IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー エナジー ソリューション リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-リチウムイオン二次電池及び分離膜 図1
  • 特許-リチウムイオン二次電池及び分離膜 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-23
(45)【発行日】2025-07-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池及び分離膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20250624BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20250624BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250624BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20250624BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20250624BHJP
   H01M 50/497 20210101ALI20250624BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20250624BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M50/489
H01M50/414
H01M50/497
H01M50/411
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022563316
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043046
(87)【国際公開番号】W WO2022107255
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】吉成 保彦
(72)【発明者】
【氏名】堀川 真代
(72)【発明者】
【氏名】三國 紘揮
(72)【発明者】
【氏名】織田 明博
(72)【発明者】
【氏名】黒田 直人
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-511521(JP,A)
【文献】特開2002-280070(JP,A)
【文献】特開2020-170673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0218371(US,A1)
【文献】特開2007-141520(JP,A)
【文献】特開平10-162860(JP,A)
【文献】特開2001-110447(JP,A)
【文献】特表2019-535115(JP,A)
【文献】特開2012-146492(JP,A)
【文献】特開2010-232006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0587
H01M 4/13-4/62
H01M 50/489
H01M 50/411
H01M 50/414
H01M 50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合剤層、分離膜、及び負極合剤層をこの順に備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極合剤層が、正極活物質、第1のリチウム塩、及び第1の溶媒を含有し、
前記負極合剤層が、負極活物質、第2のリチウム塩、及び前記第1の溶媒とは異なる第2の溶媒を含有し、
前記分離膜が、平均細孔径が2Å以上20Å未満の細孔を有し、
前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の分子径が、それぞれ20Å以上であり、
前記第1の溶媒は、下記式(2)で表されるグライム及びリン酸トリス(1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル)からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記第2の溶媒は、下記式(2)で表されるグライム、リン酸トリス(1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル)、γ-ブチロラクトン及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の分子径は、量子化学計算の1種である密度汎関数理論(density functional theory:DFT)により溶媒の最安定構造を求め、そこから理論的な結合距離に基づき算出する、リチウムイオン二次電池。
21 O-(CH CH O) k1 -R 22 (2)
[式(2)中、R 21 及びR 22 はそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、k1は4~6の整数を示す。]
【請求項2】
前記分離膜が、2以上の重合性基を有する化合物の重合物と、カルボニル基及び鎖状エーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するリチウムイオン伝導性化合物と、を含有し、
前記重合物の重量平均分子量が800以上であり、
前記リチウムイオン伝導性化合物の分子量が150以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記分離膜が、下記式(1)で表される基を有するポリマ同士の架橋物を含有する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数が1~6のアルキレン基を表し、*は結合手を表す。]
【請求項4】
正極活物質、第1のリチウム塩、及び第1の溶媒を含有する正極合剤層と、負極活物質、第2のリチウム塩、及び前記第1の溶媒とは異なる第2の溶媒を含有する負極合剤層と、を備えるリチウムイオン二次電池において、前記正極合剤層及び前記負極合剤層の間に配置されるための分離膜であって、
平均細孔径が2Å以上20Å未満の細孔を有し、
前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の分子径が、それぞれ20Å以上であり、
前記第1の溶媒は、下記式(2)で表されるグライム及びリン酸トリス(1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル)からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記第2の溶媒は、下記式(2)で表されるグライム、リン酸トリス(1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル)、γ-ブチロラクトン及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の分子径は、量子化学計算の1種である密度汎関数理論(density functional theory:DFT)により溶媒の最安定構造を求め、そこから理論的な結合距離に基づき算出する、分離膜。
21 O-(CH CH O) k1 -R 22 (2)
[式(2)中、R 21 及びR 22 はそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、k1は4~6の整数を示す。]
【請求項5】
2以上の重合性基を有する化合物の重合物と、カルボニル基及び鎖状エーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するリチウムイオン伝導性化合物と、を含有し、
前記重合物の重量平均分子量が800以上であり、
前記リチウムイオン伝導性化合物の分子量が150以下である、請求項4に記載の分離膜。
【請求項6】
下記式(1)で表される基を有するポリマ同士の架橋物を含有する、請求項4に記載の分離膜。
【化2】
[式(1)中、Rは炭素数が1~6のアルキレン基を表し、*は結合手を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及び分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型電子機器、電気自動車等の普及により、リチウムイオン二次電池に代表される二次電池においては、更なる性能の向上が求められている。例えば、正極と負極とに互いに種類が異なる電解質を含有させることにより、リチウムイオン二次電池の性能を向上させることが検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-110447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正極及び負極に互いに種類が異なる電解質を含有させたリチウムイオン二次電池においては、電解質に含まれる溶媒が、正極及び負極間で混じり合うことなく十分に分離されていることが重要である。本発明者らは、このようなリチウムイオン二次電池において電解質中の溶媒を分離するため、正極及び負極間に分離膜を配置することを考えた。この分離膜においては、リチウムイオンは分離膜を通過するが、溶媒は通過しにくいという特性が必要である。
【0005】
本発明は、正極合剤層及び負極合剤層において互いに異なる溶媒を含有するリチウムイオン二次電池に用いられる、これら溶媒の分離能力に優れた分離膜、及び当該分離膜を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、平均細孔径を所定の範囲に調整した細孔を有する分離膜によって、正極合剤層及び負極合剤層に含まれる溶媒を効果的に分離できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の一側面は、正極合剤層、分離膜、及び負極合剤層をこの順に備えるリチウムイオン二次電池であって、正極合剤層が、正極活物質、第1のリチウム塩、及び第1の溶媒を含有し、負極合剤層が、負極活物質、第2のリチウム塩、及び第1の溶媒とは異なる第2の溶媒を含有し、分離膜が、平均細孔径が2Å以上20Å未満の細孔を有する、リチウムイオン二次電池を提供する。
【0008】
本発明の他の一側面は、正極活物質、第1のリチウム塩、及び第1の溶媒を含有する正極合剤層と、負極活物質、第2のリチウム塩、及び第1の溶媒とは異なる第2の溶媒を含有する負極合剤層と、を備えるリチウムイオン二次電池において、正極合剤層及び負極合剤層の間に配置されるための分離膜であって、平均細孔径が2Å以上20Å未満の細孔を有する、分離膜を提供する。
【0009】
分離膜が、2以上の重合性基を有する化合物の重合物と、カルボニル基及び鎖状エーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するリチウムイオン伝導性化合物と、を含有し、重合物の重量平均分子量が800以上であり、リチウムイオン伝導性化合物の分子量が150以下であってもよい。
【0010】
分離膜が、下記式(1)で表される基を有するポリマ同士の架橋物を含有してもよい。
【化1】
[式中、Rは炭素数が1~6のアルキレン基を表し、*は結合手を表す。]
【0011】
上記のリチウムイオン二次電池において、第1の溶媒及び第2の溶媒の分子径が、好ましくはそれぞれ20Å以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正極合剤層及び負極合剤層において互いに異なる溶媒を含有するリチウムイオン二次電池に用いられる、これら溶媒の分離能力に優れた分離膜、及び当該分離膜を備えたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す斜視図である。
図2図1に示したリチウムイオン二次電池における電極群の一実施形態を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はそれに対応するメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリレート等の他の類似表現についても同様である。
【0016】
図1は、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す斜視図である。図1に示すように、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池1は、電極群2と、電極群2を収容する袋状の電池外装体3とを備える、いわゆるラミネート型の二次電池である。電極群2には、正極集電タブ4及び負極集電タブ5が設けられている。正極集電タブ4及び負極集電タブ5は、それぞれ正極集電体及び負極集電体(詳細は後述)がリチウムイオン二次電池1の外部と電気的に接続可能なように、電池外装体3の内部から外部へ突き出している。リチウムイオン二次電池1は、他の一実施形態において、ラミネート型以外の形状(コイン型、円筒型等)であってもよい。
【0017】
電池外装体3は、例えば積層フィルムで形成された容器であってよい。積層フィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のポリマーフィルムと、アルミニウム、銅、ステンレス鋼等の金属箔と、ポリプロピレン等のシーラント層とがこの順で積層された積層フィルムであってよい。
【0018】
図2は、図1に示したリチウムイオン二次電池1における電極群2の一実施形態を示す分解斜視図である。図2に示すように、本実施形態に係る電極群2は、正極6と、分離膜7と、負極8とをこの順に備えている。正極6は、正極集電体9と、正極集電体9上に設けられた正極合剤層10とを備えている。正極集電体9には、正極集電タブ4が設けられている。負極8は、負極集電体11と、負極集電体11上に設けられた負極合剤層12とを備えている。負極集電体11には、負極集電タブ5が設けられている。
【0019】
正極集電体9は、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等で形成されている。正極集電体9の厚さは、例えば、1μm以上であってよく、50μm以下であってよい。
【0020】
負極集電体11は、例えば、銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、アルミニウム-カドミウム合金等で形成されている。負極集電体11の厚さは、例えば、1μm以上であってよく、50μm以下であってよい。
【0021】
正極合剤層10は、一実施形態において、正極活物質、リチウム塩(第1のリチウム塩)、及び溶媒(第1の溶媒)を含有する。
【0022】
正極活物質は、例えば、リチウム酸化物であってよい。リチウム酸化物としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-y、LiCo1-y、LiNi1-y、LiMn及びLiMn2-y(各式中、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、V及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す(ただし、Mは、各式中の他の元素と異なる元素である)。x=0~1.2、y=0~0.9、z=2.0~2.3である。)が挙げられる。LiNi1-yで表されるリチウム酸化物は、LiNi1-(y1+y2)Coy1Mny2(ただし、x及びzは上述したものと同様であり、y1=0~0.9、y2=0~0.9であり、且つ、y1+y2=0~0.9である。)であってよく、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.22、LiNi0.8Co0.1Mn0.1であってよい。LiNi1-yで表されるリチウム酸化物は、LiNi1-(y3+y4)Coy3Aly4(ただし、x及びzは上述したものと同様であり、y3=0~0.9、y4=0~0.9であり、且つ、y3+y4=0~0.9である。)であってよく、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05であってもよい。
【0023】
正極活物質は、リチウムのリン酸塩であってもよい。リチウムのリン酸塩としては、例えば、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)及びリン酸バナジウムリチウム(Li(PO)が挙げられる。上述した正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0024】
正極活物質の含有量は、正極合剤層全量基準で、70質量%以上、80質量%以上、又は85質量%以上であってよい。正極活物質の含有量は、正極合剤層全量を基準として、95質量%以下、92質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0025】
第1のリチウム塩は、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiNO、LiB(C、LiCHSO、CFSOOLi、LiN(SOF)(LiFSI、リチウムビスフルオロスルホニルイミド)、LiN(SOCF(LiTFSI、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド)、及びLiN(SOCFCFからなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0026】
第1のリチウム塩の含有量は、第1の溶媒全量を基準として、0.5mol/L以上、0.7mol/L以上、又は0.8mol/L以上であってよく、1.5mol/L以下、1.3mol/L以下、又は1.2mol/L以下であってよい。
【0027】
第1の溶媒は、第1のリチウム塩を溶解するための溶媒である。第1の溶媒は、好ましくは分子径が20Å以上である化合物である。これにより、リチウムイオン二次電池1において、第1の溶媒及び後述する第2の溶媒を分離膜7によって分離しやすくすることができる。
【0028】
第1の溶媒の分子径は、分離膜7による溶媒の分離をより容易にする観点から、好ましくは20Å以上、より好ましくは25Å以上、更に好ましくは30Å以上である。第1の溶媒の分子径は、リチウム塩溶解時の攪拌の容易さの観点から、好ましくは100Å以下、より好ましくは90Å以下、更に好ましくは80Å以下である。
【0029】
第1の溶媒の分子径は、量子化学計算の1種である密度汎関数理論(density functional theory:DFT)により溶媒の最安定構造を求め、そこから理論的な結合距離に基づき算出することができる。
【0030】
分子径が20Å以上である第1の溶媒としては、例えば、下記式(2)で表されるグライム、リン酸トリス(1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル)等のフッ素化リン酸エステルが挙げられる。
21O-(CHCHO)k1-R22 (2)
[式(2)中、R21及びR22はそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、k1は4~6の整数を示す。]
【0031】
グライムは、より具体的には、テトラグライム(k1=4)、ペンタグライム(k1=5)、ヘキサグライム(k1=6)であってよい。
【0032】
第1の溶媒は、上述した溶媒の他、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-ヘキサノラクトン等の環状エステル、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、リン酸トリエステル等のリン酸エステル、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アジポニトリル、グルタロニトリル等のニトリル、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン等の鎖状スルホン、スルホラン等の環状スルホン、プロパンスルトン等の環状スルホン酸エステルなどであってもよい。正極合剤層10の耐酸化性を高める観点からは、第1の溶媒は、アセトニトリル、エチレンカーボネート等の耐酸化性を有する溶媒であってもよい。
【0033】
第1の溶媒は、上述した溶媒を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0034】
正極合剤層10に含まれる第1の溶媒の含有量は、第1のリチウム塩を溶解できる範囲で適宜設定することができるが、例えば、正極合剤層全量を基準として、10質量%以上であってよく、80質量%以下であってよい。
【0035】
正極合剤層10は、他の成分として、バインダ及び導電材を更に含有してもよい。
【0036】
バインダは、四フッ化エチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸、マレイン酸、エチルメタクリレート、メチルメタクリレート、及びアクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1種をモノマ単位として含有するポリマ、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム等のゴムなどであってよい。バインダは、好ましくは、ポリフッ化ビニリデン、又は、ヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとをモノマ単位として含有するコポリマである。
【0037】
バインダの含有量は、正極合剤層全量を基準として、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、又は1.5質量%以上であってよく、また、10質量%以下、8質量%以下、6質量%以下、又は4質量%以下であってよい。
【0038】
導電材は、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ等の炭素材料などであってよい。これらの導電材は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0039】
導電材の含有量は、正極合剤層全量を基準として、0.1質量%以上、1質量%以上、又は3質量%以上であってよい。導電材の含有量は、正極6の体積の増加及びそれに伴うリチウムイオン二次電池1のエネルギ密度の低下を抑制する観点から、正極合剤層全量を基準として、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。
【0040】
正極合剤層10の厚さは、5μm以上、10μm以上、15μm以上、又は20μm以上であってよく、100μm以下、80μm以下、70μm以下、又は50μm以下であってよい。
【0041】
負極合剤層12は、一実施形態において、負極活物質、リチウム塩(第2のリチウム塩)、及び溶媒(第2の溶媒)を含有する。
【0042】
負極活物質は、エネルギデバイスの分野で常用されるものを使用できる。負極活物質としては、具体的には、例えば、金属リチウム、チタン酸リチウム(LiTi12)、リチウム合金又はその他の金属化合物、炭素材料、金属錯体、有機高分子化合物等が挙げられる。これらの負極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。炭素材料としては、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、非晶質炭素、炭素繊維、及びアセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックなどが挙げられる。負極活物質は、より大きな理論容量(例えば、500~1500Ah/kg)を得る観点から、ケイ素を構成元素として含む負極活物質、スズを構成元素として含む負極活物質等であってもよい。これらの中でも、負極活物質は、ケイ素を構成元素として含む負極活物質であってよい。
【0043】
ケイ素を構成元素として含む負極活物質は、ケイ素を構成元素として含む合金であってよく、例えば、ケイ素と、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種とを構成元素として含む合金であってよい。ケイ素を構成元素として含む負極活物質は、酸化物、窒化物、又は炭化物であってもよく、具体的には、例えば、SiO、SiO、LiSiO等のケイ素酸化物、Si、SiO等のケイ素窒化物、SiC等のケイ素炭化物などであってよい。
【0044】
負極活物質の含有量は、負極合剤層全量を基準として、60質量%以上、65質量%以上、又は70質量%以上であってよい。負極活物質の含有量は、負極合剤層全量を基準として、99質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0045】
第2のリチウム塩の種類及びその含有量は、上述した正極合剤層10に含まれる第1のリチウム塩と同様であってよい。第2のリチウム塩は、第1のリチウム塩と同種であってよく、異種であってもよい。
【0046】
第2の溶媒は、第2のリチウム塩を溶解するための溶媒である。第2の溶媒としては、上述した第1の溶媒として用いられるものと同様のものを用いることができるが、第1の溶媒とは異なる溶媒が用いられる。これにより、正極6及び負極8にそれぞれ適した溶媒を使用できるため、エネルギ密度、寿命向上といった、リチウムイオン二次電池1の種々の性能を向上させることが可能となる。
【0047】
第2の溶媒は、好ましくは分子径が20Å以上である化合物である。分子径が20Å以上である溶媒の具体例は上述したとおりである。負極合剤層12に含まれる第2の溶媒の還元分解を抑制する観点からは、第2の溶媒は、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン等の耐還元性を有する溶媒であってもよい。第2の溶媒は、上述した溶媒を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
負極合剤層12に含まれる第2の溶媒の含有量は、第2のリチウム塩を溶解できる範囲で適宜設定することができるが、例えば、負極合剤層全量を基準として、10質量%以上であってよく、80質量%以下であってよい。
【0049】
負極合剤層12は、他の成分として、バインダ及び導電材を更に含有してもよい。バインダ及び導電材の種類及びその含有量は、上述した正極合剤層10におけるバインダ及び導電材の種類及びその含有量と同様であってよい。
【0050】
負極合剤層12の厚さは、10μm以上、15μm以上、又は20μm以上であってよく、100μm以下、80μm以下、70μm以下、50μm以下、40μm以下、又は30μm以下であってよい。
【0051】
分離膜7は、リチウムイオン二次電池1において、正極合剤層10及び負極合剤層12の間に配置されるための分離膜である。この分離膜は、正極合剤層10及び負極合剤層12に含まれる第1の溶媒及び第2の溶媒を互いに分離し、それぞれが混じり合わないようにする役割を有する。分離膜7を通して、リチウムイオンの授受を行うことは可能である。
【0052】
分離膜7は、多孔質構造を有する多孔体であり、平均細孔径が2Å以上20Å未満の細孔を有する。
【0053】
分離膜7の平均細孔径は、リチウムイオンの移動を阻害しにくくする観点から、2Å以上であり、好ましくは5Å以上、より好ましくは7Å以上、更に好ましくは10Å以上である。分離膜7の平均細孔径は、溶媒の分離能力をより高める観点から、20Å未満であり、好ましくは18Å以下、より好ましくは15Å以下、更に好ましくは13Å以下である。分離膜7の平均細孔径は、アルゴンガスを用いたガス吸着法により測定することができ、より具体的には、分離膜7の細孔に吸着したアルゴンガスの吸着量から平均細孔径を算出することができる。
【0054】
上述の平均細孔径を有する分離膜7は、一実施形態(第1実施形態)において、2以上の重合性基を有する化合物の重合物と、カルボニル基及び鎖状エーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するリチウムイオン伝導性化合物と、を含有し、重合物の重量平均分子量が800以上であり、リチウムイオン伝導性化合物の分子量が150以下である分離膜である。この分離膜においては、重合物の重量平均分子量及びリチウムイオン伝導性化合物の分子量を上記の範囲に調整することによって、分離膜7の平均細孔径を2Å以上20Å未満に調整することができる。
【0055】
2以上の重合性基を有する化合物(以下、「重合性化合物」ともいう)における重合性基は、例えばエチレン性不飽和結合を含む基である。重合性基は、ラジカル重合性基であってよく、ビニル基、アリル基、スチリル基、アルケニル基、アルケニレン基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基等であってもよい。
【0056】
重合性化合物は、一実施形態において、多官能(メタ)アクリレート(ポリ(メタ)アクリレート)であってよい。多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0057】
第1実施形態の分離膜において、重合性化合物の重合物の重量平均分子量は800以上である。重合物の重量平均分子量は、分離膜7の平均細孔径を2Å以上20Å未満の範囲で大きくする観点から、好ましくは、900以上、1000以上、3000以上、5000以上、7000以上、又は9000以上である。重合物の重量平均分子量は、分離膜7の平均細孔径を2Å以上20Å未満の範囲で小さくする観点から、好ましくは200000以下、より好ましくは100000以下、更に好ましくは50000以下である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定し、標準ポリスチレン検量線より換算して得た値である(以下同様)。
【0058】
重合性化合物の重合物の含有量は、膜の強度の観点から、分離膜全量を基準として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。重合性化合物の重合物の含有量は、リチウムイオンの移動を阻害しにくくする観点から、分離膜全量を基準として、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0059】
リチウムイオン伝導性化合物は、リチウムイオン伝導性を有する化合物を意味し、リチウム塩の存在下、当該リチウム塩に由来するリチウムイオンを伝導できる性質を有する化合物を意味する。当該化合物がリチウムイオンを伝導できるか否かは、化合物についてイオン伝導度を測定することにより確認することができ、化合物に対してリチウム塩を1~40質量%添加したときに測定されるイオン伝導度のピークが1×10-6S/cm以上であれば、リチウムイオン伝導性を有する化合物ということができる。
【0060】
リチウムイオン伝導性化合物は、カルボニル基及び鎖状エーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有する。
【0061】
カルボニル基及び鎖状エーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するリチウムイオン伝導性化合物は、一実施形態において、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネートなどのカーボネートであってもよい。
【0062】
カルボニル基及び鎖状エーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するリチウムイオン伝導性化合物は、他の一実施形態において、下記式(3)で表されるグライムであってもよい。
23O-(CHCHO)k2-R24 (3)
[式(3)中、R23及びR24はそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、k2は1~6の整数を示す。]
【0063】
グライムは、より具体的には、モノグライム(k2=1)、ジグライム(k2=2)、トリグライム(k2=3)、テトラグライム(k2=4)、ペンタグライム(k2=5)、ヘキサグライム(k2=6)であってよい。
【0064】
第1実施形態の分離膜において、リチウムイオン伝導性化合物の分子量は150以下である。リチウムイオン伝導性化合物の分子量は、分離膜7の平均細孔径を2Å以上20Å未満の範囲で大きくする観点から、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは30以上である。リチウムイオン伝導性化合物の分子量は、分離膜7の平均細孔径を2Å以上20Å未満の範囲で小さくする観点から、好ましくは145以下、より好ましくは140以下、更に好ましくは135以下である。
【0065】
リチウムイオン伝導性化合物の含有量は、分離膜7のイオン伝導度をより高める観点から、分離膜全量を基準として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。リチウムイオン伝導性化合物の含有量は、成膜性の観点から、分離膜全量を基準として、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0066】
第1実施形態に係る分離膜は、他の成分として、リチウム塩(第3のリチウム塩)、重合開始剤等を更に含有してもよい。第3のリチウム塩としては、上述した第1のリチウム塩と同様のものを用いることができる。第3のリチウム塩は、上述した第1のリチウム塩及び第2のリチウム塩と同種であってよく、異種であってもよい。
【0067】
第3のリチウム塩の含有量は、分離膜全量を基準として、1質量%以上、1.5質量%以上、又は2質量%以上であってよく、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であってよい。重合開始剤の含有量は、分離膜全量を基準として、0.1質量%以上であってよく、10質量%以下であってよい。
【0068】
上述の平均細孔径を有する分離膜7は、他の一実施形態(第2実施形態)において、下記式(1)で表される基を有するポリマ同士の架橋物を含有する分離膜である。この分離膜においては、下記式(1)で表される基を有するポリマが、リチウムイオン二次電池1中、又は分離膜7中に存在するリチウムイオンを開始剤として架橋することにより、式(1)で表される基同士が結合し、上述した平均細孔径を有する細孔が形成される。分離膜7の平均細孔径は、下記式(1)中のRで表される炭素数を調整することにより調整することができる。
【化2】
式(1)中、Rは炭素数が1~6のアルキレン基を表し、*は結合手を表す。
【0069】
式(1)で表される基を有するポリマは、例えば、下記式(4)で表されるポリマであってよい。
【化3】
式(4)中、Rは式(1)におけるRと同義であり、R11は直鎖状又は分岐状のアルキレン基又は単結合を表し、rは2以上の整数を表す。
【0070】
式(1)又は式(4)中、Rで表されるアルキレン基の炭素数は、分離膜7の平均細孔径を2Å以上20Å未満の範囲で大きくする観点から、好ましくは2以上又は3以上であり、分離膜7の平均細孔径を2Å以上20Å未満の範囲で小さくする観点から、好ましくは5以下又は4以下である。
【0071】
式(4)中、R11で表されるアルキレン基の炭素数は、例えば、2以上であってよく、5以下であってよい。rは、例えば、5以上であってよく、20以下であってよい。
【0072】
式(1)で表される基を有するポリマとしては、例えば、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリ(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0073】
式(1)で表される基を有するポリマの重量平均分子量は、900以上、1000以上、又は3000以上であってよく、200000以下、100000以下、又は50000以下であってよい。
【0074】
式(1)で表される基を有するポリマ同士の架橋物の含有量は、膜の強度の観点から、分離膜全量を基準として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。当該架橋物の含有量は、リチウムイオンの移動を阻害しにくくする観点から、分離膜全量を基準として、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0075】
第2実施形態に係る分離膜は、他の成分として、リチウム塩(第3のリチウム塩)、重合開始剤等を更に含有してもよい。第3のリチウム塩及び重合開始剤の種類及び分離膜7中の含有量は、上述した第1実施形態に係る分離膜の場合と同様であってよい。
【0076】
以上説明した実施形態に係る分離膜7の厚さは、分離膜7の分離能力をより高める観点から、好ましくは、100μm以上、200μm以上、又は500μm以上である。分離膜7の厚さは、分離膜7のエネルギ密度を高める観点から、好ましくは、800μm以下、600μm以下、又は400μm以下である。
【0077】
続いて、リチウムイオン二次電池1の製造方法を説明する。一実施形態に係るリチウムイオン二次電池1の製造方法は、正極活物質、第1のリチウム塩、及び第1の溶媒を含有する正極合剤層10を備える正極6を得る工程と、負極活物質、第2のリチウム塩、及び第1の溶媒とは異なる第2の溶媒を含有する負極合剤層12を備える負極8を得る工程と、正極6と負極8との間に、分離膜7を設ける工程と、を備える。各工程の順序は任意である。
【0078】
上記の製造方法において、正極活物質、第1のリチウム塩、第1の溶媒、負極活物質、第2のリチウム塩、第2の溶媒、及び分離膜7の具体的な態様については上述したとおりである。
【0079】
正極を得る工程、及び負極を得る工程では、公知の方法を利用して正極6及び負極8を得ることができる。例えば、正極合剤層10又は負極合剤層12に用いる材料を混練機、分散機等を用いて、適量の分散媒に分散させてスラリ状の正極合剤又は負極合剤を得る。その後、この正極合剤又は負極合剤をドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等により正極集電体9上、又は負極集電体11上に塗布し、分散媒を揮発させることにより正極6及び負極8が得られる。このとき、分散媒は、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等であってよい。
【0080】
正極6と負極8との間に分離膜7を設ける工程は、分離膜7を製造する工程を備えてよい。分離膜7を製造する工程は、一実施形態において、分離膜7の材料を含有するスラリを用意し、当該スラリを膜状に形成する工程を備える。
【0081】
分離膜7が上述した第1実施形態に係る分離膜である場合、スラリは、2以上の重合性基を有する化合物(重合性化合物)と、カルボニル基及び鎖状エーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するリチウムイオン伝導性化合物とを含有する。重合性化合物及びリチウムイオン伝導性化合物の態様については上述したとおりである。
【0082】
スラリは、上述した第3のリチウム塩を更に含有してもよい。第3のリチウム塩の含有量は、スラリ全量を基準として、1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であってよく、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であってよい。
【0083】
スラリは、重合開始剤を更に含有してもよい。これにより、重合性化合物を好適に重合させることができ、スラリから分離膜を好適に作製できる。重合開始剤は、熱重合開始剤、又は光重合開始剤であってよく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0084】
熱重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等が挙げられる。
【0085】
光重合開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0086】
重合開始剤の含有量は、スラリ全量基準で、0.5質量%以上、1質量%以上、10質量%以上、又は20質量%以上であってよく、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は3質量%以下であってよい。
【0087】
スラリを膜状に形成する方法は、例えば、PET製シート等の基材の一面上に任意の大きさの枠を設置し、ここにスラリを流し入れる方法である。または、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等により基材の一面上にスラリを塗布することにより、スラリを膜状に形成してもよい。
【0088】
分離膜7を製造する工程は、スラリを膜状に形成した後、膜状に形成されたスラリに含まれる2以上の重合性基を有する化合物を重合させる工程を更に備えてよい。これにより、第1実施形態に係る分離膜が製造される。
【0089】
重合性化合物を重合させる方法は、スラリが熱重合開始剤を含有する場合には、所定の条件で熱を加える方法である。加熱温度は、例えば50~90℃であってよい。加熱時間は加熱温度により適宜調整すればよいが、例えば1分間~2時間である。
【0090】
重合性化合物を重合させる方法は、スラリが光重合開始剤を含有する場合には、所定の条件で光を照射する方法である。一実施形態において、200~400nmの範囲内の波長を含む光(紫外光)の照射により、重合性化合物を重合させてよい。
【0091】
分離膜7が上述した第2実施形態に係る分離膜である場合、分離膜7を製造する工程で用いられるスラリは、上述した式(1)で表される基を有するポリマを含有し得る。
【0092】
この場合、スラリは、第3のリチウム塩及び/又は重合開始剤を更に含有してもよい。第3のリチウム塩及び重合開始剤の種類及びスラリ中の含有量は、上述した第1実施形態に係る分離膜の場合と同様であってよい。
【0093】
スラリを膜状に形成する方法は、上述した第1実施形態に係る分離膜の場合と同様であってよい。
【0094】
分離膜7が上述した第2実施形態に係る分離膜である場合、分離膜7を製造する工程は、膜状に形成されたスラリに含まれる式(1)で表される基を有するポリマを架橋する工程を更に備えてもよい。これにより、第2実施形態に係る分離膜が製造される。
【0095】
ポリマを架橋させる方法は、上述した第1実施形態に係る分離膜7を製造する工程における、2以上の重合性基を有する化合物を重合させる工程と同様の方法で行われてよい。この場合、スラリに含まれるリチウム塩が架橋剤として働き、式(1)で表される基を有するポリマ同士が架橋され、架橋物が形成される。
【0096】
正極6と負極8との間に分離膜7を設ける工程では、続いて、正極6、分離膜7及び負極8を、例えばラミネートにより積層する。これにより、正極6と、負極8と、正極6及び負極8の間に設けられた分離膜7と、を備える電極群2を得ることができる。また、この電極群2を電池外装体3に収納して、リチウムイオン二次電池1を得ることができる。
【実施例
【0097】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0098】
[実施例1]
下記式(2)で表されるポリエチレングリコールジアクリレート(式中のn=14、(商品名:NKエステルA-600、新中村化学工業社製))6.0gと、ジエチルカーボネート(分子量118、富士フイルム和光純薬社製)4.0gと、硝酸リチウム(富士フイルム和光純薬社製)1.4gと、アゾビスイソブチロニトリル(富士フイルム和光純薬社製)1.0gとを混合して、スラリを調製した。PET製のシート(8×8cm、厚さ0.035mm)の上にシリコンゴム製の枠(4×4cm、厚さ1mm)を設置し、枠の中に調製したスラリを入れた。その後、ホットプレートを用いて、60℃で1時間加熱してポリエチレングリコールジアクリレートを重合させることにより、分離膜を得た。ポリエチレングリコールジアクリレートの重合物の重量平均分子量(Mw)は1000であった。分離膜を枠から外して、以下に示す試験に供した。
【化4】
【0099】
[実施例2]
実施例1において、ジエチルカーボネートをジグライム(分子量134、富士フイルム和光純薬社製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により分離膜を作製した。
【0100】
[実施例3]
実施例2において、アゾビスイソブチロニトリル(富士フイルム和光純薬社製)の添加量を0.1gに変更した以外は、実施例2と同様の方法により分離膜を作製した。ポリエチレングリコールジアクリレートの重合物の重量平均分子量は10000であった。
【0101】
[実施例4]
実施例1において、ジエチルカーボネートをモノグライム(分子量32、富士フイルム和光純薬社製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により分離膜を作製した。
【0102】
[実施例5]
下記式(4-1)で表されるポリマ(式中のr≒366、重量平均分子量10000)、6.0gと、ジグライム(富士フイルム和光純薬社製)4.0gと、硝酸リチウム(富士フイルム和光純薬社製)1.4gと、アゾビスイソブチロニトリル(富士フイルム和光純薬社製)0.1gを混合して、スラリを調製した。PET製のシート(8×8cm、厚さ0.035mm)の上にシリコンゴム製の枠(4×4cm、厚さ1mm)を設置し、枠の中に調製したスラリを入れた。その後、ホットプレートを用いて、60℃で1時間加熱して式(4-1)で表されるポリマを架橋させることにより、分離膜を得た。分離膜を枠から外して、以下に示す試験に供した。
【化5】
【0103】
[比較例1]
実施例2において、ポリエチレングリコールジアクリレートを、重量平均分子量が250のもの(シグマアルドリッチ社製)に変更し、更にアゾビスイソブチロニトリル(富士フイルム和光純薬社製)の添加量を2.0gに変更した以外は、実施例1と同様の方法により分離膜を作製した。ポリエチレングリコールジアクリレートの重合物の重量平均分子量は500であった。その結果、成膜することができず分離膜を得ることができなかった。
【0104】
[比較例2]
実施例1において、ジエチルカーボネートをペンタエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量252、富士フイルム和光純薬社製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により分離膜を作製した。
【0105】
[比較例3]
実施例5において、式(4-1)で表されるポリマを下記式(10)で表されるポリマ(式中のr≒364、重量平均分子量10000)に変更した以外は、実施例5と同様の方法により分離膜を作製した。
【化6】
【0106】
<分離膜の平均細孔径>
実施例及び比較例に係る分離膜の平均細孔径を、アルゴンガスを用いたガス吸着法により測定した。具体的には、窒素吸着測定装置(AUTOSORB-1、QUANTACHROME社製)を用いて、評価温度を87Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満との条件で平均細孔径を測定した。表1~表2に示すとおり、実施例に係る分離膜の平均細孔径は全て2Å以上20Å未満の範囲内であったが、比較例に係る分離膜の平均細孔径は2Å以上20Å未満の範囲外であった。
【0107】
<溶媒分離能力の評価>
実施例又は比較例に係る分離膜と、セパレータ(UP3085、宇部興産社製)とを重ね、これらを2枚のシリコンゴム(厚み0.5mm)製シートで挟んだものを、H型セルの間に配置した。分離膜側のセルにテトラグライム(分子径20Å)を入れ、所定日数経過後のセパレータの外観を目視にて観察した。分離膜が溶媒分離能力に優れていると、テトラグライムが分離膜を透過しにくいため、セパレータにテトラグライムが浸透しにくいが、溶媒分離能力に劣る分離膜であれば、テトラグライムが分離膜を透過してセパレータに浸透する。よって、セパレータの外観を観察し、セパレータへのテトラグライムの浸透の有無を確認することにより、分離膜の溶媒(第1の溶媒及び第2の溶媒に相当する溶媒)の分離能力を評価することができる。試験開始から1日経過後であってもセパレータへのテトラグライムの浸透がない場合に、表1~表2において「≧1日」と示し、この場合、分離膜の溶媒分離能力が優れているといえる。一方、表1~表2において、1日経過後にテトラグライムの浸透が見られた場合には「<1日」と示す。表1~表2に示すように、実施例に係る分離膜では1日以上経過してもセパレータへのテトラグライムの浸透がなかったが、比較例に係る分離膜では1日経過後にはセパレータへテトラグライムが浸透していた。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【符号の説明】
【0110】
1…リチウムイオン二次電池、2…電極群、3…電池外装体、4…正極集電タブ、5…負極集電タブ、6…正極、7…分離膜、8…負極、9…正極集電体、10…正極合剤層、11…負極集電体、12…負極合剤層。
図1
図2