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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-23
(45)【発行日】2025-07-01
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/18 20090101AFI20250624BHJP
   H04B 17/318 20150101ALI20250624BHJP
   H04B 17/391 20150101ALI20250624BHJP
   H04W 16/22 20090101ALI20250624BHJP
   H04W 16/30 20090101ALI20250624BHJP
【FI】
H04W16/18 110
H04B17/318
H04B17/391
H04W16/22
H04W16/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023573937
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2022046953
(87)【国際公開番号】W WO2023136058
(87)【国際公開日】2023-07-20
【審査請求日】2024-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2022002993
(32)【優先日】2022-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 渉悟
【審査官】永井 啓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-028664(JP,A)
【文献】特開2009-296428(JP,A)
【文献】特開2004-336355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B1/60
3/46-3/493
7/24-7/26
17/00-17/40
H04W4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準点から送信される電波の伝達距離を算出する伝達距離算出手段と、
前記基準点から、前記伝達距離だけ前記基準点から離間した初期受信点までの空間における直線上において所定間隔で互いに離間した複数の仮想点をプロットし、前記複数の仮想点にそれぞれ対応する地表上の点を示す複数の稜線候補点を特定する候補点特定手段と、
前記複数の稜線候補点を順に繋げることにより形成された折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、前記複数の稜線候補点のうちの一つ以上の稜線候補点を削減する算出位置決定手段と、
前記削減された一つ以上の稜線候補点以外の前記複数の稜線候補点のうちの前記基準点から遠い稜線候補点から順に、その稜線候補点に対応する位置における受信感度を算出し、前記対応する位置おける算出された受信感度が基準となる受信感度を満たす稜線候補点のうち前記基準点から最も遠い稜線候補点を、前記電波の受信点に決定する受信点決定手段と、
を備える解析装置。
【請求項2】
前記算出位置決定手段は、前記一つ以上の稜線候補点の削減として、隣り合う2つの稜線候補点の高度の差が所定値未満の場合に、前記隣り合う2つの稜線候補点のうち前記基準点に近い稜線候補点を削除する
請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記受信点決定手段は、前記複数の稜線候補点のうちの隣り合う稜線候補点の高度の関係に基づいて、地表がピークとなる回折点を特定し、前記基準点と、前記回折点と、前記削減された一つ以上の稜線候補点以外の前記複数の稜線候補点のうち少なくとも一つとに基づいて前記電波の回折経路を算出し、その回折経路における回折損失を用いて前記回折経路の受信感度を算出する
請求項1または請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記算出位置決定手段は、前記折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムとしてRamer-Douglas-Peuckerアルゴリズムを用いる
請求項3に記載の解析装置。
【請求項5】
基準点から送信される電波の伝達距離を算出し、
前記基準点から、前記伝達距離だけ前記基準点から離間した初期受信点までの空間における直線上において所定間隔で互いに離間した複数の仮想点をプロットし、
前記複数の仮想点にそれぞれ対応する地表上の点を示す複数の稜線候補点を特定し、
前記複数の稜線候補点を順に繋げることにより形成された折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、前記複数の稜線候補点のうちの一つ以上の稜線候補点を削減し、
前記削減された一つ以上の稜線候補点以外の前記複数の稜線候補点のうちの前記基準点から遠い稜線候補点から順に、その稜線候補点に対応する位置における受信感度を算出し、
前記対応する位置おける算出された受信感度が基準となる受信感度を満たす稜線候補点のうち、前記基準点から最も遠い稜線候補点を、前記電波の受信点に決定する
ことを含む解析方法。
【請求項6】
解析装置のコンピュータに、
基準点から送信される電波の伝達距離を算出し、
前記基準点から、前記伝達距離だけ前記基準点から離間した初期受信点までの空間における直線上において所定間隔で互いに離間した複数の仮想点をプロットし、
前記複数の仮想点にそれぞれ対応する地表上の点を示す複数の稜線候補点を特定し、
前記複数の稜線候補点を順に繋げることにより形成された折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、前記複数の稜線候補点のうちの一つ以上の稜線候補点を削減し、
前記削減された一つ以上の稜線候補点以外の前記複数の稜線候補点のうちの前記基準点から遠い稜線候補点から順に、その稜線候補点に対応する位置における受信感度を算出し、
前記対応する位置おける算出された受信感度が基準となる受信感度を満たす稜線候補点のうち、前記基準点から最も遠い稜線候補点を、前記電波の受信点に決定する、
ことを実行させるためのプログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解析装置、解析方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
基準点から電波を送信する無線通信機器を受信点側に設置する際に、電波の基準点を基準として、その電波が到達する範囲の受信点を算出することが行われる。このような電波に関する計算の所要時間を短縮することが可能な技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、送信点から受信点まで伝搬する電波の軌跡を追跡する計算において、反射点の計算対象となるデータを予め削減し、計算の処理量を減らす技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2003-318811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような電波通信の技術において、基準点から送信された電波の受信感度が基準を満たす受信点の算出の計算量を削減する技術が求められている。
【0006】
この開示の目的の一例は、上述の課題を解決する解析装置、解析方法、プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様によれば、解析装置は、基準点から送信される電波の伝達距離を算出する伝達距離算出手段と、前記基準点から、前記伝達距離だけ前記基準点から離間した初期受信点までの空間における直線上において所定間隔で互いに離間した複数の仮想点をプロットし、前記複数の仮想点にそれぞれ対応する地表上の点を示す複数の稜線候補点を特定する候補点特定手段と、前記複数の稜線候補点を順に繋げることにより形成された折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、前記複数の稜線候補点のうちの一つ以上の稜線候補点を削減する算出位置決定手段と、前記削減された一つ以上の稜線候補点以外の前記複数の稜線候補点のうちの前記基準点から遠い稜線候補点から順に、その稜線候補点に対応する位置における受信感度を算出し、前記対応する位置おける算出された受信感度が基準となる受信感度を満たす稜線候補点のうち前記基準点から最も遠い稜線候補点を、前記電波の受信点に決定する受信点決定手段と、を備える。
【0008】
本開示の第2の態様によれば、解析方法は、基準点から送信される電波の伝達距離を算出し、前記基準点から、前記伝達距離だけ前記基準点から離間した初期受信点までの空間における直線上において所定間隔で互いに離間した複数の仮想点をプロットし、前記複数の仮想点にそれぞれ対応する地表上の点を示す複数の稜線候補点を特定し、前記複数の稜線候補点を順に繋げることにより形成された折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、前記複数の稜線候補点のうちの一つ以上の稜線候補点を削減し、前記削減された一つ以上の稜線候補点以外の前記複数の稜線候補点のうちの前記基準点から遠い稜線候補点から順に、その稜線候補点に対応する位置における受信感度を算出し、前記対応する位置おける算出された受信感度が基準となる受信感度を満たす稜線候補点のうち、前記基準点から最も遠い稜線候補点を、前記電波の受信点に決定することを含む。
【0009】
本開示の第3の態様によれば、記録媒体は、解析装置のコンピュータに、基準点から送信される電波の伝達距離を算出し、前記基準点から、前記伝達距離だけ前記基準点から離間した初期受信点までの空間における直線上において所定間隔で互いに離間した複数の仮想点をプロットし、前記複数の仮想点にそれぞれ対応する地表上の点を示す複数の稜線候補点を特定し、前記複数の稜線候補点を順に繋げることにより形成された折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、前記複数の稜線候補点のうちの一つ以上の稜線候補点を削減し、前記削減された一つ以上の稜線候補点以外の前記複数の稜線候補点のうちの前記基準点から遠い稜線候補点から順に、その稜線候補点に対応する位置における受信感度を算出し、前記対応する位置おける算出された受信感度が基準となる受信感度を満たす稜線候補点のうち、前記基準点から最も遠い稜線候補点を、前記電波の受信点に決定する、ことを実行させるためのプログラムを記憶する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、基準点から送信された電波の受信感度が基準を満たす受信点の算出の計算量を削減することが可能な解析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態による解析装置の機能ブロック図である。
図2】本実施形態による解析装置の処理フローを示す図である。
図3】本実施形態による解析装置の処理概要を示す第一の図である。
図4】本実施形態による解析装置の処理概要を示す第二の図である。
図5】本実施形態による解析装置の処理概要を示す第三の図である。
図6】本実施形態による解析装置の処理概要を示す第四の図である。
図7】本実施形態による解析装置の処理概要を示す第五の図である。
図8】本実施形態による解析装置の処理概要を示す第六の図である。
図9】本実施形態による解析装置の処理概要を示す第七の図である。
図10】本実施形態による解析装置の構成の別の例を示す図である。
図11図10に示す解析装置による処理フローを示す図である。
図12】本実施形態による解析装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施形態による解析装置を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態における解析装置の機能ブロック図である。
解析装置1はコンピュータである。解析装置1は解析プログラムを実行することにより、入力部112、表示部113、制御部114、伝達距離算出部115、稜線候補点特定部116、算出位置決定部117、受信点決定部118、結果処理部119の各機能を備える。また解析装置1は、予め記憶部111に地図データ、通信機器パラメータ、標高データを含む地形情報を記憶する。
【0013】
地図データは、基準点P1の位置を含む地図データである。
通信機器パラメータは、解析装置1が電波を送信する基準点P1と、その電波を受信する受信点に設置する予定の無線通信機器に関するパラメータである。このパラメータは具体的には、無線通信機器を設置する基準点P1の位置、基準点P1に設置する無線通信機器の送信電力Ws[dB]、基準点P1に設置する無線通信機器の送信アンテナ利得Ps[dB]、受信点に設置する無線通信機器の受信アンテナ利得Pr[dB]、受信点に設置する無線通信機器の受信感度Wr[dB]、電波の周波数f[MHz]、その他の損失値Lo[dB]、などの値である。
地形情報は、地図データにおける各位置(緯度、経度)に対応する標高を示す情報である。
【0014】
入力部112は、解析装置1が処理に利用する情報等をキーボードやマウス、タッチパネル等の入力装置から取得する処理を行う。
表示部113は、解析装置1の処理結果をディスプレイ等に表示する。
制御部114は、入力部112、表示部113、伝達距離算出部115、稜線候補点特定部116、算出位置決定部117、受信点決定部118、結果処理部119等を制御する。
【0015】
伝達距離算出部115は、基準点P1から送信される電波の伝達距離を算出する。
稜線候補点特定部116は、基準点P1から、伝達距離d[km]だけ基準点P1から離間した初期受信点P2までの空間における直線上において所定間隔毎でプロットした仮想点Psの位置を算出し、各仮想点Psに対応する地表の点を示す稜線候補点Pnを特定する。
算出位置決定部117は、基準点P1側から初期受信点P2側まで稜線候補点Pnを順に繋げた折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、稜線候補点Pnのうちの何れか一つまたは複数を削減して稜線候補点Pnの中から受信感度を算出する複数の算出位置を決定する。
受信点決定部118は、複数の算出位置のうちの基準点P1から遠い算出位置から順に、その算出位置における受信感度を算出し、基準となる受信感度を満たす基準点P1から最も遠い算出位置を、電波の受信点Pに決定する。
結果処理部119は、解析装置1の解析結果を出力する等の処理を行う。
【0016】
このような機能を発揮する解析装置1は、基準となる受信感度を満たす基準点P1から最も遠い算出対象点を電波の受信点Pと決定する処理において、その処理の計算量を削減することができる。以下、解析装置1の処理フローについて説明する。
【0017】
図2は解析装置の処理フローを示す図である。
図3図9は解析装置の処理概要を示す図である。
解析装置1のユーザは入力装置から処理の開始を指示する。入力部112は入力装置から処理の開始の指示を受けると、制御部114へその指示を出力する。制御部114は、伝達距離算出部115に処理の開始を指示する。伝達距離算出部115は、記憶部111に記録されている、通信機器パラメータを取得する。上述したように、通信機器パラメータには、無線通信機器を設置する基準点P1の位置、送信電力Ws[dB]、送信アンテナ利得Ps[dB]、受信アンテナ利得Pr[dB]、受信感度Wr[dB]、電波の周波数f[MHz]、その他の損失値Lo[dB]が含まれる。
【0018】
伝達距離算出部115は、式(1)にそれら通信機器パラメータを入力して自由空間伝達距離dを算出する(ステップS101)。自由空間伝達距離d[m]は、想定する無線通信機器を基準点P1に設置した際に、受信感度Wr以上の感度でその無線通信機器からの電波を受信できる最長の距離を示す。
【0019】
【数1】
【0020】
自由空間伝達距離dの上述の算出式(1)は一例である。基準点P1を基準とした無線通信機器の自由空間伝達距離dを算出することができれば、算出式(1)は他の式であってもよい。伝達距離算出部115は、自由空間伝達距離dを稜線候補点特定部116に出力する。
【0021】
稜線候補点特定部116は、基準点P1の座標(緯度、経度、高度)を、通信機器パラメータと標高データとに基づいて取得する。稜線候補点特定部116は、基準点P1の座標から所定の通信方向に自由空間伝達距離dが示す距離だけ離間した初期受信点P2の座標を算出する(ステップS102)。基準点P1の座標から通信方向に自由空間伝達距離dを加算すれば、初期受信点P2の座標は明らかである。なお通信方向の情報は通信機器パラメータに含まれもよいし、記憶部111に別途記録されていてもよい。なお基準点P1の地表からの高さと、初期受信点P2の地表から高さは、たとえば5mや10mなどの予め設定された高さであってよい。
【0022】
稜線候補点特定部116は、基準点P1から初期受信点P2までの空間における直線L1を算出する(ステップS103)。稜線候補点特定部116は、基準点P1から初期受信点P2までの範囲を含む地図データと標高データとを記憶部111から取得する。稜線候補点特定部116は、基準点P1から初期受信点P2までの範囲を含む地図データと標高データに基づいて、基準点P1から初期受信点P2までの地表Eの3Dモデリングデータを生成する(ステップS104)。稜線候補点特定部116は、基準点P1から初期受信点P2までの空間における直線L1上における所定間隔毎の仮想点Psを算出する(ステップS105)。稜線候補点特定部116は、それら各仮想点Psを通る垂線と、地表Eの3Dモデリングデータが示す地表Eとの交点を、それぞれ稜線候補点Pn1~Pn18と特定する(ステップS106)。稜線候補点特定部116は、稜線候補点Pn1~Pn18の座標(緯度、経度、高度)を算出位置決定部117へ出力する。稜線候補点Pn1~Pn18を総称して稜線候補点Pnと呼ぶ(図3参照)。
【0023】
算出位置決定部117は、複数の稜線候補点Pnを順に繋げた折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、複数の稜線候補点Pnのうちの何れか一つまたは複数を削減して稜線候補点の中から受信感度を算出する算出位置を決定する(ステップS107)。このアルゴリズムの一例は、Ramer-Douglas-Peuckerアルゴリズムである。折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムであれば、どのようなアルゴリズムを用いてもよい。算出位置決定部117は、算出位置の座標(緯度、経度、高度)を受信点決定部118へ出力する。図4で示す例では、Ramer-Douglas-Peuckerアルゴリズムにより折れ線の特徴として顕著な稜線候補点Pn1、Pn3、Pn4、Pn7、Pn9,Pn10、Pn11、Pn14、Pn17、Pn18が特定され、算出位置決定部117は、それらを算出位置と特定する(図4参照)。
【0024】
受信点決定部118は、稜線候補点Pnに基づいて地表上の回折点を特定できるか否かを判定する(ステップS108)。受信点決定部118は、地表の回折点の特定のために、例えばある選択した稜線候補点Pnと、その両側の2つの比較対象の稜線候補点Pnとを比較する。受信点決定部118は、2つの比較対象の稜線候補点Pnを結ぶ直線よりも、選択した稜線候補点Pnの位置が高い位置にある場合には、その選択した稜線候補点Pnを回折点と特定する。例えば、受信点決定部118は、図5に示すように、稜線候補点Pnに相当する点A,B,Cの高度に基づいて、図5の(A)部分のように点A,点Cに挟まれる点Bが、点A、点Cを結ぶ直線よりも低い位置(基準点P1から初期受信点P2方向に向かってその直線より右側)にある場合には、点Bを回折点でないと判定する。他方、受信点決定部118は、図5の(B)部分のように点A、点Cを結ぶ直線よりも高い位置(基準点P1から初期受信点P2方向に向かってその直線より左側)にある場合には、点Bを回折点として特定できると判定する。受信点決定部118は、回折点が1つも特定できない場合(ステップ108:No)は、初期受信点P2を、無線通信機器を設置するための受信点Pと決定する(ステップS109)。一例として受信点決定部118は、図6に示すように、Pn10、Pn11を回折点と特定する。
【0025】
受信点決定部118は、回折点が特定できた場合(ステップ108:Yes)は、例えば図7に示すように、基準点P1、回折点Pn10、Pn11、基準点P1から最も遠い算出位置である稜線候補点Pn18に基づいて特定した受信点候補Pmを特定する。受信点候補Pmの座標は、稜線候補点Pn18の高度に所定の高さを加えた座標である。所定の高さは、アンテナ等の通信機器の高さとして5mや10mなどの記憶部111に通信パラメータとして記録された値であってよい。受信点決定部118は、基準点P1から送信され、回折点Pn10、Pn11で回折し、受信点候補Pmで受信される電波の回折損失J(v)を以下の式(2)を用いて算出する(ステップS110)。式(2)においてJ(v)が回折損失、λは電波の波長、d1は基準点P1から遮蔽物である回折点までの距離、d2は受信点候補Pmから遮蔽物である回折点までの距離、hは基準点P1と受信点候補Pmの空間における直線からの回折点の高さを示す。
【0026】
具体的には以下の式(2)を用いて、基準点P1と回折点Pn10との距離をd1、回折点Pn10と回折点Pn11との距離をd2として、基準点P1と回折点Pn10との間の電波の回折損失J(v)-1を算出する。同様に、回折点Pn10と回折点Pn11との距離をd1、回折点Pn11と受信点候補Pmとの距離をd2として、回折点Pn10と受信点候補Pmとの間の電波の回折損失J(v)-2を算出する。回折損失J(v)-1と回折損失J(v)-2との合計を回折損失J(v)と算出する。なお回折点が一つだけであれば、以下の式(2)の計算1回で回折損失J(v)を算出することができる。回折点Pnが3(N=3)点であれば、基準点P1、回折点PnX(X=1~N)、初期受信点P2とした場合、P1~Pn1~Pn2の区間の一つ目の回折損失と、Pn1~Pn2~Pn3の区間の二つ目の回折損失と、Pn2~Pn3~P2の区間の三つ目の回折損失を合計して、回折損失J(v)を算出すればよい。
【0027】
【数2】
【0028】
なお式(2)の回折損失J(v)の「v」は、回折パラメータと呼ばれ、式(3)で表すことができる。回折パラメータvの値が-0.78以上であれば近接損失を含む損失、-0.78未満であれば近接損失を含まない回折損失であることを意味する。
【0029】
【数3】
【0030】
受信点決定部118は、基準点P1から送信され、回折点Pn10、Pn11で回折し、新たな受信点候補Pmで受信する電波の、当該受信点候補Pmにおける受信感度Wを、式(4)により算出する(ステップS111)。
【0031】
【数4】
【0032】
式(4)において、Wsは基準点P1に設置する無線通信機器の送信電力、Psは基準点P1に設置する無線通信機器の送信アンテナ利得、Prは受信点に設置する無線通信機器の受信アンテナ利得、dは伝達距離(基準点P1と受信点候補Pmの距離)、fは周波数、Lsは回折損失(=J(v))、Loはその他の損失を示す。なお式(4)の受信感度Wの算出式は、「受信感度=送信電力+利得-回折損失」として定義できる。
【0033】
受信点決定部118は、受信点に設置する予定の無線通信機器の受信感度Wrの値を記憶部111から取得する。受信点決定部118は、受信点候補Pmにおける受信感度Wが、受信点に設置する予定の無線通信機器の受信感度Wr以上となるかを判定する(ステップS112)。受信点決定部118は、受信点候補Pmにおける受信感度Wが、受信点に設置する予定の無線通信機器の受信感度Wr以上となる場合(ステップS112:Yes)には、その受信点候補Pmを、無線通信機器を設置するための受信点Pと決定する(ステップS113)。受信点決定部118は、受信点候補Pmにおける受信感度Wが、受信点Pに設置する予定の無線通信機器の受信感度Wr以上とならない場合(ステップS112:No)には、図8に示すように、既に特定した受信点候補Pmを除いて、次に基準点P1から最も遠い算出位置の稜線候補点Pn17に基づいて、新たな受信点候補Pmを特定する(ステップS114)。そして受信点決定部118はステップS110の回折損失J(v)の算出の処理を繰り返す。
【0034】
これにより、設置する予定の無線通信機器の受信点の座標を算出することができる。この受信点の処理において、上述したように稜線候補点Pnを順に繋げた折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、稜線候補点Pnのうちの何れか一つまたは複数を削減して稜線候補点の中から受信感度を算出する算出位置を決定している。従って、処理対象とする受信点候補Pmの数も少なくなる。これにより、基準点から送信された電波の受信感度が基準を満たす受信点の算出の計算量を削減することが可能な解析装置を提供することができる。
【0035】
受信点決定部118は決定した受信点Pの座標を結果処理部119へ出力する(ステップS115)。結果処理部119は、決定した受信点Pの座標を表示部113に出力するよう指示する。表示部113は決定した受信点Pの座標をディスプレイ等に出力する。この時、表示部113は、地図中に、座標に基づいて基準点P1、受信点Pなどの位置をプロットした地図情報を生成して、ディスプレイなどに表示するようにしてもよい。
【0036】
図9は解析装置の処理概要を示す図である。
ここで解析装置1は、上述の処理において、さらに多くの稜線候補点Pnを削減して稜線候補点の中から受信感度を算出する算出位置を決定してもよい。例えば、算出位置決定部117は、上述のステップS107において算出位置を決定した後、算出位置と特定した稜線候補点Pnについて、隣り合う稜線候補点Pnの高度を比較する。算出位置決定部117は、隣り合う2つの稜線候補点Pnの高度の差が、高度が近似すると特定されるような所定の閾値未満であるかを判定する。算出位置決定部117は、隣り合う2つの稜線候補点Pnの高度の差が、所定の閾値未満である場合、それら2つの稜線候補点Pnのうち、基準点P1に近い稜線候補点Pnを算出位置から除外する。これにより、処理対象とする受信点候補Pmの数がさらに少なくなる。その結果、基準点から送信された電波の受信感度が基準を満たす受信点の算出の計算量を削減することが可能な解析装置を提供することができる。図8の例では、さらに稜線候補点Pn3と稜線候補点Pn9を算出位置から除外する場合を示している。
【0037】
以上、本開示の実施形態について説明した。上述の解析装置1の処理によれば、計算量を抑えつつ、必要な精度を確保した電波到達範囲の算出が可能となる。これにより、計算時間の短縮及び計算に必要なメモリ等のリソース削減が可能となる。なおこれは、電波到達範囲を算出する際に行う、電波伝搬損失の計算回数すなわち稜線点の数をユーザが必要とする精度に合わせて削減できるからである。
【0038】
なお、上述の説明では、電波伝搬損失として回折損失しか考慮していないが、近接リッジ損失や反射損失等の他の損失要素を考慮して、上述のステップS110においてそれらの損失を合計した値が0かどうかを判定するようにしてもよい。また地形の断面図描画といった、コンピュータを用いて地形情報を可視化する際に、適切な受信点を可視化する際の処理として上述の処理を適用することができる。
【0039】
図10は本実施形態による解析装置の構成の別の例を示す図である。
図11図10に示す解析装置による処理フローを示す図である。
解析装置1は、少なくとも、伝達距離算出部115、稜線候補点特定部116、算出位置決定部117、受信点決定部118を備える。
伝達距離算出部115は、基準点から送信する電波の伝達距離を算出する(ステップS201)。
稜線候補点特定部116は、基準点に伝達距離を加算した初期受信点までの空間における直線において所定間隔でプロットした仮想点を算出し、その仮想点に対応する地表の点を示す稜線候補点を特定する(ステップS202)。
算出位置決定部117は、基準点から初期受信点まで稜線候補点を順に繋げた折れ線の特徴を単純化するアルゴリズムを用いて、稜線候補点のうちの何れか一つまたは複数を削減して稜線候補点の中から受信感度を算出する算出位置を決定する(ステップS203)。
受信点決定部118は、算出位置のうちの基準点から遠い算出位置から順に、その算出位置における受信感度を算出し、基準となる受信感度を満たす基準点から最も遠い算出位置において、電波の受信点を決定する(ステップS204)。
【0040】
(ハードウェア構成)
図12は、本開示の各実施形態に係る解析装置1を実現可能な計算処理装置20のハードウェア構成例を概略的に示すブロック図である。
解析装置1を、1つの計算処理装置(情報処理装置、コンピュータ)を用いて実現するハードウェア資源の構成例について説明する。但し、係る解析装置1は、物理的または機能的に少なくとも2つの計算処理装置を用いて実現されてもよい。また、係る解析装置1は、専用の装置として実現されてもよい。
【0041】
計算処理装置20は、中央処理演算装置(Central_Processing_Unit、以降「CPU」と表す)21、揮発性記憶装置22、ディスク23、不揮発性記録媒体24、及び、通信インタフェース(以降、「通信IF」と表す)27を有する。計算処理装置20は、入力装置25、出力装置26に接続可能であってもよい。計算処理装置20は、通信IF27を介して、他の計算処理装置、及び、通信装置と情報を送受信することができる。
【0042】
不揮発性記録媒体24は、コンピュータが読み取り可能な、たとえば、コンパクトディスク(Compact_Disc)、デジタルバーサタイルディスク(Digital_Versatile_Disc)である。また、不揮発性記録媒体24は、ユニバーサルシリアルバスメモリ(USBメモリ)、ソリッドステートドライブ(Solid_State_Drive)等であってもよい。不揮発性記録媒体24は、電源を供給しなくても係るプログラムを保持し、持ち運びを可能にする。不揮発性記録媒体24は、上述した媒体に限定されない。また、不揮発性記録媒体24の代わりに、通信IF27、及び、通信ネットワークを介して係るプログラムを持ち運びしてもよい。
揮発性記憶装置22は、コンピュータが読み取り可能であって、一時的にデータを記憶することができる。揮発性記憶装置22は、DRAM(dynamic random Access memory)、SRAM(static random Access memory)等のメモリ等である。
【0043】
すなわち、CPU21は、ディスク23に格納されているソフトウェア・プログラム(コンピュータ・プログラム:以下、単に「プログラム」と称する)を、実行する際に揮発性記憶装置22にコピーし、演算処理を実行する。CPU21は、プログラム実行に必要なデータを揮発性記憶装置22から読み取る。表示が必要な場合に、CPU21は、出力装置26に出力結果を表示する。外部からプログラムを入力する場合に、CPU21は、入力装置25からプログラムを読み取る。CPU21は、図1、または、図10に示す各部が表す機能(処理)に対応するところの揮発性記憶装置22にある解析プログラム(図2、または、図11)を解釈し実行する。CPU21は、上述した本開示の各実施形態において説明した処理を実行する。すなわち、このような場合に、本開示の各実施形態は、係る解析プログラムによっても成し得ると捉えることができる。さらに、係る解析プログラムが記録されたコンピュータが読み取り可能な不揮発性の記録媒体によっても、本開示の各実施形態は成し得ると捉えることができる。
【0044】
以上、上述した実施形態を模範的な例として本開示を説明した。しかし、本開示は、上述した実施形態には限定されない。すなわち、本開示は、本開示のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
【0045】
この出願は、2022年1月12日に出願された日本国特願2022-002993号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示は、解析装置、解析方法、記録媒体に適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1・・・解析装置
111・・・記憶部
112・・・入力部
113・・・表示部
114・・・制御部
115・・・伝達距離算出部
116・・・稜線候補点特定部
117・・・算出位置決定部
118・・・受信点決定部
119・・・結果処理部
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
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図10
図11
図12