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特許7699285状態監視装置、ポンプ、状態監視プログラム、状態監視方法、および周波数帯設定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-18
(45)【発行日】2025-06-26
(54)【発明の名称】状態監視装置、ポンプ、状態監視プログラム、状態監視方法、および周波数帯設定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20250619BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024225731
(22)【出願日】2024-12-20
【審査請求日】2024-12-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】田中 琢也
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-505310(JP,A)
【文献】特許第7138817(JP,B1)
【文献】特許第7500892(JP,B1)
【文献】特開2017-142153(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2024/0337180(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0199480(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
F04D 1/00-13/16
F04D 17/00-19/02
F04D 21/00-25/16
F04D 29/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプのモータのステータに対するロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルから出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する状態監視装置であって、
複数の前記検出コイルは、
前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、
前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、
前記検出信号が合成される一対の前記検出コイル、
を含み、
一対の前記検出コイルそれぞれは、前記ロータのスラスト方向において同じ位置、および、前記ロータの周方向において異なる位置、に配置されて、
一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が差分を得るように合成された第1合成信号と、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が重畳されるように合成された第2合成信号と、のうち、少なくとも一方を、経時的に取得する取得部と、
前記取得部に取得された信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成するスペクトル生成部と、
前記監視対象に対して予め設定されている少なくとも1個の監視周波数帯と、前記監視スペクトルの比較対象となる基準スペクトルと、を記憶する記憶部と、
前記監視周波数帯における、最新の前記監視スペクトルと、前記基準スペクトルと、の比較に基づいて、前記監視周波数帯に対応する前記監視対象の前記状態が正常か異常かを判定する判定部と、
を有してなる、
状態監視装置。
【請求項2】
複数の前記検出コイルは、
一対の前記検出コイルとして機能して、前記第1合成信号の基となる前記検出信号を出力する一対の第1検出コイルと、
一対の前記検出コイルとして機能して、前記第2合成信号の基となる前記検出信号を出力する一対の第2検出コイルと、
を含み、
前記第1検出コイルは、前記第2検出コイルとは異なる位置に配置されて、
前記取得部は、前記第1合成信号と前記第2合成信号とを経時的に取得して、
前記監視スペクトルは、
前記第1合成信号に前記FFT処理が実行されて生成された第1監視スペクトルと、
前記第2合成信号に前記FFT処理が実行されて生成された第2監視スペクトルと、
を含み、
前記基準スペクトルは、
前記第1監視スペクトルの比較対象となる第1基準スペクトルと、
前記第2監視スペクトルの比較対象となる第2基準スペクトルと、
を含む、
請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記監視対象の仕様に基づいて設定されたパラメータに基づいて、前記監視対象ごとに理論監視周波数帯を算出する理論監視周波数帯算出部と、
前記ポンプに設定される前記ロータの設定回転数と、前記ポンプが動作しているときに測定された前記ロータの測定回転数と、に基づいて、補正値を算出する補正値算出部と、
前記理論監視周波数帯を前記補正値で補正をして、前記監視周波数帯を算出する補正部と、
を有してなる、
請求項1または2に記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記取得部は、所定のサンプリング周波数で前記信号を取得して、
前記サンプリング周波数は、前記ロータのロータバーに流れる誘導電流により発生する磁束の変化に対応するロータ回転成分周波数の2倍以上に設定されて、
前記補正値算出部は、
前記監視スペクトルに基づいて、前記測定回転数により定まる前記ロータ回転成分周波数を取得して、
前記設定回転数により定まる理論上の前記ロータ回転成分周波数と、前記測定回転数により定まる前記ロータ回転成分周波数と、に基づいて、前記補正値を算出する、
請求項3に記載の状態監視装置。
【請求項5】
前記基準スペクトルは、経時的に生成された前記監視スペクトルのうち、いずれか1個の前記監視スペクトルであり、
前記判定部は、前記監視周波数帯における、ピークスペクトルの位置、強度または形状のうち、少なくとも1種に基づいて、前記状態を判定する、
請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項6】
前記監視スペクトルは、
前記ポンプの駆動電源の駆動周波数を示す電源ピークと、
前記監視対象ごとに定まる監視周波数を示す監視ピークと、
を含み、
前記監視ピークの基本波周波数が、前記電源ピークの基本波周波数を中心とする所定周波数範囲内に位置しているとき、前記監視対象の前記監視周波数帯は、前記監視ピークのn次(nは3以上の整数)の高調波周波数が、前記電源ピークのn次の高調波周波数を中心とする前記所定周波数範囲外に位置する、n次の高調波のスペクトルのピークに基づいて、設定される、
請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項7】
前記監視対象は、
前記モータの回転軸、
および/または、
前記回転軸に当接して、前記回転軸の回転に応じて位置が周期的に変位する変位部材と、
を含む、
請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項8】
前記第1合成信号と前記第2合成信号とのうち、少なくとも一方に所定の信号処理を実行する信号処理部、
を有してなり、
前記取得部は、前記信号処理後の前記第1合成信号と、前記信号処理後の前記第2合成信号と、のうち、少なくとも一方を、経時的に取得する、
請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項9】
前記信号処理は、フィルタ処理と、絶対値化処理と、包絡線化処理と、微分処理と、を含む、
請求項8に記載の状態監視装置。
【請求項10】
ポンプのモータのステータに対するロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する1個の検出コイルのみから出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する状態監視装置であって、
前記検出コイルは、
前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、
前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、
前記検出信号を経時的に取得する取得部と、
前記取得部に取得された前記検出信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成するスペクトル生成部と、
前記監視対象に対して予め設定されている少なくとも1個の監視周波数帯と、前記監視スペクトルの比較対象となる基準スペクトルと、を記憶する記憶部と、
前記監視周波数帯における、最新の前記監視スペクトルと、前記基準スペクトルと、の比較に基づいて、前記監視周波数帯に対応する前記監視対象の前記状態が正常か異常かを判定する判定部と、
を有してなる、
状態監視装置。
【請求項11】
ロータと、前記ロータを回転させるステータと、前記ロータと共に回転する回転軸と、を備えるモータと、
前記回転軸を支持する軸受と、
前記ステータに対する前記ロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する少なくとも1個の検出コイルと、
前記検出コイルの検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する、請求項1または10に記載の状態監視装置と、
を有してなる、
ポンプ。
【請求項12】
コンピュータを、請求項1または10に記載の状態監視装置として機能させる、
状態監視プログラム。
【請求項13】
ポンプのモータのステータに対するロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルから出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する状態監視装置により実行される状態監視方法であって、
複数の前記検出コイルは、
前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、
前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、
前記検出信号が合成される一対の前記検出コイル、
を含み、
前記状態監視装置は、
前記監視対象に対して予め設定されている少なくとも1個の監視周波数帯と、基準スペクトルと、を記憶する記憶部、
を備えて、
前記状態監視方法は、
前記状態監視装置が、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が差分を得るように合成された第1合成信号と、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が重畳されるように合成された第2合成信号と、のうち、少なくとも一方を、経時的に取得する信号取得ステップと、
前記状態監視装置が、前記信号取得ステップで取得された信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成する監視スペクトル生成ステップと、
前記状態監視装置が、前記監視周波数帯における、最新の前記監視スペクトルと、前記基準スペクトルと、の比較に基づいて、前記監視周波数帯に対応する前記監視対象の前記状態が正常か異常かを判定する判定ステップと、
を含む、
状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態監視装置、ポンプ、状態監視プログラム、状態監視方法、および周波数帯設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプは、工場やプラントなどで液体を送液するために、比較的長期間にわたり使用される。そのため、ポンプの構成部材、特に、回転する部材(例えば、軸受など)には、負荷が長期間加えられる。これらの部材が破損すると、ポンプの稼働が停止する。そのため、これらの部材の状態の監視は、重要である。ポンプの部材の状態の監視装置として、軸受の摩耗状態を電気的に監視する装置が、知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第7138817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている装置は、ステータの端部に取り付けられた検出コイルの検出信号を用いて、ロータの回転時の磁束変化を測定することにより、軸受の摩耗により生じる、ラジアル方向およびスラスト方向におけるステータに対するロータの位置関係の変位を測定している。この変位は、軸受の摩耗量に対応している。そのため、同装置は、軸受の摩耗量を正確に監視できる。本願の発明者は、この検出信号を用いることにより、ステータに対するロータの位置の周期的な変位(すなわち、振動)として現れる部材(監視対象)の状態であれば、軸受の摩耗量以外においても監視可能であるとの発想に至った。
【0005】
本発明は、ロータの位置の周期的な変位として現れるポンプの監視対象の状態を監視可能な状態監視装置、ポンプ、状態監視プログラム、状態監視方法、および周波数帯設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様における状態監視装置は、ポンプのモータのステータに対するロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルから出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する状態監視装置であって、複数の前記検出コイルは、前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、前記検出信号が合成される一対の前記検出コイル、を含み、一対の前記検出コイルそれぞれは、前記ロータのスラスト方向において同じ位置、および、前記ロータの周方向において異なる位置、に配置されて、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が差分を得るように合成された第1合成信号と、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が重畳されるように合成された第2合成信号と、のうち、少なくとも一方を、経時的に取得する取得部と、前記取得部に取得された信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成するスペクトル生成部と、前記監視対象に対して予め設定されている少なくとも1個の監視周波数帯と、前記監視スペクトルの比較対象となる基準スペクトルと、を記憶する記憶部と、前記監視周波数帯における、最新の前記監視スペクトルと、前記基準スペクトルと、の比較に基づいて、前記監視周波数帯に対応する前記監視対象の前記状態が正常か異常かを判定する判定部と、を有してなる。
【0007】
本発明の一実施態様における状態監視装置は、ポンプのモータのステータに対するロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する1個の検出コイルのみから出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する状態監視装置であって、前記検出コイルは、前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、前記検出信号を経時的に取得する取得部と、前記取得部に取得された前記検出信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成するスペクトル生成部と、前記監視対象に対して予め設定されている少なくとも1個の監視周波数帯と、前記監視スペクトルの比較対象となる基準スペクトルと、を記憶する記憶部と、前記監視周波数帯における、最新の前記監視スペクトルと、前記基準スペクトルと、の比較に基づいて、前記監視周波数帯に対応する前記監視対象の前記状態が正常か異常かを判定する判定部と、を有してなる。
【0008】
本発明の一実施態様におけるポンプは、ロータと、前記ロータを回転させるステータと、前記ロータと共に回転する回転軸と、を備えるモータと、前記回転軸を支持する軸受と、前記ステータに対する前記ロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する少なくとも1個の検出コイルと、前記検出コイルの検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する、上記の各実施態様に記載の状態監視装置と、を有してなる。
【0009】
本発明の一実施態様における状態監視プログラムは、コンピュータを、上記の各実施態様に記載の状態監視装置として機能させる。
【0010】
本発明の一実施態様における状態監視方法は、ポンプのモータのステータに対するロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルから出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する状態監視装置により実行される状態監視方法であって、複数の前記検出コイルは、前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、前記検出信号が合成される一対の検出コイル、を含み、前記状態監視装置は、前記監視対象に対して予め設定されている少なくとも1個の監視周波数帯と、基準スペクトルと、を記憶する記憶部、を備えて、前記状態監視方法は、前記状態監視装置が、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が差分を得るように合成された第1合成信号と、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が重畳されるように合成された第2合成信号と、のうち、少なくとも一方を、経時的に取得する信号取得ステップと、前記状態監視装置が、前記信号取得ステップで取得された信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成する監視スペクトル生成ステップと、前記状態監視装置が、前記監視周波数帯における、最新の前記監視スペクトルと、前記基準スペクトルと、の比較に基づいて、前記監視周波数帯に対応する前記監視対象の前記状態が正常か異常かを判定する判定ステップと、を含む。
【0011】
本発明の一実施態様における周波数帯設定方法は、ポンプのモータのステータに対するロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する少なくとも1個の検出コイルそれぞれの検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する状態監視装置により実行される前記監視対象の監視周波数帯の設定をする周波数帯設定方法であって、前記検出コイルは、前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、前記周波数帯設定方法は、前記状態監視装置が、前記監視対象の仕様に基づくパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、前記状態監視装置が、前記パラメータに基づいて、前記監視対象ごとに理論監視周波数帯を算出する理論監視周波数帯算出ステップと、前記状態監視装置が、前記ポンプが動作しているときに測定された前記ロータの測定回転数により定まるロータ回転成分周波数を取得する回転成分取得ステップと、前記状態監視装置が、前記ポンプに設定される前記ロータの設定回転数により定まるロータ回転成分周波数と、前記測定回転数により定まる前記ロータ回転成分周波数と、に基づいて、補正値を算出する補正値算出ステップと、前記状態監視装置が、前記理論監視周波数帯を前記補正値で補正をして、前記監視周波数帯を算出する補正ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ロータの位置の周期的な変位として現れるポンプの監視対象の状態を監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るポンプの実施の形態を示す、同ポンプの断面図である。
図2】本発明に係る状態監視装置の実施の形態を示す、状態監視装置の機能ブロック図である。
図3】上記状態監視装置の検出コイルの配置を示す、上記ポンプのステータコアの模式斜視図である。
図4図3のうち、A部の拡大斜視図である。
図5】上記検出コイルの検出信号の一例を示す模式図である。
図6】(a)上記状態監視装置により生成された監視スペクトルの一例を示す周波数特性図であり、(b)比較スペクトルの一例を示す周波数特性図である。
図7】上記状態監視装置に用いられる例外的な監視周波数帯を示す模式図である。
図8】上記状態監視装置の記憶部に記憶されている情報の一例を示す模式図である。
図9】上記記憶部に記憶されている別の情報の一例を示す模式図である。
図10】上記状態監視装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図11】上記動作に含まれる初期調整処理の一例を示すフローチャートである。
図12】上記動作に含まれる状態監視処理の一例を示すフローチャートである。
図13】(a)上記状態監視装置により生成された監視スペクトルの一例を示す周波数特性図であり、(b)比較スペクトルの一例を示す周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る状態監視装置(以下「本装置」という。)、ポンプ、状態監視プログラム(以下「本プログラム」という。)、状態監視方法(以下「本監視方法」という。)、および周波数帯設定方法(以下「本設定方法」という。)の実施の形態が、以下に説明される。以下の説明において、各図面は、適宜参照される。各図面において、同一の部材および要素については同一の符号が付されて、重複する説明は省略される。また、各要素の寸法比率は、説明の便宜上、誇張されている場合が有り、各図面に示されている比率に限定されない。
【0015】
以下の説明において、本発明に係るポンプの一例として、サブマージドポンプが説明される。同ポンプは、液化ガスが貯蔵されている貯蔵タンクに取り付けられていて、液化ガスを貯蔵タンクから外部へ送液する。すなわち、サブマージドポンプは本発明に係るポンプの一例であり、液化ガスは本発明における取扱液の一例である。
【0016】
以下の説明において、「下方」は重力方向であり、「上方」は下方の反対方向である。
【0017】
●ポンプ●
●ポンプの構成
先ず、本発明に係るポンプの構成が、説明される。
【0018】
図1は、本発明に係るポンプの実施の形態を示す、同ポンプの断面図である。
同図は、回転軸30(後述)の軸心に沿って切断されたポンプ1の切断面を示している。同図は、一部の部材を非断面で示している。
【0019】
ポンプ1は、貯蔵タンク(不図示。以下同じ。)内に貯蔵されている取扱液をポンプコラムC内へ吐出する。ポンプ1は、貯蔵タンクの天井から貯蔵タンク内に延設されているポンプコラムCの下部に収容されていて、取扱液に浸漬されている。ポンプ1の構成は、本装置4の有無を除き、公知のサブマージドポンプの構成と共通している。ポンプ1は、筐体2、モータ部3、本装置4、インペラ51,52、ディフューザ61,62を有してなる。ポンプ1は、本発明に係るポンプの一例である。
【0020】
筐体2は、モータ部3、インペラ51,52、およびディフューザ61,62を収容する。筐体2の形状は、上下方向に沿う略円筒状である。筐体2は、吸込口21および吐出口(不図示。以下同じ。)を備える。筐体2の下端部は、縮径されていて、吸込口21を形成している。
【0021】
モータ部3は、所定の駆動電圧・駆動周波数で駆動して、インペラ51,52を回転させる。モータ部3は、回転軸30、軸受31,32、ロータ33、およびステータ34を備える。
【0022】
回転軸30は、ロータ33の回転により回転して、回転動力をインペラ51,52に伝達する。回転軸30の形状は、上下方向に沿う円柱状である。回転軸30は、ロータ33に挿通されている。回転軸30の下部30aは、ロータ33から下方向に向けて延出されている。
【0023】
以下の説明において、「スラスト方向」は回転軸30の軸方向であり、「ラジアル方向」は回転軸30の半径方向であり、「周方向」は回転軸30の円周方向である。
【0024】
軸受31は、ロータ33の上方向に配置されていて、回転軸30を回転自在に支持している。軸受32は、ロータ33の下方向に配置されていて、回転軸30を回転自在に支持している。軸受31は、例えば、内輪31a、外輪31b、複数の転動体31c、および保持器(不図示。以下同じ。)を備える公知の転がり軸受である。軸受32は、例えば、内輪32a、外輪32b、複数の転動体32c、および保持器(不図示。以下同じ。)を備える公知の転がり軸受である。
【0025】
ロータ33は、ステータ34に生じる回転磁界により回転する。ロータ33の形状は、円筒状である。ロータ33は、周方向においてロータ33の外周縁部に等間隔で埋設されている複数(本実施の形態では28個)の棒状のロータバー33aを備える。軸受31,32が摩耗していないとき、ロータ33は、ステータ34に対して初期位置に配置されている。本実施の形態において、ラジアル方向において、「初期位置」は、ステータ34の中心とロータ33の中心とが一致している位置である。
【0026】
ステータ34は、ロータ33を回転させる回転磁界を生成する。ステータ34の形状は、略円筒状である。ステータ34は、ステータコア34a、および複数のモータ巻線34bを備える。
【0027】
ステータコア34aは、モータ巻線34bを保持する。ステータコア34aの形状は、円筒状である。ステータコア34aは、複数の歯部34c(図4参照。以下同じ。)を備える。
【0028】
歯部34cは、モータ巻線34bが挿通されるスロット34d(図4参照。以下同じ。)を形成している。周方向において、歯部34cは、ステータコア34aの内周縁部に等間隔で配置されている。モータ巻線34bは、スロット34dに挿通されていて、例えば、インバータなどの電源装置(不図示)に接続されている。
【0029】
本装置4は、ステータ34に対するロータ33の位置の周期的な変位(機械的な位置変化:すなわち、振動)に対応する磁束変化を検出することにより、監視対象の状態を監視する。本装置4の具体的な構成は、後述される。
【0030】
「監視対象」は、本装置4により状態が監視される対象(ポンプ1の構成部材)である。監視対象は、回転軸30、および、回転軸30に当接していて、回転軸30の回転に応じて、ステータ34に対する位置が周期的に変位する部材(以下「変位部材」という。)を含む。変位部材は、例えば、ロータ33、軸受31,32およびインペラ51,52である。監視対象は、より広義には、その状態がラジアル方向におけるロータ33の位置の周期的な変位として現れる部材を含む。例えば、監視対象が振動しているとき、同監視対象に異常(例えば、摩耗、破損、異物付着、機械的な負荷の増加など)が生じると、その振動は変化(例えば、周波数の変化、振幅の変化など)する。この振動がロータ33に伝達されると、その状態は、ラジアル方向におけるロータ33の位置の周期的な変位として現れる。
【0031】
「状態」は、正常と異常とを含む。
【0032】
回転軸30は、ロータ33が回転すると、ロータ33の回転数と同じ回転数で、周期的に変動(回転)する。回転軸30は軸受31,32に支持されていて、軸受31,32はラジアル方向において僅かに遊びを有している。また、回転軸30の形状は、円柱状であるが、誤差の無い真の円柱状ではない。したがって、回転軸30が回転するとき、回転軸30およびロータ33の位置は、これらが正常であっても、ラジアル方向に僅かに周期的に変位(振動)している。また、変位部材の位置は、回転軸30の回転に応じて周期的に変位している。この位置の周期的な変位は、回転軸30の振動、すなわち、ラジアル方向におけるロータ33の位置の周期的な変位として現れる。さらに、変位部材以外にも、ポンプ1の構成部材のうち、一部の部材の振動は、回転軸30を介してロータ33に伝達されて、ラジアル方向におけるロータ33の位置の周期的な変位として現れる。さらにまた、ポンプ1の構成部材ではなく、取扱液に生じるキャビテーションや圧力変動も、インペラ51,52および回転軸30を介してロータ33に伝達されて、ラジアル方向におけるロータ33の位置の周期的な変位として現れる。本装置4は、これらの周期的な変位(振動)をラジアル方向におけるロータ33の位置の周期的な変位として、検出コイルC1~C4(図2参照。)により検出できる。
【0033】
インペラ51,52は、回転軸30の下部30aに取り付けられている。インペラ51は、吸込口21の上方向に隣接して配置されている。インペラ52は、インペラ51の上方向に配置されている。
【0034】
ディフューザ61,62は、筐体2に取り付けられている。ディフューザ61は、インペラ51とインペラ52との間に、これらに隣接して配置されている。ディフューザ62は、インペラ52の上方向に、インペラ52に隣接して配置されている。
【0035】
●状態監視装置●
●状態監視装置の構成
次に、本装置4の構成が説明される。以下の説明において、図1は、適宜参照される。
【0036】
図2は、本装置4の実施の形態を示す、本装置4の機能ブロック図である。
【0037】
本装置4は、4つの検出コイルC1,C2,C3,C4、接続部40、信号処理部41a,41b、制御部42、記憶部43、および表示部44を備える。接続部40、信号処理部41a,41b、および制御部42は、例えば、マイクロコンピュータにより実現されている。
【0038】
なお、本発明において、モータ部3が検出コイルC1~C4を備えていてもよい。
【0039】
図3は、検出コイルC1~C4の配置を示す、ステータコア34aの模式斜視図である。
図4は、図3のうち、A部の拡大斜視図である。
【0040】
検出コイルC1~C4は、ラジアル方向におけるステータ34に対するロータ33の位置の変位(位置関係の変位、周期的な変位を含む)に対応する磁束変化を検出して、磁束変化を示す検出信号を出力する。検出コイルC1~C4の形状は、扁平なボビン状である。検出コイルC1~C4は、ラジアル方向におけるロータ33の位置の変位に対応する磁束変化を検出可能に、ステータ34の歯部34cの上下端部に形成されている切欠き34eに取り付けられている。
【0041】
周方向において、検出コイルC1,C2は、歯部34cの上端部(スラスト方向において同じ位置)に等角度間隔で取り付けられている。すなわち、周方向における検出コイルC1,C2の角度間隔は「180°」であり、検出コイルC1は検出コイルC2に対して向かい合うように配置されている。周方向において、検出コイルC3,C4は、歯部34cの下端部に等角度間隔で取り付けられている。すなわち、周方向における検出コイルC3,C4の角度間隔は「180°」であり、検出コイルC3は検出コイルC4に対して向かい合うように配置されている。すなわち、ラジアル方向(径方向)において、検出コイルC1,C3は、対応する検出コイルC2,C4と向かい合うように配置されている。
【0042】
なお、本発明において、検出コイルC2は、検出コイルC1と異なる位置に配置されていればよい。すなわち、例えば、周方向における検出コイルC1,C2の角度間隔は、「90°」でもよい。ここで、周方向における検出コイルC1,C2の角度間隔は、「90°」以上であるとよく、より好ましくは「180°」であるとよい。周方向における検出コイルC1,C2の角度間隔が「180°」のとき、後述のとおり、各検出信号の基本波成分は、逆位相となり、打ち消される。この関係は、検出コイルC3,C4にも同様に適用される。また、検出コイルC3,C4は、検出コイルC1,C2と異なる位置に配置されていればよい。
【0043】
図5は、検出信号の一例を示す模式図である。
【0044】
検出コイルC1~C4の検出信号は、モータ部3の主磁束の変化に対応する波形(以下「基本波成分」という。)、およびロータバー33aに流れる誘導電流により発生する磁束の変化に対応する波形(以下「高調波成分」という。)を含んでいる。基本波成分はモータ部3の駆動電源の駆動電圧により発生して、その周波数は駆動電圧の駆動周波数と同じである。高調波成分はロータバー33aに流れる誘導電流により発生して、その周波数は駆動周波数およびロータバー33aの数により定まる。すなわち、例えば、次の条件(駆動周波数:60Hz、ロータバー33aの数:28個)では、ロータ33が1回転する間に検出コイルC1~C4それぞれはロータバー33aによる磁束の変化を28回検出する。そのため、高調波成分の周波数は、「60Hz×28=1.68kHz」となる。このように、基本波成分の周波数は、駆動周波数に基づいて定まる。高調波成分の周波数は、駆動周波数、およびロータバー33aの数に基づいて定まる。ここで、モータ部3(ロータ33)の回転数は、駆動周波数に比例する。そのため、換言すれば、高調波成分の周波数は、ロータ33の回転数、およびロータバー33aの数に基づいて定まる。高調波成分の周波数は、本発明におけるロータ回転成分周波数の一例である。
【0045】
以下の説明において、図1図3が主に参照される。
検出コイルC1~C4は、ラジアル方向におけるロータ33の位置の変位(位置関係の変位、周期的な変位を含む)に対応する磁束変化を検出することにより、ラジアル方向におけるロータ33の位置の変位を検出する。検出コイルC1は、共通経路Lc1および検出コイルC2に電気的に接続されている。検出コイルC2は、接続部50を介して信号経路L11に電気的に接続されている。検出コイルC1,C2は、その検出信号の差分が得られるように(検出信号が打ち消し合うように)直列に接続されていて、本発明における一対の検出コイルとして機能している。検出コイルC3は、共通経路Lc2および検出コイルC4に電気的に接続されている。検出コイルC4は、接続部50を介して信号経路L12に電気的に接続されている。検出コイルC3,C4は、その検出信号が重畳するように直列に接続されていて、本発明における一対の検出コイルとして機能している。検出コイルC1,C2は、本発明における一対の第1検出コイルの一例である。検出コイルC3,C4は、本発明における一対の第2検出コイルの一例である。
【0046】
高調波成分の信号レベルは、ラジアル方向において、ロータ33が検出コイルC1~C4に近づくと増加して、ロータ33が検出コイルC1~C4から遠ざかると減少する。一方、基本波成分の信号レベルは、増減しない。このように、検出コイルC1~C4の検出信号は、ラジアル方向におけるロータ33の位置の変位に応じて変化する特性を有する。本発明は、この検出信号の特性を用いることにより、ラジアル方向におけるロータ33の位置の周期的な変位として現れる監視対象の状態を監視できる。
【0047】
ここで、例えば、ロータ33が検出コイルC1に近づいたとき、検出コイルC2の高調波成分の信号レベルの増加量は、周方向における検出コイルC1,C2の角度間隔が「90°」よりも小さくなるにつれて大きくなり、検出コイルC1の高調波成分の信号レベルの増加量に近づく。一方、検出コイルC2の高調波成分の信号レベルの減少量は、周方向における検出コイルC1,C2の角度間隔が「90°」よりも大きくなるにつれて大きくなり、検出コイルC1の高調波成分の信号レベルの増加量に近づく。この関係は、検出コイルC3,C4にも同様に適用される。
【0048】
検出コイルC1,C2それぞれの検出信号がその差分を得るように(打ち消し合うように)合成されると、その合成信号(以下「合成信号(S12)」という。)では、基本波成分は、打ち消される。また、高調波成分の信号レベルの差分値は、周方向における検出コイルC1,C2の角度間隔が「180°」に近づくにつれて増加する。この差分値は、変位量の増加に応じて増加する。本実施の形態では、周方向における検出コイルC1,C2の角度間隔は「180°」であるため、本装置4は、この差分値により、ロータ33の下部の位置のラジアル方向の変位量を検出可能である。ラジアル方向の変位量の検出方法は、公知である。そのため、その詳細な説明は、省略される。このように、検出コイルC1,C2は、合成信号(S12)の基となる検出信号を出力する。合成信号(S12)は、本発明における第1合成信号の一例である。
【0049】
一方、検出コイルC3,C4それぞれの検出信号が重畳するように(加算されるように)合成されると、その合成信号(以下「合成信号(S34)」という。)では、基本波成分は加算されて、その信号レベルは検出信号の基本波成分の信号レベルの約2倍となる。また、高調波成分の信号レベルの加算値は、周方向における検出コイルC3,C4の角度間隔が「180°」に近づくにつれて小さくなる。このように、検出コイルC3,C4は、合成信号(S34)の元となる検出信号を出力する。合成信号(S34)は、本発明における第2合成信号の一例である。
【0050】
接続部40は、検出コイルC2,C4が接続されているインターフェイスである。接続部40には、共通経路Lc1,Lc2、検出コイルC2,C4、および信号経路L11,L12が接続されている。共通経路Lc1,Lc2は、接続部40を介して、グラウンドに接続されている。
【0051】
信号処理部41a,41bは、各合成信号(S12,S34)に所定の信号処理(例えば、第1フィルタ処理、絶対値化処理、第2フィルタ処理、包絡線処理、微分処理、およびA/D変換処理)を実行する。信号処理部41a,41bは、例えば、第1フィルタ回路(例えば、バンドパスフィルタまたはローパスフィルタ)、絶対値化回路、第2フィルタ回路(例えば、ローパスフィルタ)、包絡線検波回路、微分処理、およびA/D変換回路を備える。信号処理部41aは、信号経路L11に接続されていて、合成信号(S12)に所定の信号処理を実行する。信号処理部41bは、信号経路L12に接続されていて、合成信号(S34)に所定の信号処理を実行する。
【0052】
ここで、各合成信号(S12,S34)は、位置の周期的な変位を示す信号である。同信号に微分処理が実行されることにより、微分処理後の信号は速度を示す信号となる。また、速度を示す信号にさらに微分処理が実行されることにより、微分処理後の信号は加速度を示す信号となる。それぞれの信号には得意とする振動現象や周波数帯が、ある。そのため、監視対象とする現象に合わせてこれらの処理が実行されることにより、監視対象の状態をより高精度に監視できる。
【0053】
制御部42は、本装置4全体の動作を制御する。制御部42は、例えば、CPU(Central Processing Unit)42aなどのプロセッサ、CPU42aの作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)42bなどの揮発性メモリ、および、本プログラムなどの各種情報を記憶するROM(Read Only Memory)42cなどの不揮発性メモリ、を備える。制御部42は、取得部420、スペクトル生成部421、第1算出部422、第2算出部423、補正部424、判定部425、および表示制御部426を備える。
【0054】
制御部42では、本プログラムが動作して、本プログラムが本装置4のハードウェア資源と協働して、後述される本監視方法を実現している。また、制御部42を構成しているプロセッサ(CPU42a)に本プログラムを実行させることにより、本プログラムは同プロセッサを取得部420、スペクトル生成部421、第1算出部422、第2算出部423、補正部424、および判定部425として機能させて、同プロセッサに本監視方法を実行させることができる。さらに、コンピュータに本プログラムを実行させることにより、本プログラムは、コンピュータを本装置4として機能させることができる。
【0055】
なお、本発明において、本プログラムは、記憶部43に記憶されていてもよい。また、本プログラムは、インストール可能なファイル形式、または、実行可能なファイル形式で非一時的な記憶媒体(例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリなど)に記憶されていて、専用の読み込み媒体を介して本装置4に提供されてもよい。
【0056】
取得部420は、信号処理後の各合成信号(S12,S34)を経時的に取得する。取得部420の具体的な動作は、後述される。
【0057】
スペクトル生成部421は、取得部420に取得された信号(合成信号(S12,S34))にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成する。スペクトル生成部421の具体的な動作は、後述される。
【0058】
「監視スペクトル」は、各合成信号(S12,S34)に含まれる各周波数成分の強度を示している。監視スペクトルは、基本波成分、高周波成分、および監視対象に対応する振動成分(例えば、回転周波数など)を含む。監視スペクトルの周波数の分解能は、スペクトル生成部421により、監視対象に合わせて、適宜変更されている。すなわち、同分解能は、監視対象に合わせて、適宜設定されている。このように、監視スペクトルの分解能を可変とすることにより、例えば、監視ピーク(後述)の位置(周波数)の位置ずれを判定したい監視対象の分解能は高分解能として、その判定が不要な監視対象の分解能は低分解能とする、などの分解能の使い分けが可能となる。その結果、演算負荷が必要最低限となり、メモリの使用量が削減可能となる。本実施の形態では、監視スペクトルは、合成信号(S12)に基づいて生成される第1監視スペクトルと、合成信号(S34)に基づいて生成される第2監視スペクトルと、を含む。
【0059】
図6(a)は本装置4により生成された監視スペクトルの一例を示す周波数特性図であり、(b)は比較例となるスペクトル(以下「比較スペクトル」という。)の一例を示す周波数特性図である。
同図(a)は、第1監視スペクトルを示している。同図(b)は、ポンプ1に取り付けられた加速度センサの信号にFFT処理を実行することにより得られた比較スペクトルを示している。
【0060】
図6(a)に示されるとおり、監視スペクトルでは、駆動周波数のピーク(以下「電源ピーク」という。)が強く現れている。特に、奇数次の高調波の電源ピークが強く現れていて、偶数次の高調波の電源ピークの強度は奇数次の高調波の電源ピークの強度の半分以下となっている。また、図6(a)(b)に示されるとおり、監視スペクトルでは、11次以上の奇数次の高調波の電源ピークも十分な強度を有している。一方、比較スペクトルでは、11次以上の高調波は、減衰していて、抽出可能な程度の強度を有していない。また、奇数次および偶数次の高調波の電源ピークの強度に傾向はみられない。監視スペクトルに現れている現象は、監視スペクトルが2個の検出コイルC1,C2の合成信号であることに起因している。図6(a)において、「fb1」は転動体31cの自転周波数の7次の高調波の監視ピークを示していて、「fb2」は転動体32cの自転周波数の7次の高調波の監視ピークを示している。一方、図6(b)には「fb1」「fb2」に対応する監視ピークは現れていない。このように、監視スペクトルでは、抽出可能な強度を有する高次の監視ピークも現れているが、比較スペクトルでは、同様な監視ピークは現れていない。本装置4では、監視スペクトルが用いられることにより、加速度センサでは実現し得ない高次の高調波の監視ピークを用いた監視対象の状態の監視が実現可能となる。
【0061】
ここで、第1監視スペクトルに現れる各監視ピークの大部分の位置は、第2監視スペクトルに現れる各監視ピークの位置と共通する。しかし、本発明の発明者は、一部の監視ピークは、第1監視スペクトルまたは第2監視スペクトルのいずれか一方にのみ現れていること、を発見した。また、本発明の発明者は、第1監視スペクトルおよび第2監視スペクトル共通する監視ピークの強度が異なること、を発見した。これは、合成信号(S12)と合成信号(S34)との合成方法が異なることに起因するものと、推察される。本装置4は、2種の合成信号(S12,S34)を用いることで、より多種の監視対象の状態を監視できる。
【0062】
以下の説明において、図1および図2が主に参照される。
第1算出部422は、監視対象の仕様に基づいて設定されたパラメータに基づいて、監視対象ごとに理論監視周波数帯を算出する。第1算出部422の具体的な動作は、後述される。第1算出部422は、本発明における理論周波数帯算出部の一例である。
【0063】
「パラメータ」は、監視対象の仕様に含まれる数値であり、理論監視周波数の算出に必要となる数値である。パラメータは、例えば、監視対象が軸受31,32の場合、内輪31a,32aの外径、外輪31b,32bの内径、転動体31c,32cの直径・数・接触角・回転周波数(または、回転軸30の回転周波数)などである。また、パラメータは、例えば、監視対象がインペラ51,52の場合、翼数、回転周波数などである。パラメータは、例えば、ポンプ1の出荷前に、予め本装置4に設定(入力)されていて、記憶部43に記憶されている。
【0064】
「理論監視周波数」は、監視対象の位置の周期的な変位を示す理論上の周波数である。理論監視周波数は、例えば、ロータ33が設定回転数(後述)で回転しているときの監視対象の振動数である。理論監視周波数は、例えば、公知の計算式にパラメータが入力されることにより、算出される。すなわち、例えば、監視対象が軸受31であるとき、理論監視周波数は、内輪転動体通過周波数(内輪パルス発生周波数)、外輪転動体通過周波数(外輪パルス発生周波数)、転動体自転周波数、または、転動体公転周波数などである。監視対象が軸受31の一部(例えば、内輪31aと転動体31cとの接触面)であるとき、理論監視周波数は、その一部に対応する周波数(例えば、内輪転動体通過周波数)である。また、例えば、監視対象がインペラ51,52の場合、理論監視周波数は、インペラ51,52の回転周波数である。
【0065】
「理論監視周波数帯」は、理論監視周波数を含む所定範囲の周波数帯である。理論監視周波数帯は、例えば、理論監視周波数を中心として±数Hz(例えば、±5Hz)の範囲に設定される。理論監視周波数帯は監視対象に対応していて、その数は、例えば、監視対象の数以上である。
【0066】
第2算出部423は、ロータ33の設定回転数および測定回転数に基づいて、補正値を算出する。第2算出部423の具体的な動作は、後述される。第2算出部423は、本発明における補正値算出部の一例である。
【0067】
「設定回転数」は、例えば、ポンプ1に設定されているポンプ1の回転数(すなわち、ロータ33の回転数)である。設定回転数は、例えば、駆動周波数に基づいて予め設定されていて、例えば、記憶部43に記憶されている。
【0068】
「測定回転数」は、実際にポンプ1が動作しているとき(ロータ33が回転しているとき)に測定されるポンプ1の回転数(すなわち、ロータ33の回転数)である。一般的に、電磁力で動作するポンプ1では、回転磁界の速度とロータ33の速度との間に速度差が生じる「すべり」という現象が、生じる。この「すべり」は、ロータ33の回転数や負荷が増加すると、大きくなる。「すべり」が生じると、測定回転数は設定回転数に対して小さくなる。
【0069】
「補正値」は、理論監視周波数帯を、「すべり」が生じているポンプ1における実際の監視周波数帯へと補正をするための係数である。理論監視周波数は、ロータ33が設定回転数で回転している前提で算出される。そのため、ロータ33が測定回転数で回転しているときの実際の監視周波数は、「すべり」の影響により、理論監視周波数よりも僅かに小さい。そのため、ポンプ1が動作しているとき(「すべり」が生じているとき)の監視対象の状態を正確に監視するためには、理論監視周波数を実際の監視周波数に合わせるような補正が必要となる。補正値は、例えば、設定回転数と測定回転数との比である。本実施の形態では、補正値は、設定回転数により定まるロータ回転成分周波数(算出された高調波成分:以下「理論回転成分」という。)と、測定回転数により定まるロータ回転成分周波数(計測された高調波成分:以下「測定回転成分」という。)と、の比である。換言すれば、測定回転成分は、「すべり」が生じているときのロータ回転成分周波数である。監視スペクトルは、高調波成分(ロータ回転成分)を含む。そのため、本装置4は、監視スペクトルに基づいて、「すべり」が生じているときの高調波成分の周波数(ロータ回転成分周波数)を取得することにより、補正値を算出できる。
【0070】
補正部424は、理論監視周波数帯を補正値で補正をして、監視周波数帯を算出する。補正部424の具体的な動作は、後述される。
【0071】
「監視周波数帯」は、「すべり」が考慮された実際の監視周波数を含む所定範囲の周波数帯である。監視周波数帯は、例えば、監視周波数を中心として±数Hzの範囲に設定される。監視周波数帯の数は、理論監視周波数帯の数と同じである。
【0072】
前述のとおり、検出コイルC1~C4の検出信号は、基本波成分を含んでいる。また、ポンプ1では、1個の回転軸30がモータ軸とポンプ軸とを兼用している。すなわち、ポンプ1では、ポンプの構成とモータの構成とが一体となっている。そのため、検出信号に基づいて生成される監視スペクトルには、駆動電源の駆動周波数が強く現れる。監視スペクトルにおいて、監視周波数のピーク(以下「監視ピーク」という。)の強度は、駆動周波数のピーク(以下「電源ピーク」という。)の強度よりも、弱い、したがって、監視ピークの基本波周波数が電源ピークの基本波周波数を中心とする所定周波数範囲内に位置していると、監視ピークは、電源ピークに包含されてしまう。この場合、周波数の分解能が非常に高く設定されている場合、監視ピークは源現ピークから区別(抽出)できる。しかし、周波数の分解能が高く設定されにつれて、FFT解析などの処理時間・負荷が増大し得る。一方、周波数の分解能が低く設定されている場合、監視ピークは電源ピークから区別(抽出)できない。ここで、基本波周波数における監視ピークと電源ピークとの間隔(周波数)は、高調波の次数に比例して大きくなる。そのため、周波数の分解能が低く設定されている場合、このような監視対象の監視周波数帯は、監視ピークが区別可能となるまで同間隔が大きくなるような高次の高調波を中心とする(含まれる)周波数帯に設定されるとよい。すなわち、監視周波数帯は、監視ピークのn次(nは3以上の整数)の高調波周波数が、電源ピークのn次の高調波周波数を中心とする所定周波数範囲外に位置する、n次の高調波のスペクトルのピークに基づいて、設定される。すなわち、例えば、所定周波数範囲が「±b」Hzであり、基本波周波数における電源ピークと監視ピークとの間隔が「a」Hz(a<b)であるとき、監視周波数帯は、例外的に、「n×a>b」の関係を満たすn次の高調波周波数を含むように設定される。
【0073】
図7は、本装置4に用いられる例外的な監視周波数帯を示す模式図である。
同図は、「n×a>b」の関係を満たすことにより、n次の高調波周波数において、監視ピークは、電源ピークから分離して、容易に区別可能であること、を示している。
【0074】
以下の説明において、図2が主に参照される。
判定部425は、監視周波数帯における、監視スペクトルと、基準スペクトルと、の比較に基づいて、監視周波数帯に対応する監視対象の状態が正常か異常かを判定する。判定部425の具体的な動作は、後述される。
【0075】
「基準スペクトル」は、監視スペクトルの比較対象となるスペクトルである。基準スペクトルは、例えば、本装置4(スペクトル生成部421)により経時的に生成された監視スペクトルのうち、いずれか1個の監視スペクトルである。本実施の形態では、基準スペクトルは、監視対象の状態が正常であるときに生成された監視スペクトルである。基準スペクトルは、第1監視スペクトルの比較対象となる第1基準スペクトルと、第2監視スペクトルの比較対象となる第2基準スペクトルと、を含む。
【0076】
「比較に基づく判定」は、監視ピークの位置、強度、または形状のうち、少なくとも1種に対して実行される。
【0077】
表示制御部426は、判定部425の判定結果に基づいて、表示部44の表示を制御する。表示制御部426の具体的な動作は、後述される。
【0078】
記憶部43は、本装置4の動作に必要な情報(例えば、理論監視周波数帯、監視周波数帯、補正値、基準スペクトル、など)を記憶する。記憶部43は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)やフラッシュメモリなどの不揮発性メモリである。
【0079】
図8は、記憶部43に記憶されている情報(理論監視周波数帯、監視周波数帯)の一例を示す模式図である。
同図は、記憶部43が複数の理論監視周波数帯および監視周波数帯を記憶していること、を示している。同図は、例えば、監視対象「A」の理論監視周波数が「A2」であり、監視対象「A」の理論監視周波数帯が「A1」~「A3」であること、を示している。
【0080】
図9は、記憶部43に記憶されている別の情報(補正値)の一例を示す模式図である。
同図は、理論回転成分が「X」であり、測定回転成分が「Y」であり、補正値が「Z」であること、を示している。補正値「Z」は、例えば、「Y/X」である。
【0081】
以下の説明において、図2が主に参照される。
表示部44は、監視対象の状態を表示する。表示部44は、例えば、監視対象ごとに、その状態を「緑(正常)」と「赤(異常)」とで表示する。
【0082】
●ポンプの動作
次に、ポンプ1の動作が、本装置4の動作を中心に以下に説明される。以下の説明において、図1図2は、適宜参照される。
【0083】
図10は、本装置4の動作の一例を示すフローチャートである。
【0084】
本装置4は、初期調整処理(ST1)を実行して、次いで、状態監視処理(ST2)を実行する。
【0085】
●初期調整処理
図11は、初期調整処理(ST1)の一例を示すフローチャートである。
【0086】
「初期調整処理(ST1)」は、状態監視処理(ST2)の実行前に、監視周波数帯を算出するために実行される処理である。初期調整処理(ST1)は、例えば、ポンプ1の出荷前や、ポンプ1のメンテナンス後に実行される。すなわち、初期調整処理(ST1)は、監視対象が正常な状態において実行される。本装置4が初期調整処理(ST1)を実行することにより、本装置4は、「すべり」に対応する監視周波数帯に基づいて、監視対象の状態を監視できる。初期調整処理(ST1)は、本設定方法の一例である。
【0087】
先ず、取得部420は、監視対象の各パラメータを取得する(ST11:パラメータ取得ステップ)。前述のとおり、パラメータは、予め本装置4に設定されていて、記憶部43に記憶されている。
【0088】
次いで、第1算出部422は、監視対象ごとに理論監視周波数帯を算出する(ST12:第1算出ステップ)。前述のとおり、理論監視周波数は、パラメータと、公知の計算式と、に基づいて、算出される。第1算出部422は、算出された理論監視周波数を中心とする所定範囲の周波数帯を理論監視周波数帯として算出する。算出された理論監視周波数帯は、例えば、監視対象に関連付けられて、記憶部43に記憶されている。このとき、第1算出部422は、ロータ回転成分周波数を含む理論監視周波数帯も算出する。第1算出ステップは、本発明における理論監視周波数帯算出ステップの一例である。
【0089】
次いで、ポンプ1の動作が開始されて、取得部420は、ポンプ1が動作しているとき(すなわち、「すべり」が生じているとき)の合成信号(S12,S34)を取得する(ST13:信号取得ステップ)。この取得は、所定のサンプリング周波数で実行される。サンプリング周波数は、ロータ回転成分周波数の2倍以上(例えば、5kHz)に設定されている。ポンプ1の動作中、モータ部3には駆動電源が供給されていて、ロータ33、回転軸30およびインペラ51,52は所定の回転数(測定回転数)で回転している。
【0090】
次いで、スペクトル生成部421は、取得部420に取得された合成信号(S12)にFFT処理を実行して第1監視スペクトルを生成して、取得部420に取得された合成信号(S34)にFFT処理を実行して第2監視スペクトルを生成する(ST14:基準スペクトル生成ステップ)。第1監視スペクトルは第1基準スペクトルとして記憶部43に記憶されて、第2監視スペクトルは第2基準スペクトルとして記憶部43に記憶される。換言すれば、第1基準スペクトルおよび第2基準スペクトルは、経時的に取得される監視スペクトルのうち、監視対象の状態が正常であるときに(最初に)取得された監視スペクトルである。
【0091】
次いで、第2算出部423は、第1基準スペクトルおよび第2基準スペクトルのうち、少なくとも一方に基づいて、ロータ回転成分周波数(すなわち、測定回転成分)を取得する(ST15:回転成分取得ステップ)。前述のとおり、設定回転成分は、駆動周波数およびロータバー33aの数に基づいて算出できる。第2算出部423は、例えば、算出された設定回転成分を中心とする理論監視周波数帯において、設定回転成分に最も近いピークの周波数を測定回転成分として取得する。
【0092】
次いで、第2算出部423は、設定回転成分および測定回転成分に基づいて、補正値を算出する(ST16:第2算出ステップ)。前述のとおり、補正値は、設定回転成分と測定回転成分との比である。設定回転成分は、設定上の駆動周波数、すなわち、設定回転数に比例する。測定回転成分は、実際の駆動周波数、すなわち、測定回転数に比例する。したがって、補正値は、設定回転数と測定回転数との比でもある。補正値は、例えば、設定回転成分および測定回転成分に関連付けられて、記憶部43に記憶される。第2算出ステップは、本発明における補正値算出ステップの一例である。
【0093】
次いで、補正部424は、理論監視周波数帯を補正値で補正をして、監視周波数帯を算出する(ST17:補正ステップ)。補正部424は、例えば、理論監視周波数帯に補正値を乗算することにより、その理論監視周波数帯に対応する監視周波数帯を算出する。監視周波数帯は、監視対象に関連付けられて、記憶部43に記憶される。
【0094】
●状態監視処理
図12は、状態監視処理(ST2)の一例を示すフローチャートである。
【0095】
「状態監視処理(ST2)」は、ポンプ1の動作中、監視対象の状態を監視する処理である。状態監視処理(ST2)は、本監視方法の一例である。
【0096】
先ず、取得部420は、信号処理後の各合成信号(S12,S34)を経時的に取得する(ST21:信号取得ステップ)。各合成信号(S12,S34)は、所定の時間間隔(例えば、1回/1時間)で取得される。
【0097】
次いで、スペクトル生成部421は、取得部420に取得された合成信号(S12)にFFT処理を実行して第1監視スペクトルを生成して、取得部420に取得された合成信号(S34)にFFT処理を実行して第2監視スペクトルを生成する(ST22:監視スペクトル生成ステップ)。第1監視スペクトルおよび第2監視スペクトルは、記憶部43に記憶される。
【0098】
図13(a)は本装置4により生成された監視スペクトル(第2監視スペクトル)の一例を示す周波数特性図であり、(b)は比較スペクトルの一例を示す周波数特性図である。
【0099】
同図は、監視周波数(外輪転動体通過周波数:約128Hz)において、異常時の第2監視スペクトルのピークの強度が、正常時の同強度よりも高くなっていることを示している。また、同図は、監視周波数における第2監視スペクトルの強度のピークが、比較スペクトルの強度のピークと同様に変動していること、を示している。
【0100】
次いで、判定部425は、最新の第1監視スペクトルから監視周波数帯のスペクトル(以下「個別監視スペクトル」という。)を取得して、最新の第2監視スペクトルから個別監視スペクトルを取得する(ST23)。個別監視スペクトルは、監視対象(監視周波数帯)ごとに取得される。
【0101】
次いで、判定部425は、第1基準スペクトルから監視周波数帯に対応する周波数帯(以下「基準監視周波数帯」という。)のスペクトル(以下「個別基準監視スペクトル」という。)を取得して、第2基準スペクトルから個別基準監視スペクトルを取得する(ST24)。個別基準スペクトルは、監視対象(基準監視周波数帯)ごとに取得される。
【0102】
なお、本発明において、個別基準スペクトルは、予め取得されて、記憶部43に記憶されていてもよい。
【0103】
次いで、判定部425は、監視対象(監視周波数帯)ごとに、個別監視スペクトルと、同個別監視スペクトルに対応する個別基準監視スペクトルと、を比較する(ST25:比較ステップ)。前述のとおり、比較は、監視ピークの強度、位置、または形状のうち、少なくとも1種に対して実行される。
【0104】
次いで、判定部425は、比較結果と、所定の閾値と、を比較して、例えば、比較結果が所定の閾値以内か否かを判定する(ST26:判定処理)。監視対象の状態が異常であるとき、その監視対象に対応する監視ピークの強度は、大きく変動する。そのため、判定部425は、強度の変動量が所定の閾値よりも大きいとき、「その監視対象の状態が異常である」と判定できる。同様に、監視対象の状態が異常であるとき、その監視対象に対応する監視ピークの位置(周波数)は、変動し得る。例えば、監視対象が転動体31c,32cであるとき、転動体31c,32cにスラスト方向の負荷が加えられると、転動体31c,32cの接触角が変化して、監視ピークの位置は僅かに変動する。そのため、判定部425は、位置の変動量が所定の閾値よりも大きいとき、「その監視対象の状態が異常である」と判定できる。また、FFT処理は、特定期間の平均値で演算される。そのため、「すべり」が付加に応じて連続的に変化すると、監視ピークの形状(スペクトルの形状)は変動する(鈍る)。ここで、監視スペクトルは、分解能(例えば、1Hz)単位の離散値の集合である。そのため、監視ピークの形状は、監視ピークの前後の強度の大小関係に基づいて、認識可能である。判定部425は、個別監視スペクトルおよび個別基準監視スペクトルの積分値を算出することにより、各形状を面積として認識して、これらを比較できる。所定の閾値は、予め決定されていて、記憶部43に記憶されている。
【0105】
比較結果が所定の閾値以内であるとき(ST26の「Y」)、判定部425は「監視対象の状態は正常である」と判定して、表示制御部426は表示部44に「正常」を表示させる(ST27)。
【0106】
一方、比較結果が所定の閾値よりも大きいとき(ST26の「N」)、判定部425は「監視対象の状態は異常である」と判定して、表示制御部426は表示部44に「異常」を表示させる(ST28)。
【0107】
●まとめ
以上説明された実施の形態によれば、本装置4は、4個の検出コイルC1~C2、取得部420、スペクトル生成部421、判定部425、および記憶部43を備える。検出コイルC1~C4は、一対の検出コイルC1,C2、および、一対の検出コイルC3,C4を含む。検出コイルC1,C2は、その検出信号の差分が得られるように直列に接続されている。検出コイルC3,C4は、その検出信号が重畳されるように直列に接続される。検出コイルC1~C4は、スラスト方向において同じ位置、および、周方向において異なる位置、に配置されている。検出コイルC1、C2は、検出コイルC3,C4と異なる位置に配置されている。取得部420は、各合成信号(S12,S34)を経時的に取得する。スペクトル生成部421は、取得部420に取得された信号(各合成信号(S12,S34))にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成する。判定部425は、監視周波数帯における、最新の監視スペクトルと、基準スペクトルと、の比較に基づいて、監視周波数帯に対応する監視対象の状態が正常か異常かを判定する。記憶部43は、監視対象に対して予め設定されている監視周波数帯、および基準スペクトルを記憶している。監視スペクトルは、第1監視スペクトルおよび第2監視スペクトルを含む。基準スペクトルは、第1基準スペクトルおよび第2基準スペクトルを含む。この構成によれば、本装置4は、ラジアル方向におけるロータ33の位置の周期的な変位として現れる監視対象の状態を、監視できる。また、監視スペクトルは、各合成信号(S12,S34)に基づいて、生成されている。そのため、監視スペクトルには、比較スペクトルでは現れない高次の高調波も現れている。したがって、本装置4は、監視スペクトルを用いることにより、加速度センサでは実現し得ない高次の高調波の監視ピークに基づいた状態の監視を実現できる。
【0108】
また、以上説明された実施の形態によれば、本装置4は、第1算出部422、第2算出部423、および補正部424を備える。この構成によれば、本装置4は、「すべり」により理論監視周波数帯が実際の監視周波数帯とずれていても、補正値による補正により、同監視周波数帯により監視対象の状態を監視できる。換言すれば、本装置4は、「すべり」に対応した監視対象の状態監視を実現する。
【0109】
さらに、以上説明された実施の形態によれば、取得部420は、所定のサンプリング周波数で信号を取得する。サンプリング周波数は、ロータ回転成分周波数の2倍以上に設定されている。第2算出部423は、監視スペクトルに基づいて、測定回転成分を取得して、設定回転成分および測定回転成分に基づいて、補正値を算出する。この構成によれば、本装置4は、容易かつ正確に補正値を算出できる。
【0110】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、基準スペクトルは、経時的に生成された監視スペクトルのうち、監視対象の状態が正常であるときに(最初に)取得された監視スペクトルである。判定部425は、監視周波数帯における、監視ピークの位置、強度または形状のうち、少なくとも1種に基づいて、状態を判定する。前述のとおり、監視対象は、その状態がラジアル方向におけるロータ33の位置の周期的な変位として現れる部材である。そのため、監視対象の状態は、監視ピークの位置、強度または形状の変動により判定可能である。したがって、本装置4は、監視ピークの比較により、監視対象の状態を容易に監視できる。
【0111】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、監視スペクトルは、電源ピークおよび監視ピークを含む。監視ピークの基本波周波数が、電源ピークの基本波周波数を中心とする所定周波数範囲内に位置しているとき、監視対象の監視周波数帯は、監視ピークのn(nは3以上の整数)次の高調波周波数が、電源ピークのn次の高調波周波数を中心とする所定周波数範囲外に位置する、n次の高調波のスペクトルのピークに基づいて、設定される。この構成によれば、基本波周波数において、監視ピークが電源ピークに包含されていても、n次の高調波周波数において、監視ピークは、電源ピークから分離して、容易に区別される。その結果、本装置4は、基本波周波数において、監視ピークが電源ピークに包含されている監視対象であっても、その状態を監視できる。
【0112】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、本装置4は、信号処理部41a,41bを備える。信号処理は、フィルタ処理、絶対値化処理、包絡線化処理、および微分処理を含む。この構成によれば、監視スペクトルにおいて、監視ピークは、強調される。そのため、本装置4による状態の監視精度は、向上する。また、監視対象とする現象に合わせて微分処理が実行されることにより、監視対象の状態をより高精度に監視できる。
【0113】
さらにまた、以上説明された実施の形態によれば、ポンプ1は、回転軸30、軸受31,32、ロータ33、ステータ34、検出コイルC1~C4、および本装置4を備える。この構成によれば、ポンプ1は、本装置4により監視対象の状態を監視できる。
【0114】
●その他の実施形態●
●検出コイル
なお、本発明において、検出コイルC1~C4の数は、「4」に限定されない。すなわち、例えば、本装置4は、一組の検出コイルC1,C2、または一組の検出コイルC3,C4のいずれか一方のみを備えていてもよい。この構成でも、本装置4は、共通する監視ピークに基づいて、監視対象の状態を監視できる。
【0115】
また、本発明において、本装置4は、検出コイルC1~C4のうち、いずれか1個(例えば、検出コイルC1)のみを備えていてもよい。この場合、初期調整処理(ST1)および状態監視処理(ST2)では、各合成信号(S12,S34)に代えて検出信号が用いられる。すなわち、監視周波数帯(理論監視周波数帯、補正値)および基準スペクトルは、検出コイルC1の検出信号に対応して設定される。取得部420は、検出コイルC1の検出信号を経時的に取得する。スペクトル生成部421は、取得部420に取得された検出信号にFFT処理を実行して監視スペクトルを生成する。判定部425は、監視周波数帯における、最新の監視スペクトルと、基準スペクトルと、の比較に基づいて、監視周波数帯に対応する監視対象の状態が正常か異常かを判定する。この構成では、高次の高調波の監視ピークを用いた一部の監視対象の状態の監視は、難しい。しかし、本装置4は、その監視対象を除く他の監視対象の状態を監視できる。
【0116】
さらに、本発明において、検出コイルC1~C4の位置は、ラジアル方向におけるロータ33の位置の変位に対応する磁束変化を検出可能な位置であればよく、ステータ34の上下端部に限定されない。すなわち、例えば、スラスト方向において、検出コイルC1~C4は、歯部34cのいずれの位置に配置されていてもよい。また、例えば、検出コイルC3,C4は、歯部34cの下端部に配置されていてもよい。
【0117】
さらにまた、本発明において、検出コイルC1,C2および検出コイルC3,C4は、直列に接続されていなくてもよい。この場合、本装置4は、検出コイルC1,C2の検出信号を、その差分が得られるように合成する合成回路(例えば、減算回路)、および、検出コイルC3,C4の検出信号を、重畳するように合成する合成回路(例えば、加算回路)を備える。
【0118】
さらにまた、本発明において、検出コイルC1~C4の構成は、異なっていてもよい。すなわち、例えば、検出コイルC1,C2の巻き数は、検出コイルC3,C4の巻き数と異なっていてもよい。
【0119】
さらにまた、本発明において、検出コイルC1,C2は、その検出信号が重畳するように直列に接続されていてもよい。
【0120】
さらにまた、本発明において、検出コイルC3,C4は、その検出信号の差分が得られるように直列に接続されていてもよい。
【0121】
●信号処理部
さらにまた、本発明において、本装置4は、信号処理部41a,41bを備えていなくてもよい。この場合、本装置4は、各合成信号(S12,S34)をデジタル信号に変換するA/D変換部を備える。取得部420は、デジタル信号に変換された各合成信号(S12,S34)を取得する。
【0122】
さらにまた、本発明において、信号処理部41a,41bが実行する信号処理は、監視ピークが抽出可能な処理であればよく、第1フィルタ処理、絶対値化処理、第2フィルタ処理、包絡線処理、微分処理、およびA/D変換処理に限定されない。
【0123】
さらにまた、本発明において、所定の信号処理は、A/D変換後に実行されてもよい。
【0124】
さらにまた、本発明において、本装置4は、信号処理部41aまたは信号処理部41bのいずれか一方のみを備えていてもよい。
【0125】
●制御部
さらにまた、本発明において、取得部420が信号を取得するサンプリング周波数は、第2算出部423がロータ回転成分周波数を取得可能な周波数であればよい。
【0126】
さらにまた、本発明において、制御部42は、第1算出部422を備えていなくてもよい。この構成では、理論監視周波数は、例えば、外部機器(例えば、コンピュータなど)により、ポンプ1の出荷前に予め算出されていて、記憶部43に記憶されている。
【0127】
さらにまた、本発明において、制御部42は、第2算出部423および補正部424を備えていなくてもよい。この構成では、理論監視周波数帯は、監視周波数帯として取り扱われてもよい。この理論監視周波数帯の周波数範囲は、「すべり」に対応して、比較的広く設定されてもよい。また、監視周波数帯は、例えば、外部機器により、ポンプ1の出荷前に予め算出されていて、記憶部43に記憶されていてもよい。
【0128】
さらにまた、本発明において、理論監視周波数帯(監視周波数帯)は、理論監視周波数(監視周波数)を中心として±数%の範囲に設定されていてもよい。
【0129】
さらにまた、本発明において、1個の監視対象に対して、1個の監視周波数帯が設定されていてもよく、複数の監視周波数帯が設定されていてもよい。
【0130】
さらにまた、本発明において、補正値は、設定回転数と測定回転数との比でもよく、または、駆動周波数と実測される駆動周波数との比でもよい。
【0131】
さらにまた、本発明において、補正値は、監視スペクトルが生成されるタイミングで更新されてもよい。この場合、監視周波数帯は、更新された補正値により更新されてもよい。すなわち、補正値は、状態監視処理(ST2)でも使用されてもよい。
【0132】
さらにまた、本発明において、補正値の比の分子と分母とが逆のとき、補正部424は、理論監視周波数帯を補正値で割算することにより、監視周波数帯を算出してもよい。
【0133】
さらにまた、本発明において、基準スペクトルは、経時的に生成された監視スペクトルのうち、1個の監視スペクトルであればよく、初期調整処理(ST1)中に生成された監視スペクトルに限定されない。
【0134】
さらにまた、本発明において、基準スペクトルが生成されるタイミングは、ポンプ1の監視対象が確実に正常であるタイミング(例えば、ポンプ1の初稼働後、ポンプ1のメンテナンス後)でもよい。
【0135】
さらにまた、本発明において、判定部425は、監視対象の正常および異常以外の状態が監視ピークとして現れていれば、その状態の有無も判定してもよい。
【0136】
●ポンプ
さらにまた、本発明において、ポンプ1は、検出コイルC1~C4が取り付け可能なポンプであればよく、サブマージドポンプに限定されない。
【0137】
さらにまた、本発明において、ポンプ1が備えるインペラ51,52の数は、「2」に限定されない。
【0138】
さらにまた、本発明において、軸受31,32は、転がり軸受に限定されない。
【0139】
●その他
さらにまた、本発明において、監視対象(異常の内容)は、ロータバー33a(ロータバー33a切れ)、回転軸30(回転軸30のミスアライメント)、または、モータ部3(絶縁不良)でもよい。また、監視対象がインペラ51,52であるとき、本装置4は、インペラ51,52の振動としてロータ33に伝達されるキャビテーションの有無をインペラ51,52の状態として監視してもよい。
【0140】
さらにまた、本発明において、監視対象は、ポンプ1の設置環境に応じて任意に設定されていればよく、本実施の形態に限定されない。すなわち、例えば、監視対象は、回転軸30のみでもよく、または、変位部材のみでよよい。
【0141】
●本発明の実施態様●
次に、以上説明した各実施形態から把握される本発明の実施態様について、各実施形態において記載された用語と符号とを援用しつつ、以下に記載する。
【0142】
本発明の第1の実施態様は、ポンプ(例えば、ポンプ1)のモータ(例えば、モータ部3)のステータ(例えば、ステータ34)に対するロータ(例えば、ロータ33)の位置の変位に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイル(例えば、検出コイルC1~C4)から出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象(例えば、回転軸30、軸受31,32、ロータ33、インペラ51,52)の状態を監視する状態監視装置(例えば、状態監視装置4)であって、複数の前記検出コイルは、前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、前記検出信号が合成される一対の前記検出コイル(例えば、検出コイルC1,C2、検出コイルC3,C4)、を含み、一対の前記検出コイルそれぞれは、前記ロータのスラスト方向において同じ位置、および、前記ロータの周方向において異なる位置、に配置されて、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が差分を得るように合成された第1合成信号(例えば、合成信号(S12))と、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が重畳されるように合成された第2合成信号(例えば、合成信号(S34))と、のうち、少なくとも一方を、経時的に取得する取得部(例えば、取得部420)と、前記取得部に取得された信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成するスペクトル生成部(例えば、スペクトル生成部421)と、前記監視対象に対して予め設定されている少なくとも1個の監視周波数帯と、前記監視スペクトルの比較対象となる基準スペクトルと、を記憶する記憶部(例えば、記憶部43)と、前記監視周波数帯における、最新の前記監視スペクトルと、前記基準スペクトルと、の比較に基づいて、前記監視周波数帯に対応する前記監視対象の前記状態が正常か異常かを判定する判定部(例えば、判定部425)と、を有してなる、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置は、ラジアル方向におけるロータの位置の周期的な変位として現れる監視対象の状態を、監視できる。
【0143】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、複数の前記検出コイルは、一対の前記検出コイルとして機能して、前記第1合成信号の基となる前記検出信号を出力する一対の第1検出コイル(例えば、検出コイルC1,C2)と、一対の前記検出コイルとして機能して、前記第2合成信号の基となる前記検出信号を出力する一対の第2検出コイル(例えば、検出コイルC3,C4)と、を含み、前記第1検出コイルは、前記第2検出コイルとは異なる位置に配置されて、前記取得部は、前記第1合成信号と前記第2合成信号とを経時的に取得して、前記監視スペクトルは、前記第1合成信号に前記FFT処理が実行されて生成された第1監視スペクトルと、前記第2合成信号に前記FFT処理が実行されて生成された第2監視スペクトルと、を含み、前記基準スペクトルは、前記第1監視スペクトルの比較対象となる第1基準スペクトルと、前記第2監視スペクトルの比較対象となる第2基準スペクトルと、を含む、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置は、2種の合成信号を用いることで、より多種の監視対象の状態を監視できる。
【0144】
本発明の第3の実施態様は、第1または第2の実施態様において、前記監視対象の仕様に基づいて設定されたパラメータに基づいて、前記監視対象ごとに理論監視周波数帯を算出する理論監視周波数帯算出部(例えば、第1算出部422)と、前記ポンプに設定される前記ロータの設定回転数と、前記ポンプが動作しているときに測定された前記ロータの測定回転数と、に基づいて、補正値を算出する補正値算出部(例えば、第2算出部423)と、前記理論監視周波数帯を前記補正値で補正をして、前記監視周波数帯を算出する補正部(例えば、補正部424)と、を有してなる、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置は、「すべり」に対応した監視対象の状態監視を実現する。
【0145】
本発明の第4の実施態様は、第3の実施態様において、前記取得部は、所定のサンプリング周波数で前記信号を取得して、前記サンプリング周波数は、前記ロータのロータバー(例えば、ロータバー33a)に流れる誘導電流により発生する磁束の変化に対応するロータ回転成分周波数の2倍以上に設定されて、前記補正値算出部は、前記監視スペクトルに基づいて、前記測定回転数により定まる前記ロータ回転成分周波数を取得して、前記設定回転数により定まる理論上の前記ロータ回転成分周波数と、前記測定回転数により定まる前記ロータ回転成分周波数と、に基づいて、前記補正値を算出する、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置は、容易かつ正確に補正値を算出できる。
【0146】
本発明の第5の実施態様は、第1の実施態様において、前記基準スペクトルは、経時的に生成された前記監視スペクトルのうち、いずれか1個の前記監視スペクトルであり、前記判定部は、前記監視周波数帯における、ピークスペクトルの位置、強度または形状のうち、少なくとも1種に基づいて、前記状態を判定する、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置は、監視ピークの比較により、監視対象の状態を容易に監視できる。
【0147】
本発明の第6の実施態様は、第1の実施態様において、前記監視スペクトルは、前記ポンプの駆動電源の駆動周波数を示す電源ピークと、前記監視対象ごとに定まる監視周波数を示す監視ピークと、を含み、前記監視ピークの基本波周波数が、前記電源ピークの基本波周波数を中心とする所定周波数範囲内に位置しているとき、前記監視対象の前記監視周波数帯は、前記監視ピークのn次(nは3以上の整数)の高調波周波数が、前記電源ピークのn次の高調波周波数を中心とする前記所定周波数範囲外に位置する、n次の高調波のスペクトルのピークに基づいて、設定される、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置は、基本波周波数において、監視ピークが電源ピークに包含されている監視対象であっても、その状態を監視できる。
【0148】
本発明の第7の実施態様は、第1の実施態様において、前記監視対象は、前記モータの回転軸(例えば、回転軸30)、および/または、前記回転軸に当接して、前記回転軸の回転に応じて周期的に位置が変位する変位部材(例えば、ロータ33、軸受31,32、インペラ51,52)と、を含む、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置は、回転軸、ロータ、軸受、およびインペラの状態を、監視できる。
【0149】
本発明の第8の実施態様は、第1の実施態様において、前記第1合成信号と前記第2合成信号とのうち、少なくとも一方に所定の信号処理を実行する信号処理部(例えば、信号処理部41a,41b)、を有してなり、前記取得部は、前記信号処理後の前記第1合成信号と、前記信号処理後の前記第2合成信号と、のうち、少なくとも一方を、経時的に取得する、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置による状態の監視精度は、向上する。
【0150】
本発明の第9の実施態様は、第8の実施態様において、前記信号処理は、フィルタ処理と、絶対値化処理と、包絡線化処理と、微分処理と、を含む、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置による状態の監視精度は、向上する。
【0151】
本発明の第10の実施態様は、ポンプ(例えば、ポンプ1)のモータ(例えば、モータ部3)のステータ(例えば、ステータ34)に対するロータ(例えば、ロータ33)の位置の変位に対応する磁束変化を検出する少なくとも1個の検出コイル(例えば、検出コイルC1)から出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象(例えば、回転軸30、軸受31,32、ロータ33、インペラ51,52)の状態を監視する状態監視装置(例えば、状態監視装置4)であって、前記検出コイルは、前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、前記検出信号を経時的に取得する取得部(例えば、取得部420)と、前記取得部に取得された前記検出信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成するスペクトル生成部(例えば、スペクトル生成部421)と、前記監視対象に対して予め設定されている少なくとも1個の監視周波数帯と、前記監視スペクトルの比較対象となる基準スペクトルと、を記憶する記憶部(例えば、記憶部43)と、前記監視周波数帯における、最新の前記監視スペクトルと、前記基準スペクトルと、の比較に基づいて、前記監視周波数帯に対応する前記監視対象の前記状態が正常か異常かを判定する判定部(例えば、判定部425)と、を有してなる、状態監視装置である。
この構成によれば、本装置は、ラジアル方向におけるロータの位置の周期的な変位として現れる監視対象の状態を、監視できる。
【0152】
本発明の第11の実施態様は、ロータ(例えば、ロータ33)と、前記ロータを回転させるステータ(例えば、ステータ34)と、前記ロータと共に回転する回転軸(例えば、回転軸30)と、を備えるモータと、前記回転軸を支持する軸受(例えば、軸受31,32)と、前記ステータに対する前記ロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する少なくとも1個の検出コイル(例えば、検出コイルC1~C4)と、前記検出コイルの検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象の状態を監視する、請求項1または10に記載の状態監視装置(例えば、状態監視装置4)と、を有してなる、ポンプ(例えば、ポンプ1)である。
この構成によれば、ポンプは、本装置により監視対象の状態を監視できる。
【0153】
本発明の第12の実施態様は、コンピュータを、第1または第10の実施態様に記載の状態監視装置として機能させる、状態監視プログラムである。
この構成によれば、コンピュータは、本発明に係る状態監視装置として機能する。
【0154】
本発明の第13の実施態様は、ポンプ(例えば、ポンプ1)のモータ(例えば、モータ部3)のステータ(例えば、ステータ34)に対するロータ(例えば、ロータ33)の位置の変位に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイル(例えば、検出コイルC1~C4)から出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象(例えば、回転軸30、軸受31,32、ロータ33、インペラ51,52)の状態を監視する状態監視装置(例えば、状態監視装置4)により実行される状態監視方法(例えば、状態監視処理(ST2))であって、複数の前記検出コイルは、前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、前記検出信号が合成される一対の前記検出コイル(例えば、検出コイルC1,C2、検出コイルC3,C4)、を含み、前記状態監視装置は、前記監視対象に対して予め設定されている少なくとも1個の監視周波数帯と、基準スペクトルと、を記憶する記憶部(例えば、記憶部43)、を備えて、前記状態監視方法は、前記状態監視装置が、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が差分を得るように合成された第1合成信号(例えば、合成信号(S12))と、一対の前記検出コイルから出力された前記検出信号が重畳されるように合成された第2合成信号(例えば、合成信号(S34))と、のうち、少なくとも一方を、経時的に取得する信号取得ステップ(例えば、信号取得ステップ(ST21))と、前記状態監視装置が、前記信号取得ステップで取得された前記信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成する監視スペクトル生成ステップ(例えば、監視スペクトル生成ステップ(ST22))と、前記状態監視装置が、前記監視周波数帯における、最新の前記監視スペクトルと、前記基準スペクトルと、の比較に基づいて、前記監視周波数帯に対応する前記監視対象の前記状態が正常か異常かを判定する判定ステップ(例えば、判定ステップ(ST26))と、を含む、状態監視方法である。
この構成によれば、本装置は、ラジアル方向におけるロータの位置の周期的な変位として現れる監視対象の状態を、監視できる。
【0155】
本発明の第14の実施態様は、ポンプ(例えば、ポンプ1)のモータ(例えば、モータ部3)のステータ(例えば、ステータ34)に対するロータ(例えば、ロータ33)の位置の変位に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイル(例えば、検出コイルC1~C4)から出力される検出信号に基づいて、前記ポンプの監視対象(例えば、回転軸30、軸受31,32、ロータ33、インペラ51,52)の状態を監視する状態監視装置(例えば、状態監視装置4)により実行される前記監視対象の監視周波数帯の設定をする周波数帯設定方法(例えば、初期調整処理(ST1))であって、前記検出コイルは、前記ロータのラジアル方向における前記変位に対応する前記磁束変化を検出可能に、前記ステータに取り付けられて、前記磁束変化を示す前記検出信号を出力して、前記周波数帯設定方法は、前記状態監視装置が、前記監視対象の仕様に基づくパラメータを取得するパラメータ取得ステップ(例えば、パラメータ取得ステップ(ST11))と、前記状態監視装置が、前記パラメータに基づいて、前記監視対象ごとに理論監視周波数帯を算出する理論監視周波数帯算出ステップ(例えば、第1算出ステップ(ST12))と、前記状態監視装置が、前記ポンプが動作しているときに測定された前記ロータの測定回転数により定まるロータ回転成分周波数を取得する回転成分取得ステップ(例えば、回転成分取得ステップ(ST15))と、前記状態監視装置が、前記ポンプに設定される前記ロータの設定回転数により定まるロータ回転成分周波数と、前記測定回転数により定まる前記ロータ回転成分周波数と、に基づいて、補正値を算出する補正値算出ステップ(例えば、第2算出ステップ(ST16))と、前記状態監視装置が、前記理論監視周波数帯を前記補正値で補正をして、前記監視周波数帯を算出する補正ステップ(例えば、補正ステップ(ST17))と、を含む、周波数帯設定方法である。
この構成によれば、本装置は、「すべり」に対応した監視対象の状態監視を実現する。
【符号の説明】
【0156】
1 ポンプ
3 モータ部(モータ)
30 回転軸(監視対象)
31 軸受(監視対象、変位部材)
32 軸受(監視対象、変位部材)
33 ロータ(監視対象、変位部材)
34 ステータ
4 状態監視装置
41a 信号処理部
41b 信号処理部
420 取得部
421 スペクトル生成部
422 第1算出部(理論監視周波数帯算出部)
423 第2算出部(補正値算出部)
424 補正部
425 判定部
43 記憶部
51 インペラ(監視対象、変位部材)
52 インペラ(監視対象、変位部材)
C1 検出コイル(第1検出コイル)
C2 検出コイル(第1検出コイル)
C3 検出コイル(第2検出コイル)
C4 検出コイル(第2検出コイル)

【要約】      (修正有)
【課題】ロータの位置の周期的な変位として現れるポンプの監視対象の状態を監視する。
【解決手段】本発明に係る状態監視装置4は、ポンプのモータのステータに対するロータの位置の変位に対応する磁束変化を検出する複数の検出コイルC1~C4から出力される検出信号に基づいて、ポンプの監視対象の状態を監視する。状態監視装置4は、第1合成信号と第2合成信号とのうち少なくとも一方を経時的に取得する取得部420と、取得部に取得された信号にFFT処理を実行して、監視スペクトルを生成するスペクトル生成部421と、監視対象に対して予め設定されている監視周波数帯と、監視スペクトルの比較対象となる基準スペクトルと、を記憶する記憶部43と、監視周波数帯における、最新の監視スペクトルと基準スペクトルとの比較に基づいて、監視周波数帯に対応する監視対象の状態が正常か異常かを判定する判定部425と、を有してなる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13