(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-18
(45)【発行日】2025-06-26
(54)【発明の名称】タンパク質のグリコシル化プロファイルを調節するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20250619BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250619BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20250619BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20250619BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20250619BHJP
【FI】
C12P21/08
C12N5/10
C12N1/00 G
C07K16/00
C07K19/00
(21)【出願番号】P 2022537340
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 EP2020086410
(87)【国際公開番号】W WO2021122738
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-12-15
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツィマー,アリネ
(72)【発明者】
【氏名】エーレット,ヤニケ
(72)【発明者】
【氏名】ツィマーマン,マルティナ
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519567(JP,A)
【文献】特表2018-522023(JP,A)
【文献】特表2015-535423(JP,A)
【文献】Martina Zimmermann et al.,Impact of Acetylated and Non-Acetylated Fucose Analogues on IgG Glycosylation,Antibodies,2019年01月10日,Vol. 8、No. 9,doi:10.3390/antib8010009
【文献】John G. Allen et al.,Facile modulation of antibody fucosylation with small molecule fucostatin inhibitors and co-crystal structure with GDP-mannose 4,6-dehydratase,ACS Chemical Biology,2016年,Vol. 11、Issue 10
【文献】Janike Ehret et al.,Impact of cell culture media additives on IgG glycosylation produced in Chinese hamster ovary cells,Biotechnology and Bioengineering,2019年01月,Vol. 116,816-830
【文献】Osamu Tsuruta et al.,Synthesis of GDP-5-thiosugars and Their Use as Glycosyl Donor Substrates for Glycosyltransferases,The Journal of Organic Chemistry,2003年,Vol. 68、Issue 16
【文献】湯浅 英哉,硫黄原子を環内に含む糖アナログのグリコシダーゼ阻害剤としての可能性,有機合成化学協会誌,2002年,60巻、8号,774-782
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00- 41/00
C07K 1/00- 19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低減したフコシル化を有する抗体または
抗体以外のFc含有タンパク質を作製する方法であって、
5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択され
る5-チオ-L-フコース誘導体を含む培養培地中で宿主細胞を培養することを含み、ここで宿主細胞は糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンを通してFcドメインに結合した少なくとも1のN-グリコシド結合型糖鎖を有するFcドメインを有する抗体または
抗体以外のFc含有タンパク質を発現する、および細胞から抗体または
抗体以外のFc含有タンパク質を単離すること、ここで抗体または
抗体以外のFc含有タンパク質は、5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体が不在である以外は同じ培養条件下で培養された同じ宿主細胞からの抗体または
抗体以外のFc含有タンパク質と比較して、糖鎖で低減したフコシル化を有する、前記方法。
【請求項2】
培養培地が、5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコースを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
宿主細胞が、チャイニーズハムスター卵巣細胞であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
宿主細胞が、流加細胞培養または灌流細胞培養において培養されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
宿主細胞が、
-バイオリアクター内に宿主細胞および水性の細胞培養培地を充填すること
-バイオリアクター中の細胞をインキュベートすること
-バイオリアクター中の細胞のインキュベーションの全時間にわたって絶えず、または該インキュベーション時間内の1回または数回、バイオリアクターに細胞培養培地を添加すること、ここで(whereby)細胞培養培地が、
5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択され
る5-チオ-L-フコース誘導体を含む、
によって培養されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
添加される培地が、pH8.5未満のpHを有し、および10nMと100mmol/lとの間の濃度で5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
チオフコシル化された抗体または
抗体以外のFc含有タンパク質を作製するための方法であって、
5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択され
る5-チオ-L-フコース誘導体を含む培養培地中で宿主細胞を培養すること、ここで宿主細胞は、糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンを通してFcドメインに結合した少なくとも1のN-グリコシド結合型糖鎖を有するFcドメインを有する抗体または
抗体以外のFc含有タンパク質を発現する、および細胞からの抗体または
抗体以外のFc含有タンパク質を単離すること、を含む前記方法。
【請求項8】
5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択され
る5-チオ-L-フコース誘導体を含む、乾燥粉末細胞培養培地。
【請求項9】
細胞培養培地が、流加培地であることを特徴とする、請求項8に記載の細胞培養培地。
【請求項10】
細胞培養培地が、溶解して液体培地を提供するときに、液体培地中の5-チオ-L-フコースの濃度が、10nMと100mmol/lの間である量で5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体を含む、請求項8または9に記載の細胞培養培地。
【請求項11】
細胞培養培地が、少なくとも1以上の糖類構成要素、1以上のアミノ酸、1以上のビタミンまたはビタミン前駆体、1以上の塩、1以上の緩衝剤構成要素、1以上の補因子および1以上の核酸構成要素を含むことを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-チオ-L-フコースを含む細胞培養培地および抗体または他のFc含有タンパク質のグリコシル化プロファイルを調節し、およびそれによって該タンパク質の結合親和性を調節するための5-チオ-L-フコースの使用に関する。
【0002】
治療的用抗体およびFc-融合タンパク質のような組み換えタンパク質は、一般的に哺乳動物の細胞株において産生される。
哺乳動物の宿主細胞において産生されるモノクローナル抗体およびFc-融合タンパク質は、グリコシル化を包含する、様々な翻訳語修飾を有し得る。IgGなどのモノクローナル抗体は、典型的には、各重鎖のアスパラギン297(Asn297)でN結合型グリコシル化部位を有する(無傷の抗体ごとに2つ)。抗体上のAsn297に取り付けられたグリカンは、典型的には、低量の末端のシアル酸および可変量のガラクトースと共に極めて低いか全くないバイセクティングN-アセチルグルコサミン(バイセクティングGIcNAc)を有する複雑な二分岐構造体である。グリカンはまた、大抵は、高いレベルのコアフコシル化を有する。抗体におけるコアフコシル化の低減は、Fcのエフェクター機能、とりわけFcガンマ受容体結合およびADCC活性を変更することが示されている。この所見は、低減したコアフコシル化を有する抗体を産生する細胞株の改変における興味へと導いた。
【0003】
いくつかの抗体ベースの免疫療法についての秘訣は、抗体Fc部分のFcγ受容体(FcγR)と呼ばれる細胞表面受容体への結合である。細胞質内ドメインに応じて、FcγRは、種々の免疫応答をトリガーする。共通するものは、活性化受容体(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIc、FcγRIIIaおよびFcγRIIIb)についての免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)およびFcγRIIbのような抑制性受容体についての免疫受容体抑制性チロシンモチーフ(ITIMs)である[Lu J and Sun PD, Structural mechanism of high affinity FcgammaRI recognition of immunoglobulin G. Immunol Rev 2015, 268, 192-200]。さらにまた、受容体は、高親和性FcγRI(CD64)ならびに低親和性FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)に分類され得る。Bruhns et al.は、種々の受容体クラスのすべての既知の抗体サブクラスへの結合を記載した。IgG1は、すべてのクラスの受容体に異なる親和性で結合することが報告されている。IgG1の増大する親和性は、FcγRIIb、FcγRIIIb、FcyRIIIaおよびFcγRIIaについて観察され、FcγRIについて最も高い親和性であった[Bruhns P, Iannascoli B, England P, Mancardi DA, Fernandez N, Jorieux S, and Daeron M, Specificity and affinity of human Fcgamma receptors and their polymorphic variants for human IgG subclasses. Blood 2009, 113, 3716-25]。
【0004】
2つの主要なFcエフェクター機能は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)である。FcγRIIIaを発現するナチュラルキラー(NK)細胞は、ADCC活性を担当する。一般に、受容体親和性およびそれによる抗体の生物活性は、抗体のグリコシル化のような翻訳後修飾に依存する[Harris RJ, Chin ET, Macchi F, Keck RG, Shyong B-J, Ling VT, Cordoba AJ, Marian M, Sinclair D, Battersby JE, and Jones AJS, Analytical Characterization of Monoclonal Antibodies: Linking Structure to Function. In Current Trends in Monoclonal Antibody Development and Manufacturing, ed.; Shire SJ, et al.; Springer New York: New York, NY, 2010, 193-205]。
【0005】
抗体は、Fc部分における各重鎖上の位置297(Asn297)にて明確なN連結型グリコシル化を提示する。組換えタンパク質のFc部分上のコアフコシル化の存在は、フコースの立体障害に起因してADCC応答を低減することが知られている[Mizushima T, Yagi H, Takemoto E, Shibata-Koyama M, Isoda Y, Iida S, Masuda K, Satoh M, and Kato K, Structural basis for improved efficacy of therapeutic antibodies on defucosylation of their Fc glycans. Genes to cells 2011, 16, 1071-1080]。したがって、コアフコシル化の低減は、増強されたADCCを導く。このことは、それらのフコシル化同等物と比較して増強されたADCCおよび抗腫瘍活性を示す、アフコシル化された(afucosylated)抗EGFRおよび抗CS1抗体のin vivo研究によって検証された[Gomathinayagam S, Laface D, Houston-Cummings NR, Mangadu R, Moore R, Shandil I, Sharkey N, Li H, Stadheim TA, and Zha D, In vivo anti-tumor efficacy of afucosylated anti-CS1 monoclonal antibody produced in glycoengineered Pichia pastoris. Journal of Biotechnology 2015, 208, 13-21]。結論として、Fcグリコシル化のモジュレーションは、治療用抗体の生物活性を増強するためのストラテジーである。
【0006】
フコシル化を低減するための方法は、細胞株を改変するための方法を包含する。
細胞株を改変することの代替手段は、グリコシル化経路における酵素に対する小分子インヒビターの使用を包含する。別の選択肢は、複雑なN連結型グリカンを有するが、フコシル化が低減している組換え抗体を産生するのに使用する小分子フコース類似体の提供である。このことは、例えば、WO09135181に示唆されている。
しかしいまだ、グリコシル化パターンのモジュレーション、およびよって治療用タンパク質の生物活性のモジュレーションは、改善のための余地がある。
【0007】
5-チオ-L-フコースおよび/またはそれのある誘導体の細胞培養培地およびフィードへの添加が、抗体/Fc含有タンパク質の低減したフコシル化をもたらすことが発見された。生成されたタンパク質は、増強されたFcγRIIIa結合を呈しており、このことは増大したADCCと相関している。驚くべきことに、5-チオ-L-フコースおよび/またはそれのある誘導体の使用は、フコース類似体の高い組み込みを導いた。
【0008】
本発明は、したがって、低減したフコシル化を有する抗体または他のFc含有タンパク質を作製する方法であって、以下:
5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択される5-チオ-L-フコース誘導体を含む培養培地中で宿主細胞を培養することを含み、ここで宿主細胞は、糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンを通してFcドメインに結合した少なくとも1のN-グリコシド結合型糖鎖を有するFcドメインを有する抗体または他のFc含有タンパク質を発現する、および細胞から抗体または他のFc含有タンパク質を単離すること、ここで抗体または他のFc含有タンパク質は、5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体の不在である以外は同じ培養条件下で培養された同じ宿主細胞からの抗体または他のFc含有タンパク質と比較して、糖鎖で低減したフコシル化を有し、誘導体は、部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択される、
を含む、方法に指向される。
【0009】
好ましい態様において、宿主細胞は、5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコースを含む細胞培養培地中で培養される。
好ましい態様において、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞である。
別の好ましい態様において、宿主細胞は、流加細胞培養または灌流細胞培養において培養される。
【0010】
好ましい態様において、宿主細胞は、
-バイオリアクター内に宿主細胞および水性の細胞培養培地を充填すること
-バイオリアクター中の細胞をインキュベートすること
-バイオリアクター中の細胞のインキュベーションの全時間にわたって絶えず、または該インキュベーション時間内の1回または数回、バイオリアクターに細胞培養培地を添加すること、ここで(whereby)細胞培養培地は、5-チオ-L-フコースを含む、
によって培養される。
好ましくは、添加される培地は、pH8.5未満のpHを有し、および10nmol/lと100mmol/lとの間の、好ましくは0.1μmol/lと10mmol/lとの間の濃度で、5-チオ-L-フコースを含む。
【0011】
本発明はさらに、チオフコシル化された抗体または他のFc含有タンパク質を作製するための方法であって、以下:
5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択される5-チオ-L-フコース誘導体を含む培養培地中で宿主細胞を培養すること、ここで宿主細胞は、糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンを通してFcドメインに結合した少なくとも1のN-グリコシド結合型糖鎖を有するFcドメインを有する抗体または他のFc含有タンパク質を発現する、および細胞から抗体または他のFc含有タンパク質を単離すること、
を含む方法に指向される。
【0012】
本発明はさらに、5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択される5-チオ-L-フコース誘導体を含む乾燥粉末細胞培養培地に指向される。
一態様において、細胞培養培地は、流加培地である。
【0013】
別の態様において、細胞培養培地は、溶解して液体培地を提供するときに、液体培地中の5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体の濃度が、10nmol/lと100mmol/lとの間、好ましくは0.1μmol/lと10mmol/lとの間である量で5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体を含む。
液体培地、例として、流加培地または灌流培地は、典型的には、細胞培養における5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体の最終濃度が、0.1と1mmol/lとの間であるように設計される。
一態様において、細胞培養培地は、少なくとも1以上の糖類構成要素、1以上のアミノ酸、1以上のビタミンまたはビタミン前駆体、1以上の塩、1以上の緩衝剤構成要素、1以上の補因子および1以上の核酸構成要素を含む。
【0014】
本発明はさらに、本発明に記載の細胞培養培地を産生するための方法であって、
a)5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択される5-チオ-L-フコース誘導体を細胞培養培地の他の構成要素を混合すること、
b)ステップa)の混合物を製粉に供すること、
による方法に指向される。
好ましい態様において、ステップb)は、ピンミル、フィッツミルまたはジェットミルで実施される。
別の好ましい態様において、ステップa)からの混合物は、製粉の前に0℃未満の温度にまで冷却される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、L-フコースおよび5-チオ-L-フコースのアセチル化されたものならびにアセチル化されていないものの構造類似性を示す。
【
図2】
図2~5は、3つの異なるIgG1(A、BおよびC)および融合タンパク質(D)を産生する4つの異なるCHO細胞株を使用した、細胞性能に対する5-チオ-L-フコースの影響を示す。生細胞密度(VCD)は左に視覚化され、および力価は右に視覚化される。対照フィードは、添加物を含有せず、およびDMSO対照は、1.17%DMSOを含有し、これは、両方のペルアセチル化フコース類似体について溶媒として使用されたものと同じ濃度である。さらなる詳細は、例1を参照されたい。
【
図3】
図2~5は、3つの異なるIgG1(A、BおよびC)および融合タンパク質(D)を産生する4つの異なるCHO細胞株を使用した、細胞性能に対する5-チオ-L-フコースの影響を示す。生細胞密度(VCD)は左に視覚化され、および力価は右に視覚化される。対照フィードは、添加物を含有せず、およびDMSO対照は、1.17%DMSOを含有し、これは、両方のペルアセチル化フコース類似体について溶媒として使用されたものと同じ濃度である。さらなる詳細は、例1を参照されたい。
【0016】
【
図4】
図2~5は、3つの異なるIgG1(A、BおよびC)および融合タンパク質(D)を産生する4つの異なるCHO細胞株を使用した、細胞性能に対する5-チオ-L-フコースの影響を示す。生細胞密度(VCD)は左に視覚化され、および力価は右に視覚化される。対照フィードは、添加物を含有せず、およびDMSO対照は、1.17%DMSOを含有し、これは、両方のペルアセチル化フコース類似体について溶媒として使用されたものと同じ濃度である。さらなる詳細は、例1を参照されたい。
【
図5】
図2~5は、3つの異なるIgG1(A、BおよびC)および融合タンパク質(D)を産生する4つの異なるCHO細胞株を使用した、細胞性能に対する5-チオ-L-フコースの影響を示す。生細胞密度(VCD)は左に視覚化され、および力価は右に視覚化される。対照フィードは、添加物を含有せず、およびDMSO対照は、1.17%DMSOを含有し、これは、両方のペルアセチル化フコース類似体について溶媒として使用されたものと同じ濃度である。さらなる詳細は、例1を参照されたい。
【0017】
【
図6】
図6は、糖構造を示す(A フコシル化G0F、B チオフコシル化G0チオFおよびC G1断片化パターン)。
図6についての詳細は、例2にて見出され得る。
【
図7】
図7は、UPLCを使用した、放出された、標識化グリカンの分離後に得られた蛍光シグナルを示し、このことは、フコシル化グリカンと比較して、チオフコシル化グリカンに対応するピークの変化した保持時間を示す。
図7についての詳細は、例2にて見出され得る。
【
図8】
図8は、(A)mAb1、(B)mAb2、(C)mAb3および(D)融合タンパク質を産生するCHO細胞株を使用した、フコシル化プロファイルに対する5-チオ-L-フコースの影響を示す。詳細は、例3にて見出され得る。
【0018】
【
図9】
図9は、(A)mAb1または(B)mAb3を産生する流加実験の間の5-チオ-L-フコースの加速された効果を示す。詳細は、例4にて見出され得る。
【
図10】
図10は、グリコシル化プロファイルに対する5-チオ-L-フコースの用量応答を示す。さらなる詳細は、例5にて見出され得る。
【
図11】
図11は、12日目のFcγRIIIaのmAb3対照への結合(黒色)または5-チオ-L-フコース処理されたmAb3への結合(灰色)の重ね書きされたプロットを示す。さらなる詳細は、例6にて見出され得る。
【0019】
細胞培養培地は、人工的な環境において細胞の成長を支持および維持する。その成長が支持されるだろう生物のタイプに応じて、細胞培養培地は、複雑な混合物の構成要素、ときには100より多くの種々の構成要素を含む。哺乳動物、昆虫または植物の細胞の増殖に必要とされる細胞培養培地は、典型的には、細菌および酵母の成長を支持する培地よりもはるかに複雑である。化学的に定義された培地は、しばしば、アミノ酸、ビタミン、金属塩、抗酸化剤、キレーター、成長因子、緩衝剤、ホルモン、および当業者に既知であるさらに多くの物質を含むが、まったくこれらのみに限定されるものではない。
【0020】
本発明に従った細胞培養培地は、in vitroでの細胞の成長を維持および/または支持する構成要素のいずれかの混合物である。それは、複雑な培地であっても、または化学的に定義された培地であってもよい。細胞培養培地は、in vitroでの細胞の成長を維持および/または支持するのに必要なすべての構成要素を、またはさらなる構成要素が、個別に添加されるようにいくつかの構成要素のみを含み得る。本発明に従った細胞培養培地の例は、in vitroでの細胞の成長を維持および/または支持するのに必要なすべての構成要素、ならびに培地添加物またはフィードを含む、完全培地である。好ましい態様において、細胞培養培地は、完全培地、灌流培地または流加培地である。基本培地とも呼ばれる完全培地は、典型的には、6.8と7.8との間のpHを有する。流加培地は、好ましくは、8.5未満の、好ましくは、6.5と8.5との間のpHを有する。
細胞培養培地は、液体培地であってもよく、または乾燥粉末培地であってもよい。
【0021】
典型的には、本発明に従う細胞培養培地は、バイオリアクター中の細胞の成長を維持および/または支持するために使用される。
フィードまたは流加培地は、細胞培養における最初の成長および産生を支持する基本培地ではなく、後のステージで培地に添加されて、栄養素の欠乏を防ぎ、および産生フェーズを持続させる、細胞培養培地である。流加培地は、基本培養培地と比較して、より高い濃度のいくつかの構成要素を有し得る。例えば、アミノ酸または炭水化物を包含する栄養素などの、いくつかの構成要素は、基本培地中の濃度の約5X、6X、7X、8X、9X、10X、12X、14X、16X、20X、30X、50X、100X、200X、400X、600X、800X、または約1000Xでさえも流加培地中に存在していてもよい。
【0022】
哺乳動物の細胞培養培地は、in vitroでの哺乳動物の細胞の成長を維持および/または支持する構成要素の混合物である。哺乳動物の細胞の例は、ヒトまたは動物細胞、好ましくは、CHO細胞、COS細胞、I VERO細胞、BHK細胞、AK-1細胞、SP2/0細胞、L5.1細胞、ハイブリドーマ細胞またはヒト細胞である。
【0023】
化学的に定義された細胞培養培地は、いずれの化学的に定義されていない物質をも含まない細胞培養培地である。このことは、培地に使用されるすべての化学物質の化学組成が既知であることを意味する。化学的に定義された培地は、いずれの酵母、動物または植物組織をも含まない;それらは、フィーダー細胞、血清、抽出物または消化物または化学的に定義が乏しいタンパク質を培地に与えるであろう他の構成要素を含まない。化学的に定義されていないかまたは化学的に定義が乏しい構成要素は、それらの化学組成および構造が既知でないもの、様々な組成で存在するもの、または膨大な実験努力でのみ定義され得る-アルブミンまたはカゼインのようなタンパク質の化学組成および構造の評価に匹敵するものである。
【0024】
粉末状の細胞培養培地または乾燥粉末培地は、典型的には、製粉プロセス、凍結乾燥プロセスまたは乾式もしくは湿式造粒プロセスから生じる細胞培養培地である。それは、粉末状の細胞培養培地は、粒状、微粒子状の培地を意味し、液体培地を意味しない。用語「乾燥粉末」は、用語「粉末」と交換可能に使用されてもよい、しかしながら、本明細書に使用されるとき「乾燥粉末」は、単に、粒状の材料の肉眼的形態を指し、および他に指し示されない限り、材料が、複合されたまたは凝集した溶媒を完全に含まないことを意味するとは意図しない。乾燥粉末培地は、製粉または凍結乾燥プロセスから生じ、典型的には、0.5mm未満、例として、0.05と0.5mmとの間の粒子サイズを有する。
【0025】
乾式または湿式造粒プロセス、例として、噴霧乾燥、湿式造粒または乾式圧密によるものから生じる乾燥粉末培地は、典型的には、0.5mm超、例として、0.5と5mmとの間の粒子サイズを有する。乾式圧密は、典型的には、ロールプレスにおいてなされる。US6,383,810B2は、凝集した真核細胞培養培地粉末を産生する方法を開示する。方法は、乾燥粉末細胞培養培地を溶媒で湿潤させて、次いで湿らせた培地を再び乾燥させて、凝集した乾燥細胞培養培地を得ることを含む。
一態様において、本発明に従った乾燥粉末培地は、乾式圧密によって産生される。
【0026】
本発明に従った培地で培養される細胞は、細菌性細胞のような原核細胞であってもよく、または植物もしくは動物細胞のような真核細胞であってもよい。好ましくは、細胞は、哺乳動物の細胞である。細胞は、正常な細胞、不死化細胞、疾患細胞、形質転換された細胞、突然変異細胞、体細胞、生殖細胞、幹細胞、前駆体細胞または胚細胞、確立したかまたは形質転換された細胞株または天然の供給源から得られたもののうちのいずれかであり得る。宿主細胞は、細胞は、Fcドメインを有する抗体または別のFc含有タンパク質を発現するための遺伝子を組み込んだ細胞である。
【0027】
粒子のサイズは、粒子の平均直径を意味する。粒子のサイズが、与えられる場合、粒子の、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%が、与えられた粒子サイズを有すること、または与えられた粒子サイズの範囲内にあることを意味する。粒子直径は、レーザー光散乱によって決定される。
【0028】
不活性雰囲気は、夫々の容器または装置を不活性ガスで充填することによって生成される。好適な不活性ガスは、アルゴンまたは、好ましくは、窒素のような希ガスである。これらの不活性ガスは、非反応性であり、および望ましくない化学反応が起こることを防ぐ。本発明に従ったプロセスにおいて、不活性雰囲気を生成することは、酸素の濃度が、例として、液体窒素または窒素ガスを導入することによって、絶対値で10%(v/v)未満に低減することを意味する。
【0029】
種々のタイプのミルは、当業者に既知である。
遠心式衝撃式製粉機とも呼ばれる、ピンミルは、破壊エネルギーを提供する高速回転するディスク上の突き出たピンによって、固体を粉状にする。ピンミルは、例えば、Munson Machinery(USA)、Premium Pulman(India)またはSturtevant(USA)により販売される。
【0030】
ジェットミルは、圧縮ガスを使用して、粒子を加速させて、プロセスチャンバー内でそれらを互いに激突させる。ジェットミルは、例として、Sturtevant(USA)またはPMT(Austria)によって販売されている。
Fitzpatrick(USA)によって商品化されたフィッツミルは、製粉のためにブレードを有するローターを使用する。
【0031】
絶えず実行されるプロセスは、バッチ式で実行されないプロセスである。製粉プロセスが、絶えず実行される場合、培地成分は、ある時間にわたってミル内に永続的に、および着実に供給されることを意味する。
【0032】
細胞培養培地、とくに本発明に従った完全培地は、典型的には、少なくとも1以上の糖類構成要素、1以上のアミノ酸、1以上のビタミンまたはビタミン前駆体、1以上の塩、1以上の緩衝剤構成要素、1以上の補因子および1以上の核酸構成要素を含む。
【0033】
培地は、ピルビン酸ナトリウム、インスリン、植物性タンパク質、脂肪酸および/または脂肪酸誘導体および/またはプルロニック酸(pluronic acid)および/または化学的に調製される非イオン性界面活性剤のような表面活性構成要素もまた含んでもよい。好適な非イオン性界面活性剤の一例は、例として、BASF、Germanyから商品名pluronic(登録商標)のもと入手可能である、ポロキサマーとも呼ばれる、一級ヒドロキシル基で終結する二官能性のブロックコポリマーの界面活性剤である。
【0034】
糖類構成要素は、グルコース、ガラクトース、リボースまたはフルクトース(単糖類の例)またはスクロース、ラクトースまたはマルトース(二糖類の例)のようなすべての単糖類または二糖類である。
【0035】
本発明に従うアミノ酸の例は、チロシン、タンパク質を構成するアミノ酸、とくに必須アミノ酸である、ロイシン、イソロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファンおよびバリン、ならびにD-アミノ酸、好ましくはL-アミノ酸のようなタンパク質を構成しないアミノ酸である。
チロシンは、L-またはD-チロシンを意味し、好ましくは、L-チロシンを意味する。
システインは、L-またはD-システインを意味し、好ましくはL-システインを意味する。
【0036】
ビタミンの例は、ビタミンA(レチノール、レチナール、様々なレチノイド、および4つのカロテノイド)、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン、ナイアシンアミド)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサール)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸、フォリン酸)、ビタミンB12(シアノコバラミン、ヒドロキシコバラミン、メチルコバラミン)、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンD(エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール)、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)およびビタミンK(フィロキノン、メナキノン)である。ビタミン前駆体もまた包含される。
【0037】
塩の例は、重炭酸塩、カルシウム、塩化物、マグネシウム、ホスファート、カリウムおよびナトリウムなどの無機イオンまたはCo、Cu、F、Fe、Mn、Mo、Ni、Se、Si、Ni、Bi、VおよびZnなどの微量元素を含む構成要素である。例は、硫酸銅(II)五水和物(CuSO4・5H2O)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)、塩化カリウム(KCl)、硫酸鉄(II)、無水一塩基性リン酸ナトリウム(NaH2PO4)、無水硫酸マグネシウム(MgSO4)、無水二塩基性リン酸ナトリウム(Na2HPO4)、塩化マグネシウム六水和物(MgCl2・6H2O)、硫酸亜鉛七水和物である。
【0038】
緩衝剤の例は、CO2/HCO3(カーボネート)、ホスファート、HEPES、PIPES、ACES、BES、TES、MOPSおよびTRISである。
補因子の例は、チアミン誘導体、ビオチン、ビタミンC、NAD/NADP、コバラミン、フラビンモノヌクレオチドおよび誘導体、グルタチオン、ヘムヌクレオチドホスファートおよび誘導体である。
【0039】
本発明に従った核酸構成要素は、シトシン、グアニン、アデニン、チミンまたはウラシルのような核酸塩基、シチジン、ウリジン、アデノシン、グアノシンおよびチミジンのようなヌクレオシド、およびアデノシン一リン酸またはアデノシン二リン酸またはアデノシン三リン酸のようなヌクレオチドである。
【0040】
流加培地は、完全培地と比較して異なる組成を有していてもよい。それらは、典型的には、アミノ酸、微量元素およびビタミンを含む。それらは、糖類構成要素もまた含んでもよいが、ときには産生の理由のために糖類構成要素は、別々のフィードにおいて添加されることもある。
【0041】
好適な流加培地は、以下の化合物の1以上を含んでもよい:
【表1-1】
【表1-2】
本発明に従って凍結することは、温度を0℃未満に冷却することを意味する。
【0042】
用語「抗体」は、(a)免疫グロブリンポリペプチドおよび免疫グロブリンポリペプチドの免疫学的に活性な部分、すなわち、特定の抗原(例として、CD70)へ免疫特異的に結合する抗原結合部位および複合型N-グリコシド結合型糖鎖(単数または複数)を含むFcドメインを含有する免疫グロブリンファミリーのポリペプチド、またはそのフラグメント、または(b)抗原(例として、CD70)へ免疫特異的に結合する、かかる免疫グロブリンポリペプチドまたはフラグメントの保存的に置換された誘導体、を指す。抗体は、例えば、Harlow and Lane、Antibodies: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988)に一般に記載される。
Fc含有タンパク質は、Fcドメインまたは複合型N-グリコシド結合型糖鎖を含む領域を含むいずれかのタンパク質である。
【0043】
用語「モノクローナル抗体」は、いずれかの真核細胞または原核細胞クローン、またはファージクローンを包含する単細胞クローンに由来する抗体を指し、それが産生される方法を指すものではない。よって、用語「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術を通して産生された抗体に限定されない。
【0044】
用語「Fc領域」は、抗体の定常領域、例として、CH1-ヒンジ-CH2-CH3ドメイン、任意にCH4ドメインを有する、またはそのようなFc領域の保存的に置換された誘導体を指す。
用語「Fcドメイン」は、抗体の定常領域ドメイン、例として、CH1、ヒンジ、CH2、CH3またはCH4ドメイン、またはそのようなFcドメインの保存的に置換された誘導体を指す。
用語「Fab領域」は、抗原へ結合する抗体の可変領域を指す。
【0045】
「抗原」は、抗体、典型的には、抗体Fabドメインが特異的に結合する分子である。
用語「特異的に結合」および「特異的に結合する」は、抗体または抗体誘導体が、高度に選択的な様式で対応する標的抗原と結合し、かつ他の抗原の大多数とは結合しないことを意味する。典型的には、抗体または他のFc含有タンパク質は、少なくとも約1x10-7M、および好ましくは10-8M~10-9M、10-10M、10-11M、または10-12Mの親和性で結合し、および予め決められた抗原または近しい抗原以外の非特異的な抗原(例として、BSA、カゼイン)への結合のためのその親和性よりも2倍よりも大きい親和性で予め決められた抗原へ結合する。
用語「阻害する」または「の阻害」は、測定可能な量低減すること、または全面的に防ぐこと、とくに反応を触媒する特定の酵素の活性を測定可能な量低減すること、または全面的に防ぐことを意味する。
【0046】
用語「アフコシル化」または「アフコシル化された」は、内部のコア構造にフコースを有さないグリカン構造を指す。
本明細書に使用されるとき、「チオフコシル化」または「チオフコシル化された」は、少なくとも1のチオフコースを含むグリカン構造を指す。しばしば「チオフコシル化された」グリカン構造において、フコースは、チオフコースにより置換されている。
【0047】
本明細書に使用されるとき、「5-チオ-L-フコース」または「チオFuc」は、糖環において酸素が、硫黄原子に置換された、フコース誘導体を指す。「5-チオ-L-フコース」は、アルファおよび/またはベータアノマーを意味する。
【化1】
【0048】
本明細書に使用されるとき、「アセチル化5-チオ-L-フコース」または「AcチオFuc」は、1~4つのアセチル基を保有する5-チオ-L-フコースを意味する、チオフコース上のアセチル基の全ての形態を指す。
図1は、例えば、4つのアセチル基を保有する過アセチル化5-チオ-L-フコースを示す。
5-チオ-L-フコースの誘導体は、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコース、5-チオ-L-フコースホスホナートである。
【0049】
非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコースは、式I:
【化2】
に従う分子であり、式中Rは、互いに独立してHまたはアセチルである。
【0050】
非、部分的または完全にアセチル化された形態の5-アルキニル-5-チオ-L-フコースは、式II:
【化3】
に従う分子であり、式中Rは、互いに独立してHまたはアセチルである。
【0051】
非、部分的または完全にアセチル化された形態の6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースは、式III:
【化4】
に従う分子であり、式中Rは、互いに独立してHまたはアセチルである。
【0052】
非、部分的または完全にアセチル化された形態の5-チオ-L-フコースホスホナートは、式IV:
【化5】
に従う分子であり、式中Rは、互いに独立してHまたはアセチルである。
【0053】
以下の画像は、非アセチル化形態を示す。アセチル化形態において、1以上のOH基が、アセチル化されている。
【化6】
【0054】
本明細書に使用されるとき、「コアフコシル化」または「フコシル化」は、N連結型グリカンの還元末端でのN-アセチルグルコサミン(「GIcNAc」)へのフコースの付加を指す。
【0055】
本明細書に使用されるとき、「N-グリコシド結合型糖鎖」または「N-グリコシド結合型グリカン」は、典型的には、アスパラギン297(Kabatの数に従う)に結合されているが、複合型N-グリコシド結合型糖鎖は、他のアスパラギン残基に連結され得る。本明細書に使用されるとき、複合型N-グリコシド結合型糖鎖は、以下の構造:
【化7】
を主に有する二分岐の複合型糖鎖を有し、ここで+/-は糖分子が存在し得るがし得ないかを指し示し、および数は糖分子間の連結の位置を指し示す。上の構造において、アスパラギンに結合する糖鎖末端は、還元末端と呼ばれ(右側)、および反対側は、非還元末端と呼ばれる。フコースは、大抵還元末端のN-アセチルグルコサミン(「GIcNAc」)に、典型的にはα1,6結合(GIcNAcの6位置が、フコースの1位置に連結される)によって結合される。「Gal」はガラクトースを指し、および「Man」はマンノースを指す。
【0056】
「複合型N-グリコシド結合型糖鎖」は、マンノースのみがコア構造の非還元末端で組み込まれる、高マンノース型の糖鎖を除外するが、以下を包含する、
1)コア構造の非還元末端側が、ガラクトース-N-アセチルグルコサミン(「gal-GlcNAc」とも称される)の1以上の枝を有し、およびGaI-GIcNAcの非還元末端側が、任意にシアル酸、バイセクティングN-アセチルグルコサミンまたは同種のものを有する、複合型;または
2)コア構造の非還元末端側が、高マンノース型N-グリコシド結合型糖鎖および複合型N-グリコシド結合型糖鎖の両方の枝を有する、ハイブリッド型。
いくつかの態様において、「複合型N-グリコシド結合型糖鎖」は、コア構造の非還元末端側が、ゼロ、1またはそれ以上のガラクトース-N-アセチルグルコサミン(「gal-GlcNAc」とも称される)の枝を有し、およびGal-GlcNAcの非還元末端側が、任意にさらにシアル酸、バイセクティングN-アセチルグルコサミンまたは同種のものなどの構造を有する、複合型を包含する。
【0057】
本発明の要旨は、コアフコシル化、すなわちFc含有タンパク質または抗体のN-グリコシド結合型糖鎖のフコシル化を低減する試薬および方法を提供することである。一態様において、フコシル化は、阻害され、よって低減されるかまたは完全に抑制される。別の態様において、Fc含有タンパク質または抗体のN-グリコシド結合型糖鎖は、代わりにチオフコシル化されている。両方の効果はまた、並行して、異なる抗体または異なる2つのグリカン構造を保有する1つの抗体のいずれかにおいて、並行して生じ得る。
【0058】
また提供されるものは、かかる方法によって産生される抗体である。他の側面において、有効量の、5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコース、非、部分的または完全にアセチル化された形態の2-F-5-チオ-L-フコース、5-アルキニル-5-チオ-L-フコース、6,6,6-トリフルオロ-5-チオ-L-フコースおよび5-チオ-L-フコースホスホナートから選択される5-チオ-L-フコース誘導体を含む培養培地が提供される。以下において、誘導体は、いつでも特定されているわけではない。5-チオ-L-フコースが言及される場合に、それが上で同定された誘導体もまた網羅することは自明である。それにもかかわらず好ましいものは、5-チオ-L-フコースおよび/または部分的または完全にアセチル化された5-チオ-L-フコースである。
【0059】
いくつかの態様において、Fc領域(またはドメイン)に結合された複合型N-グリコシド結合型糖鎖のフコシル化は、完全に抑制されるかまたはそれ以外は5-チオ-L-フコースが不在である以外は同じ培養条件下で培養された同じ宿主細胞からの抗体または他のFc含有タンパク質と比較して低減している。「5-チオ-L-フコースが不在である以外は同じ培養条件下で」は、典型的には、細胞培養が、同じ成分を含有し、および同じ条件であるが、5-チオ-L-フコースが存在しないという違いを有するもとで実施されることを意味する。
【0060】
コアフコシル化を抑制または低減するために、宿主細胞は、5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体を含む細胞培養培地中で培養される。
好ましい態様において、宿主細胞が培養される細胞培養培地は、L-フコースを含まない。
【0061】
宿主細胞が培養される液体細胞培養培地中に含まれる5-チオ-L-フコースの量は、フコースの組み込みを減少させるのに有効な量である。これに関連して、「有効量」は、フコースの抗体または別のFc含有タンパク質の複合型N-グリカン結合型糖鎖内への組み込みを少なくとも10パーセント、少なくとも20パーセント、少なくとも30パーセント、少なくとも40パーセントまたは少なくとも60パーセント減少させるのに充分である、5-チオ-L-フコースの量を指す。
典型的には、量は、0.1μMと1mMとの間である。
流加培地が、細胞培養に添加される場合、それらはより多くの量の5-チオ-L-フコースを含んでもよい。
【0062】
有効である5-チオ-L-フコースの量は、標準的な細胞培養方法論によって決定され得る。例えば、細胞培養アッセイは、最適な投薬範囲を同定するのを助けるために用いられてもよい。用いられる正確な量はまた、投与の時間、宿主細胞株、細胞密度等に依拠する。
抗体のフコシル化および/またはチオフコシル化パターンは、培養培地中の5-チオ-L-フコースの濃度および/または5-チオ-L-フコースへの曝露の期間を変更することによって調節されてもよい。
【0063】
本発明の粉末状細胞培養培地は、好ましくは、すべての構成要素を混合し、およびそれらを製粉することによって産生される。構成要素の混合は、製粉によって乾燥粉末状細胞培養培地を産生する当業者にとって既知である。好ましくは、すべての構成要素は、混合物のすべての部分が大体同じ組成を有するように、徹底的に混合される。組成の一様性が高くなるほど、その結果得られる培地の均一な細胞成長に関する品質はより高くなる。
【0064】
製粉は、粉末状細胞培養培地を産生するのに好適であるいずれかのタイプのミルを用いて実施され得る。典型例は、ボールミル、ピンミル、フィッツミルまたはジェットミルである。好ましいものは、ピンミル、フィッツミルまたはジェットミルであり、極めて好ましいものは、ピンミルである。
当業者は、このようなミルを実行する方法を知っている。
【0065】
約40cmのディスクの直径を備える大規模な機器のミルは、例として、典型的には、ピンミルのケースにおいては1~6500回転数/分、好ましいものは、1~3000回転数/分で実行されるものである。
製粉は、10と300μmとの間の粒子サイズ、最も好ましくは25と100μmとの間の粒子サイズを有する粉末をもたらす、標準的な製粉条件下でなされ得る。
【0066】
好ましくは、製粉に供される混合物のすべての構成要素は、乾燥している。このことは、それらが水を含む場合、それらは結晶水のみ含むが、結合していないかまたは配位していない水分子の重量で、10%以下、好ましくは5%以下、最も好ましくは2%以下で含むことを意味する。
好ましい態様において、製粉は、不活性雰囲気中で実施される。好ましい不活性な保護ガスは、窒素である。
【0067】
別の好ましい態様において、混合物のすべての構成要素は、製粉前に凍結されている。製粉前に成分を凍結することは、0℃未満、および最も好ましくは-20℃未満の温度に成分を冷却することを確実にするいずれかの手段によってなされ得る。好ましい態様において、凍結することは、液体窒素を用いてなされる。このことは、成分が、液体窒素を用いて、例えば、ミル内への導入前に成分が保管される容器内に液体窒素を注ぐことにより、処理されることを意味する。好ましい態様において、容器は、フィーダーである。容器がフィーダーである場合に、液体窒素は、好ましくは、成分が導入されるフィーダーの側部または側部の近くに導入される。
典型的には、成分は、2~20秒にわたって液体窒素で処理される。
好ましくは、成分を冷却することは、ミル内に入るすべての成分が、0℃未満、最も好ましくは-20℃未満の温度であるようになされる。
【0068】
好ましい態様において、すべての成分は容器に入れられ、そこから混合物は、フィーダーに、最も好ましくは計量式スクリューフィーダーに移される。フィーダーにおいて、成分は、ときにはフィーダーのタイプに依拠してさらに混合され-および追加で冷却される。次いで、凍結された混合物は、ミル中で製粉された混合物が、好ましくは0℃未満、より好ましくは-20℃未満の温度をなお有するように、フィーダーからミルへ移される。
典型的には、混合物の成分のフィーダー内での滞留時間を意味する、ブレンド時間(the blending time)は、1分より多く、好ましくは15と60分との間である。
【0069】
ドーセージスネイル(dosage snail)とも呼ばれる計量式スクリューフィーダーは、典型的には、10~200回転数/分のスピードで実行され、好ましくは、それはは40~60回転数/分で実行される。
典型的には、ミルの温度は、-50と+30℃との間で保たれる。好ましい態様において、温度は、ほぼ10℃に保たれる。
製粉の間の酸素レベルは、好ましくは、10%(v/v)未満である。
【0070】
プロセスは、例として、バッチ式で、または絶えず実行され得る。好ましい態様において、本発明に従うプロセスは、ある時間にわたって、冷却するためのフィーダー内に混合物の成分を永続的に充填し、および冷却された混合物をフィーダーからミル内に永続的に充填することによって、絶えずなされる。
製粉後、その結果得られる乾燥粉末培地は、粒子のサイズを大きくするために、例として、ロールプレスでの乾式圧密によって、さらに圧縮されてもよい。
【0071】
例として、製粉または湿式または乾式圧密から生じる、乾燥粉末状培地の使用のために、溶媒、好ましくは水(最も具体的には、蒸留水および/または脱イオン水または精製水または注射用水)または水性緩衝液が培地に添加され、および培地が溶媒中に完全に溶解するまで構成要素が混合され、およびすぐに使える液体培地が、生成される。
溶媒は、生理食塩水、好適なpH範囲(典型的には、pH1.0とpH10.0との間の範囲内)を提供する可溶性酸または塩基イオン、安定剤、界面活性剤、保存料、およびアルコールまたは他の極性有機溶媒もまた含んでもよい。
【0072】
それは、pHの調整のための緩衝剤物質、ウシ胎仔血清、糖等のようなさらなる物質を細胞培養培地および溶媒の混合物に添加することも可能である。次いで、その結果得られる液体細胞培養培地は、成長または維持するために細胞と接触される。
本発明に従う乾燥粉末または粒状の培地は、典型的には、溶解後にその結果得られる液体培地が、有効量の5-チオ-L-フコース、典型的には、10nmol/lと100mmol/lとの間、好ましくは0.1μmol/lと10mmol/lとの間で含むような量で5-チオ-L-フコースを含む。乾燥粉末または粒状の培地は、好ましくは、いずれのL-フコースも含有しない。
【0073】
本発明は、さらに、
a)バイオリアクターを提供すること、
b)培養される細胞と本発明に従う乾燥粉末培地を溶解することによって生成される細胞培養培地とを混合すること、
c)ステップb)の混合物をインキュベートすること、
による細胞を培養するためのプロセスに指向される。
【0074】
一態様において、バイオリアクターは、灌流バイオリアクターである。
バイオリアクターは、細胞が培養され得るいずれかの槽、フラスコまたはタンクである。インキュベーションは、典型的には、好適な温度等のような好適な条件下でなされる。当業者は、好適な温度、pH、浸透圧、曝気、揺動などの細胞の成長/培養を支持または維持するための好適なインキュベーション条件および環境からの外来微生物による汚染を制限するかまたは理想的に回避するバイオリアクターについて知っている。
【0075】
灌流バイオリアクターは、灌流細胞培養が実施され得るバイオリアクターである。それは、典型的には、細胞培養の間閉鎖されているバイオリアクター槽、槽中の撹拌機、新鮮な培地を導入するためのライン、バイオリアクターからの細胞、液体培地および標的産物を含む採取ストリームを取り除くための採取ライン、および採取物の液体部分が収集され得る間細胞を保持する採取ライン中の細胞保持デバイスを含む。好ましい構成についての詳細を提供する灌流細胞培養についてのレビューは、“Perfusion mammalian cell culture for recombinant protein manufacturing - A critical review” Jean-Marc Bielser et al., Biotechnology Advances 36 (2018) 1328-1340に見出され得る。
【0076】
本発明はまた、
-細胞および水性の細胞培養培地をバイオリアクター内に充填すること、
-バイオリアクター中で細胞をインキュベートすること、
-バイオリアクター中の細胞のインキュベーションの時間全体にわたって絶えず、または該インキュベーション時間内に1回または数回、バイオリアクターに細胞培養培地を添加すること、
によるバイオリアクター中で細胞を培養するためのプロセスに指向され、ここで培地は、好ましくは、pH8.5未満のpHを有し、および少なくとも上に定義されるとおりの5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体を含む。
【0077】
好ましい態様において、培地は、流加培地である。
典型的には、流加培地は、50と300g/lとの間の溶媒中に溶解される個体成分を含む。
別の態様において、培地は、灌流培地である。
【0078】
一態様において、本発明のプロセスにおいて、インキュベーションの間に絶えずかまたは1回もしくは該回数内の数回のいずれかでバイオリアクターに添加される流加培地は、異なる組成を有する。
別の、典型的には好ましい態様における、本発明のプロセスにおいて、インキュベーションの間に絶えずかまたは1回もしくは該回数内の数回のいずれかでバイオリアクターに添加される流加培地は、常に同じ組成を有する。
【0079】
本発明の方法によって産生される抗体および抗体誘導体は、細胞培養物から単離され、および例えば、ゲル電気泳動、濾過、透析、および例として、親和性クロマトグラフィーおよび/またはイオン交換クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィーを使用して精製され得る。
【0080】
いくつかの態様において、本発明の方法によって産生される抗体または抗体誘導体は、5-チオ-L-フコースの不在において産生される抗体または抗体誘導体よりも高いエフェクター機能(例として、ADCC活性)を有する。ADCC活性は、当該技術分野において知られているアッセイを使用して測定されてもよく、および例示の態様において、コアフコシル化された親抗体と比較して、少なくとも10パーセント、20パーセント、30パーセント、40パーセント、50パーセント、60パーセント、70パーセント、80パーセント、90パーセント、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍または20倍増加する。
【0081】
5-チオ-L-フコースおよび/またはその誘導体は、それらが、典型的には、細胞の性能(VCDおよび力価)に対して有意な影響を与えないことから、コアフコシル化を修飾するのにとくに好適である。本発明の方法によって産生される抗体のグリコシル化パターンは、ときにはコアフコシル化が低減され、それによってより少ない全体的なコアフコシル化が生じ、およびときにはコアフコシル化が、チオフコシル化によるその置き換えに起因して低減することを示す。ときには両方の効果が同時に観察され得る。典型的には、フコシル化レベルは、5-チオ-L-フコースの量を増大して使用することによって減少させ得、および並行して5-チオ-L-フコースの組み込みは、5-チオ-L-フコースの量を増大してしようすることによって増大し、ここで効果は、完全に逆平行ではなく、アフコシル化およびチオフコシル化もまた細胞培養に添加される5-チオ-L-フコースの濃度の慎重な選択によって改変され得る。
【0082】
5-チオ-L-フコースは、既知のインヒビターである2F-ペルアセチルフコースと比較して、より高い効率を示す。例4に見られるように、5-チオ-L-フコース処理を用いた抗体の産生は、7、10および12日目に夫々対照と比較して、64%、68%および67%のフコシル化の低減を示した。比較すると、既知のフコース類似体である2F-ペルアセチルフコースの同じ濃度の添加は、7、10および12日目に夫々11%、50%および58%の低減を達成できるにすぎなかった。
【0083】
さらに、5-チオ-L-フコースを含む培地を用いた本発明の方法を用いて産生された抗体は、それらの受容体へのより高い結合親和性を示すことが示され得る。
【0084】
本発明はさらに、以下の図および例によって例証されるが、それに制限されるものではない。
上および下で引用されたすべての出願、特許、および刊行物、ならびに2019年12月19日に出願された対応するEP19218172.5の開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
例
以下の例は、本発明の実践的な適用を表す。
例1:5-チオ-L-フコースの存在における組換えタンパク質の発現。
一般的な流加プロセスを、組換えタンパク質のグリコシル化プロファイルに対する5-チオ-L-フコースの効果を決定するために使用した(
図1)。3つの異なるモノクローナル抗体(mAb)および融合タンパク質を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の4つの異なるクローンを試験した。細胞を、スピンチューブ内で14と20日との間37℃、5%CO
2、および80%湿度で培養した。出発する細胞密度として、30mLのCellvento(登録商標)4CHO培地(pH7.0±0.1)中3×10
5細胞/mLを夫々mAb1およびmAb2を産生するクローン1および2について使用した(Cellvento(登録商標)プラットホーム)。細胞を320rpmの揺動速度で培養し、および3、5、10、12および14日目に3%体積のCellvento(登録商標)4Feed(v/v)を用いて、および7日目に6%(v/v)のフィードを用いて供給した。mAb3および融合タンパク質を産生するクローン3および4を、30mLのEx-Cell(登録商標)Advanced Media(pH7.2±0.1)中に同じ細胞密度で播種した一方で、揺動を230rpmにセットした。クローン3および4を、3、5、7、10、12、14および17日目に5%のEx-Cell(登録商標)Advanced Feed(v/v)を用いて供給した。フィードを、400μMの5-チオ-L-フコース、400μMのアセチル化5-チオ-L-フコース、陽性対照として400μMのアセチル化2F-フコースまたは両方のアセチル化フコース類似体について溶媒として使用された夫々の量のDMSO(1.17%)のいずれかで補充した。すべてのCellvento(登録商標)のフィードのpHを7.0±0.1に調節し、およびEx-Cell(登録商標)のフィードを8.5±0.1に調節した。
【0086】
グルコースレベルは、要求に応じて週内は6g/Lまで、および週末にわたっては13g/Lまでの特定の量の400g/Lグルコースストック溶液を添加することによって4g/L超を維持した。グルコースおよび力価を、分光光度法および比濁法に基づいて、バイオプロセス分析器CEDEX Bio HT(Roche、Mannheim、Germany)を用いて、上清において検出した。生細胞密度(VCD)および生存率を、Vi-CELL(商標)XR 2.04セルカウンター(Beckman Coulter、Fullerton、CA、USA)を用いて評価した。
一般に、5-チオ-L-フコース処理を、いずれの添加物も含まない対照条件と比較した。アセチル化5-チオ-L-フコースを既知の陽性対照である2F-ペルアセチルフコースおよび両方のアセチル化フコース類似体の溶解に使用されたDMSO対照と比較した。
【0087】
図2~5に示されるとおり、4つの生物学的複製内で、アセチル化の有無にかかわらず5-チオ-L-フコース処理は、2つの対照条件および陽性対照と比較すると、これらの4つの調査されたCHO細胞株の細胞の性能(VCDおよび力価)に対して有意な影響がないことを示した。わずかな変化をmAb2およびmAb3についての両方のプラットフォームにおいて検出した。mAb2の産生は、補充されなかった対照と比較して、すべての条件において12日後にわずかに低減した力価をもたらした。17日目に、対照における2.18g/Lの力価を、5-チオ-L-フコース処理およびDMSO対照を用いて、夫々2.02g/Lおよび1.99g/Lまで低減させた。陽性対照である2F-ペルアセチルフコース(1.78g/L)と同様のレベルの1.82g/Lへのさらなる低減は、アセチル化5-チオ-L-フコースを用いて検出された。両方のペルアセチル化フコース類似体がDMSOに溶解されたため、力価の低減は、部分的には溶媒に起因する。
【0088】
mAb3の産生について、5-チオ-L-フコースおよびアセチル化5-チオ-L-フコースについて17日目までの曲線下面積を算出することによって、約13%および24%の低減したVCDが検出された(対照と比較して)。DMSO対照は、13%の同様の低減を示し、そのことはアセチル化5-チオ-L-フコースの溶媒が、VCDのさらなる低減を導いた可能性が高いことを指し示した。低減したVCDが力価に影響を与えなかった(2.25g/L~2.33g/L)ため、それは実験の生物学的変動性内であると探求される。
【0089】
例2:5-チオ-L-フコースは、グリカン構造内に組み込まれる
対照の流加において産生された組換えタンパク質のグリコシル化プロファイルを、フコース類似体を補充した流加プロセスにおいて得られたプロファイルと比較した。抗体を、プロテインA PhyTips(登録商標)(PhyNexus Inc、San Jose、CA)を使用して細胞培養上清から精製した。
【0090】
グリコシル化パターンを、質量分析計と連結した超高速液体クロマトグラフィー(UPLC-MS)によって分析した。精製された抗体を変性させて、およびグリカンをペプチドN-グリコシダーゼF(PNGase F)を用いて消化することにより抗体から放出させ、これに続き製造業者のプロトコルに従いGlycoWorks(商標)RapiFluor-MS(商標)N-Glycanキットを用いてグリカンを標識化した。分析のために、それらの疎水性に従ってグリカンを分離するUPLCグリカンカラム(2.1×150mm)を使用した。クロマトグラフィーを、45℃で50mMのギ酸アンモニウム(A)、pH4.4溶液およびアセトニトリル(B)勾配を使用して実施した。詳しくは、流速0.5ml/minで当初はA:Bの比率は20:80(0min)であり、および3minで27:73に、および35minで37:63に変化した。36.5minから39.5minまでは移動相としてAのみが使用され、および流速を0.2ml/minに低減した。続いて、比率を20%A:80%Bに変化させ、および流速を43.1minで55minでのプロセスの終了まで0.5ml/minに増大させた。検出を、265nmの励起波長および425nmの放射波長を用いて蛍光検出器により実施した。グリカン構造の同定を、30s毎に標準物質で校正される、ポジティブのエレクトロスプレーイオン化法(ESI)を使用したMSにより実施した。
【0091】
非天然の5-チオ-L-フコースを含有するグリカンを、保持時間のシフト、質量のシフトおよび断片化パターンを通して同定した。約+16Daの質量のシフトは、フコース(164.0684g/mol)内の環酸素の5-チオ-L-フコース誘導体について180.0455g/molの理論上の質量を導くチオ-L-フコース誘導体内の硫黄との交換によって引き起こされる。この質量は、180.0633g/molのガラクトースの質量と同様であるが、より高い分解能の質量分析計(115ppmの質量差)によって区別され得る。
【0092】
さらにまた、フラグメントスペクトルをLC-MS/MSを使用して得た。チオフコースを含有するグリカンの断片化パターンは、夫々のフコシル化グリカン断片化パターンと同様であるが、フコースを含有するグリカンフラグメント毎に異なる。例えば、Rapifluor-GlcNAc-Fucフラグメントは、理論上の質量の679.3304g/molを提示するが、Rapifluor GlcNAc-チオFucは、理論上の質量の695.3076g/molを提示する。差は、糖構造の明確な同定を可能にする(
図6、A フコシル化G0F、B チオフコシル化G0チオFおよびC G1断片化パターン)。
【0093】
加えて、チオフコシル化グリカンの保持時間は、フコシル化グリカンと区別され得る。
図7において、800μMの5-チオ-L-フコースで処理されたmAbについての蛍光ピークの保持時間の模範的なシフトが示される。チオフコシル化されたG0Fピークを17.19minで検出したが、G0ピークの溶離が17.38minで生じる。22.81および23.51minでの両方のフコシル化G1Fアイソフォームの保持時間と比較して、チオフコシル化G1Fアイソフォームピークの分離は、20.88および21.52minで観察され得る。概して、このデータは、グリカン構造中の5-チオ-L-フコースによるコアフコシル化の置き換えを確認する。
図7は、放出された、標識化グリカンの分離後にUPLCを使用して得られた蛍光シグナルを示し、フコシル化グリカンと比較して、チオフコシル化グリカンに対応するピークの保持時間の変化を示す。
【0094】
例3:5-チオ-L-フコースは、5-チオ-L-フコースの組み込みを通してフコシル化を低減し得る。
一般的な流加プロセスを、グリコシル化プロファイルに対する5-チオ-L-フコースの効果を決定するために使用した。3つの異なるモノクローナル抗体(mAb)および融合タンパク質を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の4つの異なるクローンを試験した。細胞を、スピンチューブ内で14と20日との間37℃、5%CO2、および80%湿度で培養した。出発する細胞密度として、30mLのCellvento(登録商標)4CHO培地(pH7.0±0.1)中3x105細胞/mLを、夫々mAb1およびmAb2を産生するクローン1および2について使用した(Cellvento(登録商標)プラットホーム)。細胞を320rpmの揺動で培養し、および3、5、10、12および14日目に3%体積のCellvento(登録商標)4Feed(v/v)を用いて、および7日目に6%(v/v)のフィードを用いて供給した。mAb3および融合タンパク質を産生するクローン3および4を、30mLのEx-Cell(登録商標)Advanced Media(pH7.2±0.1)中に同じ細胞密度で播種した一方で、揺動を230rpmにセットした(Ex-Cell(登録商標)プラットホーム)。クローン3および4を、3、5、7、10、12、14および17日目に5%のEx-Cell(登録商標)Advanced Feed(v/v)を用いて供給した。フィードを、400μMの5-チオ-L-フコース、400μMのアセチル化5-チオ-L-フコース、陽性対照として400μMのアセチル化2F-フコースまたは両方のアセチル化フコース類似体について溶媒として使用された夫々の量のDMSO(1.17%)のいずれかで補充した。すべてのCellvento(登録商標)のフィードのpHを7.0±0.1に調節し、およびEx-Cell(登録商標)のフィードを8.5±0.1に調節した。グルコースレベルは、要求に応じて週内は6g/Lまで、および週末にわたっては13g/Lまでの特定の量の400g/Lグルコースストック溶液を添加することによって4g/L超を維持した。グルコースおよび力価を、分光光度法および比濁法に基づいて、バイオプロセス分析器CEDEX Bio HT(Roche、Mannheim、Germany)を用いて、上清において検出した。
【0095】
流加実験の間のグリコシル化プロファイルを調査するために、試料を遠心分離して、および抗体およびFc-融合タンパク質を、プロテインA PhyTips(登録商標)(PhyNexus Inc、San Jose、CA)を使用して細胞培養上清から精製した。グリコシル化パターンを、GlycoWorks(商標)RapiFluor-MS(商標)N-Glycanキットを使用して質量分析計と連結した超高速液体クロマトグラフィー(UPLC-MS)に説明されるとおり分析した。
【0096】
一般に、アセチル化の有無にかかわらず5-チオ-L-フコース処理を、いずれの添加物も含まない対照条件、既知の陽性対照である2F-ペルアセチルフコースおよび両方のアセチル化フコース類似体を溶解するために使用されたDMSO対照と比較した。12日目の組換え産生されたタンパク質の採取が一般的であるため、12日目のグリコシル化プロファイルを視覚化した。グリカンの定量化を、蛍光シグナルの相対ピーク面積を使用して得た。ほとんどすべてのピークが、それらの質量に従ったグリカン構造にあてがわれた。未知のグリカン構造および質量検出のないシグナルを未知の種として要約した(示さず)。
【0097】
3つの異なるモノクローナル抗体(mAb)および融合タンパク質を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の4つの異なるクローンを試験した。コアフコシル化は、異なる組換えタンパク質を産生するすべての試験された細胞株において5-チオ-L-フコース処理を通して効率的に低減された。
【0098】
5-チオ-L-フコースによってクローン1において産生されたmAb1のフコシル化の低減は、フコース類似体の高い組み込みを通して達成された。アセチル化の有無にかかわらず400μMの5-チオ-L-フコースの添加は、対照における94%のコアフコシル化グリカンと比較して、12日目に約26%までのコアフコシル化グリカンの低減をもたらした(
図8A)。同じ濃度のアセチル化2F-フコース(フコシル化を低減する既知のフコース類似体)の添加は効率が悪く、12日目に36%のコアフコシル化を導いた。アセチル化2F-フコースとは対照的に、5-チオ-L-フコースによるネイティブなフコシル化の低減は、アセチル化を問わず、グリカンの約70%への5-チオ-L-フコースの高い組み込みを通して達成された。アフコシル化は、対照および5-チオ-L-フコースについての5%と比較して、12日目にアセチル化2F-フコースによって60%までのみ増大した。
【0099】
mAb2の産生は、対照における77%のフコシル化と比較して、アセチル化の有無にかかわらず5-チオ-L-フコース処理後12日目に8%のコアフコシル化をもたらした(
図8B)。5-チオ-L-フコース処理に応じてアフコシル化レベルが変化しなかったmAb1とは対照的に、mAb2のフコシル化の低減は、5-チオ-L-フコースを32%組み込むことにより、60%のアフコシル化を達成した(対照条件における20%と比較して)。既知の陽性対照は、アフコシル化を78%まで増大させることにより12日目に14%のフコシル化レベルを達成した。
【0100】
既知のフコース類似体であるアセチル化2F-フコースと比較した同じ量のアフコシル化は、mAb3を発現するクローン3によってのみ達成され、12日目に約34%のアフコシル化を導いた(
図8C)。5-チオ-L-フコースは43%組み込まれて、12日目に対照における90%および陽性対照における65%と比較して、21%低いフコシル化レベルを導いた。
【0101】
mAb2についてのものと同様のグリコシル化パターンが、12日目のクローン4において産生された融合タンパク質について観察された(
図8D)。対照と比較して、コアフコシル化は、アセチル化の有無にかかわらず5-チオ-L-フコース処理を介して約63%低減された。両方について、5-チオ-L-フコースの組み込みは、グリカンの39%において観察され、および52%がアフコシル化された。陽性対照は、フコース類似体の検出可能な組み込みなしに82%のアフコシル化に到達した。
【0102】
概して、12日目にmAb2、融合タンパク質、mAb3およびmAb1について夫々約32%、39%、43%、および70%の組み込まれた5-チオ-L-フコースの量の増大が検出された。
mAb1、mAb3、融合タンパク質およびmAb2について約5%、34%、52%および60%のフコシル化の量の増大が検出された。
【0103】
図8は、(A)mAb1、(B)mAb2、(C)mAb3および(D)融合タンパク質、を産生するCHO細胞株を使用したフコシル化プロファイルに対する5-チオ-L-フコースの影響を示す。データは、12日目の2つの生物学的複製の平均値±SEMを表す。
【0104】
例4:プロセスへの5-チオ-L-フコースの添加は、2F-ペルアセチルフコースの添加と比較して、より速やかにフコシル化の低減を導く。
5-チオ-L-フコース補充が組換え産生されたタンパク質のグリコシル化プロファイルへ影響を与えるのに要する時間を特定するために、流加の間の種々の時点で採った試料を調査した。5、7、10、12および14日目の細胞生存率が60%超である試料を収集した。遠心分離後、抗体およびFc融合タンパク質を、プロテインAPhyTips(登録商標)(PhyNexus Inc、San Jose、CA)を使用して細胞培養上清から精製した。グリコシル化パターンを、GlycoWorks(商標)RapiFluor-MS(商標)N-Glycanキットを使用して質量分析計と連結した超高速液体クロマトグラフィー(UPLC-MS)によって記載されるとおりに分析した。
流加実験の間のグリカンプロファイルの初期調査は、5-チオ-L-フコースの高い効率を指し示した。5-チオ-L-フコース処理を用いたmAb1の産生は、7、10および12日目に対照と比較して夫々64%、68%および67%フコシル化の低減を示した。比較すると、既知のフコース類似体である、2F-ペルアセチルフコースの同じ濃度の添加は、7、10および12日目に、夫々11%、50%および58%の低減しか達成できなかった。このことは、既知のインヒビターである2F-ペルアセチルフコースと比較して5-チオ-L-フコースのより高い効率を指し示す。
【0105】
流加におけるより早い5-チオ-L-フコースの影響を検出するために、mAb3の5日目のグリコシル化プロファイルを加えて調査した。5日目に400μMの5-チオ-L-フコース処理を用いて得られた検出されたフコシル化レベルは、既に約48%という低いレベルであったが、400μMのアセチル化2F-フコースは、5日目に約84%のフコシル化をもたらし、これは対照において検出された87%のフコシル化と同様のレベルであった。7、10、12および14日目に対照のフコシル化レベルは、87%と90%との間で一定であったが、5-チオ-L-フコース処理は、コアフコシル化を夫々、約34%、25%、21%、および18%まで低減させた。比較すると、既知のインヒビターであるアセチル化2F-フコースは、7、10、12および14日目に、夫々約78%、72%、65%、および57%までしかフコシル化レベルの低減を示さなかった。したがって、5-チオ-L-フコースは、バッチまたは灌流プロセスのような短い培養時間での適用についても同様に好ましいであろう。加えて、プロセスを通して添加されるフコース誘導体の必要量を低減するため、またはフコシル化レベルを滴定するために、量の低減または種々の供給体制が適用されてもよい。
【0106】
図9は、(A)mAb1または(B)mAb3を産生する流加実験の間の5-チオ-L-フコースの加速された効果を示す。データは、2つの生物学的複製の平均値±SEMを表す。
【0107】
例5:5-チオ-L-フコースの濃度の増大は、より高い組み込みへと導く。
流加の間の5-チオ-L-フコースの添加を通した種々のフコシル化レベルを達成する能力を、2つのプラットホームおよびmAb1またはmAb3のいずれかを産生する2つの異なるクローンを用いて調査した。
細胞を、スピンチューブ内で14と20日との間37℃、5%CO2、および80%湿度で培養した。出発する細胞密度として、30mLのCellvento(登録商標)4CHO培地(pH7.0±0.1)中3×105細胞/mLを、mAb1を産生するクローン1について使用したCellvento(登録商標)プラットホーム)。細胞を、320rpmの揺動で培養し、および3、5、10、12および14日目に3%体積のCellvento(登録商標)4Feed(v/v)を用いて、および7日目に6%(v/v)のフィードを用いて供給した。mAb3を産生するクローン3を、30mLのEx-Cell(登録商標)Advanced Media(pH7.2±0.1)中に同じ細胞密度で播種した一方で、揺動を230rpmにセットした(Ex-Cell(登録商標)プラットホーム)。クローン3を、3、5、7、10、12、14および17日目に5%のEx-Cell(登録商標)Advanced Feed(v/v)を用いて供給した。
【0108】
フィードを、増大する濃度の5-チオ-L-フコース、アセチル化5-チオ-L-フコース、またはアセチル化5-チオ-L-フコースについて溶媒として使用された夫々の量のDMSO(1.17%)で補充した。すべてのCellvento(登録商標)のフィードのpHを、7.0±0.1に調節し、およびEx-Cell(登録商標)のフィードを8.5±0.1に調節した。グルコースレベルは、要求に応じて週内は6g/Lまで、および週末にわたっては13g/Lまでの特定の量の400g/Lのグルコースストック溶液を添加することによって4g/L超を維持した。グルコースおよび力価を、バイオプロセス分析器CEDEX Bio HT(Roche、Mannheim、Germany)を用いて、上清において検出した。
【0109】
mAb1を産生するクローン1を用いた用量応答を、200、400および800μMのアセチル化5-チオ-L-フコースで実施した(
図10A)。グリコシル化プロファイルを、7、10および12日目に調査した。少ない変化しか経時的に検出されなかったため、産生されたIgGのグリカン構造は、3つすべての日の平均値として表される。データは、200μM、400μMおよび800μMのアセチル化5-チオ-L-フコースの添加によって、夫々50%から81%および87%まで非天然のフコース類似体の組み込みが増大したことを指し示した。それによって、フコシル化レベルを、両方の対照条件(アセチル化5-チオ-L-フコースの溶媒として1.17%のDMSOを包含する)における96%のフコシル化と比較して、46%、16%および9%低減した。
【0110】
さらにまた、5-チオ-L-フコースの濃度を増大させる影響を、mAb3を産生するクローン3に対して調査した。50μMから800μMまでの5-チオ-L-フコースの濃度は、5-チオ-L-フコースの組み込み量の増大ならびにアフコシル化の量の増大を算出した。最も高い適用濃度である800μMの5-チオ-L-フコースは、約36%のアフコシル化および約48%のフコース類似体の組み込みをもたらし、12日目に約15%のネイティブなフコシル化グリカンの残存を導いた。その結果として、800μMの5-チオ-L-フコースの添加は、対照と比較して、12日目に約75%のフコシル化の低減を可能とした。400μM、200μMおよび50μMまでの5-チオ-L-フコースの濃度の段階的な低減は、12日目に夫々約44%、36%および11%のフコース類似体の組み込みをもたらした。このデータは、5-チオ-L-フコースの組み込み量は、濃度の慎重な選択によって標的化し得ることを指し示す。
【0111】
図10は、グリコシル化プロファイルに対する5-チオ-L-フコースの用量応答を示す。(A)mAb1を産生するCHO細胞株に対するアセチル化5-チオ-L-フコースの影響。データは、7、10および12日目の平均値±SEMを表す。(B)mAb3を産生するCHO細胞株に対する5-チオ-L-フコースの影響。データは、12日目の2つの生物学的複製の平均値±SEMを表す。
【0112】
例6:FcγRIIIa結合に対する5-チオ-L-フコース処理の影響
この部分の目的は、チオフコースを含有するプロセスにおいて産生された抗体が、FcyRIIIaに高い結合親和性を提示し、およびよってADCCが潜在的に増大するか否かを調査することにある。
実に、アフコシル化抗体のFcyRIIIaへの結合の増大、およびそれによってADCC活性が増強されることは、文献に記載されている。位置158におけるフェニルアラニン(F158)またはバリン(V158)残基のいずれかでFcγRIIIaの2つのアイソフォームが知られている。後者のアイソフォームは、Fアイソフォームと比較してIgG1への親和性がより高いことが報告されており、およびこれらの研究のために使用された。
【0113】
5-チオFuc処理後の試料の結合を、Biacore T200システム(GE Healthcare、Uppsala、Sweden)を使用した表面プラズモン共鳴技術により調査した。分析温度を25℃に、および試料区画温度を15℃にセットした。GE HealthcareからのHis capture Kitを使用し、S Sensor Chip CM5シリーズを使用して、アクティブおよび参照フローセルにおいて製造業者の指示に従い、抗His抗体を連結した。すべての実験について、固定化レベルを12185±436レゾナンスユニット(RU;1RU≒1pg/mm2)の範囲とした。さらに抗His抗体を使用して、AcroBiosystems(Newark、DE、USA)からのHisタグのついたFcγRIIIa V176(CD8-H52H4)を捕捉した。受容体をHEK293細胞において発現させ、および0.011μg/mLを10μL/minの流速で60sの間に注入して、4.5±0.2RUの補足レベルをもたらした。続いて、mAb3を、参照およびアクティブフローセルの両方にわたり、1.9から、5.6、16.7、50、150および450nMの範囲の5つの増大する濃度で、30μL/minの流速にて150sの間注入した。結合は絶えず記録され、非特異的な結合および注射アーチファクトは自動的に差し引かれた。単一サイクル反応速度論を、30μL/minの流速にて600sの解離時間で使用した。データ収集率を10Hzで実施した。各実験後、キットの指示に従って両方のフローセルを10mMのグリシン-HCl pH1.5を用いて30sの間再生させた。3つの技術的複製および2つの生物学的複製のデータを、1:1結合モデルでフィッティングさせた。グローバル解離定数KDは、解離についての運動速度定数(kd)と会合についての運動速度定数(ka)の値の比率から決定された。データを、対照と比較した倍数変化として表1に提示した。
【0114】
増大した濃度の5-チオ-L-フコースで処理した細胞は、FcγRIIIaへの親和性が増大した抗体を産生した。50μMの5-チオ-L-フコースまたは400μMの2F-PerAcFucのいずれかで処理して5日目からの試料は、対照と比較して1.2および1.3倍増強した結合を達成した。200、400および800μMの5-チオ-L-フコースで処理した試料は、5日目に、対照と比較して、夫々2.0、2.9および2.6倍増大した親和性を示した。後の時点で、FcγRIIIaへの親和性の増大は、すべての処理された試料について観察された。12日目に、2.0、3.1、3.8および4.8倍の親和性の増大が、夫々50、200、400および800μMの5-チオ-L-フコース処理で検出された。対照および処理された抗体の同じ一連の濃度の注入から生じるセンサーグラム(
図11)は、12日目に対照と比較して、5-チオ-L-フコースで処理した抗体のより高い応答を通したより高い親和性を例証する。加えて、400μMの5-チオ-L-フコースでの処理は、既知のインヒビターである、400μMの2F-PerAcFucと比較してわずかに高い結合親和性を示し、このことは3.6倍の親和性の増大を導いた。14日目に処理された試料は、12日目と比較して、同様のグリコシル化パターンに起因して、同様のKD値を示した。5-チオ-L-フコース処理を通して1.7、3.6、4.1および4.5倍に増強された結合は、夫々50、200、400および800μMで検出された。
【0115】
表1:5(A)、12(B)および14日目(C)のFcγRIIIaへのmAb3の親和性に対する5-チオ-L-フコース処理の影響。データは、2つの生物学的複製を表す。
【表2】
【表3】
【表4】
【0116】
図11は、12日目のmAb3対照(黒色)または5-チオ-L-フコース処理されたmAb3(灰色)へのFcγRIIIaの結合の重ね書きプロットを示す。センサーグラムは、捕捉されたFcγRIIIaへの6から486nmまでの一連の濃度の結合レベルを示す(n=3)。すべてのセンサーグラムは、二重に参照された。