(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-18
(45)【発行日】2025-06-26
(54)【発明の名称】自己保持型自己押し込み穿孔システム
(51)【国際特許分類】
B26F 1/32 20060101AFI20250619BHJP
B26F 1/34 20060101ALI20250619BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20250619BHJP
B23B 45/14 20060101ALI20250619BHJP
B25F 5/02 20060101ALI20250619BHJP
B23B 47/34 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
B26F1/32 G
B26F1/32 Q
B26F1/32 S
B26F1/32 V
B26F1/34
B23Q11/00 M
B23B45/14
B25F5/02
B23B47/34 Z
(21)【出願番号】P 2021205652
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2024-12-03
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521554620
【氏名又は名称】ネモ パワー ツールズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Nemo Power Tools Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145241
【氏名又は名称】鈴木 康裕
(72)【発明者】
【氏名】ローテム ニムロッド
(72)【発明者】
【氏名】ジョコブ オレグ
(72)【発明者】
【氏名】ツファズマン エデュアード
【審査官】煤孫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/068300(WO,A1)
【文献】特開2012-101331(JP,A)
【文献】特開2011-131332(JP,A)
【文献】特開2015-223680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26F 1/32
B26F 1/34
B23Q 11/00
B23B 45/14
B25F 5/02
B23B 47/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔開口部、シール部材、および空気抽出手段を有する真空引付底部と、
真空引付底部に結合された穿孔アセンブリと、
を備え、
シール部材は、真空引付底部の外側チャネル内に配置された周辺シールと、穿孔開口部の周囲の内側チャネル内に配置された内側シールとを備えており、
周囲の環境と、シール部材、真空引付底部、および物体表面に含まれる第1の体積との間に空気抽出手段により生じる圧力差によって、通常の動作時に真空引付底部が物体表面に押し付けられたときに、保持力がシール部材を物体表面に適合させ、
穿孔アセンブリは、
穿孔開口部を横切って配置された穿孔装置と、
真空引付底部に穿孔装置と並んで横切るように取り付けられた1つまたは複数のピストン管であって、各ピストン管の直線的な空気圧操作により、真空引付底部に対して穿孔装置を垂直方向に移動させるピストン管と、
を備え、
ピストン管は、第1の体積の圧力差を共有する第2の体積を含み、
保持力は、第1の体積の第1の表面積および第1の体積と周辺の環境との間の差圧に比例し、自己保持型穿孔システムを物体表面に効果的に保持し、
穿孔装置に加わる押し込み力は、通常の操作時に物体表面によって穿孔装置に加わる対抗力に等しく、第2の体積の第2の表面積と、第2の体積と周辺の環境との間の差圧に比例し、
保持力は、第1の表面積が第2の表面積よりも大きいことにより押し込み力よりも大きく、真空引付底部を物体表面から持ち上げたり、シール部材を損なったりすることなく、穿孔装置を物体表面に押し付けることができる、
自己保持型穿孔システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、穿孔アセンブリは、
穿孔アセンブリと長手方向に整列した穿孔アセンブリの溝内に摺動可能に収容された距離制限ロッドと、
真空引付底部に近接した距離制限ロッドの端部に結合された押しボタンチップであって、押しボタンチップが穿孔装置に伝達可能に結合され、押しボタンチップが真空引付底部の上面に接触すると、穿孔装置が動作を停止する押しボタンチップと、
をさらに備えるシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムであって、エアロックを真空引付底部のリリース開口部から持ち上げて、第1の体積と第2の体積の低圧環境を手動で反転させることができるように構成されたリリースレバーを、
をさらに備えるシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムであって、空気抽出手段は、穿孔開口部を介して破片を除去する吸引力を提供し、破片を局所的な保管場所に堆積させるシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のシステムであって、電源をさらに備え、電源は、付属のバッテリーまたは適合するA/C電源であるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に、穿孔装置に関し、より詳細には、物体表面に対して連続的に自身を保持しながら、それに穴をあけるための押し込み力を加える穿孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルとは、交換可能なドリルビットを物体表面に押し込んで穴をあけるための機械装置である。ドリルの操作者は、ドリルを物体表面に向けて保持力を加え、ドリルビットの先端を物体表面に押し込まなければならない。この力は、ドリルビットの螺旋状の輪郭が表面を貫通する際に一貫して加えられ、調整されなければならない。しかし、手動でのドリル操作は、退屈で体力を消耗する作業であり、特に適切な人間工学がなければ、作業者はすぐに疲労してしまう。
【0003】
米国特許公開第2020/0338695号(以下、‘695)に記載されている真空グリッパー(真空引き付け)のような自己保持型装置は、主に、剛性の高いベースエレメントと、それに取り付けられたループ状の真空シール部材から構成されている。物体表面とベースエレメントの間に発生した真空が、シール部材の範囲内で、真空グリッパーを物体表面に押し付ける。これらの装置は、異なる物体表面に対して自分自身を保持するためにうまく機能するが、それだけでは、真空グリッパーを物体表面から押し離すことができるドリルと表面の間の対抗力を考慮することができない。例えば、ドリルは、動作中に効果的に対象物から自身を押し離すので、人間の操作者を模した保持力は、物体表面に対するドリルの押し込み力を適用しながら、それに応じて圧力を調整しなければならない。このような力を感知し、ドリルが押し離されるのを防ぐために保持力を加えるアクチュエータを連続的に調整するフィードバック機構を利用することもできるが、この機構は法外なコストがかかり、また、例えばセンサーやアクチュエータが故障した場合、安全な動作を保証できない可能性がある。さらに、真空グリッパーの性能は、異なる材料の物体表面で使用されると変化することがあるため、自律的にドリルの保持力を確実に維持することができるのかといった問題もある。
【0004】
そのため、穿孔対象物の表面の種類に関わらず、信頼性が高く、故障のない自律的な動作を提供する自己保持型の自己押し込み穿孔システムが必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、穿孔開口部を有する真空引付底部と、シール部材と、空気抽出手段とを備えた自己保持型の自己押し込み穿孔システム(ドリルシステム)である。シール部材は、真空引付底部の外側チャネル内に配置された周辺シールと、穿孔開口部の周囲の内側チャネル内に配置された内側シールを備える。空気抽出手段の動きは、シール部材、真空引付底部、および物体表面によって含まれる第1の体積に低圧環境を作り出す。第1の体積と周辺の環境との間の差圧は、真空引付底部が物体表面に押し付けられたときに、シール部材を物体表面に適合させる保持力を生成する。
【0006】
穿孔システムには、真空引付底部に結合された穿孔アセンブリも組み込まれている。穿孔アセンブリは、穿孔開口部を横切って配置された穿孔装置を備える。1つまたは複数のピストン管が、ハウジングに合わせて真空引付底部に横切るように取り付けられている。穿孔装置は、ピストン管の直線的な空気圧操作により真空引付底部に対して垂直方向に移動する。底部に設けられた1つ以上の開口部により、第1の体積は、ピストン管によって包含される第2の体積と流体接触している。
【0007】
この保持力は、第1の体積の第1の表面積に比例しており、自己穿孔システムを物体表面に効果的に保持する。さらに、第2の体積内の低圧環境によって穿孔装置に押し込み力が及ぼされる。押し込み力は、通常の動作時に物体表面によって穿孔装置に及ぼされる対抗力に等しく、第2容積の第2表面積に比例する。保持力は、第1表面積が第2表面積よりも大きいので、常に押し込み力よりも大きく、これにより、真空引付底部を物体表面から持ち上げずに、穿孔装置を物体表面に押し付けることができ、シール部材を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図面の簡単な説明
【0009】
この発明の実施形態は、限定されるものではなく例示として添付の図面の図に示されており、その中で同様の参照は同様の要素を示しており、また、その中で:
【0010】
【
図1】
図1は、1つまたは複数の実施形態による、例示的な自己保持型の穿孔システムの透視図である。
【0011】
【
図2】
図2は、自己保持型穿孔システムの内部構成を示す透視図である。
【0012】
【
図3】
図3Aは、自己保持型穿孔システムの部分分解図であり、真空引付底部とシール部材の組み立てを示している。
【0013】
【0014】
【
図4】
図4は、自己保持型の穿孔システムの底面透視図である。
【0015】
【0016】
【
図6】
図6は、距離制限要素を示す自己保持型の穿孔システムの正面透視図である。
【0017】
【
図7】
図7は、自己保持型穿孔システムを物体表面に当てた状態を示す正面図である。
【0018】
本実施形態の他の特徴は、添付の図面および以下の詳細な説明から明らかになる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に説明する例示的な実施形態は、自己保持型の穿孔システムを提供するために使用することができる。本明細書で使用される「自己保持型」は、米国特許公開第2020/0338695号(以下、‘695号)に記載されているような現在の真空グリッパー(真空引き付け)技術を使用することだけでなく、本明細書に記載されている穿孔システムが、システム全体を物体表面から持ち上げることなく、その穿孔装置を物体表面に対して押し付ける能力をも意味する。
図1を参照すると、例示的な自己保持型の穿孔システム100(以下、「穿孔システム100」)が図示されている。穿孔システム100は、真空引付底部110と、それに結合された穿孔アセンブリ120とを備える。
【0020】
真空引付底部110は、‘695号の剛性のあるベースエレメント(‘695号の
図8のマーカー141を参照)に類似していてもよく、すなわち、真空引付底部110が物体表面に押し付けられたときに、物体表面に適合するシール部材112を含んでいる。
図2を参照すると、穿孔システム100の内部構成要素を示す一部を切り取った図が示されている。限定されるものではないが、真空引付底部110から空気を抽出する空気ポンプ102、穿孔システム100の電子部品に可搬的に電力を供給するバッテリー104、穿孔システム100のユーザに電力制御を提供するトリガー106、穿孔アセンブリ120と穿孔システム100の他の内部構成要素との間の連通結合を防護する柔軟なケーブルカバー107、操作されたときに、穿孔システム100の内部容積と周囲空間の圧力との間の圧力を均等にすることによって、穿孔システム100を物体表面から解放するリリースバルブ108である。穿孔システム100は、ポータブルバッテリー104によって電力を供給されるように示されているが、穿孔システム100は、結合された電源コードを介してA/C電源から電力を受け取るように適合されてもよいことを理解すべきである。
【0021】
図3Aを参照すると、穿孔システム100の部分的な分解図は、真空引付底部110およびシール部材112の組み立てを示している。さらに、
図3Bを参照すると、真空引付底部の上面透視図が示されている。真空引付底部110は、外側壁、内側壁、および受け面により画定される周囲外側チャネル111を備える。さらに、真空引付底部110は、同様に画定されるが、穿孔装置のドリルビット(図示せず)が延びることができる穿孔開口部114の周囲に配置された内側チャネル113を備えてもよい。シール部材112は、周囲外側チャネル111に適合する周辺シール112aと、内側チャネル113に適合する内側シール112gの2つの部分から構成される。シール部材112は、局所的に変形し、外側チャネル111および内側チャネル113の壁によって物体表面に向けられて気密シールを形成する、発泡体などの折り畳み可能な材料で作られていてもよい。
【0022】
一実施形態では、空気ポンプ102は、穿孔装置によって生じた破片および他の廃棄物を回収する吸引力を提供する。吸引力は、穿孔開口部114を介しておよび/またはその周辺の破片を除去し、破片を局所的な保管場所に誘導してもよい。
【0023】
図7を参照すると、穿孔システム100の正面立面図が示されている。図示されるように、穿孔システム100は、物体表面140に押し付けられる。十分な押し込み力150が与えられれば、穿孔装置に結合されたドリルビット121は、物体表面140の中に押し分けて進むことができる。しかし、押し込み力150に等しい対抗力155は、ドリルビット121、したがって、穿孔システム100全体を押し上げる。したがって、この押し込み力150が、真空引付底部110が穿孔システム100を物体表面140に対して保持し続けるために穿孔システム100に及ぼす保持力160を超えないことが肝要である。
【0024】
図6を参照すると、穿孔システム100の正面透視図には、穿孔システムが垂直方向の下限に達すると、穿孔システム100の動作を停止させる距離リミッタ160が示されている。距離リミッタ160は、リミッタハウジング162内に摺動可能に配置された距離制限ロッド166を含んでいてもよい。距離制限ロッド166は、その側面に溝を構成してもよく、距離制限ロッド166を垂直方向に移動させ、垂直方向の位置に固定することができる。リミッタハウジング162は、距離制限ロッド166の溝を補完する突起を含んでいてもよい。距離制限ロッド166は、真空引付底部110の上面に面する距離制限ロッド166の端部に、穿孔装置に動作的に結びついた、すなわち、押しボタンチップが押されると穿孔装置が動作を停止する押しボタンチップ168を構成してもよい。しかしながら、これは、空気ポンプの動作を停止させるものではなく、穿孔システム100が穿孔を終えた後に物体表面から自身が取り外されることを防止するものである。
【0025】
空気ポンプ102の動作は、真空引付底部110、シール部材112、および物体表面(図示せず)によって含まれる容積118から空気を抽出するのに役立つ。容積118の低圧環境の結果として、真空引付底部110および物体表面は、容積118の表面積に比例する保持力160および等しい対抗力165を互いに及ぼす。真空引付底部110の表面積は、格子状の構造を組み込んだ図示のような吸引パッドを使用することによって最大化されることに留意することが重要である。
【0026】
穿孔アセンブリ120は、穿孔装置(図示せず)を包含する側壁を有するハウジング122を備える。穿孔装置は、様々な形状因子、材料からの典型的な様々なビットを受け入れ、穿孔開口部114の上の中央に取り付けられる。穿孔装置の下向きの力は、ハウジング122を上向きに押すことになる。ハウジング122の側壁の上部には、1つ以上のピストン管130を真空引付底部110に対して保持するピストンカラー124が組み込まれている。ピストン管130は、真空引付底部110に横切るように取り付けられ、垂直にハウジング122と並んでいる。
図4を参照すると、穿孔システム100の底面透視図は、ピストン管130の構造および真空引付底部110に対する位置決めを示している。さらに、
図5Aおよび
図5Bを参照すると、それぞれ透視図および断面図を示す。ピストン管130は、環状の側壁132、キャップ134と、真空引付底部110に結合したベース136、環状の側壁132内に収容されたピストン138、および第1の端部139aでピストン138に横切るように結合され、その第2の端部139bでピストンカラー124に結合されたシャフト139を備える。ピストン138は、環状の側壁132内で摺動可能であり、シャフト139は、キャップ134を介して摺動可能である。
【0027】
図7に戻り、また
図3Bを参照すると、図示のピストン管マウント115は、容積118と、環状側壁132、ピストン138、およびベース136によって含まれる容積119との間に開放したインターフェースを提供する均等化開口117を備える。画定された容積内の外向きの力Fは、図示のように、その容積と周囲環境170との間の圧力差ΔPに、その容積の表面積Aを乗じたものによって特徴付けられる。
F=ΔP*A (式1)
【0028】
容積119内の低圧環境により、ピストン管130が穿孔装置に、続いて物体表面140に押し込み力150(FD)を及ぼす。FDは、通常の操作時に物体表面140が穿孔装置に及ぼす対抗力155(FD
’)に等しい。
FD=FD’ (式2)
【0029】
上記の式1に基づいて、押し込み力FDは、示すように、容積119と周囲の環境170との間の圧力差(ΔP)と、容積119の表面積A1とに比例する。
FD=ΔP*A1 (式3)
【0030】
容積119は、容積118の同じ圧力差を共有している。容積118と周囲の環境との間のΔPにより、真空引付底部110は、物体表面140に対して穿孔システム100に保持力FHを及ぼす。FDと同様に、FHは、示すように、容積119と周囲の環境170の間のΔPに、容積119の表面積A2を乗じたものに比例する。
FH=ΔP*A2 (式4)
【0031】
容積119(A2)の表面積は、容積118(A1)の表面積よりも常に大幅に小さいので、FHは常にFDよりも大きく、これにより、穿孔システム100は、保持力FHを超えない穿孔装置のFDを維持しながら、物体表面140に対して保持されたままとなり、穿孔システムが物体表面140から浮き上がるのを防止することができる。
【0032】
本書で引用されている特許、特許出願、出版物を含むすべての文献は、個々の出版物や特許、特許出願がすべての目的のためにその全体を参照して組み込まれることが明示的かつ個別に示されているのと同じ程度に、すべての目的のために参照によって本明細書に組み込まれる。