(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-23
(45)【発行日】2025-07-01
(54)【発明の名称】ボロメータ型検出器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20250624BHJP
【FI】
G01J1/02 C
(21)【出願番号】P 2021066018
(22)【出願日】2021-04-08
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】田中 朋
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-210877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0001659(US,A1)
【文献】国際公開第2011/145295(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0105242(US,A1)
【文献】国際公開第2012/147987(WO,A1)
【文献】特開平05-018816(JP,A)
【文献】特開2003-152170(JP,A)
【文献】国際公開第2021/240660(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/241575(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00 - G01J 1/60
G01J 5/00 - G01J 5/90
G01J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素を備えるボロメータ型検出器であって、
基板、
前記基板上に設けられた断熱層、
前記断熱層上に設けられた画素毎のボロメータ膜、及び
前記ボロメータ膜に接触して設けられたコンタクト電極に接続されている信号出力のための配線
を少なくとも備え、
前記信号出力のための配線は、前記ボロメータ膜とは異なる層に配置され、
隣接する画素間の断熱層は、前記ボロメータ膜を囲む閉曲線の50%以上の長さ及び100nm以上の幅の領域で、深さ方向に少なくとも一部除去されてい
て、
前記基板と前記ボロメータ膜との間の断熱層が空洞を含まない、検出器。
【請求項2】
断熱層がパリレン層である、請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
ボロメータ膜が有機材料を含む、請求項1又は2に記載の検出器。
【請求項4】
ボロメータ膜が半導体型カーボンナノチューブを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の検出器。
【請求項5】
ボロメータ膜が半導体型カーボンナノチューブと負の熱膨張材料を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の検出器。
【請求項6】
ボロメータ膜の上側に光吸収材層を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の検出器。
【請求項7】
断熱層が除去された領域表面に金属が露出している、請求項1~6のいずれか1項に記載の検出器。
【請求項8】
露出した金属が信号出力のための配線を兼ねている、請求項7に記載の検出器。
【請求項9】
複数の画素を備えるボロメータ型検出器の製造方法であって、
基板上に第1の断熱層を形成する工程、
第1の断熱層上に信号出力のための一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第1の断熱層上に、第2の断熱層を形成する工程、
第2の断熱層上に信号出力のためのもう一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第2の断熱層上に、第3の断熱層を形成する工程、
第3の断熱層上にボロメータ膜を形成する工程、
ボロメータ膜上に、コンタクト電極を形成する工程
、
コンタクト電極を形成したボロメータ膜上に保護層を形成する工程、
隣接する画素間の断熱層を、前記ボロメータ膜を囲む閉曲線の50%以上の長さ及び100nm以上の幅の領域で、深さ方向に少なくとも一部除去する工程、及び
コンタクト電極を信号出力のための配線にそれぞれ接続する工程
を含む、製造方法。
【請求項10】
基板上に第1の断熱層を形成する工程、
第1の断熱層上に信号出力のための一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第1の断熱層上に、第2の断熱層を形成する工程、
第2の断熱層上に信号出力のためのもう一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第2の断熱層上に、第3の断熱層を形成する工程、
第3の断熱層上にボロメータ膜層を形成する工程、
ボロメータ膜層上に、画素毎にコンタクト電極を形成する工程、
コンタクト電極を形成したボロメータ膜層上に保護層を形成する工程、
保護層上に、画素毎のボロメータ膜となる領域を被覆するエッチングマスクを形成する工程、
エッチングにより、隣接する画素間の断熱層を、前記ボロメータ膜を囲む閉曲線の50%以上の長さ及び100nm以上の幅の領域で、深さ方向に少なくとも一部除去する工程、
エッチングマスクを除去する工程、及び
コンタクト電極を信号出力のための配線にそれぞれ接続する工程
を含む、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボロメータ型検出器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサーは、セキュリティ用の監視カメラだけでなく、人体のサーモグラフィー、車載用カメラ、及び構造物、食品等の検査など非常に広い範囲の応用性があることから、近年、産業応用が活発になっている。特に、IoT(Internet of Thing)との連携による生体情報の取得が可能な、安価で、且つ、高性能な赤外線センサーの開発が期待されている。
【0003】
赤外線センサーとしては、チタン膜や酸化バナジウムを抵抗材料として用いたボロメータ型の非冷却赤外線センサーが知られている(特許文献1)。特許文献1に記載のボロメータは、シリコン基板1上に、脚部42を支えとしてシリコン基板1から間隙7を隔てて隔離させたダイアフラム型の断熱部4を有し、この断熱部4上に赤外線検知部3を有している(
図15)。赤外線が照射されると、赤外線検知部3が熱せられ、温度変化による抵抗変化を検知する。間隙7は、空気の熱伝導によって熱がシリコン基板1に伝わるのを防ぐために、真空となっている。
【0004】
このようなダイアフラム構造を有するボロメータは、複雑な製造プロセスを必要とし、さらに、センサーを真空封止パッケージングする必要があるため、高コスト化を免れないという課題がある。
【0005】
このような課題に対して、プリンテット型のボロメータが提案されている(特許文献2)。特許文献2に記載のボロメータは、ボロメータ部(サーミスタ抵抗体)と基板の間に、上記間隙に代えて断熱層を設けることで、ボロメータ部から基板への熱伝導を防ぐ構造を有している。具体的には、
図16に示すように、基板710上に断熱層711を有し、その上に光反射膜及び光透過層713を有し、その上に第一電極702及び第二電極703とそれらに接続されたサーミスタ抵抗体701を有する。第一電極702はコラム配線704に、第二電極703はロウ配線705に、それぞれ接続されており、コラム配線704とロウ配線705は絶縁膜706によって電気的に絶縁されている。このような構造をとることで、コンタクトの形成なしにボロメータのアレイが形成できるという利点がある。
【0006】
ここで、特許文献2に記載のボロメータでは、断熱層711としてパリレンが用いられている。パリレンは、積層方向には高い断熱性を有するが、水平方向への断熱性は低いため、パリレン表面を介して隣接する画素間の熱流入が生じやすく、隣り合う画素間の熱流入を十分に抑制できないという課題がある。さらに、
図16に示すように、熱伝導率の高い金属製のコラム配線704とロウ配線705がボロメータ膜とボロメータ膜の間に配置されている場合は特に、画素間の熱流入が起こりやすい。画素間の熱流入が起こると、画素を集積してアレイ化した場合に、隣接する画素に熱が伝わるために鮮明な画像が得られないという課題がある。したがって、画素間の熱流入が低減されたボロメータ型検出器が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-263769号公報
【文献】国際公開第2011/145295号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、画素間の熱流入が低減されたボロメータ型検出器、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
複数の画素を備えるボロメータ型検出器であって、
基板、
前記基板上に設けられた断熱層、
前記断熱層上に設けられた画素毎のボロメータ膜、及び
前記ボロメータ膜に接触して設けられたコンタクト電極に接続されている信号出力のための配線
を少なくとも備え、
前記信号出力のための配線は、前記ボロメータ膜とは異なる層に配置され、
隣接する画素間の断熱層は、前記ボロメータ膜を囲む閉曲線の50%以上の長さ及び100nm以上の幅の領域で、深さ方向に少なくとも一部除去されている、検出器に関する。
【0010】
本発明の別の一態様は、
複数の画素を備えるボロメータ型検出器の製造方法であって、
基板上に第1の断熱層を形成する工程、
第1の断熱層上に信号出力のための一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第1の断熱層上に、第2の断熱層を形成する工程、
第2の断熱層上に信号出力のためのもう一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第2の断熱層上に、第3の断熱層を形成する工程、
第3の断熱層上にボロメータ膜を形成する工程、
ボロメータ膜上に、コンタクト電極を形成する工程、
任意に、コンタクト電極を形成したボロメータ膜上に保護層を形成する工程、
隣接する画素間の断熱層を、前記ボロメータ膜を囲む閉曲線の50%以上の長さ及び100nm以上の幅の領域で、深さ方向に少なくとも一部除去する工程、及び
コンタクト電極を信号出力のための配線にそれぞれ接続する工程
を含む、製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、画素間の熱流入が低減されたボロメータ検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態のボロメータの構造の一例の概略を示す図である(中央:上面図、右:y2-y2’断面で切断した右側側面図、下:x2-x2’位置における正面図)。
【
図2】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y1-y1’位置における断面図、下:x1-x1’位置における断面図)。
【
図3】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y1-y1’位置における断面図、下:x1-x1’位置における断面図)。
【
図4】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y1-y1’位置における断面図、下:x1-x1’位置における断面図)。
【
図5】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y1-y1’位置における断面図、下:x1-x1’位置における断面図)。
【
図6】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y1-y1’位置における断面図、下:x1-x1’位置における断面図)。
【
図7】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y1-y1’位置における断面図、下:x1-x1’位置における断面図)。
【
図8】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y1-y1’位置における断面図、下:x1-x1’位置における断面図)。
【
図9】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y1-y1’及びy2-y2’位置における断面図、下:x1-x1’及びx2-x2’位置における断面図)。
【
図10】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y1-y1’及びy2-y2’位置における断面図、下:x1-x1’及びx2-x2’位置における断面図)。
【
図11】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y2-y2’及びy3-y3’位置における断面図、下:x1-x1’及びx2-x2’位置における断面図)。
【
図12】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y3-y3’位置で切断した場合の右側側面図、下:x2-x2’位置で切断した場合の正面図)。
【
図13】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y3-y3’位置で切断した場合の右側側面図、下:x2-x2’位置で切断した場合の正面図)。
【
図14】本発明の一実施形態に係るボロメータの製造方法の一工程を示す図である(中央:上面図、右:y2-y2’断面で切断した右側側面図、下: x2-x2’位置における正面図)。
【
図15】一従来例(特許文献1)のボロメータの構造を示す。(a)は斜視図、(b)は縦断正面図である。
【
図16】一従来例(特許文献2)のボロメータアレイの構造を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のボロメータ型検出器は、画素間の断熱層の少なくとも一部を除去することにより、隣接する画素間の熱流入を低減できるという特徴を有する。また、熱伝導率の高い配線層をボロメータ膜とは異なる層に設けることにより、画素間の熱流入をより低減することができる。
また、一実施形態では、熱伝導率の高い配線層をボロメータ膜とは異なる層に設けたことにより、画素間の間隔を広げる必要がなくなるため、より高いフィルファクターを実現することが可能となる。
また、本発明のボロメータ型検出器の製造方法によれば、特にプリンテット型ボロメータ検出器において、断熱層の少なくとも一部を除去するという簡単なプロセスで、画素間の熱流入を低減することができる。
さらに、一実施形態では、断熱層をエッチングにより除去する際に、ボロメータ膜とは異なる層に配置された配線層をエッチストップ層として用いることで、簡単なプロセスで、断熱層が画素分離されたボロメータ検出器を製造することができる。
【0014】
本実施形態に係るボロメータ型検出器及びその製造方法の一例を図を参照して説明する。
図2~11において、中央の図は上面図、右側の図はy1-y1’、y2-y2’、又はy3-y3’位置における断面図、下側の図はx1-x1’又はx2-x2’位置における断面図を表す。
図1及び
図12~14において、中央の図は上面図、右側の図はy1-y1’、y2-y2’、又はy3-y3’位置で切断した場合の右側側面図、下側の図はx2-x2’位置で切断した場合の正面図を表す。
なお、
図1~14には、断熱層としてパリレン層、ボロメータ膜としてカーボンナノチューブ膜、保護層としてSiN層を用い、断熱層を縦配線又は横配線又は基板の深さまで除去した例を示したが、本発明のボロメータ型検出器及びその製造方法は、この構成に限定されない。
【0015】
図1に一実施形態のボロメータ型検出器の概略を示す。本実施形態のボロメータ型検出器は、基板101上に設けられた第1の断熱層(パリレン第1層)102-1と、第1の断熱層102-1上に設けられた信号出力のための配線(縦配線)103と、信号出力のための配線103が設けられた第1の断熱層102-1上に設けられた第2の断熱層(パリレン第2層)102-2と、第2の断熱層102-2上に設けられた信号出力のための配線(横配線)104と、信号出力のための配線104が設けられた第2の断熱層102-2上に設けられた第3の断熱層(パリレン第3層)102-3と、第3の断熱層102-3上に設けられた画素毎のボロメータ膜(カーボンナノチューブ膜)105と、ボロメータ膜105に接続されたコンタクト電極対106と、ボロメータ膜105上に設けられた保護膜(SiN膜)107と、を備える。コンタクト電極106は、接続電極109で信号出力のための配線(縦配線103及び横配線104)にそれぞれ接続されている。
ここで、
図1のボロメータ型検出器では、画素間(隣接するボロメータ膜間)の断熱層が、信号出力のための配線(縦配線103及び横配線104)の深さまでそれぞれ除去されている。
【0016】
このように、本実施形態のボロメータ型検出器は、画素間の断熱層の少なくとも一部が除去されていることを特徴とする。
断熱層102(本明細書において、断熱層102-1、102-2、102-3をまとめて「断熱層102」と記載することがある)は、画素間の断熱層の領域の少なくとも一部が除去されていればよいが、各画素の上面図において、ボロメータ膜領域(ボロメータ膜105、コンタクト電極106、及び接続電極109の領域)を囲む閉曲線の長さの少なくとも50%以上、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(100%であってもよい)の領域で除去されていることが好ましい。
閉曲線の各点における除去されている幅は、少なくとも100nm、好ましくは500nm以上、より好ましくは1μm以上である。一実施形態では、断熱層が、画素間の断熱層の幅で(すなわちボロメータ膜領域の縁から、隣接する画素のボロメータ膜領域の縁に至るまで)除去されていることが好ましい。
一実施形態では、閉曲線の80%以上の長さにおいて、画素間の断熱層の幅で、断熱層が除去されていることが好ましい。一実施形態では、
図1に示すように、全ての画素において、閉曲線全長(100%)にわたり、画素間の断熱層の幅で、断熱層が除去されている(すなわち、全ての画素において、画素間の断熱層が全領域にわたり除去されている)ことで、断熱層が完全に画素分離されていることが好ましい。
【0017】
ボロメータ膜領域を囲む閉曲線は、隣接する2つのボロメータ膜領域の間の任意の位置に配置してよい。閉曲線は不定形でよく、すなわち各点において、直線でも任意の曲線でもよいが、除去されていない領域の長さ(%)は、該除去されていない領域の両端を結ぶ最短の線として換算するものとする。閉曲線の各点における除去されている幅は、該各点における閉曲線の接線に垂直な方向の幅とする。隣接する2つの画素の閉曲線は、該2つの画素の間の断熱層の領域において、共有されていることも好ましい。
【0018】
また、
図1のような構造では、各ボロメータ膜領域の周囲の四辺に断熱層が存在することになるが、熱移動を均一に低減する観点から、少なくとも二辺、好ましくは三辺以上、より好ましくは四辺のすべてにおいて、少なくとも一部の断熱層が除去されていることが好ましい。
また、ボロメータアレイの外周に配置される画素では、外側の辺には隣接する画素が存在しないが、隣接する画素が存在しない辺の断熱層も、隣接する画素が存在する辺と同様、少なくとも一部の断熱層が除去されていること、すなわち、最外周の画素も、それ以外の画素と同様に熱分離されていることが好ましい。これにより、各画素の基板からの熱分離状況を等しくすることで、各画素の反応速度をより均一にすることができる。
【0019】
また、断熱層102が除去されている領域において、断熱層が除去される深さは、その表面(
図1におけるパリレン第3層の上表面)から深さ方向に少なくとも一部が除去されていれば、断熱層の表面を介した熱流入を低減できるが、該表面から、例えば少なくとも100nm以上、好ましくは少なくとも1μm、より好ましくは少なくとも10μm、さらに好ましくは少なくとも20μmの深さまで除去されていることが好ましい。
一実施形態では、断熱層が信号取出し配線(信号出力のための配線)のそれぞれの深さまで除去されていることで画素間の熱移動をより低減することができる。
【0020】
このようなボロメータ型検出器の製造方法の一例の概略を、図を参照して工程を追って説明する。
【0021】
工程1:基板(
図2)
最初に基板101を用意する。
基板101は、フレキシブル基板及びリジッド基板のいずれであっても良く、適宜選択できるが、少なくとも素子形成表面が絶縁性のもの、半導体性のものが好ましい。例えば、Si、SiO
2を被膜したSi、SiO
2、SiN、ガラス等の無機材料、及び、ポリマー、樹脂、プラスチック等の有機材料、例えばパリレン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、フッ素樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート等が使用できるが、これらに限定されない。
【0022】
工程2:第1の断熱層の形成(
図3)
次に、基板101上に第1の断熱層102-1を形成する。
断熱層102-1並びに後述する断熱層102-2及び102-3は、ボロメータ膜105から基板101への熱の伝達を遮断する層である。従来のボロメータでは、
図15に示したようにボロメータ膜から基板への熱の伝達を遮断する構造として間隙が設けられており、その形成には複雑な製造プロセスが必要となる。しかし、本実施形態における断熱層は、印刷プロセスなどで形成可能であるため、複雑な製造プロセスが不要となる。また、従来のボロメータでは、間隙を真空に保つために素子全体を真空パッケージングする必要があるが、本実施形態のボロメータでは真空パッケージングが必要ないという利点もある。
【0023】
断熱層102-1には、熱伝導性の低い樹脂成分を用いることが好ましい。断熱層に用いる樹脂成分の熱伝導率は、基板101の熱伝導率より低く、例えば0.02~0.3(W/mK)、好ましくは0.05~0.15(W/mK)の範囲である。
また、画素間の断熱層を除去することで画素間の熱流入を低減する本実施形態のボロメータ型検出器では、垂直方向(積層方向)の断熱性が所望の範囲であれば、水平方向の断熱性が低い材料でも断熱層の材料として採用することができる。
このような樹脂成分としては、パリレンが挙げられるがこれに限定されない。パリレンはパラキシリレン系ポリマーの総称で、ベンゼン環がCH2を介して連結した構造を有する。パリレンとしては、パリレンN、パリレンC、パリレンD、パリレンHT等が挙げられるが、中でもパリレンC(熱伝導率:0.084(W/mK))が最も熱伝導率が低いため好適である。
【0024】
断熱層102-1の厚みは、用いる成分の熱伝導性を考慮して適宜設定すればよいが、例えば、パリレンCなどのパリレンを用いた場合、断熱層102-1の厚みは、例えば100nm~30μm、好ましくは300nm~10μm、より好ましくは500nm~5μmの範囲とすることができる。
また、断熱層102-1並びに後述する断熱層102-2及び102-3の総厚みは、例えば5μm~50μm、好ましくは10μm~20μmの範囲とすることができる。
【0025】
断熱層102-1の製造方法は特に限定されず、断熱層の材料に合わせて適宜選択できる。例えば、断熱層としてパリレン膜を用いる場合、真空蒸着装置を用いて所望の領域をパリレンコーティングすることによりパリレン膜を形成することができる。具体的には、固体のダイマーを真空下で加熱すると、気化してダイマー気体となる。この気体が熱分解してダイマーが開裂し、モノマー形態になる。室温の蒸着チャンバ内で、このモノマー気体がすべての表面で重合し、薄く透明なポリマーフィルムが形成される。必要により、蒸着プロセスを行う前に、基体の前処理、基体の清浄、蒸着すべきでない領域のマスキングなどを行ってもよい。
【0026】
工程3:信号出力のための配線の形成(
図4)
次に信号出力のための配線(縦配線)103を形成する。
本実施形態のボロメータ型検出器では、金属製の信号出力のための配線(信号引き出し配線)が、ボロメータ膜とは異なる層に配置されている。これにより、熱伝導率の高い金属製の配線を介した画素間の熱移動を低減することができる。また、各配線をボロメータ膜に近接させて配置することができるため、高いフィルファクターを達成することができる。
信号出力のための配線の材料としては、アルミニウム、金、銅、タングステン、コバルト、及びそれらからなる合金などを用いることができる。信号出力のための配線は、必要によりメタルマスクなどでパターニング後、蒸着や印刷法により形成することができる。
【0027】
工程4:第2の断熱層102-2の形成(
図5)
次に、形成した信号出力のための配線103が形成された第1の断熱層102-1上に第2の断熱層102-2を形成する。
第2の断熱層102-2には、第1の断熱層102-1と同じ材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。第2の断熱層102-2は、信号出力のための配線103と104を分離する絶縁層としても機能し得る。
第2の断熱層102-2の厚みは、用いる材料に合わせて適宜選択できるが、例えばパリレンCなどのパリレンを用いた場合、100nm~30μm、好ましくは300nm~10μm、より好ましくは500nm~5μmの範囲とすることができる。
第2の断熱層102-2は、第1の断熱層102-1と同様の方法で形成することができる。
【0028】
工程5:信号出力のための配線の形成(
図6)
次に、第2の断熱層102-2上に、もう一方の信号出力のための配線(横配線)104を形成する。
信号出力のための配線104は、例えば、信号出力のための配線(縦配線)103と略垂直となるように形成することができる。
信号出力のための配線104は、信号出力のための配線103と同様の材料及び方法で形成することができる。
【0029】
工程6:第3の断熱層102-3の形成(
図7)
次に、信号出力のための配線104が形成された第2の断熱層102-2上に、第3の断熱層102-3を形成する。
第3の断熱層102-3には、第1の断熱層102-1又は第2の断熱層102-2と同じ材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。
第3の断熱層102-3の厚みは、用いる材料に合わせて適宜選択できるが、例えばパリレンCなどのパリレンを用いた場合、100nm~30μm、好ましくは300nm~10μm、より好ましくは500nm~5μmの範囲とすることができる。
第3の断熱層102-3は、第1の断熱層102-1又は第2の断熱層102-2と同様の方法で形成することができる。
【0030】
工程7:ボロメータ膜の形成(
図8)
次に、第3の断熱層102-3上にボロメータ膜105を形成する。
本実施形態のボロメータ型検出器は、所望の電磁波の検知に用いることができ、ボロメータ膜には、検知対象の熱・電磁波に合わせて熱電変換材料を適宜選択して用いることができる。
ボロメータ膜の材料の例としては、従来用いられているチタン膜や酸化バナジウム膜の他、有機材料を用いた有機薄膜(例えば、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノホーン膜、カーボンナノブラシ膜)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
ボロメータ膜105は、
図8に示したように、基板全体に又は複数の画素にわたるようにボロメータ膜層を形成した後に画素毎のボロメータ膜に分離してもよいし、画素毎にボロメータ膜を形成してもよい。
【0032】
本実施形態のボロメータ型検出器では、金属製の信号出力のための配線(縦配線103及び横配線104)がボロメータ膜105とは異なる層に配置されているため、画素間の熱移動を防ぐために画素間の間隔を広げる必要がなく、高いフィルファクターを達成することができる。
ここで、ボロメータ膜とボロメータ膜の間の間隔(画素間の断熱層の幅)は、上に説明した断熱層が除去されている幅を少なくとも確保できれば特に限定されない。一実施形態では、ボロメータ膜間の間隔(画素間の断熱層の幅)は、上述の断熱層が除去されている深さと同程度、またはそれ以上であることが好ましい。また、上限も特に限定されないが、例えば20μm以下、好ましくは10μm以下とすることができ、フィルファクター向上の観点では、5μm以下とすることも好ましい。
また、画素ピッチは、特に限定されるものではなく、求められる画素数などを考慮して適宜設定できるが、製造プロセスの容易さの観点では5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、また、イメージの高精細化の観点では、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0033】
好ましいボロメータ膜の一例であるカーボンナノチューブ膜については、後述する。
【0034】
工程8:コンタクト電極の形成(
図9)
次に、画素毎に、コンタクト電極106を、ボロメータ膜105に接触するように形成する。
コンタクト電極106は、
図9に示したようにボロメータ膜105上に形成してもよいし、ボロメータ膜105の下に形成してもよい。
コンタクト電極の厚みは、適宜調整できるが、10nm~1mmが好ましく、50nm~1μmがより好ましい。また、電極間距離は、1μm~500μmが好ましく、小型化のためには、5~200μmがより好ましい。
コンタクト電極は、例えば、金、白金、チタンの単体又は、複数を使用して作製できる。電極の作製方法は特に限定されないが、例えば蒸着、スパッタ、印刷法で形成することができる。必要により、予め、コンタクト電極106を形成すべきでない領域のマスキングなどを行ってもよい。
【0035】
工程9:保護層の形成(
図10)
次に、ボロメータ膜105上に、保護層107を形成する。
保護層は、酸素等の吸着によるボロメータ膜(カーボンナノチューブ膜)へのドーピングの抑制の効果を有し、またボロメータ膜だけでなく保護層も検知対象の光を吸収することによる光吸収率の増加等の効果を有する場合もある。
保護層としては、ボロメータにおいて保護層として用いられる材料を制限なく用いることができるが、検知したい波長域において透明性の高い材料が好ましく、例えば、
図1に例示した窒化シリコン(SiN)の他、断熱層に用いられる樹脂、例えばパリレン、PMMA、PMMAアニソール等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等が挙げられるがこれらに限定されない。保護層の厚みは、材料にもよるが、例えば5nm~50nmとすることができる。
保護層は、
図10に示したように基板全体に又は複数の画素にわたるように保護層を形成し、その後画素毎に分離してもよいし、画素毎に保護層を形成してもよい。
【0036】
工程10:断熱層の除去(
図11~13)
次に、隣接する画素間(隣接するボロメータ膜間)の断熱層102の少なくとも一部を除去する。このように断熱層の少なくとも一部を除去する(断熱層を画素分離する)ことで、断熱層を介した画素間の熱流入を低減することができる。
【0037】
断熱層を除去する領域及び深さについては、上に説明したとおりである。
一実施形態では、断熱層を信号取出し配線のそれぞれの深さまで除去することが好ましい。断熱層が信号取出し配線の深さまで除去されていると、断熱層が除去された領域表面に信号取出し配線の金属が露出した状態となる(すなわち、露出した金属が信号出力のための配線を兼ねている)ため、コンタクト電極と信号取出し配線を接続電極で接続する際にコンタクト孔などを形成する必要がなくなり、製造プロセスが容易になるという利点もある。
また、後述するようにエッチングにより断熱層を除去する場合、金属製の信号取出し配線をエッチストップ層として利用することで、簡単なプロセスで断熱層を画素分離することができる。なお、画素間の領域の幅よりも信号取出し配線の幅の方が細い場合などは、配線が存在しない領域では、基板に至るまで断熱層が除去されていてもよい。
【0038】
断熱層の少なくとも一部を除去する方法は特に限定されず、例えば、エッチング(ドライエッチング、ウェットエッチングなど)や、機械的除去(ダイサー、ドリルなど)が挙げられる。加工の緻密性の観点では、ドライエッチング、特には、反応性イオンエッチング(RIE)などの異方性ドライエッチングが好ましい。
エッチングを行う際には、必要によりエッチングから保護したい領域に予めエッチングマスク108を形成する。一実施形態では、少なくとも各画素のボロメータ膜の領域上にエッチングマスクを形成してエッチングを行うことにより、
図8及び10に示したようにボロメータ膜(及び保護層)を基板全体に形成した場合も、画素間の断熱層の除去と同時に、ボロメータ膜(及び保護層)を画素分離することができ、製造プロセスを簡便にすることができる。エッチングマスクの形成方法としては、特に限定されないが、フォトリソグラフィにより、例えば、金などの金属でマスクパターンを形成する方法、フォトレジストによりマスクパターンを形成する方法などが挙げられる。
【0039】
工程11:接続電極の形成(
図14)
次に、ボロメータ膜105に接触して設けられているコンタクト電極106と、信号取出し用の配線103及び104とを、接続電極109でそれぞれ接続する。
接続電極109の材料としては、例えば、チタン膜等が挙げられる。
接続電極109は、蒸着、スパッタ法等によって形成することができる。接続電極を形成すべき位置に断熱層102が存在している場合は、必要によりコンタクト孔などを形成してもよい。
形成した接続電極109上に保護層を設けてもよい。
【0040】
以上の工程により、本実施形態に係るボロメータ型検出器を製造することができる。
【0041】
以下にボロメータ膜105の一例として、カーボンナノチューブ膜について詳述する。
カーボンナノチューブ膜を用いたボロメータ型検出器は、0.7μm~1mmの波長を有する電磁波の検知に特に好適に用いることができる。当該波長範囲に含まれる電磁波としては、赤外線の他、テラヘルツ波が挙げられる。本実施形態のボロメータ型検出器は、好ましくは赤外線センサーである。
【0042】
ボロメータ膜としてのカーボンナノチューブ膜は、コンタクト電極対を電気的に接続する導電パスを形成する複数のカーボンナノチューブから構成される薄膜である。カーボンナノチューブは、例えば、平行線状、繊維状、ネットワーク状等の構造を形成し得るが、凝集し難く、均一な導電パスが得られる三次元的ネットワーク状の構造を形成していることが好ましい。
【0043】
カーボンナノチューブは、単層、二層、多層カーボンナノチューブを使用することができるが、半導体型を分離する場合は、単層又は数層(例えば、2層又は3層)のカーボンナノチューブが好ましく、単層カーボンナノチューブがより好ましい。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上(100質量%を含む)含むことがより好ましい。
【0044】
カーボンナノチューブの直径は、バンドギャップを大きくしてTCRを向上する観点で、0.6~1.5nmの間が好ましく、0.6nm~1.2nmがより好ましく、0.7~1.1nmがさらに好ましい。また、一実施形態では、特に1nm以下が好ましい場合もある。0.6nm以上であれば、カーボンナノチューブの製造がより容易である。1.5nm以下であれば、バンドギャップを適切な範囲に維持し易く、高いTCRを得ることができる。
【0045】
本明細書において、カーボンナノチューブの直径は、断熱層上の、又は成膜した薄膜のカーボンナノチューブを原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて観察して100箇所程度の直径を計測し、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.5nmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1.2nmの範囲内、さらに好ましくは0.7~1.1nmの範囲内にある。また、一実施形態では、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が0.6~1nmの範囲内にある。
【0046】
また、カーボンナノチューブの長さは、100nm~5μmの間が、分散しやすく、塗布性も優れているためより好ましい。またカーボンナノチューブの導電性の観点でも、長さが100nm以上であることが好ましい。また、5μm以下であれば断熱層上で、且つ/又は成膜時の凝集を抑制し易い。カーボンナノチューブの長さは、より好ましくは500nm~3μm、さらに好ましくは700nm~1.5μmである。
【0047】
本明細書において、カーボンナノチューブの長さは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))を用いて少なくとも100本を観察し、数え上げることでカーボンナノチューブの長さの分布を測定し、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が100nm~5μmの範囲内にあることを意味する。好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が500nm~3μmの範囲内にある。より好ましくは、その60%以上、好ましくは70%以上、場合により好ましくは80%以上、より好ましくは100%が700nm~1.5μmの範囲内にある。
【0048】
カーボンナノチューブの直径及び長さが上記範囲内であると、半導体性の影響が大きくなり、且つ、大きな電流値を得られるため、ボロメータ膜として用いた場合に高いTCR値が得られやすい。
【0049】
ボロメータ膜には、大きなバンドギャップとキャリア移動度を持つ半導体型カーボンナノチューブを用いることが好ましい。カーボンナノチューブ中、半導体型カーボンナノチューブ、好ましくは半導体型単層カーボンナノチューブの含有率は、一般に67質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、特に90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上(100質量%を含む)がさらに好ましい。なお、本明細書において、カーボンナノチューブ中の半導体型カーボンナノチューブの比率(質量%)を「半導体純度」と記載することもある。
【0050】
ボロメータ膜の厚みは特に限定されないが、例えば1nm以上、例えば数nm~100μm、好ましくは10nm~10μm、より好ましくは50nm~1μmの範囲である。一実施形態では、好ましくは20nm~500nm、より好ましくは50nm~200nmの範囲である。
ボロメータ膜の厚みが1nm以上であると、良好な光吸収率を得ることができる。
また、ボロメータ膜の厚みが10nm以上、好ましくは50nm以上であると、光反射層や光吸収材層を設けなくても十分な光吸収率が得られるため、素子構造を簡略にすることができる。
また、ボロメータ膜の厚みが1μm以下、好ましくは500nm以下であると、製造方法の簡便化の観点で好ましい。また、ボロメータ膜が厚過ぎると、上から蒸着されたコンタクト電極が、ボロメータ膜の下の方のカーボンナノチューブと十分にコンタクトせず、実効的な抵抗値が高くなる場合があるが、上記範囲内であれば、抵抗値の上昇を抑制することができる。
なお、光反射層や光吸収材層を設ける場合は、ボロメータ膜の厚みを上記範囲よりも薄くして、製造プロセスの更なる簡便化及び抵抗値の改善を図ってもよい。
また、ボロメータ膜の厚みが上記のとおり10nm~1μmの範囲内であると、ボロメータ膜の製造方法として、印刷技術を好適に適用することができるという点でも好ましい。
【0051】
ボロメータ膜の厚みは、ボロメータ膜の任意の10点で測定した厚みの平均値として求めることができる。
【0052】
また、ボロメータ膜の密度は、例えば0.3g/cm3以上、好ましくは0.8g/cm3以上、より好ましくは1.1g/cm3以上である。上限は特に限定されないが、用いたカーボンナノチューブの真密度の上限値(例えば約1.4g/cm3)とすることができる。
ボロメータ膜の密度が0.3g/cm3以上であると、良好な光吸収率を得ることができる。
また、ボロメータ膜の密度が0.5g/cm3以上であると、光反射層や光吸収材層を設けなくても十分な光吸収率が得られ、素子構造を簡略にすることができると言う点で好ましい。
なお、光反射層や光吸収材層を設ける場合は、ボロメータ膜の密度として、上記より低い密度を適宜選択してもよい。
【0053】
ボロメータ膜の密度は、ボロメータ膜の重量、面積、及び上で求めた厚みから算出することができる。
【0054】
また、ボロメータ膜において、上述の成分以外に、例えば、後述の負の熱膨張材料、イオン導電剤(界面活性剤、アンモニウム塩、無機塩)、樹脂、有機結着剤等を適宜用いてもよい。
【0055】
ボロメータ膜中のカーボンナノチューブの含有量は適宜選択できるが、好ましくは、ボロメータ膜の総質量を基準として0.1質量%以上が効果的で、より好ましくは、1質量%以上が効果的であり、例えば30質量%、さらには50質量%以上とすることも好ましく、場合により60質量%以上が好ましい場合もある。
【0056】
以下、カーボンナノチューブ膜の製造方法の一例を詳述する。
【0057】
カーボンナノチューブは、不活性雰囲気下、真空中において熱処理を行うことで、表面官能基やアモルファスカーボン等の不純物、触媒等を除去したものを用いてもよい。熱処理温度は、適宜選択できるが、800-2000℃が好ましく、800-1200℃がより好ましい。
【0058】
非イオン性界面活性剤は、適宜選択できるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系に代表されるポリエチレングリコール構造を有する非イオン性界面活性剤や、アルキルグルコシド系非イオン性界面活性剤など、イオン化しない親水性部位とアルキル鎖など疎水性部位で構成されている非イオン性界面活性剤を1種類若しくは複数組み合わせて用いることが好ましい。このような非イオン性界面活性剤としては、式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルが好適に用いられる。また、アルキル部が1又は複数の不飽和結合を含んでもよい。
【0059】
CnH2n+1(OCH2CH2)mOH (1)
(式中、n=好ましくは12~18、m=10~100、好ましくは20~100である)
【0060】
特に、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテルなどポリオキシエチレン(n)アルキルエーテル(nが20以上100以下、アルキル鎖長がC12以上C18以下)で規定される非イオン性界面活性剤がより好ましい。また、N,N-ビス[3-(D-グルコンアミド)プロピル]デオキシコールアミド、n-ドデシルβ-D-マルトシド、オクチルβ-D-グルコピラノシド、ジギトニンも使用することができる。
【0061】
非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(分子式:C64H126O26、商品名:Tween 60、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(分子式:C24H44O6、商品名:Tween 85、シグマアルドリッチ社製等)、オクチルフェノールエトキシレート(分子式:C14H22O(C2H4O)n、n=1~10、商品名:Triton X-100、シグマアルドリッチ社製等)、ポリオキシエチレン(40)イソオクチルフェニルエーテル(分子式:C8H17C6H40(CH2CH20)40H、商品名:Triton X-405、シグマアルドリッチ社製等)、ポロキサマー(分子式:C5H10O2、商品名:Pluronic、シグマアルドリッチ社製等)、ポリビニルピロリドン(分子式:(C6H9NO)n、n=5~100、シグマアルドリッチ社製等)等を用いることもできる。
【0062】
カーボンナノチューブの分散溶液を得る方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用できる。例えば、カーボンナノチューブ混合物、分散媒、及び非イオン性界面活性剤を混合してカーボンナノチューブを含む溶液を調製し、この溶液を超音波処理することでカーボンナノチューブを分散させ、カーボンナノチューブ分散液(ミセル分散溶液)を調製する。分散媒としては、分離工程の間、カーボンナノチューブを分散浮遊できる溶媒であれば特に限定されず、例えば水、重水、有機溶媒、イオン液体、又はこれらの混合物等を用いることができるが、水及び重水が好ましい。前記超音波処理に加えて、又は代えて、機械的な剪断力によるカーボンナノチューブ分散手法を用いてもよい。機械的な剪断は気相中で行ってもよい。カーボンナノチューブと非イオン性界面活性剤によるミセル分散水溶液においてカーボンナノチューブは孤立した状態であることが好ましい。そのため、必要に応じて、超遠心分離処理を用いてバンドル、アモルファスカーボン、不純物触媒等の除去を行ってもよい。分散処理の際、カーボンナノチューブを切断することができ、カーボンナノチューブの粉砕条件、超音波出力、超音波処理時間等を変えることで、長さを制御することができる。例えば、未処理のカーボンナノチューブをピンセット、ボールミル等で粉砕し、凝集体サイズを制御できる。これらの処理後、超音波ホモジナイザーにより、出力40~600W、場合により100~550W、20~100KHz、処理時間1~5時間、好ましくは~3時間にすることで、長さを100nm~5μmに制御することできる。1時間より短いと、条件によってはほとんど分散せず、ほとんど元の長さのままである場合がある。また、分散処理時間の短縮及びコスト減の観点では3時間以下が好ましい。本実施形態は、非イオン性界面活性剤を用いたことにより切断の調整が容易であるという利点も有し得る。また、除去が困難なイオン性界面活性剤を含有しないという利点もある。
【0063】
カーボンナノチューブの分散及び切断により、表面官能基がカーボンナノチューブの表面あるいは端に生成される。生成される官能基は、カルボキシル基、カルボニル基、水酸基等が生成される。液相での処理であれば、カルボキシル基、水酸基が生成され、気相であれば、カルボニル基が生成される。
【0064】
また、前記重水又は水、及び非イオン性界面活性剤を含む液体における界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度~10質量%が好ましく、臨界ミセル濃度~3質量%がより好ましい。臨界ミセル濃度以下であると分散できないため好ましくない。また、10質量%以下であれば、分離後、界面活性剤の量を低減しながら十分な密度のカーボンナノチューブを塗布することができる。本明細書において、臨界ミセル濃度(critical micelle concentration(CMC))とは、例えば一定温度下、Wilhelmy式表面張力計等の表面張力計を用い、界面活性剤水溶液の濃度を変えて表面張力を測定し、その変極点となる濃度のことを言う。本明細書において「臨界ミセル濃度」は、大気圧下、25℃での値とする。
【0065】
上記切断及び分散工程におけるカーボンナノチューブの濃度(カーボンナノチューブの重量/(分散媒と界面活性剤との合計重量)×100)は、特に限定されないが、例えば0.0003~10質量%、好ましくは0.001~3質量%、より好ましくは0.003~0.3質量%とすることができる。
【0066】
上述の切断・分散工程を経て得られた分散液を、後述する分離工程にそのまま用いてもよいし、分離工程の前に、濃縮、希釈等の工程を行ってもよい。
【0067】
カーボンナノチューブの分離は、例えば、電界誘起層形成法(ELF法:例えば、K.Ihara et al. J.Phys.Chem.C.2011,115,22827~22832、日本特許第5717233号明細書を参照、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる)により行うことができる。ELF法を用いた分離方法の一例を説明する。カーボンナノチューブ、好ましくは単層カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散し、その分散液を縦型の分離装置に入れ、上下に配置された電極に電圧を印加することで、無担体電気泳動により分離する。分離のメカニズムは例えば以下のように推定できる。カーボンナノチューブを非イオン性界面活性剤により分散した場合、半導体型カーボンナノチューブのミセルは負のゼータ電位を有し、一方金属型カーボンナノチューブのミセルは逆符号(正)のゼータ電位(近年では、僅かに負のゼータ電位を有するかほとんど帯電していないとも考えられている)を持つ。そのため、カーボンナノチューブ分散液に電界を印加すると、ゼータ電位の差などにより、導体型カーボンナノチューブミセルは陽極(+)方向へ、金属型カーボンナノチューブミセルは陰極(-)方向へ電気泳動する。最終的には陽極付近に半導体型カーボンナノチューブが濃縮された層が、陰極付近に金属型カーボンナノチューブが濃縮された層が分離槽内に形成される。分離の電圧は、分散媒の組成及びカーボンナノチューブの電荷量等を考慮して適宜設定できるが、1V以上200V以下が好ましく、10V以上200V以下がより好ましい。分離工程の時間短縮の観点では100V以上が好ましい。また、分離中の泡の発生を抑制して分離効率を維持する観点では200V以下が好ましい。分離は、繰り返すことで純度が向上する。分離後の分散液を初期濃度に再設定して同様の分離操作を行ってもよい。それにより、さらに高純度化することができる。
【0068】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程及び分離工程により、所望の直径・長さを有する半導体型カーボンナノチューブが濃縮された分散液を得ることができる。なお、本明細書において、半導体型カーボンナノチューブが濃縮されているカーボンナノチューブ分散液を「半導体型カーボンナノチューブ分散液」と呼ぶ場合がある。分離工程により得られる半導体型カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの総量中、半導体型カーボンナノチューブを、一般に67質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上(上限は100質量%であってもよい)含む分散液を意味する。金属型及び半導体型のカーボンナノチューブの分離傾向については、顕微Ramanスペクトル分析法と紫外可視近赤外吸光光度分析法により分析することができる。
【0069】
上述のカーボンナノチューブの分散・切断工程後、且つ、分離工程前のカーボンナノチューブ分散液のバンドル、アモルファスカーボン、金属不純物等を除去するため遠心分離処理を行ってもよい。遠心加速度は適宜調整できるが、10000×g~500000×gが好ましく、50000×g~300000×gがより好ましく、場合により100000×g~300000×gであってもよい。遠心分離時間は0.5時間~12時間が好ましく、1~3時間がより好ましい。遠心分離温度は、適宜調整できるが、4℃~室温が好ましく、10℃~室温がより好ましい。
【0070】
分離後のカーボンナノチューブ分散液の界面活性剤の濃度は適宜制御することができる。カーボンナノチューブ分散液の界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度~5質量%程度が好ましく、より好ましくは、0.001質量%~3質量%、塗布後の再凝集等を抑えるために、0.01~1質量%が特に好ましい。
【0071】
上述の工程により得られた半導体型カーボンナノチューブ分散液を断熱層上又は所定の基材上に塗布して乾燥させ、場合により熱処理を行うことにより、ボロメータ膜を形成することができる。
【0072】
半導体型カーボンナノチューブ分散液を断熱層又は所定の基材に塗布する方法としては、特に限定されず、滴下法、スピンコート、印刷、インクジェット、スプレー塗布、ディップコート等が挙げられる。製造コストの低減の観点では、印刷法が好ましい。印刷法としては、塗布(ディスペンサー、インクジェット等)、転写(マイクロコンタクトプリント、グラビア印刷等)等が挙げられる。
【0073】
断熱層上又は所定の基材に塗布した半導体型カーボンナノチューブ分散液は、熱処理により界面活性剤や溶媒を除去することができる。熱処理の温度は界面活性剤の分解温度以上で適宜設定できるが、150~500℃が好ましく、200~500℃、例えば200~400℃がより好ましい。200℃以上であれば界面活性剤の分解物の残留を抑制し易いためより好ましい。また、500℃以下、例えば400℃以下であれば、基板や他の構成要素の変質を抑制することができるため好ましい。また、カーボンナノチューブの分解やサイズ変化、官能基の離脱等を抑制することができる。
【0074】
(負の熱膨張材料)
一実施形態では、ボロメータ膜は、カーボンナノチューブに加えて負の熱膨張材料を含むことができる。
本実施形態に係るボロメータ膜は、分散したカーボンナノチューブが絡み合って集合して形成されたネットワーク構造を構成する三次元的な網目構造を有するカーボンナノチューブ集合体中に、負熱膨張材料が分散しているカーボンナノチューブ複合材料である。このようなカーボンナノチューブの三次元的な導電ネットワークは、ボロメータ材料中において、すべて接続され導電に寄与しているわけではなく、一部のカーボンナノチューブは、導電機構に寄与していない。これらのカーボンナノチューブは、温度上昇に伴う負熱膨張材料の体積減少の効果で、新たな導電パスを構築する。又は、体積減少の効果で、カーボンナノチューブ同士の接触面積が増え、さらに、導電パスも増加する。これにより、温度上昇に伴う電流増加がより大きくなり、TCR値が向上する。つまり、半導体型カーボンナノチューブに混合する負熱膨張材料は、温度上昇に伴って収縮するので、その際離れていたカーボンナノチューブ同士のネットワークが追加生成され、導電パスが多くなり、電流が多く流れる。また、一実施形態では、半導体型カーボンナノチューブより、抵抗の大きな負熱膨張材料を使用することで、より効率的に半導体型カーボンナノチューブの導電パスを形成することができる。
【0075】
本明細書において、負熱膨張材料とは、温度上昇に伴い収縮する負の膨張率を有する材料を意味する。負熱膨張材料としては、例えば、-100~+200℃の任意の温度領域、例えば-100~+100℃の領域、好ましくはボロメータの使用温度領域、例えば少なくとも-50~100℃において、温度差1Kあたりの線熱膨張率ΔL/L((膨張後の長さ-膨張前の長さ)/膨張前の長さ)が好ましくは-1×10-6/K~-1×10-3/K、より好ましくは-1×10-5/K~-1×10-3/Kである材料が挙げられる。
熱膨張率は、例えばJIS Z 2285(金属材料の線膨張係数の測定方法)又はJIS R 1618(ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法)等に準拠して測定することができる。
【0076】
一実施形態では、負熱膨張材料は、ボロメータの使用環境において、十分な負の熱膨張を示す材料であることが好ましい。ボロメータの使用環境の温度としては、例えば、例えば、-350℃~100℃、好ましくは-40℃~80℃、場合によりさらに好ましくは20℃~30℃、例えば21℃~30℃である。
また、ボロメータの使用環境の湿度としては、例えば、ボロメータ部が大気開放されているような構造で使用する場合、環境湿度であってよく、例えば75%RH以下が好ましい。また、真空パッケージされていたり、パッケージ内に不活性ガスが重点されているような構造で使用する場合は、例えば5%RH以下が好ましいが、真空度等によっては上記範囲外であってもよい。なお、デバイスの長期安定性の観点からは湿度は低い方が好ましいため、いずれの場合も下限は特に限定されず、0%RH以上、例えば0%RH超である。
【0077】
また、前記負熱膨張材料の抵抗率は、特に限定されるものではないが、-100~+100℃の任意の温度領域、好ましくはボロメータの使用温度、例えば室温(約23℃)において、10Ωcm~108Ωcm、好ましくは102Ωcm~107Ωcmであり得る。抵抗率は、例えばJIS K 7194、JIS K 6911等、定法に従って測定することができる。
【0078】
本明細書において、負熱膨張材料としては、Li、Al、Fe、Ni、Co、Mn、Bi、La、Cu、Sn、Zn、V、Zr、Pb、Sm、Y、W、Si、P、Ru、Ti、Ge、Ca、Ga、Cr、Cdのいずれか1種又は2種以上を含んだ酸化物、窒化物、硫化物、又は多元素化合物が挙げられるがこれらに限定されない。2種以上の化合物の混合物を用いてもよい。
負熱膨張材料としては、バナジウム酸化物、β-ユークリプタイト、ビスマス・ニッケル酸化物、タングステン酸ジルコニウム、ルテニウム酸化物、マンガン窒化物、チタン酸鉛、一硫化サマリウム等(これらの化合物の元素を1種以上の上記元素で置き換えたものも含む)が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、LiAlSiO4、ZrW2O8、Zr2WO4(PO4)2、BiNi0.85Fe0.15O3、Bi0.95La0.05NiO3、Pb0.76La0.04Bi0.20VO3、Sm0.78Y0.22S、Cu1.8Zn0.2V2O7、Cu2V2O7、0.4PbTiO3-0.6BiFeO3、MnCo0.98Cr0.02Ge、Ca2RuO3.74、Mn3Ga0.7Ge0.3N0.88C0.12、Cd(CN)2・xCCl4、LaFe10.5Co1.0Si1.5、Ca2RuO4、Mn3.27Zn0.45Sn0.28N、Mn3Ga0.9Sn0.1N0.9、Mn3ZnNが適当である。
【0079】
一実施形態では、負熱膨張材料の中でも、合成・入手の容易さの観点から、酸化物、窒化物、硫化物が好ましい。
【0080】
本明細書において、負熱膨張材料のサイズは、適宜選択できる。好ましくは、10nm~100μm、より好ましくは、15nm~10μmであり、また場合により50nm~5μmであることも好ましい。
また、負熱膨張材料の形態は、特に限定されるものではないが、例えば、球状、針状、棒状、板状、繊維状、鱗片状等が挙げられ、成膜性の観点では、球状が好ましい。
【0081】
また、ボロメータ膜中の負熱膨張材料の含有量は適宜選択できるが、ボロメータ膜の総質量を基準として1~99質量%含まれていることが好ましく、1~70質量%であることがより好ましく、例えば1~50質量%、場合により10~50質量%であることも好ましく、また40質量%以下が好ましい場合もある。
【0082】
また、ボロメータ膜は、カーボンナノチューブ及び負熱膨張材料に加えて、結着剤、さらに所望により他の成分を含んでもよいが、カーボンナノチューブと負熱膨張材料の総質量が、ボロメータ膜の質量を基準として70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0083】
カーボンナノチューブと負の熱膨張材料を含むボロメータ膜は、上記のカーボンナノチューブ分散液を用いたボロメータ膜の製造方法において、カーボンナノチューブ分散液に負の熱膨張材料、必要により結着剤などを添加した分散液を用いることにより製造することができる。
【0084】
本実施形態のボロメータ型検出器には、上記の構成要素に加えて、ボロメータが備え得る任意の構成要素をさらに設けることができる。
【0085】
<光反射層>
本実施形態のボロメータ型検出器には、検知対象の電磁波の吸収率の向上のために光反射層を設けてもよい。
光反射層は、ボロメータ膜105と基板101の間、例えば断熱層102の間に設けることができる。光反射層は、吸収しようとする電磁波の波長λを考慮してボロメータ膜105と光反射層との距離がd=λ/4となる位置に配置することが好ましい。
光反射層としてはボロメータにおいて光反射層として用いられる材料を制限なく用いることができ、一般には金属、例えば、金、銀、アルミニウム等が挙げられ、蒸着、スパッタ法、めっき等により形成することができる。
【0086】
<光吸収材層>
本実施形態のボロメータ型検出器には、検知対象の電磁波の吸収率の向上のために光吸収材層を設けてもよい。
光吸収材層は、検知対象の電磁波が入射する側、例えば、ボロメータ膜105又は保護層107の上側に設けることができる。
光吸収材層の厚みは、材料によって適宜設定できるが、例えば50nm~1μmとすることができる。
光吸収材層としてはボロメータにおいて光吸収材層として用いられる材料を特に制限なく用いることができ、例えば、ポリイミドの塗布膜、窒化チタン薄膜等が挙げられる。
【0087】
上記の他、本実施形態のボロメータ型検出器及びその製造方法では、断熱層の一部を除去する点、及び、信号出力のための配線をボロメータ膜とは異なる層に配置する点以外は、ボロメータ型検出器、特にはプリンテット型のボロメータ型検出器に用いられる構成及び製造方法を特に制限なく適用することができる。
【0088】
例えば、上記には単純マトリックス型のボロメータ型検出器を示したが、本実施形態のボロメータ型検出器は、TFT(薄膜トランジスタ)アレイなどのアクティブマトリックス型アレイであってもよい。
【0089】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0090】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
[付記1]
複数の画素を備えるボロメータ型検出器であって、
基板、
前記基板上に設けられた断熱層、
前記断熱層上に設けられた画素毎のボロメータ膜、及び
前記ボロメータ膜に接触して設けられたコンタクト電極に接続されている信号出力のための配線
を少なくとも備え、
前記信号出力のための配線は、前記ボロメータ膜とは異なる層に配置され、
隣接する画素間の断熱層は、前記ボロメータ膜を囲む閉曲線の50%以上の長さ及び100nm以上の幅の領域で、深さ方向に少なくとも一部除去されている、検出器。
[付記2]
断熱層がパリレン層である、付記1に記載の検出器。
[付記3]
ボロメータ膜が有機材料を含む、付記1又は2に記載の検出器。
[付記4]
ボロメータ膜が半導体型カーボンナノチューブを含む、付記1~3のいずれか1項に記載の検出器。
[付記5]
ボロメータ膜が半導体型カーボンナノチューブと負の熱膨張材料を含む、付記1~4のいずれか1項に記載の検出器。
[付記6]
ボロメータ膜の上側に光吸収材層を備える、付記1~5のいずれか1項に記載の検出器。
[付記7]
断熱層が除去された領域表面に金属が露出している、付記1~6のいずれか1項に記載の検出器。
[付記8]
露出した金属が信号出力のための配線を兼ねている、付記7に記載の検出器。
[付記9]
複数の画素を備えるボロメータ型検出器の製造方法であって、
基板上に第1の断熱層を形成する工程、
第1の断熱層上に信号出力のための一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第1の断熱層上に、第2の断熱層を形成する工程、
第2の断熱層上に信号出力のためのもう一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第2の断熱層上に、第3の断熱層を形成する工程、
第3の断熱層上にボロメータ膜を形成する工程、
ボロメータ膜上に、コンタクト電極を形成する工程、
任意に、コンタクト電極を形成したボロメータ膜上に保護層を形成する工程、
隣接する画素間の断熱層を、前記ボロメータ膜を囲む閉曲線の50%以上の長さ及び100nm以上の幅の領域で、深さ方向に少なくとも一部除去する工程、及び
コンタクト電極を信号出力のための配線にそれぞれ接続する工程
を含む、製造方法。
[付記10]
基板上に第1の断熱層を形成する工程、
第1の断熱層上に信号出力のための一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第1の断熱層上に、第2の断熱層を形成する工程、
第2の断熱層上に信号出力のためのもう一方の配線を形成する工程、
信号出力のための配線を形成した第2の断熱層上に、第3の断熱層を形成する工程、
第3の断熱層上にボロメータ膜層を形成する工程、
ボロメータ膜層上に、画素毎にコンタクト電極を形成する工程、
コンタクト電極を形成したボロメータ膜層上に保護層を形成する工程、
保護層上に、画素毎のボロメータ膜となる領域を被覆するエッチングマスクを形成する工程、
エッチングにより、隣接する画素間の断熱層を、前記ボロメータ膜を囲む閉曲線の50%以上の長さ及び100nm以上の幅の領域で、深さ方向に少なくとも一部除去する工程、
エッチングマスクを除去する工程、及び
コンタクト電極を信号出力のための配線にそれぞれ接続する工程
を含む、付記9に記載の製造方法。
[付記11]
エッチングにより、隣接する画素間の断熱層を、信号出力のための配線の深さまで除去する工程を含む、付記10に記載の製造方法。
【符号の説明】
【0091】
101 基板
102 断熱層
102-1 第1の断熱層
102-2 第2の断熱層
102-3 第3の断熱層
103 信号出力のための配線(縦配線)
104 信号出力のための配線(横配線)
105 ボロメータ膜
106 コンタクト電極
107 保護層
108 エッチングマスク
109 接続電極
1 ベース基板
3 温度検知部
4 断熱部
6 赤外線反射膜
7 間隙
42 脚部
701 サーミスタ抵抗体
702 第一電極
703 第二電極
704 コラム配線
705 ロウ配線
706 絶縁膜
710 基板
711 断熱層
712 光反射膜
713 光透過層