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特許7699821不揮発性記憶装置、不揮発性記憶素子及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-20
(45)【発行日】2025-06-30
(54)【発明の名称】不揮発性記憶装置、不揮発性記憶素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10B 51/30 20230101AFI20250623BHJP
   H10B 53/30 20230101ALI20250623BHJP
   H10B 51/20 20230101ALI20250623BHJP
   H10B 99/00 20230101ALI20250623BHJP
   G11C 11/22 20060101ALI20250623BHJP
   G11C 14/00 20060101ALI20250623BHJP
【FI】
H10B51/30
H10B53/30
H10B51/20
H10B99/00 441
G11C11/22 110
G11C14/00 220
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2021562758
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045325
(87)【国際公開番号】W WO2021112247
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019219966
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム、COI拠点「『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点」、及び平成30年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】角嶋 邦之
(72)【発明者】
【氏名】舟窪 浩
(72)【発明者】
【氏名】大見 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】モリナ レイエス,ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀 敦
(72)【発明者】
【氏名】清水 荘雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 美子
(72)【発明者】
【氏名】三村 和仙
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141625(WO,A1)
【文献】特開2019-121633(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165255(WO,A1)
【文献】特開2000-022107(JP,A)
【文献】特開2016-062901(JP,A)
【文献】特開2019-145790(JP,A)
【文献】特開2006-261329(JP,A)
【文献】特開2007-088349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 51/30
H10B 53/30
H10B 51/20
H10B 99/00
G11C 11/22
G11C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電層、
第2の導電層、及び
前記第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層
を少なくとも有する不揮発性記憶素子において、
前記強誘電体層と前記第1の導電層及び/又は前記第2の導電層との間に、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層が存在し、かつ
前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に、単層膜または多層膜から構成される界面層を有し、前記界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し、前記界面層は、前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に前記バッファ層が存在する場合には、前記第1の導電層と前記バッファ層の間に存在すること特徴とする不揮発性記憶素子。
【請求項2】
前記バッファ層の酸素の化学ポテンシャルは、前記強誘電体層の酸素の化学ポテンシャルよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項3】
前記バッファ層の酸素空孔欠陥密度は、前記強誘電体層の酸素空孔欠陥密度よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項4】
前記バッファ層は、セリウム酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、イットリア安定化ジルコニアまたは希土類元素酸化物から構成されることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項5】
前記バッファ層は、セリウム酸化物から構成されることを特徴とする請求項4に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項6】
前記バッファ層の膜厚は0.1nm以上で、望ましくは10nm以下であること特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項7】
前記界面層は、前記強誘電体層より前記第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項8】
前記界面層は、シリコン窒化物の誘電率より大きい誘電率を有する、酸化物、金属酸化物またはシリケート、特にイットリウム酸化物またはイットリウムシリケートから構成されることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項9】
前記強誘電体層を構成する前記金属酸化物の金属が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)またはこれらの2種の金属を含むか、又は、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)またはこれらの2種の金属と、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素とを含ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項10】
前記第1の導電層は、蛍石構造を有する金属シリサイドもしくは金属ダイシリサイド、または金属窒化物、または不純物を含むSiもしくはGe、またはSOI(Silicon on Insulator)であることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項11】
前記第2の導電層は、バッファ層と接続し酸素移動を抑止するバリア金属と金属窒化物、特に、WとTiNの2層構造を有することを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項12】
i)第1の導電層、第2の導電層、及び前記第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層を少なくとも有する不揮発性記憶素子が2次元または3次元に配置されたアレイと、
ii)制御回路と
を少なくとも具備する不揮発性記憶装置であって、
前記強誘電体層と前記第1の導電層及び/又は前記第2の導電層との間に、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層が存在し、かつ
前記不揮発性記憶素子の前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に、単層膜または多層膜から構成される界面層を有し、前記界面層全体としては酸化シリコンより高い誘電率を有し、前記界面層は、前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に前記バッファ層が存在する場合には、前記第1の導電層と前記バッファ層の間に存在すること特徴とする不揮発性記憶装置。
【請求項13】
前記バッファ層は、セリウム酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、イットリア安定化ジルコニアまたは希土類元素酸化物から構成されることを特徴とする請求項12に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項14】
前記バッファ層は、セリウム酸化膜から構成されることを特徴とする請求項13に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項15】
前記界面層は、前記強誘電体層より第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有することを特徴とする請求項12~14のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置
【請求項16】
前記界面層は、誘電率がシリコン窒化物より大きい誘電率を有する、酸化物、金属酸化物またはシリケート、特にイットリウム酸化物、イットリウムシリケートから構成されることを特徴とする請求項12~15のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項17】
前記強誘電体層を構成する前記金属酸化物の金属が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)またはこれらの2種の金属を含むか、又は、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)またはこれらの2種の金属と、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素とを含むことを特徴とする請求項12~16のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項18】
前記第1の導電層は、蛍石構造を有する金属シリサイドもしくは金属ダイシリサイド、または金属窒化物、または不純物を含むSiもしくはGe、またはSOI(Silicon on Insulator)であることを特徴とする請求項12~17のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項19】
前記アレイは、前記不揮発性記憶素子を少なくとも含む強誘電体メモリセルから構成され、前記強誘電体メモリセルは、1トランジスタ型、1トランジスタ1キャパシタ型、2トランジスタ2キャパシタ型、2トランジスタ1キャパシタ型、1トランジスタ2キャパシタ型、強誘電体トンネル接合(FTJ)型のいずれかの構造を含むことを特徴とする請求項12~18のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項20】
前記アレイは、NOR型アレイ、2次元NAND型アレイ、3次元NAND型構造、またはクロスポイント型アレイから構成されることを特徴とする請求項12~19のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項21】
前記不揮発性記憶素子は、ロジック回路の上部に位置するバックエンド配線領域に強誘電体素子単体またはアレイとして配置され、ロジック回路の一部に接続されることを特徴とする請求項12~20のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項22】
前記不揮発性記憶素子とロジック回路との接続において、不揮発性記憶素子とロジック回路との接続配線の間に選択素子を配置させることを特徴とする請求項21に記載の不揮発性記憶装置。
【請求項23】
第1の導電層、
第2の導電層、及び
前記第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層
を少なくとも有する不揮発性記憶素子の製造方法であって、
前記強誘電体層と前記第1の導電層及び/又は前記第2の導電層との間に、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を作製すること、
前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に、単層膜または多層膜から構成される界面層を作製すること、ここに、前記界面層は全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し、前記界面層は、前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に前記バッファ層が存在する場合には、前記第1の導電層と前記バッファ層の間に存在し、及び
前記第1の導電層の上部に前記強誘電体層を400℃以下の温度で作製して、前記強誘電体層が、前記強誘電体層より上部に前記第2の導電層を作製する前に、強誘電性を示すようにすること
を特徴とする不揮発性記憶素子の製造方法。
【請求項24】
既に強誘電性を示す前記強誘電体層を400℃以下の不活性ガス雰囲気で熱アニール処理することを特徴とする請求項23に記載の不揮発性記憶素子の製造方法。
【請求項25】
前記第1の導電層上に、前記界面層、前記強誘電体層及び前記バッファ層を、前記バッファ層は前記強誘電体層の上部及び/又は下部にあってよいが、同一チャンバー内で連続的に作製することを特徴とする請求項23又は24に記載の不揮発性記憶素子の製造方法。
【請求項26】
前記強誘電体層を、前記第1の導電層を下部電極として、その上部に原子層成膜法(ALD法)、CVD法、スパッタ法または自己組織化法を用いて作製することを特徴とする請求項23~25のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子の製造方法。
【請求項27】
第1の導電層と、
第2の導電層と、
前記第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層と
から構成されることを特徴とする不揮発性記憶素子の動作方法であって、
前記強誘電体層と前記第1の導電層及び/又は前記第2の導電層との間に、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を有すること、
前記強誘電体層は複数の分極の配向を有する多結晶から構成され、膜面に垂直の成分が最も大きい配向を有する結晶が分極反転する動作電圧を素子の動作電圧とすること、及び 前記不揮発性記憶素子が、前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に、単層膜または多層膜から構成される界面層を有し、前記界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し、前記界面層は、前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に前記バッファ層が存在する場合には、前記第1の導電層と前記バッファ層の間に存在すること特徴とする不揮発性記憶素子の動作方法。
【請求項28】
第1の導電層と、
第2の導電層と、
前記第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層と
から構成されることを特徴とする不揮発性記憶素子の動作方法であって、
前記強誘電体層と前記第1の導電層及び/又は前記第2の導電層との間に、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を有すること、及び
前記強誘電体層は複数の分極の配向を有する多結晶から構成され、膜面に垂直の成分が最も大きい配向を有する結晶だけが分極反転する動作電圧を素子の動作電圧とすることを特徴とする不揮発性記憶素子の動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不揮発性記憶装置、特に不揮発性強誘電体記憶装置、不揮発性強誘電体記憶素子及びその製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
スマート社会実現に向けて、今後爆発的に増大する情報に対応した情報処理量、記憶容量の指数関数的な増大に伴い、クラウドに対するエッジ領域でのIoT/AIエッジデバイスの研究開発が活性化している。このような状況のもと、高速、大容量、低消費電力、高信頼性の不揮発性記憶装置、特に、低消費電力、高信頼性の不揮発性メモリ、不揮発性ワーキングメモリの実現が求められている。
【0003】
また、トランジスタの微細スケーリングの進展とともに既存の揮発性メモリであるDRAM、SRAMの待機状態でのリーク電流増大に起因した消費電力の増大が大きな問題となっている。このため、揮発性メモリの待機電力を低減するため、トランジスタのリーク電流が抑止可能な不揮発性メモリで揮発性メモリを置き換える研究開発が活性化している。
【0004】
このため、特にロジック混載型の不揮発性メモリにおいて、従来のFG(Floating Gate)型やMONOS(Metal/Oxide/Nitride /Oxide/Silicon)型のフラッシュメモリとともに、新規材料を用いたフラッシュメモリとは異なつた記憶動作原理による微細化に優れた新規不揮発性メモリとして、ReRAM(Resistive Random Access Memory)、PCRAM(Phase Change Random Access Memory)、MRAM(Magnetic Random Access Memory)等が世界的に検討されている。
【0005】
これら新規不揮発性メモリでは、原理的に待機電流はゼロになり、待機電力をゼロに低減できるが、情報の書き込みを行うための動作電力が相対的に大きいことが課題になっていた。一方で、電圧駆動で上記新規不揮発性メモリと比較しても低消費電力の動作電力が期待される不揮発性メモリとしてFeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)がこれまで検討されてきた。メモリとしての動作原理に強誘電体材料の分極反転を用いる既存のPZT等材料を用いた強誘電体メモリ(FeRAM)は、130nm以上のノードでは高速、低消費電力用不揮発性メモリとして実用化されてきた。しかし、鉛など取り扱い困難な材料を含む問題や、強誘電体性を発現するサイズ効果により100nm以下の薄膜化が困難で、その結果として90nm世代以下の微細スケーリングが困難であるという問題があった。このため、RFID(Radio Frequency Identification)カードなど小規模メモリを搭載する小規模低消費電力用途等の限られた用途に実用化されるにとどまっていた。
【0006】
そのような状況の中、PZT材料のように鉛などを含まず、90nm以下の微細化スケーリングが可能で、低電圧動作、低消費電力化が可能な強誘電体材料として、酸化ハフニウム(HfO)膜が報告された。(非特許文献1)。その後、この強誘電性酸化ハフニウム膜を用いた強誘電体メモリの研究開発が2011年以降活発化している。
【0007】
酸化ハフニウムの強誘電体と同じ蛍石型の直方晶(斜方晶)の金属酸化物として、特にハフニウム、ジルコニウム又はこれらの2種を含む金属酸化物、またこれらのハフニウム系金属酸化物に、アルミニウム,ケイ素、ストロンチウム、バリウム及び希土類元素から選ばれた少なくとも1種の金属元素をさらに含む金属酸化物の強誘電体、強誘電体薄膜でも、酸化ハフニウムと同様に薄い膜厚で強誘電性を示すことが報告されている。
【0008】
一方で、揮発性ワーキングメモリの低消費電力化のための揮発メモリ代替のために不揮発性ワーキングメモリとして、STTMRAMの研究開発がなされているが、情報の書き込み電力が相対的に大きいとの問題が顕在化している。また特に、不揮発性ワーキングメモリ用途では、信頼性特に、データ書換え(Endurance)回数の向上改善が大きな課題となっている。
【0009】
このように酸化ハフニウム系不揮発性強誘電体メモリは、薄膜化しても強誘電性を示すので、スケーラブルであり、CMOSなどのバックエンドに混載可能な不揮発性強誘電体メモリとして期待されるが、既存のSRAM等に代替できる低消費電力の不揮発性ワーキングメモリを実現するためには、信頼性、特に書き換え特性(Endurance)の向上が課題である。高信頼性の酸化ハフニウム系強誘電体メモリとして、サブ単層ドーピング技術を用いてAlナノクラスターを埋設したHf0.5Zr0.5強誘電体膜が報告されている(非特許文献2)。しかしながら、非特許文献1の強誘電体膜の書き換え特性は10~10回のオーダーであり、既存の揮発性メモリであるのDRAM,SRAM等と比べて未だに不十分である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】[1] T. S. Boscke, et al., Appl. Phys. Lett. 99, 112904 (2011)
【文献】T.Yamaguchi et al., "Highly Reliable Ferroelectric Hf0.5Zr0.5O2 Film with Al Nanoclusters Embedded by Novel Sub-Monolayer Doping Technique" 2018 IEEE (IEDM18-165-168)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、低消費電力である電圧駆動、不揮発性の強誘電体メモリであって、既存揮発性メモリSRAM,DRAM等を代替可能な信頼性、特にデータ書換え特性(Endurance)を有する不揮発性メモリ及びその製造方法を提供すること、好ましくは、さらに、先端CMOSに混載可能なプロセス温度400℃以下の温度でも製造可能でかつ先端CMOSプロセス温度への十分な耐熱性を有する不揮発性強誘電体メモリ、また高速動作、低コストも可能な不揮発性強誘電体メモリ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電圧駆動、不揮発性の強誘電体メモリ、特にスケーラブルで薄膜化しても強誘電体性を発現することが可能な酸化ハフニウム系強誘電体メモリにおいて、その重要課題である信頼性、特にデータ書換え回数を向上させる不揮発性記憶素子及び不揮発性記憶装置の構造と作製方法を提供する。
【0013】
(態様1)
第1の導電層、
第2の導電層、及び
前記第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層
を少なくとも有する不揮発性記憶素子において、
前記強誘電体層と前記第1の導電層及び/又は前記第2の導電層との間に、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層が存在することを特徴とする不揮発性記憶素子。
(態様2)
前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に、単層膜または多層膜から構成される界面層を有し、前記界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し、前記界面層は、前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に前記バッファ層が存在する場合には、前記第1の導電層と前記バッファ層の間に存在すること特徴とする態様1に記載の不揮発性記憶素子。
(態様3)
前記バッファ層の酸素の化学ポテンシャルは、前記強誘電体層の酸素の化学ポテンシャルよりも大きいことを特徴とする態様1又は2に記載の不揮発性記憶素子。
(態様4)
前記バッファ層の酸素空孔欠陥密度は、前記強誘電体層の酸素空孔欠陥密度よりも小さいことを特徴とする態様1~3のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
(態様5)
前記バッファ層は、セリウム酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、イットリア安定化ジルコニアまたは希土類元素酸化物から構成されることを特徴とする態様1~4のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
(態様6)
前記バッファ層は、セリウム酸化物から構成されることを特徴とする態様5に記載の不揮発性記憶素子。
(態様7)
前記バッファ層の膜厚は0.1nm以上で、望ましくは10nm以下であること特徴とする態様1~6のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
(態様8)
前記界面層は、前記強誘電体層より前記第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有する特徴とする態様2~7のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
(態様9)
前記界面層は、シリコン窒化物の誘電率より大きい誘電率を有する、酸化物、金属酸化物またはシリケート、特にイットリウム酸化物またはイットリウムシリケートから構成されることを特徴とする態様2~8のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
(態様10)
前記強誘電体層を構成する前記金属酸化物の金属が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)またはこれらの2種の金属を含むか、又は、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)またはこれらの2種の金属と、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素とを含ことを特徴とする態様1~9のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
(態様11)
前記第1の導電層は、蛍石構造を有する金属シリサイドもしくは金属ダイシリサイド、または金属窒化物、または不純物を含むSiもしくはGe、またはSOI(Silicon on Insulator)であることを特徴とする態様1~10のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
(態様12)
前記第2の導電層は、バッファ層と接続し酸素移動を抑止するバリア金属と金属窒化物、特に、WとTiNの2層構造を有することを特徴とする態様1~11のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子。
(態様13)
i)第1の導電層、第2の導電層、及び前記第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層を少なくとも有する不揮発性記憶素子が2次元または3次元に配置されたアレイと、
ii)制御回路と
を少なくとも具備する不揮発性記憶装置であって、
前記強誘電体層と前記第1の導電層及び/又は前記第2の導電層との間に、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層が存在することを特徴とする不揮発性記憶装置。
(態様14)
前記不揮発性記憶素子の前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に、単層膜または多層膜から構成される界面層を有し、前記界面層全体としては酸化シリコンより高い誘電率を有し、前記界面層は、前記第1の導電層と前記強誘電体層の間に前記バッファ層が存在する場合には、前記第1の導電層と前記バッファ層の間に存在すること特徴とする態様13に記載の不揮発性記憶装置。
(態様15)
前記バッファ層は、セリウム酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、イットリア安定化ジルコニアまたは希土類元素酸化物から構成されることを特徴とする態様13又は14に記載の不揮発性記憶装置。
(態様16)
前記バッファ層は、セリウム酸化膜から構成されることを特徴とする態様15に記載の不揮発性記憶装置。
(態様17)
前記界面層は、前記強誘電体層より第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有する特徴とする態様14~16のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置
(態様18)
前記界面層は、誘電率がシリコン窒化物より大きい誘電率を有する、酸化物、金属酸化物またはシリケート、特にイットリウム酸化物、イットリウムシリケートから構成されることを特徴とする態様14~17のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
(態様19)
前記強誘電体層を構成する前記金属酸化物の金属が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)またはこれらの2種の金属を含むか、又は、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)またはこれらの2種の金属と、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素とを含むことを特徴とする態様13~18のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
(態様20)
前記第1の導電層は、蛍石構造を有する金属シリサイドもしくは金属ダイシリサイド、または金属窒化物、または不純物を含むSiもしくはGe、またはSOI(Silicon on Insulator)であることを特徴とする態様13~19のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
(態様21)
前記アレイは、前記不揮発性記憶素子を少なくとも含む強誘電体メモリセルから構成され、前記強誘電体メモリセルは、1トランジスタ型、1トランジスタ1キャパシタ型、2トランジスタ2キャパシタ型、2トランジスタ1キャパシタ型、1トランジスタ2キャパシタ型、強誘電体トンネル接合(FTJ)型のいずれかの構造を含むことを特徴とする態様13~20のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
(態様22)
前記アレイは、NOR型アレイ、2次元NAND型アレイ、3次元NAND型構造、またはクロスポイント型アレイから構成されることを特徴とする態様13~21のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
(態様23)
前記不揮発性記憶素子は、ロジック回路の上部に位置するバックエンド配線領域に強誘電体素子単体またはアレイとして配置され、ロジック回路の一部に接続されることを特徴とする態様13~22のいずれか一項に記載の不揮発性記憶装置。
(態様24)
前記不揮発性記憶素子とロジック回路との接続において、不揮発性記憶素子とロジック回路との接続配線の間に選択素子を配置させることを特徴とする態様23に記載の不揮発性記憶装置。
(態様25)
第1の導電層、
第2の導電層、及び
前記第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層
を少なくとも有する不揮発性記憶素子の製造方法であって、
前記強誘電体層と前記第1の導電層及び/又は前記第2の導電層との間に、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を作製すること、及び
前記第1の導電層の上部に前記強誘電体層を400℃以下の温度で作製して、前記強誘電体層が、前記強誘電体層より上部に前記第2の導電層を作製する前に、強誘電性を示すようにすること
を特徴とする不揮発性記憶素子の製造方法。
(態様26)
既に強誘電性を示す前記強誘電体層を400℃以下の不活性ガス雰囲気で熱アニール処理することを特徴とする態様25に記載の不揮発性記憶素子の製造方法。
(態様27)
前記第1の導電層上に、前記界面層、前記強誘電体層及び前記バッファ層を、前記バッファ層は前記強誘電体層の上部及び/又は下部にあってよいが、同一チャンバー内で連続的に作製することを特徴とする態様25又は26に記載の不揮発性記憶素子の製造方法。
(態様28)
前記強誘電体層を、前記第1の導電層を下部電極として、その上部に原子層成膜法(ALD法)、CVD法、スパッタ法または自己組織化法を用いて作製することを特徴とする態様25~27のいずれか一項に記載の不揮発性記憶素子の製造方法。
(態様29)
第1の導電層と、
第2の導電層と、
前記第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層と
から構成されることを特徴とする不揮発性記憶素子の動作方法であって、
前記強誘電体層と前記第1の導電層及び/又は前記第2の導電層との間に、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を有すること、及び
前記強誘電体層は複数の分極の配向を有する多結晶から構成され、膜面に垂直の成分が最も大きい配向を有する結晶だけが分極反転する動作電圧を素子の動作電圧とすることを特徴とする不揮発性記憶素子の動作方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果は本明細書の他の箇所及び図面に開示されており、限定されないが、例えば、下記を含む。基板上に第1の導電層と第2の導電層の間に形成される強誘電体層から構成される酸化ハフニウム系強誘電体メモリにおいて、強誘電体層と第1の導電層及び/又は第2の導電層との間に、CeO等の酸素イオン供給能力を持つ複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を有する不揮発性記憶素子または記憶装置が提供される。
【0015】
また、プロセス温度を400℃以下とすることが可能な低温形成強誘電性薄膜作製技術により、先端CMOSのバックエンド配線層に形成可能でかつ、既存PZT等での強誘電体メモリでは不可能であった90nm以下の微細CMOSへの混載を可能にする。
【0016】
本発明の記憶素子及び記憶装置では、データ書換え時の電界ストレスにより強誘電体層中または電極界面に形成される酸素欠陥をバッファ層より酸素イオンを供給して強誘電体層中または界面の酸素欠陥を修復してリーク電流、強誘電体膜質等を改善し、その結果として、大幅にデータ書換え回数が改善され、例えば1011回以上、また1012回以上のデータ書換え回数を実現できる。
【0017】
さらに、ハフニウム系強誘電体層と類似した蛍石構造の第1の導電層、例えばNiSiを採用してより高品質な強誘電体層を実現し、かつ第1の導電層と強誘電体層との間にシリコン酸化膜より誘電率が相対的に高いYシリケート、Hfシリケート、Zrシリケート、Y等の界面層を挿入することにより、低電圧で強誘電体層に分極反転電界を印加することが可能になり、その結果として、低消費電力で書き換え回数が大幅に改善されるという特有の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)(b)(c)は、実施例1の不揮発性記憶素子の例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施例1の不揮発性記憶素子の分極-電界ヒステリシス曲線を示すグラフである。
図3図3は、実施例1の不揮発性記憶素子の強誘電体層であるY7%-HfO層のX線回折分析チャートである。
図4図4は、実施例1の不揮発性記憶素子の電流電圧特性を示すグラフである。
図5図5は、実施例1のY7%-HfO層が強誘電体層であることを示している。
図6図6は、実施例1の不揮発性記憶素子の自発分極のアニール温度依存性を示すグラフである。
図7図7は、実施例1の不揮発性記憶素子の書き換え特性の低温アニール温度依存性である。
図8図8は、実施例1の不揮発性記憶素子の書き換え10回後の室温データ保持特性である。
図9図9は、実施例1の不揮発性記憶素子の書き換え特性を示すグラフである。
図10図10(a)(b)は、実施例1の不揮発性記憶素子の例の模式断面図である。
図11図11は、実施例1の不揮発性記憶素子の分極-電界ヒステリシス曲線を示すグラフである。図11(a)は、バッファ層なし、図11(b-1)~(b-3)はバッファ構造A、図11(c-1)~(c-3)はバッファ構造Bのそれぞれの不揮発性記憶素子の分極-電界ヒステリシス曲線である。
図12図12は、実施例1の不揮発性記憶素子の書き換え特性を示すグラフである。
図13図13(a)(b)(c)は、実施例1の不揮発性記憶素子の強誘電体層の配向角に基づく動作方法を説明するための図であり、(a)は強誘電体層の結晶粒の配向を示し、(b)は印加電圧(動作電圧)に対する蓄積電荷量の変化を示すグラフチャート、(c)は動作方法の違いに基づく書き換え特性を示すグラフである。
図14図14(a)(b)は、実施例2の第1の実施形態である不揮発性記憶素子の例を模式的に示す断面図である。
図15図15は、実施例2の不揮発性記憶素子の電流電圧特性を示すグラフである。
図16図16は、実施例2の不揮発性記憶素子のリーク電流のバッファ層のCeO層の厚さに対する依存性を示す。
図17図17は、実施例2の不揮発性記憶素子の書き換え特性を示すグラフである。
図18図18は、実施例2の不揮発性記憶素子のデータ保持特性を示すグラフである。
図19図19は、実施例2の不揮発性記憶素子の書き換え特性を示すグラフである。
図20】20は、実施例2の不揮発性記憶素子の書き換え特性を示すグラフである。
図21図21は、実施例2の不揮発性記憶素子の例の模式断面図である。
図22図22(a)(b)は、実施例3の1T型メモリセルの例を模式的に示す断面図である。
図23図23(a)(b)は、図22の1T型メモリセルの動作原理を示す模式図であり、図23(c)はそのトランジスタのドレイン電流-ゲート電圧特性を示すグラフである。
図24図24(a)(b)は、実施例3の1T1C型メモリセルの例を模式的に示す断面図及び回路図である。
図25図25(a)は実施例3の2T2C型メモリセルの回路図、図25(b)は2T2C型メモリセルの書込み動作及び読み出し動作を表す図である。
図26図26は、実施例3のNOR型メモリセルアレイの例の回路図である。
図27図27は、NOR型メモリセルアレイの一部の回路図である。
図28図28は、実施例4のNANDメモリセルの回路図である。
図29図29は、実施例4のNANDメモリセルアレイの概念図である。
図30図30は、3次元縦型NANDメモリセルアレイの構造図である。
図31図31は、3次元縦型NANDメモリセルアレイの断面図である。
図32図32は、実施例5のトンネル接合素子(FJT)の原理説明図である。
図33図33は、トンネル接合素子のデータ書き換えの問題点を説明する図である。
図34図34は、実施例5のクロスポイントメモリの概念図である。
図35図35は、実施例5のクロスポイントメモリセルアレイを示す図である。
図36図36は、実施例5のクロスポイントメモリのニューロモルフィック応用の図である。
図37図37は、実施例6の不揮発性SRAMの概念図である。
図38図38は、実施例6の不揮発性SRAMの回路図である。
図39図39は、実施例6の不揮発性ロジックの回路図である。
図40図40は、実施例6の不揮発性SRAM(6T4C型))の回路図である。
図41図41は、実施例6の不揮発性SRAM(6T2C型))の回路図である。
図42図42は、実施例6の不揮発性マイクロコントローラの概念図である。
図43図43は、実施例6の積層型の低消費電力不揮発性LSIチップの概念図であり、図43(a)は画像センサアレイと低消費電力強誘電体メモリ混載デバイスの2層積層型、図43(b)は画像センサアレイ、超低消費電力不揮発性強誘電体メモリ、超低消費電力ロジックの3層積層型を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例及び実施形態を限定する意図なく、図面を参照して説明する。
〔実施例1;バッファ層を有する強誘電体記憶素子〕
本発明の実施例1は、第1の導電層、第2の導電層、及び第1の導電層と第2の導電層の間の金属酸化物から構成される強誘電体層を少なくとも有する不揮発性記憶素子において、強誘電体層と第1の導電層及び/又は第2の導電層との間に酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層が存在することを特徴とする不揮発性記憶素子を提供する。
【0020】
本発明の実施例1の不揮発性記憶素子によれば、強誘電体層と第1の導電層及び/又は第2の導電層(以下、単に導電層ともいう。)の間に酸素イオン導電性を持つバッファ層が存在することによって、リーク電流を低減し、データ書換え特性を改良することができる。金属酸化物で構成される強誘電体の分極を記憶に用いる強誘電体記憶素子は、電圧で駆動されるため書き込み電流が極めて小さく、しかも不揮発性の記憶素子であるので、低消費電力であることが可能であるが、主として欠陥に起因するリーク電流や、特に信頼性、特にデータ書換え特性(Endurance)のブレークスルーが課題であった。強誘電体記憶素子は、金属酸化物強誘電体の分極の反転によって情報を記憶するので、データ書き換え時の電界ストレスにより強誘電体層中又は導電体層と強誘電体層の界面において酸素欠陥が発生することが、リーク電流、特に信頼性、データ書換え特性に問題を起こす原因であると考えられる。理論に拘束されることを意図しないが、本発明の実施例1では、強誘電体層と導電層の間に酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を存在させることで、金属酸化物強誘電体層又は導電体層と強誘電体層の界面にバッファ層から酸素イオンが補給され、酸素欠陥量が制御されて、膜質が改善される。その結果として、リーク電流が防止され、強誘電体記憶素子の信頼性、データ書換え特性が改良されると考えられる。
【0021】
図1(a)(b)(c)に、本発明の実施例1の不揮発性記憶素子の例を模式的に断面図で示す。図1(a)(b)(c)において、1は強誘電体層、2は第1の導電層、3は第2の導電層、4はバッファ層である。図1(a)では、バッファ層4は、誘電体層1と第2の導電層3の間にあるが、図1(b)に示すように誘電体層1と第1の導電層2の間にあってもよく、さらには、図1(c)に示すように誘電体層1と第1の導電層2の間並びに誘電体層1と第2の導電層3の間の両方にあってもよい。これらの場合、特に、第1の導電層2は下部電極、第2の導電層3は上部電極であってよい。しかし、第1の導電層2が上部電極、第2の導電層3が下部電極であってもよい。バッファ層4の位置は、どちらの電極側にあっても、本発明の望ましい作用効果が得られ、2つあれば相乗効果が得られ得る。
【0022】
本発明において強誘電体層1は、強誘電性を示すものである。強誘電体は、外部に電界がなくでも電気双極子が整列しており、かつ双極子の向きを電界によって制御できる物質である。強誘電体は、図2の分極-電界ヒステリシス曲線を参照すると、電界Eとして電極に電圧+VCCを印加すると点Cの正の分極が達成され、点Cから電界Eをゼロに戻しても、正の分極Aが残留する(残留分極A)。そして、残留分極Aを有する強誘電体にマイナスの電界Eを印加すると、電界-Bで分極はゼロになり(抗電界B)、さらに電圧-VCCを印加したときに点Dの負の分極が達成される。点Dから電界Eをゼロに戻しても、負の分極-Aが残留する(残留分極A)。負の残留分極Aを有する強誘電体にプラスの電界Eを印加すると、プラスの電界Bで分極はゼロになり(抗電界B)、電界Eとしてさらに電圧VCCを印加するとき点Cの正の分極が達成される。したがって、強誘電体に抗電界Bより大きいプラス及びマイナスの電界を印加することで、電界をゼロに戻しても、強誘電体に正及び負の分極(残留分極)を残すことができる。正及び負の分極を有する強誘電体は、分極方向に非対称な電気特性を有するので、その電気双極子の整列の向き(正又は負の分極)は外部から電気的に読み取ることができる。この強誘電性を利用して記憶素子を構成すると、正又は負の分極は電界を印加していないときにも保持されるので、不揮発性の記憶素子を構成することができ、消費電力を減少させることが可能である。また、強誘電体記憶素子のデータ書き換えは電圧印加によって駆動する電圧駆動型である。このため、電流を用いて駆動する電流駆動型の他のエマージングメモリと比べて、強誘電体記憶素子の書き込み電流は極めて小さく、その結果として書き込み動作時の消費電力を低減させることが可能である。
【0023】
本発明において強誘電体層1は、金属酸化物から構成される強誘電体層である。強誘電体層1は、好ましくは、蛍石型の直方晶(斜方晶)相の金属酸化物から構成された強誘電体によって構成される。特に、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上、好ましくはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種の元素を含む金属酸化物は、ドープ又はノンドープで、蛍石型の直方晶相を示す強誘電体を形成できるので、好適である。また、ノンドープでも、作成条件によって強誘電体を形成できる。さらに、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上、好ましくはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種と、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素(添加金属)とを含む金属酸化物が、好適である。以下において、これらの添加金属を含んでもよい、ハフニウム、ジルコニウム、セリウムを含む金属酸化物を、ハフニウム系金属酸化物(又は酸化ハフニウム系金属酸化物)と称することもある。特にハフニウム系金属酸化物強誘電体は、10nm以下の薄い膜厚でも優れた強誘電体特性を示すので、強誘電体記憶素子としてスケーラブルであり、メモリアレイの高密度化が可能であるとともに、400℃以下、さらに300℃未満、200℃以下の温度及び熱履歴でも作成できるので、CMOSなど先端ロジックデバイスとの混載を可能にする効果がある。
【0024】
ハフニウム系金属酸化物において主たる金属酸化物は、ハフニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、セリウム酸化物のような単純酸化物のほか、これらの金属酸化物の間の固溶体でもよい。ハフニウム系金属酸化物が添加金属を含むとき、添加金属の量は、主たる金属酸化物や添加金属の種類に依存するが、強誘電体を形成する量であればよく、一般的には、添加金属のモル数が、添加金属を含む金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として、好ましくは10モル%以下、0.1~10%がより好ましく、4~9モル%でもよい。添加金属量が少ないと、単斜晶相を持つ蛍石型構造が安定化するおそれがあり、一方、添加金属量が多いと正方晶相もしくは立方晶相を持つ蛍石型構造が安定化するおそれがあり、強誘電体でなくなる恐れがある。例えば、典型的なハフニウム系強誘電体材料としては、YドープHfO2、SiドープHfO2、AlドープHfO2、LaドープHfO、及び、HZO(Hf0.5Zr0.5)等がある。
【0025】
強誘電体層1は、強誘電性を発現する結晶であればよく、多結晶でよいが、一軸配向性結晶薄膜でもよく、さらにはエピタキシャル膜であってもよい。ある結晶基体の上に他の結晶膜が成長する場合に、結晶膜と結晶基体とで結晶の一つの結晶軸がほぼ合致して成長していることを一軸配向性配向層、結晶の二つの結晶軸がほぼ合致して成長していることをエピタキシャル層という。結晶粒ごとにエピタキシャル成長した”ローカルエピタキシャル成長“をさせた層や、エピタキシャル成長した結晶粒が実質的な大きさを有する単結晶のエピタキシャル層も形成可能である。また、一軸配向性結晶層は、本来、結晶基体との関係で結晶の配向を指称すものであるが、得られた一軸配向性結晶層の特有の結晶配向に基づいて、結晶基体から分離された結晶層単独における結晶配向性についても一軸配向性と指称されることがある。
【0026】
強誘電体層1の膜厚は、不揮発性記憶素子の用途に応じて、好適な膜厚が採用されるので、特には制約されないが、例えば、1nm以上、さらに5nm以上、10nm以上であってよい。また、上限も制約されないが、例えば、5μm以下、3μm以下、1μm以下であってよい。本発明の好ましい態様において、強誘電体層1の膜厚は、1nm~100nm、より好ましくは2nm~50nm、さらに3nm~20nm又は3nm~10nmであってよい。上記のハフニウム系金属酸化物は、従来のPZTなどの強誘電体と比べて、20nm以下のような薄い膜厚でも優れた強誘電性を示すので、不揮発性記憶素子用の強誘電体層としてスケーラブルであり、好適である。
【0027】
図3に、強誘電体層1の1例として、室温でNiSi2基板上にスパッタ堆積後、200℃アニール後、350℃アニール後のY7%-HfO層をX線回折分析して得られたチャートを示す。図3から、Y7%-HfO薄膜がいずれも、30°付近に1つの回折ピークが観測され、蛍石型の直方晶であること、強誘電体であること(図5も参照)が、確認される。
【0028】
第1の導電層2、第2の導電層3は、強誘電体層1に電圧を印加するための電極として作用するものであり、金属、導電性セラミックス、導電性半導体などからなることができる。金属としては、タングステン、チタン、金、銀、銅、白金、アルミニウムなど、導電性セラミックスとしては、ニッケルダイシリサイド(NiSi)のような導電性シリサイド、窒化チタン(TiN)などの導電性窒化物、インジウム錫酸化物(ITO)などの導電性酸化物、BiRu、RRu(Rは希土類元素)、BiIr、希土類イリジウム酸化物RIr(Rは希土類元素)などのパイクロア構造物などがある。また導電性半導体としてドープト又は真正シリコン半導体、各種の化合物半導体などを挙げることができる。第1の導電層2、第2の導電層3は、強誘電体層1に電気的に接続されていればよい。また、強誘電体層1の上に形成する導電層(上部電極)としては、タングステン、TiN、及びTiN/Wの多層電極は好ましい。
【0029】
1つの好ましい態様において、第1の導電層2及び第2の導電層3は強誘電体層1との界面側に、特に第2の導電層(上部電極)3を強誘電体層1の上に形成する場合における第2の導電層3の強誘電体層1との界面側に、酸素移動を抑止する酸素バリア性を有する導電性材料、例えば、タングステン(W)などをバリア層として形成もよい。第1の導電層2及び第2の導電層3が酸素バリア層を有することで、バッファ層、強誘電体層1から酸素イオンが拡散漏出して酸素欠陥が生成することを抑制する効果、リーク電流を防止する効果があり、本発明の不揮発性記憶素子の性能を向上させる効果がある。バリア層の厚さは、好ましくは、0.1nm以上であり、さらに0.5nm以上、1nm以上、1.5nm以上であってよい。また、バッファ層4の膜厚は、望ましくは10nm以下であり、さらには6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下であってよい。第2の導電層は、バッファ層と接続し酸素移動を抑止するバリア金属と金属窒化物、特に、WとTiNの2層構造を有することが好ましい。
【0030】
第1の導電層2は、強誘電体層1を堆積する基材となる下部電極である場合、蛍石型構造である導電層、例えば、ニッケルダイシリサイド(NiSi)などの金属シリサイド、金属ダイシリサイドであることが好ましい。基材となる第1の導電層がニッケルダイシリサイド(NiSi)などの金属シリサイド、金属ダイシリサイドであると、その上に堆積するハフニウム系金属酸化物の結晶品質に優れることができるので、強誘電体層及び強誘電体層界面の特性に優れることができる。また、キャパシタ等の2端子セルの場合はTiN等の窒化物電極、一方で、1トランジスタセルの場合はSi等の半導体層に不純物をドーピングした導電層でも可能である。
【0031】
本発明の不揮発性記憶素子では、強誘電体層1と第1の導電層2及び/又は第2の導電層3の間に酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層4が存在する。ここにおいて、第1の導電層2と第2の導電層3とはどちらも差異はなく、要するに、2つの導電層のうち少なくとも一方の導電層と強誘電体層1との間にバッファ層4が存在する。バッファ層4は強誘電体層1と直接に接触して存在することが好ましい。
【0032】
バッファ層4は、酸素イオン導電性を示し、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物である常誘電体材料(絶縁体材料)からなる。バッファ層4は、常誘電体材料(絶縁体材料)であるが、酸素イオン導電性を有するものである。バッファ層4は、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物から構成されている。酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物から構成されていることで、強誘電体層1との間で酸素の供受、特に供与を行うことができ、強誘電体層1又は強誘電体層1と導電層との界面におけるデータ書き換え時の電界ストレスによる酸素欠陥を防止又は修復する機能があり、それによってリーク電流を低減し、強誘電体特性が改良され、抗電界が小さくでき、書き換え特性が改良されるなどの優れた効果を発揮する。本発明において、バッファ層4は、酸素欠陥を防止又は修復するために酸素イオン導電性を示すものでなければならないが、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であることにより、この目的のための酸素イオン導電性に優れることができる。
【0033】
バッファ層4の酸素の化学ポテンシャルは、強誘電体層1の酸素の化学ポテンシャルよりも大きいことが好ましい。バッファ層4の酸素の化学ポテンシャルが強誘電体層1の酸素の化学ポテンシャルよりも大きいと、バッファ層4から強誘電体層1中に酸素イオンが拡散またはドリフト他により容易に移動して、強誘電体層1又は強誘電体層1と導電層との界面における酸素欠陥量を制御することができる。
【0034】
バッファ層や強誘電体層の酸素の化学ポテンシャルは、材料によって決まり、知られているか、分子軌道法、第一原理計算等の理論的な手法による計算によっても求めることができる。バッファ層の方が強誘電体層より酸素の化学ポテンシャルが大きい場合、酸素イオンはバッファ層より強誘電体層へ拡散、ドリフト他の原理により移動することができると本発明では定める。その場合、バッファ層を構成する複数の原子価を有する金属元素の原子価は酸素イオンを供給する方向に変化する。
【0035】
バッファ層4の酸素空孔欠陥密度は、強誘電体層1の酸素空孔欠陥密度よりも小さいことが好ましい。バッファ層4の酸素空孔欠陥密度が強誘電体層1の酸素空孔欠陥密度よりも小さいと、バッファ層4から強誘電体層1中に酸素イオンが拡散、ドリフト他の原理により容易に移動して、強誘電体層1又は強誘電体層1と導電層との界面における酸素欠陥を防止又は修復することができる。
【0036】
バッファ層や強誘電体層の酸素空孔欠陥密度は、例えば、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)で観察する像を用いた電子エネルギー損失分光(Electron Energy-Loss Spectroscopy:EELS)によって測定ことができる。また、酸素欠損があると酸素欠損に相当した化学量論組成からのズレが発生するので、例えば、試料表面をグロー放電しながら深さ方向にスパッタリングし、グロー放電によってイオン化して質量分析するグロー放電発光分光(Glow Discharge Spectroscopy:GDS)によって深さ方向の組成分析を行うことで、酸素空孔欠陥密度を測定してもよい。さらに、酸素空孔欠陥密度は、非ラザフォード弾性共鳴散乱法およびレーザラマン分光法を用いて評価することもできる。
【0037】
バッファ層4の酸素イオン導電性を示し、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物である常誘電体材料(絶縁体材料)としては、例えば、セリウム酸化膜(CeOx(x=1.5-2.0、好ましくは1.6-2.0、さらに1.7-2.0、特に1.8-2.0))のほか、ジルコニウム酸化膜、チタン酸化膜、イットリア安定化ジルコニア膜または希土類元素酸化膜などが適用可能である。特に、強誘電体層1がハフニウム酸化膜、ジルコニウム酸化膜(Zr)またはハフニウムとジルコニウムの酸化物、又はこれらに、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、イットリウム(Y)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)他がドープされて強誘電体性を発現する場合、バッファ層4としては、セリウム酸化膜(CeOx(x=1.5-2.0、好ましくは1.6-2.0、さらに1.7-2.0、特に1.8-2.0))が好ましい。バッファ層4としてのセリウム酸化膜は常誘電体材料である。
【0038】
バッファ層4の膜厚は、好ましくは、0.1nm以上であり、さらに0.5nm以上、1nm以上、1.5nm以上であってよい。また、バッファ層4の膜厚は、望ましくは10nm以下であり、さらには6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下であってよい。バッファ層4は強誘電体層1中に酸素イオンを供給できる層厚があればよい一方、バッファ層4は絶縁体材料であるから、導電性を大きく損なわない層厚であることが好ましい。
【0039】
強誘電体層1とバッファ層4を形成後に、400℃以下のアクティベーションアニール(AAアニール)処理を施してよく、強誘電体層1及び不揮発性記憶素子の特性の向上が見られる。バッファ層4を形成後のアクティベーションアニール処理は、形成したバッファ層4の上部に電極を形成する前でも後であってもよいが、1つの好ましい態様においてバッファ層4の上部に電極を形成する前であることができ、もう1つの好ましい態様においてバッファ層4の上部に電極を形成した後であることができる。
【0040】
本発明の実施例1の不揮発性記憶素子において、強誘電体層1と第1の導電層2及び/又は第2の導電層3との間にバッファ層4を挿入すると、リーク電流が減少し、特に不揮発性記憶素子の書き替え特性(書き替え回数)を1011回以上、特に1012回以上に改良できることが確認された。また、バッファ層4が存在すると、リーク電流が低減する効果、データ書換え特性が向上する効果、室温データ保持性が改良される効果も確認された。
【0041】
本発明の実施例1の不揮発性記憶素子では、強誘電体層1は配向角が違う少なくとも2種類の配向(配向角が小さい配向Iと、配向角が大きい配向II)を有することができること、印加電圧(動作電圧)を高くして配向Iと配向IIの両方をスイッチングするだけでなく、印加電圧(動作電圧)をそれより低くして配向Iだけをスイッチングすることもできること、及び、配向Iだけをスイッチングすると、配向Iと配向IIの両方をスイッチングする場合と比べて、書き換え特性におけるデータ書き換え回数を向上させることができることが、見出された。ここで、2種類の配向I及びIIは、少なくとも2種類の配向があるという意味であり、3種類以上の配向分布があってよい。
【0042】
配向Iと配向IIの存在は、印加電圧(動作電圧)Vに対する蓄積電荷量Qを表す曲線が2つのピークを有すること、2つのピークは波形分析により2つの独立したピークに分解できることから確認することができ、分解して得られる配向Iと配向IIの波形から、強誘電体層の結晶粒の配向角を推定することができ、低い印加電圧(動作電圧)にピークを有する配向Iは高い印加電圧にピークを有する配向IIと比べて配向角θが小さい。なお、ここで配向角θは、強誘電体層の膜面に垂直な方向に対する配向軸の角度と定義する(図13(a)参照)。そして、配向IIの結晶粒をスイッチングすることはできないが、配向Iの結晶粒はスイッチングすることができる電圧を利用して、配向Iだけをスイッチングすることが可能である。また、このとき、配向Iと配向IIは、いずれも、全く同じ配向角θを有する一群の結晶粒ではなく、図13(b)に示すように、特定の配向角θにピークを有し配向角θの両側に肩部を有する山形の分布(特に正規分布)を有する一群の結晶粒の集合体(強誘電体層内において物理的に一体の結晶粒の集合体ではなく。強誘電体層内に散在してよい結晶粒のうち配向角分布に基づく理論的な集合体である)をいう。
【0043】
したがって、この配向Iだけをスイッチングする強誘電体キャパシタ素子の動作方法によれば、配向II(及び配向I)をスイッチングする動作方法と比べて、書き換え特性(書き換え回数)が向上する。こうして、本発明によれば、本発明のバッファ層を有する強誘電体キャパシタ素子である不揮発性記憶素子の動作方法であって、強誘電体層1が多結晶の場合は、配向角が異なる2種類の第1及び第2の配向を有し、その配向のうち、強誘電体層の配向角が小さい第1の配向だけを動作電圧としてスイッチングする強誘電体キャパシタ素子の動作方法が提供される。また、強誘電体層1が2種類以上のピークを有する多結晶より構成される場合でも本発明での動作方法が適用可能であることは言うまでもない。3種類以上の配向分布が存在する場合、他のいずれか配向と比べて低い印加電圧(動作電圧)にピークを有する配向の1つに着目して、好ましくは最も低い印加電圧(動作電圧)にピークを有する配向(膜面に垂直の成分が最も大きい配向)に着目して、その低い印加電圧(動作電圧)で素子を駆動すれば、すべての配向を駆動する場合と比べて、書き換え特性におけるデータ書き換え回数を向上させることができる。
【0044】
本発明の実施例1の不揮発性記憶素子の電気特性の例を図4~9に示す。図4は、微小電流測定装置を用いて測定したバッファ層の有無をパラメータとして評価した強誘電体素子(強誘電体キャパシタ)の電流電圧特性を示した。バッファ層を挿入することで、同一電圧に対するリーク電流が低減し、かつ素子のブレークダウン電圧が増大している。このリーク電流は強誘電体素子の欠陥を介して流れる欠陥電流成分が大きく寄与しているため、バッファ層を挿入することで、データ書換えストレスを印加する前の欠陥密度が低減されていることが推定される。また、素子のブレークダウン電圧が増大していることは素子の耐圧が増大し、素子の信頼性が改善されていることを示唆している。
【0045】
図5は、強誘電体素子のバッファ層の有無をパラメータとしたヒステリシス特性である。Y7%-HfO強誘電体層1の強誘電体性を示している。また、バッファ層を挿入することで、強誘電体特性が改善し、特に、抗電界が減少して、ヒステリシス特性が改善されている。本実施例での強誘電体層1には、室温形成Y7%-HfO層を用い、次のステップとして、CeOx(x=1.5~2.0)形成し、上部電極形成後にアニール処理(アクティベーションアニール)を行った。
【0046】
図6は、自発分極Pr幅(2Pr)のアクティベーションアニール温度依存性を示す。as-depoの強誘電体素子に比べて、200~350℃の低温アクティベーションアニール処理したときに自発分極が増大しており、アクティベーションアニール処理の有効性が示されている(図20も参照)。
【0047】
図7は、電圧2.5V、1MHzで測定した強誘電体キャパシタ素子の書き換え特性(2Prウインドウ幅の書き換え回数依存性)のアクティベーションアニール(AA)温度依存性を示す。AAアニール温度が200℃から400℃に上昇すると、200℃と比較して300℃~400℃の間でデータ書換え特性に関して、Prウインドウは10回まではほぼ一定であり、ナローイングがみられず安定で良好な特性が得られた。
【0048】
図8は、電圧2.5Vで書き換え10回後の室温データ保持特性である。Prウインドウ幅は保持時間に対してほぼ一定で安定しており、データ保持特性も優れていることが分かった。
【0049】
図9は、電圧2.2V、2MHzでのデータ書き換え特性を示す。Prウインドウのナローイングがみられず、安定な書換え特性が得られており、1011回以上の書き換え回数が達成されていることが分かった。
【0050】
バッファ層が第2導電層(上部電極)と強誘電体層の間に存在する場合をバッファ層構造A、第1導電層(下部電極)と強誘電体層の間に存在する場合をバッファ層構造Bとする。以下、強誘電体不揮発性記憶素子の信頼性、特にデータ書換え特性の改善、向上に本発明の本質はバッファ層構造Aでもバッファ層構造Bでも機能的に有効なことを実証する。
【0051】
図10(a)(b)は、実施例1の不揮発性記憶素子(強誘電体キャパシタ素子)の構造例を示す。図10(a)に示すバッファ層構造Aは、バッファ層4を強誘電体層1と第2の導電層(上部電極)3との間に有する不揮発性記憶素子、図10(b)に示すバッファ層構造Bは、バッファ層4を第1の導電層(下部電極)2と強誘電体層1との間に有する不揮発性記憶素子である。いずれにおいても、強誘電体層1は膜厚7.5nmのイットリウム5%ドープ酸化ハフニウム(Y:HfO)からなる層であり、バッファ層4は膜厚1nmのCeOxからなる層である。下部電極2は、膜厚5nmのチタン(Ti)層2-1と膜厚10nmのタングステン(W)層2-2との多層膜である。
【0052】
一方、上部電極3は、膜厚30nmのタングステン(W)層3-2と膜厚10nmの窒化チタン(TiN)層3-1との多層膜である。後述するように、下部電極2と上部電極3はスパッタ法で作製でき、強誘電体層1とバッファ層4は原子層堆積法(ALD)で作製できる。電極作製後に活性化アニールしてもよい。これら各層の材料及び膜厚は例であって、限定的ではないことは言うまでもない。
【0053】
図11は、図10(a)(b)に示すようなバッファ層構造A及びバッファ構造Bを有する実施例1の不揮発性記憶素子の電圧-分極ヒスレリシス特性を、バッファ層を有していない対応する不揮発性記憶素子の電圧-分極ヒスレリシス特性と比較して示す。またバッファ(CeOx)層4の膜厚を0.6nm、1nm、2nmと変化させている。図11(a)はバッファ層を有していない不揮発性記憶素子のヒスレリシス特性(対照例)であり、図11(b-1)(b-2)及び(b-3)はバッファ(CeOx)層)を上部電極側(図1の第2の導電層3側)に有する不揮発性記憶素子のヒスレリシス特性、図11(c-1)(c-2)及び(c-3)はバッファ(CeOx)層を上部電極側(図1の第1の導電層2側)に有する強誘電体キャパシタ素子のヒスレリシス特性であり、図11(b-1)及び(c-1)はバッファ(CeOx)層の厚さが0.6nm、図10(b-2)及び(c-2)はバッファ(CeOx)層)の厚さが1nm、図11(b-3)及び(c-3)はバッファ(CeOx)層)の厚さが2nmの不揮発性記憶素子のヒスレリシス特性である。いずれの例においても、上部電極を形成後に、500℃で1分間、不揮発性記憶素子の活性化のためのポストアニールを実施した。実施例1の強誘電体キャパシタ素子は、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層4が強誘電体層1の第2の導電層3側又は第1の導電層2側にあっても、その膜厚が1nm以上であれば不揮発性記憶素子として良好な電圧-分極ヒスレリシス特性を示すことが分かる。
【0054】
図12は、図11(b-2)及び(c-2)の厚さが1nmのバッファ(CeOx)層)を有する不揮発性記憶素子の電圧2.2V、2MHzでのデータ書き換え特性を示す。実施例1の不揮発性記憶素子は、バッファ層4が強誘電体層1の第2の導電層3側又は第1の導電層2側のどちらにあっても、バッファ層がない場合と比較して、優れたデータ書き換え特性が得られることが示されている。以上より、本発明のバッファ層構造Aまたはバッファ層構造Bは強誘電体不揮発性記憶素子の信頼性、特にデータ書換え特性の改善、向上に特有の効果を示すことが分かった。
【0055】
図13(a)(b)(c)は、実施例1の1例としてのイットリウム5%ドープ酸化ハフニウム(Y:HfO)から構成された膜厚2nmの強誘電体層とCeOxから構成されたバッファ層を有する不揮発性記憶素子(図1(a)参照)についての、Y:HfO結晶粒の配向の模式図(図13(a))と、動作電圧Vに対する蓄積電荷量Qを表す図(図12(b))と、書き換え特性を表す図(図13(c))とである。
【0056】
本発明の不揮発性記憶素子の強誘電体層、好適にはハフニウム系強誘電体層は、配向角が異なる2つの結晶粒群を有することができ、配向角が小さい結晶粒群だけをスイッチングする動作させると、不揮発性記憶素子の書き換え回数を改良することができる。
【0057】
図13(a)は、このような不揮発性記憶素子の強誘電体層における、配向角θを有する配向IのY:HfO結晶粒と、配向角θII(>θ)を有する配向IIのY:HfO結晶粒との配向状態を模式的に示す。
【0058】
図13(b)を参照すると、この不揮発性記憶素子(強誘電体キャパシタ素子)は、
蓄積電荷量Qが印加電圧(動作電圧)Vに沿って2.3V付近と3V付近に2つのピークを有している。
【0059】
この蓄積電荷量Qは、波形分析をすると、図に示す配向Iの波形と配向IIの波形の合成波形であることが確認され、それぞれ配向角θ及びθIIを有するY:HfO結晶粒に対応していることが確認される。そこで、配向IIをスイッチングするには不十分であるが、配向Iをスイッチングすることができる大きさの印加電圧(動作電圧)±2.50Vを用いると、配向IのY:HfO結晶粒だけをスイッチングすることが可能である。また、配向IIをスイッチングすることができるより高い印加電圧(動作電圧)±3.25Vを用いれば、配向I及び配向IIの両方のY:HfO結晶粒をスイッチングすることが可能である。
【0060】
図13(c)は、印加電圧(動作電圧)±2.50V及び印加電圧(動作電圧)±3.25Vでスイッチングした場合の強誘電体キャパシタ素子の書き換え特性を示しており、印加電圧(動作電圧)±2.50Vで配向Iだけをスイッチングする動作方法によれば、印加電圧(動作電圧)±3.25Vで配向I及び配向IIの両方をスイッチングする場合と比べて、書き換え回数が増加しても分極(蓄積電荷量)の低下が少なく、書き換え特性が改良されていることが分かる。
【0061】
(実施例1の不揮発性記憶素子の製造方法)
実施例1の不揮発性記憶素子は、最初に第1の導電層2を用意する。第1の導電層2は、導電性を有していればよく、導電層層は基板であってもよい。例えば、不純物をドープされて導電性を有する半導体層又は半導体領域であってよい。あるいは、第1の導電層2は、半導体層又は絶縁層の上に、導電層を堆積して作製されてよい。導電層を堆積する方法は、スパッタ法、蒸着法、CVD法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、めっき法などの製膜法(堆積法)のいずれでもよい。
【0062】
ここで、任意に、第1の導電層2の上に、バッファ層4を作製してよい。バッファ層4は通常酸化物であって、常誘電体であり、酸化物、常誘電体に関して知られている広範な製膜法のいずれかによって作成してよい。スパッタ法、蒸着法、CVD法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法は好ましい。バッファ層4の作製は、アルゴンなどの不活性雰囲気中で、室温又は基板加熱下で、好ましくは減圧して、実施してよい。堆積温度は、室温でも、400℃以上の高温でもよく、限定されないが、1つの好ましい態様では400℃以下、300℃未満、250℃以下である。
【0063】
次いで、第1の導電層2が下部電極であれば、下部電極の上に、又は第1の導電層2の上にバッファ層4が形成されていれば、バッファ層4の上に、強誘電体層1を作製する。強誘電体層の作製方法は知られているので、公知の方法あるいは特許文献1に開示した方法などを用いることができる。強誘電体層1は、ゾルゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、パルスCVD法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、自己組織化法などの製膜法(堆積法)で製膜されたものでもよいが、ALD法、スパッタ法、水熱法によるものが好ましい。スパッタ法や水熱法により、300℃未満の温度で、強誘電体層を作製することができる。
【0064】
1つの好ましい態様によれば、特にハフニウム系金属酸化物から構成される強誘電体層1はスパッタ法で作製され、スパッタ法によれば400℃以下、特に300℃未満の温度で作成することも可能である。原料金属酸化物又はその構成元素又は酸化物からなるターゲットを、不活性雰囲気中、または酸化雰囲気中で、スパッタして、表面に第1の導電層2を有する基板に目的とする金属酸化物層を堆積する。スパッタ法によれば、室温又は300℃未満の低温に加熱した基板上に強誘電体層を堆積することができるが、任意に堆積後に400℃以下の温度で活性化アニール処理をしてもよい。
【0065】
また、スパッタ法、ALD法あるいはCVD法その他の堆積法で堆積した金属酸化物層が強誘電体でない場合に、堆積後にアニール処理をして強誘電体層を作製してもよい。アニール処理温度は、通常800℃以下、例えば、200~800℃であってよい。
【0066】
また、強誘電体層は、ハフニウム系金属酸化物から構成される単斜晶相又は正方晶の常誘電体薄膜を300℃未満の温度で作製し、その常誘電体薄膜に、室温または800℃以下、好ましくは300℃未満の昇温下で、電界誘起相転移を発生させる電界より大きい電界を印加することにより、常誘電体薄膜を直方晶の強誘電体薄膜に変換して、作製されてもよい。
【0067】
強誘電体層は、特に室温や低い温度で堆積された場合、堆積後に活性化アニール処理することで、結晶品質を向上させ、あるいは強誘電体特性を改良してもよい。活性化アニール処理の温度は、400℃以上、例えば、400~800℃、400~700℃であって
もよく、あるいは400℃以下であってよく、1つの態様では、400℃以下、さらに300℃未満、250℃以下は好ましい。
【0068】
強誘電体層1を作製した後、任意に強誘電体層1の上にバッファ層4を作製する。本発明において、バッファ層4は、第1の導電層2の上又は強誘電体層1の上の少なくとも一方に作製する。バッファ層4は通常酸化物であって、常誘電体であり、酸化物、常誘電体に関して知られている広範な製膜法のいずれかによって作成してよい。スパッタ法、蒸着法、CVD法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法は好ましい。バッファ層4の作製は、アルゴンなどの不活性雰囲気中で、室温又は基板加熱下で、好ましくは減圧して、実施してよい。堆積温度は、室温でも、高温でもよく限定されないが、400℃以下、300℃未満が好ましい。
【0069】
バッファ層4を強誘電体層1の上に作製する場合には、バッファ層4を堆積後(素子又は装置を作製後でもよい)に、バッファ層4が強誘電体層1の下だけに存在し、強誘電体層1の上に存在しない場合には、強誘電体層1を堆積後(素子又は装置を作製後でもよい)に、強誘電体層1とバッファ層4のアクティベーションアニール(AAアニール)処理をしてよい。AAアニール処理は、アルゴンなどの不活性雰囲気中で、例えば、400℃以上の温度でよく、あるいは400℃以下、さらには200℃以上300℃未満の温度で、好ましくは減圧して、実施してよい。活性化アニール処理時間は、アニール温度にもよるが、例えば、60分間以下であればよく、0.2~20分間が好ましい。バッファ層4を堆積後にアクティベーションアニール(AAアニール)処理をすることで、強誘電体層1の結晶性及び強誘電体層1とバッファ層4の界面特性を向上させること、強誘電体特性を向上させることができる。また、400℃以下のアクティベーションアニール処理であれば、特に不揮発性記憶素子(強誘電体キャパシタ)とともに半導体装置を含む場合において、不揮発性記憶素子を含む半導体装置を作製後に、実施しても半導体装置の他の構成部材、不純物拡散領域や配線などに悪影響がない利点がある。
【0070】
一例として、Si半導体基板表面に形成したSi半導体基底層の表面をアルゴン雰囲気中で30分間プレスパッタしてクリーニングしてから、Si半導体基底層上にスパッタでニッケル(Ni)を堆積した後、アルゴン雰囲気中でSi半導体基板を350℃に加熱してSi半導体基底層上のニッケル(Ni)をシリサイド化して、ニッケルシリサイド(NiSi)の第1の導電層(下部電極)2を形成した。第1の導電層2を形成した半導体基板に、特許文献1に記載した方法で、Y7%-HfO層を成膜した。スパッタ装置において、真空チャンバー内を減圧した後、半導体基板温度を室温(25℃)で、アルゴン流量100sccm、酸素0sccm、圧力50mmTorrのアルゴン雰囲気中で、半導体基板とターゲット(Y7%-HfO)の間に電圧を印加して、電力50Wで、半導体基板の第1の導電層2上にY7%-HfO層1を厚さ10nmに成膜した。また、室温で堆積後のY7%-HfO層を200から350℃で10分間アニールした。
【0071】
堆積後及びアニール後に得られたY7%-HfO層1をそれぞれX線回折分析して得られたチャートを図3に示す。図3から、Y7%-HfO薄膜がいずれも、30°付近に1つの回折ピークが観測され、蛍石型の直方晶であること、強誘電体であることが、確認される。
【0072】
次にY7%-HfO層1の上に30分間、アルゴン100sccm、酸素0sccm、圧力50mTorrのアルゴン雰囲気中、室温(25℃)で、CeOx(x=1.5-2.0)を50Wの電子ビームで蒸着させて、バッファ層4を厚さ 2nmに形成した。それから、バッファ層4の上に、TiN層(上部電極)3をスパッタ堆積した。比較のためにバッファ層4を形成しない例(比較例)も用意し、TiN層(上部電極)3を堆積した。得られた素子の一部では、200から400℃でAAアニール処理を行った。比較のために、バッファ層4を形成しない以外は上記と同じ比較例を用意した。得られた強誘電体記憶素子の電気特性は図4~9に示されている。
【0073】
実施例1の不揮発性記憶素子の製造方法として上記において説明した事項は、本発明のすべての実施例の記憶素子及び記憶装置の製造方法において、実施例1の不揮発性記憶素子が含まれ限り、共通の事項である。実施例1の不揮発性記憶素子によれば、酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を有することで、金属酸化物で構成された強誘電体層を用いた不揮発性記憶素子において、リーク電流を防止し、強誘電体記憶素子の信頼性が改良され、特に従来の課題であったデータ書換え特性が顕著に改良される効果がある。さらに、ハフニウム系金属酸化物で構成された強誘電体層を400℃以下、好ましくは300℃未満の温度で作製し、堆積後の強誘電体層を400℃以下の温度で活性化アニールすると、強誘電体層及び強誘電体記憶素子の特性が向上することができるのみならず、特にアクティベーションアニール(AAアニール)は、400℃以下の温度でよいので、特に先端CMOSのバックエンド混載メモリ(FeRAM)に適用する場合に、記憶素子及び記憶装置を作製後に好ましく実施できる。特に記憶素子及び記憶装置が銅配線や不純物拡散半導体領域を含む場合などに好適である。ただし、本発明における先端CMOSのバックエンド混載メモリ(FeRAM)の製造が400℃以下に限定されるわけではない。
【0074】
また、原子層堆積法(ALD)で強誘電体層1及びバッファ層4を連続的に堆積することで、商業的な生産性に優れることができる。ただし、この例は、不揮発性記憶素子及びその製造方法を限定するものでなく、材料の種類、層厚、製膜条件等は適宜変更できることは言うまでもない。
【0075】
〔実施例2;アドバンスドバッファ層構造強誘電体記憶素子〕
本発明の実施例2は、第1の導電層と、第2の導電層と、第1の導電層と前記第2の導電層の間の、金属酸化物から構成される強誘電体層とを少なくとも有する不揮発性記憶素子において、強誘電体層と第1の導電層及び/又は第2の導電層との間に酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層4が存在し、かつ、強誘電体層と第1の導電層の間に単層膜または多層膜から構成される界面層を有し、前記界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し、界面層は、第1の導電層と強誘電体層の間にバッファ層が存在する場合には、第1の導電層とバッファ層の間に存在することを特徴とする不揮発性記憶素子を提供する。
【0076】
本発明の実施例2の不揮発性記憶素子でも、強誘電体層と第1の導電層2及び/又は第2の導電層との間に酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を存在させることで、リーク電流を防止し、強誘電体記憶素子の信頼性、データ書換え特性が改良される。データ書き換え時の電界ストレスにより強誘電体層中又は強誘電体層と導電体層との界面において酸素欠陥が発生することが、リーク電流、特に信頼性、データ書換え特性を損なう原因であると考えられるが、強誘電体層又は強誘電体層界面にバッファ層から酸素イオンが供給されることによって、酸素欠陥が補償されて、膜質及び界面が改善される。
【0077】
図14(a)(b)に、本発明の実施例2の不揮発性記憶素子の例を模式的に断面図で示す。図14(a)(b)において、1は強誘電体層、2は第1の導電層(下部電極)、3は第2の導電層(上部電極)、4はバッファ層、5は界面層である。図14(a)では、バッファ層4は強誘電体層1と第2の導電層(上部電極)3の間にあり、界面層5は強誘電体層1と第1の導電層(下部電極)2の間にある。図14(b)では、バッファ層4は強誘電体層1と第1の導電層(下部電極)2の間にあり、界面層5は第1の導電層(下部電極)2とバッファ層4の間にある。図には示さないが、バッファ層4は強誘電体層1と第2の導電層(上部電極)3の間、及び強誘電体層1と第1の導電層(下部電極)2の間の両方にあってもよく、その場合、界面層5は強誘電体層1の下にあるバッファ層4と第1の導電層(下部電極)2の間にある。第1の導電層2は、不揮発性記憶素子において強誘電体層1を挟む2つの電極の一方であればよいが、不揮発性記憶素子が半導体基板(シリコン基板)に導電層(電極)を有する場合には、第1の導電層2が半導体基板(シリコン基板)側に下部電極として存在することが好ましい。
【0078】
本発明の実施例2の不揮発性記憶素子では、バッファ層4に加えて、さらに、強誘電体層1と第1の導電層2の間に単層膜または多層膜から構成される界面層5を有し、前記界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有する。特に、第1の導電層2がシリコン基板等の場合、シリコン基板と強誘電体層1との間に酸化シリコン膜の形成を抑制するためにも、強誘電体層1と第1の導電層2の間に酸化シリコンより高い誘電率を有する界面層5が存在することによって、界面層5が存在しない場合と比べて、データ書き換え時の第1及び第2の導電層2,3の間に印加された電圧のうち、より高い分圧が強誘電体層1に印加されるので、より低い外部電圧によって、強誘電体層1に十分な電圧を印加することができる。また、界面層5は、上記のように低電圧動作で強誘電体特性を改善するとともに、不揮発性記憶素子がFeFETである場合(図222(b)参照)に、書き込み時にFeFETのチャンネルより注入される電子のトンネル電流を界面層(トンネル絶縁膜)の相対的厚膜化により抑止し、結果としてデータ書換え特性劣化の改善を可能にする。
【0079】
界面層5は、シリコン酸化膜の誘電率(比誘電率約3.9)より大きい誘電率を有する。好ましくは、シリコン窒化膜の誘電率(比誘電率約7.8)以上の誘電率を有する、特に酸化膜またはシリケート膜であることが好ましい。第1及び第2の導電層2,3の間に印加された電圧のうち、強誘電体層1と界面層5とに分散される電圧の比は、強誘電体層1と界面層5の誘電率の比に依存し、界面層5の誘電率が高いほど強誘電体層1により高い分圧がかかるので好ましい。界面層5の誘電率は、比誘電率で約3.9より大きいことが好ましく、約5以上、約7.8以上、さらには約15以上、約20以上であることがより好ましい。
【0080】
このような界面層5としては、高誘電率の絶縁体(常誘電体)であればよいが、強誘電体層の金属酸化物を構成する金属の酸化物であることが好ましい。例えば、強誘電体層1がイットリウムドープハフニウム系金属酸化物(Y-HfO;比誘電率25)である場合、イットリウムシリケート(YSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、酸化イットリウム(Y)等が好ましい。また、ハフニウムアルミネート(HfAlO)、イットリウムアルミネートYAlO(比誘電率16)、ランタンアルミネートLaAlO(比誘電率25)、イットリウム安定化ジルコニアYSZ(比誘電率27)も好適である。
【0081】
界面層5の厚さは、限定されないが、4nm以下が好ましく、さらに2nm以下、1.5nm以下、1nm以下であってよい。また、界面層5の膜厚は、シリコンより高い誘電率であれば、薄くても効果があるが、例えば、0.2nm以上であってよい。さらには0.3nm以上0.5nm以上であってよい。界面層5は、強誘電体層1に十分な電圧を印加するために大きい誘電率を有する層であるから、そのための層厚があればよい一方、界面層5は絶縁体材料であるから、導電性を大きく損なわない層厚であることが好ましい。
【0082】
界面層5は、第1の導電層(下部電極)2と直接に接触していることが好ましい。しかし、第1の導電層(下部電極)2の表面にはごく薄い表面酸化膜が形成され易いので、その場合にはその表面酸化膜は界面層5の一部と考えてよい。その表面酸化膜を界面層5の一部と考えるときは、界面層5は単層膜ではなく、多層膜(複合膜)で構成されているが、表面酸化膜以外の部分が酸化シリコンより高い誘電率を有して、複合膜全体として酸化シリコンより高い誘電率を有していればよい。表面酸化膜以外の界面層の本体自身が多層膜であってもよいことはいうまでもない。
【0083】
界面層は、強誘電体層より第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有することが好ましい。それによって、強誘電体層の酸素欠陥の発生を抑制する効果が期待される。
【0084】
また、強誘電体層の金属酸化物を構成する金属自体ではなくても、添加金属を含むハフニウム系金属酸化物を構成する金属として、上記した金属、すなわち、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又は希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)の酸化物又はシリケートであってもよい。界面層5は、ハフニウム系金属酸化物を構成する金属の酸化物であっても、強誘電性を示さない高誘電体(常誘電体)である。このような界面層5であれば、強誘電体層1と化学的類似性があり、界面の特性に優れることができ、また強誘電体層の膜質にも優れることができる。
【0085】
実施例2の強誘電体層1は、強誘電性を示すものである。強誘電体は、外部に電界がなくでも電気双極子が整列しており、かつ双極子の向きを電界によって変化できる物質である。強誘電体を用いて記憶素子を構成すると、電界を印加していないときにも分極は保持されるので、不揮発性の記憶素子を構成することができ、消費電力を減少させることが可能である。また、強誘電体記憶素子のデータ書き換えは電界印加によって行う電圧型であり、電流型と比べて書き込み、消去電流が大幅に小さいため、消費電力を減少させることが可能である。
【0086】
実施例2において強誘電体層1は、金属酸化物からなる強誘電体層である。強誘電体層1は、好ましくは、蛍石型の直方晶(斜方晶)相の金属酸化物から構成された強誘電体である。特に、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上の元素、好ましくはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種の元素を含む金属酸化物は、ドープ又はノンドープで、蛍石型の直方晶相を示す強誘電体を形成できるので、好適である。ノンドープでも、酸素欠陥によって強誘電体を形成できる。さらに、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上の元素、好ましくはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種の元素と、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素とを含む金属酸化物が、好適である。
【0087】
ハフニウム系金属酸化物において主たる金属酸化物は、ハフニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、セリウム酸化物のような単純酸化物のほか、これらの金属酸化物の間の固溶体でもよい。ハフニウム系金属酸化物が添加金属を含むとき、添加金属の量は、主たる金属酸化物や添加金属の種類に依存するが、強誘電体を形成する量であればよく、一般的には、添加金属のモル数が、添加金属を含む金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として、好ましくは10モル%以下、0.1~10%がより好ましく、4~9モル%でもよい。
【0088】
例えば、典型的なハフニウム系強誘電体材料としては、YドープHfO2、SiドープHfO2、AlドープHfO2、LaドープHfO、及び、HZO(Hf0.5Zr0.5)等がある。
【0089】
強誘電体層1は、強誘電性を発現する結晶であればよく、多結晶でよいが、一軸配向性結晶薄膜でもよく、さらにはエピタキシャル膜であってもよい。
【0090】
強誘電体層1の膜厚は、不揮発性記憶素子の用途に応じて、好適な膜厚が採用されるので、特には制約されないが、例えば、1nm以上、さらに5nm以上、10nm以上であってよい。また、上限も制約されないが、例えば、5μm以下、3μm以下、1μm以下であってよい。好ましい態様において、強誘電体層1の膜厚は、1nm~100nm、より好ましくは1nm~50nm、さらに2nm~10nm又は2nm~5nmであってよい。上記のハフニウム系金属酸化物は、従来のPZTなどの強誘電体と比べて、20nm以下のような薄い膜厚でも優れた強誘電性を示すので、不揮発性記憶素子用の強誘電体層としてスケーラブルであり、好適である。
【0091】
第1の導電層2、第2の導電層3は、強誘電体層1に電圧を印加するための電極として作用するものであり、金属、導電性セラミックス、導電性半導体などからなることができる。金属としては、タングステン、チタン、金、銀、銅、白金、アルミニウムなど、導電性セラミックスとしては、窒化チタン(TiN)などの導電性窒化物、ニッケルダイシリサイド(NiSi)のような導電性シリサイド、インジウム錫酸化物(ITO)などの導電性酸化物、BiRu、希土類イリジウム酸化物RIr(Rは希土類元素)などのパイクロア構造物などがある。また導電性半導体としてドープト又は真正シリコン半導体、各種の化合物半導体などを挙げることができる。第1の導電層2、第2の導電層3は、強誘電体層1に電気的に接続されていればよい。また、強誘電体層1の上に形成する導電層(上部電極)としては、タングステン、TiN、及びTiN/Wの多層電極は好ましい。
【0092】
強誘電体層1を堆積する基材となる第1の導電層は、蛍石構造を有する金属シリサイドもしくは金属ダイシリサイド、または金属窒化物、または不純物を含むSiもしくはGe、またはSOI(Silicon on Insulator)であることが望ましい。基材となる(第1の)導電層が蛍石構造の二ケイ化ニッケル(NiSi)であると、その上に堆積するハフニウム系金属酸化物の結晶の品質に優れることができるので好ましい。
【0093】
1つの好ましい態様において、第1の導電層2及び第2の導電層3は強誘電体層1との界面側に、特に第2の導電層(上部電極)3を強誘電体層1の上に形成する場合における第2の導電層3の強誘電体層1との界面側に、酸素移動を抑止する酸素バリア性を有する導電性材料、例えば、タングステン(W)などをバリア層として形成もよい。第1の導電層2及び第2の導電層3がバリア層を有することで、強誘電体層1から酸素イオンが漏出して酸素欠陥が生成することを抑制する効果、リーク電流を防止する効果があり、本発明の不揮発性記憶素子の性能を向上させる効果がある。バリア層の厚さは、好ましくは、0.1nm以上であり、さらに0.5nm以上、1nm以上、1.5nm以上であってよい。また、バッファ層4の膜厚は、望ましくは10nm以下であり、さらには6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下であってよい。
【0094】
本発明の不揮発性記憶素子では、強誘電体層1と第2の導電層3の間に酸素イオン導電性を持つバッファ層4が存在する。バッファ層4は、酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物の常誘電体材料(絶縁体材料)からなる。バッファ層4は、酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物の絶縁体材料であることで、強誘電体層1との間で酸素イオンの供受、特に供与を行うことができ、強誘電体層1又は強誘電体層1と導電層との界面におけるデータ書き換え時の電界ストレスによる酸素欠陥を防止又は修復する機能があり、それによってリーク電流を低減し、強誘電体特性が改良され、抗電界が小さくでき、書き換え特性が改良されるなどの優れた効果を発揮する。
【0095】
バッファ層4の酸素の化学ポテンシャルは、強誘電体層1の酸素の化学ポテンシャルよりも大きいことが好ましい。バッファ層4の酸素空孔欠陥密度は、強誘電体層1の酸素空孔欠陥密度よりも小さいことが好ましい。バッファ層4の酸素の化学ポテンシャルが強誘電体層1の酸素の化学ポテンシャルよりも大きい、あるいはバッファ層4の酸素空孔欠陥密度が強誘電体層1の酸素空孔欠陥密度よりも小さいと、バッファ層4から強誘電体層1中に酸素イオンが容易に移動して、強誘電体層1又は強誘電体層1と導電層との界面における酸素欠陥量を制御することができる。
【0096】
バッファ層4の酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物の常誘電体材料(絶縁体材料)としては、例えば、セリウム酸化膜CeOx(x=1.5-2.0、好ましくは1.6-2.0、さらに1.7-2.0、特に1.8-2.0)のほか、ジルコニウム酸化膜、チタン酸化膜、イットリア安定化ジルコニア膜または希土類元素酸化膜などが適用可能である。
【0097】
バッファ層4の膜厚は、好ましくは、0.1nm以上であり、さらに0.5nm以上、1nm以上、1.5nm以上であってよい。また、バッファ層4の膜厚は、望ましくは10nm以下であり、さらには6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下であってよい。
【0098】
本発明の実施例2の不揮発性記憶素子の電気特性は、バッファ層4を有する効果については実施例1における図4~9を参照できるが、図15~20に、実施例2の不揮発性記憶素子(堆積後350℃で活性化アニールしたTiN/CeO(4nm)/Y-HfO(9nm)/IL(Y;2nm)/NiSi)についての追加の電気特性を示す。また、上部電極はTiN/Wの多層電極の場合も有効である。
【0099】
図15は、微小電流測定装置で評価した強誘電体キャパシタ素子の電流電圧特性であり、界面層を挿入すると、界面層が存在しない対照例(実施例1)と比べて、高電圧側でもリーク電流が低減して、素子のブレークダウン電圧が増大している。
【0100】
図16は、同条件で測定したリーク電流のバッファ層のCeOx(x=1.5-2.0)層厚依存性を示し、対照例(実施例1)と比べて、すべてのCeOx(x=1.5-2.0)層厚でリーク電流が低減しており、バッファ層構造の界面層の有効性を示している。
【0101】
図17は、電圧4.5V、1MHzで測定した強誘電体キャパシタ素子の書き換え特性を示した。アクティベーションアニールは350℃である。書き換え回数1010回後の残留分極幅2Prが、対照例(実施例1)と比べて、増大していることが確認された。
【0102】
図18は、強誘電体素子の書き換え回数1010回後の室温データ保持特性を示した。自発分極Prウインドウ幅は測定時間内ではあるが、時間に対してほぼ一定であり、良好なデータ保持特性が得られている。また、室温外挿を行った結果、10年後も十分な自発分極のウインドウ幅が得られており、10年後でも書き込みデータの読出しが可能レベルに保持されていると推定され、データ保持時間10年の見通しが得られた。
【0103】
図19は、電圧4.5V、1MHzの条件で測定したデータ書き換え特性であり、残留分極幅2Pr=11μC/cm以上で、書き換え1011回を達成している。
【0104】
図20は、電界2MV/cmの電圧条件、2MHzで測定したデータ書き換え特性である。図20では、Prウインドウ幅は書換え回数に対してほぼ一定で、ナローイングも小さく、1012回以上のデータ書き換え回数が達成されている。
【0105】
実施例2の不揮発性記憶素子における特徴は、本発明の他の実施例の記憶素子及び記憶装置においても、不揮発性記憶素子が界面層を含む限り、共通の事項である。
【0106】
(実施例2の不揮発性記憶素子の製造方法)
実施例2の不揮発性記憶素子において、界面層5以外の構成及びその製造方法は実施例1の不揮発性記憶素子と同様であることができる。界面層5は、常誘電体(絶縁体)、特に酸化物であるから、常誘電体、酸化物において一般的な堆積方法、例えば、スパッタ法、蒸着法、CVD法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法によって作成することができる。
【0107】
実施例2の不揮発性記憶素子の一例として、Si半導体基板表面に形成したSi半導体基底層の表面をアルゴン雰囲気中で30分間プレスパッタしてクリーニングしてから、Si半導体基底層上にスパッタでニッケル(Ni)を堆積した後、アルゴン雰囲気中でSi半導体基板を350℃に加熱してSi半導体基底層上のニッケル(Ni)をシリサイド化して、ニッケルダイシリサイド(NiSi)の第1の導電層(下部電極)2を形成した。次いで、第1の導電層2の上に、スパッタ法で、アルゴン雰囲気中で、界面層5としてイットリウム酸化物(Y)を層厚 2nmに堆積した。
【0108】
界面層5を形成した半導体基板に、特許文献1に記載した方法で、Y7%-HfO層を成膜した。スパッタ装置において、真空チャンバー内を減圧した後、半導体基板温度を室温(25℃)で、アルゴン流量100sccm、酸素0sccm、圧力50mmTorrのアルゴン雰囲気中で、半導体基板とターゲット(Y7%-HfO)の間に電圧を印加して、電力50Wで、半導体基板の第1の導電層2上にY7%-HfO層1を厚さ10nmに成膜した。堆積後Y7%-HfO層1をそれぞれX線回折分析して、Y7%-HfO薄膜がいずれも、多結晶であること蛍石型の直方晶であること、強誘電体であることが確認された。
【0109】
次にY7%-HfO層1の上に、CeOx(x=1.5-2.0)膜を電子ビーム蒸着で厚さ2-6nmに蒸着させて、バッファ層4を形成した。次に、バッファ層4の上に、TiN層(上部電極)3をスパッタ堆積した。その後200℃~400℃でアクティベーショアニール処理(AA処理)を行った。得られる強誘電体記憶素子の追加の電気特性を図15~20に示す。図15~20に示す対照例は実施例1である。
【0110】
実施例2の不揮発性記憶素子の製造方法の1つの好ましい例を、図21を参照して説明する。この例では、強誘電体キャパシタの界面層5、強誘電体層1及びバッファ層4を原子層堆積法(ALD)で連続的に堆積することで、商業的な生産性に優れることができる。ただし、図21の例は、実施例2の不揮発性記憶素子の製造方法を限定するものでなく、材料の種類、層厚、製膜条件等は適宜変更できるものである。
【0111】
図21を参照すると、それ次自身が基板であってもいし、他の基板の上部に作製されていてもよい窒化チタン(TiN)から構成された下部電極2を基板として、原子層堆積法(ALD)により、最初に、(iPrCp)Yをイットリウム源としたSi半導体基板表面への複数回の照射による吸着と、プラズマ化した酸素とアルゴンの混合ガスによる酸化を順番に行うことで、酸化イットリウム(Y)を堆積する。このサイクルを複数回行うことで界面層5を1nm堆積する。次に、同じくALDにより、TDMAHをハフニウム源として界面層5のY膜上に吸着させ、プラズマ化した酸素とアルゴンの混合ガスで酸化を行い、このサイクルを繰り返すことで酸化ハフニウム膜を堆積する。途中、(iPrCp)Yをイットリウム源とした複数回の照射によるイットリウム原子の吸着と、プラズマ化した酸素とアルゴンの混合ガスの照射による酸化でイットリウム酸化膜を挿入することで、イットリウム5%ドープ酸化ハフニウム(Y5%-HfO)からなる強誘電体1を7.5nm堆積する。さらに、同じくALDにより、(iEtCp)Ceをセリウム源としてイットリウム5%ドープ酸化ハフニウム膜上への吸着と、プラズマ化した酸素とアルゴンの混合ガスによる酸化のサイクルを繰り返すことで、酸化セリウム(CeOx;x=1.6~1.9)からなるバッファ層4を1nm堆積する。それから、スパッタ法でバッファ層4の上に、タングステン層3-2を5nm、窒化チタン(TiN)層3-1を30nm堆積して、TiN/Wからなる多層の第2の導電層3とする。
【0112】
実施例2の不揮発性記憶素子の製造における特徴は、本発明の他の実施例の記憶素子及び記憶装置の製造方法においても、不揮発性記憶素子が界面層を含む限り、共通の事項である。特に、ハフニウム系金属酸化物で構成された強誘電体層を400℃以下、好ましくは300℃未満の温度で作製でき、堆積後の強誘電体層を400℃以下の温度で活性化アニールすると、強誘電体層及び強誘電体記憶素子の特性が向上することができ、特に活性化アニールは、400℃以下の温度でよいので記憶素子及び記憶装置を作製後に好ましく実施できる。特に記憶素子及び記憶装置が銅配線や不純物拡散半導体領域を含む場合などに好適である。
【0113】
〔実施例3;メモリセル及びメモリセルアレイ〕
本発明の実施例3は、強誘電体記憶素子をトランジスタと組み合わせたメモリセルからなる半導体記憶装置を提供する。例えば、1トランジスタ型メモリセル(1T型FeRAM)FeFET、1トランジスタ1メモリセル(1T型1C型FeRAM)、2トランジスタ2メモリセル(2T型2C型FeRAM)、これらメモリセルを2次元的または3次元的に配置したメモリセルアレイ、例えばNOR型メモリセルアレイなどを含む。また、メモリセルアレイを制御する制御回路等の周辺回路を含んでもよい。
【0114】
(第1の実施形態:1T型メモリセル)
実施例3の第1の実施形態の半導体記憶装置は、1トランジスタメモリセル(1T型FeRAM)FeFETである。この半導体記憶装置(1トランジスタメモリセル)は、例えば、半導体層(第1の導電層)と、上部電極(第2の導電層)と、第1の導電層である半導体層と第2の導電層である上部電極の間の金属酸化物から構成される強誘電体層とを少なくとも有し、強誘電体層と上部電極の間に酸素イオン導電性を持ち、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層が存在し、好ましくは強誘電体層と半導体層の間に単層膜または多層膜から構成される界面層を有し、界面層は界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し、半導体層は強誘電体層と存在すれば界面層との下方に存在し、上部電極をゲート電極とし、強誘電体層と存在すれば界面層とをゲート絶縁膜とし、半導体層のゲート絶縁膜の下方にチャネル、その両側にソース(領域)及びドレイン(領域)を有することを特徴とする。この半導体記憶装置は、半導体層のソース領域又はドレイン領域が第1の導電層であるが、ソース領域又はドレイン領域は所謂ソース電極又はドレイン電極に接続されていることができ、ソース電極又はドレイン電極を下部電極という場合もある。
【0115】
図22(a)(b)に1トランジスタメモリセルの例を模式的に断面図で示す。図17(a)は界面層5が存在しない例、図22(b)は界面層5が存在する例である。図22(a)(b)において、1は強誘電体層、2sは半導体層(第1の導電層)、3gはゲート電極(第2の導電層)、4はバッファ層、5は界面層、6はソース(領域)、7はドレイン(領域)である。半導体層2sのソース(領域)6及びドレイン(領域)7の上にはそれぞれソース電極6e及びドレイン電極7eを有してよい。図22(b)では、バッファ層4は、強誘電体層1とゲート電極(第2の導電層)3gとの間にあるが、界面層5と強誘電体層1との間にあってもよいし、これらの両方にあってもよい。以下では、主にバッファ層4が強誘電体層1とゲート電極(第2の導電層)3gとの間にある1トランジスタメモリセルに基づいて記載するが、バッファ層4が界面層5と強誘電体層1との間にある場合については適宜変更される。
【0116】
この1トランジスタメモリセルは、ゲート絶縁膜として強誘電体層を用いた電界効果型トランジスタ(FET)であり、強誘電体層の分極の向きによりFETのチャネルのコンダクタンスを制御し、かつ強誘電体の残留分極の制御によりFETのしきい値(Vth)の状態を記憶する。その動作原理を図23(a)(b)に示す。ゲートに正と負のパルス電圧を印加した後、ゲート絶縁膜を構成する強誘電体層の分極方向を一方向に分極させることができ、ゲートへの印加電圧が正であるか負であるかによって分極の向きが異なる。図23(a)の分極の向きではゲート絶縁膜と半導体界面の負電荷のため相対的にFETのVthはプラス方向にシフト(Vth1)する。一方、図23(b)の分極の向きではゲート絶縁膜と半導体界面の正電荷のため相対的にVthはマイナス方向にシフト(Vth2)する。ここで、読出し電圧(Vr)をVth1とVth2の中間電圧に設定した場合、Vth2<Vthr<Vth1となるためにVth2状態ではチャネルが形成されFETの電流は流れるが、一方でVth1の状態では電流は流れない。したがって、FeFETの閾値電圧が、図23(a)(b)の分極の向きによって変化する。このように、強誘電体ゲート絶縁膜の分極の方向によって、FETのオン状態、オフ状態を同一のゲート電圧で実現でき、情報を記憶することができる。このトランジスタのドレイン電流-ゲート電圧特性を図示すると、図23(c)に示すようなヒステリシス特性となる。このヒステリシス特性は、強誘電体の分極によってトランジスタの閾値電圧が変化することを示している。閾値電圧のシフト量(ドレイン電流-ゲート電圧特性におけるヒステリシスの幅)をメモリウィンドウと呼び、このメモリウィンドウ中の電圧に対して2通り以上のドレイン電流の値をとれることが分かる。
【0117】
この1トランジスタメモリセルの記憶素子は、強誘電体記憶素子であり、電界印加で不揮発の記憶を可能とするので、消費電力を低減することができる。強誘電体層1は、好ましくは、蛍石型の直方晶の金属酸化物からなる強誘電体層である。強誘電体層1の金属酸化物は、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上の元素、特にハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種の元素を含む金属酸化物であることが好ましい。また、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上の元素、特にハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種の元素と、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素(添加元素)とを含む金属酸化物は、好適である。
【0118】
ハフニウム系金属酸化物が添加金属を含むとき、添加金属の量は、強誘電体を形成する量であればよく、一般的には、添加金属のモル数が、添加金属を含む金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として、好ましくは10モル%以下、0.1~10%がより好ましく、4~9モル%でもよい。
【0119】
強誘電体層1の膜厚は、不揮発性記憶素子の用途に応じて、好適な膜厚が採用されるので、特には制約されないが、好ましい態様において、強誘電体層1の膜厚は、1nm~100nm、より好ましくは2nm~50nm、さらに2nm~20nm又は2nm~5nmであってよい。ハフニウム系金属酸化物は、従来のPZTなどの強誘電体と比べて、10nm以下のような薄い膜厚でも優れた強誘電性を示すので、不揮発性記憶素子用の強誘電体層としてスケーラブルであり、好適である。
【0120】
第2の導電層3は、強誘電体層1に電圧を印加するための電極として作用するものであり、金属、導電性セラミックス、導電性半導体などからなることができる。金属としては、タングステン、チタン、金、銀、銅、白金、アルミニウムなど、導電性セラミックスとしては、窒化チタン(TiN)などの導電性窒化物、ニッケルダイシリサイド(NiSi)のような導電性シリサイド、インジウム錫酸化物(ITO)などの導電性酸化物などがある。また、第2の導電層3と反対側の導電層(半導体層2s)としては、ドープト又は真正半導体であってよく、シリコン、化合物半導体などを挙げることができる。
【0121】
この半導体記憶装置では、強誘電体層1とゲート電極3gの間に酸素イオン導電性を持つバッファ層4が存在する。バッファ層4は、酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物の常誘電体材料(絶縁体材料)からなる。バッファ層4は、酸素イオン導電性を示しかつ複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物の常誘電体材料(絶縁体材料)であることで、強誘電体層1又は強誘電体層1と導電層界面におけるデータ書き換え時の電界ストレスによる酸素欠陥を防止又は修復する機能があり、それによってリーク電流を低減し、強誘電体特性が改良され、抗電界が小さくでき、書き換え特性が改良されるなどの優れた効果を発揮する。
【0122】
バッファ層4の酸素の化学ポテンシャルは、強誘電体層1の酸素の化学ポテンシャルよりも大きいことが好ましい。バッファ層4の酸素空孔欠陥密度は、強誘電体層1の酸素空孔欠陥密度よりも小さいことが好ましい。バッファ層4の酸素の化学ポテンシャルが強誘電体層1の酸素の化学ポテンシャルよりも大きい、あるいはバッファ層4の酸素空孔欠陥密度が強誘電体層1の酸素空孔欠陥密度よりも小さいと、バッファ層4から強誘電体層1中に酸素イオンが容易に移動して、強誘電体層1又は強誘電体層1と導電層との界面における酸素欠陥を防止又は修復することができる。
【0123】
バッファ層4の酸素イオン導電性を示しかつ複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物の常誘電体材料(絶縁体材料)としては、例えば、セリウム酸化膜(CeO;x=1.5-2.0、好ましくは1.6-2.0、さらに1.7-2.0、特に1.8-2.0)のほか、ジルコニウム酸化膜、チタン酸化膜、イットリア安定化ジルコニア膜または希土類元素酸化膜などが適用可能である。
【0124】
バッファ層4の膜厚は、好ましくは、0.1nm以上であり、さらに0.5nm以上、1nm以上、1.5nm以上であってよい。また、バッファ層4の膜厚は、望ましくは10nm以下であり、さらには6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下であってよい。
【0125】
また、この半導体記憶装置の好ましい態様では、さらに、半導体層2s(第1の導電層;下部電極)と強誘電体層1の間に単層膜または多層膜から構成される界面層5を有し、界面層5は界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有する。ただし、強誘電体層1と半導体層2s(第1の導電層;下部電極)の間にバッファ層4が存在する場合には、界面層5は半導体層2s(第1の導電層;下部電極)とバッファ層4との間に存在する。強誘電体層1と半導体層2sの間に界面層5が存在することによって、界面層5が存在しない場合と比べて、

データ書き換え時に両電極(第1及び第2の導電層)間に印加される電圧のうち、より高い分圧が強誘電体層1に印加されるので、より小さい電極間電圧で強誘電体層1に分極反転が可能な十分な電圧を印加することができる。
【0126】
界面層5は、高誘電体からなり、シリコン酸化膜の誘電率(比誘電率約3.9)より大きい誘電率を有することが好ましく、特にシリコン窒化膜の誘電率(比誘電率約7.8)以上の誘電率を有する高誘電体であることが望ましい。また、特に酸化膜またはシリケート膜であることが好ましい。界面層5の誘電率は、比誘電率で約3.9より大きいことが好ましく、約5以上、約7.8以上であることがより好ましい。
【0127】
界面層5は、第1の導電層(下部電極)2と直接に接触していることが好ましい。しかし、第1の導電層(下部電極)2の表面にはごく薄い表面酸化膜が形成され易いので、その場合にはその表面酸化膜は界面層5の一部と考えてよい。その表面酸化膜を界面層5の一部と考えるときは、界面層5は単層膜ではなく、多層膜(複合膜)で構成されているが、表面酸化膜以外の部分が酸化シリコンより高い誘電率を有して、複合膜全体として酸化シリコンより高い誘電率を有していればよい。表面酸化膜以外の界面層の本体自身が多層膜であってもよいことはいうまでもない。
【0128】
界面層5は、強誘電体層1より第1の導電層2側への酸素移動を抑止する機能を有することが好ましい。それによって、強誘電体層1の酸素欠陥の発生を抑制する効果が期待される。
【0129】
界面層5は、強誘電体層の金属酸化物を構成する金属の酸化物であることが好ましい。例えば、強誘電体層1がイットリウムドープハフニウム系金属酸化物(Y-HfO)である場合、イットリウムシリケート(YSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、酸化イットリウム(Y)等が好ましい。また、強誘電体層の金属酸化物を構成する金属自体ではなくても、添加金属を含むハフニウム系金属酸化物を構成する金属として、上記した金属、すなわち、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又は希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)の酸化物又はシリケートであってもよい。このような界面層5であれば、強誘電体層1と化学的類似性があり、界面の特性に優れることができ、また強誘電体層の膜質にも優れることができる。
【0130】
半導体層2s、ソース(領域)6、ドレイン(領域)7は、従来のゲート絶縁膜型トランジスタに用いられるいずれの構成でもよい。例えば、半導体層2sをP,Asなどをドープしたp型シリコン半導体とし、ソース(領域)6、ドレイン(領域)7はBなどを高濃度にドープしたn形ドープ領域であってよい。
【0131】
本発明は、強誘電体メモリ1トランジスタメモリセルにおいて、リーク電流低減、信頼性特に、データ書換え特性の改善、向上を実現可能との特有の効果を有する。さらに、1トランジスタメモリセルの信頼性の特有の課題である、ゲート電極に正の電圧を印加して、しきい値電圧(Vth)を低下させる方向に動作させた場合、メモリトランジスタのチャンネル領域より電子が強誘電体層または界面の欠陥に注入される現象を界面層膜厚と界面特性の最適化等により低減できる効果も有する。また、これまでメモリトランジスタはnMOSトランジスタを例に説明してきたが、pMOSのメモリトランジスタでも本発明を適用することで、nMOSトラジスタと同様な信頼性、特にデータ書換え特性の改善効果が得られることは言うまでもない。
【0132】
実施例3のメモリセルの1つの好適な例を、図22(b)を参照して記載する。この例では、界面層5、強誘電体層1及びバッファ層4を原子層堆積法(ALD)で連続的に堆積することで、商業的な生産性に優れることができる。ただし、この例は、実施例3の不揮発性記憶素子及びその製造方法を限定するものでなく、材料の種類、層厚、製膜条件等は適宜変更できるものである。
【0133】
この例は、図22(b)に示されるような構造をバッファ層/強誘電体層/界面層の3層の素子構造を有し、具体的には、TiN/W多層構造のゲート電極(上部電極)3g/CeOxのバッファ層4/Y5%-HfO2の強誘電体1/Y-Silicate(YSi)の界面層5/Si半導体基板2s中のソース領域6及びドレイン領域7である下部電極2からなる構成を有するトランジスタ型メモリセル(FeFET)である。
【0134】
基板としてソース領域6及びドレイン領域7をCMOSプロセスで形成したSi半導体基板2sを用い、原子層堆積法(ALD)により、最初に、(iPrCp)Yをイットリウム源としたSi半導体基板表面への複数回の照射による吸着と、プラズマ化した酸素とアルゴンの混合ガスによる酸化を順番に行うことで、酸化イットリウム(Y)を堆積する。このサイクルを複数回行うことで界面層5を1nm堆積する。次に、同じくALDにより、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム(TDMAH)をハフニウム源として界面層5のY膜上に吸着させ、プラズマ化した酸素とアルゴンの混合ガスで酸化を行い、このサイクルを繰り返すことで酸化ハフニウム膜を堆積する。途中、(iPrCp)Yをイットリウム源とした複数回の照射によるイットリウム原子の吸着と、プラズマ化した酸素とアルゴンの混合ガスの照射による酸化でイットリウム酸化膜を挿入することで、イットリウム5%ドープ酸化ハフニウム(Y5%-HfO2)からなる強誘電体1を7.5nm堆積する。さらに、同じくALDにより、(iEtCp)Ceをセリウム源としてイットリウム5%ドープ酸化ハフニウム膜上への吸着と、プラズマ化した酸素とアルゴンの混合ガスによる酸化のサイクルを繰り返すことで、酸化セリウム(CeOx;x=1.6~1.9)からなるバッファ層4を1nm堆積する。それから、スパッタ法でバッファ層4の上に、タングステン層3-2を5nm、窒化チタン(TiN)層3-1を30nm堆積して、TiN/Wからなる多層の第2の導電層3とする。
【0135】
次に、Si半導体基板2sの上に作製したTiN/W多層構造のゲート電極(上部電極)3g/Ce0xのバッファ層4/Y5%-HfOの強誘電体1/Y-Silicate(Y2Si2O7)の界面層5の積層構造体を、反応性イオンエッチング法でパターニングして、Si半導体基板2sに形成されたソース領域6及びドレイン領域7の間のチャンネル領域の上にゲート電極を形成する。さらに、Si半導体基板2sにソースドレイン電極材料を形成して、反応性イオンエッチング法でパターニングして、ソース電極6e及びドレイン電極7eを形成する。
【0136】
ソース電極6e及びドレイン電極7eを形成した後で、フォーミングガス雰囲気中、500℃で1分間ポストアニールして、強誘電体1を活性化させる。強誘電体1の活性化アニールは、強誘電体1を堆積直後でもよいが、バッファ層4の作製後、さらにはゲート電極3gを作製後に行うことで、界面層5、強誘電体1及びバッファ層4の積層構造の品質をも向上させることができる。
【0137】
実施例1及び実施例2の不揮発性記憶素子の製造方法において説明した事項は、実施例3の第1の実施形態の半導体記憶装置の製造方法においても共通の事項である。特に、強誘電体メモリトランジスタをフロントエンドではなく、バックエンドに形成する場合は有効となる。ハフニウム系金属酸化物で構成された強誘電体層を400℃以下、好ましくは300℃未満の温度で作製でき、堆積後の強誘電体層を400℃以下の温度で活性化アニール、またはアクティベーションアニール(AAアニール)すると、強誘電体層及び強誘電体記憶素子の特性が向上することができ、特にAAアニールは、400℃以下の温度でよいので記憶素子及び記憶装置を作製後に好ましく実施できる。記憶装置が銅配線や不純物拡散半導体領域を含む場合などに好適である。しかし、実施例3の第1の実施形態において、ハフニウム系金属酸化物で構成された強誘電体層強誘電性に相転移させるための活性化アニールは400℃以下に限定されるものではなく、400℃以上の温度で行ってもよい。特にトランジスタ型メモリセル(FeFET)をフロントエンドに形成する場合は、金属酸化膜を強誘電体層に相転移させるための活性化アニールの温度が400℃以上であってもよい。
【0138】
(第2の実施形態:1T1C型メモリセル)
実施例3の第2の実施形態の半導体記憶装置は、1トランジスタ1キャパシタメモリセル(1T1C型FeRAM)FeFETであり、1個の強誘電体キャパシタ(強誘電体記憶素子)と1個の選択トランジスタとからメモリセルが構成されて成り、強誘電体キャパシタは、第1の導電層と、金属酸化物から構成される強誘電体層と、第2の導電層と、強誘電体層と第1の導電層及び/又は第2の導電層との間に存在する、酸素イオン導電性を持ち、かつ複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層とを、少なくとも有し、好ましくは強誘電体層と第1の導電層の間に単層膜または多層膜から構成される界面層を有し、界面層は界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し界面層は、第1の導電層と強誘電体層の間にバッファ層が存在する場合には、第1の導電層とバッファ層の間に存在することを特徴とし、選択トランジスタはソース、ドレイン及びゲートを含むトランジスタまたは両極性のダイオードであることを特徴とする。
【0139】
図24(a)に1トランジスタ1キャパシタメモリセルの例を模式的に断面図で示す。図24(a)において、1は強誘電体層、2bは下部電極(第1の導電層)、3uは上部電極(第2の導電層)、4はバッファ層、5は任意の界面層(界面層はなくてもよい)であり、これらによって強誘電体キャパシタFCが構成され、6はソース領域、7はドレイン領域、8はゲート電極、8iはゲート絶縁膜であり、これらによって選択トランジスタSTが構成され、強誘電体キャパシタFCの第1の導電層2(又は第2の導電層3)と、選択トランジスタSTのソース領域6(又はドレイン領域7)とは配線によって電気的に接続されている。11は半導体層、12は素子分離膜(シャロ―トレンチ分離)、13は層間絶縁膜である。なお、素子分離はLOCOS分離その他の素子分離技術を用いてもよいことは言うまでもない。また、ドレイン拡散層上のプラグと強誘電体キャパシタの構造に関して、プラグの直上に強誘電キャパシタを配置しない構造(オフプラグ構造)になっているが、プラグ直上に強誘電体キャパシタを配置するオンプラグ構造であってもよい。図24(a)では、強誘電体キャパシタFCのバッファ層4は、強誘電体層1と上部電極3uとの間にあるが、強誘電体層1と界面層5との間にあってもよいし、これらの両方にあってもよい。以下では、主にバッファ層4が強誘電体層1と上部電極3uとの間にある強誘電体キャパシタFCを有する1トランジスタ1キャパシタメモリセルに基づいて記載するが、バッファ層4が界面層5と強誘電体層1との間にある場合については、適宜変更される。
【0140】
図24(a)を参照すると、例えば、p型半導体層11を選択酸化して素子分離膜12が形成され、素子分離膜12の間の素子領域において、ゲート領域を挟んでn型ソース領域6、n型ドレイン領域7が選択ドープで形成されている。n型ソース領域6とn型ドレイン領域7の間のチャネル形成領域の半導体層11の表面にゲート絶縁膜8i、その上にゲート電極8が形成され、MISゲートトランジスタが構成されている。なお、ソース、ドレイン領域は低濃度エクステンション領域を有するLDD構造、FETの短チャネル効果であるパンチスルー効果を抑止するためのハロー構造であっても本発明の本質は変わらない。ゲート絶縁膜8iとゲート電極10の周りは窒化物等の絶縁膜で覆われて絶縁されている。半導体層11及びゲート部の上には層間絶縁膜13が形成されているが、半導体層11のn型ソース領域6とn型ドレイン領域7はそれぞれn型ソース取出領域、n型ドレイン取出領域を介して、層間絶縁膜13に形成されたビアによって上方にあるビット線BLと、強誘電体キャパシタFCとにそれぞれ接続されている。強誘電体キャパシタFCは、層間絶縁膜13の上に積層して形成されており、下部電極2b、界面層5、強誘電体層1、バッファ層4、上部電極3uによって構成されている。界面層5は任意であり、なくてもよい。強誘電体キャパシタFCの構成は、実施例1の不揮発性記憶素子と同様の構成であってよい。強誘電体キャパシタFCは第2の層間絶縁膜13で覆われて絶縁されている。第2の層間絶縁膜13の上方では、下部電極2bはビアを介してアース(プレート線)PLに接続されている。なお、図24(a)では、ソース領域6は上部電極3uに接続されているが、下部電極2bに接続されて、上部電極3uがアース(プレート線)PLに接続されていてもよい。ゲート電極10は複数の選択トランジスタSTのゲート電極10どうしがお互いにワード線WLによって接続されている。
【0141】
図24(b)の1トランジスタ1キャパシタメモリセルの回路図を参照すると、強誘電体キャパシタFCの下部電極2wは選択トランジスタSTのソース領域6(又はドレイン領域7)と配線で接続され、強誘電体キャパシタFCの上部電極3uはプレート線PLと接続されている。また、選択トランジスタSTのドレイン領域7(又はソース領域6)はビット線BLと接続され、選択トランジスタSTのゲート電極8はワード線WLと接続されている。
【0142】
この1トランジスタ1キャパシタメモリセルでは、強誘電体キャパシタFCに電圧をかけて強誘電体を分極させるが、選択トランジスタSTのゲート電極3gにかける電圧を制御してソース・ドレイン間の電流をオン、オフするとともに、強誘電体キャパシタFCにかかる電圧の相対的な極性を変えて強誘電体の分極の向きを反転させることができ、情報の書き込みができる。また、情報の読出しは、強誘電体キャパシタに電圧パルスを印加した時に放出される電荷の量をビット線の容量で電圧に変換して検出して行う。したがって、強誘電体メモリセルにおける強誘電体層の分極の向きを印加電圧で制御して、情報の書き込み、消去及び読み出しを行うことができる。強誘電体層の分極の向きは待機時も保持されるので、このメモリセルは電圧駆動の不揮発性のメモリセルとして動作する。強誘電体層の分極の向きは電流が流れないときも保持されるので、このメモリセルは電圧駆動で不揮発性のメモリセルである。1トランジスタ1キャパシタメモリセルの多数個を縦横に配列させ、プレート線PL、ビット線BL、ワード線WLによってお互いに接続すれば、ビット線BLごと、ワード線WLごと、あるいはビット線BLとワード線WLとで選択された選択トランジスタSTごとに、データを書き込み、消去、読み出しすることができる。
【0143】
この1トランジスタ1キャパシタメモリセルにおいても、強誘電体キャパシタFCが電圧駆動であり、かつ不揮発性の記憶素子であるので、小消費電力のメモリセルであることができる。本発明の強誘電体記憶素子によれば、強誘電体層と電極(導電層)の間に酸素イオン導電性を有し、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物である。バッファ層を存在させることで、書き換え特性が例えば1011回以上に改良できるので、従来の揮発メモリであるDRAM,SRAM等さえを一部代替することもできる。
【0144】
バッファ層は、酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物の常誘電体材料(絶縁体材料)からなる。バッファ層は、酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物の常誘電体材料(絶縁体材料)であることで、強誘電体層又は強誘電体層と導電層との界面におけるデータ書き換え時の電界ストレスによる酸素欠陥量を制御して、酸素欠陥の発生を抑制又は修復する機能があり、それによってリーク電流を低減し、強誘電体特性が改善され、抗電界が小さくでき、書き換え特性が改善されるなどの優れた効果を発揮する。バッファ層の酸素の化学ポテンシャルは、強誘電体層の酸素の化学ポテンシャルよりも大きいことが好ましい。バッファ層の酸素空孔欠陥密度は、強誘電体層の酸素空孔欠陥密度よりも小さいことが好ましい。バッファ層の酸素の化学ポテンシャルが強誘電体層の酸素の化学ポテンシャルよりも大きい、あるいはバッファ層の酸素空孔欠陥密度が強誘電体層の酸素空孔欠陥密度よりも小さいと、バッファ層から強誘電体層中に酸素イオンが容易に移動して、強誘電体層又は強誘電体層と導電層3との界面における酸素欠陥の発生を抑制又は修復することができる。本発明の強誘電体記憶素子によれば、強誘電体層と電極(導電層)の間に酸素イオン導電性を有するバッファ層を存在させることで、書き換え特性が例えば1011回以上に改善できるので、従来の揮発メモリであるDRAM,SRAM等の一部機能を低消費電力の不揮発性メモリとして代替できる可能性を有する。
【0145】
バッファ層の酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物の常誘電体材料(絶縁体材料)としては、例えば、セリウム酸化膜(CeO;x=1.5-2.0、好ましくは1.6-2.0、さらに1.7-2.0、特に1.8-2.0)のほか、ジルコニウム酸化膜、チタン酸化膜、イットリア安定化ジルコニア膜または希土類元素酸化膜などが適用可能である。
【0146】
強誘電体層は、金属酸化物からなる強誘電体層である。強誘電体層は、好ましくは、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上の元素、特にハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種の元素を含む金属酸化物である。さらに、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上の元素、特にハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種の元素と、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素とを含む金属酸化物が、好適である。
【0147】
ハフニウム系金属酸化物が添加元素を含むとき、添加元素の量は、強誘電体を形成する量であればよく、一般的には、添加金属元素のモル数が、添加金属を含む金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として、好ましくは10モル%以下、0.1~10%がより好ましく、4~9モル%でもよい。
【0148】
強誘電体層の膜厚は、不揮発性記憶素子の用途に応じて、好適な膜厚が採用されるので、特には制約されないが、好ましい態様において、強誘電体層1の膜厚は、1nm~100nm、より好ましくは2nm~50nm、さらに2nm~20nm又は2nm~10nmであってよい。ハフニウム系金属酸化物は、従来のPZTなどの強誘電体と比べて、10nm以下のような薄い膜厚でも優れた強誘電性を示すので、不揮発性記憶素子用の強誘電体層としてスケーラブルであり、好適である。
【0149】
界面層は、単層膜または多層膜から構成され、界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有するが、界面層は、常誘電体からなり、シリコン酸化膜の誘電率(比誘電率約3.9)より大きい誘電率を有することが好ましく、特にシリコン窒化膜の誘電率(比誘電率約7.8)以上の高誘電率を有する、特に酸化膜またはシリケート膜であることが好ましい。界面層5は、強誘電体層の金属酸化物を構成する金属の酸化物であることが好ましい。例えば、強誘電体層1がイットリウムドープハフニウム系金属酸化物(Y-HfO)である場合、イットリウムシリケート(YSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、酸化イットリウム(Y)等が好ましい。このような界面層5であれば、強誘電体層1と化学的類似性があり、界面の特性に優れることができ、また強誘電体層の膜質にも優れ、低電圧動作で強誘電体特性を改善することができる。また、界面層は、書き込み時にFeFETのチャンネルより注入される電子のトンネル電流を界面層(トンネル絶縁膜)の相対的厚膜化により抑止し、結果としてデータ書換え特性劣化の改善を可能にする。
【0150】
界面層は、第1の導電層(下部電極)と直接に接触していることが好ましい。しかし、第1の導電層(下部電極)の表面にはごく薄い表面酸化膜が形成され易いので、その場合にはその表面酸化膜は界面層の一部と考えてよい。その表面酸化膜を界面層の一部と考えるときは、界面層は単層膜ではなく、多層膜(複合膜)で構成されているが、複合膜全体として酸化シリコンより高い誘電率を有していればよい。表面酸化膜以外の界面層の本体自身が多層膜であってもよいことはいうまでもない。
【0151】
界面層は、強誘電体層より第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有することが好ましい。それによって、強誘電体層の酸素欠陥の発生を抑制する効果が期待される。
【0152】
電極(導電層)は、タングステン、チタンなどの金属、導電性セラミックス、導電性半導体などからなることができるが、特に強誘電体層の下部電極は、ニッケダイルシリサイドト(NiSi)のような導電性シリサイドがその上方に作製するハフニウム系金属酸化物の膜質に優れるので好ましい導電性材料である。また、TiN/W等の2層構造電極でもよい。
【0153】
実施例1及び実施例2の不揮発性記憶素子の製造方法において説明した事項は、実施例3の第2の実施形態の半導体記憶装置の製造方法においても共通の事項である。ハフニウム系金属酸化物で構成された強誘電体層を400℃以下、好ましくは300℃未満の温度で作製でき、堆積後の強誘電体層を400℃以下の温度で活性化アニールすると、強誘電体層及び強誘電体記憶素子の特性が向上することができ、特に活性化アニールは、400℃以下の温度でよいので記憶素子及び記憶装置を作製後に好ましく実施できる。しかし、実施例3の第2の実施形態において、活性化アニールは400℃以下に限定されるものではなく、400℃以上の温度で行ってもよい。
【0154】
(第3の実施形態:2T2C型メモリセル)
実施例3の第3の実施形態の半導体記憶装置は、2トランジスタ2キャパシタメモリセル(2T2C型FeRAM)FeFETであり、2個の1T1Cメモリセルをペアとして1個のデータを保存する、2T2C型のメモリセルである。
【0155】
図25(a)の回路図を参照すると、2T2C型キャパシタメモリセル(2T2C型FeRAM)は、左右2個の1T1C型メモリセルから構成されているが、2個の1T1C型メモリセルのそれぞれは、選択トランジスタSTと強誘電体キャパシタFCとからなる。2トランジスタ2キャパシタメモリセルは、ワード線WLを1本、ビット線BLを2本(1対)とし、ワード線WLを共有する一方の1T1C型メモリセルが一方のビット線BLに、もう一方の1T1C型メモリセルが一方のビット線/BLにつながる。
【0156】
対となるメモリセルには、異なる極性のデータを書き込む。例えば一方のビット線BLのセルに「正(プラス)」方向の残留分極を書き込んだときは、もう一方のビット線/BLのセルには「負(マイナス)」方向の残留分極を書き込む。2T2C型メモリセルでデータを読み出すときは、ワード線WLに電圧を加える。すると、どちらかのキャパシタだけに、分極反転が必ず起こる。分極反転に伴い、一方のビット線BLともう一方のビット線/BLのどちらかの電圧が上昇する。2T2C型の非常に優れている点は、データの読み出しが安定していることと、動作の繰り返しに強い(動作寿命が長い)ことである。強誘電体材料には、分極反転を繰り返すと残留分極が小さくなるという疲労と呼ばれる独特の性質があるが、2T2C型は疲労が起きにくい。
【0157】
図25(b)に、2T2C型FeRAMの書込み動作及び読み出し動作を示す。図25(b)において、選択したメモリセルに、ワード線WLと,プレート線PLと、2本のビット線BL, /BLにそれぞれ図にように電圧を印加し、VとVはそれぞれ強誘電体キャパシタFC1と強誘電体キャパシタFC2にかかる電圧である。t~tはそれぞれ時間(時刻)を表す。
【0158】
この2トランジスタ2キャパシタメモリセルの構造は、1トランジスタ1キャパシタメモリセルを相補的動作になるように接続した構造であるから、メモリセルの構造自体については図23を参照することができる。
【0159】
この2トランジスタ2キャパシタメモリセルの構造は、1トランジスタ1キャパシタメモリセルを非対称に接続した構造であるから、個々の1トランジスタ1キャパシタメモリセルは第2の実施形態のメモリセルと同様であり、メモリセル間の接続の仕方(配線)が違うだけであり、メモリセルの構造自体については図23を参照することができる。
【0160】
この2トランジスタ2キャパシタメモリセルにおいても、強誘電体キャパシタは、電圧駆動であり、かつ不揮発性の記憶素子であるので、小消費電力のメモリセルであることができる。強誘電体記憶素子は、本発明により強誘電体層と電極(導電層)の間に酸素イオン導電性を有し、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物である。バッファ層を存在させることで、書き換え特性を顕著に改良することができると、従来の揮発メモリであるDRAM,SRAM等をさえ一部代替することができる。
【0161】
バッファ層は、酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物からなる。バッファ層は、酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であることで、強誘電体層又は強誘電体層と導電層との界面におけるデータ書き換え時の電界ストレスによる酸素欠陥を防止又は修復する機能があり、それによってリーク電流を低減し、強誘電体特性が改良され、抗電界が小さくでき、書き換え特性が改良されるなどの優れた効果を発揮する。バッファ層の酸素の化学ポテンシャルは、強誘電体層の酸素の化学ポテンシャルよりも大きいことが好ましい。バッファ層の酸素空孔欠陥密度は、強誘電体層の酸素空孔欠陥密度よりも小さいことが好ましい。バッファ層の酸素の化学ポテンシャルが強誘電体層の酸素の化学ポテンシャルよりも大きい、あるいはバッファ層の酸素空孔欠陥密度が強誘電体層の酸素空孔欠陥密度よりも小さいと、バッファ層から強誘電体層中に酸素イオンが容易に移動して、強誘電体層又は強誘電体層と導電層3との界面における酸素欠陥を防止又は修復することができる。
【0162】
バッファ層の酸素イオン導電性を示す複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物である常誘電体材料(絶縁体材料)としては、例えば、セリウム酸化膜(CeOx(x=1.5-2.0、好ましくは1.6-2.0、さらに1.7-2.0、特に1.8-2.0))ほか、ジルコニウム酸化膜、チタン酸化膜、イットリア安定化ジルコニア膜または希土類元素酸化膜などが適用可能である。
【0163】
強誘電体キャパシタの強誘電体層は、金属酸化物からなる強誘電体層である。強誘電体層は、好ましくは、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上の元素、好ましくはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種の元素を含む金属酸化物である。さらに、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2種以上の元素、好ましくはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2種の元素と、アルミニウム(A1),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素とを含む金属酸化物が、好適である。
【0164】
ハフニウム系金属酸化物が添加金属を含むとき、添加金属の量は、強誘電体を形成する量であればよく、一般的には、添加金属のモル数が、添加金属を含む金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として、好ましくは10モル%以下、0.1~10%がより好ましく、4~9モル%でもよい。
【0165】
強誘電体層の膜厚は、不揮発性記憶素子の用途に応じて、好適な膜厚が採用されるので、特には制約されないが、好ましい態様において、強誘電体層1の膜厚は、1nm~100nm、より好ましくは2nm~50nm、さらに2nm~20nm又は2nm~10nmであってよい。ハフニウム系金属酸化物は、従来のPZTなどの強誘電体と比べて、10nm以下のような薄い膜厚でも優れた強誘電性を示すので、不揮発性記憶素子用の強誘電体層としてスケーラブルであり、好適である。
【0166】
強誘電体キャパシタの強誘電体層とバッファ層の反対側の電極(導電層)との間に単層膜または多層膜から構成され、全体として酸化シリコンより高い誘電率を有する界面層を有することが好ましい。界面層は、好ましくは、シリコン窒化膜の誘電率より大きい誘電率を有する高誘電体膜、特に酸化膜またはシリケート膜である。界面層が高誘電率を有することで、印加される電圧のうち強誘電体層にかかる分圧を大きくすることができる。このような界面層としては、高誘電率の絶縁体であればよいが、例えば、強誘電体層がイットリウムドープハフニウム系金属酸化物(Y-HfO)である場合、イットリウムシリケート(YSiO)ハフニウムシリケート(HfSiO)、酸化イットリウム(Y)等が好ましい。
【0167】
界面層は、第1の導電層(下部電極)と直接に接触していることが好ましい。しかし、第1の導電層(下部電極)の表面にはごく薄い表面酸化膜が形成され易いので、その場合にはその表面酸化膜は界面層の一部と考えてよい。その表面酸化膜を界面層の一部と考えるときは、界面層は単層膜ではなく、多層膜(複合膜)で構成されているが、複合膜全体として酸化シリコンより高い誘電率を有していればよい。表面酸化膜以外の界面層の本体自身が多層膜であってもよいことはいうまでもない。
【0168】
界面層は、強誘電体層より第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有することが好ましい。それによって、強誘電体層の酸素欠陥の発生を抑制する効果が期待される。
【0169】
電極(導電層)は、タングステン、チタンなどの金属、導電性セラミックス、導電性半導体などからなることができるが、特に強誘電体層の下部電極は、ニッケルダイシリサイド(NiSi)のような導電性シリサイドがその上方に作製するハフニウム系金属酸化物の膜質に優れるので好ましい導電性材料である。
【0170】
実施例1及び実施例2の不揮発性記憶素子の製造方法において説明した事項は、実施例3の第3の実施形態の半導体記憶装置の製造方法においても共通の事項である。ハフニウム系金属酸化物で構成された強誘電体層を400℃以下、好ましくは300℃未満の温度で作製でき、堆積後の強誘電体層を400℃以下の温度で活性化アニールすると、強誘電体層及び強誘電体記憶素子の特性が向上することができ、特に活性化アニールは、400℃以下の温度でよいので記憶素子及び記憶装置を作製後に好ましく実施できる。しかし、実施例3の第3の実施形態において、活性化アニールは400℃以下に限定されるものではなく、400℃以上の温度で行ってもよい。
【0171】
(第4の実施形態:NOR型メモリセルアレイ)
実施例3の第4の実施形態の半導体記憶装置は、NOR型メモリセルアレイの例である。メモリセルアレイの種類には大きく分けてNOR型とNAND型があるが、主にセルへのアクセス方法とセル面積及び用途とが異なる。NOR型セルはランダムアクセスが可能であるが、セル面積はNANDと比較して大きくなる。一方、NANDセルではランダムアクセスは不可で、シリアルアクセスとなるが、セル面積は極めて小さい面積が実現可能である。
【0172】
図26に1Tセル(FeFET)を想定したソース分離型NOR型セルのレイアウトを示した。図のNOR型セルでは、ワード線WLはFeFETのゲートに、ビット線BLはドレインに,ソース線SLはソースにそれぞれ接続されている。ソース分離型は、メモリセルのソースが選択ソース線SLでのみ共通であり、非選択ソース線は独立して制御できることが特徴である。
【0173】
図27にプレート構造のNOR型セルを示した。プレート線PLはブロック単位で共通になっており、ビット線BLはアースではなく、電位を印加可能になっている。
【0174】
図26図27において、メモリセルは1T型メモリセルであるが、1T1C型、2T2C型などでもよい。NOR型はNAND型と比べて集積度において劣るが、メモリセルへのアクセス速度がNAND型より速いので、コードストレージとしてマイクロコントローラなどに利用されている。
【0175】
FeFETを例にとると、ゲート電圧印加でメモリセルトランジスタのゲート絶縁膜を構成する強誘電体層の分極の向きを制御して、FeFETの閾値(Vth)を制御することができるため、情報の書き込み消去が可能になる。一方、情報の読出しはゲートへの印加電圧、すなわち、読出し電圧とFeFETのVthと比較して、読出し電圧の方がVthより大きい場合FeFETに電流が流れ、小さい場合はFeFETに電流が流れない。その結果として、情報の読出しが可能になる。
【0176】
このNOR型メモリセルアレイを構成する強誘電体メモリセルは、第1~第3の実施形態の半導体記憶装置であってよい。したがって、強誘電体材料を用いたNOR型メモリセルアレイにおいて、強誘電体層と電極(導電層)の間に酸素イオン導電性を有し、複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物であるバッファ層を挿入することによって、書き込み時の電圧ストレスによる強誘電体層の損傷を修復して、リーク電流を低減し、良好なデバイス特性、特に信頼性を実現することができる。
【0177】
また、強誘電体材料として、ハフニウム系金属酸化物を用いると、薄い膜厚でも優れた強誘電性を発揮できるので、スケーラブルであり、消費電力を低減できるととともに、先端CMOSロジックへの混載も可能になる。また、強誘電体層と他方の電極(導電層)の間に高誘電体材料の界面層(単層膜または多層膜から構成されてよいが、界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有する)を挿入することによって、同一のゲート印加電圧の場合であっても、強誘電体層にかかる印加電圧相対的に高くすることができるため、相対的にゲート印加電圧を低くすることができ、消費電力を低減できる効果がある。
【0178】
このNOR型メモリセルアレイを構成するメモリセルは、第1~第3の実施形態の半導体記憶装置のいずれであってよいので、その構成の詳細は第1~第3の実施形態の説明が参照される。また、本発明におけるNOR型メモリセルでは、1トランジスタセルに2ビット以上の情報を記憶する多値記憶も可能であることは言うまでもない。
【0179】
実施例1及び実施例2の不揮発性記憶素子の製造方法において説明した事項は、実施例3の第4の実施形態の半導体記憶装置の製造方法においても共通の事項である。ハフニウム系金属酸化物で構成された強誘電体層を400℃以下、好ましくは300℃未満の温度で作製でき、堆積後の強誘電体層を400℃以下の温度でアクティベーションアニールすると、強誘電体層及び強誘電体記憶素子の特性が向上することができ、特にアクティベーションアニールは、400℃以下の温度でよいので記憶素子及び記憶装置を作製後に好ましく実施できる。しかし、実施例3の第4の実施形態において、ハフニウム系金属酸化物で構成された強誘電体層強誘電性に相転移させるための活性化アニールは400℃以下に限定されるものではなく、400℃以上の温度で行ってもよい。特にトランジスタ型メモリセル(FeFET)をフロントエンドに形成する場合は、金属酸化膜を強誘電体層に相転移させるための活性化アニールの温度が400℃以上であってもよい。
【0180】
〔実施例4:FeFET及び2D-FeNAND、3D-FeNAND〕
実施例4に係る半導体記憶装置について図面(図22、28~30)を参照して説明する。実施例4に係るメモリセルアレイの構成においては、メモリセルとして1T型強誘電体トランジスタ(FeFET)を備え、メモリセルアレイとして型強誘電体NAND(FeNAND)を備える例について説明する。
【0181】
図28にFeNANDメモリアレイの概念図を示した。1つのNANDストリングスには直列に接続されたFeFETとストリングスの両端部に配置された2つの選択素子から構成される。ここでは、ビット線側の選択素子をSDG、ソース線側の選択素子をSGSと記載する。図ではワードラインWLが64本直列に接続されている例を示した。選択素子は通常MOSトランジスタを使用するが、メモリセルと同様なFeFET構造の選択素子であってもよい。その場合、FeFETのしきい値電圧(Vth)を選択素子用に設定する。NANDメモリセルアレイとしては、NANDストリングが平面的に配置された2次元FeNANDでもストリングの方向が基板面に対して垂直方向に配置された3次元FeNANDでもよく、本発明の本質が適用可能であることは言うまでもない。
【0182】
FeNANDメモリチップは、FeFETが直列に接続されたNANDストリングをベースとしたメモリセルアレイと、メモリセルアレイの周辺に設けられた周辺回路PCとを備える。メモリセルアレイは、一方向に配設された複数のメモリブロックMBiを備える。これらメモリブロックは、それぞれ、複数のページを備える。本実施形態において、データの読出処理及び書込処理はページ毎に実行され、データの消去処理はメモリブロック毎に実行される。周辺回路PCは、外部から受信した命令に応じて電圧を生成し、メモリセルアレイに印加して、指定されたページ又はメモリブロックに対するデータの読出処理、書込処理、消去処理等を実行する。
【0183】
なお、本実施例はNANDメモリセルストリング及びメモリストリングが基板面内に平行に配列した2次元NAND(図28)がメモリセルストリングが基板面内に垂直に配列した3次元NAND(図29図30)を対象にする。
【0184】
図22に示したようなFeFETメモリセルにおいて、プログラム状態(書き込み状態)では、トランジスタの閾値電圧Vthは低く、上部電極の電圧Vpp、下部電極の電圧0Vであり、消去状態では、トランジスタの閾値電圧Vthは高く、上部電極の電圧0V、下部電極の電圧Vppである。メモリセルは、図22を参照すると、下部電極領域として機能する半導体層2s、強誘電体膜1を含むゲート絶縁膜、及び、上部電極として機能するゲート電極3gを備えるメモリトランジスタFeFETであり、1ビット(2値)及び2ビット(4値)、3ビット(8値)、4ビット(16値)の情報を記憶することが可能である。VppはFeFETの書き込み電圧または消去電圧を意味する。書き込み状態では、メモリトランジスタの閾値(Vth)が低く、消去状態ではVthは相対的に高くなる。読出し時には、書き込み状態と消去状態のVthと中間の電圧を読出し電圧としてゲート電極に印加して、消去状態ではFeFETの電流はOFF、書き込み状態ではFeFETの電流はONになり、情報の読出しが可能になる。
【0185】
FeFET素子の強誘電体層は例えばYドープ酸化ハフニウム膜を用いるが、他の強誘電体材料、例えば、ハフニウム(Hf)及び酸素(O)を主成分とし、シリコン(Si) マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、バリウム(Ba)、ランタン(La)及びジルコニウム(Zr)の少なくとも一つが添加された膜等であってもよい。また、プロセス条件を工夫すれば、添加元素をドープしない酸化ハフニウム膜の場合でも強誘電体膜を形成することはできる。
【0186】
また、バッファ層は、酸素イオン導電性を持った複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物から構成される絶縁膜であり、例えば、セリウム酸化膜(CeO;x=1.5~2.0)以外には、ジルコニウム酸化膜、チタン酸化膜、イットリア安定化ジルコニア膜または希土類元素酸化膜から構成される。
【0187】
また、界面層は、単層膜または多層膜から構成されていてよいが、界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し、例えば、高誘電率の酸化膜、または、シリケート膜が望ましく、強誘電体層がYドープハフニウム酸化膜の場合、イットリウムシリケート膜(YSiO膜)、Y膜、ハフニウムシリケート膜(HfSiO膜)が望ましい。
【0188】
界面層は、第1の導電層(下部電極)と直接に接触していることが好ましい。第1の導電層(下部電極)の表面にはごく薄い表面酸化膜が形成され易いので、その場合にはその表面酸化膜は界面層の一部と考えてよく、その複合膜全体として酸化シリコンより高い誘電率を有していればよい。表面酸化膜以外の界面層の本体自身が多層膜であってもよい。界面層は、強誘電体層より第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有することが好ましい。
【0189】
FeFET素子のデータ書換え(Endurance)信頼性評価において、データ書換え回数が増加するに従いデータ書換え特性が劣化し、FeFETの閾値電圧(Vth)ウインドウ幅が狭くなり劣化し、情報の読出しができなくなる問題が発生することが分かっている。このデータ書換え特性劣化の要因としては書換え回数が増大すると、強誘電体膜中及び強誘電体膜と界面層、または界面層と下部電極(FeFETの場合Siチャネル形成領域)との界面に欠陥が発生し、その結果として増大するFeFET素子のリーク電流によりデータ書換え特性が劣化する。また、書き込みのためにFeFETのVthを低下させる動作で、同時にFeFETの強誘電体層にチャンネルよりトンネル注入される電子によりVthが増大し、書き込み時に低下したVthを増加させるため、データ書換え特性劣化が発生するとの仮説が指摘されている。
【0190】
本実施例では、上記問題点を解決するため、実施例2で述べたアドバンズドバッファ層構造のFeFET素子をメモリセルに備える。図22(b)を参照すると、下部電極はSi基板2s、界面層5はイットリウムシリケート膜、強誘電体膜1はYドープ酸化ハフニウム膜、バッファ層4は酸化セリウム(CeO)膜、上部電極3gはW/TiNである。本実施例では、実施例2で示した界面層5が挿入されたアドバンズドバッファ層構造になっている。この界面層5は実施例2で説明したように低電圧動作で強誘電体特性を改善するとともに、書き込み時にFeFETのチャンネルより注入される電子のトンネル電流を界面層(トンネル絶縁膜)の相対的厚膜化により抑止し、結果としてデータ書換え特性劣化の改善を可能にする。また、CeOなどのバッファ層4は、強誘電体層1、例えばYドープ酸化ハフニウム膜にデータ書換えの回数が増加するとともに発生するデータ書換え時の電界ストレスによって強誘電体層1中または電極界面に形成される酸素欠陥を補償して低減し、その結果としてデータ書換え特性を改善する。
【0191】
図28にFeFETによるFeNANDのメモリストリングの例を示す。図28は2本のメモリストリングを示すが、各メモリストリングは、図22で説明したFeFETメモリセルMCが直列に接続されて構成され、ストリングの両端は選択トランジスタSTから構成される。メモリセルMCのVthは、強誘電体膜の自発分極の方向に応じて変化する。FeNANDは複数のFeFETメモリストリングより構成され、NANDフラッシュメモリと同様に、セル面積は小さく低コストが期待できるが、シリアルアクセスに限定され、ランダムアクセスはできない。
【0192】
図29にFeNANDの主要回路構成の概念図を示す。図29は3次元構造のFeNANDを想定している。メモリストリングMUに属する複数のメモリセルのゲート電極には、それぞれ、ワード線WLが接続される。これらワード線WLは、それぞれ、1つのメモリフィンガーMF中の全てのメモリストリングMUに共通に接続される。また、1つのメモリブロック中において、1つのメモリフィンガーMFに接続された複数のワード線は、それぞれ、残りのメモリフィンガーMFに接続された複数のワード線に共通に接続される。尚、1つのメモリフィンガーMF中において、1つのワード線WLに共通に接続された複数のメモリセルは、ページを構成する。
【0193】
選択トランジスタ(STD、STS)は、チャネル領域として機能する半導体層、ゲート絶縁膜及びゲート電極を備える電界効果トランジスタである。選択トランジスタ(STD、STS)のゲート電極には、それぞれ、選択ゲート線(SGD、SGS)が接続される。選択ゲート線(SGD、SGS)は、それぞれ、1つのメモリフィンガーMF中の全ての選択トランジスタ(STD、STS)に共通に接続される。また、1つのメモリブロックMBi中の複数のドレイン選択線SGDは、メモリフィンガーMF毎に独立して周辺回路PCに接続される。一方、1つのメモリブロックMBi中において、1つのメモリフィンガーMFに接続されたソース選択線SGSは、残りのメモリフィンガーMFに接続されたソース選択線SGSに共通に接続される。
【0194】
図30は、メモリフィンガーMFの構成を示す概略的な斜視図である。また、図31に3次元FeNANDの主要部の断面構造を示す。
【0195】
図30に示す通り、メモリフィンガーMFは、基板21上に設けられる。メモリフィンガーMFは、Z方向に配設された複数の導電層22と、Z方向に延伸しこれら複数の導電層22と対向する半導体層23と、これら導電層22及び半導体層23の間に設けられたゲート絶縁膜24とを備える。この構成においては、導電層22と半導体層23との交差部分が、それぞれ、メモリセルMCとして機能する。
【0196】
基板21は、例えば、単結晶シリコン(Si)等からなる半導体基板である。基板21は、例えば、半導体基板の上面にn型の不純物層を有し、更にこのn型の不純物層中にp型の不純物層を有する2重ウェル構造を備える。導電層22は、X方向に延伸する板状の導電層であり、例えば窒化チタン(TiN)とタングステン(W)との積層膜等からなる。導電層22は、それぞれ、X方向及びY方向から半導体層23の側面を覆い、ワード線WL及びメモリセルMCのゲート電極、又は、選択ゲート線(SGD,SGS)及び選択トランジスタ(STD,STS)のゲート電極として機能する。導電層22は、それぞれ、X方向の端部においてZ方向に延伸するコンタクト31、32に接続され、このコンタクト31、32を介して周辺回路PCに接続される。
【0197】
半導体層23は、Z方向に延伸する略円柱状又は略円筒状の半導体層であり、例えばポリシリコン(p-Si)等からなる。半導体層23は、メモリセル及び選択トランジスタ(STD,STS)のチャネル領域として機能する。半導体層23の上端はコンタクト22を介してY 方向に延伸するビット線BLに接続される。半導体層23の下端は基板21の表面、並びに、Z方向及びX方向に延伸する配線LIを介してY方向に延伸するソース線SLに接続される。尚、図示の例においては、半導体層203の下端が基板21の上面を介して配線LIに接続されるが、他の配線等を通じて接続されても良い。
【0198】
図31で、3次元FeNANDの断面構造図であるが、上部にビットライン(BL)、下部にソースライン(SL)が配置され、ホールに沿い強誘電体膜が埋め込まれており、プラス、マイナスの表記は強誘電体材料の分極方向を概念的に示したものである。FeNANDは3次元NANDフラッシュメモリと比較して、書き込み・消去電圧が大幅に低減されるため、低消費電力化が期待される。
【0199】
本発明の不揮発性記憶装置では、データ書換え時の電界ストレスにより強誘電体層中または電極界面に形成される酸素欠陥を、バッファ層より酸素イオンを供給して強誘電体層中または界面の酸素欠陥量を制御してリーク電流、強誘電体層膜質等を改善し、その結果として、データ書換え回数が大幅に改善される。
【0200】
さらに、酸化ハフニウム系強誘電体層と類似した蛍石構造の第1の導電層として、下部導電層と強誘電体層との間にシリコン酸化膜より誘電率が相対的に高い高誘電体シリケート、高誘電体誘電体膜等の界面層を挿入することにより、低電圧で強誘電体層に分極反転電界を印加することが可能になり、その結果として、強誘電体膜に印加される電圧ストレスが低減され、低消費電力で書き換え回数が大幅に改善されるという特有の効果を有する。
【0201】
〔実施例5:FTJ素子及びクロスポイント型メモリ〕
に係る半導体記憶装置について図面(図32)を参照して説明する。また、本実施例においては、メモリセルとして強誘電体トンネル接合(Ferroelectric Tunnel Junction(FTJ))素子を備えるFTJメモリ及びクロスポイント型のメモリセルアレイについて図面(図33~36)を参照して説明する。
【0202】
FTJメモリの原理概念図を図32に示す。下部電極/強誘電体薄膜/上部電極(M/FE/M)の3層構造が基本構造で、強誘電体薄膜FEは10nm以下まで薄膜化してトンネル絶縁膜としても機能させる。強誘電体薄膜FEと金属電極Mとの界面のトンネル電子に対するポテンシャル障壁が強誘電体膜FEの分極方向により変調される物理現象を利用して、不揮発性メモリ動作を行う。具体的には金属電極Mに印加する電圧の極性により強誘電体膜FEの分極方向を変化させて情報の書き込み/消去を行い、電極Mへの電圧印加による素子の強誘電体膜FEに流れるトンネル電流値の相違として情報の読み出しを行う。このため、FTJ素子では非破壊読出しの強誘電体メモリであることが特徴であり、従来の1T1C型、2T2C型の強誘電体メモリを構成する強誘電体キャパシタの読出しが破壊読出しに対してFTJ素子の利点になっている。
【0203】
FTJ素子のデータ書換え特性(Endurance)に関して、データ書換え回数が増加するに従いデータ書換え特性の劣化の要因を模式的に図33に示す。FTJ素子では図33に示すように強誘電体層と下部電極の間に界面層として酸化シリコン(SiO)膜が用いられる場合がある。書換え回数が増大するとトンネル電子に起因して強誘電体膜中に欠陥が発生し、その結果として発した欠陥を介して強誘電体膜中にリーク電流が発生し、データ書換え特性劣化が発生させるとの仮説が提案されている。
【0204】
本実施例では、実施例2で述べた図14に示すアドバンズドバッファ層構造のFTJ素子をメモリセルに備える。例えば、下部電極2はNiSi電極、界面層5はイットリウムシリケート(YSiOシリケート)膜、強誘電体膜1はYドープ酸化ハフニウム(YHO)膜、バッファ層4は酸化セリウム(CeO)膜、上部電極3はW/TiNまたはTiN膜である。なお、10nm以下のYHO膜1は原子層輸送法(ALD法)、スパッタ法,パルスCVD法等で注意深く形成する。
【0205】
本実施例では、図14で示したFTJ素子の基本構造では、高誘電体膜の界面層5が挿入された構造になっている。この界面層5は実施例2で説明したように低電圧で強誘電特性を改善するとともに、トンネル障壁が2層膜構造でトンネル電子のポテンシャル障壁を高くできるため、読出し時のOFF電流を低減することができ、結果としてFTJ素子の読み出し電流のON/OFF比を大きく改善することができる。
【0206】
図34にクロスポイントメモリCPMの概念図を示す。クロスポイントメモリCPMは周辺回路PCとメモリセルアレイMCiを有し、メモリセルアレイMCiのセルレイアウトでは、ビット線BLとワード線WLを垂直に2次元的に配列させたクロスポイントにメモリセルMCを配置するクロスポイント構造をとり、最小寸法でレイアウト可能なメモリセルアレイ構造の1つである。本実施例で示したFTJ素子では、界面層挿入によりFTJ素子がダイオード的な整流特性を示すため、別に選択素子を用いない自己整流特性を有するメモリセルをFTJ素子自身で実現することができる。このため、図34に示したクロスポイント型メモリの大きな課題である非選択素子を流れるリーク電流を抑止することができる。また、図34に示したレイアウトは面内に平行方法に2次元的な構成をとっているが、さらに面内に垂直方向Z方向にFTJ素子を積層した3次元クロスポイントメモリを実現することが可能である。この3次元クロスポイントメモリは2次元クロスポイントメモリセルに対して、実質的なセル面積を縮小することが可能であるため、ビットコストをさらに低減できる効果も有する。また、メモリセルでは、FTJ素子に加えてダイオード等の整流素子を別に備えた1S1F型のメモリセルでクロスポイントメモリを実現することも可能であり、さらにメモリセルのON/OFF特性を改善可能であり、大容量のクロスポイントメモリが実現できる。
【0207】
FTJメモリセルに適用される強誘電体層は、Yドープ酸化ハフニウム膜を示したが、その他例えば、HZO(Hf0.5Zr0.5)、HSO(SiHfO)など、ハフニウム(Hf)及び酸素(O)を主成分とし、シリコン(Si)マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、及びジルコニウム(Zr)の少なくとも一つが添加された膜等であってもよい。
【0208】
バッファ層は、酸素イオン導電性を持った複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物である絶縁膜でセリウム酸化膜(CeO; x1.5~2.0)以外には、ジルコニウム酸化膜、チタン酸化膜、イットリア安定化ジルコニア膜または希土類元素酸化膜などから構成される。
【0209】
界面層は、単層膜または多層膜から構成されてよいが、界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し、例えば、高誘電率の酸化膜、または、シリケート膜が望ましく、強誘電体層がYドープはハフニウム酸化膜の場合、イットリウムシリケート膜(YSiO),ハフニウムシリケート膜、イットリウムハフニウムシリケート膜(YHSiO)、Y膜等が望ましい。
【0210】
界面層は、第1の導電層(下部電極)と直接に接触していることが好ましい。第1の導電層(下部電極)の表面にはごく薄い表面酸化膜が形成され易いので、その場合にはその表面酸化膜は界面層の一部と考えてよく、その複合膜全体として酸化シリコンより高い誘電率を有していればよい。表面酸化膜以外の界面層の本体自身が多層膜であってもよい。界面層は、強誘電体層より第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有することが好ましい。
【0211】
図35に本実施形態に係るクロスポイントメモリ装置を示した。メモリセルアレイMCiとメモリセルアレイMCiの周辺に設けられた周辺回路PCを少なくとも備える。メモリセルアレイは、複数のワード線WLと、これら複数のワード線WLと交差する複数のビット線BLと、これら配線に接続された複数のメモリセルMCとを備える。尚、1つのワード線WLにして接続された複数のメモリセルMCは、ページを構成する。
【0212】
周辺回路PCは、外部から受信した命令に応じて電圧を生成し、メモリセルアレイMCiに印加して、指定されたページ等に対するデータの書込処理、読出処理、消去処理、再ウェイクアップ処理等を実行する。
【0213】
図36にクロスポイントメモリの具体的な応用例として、脳型メモリ(ニューロモルフィックメモリ)応用の概念図を示す。人間の脳内での情報処理に模倣した超低消費電力アナログ演算機能をクロスポイントメモリで模倣することが可能である。図36と人間の神経細胞の演算機能をクロスポイントメモリとのアナロジーとして示した。クロスポイントメモリセルアレイは1つのニューロンに対応し、ワード線は軸索(アクソン)にビット線は樹状突起(デンドライド)に対応する。人間の脳は超並列に動作している。しかし、通常のフォンノイマン型デジタルメモリでは、通常ワード線1本につき、ビット線1本または数本に出力させるため、脳型を模倣することは難しい。このため、ニューロモルフィック動作では、ワード線複数本を同時に活性化動作させ、ビット線への出力電流はビット線に接続された全てのFTJ素子からの電流の総和をセンスアンプでアナログ的にセンスして、次のニューロンへの入力信号として出力する方式で動作させる。
【0214】
この場合も、図14に示した高誘電体界面層を有するアドバンズドバッファ層構造を備えたFTJ素子にすることにより、クロスポイントセルアレイのリーク電流とデータ書換え回数を改善することができる効果を有する。
【0215】
以上より、本実施例の不揮発性記憶装置では、データ書換え時の電界ストレスにより強誘電体層中または電極界面に形成される酸素欠陥をバッファ層から酸素イオンを供給して、強誘電体層中またはその界面の酸素欠陥を再結合により修復することで、リーク電流、強誘電体層膜質等を改善し、その結果として、読出し時のON/OFF比の増大、データ書換え回数の大幅な改善が可能となる。
【0216】
さらに、酸化ハフニウム強誘電体層と類似した蛍石構造のNiSi電極を用い、かつ第1の導電層として、下部導電層と強誘電体層との間にシリコン酸化膜より誘電率が相対的に高いはイットリウムシリケート(YSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、Y等の界面層を挿入することにより、低電圧で強誘電体層に分極反転電界を印加することが可能になり、その結果として、データ書換え時のストレスが低減され、低消費電力で書き換え回数が大幅に改善されるという特有の効果を有する。本実施例の脳型メモリ応用では、強誘電体素子として、FTJ素子を用いた例で説明したが、強誘電体素子として、本発明で示したバッファ層構造、またはアドバンストバッファ層構造を有する強誘電体キャパシタ、FeFETを脳型メモリに適用した場合でも、本発明が適用可能であることは言うまでもない。
【0217】
〔実施例6:不揮発性ロジック、不揮発性パワーゲーティング〕
実施例6に係る半導体記憶装置について図面(図37~43)を参照して説明する。本実施例では、バッファ層構造強誘電体素子、例えばキャパシタ、FTJ素子、FeFET等をロジックの低消費電力技術である不揮発性ロジックに適用した例を、不揮発性SRAM、不揮発性ラッチ/フリッププロップ、不揮発性パワーゲーティング等を中心に示すとともに、超低消費電力マイクロコントローラへ適用した例に関しても示す。
【0218】
微細CMOSで作製したSoC(System on Chip)では、オンチップのワーキングメモリであるSRAM及びロジック回路を構成するトランジスタの待機時のリーク電流がSoC全体の消費電力の増大の主要因になってきている。このため待機時に動作していないロジック回路の電源をOFFにして消費電力を低減する試みが行われてきた。SRAMのような揮発性メモリでは電源をきると、記憶データが消失する問題があった。このため、電源遮断より前に揮発性メモリより不揮発性メモリ素子にデータをストアし、再び動作する前にデータをリコールしてSRAMに戻すことにより待機時のロジックの電源をカットする低消費電力化技術が提案されている。
【0219】
さらにSoCの低消費電力化するためには不揮発性メモリをCMOSに混載させ、データ転送距離を短縮化すると同時にロジックより不揮発性メモリへの書き込み、消去時の動作電力の低減が重要である。動作電力が小さい不揮発性メモリとして電圧動作不揮発性強誘電体メモリが注目されている。低動作電力化するためには従来のPZT系材料ではスケーリング困難な微細CMOSプロセスが適用可能な酸化ハフニウム系強誘電体メモリの信頼性改善と低動作電圧化が重要であり、本実施例では、バッファ層構造強誘電体キャパシタを用いた不揮発性ロジックに関して説明する。
【0220】
ここでは、酸化ハフニウム系強誘電体キャパシタをフロントエンド部に形成されたロジックトランジスタ部分上層部のバックエンド配線層に配置した例に関して説明するが、キャパシタの配置位置に関しては、バックエンドに限定するものではない。
【0221】
高速動作可能なデータ記憶回路として、1対のインバータの入出力を交差接続したラッチ回路がある。ラッチ回路は、フリップフロップを構成する要素回路、SRAMのメモリセル等に利用される。かかるラッチ回路は、それ自体揮発性のデータ記憶回路であり、電源が遮断されると、保持しているデータが失われる。そこで、不揮発性のデータ記憶回路が提案されている。
【0222】
図37に強誘電体キャパシタを使用した不揮発性SRAMの基本概念とデータの流れを示す。不揮発性SRAMセルは、6個のロジックトランジスタから構成される揮発性SRAM(6T SRAM)セル部分と不揮発性強誘電体記憶素子(例えばキャパシタ)部分から構成される。電源を備えた通常の動作状態では、SRAM部分でデータが保持され、SRAM部分ではこのデータは標準のSRAMと同じ方法でREAD/WRITEアクセスされる。パワーゲーティングによる低消費電力化のための電圧カットオフの前に、SRAM部分のデータは、ストアオペレーションで結合された強誘電体キャパシタにコピーされる。再び動作モードになるためSRAMの電源が復旧すると、この強誘電体素子に保存された値はリコール操作によってSRAM部分に返送される。
【0223】
図38に不揮発性SRAMの回路部を示す。6トランジスタSRAMセルと2つの強誘電体キャパシタと2つの選択トランジスタから構成される。電源がオンになると、ゲート制御された2つの選択トランジスタが強誘電体キャパシタをSRAM部分から分離する。
【0224】
通常、CMOSロジック内で用いられる高速動作可能な記憶回路は電源遮断によって記憶内容を失ってしまうが、このような双安定記憶回路に不揮発性メモリ素子を付加することで、電源遮断を行ってもデータを保持できるようにできる。CMOSロジックが通常の動作を行っているときには、不揮発記憶は用いずに通常の双安定記憶回路として動作し、電源遮断を行うときにだけ不揮発記憶を行うところに特徴がある。これによって、通常動作には影響を与えず、高効率にエネルギーを削減できる不揮発性パワーゲーティング(NVPG)が実行できる。
【0225】
強誘電体、例えばキャパシタには、好ましくは実施例2でしたアドバンズドバッファ層構造キャパシタを用いる。Yドープ酸化ハフニウム膜を用いたが、強誘電体層は、例えば、HZO(Hf0.5Zr0.5)、HSO(SiHfO)など、ハフニウム(Hf)及び酸素(O)を主成分とし、ランタン(La)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、バリウム(Ba)、及びジルコニウム(Zr)の少なくとも一つが添加された膜等を用いてもよい。また、ドーピングしない酸化ハフニウム膜でもよい。
【0226】
バッファ層は、酸素イオン導電性を持った複数の原子価を有する金属を含む金属酸化物である絶縁膜で、例えばセリウム酸化膜(CeO;x=1.5~2.0、好ましくは1.6-2.0、さらに1.7-2.0、特に1.8-2.0)等である。界面層は、例えば、高誘電率の酸化膜、または、シリケート膜が望ましく、強誘電体層がYドープ酸化ハフニウム酸化層の場合、Yシリケート膜、Y膜、HfSiOシリケート膜が望ましい。
【0227】
界面層は、単層膜または多層膜から構成されていてよいが、界面層全体として酸化シリコンより高い誘電率を有し、例えば、高誘電率の酸化膜、または、シリケート膜が望ましく、強誘電体層がYドープはハフニウム酸化膜の場合、イットリウムシリケート膜(YSiO),ハフニウムシリケート(HfSiO)、イットリウムハフニウムシリケート膜(YHfSiO)、Y膜等が望ましい。第1の導電層(下部電極)の表面にはごく薄い表面酸化膜が形成され易いので、その場合にはその表面酸化膜は界面層の一部と考えてよく、その複合膜全体として酸化シリコンより高い誘電率を有していればよい。界面層は、強誘電体層より第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有することが好ましい。
【0228】
本実施例では、揮発メモリであるSRAMのデータを電源OFF時に強誘電体キャパシタで保存して、電源ON時にはSRAMへデータを書き込戻すことが必要である。このため、強誘電体素子、例えばキャパシタのデータ書換え回数(Endurance回数)は多いことが必要である。
【0229】
しかし、酸化ハフニウム系強誘電体素子、例えばキャパシタのデータ書換え回数はまだ制限されてきた。本実施例では、データ書換え時の電界ストレスにより強誘電体層中または電極界面に形成される酸素欠陥をバッファ層より酸素イオンを供給して強誘電体層中または界面の酸素欠陥量を制御してリーク電流、膜質等を改善し、その結果として、強誘電体膜の印加される電界ストレスを低減して、強誘電体素子、例えばキャパシタのデータ書換え回数を大幅に改善する。
【0230】
さらに、強誘電体層との間にシリコン酸化膜より誘電率が相対的に高いイットリウムシリケート膜(YSiO),ハフニウムシリケート膜(HfSiO)、イットリウムハフニウムシリケート膜(YHfSiO)、Y膜等の界面層を挿入することにより、より低電圧で強誘電体層に分極反転電界を印加することができ、その結果として、低消費電力で書き換え回数が改善できるという特有の効果を有する。
【0231】
図39及び図40図38の変形例として、6T型トランジスタ型のSRAMにトランジスタ4個と強誘電体キャパシタ2つより構成される不揮発性SRAM、及び6T型のSRAMに選択トランジスタを介さずに4つの強誘電体キャパシタを直接接続するタイプの不揮発性SRAMを示す。図39ではトランジスタ数を増加させて信頼性をさらに改善させている。一方、図40では、選択トランジスタを用いないので、トランジスタ数を低減し、メモリセルの面積が小さくすることができる利点がある。
【0232】
本実施例の不揮発性SRAMに用いる不揮発性強誘電体素子では、データ書換え時の電界ストレスにより強誘電体層中または電極界面に形成される酸素欠陥をバッファ層より酸素イオンを供給して強誘電体層中または界面の酸素欠陥量を制御してリーク電流、膜質等を改善し、その結果として、データ書換え回数が大幅に改善される。
【0233】
さらに、強誘電体層との間にシリコン酸化膜より誘電率が相対的に高いイットリウムシリケート膜(YSiO),ハフニウムシリケート膜(HfSiO)、イットリウムハフニウムシリケート膜(YHfSiO)、Y等の界面層を挿入することにより、より低電圧で強誘電体層に分極反転電界を印加することができ、その結果として、低消費電力で書き換え回数が改善できるという特有の効果を有する。
【0234】
次に、不揮発性ロジックとして、実施例1及び2で示した強誘電体キャパシタを不揮発性ラッチ回路に適用した例を示す。図41に、高速動作可能なデータ記憶回路として、1対のインバータの入出力を交差接続したラッチ回路がある。ラッチ回路は、フリップフロップを構成する要素回路として利用されたり、SRAMのメモリセルとして利用される。かかるラッチ回路は、それ自体揮発性のデータ記憶回路であり、電源が遮断されると、保持しているデータが失われる。そこで、不揮発性のデータ記憶回路が提案されている。
【0235】
不揮発性のデータ記憶回路として、SRAMのメモリセルを構成するラッチ回路の記憶ノードに、強誘電体素子例えばキャパシタを可変容量キャパシタとして接続したものが提案されている。図41は、かかるメモリセルの回路図である。ラッチ回路部分と強誘電体素子部分の選択トランジスタは用いない方式である。このメモリセルは、CMOSインバータの入出力端を交差接続したラッチ回路と、ゲートがワード線WLにソース・ドレインの一方がビット線BL、BLXに接続されたトランスファーゲートと、ラッチ回路の1対の記憶ノードに接続された強誘電体キャパシタFC1,FC2とで構成される。強誘電体キャパシタFC1,FC2の反対側の電極は、プレート線PLが接続される。1対のインバータからなるラッチ回路は、電源が遮断されるとデータが消失する。しかし、1対の記憶ノードに強誘電体キャパシタFC1,FC2を接続することで、記憶ノードの電圧レベルに応じて、強誘電体キャパシタの強誘電体膜の分極方向を制御することができ、かかる分極方向は、電源遮断後も残留分極として維持される。
【0236】
本実施例では、不揮発性ロジック装置の強誘電体キャパシタに実施例1及び2で示した不強誘電体キャパシタを適用することが好ましい。このため、本不揮発性ロジック装置では、データ転送時の電界ストレスにより強誘電体層中または電極界面に形成される酸素欠陥をバッファ層より酸素イオンを供給して強誘電体層中または界面の酸素欠陥量を制御してリーク電流、膜質等を改善し、その結果として、データ書換え回数を大幅に改善する。
【0237】
さらに、強誘電体層との間にシリコン酸化膜より誘電率が相対的に高いイットリウムシリケート膜(YSiO),ハフニウムシリケート膜(HfSiO)、イットリウムハフニウムシリケート膜(YHfSiO)、Y等の界面層を挿入することにより、より低電圧で強誘電体層に分極反転電界を印加することができ、その結果として、低消費電力で書き換え回数が改善できるという特有の効果を有する。本実施例の不揮発性ロジック応用では、強誘電体素子として、強誘電体キャパシタ、またはFTJ素子を用いた例で説明したが、強誘電体素子として、本発明で示したバッファ層構造、またはアドバンストバッファ層構造を有するFeFETを不揮発性ロジックに適用した場合でも、本発明が適用可能であることは言うまでもない。
【0238】
以下にこれまで説明した低消費電力強誘電体メモリ素子を用いた低消費電力強誘電体メモリ及び不揮発性ロジック技術を適用した不揮発性マイクロコントローラへ適用した実施例につき簡単に説明する。
【0239】
実施例における半導体装置について図面を参照しながら説明する。本実施例では、超低消費電力強誘電体メモリとともにロジック部分は不揮発性パワーゲーティング技術、ノーマリオフ技術を中心とするパワーマネージメント技術が適用され、超低消費電力化されている。
【0240】
図42は、本実施の形態における半導体チップの構成概念を示す図である。図42はマイクロコントローラ(マイコン)を形成した半導体チップを示す平面図であり、半導体チップに形成されたそれぞれの素子のレイアウト構成を示した図である。図42において、半導体チップは、CPU(Central Processing Unit)41、RAM(Random Access Memory)42、アナログ回路43および強誘電体メモリ44を有している。半導体チップは、さらに、外部との入出力端子であるパッド電極(外部接続端子)PDを複数有する。
【0241】
CPU(回路)41は、中央演算処理部とも呼ばれ、コンピュータなどの心臓部にあたる。このCPU41は、記憶装置から命令を読み出して解読し、それに基づいて多種多様な演算や制御を行なうものであり、処理の高速性が要求される。したがって、CPU41を構成しているMOSトランジスタには、半導体チップに形成されている素子の中で、相対的に高速動作および低消費電力が必要とされる。CPUを構成するMOSトランジスタ回路は本実施例で示した不揮発性パワーゲーティング(PG)技術等により低消費電力化されている。
【0242】
RAM(回路)42は、記憶情報をランダムに、すなわち随時記憶されている記憶情報を読み出したり、記憶情報を新たに書き込んだりすることができるメモリであり、随時書き込み読み出しができるメモリとも呼ばれる。ここでは、スタティック回路を用いたSRAMが通常用いられているが、本実施例示して、不揮発性SRAMを適用して、基本動作はSRAMと同一であるが、消費電力はより低消費電力化させている。
【0243】
アナログ回路43は、時間的に連続して変化する電圧や電流の信号、すなわちアナログ信号を扱う回路であり、例えば増幅回路、変換回路、変調回路、発振回路、電源回路などから構成されている。これらアナログ回路43は、高耐圧MOSトランジスタ で形成される。強誘電体メモリ44は、実施例1及び2で示したが、バッファ層構造またはアドバンズドバッファ層構造の1T1C FeRAMアレイ,FeFETアレイ等より構成される超低消費電力な不揮発性メモリである。
【0244】
図43に画像の知的認識処理(AI処理を含む)を目的としたIoT/AIエッジデバイスの例として、積層型の低消費電力不揮発性LSIチップの概念図を示す。図43(a)に画像センサアレイ51と低消費電力強誘電体メモリ混載デバイス52の2層積層型、図43(b)に画像センサアレイ61、超低消費電力不揮発性強誘電体メモリ62、超低消費電力ロジック63の3層積層型に関して示した。また、2層構造、3層構造の垂直方向の接続はシリコン貫通電極(TSV)接続技術、Cuパッド間での接続技術等が適用可能である。Cuバッド間での接続は、上部チップと下部チップを積層する際、上層チップと下層チップのCuのパッド同士を接続することで、電気的導通を図る技術である。
【0245】
積層LSIのメモリ部分には本実施例で示した低消費電力誘電体メモリ、ロジック部分には不揮発性パワーゲーティング等を用いた不揮発性ロジックメモリ技術を適用した。結果として、超低消費電力が必要となるエッジ領域における、IoT/エッジデバイスでのAI処理が可能となる。
【0246】
本不揮発性ロジック装置では、データ転送時の電界ストレスにより強誘電体層中または電極界面に形成される酸素欠陥をバッファ層より酸素イオンを供給して強誘電体層中または界面の酸素欠陥量を制御して、リーク電流、膜質等を改善し、その結果として、低消費電力でデータ書換え回数が大幅に改善される。
【0247】
さらに、強誘電体層との間にシリコン酸化膜より誘電率が相対的に高いイットリウムシリケート膜(YSiO),ハフニウムシリケート膜(HfSiO)、イットリウムハフニウムシリケート膜(YHfSiO)、Y等の界面層を挿入することにより、より低電圧で強誘電体層に分極反転電界を印加することができ、その結果として、データ書換え時の電界ストレスが低減され、低消費電力で書き換え回数が改善できるという特有の効果を有する。
【0248】
界面層は、第1の導電層(下部電極)と直接に接触していることが好ましい。第1の導電層(下部電極)の表面にはごく薄い表面酸化膜が形成され易いので、その場合にはその表面酸化膜は界面層の一部と考えてよく、その複合膜全体として酸化シリコンより高い誘電率を有していればよい。表面酸化膜以外の界面層の本体自身が多層膜であってもよい。界面層は、強誘電体層より第1の導電層側への酸素移動を抑止する機能を有することが好ましい。
【0249】
本実施例ではこれまで、不揮発性ロジックとして、低消費電力強誘電体メモリ素子をロジック素子に適用して、ロジック回路を不揮発性化して低消費電力することを中心に述べてきた。一方でマイクロコントローラ等のシステムLSI(SoC)の低消費電力化には、ロジックトランジスタの電源電圧、動作電圧の低電圧化も有効であり、その手法として、バルクSi基板ではなく、Silicon on Insulator (SOI)基板プロセスを用いることが有効である。
【0250】
このため、本発明では、例えば図22図23及び図24等のデバイス構造図では、バルクSi基板で記載されているが、SOI基板を使用した強誘電体メモリ素子及び装置の場合であってもその有用性は不変であり、その場合で、不揮発性強誘電体メモリ素子による低消費電力化に加えてロジックトランジスタの低消費電力化のシナジー効果が加わり、さらにシステムLSIの低消費電力化が可能である。
【0251】
また、本発明の本質はSOIプロセスとバルクSiプロセスとを同一Si基板上で実現、作製可能なSilicon On Thin Buried Oxide(SOTB)プロセスへも適用可能である。
【0252】
また、先端CMOSトランジスタの微細化とともにロジックトランジスタは2次元平面型構造より3次元立体構造、具体的にはFin型トランジスタ、そしてナノワイヤートランジスタに進化発展していくと予想されているが、そのような先端CMOSトランジスタプロセスであっても本発明は適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0253】
1 強誘電体層
2 第1の導電層
2s 半導体層
2b 下部電極
3 第2の導電層
3u 上部電極
3g ゲート電極
4 バッファ層
5 界面層
6 ソース領域
7 ドレイン領域
11 半導体層
12 素子分離膜
13 層間絶縁膜
21 基板
22 導電層
23 半導体層
24 ゲート絶縁膜
31、32 コンタクト
41 CPU
42 RAM
43 アナログ回路
44 強誘電体メモリ
51 画像センサアレイ
52 低消費電力強誘電体メモリ混載デバイス
61 画像センサアレイ
62 超低消費電力不揮発性強誘電体メモリ
63 超低消費電力ロジック
ST、STD,STS 選択トランジスタ
SGD,SGS 選択ゲート線
FC 強誘電体キャパシタ
WL ワード線
BL、/BL ビット線
PL プレート線(アース)
SL ソース線
MBi メモリセルアレイ
MC メモリセル
MF メモリフィンガー
MU メモリストリング
PC 周辺回路
CPM クロスポイントメモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43