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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-17
(45)【発行日】2025-06-25
(54)【発明の名称】レザバーシステム
(51)【国際特許分類】
   G06N 3/044 20230101AFI20250618BHJP
【FI】
G06N3/044 100
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2025527100
(86)(22)【出願日】2025-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2025007297
【審査請求日】2025-05-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智生
(72)【発明者】
【氏名】望月 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】北野 哲
(72)【発明者】
【氏名】小野松 丈洋
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 幸夫
【審査官】宮司 卓佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-55721(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0036245(US,A1)
【文献】特開2016-71633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサーと、レザバーと、を有し、
前記複数のセンサーのそれぞれは、時系列信号を感知し、前記時系列信号に基づく時系列のセンサー信号を、前記レザバーに送るように構成され、
前記レザバーは、前記複数のセンサーのそれぞれからのセンサー信号を非線形変換し、
前記レザバーは、時系列の前記センサー信号の前記レザバーへの入力が完了する前に、出力信号を未来の予測データとして出力できるように構成されている、レザバーシステム。
【請求項2】
前記出力信号は、時系列の前記センサー信号のうち前記出力信号を出力するまでに前記レザバーに入力された過去のデータを用いて求められる、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項3】
前記複数のセンサーのそれぞれは、時系列信号を一定時間ごとに時分割して前記レザバーに入力し、
前記レザバーは、時間経過とともに前記出力信号を複数回出力し、
前記レザバーから出力される前記出力信号の回数は、時分割された前記時系列信号が前記レザバーに入力されるサンプリング回数以下である、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項4】
前記センサー信号は、前記時系列信号と一致する、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項5】
前記センサー信号は、前記時系列信号を一定時間ごとに時分割した信号である、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項6】
前記レザバーは、レザバー層と出力層とを備え、
前記レザバー層は、前記時系列のセンサー信号のうち前記レザバーに入力された信号を変換し、
前記出力層は、前記レザバー層からの出力に重みを印加し、前記レザバーに入力された信号に基づく前記出力信号を出力する、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項7】
前記出力信号は、アナログ信号である、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項8】
前記レザバーは、複数のノードを有し、
前記複数のノードの間の信号交換はアナログ信号で行われる、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項9】
前記レザバーは、複数のノードを有し、
前記複数のノードの間のそれぞれは、決められた周期で、他のノードに信号を送る、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項10】
前記複数のセンサーの少なくとも一つは、画像検知センサーである、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項11】
前記複数のセンサーの少なくとも一つは、加速度センサーである、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項12】
入力検知部をさらに備え、
前記入力検知部は、前記複数のセンサーのそれぞれと前記レザバーとに接続され、
前記入力検知部は、前記センサー信号をモニターし、前記センサー信号のうち前記予測データの予測に利用する信号の開始点を決定できるように構成されている、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項13】
出力検知部をさらに備え、
前記出力検知部は、前記レザバーに接続され、
前記出力検知部は、前記出力信号をモニターし、前記センサー信号のうち前記予測データの予測に利用する信号の終了点を決定できるように構成されている、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項14】
前記複数のセンサーは、指又は腕に装着可能な加速度センサーであり、
前記レザバーは、前記出力信号として手の動きを予測できるように構成されている、請求項1に記載のレザバーシステム。
【請求項15】
前記複数のセンサーは、画像のうちの所定のポイントを座標で示すことができるセンサーであり、
前記レザバーは、前記座標の推移を用いて、前記出力信号として手の動きを予測できるように構成されている、請求項1に記載のレザバーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レザバーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ニューロモルフィックデバイスは、ニューラルネットワークを用いて人間の脳を模倣した素子である。ニューロモルフィックデバイスは、人間の脳におけるニューロンとシナプスとの関係を人工的に模倣している。
【0003】
ニューロモルフィックデバイスは、例えば、階層状に配置されたノード(脳におけるニューロン)と、これらの間を繋ぐ伝達手段(脳におけるシナプス)と、を有する。ニューロモルフィックデバイスは、伝達手段(シナプス)が学習することで、問題の正答率を高める。学習は将来使えそうな知識を情報から見つけることであり、ニューロモルフィックデバイスでは入力されたデータに重み付けをする。
【0004】
ニューラルネットワークの一つとして、リカレントニューラルネットワークが知られている。リカレントニューラルネットワークは、非線形な時系列のデータを扱うことができる。非線形な時系列のデータは、時間の経過とともに値が変化するデータであり、株価等はその一例である。リカレントニューラルネットワークは、後段の階層のニューロンでの処理結果を前段の階層のニューロンに戻すことで、過去の情報を含めたデータ処理が可能である。
【0005】
レザバーコンピューティングは、リカレントニューラルネットワークを実現する一つの手段である。レザバーコンピューティングは、内部結合に基づいて、信号を相互作用させることで、再帰的な処理を行う。例えば、特許文献1には、レザバーを含む情報処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2022/024167号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レザバーコンピューティングを含むニューラルネットワークは、入力信号の入力が完了してから、入力された入力信号に基づいて推定解を予測する。しかしながら、信号の入力が完了を待つと、推定解の予測に時間がかかる。このタイムラグは、タイムリーな予測を阻害する。高度なコンピューターを用いて演算処理を早めることで、タイムラグを短くすることはできるが、高度なコンピューターを用いたシステムは汎用性にかける。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、タイムリーな予測が可能なレザバーシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様に係るレザバーシステムは、複数のセンサーと、レザバーと、を有する。前記複数のセンサーのそれぞれは、時系列信号を感知し、前記時系列信号に基づく時系列のセンサー信号を、前記レザバーに送るように構成されている。前記レザバーは、前記複数のセンサーのそれぞれからのセンサー信号を非線形変換する。前記レザバーは、時系列の前記センサー信号の前記レザバーへの入力が完了する前に、出力信号を未来の予測データとして出力できるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
上記態様にかかるレザバーシステムは、タイムリーな予測が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係るレザバーシステムの概略図である。
図2】第1実施形態に係るレザバーシステムの動作を説明するための図である。
図3】第1実施形態に係るレザバーシステムの動作を説明するための図である。
図4】第2実施形態に係るレザバーシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本開示の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の具体的な構成などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される構成等は一例であって、本開示はそれらに限定されるものではなく、本開示の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
「第1実施形態」
図1は、本実施形態に係るレザバーシステム100のブロック図である。レザバーシステム100は、複数のセンサー1とレザバー2とを備える。
【0014】
複数のセンサー1のそれぞれは、レザバー2と接続されている。センサー1のそれぞれは、外部信号として時系列信号S1を感知する。センサー1のそれぞれは、時系列信号S1に基づく、時系列のセンサー信号S2をレザバー2に送るように構成されている。
【0015】
センサー1の種類は特に問わない。例えば、画像検知センサー、加速度センサー、温度センサー、慣性センサーをセンサー1に用いることができる。画像検知センサーは、例えば、画像のうちの所定のポイント(例えば、赤い箇所)を座標で表すことができるものでもよい。加速度センサーは、例えば、指、腕等に装着可能で、腕の動きを加速度で検知できるものでもよい。センサー1のそれぞれは、同じ種類のセンサーでもよいし、異なる種類のセンサーでもよい。
【0016】
時系列信号S1は、時間と共に変化する測定対象の情報を含む信号である。例えば、センサー1が加速度センサーの場合、時系列信号S1は、ある方向への加速度の時間変化を示す。例えば、センサー1が画像検知センサーの場合、時系列信号S1は、測定ポイントの座標の時間変化を示す。
【0017】
センサー1は、時系列信号S1をそのまま、センサー信号S2として出力してもよい。この場合、時系列信号S1は、センサー信号S2と一致する。時系列信号S1をそのままセンサー信号S2とすると、時系列信号S1の有する情報を漏れなく利用できる。また時系列信号S1をセンサー信号S2に変換するタイムラグがなく、レザバーシステム100の予測をタイムリーに行うことができる。
【0018】
またセンサー1は、時系列信号S1を変換して、センサー信号S2として出力してもよい。例えば、センサー1は、時系列信号S1を一定時間ごとに時分割した時分割信号をセンサー信号S2としてもよい。時系列信号S1を時分割することで、レザバー2の演算負荷を下げることができる。
【0019】
例えば、センサー1は、クロックとスイッチとを有してもよい。クロックは、クロック信号に基づいて、スイッチのON/OFFを切り替える。クロック信号の周期は、例えば、1kHzでもよく、1MHzでもよい。センサー1は、クロック信号に基づいて、一定周期でセンサー信号S2を出力する。センサー1がクロック信号に基づいて動作することで、時系列信号S1はセンサー信号S2に変換される。
【0020】
またセンサー1は、信号を一定期間保持する信号保持部をさらに有してもよい。信号保持部は、クロック信号によりスイッチが切り替わる間に、センサー1で感知した信号を保持する。信号保持部で一定周期の間に入力された信号を保持することで、一定周期の間に感知された時系列信号S1をまとめてセンサー信号S2として出力できる。信号保持部は、例えば、コンデンサである。
【0021】
例えば、センサー1のそれぞれが異なるセンサーの場合、それぞれのセンサーの動作周期が異なる場合がある。例えば、センサー1の種類によっては、他の種類のセンサーより動作周期が早い場合がある。クロックを用いると、それぞれのセンサー1から入力されるセンサー信号S2の周期を同期することができる。センサー信号S2の周期を同期することで、一つのセンサー1(例えば、動作周期の早い信号)に依存した信号がレザバー2に入力されることを避けることができる。
【0022】
レザバー2は、複数のセンサー1のそれぞれと接続されている。複数のセンサー1からレザバー2に入力されたセンサー信号S2は、レザバー2内で非線形変換される。
【0023】
レザバー2は、ソフトウェアでもよいし、ハードウェアでもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが組み合わさったものでもよい。
【0024】
ソフトウェアは、コンピュータ内に実装されるプログラムである。レザバー2がソフトウェアの場合は、レザバー2は、中央演算装置(CPU)を含むマイクロコントローラーユニット(MCU)又はマイクロプロセッサユニット(MPU)でもよい。レザバー2は、例えば、レザバーコンピューティングのプログラムを格納するメモリと、レザバーコンピューティングのプログラムを実行するプロセッサとを含む。
【0025】
ハードウェアは、現実の素子又は回路の組み合わせからなる。ハードウェアのレザバーは、物理レザバーと言われる。物理レザバーは、現実の素子又は回路の組み合わせからなり、レザバーコンピューティングの概念を現実の素子又は回路で実現したものである。例えば、物理レザバーは、物理回路でもよい。物理レザバーは、例えば、光を利用した光学素子でもよいし、電気を利用した電気的素子でもよいし、磁気を利用した磁気素子でもよいし、振動を利用した力学的素子でもよい。物理レザバーがアナログインタフェースの場合、物理レザバーからの出力をデジタル変換するアナログデジタルコンバーターを有してもよい。また物理レザバーを、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのPLD(Programmable Logic device)に実装してもよい。
【0026】
レザバー2は、例えば、レザバー層21と出力層22とを備える。レザバー層21は、複数のセンサー1に接続されている。またレザバー層21は、出力層22と接続されている。
【0027】
レザバー層21は、センサー信号S2を貯留し、別の信号に変換する。レザバー層21は、時系列のセンサー信号S2がすべて入力されるのを待たずに、時系列のセンサー信号S2を逐次、信号変換する。レザバー層21は、時系列のセンサー信号S2のうちレザバー2に入力されたデータを変換する。
【0028】
レザバー層21は、複数のノードnを有する。ノードnは、神経回路のニューロンに相当し、ノードn間の接続が神経回路のシナプスに相当する。ノードnは、入力を非線形変換して出力する。ノードnの数は問わない。ノードnのそれぞれは、複数のセンサー1と全結合してもよい。ノードnのそれぞれは、出力層22と全結合してもよい。
【0029】
それぞれのノードnは、1つ以上の別のノードnと結合されている。それぞれのノードnは、レザバー層21内の他の全てのノードnと結合されていてもよいし、レザバー層21内の一部のノードnと結合されていてもよい。ノードn間の接続はランダムである。
【0030】
ノードn間の結合は、再帰結合を含む。再帰結合は、出力が入力に戻る結合である。例えば、時刻tに一つのノードnから出力された信号は、時刻t+1以降において信号を出力したノードnに戻る場合がある。これは、一つのノードnから出力された信号が、他のノードnを伝搬し、元のノードnに戻ることによって生じる。このように、あるノードnからの出力が、他のノードnを介して、再度入力されるようなノードn間の結合関係を再帰結合という。レザバー2は過去の情報を踏まえた推論が可能になる。
【0031】
ノードn間には、結合重みを示す結合係数が設定されている。ノードnに入力した信号は、ノードnの間を伝搬していく。あるノードnに伝搬した信号は、ノードnの活性化関数によって非線形変換され、さらに結合係数に応じた乗算されて、次のノードnに伝搬する。ノードn間の結合係数は、-1.0から+1.0の範囲で任意に設定できる。ノードn間の結合係数は、例えば、乱数によって設定される。
【0032】
ノードn間の信号交換は、アナログ信号でもよい。アナログ信号は、タイムリーな情報を扱うことができ、レザバーシステム100の予測をタイムリーに行うことができる。またアナログ信号をデジタル信号に変換する必要がなければ、レザバーシステム100全体の消費電力を下げることができる。
【0033】
またノードn間の信号交換は、クロックを用いて制御されていてもよい。例えば、各ノードnは、クロックとスイッチとを有してもよい。それぞれのノードnは、クロック信号に基づいて、一定のタイミングで、他のノードに信号を送る。それぞれのノードnがクロック信号に基づいて動作することで、時系列信号S1はセンサー信号S2に変換される。それぞれのノードnは、信号を一定期間保持する信号保持部をさらに有してもよい。信号保持部は、クロック信号によりスイッチが切り替わる間に、ノードnが受信した信号を保持する。信号保持部で一定周期の間に入力された信号を保持することで、一定周期の間に感知された信号をまとめて次のノードnに送ることができる。ノードn間の信号交換をクロック制御することで、各ノードn間の信号伝搬のタイミングを同期することができる。
【0034】
出力層22は、レザバー層21と接続されている。出力層22とレザバー層21の各ノードnとの間には、結合係数(重み)が設定されている。この結合係数は、レザバーシステム100の学習の際に更新され、最適化される。レザバーシステム100を用いた推論の際は、この結合係数は、学習結果に応じて固定される。
【0035】
出力層22は、レザバー層21からの出力信号S3に重みを印加する。重みの印加は、出力信号S3に結合係数を積演算する処理に対応する。出力層22の処理は、ソフトウェアの演算処理として行ってもよいし、例えば積和演算回路等のハードウェハを用いた処理で行ってもよい。
【0036】
出力層22は、レザバー層21からの出力信号S3に基づき、出力信号S4を出力する。出力信号S3は、レザバー2に入力されたセンサー信号S2を変換したものであり、レザバー2に入力された信号の情報を一部有する。出力信号S4は、レザバー2に入力された信号に基づいて、出力される。
【0037】
出力層22は、時系列のセンサー信号S2のレザバー2への入力が完了する前に、出力信号S4を出力する。すなわち、出力信号S4が出力されるタイミングは、センサー信号S2の入力が完了するタイミングより早い。出力層22は、センサー信号S2の入力の途中で、出力信号S4を出力する。出力層22は、時系列のセンサー信号S2のうち出力信号S4を出力するまでにレザバー2に入力された過去のデータを用いて、出力信号S4を出力する。つまり、レザバー2は、過去のデータからまだ入力されていない未来のデータを予測し、出力信号S4を出力できる。
【0038】
例えば、出力層22がソフトウェハの場合、出力層22は、センサー信号S2のレザバー2への入力を待たずに、センサー信号S2のレザバー2への入力が完了する前から、現時点の情報に基づいた推論結果を出力するようにプログラムされている。
【0039】
例えば、出力層22がハードウェアの場合、出力層22は、レザバー2への入力が完了するまでの間のセンサー信号S2の全ての情報を貯留するコンデンサ等を、介さない信号伝搬経路を有する。この信号伝搬経路を用いることで、出力層22は、センサー信号S2のレザバー2への入力が完了する前から、現時点の情報に基づいた推論結果を出力信号S4として出力する。
【0040】
出力信号S4は、時間経過と共に変化してもよい。出力信号S4は、例えば、アナログ信号でもよい。出力信号S4は、アナログ信号をデジタル変換したデジタル信号でもよい。出力信号S4は、時間経過と主に、複数回に分けて出力されてもよい。例えば、センサー信号S2が時分割信号の場合、出力信号S4が出力される回数は、時分割されたセンサー信号S2がレザバー2に入力されるサンプリング回数以下でもよい。
【0041】
出力信号S4は、例えば、出力部から情報をユーザーが認知可能な形で出力される。出力部は、例えば液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置であってもよい。出力部は、画像表示装置に接続するためのインターフェースでもよい。この場合、出力部は、画像データを表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。出力部は、スピーカー等の音響を出力する装置であってもよい。出力部は、スピーカーやヘッドホン等の音響出力装置に接続するためのインターフェースであってもよい。
【0042】
次いで、第1実施形態に係るレザバーシステム100の動作について説明する。レザバーシステム100は、学習と推論を行うことができる。
【0043】
まずレザバーシステム100の学習について説明する。レザバーシステム100の学習を行う際は、出力信号S4と教師信号とを比較して、出力信号S4と教師信号との一致度(相互情報量)が高くなるように、出力信号S3に印加する重み(結合係数)を調整する。
【0044】
教師信号は、例えば、記憶部に記憶されていてもよい。記憶部は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶媒体を用いて構成される。記憶部は、コンピューターが読み取り可能な記録媒体でもよい。コンピューターが読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。
【0045】
具体例を挙げて説明する。例えば、センサー1が画像検知センサーで、レザバーシステム100が指の動きから指が描いた数字を予測するシステムの場合を例示する。例えば、指に赤い指サックを付け、画像検知センサーは、画像のうちの赤いポイントを検知する。
【0046】
図2は、第1実施形態に係るレザバーシステム100の動作を説明するための図である。図2に示すように、指が「2」という数値を描いた場合、指の動きは、X軸とY軸の座標の推移に変換できる。このX軸の動き、Y軸の動きのそれぞれが、センサー1で検知された時系列信号S1となる。
【0047】
レザバーシステム100は、この場合、「2」という出力信号S4を出力することが正解となる。すなわち、「2」という解が教師信号となる。レザバーシステム100が「2」という解を出力しない場合は、出力信号S3に印加する重み(結合係数)を調整する。このような処理を様々な数字、様々な対象者の指の動きに対して行い、出力信号S3に印加する重み(結合係数)を最適化する。
【0048】
また別の具体例を挙げて説明する。例えば、センサー1が加速度センサーで、レザバーシステム100が手の指の形を予測するシステムの場合を例示する。例えば、5本の指のそれぞれに加速度センサーを設置し、指の動きを加速度センサーは検知する。
【0049】
例えば、指を握る場合と、指を広げる場合とで、指の動きは異なり、加速度センサーが検知する信号も異なる。例えば、指を握るという動作を行った場合に、レザバーシステム100は、加速度センサーからの時系列信号に基づいて、「指を握る」という出力信号S4を出力することが正解となる。すなわち、「指を握る」というジェスチャーが教師信号となる。レザバーシステム100が「指を握る」というジェスチャーを出力しない場合は、出力信号S3に印加する重み(結合係数)を調整する。このような処理を様々な数字、様々な対象者の指の動きに対して行い、出力信号S3に印加する重み(結合係数)を最適化する。
【0050】
次いで、レザバーシステム100の推論について説明する。レザバーシステム100が推論を行う場合は、センサー1は、外部信号を時系列信号S1として感知する。時系列信号S1は、センサー信号S2となり、レザバー2に入力される。レザバー2内では、センサー信号S2は、出力信号S3となり、重みが印加される。この際に印加される重みは、学習時に決定された重みである。そして、レザバーシステム100は、出力信号S3に基づいた出力信号S4を出力する。出力信号S4は、時系列のセンサー信号S2のレザバー2への入力が完了する以前から未来の予測データとして出力される。
【0051】
具体例を挙げて説明する。例えば、センサー1が画像検知センサーで、レザバーシステム100が指の動きから指が描いた数字を予測するシステムの場合を例示する。
【0052】
図3は、第1実施形態に係るレザバーシステム100の動作を説明するための図である。指が数値を描く場合の動きは、時系列信号S1として、レザバーシステム100に入力される。時系列信号S1は、数値の書き始めから下記終わりまでの全ての情報を含む信号である。レザバーシステム100は、時系列信号S1の入力が始まると同時に、予測を始める。
【0053】
例えば、10フレームの時点では、数字を書き始めたばかりであり、時系列信号S1の入力は完了していない。例えば、20フレームの時点では、数字を書いている途中であり、時系列信号S1の入力は完了していない。例えば、42フレームの時点まで至って初めて、時系列信号S1の入力は完了する。
【0054】
レザバーシステム100は、それぞれの段階で推定解を出力している。例えば、例えば、5フレームの時点では、「7」又は「8」を描いている可能性があるという推定解を出力している。例えば、20フレームの時点では、「7」を描いている可能性があるという推定解を出力している。例えば、42フレームの時点では、「2」を描いていた可能性が高いという推定解を出力している。
【0055】
例えば、「2」という数字を描く場合、最後の横線を描く直前に、特徴的な屈曲がある。このような動きは、「2」又は「3」に特徴的な動きであり、おおよそ25フレームの時点で、レザバーシステム100は、「2」の確率が最も高いという推定解を出力している。
【0056】
第1実施形態に係るレザバーシステム100は、42フレームにおいて数値が描き終わるよりも、約20フレームも前から指の動きを予測していたことになる。第1実施形態に係るレザバーシステム100は、タイムリーな予測を行うことができ、タイムラグを小さくすることができる。
【0057】
ここで、レザバーシステム100は、20フレーム以前においては、適切ではない推定解を出力している。この点は、通常の人間の判断でも行われることであり、問題ではない。例えば、「2」という数字が描かれる途中に、人間が描かれる数値を予想する場合でも同様のことが行われる。たとえ正当でなかったとしてもタイムリーな予測を行うことで、後の判断の速度を高めることができる。
【0058】
ここでは、画像検知センサーを用いて、手の動きを予測するシステムについて具体例を挙げて説明したが、その他のセンサーの場合でも同様に、タイムリーな予測を行うことができる。
【0059】
例えば、指又は腕に加速度センサーを装着し、手の指の形を予測するシステムの場合でも、実際の「指を握る」、「指を広げる」等の動作が完了する前から、指又は腕の加速度の変化の情報から、手の指の形を予測することができる。例えば、手の指の形を予測することができれば、じゃんけんにおいて、相手が手の形を実際に出す前に、相手が何を出すかを予測できる。
【0060】
ここでは、学習と推論を別のタイミングで行う例を示したが、学習と推論を並列に行ってもよい。例えば、学習は、オンライン学習で行ってもよい。オンライン学習は、一つのデータが入力される毎に結合係数を更新する。オンライン学習を行うことで、時刻と共に応答が変化する場合でも、推定解の精度を高めることができる。
【0061】
「第2実施形態」
図4は、第2実施形態に係るレザバーシステム101の概略図である。レザバーシステム101は、複数のセンサー1と、レザバー2と、入力検知部3と、出力検知部4と、を備える。レザバーシステム101は、入力検知部3及び出力検知部4を有する点が、レザバーシステム100と異なる。レザバーシステム101において、レザバーシステム100と同様の構成には同様の符号を付し、説明を省く。
【0062】
入力検知部3は、複数のセンサー1のそれぞれとレザバー2とに接続されている。入力検知部3は、センサー信号S2をモニターし、センサー信号S2のうち予測データの予測に利用する信号の開始点を決定できるように構成されている。
【0063】
入力検知部3は、ソフトウェアでもよいし、ハードウェアでもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが組み合わさったものでもよい。
【0064】
入力検知部3は、例えば、中央演算装置(CPU)を含むマイクロコントローラーユニット(MCU)又はマイクロプロセッサユニット(MPU)でもよいし、入力検知回路でもよい。
【0065】
入力検知部3は、例えば、センサー1からのセンサー信号S2が一定の状態から変化した場合に、その変化点を開始点と判断する。一定の状態からの変化の程度は、レザバーシステム101に与えられるタスク、用途等に応じて自由に設計できる。例えば、入力検知部3は、センサー信号S2の変化量が一定の閾値を超えた時点を開始点と判断してもよいし、センサー信号S2が一定の閾値を超えた時点を開始点と判断してもよい。
【0066】
出力検知部4は、レザバー2に接続されている。出力検知部4は、出力信号S4をモニターし、センサー信号S2のうち予測データの予測に利用する信号の終了点を決定できるように構成されている。
【0067】
出力検知部4は、ソフトウェアでもよいし、ハードウェアでもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが組み合わさったものでもよい。
【0068】
出力検知部4は、例えば、中央演算装置(CPU)を含むマイクロコントローラーユニット(MCU)又はマイクロプロセッサユニット(MPU)でもよいし、出力検知回路でもよい。
【0069】
出力検知部4は、例えば、出力信号S4が一定の状態から変化した場合に、その変化点を開始点と判断する。一定の状態からの変化の程度は、レザバーシステム101に与えられるタスク、用途等に応じて自由に設計できる。例えば、出力検知部4は、出力信号S4の変化量が一定の閾値を超えた時点を開始点と判断してもよいし、出力信号S4が一定の閾値を超えた時点を開始点と判断してもよい。
【0070】
また出力検知部4は、複数のセンサー1のそれぞれとレザバー2との間にあってもよい。出力検知部4は、センサー信号S2が一定の状態から変化した場合に、その変化点を終了点と判断してもよい。例えば、出力検知部4は、センサー信号S2の変化量が一定量以下となった時点を終了点と判断してもよい。
【0071】
第2実施形態に係るレザバーシステム101は、第1実施形態に係るレザバーシステム100と同様に、タイムリーな予測を行うことができる。またレザバーシステム101は、予測の開始点と終了点を設定できるため、不要な演算を行う必要がなく、レザバーシステム101の消費電力を小さくできる。
【0072】
レザバーシステム101では、入力検知部3と出力検知部4の両方を有する例を示したが、いずれか一方のみでもよい。開始点又は終了点を設定するだけでも、演算負荷を十分低減できる。
【0073】
以上、いつくかの実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 センサー
2 レザバー
3 入力検知部
4 出力検知部
21 レザバー層
22 出力層
100、101 レザバーシステム
n ノード
S1 時系列信号
S2 センサー信号
S3、S4 出力信号
【要約】
本実施形態に係るレザバーシステムは、複数のセンサー(1)と、レザバー(2)と、を有する。前記複数のセンサー(1)のそれぞれは、時系列信号(S1)を感知し、前記時系列信号(S1)に基づく時系列のセンサー信号(S2)を、前記レザバー(2)に送るように構成されている。前記レザバー(2)は、前記複数のセンサー(1)のそれぞれからのセンサー信号(S2)を非線形変換する。前記レザバー(2)は、時系列の前記センサー信号(S2)の前記レザバー(2)への入力が完了する前に、出力信号(S3、S4)を未来の予測データとして出力できるように構成されている。
図1
図2
図3
図4