(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】酸性ガス吸着材、酸性ガス吸着材を備えた構造体、酸性ガス吸着装置、酸性ガス回収装置、酸性ガス吸着材の製造方法、及びシート状構造体
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20250618BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20250618BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20250618BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20250618BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20250618BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20250618BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20250618BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
B01J20/26 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/34 H
B01D53/04 110
B01D53/04 220
C01B32/50
B32B5/18
B32B27/00 B
(21)【出願番号】P 2023555070
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2022035486
(87)【国際公開番号】W WO2023063050
(87)【国際公開日】2023-04-20
【審査請求日】2025-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2021169443
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022148614
(32)【優先日】2022-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 康壮
【審査官】炭 喜達
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225944(JP,A)
【文献】特表2014-530093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
B01D 53/02-53/12
C01B 32/00-32/991
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを含む多孔質シートを備え、
前記ポリマーは、アミノ基を有し、
前記多孔質シートは、前記ポリマーで構成された三次元網目状骨格を有
し、
前記ポリマーのガラス転移温度が40℃以下である、酸性ガス吸着材。
【請求項2】
ポリマーを含む多孔質シートを備え、
前記ポリマーは、アミノ基を有し、
前記多孔質シートは、前記ポリマーで構成された三次元網目状骨格を有し、
二酸化炭素、窒素及び水蒸気から構成された混合ガスに15時間接触させたときの二酸化炭素の吸着量が0.1mmol/cm
3
以上である、酸性ガス吸着材。
ここで、前記混合ガスにおける前記二酸化炭素の濃度が400volppmであり、前記混合ガスは、温度が20℃であり、湿度が50%RHである。
【請求項3】
前記多孔質シートは、三次元状に連続して形成されている連続孔を含む、請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材。
【請求項4】
前記多孔質シートが前記ポリマーを主成分として含む、請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材。
【請求項5】
前記アミノ基が2級アミノ基を含む、請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材。
【請求項6】
前記ポリマーは、アミンモノマーに由来する構成単位を含むエポキシポリマーである、請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材。
【請求項7】
前記多孔質シートの比表面積が1.0m
2/g以上である、請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材。
【請求項8】
前記多孔質シートの空隙率が20%以上である、請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材。
【請求項9】
前記多孔質シートを支持する支持体をさらに備えた、請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材。
【請求項10】
平板形状又はコルゲート形状を有する、請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材。
【請求項11】
請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材と、
通気経路と、
を備えた、構造体。
【請求項12】
ガス入口と、ガス出口とを有する吸着部を備え、
前記吸着部は、請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材を収容している、酸性ガス吸着装置。
【請求項13】
請求項1
又は2に記載の酸性ガス吸着材と、
媒体経路と、
を備え、
前記酸性ガス吸着材が吸着している酸性ガスを前記酸性ガス吸着材から脱離させる脱離運転時に、前記酸性ガス吸着材を加熱する熱媒体が前記媒体経路を通過する、酸性ガス回収装置。
【請求項14】
前記媒体経路は、前記酸性ガス吸着材の厚さ方向に前記酸性ガス吸着材を貫通している、請求項
13に記載の酸性ガス回収装置。
【請求項15】
2つの前記酸性ガス吸着材を備え、
2つの前記酸性ガス吸着材の間に前記媒体経路が形成されている、請求項
13に記載の酸性ガス回収装置。
【請求項16】
前記脱離運転の後に、前記酸性ガス吸着材を冷却する冷却媒体が前記媒体経路を通過する、請求項
13に記載の酸性ガス回収装置。
【請求項17】
請求項1又は2に記載の酸性ガス吸着材の製造方法であって、
アミンモノマーを含む化合物群と、ポロゲンとを含む混合液を硬化させて硬化体を得る工程(I)と、
シート状の前記硬化体から前記ポロゲンを除去して、前記多孔質シートを得る工程(II)と、
を含む、酸性ガス吸着材の製造方法。
【請求項18】
前記工程(I)では、前記混合液を支持体の上に塗布し、得られた塗布膜を硬化させることによってシート状の前記硬化体を得る、請求項
17に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性ガス吸着材、酸性ガス吸着材を備えた構造体、酸性ガス吸着装置、酸性ガス回収装置、酸性ガス吸着材の製造方法、及びシート状構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中における二酸化炭素の量を低減するために、二酸化炭素回収・貯留(CCS:Carbon capture and storage)や二酸化炭素回収・利用(CCU:Carbon capture and utilization)が検討されている。CCSやCCUでは、大気から二酸化炭素を分離することによって、二酸化炭素の回収が行われることがある。
【0003】
二酸化炭素などの酸性ガスを大気から分離する方法として、酸性ガスを吸着材に吸着させて分離する吸着法が開発されている。吸着法で利用される吸着材は、例えば、大気と接触することによって、酸性ガスを吸着できる。
【0004】
例えば、特許文献1には、アミン化合物によって基体がコーティングされた吸着材が開示されている。詳細には、特許文献1では、基体の上に、アルミナの多孔質粒子が担持されており、当該多孔質粒子の孔内にアミン化合物が充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸性ガスの吸着に適した新たな酸性ガス吸着材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
ポリマーを含む多孔質シートを備え、
前記ポリマーは、アミノ基を有し、
前記多孔質シートは、前記ポリマーで構成された三次元網目状骨格を有する、酸性ガス吸着材を提供する。
【0008】
さらに本発明は、
上記の酸性ガス吸着材と、
通気経路と、
を備えた、構造体を提供する。
【0009】
さらに本発明は、
ガス入口と、ガス出口とを有する吸着部を備え、
前記吸着部は、上記の酸性ガス吸着材を収容している、酸性ガス吸着装置を提供する。
【0010】
さらに本発明は、
上記の酸性ガス吸着材と、
媒体経路と、
を備え、
前記酸性ガス吸着材が吸着している酸性ガスを前記酸性ガス吸着材から脱離させる脱離運転時に、前記酸性ガス吸着材を加熱する熱媒体が前記媒体経路を通過する、酸性ガス回収装置を提供する。
【0011】
さらに本発明は、
多孔質シートを備えた酸性ガス吸着材の製造方法であって、
アミンモノマーを含む化合物群と、ポロゲンとを含む混合液を硬化させて硬化体を得る工程(I)と、
シート状の前記硬化体から前記ポロゲンを除去して、前記多孔質シートを得る工程(II)と、
を含む、酸性ガス吸着材の製造方法を提供する。
【0012】
さらに本発明は、
ポリマーを含む多孔質シートと、
前記多孔質シートを支持する支持体と、
を備え、
前記ポリマーは、アミノ基を有し、
前記多孔質シートは、前記ポリマーで構成された三次元網目状骨格を有する、シート状構造体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸性ガスの吸着に適した新たな酸性ガス吸着材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる酸性ガス吸着材を模式的に示す断面図である。
【
図2A】酸性ガス吸着材の製造方法を説明するための図である。
【
図2B】酸性ガス吸着材の製造方法を説明するための図である。
【
図3】酸性ガス吸着材による二酸化炭素の吸着量の測定方法を説明するための図である。
【
図4】酸性ガス吸着材の変形例を模式的に示す断面図である。
【
図5A】酸性ガス吸着材を備えた構造体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図5B】酸性ガス吸着材を備えた構造体の変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図5C】酸性ガス吸着材を備えた構造体の別の変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図6A】酸性ガス回収装置の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図6B】酸性ガス回収装置の変形例の概略構成を示す断面図である。
【
図7】実施例1で作製した多孔質シートの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図8】実施例1及び比較例1~3の酸性ガス吸着材について、二酸化炭素の吸着量を測定した結果を示すグラフである。
【
図9】実施例2及び比較例4~6の酸性ガス吸着材について、二酸化炭素の吸着量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1態様にかかる酸性ガス吸着材は、
ポリマーを含む多孔質シートを備え、
前記ポリマーは、アミノ基を有し、
前記多孔質シートは、前記ポリマーで構成された三次元網目状骨格を有する。
【0016】
本発明の第2態様において、例えば、第1態様にかかる酸性ガス吸着材では、前記多孔質シートは、三次元状に連続して形成されている連続孔を含む。
【0017】
本発明の第3態様において、例えば、第1又は第2態様にかかる酸性ガス吸着材では、前記多孔質シートが前記ポリマーを主成分として含む。
【0018】
本発明の第4態様において、例えば、第1~第3態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材では、前記アミノ基が2級アミノ基を含む。
【0019】
本発明の第5態様において、例えば、第1~第4態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材では、前記ポリマーは、アミンモノマーに由来する構成単位を含むエポキシポリマーである。
【0020】
本発明の第6態様において、例えば、第1~第5態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材では、前記ポリマーのガラス転移温度が40℃以下である。
【0021】
本発明の第7態様において、例えば、第1~第6態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材では、前記多孔質シートの比表面積が1.0m2/g以上である。
【0022】
本発明の第8態様において、例えば、第1~第7態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材では、前記多孔質シートの空隙率が20%以上である。
【0023】
本発明の第9態様において、例えば、第1~第8態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材は、前記多孔質シートを支持する支持体をさらに備える。
【0024】
本発明の第10態様において、例えば、第1~第9態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材は、二酸化炭素、窒素及び水蒸気から構成された混合ガスに15時間接触させたときの二酸化炭素の吸着量が0.1mmol/cm3以上である。
ここで、前記混合ガスにおける前記二酸化炭素の濃度が400volppmであり、前記混合ガスは、温度が20℃であり、湿度が50%RHである。
【0025】
本発明の第11態様において、例えば、第1~第10態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材は、平板形状又はコルゲート形状を有する。
【0026】
本発明の第12態様にかかる構造体は、
第1~第11態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材と、
通気経路と、
を備える。
【0027】
本発明の第13態様にかかる酸性ガス吸着装置は、
ガス入口と、ガス出口とを有する吸着部を備え、
前記吸着部は、第1~第11態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材を収容している。
【0028】
本発明の第14態様にかかる酸性ガス回収装置は、
第1~第11態様のいずれか1つにかかる酸性ガス吸着材と、
媒体経路と、
を備え、
前記酸性ガス吸着材が吸着している酸性ガスを前記酸性ガス吸着材から脱離させる脱離運転時に、前記酸性ガス吸着材を加熱する熱媒体が前記媒体経路を通過する。
【0029】
本発明の第15態様において、例えば、第14態様にかかる酸性ガス回収装置では、前記媒体経路は、前記酸性ガス吸着材の厚さ方向に前記酸性ガス吸着材を貫通している。
【0030】
本発明の第16態様において、例えば、第14態様にかかる酸性ガス回収装置は、2つの前記酸性ガス吸着材を備え、2つの前記酸性ガス吸着材の間に前記媒体経路が形成されている。
【0031】
本発明の第17態様において、例えば、第14~第16態様のいずれか1つにかかる酸性ガス回収装置では、前記脱離運転の後に、前記酸性ガス吸着材を冷却する冷却媒体が前記媒体経路を通過する。
【0032】
本発明の第18態様にかかる酸性ガス吸着材の製造方法は、
多孔質シートを備えた酸性ガス吸着材の製造方法であって、
アミンモノマーを含む化合物群と、ポロゲンとを含む混合液を硬化させて硬化体を得る工程(I)と、
シート状の前記硬化体から前記ポロゲンを除去して、前記多孔質シートを得る工程(II)と、
を含む。
【0033】
本発明の第19態様において、例えば、第18態様にかかる製造方法における前記工程(I)では、前記混合液を支持体の上に塗布し、得られた塗布膜を硬化させることによってシート状の前記硬化体を得る。
【0034】
本発明の第20態様にかかるシート状構造体は、
ポリマーを含む多孔質シートと、
前記多孔質シートを支持する支持体と、
を備え、
前記ポリマーは、アミノ基を有し、
前記多孔質シートは、前記ポリマーで構成された三次元網目状骨格を有する。
【0035】
本発明の第21態様にかかる酸性ガス吸着材は、
ポリマーを含む多孔質樹脂シートを備え、
前記ポリマーは、アミノ基を有する。
【0036】
本発明の第22態様にかかるシート状構造体は、
ポリマーを含む多孔質樹脂シートと、
前記多孔質樹脂シートを支持する支持体と、
を備え、
前記ポリマーは、アミノ基を有する。
【0037】
以下、本発明の詳細を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0038】
<酸性ガス吸着材の実施形態>
図1に示すように、本実施形態の酸性ガス吸着材10は、ポリマーPを含む多孔質シート1を備えており、例えば、支持体2をさらに備えている。多孔質シート1は、ポリマーPを含む多孔質樹脂シートである。ポリマーPは、アミノ基を有し、当該アミノ基に起因して、酸性ガスを吸着する機能を有する。
【0039】
多孔質シート1は、ポリマーPで構成された三次元網目状骨格を有する。詳細には、多孔質シート1は、多孔質構造を有しており、当該多孔質構造が三次元網目状骨格に由来する孔を含んでいる。三次元網目状骨格に由来する孔は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、拡大倍率5000倍で観察したときに、観察可能な大きさを有する。この孔の径(平均孔径)は、0.1μm以上5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。孔径が0.1μm以上である場合、多孔質シート1内でのガス拡散性を十分に確保できる傾向がある。孔径が5μm以下である場合、中程度の空隙率であっても、多孔質シート1中の三次元網目状骨格が厚くなりすぎず、ポリマーP内部への酸性ガスの拡散速度の低下を抑制しやすい。
【0040】
本発明は、その別の側面から、
三次元網目状骨格に由来する孔を含む多孔質構造を有する多孔質シート1を備え、
三次元網目状骨格は、アミノ基を有するポリマーPを含む、酸性ガス吸着材10を提供する。
【0041】
支持体2は、多孔質シート1を支持しており、多孔質シート1と直接接している。支持体2を備えた酸性ガス吸着材10は、後述する酸性ガス回収装置の部品の用途に適している。酸性ガス吸着材10は、多孔質シート1と支持体2とを固定する固定手段をさらに備えていてもよく、備えていなくてもよい。固定手段の具体例は、接着剤、詳細には接着剤を含む接着シートなどである。本明細書において、「接着剤」の用語は、粘着剤(pressure-sensitive adhesive)を包含する用語として使用される。
【0042】
なお、酸性ガス吸着材10は、支持体2を備えておらず、多孔質シート1のみから構成されていてもよい。すなわち、酸性ガス吸着材10は、多孔質シート1の自立膜(単層膜)であってもよい。
【0043】
酸性ガス吸着材10は、典型的にはシート状構造体である。シート状構造体としての酸性ガス吸着材10は、例えば、平板形状又はコルゲート形状を有する。
【0044】
本発明は、その別の側面から、
ポリマーPを含む多孔質シート1と、
多孔質シート1を支持する支持体2と、
を備え、
ポリマーPは、アミノ基を有し、
多孔質シート1は、ポリマーPで構成された三次元網目状骨格を有する、シート状構造体を提供する。
【0045】
さらに、本発明は、その別の側面から、
三次元網目状骨格に由来する孔を含む多孔質構造を有する多孔質シート1と、
多孔質シート1を支持する支持体2と、
を備え、
上記の三次元網目状骨格は、アミノ基を有するポリマーPを含む、シート状構造体を提供する。
【0046】
(多孔質シート)
多孔質シート1において、ポリマーPは、例えば、アミノ基として、1級アミノ基、2級アミノ基及び3級アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。酸性ガスの吸着性の観点から、ポリマーPは、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、2級アミノ基を含むことが特に好ましい。言い換えると、ポリマーPが有するアミノ基は、2級アミノ基を含むことが好ましい。2級アミノ基を有するポリマーPによれば、吸着した酸性ガスを容易に脱離できる傾向もある。すなわち、2級アミノ基を有するポリマーPによれば、比較的温和な条件で酸性ガス吸着材10の再生処理を行うことができる。なお、ポリマーPは、3級アミノ基を含んでいてもよいが、3級アミノ基を含まなくてもよい。
【0047】
ポリマーPにおける窒素元素の重量比率は、例えば5wt%以上であり、好ましくは10wt%以上である。この重量比率が高ければ高いほど、酸性ガス吸着材10における酸性ガスの吸着性が向上する傾向がある。ポリマーPにおける窒素元素の重量比率の上限値は、特に限定されず、例えば30wt%である。なお、ポリマーPに含まれる全ての窒素元素がアミノ基に由来する場合、上記の窒素元素の重量比率は、ポリマーPにおけるアミノ基の重量比率とみなすことができる。
【0048】
ポリマーPにおけるアミノ基の密度は、例えば1mmol/g以上であり、好ましくは5mmol/g以上であり、より好ましくは10mmol/g以上である。アミノ基の密度の上限値は、特に限定されず、例えば30mmol/gである。本明細書では、ポリマーPにおけるアミノ基の密度は、1gのポリマーPに含まれるアミノ基の物質量を意味する。
【0049】
ポリマーPは、アミノ基以外の他の官能基を含んでいてもよい。他の官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、エーテル基、エステル基、アミド基などが挙げられる。
【0050】
ポリマーPは、例えば、アミンモノマーに由来する構成単位U1を含むエポキシポリマーである。このエポキシポリマーは、例えば、アミンモノマー及びエポキシモノマーを含むモノマー群の重合体P1、並びに、アミンモノマー及びエポキシプレポリマーを含む化合物群の反応物P2からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、好ましくは重合体P1である。反応物P2の具体例は、アミンモノマーによってエポキシプレポリマーが架橋されたもの(架橋物)である。
【0051】
重合体P1を形成するためのモノマー群は、上述のとおり、アミンモノマー及びエポキシモノマーを含み、好ましくはこれらのモノマーのみから構成される。すなわち、重合体P1は、好ましくはアミンモノマー及びエポキシモノマーの重合体である。
【0052】
アミンモノマーは、アミノ基を少なくとも1つ含むモノマーであり、例えば、1級アミノ基を少なくとも1つ含む。アミンモノマーに含まれる1級アミノ基の数は、好ましくは2以上であり、3以上であってもよく、4以上であってもよい。1級アミノ基の数の上限値は、特に限定されず、例えば30であり、10であってもよい。アミンモノマーは、1級アミノ基の他に、2級アミノ基や3級アミノ基を含んでいてもよいが、3級アミノ基を含まなくてもよい。アミンモノマーの分子量は、特に限定されず、例えば5000未満であり、好ましくは3000以下であり、1000以下であってもよく、500以下であってもよい。
【0053】
アミンモノマーとしては、例えば、エチルアミン、エチレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6-トリスアミノメチルヘキサン、トリス(2-アミノエチル)アミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、ポリエチレンイミンなどの脂肪族アミン;イソホロンジアミン、メンタンジアミン、ピペラジン、N-アミノエチルピペラジン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、これらの変性品などの脂環族アミンなどが挙げられる。アミンモノマーは、場合によっては、ポリアミン類とダイマー酸とを含む脂肪族ポリアミドアミンであってもよい。アミンモノマーは、脂肪族アミン、特にトリエチレンテトラミン(TETA)、であることが好ましい。アミンモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0054】
エポキシモノマーは、エポキシ基を少なくとも1つ含むモノマーである。エポキシモノマーに含まれるエポキシ基の数は、好ましくは2以上であり、3以上であってもよく、4以上であってもよい。エポキシモノマーに含まれるエポキシ基の数の上限値は、特に限定されず、例えば10である。エポキシモノマーの分子量は、特に限定されず、例えば1000未満であり、好ましくは500以下である。
【0055】
エポキシモノマーとしては、例えば、n-ブチルグリシジルエーテル、高級アルコールグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p-sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、t-ブチルフェニルグリシジルエーテルなどの単官能エポキシ化合物;1,5-ヘキサジエンジエポキシド、1,7-オクタジエンジエポキシド、1,9-デカジエンジエポキシドなどのジエポキシアルカン;(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどのエーテル基含有多官能エポキシ化合物;N,N,N’,N’-テトラグリシジルメタキシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどのアミノ基含有多官能エポキシ化合物が挙げられる。エポキシモノマーは、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EDE)、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(PETG)などのエーテル基含有多官能エポキシ化合物であることが好ましい。エポキシモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、単官能エポキシ化合物を用いる場合は、2つ以上のエポキシ基を含む他のエポキシモノマーと組み合わせて用いることが好ましい。単官能エポキシ化合物は、重合体P1を形成するためのモノマー群の粘度を調節するための反応性希釈剤として利用することもできる。
【0056】
反応物P2を形成するためのアミンモノマーとしては、重合体P1について上述したものが挙げられる。
【0057】
エポキシプレポリマーは、例えば、エポキシ基を少なくとも1つ含む。エポキシプレポリマーに含まれるエポキシ基の数は、好ましくは2以上であり、3以上であってもよく、4以上であってもよい。エポキシプレポリマーに含まれるエポキシ基の数の上限値は、特に限定されず、例えば100である。エポキシプレポリマーの重量平均分子量は、特に限定されず、例えば1000~50000である。
【0058】
エポキシプレポリマーとしては、例えば、芳香族エポキシ樹脂及び非芳香族エポキシ樹脂が挙げられる。芳香族エポキシ樹脂としては、ポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン環を含むエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートを含むエポキシ樹脂、複素芳香環(例えば、トリアジン環)を含むエポキシ樹脂等が挙げられる。ポリフェニルベースエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースエポキシ樹脂等が挙げられる。非芳香族エポキシ樹脂としては、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシプレポリマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0059】
上述のとおり、エポキシポリマーとしてのポリマーPは、アミンモノマーに由来する構成単位U1を含む。ポリマーPが重合体P1である場合、ポリマーPは、エポキシモノマーに由来する構成単位U2をさらに含む。ポリマーP、特に重合体P1、における構成単位U1の含有率は、例えば30wt%以上であり、好ましくは50wt%以上である。構成単位U1の含有率の上限値は、特に限定されず、例えば80wt%である。ポリマーP、特に重合体P1、における構成単位U2の含有率は、例えば20wt%~70wt%である。
【0060】
ポリマーPを作製する場合、アミンモノマーと、エポキシモノマー又はエポキシプレポリマーとの配合比率は、アミンモノマーに含まれる1級アミノ基の活性水素の当量に対する、エポキシモノマー又はエポキシプレポリマーに含まれるエポキシ基の当量の比が、例えば1以下、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.5以下となるように設定することが好ましい。
【0061】
ポリマーPのガラス転移温度Tgは、特に限定されず、例えば40℃以下であり、好ましくは30℃以下であり、より好ましくは20℃以下であり、さらに好ましくは15℃以下である。ポリマーPのガラス転移温度Tgがこの程度に低い場合、比較的温和な条件、例えば低温での加熱処理、で酸性ガス吸着材10の再生処理を行うことができる。ポリマーPのガラス転移温度Tgの下限値は、酸性ガス吸着材10における酸性ガスの吸着性を十分に確保する観点及び耐熱性の観点から、例えば-100℃であり、好ましくは-50℃であり、より好ましくは-10℃である。本明細書において、ガラス転移温度Tgは、JIS K7121:1987の規定に準拠して求められる中間点ガラス転移温度 (Tmg)を意味する。なお、ポリマーPは、通常、熱硬化性樹脂に相当する。ポリマーPは、例えば、25℃、好ましくは25℃~80℃の範囲、で固体である。
【0062】
ポリマーPの重量平均分子量は、特に限定されず、例えば500以上であり、好ましくは1000以上であり、より好ましくは10000以上であり、さらに好ましくは100000以上である。ポリマーPの重量平均分子量の上限値は、例えば10000000である。
【0063】
多孔質シート1は、例えば、ポリマーPを主成分として含む。本明細書において、「主成分」は、多孔質シート1に重量比で最も多く含まれた成分を意味する。多孔質シート1におけるポリマーPの含有率は、例えば50wt%以上であり、好ましくは70wt%以上であり、より好ましくは90wt%以上であり、95wt%以上であってもよく、99wt%以上であってもよい。多孔質シート1は、実質的にポリマーPのみから構成されていてもよい。ポリマーPの含有率が高ければ高いほど、酸性ガス吸着材10における酸性ガスの吸着性が向上する傾向がある。
【0064】
多孔質シート1は、実質的にポリマーPのみから構成されていてもよいが、ポリマーP以外の他の材料をさらに含んでいてもよい。他の材料としては、例えば、反応促進剤、可塑剤、充填剤、顔料、染料、老化防止剤、導電材、帯電防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、酸化防止剤などが挙げられる。多孔質シート1は、例えば、他の材料として、アルミナなどの多孔質粒子や、当該多孔質粒子同士を結着させるための結着剤を含まないことが好ましい。
【0065】
反応促進剤は、例えば、ポリマーPを合成するときに利用される。反応促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの3級アミン;2-フェノール-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェノール-4,5-ジヒドロキシイミダゾールなどのイミダゾール類が挙げられる。これらの反応促進剤は、例えば、重合体P1を合成するための反応を促進することができる。
【0066】
充填剤としては、繊維や、繊維を含む繊維構造体などが挙げられる。繊維としては、例えば、ガラス繊維;木材パルプ、綿、麻(例えばマニラ麻)などの天然繊維;ポリエステル繊維、レーヨン、ビニロン、アセテート繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維などの化学繊維(合成繊維)が挙げられる。繊維構造体としては、織布、不織布、紙などが挙げられる。繊維構造体の具体例は、ガラスペーパーである。多孔質シート1が充填剤として繊維構造体を含む場合、酸性ガス吸着材10の使用時などに、多孔質シート1の寸法が変化することを抑制できる傾向がある。
【0067】
なお、多孔質シート1が充填剤として繊維構造体を含む場合、多孔質シート1において、ポリマーPを含む三次元網目状骨格と、繊維構造体とは、それぞれ独立して存在していてもよい。この場合、多孔質シート1の多孔質構造は、例えば、ポリマーPを含む三次元網目状骨格に由来する孔とともに、繊維構造体に由来する孔をさらに有する。この場合、多孔質シート1では、ポリマーPを含む三次元網目状骨格と、繊維構造体とが複合化しているとみなすことができる。
【0068】
充填剤としての繊維構造体は、多孔質シート1の寸法の変化を抑制する観点から、引張強度が大きいことが好ましい。一例として、繊維構造体は、下記の試験1で測定された引張強度STDが1MPa以上であることが好ましい。
試験1:繊維構造体を幅10mm×長さ100mmに切り出して試験片とする。このとき、試験片の長手方向を繊維構造体のTD方向(transverse direction)と一致させる。試験片を引張試験機にセットし、チャック間距離20mm、引張速度100mm/minの条件で引張試験を行う。試験片が3%伸びたときの引張強度STDを特定する。
【0069】
上記の引張試験では、試験開始後、チャック間の距離が0.6mm増加した時点で、試験片に加わっている試験力(試験片が3%伸びたときの試験力、単位:N/10mm)を測定する。得られた試験力の値(N/10mm)、及び、繊維構造体の厚さ(μm)に基づいて、下記式により、引張強度STDを算出することができる。なお、引張試験は、25℃の雰囲気下で行う。
引張強度STD(MPa)=試験力(N/10mm)/(厚さ(μm)/100)
【0070】
繊維構造体の引張強度STDは、より好ましくは2MPa以上であり、3MPa以上、4MPa以上、5MPa以上、6MPa以上、7MPa以上、さらには8MPa以上であってもよい。引張強度STDの上限値は、特に限定されず、例えば30MPaである。
【0071】
さらに、繊維構造体は、試験片の長手方向を繊維構造体のMD方向(machine direction)と一致させることを除き、上記の試験1と同じ方法によって測定された引張強度SMDも1MPa以上であることが好ましい。引張強度SMDは、より好ましくは2MPa以上であり、5MPa以上、8MPa以上、10MPa以上、11MPa以上、さらには12MPa以上であってもよい。引張強度SMDの上限値は、特に限定されず、例えば30MPaである。
【0072】
多孔質シート1における窒素元素の密度dは、特に限定されず、例えば1mmol/g以上であり、好ましくは5mmol/g以上であり、より好ましくは10mmol/g以上である。窒素元素の密度dの上限値は、特に限定されず、例えば30mmol/gである。なお、多孔質シート1に含まれる全ての窒素元素がアミノ基に由来する場合、窒素元素の密度dは、多孔質シート1におけるアミノ基の密度とみなすことができる。
【0073】
窒素元素の密度dは、次の方法によって測定できる。まず、市販のCHN元素分析装置を用いて、多孔質シート1に含まれる窒素元素の重量比率w(wt%)を測定する。得られた結果に基づいて、下記式から窒素元素の密度dを算出することができる。
密度d(mmol/g)=(重量比率w(wt%)×1000)/(窒素の原子量×100)
【0074】
多孔質シート1の単位体積当たりのアミノ基の物質量は、例えば4.0mmol/cm3以上であり、4.3mmol/cm3以上、4.5mmol/cm3以上、5.0mmol/cm3以上、6.0mmol/cm3以上、7.0mmol/cm3以上、さらには8.0mmol/cm3以上であってもよい。このアミノ基の物質量の上限値は、特に限定されず、例えば20mmol/cm3である。
【0075】
多孔質シート1における窒素元素の重量比率は、例えば5wt%以上であり、好ましくは10wt%以上である。この重量比率が高ければ高いほど、酸性ガス吸着材10における酸性ガスの吸着性が向上する傾向がある。多孔質シート1における窒素元素の重量比率の上限値は、特に限定されず、例えば30wt%である。なお、多孔質シート1に含まれる全ての窒素元素がアミノ基に由来する場合、上記の窒素元素の重量比率は、多孔質シート1におけるアミノ基の重量比率とみなすことができる。
【0076】
上述のとおり、多孔質シート1は、ポリマーPで構成された三次元網目状骨格を有する。三次元網目状骨格は、例えば、ポリマーPを主成分として含み、実質的にポリマーPのみを含んでいてもよい。三次元網目状骨格は、ポリマーP以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。多孔質シート1において、例えば、上記の三次元網目状骨格が連続して延びている。多孔質シート1に含まれる孔は、例えば、三次元状に連続して形成されている連続孔である。言い換えると、多孔質シート1は、例えば、三次元状に連続して形成されている連続孔を含む。多孔質シート1は、独立孔を有していてもよく、多孔質シート1を貫通する貫通孔を有していてもよい。なお、多孔質シート1は、例えば、ポリマーPを含むファイバーを有さないことが好ましく、当該ファイバーを含む不織布ではないことが好ましい。すなわち、本実施形態において、多孔質シート1は、例えば、ポリマーPを含むファイバーを有する不織布を除く。
【0077】
多孔質シート1の厚さは、特に限定されず、例えば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。後述するとおり、多孔質シート1の厚さが小さければ小さいほど、例えば、酸性ガス吸着材10を用いて作製した構造体、特にハニカム構造体、の通気経路の断面積を大きく調整できる。通気経路の断面積が大きい構造体は、酸性ガスと接触したときなどに生じる圧力損失を低減することに適している。なお、本実施形態において、多孔質シート1は、単位体積当たりのアミノ基の物質量が比較的大きい傾向がある。この多孔質シート1によれば、当該シート1の厚さが小さい場合であっても、酸性ガスを十分に吸着できる傾向がある。多孔質シート1の厚さの下限値は、特に限定されず、例えば10μmである。
【0078】
多孔質シート1の比表面積は、特に限定されず、例えば0.1m2/g以上であり、好ましくは1.0m2/g以上であり、より好ましくは2.0m2/g以上である。多孔質シート1の比表面積の上限値は、特に限定されず、例えば10m2/gである。多孔質シート1の比表面積は、窒素ガス吸着によるBET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積を意味する。BET比表面積は、JIS Z8830:2013の規定に準拠した方法で測定できる。
【0079】
多孔質シート1の空隙率は、例えば20%以上であり、好ましくは30%以上であり、より好ましくは40%以上である。多孔質シート1の空隙率の上限値は、特に限定されず、例えば80%であり、60%であってもよい。多孔質シート1の空隙率は、多孔質シート1の体積V(cm3)、重量W(g)及び真密度D(g/cm3)に基づいて、下記式により算出することができる。なお、真密度Dは、多孔質シート1を構成する材料の比重を意味する。
空隙率(%)=100×(V-(W/D))/V
【0080】
多孔質シート1は、酸性ガス吸着材10の使用時、特に酸性ガス吸着材10が水と接触したとき、の寸法変化が抑制されていることが好ましい。寸法変化が抑制された多孔質シート1は、酸性ガス吸着材10の使用時などに、支持体2や酸性ガス回収装置などから脱落しにくい傾向がある。さらに、この多孔質シート1は、酸性ガス吸着材10の使用時などに変形しにくく、変形に起因するガスの通過の阻害が生じにくい傾向もある。上述のとおり、充填剤として繊維構造体を含む多孔質シート1は、酸性ガス吸着材10の使用時などに、その寸法の変化が抑制される傾向がある。
【0081】
一例として、多孔質シート1は、下記の試験2で測定された寸法変化率RTDが5%以下であることが好ましい。
試験2:多孔質シート1を縦30mm×横20mmに切り出して試験片とする。このとき、試験片の縦方向を多孔質シート1のMD方向(繊維構造体を含む場合は、繊維構造体のMD方向)と一致させ、試験片の横方向を多孔質シート1のTD方向(繊維構造体を含む場合は、繊維構造体のTD方向)と一致させる。試験片を60℃の真空雰囲気下で2時間乾燥させる。試験片を露点約-60℃のドライルーム内に配置する。ドライルーム内で試験片の寸法を測定し、得られた値を乾燥状態での試験片の寸法とみなす。次に、22℃の純水中に試験片を2時間浸漬させる浸漬試験を行う。浸漬試験後の試験片の寸法を測定し、得られた値を吸水状態での試験片の寸法とみなす。乾燥状態での試験片の横方向の長さLTD1(mm)、及び、吸水状態での試験片の横方向の長さLTD2(mm)から寸法変化率RTD(%)を算出する。
【0082】
なお、寸法変化率RTD(%)は、下記式により算出することができる。
寸法変化率RTD=100×|LTD2-LTD1|/LTD1
【0083】
多孔質シート1の寸法変化率RTDは、より好ましくは4%以下であり、3%以下、2%以下、1%以下、さらには0.5%以下であってもよい。寸法変化率RTDの下限値は、特に限定されず、例えば0.01%である。
【0084】
さらに、多孔質シート1は、上記の試験2で測定された寸法変化率RMDも5%以下であることが好ましい。寸法変化率RMDは、乾燥状態での試験片の縦方向の長さLMD1(mm)、及び、吸水状態での試験片の縦方向の長さLMD2(mm)に基づいて、下記式により算出することができる。
寸法変化率RMD=100×|LMD2-LMD1|/LMD1
【0085】
多孔質シート1の寸法変化率RMDは、より好ましくは4%以下であり、3%以下、2%以下、さらには1%以下であってもよい。寸法変化率RMDの下限値は、特に限定されず、例えば0.01%である。
【0086】
(支持体)
支持体2の材料としては、特に限定されず、例えば、コージェライト、アルミナ、コージェライト-αアルミナ、窒化ケイ素、ジルコンムライト、リシア輝石、アルミナ-シリカマグネシア、ジルコンケイ酸エステル、シリマナイト、ケイ酸マグネシウム、ジルコン、葉長石、アルミノケイ酸塩などのセラミックス;アルミニウム、チタン、銅、ステンレス鋼、Fe-Cr合金、Cr-Al-Fe合金などの金属;シリコーン樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルスルホン、メラミン、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリイミド、ポリフルフラールアルコール、フェノールフルフリルアルコール、メラミンホルムアルデヒド、レソルシノールホルムアルデヒド、クレゾールホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒド、ポリビニルアルコールジアルデヒド、ポリシアヌレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、エポキシ樹脂、カンテン、アガロース、セルロースなどの樹脂などが挙げられる。支持体2の材料は、熱伝導性及び耐久性に優れるとともに、水と接触したときに、錆の発生や加水分解などによって劣化しにくいものであることが好ましい。
【0087】
支持体2は、多孔質構造を有していてもよく、有していなくてもよい。多孔質構造を有する支持体2としては、例えば、紙、不織布、発泡体、メッシュなどが挙げられる。多孔質構造を有さない支持体2としては、例えば、無孔シート、箔などが挙げられる。コルゲート形状を有する酸性ガス吸着材10を容易に製造できる観点から、支持体2は、アルミニウムシート、紙、不織布などであることが好ましい。
【0088】
支持体2は、面状ヒーターとして機能するものであってもよく、面状の熱電ヒーターやペルチェ素子であってもよい。
【0089】
支持体2の厚さは、特に限定されず、例えば1μm~100μmである。支持体2は、多孔質シート1より薄くてもよい。
【0090】
(酸性ガス吸着材の製造方法)
酸性ガス吸着材10の製造方法は、例えば、アミンモノマーを含む化合物群と、ポロゲンとを含む混合液Lを硬化させて硬化体Bを得る工程(I)と、シート状の硬化体Bからポロゲンを除去して、多孔質シート1を得る工程(II)と、を含む。
【0091】
工程(I)において、化合物群は、典型的には、アミンモノマー及びエポキシモノマーを含むモノマー群である。ただし、化合物群は、エポキシモノマーに代えて、又は、エポキシモノマーとともに、エポキシプレポリマーを含んでいてもよい。
【0092】
ポロゲンは、例えば、化合物群に含まれるモノマーやプレポリマーを溶かすことができ、さらに、化合物群が反応した後に、反応誘起相分離を生じさせることができる溶剤である。ポロゲンの具体例としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール等のグリコール類、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル等のエーテル類が挙げられる。ポリオキシアルキレングリコールの具体例は、ポリ(1,2-ブタンジオール)-6プロピレングリコール、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルなどである。ポロゲンは、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、エタノール、イソプロパノール等の極性溶媒、トルエン等の無極性溶媒、又はこれらの混合溶媒であってもよい。ポロゲンは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0093】
混合液Lには、化合物群やポロゲン以外の他の成分がさらに添加されてもよい。他の成分としては、例えば、上述した反応促進剤などが挙げられる。
【0094】
工程(I)では、化合物群が反応することによってポリマーPが形成される。これにより、混合液Lが硬化し、硬化体Bが得られる。化合物群の反応は、典型的には、アミンモノマー及びエポキシモノマーの重合反応である。ただし、化合物群の反応は、アミンモノマーによるエポキシプレポリマーの架橋反応であってもよい。化合物群の反応では、アミンモノマーのアミノ基が、エポキシモノマー又はエポキシプレポリマーのエポキシ基と反応する。化合物群の反応は、混合液Lにエネルギーを加えることによって行うことができる。混合液Lに加えるエネルギーは、熱エネルギーであることが好ましい。一例として、混合液Lを40℃~100℃の温度で加熱することによって、化合物群の反応を進行させることができる。ただし、混合液Lに加えるエネルギーは、光エネルギーであってもよい。
【0095】
硬化体Bは、ポリマーP及びポロゲンを含む。硬化体Bにおいて、ポリマーPとポロゲンとが相分離することにより、共連続構造が形成されている。工程(I)で得られる硬化体Bの形状は、典型的にはシート状である。シート状の硬化体Bは、例えば、混合液Lを支持体2(典型的には、多孔質構造を有さない支持体2)の上に塗布し、得られた塗布膜を硬化させることによって作製することができる。混合液Lの塗布方法は、特に限定されず、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法などを利用できる。
【0096】
なお、シート状の硬化体Bは、上記の支持体2以外の他のシート状の基材に混合液Lを接触させてから、混合液Lを硬化させることによって作製することもできる。基材としては、例えば、はく離ライナーや繊維構造体を用いることができる。基材は、はく離ライナーと繊維構造体を含む積層体であってもよい。基材として繊維構造体を用いた場合、混合液Lを繊維構造体に接触させることによって、混合液Lが繊維構造体の内部に浸み込む傾向がある。混合液Lが繊維構造体の内部に浸み込んだ状態で混合液Lを硬化させることによって、充填剤として繊維構造体を含む硬化体が得られる。
【0097】
工程(I)で得られる硬化体Bの形状は、シート状でなくてもよく、例えばブロック状、特に円筒状又は円柱状、であってもよい。ブロック状の硬化体Bは、例えば、工程(I)において、金型に充填した混合液Lを硬化させることによって作製できる。この場合、ブロック状の硬化体Bの表面付近を所定の厚さに切削することによって、工程(II)で用いるシート状の硬化体Bを得ることができる。一例として、硬化体Bが円筒状又は円柱状である場合、円筒軸又は円柱軸を中心に硬化体Bを回転させながら、硬化体Bの表面付近を切削することによって、シート状の硬化体Bを作製することができる。
【0098】
工程(II)において、シート状の硬化体Bからポロゲンを除去する方法は、特に限定されない。例えば、硬化体Bを溶剤に浸漬させることによって、硬化体Bからポロゲンを抽出し、除去してもよい。ポロゲンを抽出するための溶剤としては、水、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族アルコール溶媒、エーテル溶媒、ハロゲン含有有機溶媒、エステル溶媒などを使用することができる。脂肪族炭化水素溶媒としては、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、石油エーテル、ベンジン等が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、ベンゼン等が挙げられる。脂肪族アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール等が挙げられる。エーテル溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等が挙げられる。ハロゲン含有有機溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、クロロベンゼン等が挙げられる。エステル溶媒としては、酢酸エチル等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0099】
工程(II)において、シート状の硬化体Bからポロゲンを除去することによって、例えば、平板形状を有する多孔質シート1を得ることができる。一例として、混合液Lを支持体2の上に塗布する方法を利用して硬化体Bを作製した場合、硬化体Bからポロゲンを除去することによって、多孔質シート1及び支持体2を備えたシート状の酸性ガス吸着材10が得られる。なお、支持体2以外の他の基材を利用する方法などによって、多孔質シート1の自立膜を作製し、当該自立膜を酸性ガス吸着材10として用いてもよい。多孔質シート1の自立膜を作製し、接着シートなどの固定手段を用いて、当該自立膜を支持体2に固定したものを酸性ガス吸着材10として用いてもよい。
【0100】
上記の方法によって作製された酸性ガス吸着材10は、通常、平板形状を有している。平板形状を有する酸性ガス吸着材10については、コルゲート加工をさらに施してもよい。これにより、コルゲート形状を有する酸性ガス吸着材10を得ることができる。
【0101】
一例として、酸性ガス吸着材10は、
図2Aに示す製造装置100を用いて製造することができる。
図2Aは、製造装置100の概略構成を示している。製造装置100は、支持体2を繰り出す繰り出しロール45、作製した酸性ガス吸着材10を巻き取る巻き取りロール49、及び、繰り出しロール45と巻き取りロール49との間に位置する複数のガイドロール46、47及び48を備えている。製造装置100において、支持体2は、繰り出しロール45から巻き取りロール49に搬送される。製造装置100は、混合液吐出部20、第1加熱部30、抽出部40及び第2加熱部35をさらに備え、これらが支持体2の搬送方向にこの順で並んでいる。なお、製造装置100では、支持体2に代えて、支持体2以外の他の基材を用いてもよい。
【0102】
混合液吐出部20は、第1供給部21、第2供給部22、混合部23及び吐出口24を備える。第1供給部21は、第1原料5を混合部23に送ることができる。第2供給部22は、第2原料6を混合部23に送ることができる。一例として、第1原料5がアミンモノマーを含み、第2原料6がエポキシモノマー及び/又はエポキシプレポリマーを含む。第1原料5及び第2原料6からなる群より選ばれる少なくとも1つがポロゲンを含む。混合部23において、第1原料5及び第2原料6が混合されることによって、混合液Lが調製される。
【0103】
混合部23で調製された混合液Lは、吐出口24を通じて、混合液吐出部20の外部に吐出される。例えば、混合液吐出部20は、ガイドロール46付近に位置しており、繰り出しロール45からガイドロール46に搬送された支持体2の上に混合液Lを塗布することができる。これにより、支持体2の上に、塗布膜7を形成することができる。塗布膜7は、支持体2とともに、ガイドロール47を通過して、第1加熱部30に送られる。
【0104】
第1加熱部30は、塗布膜7を加熱するためのヒーター31を備えている。第1加熱部30内を移動することによって、塗布膜7が加熱される。これにより、塗布膜7が硬化し、シート状の硬化体8が形成される。硬化体8は、支持体2とともに抽出部40に送られる。
【0105】
抽出部40は、硬化体8からポロゲンを抽出するための溶剤41を収容している。抽出部40内で、硬化体8が溶剤41に浸漬される。これにより、硬化体8からポロゲンが除去され、多孔質シート1が形成される。多孔質シート1は、支持体2とともに第2加熱部35に送られる。
【0106】
第2加熱部35は、抽出部40から送られた多孔質シート1を乾燥させるためのヒーター36を備えている。第2加熱部35内を移動することによって、多孔質シート1が加熱される。これにより、多孔質シート1が乾燥し、多孔質シート1及び支持体2を備えたシート状の酸性ガス吸着材10が得られる。この酸性ガス吸着材10は、ガイドロール48を通過して、巻き取りロール49で巻き取られる。
【0107】
酸性ガス吸着材10の製造装置100は、
図2Aに示したものに限定されない。
図2Bは、変形例にかかる製造装置110の概略構成を示している。
図2Bに示すように、製造装置110は、抽出部40及び第2加熱部35を備えていない。以上を除き、製造装置110の構成は、製造装置100の構成と同じである。そのため、これらの製造装置100及び110で共通する要素には同じ参照符号を付し、それらの説明を省略することがある。以下の各実施形態に関する説明は、技術的に矛盾しない限り、相互に適用されうる。さらに、技術的に矛盾しない限り、各実施形態は、相互に組み合わされてもよい。
【0108】
製造装置110では、第1加熱部30で形成された硬化体8が、支持体2とともに、ガイドロール48を通過して、巻き取りロール49で巻き取られる。これにより、硬化体8及び支持体2の巻回体が得られる。この巻回体を溶剤に浸漬させ、硬化体8からポロゲンを抽出することによって、シート状の酸性ガス吸着材10を得ることができる。
【0109】
(酸性ガス吸着材による二酸化炭素の吸着量)
本実施形態の酸性ガス吸着材10は、二酸化炭素などの酸性ガスに対する吸着性が高い傾向がある。一例として、二酸化炭素、窒素及び水蒸気から構成された混合ガスGに、酸性ガス吸着材10を15時間接触させたときの二酸化炭素の吸着量aは、例えば0.1mmol/cm3以上であり、好ましくは0.3mmol/cm3以上であり、より好ましくは0.5mmol/cm3以上であり、さらに好ましくは0.7mmol/cm3以上であり、特に好ましくは0.8mmol/cm3以上であり、とりわけ好ましくは1.0mmol/cm3以上である。二酸化炭素の吸着量aの上限値は、特に限定されず、例えば10mmol/cm3である。
【0110】
[二酸化炭素の吸着量の測定方法]
以下では、二酸化炭素の吸着量aの測定方法について説明する。吸着量aは、例えば、
図3に示す測定装置200を用いて測定することができる。測定装置200は、第1タンク230及び第2タンク231を備えている。一例として、第1タンク230が乾燥状態の窒素を貯蔵し、第2タンク231が、乾燥状態の窒素と乾燥状態の二酸化炭素との混合ガスを貯蔵している。第2タンク231の混合ガスにおける二酸化炭素の濃度は、例えば、5vol%である。
【0111】
測定装置200は、水270を収容した第1容器240と、第1タンク230からの窒素を第1容器240に送るための第1経路260とをさらに備えている。第1経路260は、第1タンク230のガス出口に接続された一端と、第1容器240の水270中に配置された他端とを有する。第1タンク230から第1容器240に送られた窒素は、水270と接触することによって加湿される。第1経路260には、第1タンク230から第1容器240に送られる窒素の流量を調節するためのマスフローコントローラ235が配置されている。
【0112】
測定装置200は、第2容器241、第2経路262及びバイパス経路261をさらに備えている。第2経路262は、第1容器240と第2容器241とを接続している。第1容器240に送られ、加湿された窒素は、第2経路262を通じて、第2容器241に送られる。バイパス経路261は、第1タンク230とマスフローコントローラ235との間の位置において、第1経路260から分岐し、第2経路262に接続している。第1タンク230から送られた窒素の一部は、バイパス経路261に流入し、第2経路262を通じて第2容器241に送られる。バイパス経路261には、第1タンク230からバイパス経路261に送られる窒素の流量を調節するためのマスフローコントローラ236が配置されている。
【0113】
測定装置200は、第2タンク231からの混合ガスを第2経路262に送るための第3経路263をさらに備えている。第3経路263は、第2タンク231のガス出口に接続された一端と、第2経路262に接続された他端とを有する。第3経路263には、第2タンク231から第2経路262に送られる混合ガスの流量を調節するためのマスフローコントローラ237が配置されている。第2経路262に送られた混合ガスは、第2経路262を通じて第2容器241に送られる。
【0114】
測定装置200は、第3容器242及び第4経路264をさらに備えている。第3容器242は、水271と、水271中に配置された吸着部221とを収容する。第3容器242において、水271の温度は、20℃に維持される。吸着部221は、ガス入口222と、ガス出口223とを有する。吸着部221は、その内部に酸性ガス吸着材10を収容している。吸着部221は、水271が内部に浸み込まないように構成されている。吸着部221は、典型的には、疎水性の樹脂、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、で構成されたチューブである。一例として、吸着部221としてのチューブは、内径が4mmであり、外径が6mmである。吸着部221は、測定装置200に対して、着脱可能に構成されている。
【0115】
なお、測定装置200は、吸着部221を備えた酸性ガス吸着装置として用いることも可能である。本発明は、その別の側面から、ガス入口222と、ガス出口223とを有する吸着部221を備え、吸着部221は、酸性ガス吸着材10を収容している、酸性ガス吸着装置200を提供する。酸性ガス吸着装置200の吸着部221は、酸性ガス吸着材10を備えた後述の構造体を収容していてもよい。
【0116】
第4経路264は、第2容器241と第3容器242とを接続している。詳細には、第4経路264は、第3容器242において、吸着部221のガス入口222に接続されている。第4経路264には、吸着部221に供給されるガスにおける二酸化炭素の濃度を測定するための第1濃度計250が配置されている。第1濃度計250としては、例えば、LI-COR社製のCO2/H2Oガスアナライザー、LI-850-3を用いることができる。
【0117】
測定装置200は、吸着部221のガス出口223に接続され、吸着部221から測定装置200の外部にガスを排出するための第5経路265をさらに備えている。第5経路265には、背圧弁255及び第2濃度計251が配置されている。背圧弁255によって、吸着部221内の圧力を一定の値に調整することができる。第2濃度計251は、吸着部221から排出されるガスにおける二酸化炭素の濃度を測定することができる。第2濃度計251としては、例えば、LI-COR社製のCO2/H2Oガスアナライザー、LI-850-3を用いることができる。
【0118】
測定装置200の各経路は、例えば、金属製又は樹脂製の配管で構成されている。
【0119】
[前処理]
吸着量aの測定方法では、まず、酸性ガス吸着材10について乾燥処理が行われる。乾燥処理は、例えば、真空雰囲気下、60℃の条件で酸性ガス吸着材10を2時間以上処理することによって行われる。次に、露点約-60℃のドライルーム内で、乾燥処理後の酸性ガス吸着材10を吸着部221に充填する。このとき、予め、酸性ガス吸着材10を採寸し、酸性ガス吸着材10の体積を特定する。吸着部221に充填される酸性ガス吸着材10の重量は、例えば50mgである。次に、吸着部221の両端に第4経路264及び第5経路265を接続し、吸着部221を第3容器242の水271に浸漬させる。
【0120】
次に、測定装置200の第1経路260、第2経路262、バイパス経路261及び第3経路263を通じて、第1タンク230からの窒素、及び、第2タンク231からの混合ガスを第2容器241に供給する。第2容器241内で、これらのガスが混合され、二酸化炭素、窒素及び水蒸気から構成された混合ガスGが得られる。第2容器241内では、混合ガスGにおける二酸化炭素の濃度が400volppmに調整される。混合ガスGは、温度が20℃であり、湿度が50%RHである。混合ガスGは、第4経路264を通じて、酸性ガス吸着材10の重量に対して十分な流量、例えば、50mgの酸性ガス吸着材10に対して300mL/minの流量で吸着部221に供給される。吸着部221内において、混合ガスGの圧力は、背圧弁255によって107kPaに調節される。
【0121】
次に、混合ガスGが吸着部221に供給されている状態で、吸着部221を第3容器242から取り出し、吸着部221を80℃の湯浴(図示せず)に2時間以上浸漬させる。吸着部221の湯浴への浸漬は、第1濃度計250で測定された二酸化炭素の濃度と、第2濃度計251で測定された二酸化炭素の濃度とが実質的に同じ値になるまで行う。これにより、吸着部221内の酸性ガス吸着材10について、前処理が完了する。
【0122】
[吸着試験]
次に、混合ガスGが吸着部221に供給されている状態で、吸着部221を湯浴から取り出し、第3容器242の水271に浸漬させる。これにより、吸着部221内の酸性ガス吸着材10について、吸着試験を開始する。吸着試験は、開始してから15時間経過するまで行う。吸着試験を15時間行った場合、酸性ガス吸着材10による二酸化炭素の吸着は、通常、平衡に達しているとみなすことができる。
【0123】
吸着試験では、開始から15時間までに酸性ガス吸着材10が吸着した二酸化炭素の物質量Mを測定する。酸性ガス吸着材10が吸着した二酸化炭素の物質量Mは、第1濃度計250で測定された二酸化炭素の濃度と、第2濃度計251で測定された二酸化炭素の濃度との差を経時的に測定した結果から算出することができる。物質量Mに基づいて、1cm3の酸性ガス吸着材10が15時間で吸着する二酸化炭素の物質量を算出し、得られた算出値を吸着量aとして特定する。
【0124】
上述のとおり、従来の吸着材では、例えば、基体の上に担持された多孔質粒子の孔内にアミン化合物が充填されている。このような吸着材では、多孔質粒子や、当該多孔質粒子同士を結着させるための結着剤が必要であるため、吸着材の単位体積当たりのアミノ基の物質量を大きく調整することが難しい。従来の吸着材では、単位体積当たりのアミノ基の物質量を増加させるためにアミン化合物の充填量を増加させた場合、多孔質粒子の孔が塞がり、酸性ガスに対する吸着性能がかえって低下することもある。これに対して、本実施形態の酸性ガス吸着材10では、ポリマーPで構成された三次元網目状骨格を有する多孔質シート1を利用することによって、多孔質シート1の孔を維持しつつ、単位体積当たりのアミノ基の物質量を容易に増加させることができる。本実施形態の酸性ガス吸着材10は、酸性ガスに対する吸着性能が高い傾向があり、酸性ガスの吸着に適していると言える。
【0125】
(酸性ガス吸着材の用途)
本実施形態の酸性ガス吸着材10は、酸性ガスを吸着することができる。酸性ガスとしては、二酸化炭素、硫化水素、硫化カルボニル、硫黄酸化物(SOx)、シアン化水素、窒素酸化物(NOx)などが挙げられ、好ましくは二酸化炭素である。
【0126】
酸性ガス吸着材10は、例えば、次の方法によって使用することができる。まず、酸性ガスを含む混合ガスを酸性ガス吸着材10と接触させる。混合ガスは、例えば、酸性ガス以外の他のガスを含んでいる。他のガスとしては、例えば、水素、窒素などの非極性ガス、及び、ヘリウムなどの不活性ガスが挙げられ、好ましくは窒素である。混合ガスは、典型的には大気である。混合ガスは、化学プラント又は火力発電のオフガスであってもよい。
【0127】
混合ガスの温度は、例えば室温(23℃)である。混合ガスにおける酸性ガスの濃度は、特に限定されず、標準状態(0℃、101kPa)で、例えば0.01vol%(100volppm)以上であり、好ましくは0.04vol%(400volppm)以上であり、1.0vol%以上であってもよい。混合ガスにおける二酸化炭素の濃度の上限値は、特に限定されず、標準状態で、例えば10vol%である。混合ガスの圧力は、典型的には、酸性ガス吸着材10の使用環境における大気圧に等しい。ただし、酸性ガス吸着材10と接触させる混合ガスは、加圧されていてもよい。
【0128】
混合ガスと接触した酸性ガス吸着材10は、混合ガスに含まれる酸性ガスを吸着する。混合ガスを酸性ガス吸着材10に接触させる操作は、例えば、酸性ガス吸着材10による酸性ガスの吸着が平衡に達するまで行う。
【0129】
次に、酸性ガスを吸着した酸性ガス吸着材10について再生処理を行う。再生処理は、例えば、酸性ガス吸着材10を加熱することによって実施できる。酸性ガス吸着材10の加熱温度は、例えば50~80℃である。酸性ガス吸着材10は、減圧雰囲気下又は真空雰囲気下で加熱されてもよい。酸性ガス吸着材10を加熱することにより、酸性ガスが酸性ガス吸着材10から脱離する。これにより、酸性ガス吸着材10が再生され、酸性ガス吸着材10を繰り返し使用することができる。酸性ガス吸着材10から脱離した酸性ガス、特に二酸化炭素、は、化学品の合成原料やドライアイスとして利用することができる。なお、酸性ガス吸着材10による酸性ガスの吸着操作、及び酸性ガス吸着材10の再生処理は、上述した測定装置200(酸性ガス吸着装置)や、後述する酸性ガス回収装置を用いて実施することが可能である。
【0130】
<酸性ガス吸着材の変形例>
酸性ガス吸着材10は、複数の多孔質シート1を備えていてもよい。
図4に示す酸性ガス吸着材11は、2つの多孔質シート1A及び1Bを備えている。このことを除き、酸性ガス吸着材11の構造は、酸性ガス吸着材10の構造と同じである。
【0131】
酸性ガス吸着材11において、支持体2は、2つの多孔質シート1A及び1Bの間に位置し、多孔質シート1A及び1Bのそれぞれに直接接している。多孔質シート1Aの組成及び構造は、多孔質シート1Bと同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0132】
<構造体の実施形態>
図5Aに示すとおり、本実施形態の構造体15は、上述の酸性ガス吸着材10と、通気経路14とを備える。なお、酸性ガス吸着材10に代えて、
図4に示した酸性ガス吸着材11も使用可能である。構造体15は、典型的には、同じ方向に延びている複数の通気経路14を有するハニカム構造体である。
【0133】
構造体15において、酸性ガス吸着材10は、多孔質シート1とともに支持体2を備えていることが好ましい。この酸性ガス吸着材10では、多孔質シート1が充填剤として繊維構造体を含んでいてもよい。ただし、構造体15が備える酸性ガス吸着材10は、多孔質シート1の自立膜であってもよい。
【0134】
構造体15は、例えば、コルゲート形状を有する酸性ガス吸着材10Aと、平板形状を有する酸性ガス吸着材10Bとが積層された吸着材ユニットUを備えている。酸性ガス吸着材10Aにおいて、複数の山部12と複数の谷部13とが交互に並んでいる。酸性ガス吸着材10Aの山部12又は谷部13と、酸性ガス吸着材10Bとの間に、通気経路14が形成されている。本実施形態において、方向xは、酸性ガス吸着材10Aの複数の山部12と複数の谷部13とが交互に並んでいる方向(波方向)である。方向yは、吸着材ユニットUにおける酸性ガス吸着材10A及び10Bの積層方向である。方向zは、方向x及びyのそれぞれに直交する方向であり、通気経路14が延びている方向である。
【0135】
構造体15は、例えば、複数の吸着材ユニットUを備えている。構造体15における吸着材ユニットUの数は、特に限定されず、例えば2~100である。構造体15において、複数の吸着材ユニットUは、複数の酸性ガス吸着材10Aと複数の酸性ガス吸着材10Bとが交互に並ぶように、方向yに積層されている。複数の吸着材ユニットUが積層されていることによって、構造体15は、ブロックの形状を有する。
【0136】
通気経路14は、構造体15を方向zに貫通する貫通孔である。通気経路14は、酸性ガス吸着材10A及び10Bによって囲まれている。構造体15において、酸性ガスは、通気経路14を通じて方向zに移動しつつ、酸性ガス吸着材10A及び10Bによって効率的に吸着される。
【0137】
構造体15では、酸性ガス吸着材10A及び10Bにおける多孔質シート1の厚さが小さければ小さいほど、通気経路14の断面積を大きく調整できる。通気経路14の断面積が大きい構造体15は、酸性ガスと接触したときなどに生じる圧力損失を低減することに適している。圧力損失が低減された構造体15によれば、例えば、酸性ガスを移動させるために用いられるファンの動力を低減することができる。なお、酸性ガス吸着材10は、単位体積当たりのアミノ基の物質量が比較的大きい傾向があるため、多孔質シート1の厚さが小さい場合であっても酸性ガスを十分に吸着できる傾向がある。
【0138】
<構造体の変形例>
酸性ガス吸着材10を備える構造体15の形状は、
図5Aに示したものに限定されない。
図5Bに示す構造体16は、1つの吸着材ユニットUが中心管50に巻き付けられた形状を有する。このことを除き、構造体16の構成は、構造体15の構成と同じである。
【0139】
構造体16は、円柱形状を有している。構造体16において、酸性ガス吸着材10Aの複数の山部12と複数の谷部13とは、構造体16の周方向に交互に並んでいる。酸性ガス吸着材10Aの山部12又は谷部13と、酸性ガス吸着材10Bとの間に形成された通気経路14は、中心管50が延びる方向に構造体16を貫通している。構造体16において、酸性ガスは、通気経路14を通じて、中心管50が延びる方向に移動しつつ、酸性ガス吸着材10A及び10Bによって効率的に吸着される。
【0140】
<構造体の別の変形例>
構造体は、コルゲート形状を有する酸性ガス吸着材10Aを備えていなくてもよく、構造体15及び16のようなハニカム構造体でなくてもよい。
図5Cに示す構造体17は、酸性ガス吸着材10として、平板形状を有する酸性ガス吸着材10Bのみを備えている。詳細には、構造体17は、複数の酸性ガス吸着材10Bを備え、複数の酸性ガス吸着材10Bが空隙を介して並んでいる。2つの酸性ガス吸着材10Bの間の空隙が通気経路14として機能する。
【0141】
構造体17は、上記の通気経路14を確保するために複数の酸性ガス吸着材10Bを固定する固定部材55をさらに備えていてもよい。固定部材55は、例えばロッドである。一例として、複数の酸性ガス吸着材10Bのそれぞれにおいて、厚さ方向に酸性ガス吸着材10Bを貫通する貫通孔が形成されており、固定部材55としてのロッドが各酸性ガス吸着材10Bの貫通孔に挿入されることによって、複数の酸性ガス吸着材10Bが固定されている。固定部材55としてのロッドは、側面に雄ねじ部が形成されたボルトであってもよい。この場合、2つの酸性ガス吸着材10Bの間の位置において、ボルトにナットを螺合させることによって、通気経路14をより確実に確保することができる。この例では、ナットがスペーサーとして機能する。
【0142】
図5Cの例では、複数の酸性ガス吸着材10Bが、それぞれ、平面視で矩形の形状を有し、その四隅付近に貫通孔が形成されている。さらに、酸性ガス吸着材10Cが4つの固定部材55を備えており、4つの固定部材55が、それぞれ、酸性ガス吸着材10Bの四隅に形成された4つの貫通孔に挿入されている。ただし、酸性ガス吸着材10Bに形成される貫通孔の数や位置、及び固定部材55の数は、
図5Cの例に限定されない。
【0143】
構造体17において、酸性ガスは、2つの酸性ガス吸着材10Bの間の通気経路14を移動しつつ、2つの酸性ガス吸着材10Bによって効率的に吸着される。
【0144】
<酸性ガス回収装置の実施形態>
図6Aに示すとおり、本実施形態の酸性ガス回収装置300は、上述の酸性ガス吸着材10と、媒体経路60とを備える。なお、酸性ガス吸着材10に代えて、
図4に示した酸性ガス吸着材11も使用可能である。酸性ガス回収装置300では、酸性ガス吸着材10が吸着している酸性ガスを酸性ガス吸着材10から脱離させる脱離運転時に、酸性ガス吸着材10を加熱する熱媒体61が媒体経路60を通過する。
【0145】
酸性ガス回収装置300において、酸性ガス吸着材10は、多孔質シート1とともに支持体2を備えていることが好ましい。この酸性ガス吸着材10では、多孔質シート1が充填剤として繊維構造体を含んでいてもよい。ただし、酸性ガス回収装置300が備える酸性ガス吸着材10は、多孔質シート1の自立膜であってもよい。
【0146】
酸性ガス回収装置300は、例えば、複数の酸性ガス吸着材10を備える。複数の酸性ガス吸着材10は、空隙を介して並んでいてもよく、2つの酸性ガス吸着材10の間の空隙が通気経路14として機能してもよい。酸性ガス回収装置300において、酸性ガス吸着材10及び通気経路14の構成は、構造体15~17について上述した構成と同じであってもよい。
【0147】
酸性ガス回収装置300において、媒体経路60は、例えば、銅などの金属でできた配管、詳細には伝熱管、で構成されている。酸性ガス回収装置300において、媒体経路60は、例えば、酸性ガス吸着材10の厚さ方向に酸性ガス吸着材10を貫通している。詳細には、酸性ガス吸着材10において、厚さ方向に酸性ガス吸着材10を貫通する貫通孔が形成されており、媒体経路60が酸性ガス吸着材10の貫通孔に挿入されている。酸性ガス回収装置300は、典型的には、伝熱フィンと、伝熱フィンを貫通する伝熱管とを備えたフィンチューブ熱交換器と同様の構造を有している。
【0148】
媒体経路60は、U字形状を有しており、酸性ガス吸着材10に形成された2つの貫通孔に挿入されていてもよい。酸性ガス吸着材10に形成された貫通孔の数や媒体経路60の数は、
図6Aに示したものに限定されない。例えば、酸性ガス吸着材10に4つ以上の貫通孔が形成されており、U字形状を有する2つ以上の媒体経路60が酸性ガス吸着材10の貫通孔に挿入されていてもよい。
【0149】
媒体経路60は、上述のとおり、脱離運転時に酸性ガス吸着材10を加熱する熱媒体61の経路として機能する。ただし、媒体経路60は、脱離運転の後に、酸性ガス吸着材10を冷却する冷却媒体の経路としても利用可能である。すなわち、媒体経路60は、熱媒体61の経路と、冷却媒体の経路とを兼ねていてもよい。
【0150】
酸性ガス回収装置300は、酸性ガス吸着材10及び媒体経路60を収容するケーシング(図示せず)をさらに備えている。ケーシングは、例えば、ケーシングの内部に酸性ガスを含む混合ガスを送るための混合ガス入口を有する。ケーシングは、脱離運転時に、酸性ガス吸着材10から脱離した脱離ガスをケーシングの外部に排出するための脱離ガス出口や、ケーシングの内部にパージガスを送るためのパージガス入口をさらに有していてもよい。なお、ケーシングにおいて、混合ガス入口がパージガス入口を兼ねていてもよい。さらに、ケーシングは、媒体経路60に熱媒体61や冷却媒体を送るための媒体入口や、媒体経路60から熱媒体61や冷却媒体を排出するための媒体出口を有していてもよい。
【0151】
[酸性ガス回収装置の運転方法]
酸性ガス回収装置300は、例えば、酸性ガス吸着材10に酸性ガスを吸着させる吸着運転と、酸性ガス吸着材10が吸着している酸性ガスを酸性ガス吸着材10から脱離させる脱離運転とを繰り返し行う。酸性ガス回収装置300を用いて吸着運転及び脱離運転を行うことによって、酸性ガスを回収することができる。
【0152】
(吸着運転)
酸性ガス回収装置300の吸着運転は、例えば、次のように実施される。まず、上記の混合ガス入口を通じて、酸性ガスを含む混合ガスをケーシングの内部に送る。混合ガスとしては、上述したものが挙げられる。混合ガスは、例えば、通気経路14を移動しつつ、酸性ガス吸着材10と接触する。これにより、酸性ガス吸着材10が、混合ガスに含まれる酸性ガスを吸着する。吸着運転は、例えば、酸性ガス吸着材10による酸性ガスの吸着が平衡に達するまで行う。
【0153】
(脱離運転)
酸性ガス回収装置300の脱離運転は、例えば、次のように実施される。まず、上記のパージガス入口を通じて、パージガスをケーシングの内部に送るとともに、脱離ガス出口からパージガスをケーシングの外部に排出する。この操作により、ケーシングの内部に残存する混合ガスをケーシングの外部に排出し、ケーシングの内部をパージガスで満たすことができる。パージガスとしては、例えば、水蒸気ガスや、二酸化炭素などの酸性ガスを高濃度で含むガスを用いることができる。なお、パージガスをケーシングの内部に送る操作に代えて、又は当該操作とともに、ケーシングの内部を減圧する操作を行ってもよい。この減圧操作は、例えば、ケーシングの脱離ガス出口に接続された減圧装置などによって実施することができる。
【0154】
次に、パージガスがケーシングの内部に供給されている状態で、熱媒体61を媒体経路60に送る。熱媒体61としては、温水や高温ガスなどを利用することができる。高温ガスに含まれる気体の具体例は、フロン、二酸化炭素、空気、水蒸気などである。熱媒体61は、例えば、廃熱、ヒートポンプ、自己熱再生などを利用して準備することができる。
【0155】
熱媒体61を媒体経路60に送ることによって、媒体経路60を介して、熱媒体61と酸性ガス吸着材10との熱交換が生じ、酸性ガス吸着材10が加熱される。酸性ガス吸着材10の加熱温度は、例えば50~80℃である。これにより、酸性ガスが酸性ガス吸着材10から脱離する。酸性ガス吸着材10から脱離した脱離ガスは、パージガスとともに、脱離ガス出口から排出される。これにより、酸性ガスを回収することができる。なお、パージガスが水蒸気を含む場合、脱離ガス出口から排出されたパージガスを冷却し、水蒸気を凝縮することによって、水蒸気を取り除くことができる。なお、酸性ガス吸着材10を加熱するために、熱媒体61を利用する必要は必ずしもない。例えば、支持体2が面状ヒーターとして機能する場合は、支持体2に通電することによって酸性ガス吸着材10を加熱してもよい。
【0156】
酸性ガス回収装置300は、脱離運転時に、熱媒体61が脱離ガスと直接接触しないように構成されている。この酸性ガス回収装置300によれば、効率的に酸性ガスを回収することができる。回収された酸性ガス、特に二酸化炭素は、化学品の合成原料やドライアイスとして利用することができる。
【0157】
(準備運転)
酸性ガス回収装置300は、脱離運転の後に、吸着運転を行うための準備運転を行ってもよい。準備運転は、例えば、次のように実施される。まず、ケーシングの内部へのパージガスの供給を止めるとともに、媒体経路60から熱媒体61を排出する。次に、冷却媒体を媒体経路60に送る。冷却媒体としては、不凍液などを利用することができる。媒体経路60を介して、冷却媒体と酸性ガス吸着材10との熱交換が生じ、酸性ガス吸着材10が冷却される。酸性ガス吸着材10は、例えば、常温(25℃)まで冷却される。酸性ガス吸着材10の冷却後に、媒体経路60から冷却媒体を排出することで、吸着運転の準備が完了する。
【0158】
<酸性ガス回収装置の変形例>
酸性ガス回収装置は、
図6Aに示したものに限定されない。例えば、
図6Bに示す酸性ガス回収装置310では、2つの酸性ガス吸着材10の間に媒体経路60が形成されている。詳細には、酸性ガス回収装置310において、複数の酸性ガス吸着材10の間に形成された複数の空隙のうち、一部の空隙が媒体経路60として機能し、残りの空隙が通気経路14として機能する。媒体経路60及び通気経路14は、複数の酸性ガス吸着材10の配列方向に沿って、交互に並んでいる。酸性ガス回収装置310は、典型的には、複数の伝熱プレートが積層されたプレート式熱交換器と同様の構造を有している。
【0159】
酸性ガス回収装置310において、酸性ガス吸着材10は、多孔質シート1とともに支持体2を備えていることが好ましい。酸性ガス回収装置310では、例えば、酸性ガス吸着材10が備える多孔質シート1が通気経路14に対向し、支持体2が媒体経路60に対向している。酸性ガス回収装置310において、通気経路14にはスペーサー65が配置されており、媒体経路60にもスペーサー(図示せず)が配置されている。これらのスペーサーは、通気経路14及び媒体経路60を確保するとともに、各経路に適切な流体を導入し、さらに、他の経路に流体が漏れることを防ぐように構成されている。なお、
図6Bにおいて、通気経路14は、紙面の奥及び紙面の手前において、酸性ガス回収装置310の外部空間に接続されており、これにより、混合ガスを外部空間から通気経路14内に取り込めるように構成されていてもよい。さらに、酸性ガス回収装置310の脱離運転時には、通気経路14と外部空間との間に、これらの接続を遮断する部材が配置されてもよい。
【0160】
酸性ガス回収装置310は、複数の酸性ガス吸着材10を拘束する拘束部材70をさらに備える。拘束部材70は、例えば、一対の板部材71a、71b、ロッド72及び固定部材73を有する。板部材71a及び71bは、複数の酸性ガス吸着材10の配列方向に並んでおり、複数の酸性ガス吸着材10を挟み込んでいる。板部材71a及び71bによれば、複数の酸性ガス吸着材10に対して、配列方向に圧力を加えることができる。板部材71a及び71bには、酸性ガス回収装置310について上述した脱離ガス出口、パージガス入口、媒体入口、媒体出口などが形成されていてもよい。
【0161】
板部材71a及び71bのそれぞれには貫通孔が形成されており、ロッド72は、板部材71a及び71bの貫通孔に挿入されている。ロッド72は、側面に雄ねじ部が形成されたボルトであってもよい。固定部材73は、例えば、板部材71a及び71bのうちの1つの板部材とロッド72とを互いに固定する。固定部材73は、典型的には、ロッド72と螺合できる雌ねじ部を有するナットである。拘束部材70は、板部材71aとロッド72とを互いに固定する固定部材73aと、板部材71bとロッド72とを互いに固定する固定部材73bとを有する。
【0162】
図6Bの例では、2つのロッド72のそれぞれが固定部材73によって固定されている。ただし、ロッド72の数などは、
図6Bの例に限定されない。
【0163】
酸性ガス回収装置310は、酸性ガス回収装置300について上述した運転方法と同様の運転方法を実施することができる。酸性ガス回収装置310では、2つの酸性ガス吸着材10の間に媒体経路60が形成されている。この構成によれば、脱離運転において、熱媒体が媒体経路60を通過することによって、酸性ガス吸着材10全体を均一に加熱することができる。
【0164】
さらに、酸性ガス回収装置310は、酸性ガス回収装置300とは異なり、通気経路14が媒体経路60と干渉しないように構成されている。そのため、酸性ガス回収装置310では、吸着運転において、混合ガスが通気経路14を通過することによって生じる圧力損失が小さい傾向がある。
【0165】
酸性ガス回収装置310は、酸性ガス回収装置300に比べて、酸性ガス吸着材10などの部材を取り外しやすい。酸性ガス吸着材10を酸性ガス回収装置310から取り外すことによって、酸性ガス吸着材10の交換を実施しやすい。さらに、酸性ガス回収装置310の各部材を取り外すことによって、各部材について、洗浄操作などのメンテナンスを実施しやすい。
【実施例】
【0166】
以下に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0167】
(実施例1)
まず、50mLのラボランスクリュー管瓶(アズワン社製)に、ポリ(1,2-ブタンジオール)-6プロピレングリコール(日油社製、ユニオール(登録商標)PB-500)5.22gと、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル(日油社製、ユニルーブ(登録商標)DGP-700)5.22gとを加えた。得られた混合液に、エチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、EX-810)2.55g、及びペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工社製、ショウフリー(登録商標)PETG)3.83gを溶解させることによって、エポキシモノマー及びポロゲンの混合液を調製した。
【0168】
次に、この混合液に、トリエチレンテトラミン(東ソー社製)6.57gを添加することによって、エポキシモノマー、アミンモノマー及びポロゲンの混合液を調製した。この混合液において、アミンモノマーに含まれる1級アミノ基の活性水素の当量(A)に対する、エポキシモノマーに含まれるエポキシ基の当量(E)の比(E/A)は、0.4であった。
【0169】
次に、卓上振とう器(エンゼルバイブレーターデジタル60Hz)を強度5に設定して、混合液を2分間振とうさせた。次に、ギャップ350μmのアプリケーターを用いて、この混合液を厚さ20μmのアルミニウムシート上に塗工した。得られた塗布膜を120℃の乾燥機に30分間静置させることによって硬化させた。これにより、アミノ基を有するポリマーPを含むシート状の硬化体を得た。この硬化体を60℃の酢酸エチル中に30分間浸漬させる操作を、液交換を行って2回繰り返した。これにより、硬化体からポロゲンが除去され、多孔質シートが形成された。次に、60℃の乾燥機で30分間乾燥させて、アルミニウムシートを取り除くことによって、実施例1の酸性ガス吸着材(多孔質シートの自立膜)を得た。実施例1において、多孔質シートは、ポリマーPで構成された三次元網目状骨格を有していた。
【0170】
実施例1において、多孔質シートは、厚さが215μmであり、目付量が13.03mg/cm2であり、ポリマーPの真密度などから算出した空隙率が45%であった。モノマーの配合比から算出されたポリマーPにおけるアミノ基の密度は、13.87mmol/gであった。多孔質シートの単位体積当たりのアミノ基の物質量は、8.39mmol/cm3であった。
【0171】
(実施例2)
まず、エポキシモノマー、アミンモノマー及びポロゲンの配合量を表1に示すように変更したことを除き、実施例1と同じ方法によって、これらの混合液を調製した。次に、卓上振とう器(エンゼルバイブレーターデジタル60Hz)を強度5に設定して、混合液を2分間振とうさせた。次に、ギャップ500μmのアプリケーターを用いて、この混合液を厚さ250μmのガラスペーパー(PHN-50GC、王子エフテックス社製)上に塗工した。このとき、混合液は、ガラスペーパーの内部に浸み込んだ。混合液が浸み込んだガラスペーパーを120℃の乾燥機に30分間静置させることによって、混合液を硬化させた。これにより、アミノ基を有するポリマーPと、充填剤としてガラスペーパーとを含むシート状の硬化体を得た。この硬化体を60℃の酢酸エチル中に30分間浸漬させる操作を、液交換を行って2回繰り返した。これにより、硬化体からポロゲンが除去され、多孔質シートが形成された。次に、60℃の乾燥機で30分間乾燥させることによって、充填剤としてガラスペーパーを含む実施例2の酸性ガス吸着材(多孔質シートの自立膜)を得た。実施例2において、多孔質シートは、ポリマーPで構成された三次元網目状骨格を有していた。
【0172】
実施例2において、酸性ガス吸着材(多孔質シート)の目付量は、15.8mg/cm2であった。なお、酸性ガス吸着材の目付量(15.8mg/cm2)から、ガラスペーパーの目付量(5.0mg/cm2)を差し引いた値(10.8mg/cm2)を、ポリマーPで構成された三次元網目状骨格の目付量とみなすことができる。ポリマーPの真密度(1.1g/cm3)や、三次元網目状骨格の空隙率(45%)から算出された、三次元網目状骨格の理論上の厚さは179μmであった。モノマーの配合比から算出されたポリマーPにおけるアミノ基の密度は、12.38mmol/gであった。多孔質シートに含まれる三次元網目状骨格の単位体積当たりのアミノ基の物質量は、7.49mmol/cm3であった。さらに、多孔質シートの単位体積当たりのアミノ基の物質量は、5.27mmol/cm3であった。
【0173】
(実施例3~6)
ガラスペーパーに代えて、表1に示す繊維構造体を用いたことを除き、実施例2と同じ方法によって、実施例3~6の酸性ガス吸着材(多孔質シートの自立膜)を得た。実施例3~6のそれぞれにおいて、多孔質シートは、ポリマーPで構成された三次元網目状骨格を有していた。
【0174】
(比較例1)
まず、多孔体として、細孔体積が1.5mL/gであり、比表面積が700m2/gであり、細孔径が10nmであり、真密度が2.2g/mLの多孔質シリカ(AGCエスアイテック社製のSUNSPERA H-52)3.00gを準備し、メタノール(富士フイルム和光純薬社製、特級)60gに1晩浸漬させて分散液を作製した。次に、アミンモノマーとして、トリエチレンテトラミン(TETA、シグマアルドリッチ社製)0.447gを準備し、エポキシモノマーとして、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EX-810、ナガセケムテックス株式会社製)0.174g、及び、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工社製、ショウフリー(登録商標)PETG)0.261gを準備した。アミンモノマーに含まれる1級アミノ基の活性水素の当量(A)に対する、エポキシモノマーに含まれるエポキシ基の当量(E)の比(E/A)は、0.4であった。
【0175】
次に、これらのモノマーを上記の分散液に添加した。これにより、多孔体の孔の内部に化合物群(TETA、EX-810及びPETG)が侵入し、化合物群が多孔体の孔の表面に接触した。次に、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧雰囲気下で分散液を60℃の温度で加熱した。これにより、化合物群の反応が進行するとともに、分散液に含まれる溶媒が留去された。次に、真空雰囲気下で、多孔体を80℃の温度で加熱することによって、多孔体の乾燥処理を行った。これにより、ポリマーPが多孔体に担持された比較例1の酸性ガス吸着材を得た。比較例1の酸性ガス吸着材では、実施例について上述した三次元網目状骨格が存在しなかった。
【0176】
(比較例2~6)
エポキシモノマー及びアミンモノマーの配合量を表1に示すように変更したことを除き、比較例1と同じ方法によって、比較例2~6の酸性ガス吸着材を得た。比較例2~6の酸性ガス吸着材では、実施例について上述した三次元網目状骨格が存在しなかった。
【0177】
[多孔質シートの断面観察]
実施例1で作製した多孔質シートについて、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、その断面を観察した。得られたSEM画像を
図7に示す。
図7からわかるとおり、多孔質シートは、ポリマーPで構成された三次元網目状骨格を有していた。
【0178】
[BET比表面積]
実施例1~2及び比較例1~6で作製した酸性ガス吸着材について、窒素ガス吸着によるBET比表面積を測定した。BET比表面積は、比表面積測定装置(商品名「BELSORP-mini」、マイクロトラック・ベル社製)を使用し、JIS Z8830:2013の規定に準拠した方法で測定した。
【0179】
[ガラス転移温度Tg]
実施例及び比較例で作製した酸性ガス吸着材に含まれるポリマーPについて、次の方法によってガラス転移温度Tgを測定した。まず、酸性ガス吸着材に含まれるポリマーPと同じ組成を有するポリマーを合成した。このポリマー約5mgを示差走査熱量計(TAインスツルメント社製のDSC2500)にセットした。この装置を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで30℃から200℃まで昇温し、その温度で1分間保持した。次に、降温速度10℃/minで-50℃まで冷却し、その温度で1分間保持した後、さらに、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温した。2度目の昇温時のDSC曲線において、比熱変化が現れる前の第1ベースラインと、比熱変化が現れた後の第2ベースラインと、比熱変化による屈曲部分のうち、傾きが最大となる点を通過する接線とを特定する。第1ベースライン及び接線の交点と、第2ベースライン及び接線の交点との中間温度をガラス転移温度Tgとして特定した。
【0180】
[真密度]
実施例及び比較例で作製した酸性ガス吸着材に含まれるポリマーPについて、次の方法によって真密度を特定した。まず、実施例及び比較例で用いた混合液と同じ配合量でエポキシモノマー及びアミンモノマーを含む混合液を調製した。次に、卓上振とう器(エンゼルバイブレーターデジタル60Hz)を強度5に設定して、混合液を2分間振とうさせた。内径75mmのPFA製シャーレに混合液を流し込み、120℃の乾燥機に30分間静置させることによって混合液を硬化させた。これにより、アミノ基を有するポリマーPを含む硬化体を得た。この硬化体を60℃の酢酸エチル中に30分間浸漬させる操作を、液交換を行って2回繰り返して、硬化体に残存しているモノマーを除去した。次に、60℃の乾燥機で30分間乾燥させることによって、ポリマーPから構成された硬化体を得た。この硬化体について、電子比重計(EW-300SG、アルファーミラージュ社製)を用いて、JIS K7112:1999(非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法)に準拠した方法で密度を測定し、得られた測定値をポリマーPの真密度とみなした。
【0181】
[単位体積当たりのアミノ基の物質量]
比較例1~6の酸性ガス吸着材については、次の方法によって単位体積当たりのアミノ基の物質量を特定した。まず、酸性ガス吸着材を同時熱分析DSC/TGA装置(DSC6500、TAインスツルメント社製)にセットした。この装置を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minで30℃から100℃まで昇温し、その温度で40分間保持した(操作1)。これにより、酸性ガス吸着材に含まれる水を取り除いた。次に、昇温速度10℃/minで100℃から800℃まで昇温し、その温度で5分間保持した(操作2)。これにより、酸性ガス吸着材からポリマーPを取り除いた。
【0182】
次に、装置にセットする前の酸性ガス吸着材の重量(g)に対する、上記の操作1を行った後の酸性ガス吸着材の重量(g)の比率(重量維持率W1(%))と、装置にセットする前の酸性ガス吸着材の重量(g)に対する、上記の操作2を行った後の酸性ガス吸着材の重量(g)の比率(重量維持率W2(%))を特定した。重量維持率W1及びW2を用いて、下記式により、酸性ガス吸着材の重量(g)に対するポリマーPの重量(g)の比Fを算出した。
比F=1-(1/W1)×W2
【0183】
次に、下記式により、1g当たりの多孔体の体積A(mL)、1gの多孔体に対するポリマーPの重量B(g)、多孔体とポリマーPとから構成された複合粒子の密度C(g/mL)、及び、複合粒子におけるアミノ基の密度Dをそれぞれ算出した。
体積A(mL)=1g当たりの多孔体の細孔体積(mL)+多孔体の重量(g)/多孔体の真密度(g/mL)
重量B(g)=比F/(1-比F)×多孔体の重量(g)
複合粒子の密度C(g/mL)=(多孔体の重量(g)+重量B(g))/体積A(mL)
アミノ基の密度D(mmol/g)=比F×ポリマーPにおけるアミノ基の密度(mmol/g)
【0184】
さらに、下記式により、酸性ガス吸着材の単位体積当たりのアミノ基の物質量Eを算出した。なお、下記式において、複合粒子の充填率は、酸性ガス吸着材に複合粒子が最密充填されていると仮定した数値(0.74)を採用した。
物質量E(mmol/cm3)=複合粒子の密度C(g/mL)×複合粒子の充填率×複合粒子におけるアミノ基の密度D(mmol/g)
【0185】
【0186】
【0187】
表1中の略称は以下のとおりである。
EX-810:エチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、EX-810)
PETG:ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル(昭和電工社製、ショウフリー(登録商標)PETG)
TETA:トリエチレンテトラミン(東ソー社製)
PB-500:ポリ(1,2-ブタンジオール)-6プロピレングリコール(日油社製、ユニオール(登録商標)PB-500)
DGP-700:ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル(日油社製、ユニルーブ(登録商標)DGP-700)
PHN-50GC:ガラスペーパー(パルプ含有系不織布)(王子エフテックス社製、PHN-50GC)
MP-22:パルプ含有系不織布(日本製紙パピリア社製、MP-22)
PY120-01:合成繊維系不織布(阿波製紙社製、PY120-01)
PY120-32:合成繊維系不織布(阿波製紙社製、PY120-32)
120H-PB:パルプ含有系不織布(日本製紙パピリア社製、120H-PBベース紙)
【0188】
[二酸化炭素の吸着量]
実施例1、及び比較例1~3の酸性ガス吸着材について、上述した方法によって、二酸化炭素の吸着量を測定した。このとき、実施例1では、主面の面積が4.72cm2となるように酸性ガス吸着材を裁断したものを測定試料として用いた。比較例1~3では、実施例1で用いた測定試料と同程度の体積となるように重量が調整された測定試料を用いた。なお、比較例1~3の測定試料の重量は、それぞれ、49mg、64mg及び76mgであった。比較例1~3について、実施例1で用いた測定試料と同程度の体積となる測定試料の重量は、多孔体とポリマーPとから構成された複合粒子の密度C(g/mL)及び複合粒子の充填率を用いて、下記式によって算出した。下記式において、複合粒子の充填率は、酸性ガス吸着材に複合粒子が最密充填されていると仮定した数値(0.74)を採用した。
比較例の測定試料の重量(mg)=実施例1の測定試料の体積(cm3)×密度C(g/mL)×複合粒子の充填率
【0189】
実施例1、及び比較例1~3について、二酸化炭素の吸着量の測定結果を
図8に示す。
図8は、吸着試験を開始してからの時間と、酸性ガス吸着材による二酸化炭素の吸着量との関係を示すグラフである。
図8から、二酸化炭素の吸着量は、所定の時間で飽和し、安定することが確認された。
図8からわかるとおり、実施例1の酸性ガス吸着材は、単位体積当たりの二酸化炭素の吸着量が比較例1~3よりも大きく、酸性ガスの吸着に適していた。なお、実施例1の酸性ガス吸着材を上述の混合ガスGに15時間接触させたときの二酸化炭素の吸着量aは、1.45mmol/cm
3であった。
【0190】
さらに、実施例2、及び比較例4~6の酸性ガス吸着材について、上述した方法によって、二酸化炭素の吸着量を測定した。このとき、実施例2では、主面の面積が5.76cm2となるように酸性ガス吸着材を裁断したものを測定試料として用いた。比較例4~6では、実施例2で用いた測定試料と同程度の体積となるように重量が調整された測定試料を用いた。なお、比較例4~6の測定試料の重量は、それぞれ、50mg、60mg及び72mgであった。比較例4~6について、実施例2で用いた測定試料と同程度の体積となる測定試料の重量は、比較例1~3について上述した方法と同様の方法によって算出した。
【0191】
実施例2、及び比較例4~6について、二酸化炭素の吸着量の測定結果を
図9に示す。
図9は、吸着試験を開始してからの時間と、酸性ガス吸着材による二酸化炭素の吸着量との関係を示すグラフである。
図9から、二酸化炭素の吸着量は、所定の時間で飽和し、安定することが確認された。
図9からわかるとおり、実施例2の酸性ガス吸着材は、単位体積当たりの二酸化炭素の吸着量が比較例4~6よりも大きく、酸性ガスの吸着に適していた。なお、実施例2の酸性ガス吸着材を上述の混合ガスGに15時間接触させたときの二酸化炭素の吸着量aは、1.27mmol/cm
3であった。
【0192】
以上の結果から、ポリマーPを含む三次元網目状骨格を有する多孔質シートを備えた実施例1及び2の酸性ガス吸着材は、二酸化炭素の吸着量が比較例よりも大きく、酸性ガスの吸着に適していることがわかる。なお、他の実施例3~6の酸性ガス吸着材は、充填剤として用いた繊維構造体の種類を除き、実施例2と同様の構成を有する。そのため、実施例3~6の酸性ガス吸着材は、二酸化炭素などの酸性ガスに対する吸着性能が実施例2と同程度であることが推定される。
【0193】
実施例の酸性ガス吸着材は、単位体積当たりのアミノ基の物質量が比較的大きいため、酸性ガスの吸着性能を維持しながら、多孔質シートの厚さを小さく調整することに適している。厚さが小さい多孔質シートによれば、例えば、酸性ガス吸着材を用いて作製した構造体、特にハニカム構造体、の通気経路の断面積を大きく調整できる。通気経路の断面積が大きい構造体は、酸性ガスと接触したときなどに生じる圧力損失を低減することに適している。このように、実施例の酸性ガス吸着材は、当該酸性ガス吸着材を備えた構造体に生じる圧力損失を低減することに適していると言える。
【0194】
(計算例1)
次に、アルミナの多孔質粒子が凝集して形成されたシート状構造体を用いて、酸性ガス吸着材を作製することを想定した。詳細には、シート状構造体における多孔質粒子の孔内に、実施例1で作製したポリマーPを充填して、酸性ガス吸着材を作製することを想定した。この酸性ガス吸着材の単位体積当たりのアミノ基の物質量を以下の方法によって計算した。なお、以下の計算では、従来の酸性ガス吸着材で通常必要とされる結着剤等の添加剤を考慮していない。
【0195】
まず、多孔質粒子は、細孔体積が1.25mL/gであり、比表面積が175m2/gであり、細孔径が20nmであり、真密度が3.8g/mLであると仮定した。酸性ガス吸着材の重量に対するポリマーPの重量の比F(ポリマーPの重量(g)/(ポリマーPの重量(g)+多孔質粒子の重量(g)))は、0.39と仮定した。
【0196】
1g当たりの多孔質粒子の体積Aは、下記式により1.51mLと算出された。
体積A(mL)=1g当たりの多孔質粒子の細孔体積(mL)+多孔質粒子の重量(g)/多孔質粒子の真密度(g/mL)
=1.25+1/3.8=1.51(mL)
【0197】
酸性ガス吸着材において、1gの多孔質粒子に対するポリマーPの重量Bは、下記式により0.639gと算出された。
重量B(g)=ポリマーPの重量比F/(1-ポリマーPの重量比F)×多孔質粒子の重量(g)
=0.39/(1-0.39)×1=0.639(g)
【0198】
多孔質粒子とポリマーPとから構成された複合粒子の密度Cは、下記式により1.08g/mLと算出された。
複合粒子の密度C(g/mL)=(多孔質粒子の重量(g)+ポリマーPの重量B(g))/1g当たりの多孔質粒子の体積A(mL)
=(1+0.639)/1.51=1.08(g/mL)
【0199】
上記の複合粒子におけるアミノ基の密度Dは、下記式により5.4mmol/gと算出された。
アミノ基の密度D(mmol/g)=ポリマーPの重量の比F×ポリマーPにおけるアミノ基の密度(mmol/g)
=0.39×13.87=5.4(mmol/g)
【0200】
計算例1において、酸性ガス吸着材の単位体積当たりのアミノ基の物質量Eは、下記式により4.34mmol/cm3と算出された。なお、下記式において、複合粒子の充填率は、酸性ガス吸着材に複合粒子が最密充填されていると仮定した数値(0.74)を採用した。
アミノ基の物質量E(mmol/cm3)=複合粒子の密度C(g/mL)×複合粒子の充填率×複合粒子におけるアミノ基の密度D(mmol/g)
=1.08×0.74×5.4=4.34(mmol/cm3)
【0201】
アミノ基の物質量Eから、計算例1の酸性ガス吸着材が吸着可能な二酸化炭素の量は、最大で0.75mmol/cm3であると算出された。この結果から、実施例1及び2の酸性ガス吸着材は、計算例1の酸性ガス吸着材よりも、二酸化炭素などの酸性ガスに対する吸着性能が高いことがわかる。
【0202】
[繊維構造体の引張強度]
実施例2~6で用いた繊維構造体については、上述の方法によって、引張強度STD及びSMDを測定した。引張試験機としては、オートグラフ装置(AGS-50NX、島津製作所製)を用いた。表3には、引張強度STD及びSMDとともに、試験片が3%伸びたときの試験力も示す。
【0203】
[寸法変化率]
実施例2~6で作製した多孔質シートについては、上述の方法によって、寸法変化率RTD及びRMDを測定した。
【0204】
【0205】
表3からわかるとおり、充填剤としての繊維構造体の引張強度が大きければ大きいほど、多孔質シートの寸法変化率が低い傾向があった。特に、繊維構造体の引張強度STDが2MPa以上である実施例2~5は、多孔質シートの寸法変化率RTDが十分に低い値であった。以上の結果から、実施例2~6、特に実施例2~5の多孔質シートは、その使用時などに、支持体や酸性ガス回収装置などから脱落しにくいことが推定される。さらに、これらの多孔質シートは、その使用時などに変形しにくく、変形に起因するガスの通過の阻害が生じにくいことも推定される。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本実施形態の酸性ガス吸着材は、例えば、大気中の二酸化炭素を吸着することができる。