(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-23
(45)【発行日】2025-07-01
(54)【発明の名称】複合半透膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/56 20060101AFI20250624BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20250624BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/02
B01D69/12
(21)【出願番号】P 2021156464
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2024-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三井伸也
(72)【発明者】
【氏名】永野泉
(72)【発明者】
【氏名】小川久美子
(72)【発明者】
【氏名】志村晴季
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/085599(WO,A1)
【文献】特開2020-195937(JP,A)
【文献】特開2015-051436(JP,A)
【文献】国際公開第2020/137066(WO,A1)
【文献】特開2020-179367(JP,A)
【文献】米国特許第06406626(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
C08G 69/00 - 69/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持層と、前記微多孔性支持層上に設けられた分離機能層を有する複合半透膜であって、
前記分離機能層が
架橋芳香族ポリアミドを
主成分として含有し、
前記
架橋芳香族ポリアミドが(
2)で表される部分構造を有する、
複合半透膜。
【化1】
(R
1~R
4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar
1~Ar
3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L
1は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~8の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Xは架橋構造を含んでもよい任意の原子団である。)
【請求項2】
前記架橋芳香族ポリアミドが(3)で表される部分構造を有する、
請求項
1に記載の複合半透膜。
【化2】
(R
1~R
4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar
1~Ar
3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L
2は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~6の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Xは架橋構造を含んでもよい任意の原子団である。)
【請求項3】
前記構造のXが(4)で表される、
請求項
1または2に記載の複合半透膜。
【化3】
(R
1~R
4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar
1~Ar
3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L
3は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~6の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Yは任意の原子団である。)
【請求項4】
前記構造(3)のL
2および(4)のL
3が単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~6の脂肪族鎖である、
請求項
2または3に記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記構造(3)のL
2および(4)のL
3が単結合である、
請求項
2~4のいずれかに記載の複合半透膜。
【請求項6】
前記複合半透膜において、pH3におけるゼータ電位が0mV以下である、
請求項1~
5のいずれかに記載の複合半透膜。
【請求項7】
前記複合半透膜から抽出された分離機能層についての下記値xがx≦0.80を満足する、
請求項1~
6のいずれかに記載の複合半透膜。
x=z/y
y:相対湿度95%、温度25℃における質量
z:相対湿度0%、温度25℃における質量
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜に関する。本発明によって得られる複合半透膜は、かん水や海水の淡水化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
膜分離法は、溶媒(例えば水)からその溶媒に溶解した物質(例えば塩類)を除去する方法として拡大しつつある。膜分離法は、省エネルギーかつ省資源な方法として注目されている。
【0003】
膜分離法に使用される膜としては、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがある。これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などからの飲料水の製造および工業用超純水の製造、ならびに排水処理および有価物の回収などに用いられている。
【0004】
現在市販されている逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は複合半透膜である。複合半透膜としては、多孔性支持層上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、多孔性支持層と、多孔性支持層上でモノマーが重縮合することで形成された活性層と、を有するものとの2種類が挙げられる。後者の複合半透膜のなかでも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドを含有する分離機能層を有する複合半透膜が、透過性および選択分離性の高い分離膜として広く用いられている。
【0005】
ここで造水プラントなどの各種水処理において、前処理に添加している塩素は原則として膜と接触しないようオペレーション設計されているものの、オペレーションミスにより漏洩した塩素が膜と接触し、膜が酸化劣化するリスクが存在する。そこで塩素漏洩による膜劣化リスクを低減し、膜寿命を長期化する目的で、これら複合半透膜について耐塩素性向上に向けた検討が行われてきた。
【0006】
耐塩素性向上方法としては、分離機能層を形成するモノマー成分を改良する方法および分離機能層上に保護層を形成する方法が知られている。特許文献1には、分離機能層を形成する多官能アミンとしてm-フェニレンジアミン-4-スルホン酸ナトリウムを用いることが開示されており、特許文献2には、分離機能層を形成する多官能アミンとして、ヘキサフルオロアルコールを側鎖として有する化合物を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭63-137704公報
【文献】国際公開WO2020/096563号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した種々の提案では耐塩素性を有する膜もあるが、透水性および除去性との両立には限界があった。本発明の目的は、実用に耐える透水性と除去性を有し、塩素に接触後も高い除去性を有する複合半透膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の複合半透膜は、以下のいずれかの構成を備える。
[1]微多孔性支持層と、前記微多孔性支持層上に設けられた分離機能層を有する複合半透膜であって、
前記分離機能層がポリアミドを含有し、
前記ポリアミドが(1)で表される部分構造を有する、
複合半透膜。
【0010】
【0011】
[2]前記ポリアミドが架橋芳香族ポリアミドである、[1]に記載の複合半透膜。
[3]前記架橋芳香族ポリアミドが(2)で表される部分構造を有する、[2]に記載の複合半透膜。
【0012】
【0013】
(R1~R4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar1~Ar3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L1は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~8の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Xは架橋構造を含んでもよい任意の原子団である。)
[4]前記架橋芳香族ポリアミドが(3)で表される部分構造を有する、[2]または[3]に記載の複合半透膜。
【0014】
【0015】
(R1~R4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar1~Ar3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L2は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~6の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Xは架橋構造を含んでもよい任意の原子団である。)
[5] 前記構造のXが(4)で表される、[3]または[4]に記載の複合半透膜。
【0016】
【0017】
(R1~R4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar1~Ar3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L3は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~6の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Yは任意の原子団である。)
[6]前記構造(3)のL2および(4)のL3が単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~6の脂肪族鎖である、[4]または[5]のいずれかに記載の複合半透膜。
[7] 前記構造(3)のL2および(4)のL3が単結合である、[4]~[6]のいずれかに記載の複合半透膜。
[8] 前記複合半透膜において、pH3におけるゼータ電位が0mV以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の複合半透膜。
[9] 前記複合半透膜から抽出された分離機能層についての下記値xがx≦0.80を満足する、
請求項1~8のいずれかに記載の複合半透膜。
【0018】
x=z/y
y:相対湿度95%、温度25℃における質量
z:相対湿度0%、温度25℃における質量
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた分離性能と透水性能を有しつつ、さらに塩素に接触後も高い塩除去性を示す複合半透膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1の(a)、(b)は複合半透膜の構造を模式的に示した断面図であり、
図1の(a)は複合半透膜の断面模式図であり、
図1の(b)は分離機能層の拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.複合半透膜
本発明の実施形態に係る複合半透膜は、微多孔性支持層と、前記微多孔性支持層上に設けられた分離機能層とを有する複合半透膜である。
【0022】
本発明の実施の一形態として、複合半透膜1は、
図1(a)に示すように、微多孔性支持層3と、前記微多孔性支持層3上に設けられた分離機能層4とを有する。微多孔性支持層3は、基材2上に形成されていてもよい。
【0023】
(1-1)支持膜
図1(a)に示す形態では、複合半透膜1は基材2と微多孔性支持層3を備える。ただし、支持膜は基体を有さず、微多孔性支持層のみで構成されていてもよい。すなわち、微多孔性支持層が支持膜であってもよい。
【0024】
(1-2)基材
基材としては、例えば、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、あるいはこれらの混合物や共重合体等が挙げられる。中でも、機械的、熱的に安定性の高いポリエステル系重合体の布帛が特に好ましい。
【0025】
(1-3)微多孔性支持層
微多孔性支持層は、イオン等の分離性能を実質的に有さず、分離性能を実質的に有する分離機能層に強度を与えるためのものである。微多孔性支持層の孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような微多孔性支持層が好ましいが、使用する材料やその形状は特に限定されない。
【0026】
微多孔性支持層の素材には、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。中でもポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。より好ましくは酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、またはポリフェニレンスルホンが挙げられ、さらに、これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることからポリスルホンが一般的に使用できる。
【0027】
ポリスルホンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でN-メチルピロリドンを溶媒に、ポリスチレンを標準物質として測定した場合の質量平均分子量(Mw)が、10000以上200000以下であることが好ましく、より好ましくは15000以上100000以下である。Mwが10000以上であることで、微多孔性支持層として好ましい機械的強度および耐熱性を得ることができる。また、Mwが200000以下であることで、溶液の粘度が適切な範囲となり、良好な成形性を実現することができる。
【0028】
基材と微多孔性支持層の厚みは、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、基材と微多孔性支持層の厚みの合計が、30μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上220μm以下であるとより好ましい。また、微多孔性支持層の厚みは、20μm以上100μm以下であることが好ましい。なお、本書において、特に付記しない限り、厚みとは、平均値を意味する。ここで平均値とは相加平均値を表す。すなわち、基材と微多孔性支持層の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に20μm間隔で測定した、20点の厚みの平均値を算出することで求められる。
【0029】
(1-4)分離機能層
本発明の実施形態において分離機能層は、ポリアミドを含有する。特に、分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを主成分として含有することが好ましい。主成分とは分離機能層の成分のうち、50質量%以上を占める成分を指す。分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを50質量%以上含むことにより、高い除去性能を発現することができる。また、分離機能層は、実質的に、架橋芳香族ポリアミドのみで形成されることが好ましい。つまり、分離機能層の90質量%以上を架橋芳香族ポリアミドが占めることが好ましい。
【0030】
本発明の実施形態に係る分離機能層はポリアミドを含有し、ポリアミドは、下記一般式(1)で表される部分構造を有する。
【0031】
【0032】
一般式(1)で表される部分構造は、ポリアミドの末端アミノ基を置換した構造であることが好ましい。すなわち、ポリアミドが架橋芳香族ポリアミドである場合、下記一般式(2)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0033】
【0034】
(R1~R4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar1~Ar3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L1は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~8の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Xは架橋構造を含んでもよい任意の原子団である。)
ポリアミドのこのような構造は、末端アミノ基に比べてエネルギー準位が低下するため、耐酸化性が向上して塩素接触後も構造が変化しにくくなる。また、親水基であるチオエーテル結合を有するため、複合半透膜の透水性は実用に耐えうるものとなる。
【0035】
また、(2)のL1はアミド結合を含むことが好ましい。すなわち、ポリアミドが下記一般式(3)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0036】
【0037】
(R1~R4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar1~Ar3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L2は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~6の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Xは架橋構造を含んでもよい任意の原子団である。)
(3)のようにアミド結合により末端アミノ基が置換されることで、ポリアミドに親水性が付与され、(2)のL1がアミド結合を含まない場合と比較して透水性が向上する。
【0038】
さらに、複数の末端アミノ基を架橋した構造を有することがより好ましい。すなわち、一般式(2)あるいは(3)中のXが、下記一般式(4)で表される構造を有することがより好ましい。
【0039】
【0040】
(R1~R4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar1~Ar3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L3は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~6の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Yは任意の原子団である。)
このように、末端アミノ基同士が複数のチオエーテル結合により架橋した構造は、耐塩素性が強く、実用に耐えうる透水性を有するだけでなく、高い塩除去率を示すためより好ましい。
【0041】
前記一般式(2)のL1または(3)のL2、および(4)のL3は、同一構造でも互いに異なっていてもよく、単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~6の脂肪族鎖であることがさらに好ましい。単結合あるいは炭素数1~6の脂肪族鎖であると、構造の柔軟性により後述のアミノ基変換反応の効率が向上し、より耐塩素性に優れた膜が得られる。最も好ましいのは、L2およびL3が単結合の場合である。
【0042】
分離機能層のpH3におけるゼータ電位は、0mV以下であることが好ましく、-5mV以下であることがより好ましい。ゼータ電位とは、平板状試料表面の正味の固定電荷の尺度である。分離機能層に含まれる架橋芳香族ポリアミドは、末端官能基として主にアミノ基とカルボキシ基を有しており、これらの解離度はpHに依存する。pH3において、アミノ基は主に正に荷電し、カルボキシ基は主に中性である。すなわち、分離機能層のpH3におけるゼータ電位は、主にアミノ基の量に依存すると考えられる。分離機能層のpH3におけるゼータ電位が0mV以下であることで、塩素による劣化起点となるアミノ基の量が少ないため、優れた耐塩素性を有する複合半透膜が得られる。
【0043】
複合半透膜を構成する分離機能層は、高含水であることが好ましい。分離機能層が高含水であることで、分離機能層中に水のみを選択透過するパスが多く形成され、優れた分離性能を維持しつつ、透水性能に特に優れた複合半透膜が得られる。発明者らは鋭意検討した結果、分離機能層の含水率が0.20以上である場合に、良好な透水性能を示すことを見出した。ここで、含水率とは、複合半透膜から抽出した分離機能層を相対湿度95%、温度25℃の環境下に静置した際に、含水による質量の経時変化が無くなった時点での質量と、水分を完全に取り除いた分離機能層の質量の比から定義される値である。
【0044】
既知の複合半透膜では、除去性に富んだ膜は一般にポリアミド密度が高く、含水率が小さくなる傾向がある。この結果、除去性に富んだ膜は分離機能層中の水の選択透過パスの形成が不十分となり、透水性に劣るものとなる傾向がある。本発明の膜は、水の選択透過パスを形成した後に末端官能基の変換を行うため、透水性を確保したまま高い除去性能を示すという特徴がある。
【0045】
図1の(b)に示すように、分離機能層4は複数の凸部42と凹部43とを備えるひだ状の薄膜41を含むことが好ましい。分離機能層がひだ状の薄膜を有することで、平面構造と比較して分離機能層の比表面積を大幅に向上させることができる。その結果、分離性能を維持しつつ、分離機能層の表面積に比例して透過性能を向上させることができる。
図1の(c)に示すように、凸部42内部(薄膜41と微多孔性支持層3との間)は空隙である。
【0046】
また、上記薄膜の厚みTの平均値は10~20nmであることが好ましく、10~16nmであることがより好ましい。上記薄膜の厚みTの平均値が上記範囲内であることで、分離性能と透水性能とを両立した複合半透膜を得ることができる。
【0047】
分離対象物質が複合半透膜内部に浸透することを防ぐため、分離機能層は、複合半透膜の表面側に配置されていることが好ましく、且つ、ろ過一次側に配置されていることがより好ましい。ろ過一次側とは、ろ過操作において複合半透膜によって分断される液体のうち、ろ過原液側の液体に接触した膜面のことを指す。
【0048】
ポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。特に架橋芳香族ポリアミドは、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、アミン及び酸ハロゲン化物の少なくとも一方に分類される、少なくとも一種類のモノマーが3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0049】
本発明における分離機能層を、以下、ポリアミド分離機能層と記載することがある。
【0050】
多官能アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有するアミンを意味する。例えば、多官能アミンとしては、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン等の2個のアミノ基を有する多官能脂肪族アミン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、o-ジアミノピリジン、m-ジアミノピリジン、p-ジアミノピリジン等の2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係で芳香環に結合した多官能芳香族アミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミンなどの多官能芳香族アミンなどが挙げられる。特に、多官能アミンとして、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m-フェニレンジアミン(以下、m-PDAとも記す)を用いることがより好ましい。
【0051】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド、シクロヘキサン-1,3,5-トリカルボニルクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリド、シクロヘキサン-1,2-ジカルボニルクロリド、シクロヘキサン-1,3-ジカルボニルクロリド、シクロヘキサン-1,4-ジカルボニルクロリドなどを挙げることができる。多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能芳香族酸塩化物であることが好ましく、また、複合半透膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2~4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。
【0052】
2.複合半透膜の製造方法
次に、上記複合半透膜の製造方法について説明する。複合半透膜は、基材上に微多孔性支持層を形成する工程、および微多孔性支持層の上に分離機能層を形成する工程を含む。
【0053】
(2-1)微多孔性支持層の形成
基材および微多孔性支持層としては、ミリポア社製”ミリポアフィルターVSWP”(商品名)、および東洋濾紙社製”ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販膜から適切な膜を選択することもできる。
【0054】
また、”オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造することができる。その他、微多孔性支持層の形成方法として公知の方法が好適に使用される。
【0055】
(2-2)分離機能層の製造方法
次に複合半透膜を構成する分離機能層の形成工程を説明する。
【0056】
分離機能層の形成工程は、
(a)多官能アミンを含有する水溶液を微多孔性支持層上に接触させる工程と、
(b)多官能アミンを含有する水溶液を接触させた微多孔性支持層に多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液を接触させる工程と、
(c)多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液を接触させた微多孔性支持層を加熱する工程と、
(d)有機溶媒溶液を液切りした複合半透膜を洗浄する工程と、
(e)洗浄した複合半透膜を適切な溶媒に溶解させた薬品で処理し、上記(1)、(2)、(3)または(4)で表される部分構造をポリアミドに付与する工程
を有することが好ましい。
【0057】
微多孔性支持層、多官能アミン及び多官能酸ハロゲン化物としては、上述のものを挙げることができ、好ましいものも同様である。
【0058】
工程(a)において、多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下の範囲内である。多官能アミンの濃度がこの範囲であると十分な溶質除去性能および透水性を得ることができる。
【0059】
多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、支持膜表面の濡れ性を向上させ、多官能アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重縮合反応を効率よく行える場合がある。
【0060】
多官能アミン水溶液の接触は、微多孔性支持層上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液を微多孔性支持層にコーティングする方法や、微多孔性支持層を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。微多孔性支持層と多官能アミン水溶液との接触時間は、1秒以上10分間以下であることが好ましく、10秒以上3分間以下であるとさらに好ましい。
【0061】
多官能アミン水溶液を微多孔性支持層に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、微多孔性支持層形成後に液滴残存部分が膜欠点となって除去性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、特開平2-78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0062】
工程(b)において、有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物の濃度は、0.01質量%以上10質量%以下の範囲内であると好ましく、0.02質量%以上2.0質量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。0.01質量%以上とすることで十分な反応速度が得られ、また、10質量%以下とすることで副反応の発生を抑制することができるためである。さらに、この有機溶媒溶液にアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、さらに好ましい。
【0063】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し、支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカン、イソオクタンなどの炭化水素化合物が挙げられる。
【0064】
多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液の、多官能アミン化合物水溶液と接触させた微多孔性支持層への接触の方法は、多官能アミン水溶液の微多孔性支持層への被覆方法と同様に行えばよい。
【0065】
工程(c)において、多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を接触させた微多孔性支持層を加熱することが好ましい。加熱処理する温度としては、例えば、好ましくは50℃以上180℃以下、より好ましくは60℃以上160℃以下である。高密度なポリアミド機能層を得るためには、80℃以上160℃以下がさらに好ましい。加熱する時間は反応場である膜面の温度によって最適な時間が異なるが、10秒以上が好ましく、20秒以上がより好ましい。
【0066】
工程(d)において、有機溶媒を除去した複合半透膜を熱水で洗浄することが好ましい。熱水の温度は40~95℃が好ましく、60~95℃がより好ましい。熱水の温度が40℃以上であることで、膜中に残存する未反応物やオリゴマーを十分に除去することができる。一方、熱水の温度が95℃以下であることで、複合半透膜の収縮度が大きくならず、良好な透過性能を維持することができる。なお、熱水の温度の好ましい範囲は、用いる多官能アミンや多官能酸ハロゲン化物の種類や使用量によって適宜調整することができる。
【0067】
工程(e)において、上記一般式(1)、(2)、(3)または(4)で表される部分構造をポリアミドに付与する。その方法としては、ポリアミドのアミノ末端に、適切な縮合剤を用いて(あるいは直接)、以下(1)で表される部分構造を有する求電子性試薬を作用させる方法(方法A)が挙げられる。
これによって、一般式(2)で表される部分構造を含むポリアミドが得られる。
【0068】
あるいは、多段の反応により(1)で表される構造をポリアミドに付与してもよく、この場合反応試薬の構造中に(1)で表される構造を必ずしも含まなくてもよい(方法B)。方法Bの具体的手法としては、たとえばビニル基を有する求電子性試薬(試薬B1)をアミノ末端に作用させたのち、適切なラジカル開始剤の存在下でスルファニル基を有する試薬(試薬B2)をさらに作用させる手法が挙げられる。これにより、一般式(3)で表される部分構造を含むポリアミドが得られる。
【0069】
方法Aで用いる求電子性試薬(試薬A)の例として、3-スルファニルプロピオン酸、4-スルファニル酪酸、3-(メチルスルファニル)プロピオン酸、4-(メチルスルファニル)酪酸などが挙げられる。これらの試薬は、ナトリウム塩やカリウム塩など、塩の状態で使用してもよい。方法A、または方法Bの一段目で用いるのに好適な縮合剤として、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール、エチル(ヒドロキシイミノ)シアノアセタート、ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドなどを挙げることができる。
【0070】
方法Bの一段目の反応に用いる求電子性試薬(試薬B1)の例として、アクリル酸、3-ブテン酸、2-メチル-3-ブテン酸、4-ペンテン酸、5-ヘキセン酸、6-ヘプテン酸、7-オクテン酸、8-ノネン酸などのω-不飽和脂肪族カルボン酸や、4-ビニル安息香酸などの芳香族カルボン酸を挙げることができる。試薬B1はω-不飽和脂肪族カルボン酸であることが好ましく、アクリル酸であることがより好ましい。方法Bの二段目の反応に用いる、スルファニル基を有する試薬(試薬B2)の例として、メタンチオール、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、2-プロペン-1-チオール、チオ酢酸、2-アミノエタンチオール、チオグリコール、チオグリコール酸、チオフェノールなどのモノチオールや、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、1,2-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、ヘキサ(エチレングリコール)ジチオール、1,4-ブタンジオールビス(チオグリコラート)、1,3,5-ベンゼントリチオール、チオシアヌル酸、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオナート)、イソシアヌル酸トリス[2-(3-メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]、ジペンタエリトリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオナート)などの多官能チオールなどを挙げることができる。試薬B2は、多官能チオールであることが好ましく、これにより複数のアミノ基を架橋した、下記一般式(3’)のような構造を有することができる。
【0071】
【0072】
(R1~R4は水素原子であるかまたは炭素数が1~10の脂肪族鎖であり、Ar1~Ar3は置換基を有していてもよい炭素数6~14の芳香族環であり、L2は単結合あるいはヘテロ原子を含んでもよい原子数が1~6の脂肪族鎖あるいは芳香族環であり、Xは上記一般式(4)で表される構造である。)
3.複合半透膜の利用
本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの供給水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0073】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに供給水を供給するポンプや、その供給水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0074】
本発明に係る複合半透膜によって処理される供給水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L以上100g/L以下のTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「質量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5℃以上40.5℃以下の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【0075】
流体分離装置の操作圧力は高い方が溶質除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.5MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、低くなると膜透過流束が減少するので、5℃以上が好ましい。また、温度が高くなると溶質除去率が低下するので、28℃以下が好ましい。また、供給水pHが高くなると、海水などの高溶質濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【実施例】
【0076】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0077】
実施例、比較例における官能基・組成の解析、水の残存率は以下のように測定した。以下、特段の記述がない場合は、25℃で操作を行った。
【0078】
(ゼータ電位)
複合半透膜を10cm×10cm角に切り出し、蒸留水で洗浄した。洗浄後の複合半透膜を平板試料用セルにセットし、分離機能層を測定面として、電気泳動光散乱光度計(大塚電子製;ELS-8000)により測定し、分離機能層のpH3におけるゼータ電位を得た。測定箇所を無作為に5点選択し、それらの平均をゼータ電位(mV)とした。具体的な測定条件は以下の通りとした。
【0079】
モニター粒子:ポリスチレンラテックス(ヒドロキシプロピルセルロースコート)
測定液 : NaCl水溶液(10mM)
pH : 3
温度 : 25℃
光源 : He-Neレーザー
(重量平均分子量)
PSfの重量平均分子量(ポリスチレン換算)を、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー製;HLC-8022)を用いて測定した。具体的な測定条件は以下のとおりとした。
【0080】
カラム : TSK gel SuperHM-H(東ソー製;内径6.0mm、長さ15cm)2本
溶離液 : LiBr/N-メチルピロリドン溶液(10mM)
サンプル濃度:0.1質量%
流量 : 0.5mL/min
温度 : 40℃
(NaCl除去率)
複合半透膜に対し、NaCl濃度35,000ppm、ホウ素濃度5ppm、25℃、pH7に調製した評価水を操作圧力5.5MPaで供給して、膜ろ過試験を行なった。評価水及び透過水の電気伝導度をマルチ水質計(東亜ディーケーケー製;MM-60R)により測定し、それぞれのNaCl濃度(実用塩分)を得た。こうして得られたNaCl濃度から、下記式3に基づいて、NaCl除去率(%)を算出した。
【0081】
NaCl除去率(%)=100×{1-(透過水中のNaCl濃度/評価水中のNaCl濃度)} ・・・(式3)
(ホウ素除去率)
「NaCl除去率」の膜ろ過試験において、評価水及び透過水中のホウ素濃度をICP発光分析装置(アジレント・テクノロジー製;Agilent 5110)により測定し、下記式4に基づいて、ホウ素除去率(%)を算出した。
【0082】
ホウ素除去率(%)=100×{1-(透過水中のホウ素濃度/評価水中のホウ素濃度)} ・・・(式4)
(膜透過流束)
「NaCl除去率」の膜ろ過試験において、透過水量(m3)を測定し、単位膜面積(m2)及び単位時間(日)当たりの数値に換算し、膜透過流束(m3/m2/日)とした。
【0083】
(耐塩素性試験)
複合半透膜をpH7.0に調整した25mg/L次亜塩素酸ナトリウム水溶液に25℃雰囲気下、24時間浸漬した。その後1000mg/L亜硫酸水素ナトリウム水溶液に10分浸漬し、引き続いて水で十分に洗浄した。
【0084】
耐薬品性は浸漬前後での膜透過流束比、SP比とホウ素SP比から求めた。
【0085】
膜透過流束比=浸漬後の膜透過流束/浸漬前の膜透過流束
SP比=(100-浸漬後の塩除去率)/(100-浸漬前の塩除去率)
ホウ素SP比=(100-浸漬後のホウ素除去率)/(100-浸漬前のホウ素除去率)
(含水率の定量)
複合半透膜5m2から基材を物理的に剥離させ、微多孔性支持層と分離機能層を回収した。湿潤状態を保ったまま、ジクロロメタンの入ったビーカー内に少量ずつ加えて撹拌し、微多孔性支持層を構成するポリマーを溶解させた。ビーカー内の不溶物を濾紙で回収した。この不溶物をジクロロメタンの入ったビーカー内に入れ攪拌し、ビーカー内の不溶物を回収した。この作業をジクロロメタン溶液中に微多孔性支持層を形成するポリマーの溶出が検出できなくなるまで繰り返した。回収した分離機能層は真空乾燥機で乾燥させ、残存するジクロロメタンを除去した。得られた分離機能層は凍結粉砕によって粉末状の試料とし、相対湿度95%、温度25℃に制御されたグローブボックス中で質量を、安定するまで繰り返し測定した。質量の安定した値をyとした。さらに、分離機能層サンプルを110℃で真空乾燥し、乾燥後のサンプルを相対湿度0%、温度25℃に制御されたグローブボックスに静置した。分離機能層の質量を安定するまで繰り返し測定した。質量の安定した値をzとした。このとき、分離機能層の含水量を(y-z)/yにより求めた。
【0086】
実施例及び比較例で用いた複合半透膜の原料を、以下にまとめる。
【0087】
PSf(ソルベイスペシャルティポリマーズ製;Udel P-3500、Mw80000)
DMF(富士フイルム和光純薬製)
ポリエステル長繊維不織布(厚み90μm、密度0.42g/cm3)
m-PDA(富士フイルム和光純薬製)
TMC(富士フイルム和光純薬製)
デカン(富士フイルム和光純薬製)
亜硫酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)
アクリル酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)
2-メチル-3-ブテン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)
4-ビニル安息香酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)
4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(富士フイルム和光純薬製)
イソシアヌル酸トリス[2-(3-メルカプトプロピオニルオキシ)エチル](富士フイルム和光純薬製)
エタンチオール(富士フイルム和光純薬製)
2-ブロモエタンチオール(富士フイルム和光純薬製)
過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬製)
チオグリコール酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)
(支持膜の作製)
ポリエステル不織布(通気量2.0cc/cm2/sec)上にポリスルホン(PSf)の16.0質量%DMF溶液を200μmの厚みでキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって支持膜を作製した。
【0088】
(比較例1)
上述の操作により得られた多孔性支持膜をm-フェニレンジアミン(m-PDA)の3.0質量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド(TMC)0.165質量%を含む25℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置したのち、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去し、架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。その後、複合半透膜を80℃の熱水で2分洗浄した。最後に、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。
【0089】
(比較例2)
上述の操作で得られた支持膜を、多官能芳香族アミン溶液として、m-フェニレンジアミンの3.0質量%水溶液中に2分浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。45℃に制御した環境で、TMC0.2質量%を含む45℃のデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して10秒静置した後、120℃のオーブンで10分加熱し、その後、支持膜を垂直にして余分な溶液を液切りして取り除いた。こうして、支持膜上に架橋芳香族ポリアミドを含有する層を形成し、複合半透膜を得た。その後、複合半透膜を80℃の熱水で2分洗浄した。最後に、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。
【0090】
(実施例1)
比較例1で得られた複合半透膜に対して、25℃アクリル酸ナトリウム0.90質量%と4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド0.28質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布して24時間静置した後、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。さらに、70℃に調整した、イソシアヌル酸トリス[2-(3-メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]0.26質量%と過硫酸アンモニウム0.11質量%とチオグリコール酸ナトリウム0.17質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布し、25℃で1時間静置した。最後に、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。
【0091】
(実施例2)
比較例1で得られた複合半透膜に対して、25℃の2-メチル-3-ブテン酸ナトリウム1.22質量%と4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド0.28質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布して24時間静置した後、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。さらに、70℃に調整した、イソシアヌル酸トリス[2-(3-メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]0.26質量%と過硫酸アンモニウム0.11質量%とチオグリコール酸ナトリウム0.17質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布し、25℃で1時間静置した。最後に、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。
【0092】
(実施例3)
比較例1で得られた複合半透膜に対して、25℃の4-ビニル安息香酸ナトリウム1.70質量%と4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド0.28質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布して24時間静置した後、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。さらに、70℃に調整した、イソシアヌル酸トリス[2-(3-メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]0.26質量%と過硫酸アンモニウム0.11質量%とチオグリコール酸ナトリウム0.17質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布し、25℃で1時間静置した。最後に、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。
【0093】
(実施例4)
比較例1で得られた複合半透膜に対して、25℃のアクリル酸ナトリウム0.90質量%と4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド0.28質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布して24時間静置した後、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。さらに、70℃に調整した、エタンチオール0.09質量%と過硫酸アンモニウム0.11質量%とチオグリコール酸ナトリウム0.17質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布し、25℃で1時間静置した。最後に、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。
【0094】
(実施例5)
比較例1で得られた複合半透膜に対して、80℃の0.21質量%2-ブロモエタンチオール水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布して、25℃で24時間静置した後、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。
【0095】
(実施例6)
比較例2で得られた複合半透膜に対して、25℃アクリル酸ナトリウム0.90質量%と4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド0.28質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布して24時間静置した後、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。さらに、70℃に調整した、イソシアヌル酸トリス[2-(3-メルカプトプロピオニルオキシ)エチル]0.26質量%と過硫酸アンモニウム0.11質量%とチオグリコール酸ナトリウム0.17質量%の混合水溶液を表面が完全に濡れるようにして塗布し、25℃で1時間静置した。最後に、25℃の蒸留水に1時間浸漬した。
【0096】
以上の膜の構造および性能を表1および表2に示す。実施例に示すように、本発明の複合半透膜は、高い透水性能と除去性能を持ち、かつ高い耐塩素性を有することがわかる。
【0097】
【0098】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の複合半透膜は、海水、かん水、排水等の脱塩に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
1 複合半透膜
2 基材
3 微多孔性支持層
4 分離機能層
41 薄膜
42 凸部
43 凹部