(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-23
(45)【発行日】2025-07-01
(54)【発明の名称】缶容器
(51)【国際特許分類】
B65D 1/46 20060101AFI20250624BHJP
B65D 1/16 20060101ALI20250624BHJP
B21D 51/26 20060101ALN20250624BHJP
【FI】
B65D1/46
B65D1/16 111
B21D51/26 R
(21)【出願番号】P 2021562516
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041419
(87)【国際公開番号】W WO2021111798
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019218962
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 隼人
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-285832(JP,A)
【文献】特開平04-123825(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第3930937(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/46
B65D 1/16
B21D 51/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶容器であって、
缶胴と、缶底とを備え、
前記缶底は、
中央に缶軸
Oの方向に沿って前記缶容器の内側に向けて凹むドーム部を備えると共に、
前記ドーム部の外周囲に環状の支持部を形成するように、前記缶容器の外側に向けて突出する環状凸部を備え、
前記支持部から前記ドーム部の外周縁部に至る内周面は、前記ドーム部の外周縁部が前記内周面の最内部より前記缶軸
Oから離れる方向に位置するリセス部を有して
おり、
前記リセス部は、前記缶軸O上の縦断面視で、直線状のテーパ面を有し、
前記テーパ面と前記支持部に接する支持面との前記缶軸O側の傾斜角度が115°~125°であり、
前記支持面から前記内周面の最外部までの高さが2.6~4.0mmであり、前記内周面の最内部に接し前記缶軸Oと平行な仮想線をL1とし、前記最外部に接し前記缶軸Oと平行な仮想線をL2とした場合に、前記仮想線L1と前記仮想線L2間の距離(リセス部の深さ)が0.3mm~1.0mmであることを特徴とする缶容器。
【請求項2】
前記最内部に接し前記缶軸Oと平行な仮想線が、前記ドーム部の曲面に交わることを特徴とする請求項1記載の缶容器。
【請求項3】
前記内周面の最外部は、圧縮変形屈曲部であることを特徴とする請求項1又は2記載の缶容器。
【請求項4】
前記内周面にはロール成形痕が存在しないことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の缶容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料や食品等の内容物が充填・密封される缶容器としては、2ピース缶やボトル缶などが知られている。これらの缶容器は缶胴と缶底を少なくとも備えている。
【0003】
このような缶容器は、使用する原材料を削減するために、板厚を薄肉化して容器重量を軽量化することが進められており、板厚を薄肉化した場合であっても、容器として所定の耐圧強度を得るために、缶底の形状に必要な工夫がなされている。
【0004】
一般に耐圧強度を高めるための缶底形状としては、缶軸方向に沿う缶容器の内側に向けて缶底の中央部をドーム状に凹ませたドーム部を形成することと、そのドーム部の外周縁に支持部となる環状凸部を形成することがなされている。
【0005】
また、従来技術としては、耐圧強度を高めるために、前述したドーム部と環状凸部の形状を適宜設計することがなされており、例えば、環状凸部のうち、ドーム部に連なる内周壁に、缶軸方向に沿う縦断面視で、缶軸に直交する径方向の外側へ向けて凹む曲線状をなす第1凹曲面部を形成し、ドーム部に、缶軸上に位置するドームトップと、ドームトップの径方向外側に接続され、ドームトップよりも曲率半径が小さい凹曲線状をなす第2凹曲面部を形成し、ドーム部の外周縁部に、前述した第1凹曲面部と第2凹曲面部とを接続して第1曲面部と第2曲面部に接する直線状をなすテーパ部を形成したものが提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来技術によると、底部にドーム部と環状凸部の成形を行った後に、前述した環状凸部の内周壁にリフォーム成形を施すことで、前述した第1凹曲面部やテーパ部を形成しており、第1凹曲面部は、ロール成形することで、成形ツールの成形面で曲面を成形している。このような成形ロールによるリフォーム成形では、第1凹曲面部の曲面はロール成形が可能なある程度大きい曲率半径にならざるを得ず、環状凸部の内周面を缶軸に直交する径方向の外側に向けて凹ませる凹み量をより深くすることには限界が生じる。
【0008】
また、前述した従来技術では、第1凹曲面部をロール成形する際に、ロールがドーム部に干渉することを避ける必要があり、第1凹曲面部の曲率半径(R1)の中心とノーズ部(環状凸部における缶軸方向に沿う間の外側の端縁)との間の缶軸方向の距離(高さh)を高くすることに限界が生じる。
【0009】
このため、従来技術では、リフォーム成形を施したとしても、環状凸部の内周面を缶軸に直交する径方向の外側に向けてより深く凹ませることができず、また、第1凹曲面部の曲率半径の中心とノーズ部との間の缶軸方向の距離をより高くすることができないため、効果的な耐圧強度の改善が得られない問題があった。
【0010】
更に従来技術では、ロール成形によってより深く凹ませようとすると、缶の材料であるアルミニウム合金の酸化被膜が破壊されてしまい、内容物を缶内に充填した後に殺菌処理を施すと、ロール成形した箇所の表面に黒変が生じて、それが製品の美観を低下させる問題もあった。
【0011】
本発明は、このような事情に対処するために提案されたものである。すなわち、缶容器の底部の形状を更に改良することで、より高い耐圧強度が得られ、製品の美観を維持することができる缶容器を提供すること、などを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために、本発明による缶容器は、以下の構成を具備するものである。
缶容器であって、缶胴と、缶底とを備え、前記缶底は、中央に缶軸Oの方向に沿って前記缶容器の内側に向けて凹むドーム部を備えると共に、前記ドーム部の外周囲に環状の支持部を形成するように、前記缶容器の外側に向けて突出する環状凸部を備え、前記支持部から前記ドーム部の外周縁部に至る内周面は、前記ドーム部の外周縁部が前記内周面の最内部より前記缶軸Oから離れる方向に位置するリセス部を有しており、前記リセス部は、前記缶軸O上の縦断面視で、直線状のテーパ面を有し、前記テーパ面と前記支持部に接する支持面との前記缶軸O側の傾斜角度が115°~125°であり、前記支持面から前記内周面の最外部までの高さが2.6~4.0mmであり、前記内周面の最内部に接し前記缶軸Oと平行な仮想線をL1とし、前記最外部に接し前記缶軸Oと平行な仮想線をL2とした場合に、前記仮想線L1と前記仮想線L2間の距離(リセス部の深さ)が0.3mm~1.0mmであることを特徴とする缶容器。
【発明の効果】
【0013】
このような特徴を有する缶容器は、缶容器の底部の形状を改良することで、より高い耐圧強度が得られる缶容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る缶容器の要部縦断面図(缶軸上縦断面視)。
【
図2】環状凸部の拡大縦断面図(缶軸上縦断面視)。
【
図3】本発明の実施形態と従来技術の缶底耐圧強度の違いを示したグラフ。
【
図4】傾斜角度θを変えた場合の缶底耐圧強度測定値(リフォーム成形前ドーム深さ13.45mm)のグラフ。
【
図5】傾斜角度θを変えた場合の缶底耐圧強度測定値(リフォーム成形前ドーム深さ13.95mm)のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。また、
図1及び
図2の断面図は、板厚の記載を省略した線図で断面形状を示している。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る缶容器1は、缶胴1Aと缶底1Bを有しており、缶胴1Aと缶底1Bに関しては缶軸O周りに全周に渡って同一の形状を有している。ここで、缶底1Bは、ドーム部10と環状凸部20を備えており、図示の例では、環状凸部20の外側に外壁部30を備えている。
【0017】
ドーム部10は、缶底1Bの中央に設けられており、缶軸Oの方向に沿って缶容器1の内側に向けてドーム状に凹む形状の曲面を有している。ドーム部10の曲面は、図示の例では、中央部分の曲率半径R1の第1曲面11と、その周囲に、曲率半径R1より小さい曲率半径R2の第2曲面12とを有する例を示している。これに限らず、ドーム部10は単一の曲率半径の曲面であってもよい。
【0018】
環状凸部20は、ドーム部10の外周囲に環状の支持部21を形成するように、缶容器1の缶軸方向に沿った外側に向けて突出して形成されている。支持部21は、缶容器1を平面上に支持する部位であり、缶軸Oに直交する支持面21A上に形成される。
【0019】
缶底1Bにおいて、環状凸部20の支持部21からドーム部10の外周縁部10Aに至る内周面22は、内周面22が缶軸Oから離れる方向に傾斜してドーム部10の外周縁部10Aに繋がるリセス部22Aを有している。
【0020】
図2に示すように、環状凸部20の内周面22におけるリセス部22Aでは、ドーム部10の外周縁部10Aが内周面22の最内部22B(内周面22の最も缶軸Oに近い箇所)より缶軸Oから離れる方向に位置している。これにより、内周面22の最内部22Bに接し缶軸Oと平行な仮想線L1が、ドーム部10の曲面(例えば、第2曲面12)に交わるようになっている。
【0021】
また、より具体的な例では、内周面22におけるリセス部22Aは、缶軸O上の縦断面視で、直線状のテーパ面22Tを有している。このテーパ面22Tは、前述した支持部21に接する支持面21Aとの間に鈍角の傾斜角度θを形成している。この傾斜角度θは、テーパ面22Tと支持面21Aとの間の缶軸O側の角であり、その角度は、缶底1Bにおける高い耐圧強度を得るために、100°~125°に設定することが好ましい。
【0022】
内周面22におけるリセス部22Aは、前述したテーパ面22Tから最外部22C(内周面22の最も缶軸Oから離れた箇所)の凹みを経てドーム部10の外周縁部10Aに至っている。この最外部22Cは、前述した従来技術のようにロール成形で形成されるものではなく、缶軸方向の圧縮変形による屈曲部として形成されることで、最外部22Cの曲面の曲率半径は、従来技術における第1凹曲面部の曲率半径に比べて小さく(例えば、0.7mm以下)設定される。
【0023】
これにより、内周面22における最外部22Cは、内周面22における最内部22Bに対して、より深く缶軸Oから離れる方向に凹ませることができる。ここで、最外部22Cに接し缶軸Oと平行な仮想線をL2とすると、前述した仮想線L1と仮想線L2間の距離d(リセス部22Aの深さ)は、缶底1Bの高い耐圧強度を得るために、0.3mm~1.0mmに設定することが好ましい。
【0024】
そして、内周面22の最外部22Cが圧縮変形屈曲部である場合には、従来技術のようにロール成形によって曲面を形成する際に生じるロール成形痕が、内周面22には存在しない。このため、圧縮変形屈曲部として形成された最外部22Cを有する内周面22は、ロール成形痕(アルミニウム酸化膜破壊による黒変)による美観の低下を回避することができる。最外部22Cを圧縮変形屈曲部とした場合には、支持面21Aから最外部22Cまでの高さhが成形高さになる。この高さhは、缶底1Bの高い耐圧強度を得るために、2.0mm~4.0mmにすることが好ましい。
【0025】
このような缶底形状を有する本発明の実施形態は、前述した従来技術と比較して、高い缶底耐圧強度を有する。ここでの缶底耐圧強度は、缶底の凹形状が完全に反転するまでのバックリング強度を指している。缶底のドーム深さhsと接地直径ds(
図1参照)をhs=10.63mm,ds=45.5mmと定めて、本発明の実施形態(θ=115°,h=2.6mm)と従来技術における缶底耐圧強度を元板厚毎に比較すると、
図3に示すように、本発明の実施形態は従来技術と比較して1.2~1.5倍程度強度が高くなっている。
【0026】
前述したリセス部22Aは、缶底1Bにおいてドーム部10と環状凸部20の成形を行った後、圧縮変形を生じさせるリフォーム成形を行うことで形成される。
図4及び
図5は、このリフォーム成形前のドーム深さが、13.45mm及び13.95mmの2種類の底形状の缶(容量:350ml,接地直径φ49)を用いて、前述した傾斜角度θを変えてリフォーム成形を施した場合の缶底耐圧強度の違いをそれぞれ示している。図中の括弧内の値は、傾斜角度θを変えた場合の
図2に示す高さh(支持面21Aから最外部22Cまでの成形高さ)の値を示している。
【0027】
傾斜角度θが100°~125°の範囲では、所望の缶底耐圧強度を得ることができる。缶底のドーム深さhsは大きいほど缶底耐圧強度も高くなるが、ドーム深さhsを大きくすると、必然的にある範囲から内容物を充填するのに必要な缶内容積の確保が難しくなる。また、傾斜角度θは、ある範囲では大きいほど缶底耐圧強度は高くなるが、ある範囲を超えると、変形モードが変わってドーム部10のみが反転することになり、逆に缶底耐圧強度は低下することになる。
【0028】
前述した缶底耐圧強度は、水圧式バックリングテスターを用い、缶底については固定しない倒立状態で、缶容器の缶胴の缶軸方向の中央部付近の缶容器の内側をシールし、水を注入することで水圧により昇圧スピード30kPa/sで缶容器内部の気圧を上昇させ、缶底の凹形状が反転する最低の缶内圧として測定した。
【0029】
缶底耐圧強度は、容器の種類、内容物の液種、殺菌条件等によって要求される数値が異なるが、例えば、一部の炭酸飲料を充填する場合は、高い耐圧強度が要求されるが、その場合であっても690kPaの耐圧強度を有していれば十分であると判断される。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1:缶容器,1A:缶胴,1B:缶底,
10:ドーム部,10A:外周縁部,11:第1曲面,12:第2曲面,
20:環状凸部,21:支持部,21A:支持面,
22:内周面,22A:リセス部,22B:最内部,22C:最外部,
22T:テーパ面,O:缶軸,θ:傾斜角度