とポリアクリロニトリルはイオン液体に溶解するが、NMMOには溶解しない。低重合度および高重合度のバクテリアセルロースを、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド中で亜麻およびポリアクリロニトリルと組み合わせて使用すると、2.6g/dの靱性を持つ繊維が生成された。
【0014】
バクテリアセルロースを使用する従来知られている技術は、環境に優しい再生セルロース系繊維の製造において応用が限られているか、まったく応用されていない。また、このような方法は、セルロース溶液の濃度が低い、溶解時間が長い、セルロース溶液の粘度が高いなどの欠点に直面している。さらに、バクテリアセルロースを使用して得られる従来知られている繊維は、標準的なリヨセル繊維と比較して、より低い靭性を示す。
【0015】
高靱性再生セルロース系繊維が開示される。前記高靱性再生セルロース系繊維はセルロース系原料から調製され、前記セルロース系原料は、450~2000の範囲の重合度を有する前処理バクテリアセルロース5~100重量%;および、溶解グレードパルプ、リサイクル綿パルプ、再生利用セルロース系材料およびそれらの混合物からなる群から選択される追加のセルロース系材料0~95重量%;を含む。前記繊維は、ASTM D 3822に従って測定して、少なくとも4.5グラム/デニールの靱性および少なくとも10%の伸びを有する。
【0016】
ASTM D 3822に従って測定して、少なくとも4.5グラム/デニールの靱性および少なくとも10%の伸びを有する前記再生セルロース系繊維を調製する方法も開示される。前記方法は、バクテリアセルロースを前処理工程に供して、450~2000の範囲の重合度を有する前処理バクテリアセルロースを得る工程であって、前記前処理工程は、バクテリアセルロースを、酸化剤、酸、アルカリおよびそれらの混合物からなる群から選択される前処理剤で処理することを含む、工程;セルロース系原料の総重量に基づいて、5~100重量%の前記前処理バクテリアセルロースと、溶解グレードパルプ、リサイクル綿パルプ、再生利用セルロース系材料およびそれらの混合物からなる群から選択される0~95重量%の追加のセルロース系材料と、を含むセルロース系原料を溶媒と混合することによって予備混合を調製し、続いて溶解装置で前記セルロースを溶解してドープ溶液を得る、工程;および、微細なオリフィスを通して調製された前記ドープ溶液を押し出し、続いてエアギャップ紡糸し、紡糸浴内で再生して、前記再生セルロース系繊維を得る、工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の原理の理解を促進するために、ここで実施形態を参照し、具体的な言語を使用してそれを説明する。それにもかかわらず、本開示の範囲の限定はそれによって意図されるものではなく、開示された組成物および方法におけるそのような変更およびさらなる改変、ならびに本開示の原理のそのようなさらなる適用は、本開示が関連する技術分野の当業者に通常生じるであろうものとして企図されることが理解されるであろう。
【0018】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、本開示の例示および説明であり、本開示を限定することを意図したものではないことは、当業者には理解されよう。
【0019】
本明細書全体を通じて「一実施形態(one embodiment)」「一実施形態(an embodiment)」または同様の用語への言及は、その実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて「一実施形態において(in one embodiment)」、「一実施形態において(in an embodiment)」という語句および類似の文言の出現は、同じ実施形態を指す場合があるが、必ずしもそうである必要はない。
【0020】
本明細書で使用する「バクテリアセルロース」という用語は、様々な微生物、特にアセトバクター属、グルコノバクター属、グルコンアセトバクター属およびコマガタエイバクター属のバクテリアによる発酵プロセスを使用してセルロースが調製され、炭水化物やアルコールなどのさまざまな炭素源に作用することを意味することを意図する。本開示で使用されるバクテリアセルロースは、インド国外のさまざまな商業的供給源から入手した。
【0021】
本明細書で使用する「靭性」という用語は、繊維の極限(破断)力(グラム力単位)をデニールで割ったものを意味することを意図している。
【0022】
本明細書で使用される「伸び」という用語は、破断点での伸びを意味することを意図している。
【0023】
最も広い範囲において、本開示は、バクテリアセルロースから得られる高靱性再生セルロース系繊維および前記繊維の製造方法に関する。特に、本発明は、セルロース系原料から調製された高靱性再生セルロース系繊維であって、前記セルロース系原料は、450~2000の範囲の重合度を有する前処理バクテリアセルロース5~100重量%;および溶解グレードパルプ、竹パルプ、麻、リサイクル綿パルプ、再生利用セルロース系材料およびそれらの混合物からなる群から選択される追加のセルロース系材料0~95重量%;を含み、前記繊維は、ASTM D 3822に従って測定して、少なくとも4.5グラム/デニールの靱性および少なくとも10%の伸びを有する、高靱性再生セルロース系繊維に関する。
【0024】
本開示はまた、前述の高靱性再生セルロース系繊維を調製する方法を提供する。この方法は:
(a)バクテリアセルロースを前処理工程に供して、450~2000の範囲の重合度を有する前処理バクテリアセルロースを得る工程であって、前記前処理工程は、バクテリアセルロースを、酸化剤、酸、アルカリおよびそれらの混合物からなる群から選択される前処理剤で処理することを含む、工程;
(b)セルロース系原料の総重量に基づいて、5~100重量%の前記前処理バクテリアセルロースと、溶解グレードパルプ、竹パルプ、麻、リサイクル綿パルプ、再生利用セルロース系材料およびそれらの混合物からなる群から選択される0~95重量%の追加のセルロース系材料と、を含むセルロース系原料を溶媒と混合することによって予備混合を調製し、続いて溶解装置で前記セルロースを溶解してドープ溶液を得る、工程;および
(c)微細なオリフィスを通して調製される前記ドープ溶液を押し出し、続いてエアギャップ紡糸し、紡糸浴内で再生して、前記再生セルロース系繊維を得る、工程、
を含む。
【0025】
本発明者らは、バクテリアセルロースの重合度をその自然レベル(約2500~10000)から450~2000の範囲、特に500~1500の範囲の最適な重合度まで低下させることにより、高い靭性と伸びを有する再生セルロース系繊維の製造が可能になることを見出した。特に、最適化された重合度を有するバクテリアセルロースを使用することにより、溶媒への溶解性が向上し、低粘度であってセルロース濃度が約9~15%の高濃度のバクテリアセルロース溶液が得られることがわかった。これにより、高い靭性と伸びを有する繊維のような再生セルロース系成形体の形成が可能になる。
【0026】
一実施形態によれば、前処理バクテリアセルロースは、450~2000の範囲の重合度を有する。いくつかの実施形態では、前処理バクテリアセルロースは、500~1500の範囲の重合度を有する。
【0027】
一実施形態によれば、前処理バクテリアセルロースを得るために、鉱酸、有機酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される酸を使用してバクテリアセルロースの前処理が行われる。鉱酸としては、硫酸(H2SO4)、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、リン酸(H3PO4)などが挙げられ、有機酸としては、シュウ酸、ギ酸、酢酸などが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態によれば、前処理は次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を使用して実行される。一実施形態によれば、前処理は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムを含むがこれらに限定されないアルカリを使用して行われる。一実施形態によれば、前処理は、バクテリアセルロースの重合度をさらに低下させるために、1つ以上の酸、アルカリ、及び酸化剤の組み合わせを使用して実行される。
【0028】
一実施形態によれば、前処理剤は0.1~10%の範囲の濃度で使用される。いくつかの実施形態では、前処理剤の濃度は0.5~5%の間で変動する。液体に対する材料の比率(MLR)は8~40の範囲に維持される。
【0029】
一実施形態によれば、前処理工程は、バクテリアセルロースからの鉄(Fe)などの金属不純物の量を低減するための追加の処理を含む。この処理は、Feの含有量を20ppm未満に低減するために行われる。いくつかの実施形態では、この処理は、Feの含有量を10ppm未満に低減するために実行される。前記追加の処理は、バクテリアセルロースをキレート剤で処理することを含む。任意の既知のキレート剤を使用することができる。一実施形態によれば、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびジエチレントリアミンペンタ(DTMPA)からなる群から選択される。前記キレート剤は、バクテリアセルロースの重量に基づいて0.1~0.8重量%の範囲の濃度で使用される。キレート剤は、前処理剤の添加前、添加中、または添加後に添加される。バクテリアセルロースの鉄含有量を減らすと、NMMO溶媒の分解が減少し、高温でのバクテリアセルロースの溶解が可能になる。
【0030】
一実施形態によれば、前処理工程は30~100℃の範囲の温度で実行される。いくつかの実施形態では、前処理工程は50~90℃の範囲の温度で実行される。一実施形態によれば、前処理工程は、15分~20時間の範囲の期間実行される。いくつかの実施形態では、前処理は2.5~4.5時間の期間実施される。前処理は、1つ、2つ、または複数の工程で実行される。前処理を複数の段階で行うことにより、重合度の低下と、鉄分の効率的な除去を制御することができる。
【0031】
一実施形態によれば、前処理工程の後、前処理バクテリアセルロースは洗浄工程に供される。洗浄工程は、冷温または高温の純水による複数回の洗浄から構成される。いくつかの実施形態では、高温の純水が使用される。
【0032】
一実施形態によれば、前処理バクテリアセルロースは、サイズ縮小工程にさらに供される。前記サイズ縮小工程は、高速ミキサー、ボールミル、シュレッダーなどで実施することができる。サイズ縮小工程は、本方法の工程(b)における溶媒へのバクテリアセルロースの溶解を促進する。
【0033】
一実施形態によれば、追加のセルロース材料は、溶解グレードパルプ、再生利用セルロース系材料、リサイクル綿、並びに竹および麻を含む他の植物由来のセルロースパルプからなる群から選択される。追加のセルロース系材料は、0~95重量%の範囲の量で添加される。一実施形態によれば、前記追加のセルロース系材料は、500~2000の範囲の重合度を有する。具体的には、重合度500~700の溶解グレードパルプと織物綿廃棄物の精製から調製される重合度500~2000のリサイクル綿を使用する。
【0034】
一実施形態によれば、工程(b)において、セルロース系原料を溶媒と混合することによって予備混合が調製される。ここで、予備混合は、セルロースの溶解が起こらず、セルロースが溶媒を均一に吸収する温度および圧力条件下で、セルロース系原料と65~80%(w/w)の水性溶媒とを必要な割合で混合することによって調製される。一実施形態によれば、予備混合は、0~6時間の間行われる。いくつかの実施形態では、予備混合の時間は0~60分間、特に10~40分間に維持される。予備混合中、得られた前処理バクテリアセルロースと追加のセルロース系材料と溶媒との混合物は、25~90℃の温度でせん断の有無にかかわらずそのまま放置される。これにより、溶媒へのセルロースの溶解が促進される。次いで、予備混合を90~110℃の範囲の温度で高せん断混合に供し、続いて90~115℃の範囲の高温および低圧で水を蒸発させて混合物から過剰な水を除去し、セルロース含有量が約9~15wt%であるセルロース溶液を得る。
【0035】
一実施形態によれば、予備混合は、TiO2、界面活性剤、顔料、カーボンブラックなどの添加剤をさらに含む。
【0036】
次の工程では、当技術分野で知られている標準的なリヨセルプロセスに従って、予備混合の溶解が実行される。一実施形態によれば、溶解は、溶解装置内の予備混合を70~115℃、特に90~110℃の範囲の高温に、約500~750mmHgの真空下に供することによって行われる。一実施形態によれば、溶解装置は、シグマミキサー、リアクターニーダー、ワイプドフィルムエバポレーターなどからなる群から選択される。溶媒は、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)、イオン液体、ジメチルスルホキシド/塩化カルシウム、およびジメチルアセトアミド/塩化リチウムからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、溶媒はNMMOである。
【0037】
一実施形態によれば、工程(b)で得られたドープ溶液は、典型的な振動レオメータを使用して測定すると、102~104Pa・sの範囲の粘度を有する。
【0038】
次の工程では、溶液の粘度に応じて、ドープ溶液が105℃±20℃の範囲の温度で適切なノズルを通して押し出される。押し出された溶液はエアギャップ紡糸に供され、紡糸浴内に再生される。紡糸浴は、水中で5~30重量%の範囲の濃度の溶媒を含む。繊維は引き出され、任意に短繊維に切断され、洗浄され、漂白され、仕上げられ、乾燥される。
【0039】
一実施形態によれば、得られた高靱性再生セルロース系繊維は、流れおよび紡糸速度に応じて、0.6~2.0デニールの範囲の平均線密度を有する。
【0040】
本開示の範囲から逸脱することなく、本開示の方法/プロセスに対して様々な修正および変形を行うことができることは、当業者には明らかであろう。他の実施形態は、本明細書に開示される方法/プロセスの仕様および実施を考慮することにより、当業者には明らかとなるであろう。明細書および実施例は例示としてのみ考慮され、本開示の真の範囲は以下の特許請求の範囲およびその均等物によって示されることが意図されている。
【実施例】
【0041】
重合度(DP)の推定
前処理バクテリアセルロースの場合:前処理バクテリアセルロースの重合度は、ISO規格番号ISO5351:2010に従って、希銅エチレンジアミン(CED)溶液に溶解したセルロースの極限粘度を測定することによって推定される。前記方法では、既知量のセルロースをCED溶液に溶解し、粘度計を使用してサンプル溶液と溶媒の粘度を測定する。極限粘度はISO法に従って計算される。重合度は式[1]で与えられる実験式によって推定される。
DP=1.7806[η]-94.799 式[1]
ここで、[η]は極限粘度、DPは重合度である。
【0042】
実施例1:バクテリアセルロースの分離
バクテリアセルロースのペリクルはナタデココ生産から採取され、表面から薄膜を物理的に削り取り、ペリクルを水で洗浄することによってきれいにされた。ペリクルは約36cm×24cmで、湿った状態での平均重量は685gであった。乾燥後、得られたバクテリアセルロースのシートの平均重量は7gであった。シート(1kg)をクロスカットペーパーシュレッダーで細断して小さなフレーク(約3mm×8mm)にし、これをTween80(0.4L)とNaOH(0.9kg)を含む熱水(90℃で40L)に加え、15分間にわたって時々撹拌した。ナイロンメッシュを通して濾過することによってフレークを集め、プレスして余分な液体を除去した。次いで、フレークを、時々撹拌しながら熱水(90℃で40L)中で15分間洗浄した。ナイロンメッシュを通して濾過することによってフレークを再度収集し、プレスして過剰な液体を除去した。この熱水中での洗浄サイクルを繰り返し、得られたフレークを水(室温で40L)に加えた。次いで、50%w/w硫酸溶液を添加することによってpHを6に調整し、15分間にわたって時々撹拌した。フレークをナイロンメッシュで濾過して収集し、プレスして余分な液体を除去し、温風で乾燥させて、約1500のDP(極限粘度約873)の「バクテリアセルロースフレーク」を得た。
【0043】
実施例1a:バクテリアセルロースの分離
ナタデココ生産から得られたバクテリアセルロースのペリクルは、表面から薄膜を物理的に削り取り、ペリクルを水で洗浄することによってきれいにされた。ペリクルは約36cm×24cmで、平均して7グラムのバクテリアセルロースを含んでいる。湿潤ペリクル(100個)をブレンダー内で3分間浸軟し、得られたパルプを洗浄機/スピン乾燥機内のナイロンメッシュバッグに入れた。Tween80(0.4L)およびNaOH(0.6kg)を含む熱水(90℃で40L)を加え、内容物を15分間にわたって時々撹拌した。次いで、過剰な液体をスピン乾燥によって除去した。熱水(90℃で40L)を機械に加え、内容物を時折撹拌しながら15分間浸漬させた後、再度スピン乾燥させた。この洗浄/スピンのサイクルを繰り返し、水(室温で40L)を加えた。次いで、50%(w/w)硫酸溶液を添加することによってpHを6に調整し、15分間にわたって時々撹拌した。混合物を再びスピン乾燥させて、できるだけ多くの過剰な液体を除去した。得られたパルプをナイロン袋から取り出し、油圧プレスを使用して直径約22cmのディスクに成形し、残っている余分な液体を除去した。ディスクを温風で乾燥させた後、クロスカットペーパーシュレッダーで細断して、DP約2200(極限粘度約1300)の「バクテリアセルロースチップ」を得た。
【0044】
実施例2:NaOHを使用したバクテリアセルロースの前処理
2%(w/w)バクテリアセルロースフレーク(実施例1で得たもの)の混合物を水中で調製し、50%(w/w)NaOH溶液で処理して、最終NaOH濃度10%(w/w)およびセルロース充填1.6%(w/w)を製造した。反応混合物を60℃で16.2時間撹拌し、固体を真空濾過により収集した。湿潤フレークを約1:50のw/v比で水に添加して塩基性混合物を得、次いでこれを氷酢酸で中和した。次いで、固体を真空濾過によって収集し、オーブン内で70℃で一晩乾燥させた。この材料のDPは706(極限粘度450mL/g)であった。
【0045】
実施例3:NaOHを使用したバクテリアセルロースの前処理
バクテリアセルロースフレークを水中でパルプ化し、2.0%(w/w)セルロース懸濁液を提供した。50%(w/w)NaOH溶液をパルプに添加して、最終NaOH濃度18%(w/w)およびセルロース充填1.3%(w/w)を得た。次いで、反応混合物を60℃で1時間撹拌し、その後、固体を真空濾過によって収集し、ゴムセプタを嵌めた丸底フラスコ(使用したバクテリアセルロース1g当たり約25mL)に入れた。この工程により、DPは1500から973に減少した。この前処理混合物を使用した反応は、表1に記載されている時間間隔で磁気撹拌しながらフラスコを50℃の水浴に浸漬することによって進めた。表1に示す各時間間隔で、固体に水を加え、得られた塩基性混合物を氷酢酸で中和し、真空濾過して固体を単離し、水で洗浄した後、オーブン内で70℃で一晩乾燥させた。各時間間隔後の結果のDPを表1に列挙する。
【0046】
【0047】
実施例4:H
2
SO
4
を使用したバクテリアセルロースの前処理
水をバクテリアセルロースフレークに添加し、続いて硫酸を添加して、最終濃度1%(w/w)の硫酸およびセルロース充填4%(w/w)を生成した。次いで、反応混合物を表2に特定された時間間隔で75℃で加熱した。固体を真空濾過によって収集し、次いで約1:40のw/v比で水に添加し、混合物を10%(w/w)NaOH水溶液で中和した。次いで、固体を真空濾過によって収集し、水で洗浄した後、オーブン内で50℃で一晩乾燥させた。
【0048】
【0049】
実施例5:H
2
SO
4
を使用したバクテリアセルロースの前処理
初期DPが約1500(極限粘度が約873)で高Feレベル(38ppm)のバクテリアセルロースの秤量した量を、表3に特定される材料対液の比率1:30で水に添加し、その後、硫酸を加えて最終濃度0.5%(v/v)の硫酸を生成した。次いで、反応混合物を75℃の温度で4時間加熱した(表3)。固体を真空濾過によって収集し、続いて約1:40のw/v比で水に添加し、混合物を10%w/wのNaOH溶液で中和した。次いで、固体を真空濾過によって収集し、水で洗浄した後、オーブン内で50℃で一晩乾燥させた。得られたDPおよびFe含有量を表3に列挙する。
【0050】
実施例6:H
2
SO
4
を使用したバクテリアセルロースの前処理
実施例5のプロセスを用いたが、硫酸濃度を1%v/vとし、初期DP約1500のバクテリアセルロースに与えた。得られたセルロースのDPおよびFe含有量はそれぞれ、830および20ppmであり、表3に列挙されている。
【0051】
実施例7:H
2
SO
4
を使用したバクテリアセルロースの前処理
実施例6のプロセスを使用したが、処理温度を85℃に上昇させ、MLRを1:25に低下させた。得られたセルロースのDPおよびFe含有量はそれぞれ、650および18ppmであり、表3に列挙されている。
【0052】
実施例8および9:塩酸を使用したバクテリアセルロースの前処理
DPが約1600から2500、平均鉄含量が約76ppmのバクテリアセルロースを、0.5~1.5%(w/w)の範囲の濃度のHCLと、1:10~1:13の範囲のMLRで処理した。処理温度は75℃に維持し、処理時間は3~4時間の間で変化させた。処理後、混合物を10%NaOHで中和し、続いて洗浄、乾燥および細断した。得られたセルロースのDPおよびFe含有量を表3に列挙する。
【0053】
【表3】
表3:DPおよび鉄低減のための酸によるバクテリアセルロースパルプの前処理
【0054】
実施例10~12:次亜塩素酸ナトリウムを用いたバクテリアセルロースの前処理
DP約1500、Fe含有量約56ppmのバクテリアセルロースを、表4に特定されているように、1%w/w濃度の次亜塩素酸ナトリウムを用いて60℃でさまざまな時間、1:15のMLRで処理した。処理後、バクテリアセルロースは沸騰水で2~3回洗浄し、その後60℃の空気オーブン内で乾燥させた。得られたバクテリアセルロースは、表4に示すように、DPとFeが減少した。
【0055】
実施例13:次亜塩素酸ナトリウムおよびEDTAを使用したバクテリアセルロースの前処理
DP約1500、Fe含有量約56ppmのバクテリアセルロースを、1%w/w濃度の次亜塩素酸ナトリウムを用いて1:15のMLRで50分間処理し、続いて0.4wt%(乾燥パルプの重量に対して)EDTA溶液を用いて60℃で30分間で処理した。処理後、バクテリアセルロースを沸騰水で2~3回洗浄し、続いて60℃の空気オーブン内で乾燥させた。得られたバクテリアセルロースは、表4に示すように、DPとFeが減少している。
【0056】
【表4】
表4:次亜塩素酸ナトリウムによるバクテリアセルロースの処理
【0057】
実施例14:溶解グレードパルプ(DGP)を使用した繊維の調製(対照)
セルロース溶液は、予備混合を行わずに、標準的なリヨセル調製プロセスに従って、DP約600の標準DGPから調製する。調製したドープを紡糸して、デニールおよび靭性がそれぞれ1.18および4.3g/dの繊維にした。
【0058】
実施例15:処理バクテリアセルロースを用いたセルロース溶液の調製
セルロース溶液は、900のDP(極限粘度560mL/g)および40ppmのFe含有量を有する実施例10からの処理バクテリアセルロースを、NMMO内で50%重量比で溶解グレードパルプと40分間予備混合することによって調製した。セルロース濃度12%の溶液を76重量%のNMMO中で調製した。セルロースおよびNMMOを含む予備混合を、撹拌せずに40分間混合した。混合後、高せん断を適用してセルロース-NMMOスラリーを約100℃で調製した。当該技術分野で知られているセルロース-NMMO状態図に従って、スラリーを約110℃の温度および600mmHgの真空に供して水を除去した。得られたドープのゼロせん断粘度は、標準リヨセルドープ約103Pa・sの範囲内であることが分かった。
【0059】
実施例16:処理バクテリアセルロースを用いたセルロース溶液の調製
DPが688(極限粘度440mL/g)でありFe含有量が約20ppmである硫酸処理バクテリアセルロースを12重量%のセルロースパーセンテージで40分間予備混合し、次いで標準的なリヨセルプロセスに従って溶解することによって、セルロース溶液を調製した。得られた粘度は、標準リヨセルドープ約103Pa・sの範囲内であることが判明した。
【0060】
実施例17~21:処理バクテリアセルロースを用いたセルロース溶液の調製
DPが635(極限粘度410mL/g)でありFe含有量が<10ppmである硫酸処理バクテリアセルロースからのセルロース12.5%を含むセルロース溶液を、DPが600(極限粘度約390mL/g)である溶解グレードパルプと、10~100wt%の範囲で異なるブレンド比率で30分の短い予備混合時間でNMMO中に調製した。
【0061】
実施例20では、ドープを紡糸する際の延伸を増加させることにより、0.6という低い繊維微細ダイナー(fiber fine diners)を調製した。
【0062】
実施例22:高せん断混合に供したバクテリアセルロースを使用したセルロース溶液の調製
NMMO中の12.5重量%のセルロース溶液は、高せん断ミキサーで前処理されDPが1500(極限粘度873の範囲)であるバクテリアセルロースから調製され、前記バクテリアセルロースは過剰の水と混合され、その後、湿潤バクテリアセルロースがバクテリアセルロースの乾燥重量の4~5倍の水分を含むように、過剰の水が絞られる。湿潤パルプは、混合物中の湿潤バクテリアセルロースの比率が約10重量%になるように、溶解グレードパルプ(DP約600)とブレンドされた。次いで、前記混合物を、標準的なリヨセルプロセスに従ってセルロース溶液の調製に使用した。
【0063】
実施例23:処理バクテリアセルロースを用いたセルロース溶液の調製
12.5wt%のセルロース溶液は、DPが653(極限粘度420mL/g)でありFe含有量が約10ppmである硫酸処理バクテリアセルロースを、40wt%の量で60wt%のリサイクル綿パルプ(DP約650)と30分間予備混合し、その後、先に説明した標準的なリヨセルプロセスに従って溶解することによって調製される。
【0064】
実施例24:100%処理バクテリアセルロースからのセルロース溶液の調製
NMMO中の12wt%セルロース溶液は、HCLで処理され、DPが約830(極限粘度520mL/g)の100%バクテリアセルロースから、前に説明した標準的なリヨセルプロセスに従って調製された。
【0065】
実施例25:処理バクテリアセルロースを用いたセルロース溶液の調製
12.5wt%セルロース溶液は、DPが520(極限粘度340mL/g)でありFe含有量が約17ppmである塩酸処理バクテリアセルロースを、40%重量比で60wt%リサイクル綿パルプ(DP約650)と40分間予備混合し、その後、先に説明した標準的なリヨセルプロセスに従って溶解させることによって調製される。
【0066】
実施例14~25で形成されたバクテリアセルロース溶液を、溶液の粘度に応じて105℃±15℃の温度範囲で適切なノズルを通して押し出した。セルロース繊維は、紡糸口金およびエアギャップを通ってNMMO濃度が水中で20~22%の紡糸浴に通した後に再生された。実施例14~25で製造された繊維のプロセスの詳細および特性を以下の表5にまとめた。
【0067】
【0068】
観察:本開示の処理バクテリアセルロースを使用して製造された繊維は、溶解グレードのセルロースパルプから製造された従来のセルロース系繊維と比較して、同等以上の靭性および伸びを示すことが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
開示された高靱性再生セルロース系繊維はバクテリアセルロースから得られ、溶解グレードパルプから調製されたリヨセル繊維と比較して同様または改善された機械的特性を有する。この繊維は環境に優しく、植物由来のセルロース源への負担を軽減する。
【0070】
開示されたプロセスは、再生セルロース系繊維、特にリヨセル繊維の製造にバクテリアセルロースを使用するという課題に取り組むものである。開示されたプロセスは、バクテリアセルロースの重合度を低下させることができ、したがって繊維製造用のセルロース溶液の粘度を低下させることができる。開示されたプロセスは、金属不純物のレベルの低下とともにバクテリアセルロースの重合度の低下を可能にする。重合度および金属不純物の低下により、NMMOへのバクテリアセルロースの溶解が促進され、得られる溶液がリヨセル繊維の商業的生産に適したものになる。
【0071】
また、開示されたプロセスは、従来技術で開示されたプロセスと比較して、より短い予備混合時間を必要とする。
【0072】
開示されたプロセスは、典型的な振動レオメータを使用して測定される紡糸可能範囲の粘度を有する、約9から15%の高パーセンテージのバクテリアセルロースを含むセルロース溶液を調製することを可能にする。開示されたプロセスは、高温でのセルロースの分解を最小限に抑える。また、0.6デニールまでの極細デニールのリヨセル繊維を得ることができた。