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  • 特許-エルトロンボパグオラミンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-18
(45)【発行日】2025-06-26
(54)【発明の名称】エルトロンボパグオラミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 231/46 20060101AFI20250619BHJP
   A61K 31/415 20060101ALI20250619BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20250619BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
C07D231/46
A61K31/415
A61P7/00
A61P7/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023093826
(22)【出願日】2023-06-07
(65)【公開番号】P2024175803
(43)【公開日】2024-12-19
【審査請求日】2024-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000234605
【氏名又は名称】白鳥製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 博
(72)【発明者】
【氏名】薦田 太一
(72)【発明者】
【氏名】碓井 風馬
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-526143(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106966984(CN,A)
【文献】国際公開第2013/072921(WO,A1)
【文献】特表2012-522792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程1~2を含み、工程1で用いるモノエタノールアミンの合計使用量が、エルトロンボパグ1モルに対して2~200モルである、エルトロンボパグオラミンの製造方法。
(工程1)エルトロンボパグとモノエタノールアミンとを40~90℃の範囲内且つ無溶媒で反応させる工程
(工程2)工程1で得られた反応生成物と低級アルコールとを接触させる工程
【請求項2】
以下の工程3を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
(工程3)工程2で得られたスラリーからエルトロンボパグオラミンを分離する工程
【請求項3】
工程1の反応温度が、45~80℃の範囲内である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
工程1で用いるモノエタノールアミンの合計使用量が、エルトロンボパグ1モルに対して4~100モルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
工程1の反応時間が、3分間~24時間である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程2で用いる低級アルコールが、炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルコールである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
工程2で用いる低級アルコールの合計使用量が、エルトロンボパグ1gに対して3~50mLである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
工程2が、工程1で得られた反応生成物に低級アルコールを滴下する工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
以下の工程4を更に含む、請求項に記載の製造方法。
(工程4)工程3で分離されたエルトロンボパグオラミンを乾燥する工程
【請求項10】
前記エルトロンボパグオラミンが、粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):7.5゜±0.2゜、8.3゜±0.2゜、14.0゜±0.2゜及び23.0゜±0.2゜から選択される少なくとも1つ以上にピークを有する結晶である、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エルトロンボパグオラミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エルトロンボパグオラミンは、慢性特発性血小板減少性紫斑病、再生不良性貧血を効能効果とする医薬である(非特許文献1及び2)。このようなエルトロンボパグオラミンを製造する方法としては、例えば、エルトロンボパグとエタノールアミンをテトラヒドロフラン(THF)存在下で反応させる方法(特許文献1)、エルトロンボパグとエタノールアミンを酢酸エチル存在下常温付近で反応させる方法(特許文献2)、エルトロンボパグとエタノールアミンを加熱して反応させ、そのまま室温で冷却した後、ろ過及びエタノール洗浄をする方法(特許文献3)が知られている。
【0003】
また、エルトロンボパグオラミンには、3種類の結晶多形とアモルファスが確認されているが(特許文献4)、粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):7.5゜±0.2゜、8.3゜±0.2゜、14.0゜±0.2゜及び23.0゜±0.2゜にピークを有するI型結晶が、例えば血小板減少症を引き起こす症状を処置するのに有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2003/098992
【文献】中国特許出願公開第106966984号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0087845号明細書
【文献】WO2010/114943
【非特許文献】
【0005】
【文献】レボレード(登録商標)錠12.5mg レボレード(登録商標)錠25mg 医薬品インタビューフォーム ノバルティスファーマ株式会社 2018年11月改訂(第10版)
【文献】米国医薬品添付文書 PROMACTA(登録商標)(eltrombopag) 錠剤、URL : https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2011/022291s006lbl.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、エルトロンボパグとエタノールアミンをTHF存在下で反応させる上記方法として、エルトロンボパグをTHFに室温で溶解させ、これにエタノールアミンを加えて反応させる方法(実施例2)が記載されているが、溶媒残留濃度が大となり医薬品の製法として適切なものではなかった。
また、特許文献1には、エルトロンボパグをTHFに室温で完全に溶解させ、ろ過及びTHFを用いた洗浄を行いエルトロンボパグ溶液を得る一方、エタノールアミンとエタノールの混合液を蒸留しながら、留出したエタノールアミンに、留出速度又は留出速度よりわずかに遅い速度で上記エルトロンボパグ溶液を滴下する方法(実施例4)が記載されている。
しかしながら、この方法は、エタノールが多量に残留するものであった(1200ppm)。また、留出速度と滴下速度を略等速にすることが必要なため操作が複雑であり、工業的なスケールの製法としては適さないものであった。
【0007】
また、特許文献2に記載のようにして、本発明者らがエルトロンボパグとエタノールアミンを酢酸エチル存在下で反応させたところ、溶媒残留濃度が極めて大となり、溶媒残留濃度低減化の再現性に課題があった。
【0008】
特にエルトロンボパグオラミン中にTHFや酢酸エチルが残留した場合、乾燥処理を長時間行っても溶媒残留濃度がほとんど低減されない、乾燥温度を高くするとI型でなくII型の結晶の生成量が増大するという問題もある。
【0009】
また、特許文献3には、前述のとおりエルトロンボパグとエタノールアミンを加熱して反応させ、そのまま室温で冷却した後、ろ過及びエタノール洗浄をする方法が記載されているが(実施例13)、このようにしてエルトロンボパグとエタノールアミンとの反応生成物を冷却するのみで固液分離処理をした場合には収率が不充分であった。また、当該反応物の粘度が高く分離操作に長時間を要することも本発明者らの検討により判明した。
また、特許文献3には、エルトロンボパグとエタノールアミンを常温で反応させる方法も記載されているが(実施例14、19)、溶媒残留濃度が大となり医薬品の製法として課題が残る。
【0010】
本発明の課題は、溶媒残留濃度が低減されたエルトロンボパグオラミンを簡便な分離操作で且つ高収率で製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、エルトロンボパグにモノエタノールアミン特定量を40~90℃の範囲内且つ無溶媒で反応させた後、反応生成物と低級アルコールとを接触させることによって、溶媒残留濃度が低減されたエルトロンボパグオラミンを簡便な分離操作で且つ高収率で製造できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<10>を提供するものである。
<1> 以下の工程1~2を含み、工程1で用いるモノエタノールアミンの合計使用量が、エルトロンボパグ1モルに対して2~200モルである、エルトロンボパグオラミンの製造方法(以下、本発明のエルトロンボパグオラミン製造方法ともいう)。
(工程1)エルトロンボパグとモノエタノールアミンとを40~90℃の範囲内且つ無溶媒で反応させる工程
(工程2)工程1で得られた反応生成物と低級アルコールとを接触させる工程
【0013】
<2> 以下の工程3を更に含む、<1>に記載の製造方法。
(工程3)工程2で得られたスラリーからエルトロンボパグオラミンを分離する工程
<3> 工程1の反応温度が、45~80℃の範囲内である、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> 工程1で用いるモノエタノールアミンの合計使用量が、エルトロンボパグ1モルに対して4~100モルである、<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5> 工程1の反応時間が、3分間~24時間である、<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
<6> 工程2で用いる低級アルコールが、炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルコールである、<1>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7> 工程2で用いる低級アルコールの合計使用量が、エルトロンボパグ1gに対して3~50mLである、<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法。
<8> 工程2が、工程1で得られた反応生成物に低級アルコールを滴下する工程である、<1>~<7>のいずれかに記載の製造方法。
<9> 以下の工程4を更に含む、<1>~<8>のいずれかに記載の製造方法。
(工程4)工程3で分離されたエルトロンボパグオラミンを乾燥する工程
<10> 前記エルトロンボパグオラミンが、粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):7.5゜±0.2゜、8.3゜±0.2゜、14.0゜±0.2゜及び23.0゜±0.2゜から選択される少なくとも1つ以上にピークを有する結晶である、<1>~<9>のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶媒残留濃度が低減されたエルトロンボパグオラミンを簡便な分離操作で且つ高収率で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例23で調製した化合物の粉末X線回折(XRD)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のエルトロンボパグオラミン製造方法は、以下の工程1~2を含み、工程1で用いるモノエタノールアミンの合計使用量が、エルトロンボパグ1モルに対して2~200モルであることを特徴とする。
(工程1)エルトロンボパグとモノエタノールアミンとを40~90℃の範囲内且つ無溶媒で反応させる工程
(工程2)工程1で得られた反応生成物と低級アルコールとを接触させる工程
【0018】
(工程1)
工程1で用いるエルトロンボパグ(化学名:3’-{(2Z)-2-[1-(3,4-ジメチルフェニル)-3-メチル-5-オキソ-1,5-ジヒドロ-4H-ピラゾール-4-イリデン]ヒドラジノ}-2’-ヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸)は、下記式(1)
【0019】
【化1】
【0020】
で表される化合物である。具体的には、エルトロンボパグのフリー体であり、好ましくはエルトロンボパグのフリー体の非溶媒和物である。
工程1で用いるエルトロンボパグは、非晶質、結晶、これらの混合物であってよい。エルトロンボパグの結晶形は、例えばX線回折測定(具体的には、粉末X線回折測定等)、熱分析測定(具体的には、示差熱分析(DTA)、示差走査熱量測定(DSC)等)、固相NMR測定、赤外分光法(IR)等の公知の方法により確認できる。
なお、本明細書において、粉末X線回折ピークは、Cu照射を使用して計測されたピークをいい、より具体的には、1.54オングストロームにてCu照射を使用して計測されたピークをいう。
【0021】
エルトロンボパグの結晶としては、粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):4.0゜±0.2゜、7.3゜±0.2゜、7.7゜±0.2゜、12.1゜±0.2゜及び16.1゜±0.2゜から選択される少なくとも1つ以上にピークを有する結晶(エルトロンボパグI型結晶);粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):9.2゜±0.2゜、11.2゜±0.2゜、12.2゜±0.2゜及び14.0゜±0.2゜から選択される少なくとも1つ以上にピークを有する結晶(エルトロンボパグIII型結晶(水和物));粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):5.9゜±0.2゜、8.2゜±0.2゜、10.5゜±0.2゜及び12.5゜±0.2゜から選択される少なくとも1つ以上にピークを有する結晶(エルトロンボパグV型結晶(テトラヒドロフラン/水の溶媒和物));粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):7.1゜±0.2゜、9.5゜±0.2゜、13.9゜±0.2゜、21.2゜±0.2゜及び25.5゜±0.2゜から選択される少なくとも1つ以上にピークを有する結晶(エルトロンボパグXVI型結晶(一水和物))が挙げられる。
【0022】
エルトロンボパグI型結晶としては、粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):4.0゜±0.2゜、7.3゜±0.2゜、7.7゜±0.2゜、12.1゜±0.2゜及び16.1゜±0.2゜から選択される少なくとも2つ以上にピークを有するものが好ましく、粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):4.0゜±0.2゜、7.3゜±0.2゜、7.7゜±0.2゜、12.1゜±0.2゜及び16.1゜±0.2゜にピークを有するものがより好ましく、これらに加えて更に8.8゜±0.2゜、14.6゜±0.2゜、17.6゜±0.2゜、24.3゜±0.2゜及び26.8゜±0.2゜にピークを有するものが特に好ましい。
また、別の観点から、エルトロンボパグI型結晶としては、固相13C NMRスペクトルにおいて166.9±0.2ppm、155.4±0.2ppm、134.1±0.2ppm、125.7±0.2ppm及び111.8±0.2ppmにピークを有するものが好ましい。
【0023】
工程1で用いるエルトロンボパグがエルトロンボパグI型結晶を含有する場合、工程1で用いるエルトロンボパグとしては、HPLCで測定した化学純度が95%以上100%以下のエルトロンボパグI型結晶が好ましく、HPLCで測定した化学純度が99%以上100%以下のエルトロンボパグI型結晶がより好ましい。
【0024】
エルトロンボパグは、市販品を用いても常法に従って合成して得たものを用いてもよい。
【0025】
工程1で用いるモノエタノールアミンの合計使用量は、エルトロンボパグ1モルに対して2~200モルである。モノエタノールアミンの合計使用量がエルトロンボパグ1モルに対して2モル未満の場合、エルトロンボパグモノエタノールアミン塩が生成しやすくなり、エルトロンボパグオラミンの収率が不充分となる。また、モノエタノールアミンの合計使用量がエルトロンボパグ1モルに対して200モル超の場合、エルトロンボパグオラミンの収率が不充分となる。
工程1で用いるモノエタノールアミンの合計使用量は、反応効率や製造コスト、残留溶媒低濃度化の観点から、エルトロンボパグ1モルに対して、好ましくは4~100モルの範囲、より好ましくは5~70モルの範囲、特に好ましくは7~40モルの範囲である。
モノエタノールアミンの合計使用量を、エルトロンボパグ1モルに対して7~40モルの範囲とした場合に、溶媒残留濃度を特に低減できる。
【0026】
工程1は無溶媒で行うものであり、エルトロンボパグとモノエタノールアミンの合計量は、反応系内の液相(生成物を除く)の総量に対して、好ましくは90~100質量%、より好ましくは95~100質量%、特に好ましくは99~100質量%である。
工程1において、エルトロンボパグとモノエタノールアミンは、例えば、これらを共存させ撹拌するなどして反応させることができる。なお、エルトロンボパグにモノエタノールアミンを加えてこれらを反応させても、モノエタノールアミンにエルトロンボパグを加えてこれらを反応させてもよい。
【0027】
工程1の反応温度は、40~90℃の範囲内である。反応温度が40℃未満の場合には溶媒残留濃度が増大し、90℃超の場合には不純物が増加する。
工程1の反応温度は、残留溶媒低濃度化の観点から、好ましくは45~80℃、より好ましくは45~70℃、更に好ましくは45~65℃、更に好ましくは45~60℃、更に好ましくは45~55℃、特に好ましくは45~50℃である。工程1の反応温度を45~80℃とした場合に残留溶媒が更に低濃度化される。
【0028】
工程1の反応時間は、通常3分間~24時間であり、残留溶媒低濃度化の観点から、好ましくは10分間~12時間、より好ましくは15分間~6時間、更に好ましくは15分間~2時間、特に好ましくは30分間~2時間である。
【0029】
(工程2)
工程2は、工程1で得られた反応生成物と低級アルコールとを接触させる工程である。
この低級アルコールは、貧溶媒として作用し、工程1で得られた反応生成物からエルトロンボパグオラミンを結晶化させる。この結果、エルトロンボパグオラミンの純度が向上する。同時にエルトロンボパグオラミンの結晶が低級アルコール(貧溶媒)に分散されるため、ろ過などで簡便に分離でき、短時間の分離操作且つ高収率でエルトロンボパグオラミンを回収できる。
低級アルコールとしては、炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルコールが挙げられ、好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖の1価アルコール、より好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖の飽和1価アルコールである。低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール(EtOH)、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。これらの中では、安全性、経済性の観点から、EtOH、イソプロパノールが好ましく、EtOHが特に好ましい。
工程2で用いる低級アルコールの合計使用量は、残留溶媒低濃度化、経済性の観点から、エルトロンボパグ1gに対して、好ましくは3~50mL、より好ましくは5~40mL、更に好ましくは10~35mL、特に好ましくは15~30mLである。
【0030】
工程2としては、残留溶媒低濃度化の観点から、工程1で得られた反応生成物に低級アルコールを滴下する工程が好ましい。滴下は、分割添加でも連続添加でもよい。具体的には、工程1で得られた反応生成物を予め反応容器に仕込み、必要に応じて所定の温度とした後、低級アルコールを分割して又は連続的に滴下する方法が挙げられる。なお、工程1で得られた反応生成物を撹拌しながら滴下してもよい。
滴下速度は、残留溶媒低濃度化の観点から、エルトロンボパグ1gに対して、好ましくは0.03~1.66mL/分、より好ましくは0.04~1.34mL/分、特に好ましくは0.12~1mL/分である。低級アルコールを滴下する際の工程1で得られた反応生成物の撹拌速度は、攪拌装置や攪拌容器にもよるが通常30~60rpmである。
【0031】
工程2の接触温度は、工程1の反応温度と同様の温度が好ましい。
すなわち、工程2の接触温度は、残留溶媒低濃度化の観点から、好ましくは40~90℃、より好ましくは45~80℃、更に好ましくは45~70℃、更に好ましくは45~65℃、更に好ましくは45~60℃、更に好ましくは45~55℃、特に好ましくは45~50℃である。
【0032】
(工程3)
本発明のエルトロンボパグオラミン製造方法としては、工程1~2に加えて、更に工程2で得られたスラリーからエルトロンボパグオラミンを分離する工程(工程3)を含む方法が好ましい。
ここで、本明細書において、スラリーとは、液体中に固形状の物質が混ぜ合わさったものをいう。
工程3の分離操作としては、ろ過(例えば、常圧ろ過、加圧ろ過、減圧ろ過等)、遠心分離、デカンテーション等の固液分離操作が挙げられ、これら固液分離操作のうち1種又は2種以上を組み合わせて行うことができる。
工程3の分離温度は、通常10~40℃、好ましくは15~30℃である。なお、工程3の分離操作に先立って、工程2で得られたスラリーを上記分離温度で予め熟成させておくのが好ましい。熟成時間は通常0.15~12時間の範囲内である。
本発明によれば、このような簡便な手法でエルトロンボパグオラミンを分離できる。
【0033】
(工程4)
本発明のエルトロンボパグオラミン製造方法としては、工程1~3に加えて、更に工程3で分離されたエルトロンボパグオラミンを乾燥する工程(工程4)を含む方法が好ましい。なお、工程4に先立ち、エルトロンボパグオラミンを低級アルコールで洗浄してもよい。洗浄に用いる低級アルコールとしては、工程2で用いる低級アルコールと同様のものが挙げられる。
工程4における乾燥処理の具体的な手法としては、例えば、加熱乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、通気乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。減圧乾燥するときの圧力は、好ましくは0.1~4kPaである。
乾燥温度としては、40~60℃が好ましく、45~55℃がより好ましい。
乾燥時間としては、1~189時間が好ましく、17~100時間がより好ましい。
乾燥処理は、例えば、箱型乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、通風乾燥機、噴霧乾燥機等を使用して行うことができる。
【0034】
そして、本発明によれば、溶媒残留濃度が低減されたエルトロンボパグオラミンを簡便な分離操作で且つ高収率で製造できる。エルトロンボパグオラミンは、エルトロンボパグビスエタノールアミン塩である。
エルトロンボパグオラミンは、非晶質、結晶、これらの混合物であってよいが、結晶が好ましい。エルトロンボパグオラミンの結晶形は、例えばX線回折測定(具体的には、粉末X線回折測定等)、熱分析測定(具体的には、示差熱分析(DTA)、示差走査熱量測定(DSC)等)、固相NMR測定、赤外分光法(IR)等の公知の方法により確認できる。
なお、前述のとおり、本明細書において、粉末X線回折ピークは、Cu照射を使用して計測されたピークをいい、より具体的には、1.54オングストロームにてCu照射を使用して計測されたピークをいう。
【0035】
エルトロンボパグオラミンの結晶としては、安定性、生物学的利用能の観点から、粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):7.5゜±0.2゜、8.3゜±0.2゜、14.0゜±0.2゜及び23.0゜±0.2゜から選択される少なくとも1つ以上にピークを有する結晶(エルトロンボパグオラミンI型結晶)が好ましく、粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):7.5゜±0.2゜、8.3゜±0.2゜、14.0゜±0.2゜及び23.0゜±0.2゜から選択される少なくとも2つ以上にピークを有するものがより好ましく、粉末X線回折スペクトルにおいて回折角度(2θ):7.5゜±0.2゜、8.3゜±0.2゜、14.0゜±0.2゜及び23.0゜±0.2゜にピークを有するものが更に好ましく、これらに加えて更に5.7゜±0.2゜、11.4゜±0.2゜、17.2゜±0.2゜及び26.7゜±0.2゜にピークを有するものが特に好ましい。
【0036】
本発明のエルトロンボパグオラミン製造方法で得られたエルトロンボパグオラミンがエルトロンボパグオラミンI型結晶を含有する場合、エルトロンボパグオラミンとしては、HPLCで測定した化学純度が99%以上100%以下のエルトロンボパグオラミンI型結晶が好ましく、HPLCで測定した化学純度が99.5%以上100%以下のエルトロンボパグオラミンI型結晶がより好ましい。
【実施例
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
(工程1)エルトロンボパグ0.5g(1.13mmol)にモノエタノールアミン1.8mL(29.8mmol,26.3mol倍)を加え、40℃で15分間撹拌した。
(工程2)次いで、EtOH 10mL(20v/w)を60分間かけて滴下した後、室温まで冷却し、1時間熟成させた。
(工程3~4)得られたスラリーを減圧ろ過した後、EtOH 1.5mL(3v/w)で洗浄し、50℃で17時間以上減圧乾燥した。得られたエルトロンボパグオラミンの収率を求めた。
【0039】
〔実施例2~18及び比較例1~4〕
工程1の撹拌時間と撹拌温度を表1~4に示すものに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。ろ別に要した時間及び収率を表1~4に示す。
【0040】
〔試験例1〕
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置を用いた1H NMR(400MHz,DMSO-d6)によりEtOH残留濃度を測定し、以下の基準で評価した(なお、EtOH残留濃度500ppm以下は、ICHガイドラインの許容残留溶媒量の1/10以下と同義である)。EtOH残留濃度測定結果を表1~4に示す。
【0041】
(EtOH残留濃度評価基準)
AAA:100ppm以下
AA:100ppm超200ppm以下
A:200ppm超500ppm以下
B:500ppm超5000ppm以下
C:5000ppm超
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
表1~4に示すとおり、エルトロンボパグとモノエタノールアミンとの反応温度が40℃未満の場合(比較例1~4)には、溶媒残留濃度が大となった。
【0047】
〔実施例19~20〕
エルトロンボパグ1モルに対するモノエタノールアミンの使用量を表5に示すものに、工程1の撹拌時間と撹拌温度を1時間、60℃にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。また、試験例1と同様にしてEtOH残留濃度を測定及び評価した。
EtOH残留濃度、ろ別に要した時間及び収率を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
〔実施例21~22〕
工程1の撹拌時間と撹拌温度を1時間、60℃にそれぞれ変更するとともに、工程2及び洗浄で用いたEtOHをメタノール(実施例21)又はイソプロパノール(実施例22)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。また、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置を用いた1H NMR(400MHz,DMSO-d6)により溶媒残留濃度を測定し、以下の基準で評価した(なお、メタノール残留濃度300ppm以下、イソプロパノール残留濃度500ppm以下は、ICHガイドラインの許容残留溶媒量の1/10以下と同義である)。
溶媒残留濃度、ろ別に要した時間及び収率を表6に示す。
【0050】
(メタノール残留濃度評価基準)
A:300ppm以下
B:300ppm超3000ppm以下
C:3000ppm超
【0051】
(イソプロパノール残留濃度評価基準)
A:500ppm以下
B:500ppm超5000ppm以下
C:5000ppm超
【0052】
【表6】
【0053】
〔実施例23〕
(工程1)HPLC純度99.7%のエルトロンボパグ16.5kg(37.3mol)にモノエタノールアミン58L(959mol,26mol倍)を加え、50℃で1時間撹拌した。
(工程2)次いで、EtOH 329L(20v/w)を40分間かけて滴下した後、室温まで冷却し、1時間熟成させた。
(工程3~4)得られたスラリーを減圧ろ過した後、EtOH 49L(3v/w)で洗浄し、50℃で88時間減圧乾燥し、HPLC純度99.9%のエルトロンボパグオラミン20.2kg(収率96.5%)を得た。GCクロマトグラフィーによるEtOHの溶媒残留は123ppmであった。また、粉末X線回折スペクトルは回折角度(2θ):7.5゜±0.2゜、8.3゜±0.2゜、14.0゜±0.2゜及び23.0゜±0.2゜にピークを有するI型結晶を示した(図1)。
【0054】
〔比較例5〕
モノエタノールアミン4mLをTHF15mLに溶解させた。ここにエルトロンボパグ1gを加え、50℃で1時間撹拌した。室温まで冷却し、1時間熟成させた。得られたスラリーを減圧ろ過した後、THF3mL(3v/w)で洗浄し、50℃で17時間減圧乾燥した。得られたエルトロンボパグオラミンの収率を求めた。
また、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置を用いた1H NMR(400MHz,DMSO-d6)により溶媒残留濃度を測定し、以下の基準で評価した(なお、THF残留濃度72ppm以下は、ICHガイドラインの許容残留溶媒量の1/10以下と同義である)。
溶媒残留濃度、ろ別に要した時間及び収率を表7に示す。
【0055】
(THF残留濃度評価基準)
A:72ppm以下
B:72ppm超720ppm以下
C:720ppm超
【0056】
〔比較例6~7〕
THFを酢酸エチル(比較例6)又はEtOH(比較例7)に変更した以外は、比較例5と同様の製造操作を行った。また、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置を用いた1H NMR(400MHz,DMSO-d6)により溶媒残留濃度を測定し、酢酸エチルについて以下の基準で、EtOHについては試験例1と同様の基準で評価した(なお、酢酸エチル残留濃度500ppm以下は、ICHガイドラインの許容残留溶媒量の1/10以下と同義である)。なお、比較例6においては、モノエタノールアミンの残存と結晶の貼りつきのため減圧ろ過で分離することができなかったため、収率は算出できなかった。
溶媒残留濃度、ろ別に要した時間及び収率を表7に示す。
【0057】
(酢酸エチル残留濃度評価基準)
A:500ppm以下
B:500ppm超5000ppm以下
C:5000ppm超
【0058】
〔比較例8~9〕
THFを水(比較例8)又はジメチルスルホキシド(比較例9)に変更した以外は、比較例5と同様の製造操作を行った。また、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置を用いた1H NMR(400MHz,DMSO-d6)により溶媒残留濃度を測定した。
溶媒残留濃度、ろ別に要した時間及び収率を表7に示す。なお、比較例8においては水を使用したため残留溶媒未検出となった。比較例9においては、エルトロンボパグオラミンがジメチルスルホキシドに溶解してしまい分離することができず溶媒残留濃度を測定できなかった。
【0059】
〔比較例10〕
モノエタノールアミン4mLにエルトロンボパグ1gを加え、50℃で1時間撹拌した。室温まで冷却し、1時間熟成させた後、得られたスラリーを減圧ろ過した。得られたエルトロンボパグオラミンの収率を求めた。また、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置を用いた1H NMR(400MHz,DMSO-d6)により溶媒残留濃度を測定した。溶媒不使用のため残留溶媒未検出となった。
溶媒残留濃度、ろ別に要した時間及び収率を表7に示す。
【0060】
【表7】
【0061】
表7に示すとおり、エルトロンボパグとモノエタノールアミンとの反応をTHF、酢酸エチル又はEtOH存在下で行った場合(比較例5~7)には、溶媒残留濃度が大となった。
また、エルトロンボパグとモノエタノールアミンとの反応を水存在下で行った場合(比較例8)には、分離操作に長時間を要した。
また、エルトロンボパグとモノエタノールアミンとの反応をジメチルスルホキシド存在下で行った場合(比較例9)には、ジメチルスルホキシドからエルトロンボパグオラミンを分離することができなかった。
また、エルトロンボパグとモノエタノールアミンとの反応後、低級アルコールへの接触操作を行うことなくスラリーからエルトロンボパグオラミンを分離した場合(比較例10)には、分離操作に長時間を要し、収率も不充分であった。
【0062】
〔比較例11~16〕
工程2及び洗浄で用いたEtOHを酢酸エチル(比較例11)、ヘプタン(比較例12)、tert-ブチルメチルエーテル(比較例13)、トルエン(比較例14)、N-メチル-2-ピロリドン(比較例15)又は水(比較例16)に変更した以外は、実施例11と同様の操作を行った。
比較例11~14については、固着が発生し、エルトロンボパグオラミンをろ過で分離することができず、溶媒残留濃度を測定することができなかった。
比較例15~16については、エルトロンボパグオラミンがN-メチル-2-ピロリドンや水に溶解してしまい分離することができず溶媒残留濃度を測定できなかった。
【0063】
〔比較例17〕
エルトロンボパグでなく、エルトロンボパグオラミンとTHF又はEtOHとの混合物を原料として用いて精製を行った。
すなわち、エルトロンボパグオラミン2gに、THF又はEtOHを表8に示す濃度になるように加えて原料組成物を調製した。ここにモノエタノールアミン5.5mLを加え、50℃で1時間撹拌した。次いで、EtOH 30mLを60分間かけて滴下した後、室温まで冷却し、1時間熟成させた。得られたスラリーを減圧ろ過した後、EtOH 5mLで洗浄し、50℃で17時間減圧乾燥した。得られたエルトロンボパグオラミンの収率を求めた。また、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置を用いた1H NMR(400MHz,DMSO-d6)により溶媒残留濃度を測定した。
溶媒残留濃度及び収率を表8に示す。
【0064】
【表8】
【0065】
〔試験例2〕
実施例1~22で得たエルトロンボパグオラミンについて、粉末X線回折測定を行った。
すなわち、サンプルをすり潰した後、無反射試験板に載せて粉末X線回折測定を行った(測定装置:株式会社リガクMiniFlex600C、Cu照射源:1.54Å)。結果を図1に示す。
(スキャン条件)
角度範囲:2~40°
ステップサイズ:0.02°
1ステップあたりの時間:10°/秒
【0066】
試験例2の結果、実施例1~22で得られたエルトロンボパグオラミンは、7.5゜±0.2゜、8.3゜±0.2゜、14.0゜±0.2゜及び23.0゜±0.2゜にピークを有するI型結晶ということが確認できた。
図1