(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-23
(45)【発行日】2025-07-01
(54)【発明の名称】放熱板および半導体パッケージ
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20250624BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20250624BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20250624BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20250624BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
H01L23/36 M
H05K7/20 D
B32B7/027
B32B15/01 H
(21)【出願番号】P 2021084467
(22)【出願日】2021-05-19
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139387
【氏名又は名称】森田 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100149191
【氏名又は名称】木村 成利
(72)【発明者】
【氏名】前田 徹
(72)【発明者】
【氏名】宮永 美紀
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-038875(JP,A)
【文献】特開平11-097593(JP,A)
【文献】特開2007-059875(JP,A)
【文献】特開2019-096654(JP,A)
【文献】特開2019-029631(JP,A)
【文献】特開2013-077666(JP,A)
【文献】特開平10-150124(JP,A)
【文献】特開2014-040638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/34 -23/473
H05K 7/20
B32B 7/027
B32B 15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層以上の層が積層された構造を有する放熱板であって、
前記積層された構造における厚さ方向の両最外
層である第1層を備え、
前記第1層は第1材料で構成されており、
前記第1材料は、銅を主成分とする金属相の中に分散された
複数の炭素繊維を含む材料であり、
前記炭素繊維が前記第1材料全体に占める体積比率が5.0体積%以上
20.9体積%以下であり、
前記第1層の厚さが0.15mm以上0.35mm以下であり、
前記第1層の前記厚さ方向と直交する面方向の熱伝導率から前記第1層の前記厚さ方向の熱伝導率を引いた値が40W/m・K以上であ
り、
前記複数の炭素繊維はそれぞれが前記厚さ方向と直交する面方向に配向を有し、
前記配向について以下に規定する配向率が76%以上であり、
前記第1層に接する第2層はモリブデンまたはタングステンを含む第2材料で構成されている、
放熱板。
ここで、前記配向率とは、前記第1層の前記厚さ方向の断面観察において複数の前記炭素繊維それぞれを所定の長さで分割した炭素繊維小片それぞれが、前記第1層の表面となす角度をθとしたときに、前記θが20度以下である前記炭素繊維小片の数の割合とする。
【請求項2】
前記積層された層が3層であり、
前記第2層は前記第1層のそれぞれに接する層である、
請求項1に記載の放熱板。
【請求項3】
前記積層された層が5層以上の奇数の層であり、
前記第2層は前記第1層に接する一対の層であり、
一対の前記第2層の前記第1層と接する面と対向する面に接する第3層は銅または銅合
金で構成されている、
請求項1に記載の放熱板。
【請求項4】
前記第1層の前記表面において以下の方法により測定された端部温度差が50℃以下である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の放熱板。
(方法)前記放熱板を前記表面に垂直な方向から見て縦横10mmの大きさの矩形状に切断した放熱板片を、シリコーンオイルを界面に塗布したアルミニウムフィンに9.8Nの荷重をかけて接着した試料を準備する。前記試料の前記放熱板片の前記表面の中央に縦横1mmでかつ出力50Wの発熱体を接触させ、25℃±5℃の環境において、前記放熱板片と前記アルミニウムフィンとの接着部の温度が25℃±3℃になるように前記アルミニウムフィンの空冷を制御する。前記発熱体を接触した後30秒以上経過して定常状態になった状態で、前記発熱体と前記放熱板片の前記表面との界面の温度T1と、前記放熱板片の前記表面の角部である端部の温度T2とを、熱電対により10回測温し、温度差T1-T2の平均値を端部温度差とする。
【請求項5】
前記第1層の前記面方向の熱伝導率から前記第1層の前記厚さ方向の熱伝導率を引いた値が140W/m・K以下である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の放熱板。
【請求項6】
前記第1層の前記厚さ方向の熱伝導率が250W/m・K以上であり、
室温から300℃まで温度が変化した際の前記第1層の前記面方向の線膨張係数が18.1ppm/K以下である、
請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の放熱板。
【請求項7】
前記第2層の前記厚さ方向の熱伝導率が140W/m・K以上であり、
室温から300℃まで温度が変化した際の前記第2層の前記面方向の線膨張係数が8.
0ppm/K以下である、
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の放熱板。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の前記放熱板と、
前記第1層の表面上に配置されている半導体素子と、
を備える半導体パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放熱板および半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野において、半導体素子から生じる熱を効率的に拡散させて半導体素子の過熱を防止するために放熱板が用いられている。放熱板としては、熱伝導率の高い銅などの金属が用いられてきた。放熱板である金属と半導体素子やセラミックスパッケージとの線膨張係数の差により、これらの界面に熱応力が発生し、半導体素子等の破損を生じることがある。このため、熱伝導率の高い金属と線膨張係数が小さい金属との複合材が放熱板として用いられる。例えば、特許文献1には、銅(Cu)層とモリブデン銅(Mo-Cu)複合体層が交互に積層され、最外層が銅層からなる放熱板が開示されている。積層された最外層の銅層を薄くすることで板厚方向の熱伝導率に優れ、かつ熱膨張率が小さい放熱板が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される構造によれば、表面中央部に接するように配置された半導体素子からの発熱が放熱板の板厚方向に伝わりやすく、かつ放熱板の平面方向の熱膨張を小さくできる。しかし、半導体技術の進展により半導体素子からの発熱が従来以上に大きくなる傾向にある。従来以上に放熱性能が高く、かつ熱応力による破損が生じ難い放熱板が求められている。本開示は、熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、従来よりもさらに放熱性能に優れた放熱板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の放熱板は、3層以上の層が積層された構造を有する放熱板であって、前記積層された構造における厚さ方向の両最外層の少なくとも一方の層である第1層を備え、前記第1層は第1材料で構成されており、前記第1材料は、銅を主成分とする金属相の中に分散された炭素繊維を含む材料であり、前記炭素繊維が前記第1材料全体に占める体積比率が5.0体積%以上であり、前記第1層の厚さが0.15mm以上0.35mm以下であり、前記第1層の前記厚さ方向と直交する面方向の熱伝導率から前記第1層の前記厚さ方向の熱伝導率を引いた値が40W/m・K以上である。
【0006】
また、本開示の放熱板は、3層以上の層が積層された構造を有する放熱板であって、前記積層された構造における厚さ方向の両最外層の少なくとも一方の層である第1層を備え、前記第1層の厚さが0.15mm以上0.35mm以下であり、前記第1層は第1材料で構成されており、前記第1材料は、銅を主成分とする金属相の中に分散された複数の炭素繊維を含む材料であり、前記炭素繊維が前記第1材料全体に占める体積比率が5.0体積%以上であり、前記複数の炭素繊維はそれぞれが面方向に配向を有し、前記配向の配向率が76%以上である。
【0007】
また、本開示の半導体パッケージは、上述した放熱板と、前記第1層の表面上に配置されている半導体素子とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の放熱板によれば、熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた
放熱板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る放熱板の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の放熱板のA-A断面を説明する断面模式図である。
【
図4】
図4は、炭素繊維の配向率の計算方法に関する説明図である。
【
図5】
図5は、炭素繊維の配向率の計算方法に関する説明図である。
【
図6A】
図6Aは、実施形態に係る放熱板の3層の例を示す断面模式図である。
【
図6B】
図6Bは、実施形態に係る放熱板の7層の例を示す断面模式図である。
【
図6C】
図6Cは、実施形態に係る放熱板の4層の例を示す断面模式図である。
【
図6D】
図6Dは、実施形態に係る放熱板の他の3層の例を示す断面模式図である。
【
図7】
図7は、半導体パッケージの構成例を示す図である。
【
図8】
図8は、面方向の熱伝導率の測定試料の作成手順を説明する図である。
【
図9】
図9は、厚さ方向の熱伝導率の測定試料の作成手順を説明する図である。
【
図10】
図10は、積層体の放熱性能の測定方法を説明する図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係る放熱板の第1層の断面写真の例を示す図である。
【
図12】
図12は、炭素繊維の長手方向の平均長さ及び平均直径の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
放熱板の厚さ方向の熱伝導を向上させる従来の技術においては、発熱体から放熱板に伝わった熱は放熱板の厚さ方向と平面方向に等方的に伝わる。このため、厚さの薄い表面層において表面の熱が平面方向に拡がる前に裏面まで伝わる。言い換えると、発熱源の直下において板厚方向に熱の流れが集中する。本願発明者は、このような熱の流れに着目し、発熱体が接していない放熱板の周辺部では板厚方向の熱伝導の効果が得られ難いという課題を見いだした。特に発熱体が放熱板に接している部分の面積よりも放熱板の表面全体の面積が大きい場合に、発熱体が接していない部分が放熱に寄与し難く、放熱板の性能を十分には発揮できない。
【0011】
以下、本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一実施形態に係る放熱板は、3層以上の層が積層された構造を有する放熱板である。前記積層された構造における厚さ方向の両最外層の少なくとも一方の層である第1層を備え、前記第1層は第1材料で構成されている。前記第1材料は、銅を主成分とする金属相の中に分散された添加相として炭素繊維を含む材料である。前記添加相としての炭素繊維が前記第1材料全体に占める体積比率が5.0体積%以上である。前記第1層の厚さが0.15mm以上0.35mm以下である。前記第1層の前記厚さ方向と直交する面方向の熱伝導率から前記第1層の前記厚さ方向の熱伝導率を引いた値が40W/m・K以上である。なお、前記積層された構造の厚さ方向は前記3層以上の層が積層された方向であり、面方向は前記厚さ方向に垂直な方向である。
【0012】
発熱体と接する表層である最外層に炭素繊維を添加することで、銅のみを用いる場合に比べて熱伝導率を変化させることができる。ここで、第1層の厚さ方向の熱伝導率と面方向の熱伝導率に差を持たせ、厚さ方向よりも面方向に熱が伝わりやすくすることで、面全体での熱伝達が放熱に寄与しやすくなる。発熱体と接する表面を有する第1層において熱が面方向に拡がることにより、面全体で厚さ方向への熱が伝わりやすくなる。これにより、熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0013】
(2)本開示の他の実施形態に係る放熱板は、3層以上の層が積層された構造を有する放熱板であり、前記積層された構造における厚さ方向の両最外層の少なくとも一方の層である第1層を備える。前記第1層の厚さが0.15mm以上0.35mm以下である。前記第1層は第1材料で構成されている。前記第1材料は、銅を主成分とする金属相の中に分散された複数の炭素繊維を含む材料である。前記炭素繊維が前記第1材料全体に占める体積比率が5.0体積%以上である。前記複数の炭素繊維はそれぞれが面方向に配向を有し、前記配向の配向率が76%以上である。
【0014】
発熱体と接する表層である最外層に炭素繊維を添加することで、銅のみを用いる場合に比べて熱伝導率を変化させることができる。ここで、複数の炭素繊維のそれぞれが面方向配向を有することで、厚さ方向の熱伝導率に比べて面方向の熱伝導率を高くすることができる。面方向に熱が伝わりやすくすることで、面全体での熱伝達が放熱に寄与しやすくなる。これにより、熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0015】
(3)前記第1層の前記厚さ方向の熱伝導率が250W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の前記第1層の前記面方向の線膨張係数が18.1ppm/K以下であってもよい。
【0016】
放熱板全体の高い放熱性能を得るために、第1層の厚さ方向の熱伝導率は高い方が好ましい。また、高温での使用を考慮して面方向の線膨張係数は一定値以下であることが好ましい。上記形態(3)の構成によれば、厚さ方向の熱伝導率と面方向の線膨張係数のバランスが良く、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0017】
(4)前記第1層に接する第2層は、前記第2層の前記厚さ方向の熱伝導率が140W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の前記第2層の前記面方向の線膨張係数が8.0ppm/K以下であってもよい。
【0018】
第2層は、放熱板全体としての面方向の線膨張係数を低くする目的で設けられる。熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0019】
(5)前記第2層はモリブデンまたはタングステンを含む第2材料で構成されていてもよい。
【0020】
モリブデンやタングステンは第2層の熱伝導率と線膨張係数を調整するために適した材料である。第2層にはモリブデンやタングステンを単体で用いてもよい。またモリブデンやタングステンと銅を複合させた材料により所望の性能を得ることもできる。これにより、厚さ方向の熱伝導率と面方向の線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0021】
(6)3つの層を積層した放熱板の場合、前記両最外層はいずれも前記第1層であり、前記両最外層の間の層は前記第2層であってもよい。
【0022】
第1層、第2層、第1層をこの順で積層することは、積層数が3層の場合の好ましい組み合わせである。この3層構造により、厚さ方向の熱伝導率と面方向の線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。また、積層方向に対称な層構造にすることにより、放熱板自体の反りが生じ難い。
【0023】
(7)5層以上の奇数の層を積層した放熱板の場合、前記両最外層はいずれも前記第1層であり、前記両最外層のそれぞれに接する一対の層はいずれも前記第2層であり、一対の前記第2層の前記第1層と接する面とは対向する面に接する第3層は銅または銅合金で構成されていてもよい。
【0024】
5層の積層体を放熱板とする場合は、第1層、第2層、第3層、第2層、第1層という順で積層することが好ましい。ここで、第3層は主に熱伝導の性能を得るための層であって、銅を主成分とする材料で構成されることが好ましい。第3層は銅または銅合金であるとよい。第3層には第1層と同じ材料を用いてもよい。また、第3層には銅と不可避不純物からなる純銅も好ましく用いられる。この5層構造により、厚さ方向の熱伝導率と面方向の線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0025】
(8)また、本開示の一実施形態に係る半導体パッケージは、上記のいずれかの放熱板と、前記第1層の表面上に配置されている半導体素子とを備える。
【0026】
上記の放熱性能に優れた放熱板を用いることによって、過熱による動作不良や破損の発生を抑止した半導体パッケージを得ることができる。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る放熱板の具体例を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法関係等を表すものではない。
1つの実施形態において説明する構成は、特段の断りがない限り、他の実施形態にも適用可能である。以下の説明で特定の方向や位置を示す用語を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。特定の方向や位置を示す用語としては、例えば、「上」「上面」「前」「表」などが挙げられる。
【0028】
図1は、実施形態に係る放熱板の一例を示す斜視図である。
図1の放熱板1は表面2と裏面3を有し、平面視で長方形をなす板状体である。以下の説明では放熱板1の表面2と裏面3を構成する面の方向をX-Y平面とし、板の厚さ方向をZ方向と定義する。表面2の一部または全部に放熱する対象である発熱体(図示しない)を配置する。発熱体から表面2に伝わった熱は、厚さ方向、即ちZ方向に伝わり、裏面3から放熱される。裏面3には他の伝熱媒体としての金属や液体などが接していても良い。放熱板1はZ方向に複数の層が積層された構造を有しており、最外層の一方の面が表面2、他の最外層の一方の面が裏面3として露出している。
【0029】
図2は、
図1の放熱板1をA-A線にてZ方向に切断した断面を説明する模式図である。放熱板1はZ方向に複数の層を有している。この実施形態では5層の場合を示している。以下、説明の便宜上、図の上部に配置される表面2を有する層から順に第1層101、第2層102、第3層103、第4層104、第5層105と呼ぶ。第1層101は第1材料10で構成されている。第1層101に接する第2層102は第2材料20で構成されている。第3層103は第3材料30で構成されている。第4層104は第2層102と同じ第2材料20で構成されている。裏面3を有する第5層105は第1材料10で構成されている。各層の厚さは任意に選択可能である。
図2に示す実施形態では、第1層101と第5層105、第2層102と第4層104が同じ厚さである。結果としてこの実施形態の放熱板1は、厚さ方向の中央を挟んで上下に対称な積層構造となっている。
【0030】
第1材料10は、銅を主成分とする金属相11の中に炭素繊維13を主成分とする添加相を含む材料である。ここで、「銅を主成分とする金属相11」とは、金属相に占める銅の含有量が50質量パーセント以上の金属相である。銅を主成分とする金属相11は、70質量パーセント以上銅を含有していることが好ましく、最も好ましくは純銅である。
純銅とは、銅と不可避不純物とからなる金属材料である。炭素繊維とは、有機繊維のプレカーサーを加熱炭素化処理して得られる、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維である。炭素繊維には炭素からなる繊維状の物質を含む。あるいは、炭素繊維とは、いわゆる市販の炭素繊維、すなわち、アクリル繊維またはピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料に高温で炭化して作った繊維を含む。繊維の長手方向に銅よりも高い熱伝導率を有することが好ましい。
【0031】
このような材料を用いることで、第1層101の面方向の熱伝導率から厚さ方向の熱伝導率を引いた値が40W/m・K以上とすることが可能となる。面方向の熱伝導率が厚さ方向の熱伝導率よりも高いことで、熱が面方向に伝わりやすい。例えば第1層101の表面2の一部に伝わった熱は、第1層101の中で面方向に伝わりつつ厚さ方向に伝わってゆく。このため第1層101全体が厚さ方向の熱伝導に寄与することができる。第1層101の表面2から第2層102に接する面に伝わった熱は、その後第2層102から順に厚さ方向に伝わってゆく。このため、放熱板1全体として効率よく厚さ方向に熱を伝えることが可能となる。
【0032】
図3は、金属相11中に炭素繊維13が存在する様子を表している。
図3は
図2に破線で示される領域Bを拡大した断面を模式的に示した図である。複数の炭素繊維13が金属相11の中に分散している。炭素繊維13の形状は一定ではない。個々の炭素繊維13は互いに離間して存在していてもよいし、複数の炭素繊維13が接するように存在していてもよい。
【0033】
炭素繊維13の形状は、細長い形状を有している。炭素繊維が延在する方向を長手方向と定義する。以下、炭素繊維13の長手方向とその傾きおよび配向率について説明する。
【0034】
図4は
図3に示した第1層101の厚さ方向の断面における炭素繊維13の一つを示している。
図4で示すように、おのおのの炭素繊維13を、長さL0で分割していく。L0の長さは20μmである。このL0の長さで分割された炭素繊維13を、ここでは便宜上、炭素繊維小片14と呼ぶことにする。
図5で示すように、この炭素繊維小片14に対し、炭素繊維小片14の外周に接する線分を引き、直交する2方向での線分の幅L1とL2を求める。ここで、L2に対するL1の割合であるL1/L2の値が最大になるようにL1を定める。この場合のL1の方向を、その炭素繊維小片14の長手方向とする。炭素繊維小片14の長手方向と
図4の横軸であるX-Y平面とがなす角度θ、すなわちその炭素繊維小片14が表面に平行な面に対してなす角度を求める。なお、角度は炭素繊維小片14の長手方向をZ方向からX―Y平面上に投影した線分と、長手方向とがなす角度を鋭角側で測った角度と定義する。
【0035】
観察する視野内で求めた複数の炭素繊維に対する、複数の炭素繊維小片14の角度θについて、角度θが一定の範囲に入る炭素繊維小片14の数の割合を百分率で表して、第1層101における炭素繊維13全体の配向率と定義する。例えば角度θを20度以下とすると、角度20度以下の配向率が高い場合は、炭素繊維小片14の多くがX-Y平面に近い方向に傾いていることになる。
【0036】
第2材料20は、モリブデンまたはタングステンを含む材料である。第2層102には第1層101に比較して線膨張係数が小さい材料を用いることが好ましい。第2層102の線膨張係数を小さくすることで、放熱板1全体の面方向の線膨張係数を小さくすることができる。モリブデンまたはタングステンを含む材料としては、放熱板1に用いられる既知の材料を適用することができる。例えば、第2層102を構成する材料は、モリブデンまたはタングステンおよび不可避不純物からなる材料であっても良い。第2層102を構成する材料は、モリブデンまたはタングステンの粉体を焼結した多孔体中に銅を含浸させた複合材料であると良い。複合材料を用いることで、熱伝導率と線膨張係数を所望の範囲に調整することができる。なお、モリブデンまたはタングステンを含む材料は、モリブデンを含む材料、タングステンを含む材料、モリブデンとタングステンの両方を含む材料のいずれでもよい。
【0037】
第3材料30は、銅を主成分とする材料であると良いが、特に限定されない。第3材料30として第1材料10と同じ材料を用いることもできる。第3層103には熱伝導が良い材料を用いることで放熱板1全体の厚さ方向の熱伝導率を高める効果がある。第3材料30には純銅が好ましく用いられる。
【0038】
以上、放熱板1の積層数が5層の場合を例として説明したが、層の数は3層以上であれば良い。3層の場合の放熱板1の例を
図6Aに示す。3層の場合は
図2で示した第3層103と第4層104が存在しない。
図6Aの放熱板1は表面2から裏面3に向けて順に第1材料10、第2材料20、第1材料10の順で構成されている。7層以上の場合は、第3材料30と第2材料20の層の繰り返しを増やすことが好ましい。
図6Bは7層の場合の代表的な構造を示す。
図6Bの放熱板1は、表面2から裏面3に向けて順に第1材料10、第2材料20、第3材料30、第2材料20、第3材料30、第2材料20、第1材料10の順で構成されている。
【0039】
本開示の実施形態においては、層数にかかわらず、表面2を備える第1層は第1材料10で構成される。表面2は放熱の対象となる発熱体が接する面であり、放熱板1は表面2から裏面3に向けて熱を伝える。層数が奇数の場合は表面2と裏面3が同じ第1材料10で構成されると良い。層数は偶数とする事も可能である。この場合は表面2は第1材料10で構成し、第2層は第2材料20で構成する以外は特に限定されない。
図6Cに層数が偶数の場合の一例として4層の構成例を示す。
図6Cの放熱板1は、表面2から裏面3に向けて順に第1材料10、第2材料20、第3材料30、第2材料20の順で構成されている。
【0040】
以上に説明した構造の変形例は種々考えられ、上記の構成には限定されない。例えば3層の場合の放熱板1の他の構成例を
図6Dに示す。
図6Dに示す放熱板1は、表面2を有する第1層を第1材料10、第2層を第2材料20で構成し、裏面3を有する材料を第3材料30で構成している。
【0041】
(半導体パッケージ)
図7は、本開示にかかる放熱板を備えた半導体パッケージ50の一例を説明する図である。放熱板1の表面2に、半導体素子53が配置される。半導体素子53には端子51を介して電流が供給される。また放熱板1の表面2には半導体素子53を封止するためのケース部材52が設けられている。半導体素子53から生じた熱を素早く外部に伝えて半導体素子53の温度を保つことが放熱板1の機能である。そのため、放熱板1の裏面は図示しない金属板や他の冷却媒体に接して用いられる。本開示にかかる放熱板1は半導体素子53から生じた熱を、表面2を構成する第1層において面方向に伝えやすい。面方向に拡がった熱は放熱板1全体を通して厚さ方向に伝わる。さらに放熱板1の面方向の線膨張係数は、半導体素子53やケース部材52に用いられるセラミックス等の材料に近い値であるため、温度変化によって各材料や接合面での破損が生じ難い。従来の放熱板を用いた場合に比べて、半導体素子53からの熱が裏面に伝わりやすく、高い冷却性能と耐久性を兼ね備えた半導体パッケージ50とすることができる。なお、半導体パッケージ50の構成は多くの種類があり、上記の例には限定されない。構成の違いにかかわらず、本開示の半導体パッケージ50には、本開示の放熱板1の表面2に半導体素子53からの熱が加わるように半導体素子53が配置され、当該熱を放熱板1の裏面に伝えることで冷却効果を得る構造を含む。
【0042】
<実施例>
(放熱板の製造)
図2に示す5層の放熱板を以下の説明のように製造した。
【0043】
(第1材料の準備)
球状銅粉(福田金属箔粉工業株式会社製Cu-At-100)は、開き目45μmのふるいで粗大粉を除去することで、平均粒径30μmとした。更に、粉砕を開き目250μmの篩を用いて篩分しながら採取した繊維状粉末形状(日本グラファイトファイバー株式会社製ミルドファイバーZY-300-25M)を準備した。この球状銅粉と、繊維状粉末形状を体積比率で、100:0から79:21となるように混合した。用いた炭素繊維の長手方向の平均長さは120μm、平均直径は8μmであった。混合された粉を直径30mmのカーボン製の型に装填した後、通電プラズマ焼結装置にて30MPaの加圧をしながら温度950℃、時間10分の加熱を行って、焼結体を得た。
なお、長手方向の平均長さおよび平均直径はカーボンテープ上に分散した状態で走査電子顕微鏡(SEM)を用いて200倍で撮像し、100個以上の繊維について長軸長さを測定し平均値とした。ここで長軸長さとは、2本の平行線で繊維の透過像を挟んだ時に最大となる長さとする。平均直径は、同様にSEMを用いて500倍で撮像し、長軸長さが50μm以上の100個以上の繊維について断面長さを測定し、その平均値とした。ここで、断面長さは、長軸長さの方向と直交する方向の幅を長軸長さの1/4、1/2、3/4の位置にて測定し平均して得られる値とした。
図12は、上述の長手方向の平均長さ及び平均直径の測定方法の説明である。長軸長さの求め方は
図5の場合と同様であり、求めた長軸長さがLL1、長さLL2の位置が3/4の位置、長さLL3の位置が1/2の位置、長さLL4の位置が1/4の位置である。それぞれの位置での断面長さをW1、W2、W3と示している。
【0044】
(第2材料の準備)
第2層および第4層として用いるため、所定の厚さのモリブデン(Mo)板を準備した。
【0045】
(第3材料の準備)
第3層として用いるため、所定の厚さの純銅板を準備した。
【0046】
(積層体の製造)
上記のように準備した第1材料、第2材料、第3材料を、それぞれ直径30mmの円盤状に加工した。円盤状の各材料を、第1材料、第2材料、第3材料、第2材料、第1材料の順に積層して、内直径32mmのグラファイト製の型に装填した。充填された積層試料を、温度1000℃、時間60分、圧力50MPaの条件でホットプレスによって接合した。ホットプレス後の全体の厚さが1mmになるようにした。ホットプレスにおいて第1材料に含まれる銅粉はプレスの方向に従った扁平形状に変形する。繊維状の形状である炭素繊維が銅粉の扁平形状に沿うように配置されることにより、第1材料中において炭素繊維が配向性を有する。なお、第1材料は銅粉の充填率に応じてホットプレスにより厚さが小さくなるため、ホットプレス後に所望の厚さになるように予め厚さを調整しておく。本実験例ではホットプレスのみによる製造としたが、圧延による製造とすることもできる。
【0047】
(評価)
積層前の各層の材料および接合された積層体について、面方向および厚さ方向の熱伝導率、面方向の線膨張係数を測定した。
【0048】
(面方向の熱伝導率を測定するための測定試料)
第1材料の面方向の熱伝導率を測定するための試料は次のように作製した。
図8は、面方向の熱伝導率の測定試料の作成手順を説明する図である。
図8は放熱板1から第1材料10を切り出して試料を作成する手順を示している。
図8の(a)は評価の対象とする放熱板1である。放熱板1は積層体である。積層体の第1層を構成する第1材料10を積層体から切り出す。切り出された第1材料の厚さをtmmとする。当該材料を
図8(b)のような長さAmm、幅2mmの大きさの薄片に切断する。長さAは1mmから10mmであり、好ましくは10mmである。今回の測定では長さAを10mmとした。
【0049】
以降の手順を
図8の(c)(d)を参照して説明する。10をtで除した値の小数点以下を切上げた数をXとし、10をAで除した数の小数点以下を切上げた数をYとする。準備する薄片の数は、XとYの積の数とする。次に、X枚の薄片を積層して、高さ約10mm、長さAmm、幅2mmのブロックをY個作製する。ここで、積層する薄片の各片の間に平均粒径約4μmの純銀不定形粉末(福田金属箔粉工業株式会社製AgC-74SE)を配置する。用いる純銀不定形粉末の量は各層間に100mm
2あたり0.2g±30%の範囲とした。次にこのブロックを開口の内寸がA(mm)×2(mm)の矩形状の黒鉛製の型にいれる。上部から4.9Nから9.8Nの荷重をかけながら、不活性ガス中で温度900℃、時間10分の熱処理によって銀粉末を軟化変形させて接着する。得られたブロックをY個並べることで、高さ約10mm、長さ約10mm、幅2mmの測定試料が完成する(
図8(d))。ここで、Y個並べる際には、ブロックの間を銀ロウ箔やセラミックス接着剤などの800℃程度まで耐熱が得られる接着部材で接着しても良い。またブロックの外周をステンレスワイヤなどで巻くことで固定しても良い。
【0050】
(厚さ方向の熱伝導率を測定するための測定試料)
第1材料、第2材料、第3材料または積層体の厚さ方向の熱伝導率の測定試料は次のように作成した。
図9は、厚さ方向の熱伝導率の測定試料の作成手順を説明する図である。
図9は放熱板1から第1材料を切り出して試料を作成する手順を示している。
図9の(a)は評価の対象とする放熱板1である。放熱板1は積層体である。積層体の第1層を構成する第1材料10を積層体から切り出す。第2材料または第3材料を測定対象とする場合は切り出す対象が異なるだけで手順は同じである。測定対象とする切り出された材料の厚さをtmmとする。当該材料を
図9(b)のような長さBmm、幅Cmmの大きさの薄片に切断する。長さBおよび長さCはそれぞれ1mmから10mmであり、好ましくは10mmである。今回の測定では長さB、幅Cをいずれも10mmとした。
【0051】
以降の手順を
図9の(c)(d)を参照して説明する。2をtで除した値の小数点以下を切上げた数をX1、10をBで除した数の小数点以下を切上げた数をY1、10をCで除した数の小数点以下を切上げた数をY2とする。当該材料について準備する薄片の数は、X1とY1とY2との積とする。まず、X1枚の薄片を積層して、高さ約2mm、長さBm、幅CmmのブロックをY1とY2の積の数だけ作製する。ここで、積層する薄片の各片の間に平均粒径4μmの純銀不定形粉末を配置する。用いる純銀不定形粉末の量は、各層間に100mm
2あたり0.2g±30%の範囲とした。次にこのブロックを開口の内寸がB(mm)×C(mm)の矩形状の黒鉛製の型にいれる。上部から4.9Nから9.8Nの荷重をかけながら、不活性ガス中で温度900℃、時間10分の熱処理によって銀粉末を軟化変形させて接着する。得られたブロックを縦Y1個、横Y2個並べることで、高さ約10mm、長さ約10mm、幅2mmの測定試料が完成する(
図9(d))。ここで、縦Y1個、横Y2個並べる際には、ブロックの間を銀ロウ箔やセラミックス接着剤などの800℃程度まで耐熱が得られる接着部材で接着しても良い。またブロックの外周をステンレスワイヤなどで巻くことで固定しても良い。
【0052】
(熱伝導率の測定)
熱伝導率の評価はレーザフラッシュ法によって測定される。熱伝導率の測定装置(NETZSCH社製LFA457MicroFlash)を用いて熱拡散係数が測定される。構成材料の体積比率から求めた測定試料の比熱を用いて、室温における熱伝導率を算出した。用いた比熱値は次の通りである。
Cu:386J/kg/K
Mo:251J/kg/K
Ag:234J/kg/K
(以上、金属データブック第4版、日本金属学会(2004)より)
炭素繊維:710J/kg/K
(Chem.Thermodynamics,2,847(1970)より)
なお、評価においては同形状の純銅試料をリファレンスとして同条件下で測定し、数値補正を行った。
【0053】
(面方向の線膨張係数の測定)
室温から300℃まで温度が変化した際の第1材料10の層内方向での線膨張係数は、TD5000SA(ブルカーAXS社製)を用いて室温から300℃まで温度が変化した際の第1材料10の層内方向での膨張変位を測定することにより算出される。室温から300℃まで温度が変化した際の第1材料10の層内方向での線膨張係数を算出する際、第1材料10の平面形状は、tmm×3mm×(10から15)mmの矩形形状が好ましい。ここでtは試料厚さである。測定値は、3つの試料についての平均値とする。評価対象が上記寸法よりも小さい場合には、X線回折法を用いて線膨張係数を算出しても良い。第1材料10の放熱面が総面積100mm2となるように1辺10mm以上の矩形を同一平面に集積する。室温および300℃において集積された試料の表面にX線を照射し、Cu(331)に対応する回折ピークから回折角(2θ)を導出する。回折角から下記の式を用いることで、格子面間隔の変化率を線膨張係数として利用することができる。材料の面内に異方性が存在する場合は、試料の線膨張係数の測定目的の方向がX線の入射面に平行になるように試料を整列させる。室温を25℃とした場合の線膨張係数の算出式を示す。 (線膨張係数)=(1/sin(θat300℃)-1/sin(θat25℃))×sin(θat25℃)/(300-25)
ここで、θat25℃は25℃測定時の回折角2θの1/2倍
θat300℃は300℃測定時の回折角2θの1/2倍
【0054】
(積層体の放熱性能の評価)
上記で作製した積層体について面方向の放熱性能の評価を行った。放熱性能は表面での中央部分の温度と、その面の端部の温度との差を端部温度差として次のように評価した。
【0055】
図10は、積層体の放熱性能を評価するときの測定方法を説明した図である。
図10は次に説明する配置を、放熱板1の一方の側面から見た状態を模式的に示している。放熱板1を表面に垂直な方向からみて縦横10mmの大きさの矩形状に切断する。この放熱板1をアルミニウムフィン70の上面にシリコーンオイル(信越化学社製G-751)を界面に塗布し、9.8Nの荷重をかけて接着する。この放熱板1の表面の中央に縦横1mmの発熱体60を接触させる。発熱体60の出力は50Wとする。また、放熱板1とアルミニウムフィン70との接着部の温度が25℃±3℃になるようにアルミニウムフィン70の空冷を制御する。測定環境としての周囲温度は25℃±5℃である。発熱体60と放熱板1の表面との界面の温度T1と、放熱板1の表面の角部である端部の温度T2を熱電対により測温する。発熱体60を接触した後30秒以上経過して、温度が定常状態になった状態での温度差T1-T2(℃)を端部温度差とする。測定は10回行い、その平均値を端部温度差として採用する。温度差が小さいほど面内での熱伝導が良好であることを示している。今回は実用性を考慮して、端部温度差が50℃以下を放熱性能が良好と判断した。
【0056】
(炭素繊維の配向性評価)
第1材料の炭素繊維の配向性評価を行うための試料は次のように作製した。評価試料として、面方向の熱伝導率の測定試料の作成手順における
図8(b)の状態の平板を用いる。平板の面に直交する断面の組織観察を倍率200倍の光学顕微鏡または走査電子顕微鏡によって実施した。観察された断面の一例を
図11に示す。
図11の上下方向が層の厚さであるZ方向、左右方向がXY平面の面内の方向である。
図11に示される濃い灰色の部分が炭素繊維13であり、薄い灰色の領域が金属相11である。
図11では、金属相11の中に炭素繊維13の群が分散している様子が確認された。各炭素繊維群の断面の形は同じでは無く、大きさも様々である。視野全体の各炭素繊維について、次の手順により角度θを決定した。
【0057】
再び
図4を参照して、各炭素繊維の断面形状において、L0=20μmの長さで分割した炭素繊維小片を求める。更に、再び
図5を参照して、各炭素繊維小片において、直交する2方向での炭素繊維小片の外周に接する線分の幅L1とL2を求める。ここで、L1/L2の値が最大になるようにL1を求めた場合のL1の方向を、その炭素繊維小片の長手方向とする。ここで、L1/L2が最大になるときのL1が5μm以下の小さい炭素繊維小片は配向性への寄与が小さいことから評価対象としては採用しない。観察した断面内での炭素繊維小片の長手方向と表面との方向とがなす角度θを求める。評価対象とする視野全体のおのおのの炭素繊維の炭素繊維小片について角度θを求め、θが20度以内の炭素繊維小片の数の、評価対象とした炭素繊維小片の数に対する比率を炭素繊維の配向率として計算する。この計算を視野10か所以上に対し行い、配向率の平均値を求めた。なお、視野の大きさは、500μm×500μmであり、30本以上の炭素繊維を使い、その炭素繊維の中に含まれる多数の炭素繊維小片から各炭素繊維小片の角度θから計算した。
【0058】
(積層体の銅と炭素繊維の体積比率)
積層体全体の銅(Cu)と添加粒子との体積比率は、以下の手順で求める。まず、添加粒子が炭素であることをX線回折(XRD)にて確認する。次に、0.5g以上の複合材を試料として、Cuおよび炭素繊維の炭素の重量比率を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)により求める。得られた重量比率から、各物質の密度を用いて体積比率に換算する。用いる各物質の密度は次の通りである。
Cu:8.96g/cm3
炭素繊維:2.24g/cm3
【0059】
(評価結果A)
第1層を構成する第1材料として、炭素繊維の体積比率、炭素繊維の配向率、第1層の厚さが異なる試料を準備して測定した。第2層を構成する第2材料として、所定の厚さのモリブデン(Mo)板を準備して測定した。完成後の放熱板、すなわち積層体の厚さが1mmとなるように統一した。なお、積層体の層構成は、第1層/第2層/第1層という3層構造とした。
各試料の構成と測定結果を表1に示す。第1層については、第1層中の炭素繊維の体積比率、炭素繊維の配向率、第1層の面方向の熱伝導率(A)、第1層の厚さ方向の熱伝導率(B)、第1層の面方向の熱伝導率から第1層の厚さ方向の熱伝導率を引いた値(A-B)及び第1層の面方向の線膨張係数を表1で示す。第2層については、第2層の厚さ、第2層の厚さ方向の熱伝導率及び第2層の面方向の線膨張係数を示す。積層体については、積層体の層構成、積層体の層の数、積層体の厚さ、積層体のCu割合、積層体の厚さ方向の熱伝導率、積層体の面方向の線膨張係数及び端部温度差を示す。
【0060】
【0061】
放熱板となる積層体に求められる性能として端部温度差が50℃以下、積層体の面方向の線膨張係数が8ppm/K以下を基準にして良好と判断した。表1に示されるように、試料3から試料5、試料7、試料8が良好と判断される。
【0062】
試料1から試料5は、第1層の厚さがすべて0.25mmで、炭素繊維の比率と炭素繊維の配向率が異なる試料の測定結果である。試料1は、第1層に炭素繊維を含まない試料での測定結果である。第1層に炭素繊維を含んでいないため、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。試料2は、第1層に炭素繊維を2.6Vol%含む試料であり、端部温度差が52℃であり、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。試料3から試料5は、炭素繊維を6.0Vol%以上含む試料であり、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。6.0Vol%では、端部温度差が49℃であるから、端部温度差が50℃を下回るためには、これらの試料の炭素繊維の体積比率及び端部温度差から考えて、第1層の炭素繊維の体積比率を5Vol%以下とすればよい、と考えられる。
なお、本開示の試料の作成方法を用いた場合、炭素繊維の配向率はいずれの試料も77.9%以上である。また、後述の表2や表3の結果から、各試料の炭素繊維の配向率は76%以上と良好で、端部温度差及び積層体の面方向の線膨張係数が良好であった。
【0063】
試料4、試料6から試料8は、第1層に炭素繊維を11.3Vol%含んでいる。試料6から試料8の間で第1層の厚さが異なっている。試料6の第1層の厚さは0.10mmであるが、端部温度差が54℃であり、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。一方、試料7、試料4、試料8のおのおのの第1層の厚さは0.15mm、0.25mm、0.35mmであるが、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。この結果から、第1層の厚さは、0.15mm以上0.35mm以下は適していると考えられる。
【0064】
試料1から試料5は、第1層の厚さが0.25mmと等しい厚さである。試料1は、第1層に炭素繊維を含まない試料での測定結果である。炭素繊維を含んでいないため、上記の基準を満たしていない。試料2は、第1層の面方向の熱伝導率から第1層の厚さ方向の熱伝導率を引いた値、すなわちA-Bが20W/m・Kであったため、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。試料3から試料5は、A-Bがいずれも44W/m・K以上であるため、端部温度差が上記の基準を満たしている。
44W/m・Kでは、端部温度差が49℃であり、端部温度差が50℃を下回るためには、これらの試料のA-B及び端部温度差から考えて、少なくとも40W/m・K以上が適している、と考えられる。
【0065】
表1で良好と判断された試料3から試料5、試料7、試料8について、第1層の厚さ方向の熱伝導率は、すべて250W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第1層の面方向の線膨張係数がすべて18.1ppm/K以下であり、良好であった。放熱板全体の高い放熱性能を得るために、第1層の厚さ方向の熱伝導率は高い方が好ましい。また、高温での使用を考慮して面方向の線膨張係数は一定値以下であることが好ましい。
【0066】
表1のすべての試料では、第2層の厚さ方向の熱伝導率が140W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第2層の面方向の線膨張係数が8.0ppm/K以下であり、良好であった。第2層は、放熱板全体としての面方向の線膨張係数を低くする目的で設けられる。熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0067】
なお、放熱板全体に占める銅の割合が多いほど、厚さ方向の熱伝導率が大きくなり、放熱板としては好ましい。
【0068】
(評価結果B)
評価結果Aで用いた第1層を構成する第1材料、第2層を構成する第2材料に加えて、第3層を構成する第3材料として所定の厚さの純銅板を準備して測定した。完成後の放熱板、すなわち積層体の厚さが1mmとなるように統一した。なお、積層体の層構成は、第1層/第2層/第3層/第2層/第1層という5層構造とした。各試料の構成と測定結果を表2に示す。第1層、第2層、積層体の項目については、表1と同様である。第3層の項目については、第3層の厚さ、第3層の厚さ方向の熱伝導率及び第3層の面方向の線膨張係数も併せて示す。
【0069】
【0070】
放熱板となる積層体に求められる性能として端部温度差が50℃以下、積層体の面方向の線膨張係数が8ppm/K以下であることを基準として良好と判断した。表2に示されるように、試料13から試料16、試料18、試料19が良好と判断される。
【0071】
試料11から試料15は、第1層の厚さがすべて0.25mmで、炭素繊維の比率と炭素繊維の配向率が異なる試料の測定結果である。試料11は第1層に炭素繊維を含まない試料での測定結果である。炭素繊維を含んでいないため、端部温度差の上記の規格を満たさなかった。試料12は炭素繊維の体積比率が3.1Vol%であり、端部温度差の上記の基準を満たさなかった。試料13から試料15は炭素繊維の体積比率が11.3Vol%以上であり、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。先の議論と同様に、端部温度差が50℃を下回るためには、第1層の炭素繊維の体積比率を5Vol%以下とすればよい、と考えられる。
【0072】
なお、本開示の試料の作成方法を用いた場合、炭素繊維の配向率はいずれの試料も76%以上で、端部温度差及び積層体の面方向の線膨張係数が良好であった。すなわち、少なくとも、炭素繊維の配向率が76%以上の試料は、端部温度差及び積層体の面方向の線膨張係数が良好のため、炭素繊維の配向率が76%以上であることが好ましいと考えられる。
【0073】
試料13、試料16から試料19は、第1層の炭素繊維の体積比率が11.3Vol%である。試料13、試料16から試料19の間で第1層の厚さが異なっている。試料17の第1層の厚さは0.10mmであるが、端部温度差が54℃であり、端部温度差が上記の基準を満たしていなかった。一方、試料16、試料13、試料18、試料19のおのおのの第1層の厚さは0.15mm、0.25mm、0.35mmであるが、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。この結果から、第1層の厚さは、0.15mm以上0.35mm以下が適していると考えられる。
【0074】
試料11から試料15は、第1層の厚さが0.25mmと等しい厚さである。試料11は、第1層に炭素繊維を含まない試料での測定結果である。炭素繊維を含んでいないため、上記の基準を満たしていなかった。試料12は、第1層の面方向の熱伝導率から第1層の厚さ方向の熱伝導率を引いた値、すなわちA-Bが23W/m・Kであったため、端部温度差が上記の基準を満たしていなかった。試料13から試料15は、A-Bがいずれも80W/m・K以上のため、端部温度差が上記の基準を満たした。
これらの試料の結果から、端部温度差が50℃を下回るためには、これらの試料のA-B及び端部温度差から考えて、少なくとも40W/m・K以上が適している、と考えられる。
【0075】
表2で良好と判断された試料13から試料16、試料18、試料19について、第1層の厚さ方向の熱伝導率は、すべて250W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第1層の面方向の線膨張係数がすべて18.1ppm/K以下であり、良好であった。放熱板全体の高い放熱性能を得るために、第1層の厚さ方向の熱伝導率は高い方が好ましい。また、高温での使用を考慮して面方向の線膨張係数は一定値以下であることが好ましい。
【0076】
表2のすべての試料では、第2層の厚さ方向の熱伝導率が140W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第2層の面方向の線膨張係数が8.0ppm/K以下であり、良好であった。第2層は、放熱板全体としての面方向の線膨張係数を低くする目的で設けられる。熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0077】
なお、放熱板全体に占める銅の割合が多いほど、厚さ方向の熱伝導率が大きくなり、放熱板としては好ましい。その点では、上記の好ましいと判断されたいずれの試料においても厚さ方向の熱伝導率が250W/m・K以上と良好である。積層体の銅の割合が71VOl%以上であれば、厚さ方向の熱伝導率が300W/m・K以上となり、更に良好である。
また、評価結果Aの表1の結果に比べ、評価結果Bの表2の結果の方が、積層体のCu濃度が高く、積層体の厚さ方向の熱伝導率が高くなっており、放熱に有利である。すなわち、第1層/第2層/第1層という3層構造に比べて、第1層/第2層/第3層/第2層/第1層という5層構造の方が好ましい。
【0078】
(評価結果C)
評価結果Cでは、評価結果Bで用いた試料の構造を、完成後の放熱板、すなわち積層体の厚さが2mmとなるように変更した。なお、積層体の層構成は、評価結果Bと同じく、第1層/第2層/第3層/第2層/第1層という5層構造とした。
各試料の構成と測定結果を表3に示す。第1層、第2層、第3層、積層体の項目は、表2と同じである。
【0079】
【0080】
放熱板となる積層体に求められる性能として端部温度差が50℃以下、積層体の面方向の線膨張係数が8ppm/K以下であることを基準として良好と判断した。表3に示されるように、試料23から試料26、試料28から試料30が良好と判断される。
【0081】
試料21から試料26は、第1層の厚さがすべて0.25mmで、炭素繊維の比率と炭素繊維の配向率が異なる試料の測定結果である。試料21は第1層に炭素繊維を含まない試料での測定結果である。炭素繊維を含んでいないため、端部温度差の上記の規格を満たしていなかった。試料22は炭素繊維の体積比率が3.1Vol%であり、端部温度差の上記の基準を満たさなかった。試料23から試料26は炭素繊維の体積比率が6.0%以上であり、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。先の議論と同様に、端部温度差が50℃を下回るためには、第1層の炭素繊維の体積比率を5Vol%以下とすればよい、と考えられる。
なお、本開示の試料の作成方法を用いた場合、炭素繊維の配向率はいずれの試料も76%以上で、端部温度差及び積層体の面方向の線膨張係数が良好であった。すなわち、少なくとも、炭素繊維の配向率が76%以上の試料は、端部温度差及び積層体の面方向の線膨張係数が良好であったから、炭素繊維の配向率が76%以上であることが好ましいと考えられる。
【0082】
試料24、試料27から試料30は、第1層の炭素繊維の体積比率が11.3Vol%である。試料24、試料27から試料30の間で第1層の厚さが異なっている。試料27の第1層の厚さは0.10mmであるが、端部温度差が54℃であり、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。一方、試料28、試料24、試料29、試料30のおのおのの第1層の厚さは0.15mm、0.25mm、0.30mm、0.35mmであるが、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。この結果から、第1層の厚さは、0.15mm以上0.35mm以下が適していると考えられる。
【0083】
試料21から試料26は、第1層の厚さが0.25mmと等しい厚さである。試料21は、第1層に炭素繊維を含まない試料での測定結果である。炭素繊維を含んでいないため、上記の基準を満たさなかった。試料22は、第1層の面方向の熱伝導率から第1層の厚さ方向の熱伝導率を引いた値、すなわちA-Bが23W/m・Kであったため、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。試料23から試料26は、A-Bがいずれも44W/m・K以上であるため、端部温度差が上記の基準を満たしている。
これらの試料の結果から、端部温度差が50℃を下回るためには、これらの試料のA-B及び端部温度差から考えて、少なくとも40W/m・K以上が適している、と考えられる。
【0084】
表3で良好と判断された試料23から試料26、試料28から試料30について、第1層の厚さ方向の熱伝導率は、すべて250W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第1層の面方向の線膨張係数がすべて18.1ppm/K以下であり、良好であった。放熱板全体の高い放熱性能を得るために、第1層の厚さ方向の熱伝導率は高い方が好ましい。また、高温での使用を考慮して面方向の線膨張係数は一定値以下であることが好ましい。
【0085】
表3のすべての試料では、第2層の厚さ方向の熱伝導率が140W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第2層の面方向の線膨張係数が8.0ppm/K以下であり、良好であった。第2層は、放熱板全体としての面方向の線膨張係数を低くする目的で設けられる。熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0086】
なお、放熱板全体に占める銅の割合が多いほど、厚さ方向の熱伝導率が大きくなり、放熱板としては好ましい。その点では、上記の好ましいと判断されたいずれの試料においても厚さ方向の熱伝導率が250W/m・K以上と良好であった。今回作成した試料ではすべて積層体の銅の割合が75Vol%以上と高く、厚さ方向の熱伝導率が317W/m・K以上と高く、更に良好であった。
【0087】
(評価結果D)
評価結果Cで用いた試料とは積層体の層構成及び積層体の厚さを変更した試料を準備した。積層体の厚さは1mmとした。積層体の層構成は、第1層/第2層/第3層/第2層/第3層/第2層/第1層という7層構造とした。
各試料の構成と測定結果を表4に示す。第1層、第2層、第3層、積層体の各項目は、表3と同じである。
【0088】
【0089】
放熱板となる積層体に求められる性能として端部温度差が50℃以下、積層体の面方向の線膨張係数が8ppm/K以下であることを基準として良好と判断した。表4に示されるように、試料33から試料36、試料38、試料39が良好と判断される。
【0090】
試料32から試料36は、第1層の厚さがすべて0.25mmで、炭素繊維の比率と炭素繊維の配向率が異なる試料の測定結果である。試料32は炭素繊維の体積比率が3.1Vol%であり、端部温度差の上記の基準を満たさなかった。試料33から試料36は炭素繊維の体積比率が6.0%以上であり、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。先の議論と同様に、端部温度差が50℃を下回るためには、第1層の炭素繊維の体積比率を5Vol%以下とすればよい、と考えられる。
なお、本開示の試料の作成方法を用いた場合、炭素繊維の配向率はいずれの試料も76%以上で、端部温度差及び積層体の面方向の線膨張係数が良好であった。すなわち、少なくとも、炭素繊維の配向率が76%以上の試料は、端部温度差及び積層体の面方向の線膨張係数が良好であったから、炭素繊維の配向率が76%以上であることが好ましいと考えられる。
【0091】
試料34、試料37から試料39は、第1層の炭素繊維の体積比率が11.3Vol%である。試料34、試料37から試料39の間で第1層の厚さが異なっている。試料37の第1層の厚さは0.10mmであるが、端部温度差が54℃であり、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。一方、試料38、試料34、試料39のおのおのの第1層の厚さは0.15mm、0.25mm、0.30mmであるが、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。この結果から、第1層の厚さは、少なくとも0.15mm以上が適していると考えられる。
【0092】
試料32から試料36は、第1層の厚さが0.25mmと等しい厚さである。試料32は、第1層の面方向の熱伝導率から第1層の厚さ方向の熱伝導率を引いた値、すなわちA-Bが23W/m・Kであったため、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。試料33から試料36は、A-Bがいずれも44W/m・K以上であるため、端部温度差が上記の基準を満たしている。
これらの試料の結果から、端部温度差が50℃を下回るためには、これらの試料のA-B及び端部温度差から考えて、少なくとも40W/m・K以上が適している、と考えられる。
【0093】
表4で良好と判断された試料33から試料36、試料38、試料39について、第1層の厚さ方向の熱伝導率は、すべて250W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第1層の面方向の線膨張係数がすべて18.1ppm/K以下であり、良好であった。放熱板全体の高い放熱性能を得るために、第1層の厚さ方向の熱伝導率は高い方が好ましい。また、高温での使用を考慮して面方向の線膨張係数は一定値以下であることが好ましい。
【0094】
表4のすべての試料では、第2層の厚さ方向の熱伝導率が140W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第2層の面方向の線膨張係数が8.0ppm/K以下であり、良好であった。第2層は、放熱板全体としての面方向の線膨張係数を低くする目的で設けられる。熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0095】
(評価結果E)
評価結果Cで用いた試料とは積層体の層構成及び積層体の厚さを変更した試料を準備した。積層体の厚さは1mmとした。積層体の層構成は、第1層/第2層/第3層/第2層/第3層/第2層/第3層/第2層/第1層という9層構造とした。
各試料の構成と測定結果を表5に示す。第1層、第2層、第3層、積層体の各項目は、表3と同じである。
【0096】
【0097】
放熱板となる積層体に求められる性能として端部温度差が50℃以下、積層体の面方向の線膨張係数が8ppm/K以下であることを基準として良好と判断した。表5に示されるように、試料43から試料46、試料48が良好と判断される。
【0098】
試料42から試料46は、第1層の厚さがすべて0.25mmで、炭素繊維の比率と炭素繊維の配向率が異なる試料の測定結果である。試料42は炭素繊維の体積比率が3.1Vol%であり、端部温度差の上記の基準を満たさなかった。試料43から試料46は炭素繊維の体積比率が6.0%以上であり、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。先の議論と同様に、端部温度差が50℃を下回るためには、第1層の炭素繊維の体積比率を5Vol%以下とすればよい、と考えられる。
なお、本開示の試料の作成方法を用いた場合、炭素繊維の配向率はいずれの試料も76%以上で、端部温度差及び積層体の面方向の線膨張係数が良好であった。すなわち、少なくとも、炭素繊維の配向率が76%以上の試料は、端部温度差及び積層体の面方向の線膨張係数が良好であったから、炭素繊維の配向率が76%以上であることが好ましいと考えられる。
【0099】
試料44、試料47、試料48は、第1層の炭素繊維の体積比率が11.3Vol%である。試料44、試料47、試料48の間で第1層の厚さが異なっている。試料47の第1層の厚さは0.10mmであるが、端部温度差が54℃であり、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。一方、試料48、試料44のおのおのの第1層の厚さは0.15mm、0.25mmであり、端部温度差も積層体の面方向の線膨張係数も上記の基準を満たした。この結果から、第1層の厚さは、少なくとも0.15mm以上が適していると考えられる。
【0100】
試料42から試料46は、第1層の厚さが0.25mmと等しい厚さである。試料42は、第1層の面方向の熱伝導率から第1層の厚さ方向の熱伝導率を引いた値、すなわちA-Bが23W/m・Kであったため、端部温度差が上記の基準を満たさなかった。試料43から試料46は、A-Bがいずれも44W/m・K以上であるため、端部温度差が上記の基準を満たしている。
これらの試料の結果から、端部温度差が50℃を下回るためには、これらの試料のA-B及び端部温度差から考えて、少なくとも40W/m・K以上が適している、と考えられる。
【0101】
表5で良好と判断された試料43から試料46、試料48について、第1層の厚さ方向の熱伝導率は、すべて250W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第1層の面方向の線膨張係数がすべて18.1ppm/K以下であり、良好であった。放熱板全体の高い放熱性能を得るために、第1層の厚さ方向の熱伝導率は高い方が好ましい。また、高温での使用を考慮して面方向の線膨張係数は一定値以下であることが好ましい。
【0102】
表5のすべての試料では、第2層の厚さ方向の熱伝導率が140W/m・K以上であり、室温から300℃まで温度が変化した際の第2層の面方向の線膨張係数が8.0ppm/K以下であり、良好であった。第2層は、放熱板全体としての面方向の線膨張係数を低くする目的で設けられる。熱伝導率と線膨張係数のバランスがよく、放熱性能に優れた放熱板を得ることができる。
【0103】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0104】
1 放熱板
2 表面
3 裏面
10 第1材料
20 第2材料
30 第3材料
60 発熱体
70 アルミニウムフィン
101 第1層
102 第2層
103 第3層
104 第4層
105 第5層
11 金属相
12 添加相
13 炭素繊維
14 炭素繊維小片
50 半導体パッケージ
51 端子
52 ケース部材
53 半導体素子
61 試料
L0 長さ
L1 長さ
L2 長さ
LL1 長軸長さ
LL2 3/4位置
LL3 1/2位置
LL4 1/4位置
W1 断面長さ1
W2 断面長さ2
W3 断面長さ3
θ 角度