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特許7700876熱延鋼板、電縫鋼管および角形鋼管ならびにラインパイプおよび建築構造物
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  • 特許-熱延鋼板、電縫鋼管および角形鋼管ならびにラインパイプおよび建築構造物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-23
(45)【発行日】2025-07-01
(54)【発明の名称】熱延鋼板、電縫鋼管および角形鋼管ならびにラインパイプおよび建築構造物
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250624BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20250624BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20250624BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20250624BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20250624BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20250624BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/00 301Z
C22C38/06
C22C38/58
C21D8/02 B
B21B3/00 A
B21B1/22 M
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023566644
(86)(22)【出願日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2023027298
(87)【国際公開番号】W WO2024100939
(87)【国際公開日】2024-05-16
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2022178662
(32)【優先日】2022-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃英
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直道
(72)【発明者】
【氏名】井手 信介
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/100534(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/075026(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0073343(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/06
C22C 38/58
C21D 8/02
B21B 3/00
B21B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成は、質量%で、
C :0.030%以上0.300%以下、
Si:0.010%以上0.500%以下、
Mn:0.30%以上2.50%以下、
P :0.050%以下、
S :0.0200%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下、
N :0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
板厚中央の鋼組織は、
体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、
残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、
平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
下記(1)式で求められるCPの値が0.090以下であり、
引張強度が400MPa以上であり、
降伏比が90%以下である、熱延鋼板。
CP=(粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ)/(大角粒界の総長さ) ・・・(1)
【請求項2】
前記成分組成に加えてさらに、質量%で、
Nb:0.100%以下、
V :0.100%以下、
Ti:0.150%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Ca:0.0050%以下、
B :0.0050%以下、
Mg:0.020%以下、
Zr:0.020%以下、
REM:0.020%以下、
のうちから選ばれた1種または2種以上を含む、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
8.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.70以下である、請求項1または2に記載の熱延鋼板。
【請求項4】
母材部と電縫溶接部を有する電縫鋼管であって、
成分組成は、質量%で、
C :0.030%以上0.300%以下、
Si:0.010%以上0.500%以下、
Mn:0.30%以上2.50%以下、
P :0.050%以下、
S :0.0200%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下、
N :0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
肉厚中央の鋼組織は、
体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、
残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、
平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
下記(1)式で求められるCPの値が0.090以下であり、
母材部の引張強度が400MPa以上であり、
母材部の降伏比が97%以下である、電縫鋼管。
CP=(粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ)/(大角粒界の総長さ) ・・・(1)
【請求項5】
前記成分組成に加えてさらに、質量%で、
Nb:0.100%以下、
V :0.100%以下、
Ti:0.150%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Ca:0.0050%以下、
B :0.0050%以下、
Mg:0.020%以下、
Zr:0.020%以下、
REM:0.020%以下、
のうちから選ばれた1種または2種以上を含む、請求項4に記載の電縫鋼管。
【請求項6】
母材部において4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.60以下である、請求項4または5に記載の電縫鋼管。
【請求項7】
請求項4または5に記載の電縫鋼管が使用されている、ラインパイプ。
【請求項8】
請求項6に記載の電縫鋼管が使用されている、ラインパイプ。
【請求項9】
平板部と角部を有する角形鋼管であって、
成分組成は、質量%で、
C :0.030%以上0.300%以下、
Si:0.010%以上0.500%以下、
Mn:0.30%以上2.50%以下、
P :0.050%以下、
S :0.0200%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下、
N :0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
肉厚中央の鋼組織は、
体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、
残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、
平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
下記(1)式で求められるCPの値が0.090以下であり、
平板部の引張強度が400MPa以上であり、
平板部の降伏比が97%以下である、角形鋼管。
CP=(粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ)/(大角粒界の総長さ) ・・・(1)
【請求項10】
前記成分組成に加えてさらに、質量%で、
Nb:0.100%以下、
V :0.100%以下、
Ti:0.150%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Ca:0.0050%以下、
B :0.0050%以下、
Mg:0.020%以下、
Zr:0.020%以下、
REM:0.020%以下、
のうちから選ばれた1種または2種以上を含む、請求項9に記載の角形鋼管。
【請求項11】
平板部において4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.60以下である、請求項9または10に記載の角形鋼管。
【請求項12】
請求項9または10に記載の角形鋼管が、柱材として使用されている、建築構造物。
【請求項13】
請求項11に記載の角形鋼管が、柱材として使用されている、建築構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫鋼管および角形鋼管、ならびにそれらの素材として用いられる熱延鋼板、ならびにそれらを用いたラインパイプおよび建築構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
ラインパイプや建築構造物に用いられる電縫鋼管およびロール成形角形鋼管には、内部を流れる流体の内圧や、外部からの荷重に耐えるために、高い強度を備えることが求められる。同時に、耐震性の観点から高い耐座屈性能を備えることも求められる。
【0003】
電縫鋼管、およびロール成形角形鋼管(以下、「角形鋼管」と称する場合もある)は、熱延鋼板(熱延鋼帯)を素材とする。これを冷間でロール成形することによって円筒状のオープン管とし、突合せ部を電縫溶接(電気抵抗溶接と称する場合もある。)することで丸型の鋼管とする。電縫鋼管は、この丸型の鋼管の外側に配置された成形ロールによって外径および真円度が調整され、製造される。角形鋼管は、この丸型の鋼管を目的の多角形形状の孔形を有するロールによってさらに角形にロール成形することにより製造される。このロール成形による角形鋼管の製造方法は、プレス曲げ成形による鋼管の製造方法と比較して生産性が高いという利点がある。しかし、ロール成形の際には管軸方向に大きな引張ひずみが付与されるため、電縫鋼管およびロール成形角形鋼管は管軸方向の延性が低く、耐座屈性能が低いという問題がある。また、ロール成形を施す素材には、ロール成形による延性の低下を考慮して適切な熱延鋼板(熱延鋼帯)を選択することが要求される。
【0004】
さらに、電縫鋼管およびロール成形角形鋼管は肉厚が大きいほどロール成形時の加工ひずみが大きくなるため、延性はより低下し、耐座屈性能はより低下する。
【0005】
このような要求に対し、例えば、特許文献1には、重量でC:0.04~0.25%、N:0.0050~0.0150%およびTi:0.003~0.050%を含有し、かつ所定の式で求められる炭素当量(Ceq.)が0.10~0.45%の鋼であって、かつパーライト相が面積分率で5~20%の範囲にあり、さらに鋼中に粒径の平均が1~30μmのTiNが重量で0.0008~0.015%の割合で分散させた、冷間加工後の一様伸びに優れる高強度熱延鋼板が開示されている。
【0006】
特許文献2には、質量%で、C:0.07~0.18%、Mn:0.3~1.5%、P:0.03%以下、S:0.015%以下、Al:0.01~0.06%、N:0.006%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライトを主相とし、第二相として、パーライト、または、パーライトおよびベイナイトを有し、所定の式で定義される第二相頻度が0.20~0.42であり、主相と第二相とを含む平均結晶粒径が7~15μmである組織を有する、低降伏比の建築構造部材向け角形鋼管用厚肉熱延鋼板が開示されている。
【0007】
特許文献3には、造管後の焼戻しにより、成形過程で導入された転位が炭素原子クラスター、微細炭化物、及びNb炭化物によりピンニングされていることを特徴とする、低降伏比のラインパイプ用電縫鋼管が開示されている。
【0008】
特許文献4には、フェライトを主相とし、第二相頻度が0.05~0.15であり、かつ、第二相面積率が3~15%であり、鋼板の1/4厚における主相と第二相の平均結晶粒径が10~25μmであることを特徴とする熱延鋼板を素材とした、低降伏比の角形鋼管が開示されている。
【0009】
特許文献5には、熱間成形により製造され、高い変形性能と靭性を有することを特徴とした角形鋼管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平7-224351号公報
【文献】特許第5589885号公報
【文献】特許第6052374号公報
【文献】特許第7031477号公報
【文献】特開2004-330222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これらの技術は引張変形時の特性、すなわち引張部のくびれや破断の抑制に関して検討されたものであり、電縫鋼管および角形鋼管の曲げ変形や圧縮変形における局部座屈に関する検討は十分にはなされていなかった。
【0012】
また、特許文献3および5のように、造管後に熱処理を施した鋼管や、熱間成形により製造した鋼管は、降伏伸びが大きいため、不均一変形が生じやすく、耐座屈性能を十分に発揮できなかった。
【0013】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、耐座屈性能に優れた電縫鋼管および角形鋼管、ならびにそれらの素材として用いられる熱延鋼板を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記電縫鋼管および角形鋼管を用いたラインパイプおよび建築構造物を提供することを目的とする。
【0014】
ここで、本発明でいう「耐座屈性能に優れる」とは、軸圧縮試験における耐力上昇率τ(=σmax/σy)が、電縫鋼管においてはτ≧4.0×(t/D)+0.85を、角形鋼管においてはτ≧3.0×(t/B)+0.85をそれぞれ満足することを指す。ただし、tは電縫鋼管または角形鋼管の肉厚(mm)、Dは電縫鋼管の外径(mm)、Bは角形鋼管の辺長(mm)、σyは電縫鋼管の母材部または角形鋼管の平板部の降伏応力(N/mm(=MPa))、σmaxは軸圧縮試験における最大応力度(N/mm)をそれぞれ表す。ただし、角形鋼管の断面形状が、異なる辺長の多角形である場合は、各辺長の平均値を、角形鋼管の辺長Bとする。なお、本発明では、上記素材の熱延鋼板には熱延鋼帯を含むものとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、冷間成形電縫鋼管および冷間成形角形鋼管を低降伏比とし、かつ、変形時の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差を小さくすることで、それらの耐座屈性能を向上させることができることを見出した。すなわち、前記対数標準偏差が小さいほど、変形時の塑性ひずみのばらつきが小さく、塑性ひずみが均一に分布し、特定の部分にひずみが集中し難いため、局部座屈が生じにくいことを知見した。また、前記電縫鋼管および角形鋼管は、変形時の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が小さい熱延鋼板を素材とすることで得られることも知見した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、下記の要旨からなる。
[1] 成分組成は、質量%で、
C :0.030%以上0.300%以下、
Si:0.010%以上0.500%以下、
Mn:0.30%以上2.50%以下、
P :0.050%以下、
S :0.0200%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下、
N :0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
板厚中央の鋼組織は、
体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、
残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、
平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
下記(1)式で求められるCPの値が0.090以下であり、
引張強度が400MPa以上であり、
降伏比が90%以下である、熱延鋼板。
CP=(粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ)/(大角粒界の総長さ) ・・・(1)
[2] 前記成分組成に加えてさらに、質量%で、
Nb:0.100%以下、
V :0.100%以下、
Ti:0.150%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Ca:0.0050%以下、
B :0.0050%以下、
Mg:0.020%以下、
Zr:0.020%以下、
REM:0.020%以下、
のうちから選ばれた1種または2種以上を含む、[1]に記載の熱延鋼板。
[3] 8.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.70以下である、[1]または[2]に記載の熱延鋼板。
[4] 母材部と電縫溶接部を有する電縫鋼管であって、
成分組成は、質量%で、
C :0.030%以上0.300%以下、
Si:0.010%以上0.500%以下、
Mn:0.30%以上2.50%以下、
P :0.050%以下、
S :0.0200%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下、
N :0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
肉厚中央の鋼組織は、
体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、
残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、
平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
下記(1)式で求められるCPの値が0.090以下であり、
母材部の引張強度が400MPa以上であり、
母材部の降伏比が97%以下である、電縫鋼管。
CP=(粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ)/(大角粒界の総長さ) ・・・(1)
[5] 前記成分組成に加えてさらに、質量%で、
Nb:0.100%以下、
V :0.100%以下、
Ti:0.150%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Ca:0.0050%以下、
B :0.0050%以下、
Mg:0.020%以下、
Zr:0.020%以下、
REM:0.020%以下、
のうちから選ばれた1種または2種以上を含む、[4]に記載の電縫鋼管。
[6] 母材部において4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.60以下である、[4]または[5]に記載の電縫鋼管。
[7] [4]または[5]に記載の電縫鋼管が使用されている、ラインパイプ。
[8] [6]に記載の電縫鋼管が使用されている、ラインパイプ。
[9] 平板部と角部を有する角形鋼管であって、
成分組成は、質量%で、
C :0.030%以上0.300%以下、
Si:0.010%以上0.500%以下、
Mn:0.30%以上2.50%以下、
P :0.050%以下、
S :0.0200%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下、
N :0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
肉厚中央の鋼組織は、
体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、
残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、
平均結晶粒径が15.0μm以下であり、
下記(1)式で求められるCPの値が0.090以下であり、
平板部の引張強度が400MPa以上であり、
平板部の降伏比が97%以下である、角形鋼管。
CP=(粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ)/(大角粒界の総長さ) ・・・(1)
[10] 前記成分組成に加えてさらに、質量%で、
Nb:0.100%以下、
V :0.100%以下、
Ti:0.150%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Ca:0.0050%以下、
B :0.0050%以下、
Mg:0.020%以下、
Zr:0.020%以下、
REM:0.020%以下、
のうちから選ばれた1種または2種以上を含む、[9]に記載の角形鋼管。
[11] 平板部において4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.60以下である、[9]または[10]に記載の角形鋼管。
[12] [9]または[10]に記載の角形鋼管が、柱材として使用されている、建築構造物。
[13] [11]に記載の角形鋼管が、柱材として使用されている、建築構造物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐座屈性能に優れた電縫鋼管および角形鋼管、ならびにそれらの素材として用いられる熱延鋼板を提供することができる。
また、本発明によれば、前記電縫鋼管および角形鋼管を用いたラインパイプおよび建築構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、相当塑性ひずみ分布の測定に用いた引張試験片の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の熱延鋼板は、質量%で、C:0.030%以上0.300%以下、Si:0.010%以上0.500%以下、Mn:0.30%以上2.50%以下、P:0.050%以下、S:0.0200%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する。板厚中央の鋼組織は、体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、平均結晶粒径が15.0μm以下であり、下記(1)式で求められるCPの値が0.090以下である。また、引張強度が400MPa以上であり、降伏比が90%以下である。また、8.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が好ましくは0.70以下である。
CP=(粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ)/(大角粒界の総長さ) ・・・(1)
【0020】
本発明の電縫鋼管は、母材部と電縫溶接部を有し、質量%で、C:0.030%以上0.300%以下、Si:0.010%以上0.500%以下、Mn:0.30%以上2.50%以下、P:0.050%以下、S:0.0200%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する。肉厚中央の鋼組織は、体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、平均結晶粒径が15.0μm以下であり、上述の(1)式で求められるCPの値が0.090以下である。また、母材部の引張強度が400MPa以上であり、母材部の降伏比が97%以下である。また、母材部において4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が好ましくは0.60以下である。
【0021】
本発明の角形鋼管は、平板部と角部を有し、質量%で、C:0.030%以上0.300%以下、Si:0.010%以上0.500%以下、Mn:0.30%以上2.50%以下、P:0.050%以下、S:0.0200%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する。肉厚中央の鋼組織は、体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、平均結晶粒径が15.0μm以下であり、上述の(1)式で求められるCPの値が0.090以下である。また、平板部の引張強度が400MPa以上であり、平板部の降伏比が97%以下である。また、平板部において4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が好ましくは0.60以下である。
【0022】
まず、本発明において、熱延鋼板、電縫鋼管および角形鋼管の成分組成を限定した理由を以下に説明する。本明細書において、特に断りがない限り、各成分の含有量を示す「%」は、「質量%」を意味する。
【0023】
C:0.030%以上0.300%以下
Cは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。また、Cは、パーライトの生成を促進し、かつ焼入れ性を高めてマルテンサイトの生成に寄与し、かつオーステナイトの安定化に寄与することから、硬質相の形成にも寄与する元素である。本発明で目的とする強度を確保するため、Cは0.030%以上含有することを必要とする。しかし、C含有量が0.300%を超えると、硬質相の割合が高くなり本発明で目的とする降伏比が得られない。さらに、引張ひずみ付与時の変形中のひずみ分布が不均一となり、本発明で目的とする、好適な相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が得られない。このため、C含有量は0.030%以上0.300%以下とする。C含有量は、好ましくは0.035%以上であり、より好ましくは0.040%以上である。また、C含有量は、好ましくは0.250%以下であり、より好ましくは0.200%以下である。
【0024】
Si:0.010%以上0.500%以下
Siは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。このような効果を得るためには、Siは0.010%以上含有することが望ましい。しかし、Si含有量が0.500%を超えると硬質相の割合が高くなり本発明で目的とする降伏比が得られない。さらに、引張ひずみ付与時の変形中のひずみ分布が不均一となり、本発明で目的とする、好適な相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が得られない。このため、Si含有量は0.500%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.020%以上であり、より好ましくは0.030%以上である。また、Si含有量は、好ましくは0.400%以下であり、より好ましくは0.300%以下である。
【0025】
Mn:0.30%以上2.50%以下
Mnは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。また、Mnは、変態開始温度を低下させることで組織の微細化に寄与する元素である。本発明で目的とする強度および組織を確保するためには、Mnは0.30%以上含有することを必要とする。しかし、Mn含有量が2.50%を超えると本発明で目的とする降伏比が得られない。さらに、引張ひずみ付与時の変形中のひずみ分布が不均一となり、本発明で目的とする、好適な相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が得られない。このため、Mn含有量は0.30%以上2.50%以下とする。Mn含有量は、好ましくは0.40%以上であり、より好ましくは0.50%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは2.30%以下であり、より好ましくは2.10%以下である。
【0026】
P:0.050%以下
Pは、粒界に偏析し材料の不均質を招くため、不可避的不純物としてできるだけ低減することが好ましいが、0.050%以下の含有量までは許容できる。このため、P含有量は0.050%以下とする。P含有量は、好ましくは0.040%以下であり、より好ましくは0.030%以下である。なお、特にP含有量の下限は規定しないが、過度の低減は製錬コストの高騰を招くため、P含有量は0.002%以上とすることが好ましい。
【0027】
S:0.0200%以下
Sは、鋼中では通常、MnSとして存在するが、MnSは、熱間圧延工程で薄く延伸され、延性および靭性に悪影響を及ぼす。このため、本発明ではSをできるだけ低減することが好ましいが、0.0200%以下の含有量までは許容できる。このため、S含有量は0.0200%以下とする。S含有量は、好ましくは0.0150%以下であり、より好ましくは0.0100%以下である。なお、特にS含有量の下限は規定しないが、過度の低減は製錬コストの高騰を招くため、S含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。
【0028】
Al:0.005%以上0.100%以下
Alは、溶鋼に対して添加すると強力な脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには、Alは0.005%以上含有することを必要とする。しかし、Al含有量が0.100%を超えると溶接性が悪化するとともに、アルミナ系介在物が多くなり、表面性状が悪化する。このため、Al含有量は0.005%以上0.100%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。また、Al含有量は、好ましくは0.080%以下であり、より好ましくは0.060%以下である。
【0029】
N:0.0100%以下
Nは、不可避的不純物であり、転位の運動を強固に固着することで降伏比を上昇させる作用を有する元素である。本発明では、Nは不純物としてできるだけ低減することが望ましいが、Nの含有量は0.0100%までは許容できる。このため、N含有量は0.0100%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0090%以下であり、より好ましくは0.0080%以下である。なお、過度の低減は製錬コストの高騰を招くため、N含有量は0.0010%以上とすることが好ましく、0.0015%以上とすることがより好ましい。
【0030】
残部はFeおよび不可避的不純物とすることができる。残部における不可避的不純物としては、例えば、Sn、As、Sb、Bi、Co、Pb、Zn、Oが挙げられる。ただし、本発明の効果を損なわない範囲においては、Snを0.1%以下、As、SbおよびCoをそれぞれ0.05%以下、Bi、Pb、ZnおよびOをそれぞれ0.005%以下含有することを拒むものではない。
【0031】
上記の成分が本発明における熱延鋼板、電縫鋼管および角形鋼管の基本の成分組成である。上記した必須元素で本発明で目的とする特性は得られるが、必要に応じて下記の元素を下記含有量の範囲で含有することができる。
【0032】
Nb:0.100%以下、V:0.100%以下、Ti:0.150%以下、Cr:0.50%以下、Mo:0.50%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、Ca:0.0050%以下、B:0.0050%以下、Mg:0.020%以下、Zr:0.020%以下、REM:0.020%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
【0033】
Nb:0.100%以下、V:0.100%以下、Ti:0.150%以下
Nb、Ti、Vは、いずれも鋼中で微細な炭化物、窒化物を形成し、析出物による強化を通じて鋼の強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有することができる。Nb、Ti、Vの含有量はそれぞれ0%でもよいが、Nb、Ti、Vを含有する場合には、好ましい含有量はそれぞれNb:0.001%以上、Ti:0.001%以上、V:0.001%以上である。より好ましい含有量はそれぞれ、Nb:0.008%以上、V:0.008%以上、Ti:0.008%以上である。一方、過度の含有は、降伏比の上昇、および相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差の増加を招く恐れがある。よって、Nb、Ti、Vを含有する場合には、それぞれNb:0.100%以下、V:0.100%以下、Ti:0.150%以下とすることが好ましい。より好ましい含有量はそれぞれ、Nb:0.070%以下、V:0.070%以下、Ti:0.110%以下である。なお、Nb、Ti、Vのうちから選ばれた2種以上を含有する場合、降伏比の上昇、および相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差の増加を招く恐れがあるため、合計量(Nb+Ti+Vの合計含有量)を0.150%以下とすることが好ましい。
【0034】
Cr:0.50%以下、Mo:0.50%以下
Cr、Moはそれぞれ、鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を上昇させる元素であり、必要に応じて含有することができる。Cr、Moの含有量はそれぞれ0%でもよいが、Cr、Moを含有する場合には、好ましい含有量はそれぞれCr:0.01%以上、Mo:0.01%以上である。より好ましい含有量はそれぞれ、Cr:0.10%以上、Mo:0.10%以上である。一方、過度の含有は、降伏比の上昇、および相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差の増加を招く恐れがある。よって、Cr、Moを含有する場合には、それぞれCr:0.50%以下、Mo:0.50%以下とすることが好ましい。より好ましい含有量はそれぞれ、Cr:0.30%以下、Mo:0.30%以下である。
【0035】
Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下
Cu、Niはそれぞれ、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素であり、必要に応じて含有することができる。Cu、Niの含有量はそれぞれ0%でもよいが、Cu、Niを含有する場合には、好ましい含有量はそれぞれCu:0.01%以上、Ni:0.01%以上である。より好ましい含有量はそれぞれ、Cu:0.10%以上、Ni:0.10%以上である。一方、過度の含有は、降伏比の上昇、および相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差の増加を招く恐れがある。よって、Cu、Niを含有する場合には、それぞれCu:0.50%以下、Ni:0.50%以下とすることが好ましい。より好ましい含有量はそれぞれ、Cu:0.35%以下、Ni:0.35%以下である。
【0036】
Ca:0.0050%以下
Caは、熱間圧延工程で薄く延伸されるMnS等の硫化物を、球状化することで鋼の延性および靭性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有することができる。Caの含有量は0%でもよいが、Caを含有する場合には、好ましい含有量は0.0002%以上である。より好ましい含有量は、Ca:0.0010%以上である。しかし、Ca含有量が0.0050%を超えると、鋼中にCa酸化物クラスターが形成され、延性および靭性が悪化する場合がある。このため、Caを含有する場合は、Ca含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。より好ましい含有量は、Ca:0.0040%以下である。
【0037】
B:0.0050%以下
Bは、フェライト変態開始温度を低下させることで組織の微細化に寄与する元素である。Bの含有量は0%でもよいが、Bを含有する場合には、好ましい含有量は0.0001%以上である。より好ましい含有量は、B:0.0005%以上である。しかし、B含有量が0.0050%を超えると、降伏比の上昇、および相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差の増加を招く恐れがある。このため、Bを含有する場合は、B含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。より好ましい含有量は、B:0.0040%以下である。
【0038】
Mg:0.020%以下、Zr:0.020%以下、REM:0.020%以下
Mg、Zr、およびREMはそれぞれ、結晶粒微細化を通じて鋼の強度を上昇させる元素であり、必要に応じて含有することができる。Mg、Zr、およびREMの含有量はそれぞれ0%でもよいが、Mg、Zr、およびREMを含有する場合には、好ましい含有量はそれぞれMg:0.0005%以上、Zr:0.0005%以上、REM:0.0005%以上である。一方、過度の含有は、降伏比の上昇、および相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差の増加を招く恐れがある。よって、Mg、Zr、およびREMを含有する場合には、それぞれMg:0.020%以下、Zr:0.020%以下、REM:0.020%以下とすることが好ましい。より好ましい含有量はそれぞれ、Mg:0.010%以下、Zr:0.010%以下、REM:0.010%以下である。なお、ここで、REMは、Sc、Y、およびランタノイド元素の合計17元素の総称である。これらの17元素のうちの1種以上を鋼に含有させることができ、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0039】
次に、本発明における熱延鋼板、電縫鋼管および角形鋼管の鋼組織を限定した理由を説明する。また、後述の限定した鋼組織は、板厚中央または肉厚中央の鋼組織であり、板厚1/2t位置に存在していることを指す。なお、本発明において板厚1/2t位置とは、板厚方向における板厚tの1/2(中間)の位置を意味する。
【0040】
フェライトとベイナイトの合計の体積率:70%以上98%以下
フェライトおよびベイナイトは軟質な組織であり、他の硬質な組織と混合させることで、降伏比を低くすることができる。このような効果により本発明で目的とする低降伏比を得るためには、フェライトとベイナイトの合計の体積率は70%以上とする必要がある。フェライトとベイナイトの合計の体積率は、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上である。しかし、フェライトとベイナイトの合計の体積率が98%を超えると、本発明で目的とする引張強度が得られないため、フェライトとベイナイトの合計の体積率は98%以下とする必要がある。フェライトとベイナイトの合計の体積率は、好ましくは97%以下であり、より好ましくは95%以下である。
【0041】
残部:パーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上
パーライト、マルテンサイト、およびオーステナイトは硬質な組織であり、特に鋼の強度を上昇させるとともに、軟質なフェライトと混合させることで低降伏比を実現できる。このような効果を得るためには、フェライトおよびベイナイト以外の残部を、パーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上とする。パーライト、マルテンサイト、およびオーステナイトは、各体積率の合計で2%以上30%以下である。前記体積率の合計は、好ましくは3%以上であり、より好ましくは5%以上である。また、前記体積率の合計は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下である。
【0042】
なお、フェライト、ベイナイト、パーライト、マルテンサイト、およびオーステナイトの体積率は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0043】
平均結晶粒径:15.0μm以下
結晶粒の平均結晶粒径が15.0μm超の場合、本発明で目的とする引張強度が得られない。また、本発明で目的とする、好適な相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が得られない。これは、平均結晶粒径が大きいと粗大粒同士の連結度が高くなることから、変形時に粗大粒に発生したひずみが互いに連結し、変形の進行とともにひずみの分布がより不均一になるためである。このため、結晶粒の平均結晶粒径は15.0μm以下とする。結晶粒の平均結晶粒径は、好ましくは13.0μm以下とし、より好ましくは10.0μm以下とする。なお平均結晶粒径が小さいと降伏比が高くなるため、平均結晶粒径は2.0μm以上が好ましい。平均結晶粒径は、より好ましくは3.0μm以上である。
【0044】
CP値:0.090以下
CP値は、粒径20μm以上の粗大粒同士の連結度を表す数値であり、下記(1)式によって求められる。CP値が大きいほど、粗大結晶粒間の粒界の割合が高くなるため、粗大粒同士がより連結した状態となる。CP値が0.090を超えると、変形時に粗大粒に発生したひずみが互いに連結し、変形の進行とともにひずみの分布がより不均一になるため、本発明で目的とする、好適な相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が得られない。このため、CP値は0.090以下とする。CP値は、好ましくは0.080以下であり、より好ましくは0.070以下である。なお、CP値は小さいほど好ましく、特に下限は規定しないが、過度の低減は製造コストや製造負荷の増大を招くため、CP値は0.001以上とすることが好ましい。
CP=(粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ)/(大角粒界の総長さ) ・・・(1)
なお、(1)式における「粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ」とは、粒径20μm以上の結晶粒同士が隣接する部分の大角粒界の総長さとする。
【0045】
なお、平均結晶粒径およびCP値は、SEM/EBSD法によって測定することが可能であり、ここでは後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0046】
次に、本発明における熱延鋼板、電縫鋼管および角形鋼管の引張試験における特性を限定した理由を説明する。
【0047】
熱延鋼板の引張強度:400MPa以上
熱延鋼板の引張強度が400MPa未満であると、本発明で目的とする電縫鋼管の引張強度および角形鋼管の引張強度が得られない。そのため、熱延鋼板の引張強度は400MPa以上とする。熱延鋼板の引張強度は、好ましくは420MPa以上であり、より好ましくは450MPa以上である。熱延鋼板の引張強度の上限は、特に限定されないが、一例としては、熱延鋼板の引張強度は、700MPa以下である。
【0048】
熱延鋼板の降伏比:90%以下
熱延鋼板の降伏比が90%超であると、本発明で目的とする電縫鋼管の降伏比および角形鋼管の降伏比が得られない。そのため、熱延鋼板の降伏比は90%以下とする。熱延鋼板の降伏比は、好ましくは88%以下であり、より好ましくは85%以下である。熱延鋼板の降伏比の下限は、特に限定されないが、一例としては、熱延鋼板の降伏比は、60%以上である。
【0049】
熱延鋼板に8.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差:0.70以下
相当塑性ひずみ分布は、横軸を相当塑性ひずみ(単位:無し)、縦軸を割合(面積率)(単位:%)として、対数正規分布で近似することができる。対数正規分布は、変数(横軸)の対数が正規分布に従う。よって、横軸を相当塑性ひずみ(単位:無し)の自然対数、縦軸を割合(面積率)(単位:%)とすると正規分布で近似することができる。本発明では、このときの標準偏差を「対数標準偏差」と定義する。対数標準偏差が小さいほど、相当塑性ひずみ分布のピークの広がりが小さくなり、塑性ひずみの分布がより均一になる。
【0050】
熱延鋼板に8.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.70以下であると、本発明で目的とする、好適な電縫鋼管の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差および角形鋼管の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が得られやすくなる。そのため、熱延鋼板に8.0%引張ひずみを付与した後の対数標準偏差は、0.70以下とすることが好ましい。前記対数標準偏差は、より好ましくは0.68以下であり、さらにより好ましくは0.65以下である。なお、前記対数標準偏差は小さいほど好ましく、特に下限は規定しないが、過度の低減は製造コストや製造負荷の増大を招くため、前記対数標準偏差は0.050以上とすることが好ましい。
【0051】
電縫鋼管の母材部の引張強度および角形鋼管の平板部の引張強度:400MPa以上
電縫鋼管の母材部の引張強度および角形鋼管の平板部の引張強度が400MPa未満であると、耐座屈性能が低下する。そのため、前記引張強度は、400MPa以上とする。前記引張強度は、好ましくは420MPa以上であり、より好ましくは450MPa以上である。前記引張強度の上限は、特に限定されないが、一例としては、前記引張強度は、700MPa以下である。
【0052】
電縫鋼管の母材部の降伏比および角形鋼管の平板部の降伏比:97%以下
電縫鋼管の母材部の降伏比および角形鋼管の平板部の降伏比が97%超であると、耐座屈性能が低下する。そのため、前記降伏比は97%以下とする。前記降伏比は、好ましくは96%以下であり、より好ましくは95%以下である。前記降伏比の下限は、特に限定されないが、一例としては、前記降伏比は、75%以上である。
【0053】
電縫鋼管の母材部および角形鋼管の平板部において4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差:0.60以下
電縫鋼管の母材部および角形鋼管の平板部において4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.60以下であると、耐座屈性能をより向上しやすくなる。そのため、前記対数標準偏差は0.60以下とすることが好ましい。前記対数標準偏差は、より好ましくは0.58以下であり、さらにより好ましくは0.55以下である。なお、前記対数標準偏差は小さいほど好ましく、特に下限は規定しないが、過度の低減は製造コストや製造負荷の増大を招くため、前記対数標準偏差は0.050以上とすることが好ましい。
【0054】
なお、引張強度および降伏比は、後述する実施例に記載の引張試験によって測定することが可能である。また、相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差は、後述する実施例に記載の引張試験およびSEM-DIC法を組み合わせることによって測定することが可能である。相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差は、より具体的には、後述する実施例に記載の方法で求めることができる。
【0055】
次に、本発明の一実施形態における熱延鋼板、電縫鋼管および角形鋼管の製造方法を説明する。
【0056】
本発明の熱延鋼板は、例えば、上記した成分組成を有する鋼素材を、加熱温度:1100℃以上1300℃以下に加熱する加熱工程を施した後、仕上圧延終了温度:750℃以上850℃以下、かつ、板厚中心温度で900℃以上の温度域の平均冷却速度:1.0℃/s以上で圧延する熱間圧延工程を施して熱延板とし、熱間圧延工程後に、板厚中心温度で冷却開始から冷却停止までの平均冷却速度:5℃/s以上50℃/s以下、冷却停止温度:400℃以上650℃以下で冷却する冷却工程を施し、冷却工程後に、熱延板をコイル状に巻き取る巻取工程を施すことで得られる。
【0057】
さらに、本発明の電縫鋼管は、前記熱延鋼板を冷間ロール成形により円筒状に成形し、該円筒状の周方向両端部を突合せて電縫溶接し、次いで、真円形状の孔形を有するロールを用いた冷間成形により外径および真円度を調整することによって製造される。
【0058】
また、本発明の角形鋼管は、前記熱延鋼板を冷間ロール成形により円筒状に成形し、該円筒状の周方向両端部を突合せて電縫溶接し、次いで、目的の多角形形状の孔形を有するロールを用いた冷間成形により平板部と角部を成形することによって製造される。なお、本発明の角形鋼管には、正多角形(正三角形、正方形、正五角形等)、異なる内角の組合せを有する等辺多角形(菱形、星形等)、および異なる辺長の組合せを有する多角形(二等辺三角形、長方形、平行四辺形、台形等)が含まれる。本発明の角形鋼管は、建築物の柱材として使用する際に、通常は90度間隔で四方に梁が接合されることから、断面が正方形または長方形であることが好ましい。
【0059】
なお、前記円筒状とは、管周断面が「C」形状であることを指す。また、以下の製造方法の説明において、温度に関する「℃」表示は、特に断らない限り、鋼素材や鋼板(熱延板)の表面温度とする。これらの表面温度は、放射温度計等で測定することができる。また、鋼板板厚中心の温度は、鋼板断面内の温度分布を伝熱解析により計算し、その結果を鋼板の表面温度によって補正することで求めることができる。
【0060】
本発明において、鋼素材(鋼スラブ)の溶製方法は特に限定されず、転炉、電気炉、真空溶解炉等の公知の溶製方法のいずれもが適合する。鋳造方法も特に限定されないが、連続鋳造法等の公知の鋳造方法により、所望寸法に製造される。なお、連続鋳造法に代えて、造塊-分塊圧延法を適用しても何ら問題はない。溶鋼にはさらに、取鍋精錬等の二次精錬を施してもよい。
【0061】
次いで、得られた鋼素材(鋼スラブ)を、加熱温度:1100℃以上1300℃以下に加熱した後、仕上圧延終了温度:750℃以上850℃以下、かつ、板厚中心温度で900℃以上の温度域の平均冷却速度:1.0℃/s以上である熱間圧延工程を施して熱延板とする。
【0062】
加熱温度:1100℃以上1300℃以下
加熱温度が1100℃未満である場合、被圧延材(鋼スラブ)の変形抵抗が大きくなり圧延が困難となる。一方、加熱温度が1300℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化し、後の圧延(粗圧延、仕上圧延)において微細なオーステナイト粒が得られず、本発明で目的とする平均結晶粒径を確保することが困難となる。また、粗大粒の生成を抑制することが困難となり、CP値を本発明で目的とする範囲に制御することが難しい。このため、熱間圧延前の加熱炉による加熱温度は、1100℃以上1300℃以下とする。前記加熱温度は、より好ましくは1120℃以上である。また、前記加熱温度は、より好ましくは1280℃以下である。
【0063】
なお、本発明では、鋼スラブを製造した後、一旦室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、室温まで冷却しないで温片のままで加熱炉に装入する、あるいは、わずかの保熱を行った後に直ちに圧延する、これらの直送圧延の省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0064】
仕上圧延終了温度:750℃以上850℃以下
仕上圧延終了温度が750℃未満である場合、仕上圧延中に鋼板表面温度がフェライト変態開始温度以下になり、フェライトが生成し、その後の圧延により圧延方向に伸長した加工フェライト粒となり、降伏比上昇の原因となる。一方、仕上圧延終了温度が850℃を超えると、オーステナイト未再結晶温度域での圧下量が不足し、微細なオーステナイト粒が得られず、本発明で目的とする平均結晶粒径を確保することが困難となる。また、粗大粒の生成を抑制することが困難となり、CP値を本発明で目的とする範囲に制御することが困難となる。このため、仕上圧延終了温度は、750℃以上850℃以下とする。仕上圧延終了温度は、より好ましくは760℃以上である。また、仕上圧延終了温度は、より好ましくは840℃以下である。
【0065】
板厚中心温度で900℃以上の温度域の平均冷却速度:1.0℃/s以上
本発明では、板厚中心温度で900℃以上の温度域の平均冷却速度(以下、熱間圧延での平均冷却速度と称する場合もある。)を高くすることで、オーステナイト再結晶温度域でのオーステナイトの粗大化を抑制し、本発明で目的とする平均結晶粒径およびCP値を得ることができる。前記平均冷却速度を達成するためには、例えば、圧延中に水冷設備を用いて被圧延材を冷却すればよい。前記平均冷却速度が1.0℃/s未満である場合、オーステナイト再結晶温度域でオーステナイトが粗大化してしまい、本発明で目的とする平均結晶粒径を確保することが困難となる。また、粗大粒の生成を抑制することが困難となり、CP値を本発明で目的とする範囲に制御することが困難となる。前記平均冷却速度は、好ましくは1.2℃/s以上であり、より好ましくは1.5℃/s以上である。前記平均冷却速度が5.0℃/sを超えると設備負荷が増大するため、前記平均冷却速度は5.0℃/s以下が好ましい。
【0066】
なお、板厚中心温度で900℃以上の温度域の平均冷却速度は、鋼素材(鋼スラブ)が加熱炉外に抽出されてから、板厚中心温度が900℃に達するまでの板厚中心の平均冷却速度として求める。すなわち、前記平均冷却速度は、[(鋼素材が加熱炉外に抽出されたときの板厚中心温度(℃)-900(℃))/鋼素材が加熱炉外に抽出されてから、鋼素材の板厚中心温度が900℃に達するまでの時間(s)]で求められる。
【0067】
本発明では、仕上板厚の上限は特に規定しないが、必要冷却速度の確保や鋼板温度管理の観点より、32mm以下が好ましい。また、仕上板厚の下限も特に限定されないが、一例としては、前記板厚は、5mm以上である。
【0068】
熱間圧延工程後、熱延板に冷却工程を施す。冷却工程では、冷却開始から冷却停止までの平均冷却速度:5℃/s以上50℃/s以下、冷却停止温度:400℃以上650℃以下で冷却する。
【0069】
冷却開始から冷却停止(冷却終了)までの平均冷却速度:5℃/s以上50℃/s以下
熱延板の板厚中心温度で、冷却開始から後述する冷却停止までの温度域における平均冷却速度(以下、冷却工程での平均冷却速度と称する場合もある。)が、5℃/s未満では、フェライトの核生成頻度が減少し、フェライト粒が粗大化するため、本発明で目的とする平均結晶粒径を確保することが困難となる。また、粗大粒の生成を抑制することが困難となり、CP値を本発明で目的とする範囲に制御することが難しい。一方で、前記平均冷却速度が50℃/sを超えると、多量のマルテンサイトが生成し、本発明で目的とするフェライトとベイナイトの合計体積率が得られない。前記平均冷却速度は、好ましくは7℃/s以上であり、より好ましくは10℃/s以上である。また、前記平均冷却速度は、好ましくは45℃/s以下であり、より好ましくは40℃/s以下である。なお、冷却工程では、水冷等の意図的な冷却開始時点を冷却開始とし、それ以前の空冷は冷却には含めない。
【0070】
なお、本発明では、冷却前の鋼板表面におけるフェライト生成抑制の観点より、仕上圧延終了後直ちに冷却を開始することが好ましい。
【0071】
冷却停止温度:400℃以上650℃以下
熱延板の板厚中心温度で、冷却停止温度が400℃未満では、多量のマルテンサイトが生成し、本発明で目的とするフェライトとベイナイトの合計体積率が得られない。一方で、冷却停止温度が650℃を超えると、フェライトの核生成頻度が減少し、フェライト粒が粗大化するため、本発明で目的とする平均結晶粒径を確保することが困難となる。また、粗大粒の生成を抑制することが困難となり、CP値を本発明で目的とする範囲に制御することが難しい。冷却停止温度は、好ましくは420℃以上であり、より好ましくは450℃以上である。また、冷却停止温度は、好ましくは620℃以下であり、より好ましくは600℃以下である。
【0072】
なお、本発明において、冷却工程での平均冷却速度は、特に断らない限り、((冷却前の熱延板の板厚中心温度-冷却後の熱延板の板厚中心温度)/冷却時間)で求められる値とする。冷却方法は、ノズルからの水の噴射等の水冷や、冷却ガスの噴射による冷却等が挙げられる。本発明では、熱延板の両面が同条件で冷却されるように、熱延板両面に冷却操作(処理)を施すことが好ましい。
【0073】
冷却工程後に、熱延板を巻取り、その後放冷する巻取工程を施す。
【0074】
以上により、本発明の熱延鋼板が製造される。本発明の熱延鋼板は、引張強度が400MPa以上であり、降伏比が90%以下である特性を備える。さらに、8.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.70以下である特性を備えることができる。
【0075】
また、前記熱延鋼板を素材として製造した電縫鋼管および角形鋼管は、引張強度が400MPa以上であり、降伏比が97%以下である特性を備える。さらに、4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.60以下である特性を備えることができる。本発明の電縫鋼管および角形鋼管は、優れた耐座屈性能を具備する。
【0076】
また、前記電縫鋼管および前記角形鋼管を使用したラインパイプおよび建築構造物は、高い耐座屈性能を具備することができる。これにより、前記建築構造物は、高い耐座屈性能を具備し、外部からの荷重に耐えることができるために、建築構造物の柱材として使用することに適している。
【実施例
【0077】
以下、実施例に基づいてさらに本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0078】
表1に示す成分組成を有する鋼素材(鋼スラブ)を溶製し、表2に示す条件の加熱工程、熱間圧延工程、冷却工程を施して、表2に示す仕上板厚(mm)の熱延鋼板とした。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
かくして得られた熱延鋼板を、冷間ロール成形により円筒状のオープン管(丸型鋼管)に成形し、オープン管の突合せ部分を電縫溶接して鋼管素材とした。その後、該鋼管素材をその上下左右に配置したロールにより成形し、表3に示した外径D(mm)および肉厚t(mm)の電縫鋼管、または辺長B(mm)および肉厚t(mm)の角形鋼管を得た。なお、前記角形鋼管の断面形状は正方形である。
【0082】
【表3】
【0083】
得られた熱延鋼板、電縫鋼管および角形鋼管から試験片を採取して、以下に示す組織観察、引張試験、相当塑性ひずみ分布の測定を実施した。
【0084】
〔組織観察〕
組織観察用の試験片は、観察面が熱間圧延時の圧延方向断面かつ板厚1/2t位置となるように採取し、研磨した後、ナイタール腐食して作製した。組織観察は、光学顕微鏡(倍率:1000倍)または走査型電子顕微鏡(SEM、倍率:1000倍)を用いて、鋼板の板厚1/2t位置における組織を観察し、撮像した。得られた光学顕微鏡像およびSEM像から、フェライト、ベイナイトおよび残部組織(パーライト、マルテンサイト、オーステナイト)の面積率を求めた。各組織の面積率は、5視野で観察を行い、各視野で得られた値の平均値として算出した。ここでは、組織観察により得られた面積率を、各組織の体積率とした。
【0085】
ここで、フェライトは、拡散変態による生成物のことであり、転位密度が低くほぼ回復した組織を呈する。ポリゴナルフェライトおよび擬ポリゴナルフェライトがこれに含まれる。また、ベイナイトは、転位密度が高いラス状のフェライトとセメンタイトの複相組織である。また、パーライトは、セメンタイトとフェライトが層状に並んだ組織である。また、オーステナイトは、ベイナイトと比較して、セメントを有さない。また、マルテンサイトおよびオーステナイトは、ベイナイトと比較して、SEM像のコントラストが明るいことから判別した。
【0086】
なお、光学顕微鏡像およびSEM像ではマルテンサイトとオーステナイトの識別が難しいため、得られたSEM像からマルテンサイトあるいはオーステナイトとして観察された組織の面積率を測定し、それから後述する方法で測定したオーステナイトの体積率を差し引いた値をマルテンサイトの体積率とした。
【0087】
オーステナイトの体積率の測定は、X線回折により行った。組織観察用の試験片は、回折面が鋼板の板厚1/2t位置となるように研削した後、化学研磨をして表面加工層を除去して作製した。測定にはMoのKα線を使用し、fcc鉄の(200)、(220)、(311)面とbcc鉄の(200)、(211)面の積分強度からオーステナイトの体積率を求めた。
【0088】
平均結晶粒径およびCP値は、SEM/EBSD法を用いて測定した。測定領域は500μm×500μm、測定ステップサイズは0.5μmとした。得られたEBSDデータをもとに、結晶方位解析ソフトOIM Analysis(商標)を用いて、方位差が15°以上の境界を結晶粒界(大角粒界)として、粒界の分布を得た。平均結晶粒径は、各結晶粒の円相当径(粒径)の算術平均として求めた。また、CP値は、粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さ、および大角粒界の総長さをそれぞれ算出し、これらの比として求めた。ここで、粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域における大角粒界の総長さは、測定領域における前記粒界の分布から粒径20μm未満の結晶粒を除いた領域で測定した大角粒界の長さの総和であり、大角粒界の総長さは、測定領域における前記粒界の分布から測定した大角粒界の長さの総和である。なお、平均結晶粒径およびCP値の算出においては、粒径が2.0μm以下の結晶粒は測定ノイズとして除外した。
【0089】
〔引張試験〕
引張方向が圧延方向と平行になるように、JIS5号の引張試験片を採取した。引張試験片は、熱延鋼板については幅方向端部から幅方向に1/4W(W:板幅)の位置から、電縫鋼管については電縫溶接部から周方向に90°離れた位置から、角形鋼管については電縫溶接部を含む平板部に隣接した平板部からそれぞれ採取した。引張試験は、JIS Z 2241(2011年)の規定に準拠して実施し、降伏応力σy、引張強度をそれぞれ測定して、(降伏応力σy)/(引張強度)で定義される降伏比を算出した。
【0090】
〔相当塑性ひずみ分布〕
相当塑性ひずみ分布は、SEM-DIC法により測定した。引張方向が圧延方向と平行になるように、熱延鋼板の板厚中央、電縫鋼管の肉厚中央、および角形鋼管の肉厚中央から、図1に示す引張試験片を採取した。熱延鋼板の板幅方向については、幅方向端部から幅方向に1/4W(W:板幅)、電縫鋼管の周方向については電縫溶接部から周方向に90°離れた位置、角形鋼管については電縫溶接部を含む平板部に隣接した平板部で採取を行った。得られた引張試験片の一方の面を研磨し、ナイタール腐食して、SEM(倍率:1000倍)を用いて平行部(引張変形部)を5視野撮像した。その後、引張速度5mm/minで、熱延鋼板から採取した試験片には8.0%の引張ひずみ、電縫鋼管および角形鋼管から採取した試験片には4.0%の引張ひずみをそれぞれ付与し、除荷した。その後、SEM(倍率:1000倍)を用いて引張前(引張ひずみ付与前)と同一の視野を撮像した。得られた引張前後のSEM像をもとに、画像解析ソフトGOM Correlate(GOM社)を用いて、DIC法により撮像面の相当塑性ひずみ分布を算出した。DIC法は、物体表面のランダムパターンを変形前後で比較することで、観察面の各所における変位やひずみを測定する手法である。具体的には、変形前画像においてサブセットと呼ばれる正方形領域を定義し、サブセット内部のランダムパターンをもとにサブセットを変形前後で追跡し、サブセット中央点の変位を算出する。この操作を画像全体で網羅的に行い変位分布およびひずみ分布を得る。本発明では、金属組織のナイタール腐食痕をランダムパターンとして利用し、1910ピクセル×2560ピクセルの画像に対し、サブセットサイズを80ピクセル×80ピクセル(3.6μm×3.6μm)、測定間隔を10ピクセル(0.45μm)とした。横軸を得られた相当塑性ひずみ(単位:無し)の自然対数、縦軸を割合(面積率)(単位:%)としたものを正規分布で近似し、このときの標準偏差を対数標準偏差(相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差)とした。具体的には以下の方法により、対数標準偏差を求めた。まず、相当塑性ひずみが0~0.20の範囲内において、階級幅を0.02として各階級の割合(面積率)(単位:%)を求めた。このとき、相当塑性ひずみが0以上0.02未満の階級を1番目の階級、0.02以上0.04未満の階級を2番目の階級、・・・、0.18以上0.20未満の階級を10番目の階級とした。xをi番目の階級の階級値の自然対数、xを相当塑性ひずみの自然対数の平均値として、下記(4)式と(5)式により対数標準偏差を求めた。
【0091】
【数1】
【0092】
【数2】
【0093】
〔軸圧縮試験〕
電縫鋼管および角形鋼管の両端に耐圧板を取り付け、大型圧縮試験装置により軸圧縮試験を実施した。圧縮荷重が最大になったときの応力を、最大応力度σmax(N/mm)とした。また、前記引張試験により求めた降伏応力σyを用いて、耐力上昇率τ(=σmax/σy)を算出した。
【0094】
熱延鋼板について得られた結果を表4に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
電縫鋼管および角形鋼管について得られた結果を表5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
表4および表5中、No.1~6は本発明例であり、No.7~12は比較例である。
【0099】
本発明例の熱延鋼板は、板厚中央の鋼組織は、体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、平均結晶粒径が15.0μm以下であり、所定の(1)式で求められるCPの値が0.090以下であった。また、引張強度が400MPa以上であり、降伏比が90%以下であった。さらに、8.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.70以下であった。
【0100】
また、本発明例の電縫鋼管および角形鋼管は、前記本発明例の熱延鋼板から製造されたものであり、肉厚中央の鋼組織は、体積率で、フェライトとベイナイトの合計が70%以上98%以下であり、残部がパーライト、マルテンサイト、オーステナイトから選択される1種または2種以上からなり、平均結晶粒径が15.0μm以下であり、所定の(1)式で求められるCPの値が0.090以下であった。また、母材部または平板部の引張強度が400MPa以上であり、母材部または平板部の降伏比が97%以下であった。さらに、母材部または平板部において4.0%引張ひずみを付与した後の相当塑性ひずみ分布の対数標準偏差が0.60以下であった。また、軸圧縮試験における耐力上昇率τ(=σmax/σy)が、電縫鋼管においてはτ≧4.0×(t/D)+0.85・・・(2)を、角形鋼管においてはτ≧3.0×(t/B)+0.85・・・(3)をそれぞれ満足していた。なお、表5においては、上記(2)式と(3)式の右辺にそれぞれ電縫鋼管のtとDおよび角形鋼管のtとBを代入した値を、τの必要下限値として記載している。
【0101】
一方、比較例のNo.7は、Cの含有量が本発明の範囲を下回っていたため、引張強度が本発明の範囲外となった。
【0102】
比較例のNo.8は、Cの含有量が本発明の範囲を上回っていたため、フェライトとベイナイトの合計の体積率が本発明の範囲を下回った。その結果、降伏比が本発明の範囲外となり、対数標準偏差が好ましい範囲の範囲外となったため、耐力上昇率が所望の値に達しなかった。
【0103】
比較例のNo.9は、SiおよびMnの含有量が本発明の範囲を下回っていたため、フェライトとベイナイトの合計の体積率が本発明の範囲を上回り、平均結晶粒径が本発明の範囲を上回った。その結果、引張強度が本発明の範囲外となった。
【0104】
比較例のNo.10は、SiおよびMnの含有量が本発明の範囲を上回っていたため、フェライトとベイナイトの合計の体積率が本発明の範囲を下回った。その結果、降伏比が本発明の範囲外となり、対数標準偏差が好ましい範囲の範囲外となったため、耐力上昇率が所望の値に達しなかった。
【0105】
比較例のNo.11は、熱間圧延工程における900℃以上の温度域の平均冷却速度が好適な製造方法の範囲を下回っていたため、平均結晶粒径が本発明の範囲を上回り、CP値が本発明の範囲を上回った。その結果、対数標準偏差が本発明の好ましい範囲を上回り、耐力上昇率が所望の値に達しなかった。また、引張強度が本発明の範囲を下回った。
【0106】
比較例のNo.12は、熱間圧延工程における冷却停止温度が好適な製造方法の範囲を上回っていたため、CP値が本発明の範囲を上回った。その結果、対数標準偏差が本発明の好ましい範囲を上回り、耐力上昇率が所望の値に達しなかった。
【0107】
以上から、鋼組成、組織を本発明の範囲内とすることで、耐座屈性能に優れた電縫鋼管および角形鋼管、ならびにそれらの素材として用いられる熱延鋼板を提供することができる。また、前記電縫鋼管および角形鋼管を用いた高い耐座屈性能を有するラインパイプおよび建築構造物を提供することができる。

図1